いつまでも、ここに
1 名前:猫のモノ描き 投稿日:2006/12/12(火) 13:20
それぞれの風景シリーズ(勝手に命名)の第二弾です。

第一弾『それぞれの風景』
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1135326348/155-

よろしければこっちも読んでやってください。
2 名前:猫のモノ描き 投稿日:2006/12/12(火) 13:25

自分のことを『絵里』と言っていた。

そんな頃の話。
3 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:26



4 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:27
ふわぁ…と少し離れた場所に座っていた愛があくびをした。
それにつられたように、隣にいた亜弥も口を押さえる。
まるで連動したかのようなその動作に、絵里は思わず頬が緩ませた。

―――――仲いいんだなあ。二人とも

「もう。つられちゃったじゃん。愛ちゃんのバカ」
「は?意味わからん」

目を擦り、文句を付ける亜弥に愛は眉を顰めてみせる。
漫才だなぁ…なんてのんきなことを考えながら、机に置いた
パックジュースに手を伸ばそうとした絵里の手はそのまま口元へ。

「あ、絵里もつられたぁ」

なにが嬉しいのか指をさして笑う愛に、涙でうるんだ視線を
向けると、亜弥がにゃははっと声を上げた。
5 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:28
「まあ、こんなぽかぽかした陽気じゃねぇ」
「あくびもしたくなるよねえ」

なぜか語尾を延ばした口調の先輩二人に、絵里は「そーですね」と
相槌を打ってみせる。と同時に出た、二度目のあくび。

「あらら。絵里、本当に眠そう」
「んー……」
「絵里ちゃん、少し寝たら?おねーさんが膝枕してあげるけど」

そう言われたかと思えば、肯定も否定も示す前に、絵里の身体は
亜弥の方へと傾き、そのまま後頭部に感じる、膝のやわらかい感触。
半回転くらいの寝返りを打つと、絵里は彼女のお腹に視線を向けた。
規則的に頭を撫でてくれるその手の優しさが心地よい。
6 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:28
―――――あ、なんか本気で寝そう…

「絵里ちゃん、なんか…猫みたい」
「カメなのにな」

頭の上で交わされる先輩たちの会話。気を使っているのか
少しトーンの落ちたその声も、また心地よい。
だんだんと、瞼が閉じてきて目を開けるのが辛くなってくる。
先輩たちの声が、周りの音が、遠く聞こえる。

―――――もう、限界……

そんなことを思った直後、絵里の意識は夢の中へと引き込まれた。
7 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:30
□ □ □ 

地球温暖化の影響なのか、それとも神様の気まぐれなのかは
知ったところではないけれど、もう十二月も半ばだというのに
窓から差し込む日差しは暖かくて、外に出れば春の訪れかと
錯覚してしまいそうになる―――――そんな平日の昼下がり。

保護者会だかなんだかということで、生徒は全学年が午前授業。
午後からは自宅研修という名の半日休暇になっている。
周りの友人たちがカラオケやファミレスへ向かうため連れ立って
昇降口へ向かう波に逆らうように、絵里は廊下を進んでいく。
その突き当たりの非常扉を開ければ、目の前はクラブハウス棟だ。

『緊急時以外の出入りを禁ずる』

………いつものことだが、無視。
8 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:32
ぽかぽかと暖かい中庭は、こんな天気なら外でお弁当を広げている
人がいてもよさそうなものだけど、ここはやはり午前授業。
さっさと学校から離れて遊びに行こう!な思考の生徒が多いらしい。

今、絵里の見える範囲にいるのは、部活なのか地面に座りストレッチをしている人が
数人と、着飾ったお母様方の群れ。ちょっとなんか、寂しい光景。


クラブハウス棟、三階。一番奥。

至極、他人への説明が簡単な場所に、写真部の部室はある。

『昔は、階段上がってすぐの場所だったんだよ』

そんなことを言っていたのは、自分よりも四つほど年上の卒業生
だったけれど、彼女が高校生の頃はすでに今の場所に移動していた
というのだから、彼女もさらにその上の誰かから聞いたのだろう。
9 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:34
「掃除すればいいのになぁ……」

埃と砂の溜まった階段は、あまり上履きで歩きたくないのだけれど
クラスメイトたちが集まっている昇降口に行く方が、気が重い。
決してイジメられてるというわけではない。それでもクラス内で
自分がやや浮いていることは、十分自覚しているつもりだった。

「好きな人がぁ 優しかった ぴぃす♪」

―――――キショイ

卒業生含め、誰もが一度は絵里に向けて使ったことのあるこの言葉は
元々、絵里に昔の部室の場所を教えた彼女でものであったけれど
いつだったか、遊びに来ていた彼女の『このキャラ、譲るね』という
なんともありがたくない一言により、受け継ぐハメになってしまった。
10 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:36
「嬉しいできごとがぁ 増えました ぴぃすぴぃす♪」

カンカンと軽快になる靴音に、時折混ざる砂を蹴る音。
あぁ靴が汚れるなぁ…なんて考えながら、絵里はブレザーのポケットに
手を入れると、ちゃらちゃらと鳴るキーホルダーを取り出した。
その先に付いているのは、部室の鍵。

本当なら三年生と二年生が持つということで、部屋の鍵は二つある
けれど、写真部には一年生の絵里の他には三年生が二人いるだけ。

―――――これ、あげるよ
―――――いいんですか?
―――――うちら同じクラスだから、用があれば借りればいいし

そんな簡単なやり取りの末に鍵をもらったのは、入部してすぐ。
三年生になった彼女たちは、もう部活にあまり顔を出さなくなると
気が付いたのと、ちょうど同じ時期だった。
11 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:37
鍵を差し込んで回してカチャンと音がしたら―――――あれ?
「あれ・・・?」
手ごたえ、なし。音も、なし。
つまりは誰かいるということ。
そしてこの部屋の鍵を他に持っているのは、部員だけなわけで。

「・・・・・・先輩?」

そこまでわかっていても、どうしても驚いてしまう。
扉を開けて目の前。
さほど広くない部屋の真ん中に置いてある机を囲んでいたのは
かれこれ二ヶ月近く顔を合わせていなかった先輩たち。

「なにしてるんですか。二人とも」
「なにって。午前授業で特に放課後の予定もないし。
可愛い後輩が来るかなぁって期待して、遊びに来たんですけど」

机に広げた参考書を鞄に押し込みながら、笑顔で答える二人に
絵里は「はぁ・・・」と返事をして、亜弥と愛の間に腰を下ろした。
12 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2006/12/12(火) 13:39



13 名前:猫のモノ描き 投稿日:2006/12/12(火) 13:41
とりあえず今日はここまで。

週に1回、できれば2回と考えていますが見切り列車ですので(ヲイ!
まったり待ってやってください。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 16:58
話のテンポというか、雰囲気が良いですね。
続きも楽しみにしています。
15 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 21:02
お待ちしてました。
また、この好きな雰囲気を楽しめるんですね。
続き、マータリお待ちしております。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/13(水) 21:52
この静かな時間の流れが大好きです
17 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/15(金) 23:53
初めて読みました。雰囲気がとても好きです。
第一弾、今から読ませてもらいます。
18 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:21


19 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:23
□ □ □ 

ホントに可愛いなぁ…もう。

「亜弥ちゃん。絵里、寝たん?」
「うん」

膝の上で丸まり、気持ちよさそうに寝息を立てる絵里と
彼女の頭を撫でながら、じっと動かない亜弥。

―――――恋人同士みたいや、なんか

二人の様子を見ながら、思い出すのは自分たちが一年生の時。
美貴にべったりで、よく今のように膝枕をしてもらっていた亜弥の姿が
絵里に重なって、なんだか妙に懐かしく感じる。

「ん?なに?」
「いや・・・昔の亜弥ちゃんと、藤本先輩みたいだなぁって」

あぁ・・・と小さく呟く、亜弥の顔には微笑み。
頭を優しく撫でるテンポは、ずっと一定のまま。
20 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:25
「可愛いから、こういうことしたくなるんだよね」

さっきの愛の言葉に対する返事にしては、少し、ずれた答え。
それでも愛は気にせずに、ゆっくりと亜弥の隣へと寄る。

「ん、なに?」
「なんか眠くなったから」

もう、なんて呆れたような亜弥に微笑んで、愛は彼女の肩に頭を
乗せた。ちょうど、寄りかかるような格好になって、愛はゆっくり
目を閉じる。

「ちょっとホントに寝る気?」
「寝ないよ。こうしたかっただけ」
「愛ちゃんって時々意味わかんないよね。あ、いつもか」

亜弥は「にゃはは」と特徴のある笑い声を上げ、愛はややむくれたように
頬を膨らませる。本人たちは無自覚のようだけど、流れている空気は独特で
時々、絵里さえも入れない。
21 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:26
「ねー・・・亜弥ちゃん、進路はどうするの」
「おっと、いきなり話変わったね―――――別に。どうもしないけど」

別にどうも、ねぇ・・・と、愛は亜弥の言葉を反芻させる。

「愛ちゃんは?」
「んー・・・普通に地元の大学かなぁ」
「そうなんだ」

ここは別に大都会のど真ん中でもなんでもない。確かにビルはたくさん
あるけど、海も山も程近くて、なんとも中途半端な町。

「中途半端なウチらには―――――って言ったの、後藤さんだよね」
「そんなこともあったねぇ」

去年の今頃だっただろうか。なかなか希望進路の決まらない先輩二人が
愛と亜弥に返事を求めるわけでもないような小さな声で、そう言ったのは。
22 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:27
「卒業式の後だっけ。ごっちんが東京行くって言い出したの」
「吉澤さんしか知らなかったんだよね」

―――――あたし、東京に行く。東京行って、料理の専門学校に通う

それを電話越しに聞いたあと、驚いて彼女の家に向かった愛と亜弥を
出迎えてくれたのは後藤の母親で。二人はそこで初めて、今日、彼女が
東京へ行くことになっていたのだと知った。

二人への電話は、出発の直前に駅からかけたと、あとからひとみが
教えてくれた。

「泣いたよね、あのとき」
「なんで突然いなくなるんだ!ってね」

東京は遠いわけじゃない。それでもやっぱり、電車で3時間半の距離は
大きい。簡単には会いに行けないし、なによりも真希は、二人に新しい
住所を教えてくれなかったのだから。
23 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:27
―――――ごっちんらしいね

肩を落とし、真希の家から美貴の働く喫茶店へと移動した愛と亜弥。
美貴と、たまたま居合わせた梨華に事情を話すと、最初こそ驚いたもの
の、すぐに顔を見合わせて笑い、一言そう言っただけだった。

彼女は、東京へ行くのと同時に、携帯も解約してしまったらしく、連絡
手段も皆無。ただ、それから一ヶ月ほどして、二人に見知らぬアドレス
からのメールが送られてきた。

『ごめんね』

一言だけ、そう書かれていたメールは、美貴と梨華から、二人の落胆
ぶりを聞いたらしい後藤が送ってきたものだった。

―――――そこまで思い出して、愛はちら、と亜弥を見た。

「なに?」
「・・・・・・・・・亜弥ちゃん、東京行くの?」

「―――――さぁねぇ」

しれっとした表情で、そう惚けてみた亜弥に、愛は言う。
24 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:28
「黙って出て行ったら、絵里、泣くよ?」

「あー・・・」なんて声を上げて、亜弥は絵里の横顔を見つめる。
二人の会話など、これっぽっちも知らず、静かな寝息を立てる絵里。

「大丈夫だよ、絵里は」
「・・・思ってないやろ」

きっと・・・いや、確実に、絵里は泣く。
それは亜弥が一番わかっていることだろう。だから、愛はそれ以上
何も言わず「じゃあ、オヤスミ」と言って目を閉じる。

「え、ちょっと!なにそれ、意味わかんないんだけど!」

そうすれば、亜弥がそう返してくれる。
それは、自分が一番わかっていることだから。


さっきは、ああ言ったけど・・・
亜弥が黙って東京へ行ったら、泣くのは恐らく、自分なんだ。
25 名前:いつまでも、ここに 投稿日:2007/01/02(火) 12:29



26 名前:猫のモノ描き 投稿日:2007/01/02(火) 12:37
2007年一発目は、ここまでです。

>>14-17の皆様
ありがとうございます。
マイペース作者ですが、去年と変わらぬご愛顧をよろしくお願いします!
よろしければあっちの続編(番外編?)も・・・読んでやってください

では。2007年が皆様にとって、よい年になりますように
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/24(水) 22:23
遅ればせながら、今年もよろしくです。
年明けよりバタバタしてるのですが、
間を見つけて巡回しています。
更新、楽しみにしていますよ♪
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/07(木) 07:48
自己保全。
ノノ*^ー^)<放棄はしませんよ
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 21:55
月イチペースで巡回していますよ (^▽^)
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 21:56
上げちゃった・・・申し訳ない
31 名前:作者まだ生きてます 投稿日:2007/12/13(木) 11:40
自己保全。。。
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/01(火) 23:54
生きてた、良かった♪

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