作者フリー 短編用スレ 6集目
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/03(金) 17:38
このスレッドは作者フリーの短編用スレッドです。
どなたが書かれてもかまいませんが、以下の注意事項を守ってください。
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前スレ 作者フリー 短編用スレ 5集目
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2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/03(金) 17:44
前スレで容量足りなかったので僭越ながら新スレ立てさせていただきました。
続きからいきます。
3 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:46

「ほんとにねぇ。夏ぐらいからずっと年末体勢みたいな感じだよ」
「うわ、きついね、それ」
「事務所、絶対あたしのこと人間扱いしてないね。睡眠時間が日に日に減ってるもん」
「でもさ、ほら。仕事があるのは良い事じゃない」

そう言って苦笑を浮かべる梨華ちゃんは、大変だねとか、可哀想とか、同情的な言葉は口にしない。
それは、彼女自身がかなりの仕事人間で、負けず嫌いだからなのか何なのか、仕事で妥協するってこと知らないから。
顔に似合わないそういう仕事に対して融通が利かないところは出会った頃から嫌いじゃなかった。

うん。…嫌いじゃなかったんだ。

だからと言って、すごく好きなわけでもなくて。
たまに顔を合わせれば、最近どう、みたいな会話をするくらいの仲で。
そう。一、二年前までは、そんな感じだった。

だから、ここ最近増えた彼女との仕事も特別に嫌だなんて事もなく。
仲良くするのも、仕事の面でもプライベートでもマイナスになるような事もない。
(そりゃあ、苦手なタイプだなぁとは思ってたけど)

だから。


だからこれは、誤算だ。


苦笑する彼女に「まーねぇ」なんて言葉を濁すと、彼女は表情をそのままに首を少しだけ傾けた。
その動きに合わせて、前髪がぱらぱら散って。
4 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:46

不意に、この髪色を初めて見た時のことを思い出した。

噂には聞いていたけど(主にみきたんから)、目の当たりにすると、何だか、不思議な感動を覚えた。
何と言うか、やっぱり彼女は妥協するって事を知らない。

「色抜いたんだ」って、はにかむ梨華ちゃんに「ライオンみたい」って思ったままを口にした。
その顔に似合わない性格に、その髪色はぴったり。
我ながらナイスな例えだと思ったんだけど、梨華ちゃんはお気に召さなかったらしい。

彼女は眉尻を下げて、怒った“ふり”をした。

何よそれとか、他に言うコトないのとか、ぷりぷりする梨華ちゃん。
だけど、少しも恐くはない。
子犬の甘噛みと同じだ。本人に最初から噛む気なんてさらさらないから痛くも痒くもない。
これは彼女なりのコミュニケーションの方法だから。

そんな風に抗議する彼女を(みきたん仕込のツッコミで)適当にあしらってた。
梨華ちゃんはそうされるのを多分、望んでるから。
その証拠に、ぞんざいに扱われながらも彼女はどこか嬉しそうだった。

―――― あたしは。

あたしは、そんな彼女を見ながら、コミュニケーションに付き合いながら、
彼女が動く度にふわふわ揺れるその金色の髪に触れたいと、思っていた。

エレベーターの上の表示をちらりと見ると、あたし達がいる階の少し下で止まってしまってる。
5 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:46

「髪の毛さ」

動かない数字を見ながら、ぽつりと呟いた。

「傷みそうだね」
「ああ、うん。髪洗うとき感触違うんだよね、いつもと」

顔の横の髪を指先でいじりながら梨華ちゃんが言う。
あたしが知る限りで、彼女がここまで髪の色を明るくしたのは初めてだ。
これを生で見たのも今日が初めてで。多分、まだまだ見たことない人の方が多い。

あの子は、

「色抜いたんでしょ、それ」
「うん。その上からもちょっと色入れてるけど」
「髪に悪そー」


―――― あの子は、見たのかな。


彼女の髪に手を伸ばす。
するりと少しだけ指を絡ませると、梨華ちゃんがびくりと首を竦めた。
その反応にじくりと胸の奥が苦しくなる。

あの子になら。
あの子になら、きっと、そんな反応はしない。
6 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:47

「あ、な、なに、亜弥ちゃ…」
「これさ」

言葉尻を奪うように声を出す。
梨華ちゃんが上目遣いにこっちを見やる。
その瞳から少しだけ怯えの色を読み取って、またちょっとショックを受けた。

「これ、あの子には見せた?」

安心させるようににこりと笑んで問いかけると、
何を聞かれてるのか分からないのか、彼女は不思議そうな顔をして、首を傾げた。

あたしは、彼女の髪に触れてない方の手で、彼女の手にある鞄を指差した。
正確には、鞄の中のケータイを。

―――― ケータイの向こうの相手には、見せたの?

今度はちゃんと伝わったらしく、梨華ちゃんの頬が綻んだ。
無意識下でそうなってしまったようなそれ。
…それは、きっと、あの子の事を思い出したから。
記憶の中だけで彼女にこんな顔をさせられるあの子に軽い嫉妬を覚えたけれど、あたしは笑みを崩さない。

次の瞬間、彼女の表情に影が差した。

「…見せてないよぅ」

笑みを浮かべてるのに、その笑顔が何だか暗い。
髪に触れる指をするりと動かして、撫でた。


「だって、会ってないもん」


その声を聞きとめて、金髪の上に這わせていた指を止める。
笑顔なのに、その声からは彼女の本当の感情が隠しきれていなかった。
7 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:48

梨華ちゃんもあの子も仕事をしてるから、会う時間は自然と制限されてく。
あたしも同じ仕事をしてるからよく分かる。
スケジュールの合間を縫って逢瀬を重ねることがどれほど大変か。
それが、所謂コイビトって関係の二人にどれだけの苦痛を与えるかを。

寂しいんだ。
梨華ちゃんは、あの子と会えなくて、その感情を隠しきれないくらい寂しいんだ。

心がまた、じくりと苦しくなった。

だって、それは、梨華ちゃんにとってあの子の存在がどれだけ大きいかを物語ってるから。
こんな時、親友のアイツなら(乱暴にでも)励ましの一つでもかけてあげるんだろうけど、
生憎あたしは、あたし以外の誰かを想って、感傷的になってる彼女に優しく声をかけてあげるほどお人好しじゃない。

口元に笑みを称えたまま、「ふーん」ってできるだけ興味なさ気に言って、
髪を撫でる指の動きを再開した。

「…じゃあ、あたしが初めてだ。梨華ちゃんの金髪触るのって」
「ええー、美容師さんが初めてだよー」
「……」

ふふって笑う梨華ちゃんの声を聞きながら、この人の鈍さを思い出す。
それまでとは微妙に変えた、あたしの言葉の温度を気付いてくれるわけ、…ないよね、やっぱ。

でも、まあいいや。気付いてくれなくても。


―――― 今は、まだ。


それまで止まってたエレベーターの上の数字が動き出した。
ちらりと横目で確認。この階まであと少し。
8 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:48

指に絡めた金髪に、顔を近づけた。
それに気付いた梨華ちゃんが、短くあたしの名前を呼び、
あたしから逃げるように顔を逸らす。

「亜弥ちゃんっ」

ほんのちょっと驚いたようなそれに構わず更に近づく。
梨華ちゃんの香水の香りが鼻腔をくすぐって、どきどきした。

「…枝毛はっけーん」
「え?」
「取ったげるから、ちょっと動かないでね」

おどけた調子の声音と言葉の内容に、梨華ちゃんの動きが止まる。
頬が緩んだ。けど、この位置ではきっと梨華ちゃんはそれを確認できない。
唇が触れそうな距離で、一度止まる。

「取れた?」
「んー」

視線だけエレベーターの上に向けると、液晶画面の数字がころりと変わった。
あたし達の階まで、あと、一階。
銀色の扉にぼんやりとあたしと梨華ちゃんの姿が映る。
ぴたりとくっついてるお互いの体の距離は、そのまま一つになっちゃいそうなほど、近い。
9 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:49

彼女の髪を掬い取って、親指でそっと撫でて。



あたしはそれに口付けた。



今は、まだ。
気付いてくれなくてもいいんだ。

だって、梨華ちゃんの心の中はあの子で占められてる。
まだ勝てそうにないもん。あの子に。
あたし、勝ち目のない勝負はしない主義だから。


―――― でも、いつか。


エレベーターが小さい鐘のような音をたてて。
ちらりと見ると、液晶画面の数字がちょうどこの階のそれと同じになってた。
扉が開く寸前、あたしは梨華ちゃんから離れた。

離れたあたしの方を向いて「取れた?」って聞く梨華ちゃんに、「取れたよ」ってにっこり笑ってみせる。
梨華ちゃんは「ありがとう」と笑って、開いた扉からエレベーターに飛び乗った。
10 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:50

誤算だった。

一緒の仕事の中で仲良くなれれば、これからのあたしの仕事にとって、
きっとマイナスになることはないだろうからって。

近づいたのは、あたし。

それは純粋な気持ちなんかじゃなくて、言葉は悪いけど、ビジネスだった。
だけど、無防備で鈍感で頑固な彼女に、いつの間にか奪われてたのは、あたしの心。

誤算だった。

それが、良い事なのか悪い事なのか、今はまだ、判断できない。
これからのあたしの行動にかかってるから。

エレベーターの中で梨華ちゃんが振り向いて、
なかなか乗らないあたしを見て首を傾げた。

そんな仕草も可愛いとか思っちゃう、そんな自分を頭ではどうかと思ってるんだけどね。
心は、そんな仕草さえもあの子のモノだって事が気に入らないと叫ぶ。
勝てない勝負はしない主義だから、今はまだ、なにも行動に起こしたりはしないけど。



「亜弥ちゃん?」



―――― いつかきっと。

手に入れてみせる。

その髪の毛、一本一本まで。











梨華ちゃんに微笑みかけて、あたしは、彼女の待つエレベーターに乗り込んだ。



□おわり□
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/05(日) 22:29
最近気になっているあやりかがタイムリーで嬉しい
二人がリアルに想像できておもしろかったです
12 名前:名無し飼育 投稿日:2006/11/06(月) 02:09
おぉ、気になってる、あやりかがあって嬉しい♪
でも、あの子が誰かってのも気になります…w
13 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:49
「今度、やぐちの番組に出させてもらうことになったよ。よろしくね」

短いメールが届いたのは、昨日の晩。差出人のところには、なっち
の名前。スタッフさんからも聞いていた。彼女の仕事のスケジュールも、知ってた。
でも。「同じ場所で並んで仕事」をするのは、本当にひさしぶり。
14 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:51
嬉しいか、そうでないかと問われたら、もちろん嬉しい。でも、初めての授業参観におか
あさんが来るときのような。そんな、くすぐったさと、ほんのかすかな照れと、反発の混
じったもの、というか。そんな気持ちがある。

おいらの「脱退」後も、かつてのメンバーとは良く遊んでるし、むしろ向こうからいろいろ声
を掛けてもらってる。ただ、人目を気にせず集まることが出来る場所となると、どうしても
アルコールありか、それがメインのところになってしまう。面子が全員呑める歳になったか
ら、裕ちゃんが「気兼ねなく飲ませろ!」とうるさいのよ。

ただ、なっちはほとんど呑めないんで、誘っても「ごめんね、また」と返ってくることが殆ど。ノンアルコールだって別に平気じゃん、と思うんだけど。彼女にすると、ちょっと居心地が
悪い部分があるらしい。まあ、呑兵衛のペースにノンアルコールでつきあうってのも(かと
いって「食べに走る」わけにもいかないとなると)難しいのかもね。そういうおいらも、別に
それほど呑めるわけじゃないけれども。

そんなかんなが積み重なって。距離が空き気味になってた。そこへ久々のメールで、胸
が波立った。
15 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:51
「やー、なっちと一緒に番組出るのって久々だよね。ちゃんと忘れずに舞台の宣伝して
帰るんだよ」

返信は、ちょっと大人ぶってみる。

一日何通もメールをやりとりしてたこともあったけど、ここ1年ほど、その頻度が落ち気味
になっていた。もちろん、仲が悪くなったわけじゃない。ただ、ほんの少し。道のあちらとこ
ちらに、歩む部分が分かたれただけ。進む方向は一緒。渡ろうと思えば、渡れる距離。
そこに、もう1つの道が入った。ただそれだけの話。
16 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:52
おいらにとってのなっちは、最初はTVの向こうの憧れの人だった。
それから、一歩遅れとはいえ。同じラインに立つようになった。
でも、ずっと背中を追いかけてた。焦ったり、苛立ったりした時期もあった。
少しずつ自分で自分の場所を得たり。下の子が入ってきたり。そんなかんなの「ときぐす
り」を経て。やっと、肩を並べて。一緒に手をつないで、こころを分かち合えるようになっ
た。
17 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:53
なっちは、なかなか人を内側には入れてくれない。
もちろん「仕事」としての対応は、それ相応に身に着けていったようだけど。いや、「仕
事」に身を浸す時間が長くなっていくほどに、その仕切り戸は分厚く、頑丈になっていっ
た。

最初はもう、どうしたもんかと思ったね。
適度な距離つったって、向こうもこちらもまだまだコドモ。ぶつかっちゃあ跳ね飛ばされ、
締め出されっちゃあ怒り。年単位にも思える(後で振り返ったら、もう少し短かったんだけ
ど)長さでぶつかりあった後。ふっ、とドアが開いたんだよね。

嬉しかったなあ、あの時は。
それから、まあ、いろいろどたばたもあったけれども。気がつけば、もうすぐ出会ってから
10年になろうってんだから。諦めるもんじゃないね。
18 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:55
「そのために行くんじゃんか!なにさ、やぐちむしはそんないじわるいうのかい?」

あいかわらずのゆっくりさだけど、にくまれぐちのメールが返ってきたよ。しかもまた「むし」
かよ!

でも。こうして「変わらず」返事をしてくれること。そのことが、一番、嬉しいんだよね。多分、今メールを打ってる顔を、圭ちゃんや裕ちゃんに見られたら「でれでれしすぎ!」って突っ
込まれること必至だけど。その嬉しさがかけらでも伝わってくれたらいいな、と、また返事
を打つんだ。
19 名前:Haven't 投稿日:2006/11/11(土) 01:55
「あほなっちへ。一緒に仕事できるの、楽しみにしてるよ。むしより。」
20 名前:Haven't seen you for a long time 投稿日:2006/11/11(土) 01:56
「Haven't seen you for a long time」
<<おしまい>>

安倍さん「やぐちひとり」出演記念の、なちまりでした。
需要があるのかどうか少しどきどきですが。お気に召していただければ
幸いです。
21 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/12(日) 22:25
むしヤグチあほなっちキャワワ
22 名前:_ 投稿日:2006/11/14(火) 17:11
「貸してみ?」

開けられないペットボトルの蓋に苦戦してると視界に右手が見えた。
横を見ると棒付きの飴を口に含んでるれいながいて。
ほれほれ、なんて言いながら手のひらを向けてグーパーグーパー繰り返す。
メンバーが全員居てみんなおのおの自分の事をしてて、
誰もあたしの苦戦には気がついていなかったのにれいなだけ普通に気がつく。
それが何か照れくさくてくすぐったくてつい憎まれ口を叩いてしまう。

「れいなに開けられるかなぁ。力なくない?」
「…人が開けてやろうとしてんのに…。絵里よか多分力はあるけん」

きゅっとひねったらプシュ、と音を立ててそれは簡単に開いた。
得意げな顔をして口に含んでる飴を転がす。棒がちょっと危ない。

「ほらね。こんなん簡単っちゃ」

嬉しいくせに素直にありがとう、が出てこなくて、
にやにやしてるれいなにまた憎まれ口。

「れいなにしては、凄かったんじゃない?まぁこれ開けるだけだけどー」
「…にゃにぃ?」

むっとしたれいなは口に含んでた棒付き飴を取り出して、えいっ、とあたしの口の中に入れた。

「憎まれ口はチャックしとかんと」

そう言って高橋さんと話してるさゆの所へ歩いていった。
口の中はれいなの飴。

「ん?カメ熱あるんじゃない?顔真っ赤だけど」

顔を覗き込んできたガキさんに何にも無いから、と軽く否定しておいて。

とりあえず、れいなのバカ。
どきどきして死んだらどうしてくれるの。


END
23 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:44
ゆったりとした雲の動きを見る。

空は、青く。
雲は、白く。

頭の上を通り過ぎる景色に心を動かす。

踏みしめる大地は硬いコンクリート。
けれど、なんとなくこんなのも悪くない気がして。
スニーカーが喜んでいるようなそんな気もする。

トン トンッ

つま先に力を入れて、踵を2回鳴らす。

「んっ」

また腕を振って歩き出す。
川の傍を散歩するのはなんだか気持ちがいい。

土手でキャッチボールしてる。
いいなぁ。

私は、ああいうの得意じゃないからきっとうまくできないだろうけど。
景色として、見るものとして憧れるのってあるじゃない?
そういうことだと思う。

「うおわっ」

土手を見ながら歩いてたらコケそうになった。
体勢を立て直したら、なんか目の前に足、見えるんだけど。
24 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:44
「バッカで〜」
「……何やってんの。」

目の前には買い物袋をぶら下げたひとみんがいた。
通りで。
足、素足なはずだよ。
すげーホットパンツだし。

「買い物。」
「珍しくない?」
「ん。たまぁに料理しようかなって。キッチン…かわいそっかなってさ。」
「そっか。」

ひとみんが料理上手なのは私が一番知ってると思う。
けど、ネイルに凝り始めて料理をしなくなってしまった。
なんだかそれがすごく寂しくって。
入れ替わりに私が料理をするようになった。

でも、本当は。
ひとみんがうちに差し入れてきてくれるっていう状況を、今でも楽しみにしてるんだ。
25 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:45
「どした?」
「んや」
「そっか。あんたそういえば何してたの?」
「散歩よ散歩」
「コケそうになって?」

ニヤニヤしながら買い物袋を持ち変える。

「そういうこともあります。」
「そーですかそーですかぁ」
「なんかつっかかんなぁ」
「や、だってなんかおもしろいじゃん。」
「はぁ?」

二人して並んで歩いて、買い物袋の反対側の持ち手を私が持ってみる。
そうすると嬉しそうにちょっとだけ笑顔になった。

「だってさ、いっつもカッコイイマサがコケっとなっちゃうなんてさ。」
「………。」

こいつはいつまでたっても私のことをカッコイイなんて言ってる。
カッコイイっていうのはさ、ヨッスィーとかのことを言うんだと思うんだけど。
ホント、おかしいと思うんだよ。
私、自惚れじゃないけど、人が思うほどカッコよくなんてない。
あゆみんとむらっちは私のことラジオとかで、こん中で一番女の子らしいよって言う。
で、ひとみんは首傾げてんの。
ホント、バカだなぁって思うよ、ひとみん。
26 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:45
「…よくわからん」
「なにがぁ」
「あーたが。」
「はー?」

眉間に皺よせてやんの。
すぐだよこいつはもう。

「ま、いっか。」
「ん。」

うちらはケンカなんかしない。
ずっとずっとこのままだ。

何も喋らないまま、川に目を移したり、前を見たり。
ゆっくり、ぺたぺた歩く。
少し夕焼けがかってきた空模様。

「今日夕飯何よ」
「肉じゃが」
「よし。」
「…何あんた食いにくるつもり?」
「ヤならいいけど。」
「ヤなわけないでしょ。こなきゃひとが持ってくつもりだったし。」
「あ、そう。」

足はゆっくりゆっくりと家に向かっている。
カラスなんかも鳴いたりしてる。
27 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:46
「マサと一緒にゆうごはん久し振りだね。」
「こないだも食べたじゃん。」
「外でじゃなくてー」
「ああ。」

なるほど。
奇遇ですな斉藤さん、私もそう思ってたとこですよ。

「なんか久々だとワクワクしちゃうねっ」

うれしいのかなんなのか…パタパタ跳ねる。

「ちょっ、袋私も持ってんだから跳ばないっ」
「あ、ごめん。」

心が跳ねる。
ひとみんとの時間がこんなに楽しい。
ひとみんも楽しいと思ってくれてる。

熱い。
自分の中がすごく熱い。
28 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:50
「…あっちぃ」
「今日涼しい方じゃん?」
「私はあっちーの。」
「あんた暑がりだもんねぇ。」

微妙にかみ合ってない会話。
それさえも楽しくて嬉しくて。

私、あんたのことこんなに好きだと思ってなかったよ。

「メーシッメーシッ」
「あーたが作るんでしょ?」
「マサは手伝ってくんないのかよっ」
「タマネギだけむいてあげるよ。」
「ウゼェー!」
「じゃあやんねー。」
「嘘嘘、やってやって。」
「よい子にはジャガイモをむくお手伝いも追加してあげよう。」
「あ、嘘。ひと超いい子にしてっから。」
「よし。」

なんていつもの調子で笑いあいながら。
いつもの道を歩いて。

久し振りの、いつもの時間を過ごすんだ。
そんで、またいつもの肉じゃが作って食べんだよね。

うちらの、うちらだけのリズムがいつもの世界を作ってる。
大丈夫、これからもいつもの世界は続いてく。

歩く速度も、リズムも、いつもの通り。
あいつが少し速くて、私がそれに続くようにほんの少しだけ遅い速度で。
29 名前:あなたと作る、あなたとのセカイ。 投稿日:2006/12/07(木) 10:51
久し振りに飼育に書き込みました。
メロン斉大っていうマイナージャンルですが、ひとつ。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/09(土) 22:47
>>23-28
2人の距離感がリアルっぽくってステキでした。
31 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:47
鏡に映るかわいいかわいい姿
それを認めてからさゆみはかわいい溜息を吐いた
最近少し疲れている
疲労が可愛さに薄い影を落としている

さゆみより可愛いなんて有り得ないのに
気を抜くとたまに
他メンバーが可愛く見えることがある
本当にたまにだけど
32 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:47
また年下も入ってくる
さゆみの可愛さは若さにだけよりかかる半端なものではないけれど
可愛さの山場と若さが関係していると勘違いをしている人は多く思えて
時々小さな不安に襲われる

別の悩みもある
さゆみはどこまで成長するのだろう
大きさと可愛さの共存はむずかしい気もする
纏足から発想を得てジャストの棺を特注しようとした
可愛さが全てではないと家族に止められた

そんなの嘘だ
さゆみにとって可愛さは全て
33 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:48
寝る子が育つのならさゆみは眠りたくない
だからさゆみの疲れが抜けない
悪循環が続いていく
うっすら浮かぶ隈をなぞってまた溜息を吐いた

その時全身を映す大きな鏡の影が突然ぬーっと伸びた
液体のように伸びあがった影
目を見張るあいだにぬらぬら揺らめきながら固体に変わっていく
それはさゆみより少し大きい人間の形になった
黒ずくめで目深に被った頭巾の下で対照的な白い歯が笑っている
34 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:49
さゆみは驚いた
けれど興味のわかないさゆみはまた鏡に向かった

「ワタシは神だ」
鏡越しに目線をやる
前にコントで着た衣装に似ていた
ミュージカルの藤本美貴の衣装にも近いと思った
さゆみも藤本も神の役ではなかったけれど
本人がいったからきっと神様なのだ
追求したくもないから素直に受け入れた
35 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:49
「願いを叶えよう」
引き替えは魂だろうか
大臣の気分でたずねてもいいか空気を読もうと黙っても
長引いたのは気まずい沈黙だけだった

「世界で一番可愛くして」
迷いはなかった
現在進行形で十二分に可愛い
承知の上でせっかくだから念押しした
「わかった。約束した」
影はただの影に戻った
36 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:50
翌朝目覚めると鏡の前に走った
鏡に映るいつもと変わらぬさゆみ
やっぱりかと納得してがっかりしなかった
もともと世界一だった

世間は大変な騒ぎになっているのに
気付かされたのは仕事場に着いてからだった
メンバーが減っていた
世界から人間が減っていた

そういうこともあるねとさゆみは気にしなかった
37 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:50
さゆみは忙しくなった
いろいろな媒体に引っ張りだこになった
国境を越えた可愛さでオファーがひっきりなし
どこをみわたしてもさゆみより可愛い人間はいない
誰と会っても可愛さで負けるかもと怯える必要がない
ずっとそうだったけれど

辞書を引けば「可愛い」の横にさゆみのカット
全世界共通の可愛さを手に入れた
勝つだけの毎日
もうさゆみに鏡は必要なかった
ただモチベーションが落ちると人口は減った
38 名前:さゆみのお願い 投稿日:2006/12/17(日) 23:50
「さゆは明日もかわいいぞ」

目を閉じる直前ベットの中で
天井に向かってなげやりに呟いた

さゆみは堕落した
堕落しても可愛いことに変わりはなかった
−了−
39 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:07
――――

仕事が終わる時間が早すぎるってのも、考えものだ。

久しぶりに会ったごっちんと飲みに行ったところまでは、良かった。
なぜか付いてきた梨華ちゃんのことも、まあ良しとしよう。
店に入って最初のワインを一気に飲んだのが、悪かった。
最近あの子と別れたことも、もしかしたら関係あるかもしれない。

泣きながら愚痴を言ってる私をなだめてるごっちんの顔や、
笑いながら頭を叩いている私を見上げている困ったような梨華ちゃんの顔は
なんとなく憶えてる。
それでも、記憶に残っているのはそこまでだ。
気が付いたらタクシーのなかで一人だった。

疲れた身体を引きずるようにしてマンションに帰り着く。
エレベータに乗ってボタンを押して、壁に背中を預けて目を閉じる。
こんなはずじゃなかった。
喧嘩なんてするつもりはなかったし、してもすぐに元通りになる予定だった。
また楽しい時間が、いつまでも続くはずだった。

 『好きな人ができたの……』

月並みな言葉だ。
だけどよく考えてみると好きって言うのはいつも、私から。
あの子から聞いたことなんてほとんどない。
なのに簡単にそう言い残して、あの子とは終わった。

私ってば、なにしてんだろう?
だれもいないエレベータの中で、溜め息なんて吐いてみた。
40 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:07
エレベータを降りながらカギを取り出したところで、思わず足が止まった。
部屋の前で膝を抱えて座っている女は泣いているのか、小さく肩を震わせている。
深夜で真冬のマンションに響く女の嗚咽の声は、さすがにビビった。
なるべく視界に入らないように部屋の前に辿り着くと、静かに鍵を差し込む。

 「……あんたなにやってんの?」

私も人の子だったということだ。
扉を開けながら声をかけると、小さく震えていた物体が顔を上げた。

 「ふじもとさ〜ん!」

情けない声を出した亀井の顔は、
涙と鼻水でとても人前には出せないシロモノだった。
41 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:08
その後欠伸を噛み殺しながら聞いた話では、
一緒に暮らしていた田中と喧嘩して、部屋から放り出されたらしい。
泣きながらタクシーに乗ったところで、
前に一度遊びに来ていた美貴の家を思い出したということだ。

 「なんで美貴のところかね……」
 「藤本さんも最近捨てられたって聞いたし、
  絵里の気持ち分かってくれるかなって……」

なんて無神経なことを真顔で言いやがった。
そんなこと言ってるから、田中に愛想を尽かされたんじゃないのか?

 「藤本さんっ! 真剣に聞いてます? 絵里だって一生懸命……」
 「なのにれいなは……」 
 「確かに絵里だって……っ!」

あーだこーだと言い訳だか愚痴だかわからないことを一方的に話してる亀井の声が
ガンガンと鳴り始めた頭のなかにやけに響く。
こいつはバカだ。
こっちは朝から仕事して記憶なくすほど飲んでシャワーだって浴びてないんだぞ。
それなのにいきなり押しかけて失礼なこと言って、勝手に怒って、勝手に泣いて。
美貴の酔いと眠気と疲れと怒りはもう限界。
無言で立ち上がると亀井の頭を片手で引き寄せる。

 「ちょっ……なにす……っ!」

あんまりうるさいから、亀井の話をキスして止めた。
42 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:08
――――

エレベータを降りて鍵を取り出しながら、重い足を引きずるように部屋へと向う。
自分の立てる足音だけが、誰もいない廊下に響いてた。
カギを開けたところで手が止まり、我ながら驚く。
なんで自分の家に入るのに躊躇しなくちゃいけないの?

それでも、ほんの少しの覚悟を決めて扉を開ける。
目に入ったのは玄関から部屋へと続く短い廊下。
そして片側の壁に山積みになった、閉じたまんまのダンボール。
さすがに見慣れた光景を横目に部屋に入る。

 「な〜んかさ、荷物増えてない?」

持っていたバックをベッドの上に投げながら、溜め息ついでにそう言った。
軽く睨んだ先にはキッチンで背を向けている亀井の姿。
鼻歌なんて口ずさみながら、楽しそうに包丁を振り回してる。

 「片付けようとは思ってるんですけど〜」
 「……三日前もそう言ってたよ」

なにかを作っていた亀井が振り返って、照れたように笑った。
あれから、亀井は居着いてしまった。
別れた直後で淋しかったとか、冬の寒さで人のぬくもりが欲しかったとか、
素直に泣ける亀井がほんの少しだけ可愛くみえたとか。
なにかのせいにできないこともないけども、
いまの状況になった責任が美貴にないとはいえないわけで。

 「でもでも、ちょっとは片付けたんだよっ!」
 「右の物を左に移すのは片付けるって言わないんだよ」

理由を捜せばいろいろあるだろうけど、あんなことをしたのは酔っていたから。
きっとそのせいだ。

再びキッチンに向った亀井の背中に溜め息を吐いて、
ソファーの上に散乱してる取り込んだ洗濯物を適当に寄せて座る。
とりあえず、亀井に掃除を期待するのは諦めよう。
43 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:09

 「ど〜ぞっ!」

期待に満ちた表情の亀井から視線を落として、
片肘をつきながら溜め息を吐いてフォークを手に取る。
テーブルに乗った料理はパスタというより、限りなく焼ソバに近い。
それでも亀井の自信に満ちた表情に、もしかしたらと思いつつ一口食べた。

 「どう? おいしい?」
 「……あしたからは美貴が作るよ」
 「ほんと? 手料理楽しみだな〜!」

ふつう相手の表情とか見て気が付くだろ。
パスタなんて時間通りに茹でるだけなんだぞ。
どうやったら溶けそうなほど柔らかい麺と半分以上芯の残ってる麺が
一緒に出来上がるんだ?
絶対なにかを勘違いしているだろう亀井は満面の笑みで、
自分のフォークを手に取った。
これで食事も掃除も美貴の担当になった、というわけだ。
心の底からおいしそうにパスタもどきをほおばる亀井を見ながら、
きょう何度目か分からない溜め息を吐く。

 「ねえ」
 「なあに?」

コレはちょっと前までエビと呼ばれていた物ではないのか?
疑問に思いながら、下から出てきた黒い塊を皿の端に寄せた。

 「田中のとこに戻んなくていいの?」

べつに深い意味はなく、思いついて言っただけ。
ちょっとした喧嘩なら時間をおけば元通り、ってことも多い。
田中とよりを戻すなら、その方がいいと思ってた。
44 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:09
亀井とのことを誰かに話したわけじゃないし、これからも話すつもりはない。
もちろん、二人のことを思って身を引こうなんて殊勝なことじゃない。
さすがに仕事中はやたらと視線を感じるぐらいで、
積極的に近づいてくるわけじゃない。
けど、部屋で二人っきりになった途端にじゃれついてくる。
誰かと付き合ってるときはどっちかっていうと美貴の方が甘え役だったから、
そんなところに戸惑ってた。
っていうか正直言って、めんどくさい。

フォークを持った手を止めて、亀井は小首を傾げた。
不思議そうに美貴を見ていた亀井が、突然顔を赤らめる。

 「……美貴ちゃんがいるから」

恥ずかしそうに俯いた亀井は、耳の先まで真っ赤にしてた。
……なんてカルイ奴だ。
45 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:10
――――

音楽をかけてないイヤホンをしているように、周囲の音がぼんやりと聞こえる。
そのなかで、いつもは聞こえない鼓動が妙に大きく響いた。
見上げている天井が遠くなったと思ったら、右に回転を始める。
不思議なことに確かに回っているはずの天井が、
気が付くと最初の位置に戻って、また回り始めた。
気分が悪くなって目を閉じると、こんどは自分の身体が左右に揺れる。
おさまらない頭痛と一定の周期で襲ってくる吐き気のなかで、
風邪というものは突然引くものらしいと、実感した。

前日までなんともなかったのだが、けさ起きようと思ったら身体が熱かった。
それでも仕事に行く亀井のために朝食を作り、
よけいな心配させないように一緒に食べたところまでは、
たいしたことないと思ってた。
休みが一日つぶれるのももったいないが、たまには寝てすごすのも悪くない。
仕事が休みだったことに感謝しつつ、亀井を送り出してもう一度ベッドに入った。

無理やり朝食を食べたのも、いけなかったかもしれない。
昼過ぎに起きて、食べた物を全部吐いてしまった。
さすがにまずいと思って薬を飲んで夕方まで寝ていたのだが、
一向によくならない。
結局、亀井が帰ってきたときには、ベッドから起きられなくなっていた。

 「ごめっ……ごめんなさい。
  絵里がお布団取っちゃったから……」

言われてみれば起きたときに、
隣で寝ていた亀井が布団を独り占めにして包まっていたような気もする。
まったく、住まわしてやってるのに酷いことをする奴だ。
ベッドの横で泣いてる亀井を睨みながら思ったが、
皮肉を口にできるほど元気がない。

 「ねぇ、なんか変な臭いがするんだけど」
 「ああ……たぶんおかゆが」

代わりに言った美貴の言葉に、亀井は慌ててキッチンに走っていった。
46 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:10
米から作れとは言わない。
炊いたご飯と水を一緒に鍋に入れてフタして火にかけるだけ。
梅干ぐらい乗ってたら褒めてやろう。
そう思っていたのだが。

 「美貴ちゃんっ! 絵里ダメ、おかゆも作れないよぉっ!」

知ってるか?
美貴の田舎じゃ考えられないけど、
都会じゃ二十四時間コンビニでレトルトのを売ってるんだぞ。
っていうか亀井の出身って東京都だっけ。
また頭がくらくらしてきた。
教えるのも面倒になって目を瞑ったら、
重くてあったかい物が身体の上にのしかかってきた。

 「美貴ちゃんがいなくなったら絵里、どうしたらいいの?
  やだよ……死んじゃやだよ……」

おいおい殺す気かよ。
しかたなく目を開けると、布団にしがみついた亀井と目が合った。
なに泣いてんだよ、みっともない。

 「ねぇ……」
 「な、なにっ!」
 「……美貴のこと好きって言ってみてよ」

なに言ってんだろ。
たぶんあれだ、熱でやられて現実と夢の区別がつかなくなってるからだ。
たいした意味なんてない。
美貴の意識とは別に口が勝手に言ってるだけだ。
べつにあの子のことが吹っ切れてないとかそういうのじゃない、と思う。

 「好きだよ――」

美貴の目を真っ直ぐに見ながら、亀井はあっけないほど簡単に口にした。

 「好き、世界で一番好きだよ。
  絵里なんにもできないけど、だけど……」

涙でぐしゃぐしゃになった亀井の声を聞きながら、目を閉じた。
亀井ってほんとバカだなぁ。
何にもできない?
だってあんたは、そうやって言葉にしてくれるじゃん。

胸のなかだけで、そう言ったつもりだった。
47 名前:恋ってどんなものですか? 投稿日:2006/12/22(金) 00:11
――――

布団に包まったまま眺める外の景色は、冬の朝にふさわしい真っ青な快晴だった。
開け放った窓の向こうで大きく伸びをしている亀井の背中を、
ベッドの上で眺める。
一晩眠ったら、だいぶ体調も良くなってきた。
それでも朝からの予定を午後に変えてもらおうと事務所に連絡したら、
大事を取って休みをくれた。

 「……窓開けてると寒いんだけど」
 「知らないの? たまには部屋の空気も入れ換えないとダメなんだよ」

振り返った亀井は腰に手を当てて口を尖らせる。
ツカツカと寄ってきてベッドに腰かけた。
うちのエアコンって換気と除菌と自動でフィルターまで掃除してくれる
優れものなんですけど。
そう言おうと思って上半身を起こした美貴の肩に、
亀井は二ヒヒと笑いながら腕を廻してきた。

 「ほんっと、美貴ちゃんは絵里がいないとダメなんだからっ!」

昨夜は泣いてたくせに、やけに嬉しそうに言いやがった。
美貴がなにも言わないのをいいことに、亀井は笑顔を寄せてくる。

 「んっ? 否定しないのかな?」
 「……うるさい」

亀井の手を振りほどいて布団に頭からもぐり込む。
昨夜といえば熱でうなされてなんか口走ったかもしれないけど、よく憶えてない。
それに熱がぶり返してきたのか、なんとなく顔が熱いような気がする。

 「あれ〜もしかしてテレてるの?
  まったく、美貴ちゃんって子供なんだからっ!」

亀井のくせになまいきな。
勢いよく布団をはね上げて、驚いた亀井の顔に思いっきり枕をぶつける。
ベッドから落ちた亀井の姿に笑いをこらえつつ、もう一度布団にもぐりこんだ。

まあ、こういうのも悪くないか。
なにかわめきながら布団をはがそうとする亀井に抵抗しながら、
なんだかわからないけど、そう思うことにした。



END
48 名前:拝啓、加護亜依様 投稿日:2006/12/24(日) 22:39

久しぶり。元気??
うちらは元気です。石川も、辻も、もちろんあたしもみんな元気にやってます。

会えなくなって、もうずいぶん経つな。月日ってほんと早いよなぁ。
とか言ってるからあたしはどんどんおっさん化してくのかな??

49 名前:拝啓、加護亜依様 投稿日:2006/12/24(日) 22:49
あたしさ、今でも、うちらってスゲーって思うんだよね。
あたしらが入った頃のモーニングって間違いなく激動の時代だったじゃん?
や、今も忙しいんだけどさ。やっぱりなんか違った気がするんだよ。
そんな時代をさ、4人で手繋いで、前を行くでっかい背中追いかけて
わき目もふらずに走って走って走りぬけて。
んで、やっとその背中に追いつけたかも、って思えてもそこはゴールじゃなくて。
でも、それでもただ前を見すえて「楽しみだね」って言えるくらい強くなって。
あんなに強くなれたのって、やっぱこの4人だったからだと思うんだ。
ありきたりな言葉だけど、絆感じる。今も、感じれる。
だからやっぱり、あいぼんもいなきゃやだよ。


今、あいぼんは何してる?もう、新しい何か見つけたのかな?
もう何か見つけてて、あの輝くあいぼんがいるなら、
あたしたちに何か言う権利はないのかもしれない。
でもさ、父ちゃんたち、待ってっから。

50 名前:拝啓、加護亜依様 投稿日:2006/12/24(日) 23:08
のんもさ、ココ半年くらいでずいぶん落ちついて。
時々ビックリするくらい大人な顔してんだ。
こないだのハロモニ見た?料理なんかできるようになっちゃってさ。
なんかグッときちゃって素直に「うまい」って言えなくてさぁ。困ったよ。
嬉しいけど、寂しくて、んでちょっと羨ましくて。
あたしはほら、なんつーか、毎日もがいてて。
もーちょっと、シュッ、とスマートにやりたいんだけどね。なかなか。
まぁそーゆーのもちょっと楽しかったりするんだけどな。
泥の中進むのって楽しくね?しかも先頭だぜ?
ってあたしの事はどうでもよくて。
えーーっと、そうそうのんな。のん成長してんだよ。。すっげぇ。
でもたまにさ、石川と3人で話してると言うんだよ。
ね、またあいぼんとのんとよっちゃんと梨華ちゃんでさ、4人で手繋げる日が来るよね?って。
またあいぼんと一緒に歌えるよね?って。
なきそうな顔してさ。そういう顔は全然変わんないのな。
だからあたしと石川も昔みたいに、
石川はのんの手握って、あたしは頭なでて。
でも途中から石川の方が泣きそうになるからのんと2人で笑うんだ。
んで笑ってると「もう!!!」って怒ってくるから「キショッ!!」って。
コントみたいだろ。


あの日以来、自分のことずっと責めてない?
根は石川に次いで真面目だからなぁ。
うん。でもさ。もういいよ。反省したら、次に進まなきゃ。
反省ってさ、前に進んでなんか結果出してこそだと思うんだよね。
結果はなんだっていいんだよ。
もしつまづいても、みんなで、父ちゃんも母ちゃんものんも、それこそハロー全員でフォローしてやっから。
めちゃくちゃ勇気いると思う。パワー使うと思う。
でもそこを乗り越えなきゃ。
勝負かけようぜ。
また、4期で団子になって進むベ??
51 名前:拝啓、加護亜依様 投稿日:2006/12/24(日) 23:16

んで、まずはその団子でさらにくっつこうってんで、
突然だけど明日4期会開きます。場所は石川邸な。
なんかまたあいつ絶対はりきって装飾とかすごい事になってそうだけど、
まぁその辺はいつも通りスルーの方向で。な。


……えーっと、なんか色々好き放題書いたけど、あんま深く気にしなくていーから。
だったら書くなって感じだよな。でももう書いちゃったし。
はずいからもう見直したくないし。
ま、楽しく騒ごうぜ?
つーことで参加は強制だから。絶対来いよ!!何時でもいいからさ。
来なかったら迎えに行くから。つーかおしかける。


んじゃ、メリークリスマスは明日会ってからな。
んで、もっかい言っとく。

絶対来いよ!!!

                   4期を代表して。父ちゃんより
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/24(日) 23:21

おわり。


こーゆー話(?)書いていいんだろうか……
と思いつつ書いてしまいました。

4期よ永遠なれ。
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/25(月) 00:30
なんか、なんか、こういう話を書いてくれてありがとう。
54 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/28(木) 04:43
実は本当に吉澤書いてるんじゃないかと思ってしまった
55 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:39



温度計なんて見てないけどきっと35度は超えてると思う




56 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:40
生憎、人の真上にある太陽のせいで日陰なんてあるわけが無い

散歩なんてこのくそ暑い日に好き好んで行くはずない

けど大切な人からの誘いとなれば話は別

気分は最高でも機嫌は最悪

57 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:41
何かが足りないせい カルシウムか?

暑い空気がムカツク、汗で肌に張り付くシャツがムカツク

何よりも人をコバカにして、耳に纏わり付くようなセミの大合唱が


「ムカツク」


58 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:42

小さく本当に小さく口の中で呟いただけなのに

どうやら半歩前を鼻唄交じりで歩いていた人には聞こえていたようで


「何にムカついているんでちゅかぁ」


少し笑いながら言うのがムカツク

振り向いた顔はやっぱり笑顔でいつ見ても見惚れてしまう・・・

でも、こんな事言ったら相手を付け上らせるだけだから

絶対に言ってなんかあげない

59 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:43

「まっつぅに」
「はぁ?何でさ?」

ちょっと驚いた顔も可愛い

「大体歌うならごとーの歌でしょ?なんでミキティなんだよ」

思わずムカツク原因の一つを言ってしまう

ニヤッとしたかと思えば にゃははと嬉しそうに笑い

「なんだよぉ。後藤さんはソコにムカついているんでちゅねぇ」
「ち、ちがう。暑いのっ。それにその言い方ムカツクから辞め‥‥て」

最後まで言わせてもらえなかった


60 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:43

急にまっつぅが止まったと思いきやクルッと振り向き

抱きつかれた‥‥‥そう、抱きつかれた

「まっつぅ・・・・暑い」

幾ら誰もいなさそうな公園だとはいえども誰が見てるか分からない

自分では離れようと頭では分かってるのに体は言う事を聞いてくれなくて‥‥

反対にまっつうの腰に手を回している自分が居た

「でも‥‥嬉しいくせに、顔に出てるぞ‥‥‥ 嬉しいって」
「顔見えて無いじゃん‥でも、うん‥‥嬉しいかも」

ぎゅー っと抱きしめ返し深呼吸して目を閉じると少し落ち着いた

61 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:44

しばらくそのままでいたら

まっつぅが少しずつボソボソとこんな所に連れ出した訳を話し出した

「‥‥だってさ、あの時あんな顔されたら心配しちゃうでしょ普通」

なんだ、全部見られてたのか
62 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:45

ライブのリハーサル時

あやちゃーんと言って抱きついてきたミキティを笑顔で抱きとめただけ

そうそれだけの行為

何時もなら笑って済ませれるのに、何故か今日はそれを見たくなかった

自分の中で嫉妬と言う黒い塊に飲み込まれそうだった

思わず「触るな」とミキティを殴りそうになるぐらいに

63 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:45

どうやらその時の表情が顔に出てたみたい

『そうだね』と答えの代わりに ふふっと息だけで笑うと

首筋に息が掛かったようで、くすぐったいよ と身を捩った

けれど気にせずにそのまま唇を寄せちょっと舐めてみると相手の体がビクッと震えた

それには気づかない振りしてもうちょっと舐めてみたら後頭部をパシッと叩かれた

「なにしてるんですか」
「ちょっとしょっぱいね」
「‥‥暑いからね」
「機嫌直ったかも」
「それはどうも」

何かが足りないのは松浦亜弥だったみたい

64 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:46
「好きだよ」
「‥は?当たり前でしょ?何言ってんの?」

と言いながら また後頭部を叩かれた



少しピンクに染まったまっつぅの肌を見たら



いつの間にかムカついてたのが何処かに飛んでいってた
65 名前:カルシウム 投稿日:2006/12/31(日) 00:47

END
66 名前:名無し雲 投稿日:2007/01/05(金) 22:20
意外とハマった。
みんなもハマってくれるといい。

鈴木愛理×萩原舞
67 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:21

『キスパレード』
68 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:22
別にいやじゃないんだけど…。

あんまし頻繁だと…さぁ?

今思えば呼ばれたときに躊躇うべきだった。
69 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:22
「まーいちゃん」

甘い声で自分を呼ぶひとつ年上の女の子。
壁に押し付けられ繰り返し行われる行為。
…いや、別にやらしいことはしてませんよ?
たぶんそこまでえっちじゃない…と、思う。
っていうかそんな裏世界な話は小学生にはまだ早いっすよ。
もうちょっとピュアに考えてよね。
70 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:23

「…愛理、おもーい」
「あ、ごめん」

ちょっと退いてくれた…けどやっぱり顔は離れないまま。
そして続けられる行為。

「あいりぃー、くすぐったい」
「うん♪」

うん♪…じゃないよー。
ぐいーって手で押さえて顔を離すと、ようやく止まった。
幸せそうだった愛理の顔がちょっと不服顔に変わった。

「せっかく幸せ堪能してたのにー」
「だってもう1時間だよ?」
「1時間だけじゃん?」

愛理ってやっぱり不思議ちゃんだ。
71 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:24

「こないだ舞だって嬉しいって言ってたじゃん!」
「でもこう多いとね〜」
「楽しいことは多くていいと思う!」

そりゃそうだけど…。
休憩時間がいくら3時間あるっていってもだよ、これで1時間…。

「飽きた?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ交代しようよ!」
「えぇ〜!?」

良いこと思いついたっていうぐあいに表情を輝かせた愛理。
やぁだ。恥ずかしいじゃん。
でも愛理は楽しそうに目を瞑った。

「ほら」

いや、ほらじゃないって。
それに首を伸ばしてもおでことかに届かないんですけど…。

「背ぇ高いし」
「じゃあ低くするから」

ね?なんて上目遣い使って聞いてくるから思わず可愛いなぁ、なんて思ったり。
…不思議ちゃんだけど。
72 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:26


どうしてこうなったんだろう。


悪いのは全部愛理だよ。
もともと仲は良いほうだったからよくお互いに抱きついたりとかしてた。
気付いたら段々増してきたスキンシップ。
他の人の目を盗んではちゅーしてくるから、恥ずかしかった。
さすがに口にはしなかったけど、ほっぺとかおでことかそれはもういろんなところに。
恥ずかしかったからみんなの前ではやめてよって言った。
…言ったのが悪かった。
気付けばルールは二人きりなら好きなだけしていいことに…。

そして何回目かになるこの状態。





1時間延々と愛理にちゅーされてました。





外されたサングラスは常に愛理の手の中。
73 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:26
こっちからちゅーをねだられたのって初めてだなー、なんて。

「舞」

口角をあげて嬉しそうに目を瞑っている愛理。
うー。
床に座ってる愛理の横に膝立ちで近寄る。
とりあえずほっぺにちゅー。
これぐらいなら別にほかの人ともやるし…。
それだけで離れようとしたら愛理に強く抱き寄せられた。

「もっと」

ん、って可愛く差し出される顔。
ちょっとドキドキ。
74 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:27


おでこにちゅー。


鼻にちゅー。


あごにちゅー。


ほっぺにちゅー。


目尻にちゅー。


まぶたにもちゅー。



愛理のいろんなところにちゅー。


75 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:28






愛理にちゅー。





76 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:29
くすぐったそうに身を捩らせたから少し止める。
愛理のキラキラした目につかまった。

「私は楽しいよ」
「…うん」
「くすぐったいの気持ちいい」
「うん?」

そうかなぁ。
くすぐったいはくすぐったいじゃないの?

「幸せなくすぐったさってやつです」
「ふーん?」

なにそれ?
楽しいなら良いけど…。
77 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:29

もっかいしてみようかなぁなんて思ってたら急に抱きしめていた腕に力を込められた。

「愛理?」
「うん」

笑ってるのに眉だけつらそうに寄せられてて、じっとこっちを見つめてる。

「愛理、つらいの?」
「うーん」

ちょっと違うみたい。
どう言ったらいいのかなぁ、なんて変な声だすからなんだか不安。
しばらくして、あぁそっかなんて声が出てきた。
78 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:30


「切ないんだよ」
「うーん?」
「舞のこと好きだから」

79 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:30

あまりにもサラサラした告白に、何も言えなかった。
キスするのは楽しいから。
愛理がキスしてくるのは当たり前なことみたいに考えてたから。
…それに愛理って不思議ちゃんだし。

「愛理が舞のこと好き?」
「うん。めっちゃ好き」
「めっちゃ?」
「めっちゃ」

更に強くなった力。

「舞は?」

奥までしっかり見据えられて、これはごまかしたりできないやって思った。
正直に答えるしかないや。

「わかんない」
「そっか」

見つめていた瞳が舞の首元に逃げた。
80 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:31

本心を話すのなら、もうちょっと言葉が必要?

「でも嫌じゃないよ」
「うん?」
「愛理にキスすると、夢中になった」

それを聞いて首をかしげた愛理。

「それってどっちに夢中?愛理かキスか」
「…わかんない」

でも、愛理にキスしてたよ。
ただキスしてたんじゃなくて、愛理にキスしてた。
81 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:32




愛理のこと考えて、愛理を意識して、愛理を想って。




82 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:32
そう言うと愛理は顔をあげた。

「私がいい?」

他の人だったら?
うーんと…、嫌じゃないけど。
でも愛理は別な気がする…。

「なんで?」
「えー?」

なんでかな。
ちゅーするなら愛理がいい。

「それ、私にしかしたくないってこと?」

そうなのかな?
83 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:33
「じゃあ、口にしてみる?」

それでも嫌じゃなかったら好きってことで。

驚いて愛理をまじまじ見つめると、してみるって意味にとったのか目を閉じた。

「ん」

わぁ、ドキドキする。
唇以外のところ見てようと思ったら伏せられたまつげが綺麗な顔を更に綺麗にしていて余計ドキドキしてきた。

「するね?」

黙って頷くから、可愛さが増して息が止まりそう。
えーっと、息が止まりそうなぐらい緊張してる。

「…ふ…ぅ…」

唇をくっつけたら一瞬びくって愛理の体が震えて、抱きしめてきていた腕が上へ上へのぼってきた。
首に腕が絡んでちょっとくすぐったい。
84 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:33
ゆっくりと更に押し当てられる唇。

「…んー」

息が苦しくなって離れようと思ったけど絡んだ腕が許してくれない。
しばらく耐えてやっと愛理が離してくれた。

「どうだった?」

ドキドキした。
恥ずかしかった。
でも、嫌じゃなかった。

「じゃあ、きっと舞は愛理が好きなんだよ」

お願いするみたいに顔が摺り寄せられてまたドキドキ。

「うん、愛理のこと好き。…かな、たぶん」

不安げに付けられた言葉にそれでもいいよってまたされたキス。
85 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:34

「じゃあ愛理と舞は恋人で」
「恋人かぁ」

悪くないかなぁ。
嬉しそうに擦り寄ってくる愛理を見てると舞も嬉しい。

「好きだよ」

うん、舞も…かな。
いまは不安定でも、いつか愛理を好きになるよ。
86 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:35




神様に約束した。





愛理を好きになるよって。





87 名前:<<キスパレード>> 投稿日:2007/01/05(金) 22:35






のちに、今度は愛理が困るほどちゅーしたのは内密に。





88 名前:名無し雲 投稿日:2007/01/05(金) 22:37
愛理は不思議ちゃんかつ積極的だったらクルと思います。


同士モトム!!!!!
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/06(土) 23:15
スマン!無理だ!!w
申し訳ないが保育板に行ってくれ!!
90 名前:名無し雲 投稿日:2007/01/07(日) 13:39
>89
保育板にこれだけのためにスレ立てるのは悪いと思ってここに
書き込みましたけどここに書き込むのも問題ありでしたなw
スレ汚ししてすまなかった。しかし無理なのに読んでくれてありがとう。
91 名前:亜依と麻琴 投稿日:2007/01/17(水) 13:43
東京のはずれの小さなホテルの狭い薄汚れた部屋のシングルベッドの上、
ふたりは裸で絡み合っていた。

ベッドの大きく軋む音とふたりの喘ぎ声。

東京にいないはずの、いてはいけないふたり。
92 名前:亜依と麻琴 投稿日:2007/01/17(水) 13:44
夜更け、町の灯りが部屋の暗闇を照らす。

ベッドの上に横たわるふたりの裸を浮かび上がらせる。

小川の愛液に濡れた唇から

「こんちゃん、何だか雰囲気大きく変えてるんだって・・・」

天井に向かってつぶやく。

「ほんま?」

加護は小川のほうに顔を向ける。

「大学に行くからね」

小川は天井を向いたまま。

加護も天井を見る。

「みんな変わっていくんだね」

窓から見える風景は、東の空がようやく明るくなってきているみたい。
93 名前:亜依と麻琴 投稿日:2007/01/17(水) 13:44
おしまい
94 名前:柑橘系 投稿日:2007/01/19(金) 14:27
人って何でつかめないものをつかもうとするのかな?
何で届かないものを求めるの?

一人用の座椅子に座って、足をコタツの中に突っ込んで、
さてみかんを、と手に取った時に向かい側のテーブルに
あごを置いてうずくまっていた亜弥に突然問われた。

彼女が突然よく分からない事を言うのは結構付き合いが長かったりするので
分かるのだけど、こんな何か哲学的な話はこののどかな時間に合わない。

「何?どぉしたん」

みかんの皮を向いて二つに割ると彼女は「あーん」と口を開いた。
一つだけとって口の中に放り込むと表情も変えずにもぐもぐと口を動かす。
でもすぐに顔は歪む。

「すっぴゃい…」
「あ、はずれやね」

あたしはすっぱいと思われるみかんを亜弥の目の前に置いて別のみかんを手に取った。

「…愛ちゃん、性格があまりよろしくないんじゃない?」
「亜弥ちゃんが食べると思ったから剥いてあげたんやよ」

もう一つ手に取ったみかんを口に入れるとやっぱり何だかすっぱくてテーブルに置いた。
95 名前:柑橘系 投稿日:2007/01/19(金) 14:27
「なんか全部ハズレやし」
「イチキュッパとか安いの買うから」
「亜弥ちゃんがこれでいいって言った」

あたしの言葉にむむむ、と唸ると観念したかのように目の前のみかんをまた食べて
顔を歪ませている。

「あれや、猿やん」
「愛ちゃんも人のこと言えないから」

みかんのせいで流れてしまった話を元に戻す。
あまり興味もないけど、話す事も特にないから。

「んで、何のこと?」
「ん?あー、あれね。パン食い競争の話」
「は?そんなくだらんこと?」

全然哲学とかそんなもんじゃない。
半ば呆れたけど明らかにそんなものの話をしたいわけじゃない、という
表情を浮かべていたからあたしは次の言葉を待った。

「必死につかもうとするたびに逃げるんだよねぇ。
 だからと言って待ってても手に入るわけでもないし」
「うん」

いつも亜弥が追っかけまわしているあの人の姿が容易く想像できたけど
あえて名前を出さなかったのでなんとなく聞かなかった。
96 名前:柑橘系 投稿日:2007/01/19(金) 14:28
「むずかしいのよ、いろいろと」

言いながらまた一つ口に放り込んでは顔を歪める。
その顔はきっと亜弥の心の中の表情なんだと思ったけれど
それを笑顔にさせるのはあたしには出来ないので「ふーん」とだけ呟いた。

「愛ちゃんは最近どうよ?」
「大学二年生の生活をえんじょいしてる」
「えんじょいか」
「うん、えんじょい」

横文字の発音がおかしかったようで指摘されるけど揚げ足取られるのは
いつもの事だったりするのでもう別に怒ったりとかはしない。

「大学一年生の彼女は元気?」
「んー、まぁ元気?」
「何で疑問系」
「最近会ってないかも?」

あたしがそう言うと無理やりすっぱいみかんを口に押し付けてきた。
ぎゃあぎゃあ言いながら逃げたけど結局それはあたしの口の中に収まる。

「愛ちゃんはぜーたくもん」

顔を真っ赤にしてあたしに告白してきた大学一年生の彼女。
その告白の場所には亜弥もいた。
そういう話は2人きりになってしてほしかったんですけど、というツッコミに
大学一年生の彼女はどもりながら「そうですよね」とだけ言った。
97 名前:柑橘系 投稿日:2007/01/19(金) 14:28
「何か急がしそうなんよ。ああ見えて人気者で」
「あぁ、吉澤さんとか、…みきたんとかに可愛がられてるもんね」

一部分だけ声が小さくなった事を感じ、亜弥の顔を覗き込む。

「なんも心配すること無いと思うけど?特に藤本さんに関しては。
 麻琴、吉澤さんのことは超好きだけど藤本さんはそんなでもないんじゃない?」

あたしの言葉にちらり、と目線だけ動かして信じられないと言わんばかりに唇を突き出した。

「愛ちゃんはそういうの不安になったりしないの?」
「せん」
「即答かい」

だって信じてるもん、とかそんなことは口に出なかったけど。

「なるようになる」
「…考え方が老けてる。本当に同い年?」
「亜弥ちゃんは詐称してるよね」
「だれが」

すっぱかったみかんは二つとももう目の前には無い。

「今度は甘いの買おうね」
「もうちょっと高いのを買えば甘くなるかな」
「そうかな」
98 名前:柑橘系 投稿日:2007/01/19(金) 14:28
あたしは立ち上がって台所に向かう。
その様子を亜弥が目を追っていたのは分かってたけど何をしに行く、
とかそんな事は言わないし特に聞かない。
小さなお盆に熱いお茶の入った湯飲みを二個。
はい、と差し出すと彼女は笑った。

「やっぱ老けてる」
「んじゃ飲むな」
「のむ」

お茶を飲んで一息ついて。

届かないものを求めるのが辛くなったからあたしは逃げた。
その事を知らないでまったりお茶なんか飲んで。

「ねぇ亜弥ちゃん」
「ん」

ズズズ、と飲んでいたお茶から口を離し亜弥はゆっくりとテーブルに置いた。
ゆっくりと置いたくせにドン、と言う音がやけに響いた。

「届かないのは亜弥ちゃんだって知ってた?」
「ん?」

眉間にしわを寄せてあたしの目を見る。

「やっぱ猿やな」
「…だからそれを言うならアンタもだって」

手に届かなかったものを諦めたけどそれなりに幸せ。
今だけは。
99 名前:柑橘系 投稿日:2007/01/19(金) 14:29
「あーもぅ、家に帰るのがめんどくさい。泊まっていい?」
「別にかまわん」
「それじゃー今日は語り合いますか」
「そーしますか」

自分の望むことは叶わなくても時間は過ぎる。

「愛ちゃんがいてよかったわぁ」

甘い甘いこの声を聞けるのは、
今だけはあたしだけ。
知らない方が幸せで、知らないふりをする方が幸せで。

「そのうち宿泊料金とるね」

あたしの言葉を聞いて不服そうに顔をくしゃくしゃにする。

「やっぱ猿」
「うるさい」


END
100 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/19(金) 14:30
そして100ゲット。
お目汚し失礼しました。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/19(金) 23:08
好物の愛亜弥をありがとう
102 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:37
今日の天気予報は――雨。
テレビを見ながら、そっとため息をついた。

憂鬱な気分のまま、くるまっていた毛布から抜け出し立ち上がった。

「うお・・・っと。」

寝起きのためか、足下がおぼつかない。
倒れそうになるのを堪えていると、後ろで笑い声がした。

「大丈夫かー?」

絵里を心配する声は、心なしか楽しそうで。
・・・いや、あの笑顔は確実に楽しんでいるだろう。

テーブルのイスに座っている愛ちゃんに背を向け、大きく背伸び。
あぁ、やっぱり雨なんだ。
窓についた水滴を見て、なんとなくそう思った。

「大丈夫ですよーだ。」

雨のせいか、愛ちゃんが楽しそうなせいか、絵里の声は自然と拗ねていた。
そのまま拗ねた顔で振り向くと、まだ愛ちゃんは楽しそうに笑っていた。

「寝過ぎたんじゃないの?」

確かにそうなのかもしれない。
時計は11時を指していた。

でも、そう簡単にそれを認めるのも何か気に入らない。
早く寝たかった絵里を、目の前で笑っている人は寝させてくれなかったのだから。
103 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:37
「昨日夜中まで付き合わせたのは誰ですかね。」
「・・・私か。」

少し考えた後、愛ちゃんは答えを出した。

「他に誰がいるんですか。」

そんな愛ちゃんがおかしくて、つい笑ってしまった。
あぁもう、今日はとことん不機嫌な絵里でいこうと思ってたのに。

「いや、でも、絵里も楽しかったやろ?」
「・・・テレビがですか?」
「いや、そうじゃなくて。」

今度はこっちが考える番だ。

昨日は愛ちゃんが深夜番組を見るのにずっと付き合わされていた。
最後に時間を確認した時は、確か3時を回っていたような気がする。

「えー?他に何かありましたっけ?」
「・・・いや、もういいや。」
「え、ちょ、なんでですかっ。」

そりゃ絵里は楽しかったですよ。
好きな人とずっと一緒に居れたんですから。
でも、愛ちゃんは・・・。

「こんなことならすぐに起こしてやれば良かった。」
「え?」

愛ちゃんがふてくされたように絵里から目をそらした。

あぁ・・・やっぱり今日は憂鬱な日なのかもしれない。
104 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:38
昨日、愛ちゃんに好きだと言った。
返事は待ってほしいと言われた。

絵里の気持ちを知ってる愛ちゃんと、愛ちゃんの気持ちを知らない絵里。
どんな結果になろうと、絵里は今まで通り接していきたいと思っていたのに。

なのに、今日は朝からこの雰囲気。

「気持ちよさそうに寝てるから、起こしちゃ悪いなーと思って起きるの待ってたんだけど。」

怒ったような口調で愛ちゃんは言った。

「・・・何時に起きたの?」
「8時。」
「・・・ふ、ふーん・・・。」

早いね。
そう言おうと思ったけど、寸前で止めた。
その言葉で、愛ちゃんの機嫌をさらに損ねてしまうような気がしたから。

マズイなぁ。
愛ちゃん、本気で怒ってるよ。
目をそらされてから、ずっとこっちを見てくれない。

まだ、朝起きてからこの距離を縮めてすら無いのに。
なんとかしないと、返事すらしてもらえないかもしれない。

「愛、ちゃん・・・?」
「ん?」

・・・あれ、結構普通?
愛ちゃんはこっちを向いてくれた。

これが最後のチャンスだ。
たぶん。
105 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:39
どーにでもなればいい。
絵里が昨日楽しかったのはこのことだけだし。

「あの・・・違ったら悪いんですけど・・・。」
「何?」

でも、これじゃ無かったら無かったで、結構へこむかもなぁ・・・。

「絵里?」
「あ、あの・・・」
「うん。」
「ずっと・・・二人で、居れたのが楽しかった・・・ってことですか?」
「・・・。」

あぁ〜、やっぱり違います?
違いますよね。
引きましたよね。
そんなの絵里だけですよね。
だって愛ちゃんテレビに夢中だったし。

気付いたら勝手に口が動いていた。
どこまで痛いヤツなんだ、絵里は。

「ちがっ、そうじゃないんだってば!」
「・・・は?」

愛ちゃんが何やら必死に反論してきた。

「テレビの内容、全然覚えてなくて困ってるんだって!」
「はぃ?」

愛ちゃん顔真っ赤だよ。
よくわからないけど、おもしろいなぁ。

「あー・・・なんでさっきあんな事言ってしもたんやろ。恥ずかしい。」

愛ちゃんは頭を抱えて何やらブツブツ言っている。
さっきから絵里は放置ですか?
106 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:39
あんなに恥ずかしい思いして言ったのに。
せめて正解か不正解かぐらい言ってほしい。

「あのー・・・」
「・・・」
「愛ちゃん?」

しばらくしてから、愛ちゃんが勢いよくこちらを向いた。

「・・・絵里、は、楽しかった?」
「・・・楽しかったですとも。」

少なくとも、絵里は。

「・・・愛ちゃんは?」
「楽しかった・・・です、とも。」

うわ、なんかさりげなく真似された。

「っていうか、もしかしなくても正解なんですか?」
「正解です、とも。」

マジデスカ。

「うっそー・・・。」

無意識にそう呟いていた。
まさか愛ちゃんが、あの、愛ちゃんが、そんなことを思っていてくれたなんて。
昨日考えさせてほしいと言われた時から、正直諦めモードだったのに。

「え、うわ、ちょ、え、すごっ、すごい嬉しいんですけど。」
「・・・もう恥ずかしいから言うな。」

期待してもいいんだろうか。
そう思うと、なんだか余裕が出てきた。
107 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:39
よし、さっき絵里がよろけるのを笑って見てた罰だ。

「言うな、って言われても、この話持ち出したのは愛ちゃんからですけど。」

もう少し、いじめてみることにしよう。

「だから後悔してるんじゃんかー!!」
「後悔することないですよ〜?」

ウヘヘ〜と笑って、愛ちゃんの方に歩み寄る。
やっと、愛ちゃんに近づける。

「あぁもう来るな、このカメ!」
「な・・・!ちょっと傷つきました、今!」
「私だってもうボロボロや!」
「それは自分が悪いんじゃないですか!」
「だからそれは言わんでー!!」

イスに乗ったまま後ずさる愛ちゃんを追いかける。
そんなことしてると床に傷がつくんじゃ・・・。
そう思ったけど、それはそれで後々楽しいかもしれないと思い、言わないことにした。

「あ、よし、絵里!」
「なんですか?」
「外行こうぜ。」
「は?」

そうしようそうしようと愛ちゃんは勝手に話を進め、イスから降りた。

「え、ちょっと・・・」
「ほら、そうと決まれば早く着替える!!」
「絵里決めてませんけど・・・」
「私が決めた。」
「えぇー。っていうか今日雨降ってるしやめましょうよー。」

せっかく良いところだったのに。
あ、せっかく愛ちゃんに近づいたのに逃げられちゃったし。
108 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:40
「雨降ってないよ?」
「え?うそぉ。」
「朝方は降ってたみたいだけど、もう今は降ってませーん。」

ニーッと笑って、愛ちゃんはカーテンを開けた。

「ほんとだ・・・。」

眩しいぐらいの光が、愛ちゃんの横顔を差した。
なんてこった。

「残念でしたー。」

愛ちゃんはまた楽しそうに笑って、絵里の横を通り抜けて行った。
こんにゃろう・・・。

「あ、でも、ほら、絵里まだ朝ご飯食べてないし・・・!」
「もうお昼なんやけど。」

愛ちゃんの視線を追い、絵里も時計を見た。
長い方の針は11と12の間を差していた。

「うーわー。」

絵里はがっくりうなだれた。
もう少しこの二人だけの空間で居たかったのに。

「絵里。」

名前を呼ばれ、何も考えずに顔を上げた。

「返事、今日中にちゃんとするから。」
「・・・!」

期待、してていいんですよね?
109 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:40
「今からじゃ、ダメですか?」
「ダメです。外に出かけてからです。」
「・・・ちぇー。」

絵里は渋々洗面所へ向かった。
とりあえずこのぼさぼさの頭をなんとかせねば。

「うわ・・・やっばいなぁ。」

鏡に映った自分の顔。
勝手に緩む口元は、もう自分じゃ制御不能だった。

愛ちゃんのあの照れ様。
うん、大丈夫。
たぶん絵里の勝ちだろう。

「へへ・・・。」
「何一人で笑っとんの・・・。」
「うぉっ!!」

知らない内に愛ちゃんは洗面所に入ってきていた。

「いや、だってー・・・」
「あんまり期待しすぎると後で痛い目見るぞー。」
「なっ!それどういう意味ですか!!」

慌てて絵里が愛ちゃんの方を見ると、愛ちゃんはフフンと笑ってみせた。
悔しいけれど、今はまだ愛ちゃんの方が権力は上だ。

「愛ちゃんだけずるいですよ。」
「それを承知で昨日は泊まっていったんやろ。」
「まぁ、そうですけど・・・。」

愛ちゃんがそんなにその弱みをつついてくるとは思わなかったんですもん。
その・・・惚れた弱みってやつを。
110 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:40
「もういい?」
「はい、髪の毛はおっけーです。」
「じゃあ早く服。」
「わかってますって。」

と言っても、泊まる予定では無かったので昨日と同じ服なんだけど。

急いで着替えて、愛ちゃんの方に駆け寄った。

「デートですね!」
「まだまだぁ!」
「えー、もういいじゃないですかー。」

頑固だなぁ。

「ほれ、早く行くぞー。」
「はいはい。」

返事をしつつ、愛ちゃんの左手に右手を絡ませた。

「ちょ、絵里・・・っ。」
「なんですかー?」
「やっぱり今日中に返事するのやめようかなー。」
「え、そんなっ、ごめんなさい!」

ぱっと手を離すと、愛ちゃんはよろしいと言って笑った。

「我慢しますから、ちゃんと返事して下さいよ!」
「おぅ。」

もう、なんで絵里はこんな人に惚れてしまったんだろう。
111 名前:気まぐれ空模様 投稿日:2007/01/27(土) 11:41
「あ、そうだ絵里!」
「はい?返事してくれる気になりました?」
「テレビ消すの忘れてたから、消してきてくれへんかな?」

ニッコリ笑顔でそう言われて、誰が断れますか。
軽く無視されたのは、この際気にしないことにしよう。

もう一度部屋に戻り、床に置かれたままのリモコンを手に取った。

『今日の天気は――』

また天気予報がやっていたので、電源ボタンを押す指が自然とためらう。

「絵里、早くーっ。」
「っ・・・はーい!」

慌てて電源を消し、リモコンを机の上に置いた。

そういえば、朝からあった憂鬱な気分も今はもう無い。

「傘いるかなぁ。」
「いらないと思いますよ?」

今日の天気は、晴れ模様。
絵里の心に虹がかかるのも、それから数分後のことだった。
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/27(土) 11:44
おわり


久しぶりに書きたくなったのでリハビリがてら愛絵里を。
この二人は愛≦絵里ぐらいの力関係を目指してますw
113 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:38

「おう、おはよう。むらっち早いじゃん」
「おぉ。キミこそ早いじゃないの」
 めずらしく買い物に寄ってからスタジオ入りしようとして、待ち受けていた現実は、欲しいものの売り切れという切ない展開。
 仕方がない。早めに到着と思ってリハのスタジオまで来たものの、集合時間まではまだまだあって。
 控え室に荷物を置いたときに、見慣れた鞄があることに気づいたのだが、本人が居る形跡はまったくなかった。
 …コンビニでも行ったんかな。
 そう思い、自分が来た道の延長線上にあるコンビニへと足をむけたら。
 あ。やっぱ居た。という、次第なのでありました。
 立ち読みしてる視線がこちらを向いて、雑誌をラックに戻した。情報誌か。むらっちらしいやね。
 隣にならんで、今までの時間の状況説明をすることにする。
114 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:39
「いやぁー。一昨日言ってた服がさー、お店に行ったら売り切れててさ。
 一応メーカーに在庫あるって言うからお願いしてきたんだけど。その後、ものすごい時間余っちゃってね」
――やっぱ欲しいものが買えない時とか、気分なんとなくへこむじゃん。
「そらそうだな。なんだ。メールでもくれれば良かったのに。たぶんその時間なら、私も街に居たよ」
「街ってどこだ。東京広すぎるだろう」
 思わずツッコミ入れながら雑誌の並ぶラックを眺めるも、あまり興味をそそられるものもなく。
 別に買いたいものがあって来たわけじゃないんだけどな、と、きょろりと周辺を見渡した。
 あれだよね。たまーにさ、子供向けのおもちゃとかある棚みるとおもしろいっていうか。
 あぁほら。これ。トランプでしょ?なぜかオセロとか、最近はUNOとかも売ってるよねぇ。
 そんななかでも、超定番のカラーボールとか。いやぁ、なつかしいよねぇ…って。
 カラーボールか…、ボール……。
115 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:39
「何を持ってるんだねキミは」
「うん。ボール」
 手にした明るい色みをした緑のボール。ビニール袋のカサリとした音。ネイルは幸い短めだ。
「そりゃぁ、見りゃわかるけども…」
 どこか口ごもるようなのは、この先の展開がなんとなく読めてるからだろう。
「あ!そうだ、思い出した。私、飲み物買ってこなきゃなぁ」
 と苦い口調で逃げようとする細っこい腕を捕まえて、久々にむらっち相手に営業スマイル炸裂。
 こちらに向かう視線は氷を踏むようにひきつってる。
「キャッチボールでもすっか。まだまだ時間あるし」
「んあー。キャッチボールねぇ」
 片方の眉を持ち上げ、どこか仕方がなさそうに肩をすくめるけれど、自分の遊びにはだいたい付き合ってくれる。
「仕方がないなぁ。ペットはボール遊びをご所望か」
 小さく笑って体を返すと、冷蔵の棚へ向かってしまった。
 どうやら本当に付き合ってくれるらしい。
 実は自分が遊びたいんじゃないのかい?ペット村田よ。
「何のむのー?」
 離れた棚から聞こえる声。
「水がいー」
 こういうやりとりができるのが、日常のささやかで嬉しいことなんだけどな。うん。
116 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:39



117 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:40

 スタジオからそう離れていない、小さな児童公園。
 東京にもさ、まだこういう舗装されてない公園あるんだね。
 乾いた土の感触と匂いが独特で、思わず口元を持ち上げる。
 ビニールのなかには、ペットボトルとカラーボール。ベンチに水分を置いて、ベリっと袋の留め具を外し、ボールを取り出した。
 あんまり離れていない距離で、さすがにそれは取れるだろうという、下手からゆるすぎるほどの山なりのボールを放る。
 それでも両手で掬い上げるように受け取るという危なっかしさを見せながら、むらっちは体勢を立て直した。
 それを見て、一歩後ろに。しばらくはもう、ゆるゆるの山なりを描く投球でお互いに勘をつけていく。
 まるでアレだよ。小さい子供に対してボールに慣れさせるように、ぽぉんと優しく放るのと一緒。
「そろそろいいかなぁ」
 に。と上体を起こしたむらっちが、くるんと腕を回した。その行動に一瞬ポカンとしてしまったせいで、反応が遅れてしまう。
 だって。先にオーバーだっけ?上から投げるなんて思わないじゃん。
118 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:40
「って、ちょっ、待った!」
 そうは言っても、当たり前のように聞きやしない。まるでイタズラのタイミングを計っていたかのように、ボールが手を離れる。
 お。何気にちゃんととんできた。コレなら取れる。両手で包み込むように受けて、やわらかく返す。
 なんだか少しずつ楽しくなって、体もあったまって、こんな冬に外で遊んでることがおもしろくなってくる。
 普通に仕事をしてる人たちは、今頃はオフィスで頭下げたり、パソコンに向かって目頭マッサージしたりしてるはずだし。
 体動かしてる人だって居るだろう。
 みんなそれぞれ生きてる。何か一瞬の楽しみのために。
「案外たのしいなぁ。コレ」
「おぅ。けっこう楽しいなぁ」
 でも。今この瞬間、確かに子供みたいに楽しいって思う。
 仕事の前とは言え、ウイークデイの昼下がりにだ。大の大人がこうも単純明快に、ボール一個で楽しんでるなんて。
 おとなになっても、こういうのって大事。
 笑いがこぼれたそのとき、不意に表情のなかにキラリと嫌な光が満ちた。
「ほぅら、とってこぉい!」
 不意をつくように逸れたボールは、自分の左側をポーンと跳ねてコロコロと敷地の上を転がっていく。
119 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:41
「いまのはワザとだろー?ひどい女だよ」
「あぁそうさ。ワザとだともさ」
 ウワハハハと笑う声を背中に受けながら、けっこう必死に追って、ボールを拾い上げる。
 このやろう。と思ってニヤリと笑い、ポンポンとピッチャーが白い袋をもてあそぶようにボールを手のひらに馴染ませた。
 思い切り大げさな動作でもって、できるだけのスピードをつけて投げつける。
 うおぉぉ。と女らしくない悲鳴をあげて、大げさに逃げる逃げる。わざとらしいまでの滑稽さは彼女のナチュラル。
 お互いにツボに入るその動作で、腹を抱えて笑うことになるんだけど。
 しかし次の瞬間にはダッシュでボールを拾いに走り、振り返る動作のままにボールをこちらに投げつけてくる。
 パコン。とボトムに白い砂埃の痕がついた。
 ひでぇ!これ買ったばっかだぞおい!指さして笑ってんじゃないよ!
 あまり無い瞬発力を最大限に発揮して、村田めぐみにむかいボールを投げ返した。
 細身の体の着ているコートに、白い埃の丸がついた。
 当たったこととコートに目立つ白丸に、たまらずに笑いながら、膝から崩れ落ちる。
120 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:42
「ドッヂボールじゃないんだからさぁ…」
 荒げた息を笑いでさらに苦しくしながら、お互いにしゃがみこんで大笑い。
 足元に転がったボールをとりあげて、むらっちは目を細めた。
 そして先に立ち上がると、すっかり置き去りにされていたコンビニ袋にむかいそれを手に取った。
「まぁほら。マジメなだけじゃ疲れるでしょう?」
 背中ごしに聞こえた言葉は、優しさの塊。純度100%の思いやり。
 あぁ。何気にクサクサしてたの、見抜かれてたらしい。
 立ち上がり。手渡されるミネラルウォーターの封を切りながら、肩をすくめて一口。
「よく言うよ」
 思わずこぼれる笑みを、不意に携帯のバイブがかきけした。長さからしたら着信だ。
 ボトムのポケットに入れていたのだけど、あれ。電車の後でマナーモードのままだったっけ?
 そこまでを思って、携帯を開くのと、我に返ったむらっちが時計を見るのが同時だった。
 げ。かなり時間経ってんじゃないっすかぁ。
121 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:42
――ちょっと。あんたたち、楽屋に荷物置いてどこほっつき歩いてんのよ。
  あゆみがコンビニに見に行ったけど居ないって首傾げてるし。
  もうそろそろ時間でしょ?早く戻ってこい!いま!すぐ!

「は!ただいま走ってもどりますっ」
 ホワァ!ひとみんったら、ボスのドス声だし。これじゃライブ中「運命」の「わかるよねぇ?」より数倍怖いし。
 思わず最敬礼で返して、通話を切断する。
 顔面蒼白になりながら、公園から走り出した。
 片手にペットボトル。方やペットの手にはビニール袋とボールという、妙な取り合わせ。
 思わず顔を見合わせるのに、また笑ってしまうのも無理はない。
 だって、こんな。どこの男子学生だって話ですよ。
「えぇと。このボールどうするよ」
「お兄さんにでもどうぞ」
 あ。さいですか。じゃ、今度実家帰ったときにでももって帰ります――。
 言いながら坂道をダッシュで降りて、大通り。それを左に折れて。
 お。スタジオの前であゆみんが待ってる。
「あのさ。今度の休みさ、久々にねずみの海行こうぜぃ」
「おぉ。いいねぇ。後で煮詰めるか」
 歩道で風紀委員のごとく仁王立ちするあゆみを、どう回避するかだけを考えながら、二人で加速をつける。
 レッスン前に体のエンジン全開になった分、今日はよく動きそうだし。
 買い物できなかった運の悪さも、最近考えすぎてたはずのクサクサもなくなった。
 あとは、待たされた二人とマネージャーさんの小言が、できるだけ短くてすむように祈るばかりだ。
122 名前:おとなになっても。 投稿日:2007/02/03(土) 14:44

おとなになっても。(終)

この二人の時間つぶしが、こんなんだったらおもしろいな。という妄想。
いつまでも仲良しさんだとよいよ。
123 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2007/02/04(日) 17:13
よかった。なんかこのふたりの内に閉じた感じが好きです。
124 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:27
小春目線よしみき。
甘くないです。
不謹慎な話、お許し下さい。
125 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:27
私のあこがれる人が、しにました。

交通事故でした。

突然でした。



私のあこがれる人は、二人います。


その二人は、それぞれお互いのことをとても愛しています。


吉澤さん、藤本さん。
126 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:29
病院の場所を知らせてくれたのは、吉澤さんでした。
吉澤さんは、皆に伝えるのが大変だ、と
少しおどけた声色で電話越しに私に言いました。
私は、吉澤さんが一番悲しいはずだろうに
皆を心配させないように
大変だ、とおどけているのだと思って、
胸の中が締め付けられるように感じました。

すぐいきますと言ってわたしは電話を置くと、
ショックと悲しさで少しふらふらしながらも
すぐに家を出て病院へ向かいました。

病院は、わたしの家から随分遠くにありました。
127 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:29
吉澤さんは、メンバー皆に伝えるつもりだと電話で言っていたのですが、
わたしが病院に着いた時、
メンバーの内の誰かの姿も見えませんでした。
わたしは少し辺りを見回したあと
受け付けの人に藤本という人は何処ですかと訊ねました。
受け付けの人はこちらですと言って
わたしを霊安室とプレートが提げられた部屋の前まで案内しました。
受け付けの人は申し訳なさそうな顔をして
わたしに少し頭を下げてから
エレベーターホールの方へ歩いていきました。
わたしはその部屋まで来る間
何も考えていなかったのか
その部屋が何階であるのかすらわかりませんでした。

冷たいドアノブをひねって少し重い扉を開けると
ひんやりした空気に包まれました。
128 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:30
薄暗い部屋のなか
白い布が盛り上がった台の脇にあるパイプ椅子に
吉澤さんが座っていました。
吉澤さんは自分の爪をいじっていました。
そしてわたしが入ってきたのを見て
あぁと言って立ち上がりました。

「ごめん、遠いところ」

吉澤さんはポケットに手を突っ込みながら言いました。
吉澤さんの顔や声には何らの悲しみだとかは見えませんでした。
わたしはまた胸が締め付けられるように感じました。
そして白い台に目をやりました。

「あぁ、美貴ね」

吉澤さんはそう言って
藤本さんの顔にかかっていた布をとりました。
藤本さんはいつもの通り綺麗でした。
傷は一つもありませんでした。
漫画みたいに
死んでいるのがウソみたいだと思ってしまいました。

「首が折れてんだよ、ほら」
129 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:31
吉澤さんは藤本さんの頭を持ち上げて
動かして見せました。
わたしは驚きました。
そして吉澤さんの顔を見ました。
吉澤さんは薄ら笑いを浮かべていました。
どうしてか、と考えたとき
わたしの見間違いだったのだろうと一瞬は思ったのですが
吉澤さんの唇の端は確かに少し上がっていました。
そしてまだ藤本さんの首を動かして
わたしに見せるのです。
もういいです、やめてくださいとわたしが言うと
吉澤さんはやめました。
そして藤本さんの遺体を
腕を組んでしばらく見ていました。

「キレーだよね。」

わたしははいと答えました。
わたしの声は震えていました。

「見てみ?ほら。」

吉澤さんは藤本さんの着ているシャツの胸をあけました。
わたしはまた驚きました。
吉澤さんの顔にはやはり悲しみといった感情は見えませんでした。
悲しみどころかわたしには
吉澤さんの表情から何も見つけることができませんでした。

わたしはまた
はいと返事をしました。

確かに、傷も痣も見つからなかったのです。
初めて見た藤本さんの胸は
本当に綺麗でした。
130 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:32
しばらくして、メンバーが静かに入ってきました。
みんな、それぞれの悲しい表情が、顔ににじんでいました。
誰かの鼻をすする音がしてから、他の誰かのしゃくりあげる泣き声がきこえてきました。
わたしもそれと同時に、鼻水と涙が同時に流れてくるのを感じて、顔全体を手の甲でぬぐいました。

藤本さん、藤本さん、藤本さん

大好き、藤本さん

藤本さん、藤本さん、藤本さん

止め処もなく流れてきました。
何も見えませんでした。
でも吉澤さんが顔を動かしていないことだけは確信していました。
131 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:32
多くの時間がたちました。
吉澤さんは、必要なこと以外、本当に喋らなくなりました。
最後に自分の思うこと、感情を言ったのは、病院で藤本さんを見て、
「キレイ」と言った時でした。

それからある日、吉澤さんは、消えました。
必要なことすらも喋らずに、みんなの目の前から消えました。
132 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:33
その日、わたしは気付きました。
あの病院でも、わたしは吉澤さんをよく見ていたというのに、
今更になってわかりました。

吉澤さんは、おかしかった。
吉澤さんの脳は、生きるためだけの機能を残して、
あとは全部閉ざしてしまったのです。
衝撃を受けて、しんでしまわないように。
時間がたって、耐えられるほどにその悲しみがなったら、
また、開けられるように。

実際たくさんの時間がたちました。
経ちすぎたのがいけないのかもしれません。
判断が甘かった吉澤さんの脳は、衝撃に耐えられなかったのです。
自分の脳すらも、藤本さんをおもう気持ちを知ることができなかったのです。


わたしはこう悟ったとき、
133 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:33
 
134 名前:流れる 投稿日:2007/02/04(日) 18:34
135 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 10:39
終わり方がすばらしいですね。こういうの好き
136 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:42
 
 
 
 
 
 
 
137 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:43
 
 
あいぼんといると、のんは丁度いい。
 
 
 
ののとおると、ウチも丁度えぇ。
 
 
 
 
 
 
 
 
『共存ってこーゆーこと』
 
 
 
 
 
138 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:43
 
 
特に何もすることがない、平凡な一日。辻は親しい友人達と一切の約束も入れてなかった。
耳障りな目覚まし時計は、今日という日は鳴らなくてただの時計に成りすましていた。
予定がないのだからもっと寝ていたい、と思う辻だがあまりにもすっきりした目覚めだったので、そのままリビングへ裸足のまま移動する。チラ見した時計はまだ8時前だった。
 
 
「……おはよ…」
 
 
辻の挨拶に、チラチラと聞こえる家族の声。とても忙しそうに辻の周りを行ったり来たりしている。
辻以外の家族はそれぞれ予定があるからだった。それは平日では当たり前のことだった。
ボーっとしている内に家族は1人、また1人と、みんな出かけてしまったようだ。
 
 
「…シャワーあびよ」
 
 
このときの辻の頭の中には、二度寝という言葉は全くなかった。
でも、友人達とは誰一人として約束を交わしていないし、それらしい用事など何もないのだ。
熱いシャワーを小さな体で受け止めている辻は、完全に自由だった。
何に気を遣うでもなく、追われるわけでもない、自由そのものだったのだ。
 
 
139 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:44
 
 
シャワーを浴びて、リビングに戻る。まだ裸足のまま、スタスタと歩く。
日差しが窓から入り込んできて、丁度いいくらいに暖かい。冷蔵庫から取り出したオレンジジュースは、今の辻にはもってこいだった。
1人きりで、テレビも付けずにソファへ座る。こんな日はあまりにも久しぶりだったと、今頃辻は気付いた。
休みの日は友人達と遊びに行くことがしょっちゅうだったし、今日のように約束がなければ昼まで寝ているタイプだったから、朝早くに目覚め、何にも縛られない日なんて久しぶりすぎたのだった。
 
 
「今日一日、何しよっかなぁ」
 
 
こんなことを言ってても、実際なにもする気がないのだ。なぜなら今日みたいな日は1人でゆっくり日頃の疲れを取ってみたい、辻にだってそう感じるようになってきたのだ。まだまだ子どもだと思っていたけれど、いつまでも子どものままではいられないらしい。
 
 
―ピンポーン―
 
 
チャイムが鳴った。出る気がしない。だって今まで自由すぎたのだ。急に何かに縛られるのはゴメンだ、と辻は強く感じていたのだ。例えそれが宅急便でも新聞の勧誘でも関係ないのだ。とにかくイヤなものはイヤなのだ。
 
 
140 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:44
 
 
「のんー?おらへんのー?」
 
 
突然訪れたのは加護だったのだ。普通なら突然の来客には、親友でもビックリするだろうと思うのだが、辻は顔色変えずに玄関へと向かい鍵をあけたのだった。
 
 
―ガチャ、…ギィ…―
 
 
「あいぼん、おはよ」
「なんや、おるんやないかい」
 
 
挨拶もそこそこにして、2人は自然にリビングへと向かう。辻がまたチラ見した時計は12時になるちょっと前くらいをさしていた。気付いてしまえば止まらない。そう、辻はお腹がすいたのだった。
冷蔵庫へ向かう。材料を出す。加護がその材料を見る。辻が何を作ろうとしているのかが手に取るように分かった。
 
 
「のん、ハンバーグ食べたいんか?」
「うん。そう」
「じゃあ、ウチが下ごしらえしといたるわ」
 
 
辻が材料をだす。その材料を使って加護が下ごしらえをする。玉葱が目に沁みて涙が出てくる。辻がティッシュを持ってきてくれた。ボールに材料を入れてこねる。形をつくる。ハートを作ろうと苦戦してみたり、星を作りたくても角が難しかったりして、結局普通のハンバーグを焼くことにした。
 
 
141 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:45
 
 
「あいぼん、危ないよ。油が跳ねるから」
「のんも気ぃつけや、ヤケドしたらあかんからな」
 
 
料理が上手い2人にはハンバーグなんてものは簡単だった。出来上がったのを皿に移して、ご飯とお味噌汁をよそって、いただきますをしてから食べた。とても美味しかったのだ。
辻が食べ終わった皿を洗って、加護がそれをキレイに拭いて片付ける。
そのあとは、ソファに座ってまたくつろいでいる。それでもテレビは付いていない。
ふと、雑誌をよんでいる加護を辻はなんとなく見た。加護は自然体でいると感じた。では自分はどうなんだろうと問いかけてみた。朝に1人でシャワーを浴びて、ソファでくつろいでいるときに感じた自由はいまだ辻の周りにあるのだ。
誰かいれば、どんな親友だとしても多少の自由は失われる。そしてどんなに少なくても気を遣うことくらい、辻にだって分かることなのだ。
でも辻はなぜ加護に今日ここへ来たのか、聞かなかった。なぜならそれは辻には関係のないことだったから。
加護も辻に今日の予定など聞かなかったのだ。多分きっと加護も関係ないことだと思っている。
かといってお互いの距離が遠いわけでもない。でも近すぎるわけでもないのだ。
2人の中で、丁度いい距離なんだと辻は思った。
 
 
「なんや、のん。ウチの顔になんかついとる?」
「…?なんにもついてないよ」
「さっきから見てくるやろ?気になんねんて」
「あぁ、それは…」
 
 
辻は加護に説明をした。朝早くに目覚めて、1人で家にいることにすごく自由を感じたこと。急にチャイムが鳴ったからこの自由を奪われたくなくて、加護の声が聞こえるまで無視していたこと。ご飯を食べ終わってからふと気付いて思い返してみたけど、加護がきてからも辻にはまだ自由があるということ。
 
 
142 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:45
 
 
「何が言いたいん?」
「だーかーらぁっ!他の人にはちょっとくらい気ぃ遣うじゃん?」
「そりゃそーやで。人間関係やからな」
「でもあいぼんにはそーゆーのが一切なしでいられるってこと」
「うちものんにはそーやで。そーゆーのなんて言うか知っとる?」
「…知らない…」
「そーゆーのを『共存』って言うんやで、のん」
「何ソレ?どーゆー意味?」
「二つ以上のものが一緒に生存したり存在したりすること。らしいで」
「えっ!?でもそんなのって当たり前のことでのんとあいぼんだけってワケじゃないじゃん」
「そーじゃないねんて。お互いがお互いの邪魔をせんってことやとウチは思うんや」
 
 
辻は考えた。加護の言葉は難しいようで、簡単にも思えたのだった。
他の友人達と加護を比べてみた。よくないことだとは分かっていても、比べてみた。
自然体の辻の前には必ず自然体の加護がいる。2人きりでいてもお互いの自然体が崩れることはない。かといって他の友人達に接するときには、自然体の辻はどこかに隠れてる気がした。年上には過剰に甘えてみたり、年下にはお姉さんらしくみせるようにしたりしている自分がいたのだ。
素のまま、ありのまま、本当の辻希美を出せるときには必ず傍に、加護がいたのだ。でも加護は辻に邪魔をしない。
加護が自然体のときと、そうじゃないときとの区別を辻は知っていた。だから多分、加護も辻の前でしか本当の姿を出せないんだと気付いた。でも辻は加護の邪魔をしていない、と思うのだ。
つまりはさっきの加護の言葉のとおり、お互いがお互いの邪魔をしないってこと。
 
 
143 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:45
 
 
雑誌に飽きた加護は、またキッチンへと向かっていく。材料を出し始めた。何かを作る気なのだろう。
加護の傍にいくと、どうやらクッキーを作ろうとしているらしい。
手伝うという気はしないけれど、辻もクッキーが食べたくなったのだ。
 
 
「あいぼん、バター取って」
「のん、ほれ。バターやで。牛乳も置いとくで」
 
 
クッキーの生地に型を作って、オーブンで焼いてる間にチラ見した時計は、丁度3時を指していた。
 
 
 
 
144 名前:かつおぶし(ダシ専門) 投稿日:2007/02/08(木) 13:46
 
 
 
 
おしまいっ
 
 
 
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 11:52
二人の関係がいいですね。
146 名前:The second coming of 2001 投稿日:2007/02/19(月) 01:55

「お、あやや」

松浦さん。亜弥ちゃん。松浦。
身近な所では最近あまり聞かれなくなった懐かしいその愛称に顔を上げる。

「・・・よっすぃ」

大して真面目に読んでいなかった雑誌から目を離すとそこにはよっすぃがいた。
目が合うとニヤッと笑って「隣、いい?」と私が腰掛けているソファを指差した。
頷いて了承を示すと「サンキュ」と歌うように呟き、ふわりと腰を下ろした。

・・・隣、って言ったくせに。

私とよっすぃの間には人一人分位の間がある。なんだよ。
よっすぃは全く何も気にしていないみたいに、片手に紙のコップを持って両方の耳からイヤフォンのコードを垂らしてる。
目を閉じているその横顔はとても綺麗。
その空間を壊すのが嫌で、私はよっすぃから視線を逸らして再び雑誌に目を落とした。

テレビ局、楽屋へと続く通路の一角。自販機とソファと観葉植物。
幾つかあるソファの内の一つに少し距離を置いて座る二人は無言。
誰もいない、私とよっすぃだけ。誰もいないし、誰も、私達も喋らない。
傍から見ればとても滑稽な画かも知れない。
けれど、私にとってはとても居心地の良い空間だった。
147 名前:The second coming of 2001 投稿日:2007/02/19(月) 01:56

「あのさ」

居心地の良い、とても穏やかな空間にふわりと声が落ちてきて、私は顔を上げて横を向いた。
よっすぃが持っていた筈の紙コップはいつの間にかなくなっていて、今、その両手は膝の上で軽く組まれている。
イヤフォンも外されていて、だけどその瞳は正面を向いたまま私を見ない。

「なに?」

私が言うとよっすぃは「う〜ん・・・」と小さく唸って、少し考えるようにしてからこっちを向いた。

「一人になるって、どんな感じだろう」

「・・・分かんないよ、だって私は最初から一人だったもん」

「あー・・・、そっか」

私が笑いながら言うと、よっすぃは申し訳なさそうな笑みを浮かべて頭を掻いた。
何故かその仕草が可笑しくて、私は笑ってしまった。

「なんだよ笑うなよ」

「あは、だって。・・・一人になるのが怖いの?」

からかう様にして、下からよっすぃを覗き込むと「別に怖くなんかねーよ」とぶっきら棒に言葉を吐いて、よっすぃは顔を背けてしまった。
「またまた強がっちゃってぇ〜」と更にからかうとよっすぃは頭をガシガシと掻き毟って項垂れてしまった。
ちょっと言い過ぎちゃったかな?
148 名前:The second coming of 2001 投稿日:2007/02/19(月) 01:57

「・・・まぁ、ぶっちゃけ怖くないってのは嘘だよ」

暫くしてよっすぃは何かを吐き出すように溜息をつき、顔を上げ、高い天井を睨んで小さな声で言った。
私は何も言わずに言葉の続きを待った。よっすぃの白い喉がコクンと、小さく動く。

「あたしってさ、昔からずっと集団の中にいたんだよね。娘になる前だってそうだった。
ずーっと沢山の人達の中にいたから、だから一人になるって、どーなんだろうと思って。
・・・つーことでソロの大先輩である松浦さんに意見を聞きたかったわけですよ」

「・・・何だそれ」

よっすぃは私に向かって二カッと笑ってきたので、私も笑い返した。

「んで、実際のところどーなのよ」

急に真面目な顔になって、少し身を乗り出してよっすぃは聞いてくる。
どーなのよ、なんて言われてもなぁ。

「うーん、別に怖がる必要はないんじゃない?」

「へ?」

「確かに一人って不安だしさ、怖気づいちゃったりするけど、その、何て言うのかなぁ。
あー・・・、あたしの場合はその、よっすぃがいたから・・・」

「へ?」

「いや、何でもない、何でもないよ。その、大丈夫だよ、よっすぃなら。えーと、アレだ、そう、あたしがいるんだし!」

「・・・お前ワケわかんねーなぁ」

「分かんなくないよ、とりあえず大丈夫なんだって」

「・・・そっか。うん、そーだよな」

私が言いたかった事はきっとほんの少しも言葉にはなっていなかったし、よっすぃには伝わらなかったかも。
だけど私の隣でよっすぃは妙にかしこまった顔をしてうんうん頷いている。大丈夫だよ、よっすぃなら。
私がいるんだし、それによっすぃは皆の人気者だもん。私が一人ぼっちでいた、あの時じゃないんだもん。
きっと、皆が助けてくれるから。
149 名前:The second coming of 2001 投稿日:2007/02/19(月) 01:58

「サンキュな、まつーら」

やがってよっすぃは自分の中で何かしらの整理をつけたのか妙にすっきりサッパリとした顔で笑って腰を上げた。
ああ、いっちゃう。また遠くに。離れていっちゃうよ。
「まつーら」だって。よっすぃにはずっと、「あやや」って、そう呼んでいて欲しかったのに。
少し悲しくて寂しくて、それでもよっすぃにそんな顔は見せられないから笑顔を浮かべて手を振った。
ジーパンの後ろポッケに手を突っ込んで歩くよっすぃの後姿をずっと見ていた。
何故か涙が出そうになって下を向いた。また、離れていっちゃうよ。

「おーい」

よっすぃの声だ。慌てて顔を挙げる。
両手をメガホンみたくして叫んでる。そんなことしなくたって聞こえてるのに。

「あややー、スタッフさんが呼んでるよー」

・・・だから聞こえてるって。
悲しかった、寂しかった気持ちは一気に何処かへ吹き飛んで、代わりに昔の、あの懐かしいほんわかした風が吹いた。
手にしていた雑誌をカバンにしまって腰を上げる。

「待ってよ、よっすぃ」

顔を上げて私は笑った。少し前で、よっすぃも笑っていた。
大丈夫だよ、よっすぃ。
昔の私によっすぃがついていてくれたように、私だってよっすぃの側に居てあげるよ。
一人だからって、怖がることなんてないんだよ。だって私は怖くなんかなかったもん。
だから、大丈夫だよ。側に居てくれてありがとうね、よっすぃ。

よっすぃに追いついて一緒に歩く。
肩を組まれて、その腕の温かさは昔と何一つだって変わってなくて、懐かしくて、嬉しかった。

150 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 01:59
終わり
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 22:59
二人にこんな関係にすごく癒されました
152 名前:"YOPPARAI" my Loving 投稿日:2007/02/24(土) 00:45



『"YOPPARAI" my Loving』


153 名前:"YOPPARAI" my Loving 投稿日:2007/02/24(土) 00:48

「「ねぇ、ほんとに付き合ってんの?」」


今日も定番の居酒屋で、亜弥ちゃんとごっちんのこれまた定番のセリフ。


「ビミョー」

「超ラブラブー!!!」


みきとよっちゃんが同時に言うのも、定番。


「なーんだよ〜つれないなぁミキティー。
 よーし、よしざー今から一気飲みするから!したら惚れなおすでしょ?」

「なおしません」

「よしざーいきまーす!!!」

「聞けよバカ」


付き合ってるよ。
確かに付き合ってるけど、この大型バカ犬はこの上なくうるさい。
酔うとなおさら。

154 名前::"YOPPARAI" my Loving 投稿日:2007/02/24(土) 00:49

「っっぷはぁ〜!!うめぇ〜。
 ねぇねぇミキティ、今日ねぇ、よしざーミキティが好きなの!!」

「とうとう日本語も使いこなせなくなったか酔っ払い」

「んぁ〜わりと普段も危ういねぇ。」

「ミキティすき〜胸が小さくてもすきぃ〜」

「死ね酔っ払い」

「あっはは!よしこ意外と冷静じゃん!!」

「ごっちんそれはどういう意味?」

「へ?あ、いえいえ・・・や、ごめんなさい。」

「ねぇミキティ、よしざーの事すき?ねぇねぇミキティ〜」

 
・・・ったぁ!!うるさい!!!
ワンワンキャンキャンワンワンキャンキャンうるせぇんだよ!!!

155 名前:"YOPPARAI" my Loving 投稿日:2007/02/24(土) 00:52

「しっかしあたしずっと思ってたんだけどさぁ、
たんはなんでまたこんなバカと付き合ってるわけ?
っていうかどこに惚れたの?」

「あ、それごとーも聞きたい!!」

「ぇえ?どこって・・・」


どこだっけ。最初は・・・顔?
で、えーっとそのあとは・・・?


「忘れた。」

「マジ?うわぁ〜よしこ聞いた?
そろそろ母国語くらい使いこなさないとやばいぞぉ。」

「や、ごっちんそこは問題じゃないでしょ。」

「いやそこもポイントではあるけどね。」

「そうなの?ったく、ホントにあんた達大丈夫?」

「なになに?よしざーの噂ぁ?」

「あのねぇ、ミキティがよしこと別れたいって。」

「うわっごっちん脚色!よっすぃ〜また泣いちゃうんじゃない?」


ゲ。よっちゃん泣くと鼻水ぐっしょぐしょで汚いんだよね。
そのまま美貴にひっついてこようとするし。
でも泣くかな・・・。
前にちょろっとそんな事言った時もしばらく泣き止まなくて大変だったし・・・


だけど一瞬きょとんとしたよっちゃんは、
予想に反してまたへらへらと笑いだした。

156 名前:"YOPPARAI" my Loving 投稿日:2007/02/24(土) 00:54

「へへ〜。別れないよ〜。だいじょーぶだいじょーぶ。」

「んあ?なんで?」

「だって昨日もエッチしたもんねぇ〜?」

「っっ?!?!なっ!!バッ!!な、なに言ってっ!!!」

「「・・・わお」」

「もうねぇ〜ちょーかわいいんだよ〜。あのね、チューするとねぇ、目が・・・」

「黙れこの酔っ払いぃぃぃぃぃ!!!」



「・・・なんだ。心配するまでもなかった感じ?」

「ねぇ。よろしくやってんじゃん。」

「ほんとだよ、あほらし。あーあ、あたしも今日は飲もーっと。」

「んぁ、ごとーも。」

「んはは〜。あ、今日もよしざーんち来る〜?それともミキティんち行こうか?」

「・・・・・・っ!!このっ・・・」



あーあ。結局行っちゃうんだろうなぁ、今日も。

悔しいけど、このエロバカ大型犬との恋はみきの力じゃ止めらんない。

どこが好きとかわかんないけど、体が動いちゃうんだから、仕方ない。



愛だ恋だに流される日々。

となりには、お目目がクリクリの大型犬がいればいい。

157 名前:"YOPPARAI" my Loving 投稿日:2007/02/24(土) 00:55
終了
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 00:12
最高
159 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:50

夏が過ぎると当然のように秋が来てそして季節は冬になる。
冬が終われば春になり、そしてまた夏、秋、冬とエンドレス。
ここ日本という国は四季の移り変わりがはっきりしているから、時間の経過を肌で感じやすい。
でも最近はやれ温暖化だの異常気象だのって地球のあちこちがヤバイ感じらしい。
仕事とはいえ横浜でそっち方面の劇や、エコPRをしたあたしとしては心の痛む問題だ。

あたしがいくら寒がりで寒い季節が苦手といっても冬にはやっぱりコートを着たい。
コタツに入ってぬくぬくしたいし、鍋だって美味しくいただきたい。
冬の早朝、しんと静まり返った空気の中を無心で走るのは気持ちいいし、夜は星が綺麗だ。
だから冬は冬であるべきで、寒くあるべきで、寒いときは温めあうべきなんだ。人肌で。
160 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:51

「ね、ミキティ」
「や、ねって言われても。どしたのよっちゃん」
「なんで今年はこんなにあったかいわけ?冬らしくないよ」
「冬にだっていろいろあるんだよ、きっと」
「冬の事情なんて知るか」
「なに怒ってんのさ」
「冬が冬らしくないんだもん…だから抱っこ」
「はぁ?」
「じゃチュー」
「意味わかんないから。まったくわかんない」
「寒いからあっためて」
「寒くないじゃん。暖冬じゃん」
「そこなんだよな、問題は。手だって全然冷たくないし」

彼女の手をとって自分の口許に持っていく。
はぁ〜と息を吐いても白くなんてないし、彼女の手はもともとあったかい。
くすぐったいよなんて笑いながら手を引っ込めようとするから、あたしは溜息をひとつ吐いた。
161 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:51

「なに、よっちゃん。寒さにかこつけてイチャイチャしたいの?」

うん、とあたしは素直に首を縦に振った。

大口を開けて笑う彼女。
両手を叩いて、ついでにあたしの肩もバシバシ叩いて実に楽しそう。
うん、いいね。可愛いね。でも笑いすぎだね。

「あー腹痛い。よっちゃんあんま笑わせないでよ」
「むぅ。んな笑うことないじゃんか」
「だって面白かったんだもん」
「あたしは面白くなんてない!」

笑う彼女を可愛いなぁなんて思いながら見てたことは棚に上げる。
162 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:52

「ごめんごめん。だってさ〜、なんの話かと思ったらそんなこと?って感じで」
「あたしには切実な問題なんですけど。だから熱っちぃ地球を早急に冷まさなきゃ!」
「バカだね〜」
「バカ?あたしバカ?」
「寒くても寒くなくても関係ないじゃん…ほら、おいで?」

彼女はその小さな胸の中にあたしの頭をぎゅっと抱え込んだ。
小さいんだけど柔らかいしあたたかいしそれにとても気持ちいい。
寒くても寒くなくても、たしかに関係なかった。
あたしは腕を伸ばして彼女の体をぎゅうぎゅう抱きしめた。

「苦しい…」
「これくらい我慢して」
「しょーがないなぁ。この甘えんぼよっちゃんめ」
「うっせ」

抱え込まれていた頭を起こして彼女の顔を見た。
あたしめっちゃ愛されちゃってんだろうなぁ。
こんな愛しげな瞳で見つめられたらそんな風に思うのも当然だ。

あたしはそっと彼女の唇にキスをした。
163 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:52

「あ、チューした」
「するよぅ。抱っこの次はチューだもん」
「チューの次は?」
「もっとチュー」

顔じゅういたるところにキスをした。
お返しにいたるところにキスをされた。
柔らかな彼女の唇の感触はとても気持ちいい。
ぷにぷにしていて、しかもゆで卵のようにつるんと滑らかだ。
キスをしているともっともっとと欲しくなる。
ペロっと舌を出すとすぐに絡みついてくる舌も唇と同じくらい好き。

「…もっとチューしちゃった」
「もっともっと、もーっとチューしたいんだけど」
「美貴も」

艶っぽい吐息とともにあたしをじっと見つめる。
喉を鳴らしてその潤んだ瞳をじっと見つめ返した。
発散されない熱が体の中で沸騰している。
熱い。冬だというのに。
これも暖冬のせい?地球が熱っちぃから?
やっぱりヤバイよ、この星。と、それからあたしも。
164 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:53

「どうしよう。美貴のことが好きすぎるんだけど」
「知ってる」
「うわっ、むかつく。でも好き」
「美貴も。美貴もよっちゃんのこと好き」

あたしの好きな唇が素敵な言葉を紡いで、胸のあたりをジンジンさせる。
飽きるなんてことはないけれど、もう何度も似たような言葉を交わしてきた。
だから付き合いはじめの頃の新鮮さなんてものも正直なところない。
でもあたしは変わらず感動してしまう。
好きな人に好きと言われる幸せ。胸に響く感動。美貴の笑顔。
すべてが必然。

「早く帰ろう。早く帰って続きしよ」
「よっちゃんエローい」
「うっせ。ほら」

手を取って足早に歩き出す。目指せ、家。
笑いながら後ろをついてくる美貴の小さな手をぐっと握り締めた。
その手はやっぱり冷たくなんてなかったけど寒くなくったって関係ない。
冷たかったらあたためるし、冷たくなくても離さない。それだけのこと。
165 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:53

温暖化も異常気象も地球にとってはシリアスな問題だ。
地球に暮らすあたしとしても見過ごせないからそれなりに考えてはいる。
ちっちゃいことだけどコンセントをマメに抜いたりなんかしたりね。

けど、あたしの目下の悩みはもうすぐ誕生日を迎えるこの愛しい彼女に何をプレゼントするかってことで。
地球のそれと規模は違うけれどこれがけっこう悩ましい。

もうすぐやってくる22歳のお誕生日。
さて、どうしよう。
何をプレゼントしようかなぁ。
166 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:53

「よっちゃん、タクシーで帰ろうよ」
「え?」
「早く帰りたいから…」
「う、うん!」


とりあえず今プレゼントするべきはあたし自身のよう。
振り返るとちょうど空車のタクシーが向かってくるのが見えた。
その絶妙なタイミングに小躍りしたくなる。
あたしは冬の乾いた空に向かって自由なほうの片手をあげた。


167 名前:熱っちぃ地球の弊害 投稿日:2007/02/25(日) 22:54



168 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 17:03
甘いみきよし最高です
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/26(月) 00:59
Thank you.
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/18(水) 00:31



171 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:31

小春は喋らなくなった。ある日突然。
家族とも、一緒に仕事をする仲間とも、学校の友達とも。
小春はだんまり小春になった。

小春は一緒に仕事をしている仲間、モーニング娘。が大好きだった。
その中でもリーダーをしている吉澤の事が大好きだった。
お父さんみたいで、お母さんみたいで、お姉ちゃんみたいで、大好きだった。
その吉澤がもうすぐ卒業してしまう。モーニング娘。からいなくなる。
それが小春は嫌だった。もう、泣きたくなる位に嫌だった。
だから小春はだんまり小春になった。

藤本がある日怒鳴った。
いい加減何か言ったらどうなの。
私たちとは喋らなくてもいいよ。
でも歌も歌わない、コメントもしない。
アンタはモーニング娘なんだよ。
お給料もらってるんだよ。
仕事くらいちゃんとしてよ。

藤本は吉澤がいなくなった後のリーダーになる事が決まっていた。
だから少し焦っていた。小春がこのままではいけない。
小春がこのままでは、モーニング娘。がいけない。
リーダーになるだとか、そのような事を抜きにしても藤本は小春の事が心配だった。
藤本は吉澤と一緒に小春の事を可愛がっていた。
小春は自分たちには懐いていてくれていると思っていたし、それが藤本には嬉しかった。
それがどうした事か最近の小春は黙ったままで、何も喋ってくれない。
いつも下を向いて、自分たちと少し距離を置いているように感じる。
それが藤本は悲しかったし、少し腹立たしかった。
だから仕事が終わった後、小春だけ残して、怒った。

172 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:32

小春はそれでも黙ったままだった。
藤本が大きな声を出した事に驚いてか、最初に一度肩をビクンと揺らして顔を上げたが、その後また俯いてしまった。
小春は黙ったまま俯いて、何も喋らずにただ立っていた。
藤本は小春が何も言ってくれないので、自分もどうしていいのか分からなくなってしまった。
なので藤本も小春と同じように黙ったままになった。

あれ、何してるの。

そろそろ気まずさも限界だ。
そう藤本が感じ出した頃、ドアが開いてのんびりとした声が聞こえた。吉澤だ。
小春も顔を上げる。だが吉澤の顔を見るとすぐに目を逸らしてしまった。
それに気付いたのか吉澤は困ったように笑う。
よっちゃん。
藤本が声をかける。
吉澤は柔らかく笑って頭を掻いた。
いやー、スゲー静かだったから誰もいないと思ったら二人いるんだもん、ビックリしたよ。
吉澤は何でもないように言ってそのまま部屋を出ようとする。
ちょっと待って。
それを藤本が引き止める。
背を向けたまま頭だけ振り返って吉澤が頭上に?マークを浮かべる。
小春。
藤本の声に小春が大きく反応する。
その様子に吉澤は困ったような表情を浮かべる。
藤本はそんな二人を見て、フンと鼻から短く息を漏らした。
私、トイレ行ってくる。
小春と吉澤を残して藤本は足音大きく部屋を出て行った。

173 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:33

バタン。
ドアの閉まる音が大きく響いてその後静寂が訪れた。
黙ったままの小春と吉澤。最初に動いたのは吉澤だった。
まぁなんだ、立ったままじゃ疲れるし座るか。
吉澤は最近の小春が何も喋ってくれないのを知っていたので独り言のように呟いた。
それでも小春はその吉澤の言葉に小さく頷き、吉澤とは少し距離を置いて椅子に座った。
椅子に座り長く息を吐く吉澤。小春は相変わらず黙ったままだ。
吉澤は上を向いたり左右をチラチラ見たり脚を組んだり崩したり落ち着きがない。
やがて何か諦めたように頭を軽く振ると小さく溜息を吐いて顔を上げた。
その視線の先には俯いたまま小さくなっている小春。

小春。
吉澤の柔らかい呼びかけに小春は恐る恐るといった感じで顔を上げた。
吉澤はやんわりと笑う。
おいで。
腕を広げる。小春の目には動揺が隠し切れない。
吉澤は腕を広げたままただ静かに笑っている。
小春は動けない。
椅子に座ったままそれでも顔だけはしっかりと上げて吉澤を見つめている。
吉澤が動く。
椅子を離れ、歩み寄ってくる。静かに一歩一歩。
小春。
もう一度静かに、囁くように呟いて吉澤は椅子ごと小春を抱きしめた。
小春の目に動揺はもうない。
じわぁっと涙が浮かび、その後小春の視界は吉澤の体に覆われた。
小春。
吉澤が呼びかける。
吉澤さん。
小春は久しぶりに声を出した。

174 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:33

吉澤が椅子に座っている。
その膝の上には小春が座っている。
吉澤の腕は小春の体の前で軽く組まれている。
ぽつぽつと、二人は小さな声で会話する。

小春は吉澤さんの事が好き。
小春は吉澤に体を預けたまま呟くように言う。
知ってるよ。
吉澤は小春の頭の上に軽く顎を乗せて笑みを浮かべる。
お姉ちゃんみたいだし、お母さんだし、お父さんだし。
お父さんって何だ、私コレでも女だよ。
吉澤は小さく笑う。小春もそれにつられて少しだけ笑う。だけどそれは吉澤からは見えない。
吉澤さんはぁ、小春の家族。
小春の体の前で組んでいた腕を解き、小さな頭を撫でる。
だからぁ、小春は吉澤さんが卒業するのが凄く嫌。
小春はそう言って俯く。頭を撫でていた吉澤の腕が止まった。

175 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:34

最近喋ってくれないのはそのせい?
小さな声で吉澤が伺うように聞いた。
小春は小さな頭をコクンと動かす。
何でよ、喋ってくれるくらいいじゃん。
言葉の端に笑いを含めながら吉澤が言う。
お喋りは楽しいけど、楽しい時間ほど早く過ぎちゃうんだもん。
小春は小さな声で、頬を膨らませながら言う。
あーそっか、小春頭良いね。
吉澤は素直に感心する。
歌は何で一緒に歌ってくれないの?私は小春が一緒に歌ってくれなくて寂しいよ?
小春の頭を撫でながら吉澤は優しく問う。
だって、歌を一回歌うごとに、吉澤さんと一緒に歌える回数が減っていくんだもん。
小春は足をブラブラ動かしながら答える。
子供だなぁ。
吉澤は小春の頭を顎で小突いた。
子供じゃないもん。
小春は呟いて吉澤の膝の上から降りた。
小春は子供じゃないもん。
ムキになったように顔を少しだけ赤くして口を尖らせる。
そーゆーところが子供だよ。
吉澤は悪戯っ子の笑みを浮かべた。
すると小春は黙って吉澤を睨みつけたまま、大きな目から静かに涙を零した。

176 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:34

小春?
立ち上がって吉澤が声をかける。
小春は何も言わずにただ黙って吉澤を睨んでいる。
吉澤は頭を掻いて、目の前の小春を見つめた。
子供じゃないもん。
小春は呟いて吉澤に体当たりを食らわせた。
突然の事で受身が取れなかった吉澤は小春諸共床に倒れこむ。
子供じゃないもん子供じゃないもん小春はもう子供なんかじゃないもん。
吉澤の上に跨って小春は目からポロポロ涙を零しながら吉澤の肩をポカポカと殴る。
わかった、わかったよ小春。
吉澤が拳を避けようと腕を出すと小春は殴るのを止め、そのまま吉澤の上に突っ伏して大きな声で泣き出した。


楽屋には小春の泣き声だけが聞こえている。
床に寝転がったまま、吉澤は体の上の小春を静かに撫でている。
その目から一筋の涙が零れた。

177 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:35

小春。
ようやく静かになった部屋に吉澤の小さな声が響いた。
小春は吉澤の胸に顔を押し付けたまま動こうとしない。
ちょっと、体が痛いよ。
吉澤が言うと小春は顔を伏せたまま吉澤の上から退いた。
体を起こして肩を回し、首を鳴らしながら吉澤は胡坐を掻く。その傍らで小春は立っている。
吉澤の目には小春のすらっとした長い足が映る。その脛のあたりをそっと撫でた。
小春。
呟いて吉澤は項垂れた。体育座りの状態で小さくなる。
吉澤さん。
声が聞こえて吉澤の頭を小さな手が撫でた。

小春はもう、子供じゃないです。
頭上高くから落ちてくる声。
知ってるよ。
小さな声で答える吉澤。
だけど、子供でいたいです。
分かってるよ。
俯いたまま答える吉澤。
吉澤さんと、ずっと一緒にいたいです。
それは無理なんだよ、小春。
消えてしまいそうな声。吉澤は今にも泣きだしそうな顔で上を向いた。

見上げた先にいるのは小春。
小春は唇をキツク噛み、目を閉じていた。
立ち上がってそっと抱きしめる。
ずっと一緒には、いられないんだよ。
小春は吉澤の背中をギュッと掴んだ。
ごめんな。
呟く吉澤に小春は体を押し付ける。
ごめんね。
吉澤は小春の頭をそっと撫でた。

178 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:36

二人並んで椅子に座る。
吉澤の右手は小春の両手に弄ばれている。
あたしがいなくなると寂しい?
からかう様に吉澤は小春に聞く。
当たり前。
小春は足をピーンと伸ばしてつま先を見ながら言う。
そっか。
呟く吉澤を小春は横目でチラリと見る。
でもあたしは小春と喋れない方が、歌えない方がもっと寂しいな。
口を尖らせて拗ねた子供のように吉澤は言葉を吐く。
だって。
俯く小春。
あれ?小春はもう子供じゃないんでしょう?
吉澤の言葉に小春は目を大きくして、その後に吉澤を睨む。
小春の視線を痛いほど受けながら吉澤は小春の頭を引き寄せる。

小春は目を閉じる。

吉澤の体温を感じる。

吉澤を感じる。



179 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:37

そろそろいいか。と、藤本が戻ってきた時、部屋に小春の姿はなかった。
吉澤が一人椅子に座って、目を閉じたまま音楽を聴いていた。
よっちゃん。
肩を突くと目を開いて、イヤフォンを外す。
遅かったね、大きい方?
吉澤はニヤニヤ笑う。
小春は?
ニヤケ顔を軽く叩いて吉澤に尋ねる。
さぁ。
吉澤は肩を竦めて立ち上がる。
ちょっと。
腕を掴んで引き寄せる。
小春と、何か話した?
真剣な表情で問う藤本に吉澤はやんわりと笑う。
小春なら大丈夫だよ。
怪訝な顔で藤本は吉澤を伺う。
吉澤は何があったのか嬉しそうにニコニコしている。
その柔らかな表情は何かを語っているようで。でも藤本には読み取れない。
まぁいいか、と藤本は小さく息を吐いた。
さ、帰るべ。
吉澤に促されて楽屋を後にした。
一緒に歩いている途中で吉澤がポツリと言った。
リーダー、次頼んだよ。
藤本の頭の中でその言葉が何度も何度もぐるぐると回った。

180 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:37

小春はだんまり小春を止めた。
小春はもう子供じゃないのだ。
家族とも、仕事の仲間とも、学校の友達とも喋るようになった。
歌も歌うようになった。
その残り回数は確実に減っていってはいるけれど、小春は歌っている時が楽しい。
吉澤と一緒に歌っている。それが小春は嬉しい。
歌い終わると吉澤は頭を撫でてくれる。
皆と喋っていると吉澤は嬉しそうな顔をする。
目が合うと吉澤は笑ってくれる。
だから小春はだんまり小春を止めた。

吉澤さん。
おう、小春。
小春が呼びかけると吉澤はすぐに反応する。
振り返って小春の頭をグシャグシャと撫でる。
わーやめてー。
口ではそう言いながらも小春は笑顔だ。
一頻り小春を弄り倒すと二人は人気のない場所へ移動する。
小春が顔を寄せて小さな声で囁く。
吉澤さん、小春今日も頑張ったよ。
吉澤はうんうんと頷く。
ご褒美は?
首を傾げる小春にそっと顔を寄せる。
人気のない一角で二人は重なる。

181 名前:だんまり小春 投稿日:2007/04/18(水) 00:38

リーダー、次頼んだよ。

藤本の頭の中でぐるぐると回っていた言葉。
そういう事。
藤本はチラリと見えた二人の影に小さく呟いた。


182 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/18(水) 00:38
おわり
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/21(土) 13:02
すごくよかったです。
お話の雰囲気を壊しちゃいそうでうまく言葉にできないけど、
すごくすごくよかったです。
184 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:10




「可愛いねぇ。やっぱりいちーちゃん似かな。」
「ありがとう。ごとーにそう言ってもらえると安心だよ。」
「えー? なに、それ。」


185 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:11

目の前には、私の子を抱いて笑顔のごとー。

急に、会いたいと電話してきたかと思えば、次の日には私の家まで遊びに来る。
ある意味、ごとーらしい。


186 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:11


決して長い間とは言えなかったけど、教育係として当時一番かかわってきた大切な後輩。

だから分かる。

ごとーが急に「会いたい。」と言ってきたことの異常さ。
その割りに、本題を切り出せない不自然さ。

そして・・・・・・
 きっと、私以外の人間には言えなかったであろうこと。

187 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:12

「ごとー?」

「んっー?」

「どうしたの?」

「えっ?いや、なんか別に・・・・」

素直な娘だ、と思う。私に嘘つけないことも分かってるくせに・・・・。

188 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:13

「加護ちゃんのこと、気にしているんだよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「私に嘘つけると思ってるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


どの位、時間が経ったのか、ひょっとしたら数秒だったかもしれないけれども沈黙が流れた。
ごとーが口を開くまで、結構長い時間が流れた気がする。

189 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:14

「いちーちゃん。私、やっぱり教育係に向いてなかったのかな?」

「自分が教育係だったことを気になっていた?」

「私なりに一生懸命だったんだけどね〜。やっぱり何か足りなかったのかな?」

「それが、私に聞きたかったこと?」

「うん。もし教育係が私じゃなくていちーちゃんだったら・・・・・・」


思わず、苦笑いしそうになった。

いつになってもごとーは、私が教育係だったころのごとーと変わっていない。
決して露骨な弱音は吐かない。
そんなごとーの唯一の弱音が、『もしいちーちゃんがあのままメンバーだったら・・・』。


嬉しいけどね。

190 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:16

「ごとー。去年、紺野ちゃんが卒業したときどう思った?」

「えっ?」

「別に試験じゃないんだから、気軽にね。」

「何ていうか・・・・・・・ 寂しかった。けど、カッコいいなって思った。」

「そうだね、いちーもそう思う。」

「いちーちゃん?」

「人ってね、一つ想いがかなうと次の目標忘れちゃうことが多いんだよね。」

「・・・・・・・・・」

「ごとーに憧れていると言った紺野ちゃんは、決して最初の自分の目標を忘れずに精進しているな、って。」

「・・・・・・・・・」


「ごとー、結局成長するかどうかはその人個人なんだよ?」

「・・・・・・・・・」

「教育者の仕事は、成長する気のある人にその道しるべを示すこと。最終的にどんな結論を出すかは教育係の責任じゃないさ。」


静かになった空間の中で、自分の声だけが余韻を残している気がする。



191 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:17



「寝ちゃったね。」
ごとーの膝の上で、私の子供が静かに寝息を立てている。
そりゃそうだ。小難しい話に付き合えるお年じゃない。


192 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:18

「いちーちゃん。いちーちゃんは芸能界やめたこと、後悔してない?」


うつむいていたごとーの口から出た疑問は、きっとずっと私に聞きたかったこと。


「未練がないっていえば嘘になるかな。」

「いちーちゃん?」

「でも、今の私にはこの子がいるからね。この子のために頑張るのがいちーの使命だよ。」

「そう、だよね。」

「なんてったって、親だからね。教育係よりはるかにプレッシャーだよ。」

「あいがとう。」

「ん?」


勝手に自己完結するのもごとーらしい。
そこはきっと詮索しないほうがいい。

193 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:19


「そろそろ帰るね。明日も朝早いし。」

「頑張ってるね。休むときに休むのも仕事だよ。」

「うん、いきなりごめんね。」

「いーよいーよ。久しぶりに会えて嬉しかったし。」


玄関で靴を履いたごとーの背中が少しだけまた大きくなったと感じた。

194 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:20


「ごとー、そのままで聞いて。」

「えっ?」

「いちーは決して自分がいい教育係だったとは思っていない。」

「いちーちゃん?」

「だけど、誰を前にしても誇れる最高の弟子がいます。」

「・・・・・・・・・・・。」


ごとーは、振り向かずそのまま出て行った。
照れくさかったんだろうけど、最後にふにゃりと笑ったのは見逃さなかったよ。

195 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:21



今の私を『いちーちゃん』と呼んでくれるのはきっともうごとーしかいない。
私が自分の一人称を『いちー』というのもごとーの前でだけだろう。



いつまで経ってもごとーは私が教育係だったことを忘れない。
というより、忘れたくないのかもしれない。



196 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:21


ごとーももう二十歳を過ぎた。

歌手として、アイドルとして、女優として・・・・

ごとーに憧れる後輩はきっと後を絶たない。



目標にされるプレッシャーからちょっとだけ逃げたくなったんだろう。

そして、唯一そんなプレッシャーから解放されるのが、きっと私のところ。


197 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:24



頑張ってるね。ごとー。


会いに来てくれて、かーさん嬉しかったよ。


また、ちょっとだけ疲れたらいつでも遊びにおいで。


いちーもまだまだごとー離れ出来そうにないからさ。



198 名前:永遠の教育係 投稿日:2007/04/22(日) 09:24





END





199 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/23(月) 05:57
アキサミョゥ〜ヒャ〜 トウトウトウ
アガイ 最高!胸にジ〜ンときたサー。
二ィフェーデェービル。
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:33
感動しました。かーさんのごとーさんに対する想い、
ごとーさんのぼんさんに対する想い、実際にありそうなお話ですね。
そこに紺ちゃんを持ってくるあたり、ごまこんヲタとしては嬉しい
かぎりです。ごとーさんはずっといちーちゃんを頼りにするものだと…
いちーちゃん、ごとーさん、ぼんさん、紺ちゃんのご多幸をお祈りいたします。
201 名前:ひとり 投稿日:2007/05/14(月) 17:34
『みき…』

よっちゃんの声が好き。
指先に触れる体温が、いつでも美貴を安心させる。


楽屋でひとり。
わいわいがやがや。
半分しか居ないってのに、うるさいくらいの立方体の箱の中で美貴はひとりでいる。

よっちゃんのバカ…
寂しいじゃないか。


頑張ると言ってしまった手前、弱音を吐くのが悔しくて
変なところで負けず嫌いな自分が自分の首をしめてる。

今日は亀ちゃんもいないし、まぎらわす道具がない。

ダメ
ダメダメ

そのまま言葉を発すればいつもの…
いままでの美貴と同じになっちゃう。
202 名前:ひとり 投稿日:2007/05/14(月) 17:36
みきなら大丈夫だよ。
絶対やってける。
でも、つらいときは言うんだよ。
クワガタさんの為ならカブトムシさんはいつでも飛んでいくよ。
ほら、ブンブンって。


溶けちゃいそうな瞳で優しい目で、美貴の前髪を撫でながら
湿っぽくなりすぎないように、よっちゃんはにやりと笑う。


よっちゃん。


今頃休憩中だよなぁ。
頑張ってるんだろうな。
観にいきたかったな。

なんで美貴ここにいるんだろ?

おかしいよね?
愛ちゃんも亀ちゃんも、小春だって行ってるのに。
203 名前:ひとり 投稿日:2007/05/14(月) 17:37
素直になれないから、でもわかっていてくれるから、甘えちゃう。
でも、今はダメだよ。
よっちゃんはそれどころじゃないんだから。
手をひいて貰わなくったって大丈夫なんだから。
ぽつん
ぽつん

美貴のまわりは温度が上がらない。
よっちゃんと別の仕事なんて、今までだっていっぱいあったのに。
なんでこんなにも寂しいんだろう。
なんでこんなにも寒いんだろう。


携帯とにらめっこ。
あ、そろそろ後半戦だ。

やっぱメールだけでもすれば良かったかな。

後悔しつつ楽屋を出た。
204 名前:ひとり 投稿日:2007/05/14(月) 17:38
from:愛ちゃん
sub:ほれぼれ
本文:吉澤さんかっこええよぉ(^o^)
すっごい女の子なのにかっこよかったぁ!!
舞台最高!
泣いてしもたわぁ(>д<)(T_T)



バカ…
ほれぼれってなんだよ。
よっちゃんは美貴のものなんだぞ。
惚れても無駄なんだぞ。


ふんっだ

携帯を投げる。

ガチャン
大きな音に振り返る気配を感じるけど無視。
美貴悪くないもん。
寂しくさせるよっちゃんが悪い。
惚れたなんて愛ちゃんが悪い。
抜け駆けする亀と小春が悪い。
こんな日に仕事を入れるのが悪い。
205 名前:ひとり 投稿日:2007/05/14(月) 17:40
さて、そろそろ帰るかな。
今日は捕まっちゃって帰るの遅いかな。

はぁ…


立ち上がると携帯が震える。


from:カブトムシさん
sub:Re:Re:Re:Re:Re:もうす
本文:緊張したぁぁぁぁぁ
みき終わった?
すぐ帰るからさ、飯食わね?
今日はお母さんに頼んで外泊許可もらいました。
だからゆっくりできるんだ。
ほっとしたらみきの顔見たくてたまんなくなっちゃたよ。





ダメ、
美貴キショイくらいににやけてる。


答えは勿論…





206 名前:ひとり 投稿日:2007/05/14(月) 17:41



おしまい




207 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:55

モーニング娘。卒業、いや脱退。

美貴にとってモーニング娘。ってなんだったのか。

そんなことを考える余裕もないまま、私は会議室に呼び出された。
誰に呼び出されたのか、教えてもらえなかった。


208 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:56


ここから先は一人だ。

そう自分に言い聞かせた。



不思議だ。

もともと一人でやってきたはずなのに。

ソロでやりたい、と思ったことも一度や二度じゃないのに。

209 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:57

改めて一人になった、と実感すると寂しさを通り越して恐怖に近い感情が沸き起こる。


負けてたまるか。



自分を鼓舞しつつ、私は一室のドアをノックした。

返事はない。

構うものか。

ゆっくりとドアノブをひねる。
例え中によっちゃんがいようと、中澤さんがいようと・・・・・・・

これも私が選んだ道。


210 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:58


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


211 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:59


「おう、来たか。」
「ちょっと遅刻かなー。」

 中にいたのは、ちょっと意外な人物。

「なんか表情硬いやよ〜。亀ちゃんのお尻触ってるときみたいな笑顔、笑顔〜」

「ちょっと、もっとましな表現あるでしょ!!!」

おもわず、突っ込んでしまった。

中にいたのはちょっと予想外、美貴の跡を継ぐリーダーとサブリーダー、愛ちゃんとガキさんだった。


212 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:59




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




213 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 00:59

「美貴ちゃんのせいでいきなりリーダーになってしまったがし。」

愛ちゃんは相変わらずストレートだ。
下手に気を遣うとかえって美貴が頑なになってしまうことを本能的に分かっているんだろう。
さすがに罪悪感がないわけじゃない。

「ごめんね。美貴のせいで、こん」
「まぁ、ガキさんがサブやから心配しとらんがし。」

あいかわらず人の話を最後まで聞かない。
だけど、今はそんな愛ちゃんに救われている。


214 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:00

「ほんま、美貴ちゃんはわからんやよ。」

美貴の返事も聞かずに愛ちゃんは話を続ける。
ガキさんは何も言わない。

「モーニングにあこがれていたはずなのに、ソロとして大成功して。それなのに何故かモーニングに入らされて。やっぱり大活躍していたのに、いざリーダーとなった瞬間にやめちゃんうんやから・・・・」

ごめん、と言おうとして声が出なかった。
愛ちゃんはいつの間にか窓の外を見て、美貴の顔を見てくれない。
そして・・・・・・、声が震えている。
215 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:00




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




216 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:01

沈黙が流れた。

愛ちゃんにとってもガキさんにとっても美貴にとっても、きっと短いようでとっても長い時間・・・・



217 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:01





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




218 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:02

静かにガキさんが口を開いた、
「私はもっさんと仕事できてすっごい楽しかった。」

「ガキさん。」

「そりゃ、怖いと思ったこともあったけど。だけどやっぱりもっと一緒にやりたかった。」

「ごめん。」

「わたしだけじゃない。きっと小春やミッツィーもきっとミキティともっと一緒にやりたかったはず」

「ごめん。」

「ミキティはあーしらにとって大切な仲間やざ。だから・・・・・・・・・・」

愛ちゃんの声が泣き声になっている。
もう、美貴は謝ることも出来なかった。

219 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:03

「絶対に自分の夢をあきらめちゃいかんやよ。辛いことがあっても絶対に自分の夢をかなえて幸せになるんやよ。モーニングとかそんなちっちゃなところにこだわらずにミキティの力を発揮するんやよ。中途半端な逃げかたしたら、絶対に許さんがし。」

「・・・・・・・・・」

「美貴ちゃんが加入すると知ったとき、愛ちゃんと紺こんと麻琴と5期みんなで集まって相談したんだよ。自分たちよりも実力があるミキティとどう付き合っていこうかって。でも、誰も心配していなかった。新しい、頼もしい仲間が出来るんだって。」

「・・・・・・・・・」

「これからもきっと美貴ちゃんは自分の実力を発揮して羽ばたいていける。だから・・・・
卒業式なんてないし、きっと美貴ちゃんの卒業祝う機会なんてないと思うけど・・・・」


220 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:04

愛ちゃんがいつの間にか花束を手にとっていた。

「卒業おめでとう。これからも・・・・・・・・・・・・・ミキティらし・・・・・・・・く頑張るん・・・・・・・・・・・・・・やよ・・・・・・・・・・・・・・・」

「ありがとう、愛ちゃん。あとのことは頼んだよ。」

愛ちゃんもガキさんももう美貴の顔をまともに見てくれなかった。

蹲ったまま必死で涙をこらえて・・・・・・

よっちゃんや紺こんや麻琴や保田さんが卒業したときと同じ・・・・
別れを惜しむときの、泣き崩れている愛ちゃん。
必死で笑顔をつくろうとするガキさん。



221 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:04


「ありがとう。本当にごめん。」

美貴はもう、愛ちゃんとガキさんの方を向けなかった。
黙って部屋を出て行くしかなかった。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

背中から涙声が聞こえてきた。


222 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:05




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



223 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:05


きっといつか、メンバーには謝る機会もある。

だけど、きっと今日ほど自分を後悔する日はないだろう。

本当の仲間に別れを告げるこの瞬間。

きっと美貴は一生忘れない。

たった二人で美貴の卒業を祝ってくれた、大切な仲間のことを・・・・・・・



224 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:06




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








225 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:06

「ミキティ、絶対に夢をあきらめたらいかんやよ!!!」

「もっさん、もっさんと一緒にモーニング娘。として歌えたこと、みんな誇りに思っているからね。」





226 名前:卒業式 投稿日:2007/06/02(土) 01:08





END






227 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 02:08
きれいだな
きれいすぎるくらいだ
本当にこうだったらと思わずにはいられない
228 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 20:34
何か読んでて涙出てきたよ…。
素敵な作品ありがとう
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:34



おわりなの原景
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:35

一年の半分以上を雪に閉ざされた色暗い町に、太陽のように明るい女の子がいました。
彼女には、夢がありました。
誰からも好かれて認められる、憧れられるような女の子になりたい。
元々彼女は自分の目指すような女の子だったのですが、傲慢にも、それでは足りなかったのです。
もっともっと愛されようと、そう心に決めたのです。

けれど、小さな町には限界がありました。
外の世界に出て行くにも、限界はありました。
彼女はないものねだりにイライラを募らせ、次第に細く尖っていきました。
彼女は理解されないことで自棄になり、自信を失い荒んでいきました。
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:35

そんな折、招待状が届いたのです。
どこに向かうかもわからず、彼女はそれを掴みました。
232 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:35

それからの彼女が辿った道筋は輝かしいものだったのか、幸福なものだったのか、わかりません。
笑顔に溢れた、明るく楽しいものだったという人もいるかもしれません。
棘棘にささくれ立った、落ち着かないものだったという人もいるかもしれません。
非常に人間らしい、愉悦に満ちたものだったという人もいるかもしれません。
ある一時期を除いて、ほぼ垂れ流しのようなものだったという人もいるかもしれません。
悲劇的で張り詰めた、エロティックなものだったという人もいるかもしれません。
実に安定したつまらないものだったという人もいるかもしれません。
百年経って地球が砕けても、わからないことなのかもしれません。

ただひとつ間違えずにおきたいのは、彼女は夢見た先に向かって進んでいたということです。
事実、彼女はたくさんの声援と尊敬を受け、愛されてもいたのです。
でも決して満たされることはなかった。
決定的に、足りなかった。

どこまで行けば終わりなのか、彼女自身、自分にすら「覚えてない」と嘯き続けて忘れてしまったくらいなので、
最初の意志はどこを到達点にしていたのか、今となってはもうわかりません。
彼女はそれでいいと思っています。
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36

彼女は飽和しきった気だるい熱狂の中で、退屈していました。
それが求めていたものだったはずなのに。
不特定大多数の愛がほしかったはずなのに。

あまりにも退屈しすぎて、自分がいつからそうなってしまったのか、わからなくなってしまいました。
もしかすると、本当は楽しかった時期など一瞬もなかったのではないのだろうか。
そんなことを考えているうちに、見えるもの全てが白けていくような錯覚を覚えました。
それが実感に変わってしまったとき、彼女の何もかもが停止してしまいました。
いる場所に充実がないわけではありませんでしたが、価値を見出せなくなってきたのです。
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36
ほぼ時を同じくして、新しいものを見つけました。
足りなかったものが満たされていくような気がしました。
自分でもよくわかっていなかった穿ちこそが、欠落だったのだと思うようになりました。

そして、これすら今後は無意味に感じるようになるのかもしれない、
彼女はそこまで想像していますが、どうでもいいことだと思っています。
無価値に縛られることなく、今を、無意味になるまで。

そんなことをくり返していくうちに、世界は異物を排除しようとします。
事が終わった後、その状態を維持できないように、彼女もにゅるりと放り出されようとしています。
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36
恋をして変わったり強くなったり成長していく女の子は多いですが、
恋をして美しくなる女の子は、実はほとんどいないのです。
彼女の招待された世界では、洗練ほど忌み嫌われるものはないのです。
圧倒的でどこまでも伸びていくような、純然たるエネルギーを求められているのです。

一度でも曇ってしまえば、二度と晴れることはないのです。
止まない雨がないように、雲ひとつない晴天だって存在しないのです。
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36

彼女の元いた世界には、彼女の残像だけがあります。
本当はまだ存在しているのに、彼女の実像は目に留まらず通り抜けていくのです。

何人かは彼女のことが見えているのかもしれません。
けれど、大多数は彼女の残像だけを見ています。
そしてそれは何度も巻き戻しされ、擦り切れてゆるやかに崩れていくのでした。


237 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 21:36
240 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:26
夜が鳴く、音がする。



携帯の震えに意識を覚醒され、美貴は吊り目を不機嫌そうに開いた。
何度か瞬きをした後強く目を擦って起き上がり、頭を振った。
髪からはシャンプーの香りが解けて転がり落ちた。
好みの硬いベッドに手をかけて携帯を開くと、そろそろ時間だった。


「おい」


美貴は、薄いヴェールを捲り上げ、その向こうのベッドに転がっている女の出っ張った尻を少し強めに叩いた。
美貴の掌に張りの有る感覚と軽い痛み。


「起きろ、時間だし」
「うぅん…」


掠れた甘ったるい声と妙に柔らかくくねる身体は酷く悩ましげでいて、
しかし美貴にとってそれはただその事実だけで、それが美貴の感情を必要以上に揺さぶることはなかった。
ここにいる自分以外、もしかしたら自分も含めて。
特別に強い感情を抱くことは、『仕事』に支障を来す恐れもあった。
いざという時の決断を、そういう感情は鈍らせるから。
それに、間違ってもこの女にはそんな感情抱かない。
自分が普通の生活をしていても、だ。
それはこの女も知っているから別に隠す必要もない。
241 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:27
梨華はとろんとした目のまま、でもどこか強く目を光らせて微笑んだ。


「お早ぉ、美貴ちゃん」
「あ、おはよ」


馬鹿みたいに高い声しやがって。
美貴は頭の片隅でそんなことを考えながらベッドから降りた。
ずり落ちたキャミソールの肩紐をさり気無く持ち上げて、重い頭を軽く揉み解す。
美貴は少し離れた場所に並んでいる二つのベッドへ向かった。


まず、白く長い、美貴も一度抱いたことが歩けどかなり気持ち良い抱き枕に顔を埋めた
さらさらのロングヘアーを軽く揺さぶる。
梨華はいつもそれを見てアタシとは随分態度が違うんだね、と不満げに漏らすけれど
美貴は一瞬たりとも自分の態度を改めようとは思わなかった。
242 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:27
「ごっちん」
「…ー……」


…。
無反応。
真希はこんなんじゃなかなか起きないので一度声をかけるだけ。
別に一番最後に起きても準備が出来るのは皆と同じくらいだから、
真希を早く起こさなければいけない訳ではない。
皆が動き出すと自然に起きるし、一応揺さぶるのは、何というか、
社交辞令とは違うけれど、形式的に習慣づいたものだ。


美貴は、他に三つのベッドとは少し違うそのベッドへ最後に近づいた。
ベッドの材質や大きさが違うのではない。
ベッドを覆うヴェールが、彼女のベッドの周囲には必要以上に厚くかけられていた。
まるで彼女の心のように。


彼女の心、美貴はいつも少し緊張しながらドアをノックする。
柔らかなヴェールを手で持ち上げて中を覗き込むだけなのに。
243 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:28
「…あ、お早う、よっちゃん」
「ん、はよ」


その中を眠りの場所とするひとみは既に起きていた。
薄明かりの中、口に包帯を銜え、手にきつく巻いている。
ちらりと美貴を見て、それからすぐにまた包帯に向き合った。
美貴は空虚な心でヴェールを閉じた。


それはとても美しく絵になる光景なのだけど、心を豊かにするという芸術とは違う。
見たものの心を凍らせんばかりの冷ややかな空間があそこだった。
美貴はそれでも一切干渉はしない。梨華も真希も、そうだ。
244 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:28
四人は四人に干渉はしない。
美貴は基本的にそんなに三人に干渉しようと思ったこともない。
真希はほとんど真に迫った話をしない。そういうい堅苦しいことは聞かなければ、言いもしない。
梨華は他の三人に説教をしたりもするけれど、そんなものは焼け石に水だと本人もわかっている。
ひとみは言わずもがな。必要のない会話すらしない。


けれど、チームプレーの何たるかを一番上手く活用しているのはひとみという皮肉もあった。
ひとみは誰よりも強固に心を閉ざしているのだけれど、誰よりも正確に仕事が出来た。
独りよがりではなく、四人での仕事の仕方を正確に捉えていた。
どの場面で誰が一番役に立つか、どういう風に使えばより有効に使えるかをわかっていた。
それが美貴は不思議だったけれど、きっと語らないだけで三人を一番見ているのだろうとは思っていた。
何だかんだでひとみはきっと、一番誰かと心を通わせたがっているのかもしれない。
それは、きっとひとみにもわからないことだけれど。


真希は、誰よりも柔軟にずば抜けた身体能力でいつも美味しいところを持っていく。
ピンチの時にフォローしてくれるのは真希の場面がとても多い。
けれど時に斑があり、たまに大きなポカをしでかす。
それでも憎めないのがまた真希なのだ。
くっきりとした顔立ちの奥に読めない何かを隠し持つ、それは天才肌だった。
245 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:29
梨華は、弱そうな見た目の割に妙に勘が鋭く野生的で、
それでいてターゲットに接近するにはもってこいの独特の雰囲気、フェロモンを持っていた。
情報を得るために巧みに交渉するのは梨華の役目になることが多い。
『仕事』に対する気持ちも一番強いし、それ故に空回ることもしばしばあるが、
梨華の情熱は何より四人の士気を高める。
梨華がいるからこそ『仕事』を何が何でも成功させようという四人の気持ちは一つになるのだ。


美貴は、身体能力は平均値より少し高めな程度だが頭の回転が驚くほど速く、
梨華が得た情報をもとに戦略を巡らすのが得意で、
予想外の事態に対応出来る冷静な心を持っていた。
身体能力を補って余りある巧みな話術は必要不可欠で、
情報を仕入れる時梨華に指令を出すのは美貴だった。



そうやって、四人は絶妙なバランスで『仕事』を今までただの一度も失敗に終わらせること無く
組織では恐れられている程になった。



今となっては運命で、必然だったのかもしれない。
偶々同じ頃に組織入りしてチームを組むことになったにしては出来過ぎていた。
しかし、これが現実なのだ。
美貴はきっと、このチームが好きだ。
246 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:29
服を着替え、小さなそれを捻じ込んで美貴が顔を上げると、
梨華は華奢な身体にそぐわない大振りのそれにうっとりと目をやっていた。


「うふふ。いつ見ても、綺麗だよねぇー。ふふふっ」
「キショ…」


梨華は美貴を一瞥してから、その大振りなものを分解して鞄に詰めた。


真希はもう出かける用意が出来ていた。
いつ起きたのかも気がつかなかった。


ひとみは美貴が目を覚ましたときにはもうとっくに準備が出来ていたから、
ぼうっと窓辺で外を眺めていた。



「今日は満月だ」



透明な声がぼそっと呟いた。
三人はひとみと同じように窓を見て、その眩しい光に目を細めた。
夜を生きる四人には、それでさえ眩しすぎた。
妙に、虚しくなった。
247 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:30
日の光を浴びてのうのうと生きることに脅えるようになったのは何時からだろう。
同世代の若者のように、夏の光を一杯に浴びてはしゃぐような、
心の余裕がなくなってしまったのは何時からだろう。


でも、四人は四人だったから、その底を知らない恐怖と絶望を生きて来られた。
それが、四人が四人でいる理由でもあった。



『仕事』の先には、お金しか待っていない。
けれど、それぞれ理由は違えど選んだ道だった。


『仕事』の成功には、夢も希望もあったもんじゃない。
何時だって。



四人は絶望だとわかっている道へ真っ直ぐに走り出す。

248 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:30
「さて、時間だ。行こうか」



ひとみは月の光の逆光に美しく影を落として、静かに囁いた。
その顔は、暗くてよくわからなかったけれど、笑っているように見えた。



「うん」
「おっけー」
「行こう」



そして、四人は夜の風となる。
待つのは絶望だけと知りながら。


夜の風は涼しく湿っぽくて、月が照らす四人の影は、夜に美しく映えていたのだった。


ざわざわと。
夜が鳴いている。

  

249 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:30




四人は、殺し屋。


依頼されたターゲットを、誰にも見られないで、確実に息の根を止める。
ただそれだけ。



「今晩は、ご機嫌麗しゅう」
「良い夢を見られていますか」
「願わくば、私たちの手を煩わせることなく、逝きますように」
「生まれ変わる時には、もっと美しい魂に。――――――アーメン」



四人は、今宵貴方の元へ。
貴方が眠りに就いた頃。
貴方が何もわからないまま。
貴方は二度と目覚めない。




四人は、今宵。




貴方のことを殺しに、やってくる。




美しい満月の夜に、美しい風に髪を靡かせて。
美しい四人は、美しい技により貴方を一発で仕留め上げることでしょう。



夜が怖いなんて、泣いたりしないで。



貴方よりも、四人のほうが、夜はきっと、怖いから。




250 名前:いざ、絶望 投稿日:2007/06/07(木) 01:31
終わり
251 名前:名無し飼育さん。 投稿日:2007/06/07(木) 02:55
うわー…圧巻です。トリハダ立ちました。
楽しませて頂きました。
252 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/08(金) 07:13
おもしろかったです
すごく続きが読みたくなる
253 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/08(金) 23:38
綺麗に見えて、現実のバランスも組み込まれてたように思えます。
良い酒気に酔わせてもらいました。
ごちそうさまです。
254 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:35
私の人生を変えるきっかけはなんだったろう。

始まりは中高一貫の同じ女子校に入ったこと。

中等部は、部活動が原則的に強制入部で、5月までに決めなきゃならなくて。出来るだけ何もしたくなかった私は、4月中は見学もせずに帰ってて。
活動が月一であとは自由参加の、読書部とか言うクラブに入るつもりだった。
つもりだったというのは、失敗したってことで。

結局私が入ったのは演劇部。

理由はね、悲しいんだけど。一つ上に藤本先輩というのがいて。
ばりばりヤンキーの、恐い先輩。
入学初日から髪を染めてた私は先輩の目に留まったらしく、
まぁ、いわゆる「シメられた」ってやつ。
先輩の友達が、教室で私を見て、

「顔立ちの派手な子だね〜。あぁいう子が演劇部入ってくれたら助かるんだけど。」

とか言ってたらしくて。
優しい友達思いの藤本先輩がその場で、ついでに私に入部を勧めてくれて。
私の所属が決まった。というか部室のある棟の下まで連れて行かれて、行って来いと。
がっちり脅されてたから行くしかなくて。しぶしぶ行ったら、

「あっ、入部するの?名前とクラス、教えてくれる?」
「後藤です。えっと、B組、だったかな。」
「そっか〜。私は、石川梨華、2年生。今日からはホントに活動してもらうんだけど…
 見学来てなかったよね?いいのかな?」

って。迎えてくれたのは、なんとなく優しそうというか、甘そうな先輩で。
なんとかここでもサボれるかと期待した。
しかし、藤本先輩の友達というのがこの人だと分かって。淡い期待だったなと肩を落としたのはこの直後だった。
255 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:36

学校側の強制に加えて、藤本先輩の強制もあって、
私は演劇部にかなり真面目に参加していた。
私としては、ファッションとして染めてるだけなので、あんなヤンキー全開の先輩と喧嘩するつもりはないし。目を付けられるのも正直、心外だった。

それに演劇部の先輩たちは、私を高く評価してくれていたので、
いきなり主役級の役を任されたり、真剣に演技指導してくれたりで、
それなりに居心地も良かったし。一年生の友達とも上手く行ってたし。
期待されてる感じは悪くなかった。
それだけにサボることも許されなかったけど、一月もすると藤本先輩がらみの事情も理解してくれたみたいで、謝ってくれたし。別に石川先輩は悪くないんだけど、気分は晴れた。
その頃には辞めて読書部に、って気分でもなくなってたから、その後も演劇部を続けた。
発覚したところで藤本先輩は、なかったことにはしてくれなかったし。
256 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:37



257 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:38
その頃の彼女は、ばりばりの体育会系で。確かバスケ部だか、バレー部だか、そんな感じの部に所属してて。
容姿端麗、運動神経抜群となれば女子校の王子様決定なわけで。そういう目立ち方。
私ももちろん知っていたけど、みんなのように放課後練習を見に行ったりしたことはなかった。演劇部が忙しかったから。

といっても、中等部の生徒はみんな部活があるから、
見に行ってるのは主に高等部のお姉さま方。あとサボってるヤンキーとか。
黄色い声援を一身に受ける姿は輝いてたって、うわさで聞いた。
結局、彼女のその姿を見ることは無かったから、うわさ。

でもね、想像できるな。だって、普段から彼女は輝いてたから。

258 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:39

中高一貫なので、3年生になっても部活は引退しない。
3年生の夏休み。高等部で待ってると言い残して先輩たちが抜けたから、
脚本から全て自分たちでやらなきゃならなくて。頭抱えてたら、
石川先輩が現れた。

「あのね、私たちの時代ね、実は秘密兵器がいたのよ。」
「は?」

そんなことを言いながら石川先輩はその秘密兵器に紹介してくれた。

「ねっ、ひとみちゃん。やってくれるんでしょ?約束したじゃない。
 ほら、こちら真希ちゃん、今部長だよね?」
「あ、はい。えー…っと、先輩。秘密兵器って、吉澤さんですか?」

まぁ、私ちゃっかり部長なんかになってたんだけど。人生そんなもんだよね?
それより、状況がまったく飲み込めなかった。

「うん。実はね、去年の脚本アレンジしてくれてたの、ひとみちゃんなの。
 家が隣で、夜に押しかけて、頼んでたの。」
「えっ、でも、吉澤さんの部活は?」

「…怪我。今年はもう出来ない。」

初めて彼女の声を聞いた。アルトの、よく通る声。
なんていうのかな。耳に心地良い音域、なのかな。
上手く表現できないけど、すごく綺麗な声。
石川先輩が言葉を引き継いだ。

「ごめんね。ちょっと愛想悪いんだけど、頭はいいから。いい脚本にしてくれると思うよ。」
「去年の脚本で分かりますよ。」
259 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:39
その前の年、脚本賞をとっていた。石川先輩が受け取っていたが、
彼女に渡されたんだろう。
組み立ての上手さは演じていても感じた。古典をアレンジしたのに、
決め台詞もすごく心にも届くように直されていて。場面の付け加え方も絶妙で。
すごく自信を持てて、やりやすかったのを覚えていた。
ほかにもオリジナルがあったが、それも彼女が書いたらしくて。
見事な台詞回し、テンポ、場面設定に感心したのを思い出した。
彼女の才能は初めて会ったこのときより前に私を感嘆させていた。

「よろしく。吉澤さん。」
「ん。」

あぁ、そうだ。出会ったばかりの彼女って、ホントに無愛想だったっけ。
よく仲良くなれたよねって思う。返事のときも全然目合わなかったし。
徹底的に拒絶されてる感じ?
でもさ、ホントは優しい子だからね、ちょっとずつ。氷が解けてくみたいに。
輝いてるあの目を、向けてくれるようになってった。
でね、一ヵ月後くらいかなぁ。
260 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:40

「ごっちん。」

261 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:40

って。
みんなが呼んでるあだ名だよねって。呼んでもいい?って。
それからは、私も『よしこ』とか呼んで。初めの頃が嘘みたいに、
よしことよく話すようになって。
劇の組み立ては天才的だし、成績もいいから。
多分すごく頭のいい人なんだろうなって感じてたけど、
普段はそんな感じじゃなくて。面白いし、優しいし、
どっちかっていうと子供っぽくてバカっぽい。
そのギャップとかが、よしこの魅力なんだろうなーって思ってた。

高等部に上がったとき。よしこの怪我はすっかりよくなってて。
リハビリも問題なく終わって。
文化祭に、コンクールに、ホントお世話になって。
コンクールでは、おかげで脚本賞連覇に総合優勝までして。
役者のほうでも活躍してもらった。
文化祭なんか、よしこと私で、ロミオとジュリエット。
すんごい評判良かったよ。演劇部のトップと王子様だからね。
高等部の先輩たちも見に来てて、超満員。
ホント、出来る人ってのは、何でも出来るんだねってことで。
ありがとう、じゃあまたスポーツ頑張ってね。って感じだったんだけど。

私は、石川先輩に呼び出された。

場所が随分人気の無い場所だったから。中1の苦い記憶がよみがえって。
また藤本先輩かな、と思いながら覚悟決めてたら、
石川先輩は一人で話し始めた。
262 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:41

「なんて言ったらいいのか分かんないけど。」

そう前置きした石川先輩はやけに真剣な目をしていた。
なんだろ?って、思った。

「ひとみちゃん、ね。すごく繊細で傷つきやすい子なのね。」
「よしこ?う〜ん。だろうね。文も、すごい繊細だもんね。」

よしこの生み出すセリフは、綺麗過ぎて、
セリフは言うというより、紡ぎだすものだと思わされるし、
本質を突きすぎて、傷つけあう場面のセリフは痛みを伴っていて。
だから、石川先輩の言葉にはものすごく納得できた。

「怪我したのもね、うちのお姉ちゃんに振られたからなの。
 心が傷つくとね、ひとみちゃん何にも出来なくなるの、昔から。」

王子様は本当に王子様だったんだよね。お姫様をちゃんと愛してくれるみたい。
まぁ、女子校だったし。スキンシップの域を超えてるようなのは他にもいたから、
あんま気にならなかったんだけど。今思うとすごく特殊な空間だったな。

なんでも出来るよしこは、失恋すると何も出来なくなる、と。
へぇ〜、乙女だねぇ。ぐらいの感じだったね。
だってまだ、石川先輩の意図がまったく見えてこなかったもん。

「それで、集中できなくなって、怪我したんだけど。
 私はね、もうそんな風に傷ついて欲しくないの。ごっちんは、どう?」

よしこの影響で石川先輩も私をあだ名で呼ぶようになってた。
私も敬語使わなくなってたし。
これね、ずるい質問だったんだよね。実はね。
263 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:41

「うん、ごとーも、よしこに傷ついて欲しくないよ?」
「よかった。じゃぁね、約束してね。ひとみちゃんを傷つけたりしないって。」
「もちろん!っていうか、傷つきそうだったら助けてあげたりしちゃうよ。」

って、こんな感じに続けられてね。これ以外に答えよう無いでしょ?
友達が傷ついても平気って、普通言わないでしょ?
石川先輩は約束だからねって、私に念を押しながら、帰っていった。

2,3日後だったかな。
よしことは高等部になってからは同じクラスになってて、
毎日会ってたんだけど、その日はたまたま教室に忘れ物したよしこが戻ってきて、
たまたま教室を出るのが遅くなった私がそこには居て。
どうしたの、いや、そっちこそどうしたの、って。
笑いながら話してたんだけど、よしこが急に深呼吸してね。
それまでと全然違う落ち着いた声で言い始めた。
264 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:42

「うち、ごっちんのこと…好きなんだ。
気持ち悪いかもだけど、どうしても伝えたくて。ごめん。」

嫌じゃなかった。
半分は石川先輩の言葉思い出して、
あっ、先輩はこのことに先に気付いたのか。
って思って、約束の意味を理解してたり。
もう半分は…うん。よしこってね、ホントに顔立ち整ってんの。
時々見惚れちゃうほどで、王子様なのも納得できるぐらい。
それはずっと思ってたから、ちょっと嬉しかったんだよね。
だって王子様に選ばれたんだよ? 私、姫じゃん。
しばらく私が考え込んでたから、教室には沈黙が流れてて。
自分で言ったよしこはさぞ気まずかったことだろうね。
顔が泣きそうだったもん。震えてたし。春だよ?ぽかぽかしてたのに、
よしこは震えてたんだよ?

可愛くてさ、ぎゅうぅぅぅって抱きしめて。
耳元で言ったよ。
265 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:42

「ありがと、ごとーも、大好き。」

約束したしね。
その後は、一緒に演劇部の部室行って。
一緒に次の話考えたり、お互いどこが好きとかって惚気トークしてみたり。
友達は、いちゃつくなら帰れば〜?とか、あたしは気付いてたよ!とか、
よしこ王子に彼女なんてショック…とか。
まぁ、けっこう色んな反応されたけど。
全体的にあったかい雰囲気でさ。よかったよ。

驚かされたのはよしこの反応ね。よしこは部活辞めたんだ。
演劇部じゃなくて、もともとよしこがいた運動部のほう。
そんで、演劇部に入るって。理由を聞いたら、よしこは言った。

「だってごっちんと居るのが一番楽しいから。
 体動かすのは好きだけど、そこにごっちんは居ないから。
 ほかには何もいらない。ごっちんだけ居ればいい。」

私は、このとき気付くべきだった。
よしこの思いの強さと、よしこ自身の弱さに、
気付いてあげなければならなかったんだろう。
266 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:43

よしこの私を最優先する考えは、高校三年間変わる事はなくて。
そのまま三年生になって。文化祭の時期が来た頃。

「今年は何やろっか。」
「ん〜、また古典的なのがいいんじゃない?」

中学のロミオとジュリエットは私たちの初共演作になったし。
誰でも知ってるから、よしこがどうアレンジして、
そこがどんなに素晴らしいか、肌で感じてもらえたから。
私は高校最期の、この学校で演じる最期としてふさわしいと思った。
私がそう言った後、よしこはすごく嬉しそうに言った。

「そだね。梨華ちゃんが、相談してって言ってたから、伝えとくよ。」
「じゃー、またラブストーリーだろうね。」

石川先輩は、某超有名大学に現役合格していて。
大学生というのは暇だとか言って、何かと私たちに構うようになっていた。
ちなみに藤本先輩はすっかり落ち着いちゃって、
専門学校でメイクの勉強をしていた。

「う〜ん、そうだろうけど、うちは、その方がいいな。
何か嬉しいじゃん。みんなにうちらを見てもらえるの。
ごっちんが嫌ならうちらで決める?ラブストーリー以外に。」
「嫌じゃないよ。ちょっと照れくさいなと思って。
 ロミオとジュリエットのときは付き合っても無かったのに、
みんなにそうなんでしょって言われたりさぁ。今度はマジじゃん。」
「え…、うちは…その頃から…好き。だったから…。前も、マジ…かな。」
267 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:43

だそうで。すんごい愛されてたね。
言っとくけどさ、こん時は私もよしこが世界一好きだったよ?
よしこさ、顔真っ赤にして、そっぽ向いて、可愛くない?
始まりは嵌められた感もあったし、女同士だし、不安のほうが大きかったけど、
この頃にはすっかり熟年夫婦で。分かり合ってた感じ?
好きだよとか、愛してるよとか。よく自分からは言ってたくせに、
こうやって不意にそんな話になると顔真っ赤になってた。
普段余裕あって、おどけたり、妙に冷静だったり。
かと思えば、急に子供みたいになったりさぁ、いつもかっこよくて、
たまに可愛いかった。本当に、付き合って良かったと思ってた。

268 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:44

後日、石川先輩のおすすめをよしこが持ってきた。
『カルメン』
今思うと、石川先輩からのメッセージだったのかもしれない。

269 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:44

よしこの脚本も出来上がって、見せてもらったとき。
私は彼女の見た目や性格より、彼女の才能を愛していたのだと感じた。
異なるソースからいくつか抜粋して、そのどれよりも素晴らしい組み立てになっていた。
オペラ、バレエ、原作、さらには原作の日本語訳されてないのまで読んで。
よしこなりのアレンジなんてものではない、『カルメン』の究極体を見たと感じた。

練習も進んで行き、文化祭前日。私とよしこは部室に二人きりだった。

「明日だね。不安?」
「ん〜、あんまり。お祭りだしね、楽しむつもり。」
「そっか。ごっちんさ、ラストシーン、どう思う?」
「え?カルメンの?」
「うん。殺すとか、殺されるとか。」

私は、すごく構えた。よしこは天才だと分かってたから。
あんまバカなこと言えないなって。私なりに演劇論語っちゃわないとって。

「えっと、観客の心象にどれだけ訴えれるかが勝負だよね。」
「あはは、劇のことじゃないよ。そうじゃなくてね、ホントにあったらって話。」
270 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:45

構えすぎて外した。
よしこがこんなことを聞きたかったのは、劇中の二人を私たち二人に重ねていたから。

「私は…殺されたくないかな。
愛する人が別に居るからって殺されるの、ヤだな。」
「そっか…うちは、愛されなくなって・・・、
ほかに気持ちが行っちゃったら・・・殺しちゃうの分かるな。」
「え?」
「そしたら、少なくとも、誰のトコへも行かれないで済む。
・・・・ごっちん・・・愛してる。どこにも行かないで。」

そう言って、よしこはゆっくりと私にキスをした。
私たちの初めてのキスだった。
目を瞑ると、首に手を掛けられる感触がして。
話の内容が内容だっただけに、驚いて目を見開く。
でも全然絞められなくて。また、目を閉じると、よしこの声がした。
271 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:45

「殺したいほど、愛してる。頭おかしくなってるのが分かる・・・。
 ごっちん・・・抱いていい?」

272 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:46

初めて聞いたときよりもっと心地良い声。
よしこは、ホント奥手だったからね。
付き合って三年目で、この日まで手繋ぐだけで喜んでたからね。
驚くほど大事にされてたからね。もういいかなって。

「・・・いいよ。」

その日は満月だった。月は人を狂わせる。
よしこは月の魔力に、私はよしこの魅力に身を任せた。

この日から、よしこは毎日のように私を求めるようになっていった。
私の居ない場所には1秒たりとも居たくないと。
全ての行動を私に判断させるようになった。
よしこの目には、もう私しか映っていなかった。
この頃になって、やっとよしこの弱さに気付いた。
人と関わろうとしないのは、個人主義だからじゃなくて、
人とかかわることで、傷つくのを恐れてたから。
強そうに見えるのは、そういう仮面を被っていたから。
彼女がまっすぐ立てているのは、私に寄りかかっているから。
273 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:47

高校三年の冬。
私は、高校を辞めた。
そして、女優になった。

仕事は順調だった。急に社会に出た私に、よしこといる時間は無かった。

辞めることを、よしこに相談はしなかった。止められると分かっていたから。
もしくはよしこも辞めると言い出しかねないから。
石川先輩に、言った。学校を辞めると。
石川先輩は、言った。今まで、ひとみちゃんをありがとうと。あとは、任せろと。
私の向かっていく道に、よしこが居ると足かせになると、
即座に理解してくれた。私に、愛で大胆になることを躊躇わせ、
束縛で新しい世界への挑戦を阻み、まっすぐな瞳で私を絡めとり、
私にすがり、依存するよしこを。
そして、よしこ自身も変わらなければならないことを。
274 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:47

実は、よしこには内緒で、石川先輩とは頻繁に連絡を取っていて、
よしこの様子を聞いていたりしていた。
辞めて一ヶ月は予想通り。会いに行く、とか、自分も辞めて一緒に居るとか。
石川先輩は、ずっとそれを支えた。大学も行かせた。
よしこはそんな状態だったから、ろくに勉強してなかったくせに。
その一年前、石川先輩が必死で勉強してやっとの思いで入った大学に、
むりやり受験させられ、あっさり合格した。
本人が行きたかったわけではないから、超有名大を蹴ろうとしたり。
もうホントにね、すごかったらしい。
石川先輩も必死だった。なんでそこまでってぐらい。
聞いてみたら、答えは意外なものだった。

「昔ひとみちゃんを振ったの、私なの。
 でも、ごっちんたち見てたら、やっぱひとみちゃんのこと好きかもって。」

お姉さんがどうとか言うのは嘘だったとか。
まったく、女は怖い。
その時はそう思ってたんだけど、一番怖くて、ずるいのは、私。

275 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:48

女優になって6年。今私は、一つの表現の場を得ていた。
有名脚本家の舞台。ここで成功できれば、私のキャリアにプラスになる。
そう約束されている舞台。私は、脚本家と付き合っていた。
彼を愛している。彼は深い知識を持っている。
魅力的で、大人の男性。
私に甘えさせてくれる。
危険な香りも持っていて、恋人としては文句なし。
でも、私の魅力を最大限引き出してくれてはいない。

私は本当にずるい。6年前、石川先輩に全て任せて、
それっきり連絡もしてなかったくせに。
今更よしこの才能を利用しようとしている。
台本のコピーを、石川先輩に渡して、よしこに伝言を頼んだ。
276 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:48

「アドバイスが欲しい。私のマンションに来て。」

277 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:49

ダメ元だった。
よしこは、受け取りはしたものの、返事はしなかったらしい。
今、よしこを待っている。来るか来ないか分からないけど。
来てくれる気がしていた。

Prrrrrr Prrrrrr・・・
非通知だった。芸能人だし、
いつもは相当しつこくない限り、無視してる。
でも、この電話は出ていい気がして。

「はい。」
「・・・下にいる」

それだけ言って切れた。
間違いなくよしこの声。
数分後、よしこがやってきた。

「久しぶり。」
「・・・久しぶり。」

よしこの目からは無邪気さが消えていた。6年も前のことなのに、
今更罪悪感にさいなまれていた。
278 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:49

「昔話、する?」

そう聞くと、よしこは首を横に振った。

「台本、読んだ。どこで悩んでるかも大体、分かった。
 全部書き込んできた。」

差し出された台本を手に取る。
的確に、悩んだ箇所にアドバイスがあった。
罪悪感はより濃くなっていく。

私は、今、一番傷つけた人に、一番の思い出である演劇に関して、
要求をし、彼女はそれに応えてくれていたのだ。
どんな気持ちで書いたろう。どんな気持ちで私の演技の癖を思い出したろう。
 
279 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:49

目が見れない。目を合わせる勇気がない。よしこは、まっすぐに私の目を見ている。

勇気を振り絞って、台本から顔を上げた。

よしこの目には、なにも映っていなかった。
私以外、何も。

280 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:50

今度は、そらせない。あの頃と同じように、絡めとられてしまった。

見詰め合ううちに、よしこの顔がゆっくり近づいてくる。

私の中で何かが燃え上がってくるのを感じる。
私のほうから近づき、キスをする。
あの頃よりずっと、激しいキス。
ベッドに倒れこむ。
281 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:50

息ができない。呼吸したい。離れたくない。苦しい。いけない。欲しい。

282 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:51

「よしこ・・・。」

やっと離れた唇からこぼれた彼女の名前。
彼女は答えない。言葉では。
唇で答えているのに、言葉ではない。

ただ、情欲に身を任せる二人は、あの頃とは確かに変わっていた。

283 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:51

終わった後、よしこはやっと私の名前を呼んでくれた。

「ごっちん・・・。うちのこと、もう愛してない・・・?」

デジャヴ。
よしこはまた、震えていた。
今度は、抱きしめることは出来なかった。

「よしこ、私、彼がいるの。」

よしこは今までよりもっと悲しそうな表情を浮かべ、言った。

284 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:51

「やっぱり、昔話、しよっか・・・」

私は頷き、よしこの言葉を待った。

285 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:52

「ごっちん、居なくなる前。文化祭の前の日に、初めて、その、
 抱いた日。殺したいほど、愛してるって言ったの。覚えてる?」
「・・・うん。覚えてる。」

あぁ、そっか。そうだったな。

「居なくなったとき、ショックだった。でもね、今は、分かってるよ。
 うち、やりすぎてたなって。いや、やりすぎって、毎日してたからじゃないよ?」
「分かってるよ。」

私は中学生か。そんな本気トークで下ネタに勘違いしないよ。

「だよね。ごめん。中学生じゃあるまいし、んなこと思わないよね。」

気ぃ合うなぁ。心の中のツッコミ読まれちゃったみたいじゃん。

286 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:52

「うん。その、依存しすぎてたなって。
梨華ちゃんがね、言ったんだ。ごっちんが学校辞めなくたって、
そんな風に寄りかかってたら、いつかダメになってた。って。
・・・すごい正直に話していい?」
「うん。もちろん。」
287 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:52

「あのね・・・今日、うち、ごっちん殺しにきたんだ。」

288 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:53

沈黙。何も言えない。私は、名前を呼ばれたときから、感じてた。
よしこの、目的を。不思議と、怖くはなかった。

289 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:53

「ごっちん?・・・何か言ってよ」
「・・・何も、言えない。私が、ひどいことした。
 最期に謝らせて。ごめん、よしこ。」
「・・・セリフが違うよ。
殺されたってあなたのものにはならないって、言わないと。」
「は?」

セリフ?高校のときの『カルメン』の話だろうか。
確かに、カルメンはそんなこと言ってたけど。
今よしこの中ではどんなシーンなんだろう。

290 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:54

「うち、考え方、変わったよ。
 今日は本気で殺すつもりだったから、ごっちんのことについては
 変わってないんだなって思ったけど、ホントは変わってたみたい。」
「もう、殺したいほど愛してなかった?」
「愛は、変わってない。形が、変わった。ごっちんに、幸せであって欲しい。
 さっきも言ったでしょ。愛してる。
この先同じ言葉をごっちん以外の人に言えるかどうかは分かんないけど。
いつも、いつまでも、愛してる。
いつか、ごっちんに頼りすぎてたうちを許してくれたら、
うちに、ごっちんを幸せにするチャンスをください。」
 
291 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:54

 私は、本当に何もいえなくて。ただ、涙が止まらなかった。
 目の前に居る、この人と一生一緒にいたいと思った。
 目が虚ろに見えたのは周りではなく、内側を見ていたから。
 よしこ自身と向き合っていたから。その結果、あんなに傷つけた私をまだ愛してると。
 私の幸せを祈ってくれると。
 ん?これって、プロポーズ?
 になるよね。結婚は出来ないけど、よしこなりのプロポーズだよね。
 私の返事は---------------------

292 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:55

 「もうちょっと、見てみないと分かんない。私が確認できるまで、
  ずっと私のこと、愛しててね?」
 
私の配役はカルメンだから。誠実な答えはらしくないじゃない?

293 名前:habanera 投稿日:2007/06/14(木) 01:55








終幕
294 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 10:57
微妙
なんか足んない
295 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 14:47
語りかけ口調じゃない方がよかったかも
296 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 19:59
コマごとの時系列もつながりも何もかもがバラバラで読みくいです
作者さんが何を表現したかったのかもよく分からない

297 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 22:28
え、なんで否定的な意見ばっかりなんですかね。
私は好きです。ていうかむしろよしごまなだけでうれs(ry
298 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 22:39
いつになく、否定的な意見が多くてびっくり。
よしごま、というだけで重箱の隅をつつくような感じになったり?
なんてことはないですよねえ、まさか。

作者殿。
興味深く読ませていただきました。
次回の作品も楽しみにしています。
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 01:36
私はすごく好きです。
話の流れが…。
また、書いてください。
300 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 03:18
私も話の進め方はちょっと微妙かなぁ?とは思いました。
いや、よしごまがどうこうとかは関係なく。w
ま、賛否ともにある意見を今後に生かしてください。
301 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 06:45
読んでてあれ?ってなったけど、何度も読み返すとなるほど
と。パズルのようで面白かったです。お疲れさまです。
302 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:00
「…もものお願い、ひとつ聞く」

楽屋の外の、雨上がりの空の見える窓際のそばのベンチに座って、
桃子はぼんやりと、次のイベントまでの僅かな時間を過ごしていた。

別にメンバーと仲が悪いわけではないのだが、あまり、四六時中ベッタリ、というのはどうにも息苦しくなるときがあって、
それはメンバーも察してくれているのか、余程のことがない限りは、楽屋を出て行く桃子を呼び止めたりしない。

だから今日も、いつものように時間まで適当に潰すつもりだった。

そこに珍しく雅がやってきて、その姿を認めた桃子と目が合うなり、神妙な顔付きで、けれど唐突にそう言った。

「はっ?」

あまりにも唐突だったのと、その言葉の真意が読めず、桃子の声も裏返る。

ベンチに座っていた桃子がさきほど痛めた足を無意識に撫でたとき、
それを見た雅の表情が今度は申し訳なさそうなものに変わって、そこでようやく、彼女の真意が見えた。

同時に、無意識だったとはいえ、自身の軽率さも。
303 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:00
すごろくゲームがメインとなったイベントの最中、予備分も含め、縄跳びが切れてしまう、というアクシデントがあった。
すごろくのマスの指令が『縄跳びで二重跳び』だった雅は、
肝心の縄跳びが切れてしまったせいで出来るはずのものが出来ず、結局モノマネをやる羽目になった。

しかし、それよりも不運なのは、その切れた縄跳びの先が、後方にいた桃子の足に当たってしまったことだ。

盛り上がっている中、変に悲鳴をあげるのは憚られて黙っていたけれど、
さすがにジワジワと痺れるような痛みに堪え切れず、一度ステージから降りてアイシングした。

幸い痣にもならず、ミニライブの頃には痛みも引いた。

気付いたメンバーも少なかったし、あえて自分からは何も言わなかったけれど、
おそらく、マネージャーかスタッフの誰かが雅に伝えたのだろう。

ベンチに座っているせいで更に目線の高い雅を見上げながら、桃子は細く溜め息をついた。

あれは予測不可能なアクシデントであって、決して誰かが悪いワケじゃない。
単に今日の自分がツイてなかっただけだ。
304 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:01
「…さっきのことなら、みーやんが気にすることないよ」
「でも…」

表情と同じくらい申し訳なさそうな声色に、悪いことをした覚えはないのに、雅を困らせている気分になる。

「痛かった…、でしょ?」
「ま、ちょっとはね」
「跡になってるの?」
「ううん。そんなおおげさじゃないし、もう痛くないよ」

と言っても、雅の目の前で撫でてしまったのだから信用はしてもらえないだろう。

桃子は苦笑しながら、普段はわりと尊大なくせに、桃子にしてみれば些細なことを驚くほど気にすることもある雅を眺めた。

唇をへの字にして桃子を見下ろし、桃子の反応を待っている雅に桃子は肩を竦める。

こうなれば「気にするな」というより、彼女の申し出を受けたほうが面倒にならない。
305 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:01
「…じゃ、ちょっとここ座って」

そんな一言で、ぱっ、と雅の表情が明るくなった。

何の迷いもなく桃子の隣に腰を下ろし、若干、桃子に対して前屈みの体勢で次の言葉を待つ。
その幾らか満足気な顔付きに、桃子は少し、意地悪な気分になった。

「あたしがいいって言うまで、目、閉じてて」

そう言うと、さすがに怯んだのか、雅の口元が引き締まる。
けれど文句は言わず、ゆっくりと瞼を伏せた。

しかし、変に緊張させてしまったのか、閉じた目はきつく伏せられていて、更には肩にまでチカラが入っているのが明白で。

桃子が目を閉じろと言い、それに応えたことで既に「お願い」を「ひとつ」叶えている、と言ったら、雅はどんな顔をするだろう?
もっと言えば、座れと言って、隣に腰を降ろした時点で、それ以上は無効になるんじゃないだろうか?

そんなことを考えて、桃子は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
306 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:01
「…そんな緊張しなくても殴ったりしないって」

言いながら肩を撫でてやると、桃子の声色の優しさにホッとしたのか、すーっと肩からチカラが抜けていくのが伝わって。

目を閉じる、というのは、見ている側にはとても無防備に映り、当人にとってはとても心許ない状況を生む。
無防備に瞼を伏せている雅自身の、自分とはまるで違った顔の造形に、桃子は思わず見とれた。

普段は、まるで未だに小学生のような態度や言葉遣いだったりするのに、
雅は時折、びっくりするぐらいオトナっぽい表情を見せることがある。

顔の造りの違いを憂うなんてことは今更で、性格だって育った環境だって全然違う。
だからそのぶん、惹かれていることは否めなくて。

自分の薄いそれとは違う、少し肉厚のある唇が僅かに開かれていることに気付いたとき、
桃子は、まるで誘われるように、その唇に指を近づけていた。
307 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:01
人差し指の先が雅の唇に触れた瞬間だった。

びくん! と雅のカラダが大きく揺れ、閉じられていた瞼が開かれる。
そして桃子も、雅と目が合った瞬間、我に返った。

けれど、雅は目を大きく見開いたまま、身じろぎひとつしなくて。

驚きの表情のまま硬直している雅に、桃子はまた、自分の軽率さを悔いた。
しかし、だからと言ってここで慌てたり言い繕ったりできないのも、桃子で。

触れていた指をそっと引き戻すと、それを合図にしたように、みるみるうちに雅の頬が赤く染まっていく。

「な、なに…?」

その様子で、雅が何故、唇に指が触れたくらいで驚いたのかを悟る。

雅の唇に触れたほうの手で、油断すれば綻んでしまいそうな自身の口元を覆い隠した。
308 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:02
「…みーやんのエッチ」
「なっ!?」
「…キス、したんだと思ったんでしょ?」

桃子の指摘に、雅はますます顔を赤くして。

自他ともに認める耳年増の桃子と違って、雅はそういうことにはかなり奥手だ。
ひょっとしたら最年少の梨沙子より純情かも知れないとさえ思うほどに。

赤面のままで口をぱくぱくさせている雅に、桃子は堪えきれなくなって声を起てて笑った。

「…もも?」

たまらない。
どうしてこう、思ったとおりの、素直な反応を返してくるんだろう。
からかい甲斐がありすぎる。
309 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:02
「ご…、ごめ…。だってみーやん…、顔真っ赤だよ」

からかった、なんて言ったら、きっと憤慨してしまうだろう。
怒った雅もそれはそれで見ものなのだけれど、まだこのあともイベントが控えているから、できれば嫌な雰囲気はつくりたくない。

「だっ、だってももが変なことするから…!」
「だからごめんって。…みーやんがあまりにも…」

そこまで言って、桃子は思わず口を閉ざした。

―――― いま、自分は、何を言おうとした?

反芻して、それがもっと雅を怒らせるような気がして、何より、そんなことを思った自分が信じられなくて、慌てて手で口を覆った。
310 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:02



『綺麗だったから』
311 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:03
「もも?」
「……なんでもないよ」

適当に作り笑いをして、雅から視線を逸らす。

「別に、ホント全然大丈夫だし、気にしなくていいから」

言いながらベンチから立ち上がろうとして、衣装の裾を掴まれて引き戻された。

なにをするんだ、と雅に振り向くと、雅の口元はさっきよりも更にへの字に歪んでいて。

「…みー…」

桃子の声は、いきなり雅が顔を近付けてきたことで中途半端に途切れた。
312 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:03
ほんの一瞬。

それだと認識するより早く、雅は桃子から離れて立ち上がった。

立ち上がって振り向いた雅の顔は赤いままだったけれど、桃子を見つめる瞳には冗談のいろは見えない。
そもそも、雅がふざけてでもこんなことをするなんて有り得ない。

茫然と雅を見上げていた桃子に、雅は何か言いかけて、けれどすぐに思い留まるように唇を噛んだ。

「…みーやん…?」

零れるように漏れた桃子の声に、雅はくるりと背を向ける。

「いっ、今ので、貸し借りナシだから!」

まるで吐き捨てるような声色で言うと、そのまま、雅は目の前の楽屋には戻らず、廊下を走っていった。
313 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:03
雅の姿が見えなくなるまでただ見送るしか出来なかった桃子は、そっと、さっき雅の唇に触れた指で、自身の唇をなぞった。

そこに残るのは、たった一瞬触れただけの柔らかな感触。

雅の、唇の熱。

「……貸し借りナシって、あたしのほうがもっと貸しが出来た感じするんだけど」

これはきっと、今まで桃子が知らなかった、雅の気持ちだろう。
ただ手を繋ぐことだって、素直には出来ない雅だから。

奥手な雅の、おそらく精一杯の虚勢。
そして、きっと、精一杯の、告白。

込み上げてくる笑いを堪えきれず、桃子は口元を抑えたまま、肩を揺らした。
314 名前:pureness 投稿日:2007/06/17(日) 10:04
―――― …はじめてかな。…はじめてだよね、きっと。

「……困ったな…」

声にしながら、ちっとも困ってないと気付く。

それよりも、自分もはじめてだったと、いつ告げればいいだろう。
雅を喜ばせる言葉を、いつ伝えたらいいだろう。

自分から行動を起こしたくせに、恥ずかしがって、きっと雅のほうからは桃子に近寄りもしないだろう。
下手したら、ずっと避けられてしまう可能性だって有り得る。

善は急げというし、と、誰に言うともなく呟いて、桃子はベンチから立ち上がる。
イベント開始予定時間まであと僅か。

「貸しは、ちゃんと返してもらうよ」

綻ぶ口元を隠すこともしないで、桃子は静かに、雅を追いかけた。




《 おわり 》
315 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 10:05
ベリの集い@大阪の合間のお話、って感じで。
ベリカプものは初心者なんで、細かいツッコミは目をつぶってください…
316 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 01:11
初めてベリCPがいいと思った
317 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:00
大通りを5mほど入っただけ。階段を10段ほど降りただけ。で、もう、別世界。

「アンティーク」というよりは正直「草臥れた」に近い、でもそれが重ねた歴史の章として威厳を感じさせる扉は、排他的ではないけれど未熟者が手を掛けることを憚らせる。
意を決して引いてみたら、季節を問わず鐘朧という風情の呼び鈴を鳴らしてそれは、意外なほど軽く開け放たれたのだけれど。
318 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:01
「いらっしゃいませ」
常連にも一見にも変わらぬ柔らかな笑みと穏やかな声色の出迎えが、この顔を認めて目を細め、少しの親しみと他者にはそれとは知れぬであろう色を含めて「いらっしゃい」と繰り返される。
「こんばんは」
こちらも少しの親しみを声に込め、色は視線に含めて返す。
馴れ馴れしさを必要以上に除くのは、他の客の手前と、そして秘密の遊戯と。

「今帰りですか?」
カウンター席の一番右、指定席についた自分の前にコルクに店の名が印刷されたコースターを置きながら尋ねる。
「うん」
「お疲れ様」
「ありがと」
「何にします?」
500種のボトルと900種のカクテルの名が入ったメニューを渡すこともなく訊く。
「今日はご飯がまだだから、いつものは後で。キューバリバーとピザ頂戴」
その気になれば手の届くところにあるメニューに目を通すこともなく答える。
「かしこまりました」
こちらは崩したのに彼女の口調が変わらないのは、遊戯を暫く続けたいかららしい。
いつだって彼女の方がより、お遊びを好む。二人きりの時は更に。
319 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:02
「どうぞ」
コーラ色のロンググラスが置かれる。
「ありがとう」
この香味の蒸留酒をベースとしたカクテルが私には最も好もしいことも、彼女が教えてくれた。

手作りの生地を冷蔵庫から出す。オーダーが出てから刻まれたトッピングを乗せる。
ドリンクを舌で味わいながら、私の晩餐を調える、本人もチャームポイントだという長い指の動きを目で愉しむ。

ピザの焼き上がりと同時にけたたましく鐘を響かせて入ってきた団体の登場に、私はバッグの中から文庫本を取り出す。
320 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:03
「前ここで飲んだのがうまかったんだよねっ!」
店の広さには大き過ぎる酔客の声が響く。
「えっと・・・」
戸惑う彼女の声が耳に入って思わず口元が緩む。

2度目に訪れた時。「何になさいますか?」に。
「この間戴いたのが美味しかったんですけど、名前を思い出せなくて」
「アレキサンダー・ベイビー、ですか?」
「あぁそう! それです!」
「かしこまりました」
「すごいですね! 客のオーダー、全部覚えてるなんて!」
バカルディの蓋を開けながら無言で照れ笑いを向けたのを肯定と受け取ったのだけれど。

「全部覚えてるわけないでしょ。あれはキミのオーダーだったから覚えてたの」と告白されたのは、彼女の部屋に行くようになってから。
321 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:04
「何か作りましょうか?」
ピザとともに空いたグラスを下げながら、まだ遊戯中の彼女が尋ねる。
「じゃあ、いつものを。少し軽めで」
「はい」
「お姉さん! 美人だね! なんて名前?」
私への返事に重なるようにまた響いた大声を「秘密です」と満面の笑みでかわす。
ふふっ。なにこのデジャヴの連続。
この店には少し場違いだけれど、なかなか楽しませてくれるよね、そこの酔っ払ったお兄さん。

「あの・・・」
やっぱり2度目。他には誰もいなくなって彼女と二人。
咲いた世間話の最中、呼び掛けようとして「ママ」という言葉は彼女に相応しくないことに口籠る。
「あの・・・お名前は?」
「めぐみ、です」
ファーストネーム、なんだ。名を知らせ合う際には姓を告げることが慣例の世界にいる自分には新鮮な驚き。
「私は、あゆみ、です」
彼女に倣う。
「あゆみちゃん」
「さん」ではなく「ちゃん」で復誦されたことに胸が一つ、立てた音がきっと、協奏曲の最初の音符。

「本名じゃないかも、って思ったんだけどね」と言って、「源氏名を遣うようなお店じゃないですよ」と苦笑されたのは、彼女とキスを交わしてから。
322 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:05
「ここってカカオリキュールは何使ってるの?」
「ボルス。知らないでしょ?」
「うん、知らない」
「これ」
濃紺のボトルをひょいと取り上げる。
「恋人達の喧嘩を止める力があるんですって」
「喧嘩、してるの?」判ってて訊くけど。
「してないですよ」知ってるよ。
目を合わせて、微笑む。少し、ほんの少し、妖艶。お遊戯は、中断?
323 名前:カクテルバー フーガ 投稿日:2007/06/20(水) 23:06
ほんのりブラウンがかったクリーム色に口をつける。
いつもの、でもいつもより薄いアレキサンダー・ベイビー。
今日はアルコールに酔うつもりはないから。

一口飲んで彼女に告げる。
「明日、休みなの」お察しのこととは思いますが。
「うん」お察しのことですよ、という相槌。

短い遣り取りに込められた意味は、互いだけが知っている。







END
324 名前:名無し飼育 投稿日:2007/06/21(木) 00:42
ゴチっす。
私的な長女のイメージがまさにこーゆー感じですね
325 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 12:49
いい雰囲気
熟成してきてるグループの色そのまんまな感じで良かった
326 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 15:47
すごい大人っぽい雰囲気ですね
村柴ってラブラブ系が多い様ですが、こういうお話も良いですね
327 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 16:46
下戸の村田さんが作るカクテル飲んでみたいね
328 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 16:56
帰りの車中で読んでしまって、ニヤけるのを必死で堪えました。
こんなお酒で酔ってみたいものです。
できたら、このやりとりの気配を感じながら。
美味しいお酒、ご馳走様でした。
329 名前: 投稿日:2007/06/26(火) 04:05


奇妙な女



330 名前: 投稿日:2007/06/26(火) 04:06
彼女と別れた。
奇妙な女だった。
いつも何か言いたげで、でもそれを言った事はなくて、
あたしが何度遅れても、約束の時間に遅れることはなく、
(あたしは途中から半ば意地で遅れて行っていた)
靴は必ず右からはいて、風呂では必ず右腕を最初に洗って、
歩くときはいつも左側で、服はピンクだらけで、い
つもいつも髪からシャンプーの香りをさせていた。
他で嗅いだ事の無い香りだった。
それはとてもいい香りだった。
331 名前: 投稿日:2007/06/26(火) 04:06

あたしからしてみれば、いつもよく分からないしがらみにとりつかれた、変な女だった。
その変な女が、突然あたしの前から姿を消した。
別れたって事になるんだろう。
変な女だったから、別にさみしい事なんてなかった。
涙なんてこれっぽっちも出なくて、逆にあたしは笑ってばかりいた。
笑ってばかりいたら、周りに人が増えた。
いつの間にか新しい彼女もできた。
いつ出来たんだろう。
とにかくそいつは猫のようにあたしの部屋に転がり込んできて、住み着いた。
甘え上手で気まぐれなそいつは、猫のくせにあたしを抱きしめる。
泣いていいよ、泣きなよ、よっちゃん、と繰り返す。
何のことか分からなかった。
なんであたしが泣くの?なんのために?
332 名前: 投稿日:2007/06/26(火) 04:07
だけどある日、美貴からあの香りがした。
彼女の香りだ。
いや、前からその香りはしていたのかもしれない。
あたしが気付かないふりをしていただけなのかもしれない。
しかしそうだとしたら、どうして気付かないふりなんていたんだろう?


考えていたら、涙がこぼれた。あたしの瞳から、梨華のために。



333 名前: 投稿日:2007/06/26(火) 04:07
終了
334 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/27(水) 20:58
( ^▽^)同じ香りはャなのぉ〜♪
335 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:38
つんくさんに呼び出された。
しかもマネージャーさんもなしに1対1。


さて。
何の話か。


狭いミーティングルームをくるりと一周回る。
ふむ。
カメラとかはない、よね?

下座のパイプ椅子を引いて、ゆっくりと腰を下ろす。


GAMコンが終わったところだから、しばらくはソロ専念しないと納得しない人もいるはずだし、
アタシ自身に大きな動きはつけてこないだろう。
少なくともつんくさんから直接発表されるようなことはないはず。
ということは。


――アイツ関連は、ちょっと。

怖いな。
336 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:39
かちゃ


「あ、お疲れ様です」

かたりと椅子を立つ。
相変わらずの金髪が愛想良く手を上げて応える。

「おお、松浦。ツアーお疲れさんやったなあ」
「いえ、十分に楽しませていただきましたから」

つんくさんはアタシの答えに満足そうに笑うと、パイプ椅子にどかりと座った。

「まあ座り。いやー、今回ばかりはホンマに松浦おってくれて助かったわ。ありがとお」

「とんでもないです。あの子のためならなんでもしますよ」


あの子を傷つけるのなら、相手があなたでも許さない。
337 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:40
「ははは。そうゆうてくれたらまた頼みやすいわ」
本気の目で見返すと、つんくさんはアタシをからかうように大げさに手を振った。

「まあ、藤本のことやねんけど」

どくり

一瞬、眇めそうになった目に力を入れて表情を作る。
頼む、か。
なんだろう。

「松浦にも色々あるとは思うねんけどなあ」
つんくさんはにやりと笑って、少し口を閉じた。
「はい・・・」

テーブルに片肘をついてとがったあごをつかむ。
なんだか妙な笑いにアタシは少し肩をひいた。
そんなアタシに満足そうにうなづいて、一言。


  おまえ、藤本と付き合ったって


・・・・・・は?
338 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:41


「ってことなんだって」

さあ寝ようかってベッドに入って、ふと昼間の出来事を思い出した。
話してみると、案の定たんは顔をしかめて見せた。

「何それ?どういうこと?」
「いや、それがアタシもよくわかんなくて聞き流してきちゃったんだよね」

つんくさんはあのあと、『ほんなら、頼んだで』とだけ言い残して即行出て行ってしまった。
アタシも移動時間が迫っていたから深く考える暇もなくて。
結局、そのまま忘れていた。


「付き合うって、どうすんの?そういうウワサ流すってこと?」
「えー?それはやばくない?」
「やばいよねえ」
さすがにそれは無理だろう。
どう叩かれるか、これは見当もつかない。
339 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:41
「じゃあ何?普通にマジで付き合えってこと?」

「付き合うってゆーか、まあ、アンタのこと満足させろってことじゃない?」
「・・・えっとー。松浦さん?」
「なんですか?藤本さん」
思いっきり真顔で顔を突き合わせてやったら、たんもさすがにバツ悪そうに目を逸らした。
ふん。
このアタシがそう簡単に許すと思うなよ。


「亜弥ちゃん、目が怖い・・・」
「そう?やましいいことがあるからそう思うんじゃないの?」
「あのぅ、だからぁ、あれはね・・・」
「うるさい」
そんな甘えた声でごまかせるとか思ってないよね?
さくりと切り捨ててやると、たんは情けない顔で眉を下げる。

はいはい。かわいいかわいい。
許さないけどね。
いつまでも根に持つけどね。
でもさ、やっぱそれで気持ちが変わるほどには、アタシたちも単純ではなくなってきてるからさ。
340 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:42
気づかれないように小さく息をついて。
まだうにゃうにゃと言い訳を繰り返すたんの腰を、自分のほうへ引き寄せる。

「・・・亜弥ちゃん?」
ほっとしたみたいな顔で、至近距離アタシを見つめるたん。
ごつりとおでこをあわせて。

「ま、じゃあ付き合うということで・・・とりあえずしよっか?」
「・・・うん」


んへへ、とだらしなく緩んだたんの唇を、アタシは強引にふさいだ。
341 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:42


「うあー。あっつう・・・」
くたりとベッドに体を沈めたたんの気だるい声。

「そろそろキツイね、季節的に」
その湿った髪の匂いを楽しみながら、アタシの方に余裕が残っているのは、体力の差でも年齢の差でもなく、

単純に上か下かって問題。


「クーラー入れときゃよかったぁ」
「――ちょっと、今から入れないでよ。風邪引くじゃんっ」

手探りでエアコンのリモコンを探り当てたたんの細い腕を慌ててつかむ。
それさえもまだ汗で湿っている。

「えー。暑いー暑いー暑いー」
「シャワーすりゃいいじゃん」
子供みたいにじたばたと騒ぐたんにあきれてため息が出る。
数分前の色気はどこに消えたわけ?

「んじゃ一緒に入ろ?」
「ハイハイ」
342 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:43

ぐしぐしと髪を拭いてやると、気持ちよさそうに目を閉じる。
犬か猫みたいだなって思う。


つんくさんに呼び出されて、アタシがどれだけ真剣に悩んだかとか。
どれくらいの覚悟で付き合うって言葉を使ったかとか。

きっとこいつは何もわかってない。


それでいい。
わからなくていい。
アンタはそんなこと考えなくていいから。

ただ、思うように立てばいい。

アタシがずっと、見ていてやる。
343 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:43
・・・だけど。


「でさ。これって今までと何が違うの?」

ぱちりと目を開いて、こてっと首を傾ける。
邪気のないしぐさ。
こいつは常に真っ白で。
だから、真っ黒だ。


「アナタが浮気しなくなるってことじゃない?」


許しはしないからね。


「・・・・・・ハイ」
344 名前:あやみき 投稿日:2007/07/14(土) 20:44
終わり
345 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/15(日) 22:35
あやみきいい
ミキティいろいろ大変だろうけどあややがいてくれれば大丈夫だろうと思えました。
346 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 22:22
すごい!これすごいです!!
347 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:38








************  姫   ************






348 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:39

「あーもう、疲れたぁ」

そう言いながらよっちゃんはベッドに倒れこんだ
すごく大変だったけど、楽しかった一日
こんな大きなホテルでディナーショーが出来るだなんて、幸せ
しかも大好きなよっちゃんと一緒に・・・

よっちゃんはもうすでに着替えていて、ジャージにTシャツ
先に部屋に戻って着替えたみたい
私はディナーショーの余韻に浸って、そのままの衣装で何だかボーっと座ってた

「もう着替えてるかと思った」
「なんかね、ボーっとしちゃった」
「なぁにを考えてたんだか」

ニヤニヤしながら私を見てるよっちゃん
さっきまであんなに綺麗だったのに、今はおじさんみたい
どうしてお風呂上りに頭にタオルを巻くかな

“フハっ”

いきなり噴出したよっちゃんに、首を傾げる私

349 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:39

「なんでそんな難しい顔してんだよ」
「え?してた?」
「うん、メッチャ考えてる顔してた」

あぁ。よっちゃんのこと考えてたからね
だっていつになっても謎なんだもの

「わたしも着替えよぉっと」

着替え用の服を持ってバスルームで着替えようとすると、
よっちゃんに後ろから抱きしめられた
そして首筋にキス

「んっ」
「チュっ。まだいいよ。このままで居て」

囁くようなよっちゃんの声が、首筋を擽り、私の身体を震わせる

「いや、これ衣装だから早く返さないと」
「別に明日でもいいはずだけど?」
「皺になっちゃう」
「大丈夫。どうせクリーニング出すんだから」

350 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:39

そう言って何度も首にキスをしてくる
優しいよっちゃんのキスに、私も「まぁいっか」って気になっちゃうからダメなのよね

よっちゃんは何も気にせず、流れに任せて首から背中にかけてキスの雨を降らせてくれる
私はそのキスに段々と酔い始めてきた

「ん、あ」
「ちゅっ、ちゅ。今日の衣装・・・・メッチャそそる」
「いや、あ」
「梨華ちゃんてさ、背中綺麗だよね」

キスをするのを止めて私に問いかけてくる

「う〜ん、そう?アリガト」
「今だけあたしだけのもだと思うと、メッチャ嬉しい」

後ろから聞こえた声は凄く可愛らしいものだった
私は愛おしい彼女の顔が見たくなり、身体を反転させてよっちゃんの方を向く
頭にタオルを巻いてオジサンみたいだけど、大好きなよっちゃん
腕をよっちゃんの首に巻きつけてキスをねだる
よっちゃんは「ふっ」っと笑っておでこにキスをしてくれた。でも私は物足りない

351 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:39

「ちーがーうー。んー」
「あぁゴメンゴメン」

そう言って次は閉じている目にキス。そこも私が求めているところじゃない

「ひーちゃん」

「はは」っと笑って今度は鼻のてっぺんにキス。頬にキス。今度こそ・・・・・

「ん、いや」

求めた場所を通り越して、首にキスをされた
私が口を尖らせると、イタズラっ子のように「ニヒっ」と笑うよっちゃん
その顔を見ると何でも許せちゃう、教育上は良くないんだけどね

「んー?梨華ちゃんはどこがいいのかなぁ?」
「もぅ。ほんと意地悪ぅ」
「なぁにがぁ?僕わかーんなーい」

私は我慢できなくて、自らよっちゃんの唇に自分の唇を重ねた

「ん。お?やったな」
「だぁって分かんなかったんでしょ?だからお姉さんが教えてあげたのぉ」

352 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:40

ちょっと悔しそうなよっちゃん。なるべく主導権を握ってたいんだもんね

「お返し」

そう言ってよっちゃんは私の唇を奪う。始めは静かにゆっくりと
口を少し開いて、お互いの唇の柔らかさを確かめ合う。優しく優しく
キスの合間に小さく言葉をかけてくれる

「好きだよ」

って。小さな声でも唇に伝わる振動が私の心も振るわせる

徐々に舌が入ってくる。私はそれを拒むことなく受け入れる
絡み合う舌で愛を確かめる。この人は本当に私を愛しているのか。キスだけで分かる

「あーヤベ」

不意にキスを止めて呟いた。何がヤバイんだろ。虚ろな目でよっちゃんを見る

「その目もヤバイ。というか、衣装が・・・・・誘われてるとしか思えない」

そうよ、誘ってるの。よっちゃんが来るまで着替えなかったのは誘ってたから。
そんなこと言ったらどんな顔するんだろ

353 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:40

「もう我慢できね。ベッドいこ」
「どうしよっかなぁ」
「梨華ちゃんに拒否する権利はありません」
「ちょっ、きゃぁっ」

いきなり抱き上げられた。これが俗に言うお姫様抱っこ。嬉しい

「姫。ベッドまでおつれ致します」
「ふむ、ご苦労」
「なんだよそれぇ。ムードないじゃん」
「なによぉ、お姫様風に言ったのに」
「姫は「ふむ」なんて使いません」

言い合いをしながらもゆっくりとベッドの上におろしてくれる
でもやっぱり我慢できないみたい。すぐに上に乗っかってきた
唇にキスをくれる。それは段々と深くなり、私の頭は麻痺してくる
それだけに夢中になる。よっちゃんに溺れていく

「このドレス。着たままの方が良いかも」
「どうして?」
「乱れ具合とか、なんか興奮しね?」

私はよっちゃんの頭をポカっと叩いた

354 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:41











〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜











355 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:41

事が終わると必ずよっちゃんの腕枕。肩のあたりがベストポジション

「ディナーショー楽しいなぁ」
「ねぇ。お客さんと近いしさ」
「なんか自由にやりすぎちゃったかも」
「ふふ。たまにはいいでしょ?」

「そうだね」ってよっちゃんは柔らかく笑う
今日のお客さんもこの笑顔を見に来たんだろうなぁ
私はこの笑顔に一体どれだけ救われたんだろう・・・・・

「でも姫とかは言い過ぎだったかな」
「あれはねぇ。ちょっと恥ずかしかったかも」
「やっぱり?あの時本当に姫に見えたんだよねぇ」
「だって姫だもん」
「ん?乱れ姫?今日も凄かったなぁ」

ついさっきの出来事をサラッと言ってしまうよっちゃん
そこだけはちょっと治して欲しいなぁ。恥ずかしいじゃない

356 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:41

「もう。そういうこと言わないでよ」
「だって凄かったんだもん。ひーちゃんは正直者ですから」

乱れさせたのは誰よ!と思いながらも、口には出さない
口ではよっちゃんに絶対勝てないから・・・

私から唇を奪う。よっちゃんに被さりながら、気が済むまでキスをする
とっても気持ち良くて、本当に酔ってしまいそう
上から見るよっちゃんもとてもキレイ

「ニヒ」っと笑って私を強く抱きしめてくれた

「あー本当に好きだ。チョー愛してるよ」
「ふふ。ありがと。私も愛してる」

抱きしめあいながら交わす愛の言葉。ここには偽りが一切ない・・・はず・・・
私はよっちゃんを愛している。心から。これからもずっとずっと・・・・・

357 名前: 投稿日:2007/08/18(土) 21:42

「これからも愛をちょうだいね」
「もちろん。こんなに愛をあげたくなる人はいない」

そう言ってまたキスをする。深く深く。お互いを確かめ合うように・・・

「じゃあもう一回愛してあげる」

耳元でそう囁いて、胸やお尻を触ってくる。その間もキスは止めない
きっとこのまま私は抱かれる。それを待っている


「姫。ずっと愛をあげるから、受け取っててね」


                                     END

358 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 08:07
な、なんといしよしフゥンゴフゥガ!ですねー
誰かが書いてくれるの激しく期待してました嬉しい〜〜〜有難う!!!
359 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/22(水) 05:45







『明日があるさ』





360 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:46

長年途絶えていたよっすぃーとの交友。
今じゃ顔合わせても特別話題がなければ言葉を交わす事もない。
でもね、ごとーは。


マネージャーさんが持ってきた歌ドキッの仕事。

「明日があるさ」歌:吉澤ひとみ・後藤真希

「え…」
「ん?どした?なんか間違ってるか?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「んじゃこれデモな。しっかり練習しとけよー」
「はーい」

かふっ、とため息。こりゃ困った。
むむむ…よっすぃーと二人か…楽屋は多分別だけど少なくとも収録の時は二人だよね。
うー何話そう。

ただ昔仲良かった子、ってだけならよかった。
そんなに気負いする事も多分ないんだろうな。
けどさぁ、あたしにとっては違うのよ、よっすぃーは。
361 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:47

あー、とかうー、とか言いながら悩んでるうちにあっという間に本番が来た。

「おはよ、よっすぃー。」

平気なふりして爽やかにあいさつしちゃうあたし。
心臓はバクバクなのにね。

「おはよー。あーごっちん、あのさーここのパートさ、…」

念入りな打ち合わせをしながらも頭の中は目の前の人のことばっかり。

よっすぃーが卒業かぁ。
正直言うと、あたしの中でのモーニング娘。はあたしが卒業した時で止まっててた。
高橋たちには悪いけど。
あたしが抜けて、よっすぃーがちょっと太ってたりした頃。
よっすぃーが太っちゃったのってあたしと圭ちゃんが原因だと思うんだよね。
…なんて、ちょっと自惚れかな?
362 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:47

でも、一番仲のよかった私と心の底では一番頼りにしてた圭ちゃんの卒業。しかもほぼ同時に。
あたし達が卒業したらどこに心を置いていいのかわかんなくなって、食べることで不安を解消しようとしたよっすぃー。
ごめんね。
あたしはといえばあの頃、確かによっすぃーと離れ離れになっちゃうのは寂しかったけど、
ずっと望んでいたソロ一本という形に浮かれてその事ばっかり考えてさ。
よっすぃーには「応援してね!」って言ってばっかり。
よっすぃーが「もちろんだよ」って得意のポーカーフェイスでニコニコするからあたしは勝手に安心しきってたんだよ。
根拠もなしに、よっすぃーとはずーっと仲良しでいられるはずって。

でも違うよね。会えなくても仲良しでいられるほどあたし達大人じゃなかったもんね。
ふざけてじゃれあうことでかろうじてつながってたんだよね。
気づいてたらなぁ。
363 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:48

ソロに慣れれば慣れるほど、娘。のメンバーがいなくても平気になればなるほど、不思議とよっすぃーに会いたい気持ちは膨らんだ。
でもそれはほのかな恋心のせいだと分かってたから、あたしはそれを封印することに決めたの。
そーゆー気持ちって、一歩間違うと全てを台無しにする危ういものじゃない?

疎遠になってくうちによっすぃーはまいちゃんとアヤカさんという親友を作ってみるみる綺麗になって。
私は無言のうちに敗北を言い渡されたような気分だった。
たまに会うよっすぃーはなんだかよそよそしい笑顔しか向けてくれなくなった。
364 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:48

「んでさーここ二人で歌うじゃん?あたしいまいちここの呼吸つかめないんだけど、
ってごっちん?聞いてる?おーい。」
「んあ?あ、ごめん聞いてなかった。」

つい素直に言ってしまったら、男前がニヤニヤしだした。

「うおーい。なんだよー久々の共演だからって緊張してんな?」

はは。変なところ鋭くなったね。

「ブブー。こないだミスムンやったじゃん。」
「あ、そっか。いやでも二人っきりってのは久しぶりってか歌二人は初じゃね?
あー圭ちゃんがOA見たら怒りそーだなー。」
「あっはっは。だねー。先に言い訳しとこっかなぁ。」
「あたしもしとこっかな。もーめんどいなー圭ちゃんってば。」
「んー今の言葉も添えてメールしとくよ。」
「ちょっごっちん、圭ちゃん泣いちゃうから。」
「どうしようかなー?」

一見普通の会話。でもきっとお互い言葉を選んでる。
365 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:49




ねぇよっすぃー。あれから何年もたつけど、あたし、よっすぃーくらい仲良くなれた人なんていないよ。
それと、やっぱしちょっと好きなんだよね、あなたの事。困っちゃうよね。
言うつもりなんてさらさらないから、忘れる方法だけ教えてほしいよ。




366 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:49

考えてみれば、あたしはよっすぃーを闇に引っ張り込んだだけ。
二人でいる時、多分いつもあたしの方がよっすぃーより楽しかった。
それに対してまいちゃんたちはわざわざ闇に入ってまでもよっすぃーの背中を押した。
闇の外から引っ張り出す方が簡単なのに。すごくいい人たち。
そして何よりよっすぃーと一緒に、よっすぃーと同じだけ楽しむ。

敵わない、あたしじゃ。

スタッフさんの「本番お願いしまーす」の声に立ち上がる。
無駄に息ぴったりのあたしたち。
本番も歌は息ぴったり。視線はぎくしゃく。
モニターチェック中に笑っちゃうくらい。
ね、どっちが本物かな?

もちろんそんなこと聞けるはずもなく、よっすぃーとの仕事は完了。
適当に「お疲れ様」なんて言って楽屋へ向かおうとしたんだけど、よっすぃーに呼び止められた。
367 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:50

「あのさー、ごっちん。」
「…んー?」
「…ごっちん、うちらにはさぁ…明日が、あるわけですよ。」
「…へ?」
「ごっちんの夢さぁ、あたしどうしても理解できなかったんだぁ。
納得できなかった。ソロやりたいって夢。納得できないまま、忘れた。
でも今ならわかるよ。卒業してやーっとわかった。
明日があるんだよ、うん。若い僕にも、若い君にも夢はあると。でしょ?」
「う、うん。…明日が、ある。」
「そ。明日がある。」
368 名前:明日があるさ 投稿日:2007/08/22(水) 05:50

それっきりよっすぃーはもう何も言わなかったけど。
あたしにはわかるようなわからないようなだけど。
でも何かが変わったって思っていいんだよね?

戻る事はできないけど、何かが変わった。よっすぃーが変えてくれた。
そうだよね。明日、昨日に戻れるはずないもんね。

あたしの心はひどく晴れやかだった。
窓の外も晴れやかで、あたしはますます上機嫌。
ほのかな恋心も、どこか引っかかっていた気持ちも、
晴れやかな青空に溶かしてしまおうと思った午後だった。

                    END
369 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/22(水) 05:52

いしよしが悔しくて書いたのになんかどうしても暗い。
全然ラブラブしてくれない…なぜだぁぁぁぁぁぁぁ
370 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/23(木) 04:20
こういうよしごまイイ!
371 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/23(木) 05:23
ワカルヨワカルヨー作者さんの気持ち。
リアルいしよしの熱さで溶けちゃいそうな
いしよしごま好きな私です。でも、凄く良かったよー
372 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 21:59


「edge」


373 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 21:59
「あやちゃん」

藤本は松浦の手元を見て苦笑した。

「なにさ」
「何でそれ使ってんの?」

本来ならば顔や眉の毛を剃るために使うはずのもので松浦はなぜか八朔の皮を剥いていた。

「いやー意外に切れ味いいなと思って」

松浦はそういいながらその間じっと自分の手元を見ていた。
音もなく、力もいらずに皮に切れ目が入っていく。
オレンジの皮に隠れきらない部分の刃の端が静かに銀に光る。
刃こぼれも、使った跡もない新品の刃だった。

「何それ」

藤本は松浦の正面に座った。餌をねだる犬のように剥き終わるのを楽しそうに待っている。
一度ちらりとその光景を見て可愛いなと思った。
こんなににこにこしているのは自分の前だけなのを松浦は痛いくらい知っていた。
藤本には中間がほとんどない。不機嫌かご機嫌か、普通にしていても一般人からは不機嫌に見えるらしい。
実際に感情のふり幅は大きく表面にでやすい。
もう少し隠しておけばいいのに正直すぎて、まあそこも可愛いところなんだけど、と誰に惚気るわけでもないけれど松浦は思う。

綺麗に剥き終えて半分を藤本に渡した。皿を出すのが面倒らしく明日の特売品がごちゃごちゃ書いてあるちらしを敷いている。
こういう系の食べ物はどうしても手が汚れやすい。皮を剥いていた松浦の指先は黄色くなり、藤本の指には実から零れた汁がついている。

「食べないならもらっちゃうよ」

考え事をしていたのか呆けていたのか松浦はなかなか食べはじめなかった。
松浦の分に藤本が手を伸ばすと我に返って藤本より先に手をつけた。

「食べますよーだ」
「何かあった?」

374 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:00

心配した表情で覗き込まれて、それが本当に心配そうだったから、松浦は大切に思われていることを実感して嬉しくなる。
わかっていることだけれどはっきりと表現されるのは嬉しいものだ。

「ちょっと疲れたかな」
「ミキも」

事実、松浦は少し疲れていた。もうすぐ二人の新曲が出るから忙しくなってきている。
レコーディング、インタビュー、撮影、ツアーの予定も入っている。
他でもないこの二人で、二人きりでそういったことが出来るのは心から嬉しい。
けれどそのぶん疲れもたまってくるのだった。
嘘はついていない。

片方が話すとき片方は聞きながら食べ、だらだらと雑談していた。
こういうときたいした内容を話さない。ゆるい空気を二人は好んでいた。

「そういえば昨日よっちゃんがさー」

松浦はソロで一人なのに対し、藤本は大人数に囲まれて仕事をしている。
月日が経つにつれて二人でいるときにメンバーの話が多くなってきているのを松浦だけが気づいていた。
その表情の推移も、いつどんなことで誰に腹を立てたとか、どんなことが面白かったとか、悔しいことに藤本が話すから覚えている。
数年前は文句ばかりだったのにいつの間にかメンバーの面白いところや、良かったことを話すようになっていた。
この間まではよそ者みたいな扱いだったのに今度は一番上に立つ者になる。
心配と、嫉妬。
自分でもおかしいなと思っている。
心配するのは当たり前なのに、藤本が取られていくようで嫌だった。
自分を思う気持ちの分量はきっと変わっていないしそれは実感する。
藤本の中でそれ以外のものの比重が増えていくことが耐えられない。
とは、言わない、言えない。それを言うのは友達でも親友でもない。
松浦と藤本は親友以上であっても、名目上は言える関係にはない。
それは歯がゆいけれど、松浦のブレーキにもなっていた。
大切な藤本のために越えたくない一線だった。

八朔を食べ終えて一緒に風呂に入って同じベッドで眠る。
幸せそうに眠る藤本の顔を暗闇の中で松浦はじっと見つめる。

375 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:00




◇◇◇



376 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:00


今日の亀井のスケジュールの予定はこれが最後だった。
それは大体他のメンバーも同じで、藤本も例外ではなかった。
ただ藤本だけが明日一人だけ違うスケジュールとなっているから収録が終わったのに一人だけ打ち合わせのために残されていた。
大人数で自分たちの楽屋に戻る、その最後尾にたまたま亀井はいて静かな声で道重と話していた。
今日の収録には新曲の告知で松浦もいた。
メンバーたちが松浦の楽屋の前を通り過ぎようとしたとき、ドアが小さく開いた。
先頭を歩いていた吉澤が振り返る。

「ミキティならまだ打ち合わせしてるよ」

松浦と言えば藤本という方程式は、今日に限っては違っていた。

「うんありがと」

明るい声で笑って、なんら変わらないように振舞う。
松浦は鋭く目を光らせて目的の人物を探す。
運良くドア側を歩いててくれたから通り過ぎようとしたその腕をぐっと掴んだ。

「亀井ちゃん、ちょっといい?」

申し訳なさそうな顔で見上げる。亀井は珍しいなと思いながらいいですよと引き寄せられるままに楽屋に入ろうとした。

「さゆごめん、先に行ってて」
「ごめんね」

道重も、不思議には思いながらも、疑うことなく集団を追いかけた。
その背中を見届けてゆっくりとドアが閉まる。


松浦はドアを閉めたその手で話を聞かれたくないのか楽屋に鍵をかけた。
亀井は不審に思ったがそれでもまだ疑う気持ちは芽生えなかった。

「急にごめんね」

普段人と接するように話を始める。
距離を縮めすぎず離れさせすぎず、ほとんど話す機会がない亀井もそのおかげで軽くリラックスできた。
松浦はかばんの中をがさごそと漁っている。何か探しているようだった。

「亀井ちゃんにお願いがあるんだ」
「なんですかぁ」

377 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:01

解けた緊張は柔らかい顔を生み出し、亀井はふにゃりと笑った。
松浦が話しかけてくることもお願いをすることも珍しい。
だからそんなに無理難題は頼まれないと思っていた。
そして藤本がらみの何かなんだとも思っていた。
だが後者は正しく、前者は間違っていた。
かばんから探し出したものをみて解けた緊張は一瞬で再び固まる。
鋭く研ぎ澄まされる空気の中で松浦だけが一人へらへらと笑っていた。
その目には狂気が宿り、手には凶器を持っている。
誰にも遠慮せずあるべきように銀色の刃は光り、今にも噛み付きそうだった。
さっきまでは微塵も感じさせなかった異様な雰囲気で亀井の身体も表情も固まりかすかに震えだす。
初めてこんなに人を怖いと、刃物を怖いと思った。
一歩下がった先には鍵のかかったドアがあり、それに触れただけで逃げ場がないと感じた。
ゆらり一歩ずつ近づく松浦に怯えて、体重のほとんどをドアにかけて、涙も忘れてたたずむ。
松浦の影ができてそれでも刃はぎらぎらと牙をむいている。

人一人分が入る隙間を作って松浦は立ち止まった。
お互いの目を見つめて、松浦は笑い、亀井は泣き出しそうだった。
松浦はナイフの刃を持ち柄を亀井に向けた。
その行動に亀井は驚いて目を丸くする。

「これでさ、あたしを刺してくれない?」




◇◇◇
378 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:01


「はい、わかりました。今日はお疲れ様でしたー」

上機嫌で藤本は打ち合わせを終えた。そこに残っているのはスタッフと自分だけで、他のメンバーはもう楽屋に戻っている。
今日の仕事はすべて終えて後は帰るだけだった。今日は藤本の家で松浦とゆったりすごせる。
明日は二人でやる仕事だからばらばらに家を出ることもない。
藤本は自分の楽屋に戻る前に一度松浦の楽屋によるつもりだった。
早く収録を終えた彼女は結構な時間待っている。
他のスタッフたちに挨拶をして早足で松浦の楽屋へ向かう。

今日は何を食べようか、とか、何を話そうか、とか考えて頬が緩む。
だらだらと他愛のない話をするのがこんなにも嬉しいのは相手が松浦のときだけだった。
藤本が松浦に向ける感情は様々で、友情でもあり愛情でもあり、それらは伝えているけれど一つ伝えていないものがある。
もちろん恋愛感情だ。
これだけはこの関係に少しそぐわないような気がして言えない。
恋愛感情の意味を含めた「好き」は一度も言ったことがない。
そんなことをしたら松浦は鋭いから感づいてしまう。
親友のラインを藤本もまた踏み越えようとしなかった。
それでも今が楽しいのだからいいと思っていた。
だから当然今日のこれからを楽しみにしていた。

念のためドアを2回ノックする。どれだけ仲が良くても守る礼儀はある。
しかし返事がないからドアノブを捻ってみると鍵は開いていた。
不思議に思ってドアを開こうとすると誰かにぶつかり上手く開かない。
それでも無理やり押しやってみて、藤本は一瞬声と顔色を失った。

立ちふさがっていたのは亀井で、彼女も真っ青な顔をしていた。
血まみれのナイフを震えながら握り締めていた。
亀井の足元には腹部から血を流して倒れている松浦の姿があった。

「あ、あ、あやちゃん」

がちがちと歯を震わせながら藤本はおぼつかない足取りで松浦に近寄る。
頬に触れると血の気が失せて体温が下がっているのがわかった。
早く助けを呼ぶべきなのに、わかっているのに、身体も頭も働かない。
目の前に急に死の危険を突きつけられて、それが何より大切な人で、失いたくないのに、藤本はもはやパニックで動けなかった。
亀井もまた青い顔と空ろな目で松浦を見つめていた。

379 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:01



「絵里遅いなあ」

そろそろ藤本の打ち合わせも終わる頃だろう。
道重は亀井を待っていた。遊ぶ予定もないけれど一人で楽屋に戻ってくるのは寂しいだろうと思って待っていた。
椅子に座って足をぶらぶらさせたり携帯をいじってみたり、だが一人でやれることは少ない。すぐに飽きてしまった。
亀井と松浦はそんなに接点がない。道重は話をするには少し長すぎるような気がした。
迎えに行ってみようかなとなんとなく思ってゆるゆると廊下を歩いて松浦の楽屋に向かった。



松浦の楽屋のドアは開いており、道重は覗き込んでみた。
そうして見えたのは異様な光景であり、ただ道重は比較的冷静だった。

「藤本さんっ、絵里っ」

二人の名を叫んで近寄り、とりあえずスタッフを呼びに走った。
藤本は我に帰り松浦の肩をゆすった。息はあるようで心臓も動いている。

「あやちゃん、あやちゃん」

仰向けにすると服が真っ赤に染まっており、藤本は泣き出しそうだった。
生きているけれどもしかしたら。血の色が頭を殴り動揺する。
もしかしたら、の先も考えたくなかった。藤本は狂ったように肩をゆするしか出来なかった。

すぐにスタッフが駆けつけ、数分後に救急隊員が来て松浦を連れて行った。どうやら警察は呼ばなかったらしい。
その後吉澤が息を切らせて戻ってきた。 連絡をしたのはスタッフではなく道重だった。
楽屋にへたりこんだ二人を見て、苦いような、悲しそうな顔をしただけで何も言わなかった。
亀井はずっとナイフを握り締め続けていたがスタッフが手を離すよう言うとすぐに手から離した。そのときもまだ顔色は青かった。
スタッフも困惑した表情で亀井を連れて行った。じっと血まみれの両手を見つめていた。
残されたナイフは血で鈍く光り、残された藤本は放心している。

「ミキ」

だらりと下げた腕を吉澤が握ると顔を上げた。

「よっちゃん」

所在をなくした子供のような顔だった。涙が流れてこないほど衝撃が大きかったらしい。
藤本の手も血で汚れていた。服も汚れていた。
吉澤はどうしようもなくて黙って藤本を抱きしめてやった。
藤本はあやちゃんと何度も壊れたように呼び続け、松浦が目を覚ますまでほとんど会話もできない状態になった。

年少メンバーには真相が告げられないまま活動を2、3日休止することになった。それ以降の予定は未定である。
事務所は警察に通報もせず、報道されないように気を払い、何もなかったように振舞っていた。

380 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:02

◇◇◇




あの場にいた誰もが亀井の手に血だらけのナイフがあったのを見ている。亀井も自分が刺したことを否定しなかった。
ハロプロメンバーが所属している事務所の重役人達は面倒なことになったと頭を抱え、脅すように亀井に動機を問い詰める。
亀井のマネージャーはその様子を痛みをこらえるように見ていた。

亀井の目には生気がない。どれだけ怒鳴られようとも諭されようとも責め立てられようとも耳に入っていないようだった。
目の前の机のどこといえない一点を彷徨うように見つめ、ときどき泣きそうに眉をひそめる。
数時間小さな部屋に閉じ込められ何を聞かれてもその調子だったため、お偉いさん方も諦めて大きなため息をつきいったん部屋から出て行った。
マネージャーはそんな亀井に歩み寄って肩を揺する。
ふらふらとしていた視線がマネージャーの顔に移る。
その目が空虚で、痛々しくて、見つめていられないけれど逸らしてはいけなかった。
亀井はマネージャーを認識するとわずかに安心したように微笑んだ。

「何があった?本当に亀井がやったの?」

やっと耳に届いた言葉に亀井は首を静かに縦に振った。
マネージャーは苦しそうに顔を歪めた。

「なにか理由があるの?」

こくり、ともう一度首を縦に振る。

「言ってごらん」

その優しい態度に亀井はこんなことをしても大切にしてくれる人がいるのだと嬉しくなった。
それでも、それでも言えないことが苦しく、悲しかった。

「今は言えません。松浦さんが目が覚めるまでは何も」
「そうか。松浦が起きたら全部話してくれる?」

いつもの笑顔に近い表情で亀井は笑った。
マネージャーは安心して亀井の頭をぐりぐりと撫でた。
そのときドアをノックする音がした。マネージャーはドアを開けた。
少しの隙間から一度覗いて誰か確認し、その人物が亀井にみられないように部屋の外に出る。


「亀井に会わせてください」

静かでありながら、低く強い口調だった。曲げない意志が見えた。

「メンバーでも一応まだ会えないことになってるから」
381 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:02

大人としての判断はそうなっていて、マネージャー自身は会わせてやりたいと思った。
それは今目の前にいる吉澤のためではなく、心細い思いをしている亀井のために。
普段はリーダーは大人であるべきで、今まで吉澤はそうしてきていた。
けれどそれは上と自分のグループを円滑にやっていき、かつメンバーを守るためで、ならば今はメンバーを守るために動くだけだった。
吉澤は亀井を信じている。特別な理由がなくそんなことをする人間ではないし、その特別といえる理由もきっと自分のためではない。
それだけ確かめて、大丈夫だと言ってやれたら十分だった。
松浦のケガはたいしたことがない、明日にでも目が覚めると医者が言っていた。後遺症だって残らない。復帰も早いだろう。
だから安心していいと言いにきた。言わずには帰れない。
この世界に入って大人のエゴをいくらでも見てきて、今回もそれはもう見えていた。
情報が漏れないようにしたのは、亀井と松浦を守るためでもあったが、大事な商品で稼げないと困ると言うのもあるのだろう。
事情をわかっているメンバーはみなそこまで察している。
こうして監禁されている亀井が大人のエゴでひどく責められないはずがないのだ。
吉澤は耐えられなかった。誰も味方してくれないだろう。なら自分が行くしかない。
大人らしくなくてもいい。曲げない芯が吉澤には備わっていた。

「あたしはリーダーです。リーダーでもだめなんですか。あたしじゃなきゃわからないことだってあるんじゃないですか」

吉澤の目を見てマネージャーは意地でもひかないとわかっていたし、ここで戦う気力もなかった。
会わせてやりたかったから誰も来ないことを祈りながらドアを開けた。

「亀井ぃ」

駆け寄って吉澤は亀井を抱きしめた。亀井も吉澤の腰に腕を回す。
幼い子供と父親のような空気に緊張が解ける。
亀井は心底嬉しそうに笑った。正気が戻ったようだった。

「大丈夫?」
「大丈夫とまではいかないですけど丈夫です」

亀井に柔らかさのある笑顔が戻った。吉澤は少しほっとした。
それからわずかに口調に真剣な色を含めた。

「亀井がやったんだよね?」

問い詰めるわけではなく確かめるように。

「はい」
「事情があったの?」
「ありますけど、今は言えません」

その言葉にんー、と吉澤は唸った。

「亀井は、松浦のことを嫌っても恨んでもいない?」

吉澤は透明な瞳で亀井の目を見つめた。
亀井は吉澤の整った顔立ちを再確認した。
どこも歪んでいない。真っ直ぐで、細い輪郭でありながら漂う雰囲気は丸みを帯びている。
亀井から見て、いや、他のメンバーから見ても吉澤の出す空気は違う。
そんな人を目の前に嘘をつく気にはならなかった。というより嘘をつく気はさらさらなかった。

亀井は確かに、吉澤の視線に真っ直ぐ答えて、首を縦に振った。




◇◇◇
382 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:03



しんと静まり返った病室で藤本はじっと寝ている松浦の顔を見ていた。
まるで一つの絵画のようになってしまったかのようにどちらも動かず、松浦は眠り、藤本はずっとその目が開くのを待っていた。
もう何時間もこうしている。松浦の家族は帰ってしまっていた。
急いで駆けつけた家族に医者は、命に別状はありませんし後遺症も残らないでしょう、意識は明日にでも戻るでしょう、と言ったから、
家族はひとまずは安心していったん帰っていった。
藤本だけがその言葉を信じられないように、起きたときに誰かがいるように、この事態自体まだ信じられないような顔で待っていた。
半ば放心状態で思い出すのは血でいっぱいのあの場面だった。
亀井の赤く染まった手に松浦の赤く染まった腹に、青ざめた顔に、血の中から顔を出す鋭い銀色。
一瞬で頭が働かなくなって、叫ぼうにも声が出なくて腰が抜けていた。
予想も出来なかった出来事の第一発見者は自分だった。
一番とか、順位もつけられないほど大切な人が、今にもいなくなってしまう、死を浮かばせる顔色に涙も流れなかった。
そのあとスタッフが駆けつけて事は目の前で目に止まらない速さで片付けられていった。
その一連の流れが頭からこびりついてはなれない。
あの青色が涙を奪っていった。
今は血の気も戻っているその顔は眠っているようであり見慣れたものだった。
こんなに目が覚めてほしいと渇望したのは初めてだった。
藤本は松浦が自分の中でどれだけのウエイトを占めているかはっきりと認識した。

明日目が覚めるといったけれど松浦は、瞼を久しぶりに震わせて、ゆっくりと目を開いた。
その動きは雛鳥が羽を広げる瞬間を思い出させた。
静かな造形物はようやっと生命を取り戻した。

「亜弥ちゃん」

深い眠りから覚めてまどろんだ目が最初に捕らえたのは、自分が望んだとおりの人物であることを、鈍いながらすばやく確認して松浦は笑った。

「たん」

そうして力なく、けれど嬉しそうに。手が動くなら頬に触れていただろう。
体はしばらく自力で動かしていなかったから自分のものでないようだった。起き上がろうにも刺された傷が完治したわけではなく痛みが走る。
痛みで顔をゆがめると藤本はあわてて松浦を止めた。

「ありがと」

大きな音を立てて藤本の中の糸は切れて、この事件がおきてから初めて大きな粒の涙を流した。
すべてのことが悪い夢だったかのように藤本は泣いて松浦の顔を見てから、心から安心して笑った。
温度のある左手をぎゅうと握った。大丈夫と言われているようだった。
その手を自分の額に持っていき、祈りのポーズで両手で強く握り締める。
松浦はなんとか動く指先で前髪を梳いた。その瞳には光が宿っていた。
ドアを開けて入ってきた吉澤はしっかりとその光の色を捕らえた。そして大体の出来事の流れを理解した。

「失礼」
383 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:03

病室の前で待っていた吉澤は中で動きがあったのを見計らって入ってきた。
藤本は真っ赤な目で振り向いて吉澤と確認して元の体勢に戻ろうとする。

「ミキティ」

もう一度吉澤のほうを振り向いた。

「ごめん、松浦と話がしたいから、ちょっとはずして」

頼むというより命令で、今この状態を大切にしたかった藤本は吉澤を睨んだ。

「たーん」

松浦は苦笑いして子供を扱うように藤本を撫でた。
藤本は仕方なく黙って立ち上がり、それでも吉澤が待っていてくれたことを考えるともう一度睨むわけにもいかなくて複雑そうな顔をして出て行った。

「悪いね」

二人きりの室内は声が通りやすい。
吉澤はさっきまで藤本が座っていた椅子に腰を下ろした。
そうして何から話すか一つ考えてから、単刀直入に話題に入った。

「この度はすいませんでした」

座ったまま頭を深々下げて、白い首筋が見える。

「よっちゃんが謝ることじゃない」

松浦はやっぱり苦笑いした。

「あたしはまだリーダーだし、亀井は警察にいるからまだここにこれない」

頭の位置を戻したかと思うとすっとした背筋に針金が通っているかのように真っ直ぐ座る。
本人がそのまま表された座り方だった。

松浦は再び謝ることじゃないと言いそうになって、けれど止めた。
それ以上に吉澤は何か言いたげだった。言いにくそうに髪の毛を一掻きする。

「あのさ」
「何?」

藤本と違って吉澤は盲目じゃない。全部とは言わないまでも何かしら読みっているんだろう。
松浦の声は自分が思ったより鋭い声となって出た。

「ミキティとどんな関係なの?」
384 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:04

手短なようで遠回りな質問だった。最終的に何を聞きたいかは事の発端となった松浦が良くわかっていた。
だからこそ答えは決まったものしか出せない。
松浦は吉澤に何か隠すつもりはなかった。吉澤だけじゃない、藤本も亀井も、ハローのメンバーなら誰でも隠すことはなかった。

「一番の親友だよ」

言葉にして一番むなしさを感じるのは松浦だった。
この喜劇と悲劇を引き起こすには、言葉で表した関係では足りなすぎる。
そしてあまりにも爽やかな響きだった。不適切な表現とはこういうことを言うのだろう。
吉澤もそのことを感じ取っている。さっきの目の光には、狂気、もしくは狂喜が宿っていた。
藤本が自分のために泣くことを待ち望んでいた、それ以外にこの劇の目的は吉澤には感じられない。
松浦が言葉にしたときに漏らした失笑に近い苦笑で、すべてがぴたり一致する。
背筋が再び凍りそうになった。

「あたしのなかの一番の親友。それはたんも同じ」

今まででも松浦の独占欲を垣間見ることはあったが、今日ほどはっきりと見ることはなかった。
歪んだ熱を、感情を、藤本に真っ直ぐ向けるのは松浦に出来なかった。
親友、と言う言葉は残酷すぎるのだ。松浦にとっても藤本にとっても。
行き場がなかった。

「親友を悲しませんなよ」

ずれた回答しか出来ない自分に悔しさを感じている。
わかっているんだよ、わかっているんだ。吉澤は言わなかった。

「うん」
「親友だけじゃない、悲しむ人はたくさんいる。ファンだって」


「家族だっている」


松浦は吉澤にその言葉を言わせたことが悲しかった。
申し訳なくて、同時にありがたくて、当たり前のことを再認識させられた。
残されたものの気持ちを知っているのは間違いなく吉澤以外にいない。
松浦が目覚める前までの藤本の表情が、あのときの自分によく似ていたことを吉澤は誰よりわかっている。

「ごめん」

で済まないのは重々承知だった。

「それは亀井に言って」
「ありがと」

立ち上がって吉澤は、がんばれ、とだけ付け足して病室をあとにした。





◇◇◇
385 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:04


「何、言ってるんですか」

彷徨わせてしまいたい視線は松浦に向けなければならなくて困惑していた。
背中は震えたままだ。

「あたしを刺して、って。冗談抜きで」

ぎらりと鋭い目で亀井を刺す。言葉の通り、本気と表す以外ない。ひたすら研ぎ澄まされていた。
言葉を発せられないほどの圧力の中亀井は首を横に振った。
声を出すことを知らないかのように必死に目をつぶって、3回振った。

「亀井ちゃんがやれないならみきたんにやってもらおうかな」

ふふふ、と松浦は笑っていたが相変わらず鋭いまま。
亀井が藤本の名前に反応し顔を上げると、にやにやと笑っている松浦と目が合った。
背筋が凍りつく。狂っているとはこういうことを言うのだと亀井は身をもって体験する。
一つの嘘もふざけも存在しない。
だから松浦の言葉が現実になることを余裕がないながらも想像した。

藤本は松浦のことが好きだ、それも特別に。
メンバーの誰もが知っている常識に加えて亀井はそこに違う色があることを察していた。
ただ恋愛感情は二人の関係には不適切だから、藤本は排除しているようだった。
松浦がもうその甘さを求めていない。
藤本が一方的に甘えているように見えて、それが亀井には悲しかった。
松浦が望むならきっと藤本は何でもやってしまうのだろう。
亀井が今こうして苦しんでいるよりも、きっと藤本はもっと取り乱して、空ろな目で松浦の要望に応えて、
自分で大切な人を傷つけたことに苦しみ続けるのだろう。
そのビジョンが頭に浮かんでこびりついて正しいように思えた。
そうすると、松浦の言うとおりに藤本を動かさせてはいけないと思った。

亀井は子供みたいに笑う藤本のほうが、大人の顔で笑っているより好きだ。
藤本は自分の敵と純粋な気持ちを持ったままずっと戦い続けている。
これからだってそうだ。逃げられないことは増えて自由もなくなって、それでも変わらないでいるだろう。
一本通った純粋さを失わないでいる藤本に亀井は惹かれていて自覚している。
今の藤本が好きだった。恋愛感情かどうかといったらわからないが。

藤本を想ったら残されている道は一つしかない。
藤本を傷つけたくなかった。

守ろうとしている自覚はなかったが自分がやるしかなくて呆然としながら亀井はナイフを握った。

「ここだよ」

松浦は自分の腹を指差して刃の先をそこへあてがった。
指先が凍りついて動かなくなろうとも時間はとまらない。
亀井は逃げなかったけれど腕を動かさなかった。松浦が体重をかけて刃を飲み込んでいく。
表面張力を破る感触、ずぶずぶと埋まっていく感触、手がぬるぬるとしていく感触。
すべて手に残し、亀井は呆けていた。もう松浦のことも目に入っていなかった。
痛みに顔をゆがめながら松浦は身体を離した。服が真っ赤に染まっている。
刺した箇所を眺めてもう戻れないのだと悟った。

藤本はきっと自分を恨むだろう。どこかで完全に理解していた。
ゆっくり倒れて行く松浦が視界から消える。
亀井は絶望を見た。

386 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:04


◇◇◇



「治ってよかった」

八朔の皮に包丁で傷をつけていく。その細い指の持ち主は藤本で、松浦ではなかった。
剃刀は毛の処理のためにあり、ナイフは物を切るためにある。
正しい使い方を松浦はできなかった。
少し不器用に剥かれた八朔を藤本はソファにだらり座っている松浦に渡した。
へたくそと言ってやると怒ったふりをしながらどうせあやちゃんの方が器用だもん、と言った。
その様子は外じゃなかなか見られない。可愛いなと、腹を痛めないように小さく笑った。
何も変わらない、離れていかない、限りなく0に近い距離。
手を握らなくても抱きあわなくても、本当はどこにもいかないことをわかっているようなわかっていないような、
そのバランスがきっともう崩れないことを松浦は知っている。

「たん」

「ん?」

目の前の八朔から目を離し顔をあげる瞬間が好きだった。
いたずらっぽい顔して笑うのも、無邪気に笑うのももちろん、自分を頼って泣く姿も、自分のために腹を立てる姿も、弱気な顔も、強気な顔も、全て。

「ごめんね」

「うん」

「もうあんなことしない」

果汁で濡れていた指先はいつの間にかふき取って綺麗になっていて、松浦は細い腕に包まれた。

「当たり前でしょ」

ぎゅうとその腕が力をこめて、けれど大事に抱きしめる。
体温に溶けた藤本の匂いが呼吸のたびに松浦に吸い込まれた。
八朔を扱っていたその手は髪の毛に触れて、愛しいと代弁しながら一本一本を梳いた。

「死んじゃうのかと思った」

声がいつもより震えている。だから胸が痛くなる。
震える肩甲骨の輪郭を辿りながら撫でると藤本は一粒涙を流した。

「怖かったよぉ」

二粒、三粒、ぼろぼろと泣き始めて、その様子はまるで幼い子供のようだった。
いつもならあやすけれど今回はその涙で松浦は泣いた。

「ごめんね、たん、ごめん」

欲しかったものを本当は手に入れていたことをわかっていなかった自分を強く責めた。
藤本の心は間違いなく自分の元にある。そして自分の心は藤本のもとにある。
絶対的な最優先は、お互い。たとえどんな関係であっても。
387 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:05

「大好きだよ」

あらゆる意味を含めて。最愛の相手に溢す言葉。

「みきもあやちゃんが一番好きだよ、絶対に変わらない、だから」

――みきのためにそんなことしないで


心臓に鋭い痛みが突き刺さる。
そして全て気づかれていたのかと、少し見くびっていた自分に対して、苦笑した。
自分より少し鈍いと言っても他の人よりかはずっと鋭いことを忘れていた。

「よっちゃんから何か聞いた?」

「ううん、聞いてないけど態度見りゃわかるでしょ。最近ずっとおかしかったから」

泣き腫らした目で松浦を見上げる。
ばればれだよあんた、って声に出さないけど聞こえてくるような、そんな顔。

「まさかこんなことになるとは思わなかった。ごめん」

あの出来事を思い出しているのか辛そうに目を伏せて左腕の袖をぎゅうと握る。

「たんは何も悪くないよ、あたしが勝手にいろいろ怖くなっただけ」

勝手な疑心暗鬼、独占欲。どんな刃より鋭く、ついには牙をむいた。
飼いならすことも捨てることさえもできずにたくさんの人に迷惑をかけて、大事な人まで傷つけた。
他の誰でもない自分が悪い。

「なにそれ」

予想外に藤本の声は冷たく、そんな声が自分に向けられたことはなかったから、松浦の背筋が凍る。

「みきのことで悩んでたんでしょ?なのにみきに関係ないみたいに言うな」

「でも」

「でもじゃない」

どんな大物だって対等に冷静に相手できる自信があったのに、
今まで見たことがないくらい藤本が怒っているのを見て、その気迫に圧される。

「なんでも言い合える仲だって思ってたのはみきだけなの?」
388 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:05

強い口調が一転して弱くなり、松浦は不安になる。

「違うっ」

「だよね?なんでも受け止めるよ、あやちゃん」

やわらかい声に松浦は弱くなるしかなかった。
この人の前で、こういうことで、こんなに泣くつもりはなかったのに松浦はどうしようもなく涙を流した。
すべて吐き出すように言えなかったことを吐いて、泣いて、それを藤本は松浦の髪をなでながら聞いた。
今まで逆の立場だったのに、と悔しい気持ちもあったけれど、その指があんまりに優しいから甘えてもいいかなと思った。


「たんのことが好きなんだよう」

ふらふらになりながら出した言葉は単純で、すべての結果と原因になることだった。

「うん知ってる」

さらりと言ってしまえるほど本当は単純な話ではなく、それが世間に広まれば偏見や軽蔑、好奇の目で見られたり、面白おかしく記事にされたり、
その告白自体拒否する人だって少なくはない。
それを簡単に藤本は受け止めた。藤本にとっては簡単なことだった。

松浦のことを一番だれよりも強く想って、一番好きで
松浦から一番強く想われて、一番好かれているから。


「みきもあやちゃんのことが大好きだよ」

双方通行であるなら何の問題もない。

カメラの前では絶対に見せないとびきりの笑顔でお互いを抱きしめた。





389 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 22:06

自スレにあげようとしたら容量不足でした。
お目汚し失礼しました。
390 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/28(火) 00:03
思わず、久々にレスつけたくなりました。

作者さんの、ふたりへの愛がたいへんよく感じられ、気持ちがこもった文章だと思いました。

機会があれば、またあやみきを書いていただきたい。
391 名前:よっすぃを捕まえろ! 投稿日:2007/09/01(土) 17:45
ハロモニ女子学園の大学部である日…

「なああああぁぁぁんんでえええぇぇ!!!ちょっと待ってってっ!!待て!!待ってってば!!」

…ダダダダダダダ…

「それ意味わかんないって!だから、ちょ待ってって!!」

「ダーメだよお!!よっすぃ〜!!」

「誰ももう待たないよ!!今日決めろっ!!だから止まれえぇ!!!」

ダダダダダダ…

「やああだああぁぁ!!!止まったら絶対殺されるっ!喰われるっ!!」

ダダダダダダダダダダ…

−それは、先日の゛会議゛で始まった。
392 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:46
「全員いる?」
矢口はシリアスな空気を作るため声のトンを低くして、みんなの緊張感を高める。

「あとごっちんとまいちゃん」

「ごっつぁんは来ない。3階で寝てんだ、アイツ」

「えっ?後藤さん来ないんですか?」

「呼んだけど、ごっつぁん中々起きないから先に来た。どうせ明日もまた寝やがるから、いいや…」

カチャッ

「すいません!遅れました!」

「おぉ、来た。じゃあこれで全員集まったから始めよか」

里田は空いた席に座ってから大きなテーブルを囲んでいる人たちを見回った。
ここは大学部の第二会議室。集まった女達は8人。
高等部の矢口先生、中等部のアヤカ先生、同級生の石川、藤本と里田、そして後輩の小川、高橋と松浦。

「あれ?なんで松浦いんの?」

「え〜!なんですか、それ」

「いや、松浦がよしこに気があると思わなかったから」

「違うんですよ、ないけど、5年前の中途半端なセクハラのお返しです!」

「そういうのあり?」

「亜弥ちゃん意外とぶっ飛んでるとこあるから」

「たん!!」

「はいはいはいはいはい」

「はい言いすぎです」

「藤本ぉ!おいらを一々突っ込んでいたら進まないよ!」

「ハイ、解かりました、じゃあ早く始めてください」

「も〜…ブツブツブツ…では!…」

普段、恋のライバルでも仲のいいこの人たちが集まった理由は一つ。
来月、4年生は卒業、そのことで毎日が大忙しい。
これから更に忙しくなる、後約一ヶ月で卒業、時間がない!と思った皆は
唯一予定の少ない、そんなに忙しくない明日を機にあの人に全部を決まらせると。
そう!あの人はみんなの愛しいあの人、この学園でダントツのダンディ、
一目で中高大のベイベー達を落とせる鈍感者、ただ1人のミスタームーンライト、吉澤ひとみ!

そして翌日、授業・講義終わって、藤本たちに会議室に連れられて
そこに集まったメンツに顔を青ざめて、吉澤は嫌な予感がして堪らなかった。

「お、お〜、みんなぁ、どうした、そんな顔ぉして〜」

「よっちゃん」

「アヤカ?」

「もう解かってんだね?」

「梨華ちゃん?」

「吉澤さん、もう決めてください」

「麻琴?」

「さ〜て、誰が吉澤夫人になるんだ?」

「…えええぇぇぇ〜〜っ!!!」

「えぇっじゃないよ、早くしな」

「えっ、ちょっ、ミキティ…」

「ひとみちゃん、私はひとみちゃんのこと…」

「よしこ、もう逃げらんない」

「吉澤さん、あたしは?」

「よっちゃん、正直に言っていいんだよ」

「よっすぃ〜、ちゃんと考えて、矢口でしょ?」

「よしざーさん、あーし、本気です!」

「よっちゃん、隠さなくていいよ、美貴がいいでしょ?」

「よっすぃ〜、5年前の返しは今だ〜〜〜!!それから、みきたんを絶対に渡さないから」

……

「…えぇ?」

(あ、チャンスだ!)

ズダダダ カチャッ ドダダダダダダダダダダ…

パタン…

「…あ、まああてえええぇぇぃぃぃ!!!!」

カチャッ ドダダダダ

「いない!どうしよう!」

「探すんだ!!上と下の階とA、CとD棟!屋上と庭にも探すよ!」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

−と言う訳でその追いかけっこになったのだ。
393 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:46
***

会議室から2階上の廊下で…

「吉澤さ〜〜ん!」

「げっ!麻琴だ」

「あっ!いた!も〜、よぉしざわさ〜ん逃げないでちゃんと決めようよ」

「ま、まこっちゃん、ごめっ!ごめんな!あたし、麻琴とは…」

「…そうですか… そうですね、あんだけ美人そろえばあたしじゃあ…」

「あっ!でも、麻琴はいつまでもあたしのペットでいてほしいから、これからも仲良く…」

「…ペット?!ペットって何なんですか〜〜〜!!!」

「やべっ!怒っちゃった!」

ドダダダダダダダダ

「まてええええ!!!ペットとは何なんですか〜〜!!!」

***
394 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:47

C棟では…

「よ〜しこ〜〜!!」

「よ〜っちゃ〜〜〜ん!!」

「どこ行ったんだよ」

「いないね…」

「よしこ、いきなり逃げるのは… あっ!いたあぁ!!」

「へ?どこ?」

「あそこ!よ〜しこ〜〜!!止まれ〜〜!!」

「うわっ!まいちんとアヤカ!」

「よしこ!逃げるな!」

「あ、まいちん、違うよ!」

「なにが違うの?もう分かってるんでしょ、よっちゃん」

「いや、意味わかんない!なにそれ!誰かを選べってことか?!」

「そうだよ、いつまでもたらしばっかしないで、よしこのためにもなるんだよ」

「そうよ、大丈夫、皆ちゃんは分かってくれるよ」

「なにそれ!自分が選ばれたみたいな言い方」

「これからそうなるよね、よっちゃん?」

「あ、いや、あたしアヤカ好きだけど…」

「なんだ!よしこはアヤカがいいの?!」

「あぁ!でも人前で言われると恥ずかしーー!」

「いや、だから…」

「なんでアヤカなのよ!」

「まいちゃんはあたしで不満なの?昨日の約束はウソだったの?!」

「だから、あたしは…」

「ちがっ!でもよしこはまいを選ぶはずだったから!!」

「でもよっちゃんはあたしのこと好きって言ってるんだから」

「はぁ… 勝手にしろ…」

ダダダダダダダダ…

「その好きって意味は友達としてなのかも知れないよ?」

「そんなことないよ、ね?よっちゃん」

「はっきり言ってやってよ、よしこ!」

……

「「って、いない!!」」

「よ〜しこ〜〜!!」「よ〜っちゃ〜〜ん」
395 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:47
***

屋上辺りで…

ダダダダダダダダダ…

吉澤の耳に二つの走る足音が届いてきた。そして話し声。

「亜弥ちゃん、今よっちゃんを探さなくちゃ」

「ダメ!みきたんをよっすぃに渡さないから!」

「あ〜… じゃあれは?亜弥ちゃんのお返し?」

「それは後でもやれるから」

「じゃ今日参加してる意味ないじゃん(そもそも参加理由もどうかと思う)」

「あるの!よっすぃがたんに触れさせないこと!」

そんな会話を聞いて、とりあえずミキティは大丈夫かっと思って、吉澤は走り続けた。
松浦のお返しに少々不安を感じながら。
396 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:48
***

D棟では…

ダダダ…

「やべー、誰か来てる」

吉澤は一番近くの保健室に入り廊下を覗いた。
足音がはっきり聞こえてくると、高橋が廊下の奥に現れた。

「はああ!トイレっトイレっ!!」

トイレかよ!っと内心突っ込みながら、
教室をスルーする高橋を見ると、は〜と一安心。

「あれ?吉澤じゃない」

「おっ!何しとるん?よっさん」

後ろから(色んな意味で)学園最強教師2人組みの声が聞こえ、仕方なく振り返る。

「あ、圭ちゃんと中澤先生」

「どうしたの?もう帰ったんじゃなかった?」

「ちょっとね、みんな帰らせてくれなくて」

「なんや、浮気でもバレたんか?たらしも大変やな」

「裕ちゃんはあんまり人のこと言えないわよ」

「うっさい!圭坊のくせに生意気やな〜」

「なにそれ?裕ちゃんに言われたくないわよ」

そこで吉澤はいい考えに辿りついた。
この2人だからこそこのアイディアに着くことができたとでも言える。

「あ、そうだ!圭ちゃん、梨華ちゃんが相談あるみたいだよ」

「えっ?!なんかあったの?」

「さぁ、あたしもよく分かんない」

「そう、わかった。どこにいるか分かる?」

「中庭にいるんじゃないかな」

「ありがとう。気をつけて帰るんだよ」

「はいはい。じゃね」

保田が教室を出ると、さて、あと1人だけ。

「あと、中澤先生、やぐっつぁんが今日の飲み相手誰誘おうかなって言ってたんです」

「お、ホンマか?じゃあこの裕ちゃんが相手したろうか」

「会議室に方にいると思いますんで」

「うん、サンキューな。今度よっさんも連れてったるわ、今日は大人の夜やからな!そんじゃ」

「はぁ…」

中澤の背中を見送りながら、矢口がかわいそうに思えてきた。

「悪いことしたかもな… 後で謝ろ」

「誰に?」
397 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:48
突然声が聞こえて、吉澤はピクッとしたがその声の主を見て落ち着いた。
髪ちょっとボサボサでベッドに座っていたのは後藤。

「あ、ごっちんか。ビックリした〜〜」

「あれ?よっすぃ〜1人?」

「まぁ…いろいろとね」

「ふーん…… ふっふふふ」

「な、なに?」

「今さ、誰もいないんだよね〜」

立ち上がって、ドアの鍵をかけて少しずつ吉澤に近づく一方
吉澤はビビリながら下がってく。

「そ、それで?」

「いつも周りに人がいるもんね」

後藤の意味ありげな視線に負けて
気づいたら、先目の前のコが寝ていたベッドが足に当たって、逃げ道はない。

「ご、ごごごごっちん、ちょ、ちょちょっと」

「ごとーの勝だね」

「ご、っちん!ちょちょちょ!うわっ!ああ〜!!んん〜!」

「はぁ… よっすぃ…」

「…ん…っだ!た、助けてええええぇぇぇ〜〜!!」
398 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 17:49
吉澤のthe end?
399 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 22:08
おやおや、でも本命が出て来てないなぁ?w
400 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 05:43
心地よいカオス
401 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:22
夏の終わり。夜の海岸。高校生。花火。酒。
……うるさい。

「うぜー」

三年生の引退日の今日、追いコンは過剰に盛り上がっているようだ。
その賑わいから外れて、一人缶ビールを傾ける吉澤。

「出てくんなら勝手に出てきゃいいだろうに」

だいたい男だけのサッカー部の追いコンに女が多すぎるのも腹が立つ。
部員の彼女だのその友達だの。
きゃーきゃー騒ぎやがって、何しに来たんだよ、お前ら。
そんなに嬉しそうに群がるんだったらマネージャーでもすればいい。

吉澤の通う高校のサッカー部は県内でも強豪校で、部員数もかなり多い。
しかし、仕事がきついせいかそのわりにマネージャーは少なく三人だけ。
三年生である自分が抜けると二人になってしまい、困ったことになると。

あの人が言っていた。
402 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:24
ぷし

余剰の部費にプラスして先生が援助してくれたから、追いコンの参加費はタダだった。
だから全く期待してなかったのに、結構美味いビールが数をそろえていた。
バカどものビール掛けもどきに使われるくらいなら、と抱えられるだけ持ち出してその場を離れた。

新入生にして即レギュラー入りした吉澤は、ただでさえ部内で浮いている。
しかし尊敬していた先輩もいるし、こういうときに不参加というのも角が立つ。
嫌々ながらに参加した追いコンも、美味いビールで相殺……。

「されるわけねーって」

はあっと大きく息をついた。
相殺なんてされるわけがない。
無理なんだよ。
このイライラを帳消しなんか。
やりきれない気持ちに、受験が終わってやめたタバコが妙に恋しくなる。
403 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:24
よっすぃ〜


幻聴。

(……じゃないよな)
声の方に顔を向けると、暗がりの中小さな人影が吉澤に向かって駆けてくる。
あのミニマムなシルエットは、誰かが子供でも連れてきていない限りあの人しかいない。

「も〜、よっすぃなんでこんなとこにいるんだよぅ」
小さな体をもっと小さくすくめて吉澤に擦り寄るように体を寄せる。

「矢口が暗いの苦手なの知ってんだろ〜」
「……や、じゃあ来なきゃいいんじゃないですか?」
「生意気〜」

甲高い声で笑いながらもきょろきょろと落ち着きなく暗がりを見回す。
矢口が体をひねったとき、ミニスカートから覗いた太ももが吉澤の鼻先をかすった。

「ちょ……矢口先輩、座ってくださいよっ」
「え、ああ」

すとん、と吉澤の傍らに座り込み、それでもやっぱり怖いのかべったりと体をくっつけてくる矢口。
404 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:25
「……よっすぃ?」
「はい?」
「さっき、矢口の足触ったでしょ」
「さ――わってませんっっ」

「うっそだあ。触られたもん」
「触ってないですっ」
触ってはいない。確かに。
ただちょっと、鼻先が、すげー、いい匂いが。
思い出すだけでにやけそうになる顔を手で覆ってごまかす。
そんなのはお見通しだとばかりに矢口は下から吉澤の顔を覗き込んで。

「よっすぃのすけべー」
「違いますってばっ」
「なんだよー。じゃあ矢口の足に触ったのは誰なんだよー」

にやにやと笑いながら肩をぶつけてくる矢口に、ちょっと冗談にならない意地悪をしたくなったのはや

っぱりやりきれない気持ちが根底にあるからで。

「……幽霊なんじゃないですか。海ですし」

ぷいっと顔を背けて言い捨てると、ぴたりと矢口の声が止まった。
405 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:26
しまった。
やりすぎた。
もう少し冗談っぽく言うんだった。
目をそらすんじゃなかった。


後悔先に立たず。
慌てて振り返ると、矢口はがたがたと震えている。
普段は必要量かける3くらいで明るい矢口だが、お化けの類にはめっぽう弱いのだ。

「ご、ごめんなさい。冗談です」
「ででででも、よっすぃ触ってないって……」

すでに泣いてるし。

「あの、ごめんなさい。触りました。っていうかホント偶然ちょこっと当たっただけですから」

なだめすかすように顔を覗き込むのに、ぎゅっと顔を吉沢の腕にうずめる。
その上、背中側が空くのも怖いのか、体をひねって吉沢に背中を押し付けようとする。

それは、無理だ。
406 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:27

(……しょうがない)

「矢口先輩」
優しく声をかけると、矢口の背中側にまわって、包み込むように彼女を腕の中に閉じ込める。
背の高い吉沢の中に、小さな矢口はすっぽりと収まる。

「怖いこと言って、ごめんなさい」

耳元でささやくと、うんうんとうなずく。

(つーか、この体勢……やばいんですけど)

健康な高校生男子としては。
とりあえず健康なあたりが矢口の体に触れないようにもぞもぞと体をずらす。

「あの、あっち戻りますか?」

今度はふるふると横に首を振る。

「でも……そろそろみんなのことに戻ったほうがいいですよ」
 
407 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:28

矢口は今日の主役みたいなものだ。
追い出される三年生の中でもっとも惜しまれているのはこの人だろう。

サッカー強豪校とは言え、それはここ数年のこと。
そこそこどまりだったチームを盛り立てたのは、実はこの人だろうと吉沢は思っている。
矢口がいるとそれだけで空気が明るくなる。
気力がわいてくる。
アイドル的存在として、リーダー的存在として、この部内での矢口の立場はかなり重要だった。
矢口がいたからこそ、がんばってこれた。
さっきはっきりとそう言っていた先輩もいた。

「矢口があっち戻ったらよっすぃも戻る?」
「え?」
突然のくぐもった問いに、吉沢は言葉を詰まらせる。

「俺は、もうちょっとここに――」
「よっすぃ」
「は、はい」
腕の中の矢口がいきなり体をひねって吉沢を見上げる。
(近いって!)
焦る吉沢をよそに、矢口はじろりと吉沢をにらみつけた。
 
408 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:29

「もう矢口いなくなるんだから、ちゃんと自分からみんなと仲良くしないとダメだよ」
「……はい」
みんなの輪から離れよう離れようとするヨシザワを、探し出して連れ戻すのは矢口の役目だった。

「今日だって乾杯の時にはすでにいなかったでしょっ」
(見てたんだ)
すぐそこにある顔にどきりとしたけれど、矢口はこんな距離に構いもせずにむうっと唇を突き出してみせる。
「ずっと戻ってこなくって、探しに行きたかったけど真っ暗だし……」
あたりに目を走らせてまた泣き出しそうになる矢口に、ヨシザワはぷはっとふきだしてしまう。
「あー、笑ったなっ」

小さな手でぽかぽかとヨシザワをたたく矢口。
しかし、高い声でけらけらと笑っていたと思ったら、いきなり電池が切れたようにしゅんと肩を落とした。

「……矢口先輩?」
「なんか……もうさ、矢口が探せるところによっすぃはいなくなっちゃうんだよねー、と思って」
「え」
肩を落としたまま、ははは、と力なく笑う矢口。
それを見下ろして。

いなくなる
のは


お互いさま……なのか?
 
409 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:31

引退してしまうのが嫌で、追いコンに参加したくなかったとか。
それでもこれが最後だと思うとどうしても会いたくて、実ははりきって参加したとか。
でもやっぱり顔を見るのがつらくて早々に抜け出したとか。

それらすべてが、
矢口にも当てはまる感傷。
だったのか?


ヨシザワは、矢口の体にまわした腕にぐっと力を込めた。

「探しに来てください」
「え?」
「引退しても……卒業しても、俺のこと見ててください」
「よっすぃ?」
「俺、そのかわりに真っ暗ななんかとかから矢口先輩のこと……ま、守るし」

暗くてよかった。
絶対に顔真っ赤だし。
 
410 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:33

「よっすぃ……」
「ダメ、ですか?」

心臓がありえない速度で拍動している。
触れ合った部分からきっと、伝わってしまうだろうというくらいに。

伝わるのならば伝わればいい。
俺と同じくらいに。
心臓ばくばくいわせてくれればいい。


緊張のあまり強張った表情で矢口を見つめるヨシザワに。
矢口は、ふわりと柔らかい微笑み浮かべた。


「ダメじゃない」

首の後ろに腕を回して。
ぎゅっと抱きついてくる矢口を、ヨシザワはきつく抱き返した。


「好きだよ、よっすぃ……」

「俺も……」

 
411 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:33
 
412 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:34

「…………っていうか」
「なになに?」
きらきらとした子犬のような目をくりくりさせてあたしを見上げる矢口さん。
もの凄く次の言葉を期待されている。
いや、言いたいことはかなりたくさんあるんですよ?

あたし男なんだとか、自分のこと『アイドル的存在』とか書くかよとか、吉澤くんかっけーとか、あとのマネージャー二人は誰なんだろうとか。
あるけどとりあえず。

「えーと。まず、あたしの名前、澤の字途中から間違ってますけど」
「だってめんどくさいじゃん」
最後の方なんかカタカナだし。


『今日の歌ドキはこんな感じで』
楽屋で待ち構えていた矢口さんがいきなりあたしに突きつけてきた、数枚のレポート用紙。
いや、こんな感じとか言われても。
 
413 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:35

「歌うの3分ですよ?」
読むのに5分以上かかったんですけど。
その間にサッカー部とか引退とかどう表現しろと。

「いいの!こういう雰囲気なんだよっ」
「こういうって、ベタで強引な展開ってことですか?」
「なんだよー、矢口が徹夜で考えた話にケチつけんのかよっ」
話っていうか妄想でしょ。
っていうか歌詞とか全く関係ないのはいいのかな。

「雰囲気だってば、雰囲気っ。初々しくらぶらぶな感じっ」
その一言ですんじゃうんだったらこのレポート用紙の意味は……。

「『初々しくらぶらぶな感じ』ねえ」
「な、なんだよぉ」
あたしが座るソファにひざをついて、にじり寄ってきている矢口さんを、ちらりと見上げる。
かなりの自信作だったのか結構へこんでいるっぽい。
 
414 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:35

「――あっ」

細い腕をとって素早く抱き寄せると、矢口さんの小さい体があたしの腕の中にすっぽりと納まる。
男じゃなくってもね。
あなたとあたしならこれくらいできるんですよ。


「そんなの、フリでしなくても天然でいけますから」


唇を寄せた耳が、うっすらと赤くなっていって。
あたしは音を立ててそこに吸い付いてやった。

「ひゃっ」

ってかわいいのかかわいくないのか微妙な声に、くすくすと笑いがこみ上げる。


ま……初々しくはないか。

 
415 名前:よしやぐ 投稿日:2007/09/09(日) 21:37
終わり
416 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 23:23
なるほど。自分も字がちげーよ!と思って読んでた。うまい
417 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/10(月) 00:53
やられたwwwww
自分も沢つっこもうと思ってたw
楽しかったアリガトウ
418 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/10(月) 01:25
そういうことだったのかwww

久々に面白い作品に出会えたわー
ありがとうございます
419 名前:いしよし 投稿日:2007/09/26(水) 00:05

「あーっ、梨華ちゃん、アレ見て見て!ちょーかわいいっ」
「よっちゃーん、待ってよお」

週末昼間の人ごみを、よっちゃんは踊るようにするすると細い体ですり抜けていく。
たどりついた数メートル先で、きらきら光を跳ね返すショーウィンドウに張り付く。

「あはは、まわってる〜」

ご機嫌な声にあと少しがなかなか近づけなくて、私はちょっと焦り気味。
もー、そこの女子高生よっちゃんの隣に立たないでっ。
ほっぺたを膨らませた私を振り返って、よっちゃんは、ぷはってふきだす。

「ほら」

きらきらした笑顔のままで、差し出された真っ白な腕。
大きな手が私をしっかりとつかんで引き寄せる。
ちょっと迷惑そうな顔で一歩ずれてくれた女子高生。
ごめんね。でもここは私だけの指定席だから。

「ね?かわいいでしょ?」

少し腰をかがめて。
同じ目線で私の反応をうかがう。
 
420 名前:いしよし 投稿日:2007/09/26(水) 00:06

わくわく
わくわく

音が聞こえてくるよ。
自然と頬が緩んじゃう。
じぃっとよっちゃんの視線が細くなった私の目を捕らえて。
それからゆっくりと。こらえきれないって感じで。
綺麗な色に彩られた唇の間から白い歯を覗かせる。
すぐに唇を尖らせて隠したけれど。
前を向いてる私には見つかってないって思ってるよっちゃんは。
ショーウィンドウの中に鏡があるってことに気づいてない。

なんだか首筋がむずむずして。
私は慌てて鏡に貼られたピンクのハートに指を突きつける。

「うん。かわいいっ。欲しいなあ。あのハートのとか」
「んー?ああ、あれ?あはは。梨華ちゃんっぽい。でも買ってもいいけど何に使うの?」

「えー。だからさあ、洗面所の鏡とかに貼るんじゃないの?」
「無意味〜」
「かわいいからいいのっ」

よっちゃんはしつこいくらい無意味無意味を繰り返す。
もおっ。最近やっと『かわいいもの』に興味が出てきてくれたのに。
こんな風にウィンドウショッピングが楽しめる日がくるとは思ってもみなかったから。
すっごく嬉しいのに。
私をからかうためにはそれさえも引っ込んじゃうのね。
 
421 名前:いしよし 投稿日:2007/09/26(水) 00:07

あ、でもホントにかわいいなあ。
あの黄色いお花もいいし。
葉っぱの緑もきれいだなあ。
よっちゃんが言ってたくるくる回ってるのはなんだろう?

「あ、あれかっけー」

ガラスの向こうに必死になっていた私の腕が、ぐんって後ろにひっぱられる。
もう、落ち着きないんだから。
赤いさくらんぼに名残を惜しんでから勢い良く振り返る。

別のショーウィンドウにべったりと張り付いているさらさらの金髪頭。
こつんと小突いてやると大げさに前のめりになる。
子供じみた仕草。

ホントもお。


  好き。
 
422 名前:いしよし 投稿日:2007/09/26(水) 00:10
終わり

上のよしやぐ書いた者です。連投ですみません。
>>416-418さま、狙い通りひっかかって下さってありがとうございますw
423 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:40
その瞬間、びっくりして、恥ずかしくて、でも嬉しくて。
頭がいっぱいいっぱいになっちゃって、わたしはただ笑っていた。
歌詞なんて一瞬で吹っ飛んじゃって、なのに取り直しなしだって。
収録は押していたけれど…いいのかなぁ、あんなの流しちゃって…

「ふぅー」

カットの声がかかって。
よっちゃんは、ぱっとわたしの肩を抱いていた手を離す。
そしてニヤニヤしたままスタジオにわたしを置いて去ろうとした。

「…もぉっ」

絶対、絶対、わかっててやってるんだから。
よっちゃんのいじわる。
わたしは、堪えきれず軽く急いで後ろ姿を捕まえた。
待ち構えていた青い背中にぽすん、とおでこを押しつけた。
ふんわり、いつも優しいにおい。大好きなにおい。
424 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:41
「なにさ」
「…言ってよ、肩…抱くのとか、いきなりされたら、びっくりするじゃん」
「びっくりさせたかったんだもん」
「もぉーっ」

ぽすぽすぽすぽす。
あったかい背中を叩くんだけど…だめ、力が入らない。
まだあの感触が残ってる。少し強く引き寄せられた時の、指の感触が。
思い出して、耳が熱くなってくる。
…よっちゃんのばか。

ていうか、ていうか。
肩くらいでこんなに動揺してる自分がわからない。
それ以上のことくらい、したことあるのに。
今日は何故か妙に照れくさくて。
まるで、よっちゃんと恋人になって初めて手を繋いだ時みたい。

「はいはい、続きは楽屋でやりましょうか」
「むぅ…」

叩いていた手を掴まれて、そのまま二人で歩く。
ゆっくりとリノリウムの道を歩いてくだけなのに、なんでだかとてもドキドキして止まらなくて。
よっちゃんのあったかい手に繋がれているから、気持ちがタイムスリップしちゃったみたい。
初めて手を繋いだ時のことを思い出している。
あの頃は色々辛かったけど、でもそれだけじゃなかった。
425 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:41

ふいに、歩きながらよっちゃんは歌いだす。

「あいーしてーるぅーのひーびーきーだけーでー…」
「…つよくーなれーるーきがしたーよ」
「いい歌だったね」
「…うん」

…愛してるの響きだけで、強くなれる気がしたの。
ううん、強くなれるんだよ。
だからわたしは今こうして笑っていられるんだよ。
よっちゃんは、わかってるのかな?
あなたが大切な時にくれた言葉一つ一つが、わたしの力になっている。


「なんかね」
「うん?」
「今日は、初めて梨華ちゃんと会った時のこととか、好きだなって気がついた時のこととか、
恋人になれた時のこととか、卒業って聞いた時とか、色んなことを思い出してた」
「…」
「そしたらね、なんだか今も梨華ちゃんが隣にいてくれることが嬉しくて。思わずぎゅってしてた」

よっちゃんは下を見て歩いていた。
わたしはよっちゃんを見て歩いていた。
426 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:42
よっちゃんの静かで柔らかい声がしみこんでくる。
よっちゃんは普段から強がりで、弱音をはかないで、涙も流さない。
だからこそよっちゃんの口から零れる少しだけ寂しい色をした言葉は、ずしんとくる。
色んなことには、色んなことがある。きっと…悲しくてどうしようもないことさえ。
そんな思いが透けて見えた気がして、愛しくてたまらなくなる。


「やっぱりびっくりした?」
「びっくりしたよ」

一転、早口で転がすようにそう言ったから、わたしも合わせて早口で言った。
そして笑った。
繋がっていた手をいっそう強く握った。

「あたしもびっくりしたんだけどね」
「何が?」


「今もこんなに…その、好きだな、って、思ってること、に」


427 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:42


「………」


「え、なに?やっぱあたし変かな?今日おかしい?」
「うん、おかしいね」
「…だぁー。やっぱなし!もうこの話おしまい!」
「えぇーっ、やだぁ、もっと聞かせて?」
「無理!恥ずかしいもん!」
「あっ、だめ。逃げちゃやだ」

逃げようとしたよっちゃんを今度はさっきより強く抱きしめる。
細い体をめいっぱい捕まえて、全部わたしがひとりじめ。
だんだんと早まる鼓動も、体温も、そっと重ねられる手の優しさも。
大好き。
大好きなの。
428 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:42

「…あんまりくっついたら、ちゅーしたくなる」
「いいよ?しても。する?」
「…まじで?」
「うん」
「……知らん。もー知らんからね」
「えへへぇ」


わたしをひっつけたまま、よっちゃんは自販機の陰に移動した。
きょろきょろ。用心深くあたりを見渡して。


それからくるっと向き直って、一瞬だけちゅってした。
柔らかい唇が確かに触れた。

429 名前:cereja 投稿日:2007/09/26(水) 00:42
わたしは笑顔を抑えられなくて、体から湧き上がってくる幸せを抑え切れなくて。
ふー!と高い声を出しながら体を小刻みに揺らして笑う。

「やーだ、なんか梨華ちゃん動きがおかしいよ」
「いいの、幸せだからっ」
「…幸せ?」
「幸せ」
「幸せか」
「うんっ」

さっきのお返しに、よっちゃんの肩を抱いてやった。
よっちゃんは照れたように笑って、それから優しくわたしの肩に手を乗せて。

…ぎゅっと、力をこめた。
430 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 00:43
終わりです。
431 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/27(木) 00:13
やっぱり、いしよしはいいなぁ。
432 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/01(月) 00:53
抱き寄せられたときの石川さんの
表情が

やばい。
433 名前:アイシテルの響き 投稿日:2007/10/09(火) 00:50

世界にあるもの、そんなのホントはどうでもいいものかも。

肝心なのは、梨華ちゃんと繋がってるかいないか。

梨華ちゃんが隣にいてくれるかいないか。

ただそんだけなんかも。
434 名前:アイシテルの響き 投稿日:2007/10/09(火) 00:52



「梨華ちゃん、それ何度目よ。」

「え〜いいじゃなーい♪」


ここは梨華ちゃんの部屋。

んでもってTVに映るは巷でうわさのセクシー…じゃなくて

こないだの歌ドキッ。巷じゃすげー噂になってるらしいけど。

泊まりに来ていつものよーに「よっちゃんご飯作ってぇ」に言われて

ありあわせのもんで作って間静かだなぁって思ったら

こっそり録画してたんかしらねーけどじーっと見てるし。

作って戻ってきても見てるし・・・。

「っかし、よく飽きないね。」

「飽きないよー。だって…ねー」


ねーって…ったくしょーがねーなぁ。
435 名前:アイシテルの響き 投稿日:2007/10/09(火) 00:53

「ねぇー、よっちゃん。」

「はぁ…なに?」

「あたし、嬉しかったんだぁ」

クッションをぎゅっと抱きしめて画面をじーっと見つめたまましゃべる梨華ちゃん。

テーブルの上に皿を置いて梨華ちゃんの横に座ると

画面見つめたままいつものようにぽすっとアタシにもたれかかってきた。

なんかさりげないことなんだけど、ただそれだけの事なんだけどね。

あ、嬉しいなぁって思う自分がくすぐったい。

「嬉しかったって?」

「んー、まずはよっちゃんとこーして2人で歌えたって事でしょー」

「そーだねぇ、2人っきりってなかったよね。キッズいたか辻いたとかで。」

「でしょ?それがすっごく嬉しかったしぃ。」

「嬉しかったし?」

「よっちゃんがぎゅってしてくれたの嬉しかった。」

「ふぐっ…」

そ、それですか…えぇ、えぇ、やっちゃいましたね。

あの時は自分でも歯止め聞かないくらいテンション高かったからのと…

隣で歌う梨華ちゃんのすっげー笑顔。

いつもの、でもアタシしか見ていない、アタシだけの笑顔。

それが全国に流れるって思ったらなんかグァってきて

梨華ちゃんは、こんな近くに入れるのはアタシだけなんだって、

アタシのものだって思った瞬間やっちゃってた。

436 名前:アイシテルの響き 投稿日:2007/10/09(火) 00:53


「あの時ね、」

「んー?」

「ちゃんと歌えなかったのは悔しいんだけど…

 ぎゅってしてくれた時、ううん。歌ってる時

 よっちゃんすごい笑顔でさ、あ、よっちゃん笑ってる

 コレ放映されるんだって思ったら見せたくないなぁって

 よっちゃんあたしのものだもんって思ったんだけどね?

 ぎゅってされた時どーしよーって思ってる自分もいるんだけど

 これがあたしのよっちゃんなんだぞーって思っちゃってる自分もいたんだぁ。」

「へぇっ?」

「こんな近い距離にいれるのはアタシだけなんだーって思っちゃったんだぁ。

 そう思うと嬉しくって・・・おかしいよねぇ。」


ハハッ、こいつは…


「バーカ。」

「な、バカってひど」

「ちげーよ。」

ギュッ

「アタシもおんなしこと考えてたし。」

「ぇっ…?」

「だーかーら。全然おかしーことなんてねーの。」


そ、おかしくない。

おかしーとしたらあたしら両方とも考えてること一緒なんだーってくらいだよ。

437 名前:アイシテルの響き 投稿日:2007/10/09(火) 00:54

「・・・同じこと思ってたの?」

「…思った。」

「見せなくないって思ってくれたの?」

「思いました。」

「一緒に歌えて嬉しいって思ってくれたの?」

「思いました。」

「愛してるって思ってくれた?」

「おもいま…なっ!!??」

「あー!!なっ!!ってなによ、なっ!!ってぇ!!あたしの事愛してないの!?」

「だぁぁぁもぉ、あばれるな!」

「じゃー、ちゃんといってよー!」

「え、あ、んぁー」

「んぁーじゃないでしょっ!まったくぅ!」

「あー、もっ!!………・……………ました。」

「んー?」

「おもい、ましたっ!」

「愛してくれるって?」

「あ、いし、てるって」

「…えへへぇ♪よくできましたぁ♪」

「ったくもぉっ…」

目の前でこんな笑顔で、きわめつけに頭撫でられたらもう笑うしかない。

誰かが言ってたけどね、こーゆーの骨抜きっていうのかな。
438 名前:アイシテルの響き 投稿日:2007/10/09(火) 00:57
「よーっちゃん。」

「んー」


コツン


チュッ


「だーいすき。」

「ん、」

「よっちゃんはぁ?」

「…好きだよ。大好き。」

「…へへっ」




ね、梨華ちゃん。

あの歌を借りちゃうけど

ささやかな喜びぎゅってつぶれるくらい一緒に抱きしめてさ

こうやってずーっとずーっと梨華ちゃんと手つないでいこーね。

あたしは梨華ちゃんのアイシテルの響きだけで

もっと、もっと強くなれるんだから。

梨華ちゃんもそうでいてくれる?

そう聞いたら梨華ちゃんは笑ってこたえてくれるかな。

きっと答えてくれるよね?

なんて、こんな自惚れしてるけど、ヘタレでビビリだけど

梨華ちゃんをアイシテルことは世界で一番誰よりも負けねーから。


「愛してるよ、梨華ちゃん。」

「ひとみちゃん、愛してるよ。」

アイシテルの響き、これからもずっとずっと耳元で囁くよ。
439 名前:名無し飼育 投稿日:2007/10/09(火) 00:59
以上です。
ようがなにが言いたかったというと
いしよしは愛であふれてるといいたかったんです!
では、失礼しました(脱兎
440 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/09(火) 21:55
すっごく「愛」伝わりました。
441 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/10(水) 03:40
あの瞬間はいしよし+ヲタにとって忘れられない出来事ですよね。
作者さんありがとう!またの投稿お待ちしています。
442 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:22
「い…っ、ちょ、痛いよ!」

本来は膝に感じる痛みのはずが不意に足の付け根部分まで不快な鈍痛が響いて、
その痛みの原因となっている相手の肩を里沙は遠慮無しに強く叩いた。

「…ぅ…?」
「足! 痛いんだけどっ」

肩を叩かれたことで起きた里沙の同期で現リーダーの愛が、ムッとした表情で里沙に振り返る。

「…痛い」
「それはこっちの台詞! 怪我してるほうの足を枕にしないでよ…」
443 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:23
コンサートを終えて、夕飯を済ませて。
会場は変わるが、明日もコンサートがあるからと、日付が変わるずいぶん前に部屋に戻ったはずなのだけれど。

ベッドの上で両足を投げ出した状態でいた里沙と、何故か床に座って里沙のベッドに凭れかかっていた愛。
特に会話もなくいたら、いつしか愛は眠ってしまったようで、
ゆるく船を漕いでいた頭が里沙の左足の膝下あたりにかくり、と落ちた。

里沙が自身の不注意で怪我した左膝は、普通に歩くぶんには支障はないが、
無理に曲げようとしたり手でぐっと掴んだりするとかなり痛い。
それが不意打ちに近い状態で与えられた衝撃になると、さほど強くぶつかったわけではなくとも、
油断しているせいで、ほんの小さな衝撃でも左足全部に響いてしまう。

もちろん、長く続く痛みではないから、もう痛くなくなっていたのだけれど、
咄嗟に怒鳴ってしまったので、なんとなく引っ込みがつかなくなってしまった。
444 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:23
「……痛い?」

愛の表情が少し曇って、里沙はハッとする。

「…や…、めちゃくちゃ、ってことは…ないけど」

語尾を濁しながら口篭もると、床に座っていた愛がゆっくり立ち上がって、里沙と向かい合うようにベッドに腰を降ろした。

「…つーか、張り切りすぎたからやろ」
「何言ってんの。コンサートは全力でやるもんでしょうが」
「それはまあ、そうなんやけど。…けど、怪我してるんやから、無理しすぎて明日に響かせるのもアカンと思う」

これ以上ないくらいの正論を言われた気がして里沙は思わず口をつぐんだ。

そんな里沙を見て、愛がそっと左膝に手を伸ばす。

ゆるく撫でさする手は優しく、伝わる体温もやけに心地好くて、
いきなり触れてきたことを咎めることすら忘れ、上下する愛の手の動きをただ眺める。
445 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:24
「痛い?」
「…ううん、痛くないよ」
「こうやって撫でてると、わりとマシやったりせん?」
「…うん」
「あーしも、前に足首やったとき、ガキさんがこうやって撫でてくれて」
「…そうだっけ?」
「ほやで。あれで痛みっておさまるんやなあって、発見した」
「大げさだなあ」

苦笑いで、そして、素直に受け止めるには気恥ずかしいから、ほんの僅かだけ反発を含んで。

「やから、こうやってて、少しでも痛みおさまったらええな、って」
「…うん、ありがと」

素直に謝礼を告げて、腰のあたりに置いていたクッションタイプの枕を自身の前へと持ってくる。
ホテルにありがちな少し硬めのその枕は、足を伸ばした状態で前向きに抱えるとちょうどいい抱き具合になった。
446 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:24
ふ、と軽く息を吐き出して、枕を抱えながら目を閉じる。

「…ガキさん?」
「んー?」
「眠いん?」
「んー、眠いってことはないけど…。でももう」

寝ないと明日もコンサートだもんね、と続けようと目を開けたら、すぐ目の前に愛の顔があって、
里沙はびっくりしながら大きく肩を揺らし、抱えていた枕を愛に押し付けた。

「ちょっ、なに!?」
「…何って、目、瞑るから」
「目閉じたからって、なんでっ」
「…ちゅー、してもええんかなー、て」

押し付けられた枕をもともとあった里沙の腰のあたりに戻し、じり、とまた少し距離を詰める。
447 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:24
「いいワケないからっ。てか、そういうつもりで目を閉じたんじゃないからっ!」

なーんだ、と言いたげに愛が肩を竦める。
それでも詰めた距離を元に戻そうとはしない。

ふたりの間に障害物みたいにあった枕はもうなくて、気まずさで手持ち無沙汰になった里沙の手が軽く握られる。

「……あー、あの、さ…」
「ん?」

返ってきた声は思ったより抑揚がない。

「………やっぱいい。なんでもない」

言おうとした言葉を声にする前に口の中で唱えたらなんだかとてつもなく恥ずかしい言葉になって、思わず突っぱねた。
448 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:25
「なんでー。言いかけたんなら言うてや」
「たっ、たいしたことじゃないからいいのっ」

少しムキになって言ったせいか、軽く握ったはずの手にはチカラが入り、意に反して顔も熱くなっていくのがわかった。

「もう寝よ、ね!」

自分の分が悪いのは歴然で、けれど完全に拒絶するにはちょっとばかり期待なんかもあったりして、強い言葉が出ない。

なのに愛は、言わずにいたはずの里沙の言葉が聞こえていたみたいに、
左腕で里沙のカラダを跨ぐように自分の向こう側へ置いて、里沙の次の動きを阻んだ。

ほっそりしているくせに何故か力強く感じてしまう愛の両腕。
今の自分がその両腕の中に閉じ込められたのだと理解して、里沙の顔がますます熱くなる。
449 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:25
「里沙ちゃん」

直後に耳元に届いた声に里沙のカラダがびくりと跳ねた。

「……ずる…」
「? ずるい? なんで?」

俯き、少し声を震わせた里沙に愛が不思議そうな声で聞き返す。

「……ずるいよ…」

まだ意味がわからないと言いたそうに愛がそっと里沙の顔を下から覗き込むと、
愛が思っていた以上に里沙の顔は赤くなっていて。

目が合って、唇のカタチをへの字に歪めた里沙に状況を悟る。
450 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:26
「…あー…、ひょっとして、名前呼んだから?」
「…っ、なんでこういうときだけカンがいいのさっ」

普段はトンチンカンなくせに、と愛の肩を押し返そうとして、
けれど嬉しそうに口元を緩めて自分を見ているのがわかって、逃げ場がないことを思い知らされる。

「…かわいー」

どこかからかうような口振りに少しばかりムッとなって言葉に詰まったけれど、
このまま雰囲気に流され、なし崩し的になってしまうのはもっと癪で、里沙は思い切って愛の肩に手を置いた。

思いがけない行動に愛の顔つきが僅かに変わる。

置いた手で愛のTシャツを掴み、どうやって顔を寄せようかと考えて……。
451 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:26
けれど自分にそこまでの度胸がないことは充分すぎるくらいわかっているから、
身動きできず、知らずに唇を噛んでしまう。

動けないままで愛の顔を見つめていると、状況を把握したと伝えるように、その口元がまた緩んだ。

「…ほんとに、里沙ちゃんはかわええの」
「…るさい」

くすりと小さく笑われ、悔しくて憎まれ口を叩いたけれど。
里沙の動きを阻むようにあった愛の腕が里沙の背中にまわされ、知っている匂いに柔らかく抱きしめられて気持ちが揺らぐ。

「ちゅーしてもええん?」
「……そーゆーこと、いちいち聞かなくていいからっ」

愛の背中に同じように腕をまわして、いつもの調子で言い返す。
452 名前:ほどける ちかづく かさなる 投稿日:2007/10/15(月) 15:26
密着したカラダが互いの体温と心音とを微かに伝え、また少し笑われたことも気付いたけれど、
里沙の耳元に優しい吐息が触れたせいでそれ以上の思考が鈍る。

「…今日はちゅーだけにしとくな」
「あたりまえです」
「治ったら、いろいろさせてな」
「な…っ!? い、いろいろって…っ!?」

とんでもない要求をされそうでぎょっとなって里沙が顔を上げたとき、それを待っていたみたいに愛の顔が近付いてきた。

「…とりあえず、ちゅー以上のこと」

愛の声が里沙の耳に届くより早く、そしてその言葉に対する反論を唱えるより早く、里沙の声は甘いキスが遮った。




END
453 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/15(月) 15:28
高橋さんの方言のアラは見逃してくださるとありがたいです…orz
454 名前:名無し飼育 投稿日:2007/10/15(月) 21:47
愛ガキ(*´Д`)

いいです
455 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 00:21
すばらしく甘い愛ガキをありがとうございますっ
456 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 01:30
良いねぇ愛ガキ
457 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:02



458 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:03
真上からライトに照らされてよしこの顔には影ばかりが目に付いた。


「例えばさ、今、この瞬間私がこの世界からいなくなったとして困る人間ってどれくらいいると思う?」

「・・・うーん、結構いるんじゃない?」

「はは、何いってんの、ゼロだよ、0。悲しがったりする人はいるかもしれないけど困る人間って実はいないんだよね。」

「・・・そっか、困ると悲しむっていうのはそうだよね、別物だもんね。」

「そ、全くの別物。悲しがる人もごく少数だとは思うけど困る人間なんて一人もいないわけよ。
普通に社会に出て働いてればそれなりの仕事を与えられて困ったりする人間も出るかもしれない。
けど私たちの職業って何?はっきりとしてないよね。
アイドル、アーティストってカテゴライズされてるけどさ、結局そんなのってただの言葉なんだよね。
私達の代わりになる人間なんて腐るほどいるし、そういうのを求めてる人間っていつも新鮮なものを求める。」

「・・・なんか話がややこしくなってきたね。」

459 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:05
「そう?至って普通の当たり前な話だよ。
だって私たちが所属してるこの事務所だって常に新鮮な人材を追加するしOBは地下に追いやられてる。
そしてそれを遠巻きから見てるの人間は新しく入ってきた新たな人材を吟味して楽しむ。
つまり私たちって結局は使い捨てなわけ。
ある一程度の期間が過ぎたらもう引っ込むしかないんだよね。
だからといって誰かが困るといえば困るわけでもなく世界はうまく回っていく。」

「・・・それってなんか悲しいね。」

「悲しいも何も現実でしょう。
ごっちんだってどう思ってる?ソロデビューした当時、正直今の状況って頭の中にあった?」

「・・・よしこ、それって結構きついよ。」

「ああ、ごめんごめん。でもそうでしょ?」

「んあ、たしかにそうだね。けど。」

「何?」

「よしこが今この瞬間この世界から消えたとして悲しがる人間は沢山いる。」
460 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:07

「ん、そりゃあまあいるかもね。」

「困る人間はゼロだって言ったよね。」

「・・・だってそうでしょ?」

「違うよ。」

「・・・何が?」

「困るよ。・・・ごとーは。」
461 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:08
「は?」

「ごとーは、よしこがいなくなったらものすごく困る。
すごく悲しいし、それに加えて凄く困ったりもする。」

「は、なんでごっちんが困ったりすんのさ、別に困る事なんかないでしょう。」

「・・・よしこは全然わかってないよ、何も分かってない。」

「・・・何が?」

「いいから。・・・いいからとりあえずそのナイフこっちに頂戴。」









よしこは素直にナイフを手渡した。それは微かに暖かくてそれはきっと彼女の体温だ。
私はやっぱり彼女に消えてもらっては困ると再確認した。ナイフをそっとケースにしまった。
手のひらには微かに温度が残っていて、彼女は私の目の前で穏やかに微笑んでいた。
462 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:09



おわって
463 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 22:10
リアルタイムごちそうさまでした。
どちらも焦ったりしない特殊な空気はこの二人のもの。
464 名前:いしごま 投稿日:2007/11/01(木) 03:38
数年ぶりに書かせていただきます。
もちろん当時と変わらずいしごまが好きです。
465 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:40
あなたは何も悪くないのに
責められるあなたを見て
何もしてあげられない私は今日も
あなたの胸で眠ってる
466 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:41
「ばかだなぁ……」

呟くあなた
目は虚ろ

朝のスポーツ紙に大きく載った記事
それに向けられた大きな瞳
ただただ読んでいるのか
はたまた何も目には映っていないのか定かではない
467 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:42
もちろん実の姉には直ぐに事務所経由で知らせがあったが
その知らせを彼女が聞いたとき
あたしはそこにいなかった

だからなのか彼女はまるで他人の様なリアクションを
あたしの前でとってみせる

「ねぇ、梨華ちゃんどぅ思ぅ?」
468 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:43
本当は泣いてたくせに
469 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:45
…そんなん言われたって…困る

「………………………」

「ほんと、姉弟揃って親不孝…」

「え?」

そんな事無いよという否定の言葉は直ぐには出てこなかった
470 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:46
「あたしあいつになんかしたかなぁ。。。
 いや、してないからってかしてあげれてなかったからこんなんになったのか…」

「…ごっちん」

「姉貴失格だね。。。ま、いっか」

視線は未だにスポーツ紙
気づいてる?
あたしの目を今日
まだ一度も見てくれてないってこと
471 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:47
「責任…ね」

独り言の様に嘆いた彼女の言葉を
振り払う如く彼女の手から新聞を取り上げる
バサッという勢い余る音と共に
彼女の目がようやくあたしを映した

「…ごめん」

怯える様な顔の彼女に謝る
怒ってなんかないと
ただ

「優しい人だょ…ごっちんは…誰よりも」

何を言ってあげればいいのかわからない
何か言ってあげるべきなのかどうかもわからない
上手く言葉が見つからなくて
472 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:48
笑ってみせる
473 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:50
つられてほんの一瞬彼女が笑った気がした

「…あたし辞めようと思うんだ」
「…………!?!?」

笑みが宙に浮く

「梨華ちゃんには前にもちょっと話したことあると思うけど
 前々から思ってた事でさ、もちろんこいつの事とは関係ない時から
 でもねぇ…タイミングかな?今かな?って…」

「嘘でしょ…?」

苦笑で返される
474 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:51
「あいつは強い子だょ?変なとこあたしに似たからね」

そんな事聞いてない

「手紙書くかな。。。そぅだ梨華ちゃんも一行とかでもいいから
なんかあいつに書いてやってくんないかな?きっと喜ぶから」

「…うん」

続く言葉が出てこなかった
475 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:52
「…ありがとね」

「え?」

「傍にいてくれて」

唐突な言葉
一直線に見つめられた瞳
揺れる世界
476 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:53
揺れる

揺れる
ぐらぐら揺れる

距離が近づく

手が触れる

揺れる
477 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:54
あたしは全てを受け入れるしかなかった

その決心も

その目も

その手も

「好き」
478 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:55
揺れる

揺れる

ぐらぐら揺れる
479 名前:That thing you do 投稿日:2007/11/01(木) 03:58
あなたは何も悪くないのに
責められるあなたを見て
何もしてあげられない私は今日も
あなたの胸で眠ってる

あなたが私の髪を撫でてくれるから
私があなたの背中に腕を回す


〜end〜
480 名前:いしごま 投稿日:2007/11/01(木) 04:00
以上いしごまでした。
リアルネタなので不愉快でしたらすみません。
お目汚しを。。。
481 名前:名無しスクランブル 投稿日:2007/11/01(木) 23:22

リアルネタ フィクション

『れーなのきもち』

482 名前: 投稿日:2007/11/01(木) 23:23


バイバイじゃなかよ・・・

483 名前:?: 投稿日:2007/11/01(木) 23:23
れーなは後藤が去って生気をなくしたステージに呟いた。

「れーな、れーな、楽屋行くって」

隣で同じライブを見ていた亀井がその肩をつついて促した。
文字通り立ち尽くしていたれーなは
折り畳んだシートの上に載せておいたカバンを無造作に掴んで
ポカンとした空気に包まれた客席を振り帰る暇もなく後にした。

484 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:24
同じステージに立てるだけで幸せだった。
れーなにとって後藤はずっとそんな憧れの存在だった。
その後藤が今日を最後にそのステージから降りてしまった。
突然に。本当にれーなには訳のわからない突然の事だった。
485 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:25
『本日 貸し切り』

店の入口のドアに貼り紙が貼られた、
都心だが街から離れた裏通りに面したとあるイタリアンレストラン。
オレンジ色の明かりが漏れ出す店内からは、
がやがやとした話し声が小さく路上まで届いている。
486 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:25
中くらいの広さのレストランである。
店内の壁際に作り付けられたシートで、
後藤は隣の白髪まじりの渋いスーツ姿の男の言葉に頷いている。
その様子を少し離れた丸テーブルに座ったれーなは
パスタの盛られた皿の横に片肘をついて見ていた。
後藤は先ほどの男にかるく頭をさげると席を立ち
テーブル間の通路をれーなの方に歩いて来た。
青い膝上丈のふわりとしたドレスの裾が後藤が歩を進めるだびに揺れて
れーなはその様子に見とれた。

「たなかっち、ちゃんと食べてる?」

急に声を掛けられ

「…は、はいっ!」

慌てて答えた。
そんなれーなに後藤はそっかと頬笑んで行ってしまった。
487 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:26
ヤバい、急に来るっちゃもん、
ありえんくらいアセってしまってなんも言えんかった・・・

他のテーブルでかつての後藤の仲間、
れーなにとっては大先輩である中澤や保田らと談笑する後藤を、
苦々しく見ていた。
488 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:27
「お〜い、そろそろ未成年は時間だぞぉ」

時計が10時をまわった頃、
業界風なダブルのスーツを来た中年の男が店内に向かって叫んだ。

れーなは自分の腕時計を見て、

ぅっわ、もうこんな時間、どーしよー

しばらく食事に夢中になってたことを悔やんだ。
今日を逃したらもう後藤とはしばらく会えないだろう。

慌てて店内を見回すと、
後藤はバーカウンターのいちばん端で右隣の吉澤と話しているようだった。
れーなは迷わずカウンターに向かって歩いていった。
489 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:28
「後藤さん!」

れーな声にカウンターチェアに座った後藤と隣の吉澤が振り向いた。
いつもと違うれーなの様子に、

「あ、あたし遠慮した方が良いよね」
「いえ、そのままでいいですから」

後藤は背の高い回転イスごとくるっとまわってれーなの方に体を向けた。

「なぁに?たなかっち」

後藤と同じ様なふんわりとした素材のクリーム色のワンピースを来たれーなは、
その知らせを聞いてからようやく向き合えた後藤を前に、
思わず涙がこみ上げて来たがぐっとこらえ、話はじめた。
490 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:29
「れーなは後藤さんに憧れてモーニング娘。になって、
 後藤さんと同じステージに立てて、
 ほんとに嬉しかったんです。」

「ん…ありがと」

れーながこんな風に後藤に言葉をかけるのははじめてだった。
いつの間にか頼もしくなった後輩・・・。

「だから……あの…迷惑かもしれんっちゃけど、
 またそーゆー日が来るの、待ってて良いでしょうか?」 

「れーなそれ今言わなくても…

「よしこ…

口を挟んだ吉澤を後藤が制した。

「すいません…でも…あの…・・・

言葉が出て来なくなってれーなは必死で考えた。

れーなが後藤さんに伝えたかったのは何だったっけか?
えーと、えぇーと・・・
491 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:29
「れーな、がんばれ」

いつの間にかれーなの後ろにいた亀井が声をかけた。
道重も、新垣も、高橋も、光井も、小春も、ジュンジュンリンリンも、
その後ろに中澤ら先輩メンバーもみんながその様子を見守っていた。

れーなはその一人一人の顔を見てそれを思い出した。

「何があっても仲間っちゃけん、後藤さん、れーな達みん〜な」

れいなの視線を追って後藤も集まった仲間をぐるっとゆっくり見ていった。
そしてれーなに視線を戻して何か言おうと口を開きかけたが、
すぐに俯いて両手のひらで顔を覆い動かなくなった。

「後藤さん?」
「ごっちん…」
「ごっつぁん…」・・・

その様子を気遣って口々にそれぞれの呼び名を呟いたあとは、
静寂とは無縁の空間が静寂に包まれた。
492 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:30



 ・・・・・・


493 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:30
「もうっ!」

いきなり叫んで顔を上げた後藤の目元は涙でぐしゃぐしゃだ。

「なんでそーゆー事言うかな、たなかっちはもぉ」

顔にまとわりついた髪を掻き上げ泣きながら笑ってさらに怒ってるらしい後藤は、
カウンターチェアからストンと降りてれーなの頭をヘッドロックした。

「痛い!痛いです!!!ごとーさん、ごとーさんて!!!」

「うるさい!このこの!!!」

キンキンわめくいつもよりおしゃれした後輩を、
ギューギュー締め上げるこれまたおしゃれしたキレイな先輩の図。
泣き笑いのふたり。取り囲む人々。
494 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:31


・・・・・・


495 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:32
『答えを出すのは後藤さん自身かもしれんけど、
 一緒に悩むくらいできるっちゃけん、
 いつでも連絡ください』
496 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:32
ハタチ前の後輩と明日仕事のある者が帰ってゆき
くだんのレストランは再びそれらしい雰囲気をとりもどしていた。
そこそこの人の気配、そこそこのざわめき・・・

後藤は夜は使われていないテラス席で夜空を見上げ、
帰り際ハグしたれーなが耳元にそっと残していった言葉を思い出していた。
テーブルには7分ほど入った透明のグラスが置かれている。
497 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:33
ふと背後の床がコトリと音をたて、振り返ると吉澤が立っていた。

「ここに居たんだ、あちこち探しちゃったよ」

「ゴメンゴメン」

「ん、いいけどそろそろここお開きだって。
 中澤さんがほか行くか?って言ってるけどどーする?」

「あー…うん、今日は帰りたい…かな・・・」

「わかった、んじゃそう言ってくるから」

「あ、あのさ…」

その声に引き止められ、
店内に戻ろうと背を向けた吉澤は立ち止まり言葉を待った。

「…一緒に帰ろ?」

「帰るだけ?」

吉澤は後藤の横のテラスに跪いて膝に置かれた後藤の手に自分の手を重ねた。

「ぅ…いじわる……」

俯いてすねる後藤の頬にキスをして吉澤は店内に戻っていった。
498 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:34

2007年、10月も終わりの、ある日ある夜・・・

499 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:34

・・・・・・

500 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:35


・・・・・・

501 名前:: 投稿日:2007/11/01(木) 23:38
後藤さん

あなたがこうする事を選んだ理由は、
表にある言葉だけでは計り知れませんが、
思うのはここのたなかっちと変わりません。

End

※妙な博多弁でごめんなさい
502 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 07:02
すみませんが一言だけ言わせてください
「あいつは強い子だょ」個人的にこの台詞は考えさせられます
ごっちんの将来をだいなしにした「あいつ」が、私は憎いです
妄想小説なのにマジレスほんとにごめんなさい。やるせなくて…。
503 名前:名無し 投稿日:2007/11/03(土) 20:58
強いのはリアル後藤さんですよ
504 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 14:14
愛ガキです。
505 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:14


毎回毎回、さゆの攻撃には参る。
…あーしは、里沙ちゃんとしたいんや。さゆじゃない。
さゆは嫌いじゃないけど、あーしが唇と唇でしたい相手は、ただ1人。



恋人である、相手ただ1人……。


506 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:16



『大好きよ〜。』



ガキさんが、あーしを見つめながら言ってくる。
今度は、あーしが言う番。



『愛してる〜。』



そして、左頬に感じる感触。
…また、さゆにされた。


里沙ちゃん、いい加減いつになったら…あーしにしてくれるん?
このツアーがはじまってから、唇にじゃなくてもキスをしてくれん。
…やっぱ、リーダー・サブリーダーの関係になったから?


あーしが、他のツアーの時にしたキスじゃなくてもええから里沙ちゃんからして欲しい。
そう思うのは…恋人としての我侭やろか?

507 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:17


◇◇


「は〜。」


「なーに溜息なんかしてんの?」


1日で2回あるライブの1回目が終了した楽屋で、溜息をしていたら誰かに声をかけられた。
……あれ?この声って……。


「石川さん??」


「愛ちゃん、お疲れ〜。次もあるんだから頑張ろ〜?って何で溜息してんの?重そうなのを…。」


振り向いたらやっぱり予想通りの人物。
元同じグループに居た先輩で、今は美勇伝のリーダーの石川さん。
…いつ入ってきたんだろう?ノックの音すら気付かなかった。

508 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:17


「あー…。ちょっと色々ありまして〜。」


「ふーん?……何、リーダーになって色々大変だからかな?何か相談だったらのるよ?」


違う。
大変だけど、今あーしが思っている事は個人的な事。
だから、何か言いづらい…。
リーダーなのに、全然違う事をあーしは考えているから…言えない。


「……おまめ?」


「な!?…違いますって!」


ビックリした。
言うのを躊躇してたら、急に今考えてた人物の名前を言われるんだもん。
…え?あーし分かりやすかったか??

509 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:19


「おぉ、ビンゴだ〜。まめの事で悩んでたのか。つまりは恋人の事について…。」


あぁ。ダメだー。
石川さんが想像している通りです。
あーしは今、里沙ちゃんの事で一杯です。
もう、誰かに聞いて欲しくって…。
石川さんだったら大丈夫だろうから相談してみよう…。
…それに、今は皆出かけているのか、あーしと石川さん以外居ないし。…チャンスだ。


「…聞いてくれます?」


「いいよ〜?」


ちょっと、悪いなぁと思いながらも…。
人生の先輩で、同じ環境で恋愛経験も長いこの人なら大丈夫だろうと思って聞く。
……何せ、石川さんの相手は、有名なあの人だからね。

510 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:19


「あの…ラブピあるじゃないですか?」


「あるね〜。懐かしいな〜。」


「あの時にですね、いつもさゆがキスしてくるんですよ。」


「…あぁ、凄まじいよね。愛ちゃんに関してのアレ……。」


あぁ、石川さん…。
それってライブ中の光景を思い出してるんですか?
凄い遠い世界へ意識が飛びだってる気がしますよ…。


「で?」


あっ、戻ってきた。
続き言わんと…。


「り…ガキさんが、あーしにしてくれないんです。」


「ふふ。名前で言えばいいのに。…まめがしないって何を?」


「あーしにキスをです。」


「…それだけ?」


「それだけです。」


目を何度も瞬きして、本当?みたいな顔をしてる石川さん。
…嘘言ってどうするんですか。
あーしの1番の悩みなんですよコレ!!!
ただでさえ、普段から里沙ちゃんからのキスは少ない。
ライブ中だったら尚更の事…!!
だけど、ライブ中だからノリって事で出来るわけで…それをして欲しいわけで…。

511 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:20


「そっか。…寂しいんだ?」


「かもです…。」


「何か分かるな〜。…私も時々寂しかったし、妬いてたしねメンバーに。」


「あの人にですか?」


「そっ。だって皆に人気あるんだもーん。妬いちゃうって…。一応年上だからって我慢してるんだけどね。




「なるほど。……あーしも、我慢はしてるんですよ?ただ…里沙ちゃんから…行動して欲しい時もあって…

。」


「分かる!分かるよぉ!!!」


「石川さぁん!」


「愛ちゃん!!!」


ガシッ


うぅ…。
ここに居たやよ!あーしの気持を分かってくれる人が!
同じ境遇を分かる仲間がいて嬉しいわぁ!!!
…って気付いたら人形劇の様に石川さんと抱き合っていた。

512 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:21


「……何してるんですか?」


はっ!?
こ、この声は………。


「「里沙ちゃん(まめ)!!」」


いつ来たんだろう?
里沙ちゃんは、ケータリングのご飯らしいのを2つ持ってきていて、それを近くの机に置いていた。
…誰かと食べるんやろか??


「えーっとね…。親睦?親睦よ!」


「そうやよ!石川さんと親睦を深めとったんやって♪」


な、何か言い訳がましいけど…。
何か里沙ちゃんの事を話してたって言い難いから言い逃れ…。
ってか、今気付いたけど石川さんと抱き付いたまま、あーしら怖くって下がってるやん!
余計怪しいんやないか!?コレって…。

513 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:21


「へー…。親睦ですか。……抱き合って?」


うぐ!
やっぱりや!里沙ちゃんにそこ気付かれてた!
あぁ、どうしよう!?どうしたらいいですか石川さぁん!?


「えーっとね、まめ…聞いてちょうだいね?」


あ、あかん…。
石川さんが滅多に見られない里沙ちゃんのこの雰囲気に圧倒されとる。
…これは、この里沙ちゃんは…怒っとる。
きっと、あーしが関係してるからやろうけど…石川さんも巻き込んでしまった。


「聞く、聞かないの前に……。」


「ま、前に?」


「………愛ちゃんから離れてください!!」


グイッと引っ張られて、気付いたら石川さんの腕の中だったのが里沙ちゃんの中になっていた。
え?……今、何があったん??

514 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:22


あまりにも一瞬で、
あまりにも普段はされない事だったから理解するのが遅かった。

…里沙ちゃん、ひょっとして焼餅妬いてくれてるんか??
あーしと、石川さんが抱き合ってたから…??

さっきまで、キスをしてくれない。
その事で、あーしは落ち込んでいたけれど…。
里沙ちゃんが普段は行わないような行動をしてくれた事で、あーしって何気に愛されてるんやって思った。


「……まめ。妬いてるの?」


「――なっ!?ち、違いますって!!」


「そんな赤い顔で愛ちゃん抱しめながら言われても…。はー…心配して損したじゃない。」


「だ、だからですね…!!!」


「もう私…楽屋に帰る〜。…愛ちゃん。まめにちゃんと説明しなよ?―――じゃあね♪」


ばいばーい。
そう言って、石川さんは楽屋から出て行った。


……言いたい事を言って、出て行かないでくださいよ…!!!
でも、石川さんが言っていた事は、全てあーしが思っていた事だった。
…妬いてくれてたって思ってええん?
なぁ、期待してもええんか…?里沙ちゃん…。

515 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:23


「……ご飯。」


何か言ってくれるんやろか。
そう思っていた矢先、抱きしめられていた腕を解かれ、言われた事はそれ。
…あれ?でもご飯って…。


「え?あーしに?」


「…他に誰がいるのさ。…愛ちゃんと私の分だよ。」


「…ありがとう。」


何だ。あーしにだったのか。
誰の分だろう…そう思っていたら、そんな結果。
…なんだやっぱり、あーしって何気に愛されてるやん。
これなら、さゆにキスされても…里沙ちゃんにされなくても少しは我慢しようかな。
でも…あーしからするのはええよね?


「…食べながら、ゆっくーり理由聞くからね?」


「ええよ。……その変わり、里沙ちゃんも今後覚悟しといてな?」


「……は???」


今から言う理由は、ただの我侭かもしれん。
里沙ちゃんには、呆れられるかもしれん…けど、あーしはしたい。
それにされたい。

…里沙ちゃんがしてくれるのは当分先かもしれんけど、
あーしは、逆にどんどん攻めて行く事にしたからの?
これからのツアー覚悟してってな?


里沙ちゃんが悪いんやで?
何気ない行動が、全てあーしを好きって言ってくれてるんやから。
だから、あーしも行動するだけや。


あー。何か逆に楽しくなってきたわ。
次の公演からが勝負や♪
里沙ちゃん覚悟しとけやー?

516 名前:はじまり 投稿日:2007/11/16(金) 14:24

終わり
517 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 14:25
何か久々に載せたので変な切り方していたらすいませんorz
518 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 03:52
こいつら可愛いわ
ごちそーさんです
519 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 08:12
ここは良い作品の宝庫ですねー
今回も楽しませてくれてありがとう!GJ!
520 名前:まゆっぽ 投稿日:2007/12/11(火) 03:31
一応いしよしです。

スレ汚しになるかもしれませんがよろしくです。
521 名前: 投稿日:2007/12/11(火) 03:32



━━━━また今日も爪を噛む





━━━━きっと無意識、たぶん無意識

522 名前: 投稿日:2007/12/11(火) 03:33



『爪』




523 名前: 投稿日:2007/12/11(火) 03:33

「あーあ。またやってるよ」


「へ??」


「へ??じゃなくて、つ・め」



無意識に私は爪を噛む。

美貴に言われるまで自分でも気付かない。


「よっちゃんさぁ、爪噛んでばっかいたら深爪しちゃうよ??」



もう何度、深爪したことだろう。


「美貴、知らないからね〜」



右手中指


524 名前: 投稿日:2007/12/11(火) 03:34

━━忘れたい??
━━忘れたくない??
━━忘れられない??




あの人の痕跡を消すために私は爪を噛む。





これは無意識??





だけど爪を噛む度、思い出すのはあの人の事ばかり。


だから、私はまた唇に爪を当てる。


いつの間にか癖になったこの動作。



525 名前: 投稿日:2007/12/11(火) 03:34

噛みちぎった爪を風が連れ去った

年上のあの人は今何してるのだろ


私はまた爪を噛む。
あの人を忘れるため。
私はまた爪を噛む。
あの人を思い出すため。

感傷しきった心には深爪の痛みぐらいがちょうどいい。


526 名前: 投稿日:2007/12/11(火) 03:35





END




527 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 06:18



528 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 06:19

「ねえよしこー」

グラスやら食器やらを洗う音の間を縫ってアヤカの声が聞こえる。
昼食を終え、作ってもらった上に後片付けまでしてもらうなんて申し訳ないよ、というアヤカに後片付けは任せ、彼女の愛犬と戯れ中。
寝転がったお腹の上に犬を乗せて遊ばせながら返事を返す。

「んー、どしたー?」

「もーすぐクリスマスだよねー」

「おー、そーだねー」

アヤカの言うとおりもうそろそろクリスマス。
一日中明るい街は様々なイルミネーションで飾られ一層明るくなり、ふと耳にする音楽もクリスマスソングばかり。もうそんな季節だ。

「よしこさぁ、サンタさんって信じてた?」

洗い物を終えたのか水道の蛇口をキュッと捻る音と共に問いかけられる。
サンタさんか。
小さい頃は信じてたんだけどなぁ。

「ほんの子供の頃はね。今じゃもう」

「ふーん、よしこでもサンタさんとか信じてる時期があったんだ」

顔中を舐めまわす犬を何とかどけて息をつくとアヤカがいた。
何やらニヤついた笑みを浮かべている。何がおもしろいのか。
529 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 06:20
「だから小さい時だって、子供なら誰でも信じるでしょうが」

散々私をおもちゃにして遊んだミニチュアダックスは飼い主の元へ。何だか薄情なやつだ。
アヤカは糸のように目を細めキスをする。心なしか犬の鼻が伸びているような気がする。気のせいか。

「そう言うアヤカはどうなのさ、信じてたの?」

手持無沙汰になってしまった私は体を起こし胡坐をかきながら問いかける。
私の目の前で犬に押し倒されたアヤカはもうなされるがままだ。

「ん〜、中学生になるまでは信じてて、でもそっから信じなくなって、けど何年か前からかな、また信じ始めてる」

「なんだよその自分勝手な信仰は。サンタのおじさんがが可哀そうだろう」

「だってさぁ〜」

歌うように呟いてアヤカは犬と戯れる。何がそんなに楽しいんだか。
アヤカもアヤカだけど犬、ラブもラブだ。もうちょっと私とも遊べよ。足を伸ばして腹の辺りをつつく。
すぐに踵を返して私の元へやってくる。ちょっと嬉しい。
足の間に入れてばんざいをさせる。体が伸びてなんとも微笑ましい姿になる。
しばらく遊んでふと視線を奥へ移すとアヤカと目が合った。
アヤカは優しく笑った。なぜ笑ったのかは分からないけれど私も笑っておいた。

「最近また信じてるんだ、サンタさん」

真っ直ぐに私の眼を見てアヤカは言う。
真面目なのか不真面目なのか、笑っているような笑っていないような顔で。
530 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 06:21
「どうして?いないいよ、サンタなんて。絵本の中の一登場人物だって」

「ううん、違うよ」

アヤカの声は強かった。

「だって、私によっちゃんを出会わせてくれたもん」

アヤカの声は、しっかりと私に届いた。
心の、奥の奥。響いた。

「だからサンタさんは本当にいるんじゃないかな〜なんて」

年甲斐もなく舌を出して笑うアヤカはまるで純粋無垢な子供のようだった。
私には言葉が見つからず、思わず犬を放り出しそのままアヤカを抱きしめるしかなかった。

「ちょっと、どうしたの?」

落ち着け、落ち着こう。
アヤカの手はあやす様にゆるりと私の背中を撫でている。
深呼吸する。言葉を吐く。

「うん、いるよ、サンタさんはやっぱりいるよ、アヤカの言う通りだよ、サンタさんは本当にいるよ」

「どうしたのよっちゃん、さっきと言ってる事がメチャクチャ」

「うん、でもサンタさんはいたんだよ、だって私にアヤカをくれたもん」
531 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 06:21

苦笑が張り付いたままの顔でアヤカの腕はピタッと止まり、コマ送りで視線が動く。
カッチリ視線が合った瞬間に、思いっきり抱きしめられた。
膝立ちのまま抱きあう私達をラブは首をかしげて眺めている。
今日くらい見せつけてやってもいいか。
唇にキスをして、耳元でそっと囁く。

「今年のクリスマスプレゼントは、何が欲しい?」

「聞かなくてもわかってるくせに」

顎を引いてアヤカははにかむ。
まあ、わかってるけどさ。

「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」

「わかってるでしょ」

おでこをくっつけて笑い合う。
特別欲しいものなんてないけどさ、二人で過ごせたらそれはきっと最高に素敵な日になると思うんだ。
だって私たちはお互いにとってのサンタさんでありプレゼントだしね。
付けっぱなしのテレビから流れてくるのはクリスマスソング。
画面いっぱいに映る真っ白なケーキに向かってラブが吠えた。




532 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 06:22
終われ
533 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/17(月) 01:27
むしろつづ・・・いや、なんでもないありがとう
534 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 01:59

間に合わんかったが・・・
えりりんおたオメ&メリクリ
535 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:00
大きいため息は寒空の下、すぐに消えて行ったけれど
絵里の心のモヤモヤはこれっぽっちも消えなかった。

「すっごく、たいくつーーー」

そう呟いて、大きなバルコニーから明るい部屋の中を覗いたけれど
里沙はどこかのエライ人とまだ談笑してるし、愛はその後ろで相変わらずニヤニヤしていた。

―つまんない。
 こんなパーティーなんか、出てきた豪華な食事がなくなったらすぐにお開きにすれば良いのに・・・


絵里はこの会場に来てからずっと「亀井の娘の絵里です。」と自己紹介を繰り返していただけ。
あとは里沙がおじさん達と難しい話をしている横で、愛想笑いを浮かべて聞いているフリをいただけ。

新垣里沙は仕事で海外に行ったまま帰ってこない両親の代わりとして、亀井財閥の日本法人代表として
絵里と一緒にこのパーティに出席している。

もう一人、一緒に参加している高橋愛は亀井財閥要人SP。
しかし、その愛は里沙ばっかり見ていて、たまに目を逸らしたかと思うと難しい顔して会場内を見渡している。
まったく絵里にはかまってくれない。
536 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:02

―愛ちゃんはえりのボディーガードでしょ?
 えりが一人で真っ暗なバルコニーに出てるのに、ほったらかしってありえなくない?!
 ガキさんもわけわかんない話ばっかりしてないで、えりがわかる話題をふってよぉ!
 ほらほらぁ〜・・・亀井財閥の一人娘、絵里ちゃんがお金目当ての悪者に攫われちゃっても知らないぞ!!

全身クネクネしながら、部屋の中の二人に無言のアピール。

「・・・・・・・。」

反応ナシなのでクネクネ度UPしてみる。

「・・・・・・・。」

反応まったくナシなので、アホらしくなってがっくりうなだれた。
その瞬間、真後ろから掛けられた声に絵里の体がビクンとはねる。

「なにしとうと?」
「うぇぇえっ!?」

勢い良く振り返ると、バルコニーの手すりにもたれながらクスクスと笑う女の子。

「ため息ついたと思えば、いきなりクネクネしよーし。なん?」
「ぅえぇぇっと・・・・。」

絵里はまさか人がいるとは思っていなかったのでうまく切り返せない。

―うわぁっ!恥ずかしいっ!あの動きを見られてたなんてっ!!

自分の顔が熱くなのを感じながら、ゆっくり歩み寄ってくる女の子から目が離せない。

―え?!なに?ってか、誰?この子。なんでこんな若い子がおっさんばっかりのパーティーにいるわけ??
 ってか、えり達も若い女の子か・・・。

と自分にツッコミを入れている間にその女の子は絵里の目の前まで迫ってきていた。

「っえっと・・・。ぁ、はじめまして・・・亀井絵里・・・です。」
「ぁあ・・・こちらこそ、はじめまし・・・っ!」

どうして自己紹介が途中で途切れたんだろう?
そう絵里が思った時にはすでに結果が出ていた。
537 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:03

絵里の目の前には、女の子の背後からその首筋に小型のナイフを突き立てる愛。
絵里を庇う様に、絵里と女の子の間に立ちはだかる里沙。
そして女の子の右手にはナイフと、その手からゆっくりと流れ落ちる赤い血。

「すごいっちゃね。投げられたナイフに気をとられとぉ瞬間に、背後をとられたっちゃん。」
「余裕ぶっとるけど、アンタ、絶体絶命の状況やってわかっとるんやろ?」

いつもより数段低いトーンの愛の声に、絵里は恐怖を感じてしまう。
任務を遂行する時の愛が纏う雰囲気はいつまで経っても慣れない。

「ってか、アナタ、何者なのよ?パーティーの出席者じゃないでしょー!」

ナイフを投げたと思われる里沙が一歩前に進んで、女の子の顔を覗きこむ。

「ちょっと、ガキさん!なんで決め付けるのよぉ〜。どっかのエライ人の娘さんかもしんないじゃぁん!」

いつも冷静な里沙らしくない短絡的な決め付けに、絵里はちょっとだけ腹が立ったので
ほっぺたをふくらまして反論してみた・・・が、あっさりと反撃をくらわされてしまった。

「そーんなわけないの!私と愛ちゃんは、このパーティーの関係者の名前と顔をすべて把握してんだから!」
「その中にこんな女はおらんかったがし・・・アンタ、何者や?」

愛はグイッとナイフを首筋に近づける。
その切っ先は女の子の肌に触れている。

「ちょっと、愛ちゃん!危ないって!首!首っ!!」
「えり、うるさいがし!」
「で、何者なの?そして、何が目的で絵里に近づいたのよ?!」
「・・・・・・・・・・・・。」

前歯を見せてにししと笑う女の子は、笑う以外に言葉は発しない。

しばしの沈黙が4人の間を埋めていく・・・。
538 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:03

極度の緊張感の中、ナイフを握る愛の右手が汗ばんでくる。
愛は静かに息を吐き、そっと握り直した────とその瞬間・・・

愛の腕の中にいた女の子はすばやく身をかがめると同時に振り返り、愛の右手を蹴り上げた。

愛が握っていたナイフは高く宙を舞い、その行方を里沙と絵里は目線で追いかけた。

愛が右手を反対の手で押さえながら振り返ると、バルコニーの手すりの上には女の子の優雅な立ち姿。

「ちょ!テメー!!」

里沙には愛がちょっとお下品なお言葉使いをしたように聞こえたが、
事態が事態なだけにスルーして、対処する。

「ちょっと!逃げるわけ?!」
「いや、こんなに追い詰められよったら逃げるやろ、フツー。」

とか言いながらも、女の子の顔に切迫感は皆無。
またにししと笑った。

「んじゃ、またねーーー♪」

軽く敬礼ポーズをした後、勢い良くバルコニーの向こう側へと飛んで
女の子は暗闇の中へ音もなく消えていった。

愛と里沙は女の子が飛び降りた場所へ駆け寄って、下を覗き込んだが
すぐに体勢をもどして顔を見合わせた。
539 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:05



***************


540 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:06

今日の夜は早く寝たかったんだよねぇ・・・。

ただでさえパーティーは疲れるのに、今日はそれに加えて変な事があったし・・・。

―変な人に出会った。

そりゃぁさぁ・・・
お金持ちと言う身分柄、学校帰りに変な人に後をつけられたり、襲われそうになったり・・・。

危険な思いはいっぱいしてきたけど、その度に愛ちゃんとガキさんに助けられてきた。
怖い思いはいっぱいしたけど、愛ちゃんとガキさんがいてくれたからそんなに気にしてない。

なのにさぁ・・・
今日の二人はおかしいよ?
541 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:07
「あのさぁ・・・えり大丈夫だからさぁ・・・二人とも出てってくんないかなぁ?」

絵里はうんざりしながら自室のベッドの上から愛と里沙を見下ろす。

「いや!今日はここで寝るがし!」
「だからって、ふとんはひとつじゃなくてもいいんじゃない?愛ちゃん・・・。」

絵里のベッドの傍らには、一組の布団。
その中で愛に羽交い絞めにされながらも突っ込む里沙と、その行動には似つかわしくない真剣な表情の愛。

「今日の謎の女がまたえりのところへ来るかもしれんやろ!心配やから、今晩はここで寝るがし!」
「だからって、あたしのこと抱きしめなくてもいいんじゃない?愛ちゃん・・・。」
「うん、そうだね。愛ちゃんはガキさんをわざわざ抱きしめなくてもいいし、ここで寝る必要もない。」
「なんでや!?あーしはえりのぼでぃがぁどやよ!」
「ぐぇっ!ぁ・・・愛ちゃん・・・。」

愛は思わず大声をだしたもんだから、その勢いで腕にも力が入る。

「だってぇ・・・今日のこと心配してるのかもしんないけどさぁ・・・えり、別に襲われたりなんかしてないんだよ?」
「それはね、カメ・・・アンタが襲われる前にあたし達が気づいたからでしょ?!」
「そうや!アイツは只者やないで・・・。油断できんって!」
「とーにーかーくー!出てってくださーーーいっ!」

絵里は愛と里沙がもぐりこんでいる布団を引っ剥がして部屋の外に放り投げた。
あわあわと廊下まで掛け布団を拾いに行く二人に枕を投げつけて、敷布団にローキックかまして、
最終的には自室の扉を硬く閉ざしてしまった。

「あちゃー・・・追い出されてもうたがし・・・」
「愛ちゃんが真面目に説得しないからじゃないの?」

里沙はじと目で愛を睨みつける。
そんな視線にはお構いナシといった感じで、里沙の腰に腕を回す愛

「いや、あーしのせいではないがし。」
「だから、その動きがダメなんだってば!」

里沙は愛の顔面を正面から枕で殴りつけた。
542 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:08

一方、部屋の中ではベッドの上でゴロゴロころがる絵里の姿が。
右へゴロゴロ、左へゴロゴロ・・・大きいダブルベッドではあるが、大人一人が転がるには少々小さいようである。

―なんでだろ・・・えりはなんであの女の子のこと庇うんだろ・・・

昔から、愛と里沙が言うことには素直にしたがってきた絵里だったが、今日のあの女の子に関しては納得ができない。
二人がいくら警戒しようとも、絵里自身にはまったく危機感がわかなかった。

―あんな笑い方する人が悪い人のはずがない・・・

「って、言っても愛ちゃんもガキさんもぜーんぜん、えりの言うこと信用してくれないんだもんなぁー・・・」

絵里は仰向けのまま抱きしめていた枕を壁に投げつけた。

―あの子・・・「またね」って言ったよね・・・

最後の瞬間、投げかけられた言葉を鮮明に思い出した絵里はガバッと上半身を起こした。

―“また”っていつ?

なんの確約もない約束に身も心も脱力して、壁際に転がる枕にバフッと顔を埋めた。

「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

枕から顔を上げずに苦悩の叫びを上げる。

―会いたいよ会いたいよ会いたいよ・・・・なんだかわかんないけど、あの子に会いたい・・
543 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:09



***************


544 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:10

「むぅぅぅ・・・・・・寝れない・・・・・」

絵里は真っ暗な部屋の中、むくりと体を起こす。

扉の向こうから愛と里沙のひそひそ声が気になって眠れない。
いや、こんなことはよくあることだ。
いつもなら隣の部屋から二人の妖しい声が聞こえてきたって、
ベッドが激しく軋む音が響いてきたって、気にせず深い眠りについている。

だけど今日はまったく眠れる気がしない。

―昨日はえりの誕生日だっていうのに・・・散々だったなぁ・・・

時計の短針は頂上を越えて、大きく傾いている。
24日の午前2時あたりだろうか。

絵里はもぞもぞとベッドから這い出て、扉のノブに手を伸ばした。

勢い良く開かれた目の前の扉が発した音よりも大きな声を上げて驚いた愛と里沙

「「ぅおおっ!!」」
「何してんのよ、こんな所で・・・」

パジャマ姿で見下ろす絵里の視線の先には一組の布団の中で上下に折り重なる愛と里沙

「い、いきなりどうしたのよ!カメぇ?!」
「何してるって・・・廊下は寒いから温めあってたがし。」
「あたたたためたたてたって、うぉおい!愛ちゃん?!」
「ガキさん、動揺しすぎで言えてないし・・・」
「えりは何しとるんや?」
「・・・・・・トイレ。」

アホな二人の横をすり抜けて、トイレに向かおうとした絵里の足首がグッと掴まれる。

「愛ちゃん・・・離してよ・・・」
「一人で行くんは危ないがし。あーしも一緒に行く!」
「大丈夫だってば・・・それに、愛ちゃんが服着るまでえり待てない。」
「ぉおっ!なんでや!里沙ちゃん!なんであーしは服着てないんや?!」
「ぁ・・・愛ちゃん・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
545 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:11

―ったく・・・あの二人は本気でえりを守る気があんのかぁ?

なんて心のなかで悪態つきながら、一人でトイレに向かう絵里
ため息をつきながら扉を開けて、6畳ほどの広さのトイレに入って後ろ手に鍵をかける。

「よっ!」
「ふぇっ?!」

人の声が聞こえたから反射的に顔を上げると、便座の上にヤンキー座りで笑っている、あの女の子。

「っ!!!!!!!!!」

あまりにも唐突で、心の準備ができていなかったから大声を上げてしまった。
と思ったら女の子に口を塞がれていた。

「んーーーっ!!んーーーーっっ!!!」
「しぃーーーーっ!!声、出したらあかんって!なんもせんし!」
「・・・・・・・・・・・ん。」

小声でしかられたから、絵里は素直に頷いた。
すると女の子はすぐに絵里の口を塞いでいた手を離して自由にした。
絵里は大きく息を吸い込んだ後、すぐ傍にいる女の子の顔を覗きこんだ。

「・・・・・・なんでこんな所にいるの?」
「あー・・・その前に、れなからいっこ質問していい?」
「・・・・・・うん。」

絵里としてはいろいろと突っ込みたいのだが、会いたかった相手のペースに任せる事にした。
546 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:12

「あのー・・・えりってさぁ・・・サンタさんて信じとる?」
「ふぇっ?!」
「いや、だけん・・・クリスマスにやってくるサンタさんの事。」
「ぁあ・・・いや、別に。」
「やんなぁ・・・えりもう19になったんやもんなぁ・・・信じとるはずなかよなぁ・・・」

絵里のその答えを聞いて、ほぅーとため息を吐き出しながら胸をなでおろしている女の子。

「いや、何のことだかさっぱりわかんないんですけど・・・」
「あぁ、そりゃーそうやんね。あ、れな、こういうモンなんやけど・・・」

と言って女の子は上着のポケットの中から一枚のカードを取り出して、絵里の前へ差し出す。
それは白くて手のひらサイズで・・・名刺のようで・・・。

「んと・・・・・・タ・・・ク?・・・ヒカリ・・・運送?取締役・・・田中れいな?」
「田久光運送。」
「タクミツウンソウ?」
「そ。ちっさいながらも運送会社、経営しとーよ。」
「“どんなものでも どこへでも あなたの荷物 運びます”」

名刺の一番上に小さく印刷された文字を声に出して読んだ後、顔を見上げると
女の子―“田中れいな”はにししと笑って頷いた。

「やけん、れなはえりに荷物を届けにきたと。」
「荷物・・・??」
「そ。海外にいらっしゃる、えりのご両親からの荷物。」
「おとーさんとおかーさん?」

訳がわからない。
荷物なら会社経由で送ればいいじゃない?
昨日の朝に届けられた、絵里への誕生日プレゼントみたいに・・・。
547 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:13

「なんで?なんでアナタが持ってくるの?しかもこんな夜中に・・・」
「あーー、それにはふっかぁぁーーーーい理由があると。」
「・・・・・何?」
「えり、つい最近おかーさんにクリスマスプレゼントの話したやろ?」
「えー・・・したっけなぁ?」
「覚えてなか?」
「んむぅ・・・・・」
「まぁ、そん時にえり“今年は日本に一人で居残ってイイ子にしてたから、サンタさん来るかなー”って言ったと。」
「あぁ・・・なんとなく思い出したかも。」
「したら、ご両親、“絵里はまだサンタさんを信じてる!”って思ったらしく・・・」
「はぁ??」

日本に一人残して寂しい思いをさせているかわいい一人娘は、まだサンタを信じている・・・
だったらその夢を叶えてやろうじゃないか!

「そう思ったらしく、ウチに依頼が来たと。」
「事の経緯はわかったけどさぁ・・・なんで普通の運送屋さんじゃダメなわけ?」
「今回のミッションの最大のポイントは“誰にもバレずに絵里の枕元にプレゼントを置く事”やけん。」

真剣な表情で人差し指をピッと立てて、まっすぐ絵里を見つめるれいな。

「でも、失敗してんじゃん。」

絵里の鋭い一言に、ハッと目を見開いてがっくりとうなだれるれいな。
が、すぐに顔を上げて絵里の両肩を掴む。

「やけど、それには条件があったと。」
「条件って、どんな?」
「えりが本当にサンタを信じとったら、って条件。」
「何それ?」
548 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:15

「いや、れなたちも今回の仕事にあたっていろいろと調べたんよ。
 えりのこの家の事とか、いっつもえりと一緒にいるあの二人の事とか・・・」
「うん。」
「家に侵入するのは簡単そうやったけど、問題はあの二人っちゃん。」
「まぁ、確かにあの二人はいろいろと問題ありだねぇ・・・」
「やろ?やたらめったらツッコミ入れる豆っぽい人と、やたら動きが俊敏で凶暴なサルっぽい人。」
「・・・・・・・・。」
「とっ・・・とにかく、その二人をどうにかするのは不可能っぽかったけん、えりのご両親に相談したと。」
「うん。」
「あの二人には、今回の件バレても仕方なかやろ?って。」
「そしたら?」
「そしたら・・・あの二人は演技が下手やけん、えりにバレてしまうって・・・。」
「あー・・・確かに。あの二人、嘘つけないもんね・・・。
 サンタじゃなくてあの二人がえりの部屋に入ってきてプレゼント置いたと思うな、えり絶対。」
「やろぉ?やけん、れなは“えりが本当にサンタを信じていたら、どんな手を使ってでも
 あの二人にバレないように任務を遂行します”って条件を出したと。
 “もし、そうじゃなかったら普通に渡します”って。」
「はぁ・・・。」
「でぇ!えりが出席するパーティーに忍び込んで、サンタの話を聞こうと思っとったらあんな事になったけん・・・」
「こんな所で悩んでた、と?」
「そう!」

れいなは明るい笑顔でビシッと絵里を指差す。

「一応、あの二人組対策も考えとったっちゃけどねぇー・・・・うまくいかんかったっちゃねぇ。」

腕組みをして悔しそうな表情をしてみるも、すぐにあの笑顔に戻る。
549 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:16

「対策って、何したの?」
「え?あぁ・・・パーティーの時、あの二人の飲み物に媚薬入れたっちゃん。」
「び・・・びやくぅ??」
「そう。飲むとムラムラしてしまう媚薬。」
「何をどうしようと思って、び・・・びや・・・えっと、ソレを入れたのよ?!」
「へ?あの二人、デキとるっちゃろ?」
「ぅ・・・ぅん・・・まぁ。」
「薬飲ませたらムラムラして、今晩はえりの護衛どころやなくなるかなーと思って。」
「はぁ・・・」
「そしたら、思惑通りに行ったは行ったっちゃけど、まさか絵里の部屋の前であんなことになるなんて・・・ねぇ?」
「いや、えりに同意を求められても・・・・」
「ま、あの二人の事はいいとして・・・ハイ、これ。」

れいなが差し出してきたのは、赤と緑のクリスマスカラーの包装紙に包まれた小さな四角い箱。

「ご両親からのクリスマスプレゼントっちゃよ。」
「ぅん・・・。」
「じゃぁ、れなはあの二人の薬の効き目が切れる前に退散するったい!」
「ぁ・・・あのっ!」
「ん?」

あっさりとこの場を立ち去ろうとするれいなの笑顔を見るのがなんだか辛い。
辛いからドアのノブに手をかけるれいなを思わず呼び止めてしまった。

「なん?どうしたと?」
「あのっ・・・。」

―あぁっ!何が言いたいのか、えり自分でもわかんないよぉっ!

俯いてクネクネしている絵里をポカーンと見つめるしかないれいな。
そんなれいなを現実に引き戻したのはズボンのポケットに入れていたれいなの携帯電話だった。

「あ。電話・・・ちょっとストップ。」

れいなは絵里のクネクネを手で制してから、携帯電話を耳に当てた。
550 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:17

『もしもし!みっつぃーですけどぉ!ちょぉー、田中さぁん、今どこにいはるんですかぁ??』
『たーなーかーさぁぁぁーーーんっ!!小春、寒い!めっちゃ寒いんですけどぉおおぉぉおーーーっっ!!!』
『もぉぉ〜、小春さん!耳元でうっさいですよぉ・・・』
『寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い小春めっちゃ寒い寒い寒い寒い寒い・・・・・・・』
『田中さん?!聞こえてます?ウチらもう次の配達先まで来てるんですけどぉ・・・』
『寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ寒いっ・・・・・・・・・』
『田中さんが来てくれはらへん事にはどーにもならんのですけどぉ!!』
『寒いっ寒いっ寒いっ寒いっs(ry

   ピッ


れいなは無言で通話終了のボタンを押した。
551 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:18

「え?いいの?電話・・・・。」

電話口の二人の声があまりにも大きくて絵里にまでその内容が聞こえていたので、ちょっと心配してみたのだが・・・。
苦笑いで、大丈夫とだけしか答えないれいなだった・・・。

「と、言う訳で・・・次の仕事がありますんで、れなこの辺で失礼させていただきまーす!」
「だから、あの!!」

今度は声だけでなく、れいなの上着のすそを引っ張って引き止める絵里

「だけん、なんね?」
「あの・・・・えりも・・・れいなに配達を頼みたいんです・・・けど」
「えっとー・・・それ、急ぎ?」
「いや、あの・・・急いではないんですけど・・・」

れいなはドアノブから手を離して、引っ張られるままに絵里の方へもう一度歩み寄る。
れいなが近づいてきてくれることに恥ずかしくなって、余計に俯いてしまう絵里。
しかしその声は先ほどよりもはっきりとれいなの耳に届いた。

「れいなからえりへのクリスマスプレゼントを・・・配達・・・してくだ・・・さい・・・」

言っている途中から、恥ずかしくって最後の方はやっぱり小声になってしまった。

「ぷっ・・・」

一瞬の沈黙の後、れいなは軽く吹き出して笑った。
552 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:19

―やっぱり言うんじゃなかった!!

絵里は身を小さくして、自分の発言を後悔した。
でももう言っちゃったものは取り返せない。
俯いて涙をこらえて・・・・・・れいなの上着をつかんでいた手を離した。

すると、絵里の頭に柔らかな感触が2回。

絵里がゆっくりと顔を上げるとれいなの笑顔。
そして絵里の頭の上にはれいなの右手。
そこで初めて絵里はれいなに頭を撫でられたのだと気づいた。

「なん?絵里はまだプレゼントが欲しいと?」
「まだじゃなくて、れいなから欲しいの!」

恥ずかし過ぎるのを通り越して、開き直った絵里は若干逆ギレ気味。
そんな絵里の様子など意にも介さず、にししと笑うれいなはグイッと絵里を抱き寄せた。

「ふぇっ?!」
「今は時間がないけん、とりあえずコレで我慢してほしいっちゃん。」

れいなは絵里の耳元でそうささやいた後、抱きしめていた体勢を少しずらして───


───絵里の頬にキスをした。



「ちゃんとしたのは、また後日届けにくるけん!」

そう言って、れいなはにししと笑ったまま行ってしまった・・・。
553 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:20



***************


554 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:21

絵里はボーーーーっとしたまま、自室の前まで戻ってきた。
いまだ裸のままの二人は絵里が目の前まで戻ってきたのを確認してから、布団の中から声をかける。

「ちょっと、カメ!どうしたの?!ボーっとしちゃって・・・」
「なんや、長かったなぁ。もしかして大き「コラーーーーーッ!愛ちゃん!女の子でしょーーーーがっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・ぅん。」

絵里は視線を二人に向けることなく一言呟いて、部屋の中に戻っていった。

「なんや、やっぱり大き「コラーーーーーッ!!」
555 名前:えりりんおたオメ 投稿日:2007/12/24(月) 02:23

***************


その夜

絵里はれいなの唇が触れた頬に手を当てながら

深い眠りについた。


***************

                Happy Birthday & Merry X'mas to Eri

***************
                                END
556 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 20:31
いいね

脇の愛ガキが特にw
557 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 21:00
愛ガキがいいw
558 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/28(金) 23:19
>>556サマ
ありがとうございます。
愛ガキは脇役なのでアホにしてみましたw

>>557サマ
ありがとうございます。
って愛ガキだけぇぇええ?!

れいな推しの自分としては複雑ですがw
愛ガキ人気のようなので、可能なら愛ガキsideに挑戦してみたいと思います。
559 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 02:20
愛ガキ、れなえり最高♪

愛ガキとれいながカッコイイです。

愛ガキSideとれなえり続編お願いしますW
560 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 02:38
愛ガキ来ますかっ!!
おぉ…期待して待ってもいいのですか?w
561 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 08:16
>>559サマ
ありがとうございます。
あら!れいなも?うれしいw
愛ガキ&続編、妄想がんばってみます!

>>560サマ
正月休みに妄想投下したいなぁと思ってはいるんですが…ご期待ください?!
内容にはあんまり期待しないでくださいねw
562 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/02(水) 18:05
>>535-555 の愛ガキside
よろしければどうぞ
563 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:06

「やからぁ!今日は絵里の部屋で寝るんやって!」
「わかった!それはわかった!だからこの手を離してってば!」

亀井財閥の一人娘・亀井絵里の部屋の隣室で押し問答しているこの二人
亀井財閥日本法人の若き代表者・新垣里沙
そして絵里と里沙のSP・高橋愛

「絵里も心配やけど、里沙の事も心配しとるんやって!」
「それはわかるけど、どーしてここを引っ張ってるのよっ!」

大きめのベッドの上、真剣な表情で里沙のネグリジェの裾を引っ張る愛

「ん?・・・なんか気になったから・・・」
「何が気になるのよ!!」
「ほら、今日の変な女、おったやん?」
「パーティーに忍び込んできた、あの子?」
「そう、あいつ」
「あの子と愛ちゃんのこのいやらしい手と、何の関係があるって言うのよ?」

ぐいぐいと引っ張る愛の手首を掴んで、里沙は問いかける

「ほやからー、あいつが里沙ちゃんのネグリジェの中に忍び込んどったらアカンがし!」
「忍び込むかーーーーーい!!」
「いや、わからんがし!調べるがし!!」
「あほーーーーー!!!」

愛は空いている手で里沙の肩を掴んで、体ごとベッドの上に押し倒す

「コラーーーーーッ!?」

その勢いで、里沙のかわゆいネグリジェが一気にめくりあがる

「のぉぉーーーーー?!」
「むむっ!」
「なぁに?!ちょっと!愛ちゃん!!」

下着とお腹が丸見えの状態で押さえつけられている里沙
そんな里沙を見下ろしながら急に動きを止めた愛は、何やら難しい顔をして小さく唸っている
564 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:08

「里沙ちゃん・・・」
「いないから!私のネグリジェの中に誰もいないから!離してよぉ!」
「いや・・・まだ、いないとは決まったわけやないがし!」
「あほかーーーっ!愛ちゃん、真性のあほでしょっ?!」
「ここが・・・怪しいがし・・・」

ネグリジェを掴みあげていた手を離し、今度はゆっくりと里沙のかわゆい下着に近づける・・・

「あ!あああ愛ちゃん!あほ!バカ!スケベ!変態!そんなところに人がっ・・・いるわけないでしょーーーーーっ!!」
「っ!!いったぁ・・・」

愛が痛みを感じた方へ視線を移すと、肩を押さえつけていた手に噛み付いている涙目な里沙

「里沙ちゃん・・・それはちょっと痛いがし・・・」
「・・・・・・・・・・」

涙目をグッと閉じて、さらにその歯に力をこめる里沙

「・・・・・ごめん」

愛はそう呟いて押さえつけていた手の力を抜いた
乱れたネグリジェもそっと元に戻した
そこでやっと、里沙の目がうっすらと開けられて、愛の手は里沙の口から解放された

「ごめん、里沙ちゃん・・・ちょっとやりすぎたみたいや・・・」

愛は横たわる里沙の上に体重をかけないように覆いかぶさって、少し紅くなっている里沙の頬に唇を落とした

「酷いよ・・・」
「ん。ごめんて」

乱れて里沙の顔にかかる髪を優しく掬い上げて、涙のたまった目じりに唇を落とす
565 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:10

「愛ちゃんはいつも強引だけどさ・・・今日は・・・なんか怖かった・・・」
「ごめんてぇ・・・」

里沙の歯型少し残った右手で里沙の唇を優しくなぞっていく
その感触に里沙が目を細める

「ん・・・」
「里沙ちゃん・・・かわいい・・・」

小さくこぼれた呟きに誘われるように里沙の目線が愛を捕らえる
まっすぐ見下ろす愛は先ほどとは別人かのように柔らかく微笑んだ

「愛ちゃん?」
「今日の里沙ちゃんは特にかわいい・・・やから、つい・・・ごめんな?」
「うん・・・私もごめん・・・思いっきり噛んじゃった・・・」

まだ里沙の唇の上で遊んでいる愛の右手を掴んだ里沙は、自分がつけた傷にくちづけた

「里沙ちゃん・・・」

遠慮がちに出された里沙の舌が傷の上を這う
愛の背中に心地よい寒気が這い上がる
そしてもう一度、今度は優しく愛の肌に里沙の歯がつきたてられる
愛の胸の中心が何かに突き刺される

「っ・・・り・・・りぃさぁちゃぁぁあああんっっ!!!」
「のわぁぁあああっっ!!!」

愛は自分の体を支えていた腕を里沙の背中に回して勢い良く抱きついた

「愛ちゃん!ちょっと!ストップ!ストップ!!ストーーーーーップ!!!」
「アカン!止まらんがしっ!!」
「ダメだってば!カメの部屋に行くんでしょーが?!」

その一言に愛の動きがピタッと止まる

「あ。ほーやった」
「まったく・・・」

よっこいしょなんて言いながら起き上がる愛を見上げながら里沙はため息を吐きだした
愛は立ち上がって自分のナイフコレクションを収納している引き出しを開けて
「今日はどれを持って行こーかなー」なんて嬉しそうに眺めている
里沙はその後ろ姿を眺めながら、ふと先程の自分の行動を思い返してみる
566 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:11

──さっき・・・一瞬だけだけど・・・自分が自分じゃないような気がしたんだけど・・・

「里沙ちゃん、お待たせー♪」

ゴキゲンな愛の呼びかけで里沙の思考は中断されたが、すぐにまた引き戻された

「さっきの里沙ちゃん、エロかったがし♪」
「っ!!!ぁ・・・愛ちゃん!!!」
「んふふ〜♪」
567 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:13



************



568 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:14

「と、言うわけで今晩はここで警護させてもらうがし!」
「え・・・」
「愛ちゃん、説明が不十分だから・・・」
「そうか?」
「そうだよ」
「もしかして、ガキさんと愛ちゃんは今日のパーティーの事、心配してるの?」

絵里の自室
ベッドの上では呆れ顔の絵里
その傍らには真面目な顔していちゃついているようにしか見えない夫婦漫才コンビ一組

「あのさぁ・・・えり大丈夫だからさぁ・・・二人とも出てってくんないかなぁ?」
「いや!今日はここで寝るがし!」

粘る愛
呆れる絵里
愛に弄ばれているだけの里沙

結局、軽くキレた絵里に部屋を追い出されたエロ漫才コンビ一組

「あちゃー・・・追い出されてもうたがし・・・」
「愛ちゃんが真面目に説得しないからじゃないの?」

里沙はじと目で愛を睨みつける。
そんな視線にはお構いナシといった感じで、里沙の腰に腕を回す愛

「いや、あーしのせいではないがし。」
「だから、その動きがダメなんだってば!」

里沙は愛の顔面を正面から枕で殴りつけた。

「ぐへっ!」
「愛ちゃん、今日おかしいって・・・いや、おかしいのはいつもか・・・」
「失礼やのぉ。あーしはいつでも真面目やって」

顔にめり込んだ枕を整えながら愛は反論する

「いやいや。愛ちゃんは真面目でもないし、今日はやっぱりおかしい」

キリッとした眉毛をさらに強調しながら里沙は愛の顔を覗きこむ

「そんな事言うたら、今日の里沙ちゃんやっておかしいで?」
「なっ・・・なぁんで?」
「さっき、自分からキスした」
「っ・・・ぅぇええ?」
「いっつもはそんなことせーへんのに、さっきあーしの手に自分からキスした」
569 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:15

悪戯っぽく笑った愛はまだ少し赤く残っている手の傷を自分でチロリと舐めた

「っ〜〜〜・・・」
「今日の里沙ちゃんはおかしいけど・・・かわいいがし♪」
「ちょっ・・・」

里沙の反論は愛の唇によって阻まれた

「んっ・・・」
「・・・ぁっ・・・あぃ・・・ん・・・・ちゃぁ・・・」

合わさる二人の唇
絡み合う二人の舌
その隙間からこぼれる吐息

里沙は身をよじって抵抗するも、愛のキスに全身の力が吸い取られていくような感覚に襲われてまったく自由がきかない
里沙の腰に腕をまわして脱力しきった里沙の体を支える愛はさらにその舌を奥まで進み入れる

「はぁっ・・・ぁっ・・・ぃちゃぁ・・・んん・・・」

ばふっと軽い音がして二人は乱雑に横たわる布団の上に倒れこむ
そのはずみで二人の唇にわずかな隙間
愛は里沙と自分の唾液で濡れた唇をゆっくりと舐める

「やっぱり、今日の里沙ちゃんは・・・おかしいがし」
「なんでよ・・・」
「いつもより熱い・・・」
「ぁ・・・熱いって・・・なにがぁ・・・・」
「いつもより美味しい・・・」
「ばっ・・・ばか!」
「・・・あかん・・・無理かもしれんがし・・・」

真っ赤な顔で落ち着きをなくした里沙を熱い眼差しで見下ろす愛

「何が・・・無理・・・なのよ?」
「里沙ちゃんの事、好きすぎて・・・優しくできんかも・・・」
「愛ちゃん・・・」
「また里沙ちゃんの事、さっきみたいに怖がらせてしまうかもしれん・・・」

その瞳に動揺の色を浮かべる愛
それを見た里沙の心に少しだけ余裕が生まれた
愛の頬を両手で包みこんで微笑みかける

「大丈夫、怖がらないから。」
「・・・里沙ちゃぁ・・・」
「私も愛ちゃんの事、好きすぎるみたい・・・」
「っ!りっ・・・りぃさぁぁあちゃぁぁああああああぁぁあああ・・・・・・・・・・・
570 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:16



************




571 名前:>>535-555愛ガキside 投稿日:2008/01/02(水) 18:18

「うるさい。振動が来る。寝れない。」
完全なる被害者が約一名

「・・・・・・・・なんで、廊下でこんなことになっとるったい?」
状況が理解できない侵入者が約一名

そんなのお構いナシに愛と里沙の聖夜は更けていったとさ

************

                      END
572 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 01:34
愛ちゃんアホーwww
愛ガキ最高!
573 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 01:46
愛ちゃん…れいなGJ!!W
574 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 01:59
いい!! これいいw
あいがきバカ「夫婦漫才コンビ一組」
お前天才w
575 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 02:00
orz 'sage'忘れました
本当にごめん
576 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/04(金) 12:34
>>572サマ
ありがとうございます。
アホーw最高の誉め言葉ですよ!嬉しいです。
アホ万歳。

>>573サマ
レスありがとうございます。
れいなはデキる子ですw
そして愛ちゃんは愛すべきアホですw

>>574-575サマ
ありがとうございます。
天才だなんて生まれ初めて言われましたw嬉しい。
生まれ初めての投下でそんなお言葉頂いちゃたw

sageてたのは恥ずかしかっただけなので、お気になさらずw
577 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:01

「あ」


このあたりでは一番大きな川にかかる橋の上で、ごっちんが突然立ち止まる。
隣を歩いていたアタシは、数歩行き過ぎて振り返った。

「どうしたの?」

「夕日」

アタシはごっちんの声に、
目深にかぶっていた帽子のつばをきゅっと引き上げた。
山間に沈む夕日がまぶしくて、思わず目を細める。
鮮やかに赤く染まる空は、懐かしくて、どこか優しく、
アタシの心はふわりと緩んだ。


夕日を見つめるごっちんの横顔も、あたり一面同様に赤く染まる。
しかし彼女はまぶしさに手をかざすことも目を細めることもせず、
真っ向から向き合っていた。
数歩の距離から見つめるその姿は一枚の絵画のよう。
凛々しく、強く、美しく……そしてどこか儚い。

アタシは時が止まったようにただ彼女だけを見つめていた。
 
578 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:02

「夕日のさ」
「……へ?」

黙ったままだったごっちんが、夕日と向き合ったままに口を開く。
その声は、見かけの儚さに似合わずふにゃふにゃとした
いつもの声だった。

「夕日の正しい姿を見たような気がするよ」
「?」
アタシは意味が分からず、とりあえず夕日に視線を戻した。
正しい?
どのあたりが?
色も赤いし方角も西。
ごくごく普通の夕日だ。

「だってビルの間に沈む夕日はなんか窮屈そうなんだもん」
「ああ」

夕日そのものというよりも、
山に沈んでいくという状況に感じ入っていたのか。
軽く悩んでいたアタシも納得。

「確かに自然のものって感じがするかもね」
まあ、アタシにしてみればずっと見慣れていた景色なんだけど。
そう付け足すと、ごっちんはアタシにふにゃりと笑顔を向け、
そのままぐるりとあたりを見回した。
 
579 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:05

「まっつーは綺麗なところで育ったね」
「ただの田舎だよ」

東京で育ったごっちんには珍しいのであろうが、
本当にただの田舎だ。
山があって川があって。
大好きな動物がいっぱいいて、大嫌いな虫もいっぱいいる。
ただそれだけの、でも、それこそが自慢の故郷。

だから、ごっちんに褒められて。
アタシはそれを誇らしく思った。


「ごとーも、ここに住みたいな」
「”も”ってアタシ今ここに住んでないし」
ふにゃふにゃと言う彼女の言葉に真剣みはなくて、
アタシもたん並に素早い突っ込みをかます。

しかし。
彼女の続けた言葉にはさすがに面食らった。


「うん。だからさ、ごとーがここに住んで、
 まっつーが帰ってくるのを待ってんの」


……ごっちん?

 
580 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:07


オフで里帰りしていたアタシの元へ、突然やってきたごっちん。
大阪で仕事があったからさ、寄ってみた。
現状何かと忙しい彼女にそんな余剰の時間があるとは思わない。
よほどの無理をして来たであろうことは想像に難くなかった。

実際、彼女の姫路滞在時間はほんの二時間ほどだった。

 
581 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:07
 
582 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:08

数ヵ月後、ごっちんはアタシたちの前から姿を消した。
遠慮がちに、あるいは興味本位にもたらされる情報によると、
どうやら東京にさえいないらしい。

どこにいるんだろうね。
どこでしょうね。

表面上は心配そうな会話を、アタシは何度も繰り返す。


ここに住みたいと、あの時彼女は言ったけれど。
彼女がそこに住むことは、たぶん、きっと、ない。
 
583 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:11

「夕焼けだあ」


はしゃいだ声にはっと顔を上げる。
ロケの夜待ちでぼんやりしていたアタシは、
反射的に西の空を見上げた。

ビルの間に沈む夕日は、あの日見たものよりも小さく。
赤い色はあの日よりもいくぶんくすんでいて、
アタシの心は重たく揺らいだ。
 
584 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:12

都会の夕日を窮屈そうだと彼女は言ったけれど。
田舎の夕日を見つめる彼女はあまりにも儚かった。



未来を知ることは、アタシにも彼女にも、誰にもできない。

だから不安に思うけれど。

だからこそ希望を持てる。


沈んだ太陽が上らない朝はない。



願わくば

明日の朝日こそが、君に多くの幸をもたらさんことを
 
585 名前:あやごま 投稿日:2008/01/14(月) 01:16
終わり

>>584
× 上らない → ○ 昇らない orz
586 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 23:02



587 名前:名無し飼育さん。 投稿日:2008/01/22(火) 01:32
じんわりときました。
かなり好きな世界、ジャンルです。
588 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/22(火) 03:49



こんな彼女に惚れたのはあたしだ
589 名前:こんな彼女に惚れたのはあたしだ 投稿日:2008/01/22(火) 03:50
窓の外を見渡せば、ネオンが眩い東京の街並み。
腕の中には愛しい彼女。



なんてことはなく。


「んあーまた負けた!くそぉ1位の壁は高い…」

「もういいじゃん終わりにしなよ…」

「あぁーもっかい!くそーヨッシーウザい!」

「聞けよ。んでヨッシーうざい言うな」

「んあ?やだなぁよしこの事じゃないよぉ。
マリオカートのヨッシーじゃん。
よしこはバカだなぁ」

「いや分かってるし。でも言うなし」

「言うなしww若者言葉使うねぇ」

「そりゃ若者だもん。
ごっちんみたく引きこもってゲームばっかやってないしね」

「あ、もう始まるからよしこ黙って」
590 名前:こんな彼女に惚れたのはあたしだ 投稿日:2008/01/22(火) 03:51
ちくしょー嫌味まで軽く流しやがった。

え?窓の外?
ハッ、ここは窓の近くまで歩いて行くにも大惨事な後藤さんの部屋ですよ。
腕の中には?
いつの間にかあたし専用みたいになったリラックマくんですよ。
愛しい彼女?
ちょんまげドスッピンでヨッシーと格闘中ですけどなにか。
いやまぁもちろんスッピンもかわいいんだけどさ…
って違う!どうせヨッシーならあたしと格闘しろっての。


大体「よしこ来てよぉ」とか言って人を来させといてこの状況なに?
なんであたし一人でヒマしてんの?
…まぁマリオカート速効ゲームオーバーになったのが悪いんだけどさ。
どうせ勝てないからつまんねーって投げだしたのが悪いんだけどさ。


はーあ、なんてため息ついて、その辺にあったマンガを手に取った。
今売れてるらしい少女漫画。
少女漫画かーなんてちょっとガッカリしながら読み始めたけどこれが結構面白くて。
ごっちんがゲームを終えたのも気づかないくらい夢中だったらしい。
591 名前:こんな彼女に惚れたのはあたしだ 投稿日:2008/01/22(火) 03:53

「…しこぉ!」

「うぉっ?え、なに?」

「やっと気づいた。
あ、やっと気づいたし。よし若者言葉ー」

「いやそれ普通だし」

「んあーどうでもいいわ」

「ええええ」

「あそぼおよーせっかく二人でいるんだからぁー」

「ちょwwさっきまで自分がw」

「何しよっか?キスでもしとく?」

「はぁっ?!なんで??」

「えーそんなに驚かれると傷つくし。
よし今度こそ若者言葉」

「うん違うね」

「なんだし。どんだけし。」

「お、最初のはあってるよ。
後ろのは明らかに違うよね、うん」

「ねーチューしようよー」

「いやなんでよ。脈絡ないな」

「しないの?」

「し、しないよ」

「どもってるしw
するんでしょ?ていうかしたいんでしょ?
さっきあたしにかまってもらえなくて寂しかったんでしょ?
こっちおいで」


気づいてるんならその時にかまえっての。
恥ずかしいじゃん。
592 名前:こんな彼女に惚れたのはあたしだ 投稿日:2008/01/22(火) 03:53
「よーしこ」

「んだよぉ」

「おいで」

「…」

ちくしょー。結局逆らえないのかよ。

「来たけど」

「えー目開けたままするの?斬新だねぇ」

「なっ、しねぇよ!」

「じゃあ閉じて」

「…うー…」


見なくても分かる。
ごっちんは今絶対優しい顔で笑った。
もちろん、触れてきた唇も優しかった。
593 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/22(火) 03:54

終了
594 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:24



吉澤ひとみにとって、石川梨華を愛することだけが、人生の楽しみである。


595 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:25
「ただいまぁー。んー疲れたー。よっちゃーんコート脱がせてぇ」

「ねえよっちゃん、お腹空いたぁ」

「あっ今日はパスタかぁ いただきまーす」

「手?言われなくても洗ったよ。もう、早く食べたいんだから。いっただきまーす」
596 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:26
「うん、おいし。」
「ちょっとサラダとって。そうだあれあったよね 冷蔵庫に」

「ブー温めてよぉ」

「んーおいしそー」
597 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:26
「あーおなかいっぱい満腹満腹ポンポン なんちゃって エヘ」

「ね〜今のかわいかった?」

「そんなかわいいだなんで。よっちゃんたら。で、もうお風呂沸いてるの?」

「じゃ入ってこよ〜」

「ん〜着替え?持ってきてぇ」
598 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:27
「はぁすっきり!あっよっちゃんちょっとストレッチするから背中押してぇ」

「イチ、ニッ、サン、シ〜ってそういえばさ聞いてよ、今日美貴ちゃんがさあ、梨華ちゃんはもちろん家事とかバリバリやるんでしょとか聞いて来るんだよお。それからさぁケメコがさあ・・・・・・・・」

「イタイ!もうちょっとやさしく押して!ていうかよっちゃん聞いてる〜?でさあ・・あっそうだ今日から新ドラ始まるんだービデオ録っといてくれたぁ?」

「えぇ〜?もう始まっちゃってんじゃんよお。2分15秒見逃した!もうよっちゃん!」
599 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:27
「んー初めの方見逃しちゃったからアレだけど、まあまあ面白かったね〜そろそろねよっかな」

「布団かけてぇ。そうだ加湿器も、お・ね・が・い」

「チュ。おやすみよっちゃん」
600 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:28


吉澤ひとみにとって、どんな理不尽に扱われようと、石川梨華を愛することが、人生の楽しみである。

「愛されるよりも、愛したい、真剣で」だ。

「まあ、その。なんていうか。夜は逆転するからいいんだよ。」とは本人談。


601 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:29
「おやすみよっちゃん」

えっ あっ ちょ よっちゃん そんっ
うん あっん

ダ・・・メ・・・

ん・・・今日・・・はダメ・・・んなんだ・・ってば・・・あん・・・


602 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:29
そんなアン・・言えん・・ない・・あっ


気持ち  ぃぃょ

そん 恥ずかしい よ

あっっ

気持ち いい  よ  ・・・・んぐ   もっと  めて

ダメ・・・だってアッ・・・
いっやっあ  もっと・・・なめて
603 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:30
あっ  あっ あっ もっともっと来て

もうダッメ・・・アン・・・アン・・・


アン・・・アン・・・アン・・・アン・・・イヤーーーーーーーーーーーーーン




604 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:31



「もうよっちゃん、夜だけはぜんぜん言うこと聞いてくれないんだから」



605 名前:give & take?? 投稿日:2008/01/24(木) 19:32


END


お粗末さまでした。ペコリ
606 名前:& ◆/p9zsLJK2M 投稿日:2008/01/25(金) 01:24
>>577-585
あやごまか!?
最近あんまりないね。
いい雰囲気出た...
後藤さんは、なんか、夕焼けと似合う。
静かの田舎を憧れて...。
ちょっと寂しいなぁっと思った。


「give & take??」の吉澤さんw
苦労者すぎるww 石川さんはひどいなwwww
たくさん笑いました!w
さすが天才さん。w

ありがとう!



607 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/25(金) 04:34
ア・ン・・
よっちゃん・・
これだけでも萌えーないしよしって凄い!
608 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/26(土) 15:15
乙です
なんか勘違いして何度も読み直してしまった・・・
ネタバレなのでメ欄
609 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:45
『海の底から』
610 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:51
「愛ちゃんからの手紙?」
さゆが神妙な面持ちで差し出したのは、ピンク色の可愛い封のついた
四角の紙だった。差し出されるままに受け取る。
それは見ようによってはラブレターのような外観をしている。

「絵里、読んでみて」
言われるままに私は一度開けられた跡のある封をもう一度解き、中の手紙を取り出した。
それは薄茶の便箋に書かれた、短い手紙だった。

「『Derさゆ
  私は今海の底から手紙を書いています。
  とても暗くて、寂しいところです。
  さゆに会いたいです。
  私に会いにきてはくれないでしょうか。
  暗い海の底で待っています。 高橋愛』」

ふむ。私は声に出して読んだ後呟いた。
なんのことはない、本当にただのラブレターらしい。

「愛ちゃん…海の底にいるなんて…」

さゆが不安げに呟く。私は少し黙って状況を整理することに専念した。
611 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:51
つまりこういうことだろう。
愛ちゃんは単純にさゆにラブレターを書くのが照れくさくて
それに少し気取ってみたくてこんな文章を書いたんだろう。
会いたいという意思表示はされているし、もしかしたらさゆがこんな反応をすることを
予想して、からかう気持ちもあったのかもしれない。
要するにこれは愛ちゃんの軽いお遊びであり冗談であって、冗談めかしたラブレターだ。

さて、脇で捨て猫のような目で私の黙考が終わるのを待っているさゆに
いったいなんと説明したものか。

しかしそこでふとある考えが閃いた。
愛ちゃんはさゆのことを分かっていない。
だからさゆがここまで狼狽することを予測できていない。
愛ちゃんはいたずらのつもりでも、もし私がいなかったらさゆは…
そう、さゆなら…

「これは大変だよ、さゆ!愛ちゃんが海の底で一人ぼっちなんて」

「うん、大変なの!」
私の些か大げさな言葉を気にしたふうもなく、さゆが真剣に返事する。

「でも、さゆ。よく読んでみなよ。愛ちゃんは会いにきて欲しいって、そう書いてるよ」

「うん…でも、海の底まで…?」

「まあ、さゆがもう愛ちゃんに会いたくないっていうならしょうがない。
 放っておくしかないんじゃない?でも愛ちゃんはそうするとずっと一人ぼっちだね…」

「そんな、会いたいよ!会いたいの!」

「じゃあ、会いに行ってあげなよ」
にっこり微笑んで告げる。その言葉に少し逡巡したあと、さゆは意を決した表情になった。

「わかった、私、海にいく!」


612 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:52

さゆがいなくなって静かになった。さゆの香りが無くなったこの部屋は随分と淡白な匂いになった。
さゆの音信が途絶えてから一週間ほど過ぎた。
部屋のベルがなったので応対に出る。そこにいたのは愛ちゃんだった。
どうぞといって部屋に通す。愛ちゃんはどこか落ち着かない面持ちで部屋に上がりこんだ。

「絵里ちゃん、さゆはいないの?」
挨拶もそこそこに愛ちゃんはすぐ本題を切り出した。
「いません」
私が微笑み言葉を返す。

「もうずっと姿を見せないし、電話も繋がらないし…」

それで私がいるからあまり来たくなかったここにまで足を伸ばしたということらしい。
彼女はいかにも不安そうにそわそわしている。それに部屋にもさゆがいないことを知ったときには
落胆を隠そうともしなかった。

「絵里ちゃんは、さゆがどこにいるか知ってるの?」

「知りません」
私は相変わらず微笑んでみせた。
613 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:52

「そんな…。心当たりとか」
「心当たりならありますよ。というか、さゆから手紙が来ましたので。私宛に」

「え…?」
愛ちゃんが驚きの表情で私を見る。
私は少し得意になって、戸棚から、真空ビニールの袋を取り出した。

「どうぞ、読んで下さい。愛ちゃんに読ませていけないとは書いてなかったので。
 もっとも本人は愛ちゃんに読まれるなんて思ってないでしょうが。
 あ、濡れてますから気をつけて下さいね。なんせ乾くと文字が消えてしまう代物なんで」

私の言葉の一語一語に、その意味を探ろうと頭を悩ませるけれど
どうやら、どれも合点のいくところがなくて、ただ訝しさだけが彼女の頭を占めているらしい。
それでも、さゆの手がかり(というか、殆どそこにすべて書いてあるけれど)が
この手紙らしことに思い至り、いそいそと袋を開けにかかった。

濡れた便箋を取り出し、それを慎重に読み始める。
次第に、彼女の顔が青ざめていくのがわかった。
614 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:53

『でぃあーえり
 今、海の中にいます。ここはいろんな魚や、綺麗な貝がいて凄く賑やかです。
 でも愛ちゃんはいません。きっともっともっと深いところにいるんだと思います。
 だって、「暗くて寂しいところ」って書いてたもんね。
 私、泳ぐのが苦手だったことに、海に入ってから気付いたので人魚になりました。
 おかげでいまはすいすい泳げるし息も苦しくありません。でも陸に帰ったら
 ちょっと大変かもしれませんね。
 今はとにかく早く愛ちゃんに会いたいので、暫く戻ることはないと思います。
 もしかしたらずっと戻らないかもしれません。
 この手紙、スカシダコのおじさんにインクを借りて書きました。
 トビウオ郵便で届けてもらいます。ちゃんと届くか、ちょっと心配。
 また、手紙書きます。               海の底から  さゆみ』

615 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:54

愛ちゃんの顔は紙のような色になっていた。

「絵里ちゃん…これは…?」

恐る恐るという感じで愛ちゃんが言う。
こともなげに私は返した。

「読んでのとおり、さゆが海にいることは間違いありません。
 ただ海は広いですから…。 いま実際にどこにいるのかは分かりかねますね。」

「どういうこと…。冗談なの…?」

「冗談なもんですか。書いてあるじゃないですか。貴方を探しに行くって。
 貴方がそういう手紙をよこしたんですよ?それは冗談だったんですか?」

「冗談に決まってるじゃない…。というより、喩えて書いただけなのに…」

「さゆにそんなの通じませんよ。全然さゆのこと、わかってないんですね」
616 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:54
私は殆ど有頂天になって言葉を続けた。

「だってさゆはいつでもアナタの言うことを100%信じてたんですからね。
 そしてアナタに対してはいつも誠実であろうとしていましたし、今もそうです。
 貴方のことが大好きだったんです。でも、あなたはさゆに対して
 そんなこともなかったようですけどね」

「違う…違うわ。私はさゆのこと大好きよ。可愛くて、妹みたいで…。
 あの手紙は…この間の手紙は、ただ会いたくて…会いにきて欲しいって意味で
 出したのに…それだけなのに…」

「だからさゆは会いにいったんですよ。海の底に、ですけど」
617 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:54

愛ちゃんが俯く。手が震えていた。

「貴方も彼女を探しに行けばどうですか?会って、違うんだってあなたの口から言えば
 絶対さゆは怒ったりしませんよ。尤も、あなたは人魚にもなれないし、一分も海に潜れば
 溺れてしまうでしょうけど」

最後の言葉を言い切ると、私は何だかよくわからない達成感を感じて目を閉じた。
愛ちゃんのカタカタと震える音が微かに伝わる。ちょっといじめすぎたかしら。
でも最初にさゆをからかおうとした愛ちゃんが悪いんだ。

目を閉じた暗い瞼の裏に、だんだんぼんやりとさゆの姿が浮かんでくる。
下半身が魚で、賑やかな海の中を活き活きと泳いでいく。その顔はとても明るく楽しそう。
海草や珊瑚が揺れる。魚やイカの群れと戯れながら、深く深く泳いでいく。
そんな姿を見ていると、本当に帰ってくる気がなさそうに思えてくる。
「底引き網に気をつけなよ」さゆの幻にそんな言葉を投げかけて、私はまた小さく微笑んだ。
618 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 08:55
『海の底から』終わり
619 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:01
「最近どうしたの?」

「へ?」

夜のファミレス、いつもの席。

向かい側に座る梨華ちゃんが突然そういった。
620 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:03

『アップルパイと白玉と』


アタシと梨華ちゃんは高校のときのクラスメイトになったのが

最初の出会いだった。ていっても1年生の時だけだけどね。

「吉澤」と「石川」

「男っぽい」と「乙女キャラ」

と、まぁ色々接点がないアタシたちだから最初特に会話もなかったけど、

お互いの友達が仲いいってことでつるむようになった。

梨華ちゃんは…まぁなにかとおっせかいで、

『ほら、よっちゃん、またネクタイ曲がってる!』

『だぁー、もううっせーって!』

と、よく世話を焼かれたり、

ところどころキショイ・サムイところがあって


『ハッピー!!!みんな元気ー?』

『梨華ちゃん、それ寒いって。』

『なぁに?チャーミーが可愛すぎるから妬いてるの?』

『意味わかんない。ってか石川さんキショイよ。』

『ちょっと、どーゆー意味よぉ!!!!』

『アハハ、にっげろー!!』

『もぉっ!よっちゃんっ!』

と、まぁよくちょっかいをかけたりして

2年になって、3年になってクラスが違っても気がつけば仲良くなってた。


そして、気がつけばアタシは梨華ちゃんを目で追っていた。
621 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:03
ネガティブなとこあるけど、キショイとこあるけど

部屋はきったねーし、おっさんぽいあったりするけど



――優しくて、暖かくて。




『よっちゃん!』




太陽みたいに眩しい梨華ちゃんが


大好きになってた。



だから卒業しても、学校が違っても、こうして会えるなんて

時間が進むにつれ少しずつ、少しずつ

梨華ちゃんの知らないところが見えて、

梨華ちゃんとの距離が縮まっていくなんて、思っても見なかった。

なんて、幸せなんだろうと時々思う。
622 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:04
「…ちゃん、よっちゃん?聞いてる?」

「あ、ゴメン、なんだっけ?」

「だから、最近なんか、元気がないっていうかぁ…」

「んー?そう?そんなことないって。」

「ホント?」

「ホントに。」

「ん…悩み事あるなら言ってね、アタシ聞くからっ!」

「ハイハイ、あんがと。」


悩み事…ねぇ…


ないっていっちゃぁない。

あるっていっちゃぁ…ある…になるのかな。


なんたってアタシの悩み事は、キミから生まれてるんだ。

一緒にいる時間が増えるたびに不安になった。

このときがいつまで続くのかって

梨華ちゃんがいつか、誰かを好きになってどこかへいってしまわないかって。

梨華ちゃんがずっとアタシのそばにいてくれるならって。

ほかにもたくさん、たくさん、ある。


って、鈍いコイツが分かるわけ、ないけど…
623 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:05
「あー、アップルパイもいいし…あ、白玉がある!んーどっちにしよう…」

「迷ってるならアタシ、アップルパイにしよっか?」

「ホントにっ?じゃぁ、じゃぁちょっとちょうだいね?」

「ハイハイ。」


ファミレスの窓際で写る景色が深夜をうつしてる。

そして嬉しそうに笑う君。それをみて苦笑いするアタシ。

こうしておしゃべりするアタシたちはどう見えるのかな。


ね、梨華ちゃん。

さっき、続きなんだけどさ、

君を想いすぎてくるしいってのたくさん、たくさん、思ってるんだけど

最近さ、そんな消えちゃうくらい浮かれちゃうこと、気づいたことがあるんだ。
624 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:06
何度か出かけるとき梨華ちゃんを学校まで迎えに行った時よく友達といるのを見かける。

友達ってのは何人も違っていたんだけどその友達たちに見せる笑顔と

『あ、よっちゃーん!迎えに来てくれたの?』

そういって駆け寄ってくるアタシに向ける笑顔は違ってたんだ。

自惚れっておもったけど

一度自他共に認める梨華ちゃんの親友しばっちゃんや美貴や、まいちんと飲んだときにもそういわれた。


『美貴たちといる時とよっちゃんといる時の梨華ちゃんって違うよねー』

『違うって?』

『そうそう、なんかこーパァァって花が咲く感じ?』

『アタシといる時とも違うよねーやっぱあれだよね、あれ』

『うんうん、あれですな。』

『あれってなんだよ?』

『いやーしらばっくれちゃって。このこの、幸せもんめ!』

『そうだー!その幸せよこせー!アタシだってマサオにそうされたいのにー!』

『亜弥ちゃんには負けるけど、梨華ちゃんも可愛いもんね。幸せにしてやれよー』

『だー!!やめろよ、よっぱらいらめっ!!』

あれから飲まされるわ絡まれるわで大惨事だったけど…

もしかして、もしかするのかな?

自惚れても、いいのかな?
625 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:06
「ねー。」

「なぁに?」

「そんなにアタシ変だった?」

「んーいつも変だけどー。」

「おい。」

「うそうそ。特に変ってわけじゃないけどなんか、ちょっと…うまくいえないけどなんか違うなぁって」

「そんなの分かるもん?」

「分かるよ。好きな人のことなら。」

「へ?」

「え、あ、う、ううん!なんでもないっ。なんでもないよっ!あ、私ドリンクいれてくるねっ!よっちゃんの分もいってねっ!」

「あ、あぁ…いってらっしゃい…」

そういって席を立ってドリンクバーへばたばたと駆けていった。


…今の聞き間違い?



『分かるよ。好きな人のことなら。』



って。


好き過ぎて幻聴聞こえたとかじゃないよね…?

じゃないよね?だよね、言ったよね今。


やべ、顔…にやけそう。

本気で、自惚れていいんだよ…ね?


…よし。
626 名前:アップルパイと白玉と 投稿日:2008/02/10(日) 00:07
「た、ただいまぁ。」

「お、おかえり。早かったね。」

「う、うん。あ、ハイよっちゃんの」

「お、サンキュー。あ、あのさ梨華ちゃん。」

「え、あ、な、なぁに?」

「なにそんな挙動不審になってんの?」

「う、うん、なんでもないよ?それよりなに?」

「あのさこないだいってたトコ、今度の土曜日一緒にいこっか?」

「えっ!?いいのっ!」

「うん、バイト休みなったし。」

「行く行くっ!じゃぁ私お弁当作るから!」

「えー、またトイレ臭いんじゃないの?」

「んもぅっ!そんな意地悪言わないでよぉ。」

「ハハッ、ゴメンゴメン。アップルパイ半分あげるから許して」

「あ、ありがとー。じゃぁ白玉あげる。」

「え、ちょ、アップルパイの上に白玉乗せるなYO!」

「大丈夫だって、きっとおいしいよ。」

「おいしいってあのなぁ…」

「私をからかった罰ですー」

「ちぇー」


ねぇ、梨華ちゃん。

勝負、かけていっかな?

アタシ、今なら絶対負けない自信あるからさ。

君が笑ってうなずいてくれる自信が。

だから言うよ。

君が好きだって。

でも知ってると思うけど結構アタシあまのじゃくでさ、

友達でいるこの時間もうちょっと楽しんでいたいんだよね

だから今日は皿に乗った半分のアップルパイと白玉食べながら

もう少し友達の振りしてこの時間を楽しむことにするよ。

でも、今度会う時は覚悟してね?

なにがなんでも君を捕まえるから。

☆end☆
627 名前:名無し飼育 投稿日:2008/02/10(日) 00:08
以上、いしよしでした。
駄文ですみません。
おじゃましましたーーーー(脱兎
628 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/10(日) 08:15
あま〜いいしよし美味しくいただきました。
629 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/10(日) 23:26
やっぱ、いしよしはいいですね。
630 名前:Oh!Jesus! こんな時なんて言えば 投稿日:2008/02/12(火) 01:48
「こんこん、目は大丈夫」
「はい、なんとか。早く帰って休ませます」
「そうだね、それがいいよ」
帰り支度が出来た順に抜けていく。
示しを合わせるように年長組が腰を上げずにいた。
「もう若くないってのは損だよなー」
ぷるぷると震えている二の腕を揉みほぐしながら
キャッキャと出て行く若者の背中に吉澤は思わずこぼす。
「よっちゃん、そんなこと言わないの。
大好きなことしてるんだから損得なんて関係ないのよ」
すかさず拾う石川が浮かべるキレイにまとめましたの満足顔は
予想の範疇で3人はけして視線を移さない。
631 名前:Oh!Jesus! こんな時なんて言えば 投稿日:2008/02/12(火) 01:48
「石川さん、一言よろしいですか」
支度を終えて楽屋口に歩き始めていた紺野が振りかえる。
さっきの石川はの対応とは異なり、他の3人は思わず手を止め注目した。
「え?はい、どーぞ」
「大好きなことが出来ている時点で得だと私は思います」
「あ、はい」
「「そうだねー」」
「そして損得という言葉を持ち出している時点で、すでにそれを考えています」
「・・はい。確かに」
メロディにのるときは記号。
音重視の無意味な言葉なら才能として認める。
しかし手垢まみれの教訓は日常で振りかざさない方が懸命だ。
小学校の校長先生になって朝礼で話すネタが底をついたときだけにしよう。
632 名前:Oh!Jesus! こんな時なんて言えば 投稿日:2008/02/12(火) 01:48
「こんこん頭いい。言うこと違う。さすが大学生。大学生えらい」
「本当、まいちんじゃ絶対そのツッコミ出来ない」
「うるさいなーよっちゃんだって流してたじゃん」
「差し出がましいようですが」
「「「いえ、ありがとうございました。勉強になります」」」
「それではお先に失礼します」
「おーお疲れ。お大事に」
学歴コンプレックスのない人たちがなおも誉めはやすなか
恐縮して何度も頭を下げながら紺野は帰っていった。
633 名前:Oh!Jesus! こんな時なんて言えば 投稿日:2008/02/12(火) 01:49
「呑みてーこんな日は酒が呑みてー」
ライブを終えたばかりのアイドルがもらす本音。
法律は許してくれようと言い方というものがある。
でもここのキャプテンはそういうキャプテンだと広く知られていた。
「ねーメシ食ってこうよ。てか呑みたい気分じゃね?」
「あー」
いつも食事といえば食いつきのいい里田がうなる。
「なんかあんの?」
「行きたいけど明日ちょっと早いんだよね」
「マジでー」
「マジでー今日はごめん」
「分かった、今度行こうね」
「うん、絶対。じゃーお先に」
「うぃーお疲れ。ちょっとは勉強しろよ」
「大きなお世話。りかちゃんもお疲れさま」
「お疲れさまー」
そして楽屋には2人が残された。


「で、りかちゃん。今夜どう?」   END


634 名前:オガマー 投稿日:2008/02/28(木) 04:58
パチ屋にいる後藤さんで、なんとなく思いついた話。
635 名前:銀色の球体 投稿日:2008/02/28(木) 04:59
「うぅーっす。」

低い声が隣に座った人から聞こえて、あたしは右手を固定したまま隣に目をやった。
くわえタバコのあたしに、隣に座った友達はごほっごほっ、とむせながら手で煙を払う仕草をした。

「んー、まっつぅー。」

挨拶のつもりで名前を呼ぶと、タバコをくわえたままの唇からもごもごした声が出た。
視線をまた戻して、集中する。
集中っていうか、別にそこまで気合入れてないんだけど。

「これ、どうやって打つの?」

まっつぅーが、隣でそんな風に言うからあたしは視線でカード打ってる自販機を指した。
頭の後ろのほうでジャラジャラと玉が出てくる音が聞こえて、あたしはまた視線を自分の台に
戻した。

ぴこんとはじかれて、釘に当たってはじかれて、右往左往しながら銀色の球体は、落ちるべき場所に
落ちる。
ここんとこ、通いつめるあたしには、だいたいこつとかつかめてきたような、きてないような・・・。

「へえ、これをここに入れるわけですか。」
「んあ、つーか、やばくね?」

タバコを取り隣に向いて言うと、まっつぅーは「なにがぁ〜?」とにゃはは、と笑い出しそうな声で言った。
アイドルがさ、二人並んでパチンコ打つよ。
その事実がなんかやけにおかしくて、のどの奥でくくっ、と笑った。
636 名前:銀色の球体 投稿日:2008/02/28(木) 04:59
「おっ、玉出てきた。ん〜、これコツとかあんの?」

とまっつぅーに聞かれたから、

「ん〜?勘?」

と答えた。
あたしの答えをそんなもんだろう、と彼女は踏んでいたのか、特に突っ込みは返ってこなかった。

逃避行なら、どこに行くだろう。
現実と夢の狭間に落ちて、
そこはひどく不自由で、退屈な場所だと知った。

キラキラと輝くステージで、あたしに向いた目に伝えたことにすべて、嘘はなかった。
そこだけは、キラキラ輝いたままで、ときたまあたしの胸を熱くする。

音に埋もれる。

逃避行なら、空を飛べたらいいと思う。
ドラちゃんがきてくれたらな、なんて考えてみたけど、
何を出して欲しいかって考えたら、よくわからなかった。

どこでもドアで、行きたい場所は、ただひとつ。
でも、今は行けない。
もしもボックスに言いたいもしもはただひとつ。
だけど、やっぱりそういうのじゃない。

だから、あたしは今、いるべき場所にこうしているんだよ。
637 名前:銀色の球体 投稿日:2008/02/28(木) 05:00
「あ〜あ、なくなっちゃった。」

まっつぅーの声が聞こえて、あたしはまた加えてたタバコのまんまに少し笑った。
自分の玉を左手で掴んでつかめた分だけ彼女に与えた。
「おっ、サンキュ〜。」彼女は熱心に台とにらめっこ。

あたしの台では、銀色の球体がはじかれて、コロコロと右往左往。
ストン-と落ちるそのときに、感じるのは爽快感ではなく、むなしさだった。

「まっつぅー、そろそろ帰るから。」

あたしは立ち上がると、彼女の肩にポンッと触れた。
なんで来たのかな、って思ったけど、『友情』って言葉で片付けておく。
少し振り向いてみたけど、まっつぅーはまだ熱心に台とにらめっこしていた。

この場所に、名残惜しさなんて、ないよ。
春の太陽がほら、ガラスの向こうから透ける。

音もせずに透明のドアは開いて、まるで顔パスみたくあたしを通した。

春のあったかい太陽が、今のあたしには何よりもまぶしい。
638 名前:オガマー 投稿日:2008/02/28(木) 05:01
終わり。
639 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/28(木) 15:42
全然ありですね
よかったです
640 名前:藤本さんと亀井ちゃん。 投稿日:2008/03/01(土) 10:51
 
 
 
「やっぱり亀ちゃんて、よくわかんないよね」 
 
 
美貴がそう言っても亀ちゃんは面白いぐらいにノーリアクションだ。 
いつものようにぼーっとしたまま、数秒たってから口を開いた。 
 
「え?え?そうですかぁ?わかんないですか? 
 どこがですか?」 
 
どこがって、それがわかってたら「わかんない」なんて言わないじゃん。 
わかんないし、やっぱり変。 
でも、突っ込みどころ満載のこの子と話すのが疲れないのは何でかな。 
 
答えることも無いので黙って目の前の料理を口に運ぶ。 
それに倣うように亀ちゃんも食事を再開した。 
 
「まずっ。やっぱまずい、ここの料理。」 
「そうですか?絵里はおいしいと思うけどなー」 
「美貴、亀ちゃんの味覚も理解できないや。」 
 
「そうかなあ。あっ、じゃあこっち食べてみて下さい、ほら」 
そう言って差し出す料理も、美貴がこの前頼んだやつ。不味いのはわかってる。 
 
目の前の彼女が亀ちゃんでなければ、いらないってハッキリ言えるのに。 
一口食べて、やっぱり不味いから皿を返した。 
飲み込んでも残る妙な臭みを飲み物で消す。 
調子狂う。 
 
美貴にとって、ペースを崩されるのは腹立たしい事の筈。 
なのにどうして亀ちゃんの行動に苛立ったりしないんだろう。 
 
ああ、モヤモヤする。何か変。きっとこの不味い料理のせいだ。 
 
641 名前:藤本さんと亀井ちゃん。 投稿日:2008/03/01(土) 10:53
 
「ねえ、それ食ったらもう出よ」 
「えー?もう帰るんですかぁ?」 
「亀ちゃんウチ来なよ」 
 
「え、待って絵里、なんにも持ってきてないし…」 
「じゃ、もー帰る?」 
聞き返すと、口を尖らせて黙り込む。いつも思うけど見事なアヒル口。 
唇薄いよね、亀ちゃんて。 
 
「だから早く食べちゃって」 
「えーでも絵里、コンタクトとかぁ…」 
「消毒液ならコンビニで売ってるじゃん」 
「着替えとか…」 
「別に嫌ならいーって」 
「…行きたいけどぉ…だって急だから…」 
 
なんだよもー、うざいな。 
 
 
「…絵里今日、下着可愛くないんです」 
 
「どーでもいい!行こ!」 
伝票を取って亀ちゃんを急かす。 
下着とか、すっげーどーでもいいから。 
どーせ衣装替えの時に見てんじゃん、上下違うのとか(最悪) 
 
「ほらー早く、つーか残しちゃえば?そんなまずいの」 
「絵里は残しません」 
 
「…うん、そーゆーとこ好き」 
 
 
「だからさ」 
 
早くおいでよ、美貴の部屋。 
 
 
642 名前:藤本さんと亀井ちゃん。 投稿日:2008/03/01(土) 10:54
 
 
 
「亀ちゃんて…いつも何考えてしてんの?」 
乱れた息の合間に藤本さんがそう呟いた。 
フツー、してる時にそういう事聞きますか? 
 
「誰か好きな人の事、考えてたりする?」 
 
「そんなの、考えない…。 
 藤本さん、は、考えるの?」 
 
「…考えるわけないじゃん、亀ちゃんとしてるのに」 
「絵里だって、そーです…」 
 
「よかった。さすがにさー、他の人の事考えながらセックスとか、美貴やだし」 
 
 
ほんとかなぁ。 
 
そう答えたら、肩をがぶりと噛まれた。 
もう、あと残っちゃったらどうするんですか? 
 
643 名前:藤本さんと亀井ちゃん。 投稿日:2008/03/01(土) 10:58
聞き慣れてきた藤本さんの声。 
見慣れてきた藤本さんの身体。 
麻痺してきた複雑な感情。 
 
してる時は、何も考えてない。 
苦しくなっちゃうから。 
 
 
きっと藤本さんが考えてる以上に、絵里は藤本さんのこと好きですよ? 
藤本さんを独占したい、なんて思ってないけど。 
 
絵里の知らないところで、誰かに触れられてるのはやっぱりちょっと悔しい。 
 
 
「…美貴様はぁ、好きな人が多過ぎるんです」 
 
「そ…っかな、ぁ」 
 
「そーなんです。…そーなの…」 
 
 
…そうかなぁ。 
 
そう言うから、今度は絵里が噛みつき返した。 
その内誰かが気付くように。あとが残るくらい、きつく。 
これ誰のって、聞かれて困ってる藤本さんを想像して。 
 
 
 
  終わり 
644 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2008/03/05(水) 12:58
>>640-643
隠れ大好物発見。
645 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:42


天日干し

646 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:43
カラン、とグラスの中の氷が音を立てた。
ストローが押されて揺れるのを、少し不思議な気持ちで眺めたあと、私は空を見上げた。
忘れているわけじゃないけど、その日差しのまっすぐさにさえ、ここは外国なんだと思う。

ウェイトレスがなにやら言いながら近づいて来て、
その手にしているものからおかわりはどうかと訊かれているのだと推測して「ノーサンキュー」を言った。
意思のソツウが成されているのか微妙な感じで彼女は去って行き、
だけどそんなことが意外と悪くない。
ここには誰もいない。"誰も"というと語弊があるけど、そんな気にさせてくれる。
私を私以上のものにしてしまう何かを、この穏やかな日差しと、それを邪魔しない乾いた風とが、
たっぷりと時間をかけて浄化してくれているようなイメージが身体を包んでいく。
まるで天日干しされた布団みたいに。
647 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:44
布団であるところの私は、今のところ毎日こうして、このカフェのオープン席に座っている。
まだL.Aに来て一週間くらいだから、これを習慣と呼んでいいのか知らない。
ただ、やらなきゃいけないことは山積みで、その合間として都合の良い場所がここだった。
それだけの理由でふらっと立ち寄っただけなのに、私は割合、この天日干し生活を気に入っている。
こういう場所ではめずらしい木製の重いイスも、干されるのに快適だし、
同じデザインのテーブルも、出される紅茶も、
ノーサンキューで済ませてくれるウェイトレスだって悪くない。
欲をいえば雨よけはもうちょっと長いほうがいいし、色味ももうちょっと抑えてくれれば完璧。
だけどなにより、風景がここを特別にしている。
648 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:45
活気溢れるビジネス街でもなければ、緑の多い落ち着いた場所でもない。
それなりに人が歩いていて、それなりに高いビルがあり、
それなり車通りがあって、それなりに自然が目についたりする。
つまり、ここには生活の匂いがある。

「後藤真希さんに似てますよね」
そう声かけられたのは昨日のこと。それもここで。
「よく言われます」
そう返したのも昨日のこと。もちろんここで。
649 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:46
それすらもここでは生活の一部。
芸能人としてでなく、芸能人のプライベート時間としてでなく、ただの生活としての会話。
元々こういうことを言われるのは好きでも嫌いでもなかったけれど、
純粋に楽しめたのは久しぶりだった。ような気がする。
そんなこといちいち考えないけど、なんとなく、ぼんやりとそんなことを思う。

後藤真希。マキ・ゴトゥ。このカフェで練習してる英語ふうに発音してみる。
生まれた瞬間からそう呼ばれている。大切だけど、守るものとは違う。
650 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:47
時間だった。
天日干し完了。私は立ち上がり、ウェイトレスに合図を送った。
これから一日、色々なトレーニングをする。
ほんの少しずつ、自分の中の何かが変わっていくのを発見する。
それが単純に嬉しいし、楽しい。
君の人生は幸運続きだね、と言われていた頃、それを否定するチカラがなかった。
君の人生は不幸なことになってしまったね、と言われる今、私はそれを否定しようと思う。
651 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:48
飲み物の料金と、少しのチップを支払ったあとで、
彼女の「サンキュー」に対してこちらも「サンキュー」を重ねた。
「ユアウェルカム」はおかしい気がしてのことだけど、
意思のソツウが成されたのかどうか、今日はまだ微妙な感じだった。
652 名前:天日干し 投稿日:2008/03/30(日) 02:48


『天日干し』 おしまい

653 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 22:26

れなえり好きが自己満足で書いたれなえり短編
我こそはれなえりスト!と言う方、よろしければご覧ください
654 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:27


「おっ・・・落ちる!!」

そう認識した時には既に体の自由を奪われ、あと十数段残っている階段を飛び越えて真っ逆さまに──

  ドッスーーーン

「ったぁ〜・・・って、夢やったとかいな・・・」

階段を踏み外して落下したと思いきや、実際はベッドの上からの落下だった
れいなは床に打ち付けたお尻をさすりながらむくりと体を起こす

「これもこいつらのせいったい・・・」

恨めしそうにベッドの上を覗き込む
そこには幸せそうに寄り添いながらスヤスヤと眠っている同期のふたり
ため息を吐き出しながられいなは昨晩の事を思い出した

655 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:28

ホテルの一室
疲れた体を早く休ませようと、れいなが布団にもぐりこんだのはまだ早い時間だった
眠りに落ちそうな時、枕元にあった携帯がメールの着信を主に知らせるべくけたたましく鳴り響いた

絵里からだった

<そっちに行く>

たった一言だけ

睡眠を邪魔されたにもかかわらず、メール画面を見つめるれいなの顔はニヤけていた・・・

しばらくして、部屋のドアが激しく叩かれる音がした
れいなは飛び起きてドアまで裸足のまま駆けていく
ドアを開けると絵里・・・と、大きな荷物

「やっほ」

いつものふにゃふにゃした笑顔で軽く手を上げる絵里

「いらっしゃい。ってかその荷物は?」
「んー?明日の朝、自分の部屋に戻るのめんどいから持ってきたぁ」
「って事は絵里、れなの部屋で寝るったい?」
「うん」
「いやいやいやいや」
「イヤ?」
「イヤじゃないです」

よろすぃ〜なんて、誰かさんの持ちキャラのモノマネをしながら
僅かなドアの隙間から大きい荷物を引き摺って入ってくる絵里
その姿をボーっとながめながらも、れいなの頭の中は激しく動いていた
656 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:29

スーパーれいにゃコンピューターが弾き出したこれからのシュミレーション

絵里がこの部屋で寝る
→絵里と長時間ふたりっきり
→長時間だれにも邪魔されない
→れいなの本能は長時間だれにも邪魔されない
→れいな猫化
→絵里がおもしろがる
→れいな調子に乗る
→絵里えろりん化
→れいな狼化
→れいなと絵里は・・・くぁwせdrftgyふじこlp

「!!・・・ャ・・・ヤバい・・・」
「なにがぁ?」

荷物を置いた絵里がれいなのすぐ後ろに戻ってきていた

「ふわぁ!いやいやいやいや・・・なんでもないけん!」
「そ?じゃぁ、そんな所に突っ立ってないで早くこっちおいでよぉ」

そう言って絵里はドアの前に立ったままのれいなの手を引いて部屋の奥に戻っていく
そのままボフンッと勢いをつけてベッドに腰掛ける絵里
絵里はそれでもまだつないだ手を離さないかられいなはその隣にゆっくりと腰掛けた

「明日、何時にロビーに集合だったっけ?」

れいなの顔を覗きこんで無邪気に投げかけられる質問

「か・・・く・・・9時やけん・・・」

最初の“か”は思わず“かわいい”と言いかけて推しとどまった名残
657 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:30

「そっかぁ・・・」
「・・・・・・」

   会話続かねーーー

「れいなはもう寝ようとしてたの?」

ふいに絵里がまだ乾ききっていないれいなの髪を撫でてきた

「ふっ・・・ちょっ・・・ちょっと疲れてたけん、早めに寝よっかなって・・・」

最初の“ふっ”は絵里の手つきが気持ちよくて思わず吐息が出かけて推しとどまった名残

「じゃぁ、もう寝る?」
「あ、うん、いや、どっちでも・・・絵里はなんでここ来たと?」
「んー?」

絵里は髪を撫でていた手を今度は、膝の上でグッと握り締められていたれいなの手に添えてきた
硬く閉じられた指と指の間に自分の指を這わせる

「なんでだと思うー?」
「・・・な・・・なんでやろね・・・」

   手つきえっろーーー

「れいなに会いたいって思ったんだよねー。だから来たの」
「そそそそそそうったい・・・」
「うん」
658 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:30

にっこりと八重歯をのぞかせながら明るく笑ったその絵里に、れいなの第一形態猫化発動

「にゃぁぁぁああああああああああああああっ!」
「なっ?どうしたのれーな?!」
「絵里っ!めっちゃかわいいっ!」
「ふぇぇ?」
「今の絵里、めっっっちゃれいな好みっ!」
「ぁ・・・ありがと・・・うへへ・・・」

照れて俯いた絵里だったが繋いだ左手も、れいなの手に重ねた右手も離そうとはしなかった

   これはっ・・・さすがのれいなもノックアウトったい!

れいなは繋いだ右手をグッと握り返して、握り締めていた左手をゆっくりと開いた
それに反応した絵里の右手の指と自分の指を一本一本絡めあう

   これはいいただきますしてもええっちゃね?ね?ね?ね?!

ゆっくりとお互いの間にある距離を縮めるふたり

「わっ!」
「ぅおぉっ!!」

あと少しでその距離がゼロになろうかとした時、ふたりの間に振動
絵里が羽織っていた上着ポケットに入っていた携帯が震えたのだった

   しばく。メールか電話か知らんけど邪魔した奴、明日しばく。

れいながあまりにも不機嫌そうな顔をしていたからか、絵里が慌てて謝る

「ごっ・・・ごめんね、れいな!」
「ハッ!いやいやいやいや、別に謝らんでええし。怒ってないし」
「そう?」
659 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:31

れいなの苦しい弁解にも少し安心した表情に戻った絵里は
いまだ主張を続ける携帯電話に視線を落とした

「あ、重さんだ」

   しばく。さゆ、しばく。

「もしもし、さゆー?どうしたの?」

   いや、でもさゆは仕返しが怖いからなぁ・・・

「えー、絵里?今、れいなの部屋にいるよ?」

   なんかおごってもらおう、うん。

「さゆも来る?うん、わかったぁ」

   何おごってもらおっかなー・・・

「さゆも今から来るって」

   飴ちゃんとか・・・いや、それは安すぎるっちゃね。

「ねぇ、れーなぁ・・・」
「ハッ!え?なん?」
「さゆもこっちくるってぇ」
「へ?あぁ、うん」

   絶対しばく。

「でもさー・・・この部屋、ベッドひとつしかないよね?」
「うん。」
「どうするぅ?」
「・・・・・・へ?」
「ふたりだと大丈夫そうだけど、3人はちょっと狭いかなぁ?」

そう言って絵里は繋いでいた両手を解いて、座っていたベッドに体を投げ出した
660 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:32

「へ?さゆもここで寝ると?」
「うん。荷物もってこっちくるってー」
「はぁぁあああああっ?」
「れーな、声おっきいぃ!」

   しばく。飴ちゃん投げつけながら、しばく。

「楽しいねぇ。なんか合宿の時みたいー」

無邪気にベッドの上でゴロゴロする絵里

「そうやね。」

   バリかわいかー・・・

「意外と3人で寝ることって、あんまりなかったもんねー」

寝転びながられいなを見上げてくる絵里の笑顔
真っ白いシーツの上に広がった絵里の長い髪
少しめくりあがった絵里のTシャツの裾

   ・・・・・・・・・えろりん。

「っ・・・」
「どしたの?れーな・・・」

れいなの第二形態狼化発動

「っ・・・ぬぅおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「なっ?どうしたのれーな?!」
「絵里っ!これは絵里が悪い!」
「えぇぇっ?なになに?」
「えええええええ絵里ぃぃぃぃっ!」

れいなは横たわる絵里に向かって勢い良く全身でダイブ
661 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:33

ガンガンガン!!!

「あ!さゆが来たぁ!」

バフッ

扉が叩かれる音に反応して立ち上がった絵里はさらりとれいなをかわして部屋の入り口へ
かわされたれいなは傍にあった枕にダイビングちゅう

   ・・・・・・さゆ、マジしばく。

そんなれいなの怒りを知ってか知らずか、さゆみはいつもの笑顔で現われた

「やっほー、へたれいな。お邪魔しま〜す」
「なんね?そのへたれいなて」
「さぁ?なにかな?」

うつぶせに寝転んだまま、不機嫌そうな顔だけこちらに向けるれいなに対して
とぼけた様子で返答するさゆみの手には大きな荷物
そうやら、当初の予定通りここで一晩過ごすらしい

しかし、この部屋のベッドは小さいから絵里と密着して寝れる

しかたないが、今日はそれでまぁ良しとしよう
そう言い聞かせて、自分の中の狼を納得させたにもかかわらず・・・

ベッドの真ん中に陣取って、真っ先に眠りに落ちたのはさゆみ

端に寄せようにも頑として動かない体のデカい兎さんに絵里とれいなは苦笑い
そのままさゆみの両脇に体を横たわらせて、寝ることにした

   意味わからんし!


そして、朝に至る
662 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:34

やっぱり3人で寝るには小さすぎたベッド

れいはな兎さんの高ケツ圧に押されてベッドの下に追いやられて目が覚めた

「人の幸せを邪魔して、さゆは幸せそうに寝とるっちゃねー」

れいなはさゆの頬をツンツンとつついた

「・・・・・・・・・かわいかぁ〜」

その横にある絵里の寝顔
れいなはさゆみよりも幸せそうな顔をして見下ろした

「でも、そろそろ起こさんとね・・・って!ぅええええええええっっ!!!」

ふと時計に目を遣ったれいなは予想外の文字に驚愕の悲鳴をあげた

   08:34

「絵里ぃぃぃぃぃっ!!さぁゆぅぅぅぅっ!!時間がぁぁあああああああ!!!!」
「なになになにっ?!」
「れいなうるさいの!」
「うるさいやなかと!時間!時間が!」

れいなはわなわなと枕元のデジタル時計を指差す

「あ。」
「これはピンチなの。」

絵里とさゆみは飛び起きて、それぞれ洗面台とトイレに駆け込んだ

「起こしたれいなはほったらかしかい!」

と、文句を言っている暇もなさそうなので、れいなはとりあえず身の回りの物をまとめ始めた
663 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:35

れいながカバンのチャックを閉め終わった頃、ふたりが部屋に戻ってくる

「あーん、どうしよどうしよどうしよ」

絵里はバタバタとその場で慌てるばかりで手は動いていない

「絵里!とりあえず着替えるっちゃん!」
「わっわかった!」
「さゆみの髪飾りがないの!」
「机の上に置きっぱなしにしとったけん、とりあえずれながさゆのカバンの中に入れたけん!」
「れいなナイス!」

そして、れいなは空いた洗面台に顔を洗いに行った
先にここを使ったふたりはよっぽど慌てていたのか洗面台の周りは水浸しで、忘れ物が散乱していた
とりあえず顔を洗ったれいなはそれらを持って、また部屋に戻った
そこには奇妙な光景が・・・

「なにしとると?」

絵里のキャリーケースの上に膝立ちの絵里とさゆみ

「絵里ちゃんのカバンが閉まらないと〜」
「はぁ・・・」
「もう、絵里が服とかちゃんと畳んで入れないからなの!」
「じゃ、カバン閉める前にこれ。洗面台に忘れとったやろ?」

絵里の物と思われる洗顔料

「あ!それ絵里の!」
「ほい。あとこれは?」

れいなの手にはかわいい星型が付いた髪留め

「あ!それさゆみのなの!」
「ほい。ってか、さゆどんなけ髪飾り持ち歩いとるとね?」
「そんなことはいいの。あ!あれ?」

不思議そうな顔をしてさゆみが立ち上がる
664 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:36

「なん?どうしたと?」

さゆみは不思議そうな顔のままれいなに近づいて、れいなの頬をつつく

「あれあれ?この落し物は誰のかな?」
「なっ・・・れなは落とし─
「それは絵里のー!!」

絵里は自分のカバンの上から飛び上がってれいなの腕を取る

「れいなは絵里のものですよ?」
「あ、これは絵里の?」

さゆみは相変わらずれいなの頬をつつきながらニヤニヤ
絵里は反対側の頬をつつきながらふにゃふにゃ

「じゃ、これは誰のもの?」

今度は絵里の頬をつつくさゆみ
くすぐったそうに目を細めてれいなの顔を上目遣いでうかがう絵里

「そ・・・それは・・・」
「ねぇ、れいな?これ誰のものなのかなぁ?知ってる?」
「れーなぁ・・・」
「そっ・・・それはぁ・・・」
「ん?」

さらに顔を近づける絵里

「それはっ・・・絵里はっ・・・れいなのものったいっ!!」
「きゃーー」
「れーなぁ!」

さゆみは自分の頬に手をあてて照れる仕草
絵里はれいなの名前を呼びながら、れいな首に腕を回して抱きついた

「じゃ、準備ができたさゆみは先にロビーに行ってるの」
「ええええっ?!」

予想外の展開にれいなは驚きの声をあげるが絵里はお構いなしで手を振る

「また後でねー」
「いやいやいやいや、ちょ、絵里?」
「あと10分ぐらいだから、ふたりとも遅刻しないようにねー」

そう言って、そのままさゆみは自分の荷物を持って部屋を出て行ってしまった
665 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:37

残されたのは当然の事ながら、絵里とれいな

「うへへ〜」
「絵里・・・笑っとらんと、はよカバン閉めんとあかんやん」
「わかってるもん。でもれいなは絵里のものでしょ?」
「そうやけど・・・って、いやそうやなくて“でも”やないやろ!早く閉め」
「れいなが閉めると〜。絵里ちゃんにはできないと〜」
「・・・ったく・・・」

そんなかわいい顔してかわいいエセ博多弁でお願いされたらやるしかないでしょ

れいなはしゃがんで絵里のカバンに手をかけた
その横にちょこんと寄り添う絵里

「ねぇねぇ、このカバンの中に絵里の下着も入ってるんだよ?」
「・・・そらそうやろ」

   れいな!何も考えるな!

「ドキドキしない?」
「・・・せん」

   れいな!無の境地だ!

「絵里はね、れいなのものだからぁ・・・この中の物もれいなの物だよ?」

   今は時間ががないのだれいな!って、おい!聞け!れいなの話を聞け、れいな!

「ぬわぁぁぁああああああああああっ!!!!」

叫びながら立ち上がったれいなは、絵里の腕を引っ張って立ち上がらせたと思いきや
すぐに傍にあったベッドに押し倒した

「これは絵里が悪いけんね・・・」
「挑発に乗るれいなが悪いんだよぉ」
「うるさい」

短く言い放ったれいなは絵里の唇を自分の唇で塞いだ
触れ合う唇の角度を変える瞬間にお互いの名前を呼び合う

「んっ・・・れ・・・なぁ・・・」
「・・・えりっ・・・・」

それを何度か繰り返した後、息苦しくなった絵里が一気に甘い息を吐き出した
その瞬間、れいなの下が絵里の口内へと侵入する

「はぁっ・・・れっ・・・」
「わっ!」
666 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:37

またもや絵里とれいなの間に響く、昨晩も感じた振動

「また、邪魔されたっちゃん・・・」
「ごっ・・・ごめんね、れいな!」
「あ、いや、絵里に怒っとーわけやなかと!」

その弁解に、昨夜と同じように安心した表情を浮かべて絵里は電話に出る

「もしもし?」
『あと5分なの。』
「ええっ?あーほんとだっ!さゆ、ありがと!」

絵里の携帯電話から漏れてきたさゆの声にれいなも壁の時計に目を遣る
通話終了のボタンを押した絵里はれいなを肩に手を当てて立ち上がろうとする
れいなは上体を起こして、絵里の腰に手を添えて起き上がらせる

「うへへ・・・れーなは優しいね」
「そうでもなかとよ」
「そう?」
「うん」

立ち上がった絵里と、まだベッドに座ったままのれいなは見つめ合う

「ねぇれーな、早く行かなきゃ」
「その前にやることがあるけん」
「何?カバン閉めてくれるの?」
「その前に、絵里がれいなのものって印つけとかんと・・・」

れいなは絵里の腰を抱き寄せて、反対の手で絵里が着ているTシャツの裾を捲りあげる

「キャッ、れーな!」
「ん?」

戸惑う絵里を制しながら、れいなは絵里の露になった腹部の素肌にそっと唇を寄せる
667 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:39

「ッ・・・れーなぁ・・・」
「はい、これでOK」

れいなが顔を上げるとそこには、濡れた赤い痕

「ゃ・・・もぉ・・・れーなったらぁ・・・」

照れてクネクネと体を揺らす絵里
すると今度はれいなの携帯電話の着信音が鳴り響く

「もしもし?」
『れいな・・・あと3分なの・・・』
「ぅおぅっ!ヤバイ!」
「ええぇ?だってまだ絵里のカバン閉まってないよ?」
「閉めろ!意地でも閉めろ!」
「むーーーりぃーーーー!」


自分の派手なカバンと絵里の半開きのままのカバンを抱えて走るれいなと
ふにゃふにゃとした笑顔でれいなの後ろをついてきた手ぶらの絵里が
ロビーに現われたのは9時を若干過ぎた頃だった
668 名前:がんばれーな 投稿日:2008/05/05(月) 22:43

おしまい。

ノノ*^ー^)<れーなは絵里のものですよ?

从;` ロ´)<れなは物やなかと!
669 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/06(火) 20:09
おもろー。
また書いてね。
670 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/06(火) 23:39
れなえりキターー!!
このCPは最高です
671 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/07(水) 01:21
>>669サマ
ありがとー。
そんなこと言われてしまうと調子乗って
ノノ*^ー^)<また書いちゃいますよ?

>>670サマ
ですよねーー!!
れなえりは最強です
672 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:06

海に近いログハウスにサークルで旅行に来ていた。
女子大には珍しい学内サークルだから、女ばっかりだ。
私たち現役だけだと人数が少ないのでOGの先輩方も呼んでの短い旅行だった。


ログハウスと言ってもそんな立派なものじゃない。
布団はぺしゃんこだし、畳はダニだらけだし、
風呂は狭くて汚くて、間違っても湯船には浸かりたくない。
まぁ学生だからこんなものだろう。


時刻は夜中の1時。
部屋にはビール瓶やらチューハイの缶やら焼酎の瓶やら梅酒のボトルやら、
それに食い散らかしたお菓子のゴミなんかが転がっていた。
つまり私たちは相当飲んでいて、みんな酔っ払っていた。


安倍さんはすでにもう布団の中で寝ていて、
中澤さんや保田さんは、梨華ちゃんやごっちんを隣に座らせて昔話をしているみたいだった。
梨華ちゃんやごっちんが久しぶりに後輩の顔をしていた。


麻琴は飲みすぎたんだろう、トイレにこもって吐いている。
その麻琴の背中をさすっているガキさんと、
隣で大丈夫かーなんてケタケタ笑っている愛ちゃん。


れいなと重さんと亀ちゃんとコンコンは庭で花火をしていた。
キャーキャー言いながら火をつけて、
もっとキャーキャー言いながらそれを振り回してる。
673 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:07

楽しい光景だった。
私はそういう幸せな光景を少し離れて見ているのが好きだった。
最初はみんなの輪に加わってゲームや話をする。
段々みんなが酔っ払ってバラバラになってきたらそっと抜け出して、
少し離れた所に座って煙草を吸いながらそれを眺める。


そして時々、あの子のことだけを見る。
その子はいつもフニャフニャ笑っているけれど、
酔っぱらうとさらに体までフニャフニャさせてたりする。


私は彼女のことを特別な目で見ている。
この事は誰にも言っていない。
私が女の子を好きだということも、誰も知らない。
別に男の子がダメっていうわけではないし、
今だってメールをして時々映画を見に行くくらいの男の子ならいたから、
みんなが秘密に気づくことはなかった。


別に私が女の子の事を好きだと知っても、みんなの態度は変わらないだろう。
それはわかってる。愉快な人達だから、むしろ面白がって色々聞いてくるかもしれない。
ただやっぱり少しめんどくさい事は増えるだろうし、
もし誰か、そういう事を理解したくてもできない人がいたら、
もしその人がその事で何かを気にするようになったら、
それはとても申し訳ないから誰にも言っていない。
このサークルが好きだから、そういう状況にはしたくなかった。


それに、あの子にもし万が一気持ちがバレてしまったらと思うと。
「女の子が好き」ならまだしも、「あなたが好き」となったら、
その時は受け入れてもらえる自信がない。
嫌われてしまうのが一番怖いから、何も言えないで隠している。
674 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:07

今日も少し離れたところから見つめるだけ。
楽しくて、少し切ない。
ちょっと一人になろうと思って、煙草と財布だけポケットに入れて静かに海へ向かった。
675 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:07

真夜中の海はどこまでも暗くて、飲み込まれそうになる。
それでも波の音はなんだか落ち着くから不思議だ。
別に海の近くで育ったわけでもないのに。


ボンヤリ海を眺めながら2本目の煙草に火をつけた時、不意に名前を呼ばれた。


「ひとみさーん」


あの子だ。
自分の頬が緩むのがわかった。
私はこの子の前だと妙に素直になってしまう。


「カメちゃん。どしたの?一人?」
「ひとみさんがいますよー」


よくわかんないことを言って一人で笑っている彼女につられて、私も笑った。


「座れば?」
「はーい」
「一人で何してたんですか?」
「ん?んー…煙草吸ってた」
「煙草はやめた方がいいですよ?」


体に悪いんですよ?なんて可愛らしく心配してくれる。


「多分カメちゃんよりは煙草が体に悪いって知ってるよ」
「なんですかそれぇー」


語尾を伸ばして喋るのがかわいくて、私はまた笑った。
この子の隣にいると笑ってばかりだ。
676 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:08

「煙草、やめるつもりはないんですか?」
「んー…そうだなー、恋人が出来たらやめるよ」


これは本当にそう思っていた。
煙草を吸い始めたのは、色々なストレスが重なったときだった。
一生口に出せない恋のこと(カメちゃんのことだ)、
バイト先の雰囲気の悪さ、就職のこと。


漠然とした不安が、自分の中でグルグル回っていた。
このままストレスを抱え込むよりも、どれかに逃げようと思った。
お酒か、食べ物か、煙草。選択肢は3つ。
お酒はお金がかかりすぎるし、食べ物は太るから嫌だった。
そんな風に冷静に考えたら、煙草が残った。
冷静に煙草を吸い始めるってのも変だけど。


そうやって吸い始めたときに、恋人が出来たらきっぱりやめようと決めた。
カメちゃんの事を諦めるか、もっと好きな人が出来たらやめようと。
煙草くさいキスなんて相手は嫌だろうし、
きっと甘えられる相手が出来たら煙草に逃げる必要もなくなるだろうと思ったから。
この条件じゃ、当分やめられないだろうなとも思ったけれど。
677 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:08
「恋人が出来たら、ですか?」
「うん」


カメちゃんは理由を聞いては来なかった。
聞きたそうな顔はしていたけど、我慢したみたいだった。
人の気持ちを考えられる所も、正直なところも好きだった。


「……あの、変なこと聞いてもいいですか?」
「…ん?」
「あの…ひとみさんて、もしかして女の子も好きになれちゃう人ですか?」
「…」


思わず煙草を吸う手が止まった。
絶句しかけて、それでもなんとか真意を汲み取ろうとかろうじて口を開く。


「…どうして、そう思うの?」
「さっき、彼氏が出来たら、じゃなくて恋人が出来たら、って言ったし、
なんか…普段を見てたらなんとなく、もしかしたらそうなのかなぁって」
「…なるほど」
「そうなんですか?」
「さぁ、どう思う?」


言ってしまいたいと思う反面、臆病になる。


「えー、ずるーい。でも否定しないなら、その前提で話を進めますけど、いいですか?」
「へ?え?…ま、別にいいけど」
「いいんですね?言っちゃいますよ?」
678 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:08

カメちゃんはさっき中澤さんに結構飲まされていたはずだ。
だから酔っていてもおかしくないはずなのに全然酔っていなくて、
むしろ少し緊張してるみたいだった。
そんな彼女を見て私は少し余裕を取り戻して、微笑んだ。


「何?」


「……好きです」



今度は本当に絶句した。


「…あの、ひとみさん?」
「…えっと、誰を?え、何を?」
「ひとみさんを、です」
「…」
「あの、やっぱり引いちゃいました?あー、えり、ヘタこいたぁー」
「…あ、いや、違くて…ビックリして、その、え?どういう意味で?つまりその…」
「…そういう意味で好きです」
「えーっと、それは…」


ゆっくりとカメちゃんを抱きしめた。
よくとっさにこんな事できたものだと思うけど、本当に勝手に体が動いたのだ。
包みこんであげたいとか、そういうことを思って。


カメちゃんはありえないくらい、ガチガチに緊張していた。
お互いの心臓の音が速い。


「…こ、こういう意味でいいの?」


カメちゃんが、腕の中で小さくうなずいた。
679 名前:シガレット・デイズは置き去りに 投稿日:2008/07/12(土) 17:09

私は自分のポケットに手をのばして、煙草をクシャッと握りつぶした。


fin.
680 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/07/18(金) 22:45
よしかめ好きだわ
681 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/26(土) 18:26
カメ可愛いな
682 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:24
くさむらにふたりで
683 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:25
「グダグダ言ってないでさっさと探してこいよ、オラ!」

萩原に尻を蹴られながら、岡井は来た道を慌てて引き返す。
今日はとある森林公園での撮影だ。
三十分の自由時間が与えられたので、℃-uteのメンバーみんなで
川のあたりまで遊びに行った。
ところが、梅田が衣装のサンダルを川に落として流してしまって、
スタッフにこっぴどく怒られた。
他のメンバーも何か落として無いだろうな、と聞かれ、
それぞれが衣装のチェックをしてみると……

岡井がブレスレットを無くしていた。
ポケットに入れたかもしれない、岡井はへ、へ、へ、と笑い
ながらその場で二、三度飛び跳ねたが、それらしい音も感触も
無かった。

「あっれ、おっかしいな〜!」

ポケットの裏地まで引っ張り出した所で、岡井は萩原に蹴られた。
684 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:26
時々四つんばいになりながらも、アスファルトの遊歩道を
引き返す岡井。

「ねー千聖、見つかるかな〜?」
「え?」

いつの間にか、中島が後をついてきていた。

「あれ、なんで?」
「私も落としちゃってたんだよねー」

中島はひょいと爪先をあげた。
最近流行の樹脂製サンダルを履いている。
甲の部分にいくつか穴が開いていて、その内の一つに飾りとして
ピンバッジが付いていた。
二個付いてたはずなの、と言われ、納得した岡井は彼女と
一緒に落し物を探すことにした。
685 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:28
三十分前のことを順番に思い出してみる。
集合場所から遊歩道を通って、架かっている橋を渡った。
対岸にはベンチと広場しかなかったので、全員で川に沿って
下流の方に行ってみることにした。
しばらく歩くと、川は浅瀬になっていた。
残り時間も余り無いから、橋まで戻らずにここを渡ってしまおう、
ということで川を渡った。

岡井と萩原がさっさと渡り終えて待っていると、梅田が途中で
岩か何かに躓いて、サンダルの片方が脱げてしまったらしい。
川に流されていくサンダルを見て、梅田の前を歩いていた矢島が
取りに行こうとしたが、悲鳴をあげた梅田に止められた。

梅田の口から、死んでしまう、とかいう大袈裟な台詞が出たのを
聞いた岡井は腹が痛くなるほど大笑いし、涙まで出てきたので、
手の甲で涙を拭った。
その時は手首にブレスレットがあったと記憶している。

そこまで聞いて、中島が結論を出した。

「じゃあ川の向こうまで戻んなくていいってことだね」
「てことはさあ、えーと、どういうことだ」
「ここから川までの道を探せばいいんだって!
 大丈夫絶対見つかるよ!」

仲間から太鼓判を押された岡井はパッと明るくなり、

「早く行こう!」

中島の手を取って走り出した。
686 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:30
「あれってさあ、金具みたいなやつで」
「うん」
「パチンって、留めるやつだったから。
 ゴムとかじゃないじゃん?」
「うん」
「だから途中で外れちゃったんだね」
「あー、だーねえ」

二人は、川の手前の草むらにしゃがみこんでブレスレットを
探している。
おしゃべりな岡井は話しながらも手を動かしていられるが、
中島は相槌を打つのがやっとというところ。
雑草を手でかき分けたり、足で払ったりして黙々と探し続けた。
岡井の額の汗が玉になってつうと流れたその時、光る物が見えた。

「あったー!」

岡井が歓声を上げながら拾い上げると、やはり何かの拍子に
留め具が外れてしまったらしく、ブレスレットは一本の紐の様に
なって目の前にあらわれた。

「あった!? 良かったじゃーん!」

安堵して立ち尽くす岡井の頭を中島が何度か撫でてやると、
涙目の岡井が縋り付いてきた。

「ちょっと泣きそうだよー? 千聖」
「良かったー良かったよー超焦ったよーもぉー」
「うん良かった良かった」
「なっきぃー……一緒に探してくれてありがとう!」
「いいからいいから、ほら早く戻ろう」
687 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:31
二人は集合場所に走って戻った。
岡井はまず、腕を組んで待っていた萩原にブレスレット発見の
報告を……する前に一発殴られた。

「皆に迷惑かけんじゃないよ!」
「だはははっ」

こうして萩原に怒られるのは割といつものことなので、
岡井は笑ってごまかした。
次にスタッフに謝ろうとその姿を探すと、中島が先に彼らの
もとに行っていた。

自分もそこへ行こうとした途中で、思い出す。
確か、中島も落し物を探しに来ていたはずだ。
知らない間に、ピンバッジを見つけていたのだろうか?

スタッフと話している中島の声が聞こえる……

「これって最初から一個でしたっけ? あれーそうだったかなあ?
 じゃあ、中島の勘違いだったみたいです」

お騒がせしました、と言って頭を下げた中島の後ろ姿を見て、
岡井はやっと気付いた。
彼女は最初から落し物なんかしていなかったんだ、と。
688 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 21:34
おわり
689 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/26(火) 10:23
なっきぃ…
何て良ぃ子なんだろ
690 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:45
女郎蜘蛛
691 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:46
私たちは大阪に来ていた。
夏のハロープロジェクトコンサートに、音楽ガッタスとして参加するためである。
大阪では土日の二日間があてられ、土曜の夜は市内のホテルに一泊することとなった。

大所帯のため、私たち四人で一室が与えられた。
隣の部屋から時折声が聞こえるのは、アジアカップのサッカー日本代表を応援しているからだろう。
吉澤さんや石川さんの部屋だ。
 
692 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:47
そろそろ眠ろうと仲間で算段しているところに、ノックの音がした。

──どなたですか。
──わたし、わたし。吉澤。

びっくりしてドアチェーンを外すと、吉澤さんが勢いよく入り込んで見回した。
ベッドの一角にあぐらをかかれると、こちらのほうが恐縮してしまった。

──今日はお疲れ様。
──お疲れ様でした。
 
693 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:48
私たちは混乱している。
どのような用があって、この部屋にいるのだろうか。
みなみちゃんとアイコンタクトを取るのが精いっぱいで、声も出ない。

──あの……
──うん。あなたたちはガッタスの一員になった。
   そこで、教えないといけないことがあるんだ。
──今ですか?
──蒸し暑い夜だからね。


「梨華ちゃん──石川梨華は蜘蛛なんだ」

 
694 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:48
──何年も前のこと。

吉澤ひとみは清涼な泉のほとりで、大きな桑の木によりかかるように昼寝をしていた。
夢の内容は何だったろうか。
歌のこと、仲間たちのこと、家族のこと。
楽しい夢だったことは間違いない。

うつらうつらと、起きているのか眠っているのか、本人にもわからないゆめうつつ。
ぼんやりと焦点の合わない視界に入り込んできたのは石川梨華のようだ。
にこやかに微笑んでいるので、吉澤もつられてにやけ顔。
すると、石川の唇から数条の白い光が飛び出してきた。
それは吉澤のひざのあたりにぐるぐると巻きついてきた。
 
695 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:48
「梨華ちゃん。いたずらはだめだよ」

きっと木の枝と吉澤の足を勘違いしているのだろう。
そんなところに巣を張ったって、獲物は捕まらないよ。
糸を引き裂くのも無体な話なので、吉澤はていねいに糸を桑の枝に巻きつけた。

やがて深い眠りに落ちる。
夢さえも存在しえない深い闇。
あるのはただ一人、吉澤のみの世界だ。
そこを見てはならない。覗いてはならない。

目を覚ますと、吉澤は頭のあたりに違和感を覚えた。
枕代わりにしていたはずの桑の木が消えてきた。
何か、掘り返したのかのような大きな穴が開いている。
何か、大きな物が引きずられたかのような跡が泉のほうに続いている。
足元には、一匹の女郎蜘蛛が所在なさげに這っている。
 
696 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:49
──蜘蛛はわたしを泉の底へ引っ張り込もうとしていたんだ。
   残念ながら、それは失敗に終わったけど。

澤ちゃんが勇気を振り絞って声を出す。

──夢じゃないんですか?
──夢? 夢なら、どんなに安心できることだろう。
   そっと、泉の底を覗きこむと、彼女が微笑んでいるように見えたんだけどなあ。

バタン、と部屋のドアが開く音がした。
薄暗いルームライトの下でも、白い幾重もの光の束がはっきりと見えた。
光は吉澤さんを容赦なく包み込み、ずるずると引きずって行った。
再びドアが閉まる音がし、部屋に静寂がもたらされた。
 
697 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:50
……耳をすますと、二人の声が聞こえてくる。

──まったく、こんな夜中に何やってるの?
──だってさあ。
──言い訳しないの。明日も早いんだし、示しがつかないでしょ。
──ん、わかった。

まのえりが私にそっと囁いてきた。

──凄かったね、石川さん。
   あっというまに吉澤さんの首根っこつかんで引っ張っていっちゃった。
──え?
 
698 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:50
多分、吉澤さんは正しいのだろう。
石川さんは蜘蛛なんだろう。
彼女の吐き出す白い糸に絡めとられることは恐ろしいことなのか、
それとも喜ぶべきことなのか、私には判断がつかなかった。

 
699 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 23:50
おしまい
700 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:37
純LOVER
701 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:38
高橋愛と亀井絵里が楽屋内で立ち話をしている所に、李純が飛び込んできた。
二人の正面に立った純は、腕を振り回して大きな円を作るようなジェスチャーをして、

「ワタシも入れてほしい」

と言う。
愛と絵里は互いに目配せしたが、双方とも、どういう意味だろうと隣を見たのだ。

「……お話したいの?」

絵里は純に聞いたが、彼女はううんと首を横に振った。

「アーお話もしたいですけども無くてもイイと思いますね。テイウカここワタシ好き」

それを聞いても、やはり純の言いたいことは良くわからなかった。
愛は好きという言葉だけを拾い、純を手招いた。
純はニコニコしながらその手を取る。
そして空いている方の手で愛の真似をして、隣の絵里を手招いた。

「あはは、こんな近い距離で」

絵里も純の真似をして笑いながらその手を取った。

「寂しかったのか」
「寂しかったんだ」
「サミシカタ」

三人は繋がった手をブラブラさせながら、全員がそんな独り言を言った。
702 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:43
三人はいつのまにか円になっている。

「インタビューどうだった?」
「ちゃんと答えられた?」
「モウモウ何言って何話したか、ヤバイ!」

手が繋がっていることも忘れて、純は頭を抱えるようなリアクションをした。
そのせいで純の傍まで引っ張られてしまった愛は、そのまま肩を使って純を
小突いた。気にすんな、と笑いながら。

「うおっとと」

二人動いたので絵里もよろけてしまった。
あっ、と声に出ない声をあげて、愛は絵里と繋がっていた手の力を緩め
逃がそうとしたのだが、逆に強く握り返され驚いた。
何とか倒れずに済んだものの、愛は少し呆れた。

「離していいんだよ」
「離さない、離さないよー」
「亀井さんベタベタする!」
「ちょっ、待って待ってそれ絵里がベタベタみたいなんだけど!
 手に汗かいてるってちゃんと言ってよー?」
「待って待ってあたしもジュンジュンと繋いでる方ベタベタするんやけど、
 犯人あんたじゃないのー?」
「チガウ! 亀井サン!」
「え、ちょちょちょ、……うーもういいよ絵里で」
「ひゃひゃひゃ」
「チガイますからー!」

純は叫んだ。そして二人を思い切り抱きしめた。
703 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:44
「ぐぉ」
「うぉ」

同時に呻き声を出してしまうほど熱烈なハグだ。

「モウモウ仕方ない人たちだ」
「どっちがだよ!?」

愛は純の背中を叩いて抗議したが、

「そうなの絵里たち仕方ないからあ」

絵里は彼女にとって丁度良い圧迫感に心酔しかかっていて、
適当なことを言う。

「あのねワタシ思います。大好きデス」
「あら」
「どうも〜」

しばらくして満足したのか、純は二人を解放してくれた。
絵里が純の袖を引っ張りながら訊ねた。

「ねえねえ今のってどっち? どっちが好きだってゆったの?」
「どっちもデスよ!」
704 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:46
おわり
705 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:02
 
706 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:02
 
 カッシーニ
 
707 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:02
朝から3回に及ぶイベントと握手会が終わり、
明日の予定を告げたマネージャーさんが去った直後、
ちっさーがソファにどかっと座り込んだ。

「あーもう結局明日も休めないんじゃん!」

そう顔をしかめるちっさーを見て私はあっ、と思う。
舞美ちゃんを見た。やっぱり、やってる。

舞美ちゃんは顎を引き目を閉じ、小さく口を動かしている。
でもそれは一瞬で、すぐにいつもの笑顔でちっさーに、
と言うよりみんなに、言う。

「まぁまぁ。握手会で貰った元気をさ、
 雑誌を読む人達に分けてあげなきゃじゃん」

そのへんてこな言い回しに舞ちゃんや栞菜やなきこさんが
「何言ってんの舞美ちゃぁん?」と笑って、過程は違えど
結論として舞美ちゃんが行きたかった方向にまとまる。

私はちょっと照れている舞美ちゃんの、
その赤みのさした頬をじっと見つめていた。
708 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:03
「なんかさ」

スタジオでのダンスレッスンが終わったあとの汗だくな状態。
ふたりきりになったとき、私は切り出してみた。

「最近の舞美ちゃん、やけに前向きじゃない?」
「うっ」
「昔なら『まぁまぁ』とか言ってたときに今はなんか
 一旦待って、ポジティブなことを言おうとしてる気がする」
「さっすが愛理。するどいね」

髪をしっとりとさせ、頬を上気させながら言う。
また笑いながら頭でもかくんだろうかと思ったけど
舞美ちゃんは違う行動を取った。やや顔を伏せ気味に
自嘲するように笑った。

「愛理に気づかれたかったのかも」
「なんで私?」
「そして説明したかったのかも」

舞美ちゃんは答えず私を見た。見つめられた。

「愛理、聞いてくれる?」

そう言われて断れる訳がない。というか舞美ちゃんから
自分語りなんて珍し過ぎる。自慢話だってつきあっちゃう。
私がこくんと頷くと舞美ちゃんは『長い話をするわよ〜』と
言うかのように壁によりかかりながら
ずるずるぺったんと床に腰をおろした。
709 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:03
「先週の土曜のことなんだけど」

先週の土曜。確か私はえりかちゃんが連載してる雑誌の
対談記事の取材を受けてたっけ。
舞美ちゃんは何のお仕事をしてたんだろう?

「私は安倍さんと一緒のお仕事だったのね」

舞美ちゃんは思い出したことをゆっくりと言葉に
しているように見えた。
目も私ではなく上斜め45度に向けられている。

「でさ、安倍さんの前でうっかり
 今日のちっさーと同じことを言っちゃったんだ」
「明日も休めないのかぁ、って」
「そう」

舞美ちゃんの顔がにんまりしだした。何だ?
私は言葉を待つ。舞美ちゃんは抱えた膝に顔をうずめる。

「そしたらね。安倍さんがね、私に
 やじまんの笑顔をみんなに届けよう、って。
 やじまんの笑顔可愛いから安倍さん届けたい、って」

脚をばたばたしだした。舞美ちゃん、一人で遠いところに
行っちゃわないで。話を聞いてる私も連れてって。
710 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:04
「愛理はさぁ!」

急にだった。ばっと顔を起こした舞美ちゃんが私を見た。
すごい真顔で、ちょっとひるむ。

「"カッシーニ"って知ってる?」

私は首をひねる。かっしーに?
私が知ってるカッシーニと言えば――ひとつしかない。
それは舞美ちゃんの口から出るような種類の言葉とは
思えないのだけれど、私は言った。

「カッシーニ・ホイヘンスのカッシーニ?」
「何それ?」

違ったか。土星探査機だよと説明したところ舞美ちゃんは
「それそれ。そのカッシーニ」と私を指さした。
「でも何で急にカッシーニなんて?」

「安倍さんが教えてくれたの」

安倍さん!?
私は目を丸くしてしまう。安倍さんの口からカッシーニ
なんて言葉が発せられるなんて、もしかして
舞美ちゃんの口から出る以上の衝撃です。
711 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:04
「そのカッシーニってね」

舞美ちゃんがえっとえっとと思い出しながら語ってくれた。
やや間違いがあったけれどここは多分それほど大事では
ないだろうと私は突っ込まずに聞くことにした。

18ヶ国約260人が参画したNASAによる土星探査計画のために
打ち上げられた探査機。それがカッシーニ。
惑星の引力を利用するスウィング・バイと呼ばれる航法で
土星軌道へ到着したけれど、打ち上げから到着まで実に
7年半もかかっている。

「安倍さんがそう言うのを私は成程って聞いてたわけ」
「うん」
「そこまでして打ち上げたカッシーニがね、調査したのは
 土星の大気について。気体の性質や気圧や気温」

気圧や気温と言うとき舞美ちゃんは指を折っていて、私はその
長くきれいな指が折れる仕種に見入っていた。
712 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:04
――ねぇやじまん。
   いっぱいの人が手伝って、いっぱいのお金をかえた
   カッシーニを長い時間かけて土星なんか行かせて
   大気を調べたのはどうしてだと思う?

――新しいエネルギーとかにするためですか?

――知りたいからだよ!
   それだけ。どうなっているんだろう?って想いが
   いっぱいの人といっぱいのお金といっぱいの時間を
   動かしたの。

――知りたいから、ですかぁ。

――好奇心を持つこと。興味を持つこと。好きになること。
   それだけで目の前のさっきまで大変でつらくて
   のりこえられないって思ったことがガラガラッと
   形を変えちゃうんだから!
713 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:06
ところどころ安倍さんの真似をしつつ舞美ちゃんは言った。

「私すごい引っ張ってもらってるの。
 安倍さんと一緒のユニットを組ませてもらって、
 ほんと色々なことを言葉で行動で教えてもらってる」

舞美ちゃんが大きく伸びをした。
首のところの伸びたシャツの、袖が持ち上がり健康的な
二の腕が顔を出す。舞美ちゃんは、きれいだ。

「私はそれをさっそく℃-uteのみんなにも伝えたいの。
 安倍さんと同じく、言葉だったり行動だったりで」

舞美ちゃんが私を見た。立てた膝の上に頬を乗せたまま
私は「うん」と返事をする。

「誰かが何かこの仕事に対してのつらさ大変さを
 口にしたとき、今までは同調するだけだったけど
 今は意識的に変えようとしてるんだ。
 安倍さんだったら、こんなとき何て言うだろうって」

あぁ。私は舞美ちゃんを見つめながら思う。
あの仕種はそれだったのか。
714 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:06
へへっ、と舞美ちゃんが笑って私もへへっ、と笑う。
そして舞美ちゃんは立ち上がると赤いジャージの
おしりを手でぱんぱんとはたいた。

「あーすっきりした!
 言ったらこの言葉の魔法が溶けちゃうって
 解ってたけど、すっごい言いたかったの」

追って立ち上がった私の顔に舞美ちゃんがぐっと
顔を寄せる。その距離、3cm。

「愛理。秘密だからね」
「もちろん」

ん、を言うタイミングで私は必要以上に唇を
尖らせる。ちゅっ、と舞美ちゃんの唇に触れて
舞美ちゃんは一瞬で真っ赤になり後ずさっていった。
私は右手で口を抑えつつ意地悪く笑う。

「秘密ですとも」
715 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:06
終わり
716 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 21:06
 
717 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/12/08(月) 08:48
なんかあなたの世界観が好きみたいです
718 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/10(水) 00:00
プッチーニ
719 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/10(水) 00:01
ある日、舞美ちゃんを見るといつもより馬鹿っぽい
じゃなくてなんだかテンションが高く見えた。
私が「ねえ、何か良い事あったの?」と聞くと
「おっ、さっすが愛理鋭いね」と嬉しそうに笑った。
「何があったの?」
「愛理聞いてくれる?」
「うん」
「先週の土曜日の事なんだけどね」
「えっと・・・6日の事?」
「いや昨日かな」
「昨日って言えば良くない?」
「まあそうなんだけどね」
要約すると昨日安倍さんとお仕事があったらしい。


安倍さんは朝からやじまんやじまんと連呼してひとりで
喋っていたらしい。安倍さんらしいねと言うと
舞美ちゃんは少しテンションを落としてうん。と言った。
前に付けた変なあだ名を覚えてるって事は安倍さんって
思ったより頭が良いのかも知れないなと思った。
720 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/10(水) 00:01
「安倍さんと話してる時にね、焼肉が好きじゃないって言ったら
こんな感じで『安倍さんもね。ほらベジタブル?今日みたいな寒い日にはさ、
お野菜たっぷり入れてお鍋してポッカポカになるのがいいよね』って」
舞美ちゃんの安倍さんの物真似はあまり似てなかった。
「安倍さんお鍋の話したかっただけでしょ」
「うん多分。私の事ベジタリアンだと思い込んだみたいだし」
「まあ仕方ないよね。安倍さんだし」
「で、愛理プッチモニって知ってる?」

もちろん知っている。しかし私の知ってるプッチモニは
この話の展開で出てくる言葉ではない。
「あ、ごめんプッチーニだ」
「全然違うじゃん」
舞美ちゃんはちょっと待ってねと言って自分のバッグから
小さなかぼちゃを取り出した。
プッチーニなら知っている。坊ちゃん南瓜よりもさらに小さく果実は200?300g。
甘くておいしい淡い黄橙色のかわいいミニ南瓜だ。
肉質は粉質性が強く独特の甘みがある。電子レンジで加熱しても食味がよい。
「これがね、ちょうどスタジオにあったの」
721 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/10(水) 00:01
――ねえやじまん。これ美味しそうじゃない?

――そうですね。

――プッチーニって言うんだよ。知ってた?

――もちろん知って・・・いや知りませんでした

――でっしょー。やじまん教えてあげる。これねレンジでチンしたら
  ホックホクで美味しいんだから

――勉強になりました

――ちょうど3つあるしさ。安部さんは1つでいいから

――え、でもこれスタジオの・・・

「え、それって」
「うん。安倍さんからプレゼントして貰ったと思って
さっきまでは喜んでたんだけどよく考えたら・・・」
「窃盗だよね」
舞美ちゃんは神様に怒られちゃうと落ち込んでいた。
そんな舞美ちゃんを見て思わず私の胸はキュンとなった。
舞美ちゃんをなんとか元気つけてあげたい。
722 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/10(水) 00:02
「で、でもさこれこうしたら」
私は舞美ちゃんの服の裾から中に手を入れた。舞美ちゃんが
「あっ」と小さく声を漏らす。私はその声に反応した素振りを見せずに
クールにプッチーニを胸のあたりまで押し込んでいく。
服の下に押し込まれたプッチーニがなだらかな曲線を作り出している。
「おっぱい」
そう言って微笑む舞美ちゃんの頬が紅潮している。
舞美ちゃんが嬉しいと私も嬉しい。一緒にへへへっと笑う。
「みんなビックリするかな?」
「きっとするよ。千聖もビックリだよ」
「愛理、秘密だからね」
私の顔に舞美ちゃんがぐっと顔を寄せる。その距離、3cm。
「うん」
ん、を言うタイミングで私は必要以上に唇を
尖らせる。ちゅっ、と舞美ちゃんの唇に触れて
舞美ちゃんは一瞬で真っ赤になり後ずさっていった。
私は右手で口を抑えつつ意地悪く笑う。
「秘密ですとも」

「・・・通報しますた」
「うわ、なっきぃ見てたの!」
723 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/10(水) 00:02
終わり
724 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/12/14(日) 13:32
ほとんど同じ要素なのになんでこんなに違うんだろう?

味がありますね
725 名前:プッチーニ 2 投稿日:2008/12/17(水) 22:44
プッチーニ 2
726 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/17(水) 22:44
喉奥の奥まで柿の種をがーっと流し込まれたなっきぃは私の足元でぷるぷるっと、
たまにびくっと、痙攣していた。

私の肩に手を置いた舞美ちゃんがなんかぎこちない笑顔で言う。
「なっきぃが居たから調子出なかったね。もっかいやり直そうか」
・・・やり直す?
「えっと舞美ちゃん、なにを?」
私の問いかけは無視される。自分の胸を名残惜しそうに眺めた後
舞美ちゃんはシャツの下に手を入れ2個のプッチーニを取り出した。
それをバッグに戻しながら言う。
「愛理プッチモニって知ってる?」

もちろん知っている。しかし私の知っているプッチモニと
舞美ちゃんの求めるプッチモニが同じかどうか自信がない。
私にとってのプッチモニはプロゴルファーと結婚された長手さん
(旧名アヤカさん)がいる時代なのだけれど。
「あ、ごめんプッチーニだ」
「えっ?」
それならなぜそこからやり直さないのか?
お前プッチモニ言いたかっただけちゃうんかい、という口の悪い言葉が
口から出かけて私は口を両手で抑えた。
舞美ちゃんはちょっと待ってねと言って自分のバッグから さっき閉まった
小さなかぼちゃをまた取り出した。
プッチーニなら知っている。坊ちゃん南瓜よりもさらに小さく果実は200〜300g。
甘くておいしい淡い黄橙色のかわいいミニ南瓜だ。
肉質は粉質性が強く独特の甘みがある。電子レンジで加熱しても食味がよい。
727 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/17(水) 22:44
「プッチーニなら知ってるって」
それでしょ、とかぼちゃを指差す。顔を上げてぎくりとする。
舞美ちゃんが真剣な顔で私を見ていた。悲しそうな目で、小刻みに震えてる。
そうじゃないでしょう? そう言っているように見えるけれど。
私は舞美ちゃんの手からそれを奪うとまた舞美ちゃんの服の裾から中に手を
入れた。舞美ちゃんが「ああん」と声を漏らすけれど私は聞こえない振り。
クールに胸まで押し込んでいく。
「おっぱい」
またそう言って微笑む舞美ちゃん。また頬が紅潮させている。しかし。
「違う。愛理、違う・・・違うの!」
舞美ちゃんは手で顔を覆う。泣きそうな声で「それじゃやり直した意味ない」と
呟いた。

「もういいよ、舞美たん」
きょとんと座っている私の後方から声がした。えっ、と私は振り返る。ここには
私と舞美ちゃん(&なっきぃ)だけだと思ってたのに。
そこには佐紀ちゃんが立ってた。私を、私達を、冷たく見下ろしている。
「期待したんだけどね」
「そう上手くは行かないかぁ」
「鈴木さん・・・」
「小春超ショック」
「愛理せっかくチャンスだったのに」
「はいみんなそこまで!元気出す!」
佐紀ちゃんだけじゃなかった。新垣さん亀井さん福田花音ちゃん小春ちゃん
石川さん保田さんまでいつの間にかいた。
728 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/17(水) 22:46
「愛理見てて。私、こう言って欲しかったの」
舞美ちゃんの前、私の代わりに佐紀ちゃんがいる。
「佐紀、プッチモニって知ってる」
もちろんと言う顔で頷く佐紀ちゃん。
「あ、ごめんプッチーニだ」
「全然違うじゃん」
舞美ちゃんはちょっと待ってねと言って自分のバッグから
小さなかぼちゃを取り出した。
「・・・プッチーニなら知ってる」
佐紀ちゃんはそのかぼちゃを舞美ちゃんの手から受け取った。

「ジャコモ・プッチーニ。イタリアの作曲家。ヴェルディのオペラ、
アイーダに魅せられオペラ作曲家を志した。マノン・レスコーで
名声を手にし、その後ラ・ボエーム、マダム・バタフライと言った
名作を手がける。そしてブリュッセルでその生涯を閉じる」
佐紀ちゃんは手の上のかぼちゃを見ることもないままぶん投げた。
ちょうどその先にいた亀井さんと石川さんが受け取る。
「未完の遺作として残されたのが『トゥーランドット』」
トゥーランドット。
そう呟くときの佐紀ちゃんは頬が紅潮し、瞳が潤んで見えた。
この集まりが何の集まりか私、ここでやっと解った。
なぜか聞いてるだけの舞美ちゃんまで頬を紅潮させていた。
周りを見るとみな同じ状態になっていた。気持ち悪い。帰りたい。
729 名前:プッチーニ 投稿日:2008/12/17(水) 22:46
「愛理がファンクラブイベントでヴァンサンクを歌って聞いて
今回この試練の場を設けさせてもらったの」
そうですか。
「残念ながら不合格だったけど」
それは何よりです。

「愛理、今日のことは」
私の顔に舞美ちゃんがぐっと顔を寄せる。その距離、3cm。
「秘密だからね」
「とうぜん」
ん、を言うタイミングで私は必要以上に唇を
尖らせる。ちゅっ、と舞美ちゃんの唇に触れて
舞美ちゃんは一瞬で真っ赤になり後ずさっていった。
私は力なく笑う。
「秘密ですとも、こんなこと」

みんなが去っていった。すごく、疲れた。変な汗出てきたし。
手の甲でおでこをぬぐいながらふと足元を見た。
背を反らしつまさきをぴんと伸ばしたなっきぃ――いや、さっきまで
なっきぃであったもの――が片手を空中に伸ばしもの片手で喉をかきむしる
仕種のまま、よく出来た彫刻のように動かなくなっていた。
それはとても美しく、そして静かだった。
730 名前:プッチーニ 2 投稿日:2008/12/17(水) 22:46
終わり
731 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/12/20(土) 23:15
三段階で来るとは…なんか脱帽です
最後の残念さがたまりません!

初めのそれは知らなくてそっちの方が先に浮かんだけどそこまでは繋がってませんでした
(↑ネタバレ防止に必死で何書いてるかわからなくなりました)

sage更新ということがもったいなくてたまりません
誰かと共有したいこの思いを
732 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/29(月) 15:08
遅レスですが>>704好きです
メンツといい空気感といい・・・もっと読みたいと思いました♪
733 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:02
 
734 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:03

ごっちん、ひさしぶり。 元気にしてますか?
私は無事大学を卒業して、都内の企業に就職して、
地味にOLなんかやっちゃってたりします。
一緒にバカやってた高校の頃は、
将来はビッグになるんだ、人とは違うことをするんだ、
なんて何の根拠もなく思ってたけど。
現実はきびしーね。

職場ではそれなりにうまくいってるけど、
やっぱり人間関係ってのは色々とめんどくさいです。
私はどういうわけかおばさま連中に気に入られてるから
今のところ特にトラブルもないけどね。
結局まわりのフォローに回る役で、毎日毎日疲れます。

ごっちんは今何してる?
ロサンゼルスってどんな所?
っていうか今もロスに住んでるの?
この手紙、届くのかな。

あれからもう5年も経つんだね。
指折り数えてみてマジでびっくりしました。
5年も会ってないなんて。
735 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:03

こうして手紙を書いているのは、
あの時のことを謝りたかったからです。
ほんと今さらって感じだよね。
連絡もずっとしなかったくせに何言ってんだよっていう。

謝るって言っても、何をどんなふうに謝ればいいのか
自分でも分かんないまま書いてるんだけど。
ただ漠然と、私が悪かったから謝らなきゃ、ってことは
分かってるんだけど。

「漠然」 なんて漢字分かんなくて辞書で調べちゃったよ。
バカなのは昔から変わってないね。
私は高校の時から全然成長してないです。
あーごめん。 書きたいこと全然まとまってないわ。
言ってることめちゃくちゃだったらごめんね。

要するにあれだ、
私はごっちんのことが嫌いになったわけじゃなくて、
ちょっと戸惑っちゃっただけなんだよ。
あの頃は若かったから。
私はまだ子供で、そういうこと理解できなくて。

なんか言い訳がましくてごめん。
こうやって謝ること自体、自意識過剰かもしれないとか
思っちゃうんだよね。
何を前提に喋っていいのか分かんないけど、
とにかくごっちんに伝えたいと思って今、書いてます。
また漢字が分からなくて 「前提」 辞書で引きました。
736 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:04

ごっちんは今、そっちで仕事してるのかな。
それとも夢を追ってる?
それとも、夢と仕事がイコールだったりする?
私と違ってごっちんはビッグになってる気がするよ。
私、昔からずっとごっちんに憧れてた。

いつか日本に帰ってくる予定はあるの?
ごっちんに会いたいです。
会って直接謝りたい。
この5年間、色んなことがあったよ。
話したいことがいっぱいあるよ。

もしこの手紙が届いたら連絡下さい。
携帯の番号もアドレスも、5年前から変えてないから。


                         吉澤ひとみ
737 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:05

■□■□■


きりきりと冷え込む冬の朝。
ジョギングに行くついでに郵便受けを見たら、エアメールが届いていた。

見覚えのある字。
そりゃそうだ、私の字なんだから。

つまりはそういうこと。
柄にもなく私が書いたごっちんへの手紙は、本人に届くことなく、
“宛先不明”で私のもとへ舞い戻ってきたわけだ。
私の気持ちはごっちんに届かなかった。

吐き出す息が白い。
花壇の土に降りた霜も白い。
明けたばかりの空は青白かった。


海沿いのこの街で1人暮らしを始めて、もうすぐ5年が経つ。
道路から見える海の景色が綺麗で、
こうして早朝にジョギングをするのが日課になっている。

私は自分の書いた手紙をくしゃっとポケットに突っ込んだ。
かるく屈伸運動をして筋肉を慣らして、いつものコースを走り出す。
冷たい空気が肌を刺し、目にしみる。
738 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:05




まだ何も考えていなかった高校生の頃、私とごっちんは親友だった。
3年間、毎日毎日一緒にいた。

学校に行くのも帰るのも一緒で、
授業中はお互いのノートに落書きしたり筆談したりして、
たまに授業をサボって屋上で日向ぼっこしたり、
素敵なサボり場所を見つけるために校内を探検したり、
放課後はカラオケに行ったりプリクラを撮ったり、
お互いの家に遊びに行ったり、
休日は少し遠出をして買い物に行ったり。
私たちはいつも一緒だった。
739 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:06

高3の12月。
受験を控え、いつまでもバカやってるわけにはいかないと気づき、
やっと本格的に勉強する気になってきた時期だった。
朝晩はめっきり冷え込んで、日も短くなり、
補習を終えて帰る頃には辺りは真っ暗になっていた。

「さみーーー」
「外出たくないねー」
多分私たちはそんな何でもない会話をしながら、
いつも通り一緒に帰るところだった。

下駄箱から靴を取り出して屈んだ瞬間、
巻いていたマフラーの端がするりと滑り落ちる。

「このマフラー可愛いよね」
隣にいたごっちんが、私の肩から垂れ下がったマフラーを手に取る。
ごっちんは何気ない手つきで私の首にマフラーを巻き直すと、
そのままの体勢で、正面から私の顔を見上げた。

至近距離で見つめられて少し戸惑う。
「顔近いよ」 と笑って離れようとした瞬間、急に視界がぼやけて、
唇にしっとりした温かさを感じた。
740 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:06

柔らかい感触は一瞬だった。
ごっちんはすぐに唇を離して、「あは、チューしちゃった」 とか言って
何事もなかったかのように靴を履き替えている。
私はというと、突然の出来事に困惑して固まっていた。

「な、な、な、なにすん‥‥ご、ごっ‥‥」
「あーごめんね、なんかよっすぃーの顔見てたらムラッと」
「いやいやいやいや」
「やだなぁ、処女みたいなリアクションしないでよ」
「しょしょしょしょ処女じゃないもん」

ごっちんは呆れたようにため息をついて、「ほら、帰るよ」 と言って
私の腕をきゅっと掴んだ。

その瞬間。
心臓が跳ね、背中にじわりと汗をかき、体がこわばった。
自分でも信じられないほどの勢いで、私はごっちんの手を振り払った。
「1人で帰るっ!」
741 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:07

その日から私はごっちんを避けるようになった。
「学校で勉強するから」 と言ってごっちんとは時間をずらして登校し、
「塾に行くから」 と言って帰りも別々のルートで帰った。

他の友達からは、喧嘩でもしたの?なんて訊かれたけど、
私は曖昧に笑ってごまかすだけだった。

「よっすぃー何なの? なんで怒ってるの?」
最初ごっちんはそう言ってしつこく絡んできたけど、
私の態度が頑ななのを見て、3日くらいで諦めたようだった。

その後はたまに悲しそうな顔でこっちを見るだけで、
一切話しかけてこなくなった。
そんなごっちんを見て胸が痛んだけど、
今まで通りに仲良くすることは、私にはもう不可能だった。

若かったんだ。 私はガキだった。
女同士でそんなことするなんて気持ち悪いとしか思えなかったし、
あの出来事をただの接触事故で済ますこともできなかった。
あんなのごっちんがふざけていただけってことは分かっていたけど、
それでも無理だった、どうしても。

その後、私は都内の大学に合格し、地元を離れた。
ごっちんは高校卒業後、「夢を見つけに行く」 とか何とか言って
アメリカに留学した。
それ以来、私たちは会っていない。
742 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:08




5年前から走り続けているジョギングコース。
いつも同じところですれ違う散歩中のおじいさんとも顔見知りになり、
会話を交わすようになった。
いつもの信号、いつもの公園を走り抜け、海沿いの歩道に出る。

ぱっと視界が開けて、冷たい潮風がびゅうっと前髪を吹き上げた。
右側を見れば真っ青な海。
白い空とのコントラストが綺麗で、ふと立ち止まる。
息が切れる。 鼻が冷たい。
かすかに感じる潮の香り。
743 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:08

高校の卒業式の日、下駄箱に紙切れが入っていた。
“USA”、“Los Angeles”という文字列が目を引く。
英語の住所の下に、「ごとーまき」 とひらがなで書いてあった。

私はその紙切れをとっくに失くしたと思い込んでいたんだけど、
先月実家に帰省した時、机の引き出しの奥深くから発見したのだ。

ごっちんの懐かしい字を眺めていたら、涙が滲んできた。
思い出すのは楽しかったことばかり。
あれから5年も経ってたなんて。
ごっちんを傷つけたまま別れてしまったことに対して、
物凄い後悔が襲ってきた。

こうして一念発起してごっちんに手紙を書いてみたけど、
結局それは届かなかったわけで。
ごっちんと私を辛うじて繋いでいたあの紙切れは、
宛先不明という悲しい返事しか運んでこなかったわけで。
744 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:09

冬の寒空の下、冷たい潮風に晒されながら海を眺める。
真っ青な海はどこまでも続いていくようだった。

ポケットから手紙を取り出す。
封筒の中には、私の思いを詰め込んだ便箋が3枚。

冷たくなった指先で、丁寧に便箋を折り曲げていく。

男の子とばかり遊んでいた小学生の頃から、
紙ひこうきを折るのは得意だった。
私の紙ひこうきはいつも1番遠くまで飛んだ。

「ごっちんまで飛んでけっ!」

3機の白い飛行機が海に消えたのを見届けて、
私はいつもの道を走り出した。
745 名前:エアメール 投稿日:2009/01/01(木) 13:09
 
746 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/01(木) 17:06
懐かしいな、よしごま

747 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/02(金) 00:54
懐かしくて切なくなりました
よしごまは胸が苦しくなります
748 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/02(金) 03:07
好きだったな〜。『いしよし』や『みきよし』よりも。

懐かしさと切なさが込み上げて来た、元旦終わりの深夜の今日この頃。
749 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/02(金) 10:18
マジ懐かしい
俺はいしよしに関わる親友的ないしごま、よしごまな作品が好きだったな
特によしごまは恋愛というより友情もんがどはまりしたCPだった
750 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 07:46
あやみきです
751 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:47

******

752 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:47

 正直、イタイ。
 物理的な痛感と、目に見えない空気と、恥じる気持ちと。全部。
 まさか、骨折するなんて夢にも思わなかった。
 2009年の歌い初め。なんて幸先の良いスタートだろう。我ながら皮肉にもほどがある。

753 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:47

 周囲の人たちに、心配される度に本当に申し訳ない気持ちになる。家族、ファンのみんな、ハローのみんな。スタッフさんたち。他たくさんの人たち。自分の不注意の所為でご迷惑と心配を掛けてしまった。
 自意識過剰なんかじゃない。本当に自分はたくさんの人たちに支えられてステージに立っていると実感しているから。申し訳なさ過ぎて、土下座しても足りないくらいだ。
 恩返しってホドにもならないけど。
 自分に何ができるかっていえば。そりゃやっぱり歌しかないから。
 本番になると余計な力が入ってしまう。
 ケガが悪化することだけ、はまぢで避けたい。頭では分かっていても。気持ちが逸る。
 ステージに立ってしまえば、理性なんか二の次で。身体は勝手に動いてしまう。歌いたい欲求がお医者さまの計算を狂わせた。
 バカだなぁ。自分。そんな自分が世界で一番好きだから、仕方ないんだけどね。
754 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:48

******


755 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:48

 「あ。持つよ」
 たんが私の荷物をさりげ無く私の手から奪った。
 歩きながら、少しだけ前を歩いていた彼女の横顔を見つめる。
 そして、狭い会場内の廊下でなんか私、たんに微妙に庇われている気がするんだけど。
 今気付いたんだけど。すごい、歩き易いし。
 現在、ハロープロジェクトのコンサート中。ただでさえ狭い廊下に機材やら大道具やら衣装やらたくさんの障害物が置かれていた。急いでいる人も多いし、のんきなハローの子達は自由に闊歩するし。いつも、コンサートの準備が始まれば、撤退するまで会場は歩き難いことこの上ない廊下になった。
 楽屋の前に着くと、自動ドアの如く出入り口が開閉した。もちろんたんがドアを開けたのだけど。
 ひょっとして、私がケガしてるから。たんってば気ぃ遣ってるのかも。
756 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:48

 「おつかれさまでーす」
 「さまでー」
 楽屋の中は素っぴんの人からメイク中の人やらジャージの人やら半分衣装の人やら。
 とにかく乱雑な様子だった。けれど、私はすんなりと指定の位置に収まることができる。
 たんが持っていた私の荷物も目の前に置かれた。
 何か飲もうかな、と思い。ちょっと視線を動かすと、たんが。
 「亜弥ちゃん、飲み物何いい? 」
 と、御用を聞いてくる。なんだコレ。
 自分のコトは自分でする。基本中の基本。別に甘やかされて育ったワケじゃない。
 長女だし。他人の面倒をみることはあっても。自分の世話は今まで自分でしてきた。
 「水」
 至極自然に振舞われるから、私もスムーズに欲しいものを口にしている。
 ホント、なんだコレ。
757 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:48

******


758 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:49

 「おねがいしまーす」
 軽やかなノックの後、スタッフさんが顔を出した。
 素っぴんの人とメイクを無事終えたジャージの人と半分だけ衣装に着替えていた人のリハが始まるみたいだ。
 「いってらっしゃーぃ」
 「おきばりやすぅ」
 みんなを見送ればあっと言う間にたんと二人きり。私たちはリハを済ませてきたばかりだ。雑多だった楽屋の空気は、突然二人きりの濃い密度になる。きまずくなることもない、緊張なんかするワケない。とるにたりない、ふっつーの空き時間だ。
 甘さのかけらもないジャワティーを飲んでいたたんの横顔を、頬杖ついて眺める。
759 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:49



 ねぇ、たん。私気付いちゃったよ。
 アンタは否定するかもしれないけど。



760 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:49

 1年以上ぶりに、一緒にコンサートの舞台に立ち。隣で歌い。呼び掛けあって目配せして。触れて。
 たんの変化に気付いてしまった。

 「たん」
 いつも呼ぶ時の彼女の名前を口にする。
 相手は、飲みかけのジャワティーを持ち上げて「飲む? 」とのんきにこちらに向いた。
 「たん、優しくなった」
 たんは私の言葉に突然どうしたのだろう、という怪訝そうな表情をした。
 「いや、昔からたんは私に優しかったけど」
 褒め言葉に彼女の口元が緩む。
 そう、昔からたんは私に優しかった。優しいというか甘かった。甘いというかずるい。
 昔からたんは私に私にずるかった。っていうのは直接的だけど、ちょっと意味が分かり難い。
 私が抗う術を奪うっていう意味で、たんはずるい。それは今でも変わりない。
 彼女は私のわがままに対して、首を横に振ることは滅多に無い。家に来いって言ったら来たし。
 夜中にラーメン食うぞって言ったらノリノリでとんこつしょうゆのラーメン店に並んだ。
 好きだって言ったら、みきも好きだよって。とろけるような表情で答えた。
 おいでって、言えばすぐ腕に収まったし。
 たんは私に、掛け値なしに甘かった。
761 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:50

 「前は私の言うことを何でも聞いてくれるYESマンって感じだったんだけど」
 「そーでもないと思うけど」
 ちょっと、話途中で口を挟まないこと。言いたいことが分かんなくなるから。
 一瞥すると相手は全然堪えていない様子で、またジャワティーに口をつけた。

 「最近振る舞いがいちいち優しい。しょーじ君のお蔭なのかな」
 その一言を、自分で口にしながら知らぬ間に気分が落ち込んだ。
 落ち込んでいる私とは裏腹に。たんは。

 「しょーゆーことっ」

 と、言って嬉しそうにしょうゆ瓶をぱっと目の前に差し出した。
 二人きりの時にソレをされても、やりにくいだけで、もう、どうしたらいいのか。持て余すばかりだった。
 いわゆる、私は絶句という態度を曝していた。失態だ。突っ込み切れなかった。
762 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:50

 「たん。いちおう聞くけど。それ、どうしたの? 」
 「買ったの。わざわざ、ルミネで並んで」
 なんで、こんなの買うのに並ばなきゃなんないのって。ばからしくなったけど。買うって決めた手前、引くに引けなくて。
 たんの答えに、納得できるような、全然納得できないような。複雑な気分になった。
 「興味ないけど。……いちおうね。また聞くけど。それ何時間並んで買ったの? 」
 「1時間以上は並んだと思う」
 「一人で? 」
 「誰も付き合ってくれなかったから、一人だよ。亜弥ちゃんも欲しかった? 」
 「そうそう、最近おしょうゆの瓶がちょうど割れちゃって」
 って。いらんわっっ。
 ノリツッコミだーって。たんは無邪気に喜んでいた。
 私の真面目なセリフがたんのくだらないギャグの所為でふっ飛んでしまった。
 これも、やっぱり……。
763 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:51

******


764 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:51

 たんが優しいって気付いたのは。本当はもっと前からだった。
 骨折して身体が不自由になって初めて思ったんじゃない。
 最近のたんは、自然体のままで相手に気配りをする。
 些細なことだ。ものを取ってくれたり、褒めてくれたり、笑わせてくれたり、美味しいものをくれたり。気にしなければ気付けないことばかりだった。
 私がして欲しいって、しなきゃだめって。しなさい、しろ。と命じる前にたんは動いていた。優しさが口先だけじゃなくて、態度で自然に現れているみたいだった。
 本当に、ごく自然にたんは振舞っている。無理がないし。してあげてるっていう厚かましい空気を微塵も出さない。
 たんの変化はきっと、周りにいる人の影響なんだと思った。一番身近で影響を受ける人なんて。彼以外に、誰がいるだろう。
765 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:51

 「もー、ばかじゃないの」
 こんなしょうゆ瓶にしょうゆまでちゃんと入れて。
 「聞いて、亜弥ちゃん。聞いてよ。このおしょうゆのラベルに有機栽培大豆使用って書いてあったの」
 おしょうゆって大豆から作るんだよ。だから、納豆におしょうゆかけるっていうことは大豆に大豆かけてるのと一緒ってコト?
 ……ばか。
 コイツ、本当に。ばかだ。
 私は心底呆れていた。それなのに込み上げる笑いを堪えることができなかった。
766 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:51

 「しょーゆーこと」
 噛みしめるように言葉を口にしながら私はしょうゆ瓶をコトリと机の上に置いた。
 しょうゆ瓶を見つめ。それからこちらに視線が向けられた。たんは、得意げな様子でにやっと笑っていた。
767 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:52

******


768 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:52

 「ごめんね、たん」
 溜め息と一緒に胸のつかえみたいな言葉を吐き出した。
 ふぅっと、息を吐き、しょうゆ瓶を目の前に私は机に突っ伏した。
 「何が」
 素っ気無い様子でたんが私の髪を撫でる。
 「なんか、色々だよ」
 上目遣いで彼女を見ながらもう一度ごめんと呟いた。
 いろいろ、ケガしたこととか。今までのコトとか。とにかくいろいろったらいろいろなんだけど。やっぱり大部分は、今回の骨折についてもろもろ迷惑をかけていることだ。
 「じゃあ、みきも。ごめんね、亜弥ちゃん」
 本当にすまなそうにたんが頭を下げた。
 頭を下げた彼女とは逆に私は身体を持ち上げた。
 「どうしてたんが謝るのさ」
 「なんとなく」
 だろうと思ったけど。とりあえず、会話続行のために突っ込みを入れた。
 「なんとなくって。悪いことしてないのに謝るのヘンだし」
 「だったら亜弥ちゃんもヘンなんだけど」
 「私はヘンじゃないよ、たんがおかしいだけで」
 「どうせみきはおかしいですよ、亜弥ちゃんには負けますが」
 負けず嫌いの彼女はなかなか私の思い通りにはいかない。
 そんなことは当たり前なのだけど。一時でも、コイツは私の言うことならなんでも聞くって勘違いしたことがあったあの頃はそうとう私も頭が高かった。
 プライドばっかり高くて。思いやりを装った口先だけの優しさに自惚れていた。私ってなんて気遣いの得意な性格なんだろうと、陶酔しきっていた。今でも若干陶酔の気は残っているけれど。
769 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:52

 相手を責める気持ちはあの頃と比べてだいぶ抑えることができる。
 腹立つことは腹立つし。ムカつくことはムカつくけど。
 それでも悔しいかな歳の所為なのか、相手の立場をつい考えてしまう。
 邪魔臭い機材だって廊下に鎮座しているそれなりの理由はあるし。
 寝転がっていた家族をまたごうとする瞬間に寝返り打たれて足場に困って結局私がありえない体勢で床にはいつくばることになったとしても。
 私が完全に悪いわけじゃないし。相手が100%悪いのでもない。
 因果応報。だっけ?なんかそんな難しいこと言ってみたけど。
 それほど恰好付けたいわけでもない。 
770 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:53

 「私のどこがおかしいのか、3文字以内で言ってみ」
 「あたま」
 「ばか」
 こういうくっだらないやりとりがどれだけ私を救っているのか。たんは知らない。
 私も、具体的数字で示すことはできなかった。もしかしたらただの勘違いかもしれない。

 ごめんね、たん。ほんと、いろいろごめん。



771 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:53

******


772 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:53

 「ジィー」と声に出しながらじと目でたんを見つめる。
 すると、彼女は対抗しているつもりか私の視線をするりと潜り抜け、「バー」と言いながら、こちらの肩に自分の肩をくっ付けて寄りかかってきた。
 「バーって。何それ」
 「分かんない」
 だと思ったけど。

 もしかしたら、たんも私と同じ気持ちでごめんと口にしたのかもしれない。
 なんとなくそんな気がした。
 私と同じ気持ちって。自分がどんな気持ちなのか言葉にすることは難しいんだけど。多分、たんも同じ気持ち。

 だったら。これも一緒なんでしょ?


773 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:54

 「たん」
 乗っかってきた頭に私も頭を乗せる。
 「ありがと」
 「何が」
 乾いた息を吐き、笑いながらたんが言った。
 「心当たりあるクセに」
 私はぐりぐりっと、頭をよりくっ付けた。
 「ないから聞いてるんだけど」
 相手は思ったより冷静に返してきた。
 かわいくない返事に私はわざとらしく溜め息を吐いてみせる。
 「たん。ありがとうってお礼を言われたら、他に言うことあるでしょ」
 あー、はいはい。とたんは面倒くさそうな悪態をついているのに。彼女は裏腹、そっと手を絡めてきた。
 なんだろう。こういうふとした瞬間の触れ方がひどくずるいと思った。
774 名前:ごめんね、ありがと 投稿日:2009/01/12(月) 07:54

 「たん」
 「何」
 少し、間を空けてまた同じ言葉を口にする。
 「ありがとう」
 「どーいたしましてっ」
 不満そうな口ぶりで、投げ遣りに彼女は答えた。
 「素直でよろしい」
 満足した私は。彼女を惜しみなく褒めつつ、その手を握り返した。
775 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 07:55
以上です
776 名前:restart 投稿日:2009/01/18(日) 23:57
restart
777 名前:restart 投稿日:2009/01/18(日) 23:59
ごっちんが再始動。

そうなんだー

って美貴が思ったのはそれだけだ。
778 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:00
けど突然、ミキティ飲み行かない?って誘ったこいつは
そうなんだーだけじゃ済まなかったらしい。

だらだらどーでもいいことを話したり、飲んだり、食べたり、
ここの肉はあんまり美味しくないとよっちゃんに文句を言ったり、
飲んだり、食べたり、飲んだり・・・
779 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:01
バカみたいに飲んで
よっちゃんが妙に熱く語りだしたのはちょっと前の話で
今はそろそろお会計の空気かなって頃。

もちろんよっちゃんのおごりだよね、って言ったら
えぇーって言いながらも払ってくれるだろう、うん。
美貴はよっちゃんの誘いに付いてきてあげたんだから。

焼肉屋にしたのも誘われた側が決めていい権利だよね。
・・・だから食べずにバカみたいに飲んでたのか?
美貴は悪くないぞ、肉が悪い。
780 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:02

あと一口残ったグラスを持ったまま
よっちゃんはさっきから壁をじっと見てる。
肩まで伸びた金髪と黒縁メガネが何とも言えない感じで不自然だ。
781 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:03
よっちゃん帰ろう、と声をかけようとした時、
んあーのさぁー、って変に間延びした声で喋り始めた。
何となくごっちんを思い出した。
782 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:04
何?
ハロー卒業したじゃん。
まだしてなくない?
で、あたしたち卒業するじゃん?
うん、もう少ししたらね。

だーかーらぁー

理解してない美貴が悪いような感じで言い直す。
酔っ払いはやっかいだ。
783 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:05

ごっちんは卒業して変わったじゃん。

あぁごっちんの話か。
でも美貴はハロプロを卒業しても大して変わらないと思う。
演歌も別に嫌いじゃないし。
実際それまでの方がキツかったんだって気分的に。
てか美貴は一年前に一足早くリスタートしてるっつーの。
先取りってやつ。
あ、ごっちんは美貴より前か。
784 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:07

だからメールしたんだよ。

よっちゃんの話が分かりづらいのはいつものこと。
こいつは基本的に空気を読めていない。
美貴の理解力が足らないとでも思ってるのか。
目を見て何を考えてるのか分かるなんて美貴には不可能。
785 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:09

だけど返って来ねぇんだよ。

要するにハロプロの卒業を控えた今日この頃、
ごっちんの再始動を知って何かを思ったのであろう。
そしてメールをしてみたのだな。
avexに行きたいなら美貴じゃなくてごっちんに言いなさい。違うか。
・・・要するにメールをしたが、返ってこなくてヤケ酒?

それに美貴は付き合わされてたのか?
やっぱりここはよっちゃんのおごりに決定。
去年番組でいっぱい賞金稼いでたし何の問題もないな。
786 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:10
あー今忙しいんじゃない?って妥当な答えを言ったら
不満そうに顔を歪める。
キレイな顔がもったいない。

じゃあ・・・メール返すのを単に忘れてるとか。
ありうる。なぜかごっちんなら十分ありそうだ。
そんで気づいた時には時間経っちゃって
気まずくなって返しづらくなるパターンだ。
美貴ならごめん忘れてたって一行で済ませるけど。
787 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:11
あとは・・・うざいから無視ってやつだ。
これはないか。
ごっちんがよっちゃん嫌うとかありえない。
酔っ払いが泣くかもしれないし、これは却下。
788 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:12
それか・・・何とも返信しづらい内容のメールをしたとか。
avexに移籍したいとか何とか・・・。違うか。
いや、きっとそーだ。
どうせライブでテンション上がったままアルコール飲んで、
酔っ払った勢いでメールしたんだろ。
そんで3日後自分の読んだら恥ずすぎるってよくあるパターンだ。
じゃなきゃ、いっつもうだうだ言ってたよっちゃんが
ここにきていきなりメールするはずがない。
789 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:13
じゃあーさー、電話してみなよ。
うん、そうだ。それがいい。
ほら、やっぱ忙しいんだよって言い包めよう。
そろそろ帰りたい時間帯だ。

美貴の気持ちを察したのか、
不満そうに携帯を耳に当てるよっちゃん。
素直でよろしい。
空気は読めなくても、美貴の気持ちを察するとはなかなかだ。
790 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:14


数秒後よっちゃんがキョドった。

電話はあっさり繋がったみたいだ。
しかもキョドり続ける貴重なよっちゃんが見れるかと思えば、
数秒でごく普通に会話してるし。

なんだ、つまんない。
美貴も亜弥ちゃんに電話しよっかな。
あーダメだ今日は遅くまで仕事って言ってた。
メールでも入れとくか。
美味しい焼肉食べ行こーよっと。
791 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:15

長くなりそうなよっちゃんと、伝票を置いて美貴は席を立つ。


美貴は別に何も変わる必要なんてないし。
美貴は美貴。

美貴には美貴の道がある。
792 名前:restart 投稿日:2009/01/19(月) 00:20
end.

エルダーとごっちんのこの先に期待してます。
793 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/11(水) 20:34
『ブーツ』



一緒に買物行った時、欲しいけどサイズに問題がある、と言って十分以上
二足のブーツの前で悩んでいた愛ちゃんに呆れて、絵里が片方を買って
しまったことがある。

白くてデザインも気に入ったけど愛ちゃんの足にはちょっと大きい、
っていうのと、同じデザインでサイズもピッタリだけど、すでに
違うデザインで同じ色のを持ってる、っていう黒いブーツ。

悩んでいる間ずっと一緒に見てたらなんかこっちも欲しくなってきちゃって、
実はずっと黙ってたけど白い方なら絵里にはジャストサイズなんだなあ。
とそんなことを呟いたら、じゃあ絵里がこっち買いなよ! って、
愛ちゃんは急にその店の店員みたいに白い方をガンガン推してきた。

「えーでもいいんですか? そしたら愛ちゃん」
「絵里が履いてるの見て満足するから。んであっしがこっちを買う」

その指先は、色以外お気に入りの黒い方。
ははは、ありますよね女の人って。こういうとこ。

「白いの、あたしが履くより絵里のが似合うと思うもん」
「え〜似合っちゃいます? ほんとですかあ?」
「ほんとほんとマジマジ」
「じゃあ買っちゃおうかなウヘヘ」

という訳で、色違いでお揃いのブーツを買いました。
絵里って、こう見えて期待されると裏切れないんですよ。
結構頻繁にそのブーツ履いて仕事行ったりしてます。
するとですね、真っ先に気付いてくれるんです!
リーダーさすが。
実はちょっと責任感じちゃってるのかな? って思ったりしないでもないけど。

だから絵里、毎回ちゃんと言うんですよ。
「愛ちゃんにこれ勧められてほんと良かった」って。



おわり
794 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/11(水) 20:40
ナイス1レス!!
リアルエピソードにリアルタイム遭遇できてよかった♪
795 名前:コーディネート 投稿日:2009/03/15(日) 06:42



「あぁぁぁぁ〜!抜け駆けマリコ〜!!」



「えぇぇ〜先食べててってゆったやんかーえり」
「ソンナコトイッテマセン。あ〜マリコに出し抜かれてぇ〜
絵里はぁ〜ヒトリ寂しくお弁当ぉを〜」

「なんの歌だよ。てかマリコゆうな!」

「おーおー、お口のなかが見えちゃってますよ〜、
垣さんに叱ってもらわないと〜」

「っ!!・・・っとにもう。いいからえりも食べ。」

「はいはいはいいただきまーす♪」



796 名前:コーディネート 投稿日:2009/03/15(日) 06:44



「・・・ほんでな、さっき言った白のムートン買った店でストールがあってな」


愛ちゃん。愛ちゃん、お箸の手が止まってるよ。
でもムートン¥2400は確かに安いな〜

「めっちゃ軽いし触り心地が、こう、素晴らしいのよ」

「ほうほう、素晴らしい。買ったら良いじゃないですか。
むしろまだ買ってないことがビックリですよ。」

「白を買うか茶を買うか悩んどったら時間になってもて〜
だから明後日はリベンジよ、えり!」


リベンジですかリーダー。相変わらずお箸進んでないですけど。
にしてもマリコっぽいな〜愛ちゃん。
これしばらく流行るな。絵里のなかで。



797 名前:コーディネート 投稿日:2009/03/15(日) 06:46



「白のほうが可愛いんやけどな、」


でもPVの愛ちゃんの衣装は・・・
えと、黒のブルゾンとゴツめのアクセサリーだったよね。
ストールはシルバー?なんかキラキラで。
ん〜、いいんだけどマリコ的にはちょっと惜しいんだよな。

「いっつも白ばっか買うから茶ぁ買ったほうが使いやすいんよ」


絵里のイメージだとトップスは薄い色のほうがマリコだな〜。

「そうそう買った白のムートンにも茶ならいけそうなんよ」


あ、白のムートン!いいじゃんいいじゃん。
それに茶のストール。
うん、マリコってるマリコってる。


「愛ちゃん、茶色。茶色買いましょ。」

「やっぱえりもそう思う?
よし、もっかい見て気持ち揺れなかったら茶ぁ買う。決めた!」



798 名前:コーディネート 投稿日:2009/03/15(日) 06:49


あとは〜、あ。あのゴツいネックレスは無しの方向でお願いします。
アクセサリー付けるならサラッとした感じの。
ん〜たとえば〜、

「あ。あとなゴールドのチェーンピアスも。あれは買うって決めとるんや」


おお!もしかして

「小さめで派手過ぎない感じ?」

「そう!」


いいよいいよ高橋 マリコキテるよー!
ん、なんか違う。まあいいか。

「なんでわかるん、なに、えりも同じようなん欲しいんか!」

「いやいやいやマリコ様と同じなんてめっそうもない」

「は?」


それでそれで〜、ムートンとストールから行くと〜

「愛ちゃん、あとグレイのワンピ買いましょ」

「え?ワンピ?なんで?」

「本物になるためですよ!」

「本物ぉー?なんやの、えりー。・・・でも確かに春先まで使えるの欲しいかも。」

「でしょ。絵里絶対ワンピ買うべきだと思う。」
「そうかな。時期はやいけど良いのあればええなー。」

「ありますよ、てか見つけましょ、絶対」


本物のマリコになるために!



799 名前:コーディネート 投稿日:2009/03/15(日) 06:58



愛ちゃん、次の日絶対そのコーデで来るはずだから写メんなきゃ。
あ〜楽しみ!
絵里は何買おっかな〜。

あ、

そんなことよりも今の絵里には




「ところで〜、愛ちゃん?」





この欲望を満たすことのほうが重要だ!





「そのたくわん、もし、もし食べないようならぁー」

「ははっ。ほんと好きやね。ん、ええよ。」


「あーりがとうございまぁす♪♪」


ボリボリボリボリ



あー絵里しあわせ。


〜後日談〜
「えり、あっちも見に行こ」

「え〜どっちのほうがいいと思ーう?」

「ん〜もっかいあっちと比べんと決められん。
絵里、行くよ!」




「え〜、もうこれでいいよマリコぉ〜!」


         完。


800 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/15(日) 07:02
>>793さんと同じカプで服ネタとか
なんかいろいろ申し訳ないです。
高橋さんはアンケートなど「絵里」じゃなくて「えり」と回答するから
えりで統一・・・と思ったら最後やらかしましたorz
お目汚し失礼しました。

おわり
801 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/19(木) 19:24
ぱっつん内巻き愛ちゃん=マリコネタですねw
自業自得で振り回される亀ちゃんワロス
802 名前:くろす。 投稿日:2009/03/22(日) 13:25

季節の狭間で/光新
803 名前:& ◆OVMwHkMN8. 投稿日:2009/03/22(日) 13:26
 


光井と迎える初めての季節。
寒さはまだまだ休まる事を知らない。


 
804 名前:くろす 投稿日:2009/03/22(日) 13:27
 

「にーがっきさんっ」



扉からひょっこり顔を出したのは、
次、この高校に入ってくる新入生≠ナ
私の恋人である、光井愛佳だった。


先生に引っ張り出されて
学校説明会の雑用をしてる所に、
彼女がふと寄ってきて話しかけられた。



━━・・・一目惚れしちゃいました。



それはあまりに聞きなれない言葉だった
恋愛なんて私とは無縁のものだった。


だけど今確かにこの子は私の恋人で。

 
805 名前:& ◆vGPd8m6uvw 投稿日:2009/03/22(日) 13:27
 


『こら中学生、なんで居るのよ』

「今日卒業しましたよぉ」

『三月一杯は中学生でしょーが』

「ま、細かい事は気にしないで!」



生徒会室には幸か不幸か私ひとりで。
光井はニコニコして私をてまねきした。



「デート行きましょ、卒業祝いに」

『はぁ?なにそれ』

「ほらほら、はやく!」



とうとう部屋に侵入してきて、
私の鞄を取ると、私の腕を握って笑う。


「散歩!散歩行きましょー!」



散歩は元々好きだった。
だけど最近もっと好きになった。


でも、光井がいない散歩はつまらなくて


 
806 名前:くろす 投稿日:2009/03/22(日) 13:28
 


「入学式の頃には、咲きますかね」

『咲くんじゃない?願えば』

「えー、神頼みですかぁ?」

『ふふ、そう、神頼み』


 
807 名前:& ◆vGPd8m6uvw 投稿日:2009/03/22(日) 13:28
 



初めての恋人は、背が高くて、年上で
落ち着いてる大人だと思ってた。

まさか年下の子と付き合うなんて
しかもリードされるなんて。



不意に光井が立ち止まった。
びっくりして、振り返る。

手を突き出されて何も反応出来なかった
繋げ…ってこと?



棒立ちしてたら、捕まれる手。
初めて、光井と手を繋いだ事になる。

予想以上に冷たい手。
光井らしくないなと思った。


 
808 名前:くろす 投稿日:2009/03/22(日) 13:28
 


「キスしてもいいですか?」

『・・・・うぇ?』

「やーかーらー」



ぐいって引っ張られて、桜の下。
やっと膨らんだ蕾達が、揺れる。


次の瞬間には光井が満面の笑みで、
私は真っ赤で暑い顔を片手で扇ぎながら

くっつくくらい近くに寄り添って歩いた



もちろん、手を繋いで。


 
809 名前:& ◆vGPd8m6uvw 投稿日:2009/03/22(日) 13:29

おわりです。
名前が変になってすいません

みつガキが浸透する事を願って
 
810 名前:名無し読者 投稿日:2009/03/22(日) 22:47
これは新鮮だ
811 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 23:58
とても新鮮
だけど会話文のカギカッコが「」と『』でちょっと読みづらく感じてしまうかな
812 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/23(月) 02:43
意外と、みつガキって良い
そういえば、加入当初、ガキさんとお友達になりたいとかインタビューで
言ってたことを思い出した。何気にロビケロッツとかでも一緒だし
813 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/23(月) 09:17
||c| ・e・)|<光井はジーンズ姿がかっこいい
川=´┴`)<新垣さんは子供っぽいところもある

これを思い出した
814 名前:I know 投稿日:2009/05/11(月) 07:58
見えない
何も見えない

暗闇の世界
感じるのは背中の温もりと、瞼の上の微かな手の感触だけ。

「だーれだ?」

耳元で囁くこの声の主は、小さな手であたしの両目を覆っている。


「わっかんね。」

あたしはいつもと同じようにそっけなく答えた。

815 名前:I know 投稿日:2009/05/11(月) 08:00

「ならヒントほしい?」
「うん」

そう答えると彼女はヒントをくれる。

「じゃあ、ヒントね」
「うん」

「私はあなたの妻でした」
「ふふっ、そこ過去形なんだ?」

思わず笑ってしまった。君が真面目な声で言うから。
彼女は怒ったように答える。

「なによ。ほんとのことでしょ」
「なら逆に質問」

背伸びをして手を伸ばしている君に、いじわるな質問をする。

816 名前:I know 投稿日:2009/05/11(月) 08:01
「君は、あたしのこと知ってる?」
「えっと  たぶんyes…かな」
「そこ少し悩むんだ」

ちょっとだけ傷ついた。

「じゃあもう一つ質問」
「君のことを一番知っているのは誰?」

少しの沈黙の後に君はこう答えた。

「いじわる。わかってるくせに」

「石川さん。そこは素直に答えないと」
「誰って答えれば満足なの?」

そう呟いた後、あたしの目を覆っている手がゆっくり外される。
真っ白な世界。
瞬間光が眩しくて目を細めた。

振り返ろうとすると、視界から外された手が今度は頬を抓ってくる
「いでっ。バカ痛いって」

どうやら振り向いてほしくないみたいだ。
きっと、真っ赤な顔しているからだろう。

817 名前:I know 投稿日:2009/05/11(月) 08:02
今、彼女のことを一番知っているのはあたし。
そしてあたしのことを一番知っているのは彼女だと思う。

まあ、これから先はどうなるかわかんないけど。

でも、それってすっごく暖かくね?

818 名前:I know 投稿日:2009/05/11(月) 08:02
背中越しに彼女が言う。
「ばかじゃないもん。最初に声聞いてもあたしってわからなかった罰。」


罰なんていらない
むしろ褒美をもらいたい


「ばーか。声、聞く前にわかったよ。」

あたしの頬を抓るその小さな手は、綺麗な淡いピンク色にネイルされていた。

End


さて、目隠しされていたのは一体誰だったのでしょう?

819 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 16:09
藤本だな
いや後藤かな
820 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 16:14
いや「妻」がいたってことは男だろ
つんくだな
821 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 17:06
つん梨華とは新しい
822 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 20:06
一徹

823 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/12(火) 01:54
>>822
空気読め
824 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/20(水) 21:12
あややだな
825 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:13

よっすぃー結婚するんだって。



風に乗って私の元へ届いたそんな噂は、私を少しばかり感傷的にさせた。

あれは、まだ私たちに怖いものなんてなかったころ。
道を違えても、どこか通じ合っていたころ。
私たちはまだ未成年だったけれど、たまに私の家でお酒を飲んだりしていた。
うちの家はその辺がゆるいから、悪いことをするには恰好の場所だった。
826 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:13
「真希ちゃん、じゃんけんしよーじゃんけん」
「じゃんけん?なんで?」
「まぁまぁいーから。いくよ?最初はグー、じゃんけんぽい」
「あ」

つい出してしまった。しかも負けた。

「はい負けー真希ちゃん負け―」
「あぁー」

よしこは嬉しそうによっしゃとか言って小さくガッツポーズしている。
下らないと分かっていてもなんだか悔しい。

「はい飲んで」
「へ?」
「いやだから一気」
「は?」
「のーんでのんでのんでのーんでのんでのんでのーんでのんでのんで、のんで!」
「はぁ?なにそれチャラー。どこで覚えたのそれ」
「矢口さんが聞いてもないのに教えてきた」
「全くやぐっちゃんはもー」
827 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:14

飲まないのかよーってブーブー言ってるよしこは無視して、
私は彼女のザグザグな前髪に触った。

「ったくよしこは相変わらずバカだねぇ」

されるがままの彼女はくすぐっらそうにしている。

「なんだよー」
「こんなに前髪勝手に切っちゃってさー。
メイクさんに頼めばもーちょっとかわいくしてもらえるでしょ」
「えーだってウザくてさー近くにメイクさんいなかったし」

少し唇を尖らせて、なんだか子供っぽい。
彼女は酔うと幾分か子供っぽくなる。たぶん私だけが知ってる彼女の姿。
いつもなんだか年上になった気分になる。

「まーいいけどさ、次は私にいいなよ。切ったげるから」
「えーだってごっちんいないじゃん」
「…まーね」
828 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:14

あんなに願っていたソロ活動だった。
それでも、ボンヤリとした寂しさを感じる時は少なくなかった。
まぁ、だからなにってわけでもないのだけれど。

「ごめん」
「何が」
「いや」
「うん」

何が「うん」なのか自分でも分からないけど、
よしこは納得したみたいなのでよしとしよう。

結局その後はなんとなく会話もしぼんでしまって、
買ってきたお酒も底を突き、よしこの「散歩しね?」の一言で外に出た。
夏の終わりだった。
829 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:14

「ふ、あぁ〜〜」

大きく伸びをしながら彼女が前の方をふらふら歩く。
顔には出ていなかったけれど、結構酔ってるのかもしれない。
月が眩しい。でも満月ではないみたい。

「月が綺麗だねぇ」
「Mr.ムーンライトがここにいるからね」
「何言ってんの」
「へへー」
「月はさぁー、いつか満たされることが分かってていいよねぇ」
「はぁー?まーた難しいこと言いだしたよ」
「そぉ?」
「んー…まぁでも、いつか満たされるのが分かってたら、
何日か光が全くなくったって頑張れるよね。」

思いがけない返答だった。
珍しく感傷的な彼女の横顔と裏腹に、私はなんだか愉快になって彼女の方を向いた。
一つのものを見て同じように考えてる。
この辺が私たちが仲良くできている理由なのかもしれないと思った。
830 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:15

「おわっ」

よしこが少しよろけてつまづく。

「なにやってんのー」
「あっは。やべー酔ってるのかなぁ」
「はい」
「ん?」
「手」
「えー」
「危なっかしいから繋ぎなさい」
「えー」
「いーから」

渋々(っていう顔を作って)手を握ってくるよしこ。
嫌そうにしてたわりに繋いだ手を揺らしたりしてまんざらでもなさそう。
まったく、素直なような素直じゃないような。
右手の温もりに少しだけ呆れる。

「なに笑ってんの?」
「ん?ふふっ。ううん、別に」
「なんだよー」
「べーつにー」
「ふーん?ていうか真希ちゃん、手小っちゃいよねー」
「…そう?」

誰と比べてるの?
なんて思った自分が少し恐ろしかった。
自分が思ってる以上に私は寂しいのかもしれない。
もっと強くならなきゃいけない。そう思った。
妙なところで覚えた決意を胸に、少しだけ顔を引き締めて、彼女の手を引いた。
831 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:15

その後、よしこが家に来る事は段々なくなり、
お互いが20歳になる頃にはめったに連絡も取らなくなったけれど、
あの時の決意が私を奮い立たせることは少なからずあった。
832 名前:月と彼女によろしく 投稿日:2009/06/26(金) 04:15



よっすぃー結婚するんだって。



ありがと、って言えるかな。
いや、言いに行こう。
なんでもないような顔で、ありがと、おめでとうって伝えに行こう。

今日は満月だ。
833 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/26(金) 04:16
おわり
834 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:09


「いちばんぼーし、みーつけた」


薄暗い夜空にきらきらと光る星を指して、希美が言った。

「あいぼん、一番星だよ、急がなきゃ」
「あかん。このままやったら絶対二人に怒られる」

遠くの山の陰から少しだけ覗く夕日を背に、
亜依と希美は緩やかな坂道を早足で進む。

「だから寄り道しないで帰ろうって言ったのに!」
「何やねん、元はと言えばののが選ぶの遅かったからやで!」
「えー!?ゆっくり選んでいいって言ったくせに!!」
「ゆっくり過ぎんねん!!」
「あんだよー!!」


口喧嘩を始めた二人の間を、サァ、と夏の風が吹き抜ける。
草木が揺れてさらさらと音を立てる。
生温かく柔らかく肌を滑る風にも、
約束の一番星の隣に光り始めた二つ目の輝きにも、
気付かずに続ける子供の喧嘩。
夏の匂いが夜に滲んでいく。

835 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:11



「でも、変だと思わない?」

突然の梨華の言葉に、ひとみは読んでいた本を机に置き顔を上げた。

何のことだろう、と一瞬だけ考えてから、思い当たらないので聞き返そうと、
ひとみが口を開く前に梨華は話し始めた。
「だってね。あいぼんたらずっとふくれてたのよ。今日はもう外にも行く気にならないって。
 ひとみちゃんが寝てからも、ずうっとお茶碗のこと、言ってたの。
 それが急に上機嫌になって、歌いながら出掛けて行ったんだもん、やっぱり変よ。」

休みもせずそう言い切って、梨華はコップに口を付ける。
ああ、そういえば。
ひとみは、朝の食卓で亜依がお気に入りの茶碗を割ってしまったことを思い出した。
確かにあたしが昼寝するまで、ずっとうだうだ言ってたっけ。
目を覚ました時には亜依も希美も出掛けていたので、ひとみはすっかり忘れていた。
そうやって日がな一日、人の心配ばかりしていて疲れないんだろうかと梨華を見て思う。

「まあいいじゃん、機嫌直ったんならさ。
 しかし暑いなー。梨華ちゃん、ちょっと団扇取ってくれる?」
ひとみは机越しに向かい合う梨華の後ろにあるそれを指した。
梨華は団扇立てに並んだ四柄のうち二つを取って、一つをひとみに渡す。
「はい。それでね…」
話は終わらないようだ。ひとみは机の上の本にしおりを挟んで閉じた。

「出掛ける前に、ののが何か言ってたの。あいぼんに、こっそりね。
 きっとまた何か危ないことしようとしてるんだよ。
 私が部屋の前通ったら、急いで何か隠してたし…」
「う〜ん、それは怪しいね」
「でしょ?二人とも無茶ばっかりするんだから。
 この間だってね、ひとみちゃんが本屋さんに行った時、
 街まであとついて行っちゃったんだって。
 危ないでしょ、尾行の真似事なんて…ひとみちゃんの歩くのだって速いのに。
 何事も無かったから良かったけど、怪我でもしたらと思うともう…。」
「まあまあ、だいじょぶだって。
 何だかんだで元気があっていいじゃん、あいつらは」
「ひとみちゃんたら、そればっかり」

梨華は大きく一つ、溜息を吐いた。
気楽な口調で話すひとみとは対照的に、毎度のことに真剣に頭を悩ませる梨華。
その様子を眺めながらひとみは、今何種類の蝉が鳴いているかを数えようと、心中では必死なのだった。

836 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:12


「やっぱりやめとけばよかったかなぁ」
「何言うてんねん、ののから言い出したくせに」
「だってやっぱり不安になってきたんだもん、怒られちゃうかも」

不安げに俯く希美とは対照的に、
亜依は意気揚々と、手足を大きく振りながら歩く。
時折眉の上に手を翳しては、樹々の合間から差し込む陽に目を細める。

「平気やって。ホラのの、行こ」

明るく言い切る亜依の表情に安心した希美は、差し出された手を取り足を速めた。

837 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:12


日も暮れかけた頃、夕飯の支度を始めた梨華は、
窓の外を見て帰らない二人を思い浮かべひとみに問い掛けた。
「ね、二人とも遅くない?」
畳に寝転がったままのひとみは、時計に目をやると少しだけ眉を顰め答える。
「…そうだね。ちょっと遅いかも」
「どうしよう、大丈夫かな。私ちょっと外、見てくるね…」
「あ、いいよ。あたし行くから」
ひとみは食事の支度中の梨華を気遣い、起き上がり玄関に向かった。
梨華の過剰な心配が面倒臭いということもあった。

家の前に立ち、丘になったその場所から辺りを見渡す。
いつも二人が遊んでいる森の方を見ても人影は無い。
大方川の方でふざけてるんだろう、そう思いひとみは玄関の引き戸を引き中へ戻った。

838 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:12

「やばい…、あいぼん、家ってこんなに遠かったっけ…」
「登りやからな…。もぉえんちゃう?遅くなっても。疲れたし休んでこ」
そう言って亜依は、草むらにひょっこりと生えた切り株に腰を下ろした。
「えー!?やだよ、りがぢゃん怒るじゃん」
「梨華ちゃんは怒ったってうるさいだけやん。
 『約束』までに帰ればたぶんよっちゃんが庇ってくれんで」

「でも…あ!!」
何か言い掛けた希美の言葉が途切れ亜依は顔を上げる。
「なんや」
希美の指す方を見ると、それは『約束』の一番星だった。

「いちばんぼーし、みーつけた!あいぼん、一番星だよ、急がなきゃ」
「あかん。このままやったら絶対二人に怒られる!」
亜依は慌てて立ち上がり、早足で歩き始めた。

839 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:13


「……遅い!!」
すっかり食事の用意が済んだ食卓に座り、
ひとみは苛立ちの混じった声で言った。

「ね、ひとみちゃん…落ち着いて」
今度は宥める側になった梨華が、ひとみの顔色を窺いながら両手で諌める仕草をする。
「梨華ちゃんは黙ってて。大体ねぇ、あいつら舐めてんだよ。
 あたしがいつも甘い顔してやってるからって、
 まったくこんな時間までなにバカやってんだか…」
「な、黙っててってなによぉ!
 さっきまでは私が何言っても大丈夫って言って聞かなかったくせに!」
「だって梨華ちゃんうざいんだもん」
「な…う、うざいって、あ、あのねぇ!」
「なんだよ!」
ガタガタと二人椅子から立ち上がり、怒り顔を突き合わせる。
少しの静寂の後、ちりん、と涼しげな風鈴の音を合図に、ひとみが溜息を洩らした。

「…ごめん。うちらが言い合ってる場合じゃないね」
「…そうだね」
ふう、と梨華も溜息を吐くと、再び椅子に腰を下ろす。
ひとみは立ったまま窓の外に目をやり、低く呟く。
「どうしたんだろなぁ、あいつら」
「もしかしたら本当に何かあったのかも…」
「うーん…、あたし、ちょっともっかい見てくるよ」
「私も!」
840 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:14

玄関の薄暗い電気を点し、ひとみは靴棚の上の懐中電灯を手に取った。
二人でサンダルを突っ掛け、虫が入らないよう戸を締める。
引き戸のガラス部から微かに漏れる明かりと懐中電灯以外に、光るのは月だけだ。
ひとみは暗闇に目を凝らす。梨華は怖がってひとみの服の端を掴みながら、虫と格闘している。

「…ん?」
「嫌!なに?何か居る?」
「違うよ、ほらあれ多分…」

「あいつらだ」


「…ょっちゃああん!」
「りがぢゃぁーん!」
「「怖かったー!!」」

「やだ、二人とも!おかえり!」
暗闇の恐怖からか涙目で掛けてきた子供達を、梨華が両手で抱き締める。
「「うわああん!」」
「もう…二人とも、大丈夫だった?」
梨華は胸の中で泣き出した二人に優しく尋ねる。

「あのね、街まで降りてってね、そしたら、」
「帰りが思ってたよりめっちゃ時間かかってん!」
「暗くなってきたら何か超怖くて、」
「めっちゃ虫とか鳥とか飛んできてん!」
ぐしゃぐしゃに泣く二人の頭を撫で、梨華は屈んで目線を合わせる。
「勝手に街に降りちゃうなんて…もう。心配したんだから、ね、ひとみちゃ…」

「お前らああああ!このバカ共!!危ねーことすんなって言ったろ!」

びりびりと空気が痺れるような大声で、ひとみが怒鳴った。
841 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:15
「ひ、ひとみちゃ…」
「この間さんざ言ったろ!勝手に街に降りない!必ずあたしか梨華ちゃんに言うこと!
 んで一番星が出る頃には帰る!約束は守れ!!」
「「…ごめんなさい…」」
「何でこんな遅くなった!暗くなってから戻り始めたとしても、遅過ぎんだろ」
「「…喧嘩してた」」
「バカか!そんなん帰ってからやれ!」
「「…すいません…」」

ふーー、と、長い溜息を一つ吐くと、ひとみも二人に近付き腰を屈めた。
「…あのね、二人が子供だから約束を作ったんじゃない。
 四人で決めた事でしょう?」
「「…うん」」
「約束ってのはさ、思いやりなんだよ。
 約束を守って梨華ちゃんに心配掛けない。わかった?」
「「ぐすっ…はぁい…」」

鼻をすすりながら返事する二人を見て、ひとみは安心したように微笑み頭を撫でる。
横で見ていた梨華も、優しく微笑むと立ち上がって手を叩いた。
「よぉし、じゃ中入ろ!ね!」
「うん、あーご飯も冷めちゃったかな」
「ウチお風呂入りたい」
「のんよっちゃんと入りたい!」
「おっ、じゃーたまには一緒に入るか、三人で」
「「入るー!」」
「あ、私も私も!」
「げっ、梨華ちゃんはいーよ。風呂沸かしといて」
「えぇーいいじゃない」
「やだよ…」
「何恥ずかしがっとんねん」
「えっとぉ、あいぼん、よっちゃんは身体の一部にコンプレックスがあって…」
「お前は余計なことゆーな」
「え、なにぃ?私も入っていいでしょ?」
「いやだめ…」
「皆で入ったらええやん」
「それはそれでええやん」

842 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:16


小さな浴場ほどある湯船にお湯が溜まるまでの間、三人は線香花火をした。
一人五本。一番負けた人が風呂掃除。
勝負のはずが、言い出した亜依も賛同した三人も、そんなことなどすっかり忘れて夏の楽しみに耽っていた。



「ひとみちゃん、背中流してあげよっか」
「ちょ、梨華ちゃん、こっち来んな」
「よっちゃん隠すほど無いよ」
「ののも人の事言えんで」



そうして遅くなった食卓には、
二人が買ってきた、新しいお揃いの茶碗が並んだ。

843 名前:夏の終わりに 投稿日:2009/06/29(月) 05:20
おわりです。
今どき四期なんて書いて申し訳ないですが。
お目汚し失礼しました。
844 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/29(月) 18:05
ありがとう
どんな時でも好きです
845 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/29(月) 18:25
いいねぇ
温かい気持ちになりました
846 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/30(火) 00:26
こういう雰囲気凄く好きです
847 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/30(火) 00:34
ええですなぁ
848 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/01(水) 09:29
石川と吉澤だったら食事の支度するのは当然吉澤じゃないのか
849 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:40
二人掛けの真っ赤なベンチ
850 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:41
私は公園のベンチ。
昭和の終わり辺りからここにいる。
平成の今に至るまで、あちこちの修理とともに、何度かペンキの
塗り替えがあった。
たくさんの色が私の老いをフォローしてくれていて、
今は赤い色に染められているんだ。
まだ還暦でもないんだけどね。
生まれたての私は、それはそれは美しい純白の輝きを放っていたものさ。

そんなある日の夕方、二人の女性が私に腰掛けた。
私の『目』である背もたれに上半身をあずけた二人は、会話から
察するに、右がアイチャン、左がエリ、という名前らしい。

「これあげるよ」
「えっ、なんですかなんですか?」

アイチャンが白い鞄の中から手のひらサイズの箱を取り出して、
エリはそれを恭しく両手で受け取った。

「なになになんなんですか?」
「いいから開けてみなって」

私はこれによく似た会話を、かれこれ三十回近く聞いている。
素朴な男女がうまいこと私と公園を幸せのステージにしてくれるので、
私はその「プロポーズ」というのがとっても好きなんだ。
女性同士というのは、稀だけどね。
……男性同士は、モノよりナントカらしくてね、うん。
851 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:42
「あ、超可愛い! ピンクだあ」
「絵里っつったらピンクかなって」
「さっすが! よくわかっておるな、お主」

アイチャンは甲高い笑い声を出して、それだけじゃないんだぜ、
と気取った。
エリはそれを聞いて、ちらとアイチャンの方を見た。
それから箱に入った指輪をつまみあげて、色んな角度からそれを観察。
私もちょっと興味があったので、エリが顔の位置までかかげた隙に、
その指輪をよく見てみたんだ。
(私の『目』の位置からだと、座っている人の体が壁になって、
 手元がよく見えないんだよ)

薄いピンクの石は指の太さくらいあって、結構大きい。
リングの部分も同じくらいの太さだから、まるでチャンピオンベルト
のようだ。
ここらを犬の散歩コースにしているおばさんが、よく、こういうのを
嵌めている。

「でかい、なあ」

エリもちょっと気になったらしい。

「うん、ちょっとオバサンっぽいんやけど、ちゃんと理由があんだって」
「り、りゆう……?」
852 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:45
アイチャンは無言で手を伸ばし、エリが持っていた指輪に
ちょっかいをかけた。
何をされたのかはわからないが、それによってエリは、何かに
気付いたらしい。

「時計!?」
「そうなんだよ! 実は蓋なんよそれ」
「えーすごい! 面白いですね!」

なるほどなるほど、指輪型の時計か。
石が大きいのは、文字盤の蓋をする役割も担っているからか。
リングがベルトっぽいんじゃなくて、本当にベルトだったんだね。

いやお恥ずかしい、私は勘違いをしていた。
これはプロポーズではなく、単なるプレゼントだったようだ。
しかもエリはこれが相当気に入ったらしく、何度も面白いと言って
時計をいじっている。
アイチャン、よくわかっておるな、お主。
853 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:48
「くれるんですよね? エリもらっていいんですよね?」
「もちろん。あたしも欲しくて同じの買っちゃった」

やっぱり手元で何かされると見えないのだけど、エリに贈ったものと
同じリングウォッチを見せたんだろう。

「黒だ。かっこいい」
「あ、もしかしてこっちのがいい? とっかえる?」
「いえいえとんでもめっそうも無い!
 こっち! 絵里こっち気に入ったんです」
「なら良かった。濃いピンクならさゆだけど、薄いのはえり、
 って思ってさー。カメの緑もあったんやけどね」
「もー愛ちゃんサイコー、毎度ありがとうございますです、ホント」

そしてエリは立て続けにお礼を言いはじめた。
食事の奢りやらなにやら、アイチャンからは色々ともらっているらしい。

「何のお返しもしませんで」
「なぁに言ってんだ、いらねーよ」
「でも絵里いっつも思ってるんです。
 もらってばっかり嬉しいな、でもぉ、いいのかなーって」

エリは真面目なんだね。
もらってばっかり嬉しいな、で終わってる女の子が、今まで何人
私に座ったことか。
そういうのはだいたい、後になってわざわざ私の上で別れ話をするんだ。
「こんなもんもういらねーよ!」って、今までの贈り物を
ぶちまけちゃうんだ。
貴金属は木造の私に傷を残すし、振られた方もしゅんとしてて
可哀相だったよ。
ひどいもんだよね。
854 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:49
悩めるエリの言葉を聞き終えた所で、アイチャンはポンと膝を叩いて、

「じゃあ今日のこれ、似合う年になるまで大事にとっといて。
 そん時また見せてくれたらオーケー」

と提案したんだ。
手の中にある指輪とアイチャンを交互に見て、エリが訊ねる。

「……えーと、それって……どのくらいですかね?」

すると、ちょうどいいタイミングで、犬の散歩おばさんが私たちの
目の前を通った。
ごついルビーの指輪を嵌めている。
アイチャンもきっとそれを見たんだろう。犬おばさんが遠ざかった
ところを見計らって、こう続けた。

「よん……五十くらいじゃない?」
「あー、……ですよね」

ちょっと長いな、と呟いたのを私は聞き逃さなかった。
アイチャンはすかさず肘でエリを小突いて、

「ひとつくらい、遠い日の約束あってもいいじゃんか」

と言った。
855 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:51
ん? 私はこの一言に引っ掛かりを感じる。
こんな言葉、前にも聞いたことがあったんだ。
それは付き合いの長そうな二人の言葉で、穏やかな空気と、
つのる思い出話の末に、不意にぽろっと出ちゃう感じの。
いつまでもこの関係が続きますように、という願いを込めた一言。

「そうかあ、そうですよねえ」
「つって、あたしも憶えてるかわっかんねえけど!」
「え、ちょ、なんなんですか、言いだしっぺの癖に〜!」
「時計も壊れちゃうかもね!」
「……あれ、なんか耳、赤いですよ?」
「!」

咄嗟に髪の毛で隠したけど、アイチャンの耳が真っ赤だったのが、
私の位置からも見えたよ
856 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:52
辺りが暗くなりはじめて、アイチャンとエリは私の元から去っていった。
しばらく通行人を眺めていると、今度は二匹の猫がやってくる。
三毛と黒は、さっきまで二人が座っていた辺りに腰を降ろした。
ぬくもりがまだ残っていたのだろうね。

やがて二匹は香箱を組んで、仲間の猫と集会を開くまでの数時間を、
私の上でまったりと過ごしていった。
857 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/02(木) 20:53
おわり
858 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/03(金) 22:44
面白い視点ですねぇ
老ベンチがいい味出してる
彼の存在が遠い約束に説得力を出してる感じがします
二人のやりとりもすごく彼女たちらしくてテンポ良く楽しく読めました
859 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/07(火) 22:32
アイチャンが願いを込めた一言がすごく大きなものに感じられました。
成長、進展、不変…なんと捉えたら良いかはわからないのですが。
私の七夕の願いもアイチャンに上乗せしておきます。
860 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/03(月) 07:29
やじうめです
861 名前:振り向かないで、前だけ見つめて 投稿日:2009/08/03(月) 07:29

*****


 
862 名前:振り向かないで、前だけ見つめて 投稿日:2009/08/03(月) 07:30

 電線、灰色のビル、ちょっとの青い隙間。青地を背景にして、角ばった建物と建物の合間を縫うように飛行機雲の一線が見えた。
 B級邦画の導入部みたいな風景のBGMは、たどたどしいえりの朗読だった。

 「どろしー、りぶと、いん、ざ、み、み、み、みどぅす、おぶ、ざ、」
 「えり、何読んでるの? 」

 なんとなく目の前の風景を、携帯電話のカメラ機能で飛行機雲を中心に据え撮影してみた。撮影した画像のデータを再度確認しながら、同じ楽屋にいた相手に尋ねた。
 すると、たどたどしい音は止んだがなかなか返事がなかった。携帯電話から顔を上げてえりを見る。

 「イングリッシュ、プリーズ」
 今度は彼女が何を伝えているのか分かった。
 外見だけならネイティブ顔負けの迫力だった。
 「ワット、アーユー、リーディング? 」
 私は知っている英単語を並べて、もう一度質問をした。するとえりは粗雑な素材の表紙をこちらに向けて、「オズの魔法使い」と達者な日本語で読んでいた本のタイトルを教えてくれた。
 「インタラスティング? 」
 「いんたら? え? 」
 えりの間の抜けた様子に私は、そこで笑いを堪えきれなかった。
 「もーいーよー」と言いながらえりは本を閉じて鏡台の上に置いた。何がいいのか分からないけれど。英文を朗読することに飽きたようだ。
 「舞美、何撮ってたの?」
 側の鏡台に突っ伏すように、猫が伸びをするみたいな姿勢で自分の携帯電話をチェックしながらえりが言った。
 「飛行機雲? 」
 何故か語尾上がりで答えていた。すると、えりが「飛行機雲」と単語を反復した。
 「なんで? 」
 「え? 」
 「なんで飛行機雲なんて撮ったの」
 相手は携帯電話から顔を上げ、あぐらを崩した座り方でこちらに向いた。えりの顔と胴体はそれほど自分と変わらないサイズだけれど、あぐらをかいた足の長さが私よりかさばっているように見えた。日本人離れしている、って多分こういう時に使うんだと思う。なんて、咄嗟に思って。気付いたら。
 「えりって、足の長さは日本人離れしてるよね」
 と、口走っていた。
 「はぁ? 」
 えりの不満気な感嘆の声にはっとした。
 「足の長さだけって意味じゃないし、えりが生粋の日本人だってことは知ってるし、ほら、お寿司も富士山も好きだよね、ね? 」
 「舞美、私、なんで飛行機雲を撮ったのかって理由聞いたんだけど」
 「え? えりって富士山嫌いだった? 」
 「だから」
 えりが溜め息をつくみたいに、眉を八の字にして笑った。
 「好きだよ、富士山。日本一だもん」と、言いつつ鏡台の側の壁に寄り掛かった。私は足を伸ばして長座の態勢になり、自分の足の長さを改めて見てみた。極端に、短い、とは思ってないけど。やはりえりと比べるとなんだか物足りない気がした。
 自分の足を見て、またえりの足を見る。何度か繰り返したけど私の足が伸びることはない。
863 名前:振り向かないで、前だけ見つめて 投稿日:2009/08/03(月) 07:30

 「私ね」
 私が長座ついでにストレッチを始めてしばらく時間が経ち、退屈そうなえりの声が聞こえた。声の方へ身体を捻りながら視線を向ける。

 「宇宙飛行士になるから」

 おや、と思う。たどたどしい英文の朗読でなかったのに。何故か私はえりの言葉が理解できない。えーと。わたしね、うちゅうひこうしになるから。って、確かに聞こえた。「なるから」っていうことはまだそうはなってないけれど、これからなる、っていう宣言で。何に?
 えりは宇宙飛行士になるって言った。
 「なんで? 」
 当然理由が知りたかった。間違った質問ではないはずだ。
 一度、捻った身体を元に戻し、それから反対の筋肉を伸ばすために向きを変えてまたえりへと視線を戻す。
 「だって、宇宙の端っこってどんなんか知りたくない? 」
 「あんまり興味ないけど」
 えりは然も当たり前のように発言している。でも私はそうは思わなかった。
 宇宙についてなんて、今まで考えたこともなかった。
 「宇宙飛行士になれたら、宇宙の端っこ見に行けるの? 」
 「宇宙飛行士なんだから当然でしょ」
 「宇宙の端っこって、どこにあるの」
 「宇宙に決まってるじゃん」
 「そっか」
 それ以外言葉を選ぶことができず、私は黙った。捻っていた身体を正常の姿勢にする。
 なるほど、と一人で合点した。さっきえりが英語の朗読を始めたのはきっと宇宙飛行士と関係してるんだ。年下のこ達からも天然と評される私と違って、えりは突拍子もないことを言ったりやったりするけど、私よりもずっと彼女の方が行動に一貫性がある。それ自体がどんなに脈絡なく受け取られても、よくよく観察していると彼女の行動には彼女なりの理由がある。と、私は思っている。
 「えりは、宇宙飛行士になるんだ」
 何故かえりの目をみることができず、隣のビルがすぐ向かいに見える窓へ視線を逸らせた。さっきの飛行機雲はほとんど姿を失っていた。

 「舞美は何になりたい? 」

 楽屋の様子とは場違いな質問だった。幼稚園ぐらいの時によく耳にした質問だ。時間が経過すると、同じような内容でも、全然様子が変わってくる。
 何の職種に尽きたいとか、どんな業界でキャリアを積むとか。良く分からないけれど、同じような職種でも働く業界によって将来に影響が出るんだとか。必修の進路セミナーでそんな説明を聞いたのは最近だ。どんなに詳しい資料を貰っても、どんなに分かり易い説明をされても、全然ピンとこない。
 だから、正直に返事をした。
 「わかんない」
 そう口にする以外答えを持ち合わせていなかった。
 「じゃあさ」
 沈んだ私の気持ちとは裏腹に少し浮かれたえりの声がした。
 明るい様子のえりにちょっとだけ驚いて私は相手へ視線を向ける。すると、彼女は満面の笑みというか、零れ落ちそうな甘ったるい表情をしていた。小さい男の子がとっておきの秘密を打ち明けるみたいな様子だった。
 お蔭で、落ち込んだと思った心が簡単に上昇するから自分の単純さにすっかり感心してしまう。
864 名前:振り向かないで、前だけ見つめて 投稿日:2009/08/03(月) 07:31

 「舞美は、宇宙食研究者になってよ」

 "うちゅうしょくけんきゅうしゃ"
 直ぐに理解できない単語がえりの口から出てきた。瞬きをいくらしてもさっぱり何を言われているのか分からない。
 「私さ、すごい宇宙飛行士になりたいって思う半面、不安なトコもあって。その一つがごはんなの」
 「ごはん」
 理解できた単語を繰り返して、私はえりの話を聞いているというアピールをする。
 「そう、だってスペースシャトルの中ってずーっと無重力状態で」
 「う、うん」
 「あんな場所じゃパスタとかうどんとかは食べられないし、っていうか。宇宙で何食べてんの?ってカンジじゃん」
 「まぁね」
 「だから、せっかく宇宙に行けるのにごはんがおいしくなかったらすごいツライと思ったの」
 えりは力説してるけれど、きっとそれは見当違いで、でも真理なんだと思った。よく、分かってないけど。えりの真剣さはいつだって説得力がある。
 「その、宇宙食を研究して、おいしいごはんを開発できたら不安は一気に解消」
 相手は真顔から途端に綻んだ表情になった。
 「しかもさ、そのごはんを作ったのが舞美だったら安心するじゃん」
 「安心するの? 」
 私がどれだけ心細そうな表情をしているか、鏡に映った自分を見るように分かった。えりの笑顔が優し過ぎる。
 「行ったことないから、実際は分かんないけど」
 という前置きをしてえりは宇宙がどれだけ寂しい場所か教えてくれた。
 温度がなくて、音もなくて、生命の気配がないところ、らしい。光の届かない深海に似ていると言っていたけれどやはり私はなかなかイメージできなかった。苦労して宇宙飛行士になってまでそんな寂しい場所の端っこが見たいというえりの想像力はこちらが孤独になるほどだ。
865 名前:振り向かないで、前だけ見つめて 投稿日:2009/08/03(月) 07:31

 「宇宙に行って、寂しくて、心が負けそうになってもさ、ごはん食べる度に舞美を思い出すでしょ」
 ワケもなく泣きそうになった。多分、ちょっとだけえりの言う"宇宙"が私にもイメージできて。そしてちょっとだけ"寂しい"部分を想像できたからだ。
 「一緒には連れて行ってくれないの? 」
 宇宙食研究者になりたくないとかじゃなくて。寂しい場所にえりが一人でいることが耐えられないと思った。だから泣き言みたいなコトを口にしていた。
 「舞美は地球で私の帰りを待っててね」
 言葉が壮大過ぎて実感が湧かない。まず、えりの宇宙行きが決定してもないし。でも、待っていてと言われたからには約束だ。
 語り古された昔話を思い出して笑いが込み上げてきた。なんだか自分が「桃太郎」に出てくるおばあさんになったみたいだ。いつかえりが宇宙に旅立つ時、孤独に負けない宇宙食を持たせてあげる。きっと勇敢な仲間がえりの側にいて必ず宇宙の端っこを見つけて帰ってくる。私は無事の帰還をちゃんと待ってるから。だから、えり。安心して。

 「まずは、スペースシャトルってどこで売ってるのかっていうのが問題なんだけど」
 「NASAじゃないの? 」
 「やっぱアメリカ製かぁ」
 きらきらしていたえりの表情が途端に曇り始める。
 「アメリカ製は何か問題があるんだ」
 「いや、取説が英語だったら読めないじゃん」
 えりの言ってることは私からすれば、謎が多いけれど。とりあえず。家に帰ったら"宇宙食"につい調べようと思った。
866 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/03(月) 07:31
以上です

やっつけです

867 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/03(月) 07:32



 
868 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:55




「…カメちゃん?」



なにも変わらない、優しい声。
869 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:56
さゆとデートするのは、もう何度目だろう。
高校生の時に出会って5年。好きになって4年。恋をして2年。
友達の頃を含めなくても、もう数えきれないくらい何度も一緒に街を歩いた。
手を繋ぐくらいでドキドキすることはなくなったけれど、
手の先から伝わる体温で幸せを確認する日々だった。

最近のデートといえば専ら、散歩。
公園でも海でもただの道でも、
二人で手を繋いで歩けばそこはたちまちデートコースになることに気づいた。
絵里もさゆも季節の変わりゆく様を見るのは好きだったし、
知らない道を二人でああだこうだ言いながら歩くだけで楽しかった。
倦怠期なんてなんのその。
ゆっくり恋をしていこうと決めている絵里たちには関係ない。

今日は友達のオススメもあって、珍しく電車を乗り継いで少し遠くまで来た。
遠出といってもやることはいつもと変わらない。
ぶらぶら歩きながら気になったお店に入って、
公園を見つけたら顔を見合わせて微笑み、持ってきたお弁当を広げる。
870 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:56
「あ、そうだ、ガキさんが横浜来たらここに行けって言ってたよー」
「どこどこ?」
「多分さっき通ったとこの近くみたい」
「よーし行ってみよっかー」

なんて話して、腰をあげる。
絵里が先に立って、さゆの手を引く。
午後の温かい時間帯。柔らかい光。

二人して適当にこっちこっちなんて言いながら歩いてたら迷った。
いつも大体そう。
それを楽しんでるから、絵里もさゆも地図は見ない。
見つからなかったらまた来ればいい。

「えりーさゆみ疲れたよー」
「だねー。結構歩いてるよね。コーヒーでも飲もっかぁ」

適当に最初に見つけた喫茶店に入る。
涼しい空気と心地よい人々の話し声。

「何飲むー?」
「んーカフェモカかなぁ」
「絵里はいっつもそれだね」
「さゆは分かってていっつも聞くよね」
「うん、なんか好きなの」
「ふふ。実はね、絵里も聞かれるの好き」
「あっはは。なんかキモいねーうちら」
「うん、キモイね、でも楽しいね、ふふ」

下らなくて幸せな会話をしてる内に注文の順番が回ってくる。
カウンターに張り付けてあるメニューを一応見て、うん、やっぱりカフェモカ。
871 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:57

「えーっと、さゆはなんにするんだっけ?」
「んっとねー…」



「…カメちゃん?」



ハッとして顔をあげた。
だって、あまりにその声が変わってなくて。


「…吉澤さん」
872 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:57

あんまりだと思った。
適当に、ホントに適当に歩いて、
適当に見つけて、適当に入った喫茶店に、あなたがいる。
カウンターは他にいくつもあるのに、私のところにいる。
ねぇ、やっぱり。

「…いやぁ、久しぶりだね」
「…うん、そーですね、ホント久しぶり。5年ぶり、くらいですか?」
「うん、そうだね。カメちゃん、お姉さんになったね」
「そうですかー?えへへ」
「うん、なったよー。ちょっとビックリした」
「変わりませんね、そのとりあえず女の子を喜ばそうとするところ」
「ははっ。あたしは素直に言ってるだけなんだけどね」
「ふふっ、知ってます。最近どうですか?相変わらず困った子に夢中ですか?」
「あっはっは!そうだねー。カメちゃんは?」
「絵里は、幸せですよ」
「そっかー。よかった、うん」

カウンターの下でさゆの手をギュっと握った。
隣にいることをたしかめたかった。

「ご注文は?何にする?腕によりをかけて作るよ」
「えーっと、さゆは?どうする?」
「あ、えっと、じゃあアイスココアで」
「絵里はアイスコーヒーで」

さゆが、えっ?という表情でこちらを見たのが分かった。

「かしこまりました」
873 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:58

レジを打ち込む吉澤さんがうつむき加減でチラッと絵里を見る。
口もとの微笑みで、全部見透かされてるのがわかる。
絵里の背伸びも、何を伝えたいのかも。
そういうところがたまらなく好きだった。

「店内でお召し上がりですか?」
「あー…いえ、テイクアウトで」

さゆがまた、えっ?ていう顔で見たけど、ニコっと笑ってそれを制した。
ごめんねさゆ、絵里ね、これ以上ここにいちゃいけないの。

「はい、アイスココアとアイスコーヒー。お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
「うん、じゃあね、カメちゃん」
「はい。またどこかで」

出来るだけ柔らかい笑顔で吉澤さんに答え、振り返らないでお店を出る。
背中でドアが閉まって、ほうっと力を抜いた。

「えり?」
「ん?あー、ごめんね、さゆ。疲れてるのにテイクアウトにしちゃった」
「それはいいけど」
「ね、さゆの家に行きたいな」
「…うん。じゃー帰ろっか」

しっかり手を繋いでテクテク歩く。
普通に世間話もして、笑いあって。
874 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:58

さゆの家に着いて、手を洗って、私はやっと色んな感情を抑える事をやめた。
先にソファに座っていたさゆをギュウッと横から抱きしめる。
あー、とかうー、とか言いながらギュウギュウ抱きしめる。
その内さゆがこっちを向いて、正面から抱きしめてくれた。
絵里の頭をよしよしなんて撫でる。

「えり、大丈夫?」
「…うん、だいじょーぶ」
「あの人がどうかしたの?」
「ん…昔大好きだった人。初めてちゃんと失恋した人」
「そっか」
「うん」

もう何も言わない。
さゆは余計な事を言いはしても、余計な事は聞かない。
絵里はそこで、あぁ、さゆ大好き、なんて思ってそれを口にする。
さゆみも、って返してくれる。
だからそれで十分。
875 名前:その日までお幸せに 投稿日:2009/08/06(木) 09:58

ねぇ、吉澤さん、ずーっと、出会った時から思ってたけど、
やっぱり絵里と吉澤さんて運命の人だよね。
全然結ばれない、運命の人。
間違いないですよ。

だから、きっとまた10年後とかにバッタリ会う気がします。
それでまた、お姉さんになったね、綺麗になったね、って言われちゃうんです。
その日を楽しみにしてますね。

その日まで、お幸せに。
876 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/06(木) 09:59
おわり
877 名前:Orange Lemonade 投稿日:2009/09/01(火) 23:26
「りんごを食べると、歯ぐきから血が出るんだって」

そういうと早貴は、歯の隙間からしゅうしゅうと息を吐くようにして、
そのあと笑った。熊井ちゃんは、むずかしい顔をした。
それが不服で、なおかつ不思議で、早貴はもう一度いった。

「りんごを食べると、歯ぐきから血が出るんだってさ」

聞こえなかったのかと思ったのだ。
熊井ちゃんはあいかわらず。「む」という一文字であらわせそうな、
そんな顔をしている。不機嫌なような、それでいて何も考えていないような。
そんな顔をしていても、そんな顔だからこそ、熊井ちゃんはビューティーだ。
早貴は、「む」の顔をしてる熊井ちゃんを、頬杖をついて見上げる。
熊井ちゃんは立っていて、早貴は座っているから、見上げる感が半端ない。

愛佳と梨沙子は別スタジオ。ちらりとカメラに目を走らせると、三人がかりの大修理中。
撮影再開までは、もうしばらくかかりそうだ。
早貴は、同じ体勢のまま、息にも声にもならない、ため息をつく。

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