猫と人情と
1 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:41
今までろむってましたが、初めて書いてみます。
美貴さん主役で、猫と人が云々って話です。ハロメンが猫だったり人だったりします。
つたない物ですが、読んでくださればとてもうれしいです!
sage進行でいきますので、よろしくお願いします。
 
とりあえず、美貴さんは猫です^^
2 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:42
 


ぼんぼんちゃん、何時頃帰るんだろ――――



……………………………

どんより重たい雲が空を覆ってる。昼間はあんなに晴れてたのに。
っていうか、窓が開いててすんごい寒い。
雨降ってきそうだし。
寒い。しばれる。
3 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:42
昼間、床が暖かかったから、気持ち良くてつい眠っちゃったんだけど

起きたらぼんぼんちゃんいないし。

トイレ無いし。

ってか何も無いし。この部屋。


模様替えでもするのかな?ま、いいけど。
4 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:43
…ぼんぼんちゃん帰ってきたら、鮭トバもらおう。
勝手に出掛けるなんてひどいもんね。留守番だって――寝てたけど――ずっとしてたんだし。
鮭トバくらいもらわなきゃ、割に合わないよ。
5 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:45
 


――カチャ……




あ、やっと帰ってきた。


玄関までお出迎え。
ちょっと不機嫌なんだけど、ちゃんとする美貴は、とてもえらい。と思う。

「おかえ……あれ?」

ぼんぼんちゃんじゃなかった。
入ってきたのはつんくさんだった。
つんくさんは、なんか肝臓が悪そうな顔しながら、美貴を見て溜息ついた。

つんくさんは、ぼんぼんちゃんとは違った喋り方をする面白い人で、ここの大家さん。
会うといつも猫じゃらしで遊んでくれるから嫌いじゃないけど、


テメェ人の顔見て溜息ついてんじゃねェぞつんく


ごめんなさい今心の中でとは言え呼び捨てにしちゃいました。
でもいきなり溜息つかれたらそりゃ、ね。
6 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:50
『あんなに可愛がってたのに、置いてってまうなんてなぁ。ひどいよなぁ。』

つんくさんは、美貴の頭をわしわしと撫でながら言った。
そうだよね。黙って勝手に出掛けちゃうなんてひどいよね。
さすがつんくさん、わかってる。
さっき呼び捨てたの撤回します。

『…おいで。ご飯やるから。』

そう言ってつんくさんは美貴を抱き上げて、部屋の外に出た。
また、“ればさし”食べさせてくれるのかな…

なんて考えていると、美貴達はつんくさんの部屋を通り過ぎて、車の前にいた。

車には、一回だけ乗ったことがある。
初めてぼんぼんちゃんの家に来たとき。
ガタガタ揺れて、何だか気持ち悪かったのを覚えてる。
7 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:52


ご飯くれるんじゃないのかな?


つんくさんは美貴を車の後ろの方の席に置いてから、運転する人が座る所に座って、走り始めた。

やっぱり車は嫌いだ。うぇっぷ。

8 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:57


―――どれくらい経っただろう。
つんくさんは団地っぽい所に看板をみつける度、じっと見てからまた運転を始めて違う団地を探した。



何回同じことを繰り返したか忘れたくらいの時、つんくさんは小さな公園の横に車を停めて、そこにある掲示板をまじまじと見た後、美貴を車から出した。

こんな所でご飯食べるの……ってつんく何処行く気だお前

つんくさん、ご飯持ってきてくれるのかと思ったら、車に乗ってそのまま走っていってしまった。
走りだす前に何か言ってたけど、よく聞こえなかった。
っていうかつんく!!飯はどうすんだ!ここどこだ!
おー――――ぃ!!

はぁ…もう見えなくなっちゃった。
……叫んだらお腹空いちゃったよ…寒いし


美貴は何か食物を探すために歩きだした。寒さを紛らすのにもいいかな、と思った。


――歩き始めて何分かすると、雨が降ってきた。
雨水が体中に留まって、体温をどんどん奪っていくのがわかる。

寒いなぁ…お腹空いたなぁ……疲れたよ

雨は強くなっていき、容赦なく美貴の体を打ち付けた。


……なんで美貴は、こんな何処だか分かんない所にいるんだろう。
いつもならこの時間、ボンボンちゃんとまったりしてるはずなのに。
ボンボンちゃん、あいたいよぅ…
9 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:59



『あ、猫?』

――!!

いきなり後ろから人の声。
いつもならどうってことないのに、疲れてたからかな。

――バシャッ

『なっ‥猫さん!?』

びっくりして、頭の中が真っ白になった。
10 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 00:59
――――――――――
11 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 01:08
とりあえずここまでで…
早速なんか区切りとか失敗してしまいましたが(汗)
読んでいただければ幸いです。
ではまた^^
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/11(金) 11:47
設定がいいですね。こういうの好きです
続きを楽しみにしてます
13 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:32
――――――――――
14 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:33
 

―――『おかえりー…どうしたの?その子。』
―――『何か、いきなり倒れちゃったの。ちょっと置いといていいでしょ?』
―――『お母さんはいいやよー。』

15 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:35

何か聞こえる…知らない人の声。
目を開けてみると―――やけに目線が高いと思ったら、誰かに抱き上げられているみたいだった。

『あ、起きたみたいやよ。』
目の前にいる人が美貴を見て言った。
『ほんとだ!よかったぁ』
美貴を抱いてる人が――さっきの声だ――見上げてみると、女の子だった。
にっこり笑顔が眩しい、もしかしたらぼんぼんちゃんより可愛いかも…いや、可愛い。
美貴としてはこっちのほうが好み。うん。
16 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:35

『とりあえず、体洗ってあげたら?亜弥も服洗濯するから、一緒にお風呂入ってキレイになりなさい。泥だらけやよ。』
『はぁい。じゃ入ってくるね。猫さん、行こっか?』

…風呂!?
17 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:37

美貴は風呂があまり好きではない。
昔、白いふわふわした泡があまりに美味しそうだったので食べたら、すんごい苦かったから。
…よく考えたら美貴が悪いんだけど。


そんな苦い経験を思い出していたら、もう美貴とその女の子はお風呂場っぽい所にいた。
すげぇ、うちのより広くてキレイだ。
うちのは人一人半身浴するともうギリギリなのに…

18 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:38


ざっぷぁーん!


あのさ、何か一言言おうよ。いきなりお湯ぶっかけるってどうなのさ!?


ぶるるっ

『にゃははっ、猫さんスゴい!!』


19 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:39

風呂っていうのは、そんなに悪いものでもないかも…
美貴が泡を追い掛けて走り回ると、顔をくしゃくしゃにして笑う女の子。
ぼんぼんちゃん以外の人と一緒にいてこんなに楽しいの、初めてだよ。


――ぼんぼんちゃん…
20 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:39
――――――――――
21 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/11(金) 21:46
中途半端なとこできります^^;

>>12 名無飼育さん
ありがとうございます!読んで下さって光栄です。
稚拙ながらも頑張りますので、応援してやってください。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/12(土) 00:26
こっこれはもしかして!?
期待しちゃってよいのかな?ってしてるけどなーw
続き楽しみにしてるよ
23 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/13(日) 18:53
 


『よしっ、乾かしますよぉ』

ぶぁあ〜…


うわっ、何この熱いの!風強っ!えっ何!
乾かすってウチではいつも乾くまで走ってたよ!はっ、美貴はこんな近代兵器なんかに負けねぇぞ!

24 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/13(日) 18:57


『だあぁっ、猫さんちょっとジッとしてっ。』


…美貴もバカじゃないからじっとする。どうやらこの熱い風を吐くヤツは、この子の味方らしい。
しかしこんなスゴいものがこの世にあったとは。ぼんぼんちゃんも走って乾かしてたし、知らなかった…

25 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/13(日) 19:05
 

美貴の毛がふわふわに乾くと、女の子は美貴を抱いて広い部屋に入った。その部屋にはさっき目が覚めた時に目の前にいた女の人が、テーブルにお皿を並べていた。

『あら、きれいきれい〜』

その女の人は、美貴を見るとかわい〜とか、やよ〜とか言いながら美貴を撫でた。
この女の人も、女の子と同じくらい可愛い。

26 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/13(日) 19:10


『ね、お母さん、この子何か食べるかなぁ?』

…ふむなるほど、この女の人は、『お母さん』っていうんだな。
おぉ、そんなことまでわかるなんて美貴って頭いい!

27 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/13(日) 19:25
はいぃ短いですがここで一旦スタァップ!!します。
またまた中途半端ですが…

>>22 名無飼育さん
こっこれはもしかして…どうなるのか作者自身もわかってないような気がしますが(笑)
頑張ります!期待してていただけるとは嬉しいです。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 22:13
走って乾かす人間のぼんぼんちゃんって何者?w
29 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 20:49
 
『う〜ん…ご飯は食べるかな?今日はおかずが』

肉だっ!!!

『うわっ、猫さん待って』

いや、待てないし。肉だよ?目の前に肉だよ?こりゃもう…ねぇ!
美貴は女の子の腕からテーブルに(ってか肉に)飛び付こうとしたけど、ぎゅっと抱き締められてできなかった。

30 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 20:53

『猫って肉もたべるんやねー。』

それはまぁ肉食ですから。トラやライオンの仲間ですから。
っていうか肉!肉!!

『ほらほら、猫さん、お肉あげるから…はいっ!』

女の子は小さいお皿に肉を乗せて、美貴の前に置いた。
いや、置く前に美貴は食べ始めた。無心に食べていた。
31 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 20:58

――『元気みたいやね。倒れたって言ってたから、病気か何かかと思ってたわ。』
『うん、倒れた時は私もそう思った。すごく冷たかったし、もしかしたら死んじゃうのかと思った…』
『ふぅん…野良かな?』
『う〜ん、人懐っこいけど、首輪付けてないからそうかな―――ねぇ、お父さんは?』
『麻琴ならもうすぐ帰ってくるけど……あーしはいいと思うやよ。』
『え?』
『その猫、飼いたいと思ってるんでしょ。』
『え…いいの!?』
『麻琴も動物好きだから、いいって言うと思うよ。』
『ホント!?』
『でも、一応聞いてみてね。』

32 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 21:04

クソッ、歯に肉がはさまった。チッチッ……ぉお!?

『やったよ猫さん!よかったよかった!』

女の子はいきなり美貴を"たかいたかい"した。
まだ肉が歯にはさまっててそれどころじゃないんだけど…

『ほら、亜弥もご飯食べなさい。』
『はぁい。』

言われると女の子は美貴を降ろして椅子に座った。
あ、肉取れた。おぉスッキリ。

『でも、何で飼いたいってわかったの?』
『ん〜…勘。』
『…ふぅん。この肉美味しいね。何の肉?』
『牛タンやよー。』
33 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 21:10



美貴が肉を食べおわってしばらくすると、ガチャンとドアの開く音と、ただいまーという声が聞こえた。
『麻琴やよ。』
ってお母さんがいってたから、麻琴って人なんだろう。でも、女の子は
『あ、お父さぁん!』
って言ってその人の方に走っていったから、お父さんっていう人なのかな。うぅむ、わからん。
とりあえず、麻琴ってことにしとこう。

『お父さん、あのね、猫ひろったんだけど…』
『ん?猫ひろし?』
『違うよ!…猫ひろったんだけど、飼ってもいい?』
34 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 21:15
女の子は美貴を抱いて麻琴に見せた。
麻琴はにこにこしながら美貴の頭や顎を撫でて、

『お〜、父さんは構わんぞ?』

と言った。

女の子は物凄い笑顔になって、
『猫さんおいで!!』
といって美貴を抱いたまま廊下の横にある階段を駆け登った。
おいでも何も抱かれたままだからどうしようもないんだけど…

35 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 21:20

階段を登り終えて部屋に入ると、女の子は美貴をベッドに置いて、自分の頭もベッドの端に乗せて美貴を見た。

『猫さん、私は亜弥っていうの。松浦亜弥、ね?』

まつうら あや、亜弥ちゃん。
可愛い名前。
美貴の名前も教えたいけど、そんなことはできないことを美貴は知っているから、ニャー、と返事だけをした。

『猫さん…なんて呼べばいいかな?』

亜弥ちゃんは暫く考える仕草をしていた。美貴はそんな亜弥ちゃんをじっと見ていた。
やっぱり可愛いと思う。ぼんぼんちゃんとは違う可愛さ。今まで見たことがない感じの人だ。

36 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 21:25

『決めたっ!猫さん、〔たん〕ってのはどう?』

たん…?

『猫さん、さっき牛タンスゴい勢いで食べてたから。にゃはっ♪』

さっきの肉は牛タンっていうのか…ってそんな理由かよ!
よしっ、今日から猫さんはたんだ!って、亜弥ちゃんは美貴の頭を鼻でウリウリした。
ぼんぼんちゃんも、よく鼻でウリウリしてくれた。



―――ぼんぼんちゃん、美貴はこれから『たん』って呼ばれるみたいだけど、美貴は『美貴』って名前を絶対捨てないよ。
ぼんぼんちゃんがつけてくれた名前、気に入ってるから。
37 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/14(月) 21:37
今日はこの辺で…
やっと話が始まってきた感じがします。遅ッ!

>>28 名無飼育さん

…聞かないであげて+.:。゚つ∀`)
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/15(火) 00:14
おおっ出てくる人全員ヒットだ!
もっと続きプリーズ
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/15(火) 09:09
>>37
小さい子供が風呂上がりに部屋を走り回って遊んでいるのを、美貴が見てそう勘違いしたという設定かと思ってたんだけど・・・
40 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 20:50
亜弥ちゃんは美貴をしばらく撫でたりくすぐったりしてたけど、いきなり

『あっ!!』

と言って、机の上に置いてあった何かの紙を見てカレンダーを見た。
そして溜め息、

『あ〜…レポートの宿題あったの忘れてた〜…明日までだったよ……』

41 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 20:55

レポートって、ぼんぼんちゃんもやってたよなぁ…
あれは嫌いだった。遊んでくれなくなるから。
覗いてみると、黒い小さい文字がいっぱいあって、ひらがなしか読めない美貴にとっては本当につまらない物だった。
でも、ぼんぼんちゃんもつまらなそうにやってたし、亜弥ちゃんもいやいややってるみたいだから、レポートというのは皆の嫌われ者なんだろう。
…じゃあ何でやるんだよ!
人間ってこういう時わからないんだよね。

42 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 20:59

『たん、今日はもう遊べないよ…ちぇー』

ほら。やっぱりそう来たよ。
机に飛び乗って、レポートにガン飛ばしてやる。
すると美貴に気付いた亜弥ちゃんは、

『たん、手伝ってくれるの?』

って笑いながら言った。
何かを睨む美貴を、ぼんぼんちゃんは『恐ぇよ!』って言ってたけど…
睨むことが手伝うことになるなら、いくらでも睨んであげたいところだけど、亜弥ちゃんも心の底では恐がってるといけないから、とりあえず目ヂカラを落とした。
昔犬も泣かしたことあるからね美貴。危ない危ない。
43 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:04


あぁ、つまんねぇ…

亜弥ちゃんが机に向かってから30分。
しばらく美貴は部屋の中を観察するためにベッドの下に潜ったりタンスや本棚の上を歩いたりしてたけど、それにも飽きてきた。

44 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:08

『あ、』

ぅおっ!消しゴムだ!

美貴は消しゴムが好きだ。どつくと弾んでいろんな所に飛んで行っておもしろい。

机から落ちてきた消しゴムを早速走って行ってどつく。

『ちょ、たんったら!』

亜弥ちゃんが言ってるけどやめない。
今ヒマなんだよ!こんな時に落ちてくる消しゴムが悪い!おらおらぁ!

45 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:12

バシバシ叩いてると亜弥ちゃんは大きな溜め息をついた。
ちょっとやり過ぎたかな…と美貴が手を引いて顔を伺うと、伸びをしてからまた美貴を"たかいたかい"して亜弥ちゃんが言った。

『もういいや!レポートは明日みうなに見せてもらうことにする。たん、遊ぶよ!!』

その日は眠くなるまで亜弥ちゃんと遊んだ。
亜弥ちゃんと一緒に寝たベッドは柔らかくて、亜弥ちゃんの体温も、ぼんぼんちゃんと同じように暖かくて…
何故か目と鼻の所が少し、ジンっとなった。


46 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:16

朝、ものスゴい音で目が覚めた。見たら時計がジリジリ喚いていて、亜弥ちゃんが叩くと止んだ。
美貴も、うるせえよって言いながら殴ってやった。

『おはよ、たん。』

おはよ、亜弥ちゃん。

人にはわからないみたいだけど、美貴は笑顔で返事した。

『顔洗ってくるね。』

亜弥ちゃんは階段を降りて行ってしまった。

そうだ、美貴も顔洗おう。
キレイにしとかないと、ぼんぼんちゃんに怒られる。
47 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:20
一通り毛づくろいしてから、亜弥ちゃんを追って階段を降りていく。
廊下を抜けて、昨日肉を食べた大きい部屋にでた。

『あ、猫さん降りてきたのー。おはよー。』

お母さん、の近くから良い匂いがする。味噌汁の匂いかな。

おはよ、お母さん。


48 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:24
雰囲気や話からすると、亜弥ちゃんはこれから『学校』と言う所に行くらしい。
制服に着替えて、カバンを持って、

『行ってきます』


亜弥ちゃん、お母さん、美貴の順番で玄関へ進む。
亜弥ちゃんが靴を履いて外に出たから美貴も行こうとしたら、お母さんに抱き上げられて亜弥ちゃんに頭を撫でられた。

『たん、良いコにしててね。』

美貴は学校には行けないのか。なぁんだ、つまんない。
49 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:28


亜弥ちゃんが出掛けていった後、美貴はお母さんと睨めっこをして遊んでいた。
お母さんの猿の顔マネは、あまりにリアル猿だったから、笑っていいのかどうか分からなかった。
…まぁ美貴が笑ってもわからないから、どっちにしろにらめっこは美貴の勝ちだったんだけど。
50 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:34

にらめっこに飽きてきたので、美貴はごろごろし始めた。
それを見てお母さんは、テレビのスイッチを入れた。

――ぼんぼんちゃんはテレビ人間だったよなぁ…
あ、ぼんぼんちゃん。

51 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:39
今日なら雨降りそうもないし、今からなら明るいうちに帰れるかも。
アパートまでの道も、何となく分かる気がする。

もう、帰ってきてるよね。ぼんぼんちゃん。
つんくさんを叱ってもらわなきゃ。美貴をどこだか分からない所に連れてきやがって。


よし、帰ろう。

52 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:42
美貴が少し開いている窓から外にでようとすると、お母さんが『待つやよ』って言って美貴を止めた。

『猫さん、首輪しなきゃダメやよ。保健所に連れてかれちゃう。』

え〜と首輪首輪…ってあるわけないなぁ、って独り言を言いながらお母さんは大きめのハンカチを持ってきて、美貴の首に結び付けた。

『これでいいやよ。』

…何がいいのかよくわからないけど、つっこまないでおいてあげよう。

バイバイお母さん。いろいろありがとう。
亜弥ちゃんによろしくね。

『迷子にならないでね。いってらっさい。』

うん、多分大丈夫だから。
さよなら。
53 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/16(水) 21:57
あぁ…自分でも展開がどうなるかわかりません…
でも絶対放棄はしませんので、最後までお付き合いいただければ幸せです。

>>38 名無飼育さん

ヒットですか!これからもヒット続けられるよう頑張ります。

>>39 名無飼育さん

すみません。これから書いていこうと思っていたのですが、ぼんぼんちゃんは大人で、亜弥ちゃんは女子高生です。
描写不足でした…以後気を付けます
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 22:09
更新乙です。
リアルタイム♪
なんかぼんぼんちゃんを思う美貴が切ないです。
ぼんぼんちゃんはなんで美貴を捨てたんだろう?
次回も楽しみに待ってます。
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/17(木) 00:37
猫たんはカワイイですね〜。
作者さんマイペースでがんばってください。
楽しみにしてます。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/17(木) 12:43
亜弥ちゃんって幼稚園児ぐらいかと思ってました。
それにしてもひらがな読めるなんてすげー。
57 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:34
窓から庭に出て、塀に飛び乗る。
外から見ると、この家はアパートとは全然違う。
この一つの建物に、亜弥ちゃんとお母さんと麻琴だけが住んでいるんだ。贅沢だなぁ。

何となく道を進んで行って辺りを見回すと、やっぱりそんな一軒家が多かった。
道の両脇に塀があって、その向こうに家。古そうなのもあれば、ピカピカの新しいのも。いろいろだ。〓



「お、散歩してんの?」

そんなに歩いてもないうちに、頭上から話し掛けられた。
人じゃない、猫だ。

「…別に。」

返事しながら振り返り、話し掛けたヤツを確認。
白地に黒ぶちの猫が、塀の上から美貴を見ていた。
58 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:34

そいつは塀から降りてきて、美貴をまじまじと見た。
…なんだコイツ。

「あんま見ない顔だね。この辺住んでるの?」
「昨日だけね。」
「ふーん…ね、ヒマだったらあたしと遊ぼうよ。」

昨日だけって言ってるのに…

「ごめん。あんたにつきあってる時間ないんだ。さよなら。」

つれないなぁ、ってそいつが呟いたのを聞かなかったことにして、美貴はまた歩きだした。
後ろから、そいつが叫ぶ。

「あたしソコの吉澤ってウチの〔ひとみ〕っていうんだ。よかったら覚えといてよ。」


美貴は特に振り返りもしなかった。

59 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:35



そろそろアパートが近くなってきたな。見たことある建物が多くなってきた。

もう随分歩いて、影は長くなっている。
これなら日が沈む前に着くかも。ぼんぼんちゃん、もうすぐ会えるよ。



アパートが見えてきた。

窓から入ろう…って閉まってるし!いつも開けといてくれてたのに。
ぼんぼんちゃん、まだ帰ってないんだ。

…ドアの所で待ってよう。


60 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:36


ドアの前で座って待っていたら、人が階段をのぼる音がした。
つんくさんだ。

つんくさんには、腹が立ってることがいろいろあったから、無視して通そうと思ったけど、つんくさんは美貴を無視できなかったようだ。

『やっぱり……戻ってきてもうたんか!』

少し大きい声に驚く。

『………こんなこと、したないんやで。』

つんくさんはたまたま手に持っていた箒を、床に強く叩きつけた。
危険を感じた美貴は、いつでも走りだせるように身構えて威嚇する。
なんか、変だよつんくさん。酒飲みすぎたんじゃないの?

『矢口はな、もうここにはおらんのや。』

じゃあ、何処にいったんだよ。

『…おまえ、首輪してるやん…拾われたんやな。』

つんくさんは少し安心したような顔をして続ける。

『矢口はな、もうおまえと一緒にいられへんねん。…拾われたんなら、もうその家に帰りな。心配してるで。』

いやだ、ここで待つ!って踏張ったら、つんくさんはまた箒を床に叩きつけて言った。

『帰りなさい!!矢口もそうしてほしがってるんやで!』

ぼんぼんちゃんが、そうしてほしい?
どこに?
帰る所なんて、ぼんぼんちゃんの所しかないのに?

『なあ、矢口は、お前を可愛がってた。』

うん、知ってる。ってかなんで過去形にするんだよ。

『でも、もう一緒にいられなくなってもうた。だから、お前に、他の家で無事に飼われて、幸せになってほしいんよ。わかるか?』
61 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:38



……なんとなく、わかったよ。
なんとなく、だけど。

なんで一緒にいられないのか、わからないけど…でも、ぼんぼんちゃんがそれを望むなら。そうしてほしいなら。




わかったよ。ここ出てくよ。





つんくさんの心配そうな視線を背中に感じながら、美貴はアパートを後にした。

もっと一緒にいたかったよ、ぼんぼんちゃん。でも、仕方ないんだよね。
62 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:40
 
63 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/18(金) 17:58
短めですが、更新しました。

>>54 名無飼育さん

ありがとうございます!
それは後々重要になったりならなかったり・・・わかりませんが(汗)
楽しみにしててください。

>>55 名無飼育さん

はい!マイペースでがんばります。
応援ありがとうございます。

>>56 名無飼育さん

読み返してみましたが、自分でもそう思いました。
本当にすみません・・・これからもっと力をつけていきたい次第であります。
ひらがなは、後々絡んでくる・・・と思います。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:33
あ、ぼんぼんちゃんって…
てっきり頭の髪飾りがトレードマークの子かと。
この先、どう展開していくのか楽しみです。
65 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:07
66 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:08


少女は上機嫌だった。

67 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:09


いつもなら満員電車やぎゅうぎゅう詰めのバスで憂欝な学校までの道も、気を抜いているとじんわりと笑顔になってきてしまいそうな程彼女が上機嫌な理由は、彼女自身よくわかっていた。


―――素敵な、とても素敵な猫を拾った―――


はたから見たら、茶色の普通の猫。
少女が最初にその猫を見た時、まさしくその通りに思った。

しかし、その猫が振り返った時――彼女が声を出すと、とても驚いて、倒れて――猫とは思えなかった。

表情があった。
68 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:09

驚いた表情。
てらわない、素直に、そのままの、驚きのかたち。

そしてその、倒れる直前の瞬間の、困惑と少しの悲哀の表情。


少女は、この猫は本当は人間なのではないか、などという非現実的なことを考えた。

少女はそれ程頭が悪くはない。
だが、一瞬でもそう真剣に考えてしまうほど、彼女にとってその猫は人間らしかった。



本当は驚いているのに、或いは悲しいのに、かっこつけて大人ぶって、冷めた表情。

自分の将来が不安なのに、必死になってると思われるのが格好悪いって見栄をはって、それを言い訳にして頑張らない自分。


自分という人間は、何処にいってしまったのだろう?

その猫は、教えてくれるような気がした。
少女の直感だった。


69 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:11
・・・・・・・・・・・・・・・・




「おはよっあやや。」

背中を叩かれた少女――亜弥は、挨拶した声の主を確認するために振り返った。
級友のみうなだった。

「ね、今日レポート見せてくれる?全然やってないんだ。」
「…いいけど、挨拶くらい返してよ…」
「あぁゴメン、オハヨ。」

亜弥は少し笑いながら、みうなの背中を叩いた。



70 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:11
=========
71 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:12



でもさ、帰る場所がないんだよ。
もう美貴には。帰る場所が。


72 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:14




美貴は、ぼんぼんちゃんがもしこの世にいなかったら、野良になってたと思う。
人や犬に追い掛けられいじめられ、それでもゴミをあさって必死に生きてく。
生まれた時からそう決まってたなら、ぼんぼんちゃんがいなかったなら、それが美貴の日常生活だったんだろう。


でも、ぼんぼんちゃんはいた。
いつも一緒にいてくれて、美貴に『可愛い可愛い』って言ってくれた。笑ってくれた。

だから美貴は、野良になる勇気なんかない。

『他の家』って、何?

分かってたら、もう美貴は行ってるよ。
それでぼんぼんちゃんが幸せになるってわかったんだから。
73 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:14

でもわかんないから。
ごめんね、わかんないから。
美貴は幸せになれない、ぼんぼんちゃんも幸せになれない。


誰か、誰か教えてよ。
『他の家』って何処にあるの?



もう、日はすっかり落ちてしまった。



74 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:15



――『ふぁ〜…ヒマなのれす。』

何だか、小さな家とも言えない建物の前に、人がいた。
《交番》って建物に書いてあるけど……読めねぇ。


75 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:17


ねえ、ヒマなら教えて。
他の家って、何処?



・・・『むむ?ねこハケーンなのれす。』

足元まで歩いていくと、その人は美貴に気付いた。
服装はピシッと大人っぽいのに、小さい子みたいなしゃべり方だ。

今はこの人に頼って『他の家』を探すしかない、そう思った美貴は精一杯その人に愛想をふりまいた。


『おぅ、のんになついてる!……けど、首輪してる…』

その人は屈んで美貴の顎をなでると、お母さんがつけてくれたハンカチを見つけて言った。

ってか『他の家』って何処にあんのか早く教えろよ。



76 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:18



『こまったのれす。帰れない……』

美貴はずっとその人にくっついていた。今この人離したら美貴は野良になるしかないという、勘が働いたからだ。
因みに、美貴の勘はよく当たる。と思う。


『まいごなのかなぁ…あ!ちょっとキミ、しつれい。』

言うとその人は美貴の首からハンカチを取って広げた。
ハンカチには、大きく雑な字で、こう書かれていた。きっとお母さんが美貴が出ていく前に慌てて書いたんだろう。



《6ばんち まつうら》


77 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 00:28
あぁ、お盆の連日更新が夢のようです。すみません・・・頑張ります。

>>64 名無飼育さん

[ぼんぼんちゃん]、あまりメジャーではないのですが、
個人的に響きが好きなので使ってしまいました^^;
正式名称はヤグッチョリーナ=ボンボンですね。
78 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 23:05
ちょっと詰まってきたので、短編書きます。

これから時折、徒然を紛らわすために短編やらなんやら書くことがあると思いますので、
もし良かったら読んでやってください。
わかり難い所などがあったら

川VvV)<ツッコミキティ!

していただけると嬉しいです。

基本美貴さん絡みです。
苦手な方はスルーしてください・・・

では、書きます。これまた非現実な話です。
79 名前:らぶさむ 投稿日:2006/08/27(日) 23:06
 

手間

80 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:07
 

ちょっと寂しくなった。


だから


私が頼ったのは科学のチカラ。



そう、機械。


81 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:09



《種別:電子玩具》


・・・
・赤外線及びその他センサー搭載
・・・
・容量:9MB
・・・
・製造日時:XX0226




それは、近年目覚ましい成長を見せるロボット技術が産み落とした、失敗作。

サイボーグだとかそういうモノに憧れを抱く頭のイイ人々が作り出した、ぶっちゃけて言えばタダ人の形をした音声プレーヤー。

82 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:11



《ご使用の前には必ず取り扱い説明書を御覧ください》




説明書なんてまどろっこしい物、いつも読まない。


言葉を入力して、センサー云々がナニナニを感知してしゃべる。

どうせそれだけ。





箱を手順通りに破いて、中の品物が全部見えるように開いた。


三角座りをした、少女か、女性か。

何かを、見つめているのか、いないのか。

肌は、柔らかいのか、堅いのか。


全てが微妙な出来具合。


83 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:13



付属のコントローラーのディスプレイに言葉を入力。
送信。


『亜弥』



子供だったら、面白がって飛び付くだろう。

そしてすぐ、飽きるだろう。


リアルな口の動き。

人間工学に基づいたナントカカントカ。

実に機械らしくない音声。


『亜弥ちゃん』






私はソレに溺れていった。



84 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:14
 



85 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:15

「ただいま、美貴。」

『おかえり 亜弥 ちゃん』



〈美貴〉と名付けた。

こっちが行かない限りもう二度と会えない、アイツとおんなじ名前。



藤本美貴。


86 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:17



あの時もうちょっと


私の足が速ければ


自動車の速度が遅ければ



言葉入力の手間なんてかからなかったのにね。



ねぇ、みきたん。




めんどくさいね。


87 名前:手間 投稿日:2006/08/27(日) 23:18



88 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:13
 
89 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:14

ソレを見るとその人は、建物の中にあるごちゃごちゃした机の上をガサゴソと調べ、大きな一つの本だか紙の束だかを取り出した。

その人は暫らく『6ばんち まつうら』って何度も呟きながらその紙を見ていて
そして、

『ここかな?ちょっと聞いてみるのれす。』

白っぽい四角い何かを取ってボタンをいくつか押して……あぁ、電話か。

電話も嫌いだった。かまってくれなくなるから。

ほら、この人だってもう美貴がいくらどついても知らん顔で物と話している。
とうとう野良になるしかないのか……また不安。
お腹がゾゾ〜っと寒くて痛くなる。

90 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:15




『あ、もしもし、お宅ねこさん…あ、はい、あのれすね、はい、はい、…ちょっとこっちの話もきいてくらさいよ』



そんな物なんかに話し掛けて、何が面白いんだか。
やっぱり人間ってわからない。


91 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:15


いやだぁ……野良…やっぱなるしかないのかな

『はい、駅前交番れす。まってますね。―――キミ、今すぐくるってさ。』



は?誰が?


電話を切ってハンカチを元のように美貴の首に結び付けながらその人が言ってくれたけど、美貴はよく分からなかった。

92 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:17



もうすっかり暗くなった道のずっと向こうに、小さい光の点が見えた。

――何だアレ。虫?

にしてはでかいな。

こっち来るよ――


『お、あれじゃない?』



―――亜弥ちゃんだ!!



光は、自転車の頭についているライトの光だった。
亜弥ちゃんがその自転車に乗っていて、まっすぐ、ぐんぐんこっちに向かってくる。

『やっぱあれだよ』

言ってその人は美貴を抱き上げた。
亜弥ちゃんの顔がよく見えてくる見えてきたってかもう着いた。

速っ!そして近っ!


『たんっ!!!』



その人は、慌てて自転車から降りて走ってきた亜弥ちゃんに美貴を差し出した。
亜弥ちゃんは美貴を苦しくなる程抱き締めて言った。

『たん!なんでいなくなっちゃうの!』


ごめんなさい…

あれ?なんで美貴謝ってんの?
てかなんで亜弥ちゃん怒ってんの?
93 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:18


亜弥ちゃんは、何回かその人に頭を下げてから、美貴を自転車の前カゴに注意深く置いて、自転車にまたがって走りだした。


怒ってるのか嬉しいのかよくわからない顔をして、真っすぐ前を向いて自転車をこいでいた。
時々、美貴の方も見ながら。


眠くなってきた…
94 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:19


美貴は、ウトウトしながらぼんやり考えた。

『他の家』って、亜弥ちゃんの家なのかも…
95 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:19
 
96 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/05(火) 19:21
更新です。短いです。がんばります。
97 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 00:33
短くても楽しい
がんばれー
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 19:27
(・∀・)イイヨーイイヨー
もっともっと読みたい!
99 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/09(土) 01:03
>>97 名無飼育さん

おもしろいと言われると、すっごい嬉しいです!
がんばります。ありがとうございます。

>>98 名無飼育さん

もっともっとがんばる!
期待ありがとうございます。

短編書きますです。みきよしです。
100 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/09(土) 01:04
セミ人
101 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:04
あっつい…
ジメジメする…
九月にも入ったっつーのに、いまさら熱帯夜とか。
地球温暖化?だから暑いの?
だったらクーラーで冷やしましょ。

ジジジジジジ…

蝉とか、もういいよ。
それよりクーラークーラー。
熱っちい地球は冷房で冷ましとけ!
…おっと、窓閉めなきゃ。
102 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:05
ツクツクオーイス ツクツクオーイス
ジジジジジジジワジワジワ
「みーん みーん 」

おぅおぅご精がでますこって…ってちょっと待て。
今人の声入ってなかった?
さりげなく。ギンギラギンに。

窓の外、覗いても、だれもいないけど。


シーン――

あれ?止まった。気のせい?木の精?
ま、まぁいいや。それより冷房…
103 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:06
「…み、みーん みーん」

やっぱ気のせいじゃねぇ!
カギカッコついてる!カギカッコ!!
っていうかこんな時間にセミの真似する人ってどんな人間だよ!?
恐いって!なんまら恐ぇって!

104 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:07

あ〜…なんか木の幹にしがみ付いてる人の足が見えちゃったような気がするけど、
美貴何も見てないよね?
………
見てないって言ってよ自分!!

ガサッ

うわぁ…何かこっち向いた向いたてかスゴい見てるー!?

トコトコトコ…

うわ、うわ、こっち窓の方来るー!!
セミがトコトコと!セミ?
てか恐い!キョンシーより恐い!
キョンシー―!!!

「こんばんわ。」
「き、きょんばんは。」
105 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:08
あれ?挨拶してきた?
てか今美貴何て言った?
普通の人?いや、普通じゃないんだよ。騙されちゃだめだ。
色白でちょっと美人だって…騙されちゃだめだ。うん。

「なに、してるですか?」
ちょっと片言になっちゃったのは置いといて。
いや、何この状況?
団地の二階の窓から顔を出してる美貴と、
ウチの下にある芝生からこっちを見上げてるセミ。いや、セミじゃないのか。


ロミオとジュリエットみたいな〜?やぁ〜だぁ〜!みたいな〜?
106 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:09
「へへ〜…セミ。」

……………

あっ、窓閉めようとしたら邪魔された。
……危ない。やっぱ危ないこの人。

「ねぇ…セミってさ、スゴいんだよ。」

いきなりセミの凄さ語りだしやがった。なんなんだこいつ。
…でも、美人。なんか、キレイな人。
バカじゃなかったらタイプかもね。バカじゃなかったら。

「…んで、セミってこう…」
「んーんー、話聞きたいのは山々だけど、ほら、親御さんも心配してるといけないし、帰られたほうが……ねぇ。」
「…アタシ、親とかいないんだ。」
「あっ…」

うわあぁ、何かすんごい聞いちゃいけないこと聞いた?
気まずいなぁ…てかセミとこんなシチュエーションて。
あ、だから、セミじゃないのか。

「ほら、アタシずっと土ン中いたからさ。」
「ごめん、ばいばい。」

107 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:10

その日から3日くらい、そのセミ人は美貴の窓を夜な夜な訪ねてきては、くだらない話をしてまた何処かへ帰っていった。
美貴は何だか、その人がひどく気になった。もうその人のすべてが。
突っ込む気すらなくなる程バカなそのセミ人。
突っ込まれないようにバカしてるのだろうか、時々表情が真面目。
気になる…だけど、突っ込めない。

108 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:11

「あのさぁ…アタシ、あんたの事、好きなんだ。」

初めて会ってから5日後、美貴はこのセミ人がバカだけどそんなに危ない人ではないとわかったから、わざわざ家を出て、芝生に彼女と並んで腰掛けた。
初めて並んでみると、彼女は結構背が高くて、
やっぱりキレイだった。
やっぱバカだけど。

「はぁ」
「一目惚れってヤツかな。でも、セミってそういうもんだよ。」
「ほぉ」


やっぱりバカだ。バカ過ぎてあぶない。やっぱ。
でも、表情はまた、時折見せる真面目な表情。
あぁ、もうホント何この人。


「わけわかんないよね。でも、ホントに好きなんだよ。もしかしたら、土の中に居た時から、好きになることが運命だったのかもしんないくらい。」

言ってることはワケ分かんないけど、顔はそりゃあもう真剣だった。
そして―――

…あ?

「…わかってくれた?」
「んー、わかんない。」
「えっ、そりゃヤバいYO!」
「てか今美貴に何したお前。」
「え〜、何って…ナニですよぉ……
ってかじゃあ、明後日までにはわかってよ!おねがい。」
「はいはい、気が向いたらね。」
「頼むって。ねぇ、ホント。」
「わかったよ。明後日まででしょ?だから今日美貴はもう寝る。バイバイ。」
109 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:12

その次の日の夜、彼女はまたみんみん言っていた。
窓を開けてやるべきなんだろうけど、気が向かない。

あいつ、昨日美貴にキスしやがった。セミの分際で。

いきなり好きだっつってキスって、普通に考えたらとんでもなくやばいよね?
なんで昨日あんなにキレーにスルーしたのか……ミステリーオブライフだ。

それに、今日も暑いし、クーラーつけなきゃやってらんない。
ってことは、窓を開けてちゃ不経済なのさ。
だから…まぁ、仕様がないんだよ、セミ。

「みーん みーん 」
110 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:13



あれ?


あれだけ言ってたから、「明後日」である今日は何かしらあると思ってたら、何か拍子抜けした。
いや、何かきても困るけどさ。

―――

…いやいやいや、油断しててはいけない。
きっと何か……ほら、水風船とか投げてくるかもしれないし。

―――

そうか。一週間、経ってたっけ?セミの寿命、確かそんぐらいだったような。
…ってまさか。


窓から半身乗り出す……あ!!!
111 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:14
何、やっぱこういうオチなの?
セミはやっぱ、演出ってヤツで、
ホントは余命一週間で暗い過去の持ち主で、
そんな同情させないようにバカやっててって?
ベタベタ過ぎだし。
ってかこいつホント馬鹿。
もっと良い演出考えろよ。
「ばーか。」

階段を降りていくと、
芝生にコロリと転がってる。セミのように。

「ばーか、ばーか。」

虚しい、空しい。
セミとか。ホント馬鹿。
ヤバいね、泣きそう。
こんなベタベタドラマなんかに。
112 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:16

「…ねぇ、わかってくれた?」
「……ッう…うん…」


って、

「ぎゃあああぁー――!!!」

あ、団地の人たちがカーテン開けて見てる。
ここは都会の孤島じゃなかったんだね。よかったよかった。
じゃねぇよ!!

「何?何?だ、大丈夫!?」
「んー、だいじょうぶ。バルタン星人になったから。」
「はぁ!?」
「んで、美貴はウルトラマンね。」

あぁ…コイツは、想像を絶するバカなんだ。
どうしようもないね。
コイツなんかにちょっと弛んだ美貴の涙腺も、もうどうしようもないね。

「知らない?バルタン星人て、セミなんだよ?」
「…じゃ、美貴が宇宙墓場へ連れてってやるよ。」
「へへっ、何処でも連れてってよ。美貴となら何処でも良いから。」

113 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:18
後に聞くと、この人は小さい頃美貴の家の近くに住んでいて、美貴は全く覚えてないのだが、ガキ大将にヘビを見せられて嫌がらせされていたところを美貴が一睨みして撃退したときに、一目惚れしたそうだ。
てかどんなきっかけだよ。
…んで、そのあと話す暇もなく、親父の仕事の関係で引っ越してしまって。

そうやって、また美貴に再開するまでの時間が、とてつもなく長かったから、セミみたいだ、と思って。だからセミみたく切ない演出を……って、

彼女がそこまで喋ったところで、ちょっと彼女の頬をぶった(グーで)。
軽くね?軽〜く。


だって、コイツはバルタン星人で、
美貴はウルトラマンらしいから。
許されるよね。許せ。

「ねぇ、好きだって、わかってくれた?」

セミってことに重みを感じてたけど、
よくよく聞いたらスゲェ軽いよね。この話。

「美貴、虫とか嫌いなんだよね。」
「……あちゃー。じゃあ、今度は哺乳類系で最初から…」

またぶってやった(グーで)。
軽くね?軽〜く。
114 名前:セミ人 投稿日:2006/09/09(土) 01:19
115 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/09(土) 01:20
勢いだけで書きました・・・
本編も頑張ります。
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/09(土) 06:10
テンポよくて面白かったです
本編も楽しみにしてます
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 01:45
チャイコーですセミ〜〜〜〜wwwwww
118 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:31
 
119 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:31
あのあと美貴が目を覚ましたら、もう亜弥ちゃんの家に着いていた。

家ではお母さんがテーブルに突っ伏して落ち込んでいて、美貴と亜弥ちゃんに気付くと、ため息をついた。

美貴は知ってる。
ため息にはいろんな種類があって
今のお母さんのため息は、ホッとしたときのため息だ。
ほら。よかったぁ、て顔してる。


でも、わからないため息もある。
ぼんぼんちゃんが、いなくなるちょっと前についていたため息。
テーブルに肘をついて、両手で顔を覆ってたから、表情は見えなかった。

何だったんだろう…

120 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:32


『猫さんごめんなぁ。迷子になるなんて思わなかったから…』

お母さんは何度も美貴に謝った。
何故だろう。
っていうか美貴、迷子になんてなってないし。

『でも、帰巣本能だっけ?が、猫ってあるんじゃなかった?』

あ、麻琴だ。
朝はいなかったから、何か久しぶりだな。

『だって昨日ウチに来たばっかりなんだよ?まだ馴れてないんだよ…』
『そうよね…しばらく、馴れさせないとダメだったよね…ホントごめんなぁ、猫さん。』

もしかして、お母さんは美貴を外に出したことで謝ってるのかな。
それだったら、お母さんは謝る必要なんて全ッ然ないのに。
外に出たから、大事な事がわかったんだから…ちょっと寂しいこともあったけど。

121 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:32

その日は、おかかとご飯を混ぜたのを食べて、また亜弥ちゃんと一緒にベッドで寝た。
早い時間だったけど、ぐっすり眠った。

あぁ…

もう、ぼんぼんちゃんの事を何だかんだ思い出すのはやめよう。
美貴、今すっごい幸せかもしんないから。
でも、ぼんぼんちゃんを思うのは、やっぱり少し寂しいから。

ぼんぼんちゃんが幸せになるには、美貴が幸せになって
美貴が幸せになるには、ぼんぼんちゃんが…んん?…えぇと…よくわかんなくなってきた。

とりあえず、
今日眠って明日起きても
美貴がこの家にいることができたら、
美貴は幸せなんだと思う。

お母さん、麻琴、そして亜弥ちゃん。

皆、優しくてやわらかくて、良い人たちだから。
122 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:33
・・・・・・

まだ薄暗いけど、もう目が覚めた。
多分、朝5時くらいだろう。勘だけど

隣には、亜弥ちゃんが眠っている。深く深く、ぐっすり、気持ち良さそうに。

美貴は亜弥ちゃんを起こさないようにベッドを抜け出て、少し開いていたドアの隙間から部屋の外へ出た。
まだ、お母さんも起きてないんだ。
台所から、味噌汁の匂いがしない。
123 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:34
―――あ、

そういえば、トイレ何処だろ?

…ない、ない。ないよないよ。

外にでようと思ったけど、居間から庭に出る大きな窓は引っ掻いても開かないし。

まずいな、まずいぞ。

『おぅ、早起きだね。おはよう。』

麻琴が新聞を持って居間に入ってきた。
頼む!!窓を開けてくれ!!

『…外にでたいのかな。でも、大丈夫かなぁ。』

うるせぇ!開けろ!

しばらく麻琴は躊躇っていたけど、美貴の必死さに気付いたのか、窓をソロソロと開けた。
ダッシュダッシュ!

『あぁ、そっか。トイレがないのか。今日、会社帰りに買ってくるかな……終わったらちゃんと中入るんだよ。ここ開けとくから。』

さんきゅ。

麻琴、やっぱりいい人だなぁ。
今度ネズミでもとってあげよう。ネズミ好きそうな顔してるし。
124 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:35
家の中に戻ると、お母さんはもう起きていた。
…お母さんは寝起きが悪いのか、歩きながらウトウトしている。美貴に気付くと、

『あぁ、キャッツ……』

ってむにゃむにゃ言っていた。
よくわからないのでスルーしといたら、麻琴がお母さんの肩をポンと叩いて、起きろー、と言った。


『あー、あー、もう起きたよ。もう起きた。』
『わかったよ、今日は朝ご飯いらないから。』
『うー、ごめん麻琴……』
『へいよ。いってきまーす。』


麻琴は毎日会社に行っているんだ。えらいなぁ。

もっと麻琴と遊んでみたいけど、邪魔したら悪いみたいだ。今は。

『うー、いってらっしゃいのちゅーするー。』
『あはは、…じゃあ、行ってくるよ。』

仲が良いんだね。
あぁむかむかする。
125 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:36
『あ、そうだ』

麻琴が美貴を見て言う。

『今日、帰り猫砂買ってくるから。ウチにトイレないから、さっき困ってたよ。』
『あぁ、そっかぁ…じゃ、首輪もお願いできる?』
『おっけ。じゃ今度こそ行ってきます』

『いってらっしゃい』
いってらっしゃい

麻琴、本当にいい人。
大好きだよ。
126 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:37

亜弥ちゃんは、まだ起きてこない。
さっき時計が鳴ってたけど、一瞬で止まって。でも、下に降りてこない。

ちょっと様子をみてこよう。

127 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:38

部屋に入ると亜弥ちゃんは、まだベッドの中に入っている。
学校には行かないのかな。

頭からすっぽり被っている毛布の上から、亜弥ちゃんに乗ってみる。すると、顔だけ毛布から出して、

『なんだ、たんか……今日、何か学校行きたくないんだよね。』

あ、お母さんが階段を上ってくる音がする。

『亜弥ー、まだ起きなくていいのー?遅刻するよ。』
『なんか、風邪ひいたみたいだから、休む。』

亜弥ちゃん、風邪ひいてるの?
にしては顔色良いけど。

『先週も風邪ひいたって休んだしょ、今日は行きなさい。単位とれないやよー。』
『だって、熱あるみたい。』
『じゃ測ってみせて。』
128 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:39
お母さんは体温計を下から持ってきて、亜弥ちゃんにひょいと投げ渡した。
すると亜弥ちゃんはお母さんに背を向けて、美貴に体温計を当てた。

――ピピッ

『…はい』

亜弥ちゃんは体温計をお母さんに投げて返した。

『あ〜、あるみたいやね。病院行く?』
『いい。ゆっくり寝てる。』


お母さんがわかった、と言って下に降りていったのを確認すると、亜弥ちゃんは美貴を抱き締めて言った。

『たん、今日はずっと一緒にいようね。学校、ズル休みしちゃった。』

亜弥ちゃんは嬉しそうな顔をしていたけど、ちょっとだけ難しい顔もしていた。
129 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:40
 
130 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/11(月) 21:55
自分未だにマコ卒業によるショックが抜けません。
マコ・・・寂しいよ・・・

>>116 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
とても励みになります。
本編ももっと頑張ります!

>>117 名無飼育さん
ありがとうございます!
もっとチャイコーな物書けていけるよう頑張ります。
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/12(火) 01:08
猫&藤本好きなので( ・∀・)ニヤニヤしながら読んでいます。
こんな猫↓と一緒に暮したいなぁ
   ∧,,,∧
  ミVvV彡 
    ミ,,uu,@
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/15(金) 11:10
良作ハケーン!!
作者さんがんばってください
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/24(日) 14:06
いい!
イイですよ
つづき待ってます
134 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/27(水) 21:41
ちょっと超短編書きます。
ごまみきです。悲しい話…になってるといいな。
135 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/27(水) 21:41
まーだだよ。
136 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:42


ごとーの負け?
ミキティの勝ち?

もうそれすらわかんない。


137 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:43

一緒に居れればいいじゃん、って思ってた。
彼女もそう思ってるに違いない、って思ってた。
理由とか、難しいものはいらない、って思ってた。


あぁ、やっぱりごとーの負けかも。




「美貴さぁ」
「んー?」
「ごっちんのこと、何で好きなのかな。」
「…んぁ?どういうこと?」

甘えてくる前触れかと思って、ニヤニヤして答えたりして。
ハズカシー。
138 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:44

「いやぁ、なんとなく……ううん、なんでもないよ。」

そこから始まった。
悲しい哀しいかくれんぼ。



「ミキティ…」
「やっぱり…やっぱりよっちゃんのこと、諦められないんでしょ?
「んなワケないじゃん!」
「もう…やだよ」
「ミキティ、わかってよ…あたしは…」
「ごめん」
「ミキティ!」
「ごっちんのこと、わかんなくなっちゃった。どうしても。もう、これからも、わかることはできないと思う。」


139 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:45


ミキティは、あたしを見つけることができなくて、降参した。
あんなに、「もういいよ」って、叫んだのに。
見つけることができなかった。



それから交替して、

ミキティは何処かに隠れてしまった。
鬼の顔もろくに見ずに。
140 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:45


「ばいばい、ごっちん。美貴は、弱いね。ごめんね。」




141 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:47


かくれんぼは、もう終わっているのかな?

あたしは、そんなことも知らない。


でも、あたしはまだ探してる。
寂しい子供のように。




もういいかい、ミキティ。


142 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:47
143 名前:まーだだよ。 投稿日:2006/09/27(水) 21:58
すんません、本編続き、もうちょい待ってあげてください。。。

>>131 名無飼育さん
AAキャワ!
( ・∀・)ニヤニヤしていただいてると聞いて
こっちが( ・∀・)ニヤニヤです。
ありがとうございます。

>>132 名無飼育さん
良作とも言えないけど、ハケーンされちまったYO!
良作めざして頑張ります。
ありがとんございます。

>>133
期待ありがとうございます!
もうちょいまっててくらさいね。
すみません。
144 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/27(水) 21:59
おっと名前がそのままでした。
おっとっとっと。
145 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:05
146 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:05

亜弥ちゃんは、しばらくたたないうちにまた眠ってしまった。

ヒマだなぁ…亜弥ちゃんつついても起きないし。
美貴眠くないし。

亜弥ちゃんと一緒にいれるのは嬉しいけど、ヒマなのは勘弁だよ…


147 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:06


コツコツ



誰かが窓を叩いた。
人じゃないよね、ここ二階だし。

窓際に飛び乗ってみると、どっかで見たことあるような顔。
白地に黒いブチ。


「こんちわ。やっぱここに住んでたんだ。」

ええと、誰だっけ。


美貴がわからない顔をしていると、そいつは驚いたふうに言った、

「…もしかして忘れたとかないよね?」
「………まって今ここまできてる。」

美貴は腹のあたりを指して答えた。

「全然きてないじゃん。」

148 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:07



「ね、今はヒマ?」

そいつは美貴に窓越しに尋ねた。
今の美貴にとってはスゲェ愚問だ。

「…ヒマ。超ヒマ。」
「じゃあ、遊ぼうよ。ヒマならさ。」

美貴はちょっと亜弥ちゃんの方を見た。
起きて美貴がいなかったら、また迷子になったと思われるかも……

「大丈夫だよ。多分しばらく起きない。」
「根拠は?」
「んなのないYO!」

ちょっとこいつ面白いヤツかも……美貴は思った。
149 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:07

窓は鍵が開いていたから、美貴でも開けることができた。

いいのかな…いいよね、
亜弥ちゃん起きないよね。


そいつは美貴が窓の外に出るのと同時に、向かいに生えている木に飛び乗ってから亜弥ちゃんの家の隣家の屋根に飛び移った。
そして、「ついてくるよね?」という顔をしている。

暇だし、こいつ嫌な奴じゃなさそうだし。

美貴は勿論、そいつの後を追っていった。
150 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:09

「ね、名前何ていうの?」

そいつはまた尋ねる。

「や、ていうか自分から普通名乗るでしょ。」
「や、ていうかあたしは前教えたでしょ。」

少し笑った。

「いやぁ〜、……ごめん、忘れた。」
「しゃーねぇなぁ。……あたしはね、ひとみってゆーの。」
「ひとみ?」

しゃべり方とか態度とか、
何だか思ったより女の子っぽい名前で少し驚いた。
こりゃちょっとしばらく名前と顔一致しないかも。

「そ。そこの白くて大きいキレーな家あるでしょ?」
「うん、あるね。」
「あそこのウチの子なんだ。」

見たらその家は、外国っぽいというか、いかにもお金持ちが住んでそうな建物だった。

また、しゃべり方とか態度とか、
ギャップに驚きつい二度見してしまった。

「今二度見したっしょ。」
「う〜ん。合わねぇなぁって。」

スッパリ言うなあと、そいつはフニャフニャ笑う。
よく笑うなこいつ。
151 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:10

「意外とおジョーなんだな、と思ってね。ひとみ…さん…は」


相手の名前を初めて口にしてみると、何だかこっぱずかしくて、どっかむず痒いような感じがした。

「名前呼ぶのにそんなに照れなくていいよ。」

にやにやしながら美貴に言う。
ちょっとムカつく。いや、本気じゃないけどね、うん。
美貴が本気になったら大したモンっすよ。

「……名字は」
「はい?」
「名字は何ていうの?」
「名字?は、吉澤だけど…」
「じゃあ吉澤って呼ぶことにする。」
「ぅえ〜?そんな、愛のない……」
「じゃあ吉澤さん」
「そんな事務的な……」
「じゃあ吉。」
「短っ」
「じゃあ吉さん」
「………」
152 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:11
そいつは苦笑しながら溜息をついた。
その様子を見て美貴も苦笑いした。

「せめて、[さん]じゃなくて[ちゃん]がいい。」

ヤツが言ったので、
仕方ないなとぼやきながら美貴はそいつを

「吉ちゃん?……ん〜、……よっちゃん。」

と呼ぶことにした。
あ、こりゃいいわ。
簡潔で呼びやすいし。
あぁ、いいじゃんいいじゃん。
何か自分でスゴい気に入っちゃったよ。

「アンタよっちゃんね。もう決まり。いい名前じゃん!」

「なんだそりゃ。」


153 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:12

「んで、キミの名前は?」
「美貴。」
「へぇ〜」

あ、でも今は『たん』って呼ばれてるんだった。
……まぁいいか。美貴は美貴だもんね。

「うぅ〜ん」
「何考えてんの?」
「何て呼べばいい?」
「…うぅ〜ん」

そういえば、美貴は決まった名前で呼ばれるということが少なかった。
亜弥ちゃんと、…ぼんぼんちゃんだけ。かな。決まった名前で美貴を呼ぶのは。

「何でもいいよ。」
「じゃあミッキー」
「それはヤだ。」
「うぅ〜ん」
「普通に美貴でいいじゃん。」
「え〜、もっと何かこう…」

頭を掻きながらそいつはまた考え始めた。
154 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:13


――あっ


「……ミキティ…」
「へ?」
「ミキティって、呼ばれてた。」
「へぇ〜、誰に?」
「…」

ミキティって名前、好きだった。
ぼんぼんちゃんが、考えだしてくれて、
…っていうか美貴ぼんぼんちゃんのコトさっきから思い出しすぎだよ。

「ふぅむ、ミキティか…」
「参考のまでにね。」
「ミキティ、ミキティ……うん、いいじゃんミキティ!しっくりくるYO!」

よっちゃんもミキティというのを気に入ったようで、一人でうんうん頷いていた。
155 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:14


「じゃあミキティで。」
「じゃあよっちゃんで。」

「「よろしく。」」


また笑った。
156 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:14
 
157 名前:らぶさむ 投稿日:2006/09/29(金) 23:15
更新しました。話的にはあまり進んでませんが・・・
もっともっとがんばります。
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/30(土) 00:17
かわゆい猫達
159 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/05(木) 14:49
短編書きます。れなみきです。
微裏ですのでイヤンな方は滑らしといてください。。。
160 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/05(木) 14:50

呼び名とキスとそれ以上
161 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:51


「いらいらする」

彼女は気怠そうに髪を掻き上げてぼやく。

行為が終わった後はいつもそう。


美貴姉。


「みきねぇ」

「みきねぇ」

「藤本さん」


「んだよ」


今日は特に機嫌が悪いみたいだ。
162 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:52


「田中ぁ〜」


でも、ちょっといつもと違う。

いつもなら、すぐ眠ってしまうのに。


「…おい」


わたしの腕をペチペチ叩いてくる。

顔をシーツに埋めたまま。

でもわたしはまだ答えない。
163 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:53


「田中ぁ」

「田中ぁ」

「れいな」


「何っちゃね」


シーツから目だけを上げて
わたしを睨む。


「みきねぇ〜」


彼女の不機嫌の理由がまだわからない。

こういう場合どうすればいいのかよくわからない。


「ねぇってば」


彼女はまだ答えない。

わたしは答えるまで待った。

164 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:54


「さっき最後なんつった」
「別に何も」
「藤本さんっつったろ」


あ、そうか。
わかったわかった。


「藤本さんがいつも藤本さんって呼べって言うけん」
「うさい」


無意識に美貴姉の髪に触れていたわたしの手を取って
実に愛おしそうに舐める。
不機嫌な態度や言葉ととても対照的。

ゾクッとする。
165 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:55
「みきねぇ」
「んだよ」
「明日のコンサートのMC、キスしちゃおうよ」
「バーカ」


わたしの指を口に含んだまま毒づく。

きまりが悪くなったので、わたしは彼女のもとから手を奪い返し、キスをした。
逃げられないように、頭を押さえ付けた。


「んっ…ふ……っ」


抵抗する彼女の口から漏れる声は、まだちょっと不機嫌入ってる。
もう一押し、もう一押しぐらい。
166 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:56


「…んぅ…っ…」


そろそろ気持ち良くなってきたみたい。

そこでキスを止める。

一瞬切ない顔をしたのを
わたしは見逃さなかった。

「ねぇ、明日のMC」
「ダメだっつの」


ダメだった。
じゃあ


「じゃあMC中みきねぇって言ってもいい?」
「…ダメ」
「何ですか今の間」


わたしがちょっと笑うと、
彼女の顔も少しゆるんだ。
167 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:56


でも結局、
MCではキスもみきねぇって呼ぶのも禁止されてしまった。

まぁ、二人だけの時は、
キス以上しても美貴って呼び捨てにしても怒らないから、

れいなはいいっちゃけど。


「みきねぇ超恥ずかしがり屋」
「るさい」


彼女は、恥ずかしいといつも素直になれないで尖ってしまう
そんなこと、とっくの昔から知ってる。
168 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:57


可愛い美貴姉。

明日も忙しいけん、

今日は心地よい疲労と一緒にもう眠ろっか。


「バーカ」



毒づく唇にキスをして、
唯一素直な体に手を這わせて、





明日もコンサート。
169 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:58
 
170 名前:呼び名とキスとそれ以上 投稿日:2006/10/05(木) 14:59
171 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/05(木) 15:03
最近短編ばっかですみません・・・

>>158 名無飼育さん
かわゆいですか!ありがとんございます。
これからかわゆくない場面も出てくるかもしれないですが
そんときも見捨てないで下さるとうれしいです。
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/07(土) 12:50
なんとも言えない二人の空気にゾクゾクしましたw
作者さんの短編みんな好きです
本編も楽しみにしてます
173 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:18
174 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:19


「でもさ、」
「ん?」
「よっちゃんってやっぱりおジョーって感じじゃないよね。」
「なんで?」
「もう全てが全然お嬢様っぽくないじゃん。よっちゃんてあだ名までつけちゃったし。」
「あー、」

よっちゃんは口を開けながら少し考えて言った。

「あれウソ。」
「はぁ?」
「あたしあの家の子じゃないの。あれ友達ん家。」

何だそれ。
美貴は溜息をついて呆れた。

「ビミョーな嘘つかないでよ。」
「うへへ」

よっちゃんはまたヘラヘラと笑っていた。



175 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:19


「ここはね、」

よっちゃんはまだヘラヘラ笑いながら話す。

「一番あったかい所なんだよ。」
「へぇ〜。この町でって事?」
「うん、一番日がよくあたるところ。ミキティだけに教えてあげる。」
「…へぇ、ありがと。」
「でもまぁこの辺の猫はみんな知ってんだけどね。」
「なんだよ。」
「へへ…ミキティ、この町来たばっかりなんでしょ?」
「ん、まあね。」
「よかったら友達にも会ってよ。紹介したい。」

美貴は、猫の友達というものを持ったことがなかった。
というより、
アパートの近くでは、猫に会うこと自体、あまりなかった。

だから、よっちゃんの態度、
よっちゃんと話しているこの感覚は、
とても新鮮で、素直に嬉しい。

「うん、ありがと。」



176 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:20


「ほら、さっき言ったあの家。」
「うん」
「行こう?友達がいるんだ。おっもしれぇヤツだよ。」

よっちゃんは楽しそうな嬉しそうな顔をして、
屋根から降りて塀の上を歩きだした。
そして美貴が降りてくるのを待って、
こっちを向いて立ち止まる。

「待って、今行く。」

少し急いでよっちゃんを追った。

177 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:21

スルスルと歩いていくよっちゃんの後を追っていると、
あの白い家のバルコニーに着いた。
窓を覗いて見ると、

「おーい」

白い長毛の猫が、すっごく柔らかそうなクッションの上で
スヤスヤとこれまた気持ち良さそうに眠っている。

「おーい、起きてよー。」

よっちゃんが窓を叩いて呼び掛けると、
ゆっくり目を開けて窓の方を見てきて、

美貴と目があった。

随分可愛らしい顔をしてる。
あ、よく見たら、少しくすんだ感じの白い猫だ。この子。

…地黒ってやつ?毛並みはスゴく綺麗だけど。


178 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:21


「おはよ、よっすぃ。
お友達さん?」
「あっ、初めまして…」

美貴は怖ず怖ずと挨拶した。

その子はノソノソと窓の方に歩いてきて、
美貴に向かって頬笑んだ。

よっちゃんと全然違って、
その子はこの家にぴったりな
まさにおジョーという感じだ。
地黒だけど。


「えっと…美貴、っていいます」
「ミキティっていうんだよ。あの、松浦さんちに来たんだって。」

ふわふわと笑ってその子は美貴を見ている。
少しドキドキした。

「そうなんだ。私はね、梨華っていうの。
よろしくね、美貴ちゃん。」

随分と高い声だった。


179 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:22


「梨華ちゃん、外出れんの?」
「うん、出れるよ。今日は家に誰もいないの。」

いつもは出れないのだろうか。

美貴が梨華ちゃんを見て考えていると、
よっちゃんが説明してくれた。

「梨華ちゃんはね、箱入り娘なんだよ。」
「へぇ?」
「そんなことないよ。」
「そんなことあるよ。だってこの部屋全部、梨華ちゃんのなんだよ?スゴくね?」

よっちゃんはまるで自分の事の様に得意になっている。

でも本当に――

「すごい…美貴が前住んでたアパートより広いよ。」
「そうなの?」

梨華ちゃんは何か言いたそうな聞きたそうな顔をして美貴を見た。
でも結局何も聞かないで、

「今外出るね。」


梨華ちゃんは窓の鍵を器用にひねって開けて、
バルコニーに出てきた。

よくこうやって抜け出しているんだな、と、
その様子を見ていて思った。
180 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:23

「梨華ちゃんはさぁ、」

さっきのあったかい屋根の上に戻ってきて、それぞれ座って落ち着くと、
よっちゃんが話しだした。

「今はこうやって淑やかっぽいけど」
「うん」
「ちょっとよっすぃ」
「慣れるとかなーりウザいんだよ。」

余計なこと言わないでよって、梨華ちゃんがブリブリ…ん?プリプリ怒った。
声高いなぁ。ホント。
181 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:24

「ウザいって結構ひどくない?」

ちょっとフォロー入れてあげる。

「ほら!美貴ちゃんもこう言ってるじゃない!」
「それはミキティがまだ遠慮してるからだよ。ね、ミキティ。でもさ、うちらに遠慮なんかしちゃ駄目だよ?」

別に遠慮をした覚えはないけど、そう言われると嬉しかった。

そして梨華ちゃんも、

「そうよ、美貴ちゃん。もう私たちは固い友情で結ばれたんだから、遠慮なんていらないんだぞぉ。」
「…」

うーん、友情で結ばれたっていうのは嬉しいんだけどな。

「だぞぉ」って。
「ぞぉ」って。


182 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:25


…キモッ
「…キモッ」


……あっ、思ったことそのまま言っちゃった。


「……遠慮は、いらないからね…」

梨華ちゃんはずーんと落ち込んでしまった。笑顔で泣いている。
まずいこと言っちゃったかな。
どうしよう。


「いいぞミキティ。それでいいんだYO!」

よっちゃんはスゴく嬉しそうだった。
そうかコレでいいのか。


……ってか梨華ちゃんは大丈夫なのかな?

183 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:25



それから、美貴達は結構長い時間お喋りをしていた。
それはとても楽しく、居心地の良い時間だった。
でも、

「あっ梨華ちゃん、帰ってくるよ」
「ホントだ…ごめん美貴ちゃんよっすぃ。またね!」

よっちゃんが梨華ちゃんの飼い主が帰ってくるのを見つけて、
梨華ちゃんは慌てて
さっきの自分の部屋に帰っていった。

なんか…いろいろ大変なんだなぁ、梨華ちゃん。



もう、日は濃いオレンジ色になっていた。


184 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:26


あ、ヤバいかも。


「…美貴も帰るよ。」

美貴は立ち上がって言う。

「え〜、もう帰っちゃうの?」
「亜弥ちゃん、もう起きちゃってるよ。ヤバい。」
「亜弥ちゃん…あ〜、あの寝てた人?だ〜いじょぶだって。まだ起きないよ。」
「いや、それはそれでヤバいって。」

よっちゃんは笑いながら、
そっかぁと言って立ち上がった。


「じゃあ、美貴もう帰るよ。ばいばい」
「うん、また明日。」

明日も会うのか。


「気をつけろYO!」
185 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:28

家に着くまで
振り返ってみると、よっちゃんは屋根の上からずっと美貴のことを見ていた。
美貴がよっちゃんを見ると、よっちゃんは笑いかけてくれた。
美貴も、笑顔になった。

なんだか、嬉しかった。


186 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:28


屋根から木に飛び移ったところで、
亜弥ちゃんの家の玄関から、お母さんがエプロンに突っ掛けサンダルで出てくるのが見えた。
どこ行くんだろう…

美貴は取り敢えずすぐに、
お母さんのいる方に降りていった。


お母さんの目の前に着地すると、
お母さんは目を大きく開けて言う。

『びっくりしたわぁ…あ!猫さん、帰ってこれたんか!今探しに行くところだったんやよ。』

それはちょうどよかった。
ってかやっぱり迷子だと思われちゃった。
でも、探しに行く前に帰ってきてよかったよ…

187 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:29


『じゃあ、猫さん家の中にいてね。あーしは亜弥ちゃん探してくるからね。
亜弥ったら、風邪ひいてるのに、探してくる!ってどっか行っちゃった。』

お母さんは、玄関の扉を開けて、美貴に中に入るよう促した。


って、やっぱ帰るの遅すぎたか。

根拠もないのに大丈夫大丈夫と、余裕たっぷりに言うよっちゃんの顔が浮かんできて、
ちょっと吹き出してしまった。

188 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:30

『じゃあ、行ってく』
『お母さんたんどこにもいないよ!どうしようどうしよう!』

お母さんがちょうど踵を返して外に出ていこうとしたときに、
亜弥ちゃんが何時の間に帰ってきて、
お母さんに泣き付いた。
お母さんは驚いて少しよろけた。


『あー、猫さん今帰ってきたんやよ。ちょうどよかった。』
『へ?』

亜弥ちゃんがお母さんの肩越しに美貴を見つけた。
いっきに亜弥ちゃんの肩が落ちる。

『はあぁ』

少し長い息を吐いて、
亜弥ちゃんは美貴に向かって安心したように微笑みながら、
家の中に入っていった。



ちょうど、日が町並に沈むのが見えた。

189 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:31
 
190 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:32
 
191 名前:らぶさむ 投稿日:2006/10/09(月) 20:35
ふひー、更新しました。

>>172 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
ゾクゾクしていただけてとても嬉しいです!
もっともっとがんばります。
192 名前:名無し飼育 投稿日:2006/11/05(日) 17:38
この作品楽しみにしてます〜♪
作者さんのペースで頑張ってください
193 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:20
194 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:21
お母さんは、亜弥ちゃんが家の中に入るのを見送ってから、
また、美貴に家に入るよう促した。

亜弥ちゃんの背中は、少し疲れたように軽く曲がっている。
廊下にある階段を登ってそのまま自分の部屋に帰っていった。


…亜弥ちゃん、大丈夫かな
ほんとに風邪ひいてたのかな…

心配だったけど、美貴は亜弥ちゃんについて部屋に行かないで、
お母さんの後ろを歩いて居間に入った。
亜弥ちゃん、そっとしといた方がいいかな、と思ったし、
お腹も少し空いてたし。

だってほら、もう日も沈んで晩飯時だしさ。

195 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:22
・・・・・・・



居間に入るとお母さんは、

『あー、晩ご飯なんにしよ。』

って言いながら、食卓からイスを引いて座った。

まだ考えてなかったんだ…
もう結構遅いのに。

196 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:23

『あー、』

お母さんはさっきからあーあー言いながら空気を見て
晩のおかずを考えている。

美貴がその様子を見ていると、
ふいと目が合った。


『晩ご飯…何がいいかねぇ?』


美貴に訊いてるのかな。
・・・でも、私に訊くものなのかな。
言っても何言ってるかわかんないんだし…

『……』

……

『……』

……


お母さんはずっと美貴の顔を見ている。
心なしか返事を期待してるようにも見える…


『あっ、やっぱり昨日の残りですかねぇ?』

やっぱり美貴に聞いてたんかい!
え、てか美貴何も言ってないのに『ですかねぇ?』って何だよ!


197 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:24
『いっか。いいよね。』


お母さんは、

『あれをあーしてこれをこーして…うん。いいね。これで…あっ、そうだ。』

何かを思い出したように立ち上がって、冷蔵庫の引き出しを開け、ゴソゴソと中をかき回し出した。
そして、

『あー、あったあった。』

ラップに包んである半分に切られたかぼちゃを嬉しそうに取り出した。

『麻琴がね、かぼちゃ大好きなんよ。煮物でいいと思う?』

お母さんは麻琴のことが本当に好きなんだな、って感じた。
麻琴の喜ぶ顔を思い描いてるだろうお母さんの顔は、
とても幸せそうだった。


美貴に梨華ちゃんのことを話してくれた時のよっちゃんの表情に、
ちょっと似てたかも。
198 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:24


『ニャー』


美貴はお母さんに、良いと思うよ、って返事して、
お母さんは

『じゃーきまり』

と言って、それから忙しそうにキッチンに向かっていった。

美貴はしばらく、
ご飯をつくっているお母さんの背中を、時々横顔を、
ぼんやりと見ていた。
199 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:25


…あっ!

そうだ、トイレが無かったんだ。どうしよう…

麻琴早く帰ってこいよ!

…っていうのもまぁ無理だから、
こないだと同じく庭へ出る大きな窓から外に出た。

少しだけ開いた窓。
――暖房のおかげでもやもやしてしまったリビングの空気を入れ換えるために
お母さんが開けたのだ。


空気は新鮮だったけど、美貴には少し冷たすぎた。

う〜さみぃ…

吸い込むと頭はスッキリするのに、身体中が何だか刺されているみたいだ。

…早く用済ませよう……

200 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:26

用も済んで
ふと、顔を上げてみた。


月がキレイ。
寒さに引き締められたように
キリリと光ってる。
明るすぎて、他の星が見えない。

満月かな?

思ったけど、よく見たら、
少しだけ欠けていた。


満月が近いのか
それとも、これからどんどん欠けていくのか

どっちだろうかと何となく考えながら、美貴は居間に戻った。
家の中はとても暖かくって、
外との急な温度の違いに少し震えてしまった。
201 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:27
202 名前:らぶさむ 投稿日:2006/11/23(木) 15:30
遅くなった上に短いです。すみません・・・

>>192 名無飼育さん
期待していただけてとても嬉しいです!
ありがとうございます。
もっともっとがんばります。
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 16:23
ここの家族が大好きです(*´∀`*)
夫婦愛w
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/14(木) 20:16
面白いです
つづき待ってます
205 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:33
206 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:35
家の中に戻ると、亜弥ちゃんが階段を降りてくる気配を感じた。

ちょっと走って廊下へ行くと、
美貴が感じた気配どおりに、階段を降りている途中の亜弥ちゃんと目が合った。

美貴を見ると亜弥ちゃんは

『たん、おいで。』

と言って両手を伸ばした。

207 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:35
美貴はすぐにその腕に飛び付こうと思ったけど、
この階段は妙にスベスベしてて爪が滑るし、
一段々々が少し高いから、
なかなか亜弥ちゃんに届かない。
何段か上まで一気に飛んで行くとしても、
きっと途中の段に腹がぶつかるだろう。
痛いのは、やだし。


てこずっている美貴を見て
亜弥ちゃんは少し笑った。

『にゃはは、たん、大丈夫?』

笑った亜弥ちゃんを見て、
美貴はちょっと安心した。

よかった。
やっぱり具合悪くなかったんだ。
208 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:36


亜弥ちゃんはニヤニヤしながら美貴のことを見てたけど
しばらくすると、ふっと笑いを漏らして
一段下がってまた腕を伸ばした。
美貴は今度こそと思って必死になった。
だけどなかなかのぼれない。
前足を一段上に乗せて踏張ったって
カサッと爪が床を滑る音がするだけ。

…何回も繰り返してると疲れてきた。
――前みたいにいったん外に出て
窓から入るという手もあるけど
寒いし、あまりにもめんどくさ過ぎる。
209 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:37

…それでもやっと二段目を登って、
だけど亜弥ちゃんは美貴より四段上にいる。


はぁ…


一息ついて亜弥ちゃんの顔を見上げると
亜弥ちゃんは『ん?』という顔をして見返してきた。『ん?』って何だ『ん?』って。

美貴がちょっとイラっとしてると、亜弥ちゃんはあっと何かを思い出したように
美貴の横を通り過ぎて
さっさと階段を降りていってしまった。

あれ?ちょっと…

一体どうしたのか気になって、
美貴はせっかく登った二段をあっという間に降りて
亜弥ちゃんの後を追い掛けた。
亜弥ちゃんは台所でお母さんに話し掛けていた。

『あら、どしたの。具合は大丈夫?』
『うん。大丈夫。』
『そう、よかった。ご飯は食べれる?』
『うん。食べる。』
『明日は学校、行けそうやね。』

亜弥ちゃんは、舌で頬の内側を突いているように
口をモグモグさせていた。

210 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:38

それから亜弥ちゃんが部屋に戻ろうと振り返って
足元に美貴を見つけると、すんごい甘い声で言う。

『たぁ〜ん、降りてきちゃったんだ〜。』

美貴の頬をグシャグシャと撫でてから
亜弥ちゃんはまた美貴の前に両腕を伸ばした。


階段じゃないなら、簡単だよ。


美貴は至極なめらかにその腕に従った。
そして亜弥ちゃんはそのまま腕を持ち上げて、
美貴を肩に乗っけた。

亜弥ちゃんの肩は少しだけヒンヤリとしていた。

211 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:39

部屋に戻って、亜弥ちゃんは美貴を肩に乗せたまま机に向かった。
机の上には、前に亜弥ちゃんが書こうとして途中で止めたレポートが、
そのまま置いてある。

あれから勉強してないってのがマルわかり。

亜弥ちゃんには悪いけど、少し笑ってしまった。


亜弥ちゃんはその書きかけのレポートをおもむろに手に取ると、小さく小さく小さく畳んで、屑籠に捨てた。
ポスッ、とごみ箱の底にそれが当たる音がした。
212 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:39

それから亜弥ちゃんは、ずっと美貴の眉間あたりを人差し指でなぞっている。
むずむずしてくすぐったい。
美貴は、引っ掻いてしまわないように注意しながら、亜弥ちゃんの指を前足で掴もうとした。
だけど亜弥ちゃんは素早く後ろに手を引いて逃げた。

『ほらほら、つかまえてつかまえて。』

なんだか今日は亜弥ちゃんによく挑発されてる気がする。

でも、亜弥ちゃんに限らず、人ってのは大抵猫をからかって喜ぶもんだ、って、
遠い、いや、そんなに遠くもないか…とにかく昔に、お母さんが言っていた。

血統書付で、ナントカっていう種類の猫であるらしい美貴のお母さん。

213 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:40

でも美貴は雑種っていう種類。

父親は、誰だかわからない。らしい。

もう、兄弟姉妹のことだって覚えてないけど
お母さんの、「人っていうもの」についての話は、妙にハッキリと覚えている。
なんでだろう、自分でもよくわかんないけど、
生きていくのに必要な気がする。なんとなく。



ゴミ捨て場には行かないほうがいい、人はそういうのにやたらとケッペキだから。
とか、
平仮名ぐらいは読めるほうがいい、人の世界は文字だらけだから。
とか、
人の子供に近付かないほうがいい、ヤツらは加減を知らないから。
とか。



そういう話を聞かされた次の日、
美貴は生まれて初めて車に乗った。

ガタガタ揺れて、何だか気持ち悪かったのを覚えてる。

――――

214 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:41
――――

美貴が亜弥ちゃんの指を追い掛けるのを止めると、亜弥ちゃんは、

『たんの毛、綺麗だねぇ…ボサボサだけど。』

美貴の尻尾の先の少しほつれた毛をつまんで苦笑しながら言った。

まあ、美貴はお母さん似だからね。

シナモン色の、サラサラした、短いけど短すぎない感じ。
ちょっと自慢。


…そういえば、梨華ちゃんの毛並みもスゴくキレイだった。
なめらかでふわふわでつやつやで。
地黒だったけど。
215 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:42

そんなことを考えていると美貴は亜弥ちゃんに肩から降ろされて机の上に乗せられた。
亜弥ちゃんは椅子を立って本棚から少し大きめの本を取り出した。

勉強するのかも、と思って机を降りようとしたけど、亜弥ちゃんが『なつかしー』と言ったから、やっぱり降りるのをやめた。
その本が何なのか気になる。好奇心好奇心。

表紙にはでかでかとコアラの絵が描いてあって、
裏には、

[まつうら あやちゃん にゅうがく おめでとう!]

と大きく書かれている。
随分古いようで、うっすら埃がかぶっていた。

216 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:43

亜弥ちゃんが本を開くと、中にはいろんな動物の写真が載っていた。
その写真の下に、一つ一つ名前と説明が平仮名で書いてある。
どうやら小さい子向けの本みたいだ。

亜弥ちゃんはしばらくページを捲っていて、止まると、そのページの右上には〔ねこのなかま〕と書いてあった。


『ふぅ〜ん、ほぉ〜…』

亜弥ちゃんはそのページをしげしげと見ている。
美貴も覗き込んで見ると、
それぞれの種類の特徴を色濃く持って、すました顔をした猫達の写真が
ばらばらに載っていた。

渦巻き模様のある種、尻尾のない種、耳が前に折れている種…

…梨華ちゃんにちょっと似ている猫がいた。
白い、真っ白でつややかな。

でも、正直美貴は梨華ちゃんの方が可愛いと思う。

同じ種類なんだろうけど、やっぱ全然違う。
猫だって、人と同じように、一匹一匹違う。
人は、そのことをよく知らない。


その写真の下には、〔ぺるしゃ〕と書かれていた。
217 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:46

『むっ』

ページの中をウロウロしていた亜弥ちゃんの視線が、ふいと止まった。
それから、美貴をまじまじと見た。
そしてまた、本に目を戻した。

美貴は亜弥ちゃんの視線を追って、何を見ているのかを調べた。
すると、赤茶色の、毛の短い猫が目に留まる。
下には、〔あびしにあん〕と。

あれ…どっかで聞いたような。
う〜ん、どっかで…

思いだせそうで思い出せない。気持ち悪い。思い出せよ自分!


『たんは、アビシニアン?』

亜弥ちゃんは本から目を離し、美貴の顔を覗き込んで言った。
それを聞いて美貴は考えるのを一旦止めて、その〔あびしにあん〕の写真を見た。
しっかりカメラ目線のそいつが見返してくる。

218 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:46
…なんか、いかにも「私モデルなのプロなの」みたいな感じでちょっとムカつくんですけど。
見返りポーズとか決めちゃってるし。


美貴は亜弥ちゃんに、
こんなカメラ慣れしてるっぽいおばさんと一緒にしないでと、
抗議の表情で訴えた。
亜弥ちゃんはその訴えをわかってくれたようだ。
さすが亜弥ちゃん。


『そだね。たんはたんだね。』

219 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:47

―――しばらくすると、
下からお母さんが呼ぶのが聞こえた。

晩ご飯だ!


美貴と亜弥ちゃんは一緒に部屋を出た。
美貴は亜弥ちゃんより先に階段を降り切った。
腹が減ってると自然に急いでしまう。

美貴って結構食い意地張ってる?
いやべつにそんなことはない。


スイスイと降りてしまった美貴を見て亜弥ちゃんが笑いながら言う。

『降りるのは早いんだね、たん。』

…それ誉めてるのかな。なんなのかな。

220 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:48
よくわからないで、美貴も何となくへへと笑いながら
居間に入り、食卓の脇に立っているお母さんの足に擦り寄った。
お母さんはおぉと少し驚いたけど、すぐにニコニコしながら美貴の前に
ご飯と味噌汁を混ぜたのを入れた器を美貴の前に置いてくれた。
美貴はお母さんの目を見てから、それをムシャムシャと食べ始めた。

おいしい、おいしいよ。

淋しかったお腹が満たされていく感じが、美貴はスゴく好き。
夢中で食べた。
もう食べおわった。
早っ!


亜弥ちゃんとお母さんは、まだテレビを見ながらご飯を食べている。
ヒマだし、美貴もテレビ見てよう。


テレビの中では、ぼんぼんちゃんが好きだった…や、なんでもない、
…女性グループが歌って踊っていた。


―――
221 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:49
―――


亜弥ちゃんはご飯を食べ終わると、食器を流しに運んでから、自分の部屋に向かおうとした。
美貴はその亜弥ちゃんの目の前に立った。
ヒマだから、構ってほしかった。
歌も終わって、テレビつまんなくなったし。


亜弥ちゃんは何も言わずに美貴を抱き上げた。
そしてまた何も言わずに廊下へ出て階段をのぼり、自分の部屋に戻った。
ベッドの上に乗せられた美貴は、すぐに眠くなってきた。

そこでふと、

『今日はずっと一緒にいようね。』

朝の亜弥ちゃんのことばを思い出す。

…そういえば、今日はほとんど亜弥ちゃんと一緒にいなかったなぁ…

――――
―――
――
222 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:49
 
223 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:50

コツコツ

224 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:50

コツコツ音がする。
窓を叩く音。
でも気のせいかもしれない。
ほら、今美貴眠いし。寝呆けてるっぽいし。ってか寝ていたいし。

うん、気のせいだ。


225 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:51


コツコツコツ


気のせい、気のせい、…眠い……



「おいーっす。ミーキティー?」

この声は、ええと…
よっちゃん?
よっちゃんか。

朝早いんだなぁよっちゃんさんって。
……グゥ…

226 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:52

「ミーキティーぃ。ミキティ寝起き悪いよミキティ。
あ〜、やっぱミキティってあだ名いいよ気に入ったよミキティ」
「うっさいなぁ…何よ。」
「朝からテンションひっくいな〜」

しぶしぶ窓際に飛び乗ってよっちゃんの顔を見ると、苦笑いしていた。


目を擦って眠さを飛ばそうとしたけど、やっぱり眠い。

寝起きの美貴の顔は、…まあ、いろいろヤバいから。
ってもう自覚までしちゃってるし。
よっちゃんもビビってしまうかもしれない。
せっかく友達になったのに。


「ごめんごめんご。早く遊びたくてさ。ミキティ面白いし、一緒にいて。」

よっちゃんはすぐに苦笑ではないいつもの笑顔になって言う。

美貴は安心した。そして嬉しく思った。
227 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/15(金) 23:52
228 名前:らぶさむ 投稿日:2006/12/16(土) 00:04
中途半端ですがここでスタァップ!!しますです。
次から更新速度をもっと速めるように頑張りたいと思いますorz

>>203 名無飼育さん
感想ありがとうれす。

こどものことも気にかけてよね!

         ノノノハo∈
        (‘ 。‘从
       Оノハヾ⊂)
       (川’ー’と∩  ハイハイ
        ヽ    ノ
   ;:::::;;;;;;;;;;:::::;; Y 丿 ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:
  ;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;(_)J ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;
 ;;;::::;;;;;;;;:::;;;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;;::::;;;;;;

>>204 名無飼育さん
期待ありがとんございます。
お待たせしてすみませぬでした。


読者様のレスはほんと嬉しいです。ありがとんございます。
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 00:43
ねこたん可愛いなぁ〜とニヤケながら読んでたら最後の親子の図にやられました
230 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:10
231 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:11
「眠いならいいよ、また昼ごろにさ、会える?」
「ん…もう起きるよ。遊ぼ」
「いや、だってメシもまだ食ってないでしょ?また来るよ。」

よっちゃんは残念そうな顔をしながらもそう言った。

その顔を見ると少し気の毒で、よっちゃんについていきたくなるけど、やっぱり眠い。

ここは言葉に甘えよう、わるいけど。


「……うん、ごめん…。起きたらすぐ行くよ…」
「はいよ、待ってるから。んじゃ、おやすみきてぃ。」


ごめんごめん、後で行く…と、ムニャムニャ繰り返しながら、美貴はまたボーっと目を閉じた。


日は、まだ顔を出し切っていない。

232 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:11


…、いい匂いがする。
昨日の、かぼちゃの煮物の匂い。

お母さんは、もう起きてるんだ。


むくりと起きてみると…亜弥ちゃんの上に乗っかって寝てたはずなのに、いない。
部屋を見渡してみても、いない。

もう学校に行ってしまったんだろうか。ってかもうそんな時間?
太陽もまだそんなに高くないし…あれ…もう結構外明るい。
こんな時間じゃ、もう亜弥ちゃんは学校に行っちゃったんだろう。


233 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:13


そうだ、よっちゃん探しに行こうかな。


窓から外に出ようと思ったけど、鍵がしまっていた。開けてみようか、でも、何ともめんどくさい。

まぁ、いいや。階段降りて、お母さんに外に出してもらおう。
ついでに、飯も貰おう。


階段をスルスルと降りた。
一度目に成功すれば、大抵二度目からも上手くいくもんなんだな、と思った。
ホレボレする程スムーズに下る、
ちょっと美貴ひょっとして階段下りの天才じゃん?


…昨日の晩ご飯に出てきた煮物の匂いがどんどん濃くなる――ここはもう台所。
スリッパを履いたお母さんの足が見えたから、擦り寄ってみた。
お母さんはびっくりしてた。
234 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:13
『あんらぁ、びっくりしたぁ』

目を飛び出そうなくらい大きくしている。
最初見た時から思ってたけど、この人は「お母さん」って呼ぶにはちょっと幼すぎる感じがする。

「あぃ、おはよー」

言いながらかぼちゃの煮物を皿に二欠片取り、美貴に差し出した。


でもあんまり、今はお腹空いてないんだよね。

後で食べようと思って、美貴はそれを口にくわえて、外に出ようとした。なるべく早くよっちゃんに会いに行きたかったから。
このかぼちゃはどこかに置いといて、探しに行こう。

と言っても、どこに置こうか

235 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:14
取り敢えずリビングから庭に出て、生け垣を伝いながら木に飛び上がる。
よく味付けされて煮込まれて、すっかりやわらかくなったかぼちゃのどろっとした部分が、途中ぽとりと落ちたりした。

…木の枝の根元に置いておく?いやいやそれじゃ鳥の餌になるだけだし。
道路脇の溝に?いやぁ、どぶくさいのは嫌だし。
向かいの家の生け垣?あ、いいかも。…あぁでも駄目だ。
昨日犬が吠えてるのが聞こえた。

考えながら、美貴は亜弥ちゃん家の屋根に上った。何だか考えてるウチに腹が減ってきたから、やっぱりもう食べようかな。

何ばかなことやってるんだろう、そう独り言を言ったら、ますますばかみたいじゃないか、と、
何ともばからしいことを独りで思いながら
美貴は足元に置いた昼飯に有り付こうと首を下げた



「…むぉ、誰!?」
「あっ、すみません」
236 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:15
美貴の鼻のすぐ先にあるかぼちゃ。
そのかぼちゃに鼻をフンフン言わせて近付ける、見知らぬ三毛猫。誰だこいつは。
言ったら顔をバッと上げて、美貴の目を見た。どうしても美貴も、相手の目を見てしまう。
大きくて、少したれてる目。

「やぁ、すみません。」
「いや、だからね誰?」
「あ、紺野です。紺野あさ美です。」


とてもシンプルな答え。
いやいやそうじゃなくて。
237 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:19
美貴、きっと今ものすごく怪訝そうな顔をしているだろう。
その顔で、今美貴の目の前にいる紺野さんとやらを見つめた。
睨んだ?いや、見つめた。
しかしその子は、いつの間にか目線を美貴の足元にあるかぼちゃに向けていた。
美貴の目線は空振った。

『あぁ〜、良い香りですねぇ。久しぶりです。』

実にいとおしそうな眼差しだ。そしてかぼちゃから目を離さない。
何だか話し掛けづらい。

しばらく様子を見ていると、急にふわっと顔を上げ、た。
大きな目は潤んでいた。

「…た…食べ、ます…か?これ…」

そう言わざるを得ない表情。
すんごく、食べたいんだろうな。このかぼちゃを。

「あ…いいんですか!?」

もともと緩そうな感じの顔が、これまた一気に緩んだ。
素直に、とても嬉しそう。
何度も何度も、いいんですか?って聞いてくる。
…ちょっとしつこいよ。
238 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:20
「ホントに本当に」
「あさー美ちゃーーん」

いきなり、どこか注意していなかった場所から、誰か(今美貴の目の前にいるこの子だと思うけど)を呼ぶ声が飛んできた。
よく通る声。
見回したら、少し遠いところにある家の屋根の上、今の声の主だろう細身の猫が、まっすぐこちらを見ている。

「あ、ガーキさぁーん」

目の前の猫は呑気に手を振り、返事をした。
239 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:21
240 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/03(土) 23:28
有言不実行まことに申し訳ございませぬ・・・
次からは絶対もちっと早く更新したいと思います!

>>229 名無飼育さん
ニヤケていただいてありがとうございます。
もっともっとやられてくださると作者が喜びます。
241 名前:229? 投稿日:2007/02/04(日) 00:20
くっ…もっともっとやられましたorz

やっぱりお母さん幼いんですねぇ
ノンキ夫婦が好きです。でも猫さんのほうがもっと(ry
242 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/04(日) 11:19
ほのぼのして良いです♪
メンバーそろって来ましたね〜。
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/08(木) 00:11
お、待ってましたよー。ますます続きが気になります
244 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 02:52
245 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 02:53
「ちょっとぉ〜あさー美ちゃーん探したよ〜」
「ごめ〜んガキさ〜ん」

お互い遠いところで、声を伸ばして会話している二人の様子を見ていると、目の前の子が美貴に振り向いて言った。

「あ、友達なんです。」

や、聞いてないんだけど。

「ガキさ〜ん、ちょっとこっち来て〜」

相手の方は、うぇ〜!?とか言いながらも、何とか通れる道を探しつつ、こちらに向かってくる。
その子が今美貴達のいる所に来るまでの数分間、紺野さんとやらは、美貴に話した。

「かぼちゃ、好きなんですよ。私。」
246 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/11(日) 02:54
へぇそうなんですかとしか返す言葉がない。
本当になんなんだ、この子は。
不思議な空気。

「ところで…ホントにいただきますね、これ。」
「あぁ、どうぞ。」
「っ…ありがとうございます。うれしいです。本当に久しぶりなんです。かぼちゃ食べるの。」

う、嬉し泣き?
このかぼちゃが、そんなに…嬉しいんだ。何故か美貴も涙が出そうになる。
なんて健気なんだろ…かぼちゃに対して。
でもさ

「そんなに好きなのに、何でなかなか食べれないんですか。飼い主が、苦手で食べれないとか?」

丁度かぼちゃに口をつける直前に、話し掛けてしまった。
紺野さんは、返事をするために顔をあげた。
タイミング悪かった、と少し後悔した。



「それがですねぇ、私こう見えて、野良なんですね。」

野良。

響きに、少しドキッとする。
247 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/11(日) 02:55
「野良…」
「でも私はこういう外見なのでいつも…
あ、今来たガキさんも、野良なんですよ。ガキさんなんかは、スマートで野良ぁって感じですよね。」
「ちょっとぉ何言ってるのあさ美ちゃん」

紺野さんが話している途中、ガキさんと呼ばれた先程の猫が、美貴達のいる亜弥ちゃん家の屋根の上に辿り着いたようだった。
口には何かが入ったビニール袋をくわえている。
そして、美貴の顔を見てから、紺野さんの足元のかぼちゃに気付いた。

「ねぇ、かぼちゃ、私にくれたんだ。」
「へ?そうなんだ…すみません、ありがとうございます。えっと」

「名前は?」とその猫は紺野さんにヒソヒソ尋ねた。
だけど紺野さんは「あれ…?」と首を傾げた。
まだ美貴、名乗ってなかったんだっけ。そういえば。
この町の住人としては、美貴は全くの新入りだ。
この二人にしてみたら、後輩なんだ。年は知らないけど。
…だったら名乗るのが礼儀
相手も自分が何者か教えてくれたんだし。

「美貴、美貴っていいます。」
「ほぅ、美貴ちゃんですか。よろしくです。」

紺野さんはにこにこして応えた。
ガキさんという方も、笑顔で会釈した。
248 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/11(日) 02:56
しかしそこで、何かにハッと気付いたように、

「そうだあさ美ちゃん、今日は収集の日だよ。早く行かなきゃ!そのために来たんだったよ」
「あ!」

何のことか、美貴には全然わからない。収集って何だろ。
とにかく、目の前の二匹は慌てた様子。
特に紺野という方…

「あ、あ、かぼちゃかぼちゃ!どうしよどうしよ」
「持ってけばいいでしょ!
あ!ご迷惑おかけしました、失礼します!」

細身の方は、しっかりとした挨拶を残して、
三毛の方は、しっかりとかぼちゃを持って、
屋根を伝い走りだした。
嵐のように去るって、正にこのことを言うんだろうな。
ものすごい早さ、もう見えなくなってしまった。

美貴はボーっと見ていた。

249 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/11(日) 02:56
250 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/11(日) 03:13
短いでつね、すみません…
最初の方名無しになってますがただのミスです、重ねてすみませぬ…

>>241 229?さん
どうしてそんなところで(ry
そしてやられてくださってありがとんです。
できればもっともっ(ry
>>242 名無飼育さん
ありがとんございます!
揃ってきましたよ〜多分これからも何やらイパーイ出てくると思います
>>243 名無飼育さん
期待ありがとうございます
応えられるかどうか…orz
251 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 06:35
紺野描写がお見事すぎて大ウケしましたw
ミキティ好意的に迫られると弱いねぇ…
ごはんほとんど食べてない気がするぞ〜大丈夫か〜w
252 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:53
253 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:54
そうだよ、よっちゃんだよ。
よっちゃん探しに行くんだよ。
よっちゃん。



でもさ、
254 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:55
見当がつかない。よっちゃんの居場所とか。
普段からふらふらしてそうだしあの人。
なんだかんだ言ってお腹も空いてきたし、歩き回って探すのも。
疲れるのはやだし
なぁ…


はぁ〜あ



めんどくさくなってきた
255 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:55





256 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:57


いやだめだって。
よっちゃん待ってるって。
257 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:58
―――

くるりと辺りを見渡してみると――ついつい目に入る、
周りの他のウチよりも結構大きい家。
梨華ちゃん家。

あぁ、梨華ちゃんの所。
よっちゃん、いるかも。

うん。
きっと、梨華ちゃんと漫才かなんかしながら待ってる。
なんだそりゃ。

昨日と同じ、バルコニー。

“梨華ちゃんの”部屋の窓へ、昨日通った道を進んで行く。
庭木からそのバルコニーのフェンスにちょうど飛び移ろうとしたとき、
夕べ見た梨華ちゃんの飼い主が、また夕べと同じように家の中に入ってくのが見えた。

あれ、今行っちゃまずいかな。
でも、別に家の中に入るわけじゃないから、いいよね。
よっちゃんがいるとしても、窓の外だろうし。
見つかっても騒がれはしないよね。

まあ大丈夫だろうと、特に気にせずフェンスを越えてシュタッと着地。
258 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:58
「あっ美貴ちゃん!」

辿り着くと、部屋の奥の方でごろごろしていた梨華ちゃんが、窓際まで走り寄ってきた。
よっちゃんは見当たらない。

「よっちゃん、来てない?」
「…ううん、来てないけど。」

梨華ちゃんは首を振り振りそう言った。

そっかぁ
いると思ったんだけどな。

「どこにいるか知らない?」
「ん、わかんない。あの人いつもふらふらしてるから…」

やっぱりそうなんだ…
困ったなぁ、どうしよう。どこにいるんだろう。

寝ぼけてた自分を恨む。
眠いもんはしょうがないじゃんと、恨んだ相手が言い返しやがった。
259 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 22:59
「ちょっと待ってね。」

カチャと音がした。ふと見ると、梨華ちゃんが窓の鍵を開けようとしていた。

「今、大丈夫なの?さっき…」
「大丈夫よ、ちょっとくらい。それに」

梨華ちゃんは前足をもじもじさせている。

「私が外に出るんじゃないし。」
「へ?」
「美貴ちゃんが中に入るの。」

いやいやいや
何時の間にそういうことに。
よっちゃん探さなきゃいけないんだけど…「待ってる」ってよっちゃん言ってたような気もするし。
どこで待ってるかは知らないけど。

「でもさぁ」
「いいの。せっかく美貴ちゃんが来てくれたんだし…」

まだ前足をもじもじさせている。どっか痒いんだろうか。


ていうか話聞けよ、って言いたいけれど、まぁそう言ってくれたのは嬉しいし、入れてもらうことにした。
興味もある。猫のためだけのこんなに大きなスペース、果たしてどんなもんなのか。
そして昨日チラッと見た、すっごいやわらかそうなクッション。…さわってみたい。
260 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:00
窓を開けてくれたから、早速部屋に入らせてもらった。
全体的にうすいピンク色してると思ったら、
花がいっぱい飾ってあって、くすぐったい匂いがする。

「すごい、花。」
「かわいいでしょ?」
「なんか、落ち着かないよ。」
「ふふ、なによぉ」
「あはは、キモイよ。」

くだらない会話ともいえない会話をしつつ、美貴は部屋の中をぐるりと一周してみる。
やっぱり、広い。
何だか興奮して、走り回ってみた。
やっぱり、広い。
261 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:01
ドタドタドタ…

勢いで爪をたててしまっても突っ掛らないぐらい、滑らかな毛並みのじゅうたん。
でもやっぱり爪を立てたら、じゅうたんも痛そう。

ドタドタドタ…

飲み水用のうつわだろうか。
蹴り飛ばしたりしたら、すぐ壊れてしまいそう、しゃなりと佇むガラス細工みたいなカップ。
気をつけなければ。

ドタドタドタ…

そして、あのクッションは、
あれ…?見当たらない。
262 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:02
「ねぇねぇ」
「なぁに?」
「…あのさぁ…」

こんなに好き放題に走り回っといて、この上さらに頼みごとをするなんて、さすがに気が引けるけど。
でも昨日見たあれは……あれは絶対さわりたい。

「あの、さ、昨日、使ってたクッションって…今ある?」

梨華ちゃんはクスクス笑いながら、ベッドの上だと教えてくれた。
早速、早速乗り上がって見てみる。

このベッド…亜弥ちゃんのベッドよりはるかにふわふわしてて、ヒジョーに歩きにくい。
歩いてる感覚がよくわかんない。
っていうか、こんな大きいベッド…猫のためにベッド…ううむ…
263 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:03
ま、まぁ、滑らかなシーツ、
モゴモゴと何とか進んでって

…ああ、やっとご対面。


「ふふ、美貴ちゃん、こどもみたい。」

脇で梨華ちゃんが言った。
264 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:04





おお!!



もちもち、
ふかふか、


何これ!すげぇ!!何これ!!!
265 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:04

パンチパンチ、なぐってなぐって
こいつはぼむぼむ拳を受け止める。

タックルタックル、飛びかかって
こいつはぼむっと美貴の体を受け止めた。


「こいつすげぇ!気に入ったぞお前!」

ぼんっ

クッションは迷惑そうに形を歪めた。
266 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:07

――梨華ちゃんはまだクスクス笑っている。
なんだよとは思いつつも、
美貴は急に恥ずかしくなってきた。
クッション相手にこんなにはしゃいでるなんて、おかしいだろうか。
梨華ちゃんにしてみれば、たかがクッション。

でも、だって…だってさ、こんなクッション…
だって…向こう側が見えそうな程薄い座布団の上でしか、美貴寝たことないし…

―――


「美貴ちゃん、可愛いよ。」


急に静かにして縮こまった美貴の背中に、梨華ちゃんが乗っかってきた。
びっくりして、ドキドキして、さっきとは違う風にまた恥ずかしくなる。
まるで田舎モン。
こういうからかわれ方は苦手、美貴は。

「、なに。」
「ううん、別にぃ…」
267 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:08

、、、、、
........
268 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:09
、、、、、
........
269 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:11
ときときときと
梨華ちゃんの心臓。
背中に張り付いて、どっちが美貴の心音だろう?


…うん、多分早い方が美貴の。

今の美貴よりは遅いけど、亜弥ちゃんよりは早い。
そっちが多分、梨華ちゃんの。

そういうこと。

猫の体温は、人間のより高い。
多分、いっぱい心臓が動くから。
今まで人間としか肌を触れ合ったことのない美貴は、たった今肌で知った。


熱い。亜弥ちゃん、お母さんや、今まで美貴が触れた生き物の中で、一番。
背中の梨華ちゃんが熱い。
美貴も熱い。
猫って熱い。
今わかった。

そういうこと。

「梨華ちゃんは、熱いね。」
「そう?」
「美貴も、熱いんだよ。」
「…そう、確かに熱いね、すごくね。」
270 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:12
271 名前:らぶさむ 投稿日:2007/02/22(木) 23:19
展開orzな感じですが更新です。
それと柴ちゃんお誕生日おめでとうございます。

>>251 名無飼育さん
小生は弱い美貴様もこんこんも大好きなものでw
272 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 02:35
みきにゃーが可愛すぎです!
りかみき!りかみき!
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 09:12
梨華ちゃんが妖しい…ww
激しく続き気になります!
274 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 12:59
275 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:00

梨華ちゃんは美貴の背中に頬擦りをした。
ぞわっ・・と毛が逆立った。

あれ、何、雰囲気が変なんだけど…さぁ。

梨華ちゃんの顔を見てみると、トロンとした目。

「私ね、」
「は?」
「私ね…最初に会った時から、美貴ちゃんのこと…」

言って尻尾をからませてくる。
ぞわっ・・
276 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:00



ちょっと待って?


ねぇ、

277 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:00

梨華ちゃんが何か変だ。おかしい。
酔ってる?
飾ってある花の中、マタタビ入ってる?
絶対、変なんだけど…


「美貴ちゃん」


ちょっと待ってみ?

278 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:01





ひょっとしたらこれは、猫の世界では単なる流行りのジョークなのかも。
美貴は世間にうといから、ね。
仕方ないのかもね。






いいや、直感だろうか、なんにしても、
んなわけねぇ
ってツッコミ入れてる。
まぁこれは明らかに非常事態であるとは確かに美貴も思うよ。

じゃあどうすればいいのかとたずねても、
直感は答えない。
直感はいつでも自分からしか話しかけないから、
勝手だから嫌い。

だから後のことは自分で考えなければならない。

この危機的状況をいかに面白く回避するか…いや面白くなくていいんだよ。
バラエティの見すぎかな。
でも、最近のお笑いは勢いと特定のフレーズしかなくてあんまり面白くないんだよなぁ…



だから違うって。


279 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:03
パタタっ

はっ?

半ば混乱状態となっている美貴の意識の中にも、その音は入り込んできた。
屋内ではめったに聞く事がなくても、
外では結構耳にする音。

「!? スズメだ。」

開けっ放しの大きな窓から、どうしてかこんなにも広いけど狭い世界に飛び込んだスズメの羽音。
首を回して梨華ちゃん越しに見てみると、窓の方へも行けてないで、室内をパタパタと飛び回ってる。
カラスよりもハトよりも軽い、遊ぶにはもってこいの

「ぎゃーーーーーーーーーーーー」
280 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:03

〜〜〜

後頭部が、じいぃ〜〜〜ん


声じゃない。
それはもう音だった。
281 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:04

梨華ちゃんは美貴の背中からバッと離れた。
いきなり勢い良く動きだしたから、瞬間クッションに押しつけられた。
でも、背中の熱苦しかった感じが抜けたのは善かった
にしても

スズメがまだ部屋の中をあちこち飛び回ってて、
梨華ちゃんもまた叫びながらあちこち飛び回ってる。

この状況は…


「ぎゃー、きゃー!!!」「梨華ちゃん?梨華ちゃーん」
「あわああぁああ」

何だか今日の梨華ちゃんは、本当におかしい。
もう全部おかしい。

すごい慌てよう(暴れよう)で、オロオロっていうよりもう唖然。
あぁでもやっぱりオロオロ。

「梨華ちゃ…ねぇどうしたの」
「※☆◆@*◎」

う…
本当、どうしようもない…
282 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:05
耳をふさいでも、猫って耳がいい。
どんな音だろうがしっかりと聞き取ってしまう。

あぁ〜…耳おかしくなりそう


スズメはいつの間にかカーテンレールにとまり
だけど梨華ちゃんはまだ止まらない。
止まれ!梨華ちゃん止まれ!!



あっ!



やっぱり猫、耳がいい。
こんな状況でも、聞こえる。

飼い主の

梨華ちゃんの飼い主が来る
三階建ての、一番上のこの部屋に。
何事かと、階段をドスドス上って――

ヤバい。

ってかもう何このカオス。
283 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:06

284 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:06




285 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:06












286 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:07
吉澤ん家の猫といえば
287 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:07


ひとみ
ひとみちゃん
ひーちゃん
ひとみ


あいつは面白いよ、一発ギャグも、冴えに冴え渡っている

この前なんか、笑い死にそうになったぜ


まぁ、つまりウチのことなんだけどね。

288 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:08

タマでもミー子でもマイケルでもない。
ひとみ。
瞳がおっきいからひとみ。
由来のある名前なんて、カッケーじゃん?



でも、ここだけの話

いや、やっぱ何でもないよ

もっとカッケー名前がよかった、なんて思っちゃいねーYO
289 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:09

あ〜


あ〜 ヒマだなぁ。

この時間は、皆寝てる。
夜ってわけじゃない、お昼寝の時間。

ヒマだな

ヒマだヒマだヒマだヒマだ
ヒマヒマヒマヒマヒマ
HIMAHIMAHIMAHIMAHIMAHIMA

ワーオ!
290 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:09

『うるさいっ!飯はもうやったでしょっ!!』


別に腹減ってたわけじゃねーやい。
ちぇっ、ノッてたのに。

『…』

わーったよ。いーよ。屋根の上行くから。

飼い主は時々、アートとかユーモアとかを解さないから困るね。

ウチが傑作だと思う時は特に。

いつかのあの壁画は、セカイイサンにもなれるくらいだったってゆーのに、
飼い主はコラッと怒鳴ってから、翌日すぐに新しく壁を塗ってしまった。

まったく。
291 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:10

「はああるのお うらあらあのお すうみいだあがあわあああ」

「ないてすむぬぁら ぬぁああきやがれぃ すべてのこいはしゃぼんだまあああ」

「われわれはだまされ たあああ」
292 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:11
あああ

屋根に出て歌歌ったって、ヒマですよ。

ミキティ遅いなぁ、まだ寝てるんかね。
いくらなんでも寝すぎだと思うがね。ま寝てると決まったわけじゃないけどね。
朝に寝てたんだから、昼には起きて一緒に遊べると思ったんだけどなぁ。
梨華ちゃんトコは、今飼い主いる時間だしなぁ。

293 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:12
梨華ちゃんが、好きに家の出入りができたら、どうだろう。

ウチは梨華ちゃんと出会ってから長いし、その会ってから今までの時間は、楽しい時間になってただろうか。
実際、その今までの時間は、殆ど退屈してた時間だったけどね。


硬派なわけじゃないけど、
口説かれたって、ピンと来ない。
全然好きになんかならない。
子供がほしいとかもう、あほくさって思った。
むかぁし病院で眠って起きてから、まったくどうも思わなくなってた。
294 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:12
ってゆーのに、
梨華ちゃんに会うとドキドキした。
こどもがほしいとは全然思いもしなかったけど、
好きだな、って思った。

長い時間を一緒に過ごしたいと感じた。

その数日後、飼い主と共にテレビドラマを見ていて、ハッと思った。
甘いメロドラマだった。
それなりに綺麗な顔をした人間の男女がいて、男が女に言ったのだ。

「ずっと一緒にいてくれ・・・」

すっげー…
ウチと同じこと考えてやがる。
子供をつくるのがすべての猫の恋愛世界の中で、ウチは革新的にも、人間と同じ恋愛をしている!
すっげー!!カッケーじゃん!
295 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:13
思いついたとき、あまりにもカッケー!!と思ったから、すぐに梨華ちゃんトコに行って窓越しにそのことを伝えたら、
何言ってんのって笑ったけど。
ウチは今でも、あの時窓越しじゃなかったら、熱い思いが伝わってたんじゃないかと思ってる。

梨華ちゃんが閉じ込められてなかったら。

閉じ込められてなかったら。

部屋に。

296 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:14
何かの歌、
ウチの嫌いな歌。
猫を袋につっこんで蹴るってやつ。
蹴られてはないけど、袋に押し込まれているんだよ梨華ちゃんは。
なのに梨華ちゃんは、梨華ちゃんの飼い主を好いている。
おいしい飯をくれるからってだけだって、ウチは考えてる。

「ねこをかんぶくろにおしこんで ぽんとけりゃなんとにゃあく…あれ?」

あの歌は嫌いだ。
歌えないしさ。


来ないなぁミキティ…
297 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:15
仕方ないから次の歌を歌おうと息を吸った途端、あらあら来ましたよ。
まあ次の歌っていっても決まってなかったから、ちょうどよかった。


「よっちゃぁんこんな何でもない所にいたの、もう超探したんだけど〜」
「何でもよくね〜ここウチの家だもん」
「知らねーよ!ってかここまで来るのにすげぇ大変だったんだよ!」
「はーいはい、話聞きますよ。」


実は、

ミキティを初めて見たときにもドキドキしたもんだから、困るね。

298 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:15
299 名前:らぶさむ 投稿日:2007/03/04(日) 13:20
どんどんorzな展開になってますが…なにとぞなにとぞ

>>272 名無飼育さん
りーかみき!りかみーき!
りかみきは最強だと思うのです。

>>273 名無飼育さん
激しく期待裏切らないよう頑張ります!
ありがとうございます。
300 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/05(月) 19:55
りかみきにドッキドキ!しちゃいました
猫の梨華ちゃんもやはり鳥が苦手なんですねw
301 名前:名無 投稿日:2007/03/06(火) 01:31
艶っぽい梨華猫めっちゃ良い〜ww
ミキティの反応もGOOD(ノ∀`)
302 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:12
 
303 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:13

結局美貴は、暴れ回る梨華ちゃんをほっといて逃げた。
非情っていうな。
だってあれは、本当に、本当にどうしようもなかった。
304 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:15
屋根屋根を渡って、そんなにも経たないうち、
見覚えのある黒白が、アクビだろうか、大口を開けているのを見つけた。

よっちゃん。

よっちゃんは走り来る美貴に気付くと口を閉じてふにゃりと笑いかけた。

何だかさっきまでのカオスな状況とすっごく対照的で、力が抜けた。


「よっちゃぁんこんな何でもない所にいたの、もう超探したんだけど〜」
「何でもよくね〜ここウチの家だもん」
「知らねーよ!ってかここまで来るのにすげぇ大変だったんだよ!」
「はーいはい、話聞きますよ。」

よっちゃんはのんきだ。飄々と流す。
話聞きますよなんていったって、
この出来事を話にするなんて、難しいよ。
自分でもよくわかってないんだよ。

「何があったんだよ〜。」

よっちゃんは頬杖をついて、何か可笑しそうに訊いてきた。
何をニヤニヤしてるのか。からかわれているように感じて少しムッとするけど
でも取り敢えず、頭の中を手繰りつつ掻き回しながら、話してやることにした。

えぇとまずは昼少し過ぎに起きてから、
305 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:15
「昼少し過ぎに起きてさぁ、」
「うん」


かぼちゃ
紺野あさ美です
野良
ガキさん
収集の日
梨華ちゃん
クッション
心臓
梨華ちゃん
またたび
スズメ
梨華ちゃん
飼い主が



「ってわけ。」
「うん。全然わかんね。」
「おい」

306 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:16

よっちゃんはふと伸びをした。
ぐぐ・ぐぅと前足後足首から尻尾までも伸ばしている。
とても気持ちよさそうな顔をしてるから、美貴も真似してみたら
どこかの関節が、パキッと鳴った。
307 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:17

「さて、んじゃ遊ぼうぜ」
「うん何して?」

よっちゃんは満面のニヤケ顔で即答した。

「ケンカ!!!」
「…けん…」

美貴は考えてみた。
ケンカって。

ケンカ
県下
懸架

喧嘩?

ケンカって遊ぶ物だっけなぁ吉澤さん。


「何して遊ぶー?鬼ごっこー!

ならわかるけどケンカって何よっちゃん」
「えー鬼ごっこ走るだけでつまんねーじゃん」
「いやそうじゃなくて」


よっちゃんは今度は、ぶるんと体を震わせた。
そしてスッと、姿勢を正した。


「それに、今ちょーどいい時間だから、急がないと。」
308 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:18
「ちょーどいい時間って」


言うが早いが、よっちゃんは走り出した。
反射的に美貴もそれについて走った。

よっちゃんは速い速い。
こんなに全力で走るのは何年ぶり…じゃないえっと、初めてだ。
  まさに風を切っている。
自分の耳が、荒々しくその断面を削っている音がする。

その向こうから、よっちゃんが何か言ってる。


「いいじゃんケンカ。ミキティ強そうだしさぁ。だから」
「強そう?」
「うん。強そう。すごく。」

それは良いことなのかな。

「だからさぁ、ケンカしたいんだよね。ウチも強いし。」
「へえぇ、強いの。」
「そりゃあそうだ。こんこんにもガキさんにも勝ってるし、ごっちん…は、いや」
「そういやぁこんこんとガキさんって、美貴あったかも。」
「あ、そう、マジで?」
「さっき話したじゃん。」
「…だからさっきの話は全然わかんねかったんだって。」
309 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:19
走りながら話してて、息が切れてきた。
でもよっちゃんはまだまだ余裕みたいだ。
どこまで行くのだろう。
ここはもう亜弥ちゃんのいる町と、…矢口さんのいた町とも違う町だと思う。
ぜんぜん、見覚えの無い町。

…大丈夫だよね。
よっちゃんは自信満々の顔だし。
大丈夫でしょう。うん。


「ねぇよっちゃん、今うちらどこに向かってるの?」
「もう、もう見えてきたよ。ほら、いる。」

何かを見つけてよっちゃんは、更に速度が増した。
美貴はもうよっちゃんの背中しか見ていられていないから、
一体何を見つけたのかなんて気にする余裕もない。
息も切れ切れで
なんで美貴は今、走ってるんだろう。
頭も働かない。
310 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:20


「はいストオオォップ!!」
311 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:20

ぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁ
ぜぇぜぇはぁはぁぜぇぜぇはぁはぁ
ぜぇ はぁ ぜぇ はぁ

息を落ち着かせて、

どこを通って来たのかはよくわからないけど、
見渡せば、周りは木がたくさん生えていて、
足の下は黄緑、時々茶色の少しだけ湿った土が見える、
やっぱり見たことのない場所だった。

そして、並ぶ木の中でも一番大きい木の根元に、
誰かが座っている。
見たことがあるな。あれは…


「ミキティ、麻琴がいるよ。」
「うん、麻琴だね。」
312 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:22
麻琴はおにぎりとペットボトルを手に持って、
木の下でボーっとしていた。
よっちゃんはそれに向かって猛突進した。
麻琴のみぞおちに頭突きをするように飛び込むと、
麻琴はグフッと言って、やっとよっちゃんがそこにいることに気が付いた。

『吉澤さんじゃないですかぁ。』

そう言うと同時に、ここに美貴がいることに気が付いた。
麻琴はしばらく美貴を見つめてから、美貴が美貴だとわかったようだ。
しばらく見つめるという時間がなかった分、
美貴は少しだけよっちゃんが羨ましかった。
313 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:23

「うし、じゃあ試合開始。」
「え、何いきなり?」
「レフェリーは麻琴、制限時間は麻琴が止めるまで。わかった?」
「わかんねぇよ」
「あ、あと爪と牙はたてるなよ、痛いから。」


よっちゃんは美貴の言うことを何も聞かずに、
『はい、チーン』という麻琴のゴングの口真似を合図に
ふところに飛び掛ってきた。
美貴はわけもわからずもがいて、
耳には『がんばれ〜い』という、何とも気の抜ける応援も入ってきて、


いつの間にやら美貴は、よっちゃんを2メートル程ぶっ飛ばしていた。
314 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:24
 
315 名前:らぶさむ 投稿日:2007/04/09(月) 22:34
また遅くなってしまいました。
申しわけありませぬ…

>>300 名無飼育さん
ありがとうございます!
りかみきにドキドキは欠かせないですね

>>301 名無さん
もっと梨華ちゃんをつやっつやに書けるように頑張りますw
レスありがとうございます。
316 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:32
317 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:33
「あれ?」

よっちゃんは頭を掻きながらゆっくりと立ち上がった。
そして少し首を傾けてからまた美貴を見て、また突進してきた。


「うおりゃーーー」
「ぎゃーーー」


美貴が頭を押さえてうずくまると、よっちゃんが頭上をゴゥと通り過ぎた気がし
た。
顔を上げてみると、よっちゃんは木の傍で頭を押さえてうずくまっている。
強かに、頭突きしたんだ。木に。

『カンカンカンカンカン』
318 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:37
麻琴がゴングの口真似をすると、よっちゃんは納得いかないという顔で振り向い
た。

麻琴は腕時計を気にしながら言った。

『すんませーん、昼休み大分過ぎちゃってるんで、今日はこれでー。』

お笑い芸人のようにひょうきんに挨拶をすると、
走りだして公園を抜けて、もう木や人に紛れて、見えなくなってしまった。
やっぱり腕時計を気にしながらいそいそと走っていってしまった麻琴は、何だかとてもマジメな感じがして、
別人のように思えた。
…何だか微妙な心持で、美貴は走る麻琴を眺めやっていた。

「えー、なんでー、まだ勝負ついてねーぞ麻琴〜」
319 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:41
「…麻琴もいろいろ忙しいんだよ」

麻琴をフォローしているような言葉をだしてみたが、
美貴も納得いかないような気はした。
しかしもちろんそれはケンカの勝敗に対してではないと思う。
ただ何となく納得がいかなかった。

グチをこぼすよっちゃんを振り返ってみると、その足元に欠けた白くて四角い、
パンダ。
いや、パンだ。

…実に美味そうだ。
見てたら腹が減ってきた。

320 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:44

「何それ」
「賞。さっきのケンカの。」
「…じゃあ、美貴が食っていいの?」
「う〜ん?どうしよっかなぁ」
「食っていいの?」
「へへぇ〜、どうしよっかなぁ」
「食っていいの?」
「…」
321 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:45
むしゃぶりついた。
うむ、ツナが入っていて、なかなか美味いじゃんか。
しかし、パンってこう、喉に詰まるね。

だけど美貴は、近くにある池まで水を飲みに行く時間まで惜しんで、それを一欠
けも残さず食い尽くしてしまった。

その後に思った。

「あ…、もしかしてこれ、優勝賞品じゃなかった?残念賞だったとか…」

だとしたら、悪いことをした。
残念賞を取り上げるとか、どんだけだよ。
322 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:47
「いんや別に、何の賞か、とか決まってないよ。何か麻琴が黙って置いていくだけ。
何賞か なんてそんなの気分だよ気分。」

短い尻尾をパタパタさせながらよっちゃんはのたまった。

それはよかった。

腹も安心。

323 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:50
美貴がパンを食べおわって身繕いを始めると、よっちゃんは暇を持て余したのか
、そこら中に舞っている木の葉を掴もうとジャンプし始めた。
ガサガサとやかましく大げさに、葉っぱを追いかけて飛び回る。
子どもっぽいなぁ…
と美貴は、あくまで良い意味でそう思った。

しかし、
前足をなめながら眺めていると、よっちゃんのジャンプは段々低くなってゆき、
しまいには地面にべったりうつぶせて動かなくなった。






…変死!!?

324 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:52
だって、動いてない。
だって、あんなにバカみたいに遊んでいたのに、いきなり動かなくなった。
あぁ、これ、テレビでちょっと見たことあるかも

ヒトのニュウジが、キュウセイコウテンセイトツゼンテキ―中略―ショウコウグ
ンにかかって、いきなり死んでしまうという、
そして原因不明だという、

そもそもニュウジというものがよくわからないけど、もしそれに猫という生きも
のが入っているとしたら、



あぁ、梨華ちゃんに何て言えばいいだろう。

325 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:53
美貴は恐る恐るよっちゃんに向かって歩いた。
近づいてみると、まだ温かい気配がするけど、
じきに冷たくなってくるのだろう。
いつかに爪を立てて殺してしまった小鳥も、そうだった。

思い出すと、寒かった。
遊んでいただけなのに。



美貴はよっちゃんの背中に額をくっつけた。
まだ温かい。それに、心臓もまだ、鳴っている。

326 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:54
あぁ?

今度は耳を当ててみると、ぐうぐうという息遣いまでまだ聞える。
さらに、背中は上下している。

ぐうぐう


よっちゃんはキュウセイトツゼンテキな心地好い眠りについたようだった。

327 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:55
328 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 21:56
329 名前:らぶさむ 投稿日:2007/05/22(火) 22:01
読んで下さっている方、もしいらっしゃったらありがとうございます。
そしてごめんなさい。
遅すぎですNe…猛省するであります。押忍。
330 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/23(水) 11:54
待ってましたよー。
やっぱ猫はよいものです。うちの猫のちっちゃい頃を思い出しました。
作者さんのペースでよいと思います。次も楽しみに待ってます。
331 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:29
332 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:29
寒くなった首筋は熱を取り戻し、
紫色の不気味な思惑は消し飛び、
目の前には平和な黄色の影が横たわる。

ああばかばかしい。

見上げれば太陽は絶頂を過ぎて
少し退屈したように美貴達の周りに木漏れ日なんかをよこしていた。


こりゃ起きそうもないよ。
333 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:30
ぐうぐうというイビキは最早があがあに変わった。

辺りに人は少ないとはいえこんなに開けた場所で、こんなにも無防備に眠る猫が
いるだろうか。

もし、時代遅れの三味線職人が今ここに来たら、
大喜びでよっちゃんに飛び付くだろうね。


334 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:30

めぐるめぐる極端な妄想に自分で苦笑いして、美貴は家に帰ることにした。
揺さ振っても、よっちゃんは意味を持たない音をもぞもぞと呟くだけで、一向に
起きない。
何もやることがないのなら、家でテレビを観ていたい。
あぁでも、面白い番組はこの時間、あまりないかもしれないな。
お母さんは、映画のDVDなんか、持ってないのかな。
持ってるといいなぁ。

「つくづく、インドア派なんですよ、美貴は。」


そう言い残して、寝そべるよっちゃんに背を向けた。
う〜ん、我ながらクールだ。

………


ドライだとか非情だとか言われるのは嫌だから言っとくけど、
さっきの妄想がもし現実に起こったとしても、ああ見えてよっちゃんのヒゲはピ
ンと張っているから
すぐに異様な空気を察知して、皮を剥がれる前にむしろ相手の皮を剥いでしまう
だろうということを確信してるから、
―ほら、耳だって外側向いてるし。
335 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:31

意外と抜け目がないよっちゃん。
空恐ろしいなぁ…ちょっと。
336 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:32




公園を抜けて空がハッキリと見えたら、もう青ざめかけていた。

日はまだ短い。
釣瓶落しとまではいかないけど、まだ、まだだ。
太陽ってのは居座る時はずっとダラダラと居座ってるのだ。
太陽の尻が一番長くなるのは、あと何日先だろう。

ノタノタと辺りを見回しながら家路について、そして寄り道なんかもしていると
、前方から制服を着た女の子が、四五人でかたまって歩いてきた。
ぺちゃくちゃと、とてもかしましい。

塀の上を歩く美貴を、一人が見つけた。

『あ、ねえ、猫がいる!』
337 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:32
その一人が指差す方向を全員が振り向いた。

『あ、ほんと!』
『やぁん、かわいい!』
『おいで、おいで!』

皆しゃべれば必ず語尾にビックリマークがつく。
なんとかしましい。

美貴は愛想に一つ返事をしただけで、おいでと言った女学生のもとには行かず、
歩き通り過ぎた。
うるさいのはあんまり好きじゃない。自分がするのは別だけど。

でも、出会うなり尻尾や耳を引っ張るコドモよりは、この人たちは良識があるみ
たい。


美貴が声をだすとその女の子達はまた

「あっ、鳴いた!」



338 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:33




『よかった。帰ってきたよ。』



339 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:33
玄関前で、お母さんはウロウロしていた。
家に近づいてくる美貴を見ると、ふぅと小さなため息をついた。

前も似たようなため息をしてたよお母さん。


『おいで。』


美貴は素直に従った。

戸の直前で空を見れば
一番星がでていた。

340 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:34
341 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:34
342 名前:らぶさむ 投稿日:2007/06/24(日) 20:37
短めですがストップしますです。

>>330 名無飼育さん
待っていてくださったなんてありがたき幸せ!!!
ありがとうございます。もっとがんばります。
343 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 02:04
可愛くないところが可愛い猫ですね(笑)
344 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:23
345 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:24

亜弥ちゃんの靴がちょこんと並べられている。

亜弥ちゃん、もう帰ってきてるんだ!

思って慌てて二階の亜弥ちゃんの部屋へ行こうと思っても、
あの厄介な階段はやはり邪魔をする。

…まあいい。
どうせもうすぐご飯だろう。
そしたら亜弥ちゃん降りてくるもん。


『おお、昼間も会ったねえ』


麻琴だ。
居間に入ると、のんきな顔をして、話しかけてきた。

おお、確かに会ったねえ。


今美貴に話しかけてきた麻琴は、昼間走って会社に戻っていった顔じゃなくて
やっぱりのんきな顔だ。
美貴はのんきな方が好きだよ。

346 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:25
『いやぁ、昨日はごめんよ。つい忘れて…』

なにが?

『ほんと忘れるとは思わんかったわぁ』

台所からお母さんも話しに入ってきた。

『えぇえ!?愛ちゃんだってさっきまで忘れてたじゃん!』

お母さんの名前は、愛ちゃんというらしい。
…そんなことはいい、何を忘れたのかが気になる。



っていうか…

なんだかさっきから、視界の脇にちらほらと

あれ、あれは
347 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:26
砂だ。
猫砂だ。
しかもなんか、青いのと白いの。

プラスチックの箱に、ざらざらと入れてある。


へええええええ、
こりゃあいいね!



じゃりじゃりとかき回してみた。
ざっくざっくと踏みつけてもみた。


いいよいいよ、いい感じだよ。

次からトイレが楽しみになってきたよ。


『あ、気に入ったみたいやよ。』

おう、気に入りましたとも。

『よかったぁぁ。好みの厳しそうなカオしてるもん、この子。ばら撒かれたらどうしようかと思った。』

いやいや
あんたは日本一だよ麻琴。
ありがとう。
348 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:26
『首輪もあるんやろ、麻琴。』
『ああ、そうそう。』

『赤いのだよ。』

そういって麻琴は美貴の首に何か巻きつけた。
少し息苦しい感じがした。


『おぉお』

愛ちゃんが目を大きくして美貴を見て、

『すごぉい、似あってる似合ってる、似合ってるよ』


3回も。
自分では見えないけど、
3回も言ってるんだから、似合ってるに違いない。
それに、美貴に似合わない装飾品はないのだよ。
349 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:28
『亜弥ちゃんにみせてきなよ。』

麻琴は、美貴の背中を廊下へと押しやった。
あの階段を上れってことか。

…あまり気がすすまないんだよねぇ、今日はいろいろあったし。

…あぁあ、抱いて二階に連れてってくれればいいのに…麻琴も気がきかないなぁ。
日本一から本州一に格下げだよ。

麻琴を振り返れば、『行かないの?』って顔をしている。

しょうがない、窓から行こう。


美貴が引き返して、居間の大きな窓をガリガリとやると、愛ちゃんはそばに歩いてきて窓を開けてくれた。

『なんだあ、また出掛けるの?』

うんまぁ。っていうか亜弥ちゃんの部屋行くんだけどね。



そんじゃいってきます。

350 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:29
ちょっとした庭にある木の、少し高飛車な風に生える枝に向かって、
一思いにジャンプ!




ふぅ。鮮やか。


ここのウチの猫だぞ!っていう感じが嬉しい。


爪を立ててよじりよじりと登り、
てっぺんの方に近いところでまたジャンプをすれば、
亜弥ちゃんの部屋の窓にたどり着く。


てっぺんに着いたら、すぐに窓へ飛び移る




「わ」
351 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:30


不意と見えた光のマルに、足が止まった。

チーズパンか、クリームパンか。いや、中にツナが入ってるのかも。

音も色もない夜空でのそれの存在感は、抜群だった。


すぐそばに見える、窓から漏れる部屋の明かりよりも明るい。



美貴は月に、ちょっとだけ寄り道することにした。


「ちょっとだけ、ちょっとだけだし。」

352 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:32
_


あまりじっと見ていると、遠近感がなくなる。
コインのように小さくて、あたりに浮いているのかと思ったら、
筋が伸びて痛くなるまで前足をつきだしても、カスリもしない。

月だけを見て歩いてたけど、さすがにキケンだ。
目がチカチカする。
それに気がつけば、
見慣れない所にいたりして。

青い屋根の上。


見たことのない、青い屋根の家。



なだらかな傾斜の屋根は、少しだけホコリが被っていた。
見れば足の裏が薄い灰色になっていて、足元にはぼんやりと足跡が浮かび上がった。


青いなぁ、さっきの猫砂に混じってた青いヤツのよりも青い。


足裏の形についた、灰色の中の青は、青かった。とても。
353 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:34
疲れがシュルシュルと落ちてゆく。
息がゆっくりになってくる。

黄色の円が控えめに光る。

_

綺麗。



すごく綺麗。






綺麗









綺麗な歌が聞こえる。

354 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:35
ことばが聞こえる。
猫の
猫が歌ってるんだ。

でも聞いたことのない言葉。



誰が歌ってるんだろう。

綺麗な歌

歌っているのは猫。

これまた青い猫。
毛並みが光る
月を仰ぎながら
355 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:36

―――


歌が止んでしまった。
同時に青猫は顔をこちらに向けた。
屋根の、一番高い峠から、
美貴を見下ろした。

街灯と月と、空に照らされたその青猫は、銀色にも見えた。

356 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:37

「こんにちは」


目が合って、美貴は取り敢えずあいさつをした。


「…んぁ、こんばんは」


目をじっ、と見て

挨拶を返されて、
美貴は自分のあいさつが少しずれていた事に気づいた。
357 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:37
358 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:37
359 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:38
360 名前:らぶさむ 投稿日:2007/07/08(日) 00:42
改行多過ぎな感じもいたしますが…orz

>>343 名無飼育さん
それ以上の褒め言葉はないですねw
ありがとうございます。
361 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/09(月) 09:56
ごっちん…かな?
詩的で綺麗ですね
次も待ってます
362 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:01
 
363 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:02
猫は視線を月に戻してしまった。

空を見ているんじゃないことはすぐにわかる。

近くを見ながら遠くを見て
遠くを見ながら、もっと遠くを見つめてる。

そして、青猫の目には黄色。


美貴はしばらくじっとしていた。
ただボンヤリとじっとしていたかった。

同じように青猫はじっとしていた。
張り詰めているのではない。垂らされた糸がまっすぐであるように
青猫はじっとしていた。

「…こんばんは」
「…うん。」
「もう、歌わないの?」

青猫は少しだけ首をうつむけた。
深い青の首輪がちらりと光った。

「んー、どうしよう。」
364 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:02
風が吹く。その風に押されたように、その猫は美貴を振り返った。


「この辺のひとなの?」


はじめて自分から、美貴に話し掛けてきた。
なんだか気分が良くなって、美貴はニっと笑ってみた。
青猫は口の両端を少しだけ上げた。


「美貴っていうんだ」
「みき…?」
「うん。ミキティとも呼ばれるけど。」

その猫はふうんと答えながら顔をスイとあげて、また月を眺めた。

「みき…みきてぃ…」

呟いてる。
悩んでるのかな。


「別にどっちでもいいんだよ…」
「ふうん、わかった。」
「うん」
365 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:03







こ、この間は…
何か、話し掛けようかな。
あっちの名前も、まだ聞いてないし…


「あの「アタシは」

「「あ、どうぞ」」

「「…」」


うぅ〜ん…
366 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:04



「…ねえねえ、名前なんていうの?」
「‥ごとー…」

ごとお?
変わった名前。


「ふうん」
「ごっちんとかごっつぁんとか呼ばれてる。別にどれでもいいけど。」

367 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:05
ごとーと名乗った猫は、にっと美貴に笑いかけると、立ち上がった。

「今日は月が綺麗だねぇ」
長くしなやかな尾を妖しくゆらしながら

「ばいばい」

美貴は自分が、流れが無いのにヒヤリと冷たい水の中にいるように感じた。
ごとーという猫は上に行ったのか下に行ったのか
いつのまにかもう見えなかった。


確かに月がキレイ。
だけど美貴ももう帰ろう。

でもここはどこだろう。

368 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:06


つ、月に向かって歩いてきたんだから、
月に背を向けて歩いていけばいいんだ。よね?うん。

――

ほらね。もう亜弥ちゃんの部屋の窓。
美貴って頭いい。


「亜弥ちゃん開けてよ。美貴だよ。」

がりがりと美貴なりのノックをすると、亜弥ちゃんは窓を開けて美貴を抱き上げ
てくれた。

『うぇ、冷たいじゃんアンタ。』

ぎゅうと抱き締められて、――少し苦しいけど――温かくて
気持ちいい……でもやっぱちょっと苦し…ぐえぇ

『にゃはは』

いやにゃははじゃぁなくてさぁ。
ホントにちょっと苦しかったよ。

―えへへ。



369 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:08

後日
美貴はよっちゃんに「ごとお」という猫に出会った事について話した。
あぁそれはごっちんだ、と、よっちゃんは美貴の話の途中で頷きながら言った。
ごっちんはいつも何処にいるのか誰もわからないのに、よく見つけたね、と言って
何だかわからないけど褒められた。

「あの青い屋根は、[ごっちん]の家じゃないのかな。
いかにもって感じだったけど」

よっちゃんはそんなことより
つい先日のサッカーの試合の結果で頭がいっぱいだったようで、
美貴のさりげないギモンは聞いてなかったようだ。

370 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:08


ふうん
何処にいるのかわからないんだ。
皆ちゃんと辺りをよく見てないからじゃないのかと思う。
もしかしたらあの青い屋根、みんなは見落としているんじゃないか。
青屋根に青猫は、とても自然に調和していたから。
ほらあの、カメレオンみたいにさ。
371 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:09





372 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:10


亜弥ちゃんは学校から、早く帰ってくる。
でも家にはすぐに入らない。
373 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:11

公園で美貴と遊ぶためだ。

近頃はお昼前に来ることもある。
そして亜弥ちゃんは美貴に弁当を少しわけてくれて、それから一緒に食べるのだ。

いつも座るベンチは、ちょうど日陰になっていて、とても居心地が良い。
美貴が寝転がる横に亜弥ちゃんが座る。
そいで美貴の腹を亜弥ちゃんはくすぐる。


374 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:12


美貴にとっては二回目の夏。
ちょっと前までは、暖房から離れられなかったのに。

もう、冷房と虫と夕立の季節。

季節の過ぎるのがこんなに早く感じるのは、
美貴がのらりくらりと生きてきたからだろうか。

まだまだ初々しい蝉の鳴声が、妙に美貴を急かすような気がする。

___別にのたのた生きているつもりはないんだけど…


毎日、いろんなことがある。
ハードな日もある。

この間なんか、美貴は注射を打たれた。
飼い猫は打たなくてはならない注射。
ちょっとマジで野良になりたいと思うくらい痛かった。


あれ、この間っていっても、美貴が亜弥ちゃんに拾われてから
割とすぐだったっけ。

375 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:13





376 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:14
それでまぁ、美貴は公園で今日も亜弥ちゃんを待っている。
ベンチの横に生えている、少し背の高い木の枝で、亜弥ちゃんを待ち伏せ。

この公園、昼前は大抵誰もいなくて静かだから
いつの間にか寝ちゃってたりするんだけど、
今日はやけにうるさかった。

不機嫌に見下ろすと、小学生らしき男の子が3,4人、
わあわあきゃあきゃあ騒ぎながら公園に入ってきているところだった。

まぁ、ハナタレ坊主っていう言葉がよく似合う年頃のようで。
377 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:16
『あっ、ネコ!!』

中の一人が叫んだ。

あれ…美貴の方を見ていないのに。
他に猫がいるのかな。

美貴はガキ達の目線を追ってみた。暇だし。

_あれ…別に何も見えないけど。

ガキ達の見ている先は、今美貴がいる所から公園を横切った先にある、もう一つのベンチ。

_何だ?

目を凝らしてみた。暇だし。

_あ、下か。ベンチの下。


ベンチの下に、白猫を見つけた。
割と小さく見えたのは、遠近法だろうか。

ベンチの陰に隠れてるんだろうけど、白いからすぐにわかっちゃうんだ。

さらに目を凝らして見ると、少し震えているように見えた。
378 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:17
なんで…寒いのかな?でもこんな時期に…


疑問に感じながらガキ共に目を移してみると、
4人とも手にピストルの玩具を持っていた。

『うてっ!』

さっきのとは違う一人が叫んだ。
パチンという軽い音が、わりかし広い公園内に響いた。

このガキどもは…


幼稚な発砲音とともに、ベンチの下から猫が飛び出した。
白猫…それと黒猫もいた。
ベンチの下には二匹いたんだ。
黒いほうは陰に見事に隠れてて、見えなかった。
379 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:18
二匹は公園を囲む茂みをガサガサと走り、ガキ共から逃げ回っていた。
ガキはパチンパチンと耳障りな音をならせながら阿呆のように猫を追いかけている。

(木だよ、木に登ればいいんだよ。たくさんあるじゃん木が!)

その二匹が小さく見えたのは、遠近法ではなかった。
まだ子供だよ。あの二匹。
大人でこんなにじれったい逃げ方をする猫なんていないもん。

ついつい美貴は木の枝の上で立ち上がっていた。
あの二匹、あまりに幼い。


子供は…苦手だけど、放っておくのは…ねぇ。

そう思いながら美貴は子供らを助ける作戦をたて始めていた。
380 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:19
(よし、こっちくるな…)


シミュレーションも済んで、すぐに本戦にとりかかった。
まぁ、すっごい簡単な[イタズラ]なんだけど。

あの二匹は公園の周りを周って逃げているから、今美貴がいる木の下のベンチをくぐっていくだろう。
ガキ共は律儀に二匹の後ろを追いかけている。

タイミング命なわけだ……っていうか美貴何ひとりでノッてるんだろう……まぁ…暇だし…
381 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:20
…おっ、来た来た

よぉし。




美貴は全身を使って、足元の枝を揺るがした。
意外と大きく揺れた。
この木に棲みつく初夏の虫達が、ボトボトと地上に落とされた。
ガキ共の頭上にも落とされた。

『〜〜〜!!!』

あはは、泣いて逃げてやんの。バーカ。

あ、でも

…あの二匹は、大丈夫だよね?

ベンチ下に入ったとたんにやってみたんだから二匹にも虫が降りかかってないとは思うけど
そこまで鈍かったら面倒見切れないよ…
382 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:21

するすると木を降りた。
ベンチを見ると、今美貴が木から落とした虫が上でたくさん蠢いている。
うわあ…これじゃ今日はもう座れないよ。

亜弥ちゃんといつも一緒に座るベンチ。
383 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:22

「…大丈夫ですか?」

ベンチから離れて問いかけてみた。
二匹が低い位置から美貴を見ている。

白と黒。

黒いほうは美貴を睨んでる。
白いほうはよくわかんない。
384 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:23
両方とも黙ってる。だから子供って苦手。
どうしたらいいかわかんない。っていうかどうしようもない。
虫の海に囲まれて、多分困っているのかも。
…そこまで考えてなかった。

美貴は苦笑した。
二匹にとっては笑えない話だろうけど…

すると黒猫は突然腹を決めたように、虫におびえる白猫を背負い、
一面の虫々の僅かな隙間を必死に探しつつ、歩き始めた。

針路はジグザグだったけど、美貴に向かって歩いてきているようだった。
何度か黒猫と目が合った。
385 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:25

「…どうも…」

虫の道を抜けると、背中から白猫を降ろしながら黒猫がボソッと言った。

「ありがとうございました。」

今度は白猫が言った。
白猫に目を向けてみると…あれ……何だか違和感。
何か変な感じ。

何か変

何か…
あれ?

「あ…ヒゲ…」
『たん』
386 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:26
美貴は振り返った。
目の前の違和感よりもこの声。

亜弥ちゃん!
今日は少し遅かった。

『ともだち?』

亜弥ちゃんが美貴の向う側の二匹に気づくと美貴に訊ねた。

―ううん、ともだちではないと思う…

それから亜弥ちゃんは、ベンチ及びその周辺に散乱している虫にも気がついたようだ。
顔を顰めながらまた美貴に訊ねた。

『…あんたどういうアソビしてんの…?』


あ、あのね、これぁアソビじゃなくてねぇ、えーと、まぁ…何だろうねぇホント。
387 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:28

ファーーッッ

『?』
「なっ、」

突然
黒猫が美貴と亜弥ちゃんの間に割って飛び込んできた。
そして美貴には背を向け、亜弥ちゃんに向かってうなり始めた。全身毛を逆立たせて。爪までジャキンと見せながら。

こっ…こいついきなり何すると思ったらこのヤロウ!!

美貴はさらに黒猫と亜弥ちゃんの間に割って入り、亜弥ちゃんに背を向け、黒猫に向かって威嚇を返してやった。
自分がカッとなっているのがわかった。

亜弥ちゃんはきょとんとしている。

黒猫は臆し、少し驚いた顔をした。
388 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:29
「あのさ、美貴は喧嘩上等だけどね、亜弥ちゃんには喧嘩売らないでくんない?」

美貴は冷静に、冷静ーに諭した。威したんじゃないよ諭したんだよほんとだよ。

「…ゴメンナサイ」

黒猫は爪をしまい、頭を下げて謝った。


結構けっこう、美貴は素直な子供は大好きだよ。


白猫が歩いてきて黒猫に寄り添い、

「…ごめんなさい」

なぜかまた謝った。
389 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:30

「れいな、もう行こう。」

白いのが黒いのにそう呟きかけた。
黒猫がうなずき、二匹はそろそろと歩き始めた。

「ありがとうございました。」

白猫が振り向きざまに、またお礼を言った。
そして向き直ると、黒猫と共に茂みに入ってゆこうとした。

「ねぇちょっとまって。」

美貴が呼びかけると二匹は立ち止まり、顔を美貴の方へ向ける。

やっぱり。
390 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:32
「ねぇ、なんでヒゲが無いの?」

白猫には確かにヒゲが無かった。





「だってヒゲって、かわいくないもの」

白いのは答えた。
391 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:32
392 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:32
393 名前:らぶさむ 投稿日:2007/08/25(土) 01:36
こんばんは。
また随分と間を空けた割りに…って感じですが;

読んでくださってる方ありがとうございます。

>>361 名無飼育さん
詩的だなんてそんな…照れますYO!
待っててくださりありがとうございます。
394 名前:名無飼育さっ 投稿日:2007/08/26(日) 00:36
れなさゆキター!
白黒子猫可愛いですね

ごとー猫が神秘的でまた登場期待してます♪
395 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:08
396 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:08
暑い。あっつい。


熱湯の中を平泳ぎしてるみたい。
したことないけど。


愛ちゃんは

『地球を冷ますんやよ〜』

とか何とか言ってクーラーつけずに扇風機占領してるし
亜弥ちゃんは夏期講習とかででかけちゃったし

「愛ちゃん、地球冷ますためにはまずこのウチから冷やしてみないと、ねぇ」

美貴はエアコンのリモコンをくわえて愛ちゃんの所に持っていった。
愛ちゃんはそれを美貴から取り上げると、一瞬エアコンに向けてボタンを押しか
けたが、
何を思ったか、断念してソファの上に放り投げてしまった。


『だめだめ…ちきゅう…おんかんじゃん…』

温暖化してるのはあんたの頭だよ。

397 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:10
美貴はもう一度、リモコンをくわえて持っていった。
愛ちゃんは、フローリングにスライムのように寝そべって、安っぽい風
を受けている。

俯せた愛ちゃんの背中にポンとそれを置くと、『もぉ〜』と唸りながら腕を伸ば
して掴み、また放り投げた。
もぉ〜と言いたいのはこっちだ。
美貴は負けずに同じことを繰り返した。
今度は『ぐぅぅ』と唸って愛ちゃんも同じことをまたした。
が、


ガタン!


リモコンの軌道はソファを外れ、うるさい音をたてながら、硬いフローリングに
墜落した。
398 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:12

「あぁ〜あ」
『あぁ〜あ』

399 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:13
…うるさいなぁ。
と思いつつ(愛ちゃんもそう思ったに違いない)、美貴はまたまた繰り返す。
それを受けて愛ちゃんは、待っていたかのように掴み取り

『今度はハズさんよ』

気合い十分にソファに向かって投げた。
なかなかのフォームだ。

ようし。

400 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:14

美貴はまたまたまry

今度は愛ちゃんが投げる前に早く走っていき、空中でキャッチした。
効率と合理性を極めた結果だった。

『あひゃ、すごぉい』
「すげぇだろ」
『負けれんわ!』

愛ちゃんは様々に投げ方を変えてきたが、美貴はそれに怯むことなく猛進し、難
なく掴み取っていった。

『ほりょっ!』
「せいっ!」

『ふ…なかなかやるな』
「そっちこそ、かなりの手練だな」


『あはははは』
「あはははは」
401 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:15
 
 
 
 
402 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:15
 
 
暑い
 
 
403 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:16
404 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:16
405 名前:らぶさむ 投稿日:2007/10/28(日) 19:22
こんばんは。
なんだか最近寒くなってきましたね。

>>394 名無飼育さっさん
感想ありがとうござます
85年組はまだまだいっぱい出したいです
406 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/29(月) 22:32
wwww
かえって2人とも暑くなってしまってるところが可愛いですw
ごっちんがハローを離れてしまいましたが…私もまたごとー猫見たいです
407 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/27(木) 21:32
>>123最後の一行ワロタ
408 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:09
 
409 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:10
こんこんがご馳走に招待してくれた。
何やらゴウジャスなお食事らしい。
量より質なんだろうな?
聞いてみるとこんこんは

「質量保存の法則ってとこですかねぇ。」

取り敢えず半々といったところだろうな。
410 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:10

こんこんは時々難しい言葉を使うから、何だか反論とか突っ込んだりしたらいけ
ないような気がする。
まあ、たまには突っ込むんだけどね。

でも美貴今夏バテしてるんだよ。
食欲はあんまり…なんだけど
こんこんがあんまり情熱的に誘うから
まあ、ヒマだしね。
愛ちゃんは結局寝ちゃったし。冷房つけずに。
死ぬんじゃないかな。



まあ、質の方に期待しよう。


411 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:11



「なんてゴージャス…ってこれコンビニ弁当じゃん。」

この、コンビニ裏までの道中も思ったけど、
こんこんって野良だよね。
ご馳走なんてなかなか期待できるもんじゃないよ。
でもこの未開封のコンビニ弁当は、実に美味そうだ。
ご飯の上にカルビだけがしめやかに佇んでいる。

「ゴウジャスでしょ」

こんこんは頬笑む。

「こないだのお礼です。」

美貴何かしたっけ?

あ、そう言えば前見たときはガキさんとかいう仲間がいたような。
今日ははいないのだろうか。

「ガキさんは少し、慌ただしいところがあって」
「うん」

こんこんも少し見習ったほうがいいと思うよ。

「ゆっくりできないだろうから、置いてきちゃいました。」

へぇ。
って、え、それ、え、いいの?
ご馳走でしょ?
え、仲間、なんだよね?
412 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:12

「まあ、彼女の言うことも」
『コラーッ!!』

美貴とこんこんは同時に首を怒鳴り声のもとに向けた。
こんこんの大きな目はさらに大きくなった。

その怒鳴った人は、大股でずんずん近づいてくる。
あと2、3歩でぶつかると言うところで、こんこんは
別猫のように突然斜め上に飛び上がった。
屋根の縁を足場に、乗りあがったのだ。
口にはしっかり、惣菜やらパンやらでいっぱいになったビニル袋をくわえて。

あ、そこはぬかり無いんだね。

って、聞いてねぇよ!!
413 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:13
え、な、どうしろっていう…

『また新入りなの?』

その人はアーモンドのような目をむいて美貴を見つめた。
美貴は頭の中がすっかり飛んでしまっていた。
何この唐突すぎるピンチ。

414 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:14




「飛ぶ!!!!!」

は、



聞いたこともないくらい大きい声が
美貴の脳との相談なしに、体に命令した。
素っ頓狂な所に飛んでかなかったからいいけど、
ちょっとは相談してほしかった。
美貴はすぐ横にある塀に飛び乗った。
こんこんがいる所とは正面にあったけど、
美貴のいる所の方がずっと低かった。

こんこんは美貴の顔を見ると、弾丸のように美貴の方の塀に飛び移り、
美貴はそれにぶつかった。美貴はこんこんにタックルされたのだ。
その衝撃で、ふたりで塀の向こう側に墜落した。
塀の向うにさっきの人の悔しそうな声が聞こえた。

ってかこんこん、機敏すぎ。


415 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:14

砂を払いつつ、こんこんは肩で息をする。
あぁ、命懸けだ。
ただでご馳走なんてありえないんだ。
美貴は改めてゾクゾクした。
こんこんはフゥと小さく息をつくと、袋から無造作に取り出したパンを、美貴に
突き出す。

「これ美味しいんですよ」

今美貴の世界がまた一つ変わったな。
こんこんはすごい猫だ。
416 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:16
…どれどれ。パンを見てみると、白っぽくてまるっこい。
愛らしいフォルムをしてる。
噛むと歯がめり込んで、中に何か入ってることに気付いた。
何だろこれ。ツナじゃない。
ツナなんかより全然なめらかだ。

舌に触れさせてみた。
味は…

「甘っ、あっまっ!」
「そうかな?」

いや美貴甘いの嫌いじゃないけどさ、
これはちょっと…

「まあ確かに、最近の人間の食物は、みんな味がやや濃い目ですね。私は大して
気にしないんだけど」

こんこんは少し残念そうに呟いた。

「ガキさんは嫌いみたいです。」
「薄味好みなの?」
「うん、というか、私達にはそれが普通で、最適なんです。」
「なんで?好き嫌いでしょ?ひとそれぞれじゃん」
「う〜ん、その、世の中には人間向きの食物ばっかりがあるんです。」
「へ、うん、そう、だね」

世の中?
417 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:17

「それは私達が人間よりも数か少ないというか、その、メインじゃないというか
、そのためで、ということは、私達はメインに身を寄せる他ないというわけで、

「うん」
「そうなると、食べるものも、最近は場所というものまでも、人間に頼らなけれ
ばならないということです。今そうですよね」
「うん」
「でもそれではいけない、私達はメインに寄り添い従うけど、メインじゃない。
メインの上に成り立つ、メインがあっての生物じゃないということです。ちょっ
と語弊があるかもしれないですけど」
「ああ、大丈夫」
「つまり、人間がいるから猫がいるんじゃないってことです。最近の猫も人間も
それを忘れています。人間はまあ、しょうがないかもしれない、けれど猫がとい
うのは問題です。人間は誇りというものを端からもっていません。まあある意味
問題ですが、メインだからいいんです。だけど」
「うん」
「猫はいけません、それは猫が猫を否定するということになります、猫が死ぬと
いうことです。恐いですよね。味の濃いものばかりを食べると早死にするのはそ
ういうわけです。だから薄味好みということは猫の誇りでもあるのです。」
「うん」
「じゃあそろそろ、戻りますね。ガキさんにお土産もってかないと。」
「うん、ああ、うん。じゃあね。」
「これ、お土産にどうぞ。甘くても、非常食にはなるから。」

こんこんは、さっき美貴が噛ったクリームパンを指差して言った。

ってかヒジョーショクって何だ
418 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:19
「常に非ざる食と書きます。食べたくても食べたいものが何にも無いときのため
の食物ってことです。」
「ふぅん」

美貴はあいまいに理解した。

「じゃあ、さよなら」
「あぁ、さよなら。」

こんこんはきびすを返し、トコトコと歩いて帰っていった。
後ろ姿は尻尾の垂れた、普通の三毛猫だった。

ずいぶんと長い時間を過ごしたと思ったら、別にそんなでもないみたい。
太陽はまだ終わりに傾き始めたばかりだ。
でももしかしたら今は、昨日の翌日なのかもしれない。

それくらい長いこんこんの講義。
ちゃんと美貴聞いてたよ。
メインが…その、埃の…その、だよね。
ちゃんと美貴聞いてたよ。



ってか
こんこんてスゴいなぁ。
419 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:20


さあて、美貴も帰るかなぁ。

結局ご馳走っていうのは、このヒジョーショクだけしかもらえなかったけど
焼肉弁当食べたかったけど
このパンすっごいあっっまいんだけど
美貴はとても満足した。
ただ一つ不満があったとすればそれは
何か一つ考えるたびに、さっきの講義の内容が頭から一つずつ消えていく
あまり心地よくない感覚だった。
まぁ、もとから深くはわかってなかったんだと思うけど。

そうだ。亜弥ちゃんはもう帰ってるかなぁ。
や、まだか。
亜弥ちゃんは最近、毎日麻琴と同じくらい遅くに帰ってくる。
やっと暗くなって、それでももっとしないと帰ってこない。
まだまだこんなに明るい。むやみに長い。
420 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:21

やっぱり、家に帰るのは後にしよう。
どうせ愛ちゃんは寝てるだろうし。死んでないよね?

散歩でもしよう。よっちゃんにでも会うかもしれない。
あでも、梨華ちゃん家にいるかもしれない。あそこは涼しいから。
でも、あんまり行きたくないなぁ…
部屋は涼しくても、梨華ちゃんが暑苦しいから。

_
「美貴ちゃん、交尾って、尻尾を交わらすって書くんだって。」
「へぇ〜、物知りだね(コービって何だろう…)」
「やってみない?」
「う〜ん、ってえ?何…」


あぁぁ、思い出すだけで暑苦しい。
どこか日陰を探そう。
あぁあっつい。

421 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:21

あの公園はいつでも涼しかった。
亜弥ちゃんとよく行く公園。
ちょっと虫がいやだけど、木がたくさんあって大きい影ができる。
その下にベンチがあって、座るとヒンヤリする。
子供たちが遊ぶアスレチックとは離れたところにあって静かで
…考えてみたらすごい穴場じゃん。

あそこで少し昼寝でもしよう。

422 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:22
しかし美貴の計画は、変更せざるをえない事になった。
ベンチには先客が眠っていた。
木漏れ日にまどろんで、寝転がっている。
まぁ酔っ払いのおっさんじゃないからマシだけど。
美貴はちょっと不機嫌になった。

…まぁいい。横には結構スペースがある。
迷惑そうに睨まれても居座ってやろう。っていうか睨み返す。

先客は猫だった。

美貴が少し離れた横に座っても、その猫は起きない。
ずいぶん鈍い猫だなぁ。それでいいのだろうか。
静かでいいけどさ。

それにしても心地よい涼しさだ。
こう気持ちがよかったら、ずっと夏でもいいと思う。
この世のどんな場所も、こんな風な場所だったらね。
でもそれじゃあ、一生のうち、寝てる割合が今より多くなるってことになる。
それはどうかなぁ…
どうなのかなぁ…

ぐう、







423 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:24








「わわ」

美貴は記憶喪失になったみたいだ。
いつの間にこんな、誰かの顔のどアップが。
ここはどこ?美貴は誰?
美貴は美貴か。
ここは…

「こんにちは」

ここは、ていうかこれは…
誰だ。
そしてなぜにどアップ。

「誰?」

誰かと訊かれたそいつは少し驚いた顔をした。
そこにはかすかに覚えのある違和感があった。

「ごめんなさい」

その言葉にも聞き覚えがあったような…
まぁ確かに美貴はよく謝られるけど。

「目がキレイだったんです」
「…」

いや、いやね、そういう事言われても困るわけなんですよ。
どう、どう反応してほしいんですかアナタは。ん?
意味がわかんないですよ。







照れてるとか絶対いうんじゃねぇぞ。
424 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:25
「照れてるんですか?」
「…」



何なのさこいつ。
ヒゲ生えてないし。

あっ


「照れなくても大丈夫ですよ。さゆみはアナタの目に映った自分を見てたんです。」
「な…」
「ふふ、キレイですよね?」
「、」
「どうしたんですか?」


いやどうしたんですかっていうかそっちがどうしたのよ。
意味わかんないし。
もう。
でも思い出したぞ。

「アンタこの前ガキに追いかけられてたヤツじゃん。」
「覚えてるじゃないですか。」
「名前は知らないもん。」
「でも覚えててくれたんですね。それだけでいいです。」
425 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:26
白猫はニコと笑った。
相変わらずヒゲはないけど、かわいい顔はしてる。

「ちょっと気になってたんだけど」
「さっきから気になってるんですけど」

「あ、どうぞ」

譲られたので先に尋ねることにした。

「なんでヒゲないの?」
「かわいくないの」
「じゃあヒゲ、どうしたの?」
「ヒゲより他に気になることないですか?」

そいつはにこにこと頬笑みかけて訊いてきた。

「はぁ?」
「例えば、どうしてこんなにかわいいの?とか」
「ごめんないわ。」

ふははっと笑ってみせてやった。
白猫はさっきよりもにこにこした。
そこで怒るリアクションを期待したんだけど。
426 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:27
「まぁ、どうぞ」
「?」
「ききたい事あったんじゃなかった?」
「あ」

白猫は美貴の肩越しに何かを見つめ始めた。
見てみると、白くて丸い…
あぁアレだ、えと、ヒジョーショクだ。

「あれは何ですか?死んでるんですか?」
「ヒジョーショクっていうんだって。死…んでるとは思うけど」

そういえばパンって、普段は生きてるのかな。
動いてるとことか見たことないけど
ってゆうか、生きてる死んでるとかいうのだろうか。
もしかしたら、時々あったかいパンがあるけど、そうゆうのが生きてるパンなのかも。

「ヒジョーショク…」
「すっげぇあっまいよ」
「あっまい?」
「うん。あまい。」
「あまい…」
427 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:28
ソレがとても気になるようだ。
ずーっと見てる。
食べるのはあまり勧められないけどなぁ…美貴なんてまだ舌に甘さが残ってるし。
でもまぁ、そんなに気になるなら

「食べれば?」
「え?」
「食べたらって。」
「たべものですか」
「ヒジョーショクだからね。キツネに荒いザルの食べ物だから。」
428 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:29

訝しげな表情はしたものの、とりあえず食べてみるらしい。
美貴の目を見てからまた「あまい?」と訊いて
うんうんあまいからあまいからと美貴は適当に頷いた。
白は顔を下げて、美貴が齧ったために露出したクリームの部分をそっと嗅いで
フンフンと鼻をならしてから、ひとなめした。
あっまいぞぉ、あっまいぞぉ〜

「あまい…これが?」
「え、…う、うん」
429 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:30
「あまい…これが…」
「う…なんか…ごめんね…?」


白猫はパッと美貴を振り向いた。

おこられるっっ!!!



ってなんでよ。
美貴悪いことしてないし。
してたとしても、美貴もうちゃんと謝ってるし。

「舌が…なんか…なろ〜んっていうか…」
「へ?」
「なんかこう、まろ〜んって…」
「は?」
「こう…これは…」


この猫、何者なんだろう。
まったく意味がわからないんだけど。
甘い物に厳しいのだろうか。
甘い物の権威なのかな。甘いものチャンピオンとか?
なんじゃそら。
430 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:32

「こう…これ…甘いんですか?」
「い、一応…美貴はそう思ったけど、ね…」
「あまい…甘いって、いいんですね。」
「へぇ?」
「甘いって、さゆみこれから好物にします。」
「はぁ」


と、とにかく…気に入ってる…でいいんだよ、ね?
まぁ、気に入ってもらえてなによりだ。
これこんこんのだけど。

「じゃあ、それ、あげるよ。」
「そういってくれると思いました。ありがとうございます。」

思ってたのか。美貴は思いつきで言ったんだけど。

「じゃあ、もう帰ります。れいなが待ってるかもしれない」
「れいな…?あぁそれ、そのれいなって、今日どうしてるの?」

れいなって前一緒にいた黒猫だよね?
いつも一緒にいてそうな感じなのに、なんで今日いなかったんだろ。

「わかんないです。どっかでケンカしてるのかも。」
「け、んかですか…」
「れいなはよくケンカします。」
「ふぅん…ね、アンタって飼い猫?」
「かいねこ?」
「人に飼われてるの?」

毛並みキレイだし。
431 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:33
「かわれ…てはないですけど」
「あ、そ、そっか…」
「人は…れいながあまり好きそうじゃないから。
 さゆみは、よくわからない」

うん。確かに好きそうじゃなかった。
威嚇しやがったし。しかも亜弥ちゃんに。
あのやろう…

「でもれいなの好きな人がいたら、それはきっとさゆみの好きな人だと思います。
 っていうことは、さゆみは人が嫌いなのかもしれない」
「そんなのわかんないよ。」
「わかんないですね。」
「うん。」


微笑むと、さゆみという猫はクリームパンを愛おしそうに持ちあげた。
そしてまた、微笑んだ。


人ってたくさんいる。でも人全体に共通する特徴なんて、ほんの少ししか見つけられない。
あのれいなという黒猫が人というものを嫌ってるんだとしたら、
今までに見てきた人が嫌われるべき特徴を持ってただけかもしれない。
人全体を嫌うって、無理なことだと思う。人を総括することって、できるとしてもすっごい難しいと思うから。
432 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:35
「じゃあ」
「あぁ、ばいばい。いい人にあえたらいいね。」
「ふふ、猫にはまた会いたいですけど。」
「いい人もきっといるよ。多分ね。」
「さよなら」
433 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:35

美貴も帰るか。
そういえば美貴、昼寝してたんだった。
寝てる間に、結構暗くなってきたみたいだ。
それから白猫と話してたから…かなりたってるよね。
亜弥ちゃんは、もう帰ってきてるだろう。
434 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:36
ほら、もう帰ってる。
冷房の効いたリビングのソファに、亜弥ちゃんがくつろいでテレビを見てた。
あと二三歩というところでやっと美貴に気づいた。
遅いよ。
っていうか愛ちゃん結局クーラーつけてんじゃん。

『あ、ねこさん。結局つけちゃったやよ。やっぱり涼しいねえクーラーは』
『帰ったら家ん中すっごいあっちぃんだもん。使うときに使わないでどうすんのよ。』

まったくだ。
あああ、涼しい。


『たん、おかえりただいま』
「へへ、ただいまおかえり」

へへへ。
亜弥ちゃんは美貴を抱き上げる。
これからまったりタイムに入るんだ。


435 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:38




ってときに、リビングのドアが、うっさい音をたてて開いた。

『あ麻琴。おかえりぃ。』
『おかえり』
「よぅ麻琴、おかえり…ちょうどこれからまったりするとこだったんだけどね。ジャマされたわけなんだけどね。」

『まったりしてる場合じゃないよみんな!!
 今日、会社の後輩に聞いたんだけど…』

麻琴は今までにない深刻な顔をして言った。
436 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:38

『えぇ!?なになにぃ?』
「何だ何だ。」
『何?』

『…』

麻琴はコクリと重く頷いた。



『マク●ナルドのハンバーガーって

 猫の肉使ってるらしい…』

437 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:39
 
438 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:39
439 名前:らぶさむ 投稿日:2007/12/31(月) 01:46
もう大晦日…なんだか早いです…
こんばんは。

>>406 名無飼育さん
レスありがとうござます!
いろいろありましたけど、まぁまったりいきましょうやイェア!!

>>407 名無飼育さん
れすありがとござります
これからもワロテくださるとうれしいです。

ではよいお年を…!!
440 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 18:47
作者さんあけましておめでとうございます!

こんこんw
ミキティww
さゆwww

そして最後に 工エエェ(゜□゜)ェエエ工
だいじょぶか猫たち!
441 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/06(日) 09:27
>>410
最後から二行目ワロタ
442 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:32
 
443 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:34

れいなは眠らない
糸がピンと張るように辺りを睨んで
空気中に喧嘩を売っている

ねぇれいな

れいなが私を見るときみたいに辺りを見れば
きっと眠れると思うのに
444 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:35





夜は猫の





445 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:36

念猫
念猫よ
446 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:37

念猫
念猫よ


あの三日月はあなたを引っ掻きはしない
あの半月はあなたを食べたりなんかしない
あの満月はあなたを裏切るなんて事しない

安心して

良い夢を

ねんねこ
ねんねこよ

おやすみ

447 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:38




青黒い夜に歌うのは、やっぱりごっちんだった。

それにしても、随分と背の高い木だ。
美貴はどうしても登れなかった。

半分くらいまで行くと、息が切れる。それに
それ以上へと登った自分のことを想うと、やっぱり、どうにも登れない。
だから美貴は、枝にひっしとしがみ付きながら、ごっちんに話しかける他なかった。
声を張らなくても、ごっちんには聞こえてるようだった。
448 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:39

「ねんねこって、誰のことだと想う」

ごっちんは笑ってそう言った。
たずねるっていうより、独り言みたいだ。
ほら、にやにやして 目線は空をつかんでる。

美貴は答えなかった。

「ヒントだすよ。じゃあ昔は、誰のことだったでしょう」

ヒントっていうか、問題変わっちゃってんじゃん。
あでもこれは、じゃあ、昔と今では違う誰かのことですよってこと?
わかんねぇよそんな
っていうか独り言じゃなかったんだね。

「わかんないよ」
「ふぅ〜ん」
「や、ふぅ〜んじゃなくて」
「答え?」
「そうそう」
449 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:40
ごっちんは美貴が答えなかった事に、少しがっかりしたみたいだ。
目を少しだけ下に向けて、にやにやは止んでしまった。でもその先は、やっぱり空だった。

何だか申し訳なく思うひまもなく、でもごっちんはすんなりと解答を言ってのけた。

「大切なものすべてだよ」



「クッサ!!クッサいよそれごっちん」


いやもうホントに。
あ、でも今の美貴の反応には、満足したようだ。
笑いながら美貴を見た。
450 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:41

「ちなみに昔の方はねぇ」
「あぁ」
「これはねぇ、ちょっとイタいよ」
「イタいの?言っちゃって大丈夫?」
「あは、うん。 すべてじゃなかった。」
「はぁ?」

何とも言い難いタイミングの回答に、美貴は素の疑問符を投げつけてしまった。
もしかすると、答えじゃなかったんじゃないかとも思える答え。



「すべてが…(なんだっけ)?」
「うん。そうだねぇ。すべてが小さかったんだよね。すべてという括りがね。」

デジャヴとはこういうものか。美貴は始めて知った。
美貴の頭は考えることを諦めてしまった。
頭は人間よりも何周りか小さいのに
こんこんもごっちんも、どうしてこんなに考えを積み重ねることができるんだろう。
451 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:41

さっきの歌にまどろむ念猫は、今では美貴であってほしいと思う。

入り組むことばは睡眠薬になれると思う。


「だからこうしてなきゃいけない。」


ごっちんは続けてるみたいだった。


「すべてが小さかったからね」

452 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:42
 
453 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:42
454 名前:らぶさむ 投稿日:2008/01/21(月) 21:48
遅すぎたあけましておめでとうございますでございます。
容量足りるかなぁと不安になって参りましたよ?

>>440 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
使い古されたネタですねww

>>441 名無飼育さん
ピンポイントにワロテくださりありがとうです。
もっとワロテくださいな
455 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/01(金) 21:36
この世界観良いですねー。大好きです!
これからもじっくりとまったりと読ませて頂きたいと思います!

あぁ・・猫になって一緒に遊びたいw
456 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/10(月) 18:06
ここの美貴さんが可愛らしくて仕方ありません
更新ずっと待ってます
457 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:06
 
458 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:06

『ほんに今日は満月で』

亜弥ちゃんは部屋の窓から夜空の黄色を見上げて言った。

うん、そうだね。

『ねぇ、猫の集会は無いの?ウワサの。』

さあ…
何だろ。
そんなの聞いたことないよ。

『わかった。友達いないからお呼ばれしてないんだ。』

そんなことないよ。
そんなことな…い…よ…?うん。
そんなことないもん。
ホントに聞いたことないんだよ。
美貴はそんなに寂しいヤツじゃないもんね。
459 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:07
近ごろ亜弥ちゃんは、夏期講習というところで勉強して、家に帰ってまた勉強する。
勉強って楽しい?でも見る限り、不愉快以外の何物でもなさそうだ。


『ねぇたん』

ん?

『集会行くならあたしも連れてってよ。あたし猫になりたい。』

うん。いいよいいよ。

集会だけじゃなくてさ、もっといろんなとこに美貴が行くときは
一緒に行こうよ亜弥ちゃん。連れてくからさ。

亜弥ちゃんには猫の素質があると思うよ。
460 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:08
「そういう漫画があったね。」

よっちゃんは頬杖をついて寝そべった。
亜弥ちゃんは猫になれるかどうかを、訊ねたところだった。

「いや違った。猫が人間になりたい話だったかね」
「いや知らないって」

あまり当てにならない感じだけど、何だかんだでよっちゃんは美貴より物を知っ
ているから。
取り敢えずその漫画の先が気になる。

猫が人間になれるなら、その反対が無いことはないよね。
461 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:08
「その先はどうなったの」
「えっとねぇ…悩める可愛い子猫にねぇ、あたしみたいなカッケー美猫が
『猫は人間になれない』って教えちまうんだよね。」
「よっちゃん最悪」
「いやあたしじゃねーから」

よっちゃんは笑った。
でも美貴は何だか釈然としなかった。
なれないものなのかなぁ。
でもよっちゃんの言うことだからな。

「だからあたしじゃねっつの。漫画漫画。」

よっちゃんはさらに笑った。
そっか、漫画か。漫画だもんね。
なら信頼できる…もんなのか?
漫画なら時々亜弥ちゃんが読んでる。矢口さんもかなり読んでた…なぁ。


「漫画より信用されないってどーなのよ」

よっちゃんが呟いた。
462 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:09

よっちゃんの家からの帰り道はもう紺色に沈んでいた。
美貴は自分の前足を見つめながらその上を歩いた。
振り返ると屋根の上によっちゃんの尻尾が見える。

亜弥ちゃんは猫になりたいと言った。
美貴は別にどっちでもいいよ。
どっちにしろ、亜弥ちゃんに美貴のいうことがわかればいい。
それだったら、美貴が人間になってもいいということだ。でもその線はよっちゃんのせいで絶たれてしまった。
漫画のせい?いや、よっちゃんのせいだ。

もっと、考えよう。
世の中よっちゃんが全てじゃない。
考えよう。
463 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:09




464 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:13


藤本さんには、何かお礼をしたほうがいいと思うの。
藤本さんっていうのは、さゆみに「あまい」というものを教えてくれた人で
れいなと同じ位好き。あ、でも、最近は、れいなより好きかもしれない。
れいな、よくわからないもの。最近は特に、わからない。
わからないのはちょっと、好きになりにくい。

れいなは人間を嫌いだ、と、言い切ったことは一度もない。
でもさゆみにはわかる。わかってたはず。
れいなは人間大嫌い。
藤本さんにだって、そう言っちゃったし。
でも最近は、もう、あ〜、もう、よくわかんない。


とにかく、最近はこうです。れいながよく分かりません。
相変わらず、眠りませんが。

465 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:15


「別に美貴に近況報告しなくても」

藤本さんが訝しげな顔をして言った。
藤本さんっていうのは…あ、さっき言ったか。
あでも、なんで「藤本さん」ってさゆみが呼ぶのかというと、
はるか昔のような記憶に、藤本と呼ばれるお母さんを見たので、その名称を苗字にしようと
そのはるか昔の時の藤本さんが考えたからなんだって。
生まれてから少しの間のことをはるか昔という藤本さんに、さゆみが感じた違和感とか相違感は
なんだか少し寂しいものみたいな感じがした。
でも猫のクセに苗字を持つなんてなんだか立派だなと思うの。

「美貴相談のるとか苦手だから」

大丈夫です。相談じゃないから。
話題が見つからなかったから、適当に言っただけです。

そういうと藤本さんはふぅんと鼻をならして、ベンチに寝返りをうつように体勢を変えた。
前足が痺れたんだと思う。

「でもさ、わからないって何が?」
「相談乗ってるじゃないですか」
「のってねぇよ興味本位だよ。」

すごく説明しにくいの。できたとしても、すごく長くなる。
めんどくさいのは嫌い。
藤本さんもそうだって、めんどくさいのは嫌いって言ってましたけど
いいんですか?
466 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:15
「え…じゃいいよ」

ほら。
でも藤本さんって、変なところで頑固だけど、基本的に押しが弱いと思うの。
れいなにそっくり。

「もういいです。」
「いいの?」
「藤本さんは何してたんですか?」
「美貴?美貴は考えてた。」
「何をですか」

「人間が猫になる方法」
467 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:16
 
468 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:16
469 名前:らぶさむ 投稿日:2008/04/08(火) 23:24
これ終わりあるのかっていうかクライマックスもどこにもねぇよ
って感じに中途半端ですが更新しますた。
一応結末は考えてあるつもり…ですよ…?

>>455 名無飼育さん
感想ありがとうございますです。
猫ってほんとに良いですよね…飼ったことないですけど

>>456 名無飼育さん
待っていただいてるなんて凄く嬉しいです。
ありがとうございます。
470 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/09(水) 20:49
猫になったらすごいよね
471 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/15(火) 10:11
新展開かな?
面白くなりそうですね
472 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:32
 
473 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:33

新鮮な考えだと思う。
藤本さんは猫になりたいの?あ、違うか。
誰が猫になるんだろう。

「藤本さんが人間になるんじゃいけないんですか?」
「それでもいいけど、やっぱり逆のほうがいいね。」

でも藤本さんが人間になるのは惜しいとおもうの。
今の、猫の状態でかわいいんだから、ずっとそのままでいいと思う。

そういうと藤本さんは妙に照れた。
照れないでください。私よりは可愛くないんだから、安心していいですよ。


それはそうと、なんで人間が猫にならなきゃいけないんだろう。
そんなことが現実にあったら、いろいろ大変だと思います。

「人類みんなが猫にならなくてもいいんだよ。一人だけでいい。」


個人的な問題…
さゆみは何だかこの話題について、どうでもよくなってきた。
さゆみに関わる猫以外の問題なんて、別に気にしない。
藤本さんが猫だってことは、この話題は藤本さんじゃないれいなでもないある人間のための議論になる。
そんなの、別にどうでもいい。
474 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:34
「昨日かおととい、雨降りましたよね。」
「おとといね、うん。で?」

人間から猫への変身は、雨に関係があるのかと、美貴は食い入ってさゆの話に耳を傾けた。
年下でも、何か知ってるのかもしれない。

「ちょっとさゆみ水溜まりに」
「水溜まり?」
「水溜まり見てきます。」
「見てくる。え?」

ああ、水溜まりに関係があるわけね。うんうん。
それなら付いて行きましょう。はいはい。

とことこと迷いなく、さゆは一昨日の雨が作り出した水溜まりのもとに歩んでいく。
さゆはじっ…と水溜まりを見つめ始めた。
美貴も脇から覗き込むと、そこには真剣そのものの表情をしたさゆの顔が、
揺らぐことなく映りこんでいる。
水面を決して揺るがしてはいけないと、さゆの体全体から気が発せられているように見えた。
美貴は緊張した。ヒゲがピンと張り詰めた。息を呑み込む。
475 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:34



…まだかな?

実物の方のさゆを見てみる。



ああ、まだだよね。そうだよね。



いつまでやるんだろう…


476 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:35

何度目かの「いつまでやるんだろう…」を美貴が思ったところで、
切っ掛けに茂みの草がガサガサと音を立てた。
何の切っ掛けって、さゆのこの何だかわからない儀式の終わりのだよ。
鏡のような揺ぎ無い水面は、やっとのことで動き出した。

草むらに現れたのはれいなという名の黒猫だった。
さゆの所に帰ってきたのだ。

美貴に頭を下げてから、さゆに近づき何かを言い出した。
何故美貴に頭を下げる。

「さゆ、また見てると」
「れいな邪魔した。せっかく藤本さんを横に携えて楽しんでたのに」

携え…携えられてたんだ。でも何を楽しんでたんだろう。
顔はどの瞬間を見ても真剣だった。実物も、水の鏡のも。

「美貴姐に迷惑っちゃ。もうおしまい」

誰が姐だ誰が。
477 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:36

そう諭されるとさゆは、ぶぅと頬を膨らませてから、水溜りを覗き込む姿勢から立ち直った。
それから「じゃあ…」と言って、軽くお開きムードになりかけたところで、
美貴は美貴の本題をさゆにぶつけた(れいなにもぶつかった)。

え?結局どうやって人間が猫になるの?知ってたんじゃないの?っていうか今のは何だったのさ。

「え?」

え?じゃねえよ。何だったのよ。

「ああ、さゆは鏡を見てただけです。」
「見てただけ!?」
「あっ、考えてもいました。」
「ああ、そう」

何だ何だ、真剣に考えてたわけね。なるほどね。
あそこまで張り詰めて考えてくれてたなんて有難いことだ。

「さゆみはどうしてこんなに可愛いのk」
「じゃあ、美貴姐、失礼しますっ」

れいなが途中で何かを遮ったような気がした。
まあいい。
答えがわかんなかったんなら、それはそれで。
はっはっはっ、美貴は寛大だからね。こう見えても。
478 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:37

それで結局、美貴の考えは何一つの進歩も見せなかった。
でも途方に暮れたりはしない。

世の中には、たくさんの漫画があるらしいし、
たくさんの猫も、今のところいるし
人なんてもっといるし

どこかで一例が起きるはずだ。
それが自分か亜弥ちゃんであったら神さんに感謝だけど
亜弥ちゃんとは違っていても、神さんにそれなりに感謝したい。

早く一例が起きればいいと思う。
479 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:38
 
480 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:38

今日は亜弥ちゃんの夏期講習がない日だと聞いて、美貴は意味もなく家の中をひとまわりした。嬉しかったから。
走ったりはしないけどね。美貴はもう大人だからね。もうトシかもしれない、というギャグを、美貴は若いから言える。
あーあ、美貴はもうトシかもしれないよ、亜弥ちゃん。

『なぁに、猫さん。年寄りみたいやよ。』

廊下を歩いていた愛ちゃんにそう言われた。
言ったって、愛ちゃんよりは速く歩いてんだから、愛ちゃんよりは年寄りじゃあないし。
美貴は愛ちゃんみたいにとろとろ歩いてないし。

人に言われると妙にむきになる美貴は、大人じゃないと自分でも思った。

居間、台所、無駄な和室(亜弥ちゃんはいつもそう言っている)、廊下のクローゼット前、
最後に周るのは亜弥ちゃんの部屋だ。決まってんじゃん。
まあ周るというより、そこはもう終点なんだけどね。
さあ階段を上って…階段があったね。階段。

階段はいつでも美貴の気合を一目盛下げる。
ごっちんのいる、あの絶対に上れない木を思わせる。
最初に出会ったのは、この階段の方なんだけどね。
あの木はどうして…まあいいや、今は。

それよりも、雲が紫色に…というかピンク色だ。
どこかの梨華ちゃんという猫を、いかにもイメージしたような空だ。どピンクだ。
なんて不気味。
別に梨華ちゃんが不気味というわけじゃないけれども。
階段にガンを飛ばしてから、居間の窓から家の外に出るところで、そう感じて、思った。
481 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:40

美貴が庭の木に上ろうとすると、背中の方から気配を感じた。
気配は本物だった。振り返ると白黒二匹の猫がてててと駆けてくるのが見えた。
れいなは軽く息を切らして、さゆはぜえぜえ息を切らして、木に手を掛けたままの美貴の横に立ち止まった。

「ふ、藤本さん。」
「う、うん。何、なんかあったの。」
「たいしたことじゃなか、美貴姐。まったく、さゆ。」

れいなは呆れ顔でさゆを見た。それから美貴を見て、またさゆを見た。
さゆは美貴の顔をじっとみて、まだ息を切らしながら美貴に、そんなにまでして伝えたかったことを述べた。

「空がピンクいろなの。」
「うん、知ってる。」

一瞬間があいて、綺麗なので見せたかった、とさゆは続けた。
れいなは

「不気味やったけん…何となく付いて来たっちゃ」

と、子供みたいなことを言った。ああ、子供だったね。
まあ、可愛いところもあるじゃん。子供は苦手だけどさ。
確かに不気味だ、この空。
美貴にとっては二回目の夏だけど、この空は多分…

この二匹が今ここに来たのは、ラッキー…だろうね。恐らくね。
あまり気が進まないけど、亜弥ちゃんに部屋にいれさせてもらおう。この二匹。
482 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:42

亜弥ちゃんは意外とすんなり二匹を受け入れた。美貴の子供じゃあないかと疑いもしたりして、
何となく笑って、お母さんのように網戸を開けた。
まず美貴が先に部屋に入って、白黒は後からソロソロと入り込んできた。
美貴はその様子を見て、窓枠の中に広がるピンク色を見て、
ふと、こんこんとガキさんのことを考えた。

この二匹はあの二匹と同じ。

あの二匹は、あのピンクが何を意味しているのか、知っているのだろうか。
知っていたら、どこで何をしようとするんだろう。
美貴は何となくあの二匹の、少なくともどちらかは知っていると直感はしている。
こんこんなんかは特にたくましいから。
知ってるよね。知ってて。

美貴は自分の直感が外れていないことを、今、誰よりも願っていると感じた。
どうか、どうか知ってるといい。
途方に暮れる二匹の姿が、美貴の頭に浮かび上がろうとしたけど
美貴はぐいっとそれを沈めた。
483 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:42
 
484 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:42
485 名前:らぶさむ 投稿日:2008/07/20(日) 02:49
冬に夏の話書いてると思ってたら、もう夏ですね…
まったくほんとにしょうもない作者でございます
こんばんは。

>>470 名無飼育さん
レスありがとうございます
できるなら私も猫になりたい次第でございますよ

>>471 名無飼育さん
レス&期待ありがとうございます
激しく裏切りそうな悪寒…なんて感じてないもん!!
がんばります
486 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/28(日) 00:37
猫かわいい!
更新待ってますね
487 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/07(日) 08:52
いっきに読んじゃいました。

猫世界いいですね!!!!
何気に麻琴に癒されました。

楽しみに続きを待ってます。
488 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/06(水) 21:53
まだまちたい(┳◇┳)

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