グッドラブハロー
- 1 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:14
- 始めて小説書きます。
なちりかで行きたいと思います。
時計の針をグググ〜っと戻して、なっち卒業少し前です。
物語の中では時間は過ぎていくのでうまくいけば現在に追いつくかもです。
よろしくお願いします。
- 2 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:18
- いつもと同じ時間、風景が違って見えるのは私の決断のせい?
ホテルの廊下はにぎやか。
メンバーみんなが集まってコンサート後の打ち上げを今や遅しと待ち望んでいる・・・
「何食べる〜私アイス」「このまえ食べられなかったから・・」
ワイワイはしゃぐ声は、ロビーには似つかわしくない。
だから泊ってる部屋の廊下に集まってる 。
「ま〜だ〜あ梨華ちゃん」
ののが私の手を引っ張る、この子は平気で禁句を口にする。
集団が出発しないのは待ってる二人がなかなか来ないから、でもその事を問い詰める人はこの中には居ない。
不意に、私の斜め前の部屋723号室のドアが静かに開いて、待ってたうちの1人がひょっこり顔を出した。
「ごめ〜ん、なっち来れないってさ」
- 3 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:23
- 飯田さんはドアを閉めると私たちに合流した。
「えっ!またですか、前回も前々回も・・・ですよね」
ストレートに美貴ちゃんが唇を尖らせる。
無理も無い。
打ち上げが好きでコンサートやってるのかってくらい楽しい時間なのに欠席するなんて、それも殆ど毎回、
「そういえば安倍さんと一緒に食事したのいつ以来だろう一ヶ月・・2ヶ月前かな」
珍しくよっちゃんが不満を口にする。
「安倍さん卒業が近いから出来るだけ一緒に居たいんですけど・・」
ガキさんまで小さい声でつぶやく・・・・
緊張感の漂うコンサートと緊張から開放された時間は全く別物、私も仕事が終わった後ロクに会話していない。
飯田さんが困った顔をしている。
何となく不穏な空気になりかけた、その時。
「そういう事は本人の前で言えばいいじゃん、明日にでも言いに行ったら」
矢口さんが、エレベーターに向かって歩きながら突き放した。
途端に不満気だったみんなが目を伏せた。
そんな事ができない事は、メンバーみんなが知っている。
安倍さんに物申せるのはこの中では飯田さん矢口さんぐらい・・・
特別な存在だった。
- 4 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:28
- 辻は何食うんだ」
矢口さんが振り返って尋ねる。
「アイスれす、あと肉と焼き祖母・・・」
「焼きそばだろ、おばあちゃん焼いてどうすんだ」
笑いが起こる。流石に矢口さん、ののを使ってガラッと重い雰囲気を変えて見せた
今だ!
私は、エレベーターに向かって歩き出すメンバーの最後尾に居る飯田さんに近づいた
「あの飯田さん私今日ちょっと体が重くて・・・部屋で休んでて・・・いい・・ですか?」
なるべくさり気なく目立たないように話しかける。
「へ、ああそっか風邪流行ってるからね、いいよ。倒れてからじゃ遅いからね」
飯田さんは私の仮病を怪しむことなくあっさり許可してくれた。
「すみません」
一礼すると私は足早に自分の部屋726号室へ滑り込んだ。
飯田さんは私の事を誰に告げるでもなく誰も私に気づかぬまま集団はエレベーターに乗って降りていった。
そして自分の部屋から出てきた私はさっきまでの喧騒が嘘のような静かな廊下に居た。
- 5 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:29
- 「ハーーーッ」
深く深呼吸をすると、突然重くなった足を運ぶ。
723号室のドアの前が目的地。
今日これから私は安倍さんに告白する。
ずっとずっと好きだった。
勇気が無くて、振られた後の気まずい空気が嫌で今まで避けてきた。
でもこれ以上先送り出来ない。
タイムリミットが近づいている。
安倍さんが卒業する前に告白しないと、多分一生言えない。
卒業してからじゃ関係が希薄になってしまう。
今しかない。
- 6 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:32
- 今日の事は一ヶ月前から計画した。
仕事が終わると直ぐに帰宅してオフもメンバーとほとんど遊ばない安倍さん。
自宅に押しかけるきっかけも招く言葉も見つからなかった。
告白の場所は仕事場しか無かった。
安倍さんと二人っきりになれて邪魔が入らない場所。
去年もツアーで使ったこのホテル、打ち上げ会場が遠い事も計算済み。
きっと打ち上げに安倍さんが一人参加しないのも、
スタッフさんが出払うのも・・
後は私の休む口実・・・仮病を言い出すタイミング!
全部クリア。
「フーーーー」
深呼吸しつつ胸に手を当てる、心臓の鼓動が全力疾走した直後みたいだ。
今なら引き返せる・・・駄目、引き返したくない。
私は震える手でノックした。
「安倍さん石川です。お話したい事があります入っていいですか?」
- 7 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:34
- 返事は無かった。
「ごめんなさい失礼します」
ドアに鍵を差込むと私は了解を得ないまま勝手にドアを開けた。
「梨華ちゃん知ってる?うちらの部屋の鍵で他の部屋が開けられるんだよ」
「えっ!そんな事あるわけ無いよ」
「ホントホントなんだって見てて」
ガチャ
「ほら、この部屋だけ開くのあいぼんが見つけたんだよ」
あいぼんは自慢げに726号室の鍵を振り回しながら723号室の鍵を開けて見せた。
その時に私がトッサに何を考えたのか幼い彼女は知る由も無かっただろう。
「ワァ!って安倍さんを驚かそう」
その日の晩には忘れてしまったあいぼんと、一年経っても忘れなかった私。
運命のいたずらか一年後も鍵は開いた。
- 8 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:37
- 真っ暗だった。
寝てるのかな、手探りで部屋に入る。
ベッドで寝ているのは分かった、
枕元のマメランプがほんのりオレンジ色に付いていた。
寝ている安倍さんの部屋に無断で侵入する。
こんな失礼な事は無い。
でも今日だけは門前払いされたく無かった。
寝ている安倍さんを突付いて起こしたらさぞ驚くだろう。
でも私の表情や、このシチュエーションから真剣さは伝わるはず。
ここまでが私の計画の全て。
ベッドが見える部屋の入り口に立ち胸に手を当てて呼吸を整える。
起きていてくれれば良かったのに、でももう引き返せない。
ここからベッドの安倍さんに近づこうとした。
その時ベッドのサイドテーブルにある白い山が目に入った。
- 9 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:41
- なんだろう。
暗闇に浮かび上がる白い山・・・沢山の白い袋の山。
その中の一つに見覚えがあった。
ノドのくすり?
声帯の弱い梨華の常備薬に違いなかった。
(安倍さんも同じの使ってるんだ)
嬉しいお揃い!・・・って、チョット待ってこれ全部お薬?
梨華の目に飛び込んできたのは様々な薬の袋。
内臓疾患、頭痛薬、解熱剤、腰痛の軟膏、シップ薬・・・
まるで薬局。
そして袋の一つ一つに服用者である安倍なつみの文字。
ナニコレ
安倍さんと言えば健康ヲタクで病気や怪我なんて聞いたこと無い。
いつも元気でハイテンションで
今日だってクエン酸貰ったし玄米ご飯だって食べてて。
突然閃いた。
(健康な人は健康ヲタクにはならない、健康じゃないから健康に気を使う)
- 10 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:44
- 知らなかった。
安倍さんがこんなに大変な思いをしてるなんて。
バタバタ倒れるメンバー内にあって、常に最前に陣取リ笑顔を絶やさない。
その裏側で体はボロボロなんだ。
梨華は鼻の奥がツンとするのを感じた。
私は一体ナニを見てきたんだろう。
体も小さく体力もあると思えない安倍さんが初期から全力疾走できた代償。
それがこの薬の山。
打ち上げに参加しないのも少しでも休息を取るため。
残りの娘。としての生活をまっとうするため。
精神的にもボロボロなのかもしれない。
梨華は精神安定剤とラベルに書かれた小瓶をゆっくり元の場所に戻した。
それなのに私何してるんだろう。
変な計画立てて、夜中に忍び込んで告白とか・・・自分の琴しか考えてない。
涙がこぼれた。
私バカみたい、
安倍さんの体調何にも知らなかったなんて告白する資格なんか無いよ。
ソッと立ち去ろう。
明日からもっと安倍さんを労わって気づかおう卒業まで!!!
- 11 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:49
- 何にも知らなかったなんて・・・
自分の部屋に戻ろうとした梨華にフト自分の言葉が残った。
(何にも知らなかった)
「ごめ〜ん、なっち来れないってさ」
5分前の記憶が蘇る。
飯田さんはこの部屋から出てきた。
安倍さんを寝かしつけたのか既に寝てたのか、どっちにしろ知ってたんだ。
昨日今日じゃないこの状態を・・・
「・・・本人の前で言えばいいじゃん」
矢口さんも知ってた、だから素早くフォローを入れたんだ。
中澤さんと保田さんは多分、いや当然知ってる。
ごっちんは・・・分からない、でも知ってそうな気がする。
私は・・・知らなかった。
なんで
知られないように隠したから・・・
なんで・・・なんで隠したの。
頼りにならないから
力にならないから
小さい子達は動揺するから
信用してないから・・・・・
- 12 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:52
- 薄々感じていた。
ごっちんと自分との間の境界線。
ごっちんまでは仲間で私から下は後輩。
ラブマを歌ったメンバーとそうでないメンバー。
私は辻ちゃん加護ちゃんをいつまでたっても子供に感じる。
でも、安倍さんからは私もそう思われてる、一緒くたに。
私は4期で自分だけはお姉さんチームだと思ってる。
それだけのことを考えて行動してきたつもり。
でもそう思われてなかった。
「なっち」
と呼べないからですか?
私が安倍さんに特別な感情を持つあまり、いまいち踏み込めなかったから?
- 13 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 01:54
- もし今日この部屋に無断で忍び込まなかったら、私は何も知らないままでいた。
そして安倍さんは卒業して私は何も教えられないまま・・・
不意に私の中に怒りが巻き起こるのを感じた。
私ってその程度の存在なんだ。
そんなに口が軽いように見えますか。
頼れないですか・・・
梨華はいつのまにか立ち去るはずの部屋の入り口からベッドの脇まで来ていた。
なつみが微動だにせず寝ていた。
私の気も知らないで!
ベッド脇のゴミ箱に見覚えのある薬の空き袋が捨ててあった。
睡眠薬だ!
滅多なことでは起きない、梨華の心は固まった。
安倍さんがそのつもりなら私の存在を直接刻み込む!
- 14 名前:小さい家 投稿日:2005/10/12(水) 02:05
- 第一回目の投稿はココまでです。
(小さい家)<あれ少ない(汗)
(;^▽^)<イッパイイッパイ書いたつもりだったんだね。
(小さい家)<余裕で30くらい行くと思ってたのに(冷汗)
( ^▽^)<読み違い?ビギナーという事で!ね!
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/12(水) 17:27
- なっなちりかぁぁ!!!
大好きなんですっ!!
応援してるんで頑張ってくださいっ
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/12(水) 23:51
- 今後の展開に期待
色っぽく・・・なるのかな?
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/13(木) 01:33
- 気になる作品発見
期待してますよ!
- 18 名前:tsmiia 投稿日:2005/10/13(木) 07:09
- なちりかーーーー(゜∀゜)キターーーー
すごく楽しみにしてます。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/14(金) 06:41
- すごく期待してますッ!
- 20 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 02:48
- ベッドのなつみは、あお向けに両手を小さくバンザイの格好で寝ていた。
梨華はなつみの左手に右手、右手に左手をそっと重ねた。
ピクッとなつみの両手が梨華の両手を握った。
「安倍さん・・」
かすれた声で名前を呼んでみる。
こめかみがズキズキする、興奮してるのを痛いほど感じる。
当然返事は無い。
暗闇の中なつみの規則正しい息づかいだけが答えた。
梨華は息を殺しつつ、なつみに覆いかぶさった。
ただでさえ童顔のなつみが、あどけない表情で寝ている様が梨華の心をくすぐる。
梨華の息でなつみの前髪がふわっと揺れた。
これだけ近づいたのは、いつ以来だろう。
伏せられたまつ毛、艶やかな唇、きめ細かい肌、小さな手の平、パジャマから除く胸元
全てがいとおしく見惚れてしまいそうになる。
(キスしたい・・・)
梨華の顔はゆっくりなつみに近づいていく。
ふにゅ
互いの唇がくっつき形を変えて潰れる。
不満気な梨華の顔が離れていった。
- 21 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 02:51
- 違う。
こんなんじゃない。
今のはキスじゃない、ただ唇どうしがくっついただけ。
頬やおでこを合わせたのと一緒。
もっと、
こう折角キスしてるのに全然ドキドキしない。
疑問を感じながらも再度梨華の唇がなつみの唇に押し付けられる。
ふにゃっと柔らかい感触はあるのにそれだけ。
途端に自信が無くなる。
何で・・・
キスのやり方くらいなら知ってる・・・ハズだ。
でも何が足りないのか。
ふと寝ているなつみに哂われてる気がした。
- 22 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 02:56
- 悔しい。
もっと安倍さんへの気持ちを込めて口づけてみる。
なつみの寝顔にジッと迫りながらゆっくりゆっくり唇を重ねる。
その時
なつみの顔が、かすかに上向いて口が少し開いた。
とたんになつみの吐息が梨華の口の中に流れ込んでくる。
「む、ふうう」
戸惑う梨華を気にもせずなつみの吐息は梨華の胸まで達した。
安倍さんの匂い!
汗だくのダンスレッスンでコンサートの舞台上で微かにしか嗅げなかった匂い。
もっと・・・
梨華は吐息を欲しがる様に更に奥深く唇を進めた。
なつみの唇をこじ開けるように唇を進めた。
舌が何かに触わった。
歯だ。
なつみの綺麗に並んだ前歯に梨華の舌は辿り着いた。
キスって口を開いてするんだ。
キス?
私安倍さんとキスしてる。
- 23 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 02:58
- さっきまでとは違い急激に気持ちが高ぶってる。
梨華の舌がなつみの整った歯並びを一本一本確かめるように動く。
その間もなつみの吐息は梨華の口に絶えず送り込まれていく。
どっどっどっど
心臓の鼓動がこれ以上ないくらい早い。
ちゅうっ
唾液交じりの音が合わさった唇から漏れる。
さっきまでのふにゃなんて間の抜けた音はもうしない。
梨華の舌はなお奥へ進んでいく。
その時
なつみの両目がカッと見開かれた。
目を覚ました?
一瞬にして梨華の背筋が凍った。
なつみの両手に力がこもる。
グッと梨華の両手を乗せたまま持ち上がった。
反射的になつみの手をねじ伏せる。
ぷはあっ!
なつみの顔が凄い勢いで左向きに逃れた。
梨華の唇との間に唾液がほとばしる。
両足を跳ね上げ全身で抵抗する。
慌ててなつみの上に馬乗りになる。
(落ち着いて安倍さん落ち付いてください)
混乱した梨華の思考は頭の中で空回っていた。
梨華の腕力、身体能力共に、なつみを上回ってる。
バタつく足を手を体重を掛けて力づくで組み伏せる。
- 24 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:03
- ハアハアハア
抵抗出来無くなったなつみは左横を向いたまま息を弾ませている。
梨華の顔が近づく。
脱兎の如くなつみの顔は右横を向いた。
梨華が右に近づくとまた左へ!
高速で左右にイヤイヤを繰り返しその後を梨華が追いかける。
暗闇の中で激しい息づかいだけの無言の攻防が続く。
すると、なつみの口がかすかに動いた、
「だれか〜・・・」
蚊の鳴くような1メートル以内に居ても聞こえないほどの小さな小さな声だった。
それでも梨華を恐怖させるのに充分だった。
(誰か来たらどうしよう!!)
口をふさがなければ。
梨華は組み敷いていた両手を離すとなつみの顔を左右から挟みこみ真ん中に固定した。
恐怖に震えるなつみの口を唇でふさぐ。
「ぐう!むううう!!!」
唇の間から驚きとも悲鳴とも取れる声が漏れた。
なつみの顔は梨華の両手に固定されて逃げる事も身動きも出来ない。
呆然とするなつみの口中に梨華の舌が侵入して逃げ惑うなつみの舌を追いかけ回す。
ふと、なつみは自分の両手が自由になってる事に気づいた。
ドンドンドン!バン!バン!ベシ!ベシ!
所構わず夢中で両手で叩く。
梨華の頭、肩、足、自分を押さえてる両腕。
でも状況に変化は無く。
梨華は何も考えずただひたすらディープキスに没頭していた。
- 25 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:07
- そのままどれくらいの時間が経ったろう。
一時間にも感じるがきっと1分くらいだろうか。
真っ暗な部屋の中は静寂に包まれていた。
疲れたのか
いつの間にかなつみの抵抗は止んでいた。
なつみの体をまたいで、馬乗りの梨華は徐々に思考が正常に戻っていく・・・。
段々恐くなっていった。
自分が何をしているのか現実の感覚が戻ってくるにつれてリアルに感じる。
何よりなつみが無反応なのが怖い。
指一本動かさず梨華にキスされるままになっている。
恐る恐る梨華はなつみの唇から離れていった。
梨華となつみの唇の距離が1センチほど離れた時だった。
「・・華ちゃん?」
震えもせず普段の声の大きさでなつみはつぶやいた。
「・・・ごめんなさい・・・」
小さくつぶやくと覆いかぶさってた、なつみの上から降りた。
何処をどう歩いたのかも覚えていない。
白光で目がくらんで気が付いた。
梨華は723号室のドアを後ろ手で閉め廊下に居た。
闇に慣れた眼に廊下の蛍光灯は容赦なく差し込んだ。
邪な欲望を消し去るには充分だった。
私・・・・何をしたの?
安倍さんに、寝ていた安倍さんに何をしたの?
- 26 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:11
- 私何をしたの?
独り言のようにつぶやく。
嘘、
本当は分かってる
私は安倍さんが寝ているのをイイことに力ずくで襲った!
顔を覆って駆け出した。
自分の部屋に飛び込んでベッドに倒れこむ。
違う!違う!違う!
こんな事をしたかったんじゃない!
私は、これまでの想いを伝える為に告白しに行ったんだ。
付き合って下さいって・・・・
どうしてこうなったの?
最低!
恐怖にこわばった安倍さんの表情が脳裏によみがえる。
寝ている時に無理やりキスされて目が覚めたら、誰かが圧し掛かってたなんて。
無理やり押さえつけられて襲われたら。
それも私に・・・安倍さんごめんなさい・・・・
- 27 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:14
- 後悔の涙がポロポロ流れてシーツに染みを作る。
悪夢!
そう、悪い夢であって欲しい。
安倍さんに嫌われたくない。
どう言い訳しても肯定される行為じゃない。
明日メンバーのみんなに知られる。
そして、安倍さんに軽蔑されて・・・・嫌われる。
お願い時間を戻して!
そうすれば私は迷わず打ち上げに参加してた。
お腹一杯になってみんなと楽しいひと時を過ごしていた。
そうしたら告白出来なくても嫌われなかった。
ダメだ。
安倍さんが部屋から出てくる。
怒りを抑えながら静かに廊下を歩いてくる。
そして私の部屋のドアを開ける。
ベッドまで来て突っ伏したままの私を上から睨み付ける。
眼に悔し涙を溜めながら右手を頭上に振り上げる。
私は顔を上げることが出来ない。
私は思いっきり頭を叩かれた。
- 28 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:18
-
バン!
弾かれた様に顔を上げた。
「30分前だよ。そろそろ支度したいんだけど」
大きな枕を片手によっちゃんが立っていた。
夢?
時間が戻った?
でも
「何でよっちゃんがいるの?」
「何でって、ここがあたしの部屋だからだ!」
へっ!?
見回すと部屋の中のカーテン着替えカバンなどがきっちり整理整頓されているのが眼に入った。
同じ部屋でも乱雑な私の使い方とは違う。
「昨日打ち上げから帰ってきたら、あたしの部屋で寝てるから起こすの可哀想だと思って梨華ちゃんの部屋で寝たんだ。」
少し不満顔のよっちゃんが説明する。
そうか、
気が動転してた私は間違えてよっちゃんの部屋に飛び込んで泣き疲れて寝ちゃったんだ。
でも
それは昨夜の事が事実だという証明に他ならない。
時間が都合よく戻るはずが無い・・・・・
「ほら、出発30分前だよ支度しなくていいのか」
「あ、うんゴメン。その寝ぼけてて・・」
よっちゃんに謝りながら、ベッドを降りてドアに向かう。
- 29 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:22
-
あの後どうなったんだろ。
ギクッ!
昨日の記憶が鮮明に蘇り体が硬直する。
恐る恐る後ろを振り返った。
よっちゃんが鼻歌を歌いながらブラシやMDをカバンに詰め込んでいる。
いつもと同じ、昨夜私がしたことは知らなそうだった。
これから知る事になるのかな。
一気に気が重くなる。
自室に戻って荷物をまとめたものの集合するのが怖い。
どう安倍さんと接すればいいの。
私が安倍さんにした事は何人のメンバーが知る事になるのだろう。
そして何より安倍さんは・・・・
時間ギリギリにうつむきながら集合場所の会議室に入室する。
もうみんな集まっていてにぎやかだった。
目立たないように隅っこにカバンを抱えたまま座る。
顔を上げることが出来ない。
自分の靴ばかり見てる。
- 30 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:25
- 意を決して少しだけ様子を伺う。
誰も私を気にしていない。
内心ホッとするけど、だからといってどうにもならない。
視野の中で数人の色々な靴が行き交っている。
白い靴が遠めに見えた。
安倍さんだ!
白い靴は黒い靴と相対して立ち止まった。
誰?
そっと目線を上げる。
飯田さん!
飯田さんと安倍さんが何か話してる。
何かって何の話かは私が一番よく知ってる。
急に飯田さんがこっちを向いた。
息が止まる。
慌てて目を伏せる。
狭くなった視界に、しかし黒い靴が入ってくる。
どんどん近づいてくる。
黒い靴の上の長い足が、腰が、ブレスレットを付けた両手が立ち止まった。
「石川?」
呼びかけに震えながら顔を上げる。
飯田さんの右手が素早く動いた。
私はギュッと目をつぶってカバンを両手で握り締めた。
- 31 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:30
- 私の額に飯田さんの手の平が押し当てられた。
「体調どう?昨日と比べて良くなった?」
「はい?」
薄っすら目を開けると飯田さんが不安げに私を覗き込んでいた。
「熱は無いみたいだけど、石川は無理するからねえ」
それが昨日の仮病の事だと気づくのに時間が掛かった。
「あ、あの大丈夫です。はい。あ、え、す、すっかり元気に・・」
予想と反した質問に、しどろもどろになりながら答える。
「でも顔色は悪いみたいね疲れすぎて夢遊病だって、よっしーが言ってたよ」
「はあ?そんな事は全然・・・・」
苦笑するしかなかった。
それだけ言って去っていく飯田さんを見送る。
反対側から肩をつんつんされた。
飯田さんも何も聞いてないのかな・・と上の空で振り返った。
「梨華ちゃん。ハイお目覚の紅茶だべさ」
「あ、どう・・!!!!」
笑顔のなつみはマグカップを梨華に渡すと近くにいた高橋にも渡した。
「ほい愛ちゃん」
「あ、スイマセン安倍さん」
「お〜い、おいらには無いの〜ウェイトレスさ〜ん」
「30分以内に持ってこなかったらタダやで!」
「今行くべさ、五月蠅いなーもう!」
なつみは少し遠い位置でテーブルを囲んでる矢口、加護の所へお盆を持って走っていった。
- 32 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:37
-
化していた。
紅茶をもらった姿勢のまま。
ギギギとロボットのように不自然に首を動かしてテーブルの方を見る。
「なっちレモンは〜」
「あるわけないっしょ!贅沢言わないの」
「姉たん紅茶熱すぎやわ!」
「いいんだよ〜朝から熱い紅茶ってバッチリ目が覚めるべさ」
いつもと同じ安倍さん。
何も変わらない朝。
安倍さんは誰にも喋ってないんだ。
私を許してくれた?
手に持ったマグカップの中の紅茶がユラユラ揺れる様子を覗き込む。
それとも
私の反応を待ってる?
どうしよう、どうしたらいい?
紅茶をゴクッとひとくち飲んだ。
ハー。
暖かい・・・・
昨夜から久しぶりに一息ついた。
みんなの前で怒られて絶交されるのも覚悟していた。
それだけにどうしていいか戸惑っている。
紅茶をグッと飲み干す。
- 33 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:40
- >>32
>化していた。
>紅茶をもらった姿勢のまま。
石化していた。
です
コピペミスm(__)m
- 34 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:44
- 先にあやまろう。
安倍さんの紅茶が勇気をくれた。
許してくれないかもしれない、私は疲れて寝ていた安倍さんに酷い事をした。
私の気持ちだけを押し付けた。
とにかく一番訳が分からない思いをしたのは安倍さんなんだから・・・・
周囲に音が戻ってきた。
「ツアーバス来たってよ!忘れ物無いね無かったら行くよ!」
矢口さんが怒鳴ってる。
集団は一斉に荷物を持って動き出す。
私も空になったマグカップを置くと慌てて後ろからついて行く。
集団に追いつくといつもの様になつみの姿を探した。
あれ?・・・安倍さんいない?
先頭を歩く矢口さんの隣にも、ののやあいぼんの近くにもいない。
後ろを振り返ってもボーっと飯田さんが1人歩いてくるだけ。
まだ会議室に残ってる?
1人で?
元来た道を引き返すと、走って会議室に辿り着いたが誰もいなかった。
でも水音が聞こえる。
給湯室だ!
入り口から入って会議室の中央を横切った反対側にある給湯室。
こちらに背を向けてなつみが動いていた。
- 35 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:51
- 一歩足を踏み入れる。
「あの・・安倍さん?」
何から喋ればいいのか、声を掛けてから気づく。
「お、ちょっと待っててね。このホテルの紅茶美味しかったでしょポットに入れて持って行こうかなって」
なつみは首だけ振り向いたものの、すぐに紅茶移し変えに没頭する。
私は、かける言葉も無く戸口で黙って作業を見守っていた。
どうして安倍さんはこんなに自然なんだろ。
私と会話しても平然としている。
昨夜のことは悪ふざけや遊び半分なんかじゃない。
脱線した行動だったけど安倍さんを好きな私の本心そのもの。
それなのに気にも留めてない、ということは私の想いも多分・・・・
いけない!
梨華は首をブンブン振る。
これじゃ昨夜と同じだ、私はあやまりに来たんだから。
あやまりに・・・・
- 36 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/10/20(木) 03:53
- なつみは注ぎ終わったポットのキャップを閉めると、上下にシャカシャカ振った。
そしてポットを置くとキャップを上からベチベチ右手で叩いた。
どうやら中身がこぼれないか、を確認してるらしい。
「よし大丈夫!」
ふたを閉めて再度ポンとポットを叩いた、その右手に別の右手がまとわりついた。
「へ?」
右腕に重なった手を確認しようとしたなつみは。同時に左肩を抱かれている事に気づいた。
振り向こうとした耳元に梨華の声が呟いた。
「昨夜のこと・・・・」
ビクッとなつみの肩が震える。
「無かった事にしないでください」
- 37 名前:小さい家 投稿日:2005/10/20(木) 04:10
- 二回目です。
何がどうなったのか沢山のレスを頂いてウッレシーです。
お陰でヤル気に満ちて先週末に投稿するはずが今週末にズレ込んじゃいました。
(;^▽^)<なんで?
(小さい家)<才能の無さ(泣)
次は若干遅れるかもです。
( ^▽^)<なんで?
(小さい家)<ストーリーは出来てるのに才能が・・・・(涙)
- 38 名前:小さい家 投稿日:2005/10/20(木) 04:14
- >>15
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ^▽^)<なちりかが少ないので自分で書く事にしたそうですよ
>>16
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべ
(;^▽^)<色っぽい・・・・かなあ自信ないです
>>17
名無飼育さん
( ^▽^)<気にしてくれてありがとうございます。
(●´ー`)<期待外れにならない事を願うばかり・・・・
- 39 名前:小さい家 投稿日:2005/10/20(木) 04:19
- >>18
tsmiia さん
(●´ー`)<楽しみにしてくれてありがとうだべさ
( T▽T)< なちりかCP分類版に無いんですよね
>>19
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●;´ー`)<今回の展開はハテさて期待を上回れたのか心配
- 40 名前:N&M 投稿日:2005/10/20(木) 15:43
- 更新してるっ☆
どぉなるのかA。。気になるなぁww
次回待ってますっ
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 11:59
- 続き期待
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/15(火) 17:22
- ( ^▽^)
- 43 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 01:51
- 二人しか居ない空間を沈黙が支配する。
「昨夜?」
口火を切ったのはなつみだった。
「ああ!何かあったっけ?何にも無かったよねアハハ・・・・」
乾いた笑いがなつみの口から漏れた、が空々しいのは明らかだった。
再び沈黙に包まれる給湯室。
「やっぱり梨華ちゃんだったんだ・・・・」
梨華に肩を抱かれたまま後ろ向きのなつみがボソッと呟いた。
意を決して梨華が口を開こうとした瞬間になつみが振り返った。
「ほら、ののとかふざけてさベッドの下に潜り込んでたりして驚かすんだよ」
なつみが微笑みながら続ける。
「ふざけてただけなんだよね!ビックリさせようとしたんでしょ?」
- 44 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 01:54
- 返事を待つ様に梨華をジーっと見つめるなつみ。
「あ。ええ・・まあ・・」
その視線に圧倒されるように梨華は曖昧に答えてしまう。
「でしょ!最初ののかと思ったよ。イヤあいぼんかな?とかビックリしたさあ!」
ニコニコと喋り続けるなつみ。
私は戸惑っていた。
ふざけて?
ふざけてなんかいない。
あんなに真面目な気持ちをぶつけたのは、初めてだった。
「あいぼんがチューってしてくるっしょ、顔をガッと捕まえて」
私のした事は間違っていた・・・・だから間違って伝わったの?
「一度ね、寝起きにモーニングきっすとか言ってしてきたんだよ!あいぼんってば!」
でもさっきまでの暗い気持ちを考えるとこの方が良いのかも。
「だけど、まさか大人の梨華ちゃんが二人の真似して来るとは思わなかったべさ」
- 45 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 01:59
- ふざけてた。
この場合そう取ってもらった方がイイのかも知れない。
無かった事に・・・そうすればこれまでと同じ、関係が進展しなくても嫌われない。
エヘヘって笑って、ゴメンなさいって冗談めかして言えば全てが丸く収まる。
昨夜の事は何の意味も無い悪ふざけだと。
「聞いてる?梨華ちゃん」
微笑んだなつみが小首をかしげ梨華を覗き込む。
「あ、ああ勿論です。エヘヘ・・・」
これでいい。
ズキッ!!!
- 46 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:03
- 笑いながら頭を掻こうとして持ち上げた右腕に痛みが走った。
打ち身?
二の腕の中央部分それに肩も。
こんな場所を?
だって左腕は平気・・・・アレ左腕の同じ所も痛い。
怪我って程じゃないけど急に動かすとピリッと痛む。
何で?
「何だい梨華ちゃんどうしたの?」
喋りかけて急に顔をしかめた梨華になつみが不思議がる。
「あ・・何でも」
なつみに言いかけて不意に気づく。
安倍さん・・・・が。
- 47 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:06
- 突然最初の会話の矛盾に気づく。
「安倍さん」
「ん?」
「私の腕が痛むんです。昨日安倍さんが叩いたから」
安倍さんの表情から笑顔が消えた。
「たって、それは梨華ちゃんが」
呟くように言う。
「悪いんだべ。何ていうか無理矢理してくるし。こっちだって凄い・・・・驚いたし」
「安倍さん最初ののだと思ったって言いました」
両腕を抱えた格好で話す。
「オカシイじゃないですか、ののやあいぼんだと思ってたら思いっきり叩かないでしょう」
「本当は誰だか分からなかったんじゃ・・・・だから」
(だから)
私は言葉を飲み込んだ。
続けて語ると後戻りできない予感がした。
でも遅かった。
- 48 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:10
- 何かを言おうとして安倍さんは目を逸らした
「そんなこと・・・・」
消え入りそうな小さな声で呟いた安倍さんの目からボロッと涙がこぼれた。
固まる私。
「だって・・・・」
肩が小刻みに震えているのが分かる。
「何であんな事したんだべ」
右手で涙を拭いながら、うめく様につぶやいた。
「いきなり!真っ暗な中で殺されるかと思った。悪ふざけにしても酷過ぎる!」
安倍さんは先ほどの笑顔からは想像できないほどに泣き叫んだ。
「あの・・ゴメンなさい」
「カギ閉めたのに誰だか分からない人に普通に入って来られて」
「それは私が・・・」
「朝まで寝ないで、ずっと震えてた。あんな怖い思いをいたの初めてだっウゥゥ」
それだけ言うとなつみは両手で顔を覆って泣き出した。
- 49 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:14
- 真っ白になっていた。
私はいつも行動してから後悔する。
安倍さんが弱い部分を笑顔で覆って明るく振舞うなんて知ってたのに。
それこそ昨夜の、お薬だってそうだった。
折角安倍さんが無理矢理に無かった事にして明るく振舞ってくれてたのにブチ壊してしまった。
「違うんです安倍さん聞いてください」
慌てて近寄ろうとするが、
「いやあヤダァ梨華ちゃんなんか嫌いだべ!もう近寄らないで!」
なつみは右手を突き出して拒んだ。
ショックを受けながらも尚も近づこうとする梨華と逃げるなつみ。
「安倍さん私しし、ら言いたい事が」
唇が震えて言葉が上手く喋れない。
- 50 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:18
-
私は今安倍さんを傷つけている。
大好きな人を悲しませている。
その想いだけがグルグルと体中を駆け巡り話したい事が出てこない。
無言でなつみの両肩を掴むが弾かれる。
「なっちを怖がらせて何の意味があるんだい!悪ふざけもいい加減にして!」
なつみが泣きながら梨華をキッと睨む。
「ふざけ!ふざけてません!安倍さんがいつも私に構ってくれないから」
「安倍さんが全然関心を持ってくれない気にも掛けてくれないから・・・・
私は安倍さんに憧れてオーディションを受けたのに、
TVで見ていて可愛らしくてでもそれ以上にひたむきで強くてだから安倍さんに会いたかった。
一緒に歌えて活動できたらどんなに素晴らしいだろうってあの日から初めて見たときから心に決めていた。
新人の頃は背中ばっかり見ていた。
早く追いつこうって並んでも見劣りしない存在になろうって努力した。」
梨華の目に涙が溜まった。
- 51 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:23
-
「努力!努力した!歌が下手って言われてもいい。でも努力して無いなんて誰にも言わせない!
それだけは負けてない。
メンバーの中で一番努力したって胸を張る自信がある。
それもこれも安倍さんの隣に立つ為、その為なら厳しいレッスンだって耐えられた。」
「梨華ちゃん?」
なつみの声も耳に入らない。
「努力が実ってセンターにもなれた、周りの人にも認めてもらえるようになった。
なのに安倍さんは後ろに下がって、
何で?どうしてですか?
ごっちんと比べて私はそんなに安倍さんと釣り合わないんですか?
ツートップ・・・
安倍さんとのツートップそれだけを夢見てたのに、ただの一度も無いなんて。
私の夢はそんなにいけない事ですか?」
いつの間にか泣いてるのは梨華の方だった。
なつみは自分の足元にへたり込む梨華をジッと見ていた。
- 52 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:30
-
「シャッフルの時もお前と安倍が核だからって別々で、
一回も同じユニットになれなかった。
同期のよっちゃんやののは安倍さんと一緒で楽しそうで
最後のシャッフルであいぼんも私だけ私だけ・・・・
さくらおとめも新曲のGOGIRLの4人ずつの組でさえも一緒になれなくて。
頑張れば頑張るほど安倍さんが遠くに行っちゃうのは何でですか?
こんな事なら努力しなければ良かった。
安倍さんが居なきゃ使えない子になれば良かった。
それなのに安倍さんは楽しそうで私の気持ちなんて全然どうでもよくてもう卒業しちゃうし。
全部終わっちゃう。
全部ウワァァァァァァァァン」
梨華は自分が何を言ってるのか分からなくなっていた。
涙がボロボロ流れて何にも見えなかった。
嗚咽を上げながら近くの布で涙を拭いた。
グスッヒック・・・・
その布がなつみのハンカチだと気づいたのは涙を拭き終わった後だった。
へたり込む梨華と同じ目の高さに合わせ、なつみはゆっくりしゃがみ込んだ。
- 53 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:33
- 「安倍さん・・・・」
涙でグシャグシャの梨華が少し怯えてなつみを見つめる。
真顔で梨華を見ていたなつみがフッと破顔する。
「アホだな梨華ちゃんは」
なつみの両手がクシャッと梨華の髪をなでる。
ドキッ!
梨華がされて一番好きななつみの行為だ。
「卒業してもドコにも行かないべさ、ハローのまんまだよ」
「安倍さんウウッゴ、ゴメンなさい私・・・・」
「もういいって、なっちも一緒にいる時間もっと作ればよかったね」
なつみはヨシヨシと梨華の頭を抱える。
「それに大丈夫だよ。卒業前にもう一曲あるって、それはきっとツートップだよ」
「本当・・ですか・・?」
「ポジティブに信じなきゃ!愛あらばってタイトルなんだから!」
私はずっと泣いていた、何の解決もしてないのに。
- 54 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:35
-
あかーくなる。
- 55 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:38
- 赤くじゃなくて、顔があかーくなる。
思い出すたびに打ち消してしまいたい。
バカじゃないだろうか。
分かってた事だけど私はつくづくバカだ。
私は安倍さんに何をブチまけてるんだろう。
明るく振舞ってた安倍さんを追い詰めて泣かせた挙句、自分が号泣するなんて。
大体私の話した内容は昨夜私がした事とあまり関連が無い。
いや全く無い。
パート割を安倍さんが決めてる訳じゃないのに支離滅裂だ。
ぶっちゃけるんなら愛の告白も一緒にすべきだったのにその事には全く触れずじまい。
第一これじゃ先輩の卒業にナーバスになった、駄々っ子の後輩。
あんな移動の僅かな時間に安倍さんに話せる内容じゃないのに。
本当に昨夜からどうかしてた。
後で冷静になれば死ぬほど恥ずかしい。
- 56 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:42
- 結局あの後も大変だった。
すぐにツアーバスに乗り込んで次の目的地に向かわなければならなかったのに、私と安倍さんは10分近く遅れる羽目になった。
「遅ーい!何やってたんだよ!!」
待たせっぱなしにしたバスの中は大ブーイングの嵐だったけど
目を真っ赤にして鼻をグスグス鳴らした私の登場は一瞬でブーイングの嵐を静まりかえらせた。
その静けさのまま3時間。
「安倍さんに怒られたの?」
横に坐ってたあいぼんに当然の質問をされた。
多分誰が見てもそう思ったろう。
本当のことは言えないから黙るしかなくて。
結果、安倍さんを怖い人にしてしまった。
「なっちに無理矢理迫って叩かれたんだよ」
場を和ませようとする矢口さんの冗談は雰囲気を明るくするのに一役買った。
でも鋭すぎる推察に私は引きつった笑いしか出来なかった。
- 57 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:45
-
あの後も安倍さんはこれまでと同じく普通だった。
その事がいっそう私を恥ずかしくもさせ
まともに顔を見れなかった。
一体私の話をどう受け取ったんだろう。
そう考えてるとますます、あかーくなってしまう。
そんなこんなで、一週間が経過した。
- 58 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:47
- でも、時間が解決してくれた。
やはり安倍さんに対する私の想いを知ってもらったのは良かったのかもしれない。
これで私の成すべき事はひとつだけになったのだから。
「告白」
キチンと安倍さんの目を見て自分の口から伝える。
後輩じゃなく恋人になりたいって。
行く行くは・・・・一夜を共にしたい・・・・
キャーーーーーーーーーーーーーー
「飯田さーん!石川さんが変です、1人でニヤニヤしてるの」
「さゆ放っときな。それはキショイっていうんだよ」
- 59 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 02:51
- ハロモニ収録後の人気の無い廊下に、私は安倍さんを呼び出した。
「安倍さん二人っきりで話がしたいんです、ついてきて下さい」
「・・・はい」
私は意外なほど落ち着いていた。
後ろをトコトコついてくる安倍さんの様子を確認しながら目的地に着くと覚悟を決めた。
言える。
絶対言える。
振り返って安倍さんを見る。
気づいた安倍さんの足が止まる。
今度こそ真正面から、ぶつかるんだ。
言う!
安倍さんが神妙な面持ちで私を見ている。
私がこれから告白するのを薄々感づいてるのかも知れない。
途端に頭が真っ白になりかかる。
いけない!言うんだ。
「初めて会った時から・・・・」
出来る!告白できる。
「ずっと安倍さんのことが好きです。私とお付き合いしてください」
言えた。
- 60 名前:小さい家 投稿日:2005/11/23(水) 03:06
- 三回目の投稿です。
間が開けすぎて余計な事を考えすぎました。
いろんなアイデアがアッチャコッチャ結果まとまらないという状態。
( ^▽^)<アイデアは頭の中だけで書き始めたのは一週間前からだよね
(小さい家)<ごもっとも・・・今度はマメにメモります。
- 61 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/11/23(水) 03:16
- >>40
N&Mさん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ今回こうなりました
(;^▽^) <待っててくれたんでしょうか
>>41
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<この後の続きも期待してくれると嬉しいベさ
>>42
名無飼育さん
(●´ー`)<?一言でもいいから何か言って欲しいベ
(;^▽^)<催促では・・・・
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/23(水) 12:15
- リカちゃんガンガレ
なっちをものにするのだ!
- 63 名前:N&M 投稿日:2005/11/23(水) 21:40
- あぁぁぁ。
更新!
りかちゃん言えましたねぇ。
どぉなるんだろぉ。
きになるぅぅ。。
- 64 名前:アヤセ。 投稿日:2005/11/24(木) 03:39
- 更新キターーー!!
待ってたました。
梨華ちゃん、うまくいくといいですね。
ごとーさんは出てくるのかな?
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/10(土) 14:24
- 次回が気になる…
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:15
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 10:37
- ノハヽヽ ∋oノハヽo∈
(●´ー`)(^▽^ )<グッドバイ アイ セイ ハロー
(つ ¶と ( ¶と ) 明日からも 頑張ろう この私ー♪
(_)_) (_(__)
- 68 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:19
- 私は何処に居るんだろ。
顔中を水滴が流れている。
私が見つめる先には私が居て私を見つめていた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
冷たい!
襟元がビショビショになってるのに気づいた。
でも私の顔はちっとも濡れてない。
オカシイなあ。
水を出すと両手で受ける。
顔を洗ってたんだ、何回も・・・・
顔を上げると水滴がたくさん流れる私の顔がある。
鏡。
トイレに居たんだ、トイレの洗面台の鏡の前に。
どれくらい居たんだろう。
顔を洗おうとしてフト考えた、私はいつまでここに居るんだろう。
ていうか、いつからここに居るんだろう。
- 69 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:21
-
「梨華ちゃんありがとう」
ああそうだ。
あの直後からだ。
どうしてあの場面から今に繋がるんだろう。
第一声で予感は感じてたのに時間は止まらないものなんだ。
「でもさ」
ここで停止ボタンを押したかった。
DVDなら簡単なのに。
「お互いこれから大変だべ、なっちは卒業してソロに全力で打ち込まなきゃだし」
不思議。
いつの間にか私の顔は濡れてた。
顔を洗ったのはいつだっけか?
でももっと不思議なのは顔中水滴だらけなのに涙は出てないんだよ。
冷たい水で顔を洗っても涙を流すと目は熱くなるでしょ。
それが無いから顔中冷え冷えのままなんだ。
- 70 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:23
- 喋ってる安倍さんを前にして耳を塞ぐわけにはいかなかった。
「梨華ちゃんもこれから娘でもっともっと頑張って欲しいし、
何よりなっちは輝いてる娘が大好きだから」
顔が火照るのが分かった。
でも照れでも怒りでもない。
「今はさ頑張ろう!梨華ちゃんの気持ちは嬉しいし
他に好きな人が居る訳じゃ無いけど今しか打ち込めない事ってあるから
なっちはその仕事も恋も器用に両立できるタイプじゃないし」
「そ、そうですよね私も安倍さんの大事な時期に何言ってん・・・・・・・」
後は良く覚えてないや。
顔を上げると私の顔はまた乾いてる。
いつここに来たんだろう?
顔が火照ってるなって思って、
それで・・・・
トイレの時計が午後9時を指している。
告白したのは7時だったような気がする。
ジャー
水に両手を差し出しかけて、
止めた。
- 71 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:25
- 記憶が途切れ途切れだけど2時間近く洗顔してはボーっとを繰り返してたみたい。
鏡の中の自分の視線と始めて焦点が合う。
私はフラレたんだ。
理由はどうあれ、私の想いは安倍さんの心を動かす事が出来なかった。
もっと告白する決断が早ければ・・・・やっぱり同じだったかも。
分かってたんだ、きっと。
私の心の奥底では絶対OKしてくれないって。
だから私は安倍さんに長い間近づけなかった。
近づいたら非常識な行動をしてしまった。
真正面から向かい合うのを意識的に避けてた。
こうなる事が分かってたから・・・・
洗面台に置いた両手から冷たさが伝わってきた。
突然体が重くなった。
そっか
私は今まで現実を受け入れられなかったのか。
急に周りがリアルに感じられた。
初恋は実らないって言うけど
16歳の安倍さんに抱いた私の12歳からの恋心は今日終わったんだ。
- 72 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:29
- 不意に両足の下の床が無くなった。
カクッ
慌てて洗面台にしがみ付く。
何?
両手に力を込めて両足を踏ん張る。
恐る恐る足元を見ても床は無くなっていない。
何なの?
歩き出そうと前に出した右足がガクガク震えている。
不意に目の前が暗くなる。
立ちくらみ!
とっさに体中に力を込めて踏ん張って壁に寄りかかる。
ゼーゼー
壁にもたれたまま呼吸を整える。
フッフフフ
クスクス笑い出してしまう、他の人が見たら変な人に見えただろう。
だって体が拒否してる。
安倍さんに失恋して、これまでの想いを諦めなきゃいけない事実に。
さっきまで頭がボーっと拒否反応を示してたんだ。
頭がしっかりして現実を受け入れたら体が拒否反応。
私は心の底から体中めいいっぱいで安倍さんを好きだったんだ。
ずっと
ずっと
ずうっと
フフフ
- 73 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:31
- ズルズル・・・・重たくなった体を引きずるようにトイレを出た。
でもしょうがない、
これ以上恋心を持ち続けても。
せめて安倍さんの愛した娘。で頑張ろう。
それが今の私に出来る唯一つのこと。
安倍さんの居なくなった娘。で新しい自分を!
見つかるかな?
娘。に入ったのだって元々は安倍さんに会うため。
目標の無くなった娘。で新しい何が見つかるっていうの?
足が重い、体も鉛のように重い。
気持ちだって・・・・
廊下に面したドアが少し開いて明かりが漏れてる。
ザワザワと賑やかな話し声が聞こえる。
私はこんなに暗くても世間は明るいんだ。
なんか・・・・もうどうでもよくなっちゃったな・・・・
私はそのドアを開けた。
- 74 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:34
-
6条ほどの広さの楽屋。
大の字になって寝ている1人とそれを見下ろす3人が居た。
立っていた1人は素足を寝ている娘の顔に押し付ける。
寝ている娘は微動だにしない。
「で、この子はどうしたの?」
飯田は踏みつけていた足を戻しながら隣を振り返った。
「え〜、おいらの集めた情報によると今夜ハロモニスタッフの打ち上げがあって」
矢口が手元の資料を、めくりながら喋り始めた。
「・・・・何かいっつも打ち上げやってない?うちのスタッフ?」
呆れて飯田が呟く。
「確かに!いつも同じじゃマンネリなんで今夜は世界の酒を各々が持ち寄って、
試飲して親睦を深める一風変わった打ち上げだったそうで」
「はぁ?結局飲むんじゃ同じじゃない!」
「まあそうなんだけど今夜は宴が始まって直ぐに飛び入りゲストが居まして」
「誰が?」
「コイツ!」
矢口は寝ている娘を指差した。
「丁度いい所へ来たな〜、一杯やっか!
ってな具合に酒を勧めた悪乗りスタッフに言われるままグイグイと小一時間
流石にヤバイと思った良識あるスタッフさんが止めに入った頃には
すっかり出来上がった状態で・・・・今に至ると」
- 75 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:37
- 腕組みをしたままの飯田は再び梨華の顔を軽く踏んづける。
「あー、圭織さん止めて下さい2回目ですよ」
矢口が手で促す。
「石川って未成年じゃなかった?」
「バリバリ未成年!」
「それなのにビールとか飲んだの?」
「おいらの調べによると世界の酒が揃ってたもんでビール、紹興酒、焼酎、
ウィスキー、ワイン、バーボン、ウォッカなどなど最後はテキーラで閉め!」
矢口は聞かれてない事まで得意気に読み上げる。
「メンバーでさあ、スタッフさん達の打ち上げに参加した人居たっけ?」
「裕ちゃんは時々、圭ちゃんが・・・2回くらい?後は居ないっすね」
「・・だよね。根本的にうちらの打ち上げと質が違うからね」
「あ、そんでもって潰れた石川をここまで運んでから、おいら達に連絡と」
矢口は手にした資料を最後まで読み終えた。
「石川って酒を飲みたがってた?無かったよね」
「おいらも知らない聞いたこと無い」
「と、言う事は・・・・」
飯田と矢口は同時に、二人の間で終始無言の人物の頭と肩にそれぞれ手を置く。
「お前が原因か!」
- 76 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:40
- 「何でだべ!飲ませてないし、お酒とか一番縁遠いべさ」
なつみは慌てて左右の二人を交互に見つめる。
「別になっちが酒を勧めたって言ってるんじゃなくて石川と何かあったのって話」
飯田がなつみを見下ろす。
「梨華ちゃんの精神状態は常に、なっちに左右されるからね」
矢口がなつみを見上げる。
「へ?・・・・そうなの?」
なつみはポカンとする。
「なっちに怒られたっつっちゃ凹んで音外すし褒められりゃ舞い上がって音外すし」
「キャハハ結局どうなっても外すんじゃん」
「私や矢口の説教では平気なのにね、石川あからさまなんだよなー」
「梨華ちゃんのネガティブの半分はなっちで出来てます。あ、ポジティブもね!」
二人の矢継ぎ早の掛け合いをボンヤリ聞いていたがハッと我に返る。
「ちょっと待ってよ!なっちが梨華ちゃん怒った事なんて無いべさ!」
- 77 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:43
- 「直接は無いかも知んないけど間接的にはあるよね?」
飯田がなつみを飛び越して矢口に同意を求める。
「うん。そんな深刻な話じゃなくて、その服変!とか音外した!とか」
「・・それってみんなも言ってる事だべ!何でなっちが怒った事になるのさ!」
「だ・か・ら!」
飯田はなつみの頭にグッと手を置いた。
「他のメンバーはよくても石川は、なっちの発言だけ特別に受け止めるんだよ」
「そんな・・・・」
シュンとなったなつみにお構いなく矢口がわき腹を肘で突付く。
「で?で?何を言ったの?こんな梨華ちゃん初めて見たし、よっぽどの事だよね」
「矢口はウキウキしすぎ、確かに気になるけど・・・・」
「なっちの後継者は梨華ちゃんしか居ないって!
卒業後のなっちの歌パート全部あげるって梨華ちゃんを舞い上がらせた!」
矢口が楽しげに推理する。
「イヤ逆に、梨華ちゃん何にも進歩してない歌も下手なままだしヤル気あんの?
と石川にボロクソにダメ出しした!」
飯田はなつみの喋り方をマネながら推察する。
- 78 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:46
- 「どっち?どっち?」
2人の好奇の目がなつみ1人に注がれる。
「告白された・・・・」
「え゙!!!」
はしゃいでいた矢口が一瞬にして固まる。
「マジ?」
飯田が寝ている梨華となつみを交互に見比べる。
なつみは何か言おうとしたが辞めた。
「あ〜あ玉砕しちゃったのか・・・・」
その沈黙をどう理解したのか矢口がポツリとつぶやく。
「参ったな、石川落ち込むと長いんだよな〜」
飯田は頭をポリポリ掻いた。
「で、どうするリーダー?この後!おいらヤダよ、ネガの梨華ちゃん疲れるから」
「う〜んテレ東の楽屋に置き去りには出来ないし明日は別スタジオか」
「幸いスタジオ入り時間も遅いから二日酔いでも何とかなるよ」
2人の会話が途切れた。
- 79 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:50
- 「チョット待つべさ!結果聞かなくていいの?」
沈黙してたなつみが疑問を口にする。
「何の結果?」
飯田が振り返る。
「だから・・なっちは告白されたって言っただけだべ、その後の返事とか・・」
「梨華ちゃんがフラレたんでしょ!当たり前じゃん」
矢口が苦も無く答える。
「えっと・・・・」
ズバリと言い当てられて戸惑うなつみ。
「大体この時期のなっちがOKするはず無いのは分かるだろうに
この忙しい年末に、相変わらず空気が読めないっつーか空回りってか」
飯田の足はまたも梨華の顔に置かれた。
「ああ、圭織さん3回目ですよ!それ以上は」
矢口に静止されながらも飯田は梨華の顔を覗き込んだ。
「この子ピクリとも動かないね」
「なんかヤバくないべか、お医者とか救急車とか・・・・」
「大丈夫なっちは飲まないから知らないだろうけど典型的に酔い潰れただけ」
慌てるなつみに飯田が冷静に対処する。
- 80 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:53
-
「だから話を戻して梨華ちゃんをどうするかでしょ!おいらは面倒見るのヤダ!」
矢口は責任回避の為か荷物をまとめ始める。
「確かに・・・・という事でなっち!お願いね!」
飯田もバッグを肩に掛け直して楽屋を出て行こうとする。
「へっ!ちょちょちょっと待ってよ、何でそうなるんだべか」
なつみは慌てて飯田のバッグにしがみつく。
「事の発端は、なっちなんだから面倒見なさいよ!石川を家に送り届ければイイの」
「だって、なっち梨華ちゃんの家知らないべさ」
「私だって知らないわよ、財布かなんかに住所あるでしょ」
「そんなあ気まずいべさ」
「ついでに梨華ちゃん立ち直らせてあげて、なっち卒業後の貴重な戦力だから」
矢口も勝手な事を言いながら楽屋を出る。
「卒業前に教育係をやってもバチは当たんないよ」
飯田の言葉を最後になつみは酔い潰れた梨華と部屋に残された。
- 81 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:55
- ズルズルズルズル
正体を無くした梨華を背負うのは小柄ななつみには大変だった。
救いは軽かった事。
「運転手さん、ちゃんちゃか町のハイツ・ド・チャーミーまでお願いします」
タクシーに何とか押し込むとため息をついた。
「全くあの2人、なっち1人に押し付けて」
むうーと膨れてみたものの、発端が自分にあることは明らかだった。
チラと右隣の梨華を見る。
相変わらず真っ赤な顔をしたまま寝ている。
タクシーの外は漆黒の闇。
カッチカッチと車のウィンカーの音だけが車内に流れる。
(いつ聞いてもこの音キライだな)
車窓に映る自分の顔を眺めながら考える。
- 82 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 01:57
- 告白してくれた梨華ちゃんになっちは冷たすぎたのかな。
ソロ活動はずっと思い描いてた夢だった。
そして卒業という娘。としての集大成が間近に迫っている。
その真っ只中でなっちは恋愛と仕事を両立できるほど器用な人間じゃない。
どちらかが必ず中途半端になる。
じゃあ梨華ちゃんに少し待ってもらってその後なら・・・・
やっぱりダメ!
その後はソロ活動に全力を傾けなければならない。
恐らく今までより、やり甲斐があってキツイ活動になる。
ここで頑張らなかったら今までの活動が水の泡。
それは娘。を卒業したメンバー
更には芸能界も卒業したメンバーにも失礼になる。
望んでも誰もがソロになれた訳では無い。
なっちは間違ってない・・・・多分。
- 83 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:00
- それに梨華ちゃんに頑張って欲しいのも事実。
いつまでも娘。には輝いていて欲しい。
当時の自分たちに憧れて集まって来た女の子達のグループ。
モーニング娘。
そこには当時の、そして今の自分たちの全てが詰まっている。
無くなってしまうのも寂れてしまうのもイヤだ。
4期の子達にはグイグイ娘。を引っ張ってって欲しい。
昔、あそこに居たんだよって自慢できるくらいに。
その中でも4期のリーダー格の梨華ちゃんには特に期待している。
だから・・・・娘。に仕事に専念して欲しい。
「努力してないなんて誰にも言わせない!」
ふと、梨華ちゃんの言葉が脳裏に蘇る。
そうだね、梨華ちゃんはいつも頑張ってるね。
なっちのは余計なお節介だね。
「安倍さんの隣に立つため!そのためなら・・・・」
ズキッと言葉が胸に刺さる。
誰かの隣に立ちたい・・・・そう考えた事ってなっちにあっただろうか?
無い。
センターをメインを常に視野に入れていたけど隣はその時々で変わった。
いつも隣より前を見ていた。
そこに目指すものがあったから。
- 84 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:04
- でも新メンバーとして加入してきたらどうだったろう。
出来上がってるグループに後から入る苦労をなっちは知らない。
それだけは経験した事が無い。
別の苦労があったろうなと想像するしか出来ない。
「安倍さんが気にも掛けてくれないから・・・・」
グサッと刺さる。
考えもしない指摘だった。
梨華ちゃんにそんな風に思われていたなんて・・・・
初対面の梨華ちゃんの印象はどうだったかな?
遠い記憶を思い巡らす。
新加入した4期メンバーは全員個性が強かった。
その反面ダンス歌に芸能人としての自覚、礼儀どれも低レベル。
ののやあいぼんの問題児を抱えマイペース過ぎるよっしーに振り回された。
それでも今なら笑い話になる。
みんな立派に成長したから。
- 85 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:09
- 梨華ちゃんは・・・・?
唯一手の掛からない子だった。
だからか接した時間が薄くて少ない気がする。
梨華ちゃんの初対面から今までを振り返って。
真っ先に思い浮かぶのは、あの軽く苦笑いをする表情。
とても何か言いたげで、
でも促しても絶対何も言わずに、ただ遠目からこっちを静かに眺める仕草。
何を言いたかったんだろう?
何がして欲しかったんだろう、
何を汲み取ってあげれば良かったんだろう・・・・
ここん所の梨華ちゃんの一連の騒動は、全部なっちのせいかもしれない。
梨華ちゃんと1対1の強い関係を作って来なかったから。
シッカリしてる梨華ちゃんに甘えて指導という絆を作るのを疎かにした。
だからなっちの卒業を前に、築かれないなままの関係を不安がらせてしまった。
トコトンまで話し合った事なんて、ただの1度も無かった。
- 86 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:11
- 「初めて会ったときからずっと安倍さんのことが好きです」
告白するの勇気要ったよね。
なっちは人生で未だ告白ってした事が無い、ってか出来ないよきっと。
これからも毎日顔合わせる相手に告白するって大変だよ。
失敗した時のこと想像したら・・・・
あの引っ込み思案な梨華ちゃんがそんなこと出来るなんて思わなかったよ。
恋愛って素晴らしいよね。
それだけで力をくれる、
全てのことが上手くいきそうで周り中が輝いて見える。
自分を愛して受け入れてくれる人がいつもいる。
何があっても帰れる胸が、場所があるんだ。
なっちだって手を叩いて心の底から梨華ちゃんを応援したい。
梨華ちゃんの告白した相手がなっちじゃなかったら・・・・
- 87 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:14
- なっちは・・・・ゴメン、ダメなんだ。
臆病かもしれないけどさ。
「ドアに寄りかかられると簡単な接触事故でも開いちゃうことがあるんですよ」
突然思考が中断される。
「ですからお客さん?ドアが開いて道路に投げだれる事があるので・・・・」
タクシーの運転手さんがバックミラー越しにこっちを見てる。
ほえ?
なっちに話しかけてる?
ドアって?ああっ!
酔い潰れた梨華が、シートから傾いてドアに全体重を預けて寝ていた。
「あ、スイマセン」
慌てて右隣に坐っている梨華を左の自分のほうに抱き寄せる。
うっ!
ムワ〜お酒臭!
「あのご心配おかけしました!ハイ!」
よく分からない受け応えを運転手にすると、梨華を背もたれに持たせかけた。
それでもコテンと首だけなつみの肩に寄りかかるがそのままにしておく。
カッチカッチ
タクシーはどこか知らない交差点で信号待ちをしてた。
今どの辺だろう、近いのかな?
漆黒の闇で外の景色は全然分からない。
時計の針は午前0時を回っていた。
- 88 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:18
-
「明日の朝は5時起きなのれす」
ののが不満げにこぼす。
「何でさ〜明日は9時入りだから8時に起きても間に合うべさ」
「先輩たちより早めに会場入りするのが後輩のつとめらって」
ののはテーブルにアゴだけ乗せた格好で両手をダラッとたらす。
「それはいい心がけ・・・でも早すぎだべ!
7時起きでもいいんじゃない?そしたら8時に会場入りできるし・・・」
なっちは指折り数えてみる。
「のんはダンスが出来てないからみんなより1時間早く入って練習が必要らって」
「そっか〜・・・・でも6時起きでも間に合うべさ」
「歌も出来てないので1時間練習なのれす、だから5時起きで6時会場入り何れす」
「ええ〜!ライブ前に2時間練習なんてヘトヘトになるべ!誰が決めたの?」
結局ののは朝8時に起きても良い事になった。
なっちが軽く抗議したからののが可哀想だよ!って
梨華ちゃんに・・・・
5時起きを決めて、ののの個人練習に付き合うはずだった梨華ちゃんに。
- 89 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:23
- 「甘やかさない方がいいよ」
矢口は真面目な話をする時はいつも、なっちから視線を外す。
ストローでジュジュッってコーラを飲みながら隣でつぶやく。
「何の話しだべ?」
いきなり声のトーンが変わって話題が変わるのはいいけど、出だしが意味不明。
「あの子ら誰を味方に付ければ自分たちの意見が通るか分かってるよ」
「あの子らって加護ちゃん辻ちゃんの事かい?」
替え歌を作って遊ぶ2人を見つめる。
「おいらからしたって、なっちは先輩なんだし下の子はもっと逆らえないよ
辻加護のワガママを肯定されたら注意する人は立つ瀬がなくなるじゃん」
結局ののが振りが出来るようになったのは随分後。
それまで歌とダンスの先生に怒られ続けた。
梨華ちゃんは、いつも練習する為にみんなより早く来てた。
みんなに遅れるののを付き合わせようとしたのは当然だったと思う。
それでもあの時、梨華ちゃんは何も言い返さなかった。
「はい、そうですね5時起きは・・・・イケナイですね、ヤメます」
言いたい事もあったんじゃないかな。
そう、あの苦笑いを浮かべて何も言わなかった。
矢口の言う立つ瀬が無くなった子。
間違ってたなっちに逆らわなかった子。
- 90 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:27
- フト思う。
なっちは無条件で梨華ちゃんの味方になってあげたことあったっけ?
ののやあいぼんにしたようにさ。
ダメ思い出せない・・・・って事は無かったの?
「初めて会ったときからずっと安倍さんのことが好きです」
梨華ちゃんの眼になっちはどう映っていたんだろ。
ちっとも味方してくれなくて年下のメンバーの肩ばっかり持ってる先輩。
「安倍さんがいつも私に構ってくれないから」
「安倍さんが全然気にも掛けてくれないから・・・・ 」
なんだ。
梨華ちゃんの眼にどう映ってたかちゃんと言ってる。
気づいてなかったのはなっち。
梨華ちゃんがやっと語ってくれた本音を今の今まで理解してなかった。
「それなのに安倍さんは楽しそうで
私の気持ちなんて全然どうでもよくてもう卒業しちゃうし」
胸が締め付けられるように痛む
- 91 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:30
- 酷い先輩だね。
梨華ちゃんに必要だったのは娘。を頼んだ頑張ろうって言葉じゃなくて。
向かい合って話す時間をたくさん持つ事だったのかもしれない。
返事を早急に出すんじゃなくてさ。
まず梨華ちゃんの不安を取り除くために。
上手く行かない事が起きても悩みを聞いて励まして褒めてあげられる。
恋愛関係じゃなくても一歩進んだ関係。
先輩らしく傷つけないように導いてあげられたら・・・・
そんなゆとりもなっちには無かったのかも。
ゴンッ
梨華の頭がなつみの肩に軽く当たる。
そっと肩から頭を放すと梨華の髪を掻きあげ顔を覗き込む。
眉間にシワを寄せて酔い潰れたまま微動だにしない。
今更何ですか!って梨華ちゃんに怒られるかな?
やっぱりなっちは勝手だね。
バウンッ!
タクシーが激しく上下動してマンション入り口の敷石をまたいだ。
- 92 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:31
- ズルズルズルズルずずっず・・・・・・
又、梨華ちゃんを背負う羽目になった。
玄関まで送りましょうか?
って運転手さんの手助けを丁寧にお断りしたんだから仕方ない。
一応アイドルなんだし部屋番号まで知られるのは良い事じゃない。
バレて無さそうだったけど用心。
エレベーターから部屋の前、梨華ちゃんの鍵で開ける。
ガチャ
真っ暗な玄関に倒れこむように担いでた梨華ちゃんを置く。
「フー、フー。ハー、ハー」
ゼエゼエ息を切らした。
こんなに重い荷物を持って歩いたのはいつ以来だろう?
ダメ・・・・とりあえず、お水頂戴。
玄関の電気を手探りで付けると靴を脱いだ。
「お邪魔します・・・・」
部屋の主を仰向けに玄関に寝かせたまま、断ってから台所に行く。
「ぷはぁっ」
お水を飲んで一休みすると家の中を見回した。
これが梨華ちゃんの東京の家か・・・・
- 93 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:34
- 関東出身でも毎日は実家に帰れないから大人チームには簡易の住まいがある。
ほとんどの場合、寝に帰るだけの家になる。
リビングに服が散らかってるが家具そのものが少ないので乱雑ではない。
それはいいけど壁紙がショッキングピンクってのはどうなの?
梨華ちゃんをからかう材料が出来たっと。
明日はこの事を突っ込んで雰囲気を明るくしよう。
玄関に寝ていた梨華の両脇に手を入れてズルズルとリビングまで引っ張る。
今度は背負わないでいいので楽だ。
さて、これからどうしたらいいのかな?
明日の朝ご飯の為におむすびでも握っとこうかな。
なつみは自分のコートをソファに掛けると梨華のコートを脱がし始めた。
着替えさせた方がいいか・・・・でも寝てる人を着替えさすのは大変。
ブラウスのボタンを外そうとして気づく。
「ん、着替えのパジャマは?」
見回したけど散らかった服の中には見当たらない。
寝室かな?
- 94 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:39
- 慣れない家の中をウロウロして寝室のドアを見つけた。
ドアを開けて明かりをつけるとベッドの上にピンクのヒラヒラのパジャマがあった。
いかにもだね。
ベッドに近づくとサイドテーブルにフォトスタンドがたくさん立っていた。
見るともなしに見ると自分がいた。
梨華ちゃんが娘。に入った時の集合写真だ裕ちゃんもいるし。
その時なっちとツーショットで撮った写真?
覚えてないや・・・・
他はピースの時にミスムン、そうだ、ひょっこり、圭ちゃん卒業の時のもある。
あれ?
よく見るとどれも貼り合わせて無理矢理なつみと梨華のツーショットになっていた。
2人で写真に納まった事無かった・・・・っけ?
考えあぐねて視線を上げると写真がまた、眼に飛び込んできた。
壁1面に貼られた無数の写真その全てがなつみだった。
「・・・・・・」
言葉を失う。
あれは恋レボの時のなっち、これはスポフェスの頃のなっち。
それは明治座のなっちだよ、だってこの頃このジャージ着てたし・・・・
- 95 名前:グッドラブハロー 投稿日:2005/12/15(木) 02:41
- こんな写真撮影したっけ?
いつの間に撮っていたのだろう?
私服で映画撮影現場に入ってくる時のなっち、
コンサート会場の楽屋でうどんを食べるなっち、
ハロモニのスタジオで不貞腐れるなっち、
リハでイラつくなっち、
レコーディングスタジオでヨダレを垂らして寝るなっち。
こんなの公式写真になるはず無い!
全部芸能人としてのスイッチを切ってる時の素のなっちだ。
そんな様々な、ピンショットのなつみが壁1面に貼られている。
えっ!
違う1面だけじゃない!
右、左、後ろ・・・・全ての壁に同じように貼られている。
何?何だコレ?
撮影を誰かに頼んで・・・・何て考えられない。
梨華ちゃんが自分1人で?
だって楽屋で着替え中の下着姿の写真まであるよ。
部屋の中央で呆然とするなつみは自然に後退って行くが背中が何かにぶつかる。
「見ちゃったんですね・・・・」
いつもと違う低い声が酒の匂いと共に、なつみの耳元で聞こえた。
- 96 名前:小さい家 投稿日:2005/12/15(木) 02:50
- 四回目の投稿でした。
なるべく早く書こうと精一杯頑張ってこんな感じです。
前回よりは間を空けずに済んだかなと
(●´ー`)<なっちの回想シーンでそーとー時間かかってたべさ
(小さい家)<前後のシーンはスラスラ書けたのに・・・・
- 97 名前:小さい家 投稿日:2005/12/15(木) 02:56
- >>62
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべ
( T▽T)<今回はものに出来ませんでした
>>63
N&M さん
( ^▽^)<2度目のレスありがとうございます
(●´ー`)<気に掛けてもらってると嬉しいべさ
(;^▽^)<今回の終わり方は納得頂けましたか・・・・
>>64
アヤセ。さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ前回より少し更新早まりました
(;^▽^)<ごとーさんは出ない模様・・・・多分・・今の所は・・
- 98 名前:小さい家 投稿日:2005/12/15(木) 03:03
- >>65
名無飼育さん
(●´ー`)<お気に召していただけました?
( ^▽^)<次々回も気にしてください
>>67
( ^▽^)<レス?このタイトルの元になった歌ですね
(●´ー`)<残念ながらラスプレはこの小説に入る予定が無いべさ
- 99 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 03:22
- リアルタイムで見てました!
なっちには梨華ちゃんの想いを受け止めてほしいな〜
次回が楽しみです!
- 100 名前:62 投稿日:2005/12/15(木) 06:07
- 梨華ちゃん((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
あんたガンバリ過ぎ…
- 101 名前:N&M 投稿日:2005/12/15(木) 12:14
- いいとこで区切りが。。w
きっ…気になる。。
梨華ちゃんの努力、すごいです。
次回楽しみにしてます
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 16:20
- このあとどーなるぅぅ。
次回楽しみです。
- 103 名前:アヤセ。 投稿日:2005/12/16(金) 01:26
- 石川さんの安倍さんへの愛がすごい・・。
もう超楽しみにしてます!
どうなるのかな・・。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/02(月) 03:47
- 続き待ってます・・。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 00:51
- なちりか見っけ♪
>写真
普通の人がやったら怖いけど、梨華ちゃんならまだ…。
続きが気になる!頑張ってください。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/15(日) 00:00
- なちりかっ!!
梨華ちゃんがんばるなー。
次もお待ちしてます。
- 107 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:02
- 冷たい。
顔全体が火照ってるから心地よい冷たさ。
でも、それが体中に広がってゆくと寒くなってきた。
ヘックチュ
小さなクシャミが出て、私は心地良い冷たさの原因が頬に接した床だと知った。
私の家?
リビングのソファの間の床に寝てるらしい。
風邪引いたかな・・・・ボーっとする視界に見慣れない服が飛び込んできた。
私の部屋に不似合いなタータンチェックのコート・・・・
ガバッ
私は弾かれたように無理矢理上体を起こした。
頭がキーンと鳴るけど構ってられない。
何で?
どうして安倍さんのコートが私の家に?
重い頭と体を無理矢理立ち上がらせる。
近づいてみても間違いなく今シーズン安倍さん愛用のコートだ。
いけない!
何が間違ったか分からないけど安倍さんがいる?
まさか?
ふらつく足で無理矢理歩き出す。
アレを見られたらアソコに入られたら終わりだ!
だけど、這う様に辿り着いたアレの貼ってあるアソコに安倍さんの後姿があった。
- 108 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:05
- 「キャア!!!」
なつみは背後の声にビックリして飛び退きざま振り返った。
焦点の定まらない梨華がそこに居た。
「・・・・あ・・・梨華ちゃん」
「キショイですか?き、気持ち悪いですか?」
梨華はゆっくり寝室に入ってきた。
「えと・・・・あの」
梨華の言葉が慌てて飛び退いた行動にあると、なつみは理解できないでいた。
梨華は立ち止まると寝室の壁に貼られたなつみの写真をグルっと見回した。
「ハロコンのリハ中にみんなで遊びで写真を何枚も撮りあってたら
舞台袖で両手を合わせて目をつぶって祈ってる安倍さんが偶然写ってたんですよ」
何を言い出してるんだろう?
なつみは戸惑いながらリハの最中にカメラで互いを撮りあう光景を思い出していた。
「それがとても可愛くて、今まで安倍さんがそんな事してたの知らなかったから
もっと無いかって良いアングルで見たいって」
確かに毎公演開演前に無事で終わりますようにって祈ってる。
「そして色んな安倍さんを発見できて嬉しくなって写真も増えていきました。
でもコンサート会場だけじゃ我慢できなくなってきて、TV局や楽屋・・・・
気づいたら全ての場所で写真に収めてました」
梨華は感情的になることも無く淡々と語った。
- 109 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:08
- 「せめて写真だけでも安倍さんを独占したかったから・・・・」
梨華の言葉はだんだん小さくなっていった。
「そんな、写真くらいなっちに言ってくれれば幾らでもあげるのに」
なつみはようやく口を開いた。
「だって同じグループだし恥ずかしがらなくても・・・・ねぇ隠し撮りみたいな
事しなくてもさぁ、だってコレ下着姿だよダメだよこんなの恥ずかしいべさ」
梨華をたしなめるようになつみが言う。
「私が欲しかったのは写真じゃない!」
うつむいていた梨華は顔を上げるとキッパリ言い放った。
「私が欲しかったのは安倍さんの全て!それが出来ないから写真で我慢したんです」
ストレートな物言いになつみの頬が赤く染まる。
「私の気持ちはお伝えしました」
「あ、あのその事なんだけど・・・・」
「諦めるつもりでした!何でよりによってココに来たんですか!
安倍さんにだけは見られたくなかった」
梨華の口調は静かなのに目だけはギラギラとなつみを見つめている。
「無断で立ち入ってごめんなさい・・・・パジャマが・・・・」
オドオド言い訳をしながらなつみの足は後ろへ下がる。
距離を置こうとする行為が梨華を余計に苛立たせる。
「どうして逃げるんですか?キショイですか?私に近寄りたくないですか?」
「逃げて無いべさ・・・・梨華ちゃん酔ってるし・・・・」
寝室のドアを背にして梨華がスッとなつみに歩み寄る。
- 110 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:10
- たちまち縮まる2人の距離。
「こんな所まで来た安倍さんが悪いんですよ・・・・」
かすれた声で囁くと梨華の両手はなつみの両肩にソッと添えられた。
ビンッ!
ガッ!
カココッ!!
何?
何か硬い物が部屋中の壁に勢いよく跳ね返った音がした。
フトなつみが下を見ると着ているシャツがだらしなく垂れ下がっていた。
あれ?
ボタンが無いよ?
前がスカスカに開いたシャツの襟元を
握り締める梨華の手を不思議な気持ちで眺めてる。
さっきの音はボタンが千切れ飛んだ音?
ヒドイ事するなあ・・・・
・・・・
ハッ!
突然我に返りなつみは顔を上げる。
「イヤッ!」
ビリイイイイイイイイ!!!!!
逃げようと後体重になったの原因かもしれない。
あっけないくらい簡単になつみの服は破れていった・・・・
- 111 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:12
- 梨華の体が圧し掛かる。
たまらずなつみはバランスを崩す・・・・そこにベッドがあった。
ボウンッ
少しだけ弾む2人。
「嫌だあっ!やめて梨華ちゃん!」
叫ぶなつみの声を聞きながら梨華の左手はなつみの右手首を押さえ付ける。
次いで左手首を押さえようとしたが振り払われる。
ガシャガシャ
振り払った拍子になつみの左手がベッド脇のフォトスタンドをなぎ倒した。
ドササッ
何かがなつみの左手の上に落ちてきた。
(硬い・・・・)
尚も左ひじを押さえ付けようとする梨華に夢中で左手の中の何かを振り下ろす。
バン!バン!
頭に命中し梨華がひるんだ。
(よし!)
と、思ったら簡単に左手首を掴まれた。
バササッ
左手に持ってた何かが手首を掴まれた反動で空中に飛ぶ。
本?雑誌?
ベッド横の床に落ちた裏表紙に見覚えがあった。
「あ、なっちの写真集・・・・」
思わずつぶやいてしまう。
- 112 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:13
-
首を捻じ曲げて左手が探ったフォトスタンドの方を見ると書棚に写真集が並んでいた。
全部なつみの写真集しかも同じものが3冊くらいずつ並んでる。
「病気なんですよ」
梨華のうわずった声が聞こえた。
首を戻して上から両手を押さえつけて覆いかぶさる梨華に視線を移す。
「安倍さんの事を毎日考えてる自分の物にしたいって・・・・」
梨華の額が少し赤くなってる、なつみが写真集で叩いた痕。
「このベッドで・・・・止めたくても治らない病気なんですよ」
梨華が泣いてる様な気がした。
「梨華ちゃん・・・・離して・・・・」
今なら素直に言うことを聞いてくれる、そう思えた。
グッ!
だが梨華の両手の力は強まった。
なつみの破れたシャツ姿は梨華の心を捉えて離さなかった。
「ごめんなさい安倍さん私は病気だから・・・・」
梨華の唇はゆっくりなつみの首筋に吸い付いた。
- 113 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:14
- 「やあん!ひぁっぁ」
両腕を振るおうにもガッチリ固定されて身動きできない。
梨華の舌がゆっくりとなつみの首筋を這い回る。
なつみは首を縮こませるが刺激と慣れないお酒の匂いに頭がクラクラする。
やがて、梨華の唇がなつみの耳全体を捉えて内耳を舐め上げる。
ヌチュガザササ
「ふぁああっっ・・・・・・」
耳の傍の音はなつみの頭の中に大音響で鳴り響く。
舐められてる・・・・
その事が必要以上に示され、それだけでなつみの体から力が抜けていく。
ハアハアハア
いつの間にか目も閉じて息も絶え絶えになっていた。
梨華が掴んでいた両手を離しても抵抗する気力も無い。
すかさず梨華の右ひざがなつみの両足の間に侵入する。
「ハッ!ああ!」
慌てて両手で拒もうとするが時すでに遅く梨華の右ひざは目的地に到達していた。
そしてグイグイとソコを刺激し続ける。
「あっ・・・・ダメ・・だべ梨華ちゃん・・・・くぅっ・・・・」
弱々しく抗議するが、なつみの頭はボウッとしていた。
- 114 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:16
- ハアッ!
ハアッ!
梨華は終始無言で荒い息を吐きながら、なつみのシャツの破れ目に目を止めた。
激しく上下動する胸元に手を伸ばすと、ゆっくりブラを押し上げる。
「・・・・!!!!」
声にならない悲鳴が聞こえた気配があった。
あらわになった、なつみの胸は上気して梨華の大好きなピンク色に輝いていた。
綺麗・・・・
同じくピンク色に染まったなつみの眼前で胸の頂点を口に含んだ。
「ふぅ・・・・」
なつみの喘ぎ声を聞きながら舌で転がし同時にもう片方の胸を揉みしだく。
「んん・・はぁ・・・・」
モゾモゾなつみが動くのは抵抗なのか快感なのかは分からない。
その間も梨華の膝はなつみの足の間を刺激し続けていた。
耐え切れなくなったようになつみの白いノドが仰け反る。
その様子を眺めていた梨華は次の行動に移った。
ビンッ!ガッ!
またしても硬い何か・・・・ボタンが壁に当たって跳ね返る音がした。
ブチッ
ビッィィィィィィィィィィィィィィィ
スカートのホックが壊された・・・・
なつみはボンヤリ悟った。
- 115 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:17
- 梨華は少し前までスカートだった1枚の布を無造作に投げ捨てた。
「はあああ・・・・はあはあはあ・・・・」
梨華の膝の動きが止まってもなつみの息遣いは荒いままだ。
ボンヤリと中空を見つめている。
準備は整った!
再び覆いかぶさる梨華をなつみは不思議そうに見た。
しかし梨華が見つめるのはなつみの顔では無く、あらわになった水色の下着。
梨華の右手がお腹の方から下着の中に潜り込んでいく。
「・・・・ぁあっ・・・・やああ」
身をよじろうとするが梨華の手は的確に膝で刺激され続けた箇所に辿りついた。
「ん!」
なつみが短く息を呑む。
充分に潤った突起を弄る、下着を脱がすと激しく両手を這わせ始めた。
「やあ・・・・ダメっ・・・しょ・・んっぅ梨華・・・・ちゃん」
こんな状態なのに自分をちゃん付けで呼ぶなつみを愛しく感じる。
そして遂に梨華の人差し指がトロトロ湧き出る泉の中心に狙いを定める。
ズブッ
「ひゃうぅぅ!・・・・」
梨華の指1本がなつみの体内深く侵入すると、なつみの体が小刻みに痙攣する。
「ああダメダメ・・・・ダメだよぉう・・・・もう」
不意になつみの背中が反り返りつま先までピンと力が入りそのまま硬直した。
「ハッ・・・・・・・・・」
数秒静止した後なつみの体はベッドに崩れ落ちた。
なつみは絶頂を迎えそのまま失神してしまった。
- 116 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:18
-
梨華は絶頂を迎えさせた潤った右手をジット見つめる。
安倍さん・・・・
失神したままのなつみのむきだしの胸は梨華の唾液で光ってちょっとヤラシイ。
梨華はなつみの肩にゆっくり手をかけると唇を近づけた。
いけない!
何かが叫んでる。
眠ってる人にキスしてはいけない!
あの時そう誓った!
意に反したキスはもう絶対しないって・・・・
梨華はキスすることなくなつみの隣にゆっくり倒れこんだ・・・・
何故かとても眠かった。
- 117 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:19
-
全てから目を覆いたかった。
逃げられるものなら逃げたかった、どこまでも。
しかしベッドに体育座りをした私の前の現実が全てを許さなかった。
安倍さんが寝ていた。
寝乱れた髪型にお化粧したままでアゴを反らせて。
上半身に纏わりつくシャツはありえない箇所から裂けてズタズタになってる。
ブラは押し上げられ役割を果たしていない。
下着は膝まで下ろされ下半身を覆うべきスカートは千切られ1枚の布と化していた。
その全ては私の仕業だった。
安倍さんを犯した。
ツー
眼に溜まっていた涙が流れ落ちる。
今の私の内面にあるのは達成感でも征服感でも勿論、幸福感でもなかった。
罪悪感と絶望
自分への苛立ち全ての負の気持ち。
開いた両手をジッと見た。
- 118 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:20
- 私はフラれた腹いせに暴走した。
お酒のせいじゃない。
はっきりと覚えている。
どうやって帰宅したかは覚えてないけど居間で目覚めたのは覚えている。
寝室で安倍さんを見た瞬間心は決まった・・・・
唯一救われる材料は部分的に覚えていないこと。
押し倒した後、どんな順番で何をしたかの生々しい記憶が抜け落ちていた。
でも、そんなの何の慰めにもならない。
安倍さんにとってはどうでもいい事。
そして別の残酷な事実も浮き彫りになる。
あれは安倍さんを愛する心から生まれた行為ではなかったという事実。
私はただただ奪った。
引き裂かれた衣類がその時の心情を端的に表している。
非情に突き進んだ・・・・
私はその最中、愛の言葉をささやいたの?
薄っすら残る記憶を辿る。
イヤ・・・・何も話しかけなかった。
同意を求める必要が無かったから。
愛されることも理解してもらう必要も無かった。
自分だけ満足すればヨカッタ・・・・・
- 119 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:22
- ポタポタ
涙の雫がシーツに落ちて滲む。
このまま朝が来なければいいのに・・・・
私の意に反して窓の外はドンドン明るくなっていく。
手の平で涙を拭う。
いちばん傷付いたのは私じゃないんだ。
ピリッと額に痛みを感じる、少し晴れてる?
気にするほどでもない痛み。
真っ青になった。
記憶の無い時間帯に安倍さんを傷つけたかもしれない。
ビクビク震えながらそーっと伺う。
半裸の安倍さんをジックリ見るのは憚られた。
あれだけ凝視したかったものから目を背けなければならないなんて・・・・
傷は無いみたいでホッと胸を撫で下ろした。
同時に病気とか何とか喋った記憶が少し蘇った。
ホントに私は・・・・病気だ。
- 120 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:23
-
ピピピピピ
遠慮がちに何かが鳴る音で目覚めた。
「む・・・・うぅん」
適当に伸ばした手が目覚ましを掴むが止め方を知らないことに気づいた。
随分寝てしまったあ。
見慣れない時計
見慣れない天井
壁に貼られた自分の写真が寝起きを迎えた。
ココは梨華ちゃんの部屋。
昨夜の事は覚えている。
梨華ちゃんはこの部屋には居ないみたい。
だけど最初に何を言おう。
ゆっくりと体を起こしたなつみはピンクの水玉パジャマを着ていた。
なっちの私服・・・・は見当たらない。
手に掴んだままだった目覚ましを置こうとして文字盤を2度見する。
はぁっ!!!
午後12時半!!!
お昼過ぎてる、寝すぎじゃん!
躊躇してる暇は無い慌てて飛び起きた。
- 121 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:24
- バーンとドアを破る勢いで寝室を飛び出す。
目の前になっちのタータンチェックのコートがかかってた。
その横にリボンが無数にあしらわれたピンクのワンピースが用意してあった。
「うわちゃ〜」
そのセンスに思わず頭がクラクラしてしまう。
「ごめんなさい・・・・サイズ的に合うものが・・・・あの」
振り向くと梨華が窓際のソファに申し訳なさそうに座っていた。
「梨華ちゃん・・・・」
ワンピースを手に取ったまま固まるなつみ。
随分遠目の位置にピンクのバスローブを着た梨華。
「あ・はは・・・・こんなの着るんだ・・・・」
気まずい雰囲気を断ち切るようになつみはワンピースを広げて見せた。
「・・・・いえ・・加護ちゃんの誕生日プレゼントの筈だったんですが・・・・
受け取ってもらえなくて・・・・どこで着るねん!って・・」
「あははそうなんだ・・・・なっちと加護ちゃんってサイズ近いのかい?はは」
明らかに、ぎこちないやり取り。
- 122 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:26
- でもやり取りをしてる時間が無い。
いくら今日が午後集合でもこの時間じゃ遅刻は必至。
話は全て後回し。
なつみはワンピースとコートを引っ掴むと寝室に取って返した。
パジャマを脱いでワンピースを頭から被りコートを羽織って鏡を覗き込む。
うん悪くない。
髪やメークは到着してからでいい。
スタジオには衣装も用意してあるし移動はこれでOK。
カバンは玄関に置きっぱのはず。
再び寝室を飛び出してリビングの出口に、後は廊下をまっすぐ進めば玄関。
何も忘れ物は無いね、
忘れ物。
なつみはリビングの出口で振り返った。
「行ってらっしゃい・・・・」
最も遠い対面に梨華がバスローブを着て座ったままだった。
- 123 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:27
- 「・・・・・・・」
無言で玄関を指差すなつみに、ううんと梨華は首を振った。
「私はもう辞めます、娘。も芸能界も・・・・1人で行って下さい。
最後まで迷惑掛けてスミマセンでした」
うつむき加減の梨華の表情は見えない。
でも涙声は分かった。
「梨華ちゃん・・・・」
何か言うべき。
なのになっちには言葉が見つからなかった。
昨夜の事がショックじゃなかったと言えば嘘になる。
かといって、梨華ちゃんを憎む気持ちにはなれない。
どうすればいいのか?
自分はどうしたいのか?
それすらもなっちには分からない。
「なんか・・・・・・」
かすれた言葉はなっちの意を察するように途中で掻き消えた。
「早く行かないと!」
梨華が顔を上げた。
「遅れますよ!」
精一杯の笑顔。
見覚えのある笑顔、あの苦笑い・・・・
- 124 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:29
-
なつみの心は決まった。
口を真一文字に結ぶとズンズン梨華に向かって歩いていく。
途端に梨華が怯えた顔をした。
「来ないで・・お願い来ないで下さい」
構わずに距離を詰める。
「・・・・私は安倍さんに近寄っちゃいけないんです」
梨華は引きつった顔をしてソファから立ち上がった。
「何をしてしまうか自分でも分からないんです・・・・」
「それでそんな壁際にソファ置いて座ってるのかい?」
梨華の目を見据えながらなつみはつぶやいた。
なつみが起きてきても近寄らずに、全ての用意を寝室の前に準備していた理由。
テーブルを横切って梨華の眼前になつみは立った。
梨華は顔を伏せて震えていた。
「お願いです・・・・叩き終わったらスグ離れて下さい」
梨華ちゃんが震えているのはなっちが怖いからじゃない、それくらい分かる。
自分自身が怖いんだ。
手を取ろうとしてフト寒気を感じる。
なつみの手も小刻みに震えていた。
- 125 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:31
- ギョッとする。
怖い?
なっち、梨華ちゃんに怯えてるの?
昨夜の出来事が恐怖になってる?
さっきまで平気だったのに突然・・・・何で?
両手で胸を押さえる。
梨華ちゃんにはまだ気づかれていない。
心を無理矢理落ち着かせて両手を梨華の両肩に置いた。
梨華がビクッッと反応する。
「仕事サボっちゃ駄目だよ!みんな心配するよ、行こっ・・・・ネッ!」
大丈夫なっちの震えは止まってる。
「私行けません。安倍さんに申し訳なくて・・・・私、自分が怖いです。
思い通りにならなかったら、力ずくで手に入れようとする・・・・
そんな人間だったなんて・・・・弁解の余地も無いです」
「昨日の梨華ちゃん普通じゃなかったからチョット・・・・間違っちゃった
だけだよ、普段の梨華ちゃんはそんな子じゃ無いっしょ」
なつみは両手を引っ張って梨華を立たせようとするが動かない。
「もう私なんか放って早く行って下さい!」
梨華はなつみの手を払うと殻に閉じこもるように両手で自分の顔下半分を覆った。
フッと空気が動いて視界からなつみが消えた。
- 126 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:33
- 行っちゃった。
もうこれで何もかも・・・・
だから
突然目の前に写真が出てきた時は飛び上がるほどビックリした。
寝室の壁に貼ってあった安倍さんの写真。
「安倍さん?」
恐る恐る顔を上げるとトランプみたいに写真を広げた安倍さんの笑顔があった。
「これさハロモニでゲームに負けてムッとしてる時だよね、
なっちがドジッたんだけどさ、
こっちのはライブ前に機嫌悪くてイラッとしてるねえ〜
なっちって普段こういう顔してるんだ〜始めて知ったよ!
写真集とかだと絶対採用されない種類の写真が多いからさ」
「・・・・」
「写真って撮る人の愛情が伝わるんだよ!
梨華ちゃんはそんな子じゃないって、たくさんの写真が証明してるべさ!
梨華ちゃんはしっかり安倍さんのイヤな所も愛情持って見てるな〜ってね」
楽しそうに話しながら安倍さんはパチッっとウィンクした。
私は真っ赤になる。
嘘。
嘘でも嬉しかった、私を気遣ってくれる安倍さんの優しさが心に染みてくる。
- 127 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:35
- 「よし!行くべさ!」
グイッっと両腕を引っ張られ、油断してた私はソファから引っ張り上げられた。
「あの・・・・」
「ギャー!1時10分前って大遅刻じゃん、圭織に怒られるべさ」
私の手を握ったまま安倍さんはリビングを抜けて廊下を突き進んだ。
「あの・・・・安倍さん?」
安倍さんが玄関のドアを開けると冬のやわらかい日差しが差し込んできた。
「フルスピードで行くべさ!」
「あの・・・・安倍さん・・・・私」
バタン
玄関のドアが閉まった後に私の声が響いた。
「あの・・・・安倍さん・・・・私バスローブのまま・・・・です・・・・」
- 128 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:42
-
大遅刻のはずが機材セッティングに時間が掛かって何も始まってなかった。
案外こんなものだったりする。
それでも最後に到着した私たち、とりわけコートを脱いだ安倍さんは注目された。
両肩にリボン、
胸元背中にもっと大きいリボン。
裾に無数の小さなリボン。
レース模様にピンクの膝丈ワンピース。
「小学生のお誕生会ですか?」
美貴ちゃんが突っ込んだ。
「そりゃ無いよ」
安倍さんが拗ねた。
「どっかで見たことあんねんけどな・・・・思い出されへん」
あいぼんには余計なことは思い出して欲しくなかった。
「つーか安倍さん絶対私より年下でしょ、ありえないっすよ」
「それさゆも着たいです」
よっちゃんとさゆも加わった、みんなの輪からこっそり抜け出す。
私だけは浮かれた気分になれない。
「あれってなっちのセンスじゃないよね!どっちかって言うと梨華ちゃんっぽい」
もう少しで1人になれる寸前で、みんなの輪の遠めに居た矢口さんに捕まる。
この人の無駄な鋭さは今は嫌い。
「さては!ハハーン」
矢口さんは私の目を真っ直ぐに見据えて少し意地悪っぽく笑った。
「なっちの服にゲロッたな」
「スミマセン・・・・」
そそくさと逃げ出した。
- 129 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:46
- シャワー室でやっと1人になれた。
勢いで連れて来られてしまったけど私の精神状態は変わってなかった。
気持ちが上向くはずも無い。
仕事への情熱も欠片も湧き上がって来なかった。
結果的に私は同じ行動を2回とった。
あれだけ反省して後悔した忍び込んでの無理矢理のキス。
ほとぼりも冷めぬうちにもっと酷い事をした。
そのことに、ただ呆然と自分自身に絶望したままだった。
これから再び今まで通りやっていけるとは到底思えない。
安倍さんに対しても自分に対しても。
安倍さんの卒業は迫ってるというのに・・・・
シャアアアー
今朝も浴びた温水が体をゆっくり流れる。
体に微かに残ってた安倍さんの匂いも全て洗い流されて行く。
あんな形で手にいれた感触も匂いも残しておいてはイケナイと漠然と思う。
ハッとする。
安倍さんは今朝シャワーを浴びてない。
一番感触を洗い流したいのは安倍さんじゃないの?
こんな所で裸で鉢合せとか嫌がらせだ。
慌ててシャワーを止めて、脱衣所で体を拭き始めた。
私は何でこう考え無しなんだろ!
- 130 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:48
-
撮影は年少組から始まっているらしい。
ロビーでTVを囲むソファに座る年長組の面々。
飯田さん矢口さんよっちゃん美貴ちゃん・・・・居ない。
「おう、梨華ちゃん遅刻しといて真っ先にシャワーとはイイ御身分
なっちは卒業後の打ち合わせだってのに」
聞きもしないのに聞きたい事を矢口さんがTVから目を離さずに教えてくれた。
「あの、紅茶でも入れましょうか?」
あ、お願い、私も、と口々に注文された。
遅刻した人は何らかのサービスをすることになっている。
今日は動いていたい・・・・ジットしてると余計ネガティブになってしまいそう。
私は紅茶セットを支度し始めた。
- 131 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:53
-
「ストーカーって無くならないよね、何でかな?」
ニュースを見ながら矢口がつぶやいた。
「死刑にしたら減るんじゃないんですか」
藤本が応じる。
「何でもっと上手くやらないんだろうな、バカすぎる」
吉澤の発言に藤本が笑う。
「ハハッってか何でよっちゃんは加害者目線なの?」
「何つーかその1回で止めとけばいいのに同じ人への付きまとい方っていうか」
「だから何でヤル側の立場なの?」
アハハッっと藤本は吉澤の発言にお腹を抱えて笑う。
「ちげーよ!上手に立ち回れない何てか・・・・その」
真意をうまく言葉に出来ない吉澤は少しイラッとしていた。
「そっか、よっしーはすぐ捕まるような事をする犯人がアホって言いたいのね」
突然発言したのは目を開けたまま寝てなかったらしい飯田だ。
「そう!そういうこと何ですよ!さすが飯田さん!」
我が意を得たりの吉澤は嬉しそうだ。
「見込み無いのに追い続けるとか捕まるに決まってるじゃないですか
好きな人に嫌がられてるのに繰り返すとかオカシイよ」
吉澤は意見を求め、藤本が口を開く。
「性衝動って抑えられないんだってよ、1回で懲りない人は2回目もするって」
ガララン
「梨華ちゃん五月蝿いよ!」
矢口がソファの後ろを向く。
「でも、そういう人がウロウロしてたら怖いよね手当たり次第とか」
飯田がホントに怖そうな顔をする。
「いや、顔見知りが多いんですってよ!前から狙ってた・・・・みたいな」
ガシャアン
「梨華ちゃん何やってんだよ、あ〜あ引っくり返しちゃって」
矢口が近付こうとすると飯田が腕を引っ張ってシーのジェスチャーをした。
「あの・・・・チョット風に当たってきます」
引っくり返した片付けも程々に梨華は逃げるように部屋を飛び出した。
(イケネ梨華ちゃんなっちに告ってフラれたんだっけ、凹んでるの忘れてた)
出て行く梨華と隣の飯田を交互に見ながら矢口は頭をかいた。
- 132 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:55
- 私はそのままスタジオを飛び出した。
後々の事とか、もうどうでも良かった・・・・
だってどうせ辞めるから。
1回2回・・・・
私はこのままだと安倍さんに3回目もする。
こんな砂を噛む様な思いは絶対2度としたくない。
前回もそう思ってたのに。
今ならしない、そう思えるけど、
もし安倍さんに誰か好きな人が出来て付き合いだしたら。
私は祝福できるだろうか?
否、モヤモヤした気持ちを抱えたまま・・・・きっと同じ事を・・・・
多分私は違う誰かを好きになっても同じ事をその人に。
最低だ。
当て所も無く町を歩いた。
フラリと映画館に入ってみたけど内容なんかまるで頭に入って来ない。
コンビニに入っても何も買う気が起きなかった。
「あれ、ホラ吉澤だっけ?・・・・違うよ石川」
ヒソヒソ声に店を出る。
普段は注目されないのに、こんな時だけ注目される。
私の人生はいつもこんなだ。
遅れて一緒にスタジオ入りしてすぐ輪の中心に居た安倍さん。
いつでもどこでも注目されて中心に居る。
私なんかが最初から、つりあうはずが無かったんだ
私は安倍さんになりたかったの?
なりたかったのかも、
あの明るさと人懐っこさは私には無い。
- 133 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 00:58
- 思えば昔から友達も少なかった。
私はきっと自分の気持ちを上手く伝える術に決定的に欠けてるんだろう。
生まれつきコミュニケーション力が不足してるんだ。
だから・・・・
人の流れに乗っているうちにファミレスの前に出た。
そういえば朝から何も食べていない。
注文したラザニアを意味無くグチャグチャとかき回すけど、食欲は出なかった。
考えるのはスタジオの事。
でも携帯の電源は切ってあった。
一口も食べないまま冷めきったラザニアの料金を払ってファミレスを出る。
外は夕方を過ぎて夜の帳が下りてきていた。
家に帰りたくなかった。
帰宅した私が真っ先にしなければいけない事。
ビリビリに破った安倍さんの私服の始末。
あれこそ私の醜態の表れ。
安倍さんを愛せなかった醜い私と無理矢理向き合わさせられる瞬間。
サイズを測って買って返さなければ・・・・
人生で最もネガになるショッピングの予定。
凄く惨めな気持ちだ。
結局、私は重たい足取りでマンションに帰ってくることになる。
他にすることも無かった。
時間を潰すことも出来ない。
憂鬱な気持ちでで階段を上がる。
- 134 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 01:01
- 地獄ってどんな所だろう?
血の海と針の山があって鬼が居る。
違う、
刺激は慣れる。
針だって鬼だって慣れてしまえば平気になる。
1度死んで、もう死ぬことは無いんだったら尚更怖くなくなる。
本当の地獄はきっと何も無いんだ。
真っ暗で何も見えなくて物音1つしない。
自分以外誰も居ない。
叫んでも誰も答えないし何の反応も返ってこない。
死ぬことも出来ない。
果てしなく真っ暗な世界。
そう私の目の前にあるドアの向こうの部屋のように・・・・
じゃあ天国って。
そりゃお花が咲いて明るいトコだろう。
そして・・・・そうイイ匂いがするに違いない。
ガチャ
こんな風に。
フワッとした湯気に包まれた気がした。
部屋を間違えた?
明るい玄関に漂う美味しそうな匂いに戸惑う。
「コラ!こんな夜遅くまで何処ほっつき歩いてんだべ!この不良娘!」
バタバタとおたまを持った天使が現れた。
- 135 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 01:05
-
「安倍さ・・・・ん・・どうして」
驚きすぎて言葉が出ない。
さっきまで想像してた暗く冷たいはずの部屋は天国に塗り替えられていた。
あのピンクのワンピースの上にエプロンをした安倍さんの登場と共に。
「いいから上がるべさ!ほら、早く!」
安倍さんが私の手を取った。
不意に触られてビクッと過剰反応してしまう。
「手が冷た〜い!ズット外に居たのかい?」
促されるまま私はオズオズと自分の家の玄関を上がった。
「座って」
いつの間にか後ろに回った安倍さんに背中を押されて食卓のテーブルに着かされた。
テーブルには買い物したと思われるビニールの空き袋と野菜に調味料多々。
魚介類の乗ってたと思われる白い空っぽのトレイがあった。
キッチンでは、もう何ヶ月も使ってなかったガス台に火が点り別世界のよう。
お鍋がプクプク音を立てていて美味しそうな匂いはココから漂っていた。
「今度さ、なっち卒業記念スペシャルの番組で手料理作るんだけどね、
プロの人の手は借りたくないじゃん、
だからって美味しくないのをメンバーに我慢してもらうのも失礼っしょ!
なっち1人で美味しく出来たかどうか・・・・」
キッチンに向かった安倍さんが、お鍋のフタを開くとボワッと湯気が立った。
封じ込められてた香りが部屋中に充満する。
クゥ〜
安倍さんには聞こえないくらい小さな音が私のお腹で鳴った。
「熱っ!」
お鍋からおたまで料理を盛ると安倍さんは、こっちを向いた。
「さあどうかな?」
ニコニコの安倍さんはお皿に盛られたクリームシチューを私の前に置いた。
- 136 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 01:08
- (どうして私の家に?何でお料理を?・・・・)
聞きたい事は山ほどあるはずなのに目の前のシチューの自己主張が凄い。
私の口の中は唾液で一杯になって、お腹もドンドン減ってきた。
ファミレスのラザニアは一口も食べずに残したのに。
脇に置いてあったスプーンをゆっくり手に取ってクリームシチューに沈める。
私の真正面に座った安倍さんはテーブルに肘を付いてジッと見つめてる。
恐る恐るスプーンでシチューを持ち上げ口に運んだ。
「ごふっ!ゴホッゴホッ!」
熱すぎるシチューにむせた。
「熱かった?ダメ?」
安倍さんが心配そうに覗き込んでくる。
「チョット待ってください・・・・落ち着きますから」
私はこういう時にいつもビシッと決められない。
フーフー
急いで軽く冷ましてからもう一口。
ゴクッ
暖かいシチューが口から冷え切った体内にジンワリ浸透していく。
そしてお腹の底から温まってくる。
「ハア〜お、おいひいでふ〜、とっても美味ししですう」
「ホント?ホント?美味しい?良かったあ〜ビクビクしたよ〜」
安倍さんの優しさ全部がミックスされたクリームシチューは紛れもなく、
私が今まで食べた中で最高の味だった。
「今日のは2人分だけどさ本番では14人分作んないといけないから・・・・
あ、ホタテとエビがポイントね!海の幸フンダンに使ってるっしょ」
「ハイ!手料理とか暖かくって本当に久しぶりです。いつもロケ弁ですから」
少しヤケドした舌で残りのシチューをパクパク食べた。
今日始めて胃に入れた料理がコレで本当に良かった。
- 137 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 01:11
-
「今日黙って帰っちゃったでしょ!」
唐突に空気は切り替わった。
「今朝ってか昨日の事気にしてたの・・・・?」
静かな安倍さんの口調にコクンと頷いた。
「誰にも言ってないよ・・・・つうか、なっちにも責任あるし」
!!!!!!
「そんな事言わないで下さい!」
私は思わず立ち上がった。
どうして安倍さんの責任なのか。
「座って梨華ちゃん」
私を見上げた安倍さんは落ち着いていた。
「今日一日梨華ちゃんのこと考えてたんだけど・・まだ入ったばっかりの頃に
ハワイで熱いコーヒー飲んだ時のこと覚えてる?」
!!!!
古い記憶が呼び起こされる。
「み見てたんですか」
耳まで真っ赤になる。
「あの時、この子には中途半端に接しちゃダメだって誤解させちゃうかもって、
だから無意識に避けるようになってた・・・・と思う」
安倍さんは私の質問には答えずに話し続けた。
「それからズット「安倍さんは私を無視してる」って思わせちゃって、
なっちが梨華ちゃんを病気にしちゃったんだよ卒業を前に不安にさせちゃったね」
少し微笑んだなつみは再び真剣な表情になった。
「梨華ちゃんの病気はなっちが治してあげる。
他の小さい子達に同じことをしちゃ大変だからね」
(いや、私は安倍さん以外には・・・・)
「という訳だから、なっち今日からココに住むね!」
- 138 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 01:15
- 「ハイ!?」
目がテンになる。
「なっちの卒業前に辞められたら困る、もう一緒に過ごせる時間は僅かだけど
梨華ちゃんにはなっちの事でクヨクヨ悩んで欲しくないから・・・・迷惑?」
「イヤ!とんでもないです安倍さんが決めたのなら私は・・何の問題も無いです」
私は首をブンブン振って返事をした。
「ヨカッタあ。断られたらどうしようかと思ってたべさ」
安倍さんは屈託無く笑うと立ち上がってキッチンに向かった。
「もう1つさ番組で出す料理にねオムライスも考えてんだけど・・・・・」
急な展開に真っ白になっていた。
住む?
安倍さんがココに?
私と同居?
間違っても恋人同士になったとか、そういうんじゃないんだ。
一緒に住むだけ。
やり直しをさせてくれる・・・・の?
昨日のイヤ、その前からの私の行動の・・・・
あんな事をした私を信用してくれてる。
安倍さんがこの大事な時期に私と一緒に過ごしてくれる。
例えそれが卒業までの僅かな間だとしても。
- 139 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/01/19(木) 01:20
- 私の考えをかき消すように安倍さんがキッチンに向かったまま声を張り上げた。
「明日は早いよ!現場に着いたら圭織に謝まんな、なっちも付いててあげるから」
「ハイ・・・・」
「全くもう!前代未聞だべ!サボリとか、でも運がイイね!撮り直しだよ」
「え?運ですか?撮り直しって・・・・」
「機材トラブルで年少組だけしか撮影できなかったの、
年上メンバーはそのかわり早朝集合だけど、
矢口なんか今日1日待ち続けてみんなでTV見てただけじゃんって怒ってたし、
梨華ちゃん要領イイなだってさ!」
「私が要領イイなんて事無いですよ・・・・飯田さん怒ってましたか?」
安倍さんは少し目線を逸らした。
「ううん怒ってないよ、一週間ぐらいで立ち直ってくれればイイってさ・・」
立ち直る?
「なっちが話したんだ梨華ちゃんが告白してくれて、でも断っちゃったって
落ち込んでるだろうからって・・・・あ話したのは圭織と矢口だけだよ
他のメンバーにはナイショ、あ〜もう何で泣くのさ」
情けなくて涙が出てきた。
みんなが気を使ってくれて安倍さんまで、なのに私は助けて貰ってばっかり。
フワッと暖かい湯気が鼻をくすぐった。
「ほい!元気が出るよ〜なっち特製のジャンボオムライス、チーズ入りだよ」
安倍さんの笑顔と共に料理が私の前に置かれた。
そう終わりじゃないんだ、
まだ始まれる。
私はフォークを握った。
- 140 名前:小さい家 投稿日:2006/01/19(木) 01:35
- 5回目の投稿でした。
年末までには年明けには何て考えてズルズル遅れてしまいました。
元々、2人が家を出て仕事に向かうシーンで区切って投稿のはずだったんですが、
内容が…だったので繋げることにしました。
お陰で最後の展開はチョット強引だったかも・・・・
一応今回で梨華ちゃん告白編?は終了。
番外編を挟んで、なちりかの生活がスタートする予定です。
( ^▽^)<同棲ですね
(●;´ー`)<同居だべ
- 141 名前:小さい家 投稿日:2006/01/19(木) 01:45
- >>99
名無し飼育さん
(●´ー`)<リアルタイムでレスありがとうだべさ
( ^▽^)<今回はどうだったでしょうか?特別な日だったので期待!
>>100
62 さん
(●´ー`)<2回目のレスありがとうだべさ
( T▽T)<ガンバリ過ぎました。もう少し抑えていきます
>>101
N&M さん
(●´ー`)<3回目のレスありがとうだべさ
( ^▽^)<好きこそ物の上手なれ!です
- 142 名前:小さい家 投稿日:2006/01/19(木) 02:01
- >>102
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<とりあえずの決着だべさ
>>103
アヤセ。さん
( ^▽^)<2度目のレスありがとうございます
(●;´ー`)<愛が強くて溺れそうだべ
( ^▽^)<次回は安倍さん卒業まで進みたいです
>>104
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<待たせちゃったべか?
>>105
名無飼育さん
(●;´ー`;)<見つかったベ
(;^▽^) <怖くないですよね普通ですよね
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
>>106
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<なちりか好きの人に見つけやすいタイトルになってるべ
(;^▽^) <英文法的には間違ってそうですが・・・・
- 143 名前:アヤセ。 投稿日:2006/01/19(木) 02:28
- ひー!更新されてる〜!
でも石川さんが救われてよかった・・。
次回も楽しみにしてます。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 08:16
- ゚ ・*|.。.*・' ゚ ゚ ・*.。.*・' ゚ ゚ ・*.|.。.*・' ゚
..☆| Happy Birthday 梨華ちゃん |☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
@_γ´※`ヽ_@
}}:::::::/\:::::::{{
{{:::/ノハヾヽ:::}}
}}::(^▽^*从::{{
※ {{:⊂'_∞___.つ}}
/\ / ̄ .() .() .()  ̄\
ノノハヽ.. . ./ , -||ー||ー||-、 u \
(●´ー`)|~| ̄| /⊂⊃ .!`ーー---ーー´! 只 .
||( 二つH@|/ .只 !=O=O=O=! {___} \
||ゝ __`ヽ|__|_l u {___}. `ーー----ーー´ |___|⊂⊃\
||=== (__ノ/⊂⊃ .|___|. ⊂⊃ \
- 145 名前:62 投稿日:2006/01/19(木) 11:48
- 梨華ちゃん誕生日おめ
もしかして、と思ってチェックしたら更新キテタ─wwヘ√レvv~(゚∀゚)─wwヘ√レvv~─ !!
やっぱりなっちは天使やね!
梨華ちゃんがんばれ!
- 146 名前:105 投稿日:2006/01/19(木) 23:18
- 梨華ちゃんの誕生日に更新キテター!!
どんな生活が始まるのか楽しみです。
- 147 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/20(金) 02:08
- まずは梨華ちゃんおたおめ!
愛の暴走劇にひやひやしましたがさすがは天使さんですねー!
このまま距離がどんどん近くなるといいなー。
- 148 名前:N&M 投稿日:2006/01/20(金) 19:35
- 梨華ちゃんおたオメっ!
そして更新に飛び上がりww
ひやぁ。どぉなるんでしょーねぇ。
この生活に色々期待ww梨華ちゃんがんば!
次回も楽しみにしてますね。
- 149 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/11(土) 00:10
- ( ^▽^)人(´ー`●)
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/02(木) 02:18
- 続き待ってますよー。
- 151 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 01:48
- 番外編
「ハイ、今日はココまでシッカリ復習しとく様に!」
「ありがとうございました」
それぞれが頭を下げるとレッスン場を後にした。
「ホラ急いで先輩たちを待たせてるんだから!」
私はみんなを忙せてるのに小さい2人はドコ吹く風。
「梨華ちゃんあれ何やろ?」
「ノド渇いたからジュース飲みたいのれす」
「後にしなさい!」
ののとあいぼんの手を強引に引っ張る。
「別に遊んでて遅れたんじゃ無くてさ
レッスンが長引いたから遅れたんであって私らの責任じゃ無いよね」
「じゃあ、中澤さんにはよっしぃ〜から説明してね」
イライラした私は不満をぶつけた。
よっしぃ〜はムッとした表情になったが中澤さんの名前に渋々黙った。
つい先日もボロクソに怒られて一言も言い返せなかった。
理不尽だよな・・・・だって間違って伝えたのマネージャーさんじゃん・・
その時、よっしぃ〜は愚痴を私に零したが同意できなかった。
先輩後輩、縦社会という物は元々理不尽なもの。
例え自分のせいじゃなくても頭を下げる必要があった。
新入りの半人前なんだし。
そこの所を体育会系のよっしぃーがブツブツ言うのが納得出来なかった。
- 152 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 01:50
- 廊下の角を曲がると談笑してる先輩6人が目に飛び込んできた。
話が盛り上がってる3人。
それを遠巻きに聞いてる3人の計6人。
あいぼんは他の5人と少し離れた位置に居た後藤さんに飛びついた。
ののは飯田さんの腕に自分の腕を絡めて、その顔を見上げた。
よっしぃ〜は私たちの到着なんて気にも留めずに喋り続けてる
矢口さんの後ろにオズオズと立った。
私は・・・・いつもの様に保田さんの隣に位置した。
「マジ!超ウケル〜」
「どないしたらそういう事になんねん?」
「笑い事じゃなくて!なっち大変だったんだから本当だよ!」
全員揃ったら空港に移動する・・・・
予定、だけど話が盛り上がってるらしく一向に動き出す気配が無い。
かといって新人の私たちが何を言えるわけでも無く待つしかない。
(ホラ、急ぐ必要なかったじゃん!)
よっしぃ〜が非難がましい目でチラッと私を見た。
- 153 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 01:51
- (そうじゃなくて遅れなかった事が重要なの!)
私の思いはちっとも伝わってないみたいだった。
視線をグルッと見回すと飯田さんは黙って3人の話に聞き入ってた。
後藤さんはあいぼんと指を使った小さな遊びをしてる。
そして、
隣の保田さんと目が合った。
「裕ちゃん新メンバー揃ったよ!出発しないの!」
私の意を察してか元々そのつもりだったのか保田さんが声をかけた。
「うん?ああそうなん・・・・」
話の腰を折られたせいか中澤さんが少し不満気に会話を中断する。
「おぉ!いつの間にゾロゾロと!」
本当にたった今、気づいたらしい矢口さんが私たちを見回す。
「そいじゃ出発するべ!」
鶴の一声。
集団は動き出した。
- 154 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 01:54
- 「レッスンはどう?厳しかった?」
保田さんが先輩らしいことを聞いてくれた。
「ハイ、大変ですけど早く追いつけるようになろうって頑張ってます」
「私も大変だった・・・・でもね練習練習で、どうにか・・・・」
「はい・・・・?」
保田さんが視線を逸らしたので釣られて私も同じ方向を見る。
ののとあいぼんが後藤さんとなにやらヒソヒソ話。
そこに強引に飯田さんも巻き込んでいた。
「・・・・え?ダメだよ」
「お願い!お願い!」
後藤さんとののとあいぼんが背中を押し合って何やら促しあっている。
ゴニョゴニョ漏れ聞こえる内容に直感的に関わりたく無いと感じた
結果、飯田さんが代表することになったらしい。
「裕ちゃ〜ん、加護ちゃんと辻ちゃんがバスの席、隣同士に座りたいって」
「アカン!」
取り付く島も無い返答が帰ってきた。
「・・・・・・・・」
「誰のせいやねん!全部自分らのせいやろ!」
さっきまで嬉しそうにしてたののとあいぼんが揃って下を向く。
そう自分達のせい。
- 155 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:11
- 私たち新メンバーは加入当初はっきり言って無茶苦茶だった。
話を聞いてない、主旨も理解してない、忘れ物はする・・・・
私も年下2人のペースに釣られてしまいプロとしての厳しさよりも
楽しさを優先させてしまった。
その結果、中澤さんのカミナリが落ちて今の形になった。
新メンバーは4人で固まらない事。
仕事中は勿論、移動や楽屋も常に教育係と共に行動する事
が義務付けられた。
ののとあいぼんにはショックな決まりだったけど
年長者として真っ先に怒られる事が多かった私には都合が良かった。
教育係に1日中くっ付いてるおかげで学べる事も多いし、
お互いの教育係の情報を仕事が終わってから交換し合うことも出来た。
よっしぃ〜や2人の話から、
飯田さん矢口さんらとの距離もグッと縮まった。
一石二鳥の教育係システム。
ただ・・・・
誰の教育係でも無い憧れのあの人との距離は全く縮まらなかった。
- 156 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:15
-
ジーーーー
気が付くと、ののとあいぼんが私に強い視線を送っていた。
こんな時ばっかり・・・・私にすがる!
しかも、よっしぃ〜まで「何とかしてやったら」視線を送ってる。
冗談じゃない!
あの年頃の子が隣同士で座りたい気持ちは分かるけど、
だからって何で私が中澤さんに睨まれる事を言わなきゃいけないの?
よっしぃ〜は都合の良い時だけ年下チームになって助けてもくれない。
不満でイッパイの私の袖口を、あいぼんがツンツン引っ張る。
背中を押されるように私は口を開いた・・・・
「中澤さん・・・・あの〜」
「アカン!って聞こえへんかったか!」
ピシャリと話を聞いてもくれない返事に泣きそうになった。
一番年上ってだけで何て損な役回りだろう。
「何?新メンバーで隣同士に座りたいの?」
小さな囁き声で安倍さんが私と保田さんに話しかけてきた。
突然の事に固まる。
「みたいだね〜私も移動のバスの中くらいイイと思うけどさ
裕ちゃん、ああなったらテコでも動かないし」
「言い方が悪いんだよ!なっちに任せといてよ!」
保田さんと安倍さんの会話を能面のような無表情で聞く私。
- 157 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:18
-
バスの中
隣同士に座って、
はしゃぐののとあいぼんを不思議な気持ちで眺めてた。
「何で突然こうなったの?」
隣に座ったよっしぃ〜が私の気持ちを代弁した。
「さあ・・・・?」
「なっちが裕ちゃんに席順変えれば矢口と座れるよ!って囁いたから
だってさ、感謝しときなよ!」
私の真後ろから保田さんが説明してくれた。
確かに一番後ろの席で中澤さんと矢口さんが戯れている。
別に私は隣が保田さんでもいいんだけど・・・・
チッ!
「自分基準か!あんなに反対してたのに・・・・」
よっしぃ〜が私にしか聞こえない、小さな舌打ちと悪態をついた。
相槌を打つべきだったのかも知れないけど同意できなかった。
「何よ!中澤さんに言わせるのは私一人に押し付けて」
「な、ルールがリーダーの気分次第で変わるのは変だって話に関係
無い!大体、新メンバー代表するのは梨華ちゃんの役目だろ!」
「いつそうなったのよ!」
「・・・・私は隣同士になりたかった訳じゃない」
「私だって・・・・」
小声の喧嘩でよっしぃ〜との空気は最悪になった。
「へえ〜ごっつあんってこんな音楽聴いてんだ」
「なっちに貸してあげるよ」
通路を挟んだ隣は楽しそうだった。
- 158 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:21
- 「・・・・に変更になりました!くれぐれも間違わないよう・・・・」
キャハハハ
2人の楽しそうな笑い声が重なる。
「ほら!マネージャーさんの話ちゃんと聞いてた?」
私はガバッと前の座席の2人を上から覗き込む。
「聞いてたよ!うっさいれすね」
「変更になったんやろ!」
「折角一緒に座れたんだから、集中してないと中澤さんに言うよ!」
こういう時こそシッカリして信頼してもらうチャンスなのに・・・・
「ツゲバれす・・・・」
意味不明なことを呟くのの。
よっしぃ〜は隣で知らん顔。
私の理想とはずいぶんかけ離れてしまったなあ。
本来なら
年上の私を補佐して尊重してくれるよっしぃ〜。
そして私の言うことを素直に聞いてくれるののとあいぼん。
みんなを取りまとめる私
これが加入が決まった頃の私の理想だった。
現実は全然違った。
ののとあいぼんは私を小バカにして全く言う事を聞いてくれなかった。
よっしぃ〜は自由人で私を尊重してくれず2人と遊んでばかり。
私は取りまとめる筈が、みんなに振り回されてばかりだった。
ハア〜ア
ため息ばかり出る。
これからハワイ。
初めての海外だってのに・・・・
- 159 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:23
- 空港から飛行機内そしてハワイに着いてチェックインするまで、
中澤さんの機嫌が良かった事もあって自由な組み合わせの移動だった。
結果、私は3人を見張る羽目になった。
「あいぼんチケット出して!そっちじゃない方の紙!あったでしょ?」
「みんなトイレは済ませた?」
「よっしぃ〜こっち!1人でウロウロしないで!」
ホトホト疲れる。
何で私1人で3人分のお守をしなきゃならないの。
早く教育係のチーム分けにならないかな・・・・
言ってる傍から2人がホテルロビーのTVに釘付けになってた。。
「ほら!部屋に帰りなさい!もう〜中澤さんに言うよ・・・・」
「わあ〜ツゲバやで逃げろ〜」
全然懲りないののとあいぼんを追い払うと私もホテルの自室に帰った。
ツインの部屋にはよっしぃ〜が居てジロッと私を見る。
バスの中の言い合いを引きずって気まずいままだ。
「しょうがないでしょ!新メンバーだけ2人部屋なんだから」
「何も言ってないだろ!」
会話が途切れて私は洗面所の鏡を覗き込んだ。
「何で付け歯なのよ、別に出っ歯じゃないじゃん」
「フッ・・・・ツゲバァって言ったんだよ辻加護の間で流行ってる」
「・・・・どういう意味?」
「告げ口ババア、
略してツゲバだってさ、二言目には中澤さん!だからね」
「・・・・・・・」
一瞬、言葉イヤ思考を失う。
- 160 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:26
-
感じ悪く鼻で笑ったよっしぃ〜。
まるで当然だろと言いたげに知らない人みたいに私を見た。
「じゃ別に一緒に居なくてもいいんでしょ」
それだけ言うと部屋を出て行った。
立ち尽くした私には怒りより諦めが充満していった・・・・
何で告げ口なの?
私の注意じゃ聞いてくれないからでしょ。
みんなが中澤さんに怒られる姿を見たくないから・・・・
リーダーの中澤さんに怒られることが重なればある日突然
「明日から来なくていい」
と宣告される、学校とは違うプロの世界。
だから・・・・
私の事そんな風にしか・・・・見てくれてなかったの・・・・
よっしぃ〜は寝る時間になっても帰って来なかった。
その代わり隣の部屋から壁越しに3人の楽しげな声が漏れてくる。
時差ボケがあるから到着した夜は早く寝ないと・・・・
私のそんな注意もバカバカしいんだろうな。
きっと。
ベッドに横になってるのにちっとも眠れない。
私が居ない方が楽しいんだろう。
新人の頃の矢口さん達は中澤さんの悪口で盛り上がってたって。
3人は私の悪口で盛り上がるのかな。
前にもこんな経験ある。
- 161 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:28
-
中学時代テニス部の部長に就任した時。
張り切って考えた合宿のスケジュールと練習メニューがキツ過ぎる、
と、殆どの部員から受け入れられなかった。
体が持たないメニューだって・・・・
絶対出来る!
証明しようと自分1人でメニューをこなしたら周囲から孤立した。
(勝手にすれば)
の冷たい視線を覚えている。
頑張ることがイヤになった。
適当に流していれば丸く収まる。
だったら、その方がイイ。
でもTVの中で、あの人は頑張っていた。
昔からズット頑張って頑張って負けたって挫けず頑張っていた。
だから・・・・
環境が変わっても私は空回りを続ける。
原因はウザがられる私自信か。
考えるのにも疲れて寝た。
- 162 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:33
-
「石川おはよ!早いね〜」
「保田さん、お早うございます」
朝食前の軽い合同レッスンに向かう途中だった。
チラと隣の部屋の3人の事が頭に浮かんだけど無視。
寝てる所を起こしに行って、お節介に思われるのもイヤだった。
ホテルのトレーニングルームはレッスン場に様変わりしていた。
「お早うございます!」
「おはよ〜眠いな」
おはよ〜おぅ!と挨拶の声がこだまする。
1人足らないけど先輩たちは全員揃っている。
でも3人は居ない。
「お早うございま〜す!ひゃあ〜寝坊したけど間に合ったべさ〜」
「遅い!10分前には来いよ!」
「ギリギリやでストレッチ無しで体暖まるんか?」
「若いから大丈夫っしょ!」
「なんやと、オレに対する嫌味か!」
「ウソ、ウソ、ウソだってば〜裕ちゃんも矢口もくすぐらないの!」
先輩たちは全員揃った。
3人は来ない。
「さ、始めるか。アレ・・・・新メンバーの子らは?」
ダンスの先生の指摘に全員が私を見た。
「あ・・・・えと、その・・・・」
「おっ!よっしぃ〜来た」
矢口さんの言葉通りに、
よっしぃ〜が廊下の向こうをジャージを着ながら走ってきてた。
- 163 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:36
- レッスン場に息を切らして入ってきたよっしぃ〜は無言で私を睨んだ。
私は澄まして知らん顔した。
悪い事なんてしてない。
決められた時間に起きるのは当たりでしょ。
「おチビちゃん達は?どないした?」
「すぐ来ます、少し取り込んでて・・・・」
何があったんだろう?
「待ってらんない、始めるよ!」
「よろしくお願いしま〜す」
先生の号令と共にハワイライブのレッスンが始まった。
けど私は来ない2人が気がかりで・・・・
10分後
「待ってよ〜あいぼん!」
「急がんかい」
遠くから騒がしい声が近づいてきた。
「おはようございま〜す!ございま〜す!」
ホッ来た。
安心するのも束の間、私は2人のカッコにギョッとした。
ジーンズのオーバーオール。
私服を着た2人がジャージの私たちの間をすり抜けて先生の前へ行く。
「・・・・ジャージとかレッスン着はどうしたの?」
「遅れてスミマセンでした、あの〜洗濯に出すの忘れてて
着替えが無くなっちゃって・・・・コレで来ました」
汚れた服は前の日に洗濯に出しておけば早朝には部屋に届けられる。
ソレを忘れたんだ・・・・
でもジャージの着替え3着くらい持ってきてたはず。
- 164 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:38
- 「随分と失礼だね〜裸で踊るか?」
「イヤ〜!そこまで自慢できるほどのナイスバディじゃないので・・」
先生の素っ気無い応答に加護が笑顔で返す。
ピキィン
空気が変わった。
私は恐る恐る周りを見回した。
みんな怒ってる・・・・冗談で済ますレベルじゃない。
保田さんも飯田さんも矢口さんも・・・・中澤さんも笑ってない。
安倍さんも後藤さんもよっしぃ〜も流石にヤバイって顔してる。
気づいてないのは笑顔を絶やさない、ののとあいぼんだけ。
結局そのままレッスンは続き1時間ほどで終了した。
「ハイ、後は本番前の確認だけね!以上で終わり」
「アリガトウございました〜」
「ハア〜疲れた〜お腹空いたれすね〜」
先生が部屋から出て行くと緊張が解けた空気になった。
2人だけ・・・・
「ちょっ、お前ら座れ!ちゃうわ正座や!何を笑てんねん!」
中澤さんの怒号が一瞬にして部屋中に響き渡った。
2人にとっては何の前触れも無かったのだろう、
あいぼんは笑顔のまま凍り付き、ののは無表情のまま固まった。
- 165 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:42
- 「自分ら何したか分かってんのか?ダンスの先生の前で私服って
バイオリンの練習に手ブラで来たみたいなもんやぞ、
先生バカにしてんのか?裸でやれや!ホラ!脱いだらどないやねん!」
中澤さんが、のののオーバーオールの肩紐を無理矢理引っ張った。
「ヒィイイイ」
正座したののは恐怖に引き攣って泣きながら抵抗した。
いくら何でも本当に裸にするつもりが無いことくらい私には分かる。
でも、2人には充分だった。
ブワワワぁああ
溢れる涙を手の甲で拭いながら号泣した。
ズキズキと胸が痛む。
こうならないように私は今朝起こすべきだったのに、
イヤもし今朝2人の着替えが無いことに気づいても間に合わなかった。
だから私が悪いんじゃない・・・・
頭の中をグルグル無駄な思考が回転する。
「昨日のうちに今朝レッスンで何着るか用意してたんか?
してたら、こうはならへんかったやろ!
洗濯物はどうするって話バスの中でちゃんと聞いてたか?」
腰に手を当て仁王立ちになった中澤さんのお説教が続く。
「ヒック聞いて・・・へんかったグズッ・・・・です」
あいぼんが正座したまま、しゃくりあげながら途切れ途切れに話す。
「アカンやんか!隣同士に座らせたら、すぐコレか!」
私は自分が怒られてる気になってきた。
「それから吉澤!お前もや!」
突然、名前を呼ばれ神妙にしてたよっしぃ〜が慌てて中澤さんを見た。
よっしぃ〜が何で?
私もビックリした。
- 166 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:52
- 「ココに入ってくるとき挨拶せえへんかったやろ?言ったか?」
「あ・・・・」
よっしぃ〜が小さな声でつぶやいた。
そうだ私もギリギリだった安倍さんも大遅刻の2人も挨拶してたのに、
「おはようございます」
をよっしぃ〜は言わなかった・・・・
「何で?面倒くさかったん?小さな声では言ったつもりなんか?
のそ〜と入って来て挨拶もせんと頭も下げんと、それでいいんか?」
中澤さんに睨みつけられて、よっしぃ〜が下を向く。
「いや、ホラうっかりっつーかさ辻加護のとばっちりみたいじゃん。」
厳しすぎると思ったのか矢口さんがフォローに入るが・・・・
「何がや!この世界、挨拶と時間厳守が一番重要やろ!
初対面の人に挨拶せえへんかったら、それが第一印象になるねん!
毎日会う人ばかりや無い1年に1回しか会わん人もおる、
誤解されたままで過ごすんか?
他の9人がちゃんとしてても残りの1人のお陰で全員そう見られる。
たかが挨拶で、そんなんなってもええんか?」
面と向かって言われて矢口さんはギュッと口をつぐんだ。
飯田さんと安倍さんが大きく頷く。
過去に誰かに言われた言葉なのかな?
「どやねん?吉澤!おはようの挨拶したんか、し忘れたんか?」
よっしぃ〜は堪える様に全身に力を入れて搾り出すように喋った。
「し・・・・忘れました・・・・」
「そんだけかい!」
「スイマセンでした・・・・本当に・・・・スミマセンでした」
悔しいのだろう。
正論を言われて一言も返せない現状に。
2人と違って泣く訳にも行かない。
- 167 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:56
-
「ところで新メンバーは昨日何時に寝たの?」
突然、保田さんが口を挟んだ。
「揃って遅刻って到着した日は早く寝るようにって言ってたでしょ」
一斉に先輩達の目が私に集まった。
私が怒られる番だ・・・・体中から冷や汗が吹き出す。
「石川みんな何時に寝た?」
中澤さんが髪をかき上げながら優しく質問する。
「私は9時には・・・・他のみんなとは昨日違う部屋で・・・・」
蚊の鳴くような情けない小声で話す。
怖くて自分が震えてるのが分かる。
「吉澤!何時や、お前ら3人は何時に寝たんや?」
「グスゥ12時えと・・・・2時くらいれす、盛り上がってて
眠くならなくてグズッ」
よっしぃ〜ではなく中澤さんの足元に正座したののが答えた。
「新メンバー4人も入って、ちゃんと出来てんの1人だけか!
バスの席順を隣同士にしたら、もう話し聞いてないんか?
オカンがおらな朝も起きられへんのか?
教育係に一緒に寝てもらわなアカンか!反省せい!」
張り詰めた空気の中、ののとあいぼんのすすり泣く声だけが聞こえる。
「もう大丈夫だよね!間違わないでやれるっしょ?」
安倍さんが膝に手を突いて2人と目線を同じにして語りかける。
「グスゥグスッ・・・あい」
「出来・・・・ゥゥますれす」
「1人聞こえんな〜?」
中澤さんが腕組みをしたままチラッと見る。
「出来ます、遅刻して挨拶も忘れて本当にスミマセンでした」
よっしぃ〜が顔を真っ赤にして答えた。
- 168 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 02:59
- 「よし!それじゃお疲れさ〜ん」
中澤さんは何事も無かったように踵を返すと部屋の出口に向かった。
と右手を腰の辺りでヒラッヒラッと振った、錯覚?
それが合図の様に一斉に先輩たちが各々の教え子の元へと動いた、
後藤さんはハンカチであいぼんの顔を拭いてあげてた。
飯田さんはティッシュをののに渡しながら懇々と何かを話し始めた。
矢口さんはよっしぃ〜を見上げて少し頭をなでた・・・・
嫌われ役・・・・
去って行く中澤さんの後姿を見ながら、そんな言葉が浮かんだ。
私には出来なかった。
嫌われるのが怖いから。
誰の教育係でもない安倍さんも部屋を出て行こうとして
私をジッと見た。
何?!
そのまま何も言わずに部屋を出て行った。
「私は何もすることが無いや
教育の賜物ってか石川はシッカリしてるね」
いつの間にか保田さんが私の隣に来ていた。
「あ・・・・ありがとうございます」
今、確かに安倍さんが私を見た気がする。
- 169 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:01
-
「はあ・・・・」
バイキング形式の朝食を1人で取りながら溜息を付いた。
居た堪れなくなって逃げるように部屋を出てきた。
1人だけ叱られなかったのは私が正しかったから。
3人は私の言うことを真面目に聞かなかったから叱られた。
なのに
この居心地の悪さはどうだろう。
まるで罠に引っ掛けたみたいな嫌な気持ちだ。
こんな事なら私も一緒に叱られた方がマシだった。
「石川はシッカリしてるね〜」
「いや当たり前の行動・・・・というか保田さんの教育の賜物です」
「圭ちゃんの教育は厳しそうだね〜」
会話の咬み合わなさに顔をあげると保田さんではなく安倍さんだった。
いつの間に正面に座ってたのだろう。
「あ・・・・あの・・・・」
「辞めたくなった?」
「・・・・何をですか?」
「娘。」
胸の辺りがザワっとした。
「な、何でそんな事言うんですか?」
「背中にそう書いてあったから、もうヤダよ〜って」
「辞めたいとか1度も考えたこと無いですよ」
「な〜んだ・・・・間違ったべ」
安倍さんはプリンをパクッと頬張った。
- 170 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:04
- 「新メンバーってさ早い時期に辞めた〜くなる時が来るんだってさ
それを過ぎると平気になるんだって」
安倍さんがジッと見た。
「よっしぃ〜達と喧嘩でもしたの?」
「・・・・ハイ少しだけ、何で分かったんですか?」
「うん?何か、らしくないかな〜と思ってさ」
コロコロ変わる話題に付いて行くのがやっと、
ただでさえ緊張してるのに。
「私らしくなかった・・・・ですか?」
「いつも頑張ってるからねぇ〜・・・・」
今日の私は頑張ってなかったって事ですか?
それとも普段の私への感想?
それきり安倍さんは黙ってプリンに没頭し始めた。
怒ってるとかじゃなくて興味の対象が私よりプリンになったらしい。
これまでの経験からすると彼女は何事も無く席を立つだろう。
そう、私に語った内容も忘れて・・・・
「私が頑張ると空回って周りの人にウザがられちゃうんです、
学校に通ってた頃からそうで、この世界に入っても同じで
変わらなくて何をやってもダメだな・・・・」
ハッと口に手を当てた。
余計な事を口走った。
安倍さんには私の良い所だけを見せたかったのに
自分でも最も嫌いなウジウジした内面を見せてしまった。
しかも安倍さんはプリンを食べる手を止めて聞き入っていた。
何か言って欲しい!
沈黙がその場を支配した。
- 171 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:07
-
「そんなのみんな一緒だよ。なっちも学校で苛められた事あるし」
それは知っています。
「圭ちゃんも中退してるし、カオも部活1ヶ月くらいで辞めてるし
矢口もごっちんも学校が楽しくて!ってよりダメダメだったから
オーディション受けたんだよ、違う世界があるって」
安倍さんは真っ直ぐに私を見た。
「だから学校言ってた頃の話は無しだよ!
ゼロから始まってまだ半年も経ってないんだから。
そうでなかったら裕ちゃんなんか大変だよ、高校の時に暴走族とか、
競馬、競輪、花札、マージャンのウソ!ウソだよ!冗談だべさ!」
突然安倍さんが立ち上がって私の背後に話しかけた。
「もう1ぺん言うてみい!誰がやねん!見たんか私の学生時代を!」
振り返ると中澤さんがツカツカと歩み寄って来ていた。
「ギャグ、ギャグだべ石川が笑うかな〜って」
「他のメンバーをリアルに語って何で私だけギャンブラーやねん!」
キャアアアアアアアアアアアア
悲鳴を上げながら逃げ出す安倍さんと追いかけていく中澤さん。
を呆然と見送った。
「つーかさ、なっちの学校話は石川へのアドバイスになってた?」
「だからなっちは教育係になれないんだよ」
「でも裕ちゃん高校時代マージャンくらいやってそう」
気付くと
隣の隣のテーブルに矢口さん飯田さん保田さんが座ろうとしていた。
「大人が追いかけっこか辻加護じゃあるまいし
でもやる事やってれば何やってても構わないって事か」
よっしぃ〜が私の正面の安倍さんが座ってた席に腰を下ろした。
- 172 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:10
-
よっしぃ〜の目が少し赤くて気まずい。
「昨日は悪かったよ」
よっしぃ〜が視線を合わさないように、ぶっきら棒につぶやいた。
ビックリした。
正面から謝るなんて一番不得手なはずなのに。
「中澤さん達が言うことが一々正しくてイライラして
梨華ちゃんだったら簡単に反発できたから・・・・結果このザマだよ」
自嘲気味にフッと笑うよっしぃ〜・・・・
「私こそ意固地になっててゴメンナサイ・・・・昨夜何があったの?」
よっしぃ〜のお陰で素直に謝る事が出来た。
「夜遅くまで辻と加護が汗だくになるまでベッドでボンボン跳ねてた。
私はその後寝たけど着替えた2人は廊下で、
でんぐり返し大会とかやって
結局一晩で2回も着替えてからパジャマで寝たらしい」
思いっきり遊んでヘトヘトになって寝たんだろうな。
「昨日昼間のレッスン着も洗濯してないから
朝起きたら着ていく服が何にも無かった。
脱いだ服も丸めて突っ込んであったからグショグショで乾いてなくて、
慌てて隣の部屋に梨華ちゃんどうしようって2人がドア叩いたけど
もう居なくて私は全然頼られなくて、
まあ頼られても何も出来なかったけど」
ののとあいぼんが自分を頼って駆け込んでくる光景が脳裏に浮かんだ。
心が痛む。
「変なアダ名付けるから梨華ちゃん怒っちゃったって
2人がケンカし始めて
私は時間ギリギリだったから先に行ったけど・・・・」
2人が私服でヘラヘラしながら来たのは不安の裏返しだったんだ。
どんなにか心細かったろう・・・・
「あ、謝りたい子達が来たよ」
よっしぃ〜に言われて振り向くと後藤さんに背中を押された2人。
目を真っ赤にした、ののとあいぼん。
一番子供だったのは私だったかも知れない。
- 173 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:14
-
1時間後にTV収録が始まる。
ホテルのレストランに今度は誰も遅れずに集まっている。
にも拘らず。
ののが変だ、しきりにトイレへの行き来を繰り返している。
「のんちゃん具合でも悪いの?」
飯田さんの言葉にピンと来た。
「のの!カキ氷食べすぎで、お腹壊したんじゃないの!」
私の指摘にののはギクッと肩をすくめた。
やっぱり、もう〜。
「こんな事もあろうかと全員分の熱いコーヒーを用意したよ」
保田さんがトレイに沢山のカップを並べて持ってきた。
「そやな、これから水着で海に入っての撮影やし体冷えてまうしな、
温かい飲み物飲んどいた方がええな」
「へへ〜でしょう」
中澤さんの言葉に保田さんが自信を持ってトレイを皆に突き出す。
ハワイでホットコーヒーって、ブツブツ言いながら矢口さんも従う。
「梨華ちゃんコーヒー飲めへん」
あいぼんが私にソッと訴える。
「聞いたでしょ!お仕事なんだからグッと飲みなさい」
ピシャリと突き放しながら私もコーヒーカップを手に取った。
「なっちもコーヒー飲むのかい?・・・・苦手なのに!」
安倍さんが自分の鼻を指しながら驚いている。
「小っちゃい子達も飲んでるんだから例外は無いよ」
保田さんに促されて不満げな安倍さん。
何色のカップを選ぶのかな・・・・赤かな青かな黄色かな・・・・
安倍さんは黄色いカップを選ぶと口を付けた。
- 174 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:17
- 「あ、そろそろ時間だよビーチに出ないと」
矢口さんの声に、みんなが即座に反応した。
そして手に持ったカップの置き場所を探した。
「私が片付けます」
空のトレイを両手に持った。
一番新入りの下っ端なんだから私が片付けるのが当たり前。
悪いね、重くないとドサドサ空のカップがトレイに置かれていく。
「案外美味しかったわあ」
「熱くなったぜい」
「飲み終わったのれす」
あんた達3人は手伝いなさいよ。
恨みがましく見つめても気にする風も無く行ってしまった。
私は山盛りのカップをトレイに積んだままレストランに取り残された。
はあ〜
前と全く変わって無いじゃん。
あの3人に期待した私がバカだった。
重たくなったトレイを落とさないようにレストランの厨房まで運ぶ。
朝食と昼食の間の時間帯なので誰も居なかった。
軽く水で洗っとけばいいかな・・・・
流し台にトレイを置いてふと気づいた。
空のカップの中に1つだけコーヒーが半分くらい残っていた。
黄色いコーヒーカップだった。
- 175 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:20
- フフフッ
思わず笑っちゃった。
あいぼんでさえも全部飲んだのに1人だけ残してるなんて。
オカシ〜の。
1つしかない黄色いコーヒーカップ。
安倍さんの
梨華の胸が突然トキメク。
飲みかけ・・・・
ソッと周囲を見回す、誰も居ない。
震える指先で静かに黄色いカップを持ち上げた。
目の高さまで持ち上げてカップの淵に付いてるものに目を奪われる。
唇の痕
その部分に唇を付けると一気にゴクッと飲み干した。
ガタッ
何かの物音に慌てて空になったカップをトレイに戻した。
後ろを振り返ったが誰も居ない。
変な事してたからビクビクするんだ。
素早く少し乱暴に全てのカップを洗い終わると厨房を後にした。
急いでみんなと合流しないと・・・・
- 176 名前:グッドコーヒーブレイク 投稿日:2006/03/03(金) 03:22
-
「おぅ、なっちどうだった?」
丸めた台本で望遠鏡を作った矢口はなつみに照準を合わせた。
「え・・・・何が・・・・」
「何ボケてんの?戻って石川を手伝って来たんでしょ」
「あ〜・・・・あの・・・・道に迷って・・途中で引き返して来た」
「ハァ?ホテルの廊下って一本道だよ流石イモなっち」
「イモ言うな!」
「ゴメン方向音痴イモだった」
「この〜」
ホテルを出てビーチに出ると撮影が始まる間際だった。
「梨華ちゃん遅〜い」
「誰も手伝ってくれないからでしょ」
まとわり付くののを相手しながら
戯れてる安倍さんと矢口さんを見やる。
私もいつかああいう関係に・・・・
気持ちが伝われば。
きっと・・・・・・・・
- 177 名前:小さい家 投稿日:2006/03/03(金) 03:43
- 6回目の登校です。
実は2月中旬には完成してたのに、
書き終わった直後にパソコンがクラッシュして半分消失。
茫然自失の中何とかこぎつけました。
戻ってきたら白版無くなってるし(∩Д`)゚。
(●´ー`)<井上靖?
(;^▽^)<それはしろばんばです
今回予告通り番外編です。
梨華ちゃんとなっちの遠い距離を書いてみましたが伝わったかどうか・・・・
中澤さんとよっしぃ〜の扱いに他意は無いので誤解無きように。
(●´ー`)<何で今回舞台がハワイだったべ?
( ^▽^)<そうですよね必然性ゼロですよね
う、それは他にハワイならではのエピソード満載だったのに、
長くなりすぎて番外編にならないから切ったらハワイである必要が・・・・
次回からはなちりかの暮らしが始まります。
パソコンが好調であれば・・・・
- 178 名前:小さい家 投稿日:2006/03/03(金) 04:00
- >>143
アヤセ。さん
(●´ー`)<3度目のレスありがとうだべさ
( ^▽^)<見放さずに居てくれたでしょうか
>>144
名無飼育さん
(●´ー`)<誕生日更新だったのにねぇ小さい家はヒドイべ
( T▽T)<誕生日おめでとうって書き忘れたんですよ
>>145
62さん
( ^▽^)<3回目のレスありがとうございます
(●´ー`)<次回も梨華ちゃんは頑張ってるから応援して欲しいべさ
>>146
105さん
(●´ー`)<2回目のレスありがとうだべさ
( ^▽^)<今回の番外編も気に入って頂けると幸いです
>>147
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございますヒヤヒヤさせちゃいましたか
(●´ー`)<2人の最初の距離は今回くらいだったべさ
- 179 名前:小さい家 投稿日:2006/03/03(金) 04:10
- >>148
N&Mさん
( ^▽^)<4回目のレスありがとうございます
(●´ー`)<飛び上がってくれたの嬉しいべさ
( T▽T)<そう言えば誰も番外編楽しみって書いてくれてませんでしたね
>>149
名無飼育さん
(●´ー`)<何か一言欲しいべ
>>150
名無飼育さん
( T▽T)<待たせちゃってすいません理由は上にある通りです
(●;´ー`)<次回は早めにしますレスありがとうだべ
- 180 名前:N&M 投稿日:2006/03/03(金) 17:10
- 更新ー♪
お疲れ様です。
番外編ですねぇ。
そぉですねぇ。距離がありましたねぇ。
そして。次回はなちりかの暮らしですかぁ。
楽しみです。
次回も頑張ってください。
- 181 名前:アヤセ。 投稿日:2006/03/05(日) 01:20
- 待ってました〜!
よかった・・。
番外編、よかったです。石川さんの苦悩が目に浮かぶ・・。(;^▽^)<死んじゃう
安倍さんのマグのあたりがドキドキでした(笑)
次回も楽しみにしてますー!
- 182 名前:62 投稿日:2006/03/09(木) 15:33
- この番外編を読んでから本編を読み返すとなかなか深いなぁ
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/05(水) 13:16
- 続きまってますよ〜!!
- 184 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/05(水) 23:45
- 「明日?うん大丈夫だよきっと安倍さんも喜んでくれるよ」
携帯を耳に付けたまま梨華はカレンダーを見た。
「時間無いからね〜安倍さんの卒業まで・・・・うんじゃあねお休み」
ピッ
通話を終え携帯を折りたたむと卓上の鏡を覗いて髪を梳かし始めた。
「誰〜?」
ベッドから声がする。
「麻琴です。5期一同で卒業祝いに何か贈りたいけど
安倍さんの迷惑にならないかって」
「そんなの要らないべさ」
「そういう訳には行かないですよ気持ちの問題ですから」
梨華は髪を整え終わると空のマグカップを2つ持って台所に立った。
軽く濯いだ後に火の元、ガスの元栓をチェック。
玄関に行き戸締りをチェックすると無駄な灯りを消していった。
再びリビングへ。
ここから見る、この風景がいまだに信じられない。
ベッドの上でうつ伏せになって雑誌を読んでる安倍さん。
「ん?寝るのかい?」
梨華の視線に気づいたなつみは雑誌を閉じると枕元に投げた。
「あ、ハイ失礼します」
梨華はゆっくりベッドに近づいてなつみの体をまたいだ。
ビクッ
なつみの体が微かに震えたが気づかない振りをする。
梨華となつみはベッドで向き合うように横たわる。
「おやすみ梨華ちゃん」
「おやすみなさい安倍さん」
枕元のスタンドをオレンジ色にすると小さな寝息が聞こえてきた。
- 185 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/05(水) 23:47
- いつもの事だけど・・・・もう寝ちゃった。
就寝前に、なつみの寝顔を見るのが梨華の日課になっていた。
あの日から時間が合う限り同じベッドで一緒に寝ている。
ただ、体に触れるような事は一切していない。
本当に寝るだけ。
それは自分の中で固く誓ったこと。
本人の意に反して求める様なことは絶対にしないと・・・・
性衝動は起きなかった。
安倍さんの寝顔を見てると眠くなって寝てしまう。
あの日
安倍さんが始めて一緒に住むと言ってくれた日。
あの後もいろいろあった・・・・
- 186 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/05(水) 23:50
-
安倍さん特製シチューを片付け終わって寝床が無いことに気づいた。
ベッド・・・・昨晩の舞台となったベッドはもう使いたくなかった。
私はもちろん安倍さんも寝かせたくなかった。
思い出したくも出させたくも無かった・・・・
だから、どこに寝るか困った。
元々寝に帰るだけの部屋なので広いわりに何も無かった。
TVとソファ、テーブル、クローゼットくらい
殺風景な部屋は無駄に空間は多くても休める所は乏しかった。
「ごめん、なっち考え無しでさ・・・・」
安倍さんを困らせえるわけにいかない。
「安倍さんソファを使って下さい私は違う部屋で寝ますから」
「違う部屋って・・・・床で寝るの?だったらなっちが床にするよ!
この家は梨華ちゃん家なんだから」
「駄目です!安倍さん卒業前の大事な体じゃないですか!」
「梨華ちゃんだって、なっち卒業の時カゼ引いてたら困るよ」
すったもんだの末。
リビングのソファがベッド機能を持っていた事を思い出した。
帰宅後直ぐゴロンと横になれるように買った大きめのソファ。
レバーをグッと押すとカチカチカチと背もたれが倒れていく。
「わっ!凄〜い」
安倍さんの歓声をBGMにリビングに平らなソファが出現した。
シーツを掛けるとベッドと変わらなかった。
買い置きのタオルケットに番組の賞品だった未開封の羽毛布団。
テーブルを挟んでTVの対面にベッドが出来上がった。
- 187 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/05(水) 23:53
-
「梨華ちゃん凄いね〜あっという間にベッド作っちゃったべさ」
ホント凄い・・・・私に、こんな行動力があるなんて思わなかった。
「これなら一緒に寝られるね」
「・・・・ハイそうですね」
大き過ぎるソファを勝手に購入したパパに文句を言ってた、
場面を思い出していたため曖昧な返事をした。
えっ!・・・・一緒に!!!!
「なっち昨日の水玉のパジャマに着替えてくるね」
安倍さんはまるで遠足みたいにウキウキしてる。
一緒って昨日あんな事があったのに一緒って・・・・
ボォー
とする梨華の前をパジャマ姿のなつみがソファベッドに飛び乗った。
そのままスイスイ泳ぐ。
「いい感じだよ〜梨華ちゃんも着替えておいで今日は早めに寝よう」
「あ、ハイ・・・・」
寝室に行って昨日は袖を通すことの無かったパジャマを手に取った。
安倍さんは私を信頼してくれてる。
梨華ちゃんはそういう子じゃない!って・・・・だから・・・・
でも昨日の今日で身の危険を感じ無いのだろうか。
それとも・・・・期待してる?
この場合の寝るは普通の寝るじゃなくて・・・・
私ってバカじゃないの!
梨華は自分の考えを打ち消すようにブンブン頭を振る。
- 188 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/05(水) 23:56
- 私はフラれたんだよ。
これ以上安倍さんの優しさに甘えるわけには行かないでしょ。
眠たいから寝る。
それ以外に何があるの?
梨華は服を脱ぎ捨てるとヒラヒラのピンクのパジャマに着替えた。
「わあっ!何処で買ったの?って感じだね。似合うから良いけどさ」
安倍さんの言葉にくすぐったさを覚える。
「保田さんが紹介してくれたんです。安倍さんもいかがですか?」
「ドテッ!圭ちゃんのネグリジェのお店かい、なっちはいいよ〜」
「カワイイの似合うと思いますけど・・・・」
「なっちはね〜サイズがさ〜」
「そうですか」
確かに安倍さんの身長だと子供服の方が需要がありそうだ。
「・・・・じゃあ寝よか」
「ハイ、お部屋の灯りは真っ暗にしますか?それとも付けっ放し?」
「う〜ん・・・・梨華ちゃんは普段どうしてんの?」
「私は真っ暗で」
「じゃあソレでイイべさ!」
「ハイ・・・・」
ピッ
蛍光灯のリモコンを操作するとリビングは一瞬で暗闇に包まれた。
- 189 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/05(水) 23:59
-
「エ〜ト失礼します」
先に部屋を暗くしてしまったので手探りでベッドに登る。
ギシッ
ソファベッドが軋む音がする。
「フフフ何かさ修学旅行とか思い出さない?」
暗闇から安倍さんの楽しげな声が聞こえる。
「・・・・そうですね・・・・」
どうしてもキャッキャッと楽しむ気になれない。
私が意識し過ぎなのは分かる。
でも、安倍さんは意識しなさ過ぎだと思う。
せめて釘を刺しておいてくれればイイのに。
(一緒に寝るけど昨日みたいなことはしないでって・・・・)
かといって、
ソレを自分から要求するのは、あまりにも勇気が必要だった。
左側に寝るなつみと真ん中に一定の距離を置いて右側に寝る梨華。
緊張でカチコチの梨華は横目で様子を伺う。
もう寝たのかな?
ソッとなつみに背を向けて横向きになった。
次の瞬間。
梨華は背中に温もりを感じた。
何?
緊張が全身を突き抜ける。
安倍さんの・・・・おでこ?・・・・
背中に感じる感触と位置から考えて間違いなかった。
ドキドキドキドキ
早鐘のように心臓が鼓動する。
「あ安倍さん、・・・・あ、あの〜」
声が裏返ってるのが分かる。
- 190 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:01
- 私を・・・・求めてる?
まさか、そんなはず。
そうしてる間にも背中越しにジンワリと体温が伝わってくる。
バタッ
突然なつみの手が顔に触れ梨華は背中から抱きつかれた。
「キャア・・・・」
飛び起きた梨華はビックリして振り返った。
安倍さんは寝ていた。
「・・・・」
梨華が勝手に定めた中央の境界線をはみ出して横向きに寝ていた。
あまりに的外れだった自分の考えに暗闇で赤面する。
そういえば安倍さんの寝相は聞きしに勝るもの凄さだとか・・・・
ハアッ
暗闇の中でため息をつく。
絶対手は出さない。
ただ寝るだけ、
と心に決めたのに変な事考えて、何て私は意志が弱いんだろ。
「む・・・・」
なつみは何か寝言を呟くとゴロンと反対側に寝返りを打った。
今度は逆に広くなり過ぎたスペースに梨華は再度足から入った。
闇に慣れてきた目になつみの寝顔が映る。
幸せそう・・・・
少し微笑んだまま眠る安倍さん。
それは休憩時間や移動中に見る寝顔と明らかに違うように思えた。
全てのプレッシャーから解き放たれたような安らいだ表情。
癒されるなあ。
もし、
この寝顔をもっと早くに見ていればあんな過ち犯さなかったのに。
- 191 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:04
-
う〜ん!と伸びをして両手をいっぱいに伸ばした。
安倍さんにぶつかる!
慌てて両手を引っ込めるが何にも両手に触らなかった。
あれ?
広いソファベッドに一人で横たわってる事に気づいた。
カーテン越しに窓から差し込む光が明るい。
朝・・・・になったのかな?
トントントントン
ジュー
何かを連想させる物音に飛び起きる。
「あ安倍さん何してるんですか?」
「お、梨華ちゃん、おはよ〜何って朝ごはんだべ」
いけない!昨日安倍さんの寝顔見ててそのまま寝ちゃったんだ!
「私がやりますから安倍さんは休んでてください」
ベッドから飛び降りて台所に急いだ。
早く起きて安倍さんの朝ごはんを作るつもりだったのに・・・・
「いいよぉ〜もう終わるから梨華ちゃん顔洗っといで」
屈託無く笑うエプロン姿の安倍さん。
手元を見れば本当にもう終わりそうだった。
ハア〜私はつくづくダメだな。
- 192 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:06
- 「いただきま〜す」
「いただくべさ」
向かい合って朝食を食べる。
「あっ!温かい手作りだ・・・・」
「なんだい手作りって?さては料理全然しないんでしょう!」
なつみはジッと梨華を見た。
「ハイ・・・・すいません・・・・貰ってきたロケ弁とか・・・・」
不用意な一言に後悔する。
「な〜んてねウソウソなっちも普段はロケ弁の余りで済ましてんだ
1人だとお料理ってする気にならないでしょ」
途端に悪戯っぽい目をするなつみ。
「何だ!安倍さんもですか〜
毎日お料理してるんだって思ったからビックリしました」
「居候だからねぇ・・・・でもこれからも毎日って訳には・・・・」
なつみが済まなそうな顔をした。
「とんでもないです!
卒業控えて忙しい安倍さんに料理しろなんて言いません!
私がしますから・・・・自信ないけど・・・・
あと居候とかやめましょう。
無理して同居してもらったようなもんですから」
梨華は慌てて早口で捲くし立てた。
「フフッ・・・・梨華ちゃんありがとう」
なつみはニッコリ笑った。
ありがとうはコッチの方ですよ。
朝一でその笑顔が見れるなんて凄い幸せです。
梨華は朝から頬を赤らめた。
- 193 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:08
-
「それじゃ先行くね」
なつみがエプロンを外すとその下は、すでに着替え終わっていた。
「あ・・・・」
梨華はパジャマのままの自分に気づいた。
「行ってきま〜す」
コートを羽織るとバッグを片手になつみは玄関を飛び出していった。
バタン
一緒に・・・・
梨華は見送りながらその言葉を飲み込んでいた。
- 194 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:10
-
「お〜いエスケープ娘が来たぞ〜」
矢口さんの言葉で自分の立場を思い出した。
足を組んで座ってる飯田さんの元に真っ先に向かう。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。あのぉ〜そのぉ〜・・・・」
「うん、まあ若いうちは色々あるよ・・・・なっちは複雑だから」
飯田さんは深く頭を下げた私を慰めるような口調で語った。
やっぱり私が安倍さんに告白した事は知ってるらしかった。
その後の展開は知らないだろうけど・・・・
「5,4,3」
「セーフやあ!」
「遅刻ギリギリセーフれす」
ののとあいぼんが駆け込んでくる。
「2,1,0ブッブーこっから先は遅刻ね!」
矢口が時計を見ながら楽屋入り口を通せんぼする。
「あ〜!子供組は撮影終わってるから遅くてもいいって」
通せんぼ直後に現れた麻琴が言い訳を始めた。
「子供組もみんな来てるからダメー!掃除でもやってもらおうか」
矢口から渡されたモップを手に渋々麻琴が床を拭き始めた。
これで全員揃・・・・ってない。
「・・・・安倍さんは・・・・」
「何かウチらが喋った事も無い偉い人たちに連れて行かれたよ」
美貴ちゃんが興味無さそうに答えた。
- 195 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:13
- 「あっ!安倍さん」
安倍さんが笑顔で楽屋に入ってきた。
「お〜麻琴どうしたべさ」
微笑みかける梨華。
なつみは微笑みながら・・・・梨華を通過した。
無視・・・・シカトされた・・・・
「何!遅刻して矢口に怒られたの?」
「1秒ですよ安倍さん!しかも子供組は昨日の機材トラブルで
遅れた大人組の仕事待ってるだけですよ〜」
「遅刻は遅刻!待つのも仕事!」
「矢口〜よっちゃんだけ居ないべ?」
「ありえないくらい大胆に遅刻してるよ」
すんなり場の空気に溶け込むなつみ。
梨華は賑わい始めた背後を感じながら昨夜の事を思い出していた。
- 196 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:15
-
「秘密ですか?」
「そんな大げさじゃないけど、一緒に住むこと内緒にして欲しいの」
「どうしてですか?」
反射的に聞いた。
安倍さんの目が盛大にグルッと泳いだ。
質問されるとは思わなかったらしい。
少しの沈黙の後に呟くように答えた。
「グループ内恋愛は禁止だべさ・・・・」
・・・・そういえばそんなルールあったような気がする。
カビが生えたような誰も覚えてない娘。内ルール。
「恋愛と仕事がゴッチャになっちゃう年頃ってあるでしょ、だから
なっちが率先して破るわけにはいかないから小さい子も居るし・・・・」
困り顔の安倍さん。
確かに安倍さんが何かを始めると私も!と続く子達は多い。
アチコチで恋愛が始まってケジメが付かなくなりそうな予感はする。
現に娘内で恋愛してる子は・・・・表向きには居ない。
忘れられたようなルールでも効力は在るのかもしれない。
「どうかな?」
「ええ、私は全然構わないですよ」
別に安倍さんとの同居を自慢して回りたいわけじゃない。
フラれたのに何で一緒に住む事になったの?
って聞かれたら困るのは私の方。
みんなに上手く説明できそうに無い・・・・
- 197 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:19
-
「あらら・・・・梨華ちゃん」
なつみにスルーされた梨華を唯一見ていた藤本が困惑の声を出した。
クスッ
「ええええ〜キショ!」
何故か微笑んだ梨華を藤本は理解出来無いらしかった。
確かに内緒にするって約束だったけど、
こんなに豪快に無視しなくたっていいのに。
女優さんだから?
それとも単に素直過ぎるのかな・・・・
「カオリの撮影終ったら次よっしぃ〜の番なのにまだ来ない!」
「誰か連絡・・・・」
携帯を取り出した矢口の前に人影が現れた。
「ふっふっふ満を持して吉澤参上!
昨日要領良く早引けした梨華ちゃんにヒントを得て、要領良く遅刻!
待ち時間を無駄無く使い自分の番に颯爽と現る!名づけて・・・・」
「バカ言ってないで遅刻は遅刻!ホラ掃除しろ!」
イイ作戦なのにとブツブツ言いながらモップを掛けるよっちゃん、
楽屋は笑いの渦に巻き込まれた。
結局その日、安倍さんは1度も目を合わせてはくれなかった。
- 198 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:22
-
あれから1週間が経過した。
よくよく考えてみれば一緒に住む理由がサッパリ分からない。
安倍さんは先の私の行動をスキンシップ不足と理解したらしい。
だったら仕事場で一緒になった時に幾らだって・・・・
でも安倍さんは仕事先では以前よりも構ってくれなくなった。
その分、家に帰った時は会話できるようになったけど・・・・
対応がとても中途半端で変に感じる。
グループ内恋愛禁止ルールを破ってると誤解されかねない同居生活。
後ろめたいのかも知れない。
安倍さんが私との同居を決めた理由。
一緒に生活していく中で分かった事が2つある。
1つは私の都合。
私が仕事を放り出した日。
あのタイミングで安倍さんに会えなかったら私は娘に居なかった。
安倍さんより早く卒業・・・・イヤ脱退していた。
自分に、全てに絶望して。
一緒に住もうと言ってくれたから頑張ろうって思えた。
安倍さんを送り出すのが私の務め。
精一杯の恩返し。
どんな事でもお手伝いしたい。
2つ目は安倍さんの事情。
- 199 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:27
-
「なっちさ卒業発表して少ししてからかな・・・・寝れなくなったの」
安倍さんとの寝物語を思い出す。
「最初はヘトヘトに疲れたらいつの間にか寝れたんだけどね、
そのうち何やっても寝れなくなってきてさ
睡眠薬を処方してもらったんだけど段々に効かなくなってきて・・・・」
「体調も悪化してきてさ、卒業までもう少しだから我慢我慢って、
でも最近特に酷くてウトウトするともう朝で、何か辛くて、
みんなと離れるのが寂しいのかなとか考えちゃって・・・・」
それで分かった。
あの日の夜、睡眠薬を飲んだはずの安倍さんが突然目覚めたわけ。
山のような薬袋のわけ。
そんな安倍さんが久しぶりに安眠出来た日・・・・
それが、この家に始めて来て・・・・朝を迎えた日だった。
- 200 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:30
- それは私の暴走した行為のお陰?
だとしても私自身が認めるわけにはいかない。
そんな私の葛藤は安倍さんにとって無意味だった。
何故なら安倍さんは安眠できた理由が私の体温だと認識したから・・・・
「なっちが寝てると突然体が斜めに傾いてねぇ
あれえ・・・・梨華ちゃん寝返り打ったんだって夢うつつに感じてさ
自分のじゃない寝息が聞こえたり・・・・1人じゃないってか
何言ってんだろうねアハハ」
言いながら少し照れた安倍さん。
「何ていうか、人の体温とか心臓の音って安心するね・・・・」
安倍さんがやっと見つけた安眠マクラが私だったのかもしれない。
時に蹴られ、
時に抱きつかれる存在。
隣で寝てくれれば誰でも良かったのかもしれない。
それでも役に立ってるのならそれでいい。
毎食後テーブルにズラッと並べたお薬を飲む安倍さんを見る度に
そう思うようになった・・・・
- 201 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:32
-
ボシャアッ
何かが水につかる鈍い音がした。
キッチンで夕食の後片付けをしていた梨華は振り向いた。
「安倍さ・・・・」
なつみは御味噌汁のお椀に顔を突っ込んで・・・・寝ていた。
大変!
梨華は慌てて駆け寄るとなつみを抱き起こした。
イスに座ったなつみはグッタリ仰向けになったまま目を覚まさない。
「安倍さん!安倍さん!しっかりして下さい!」
耳元で叫んでも無反応。
他のメンバーならペチペチ頬を叩くのに安倍さんには出来ない。
とりあえず御味噌汁まみれの安倍さんの顔と零した分を拭き取った。
さらに近寄ろうとした時だった。
「あ痛っ!」
梨華の足に何かがツンと刺さった。
寝ているのにも拘らずなつみが握り締めているお箸だった。
赤ちゃんは寝ながら食べて食べながら寝てしまう。
食事の最中にスプーンやお箸を握り締めたまま。
新加入の頃の私はそうだった。
部活動や学校とは比べ物にならない芸能界という環境。
気力と体力を極限まで使い果たし帰宅した時には疲れ果てていた。
眠い目を擦り無理やり夕飯を食べ始めても途中で寝てしまう。
梨華が赤ちゃんの時みたい・・・・その度ママにからかわれた。
2,3ヶ月もすれば仕事にも慣れてそんな事は無くなった。
勿論安倍さんは新人じゃ無い。
卒業スペシャル等のお仕事。
娘としての通常のお仕事。
卒業後のソロのお仕事。
全部を同時進行するスケジュールが安倍さんを疲労困憊にしていた。
- 202 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:37
- 安倍さんの右手からギュッと握られていたお箸を取り外す。
そして一瞬途方にくれる。
ベッドまで運んで寝かせる必要がある。
触っても・・・・いいのかな?
抱き上げても・・・・
躊躇しててもしょうがない。
「よいしょっと!」
梨華はグニャッとなってるなつみをイスから抱き上げる。
非力な梨華の腕は重みに支えきれずヨタヨタッとよろけた。
こんな時に力強い腕が無性に欲しくなる。
せめてよっちゃんくらいの力があればこれくらい何て事無いのに。
安倍さんを抱き・・・・というより引きずるようにベッドに運ぶ。
ドサッア
「ん?ふぇっ〜・・・・はぁっ?」
それまで何をしても目覚めなかったのに、
ベッドに寝かせたショックで安倍さんが目を覚ました。
ギクッ!
梨華は固まった。
安倍さんを運んだ直後の肩と腰に手を回して密着した姿勢・・・・
違います!
変な事をしようとしたんじゃありません!
固まって声にはならなかった。
これ以上余計なストレスを与えたくは無かった。
- 203 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:39
- 「・・・・ん?朝ぁ?・・・・」
なつみはモゾモゾと起き上がろうとした。
ホッ
誤解はされなかったみたい。
「違いますよ!まだ夜です。寝ててイイですよ」
なつみはボ〜ッと梨華を見つめていた。
が、フ〜ッと息を吐くと目を閉じて再び眠りについた。
寝ちゃった・・・・
梨華はゆっくりなつみの体の下から手を引き抜くと布団をかけた。
忍び足でその場を離れようとして・・・・つんのめった。
安らかな寝顔のなつみの右手は今度はお箸の代わりに、
ギュウッと梨華のパジャマの裾を掴んでいた。
本当に赤ちゃんみたい。
梨華の顔がほころんだ。
ハイハイ!只今マクラをお持ちしま〜す。
テーブルには安倍さんが食べ残した夕飯がまだ残っていた。
片付けるの明日の朝でいいっか。
パジャマを握ってるなつみの手を優しく外すとベッドに潜り込んだ。
- 204 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/04/06(木) 00:41
-
この地獄から安倍さんを解放する手段が1つだけある。
早く卒業すること。
そうすれば娘。関連の仕事は無くなりソロ活動一辺倒になる。
でもそれは、
もう2度と同じステージで歌えないことを意味していた。
疲れ果てる安倍さんを楽にしてあげたい。
だけど、まだ卒業して欲しくない・・・・矛盾してる。
ベッドの中で梨華は隣に寝てるなつみの方を向いた。
寝息も聞こえない文字通り死んだように眠ってる。
サラサラ
梨華の右手がソッとなつみの前髪を撫でた。
これくらいならいいよね・・・・
- 205 名前:小さい家 投稿日:2006/04/06(木) 00:52
- 7回目の投稿でした。
いつもより少し短いかな〜でも区切りがいいので。
( T▽T)<全然良くないです
今回少し言葉の繋がりが変な箇所があります。
どうしても表現方法がピンと来なくてゴメンナサイです。
(●;´ー`)<何を今更いつもの事だべ
・・・・・・・・・・・
え〜気を取り直して次回はなっち卒業まで書く予定です。
- 206 名前:小さい家 投稿日:2006/04/06(木) 01:17
- >>180
N&Mさん
(●´ー`)<5回目のレスありがとうだべさ
( ;^▽^)<なちりかの暮らしと言うより仕事の合間の暮らしでした
(●´ー`)<でも2人の距離は縮まったべ
( T▽T)<・・・・
>>181
アヤセ。さん
(●´ー`)<4度目のレスありがとうだべ
( T▽T)<私の苦悩分かって頂いて嬉しいです
(●;´ー`)<この小説マグカップが頻繁に出てくる事に気づいたべ
( *^▽^)<今回も出てますね
>>182
62さん
( ^▽^)<4回目のレスありがとうございます
(●´ー`)<深いって言ってくれると伏線張った甲斐があるべさ
( ;^▽^)<あまり読み返すと誤字が見つかっちゃうので程々に
>>183
名無飼育さん
( ;^▽^)<待たせちゃってスイマセンです
(●´ー`)<でも続き待ってくれて嬉しいべさ
- 207 名前:62 投稿日:2006/04/07(金) 00:23
- 更新キテタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
これからなちりかがどうなっていくのか
ワクワクテカテカしながら次回更新も楽しみに待たせていただくぜ
- 208 名前:アヤセ。 投稿日:2006/04/07(金) 02:23
- 更新!!待っておりました〜。
石川さん、ほんっと安倍さん好きなのね・・。安倍さんも期待させすぎ(笑
幸せになるといいなぁ・・。
次回も待ってまーす!
- 209 名前:N&M 投稿日:2006/04/07(金) 10:40
- 更新だゎーァ
次回はついに!という感じですが…
んー。どうなるんですかね…。
次回も楽しみにしてますっ
- 210 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:40
-
ジリリリリ
五月蝿いな〜!
バンッと目覚ましを押して、その行動が3回目なのに気づいた。
あれ?
今日は午後のレッスンだけなのに何で鳴ってたの?
サアアアアアー
梨華はガバッと跳ね起きた。
私じゃない!
安倍さんのスケジュールだ!
テーブルにある卓上カレンダーを慌てて手に取った。
・ドラマ初顔合わせ
ヒャー
一番遅刻しちゃいけない日じゃないの!
「安倍さん起きてください安倍さん!遅れちゃいます!」
隣で死んだように寝てるなつみを揺り動かした。
「・・・・」
ようやく目を擦って上体を起こした安倍さん。
梨華は携帯を手に取るとタクシー会社に繋いだ。
「もしもし、あ、UFAの石川です。いつもお世話になってます。
配車お願いします。ハイ、ハイヤーで5分後?分かりました」
ピッと携帯を切ってなつみを振り返る。
「安倍さん食べてる時間は無いけどギリギリ間に合いま・・・・」
なつみは横倒しになったまま二度寝していた。
- 211 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:43
-
「安倍さん!安倍さん!」
よっこらしょっと、寝ているなつみの両手を引っ張っる。
「・・・・」
ドロ〜ンとした目には起きる気配が全く感じられない。
寝かせてあげたいのは山々だけど今日はマズイ。
梨華はなつみの背後に回ると腰に手をかけベッドから押し出した。
「よいしょぉ・・・・安倍さん起きてますか?」
なつみはベッドから降りて両足で立ったもののボーッとしたままだ。
梨華はなつみの背中を押してそのまま洗面所に連れて行く。
ジャー
水道の蛇口を開けて水を出す。
なつみの赤い歯ブラシに歯磨き粉をニュウッと乗せて握らせる。
「顔も洗ってくださいね、目が覚めますから・・・・」
言い残して梨華は洗面所を後にした。
さて・・・・居間のテーブルの上にあるドラマ進行表が目に止まった。
そうだ昨日、安倍さんに見せてもらったんだっけ・・・・
コレを忘れてったら一大事!
なつみのカバンに仕舞い込と、枕元にある台本にも気づいた。
コレも!
なつみが寝る直前まで読んでた台本もカバンに仕舞う。
あと忘れ物は・・・・ティッシュを多めに入れておこうかな。
そうだ私服!
どうせ衣装に着替えるとはいえドラマ初顔合わせだ。
スタジオ入りする時の私服は印象が強くなる。
梨華はクローゼットのある部屋に駆け込んだ。
- 212 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:45
-
初対面でインパクトを与えなきゃいけない。
安倍なつみココにあり!
みたいな・・・・
安倍さんの服を次々引っ張り出して見る。
ピンクのラメ、ピンクの帽子、ピンク・・・・
私の好みじゃダメなのよ!
こんな時に自分のセンスの無さを憂う。
やっぱり勝負服だからこのグリーンのミニスカートかな。
・・・・男性スタッフのイヤらしい視線が脳裏に浮かぶ。
ダメダメダメダメ!
そんな目で初対面の安倍さんを見て欲しくない。
ミニスカートをポイッと投げ捨てた。
次いで光沢があるブラウスを手に取る。
これでネックレス首にかけて下はレザーのパンツでキラキラさせる。
・・・・年配の大女優さんも共演者に居たなぁ・・・・
何!あの娘!キラキラさせちゃって遊び半分のアイドル丸出しね!
ダメダメダメダメ!
あらぬ反感を買っちゃいそうだ。
今のアイデアも慌てて打ち消した。
どうしよう・・・・
- 213 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:46
- ハァ〜
私って本当に役立たず。
センスが悪いのがこんな所で足を引っ張るなんて・・・・
センスがイイ、例えば矢口さんだったらこんな苦労しないのに。
ハッ!
数日前に矢口さんがしてた服装を思い出した。
ジーパンにデニムシャツ目立た過ぎずにアグレッシブ。
ボーイッシュにしても安倍さんだからカワイクなっちゃう。
ドラマの役柄もオシャレっぽくない子だったし。
やる気満々って伝わるかもしれない。
よ〜し。
ジーパンにシャツを揃えてワンポイントのアクセサリ。
上に羽織るのは・・・・白!
白いデニムのショートコートこれでしょう。
決まった!
我ながら会心の作。
「安倍さ〜ん!チョット見て下さい!」
返事が無い。
なつみは歯ブラシを握り締めたまま未だ洗面所に居た。
- 214 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:48
- 「えっと・・・・」
歯磨きはした・・・・らしい。
歯ブラシから歯磨き粉が無くなっているから。
顔も洗った・・・・みたい。
パジャマの襟元と洗面所の床が盛大に濡れているし・・・・
それでもなつみは立ったまま寝ているっぽかった。
ブルルルル
バイブモードの携帯が震えた。
車が到着したんだ。
もう時間がホントに無い。
安倍さんの感想を聞くのは後回し。
洗面所からクローゼットの前に急いで連れて行く。
「着替え・・・・私が着替えさせますよ」
意を決してなつみのパジャマのボタンを上から外していく。
白い肌と下着が顕わになる、けど見惚れてる場合じゃない。
パジャマを脱がせるとシャツを着させボタンを1つずつはめていく。
次に梨華は膝立ちになりなつみのパジャマのズボンを脱がせる。
イスに座らせてソックスとジーパンを履かせた。
ジーパンはゴワゴワで手こずったが、
寝惚けたままのなつみがお尻を上げたり協力してくれた。
ネックレスを頭から通して白いショートコートを着せて・・・・
不意にモソモソと安倍さんが両目を擦った。
「・・・・っん?キノコたちは・・・・どこ?」
安倍さん・・・・寝惚けすぎです。
- 215 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:49
- 「ハイ行きますよ!」
パジャマ姿の梨華は自分もコートを羽織るとなつみの手を取った。
玄関に引っ張って靴を履かせるとカバンを抱えてドアを開けた。
「ふはぁ〜眩しい〜べさ」
朝の光が差し込むと流石になつみも目をパチパチさせる。
梨華は構わずにエレベーターのスイッチを押す。
ガコン
静かにエレベーターが駆動する音が響き扉が開いた。
下に降りるまでの間に梨華はなつみの襟元をキチッと直した。
ウィーン
扉が開くとマンション1階の玄関ホールをダッシュする。
手を引かれてなつみも後に続いた。
ホール正面にハイヤーがエンジンをかけたまま停車していた。
「すいませ〜ん!遅くなりました。汐留までお願いします」
運転手さんと挨拶すると後部ドアが自動的に開いた。
「さあ安倍さん?」
振り返るとなつみは、ふわぁ〜っと大あくびしていた。
後部座席に押し込んでカバンを膝の上に抱えさせた。
「じゃあ安倍さん行ってらっしゃい」
手を振る梨華をボンヤリ見つめるなつみ。
「・・・・あれ?今日何処行くんだべ?コンサリハ・・・・」
言い終わらない内にハイヤーは発車した。
- 216 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:51
- ・・・・車中で目は覚めるでしょう。
でも心配。
一緒に付いて行って・・・・そんな事出来ないの分かってるのに。
梨華は車が小さくなるまで見送った。
不意に通勤途中のサラリーマンにジロジロ見られてるのに気づいた。
何よ!
口を尖らしかけてハッと我に返った。
パジャマの上にコートを着てサンダルを引っ掛けただけの姿。
これじゃ水商売の人じゃん。
赤面した梨華は慌ててエレベーターホールに帰っていった。
3時間後。
梨華はレコーディングスタジオに居た。
安倍さんの卒業を3日後に控え、
新生娘。はもう既に再スタートしていた。
安倍さんを見送る暇も、卒業後を見守る時間も与えずに走り出す。
コレまでと同じように・・・・
- 217 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:53
-
「新曲のタイトルくらい漢字で書けるんだろうなバカ女にクソ女」
矢口が2人に話しかけた。
辻と加護は顔を見合わせうなづいた。
「まあ、何とか」
「それとなく・・・・書けるのれす」
「よーし・・・・今書いてみろ」
言うなり矢口は2人の歌詞カードを裏返して白紙の方を差し出す。
「えっ!今れすか」
「違う日に・・・・ならへんですか?」
「歌詞を昨日貰ったんだから今日書けるだろ!
自分達の歌ってる曲名が書けないってのは、
自分の名前が漢字で書けないくらい恥ずかしい事なんだからね」
腰に手を当て仁王立ちの矢口。
渋々シャーペンを握り白紙に向かう加護。
周りをグルッと見回し始めた辻。
「何にも書いてないよ!教室じゃないんだから」
いち早く辻の考えを見抜いた矢口の声が飛ぶ。
「出来た!多分コレや!」
「ど〜れ?これじゃ浪速だ!加護ちゃん惜しいけど間違い!」
「ロマンのろってロボットのろ、れすよね?」
「ロボットのロってどんな漢字だ!こう書くの覚えろ!」
矢口は業を煮やして 浪漫 と書いた。
- 218 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:55
- 「あ、分かってたんだよ〜知ってたよ〜・・・・」
ユニゾンで言い訳する辻と加護にソッポを向いた矢口が叫んだ。
「次!ガキさんとよっしぃ〜マイディアボーイ英語で書いて!」
「はあっ?ほぉっ?わわわわ私が何で・・・・ですか?」
予想しなかった指名に驚く新垣。
「バカ女とクソ女の次が地味にヤバイんだ下が居ると安心するし」
矢口は言いながら同じように歌詞カードを裏返した。
明らかにパニックになりながら新垣が書き込む。
「出来た?MY DOOR BOYこれじゃドアマンだ」
「あ〜・・・・今までカタカナで覚えてました」
「まあ辻加護に比べればマシな方だよ」
落ち込む新垣を矢口が励ます。
「ガキさんはダメだな、かっけー英語なんだからビシッと!」
吉澤が自信満々に矢口に見せる。
「MY DEATH BOYって死んでるわ!
新曲タイトルを誰もちゃんと書けないのかよっ」
「じゃあ矢口さんは書けるんですか?」
「たりまえだろ!」
- 219 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:57
-
「アレってなっちが居たらどうなってたかな・・・・」
飯田さんは私と同じ事を考えていた。
矢口さんを中心に騒ぎになってるスタジオブースの傍。
その喧騒から遠く離れた長椅子に座っている飯田さんと私。
あの中心には間違いなく安倍さんが居た。
私はいつもその風景を輪の外から眺めていた。
混ざりたいような、
ただただ遠目から眺めていたかった様な不思議な感情。
もうあの感情を覚える時間は戻って来ない。
「たぶん・・・・浪漫は書けたと思います安倍さん漢字得意だから
でも英語の方は・・・・どうでしょう?」
フフフッ
飯田さんが笑った。
また同じ事を考えていたみたい。
私と飯田さんの間には常に静かな時間が流れる。
退屈なんじゃなくてコレが私のポジション。
かつて喧騒の中心には安倍さん矢口さんそして、中澤さんが居た。
そして、私の横には保田さんごっちんが居た。
変わっていくんだ・・・・
- 220 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 20:58
-
かつて当たり前だった風景が思い出になったように、
安倍さんの居ないこの空間が当たり前になっていく・・・・
「浪漫って漢字の方は書けたんですよ!ホントなんです・・・・」
「信じるよガキさんはウソ言わないからね」
「のんも英語の方は書けたのれす」
「ウソ付け!お前が英語書けるわけ無いだろ!」
「矢口さん何でガキさんは信用してのんは信用してくれへんねん」
「じゃあ英語で1から10まで書いてみろ」
「・・・・それは次の機会に・・・・」
今の、この風景さえも半年後には思い出に変わるんだ。
「飯田さんが前に話してくれた
安倍さんの卒業を聞いて置いて行かれたって気持ち
分かるような気がします」
独り言のように呟いた。
「辻ちゃん加護ちゃんの卒業が決まったから?」
飯田さんが振り向いた。
「ハイ・・・・あの2人に置いて行かれた感じがして・・・・」
「私もなっちの次は自分って思ってたからね〜
今度は年下に置いていかれたよ〜歳を感じる」
卒業。
いつか私も決断する日が来るのだろうか・・・・
- 221 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:00
-
「午後からハロコン最終リハだね」
飯田さんが何故かおずおずと切り出した。
軽くうなづいた。
「3日ぶりになっちに会うね・・・・」
ズキッ
罪悪感。
飯田さんの中で私は安倍さんにフラれたままになってる。
実は今朝、寝惚けた安倍さんを送り出しました・・・・
って答えたら飯田さんはどんな顔をするんだろう。
そう言えばアレから安倍さん大丈夫だったかな?
車だから乗り過ごしは無いと思うけど、ちゃんと目覚めたかな。
私の服装のチョイスは間違ってなかったのかな・・・・
ガチャッ
「ハー・・・・歌いきったやよ」
レコーディングブースから高橋が出てきてグルグル両肩を回した。
「次、石川〜入って!」
「ハイ」
頬をパチパチと両手で叩いた。
迷ってる暇は無い今出来ることを全力でするだけ。
それが全てに繋がっていく。
- 222 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:01
- 午後リハーサル室。
いつもの様に御飯を少なめにして最終リハに備えた。
正反対にたらふく食べてるのの・・・・
本当にこの子は半年後に卒業できるんだろうか?
卒業って一人前って認められた人だけの・・・・
ガタッ
突然ののが昼食を中断して立ち上がると私の腰にしがみ付いた。
「オットット、な〜に?どしたの?のの」
ののは返事もせず私に引っ付いたまま隠れるように様子を伺う。
理由はすぐに分かった。
「安倍さんおはようございま〜す」
「おはよ〜亀ちゃん元気だった?」
「なっち久しぶり」
「カオとこんなに合えなかったの初めてくらいかな・・・・」
リハ部屋の入り口で皆に囲まれる安倍さん。
安倍さんに見つからないように私の陰に隠れながら、
ジーッと凝視するのの。
「辻!お前はお正月に久しぶりに会った親戚の子供か!」
矢口さんが笑いながら端的な表現をした。
- 223 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:02
- 安倍さんはすぐに気づいた。
「なに〜のの〜?なちみのこと忘れちゃったかい?」
私の前に来てののの顔を覗き込む安倍さん。
ブンブンブン
かぶりを振るのの。
「よ〜しおいで一緒に遊ぼう!」
安倍さんに手を引っ張られ恐る恐る付いて行くのの。
「あの子の人見知りは筋金入りだな3日くらいでこうなるか?
そう言えば圭ちゃんや裕ちゃんの時もああだったけ」
矢口さんがため息混じりに呟いた。
「こんなんで卒業当日どうすんだ・・・・」
「大泣きしちゃうかもしれませんね」
矢口さんと会話しながらののを見ていた。
アレは私だったかもしれない。
私も人見知りだから・・・・
卒業した安倍さんにどう接していいか分からなくなる。
だから告白を焦った。
元の関係じゃ絶対に人見知って関係が希薄になるから・・・・
紆余曲折の末に今は一緒に暮らせている。
もしそうでなかったら・・・・私もののと同じ反応をした。
- 224 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:04
-
・・・・一緒に暮らしてる。
恋人でも無いのに、いつまで一緒に暮らせるんだろう?
卒業と同時に同居も卒・・・・ブルッと小刻みに震えた。
「おっ!なっちの今日の服、中々センスいいじゃん!」
あっ・・・・ののの事ですっかり忘れてた。
「流行先取りって感じ?おいらも負けてらんないね」
そりゃ流行に敏感な矢口さんを参考にしましたからね・・・・
「ふふっ!でしょお、選んだ人の愛情が感じられるべさ」
・・・・愛情。
振り向きもせずに安倍さんは答えた。
「何だよ〜スタイリストさん任せかよ〜似合うからいいけどさ」
安倍さんと矢口さんの漫才みたいな会話は続いていた。
「石川さん暖房キツくてのぼせましたか?顔真っ赤ですよ?」
紺野が不思議そうに見ていた。
「あ、あ、あ、そうかなあ、熱いよね〜ハハハ・・・・」
「どうせエロイ事でも考えてたんだろ」
グッ
当たらずも遠からずのよっちゃんの言葉。
「何よ〜自分がそうだからって一緒にしないでよ!ねえ重さん」
「そうですよ吉澤さんのほうがいつもニヤニヤしてる」
「な・・・・そうかもしんないけどエロくはない」
楽しいとても楽しくて貴重な無駄な時間。
安倍さんが喜んでくれて皆が賑やかで楽しい空間。
終わってしまうのがウソのような幸せな時間・・・・
- 225 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:05
-
- 226 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:06
- 「白〜い・・・・・・・・」
- 227 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:07
-
卒業コンサートは終わった。
グループ内に蔓延した風邪。
体調を崩して万全じゃなかったメンバーも居た。
それでもみんな全力で走った。
それが全力で走り続けた安倍さんへのせめてもの礼儀。
ののは結局泣き崩れてボロボロになった。
私はののを気遣う余り肝心の安倍さんへの挨拶が真っ白になった。
言いたいことの半分も言えなかった。
それも私らしい挨拶だったみたい。
安倍さんはニコニコして見守っていてくれてたから・・・・
安倍さんは
ただ一人スポットライトを浴びて、
それに負けないくらい体中から光を発して輝いていた。
間違いなく世界で一番輝いてる女の子。
- 228 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:10
-
「帰んの?」
よっちゃんの声に呼び止められた。
未だステージ衣装のままのよっちゃんと私服に着替えた私。
「・・・・うん・・・・マズイかな・・・・」
「・・・・イヤ別にマズくないけど・・・・さ」
卒業コンサの後は何となく皆が残るのが慣習だった。
各々が卒業した人が、もう戻ってこないと噛み締める時間・・・・
それなのに帰ろうとする私が奇異に思われるのは当然だった。
コンサートが終わって関係者でごった返す舞台裏通路。
年少メンは帰らされスタッフは後片付けに取り掛かる。
暇なのは娘の年長メンバーのみ。
「・・・・」
ガヤガヤ声の中で2人の間だけ気まずい時間が流れた。
「ねえねえ、ぶっちゃけ私さ〜卒業って始めて体験するんだよね
保田さんの時はメンバーじゃなかったし、この後どうすんの?」
空気を気にもせず美貴ちゃんが割って入ってきた。
「この後・・・・何もないよ」
よっちゃんがボソッと答えた。
「えっ!何もって安倍さん囲んでお別れ会みたいのも無いの?」
よっちゃんが同意を求めるように私を見た。
「うん何も無い。これから安倍さんは卒業の取材に応じなきゃだし
実質ホントの意味でステージ上がお別れ会。
再会出来るのは2週間後のハロモニ収録かな」
私は静かに答えた。
- 229 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:11
- 「・・・・残ったメンバーで今後の話し合いがあるとか?」
「ソレも無いよ」
「・・・・じゃあ何で残ってんの?」
美貴ちゃんらしいストレートな質問だった。
何となく答えに詰まった。
よっちゃんを見ると10メートルほど先の突き当りを眺めていた。
腕組みをした飯田さんが居た。
交信もせずに廊下の壁を穴が開くほど真剣にジーッと見ていた。
バタン
荒々しく飯田さんとは反対側のドアが開いた。
「ほら、ラジオの時間に間に合わなくなる急いで!」
マネージャーさんの声に促され矢口さんが出てきた。
後ろ髪を引かれるような表情で出てきたドアを振り返りながら・・・・
「・・・・卒業を一番誰に伝えたいですか・・・・」
矢口さんが出てきたドアは小ホールに面していて、
安倍さんの囲み取材の真っ最中だった。
TVカメラと記者、レポーターの人が黒山の人だかり。
安倍さんの返答はざわめきの中で聞こえてこない。
バッタン
矢口さんが通ったドアが慣性に従い閉じるとざわめきも途切れた。
- 230 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:13
-
「何か・・・・う〜ん・・・・」
美貴ちゃんが言葉に詰まった。
2人の先輩の佇まいから何かを感じ取ったみたいだった。
きっと矢口さんは囲みの外をグルグル回っていたんだろう。
卒業する安倍さんを何度でも目に焼き付けようと・・・・
出発する直前まで。
静止してる飯田さんも気持ちは同じはず。
今までの、そして今日のことをシッカリ心に焼き付けている。
私は左手に持っていたカバンを右手に持ち直した。
「・・・・やっぱり帰んの?・・・・」
「ん・・・・今日は1人になりたいから・・・・」
それだけよっちゃんに言えた。
「そっか・・・・お疲れ様」
「お疲れ様」
私は報道陣とファンでごった返す会場を後にした。
- 231 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:14
-
私はマンションに帰宅していた。
物音1つしない静かなリビング。
少し前の卒業コンサートの喧騒が信じられないほど静か。
安倍さんは卒業コンサート後の夜は御家族と過ごされる。
これまでの道のりやココまでの苦労。
積もる話は沢山あるだろう。
当然のことだった。
私にソレを止める権利なんて無い。
安倍さんを支え続けてきたのは紛れも無く御家族なのだから。
ただ・・・・
漠然と待っている。
「一旦寄るね荷物置きたいから、でも一分くらいだべさ・・・・」
今朝、安倍さんが漏らした言葉。
現実になるかどうか分からない。
この世界スケジュールが押すのは当たり前。
安倍さんが望んでも却下されることは日常茶飯事。
卒業後のゴタゴタで些細な朝の約束なんて忘れてるかもしれない。
それでも待っていたい。
空振りに終わっても待っていたかった。
唯の1メンバーじゃない証として卒業後すぐ2人で合えるのならば。
- 232 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:16
-
TVを付けては消してを何度も繰り返した。
振り返る思い出は一杯あるはずなのに何も思い出せない。
明日になれば今さっきの光景がアチコチのTVに踊る。
あんなだったんだ・・・・
ボウッとなってる記憶が鮮明に蘇って刻み込まれる。
新聞も町行く人も安倍さん卒業の話題で持ちきりになる。
今はホンの少しの空白の時。
そうなる・・・・数時間・・・・前。
安倍さんは矢口さんのラジオで卒業報告を終えた。
もう深夜1時を過ぎた。
今頃コッチに向かってるのかな。
それとも・・・・
今日だけは携帯を使いたく無かった。
特別な日だから。
アリーナの方はどうなったんだろ・・・・
矢口さんは居ないとして飯田さんは残ってるのかな?
それと、よっちゃんと美貴ちゃん。
飯田さんは1人の世界に篭って会話にならないだろうな・・・・
やっぱり私ももうチョット居るべきだったかも。
保田さんの時はお姉さんメンバーだけで語ったもんなあ・・・・
- 233 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:17
-
真っ暗な夜道を滑るように黒塗りの車が走って行く。
東京でも、この時間帯は往来も殆ど無い。
車は規則正しく照らす街灯の中をスピードを落として行った。
停車した車からカバンと花束を抱えた人影が降りてきた。
明かりの灯った車内と話すとすぐに駆け出した。
ガコン
省エネモードになっていたエレベーターに電源が入る音がする。
1時間以上誰も使ってなかった証拠。
ウィーン
エレベーターは目的の階に到着した。
スゥー
自動扉が静かに左右に開いた。
「・・・・あ?・・・・」
エレベーターを一歩降りたなつみはビックリした。
目の前に梨華が居た。
「お帰りなさい・・・・」
梨華はごく自然に歩み寄ってきた。
「ただいま・・・・って何でココに居るんだい?
家の中で寝てると思ってたべ、こんな遅い時間だし」
なつみは不思議そうに小首を傾げた。
「何となく外で待ってました、ウチに居ても何もする事無くて」
室内着のジャージの上からコートを羽織った姿で梨華は答えた。
- 234 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:19
- 「外って・・・・なっちが帰ってくる時間知らなかったのに?
チョット待って手を出してごらん!」
なつみは持っていた鞄を下に置くと梨華の左手を無理やり取った。
「手が冷た〜い!ってどのくらい外に居たのさ!」
「ほんのチョットですよ・・・・」
「ほんの・・・・何時間?」
「ほんの1時間と少し・・・・だけです」
「カゼ引いちゃうじゃない!何やってんだい」
「今までの色んなこと考えてたら急に夜風に当たりたくなって、
安倍さんが車で来るのも上から見れたし退屈しませんでした」
梨華はフッと微笑んだ。
「・・・・なっちが今日帰らなかったらどうする気だったの?」
「・・・・そうしたら・・・・やっぱりココに居たかな・・・・」
「バカッ!寝ないと明日に響くよ」
真剣なのに目は笑ってる。
安倍さんのこの顔好きだな・・・・
「でも、今日は必ず戻ってくるつもりだったけどね、
絶対にコレ置きに帰ろうと思ってたし・・・・」
なつみは足元のカバンに視線を送った。
「何ですか?」
「けじめかな・・・・娘。の時に使ってたシューズとか色々入ってる
ソロになったら一新しようって思ってたから」
もう使わないんだ。
学生カバンを仕舞い込んだ日の事を思い出した。
- 235 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:20
- 「欲しいものがあったら使ってイイよ・・・・なっちのお古だけど」
屈託無く笑う安倍さんに寂しさを覚えた。
「本当に卒業しちゃったんですね、今朝まで娘。だったのに
もう娘。じゃないなんて・・・・とても不思議で・・・・」
「ん・・・・後輩がシッカリしてるからね・・・・安心だよ」
「明日から安倍さんが居ないなんて考えられなくて・・・・」
「・・・・明日からは梨華ちゃんが居ないと考えられないグループ
になるんだよ」
「・・・・」
「出来るよ、なっちが保証する」
出来るかどうかより安倍さんが居ないことが唯々・・・・
ガササッ
安倍さんが左腕に抱えたままの花束が音を立てた。
音で思い出したのか花束を右手に持ち替えると、
なつみは梨華にソッと差し出した。
「コレ・・・・」
それは安倍さん卒業記念の花束。
保田さんごっちん、の卒業生は勿論
芸能界も卒業した元メンバー全員を代表して
中澤さんから贈られた花束。
「受け取れません・・・・」
- 236 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:21
-
即座になつみが何をする気か察した梨華は軽く首を振った。
「娘。に貰って欲しいの、
娘。を愛した人たちから
娘。で頑張ったなっちへの想いが込められた贈り物だから」
なつみは梨華の腕の中に花束を託した。
「これから娘。で頑張る人に・・・・
一番頑張ってる梨華ちゃんに受け継いで欲しい・・・・」
娘。を受け継ぐ・・・・
梨華はギュッと花束を握った。
「大切にしてね・・・・ってもお花だから1週間で枯れちゃうけど」
「大丈夫分かってます・・・・一生心に刻みます」
コレはお花じゃない。
クヨクヨする事は卒業する人に失礼なこと。
「後は任せてください、立派にやり遂げて見せます」
梨華はなつみを真正面から見つめた。
「・・・・頼んだよ・・・・」
なつみの目が少し潤んだ。
- 237 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:23
- 「なっちって梨華ちゃんに頼ってばっかりだね、
梨華ちゃんが居なかったらまともに卒業できなかったと思う」
「そんな・・・・」
「ううん本当だよ、なっちギリギリまで我慢して活動してたし、
電池切れ寸前だったから・・・・
最後の1ヶ月梨華ちゃんが支えてくれたからゴール出来たんだよ」
謙遜・・・・じゃない。
同居してヘトヘトに疲労困憊した安倍さんを知ってる。
ベッドに寝かせたり起したり御飯を用意したり・・・・
私は少しだけでも役に立てた。
大好きなあなたの・・・・
「梨華ちゃん・・・・ありがとう」
なつみはユックリお辞儀した。
つい今しがたのコンサートで大勢の観客にしたように、
深夜マンションのエレベーターホールで梨華1人に向かって・・・・
梨華は言葉が出なかった。
ただ、そんな事無いですと意思表示するために首を振った。
腕の花束に顔を埋めながら・・・・
- 238 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:24
- パァー
階下の路上から遠慮がちにクラクションが鳴った。
「あは、車が怒ってる・・・・1分だけって約束忘れてたべさ」
寂しそうになつみが呟いた。
梨華は泣きそうな顔を花束から上げてなつみを見据えた。
「ハイ・・・・」
次に会えるのは2週間後。
完全に仕事と生活スタイルが変わり当分帰って来れなくなる。
「もう・・・・行かないと・・・・ね・・・・」
「・・・・ハイ・・・・」
寂しそうになつみがうつむいた。
梨華も頷いた。
しかしなつみは動こうとしない。
「・・・・」
「・・・・」
2人無言のまま時が止まった。
梨華は下を向くなつみの頭頂部を見つめていた
気の利いた言葉が何も出てこない自分を軽く恨む。
安倍さんは何を考えてるんだろ・・・・
私・・・・私は・・・・
パァーパァーン
2度目の催促は深夜にも拘らず少し大きめだった。
- 239 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:26
- ビクッ
音に反応したなつみが不意に上を向いた。
バチッと目が会う。
「あっ!」
どっちの声か分からない。
不意に視界が遮られた、イヤ自分で瞼を閉じて遮った。
何も見えなくなる。
音もしない何も感じない暗闇に突然放り出される。
でも自分のじゃない微かな息づかいを感じた。
不意に唇に感じる・・・・唇の感触。
ハアッ
暗闇の中に唇だけが存在するような錯覚。
ビリビリとした感覚が体中を突き抜けた。
目を開くとなつみの目も開いていく途中だった。
至近距離で・・・・
なつみは梨華の視線から逃れるように背を向けた。
その指が静かにボタンを押した。
ガコン
エレベーターが反応して上がってくる駆動音。
扉が開き中に入り閉じるまでなつみは一度も振り返らなかった。
ただ耳は真っ赤に染まっていた。
- 240 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:27
-
ウィィーン
遠くで扉が開く音。
エレベーターは1階に到着したらしい。
小さく人の叱責する声がする。
車のドアが開いて閉じる音が微かに響いた。
ブオオオ
車が発進して・・・・遠くへ・・・・走っていった。
梨華は立ち尽くしたままだった。
目の前の閉じたエレベーターのドアを見つめたまま固まっていた。
「・・・・何・・・・」
震える指先でソッと唇を撫でる。
ソコに残る温もりと香りが梨華を現実へと引き戻していく。
キスしちゃった・・・・
途端に全身の血液が逆流したかのような興奮を覚えた。
心臓がドキドキと鼓動しだし体中が火照り出す。
足がガクガク震えてヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。
安倍さんとキスした!
なんで?なんで?
何がどうなってキスしたの?
- 241 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:29
- 気が動転して曖昧になっていく記憶を蘇らせようと必死になる。
嬉しい・・・・
こんなに嬉しいのはコレが2人同時のキスだったから。
何の言葉も合図も無く。
あの瞬間、互いに同じ事を考えていた。
だからごく自然に引き寄せられるように・・・・気持ちが重なった。
唇から気持ちが伝わって・・・・伝えられた。
以前の無理やり奪ったキスとは比較にならない。
心と心が触れて初めて形になって生まれた行為。
リードしたのは・・・・
あ、安倍さんから?
私からだった?
両手で頬を押さえると真冬の深夜だというのに熱かった。
胸の高鳴りは最高潮になってる。
まるで幸せがソコから湧き出てるかのように。
きっと表情も崩れっぱなしに違いない。
他の人が見たらへんに思うほど・・・・
私って今どんな顔してるんだろ?
安倍さんが置いていったカバンを左手に持つと、
花束を抱えたまま走り出した。
自宅の部屋のドアを壊す勢いで開いた。
一刻も早く見たい。
ファーストキス・・・・そう安倍さんと初めてキスした自分の顔を。
- 242 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/05/14(日) 21:30
- とても幸せそうな顔をした女の子が洗面台の鏡の中に居た。
頬は紅潮し目はキラキラ輝いている。
胸に抱いたままの花束が彩りを添える。
そして何より顔中に広がった笑顔が喜びに満ち溢れている。
誰だって笑顔に出来そうな笑顔。
誰にでも力を与えられそうな笑顔。
そう、この子の笑顔は自信に満ちている。
いつもの不安そうな表情は何処へやら、
自分が最高に幸せだっていう自信に・・・・
安倍さんゴメンナサイ。
訂正します。
今日世界で一番輝いてた女の子は安倍さんじゃありませんでした。
輝いてるのは私です。
石川梨華です。
だって、世界で一番輝いている女の子とキスしたんですよ!
申し訳ないけど私が一番・・・・幸せです。
- 243 名前:小さい家 投稿日:2006/05/14(日) 21:43
- 8回目の投稿です。
予告通りなっち卒業まででした。
季節は春を迎えようとしてるのになちりかはマダ冬です。
結構リアルな世界観・・・・
( ;^▽^)<浪漫って発売が5月じゃなかった?
早い、早すぎるレコーデェイング・・・・
(●;´ー`)<なっちのドラマ顔合わせ1月入ってからなの?
遅い、遅すぎますね・・・・
えっと(汗)あまり深く考えないで下さいゴメン
- 244 名前:小さい家 投稿日:2006/05/14(日) 21:45
- >>207
62さん
( ^▽^)<5回目のレスありがとうございます
(●´ー`)<卒業しちゃったべさ
( ^▽^)<少しずつ安倍さんとの距離が縮まってきました
>>208
アヤセ。さん
(●´ー`)<5回目のレスありがとうだべ
( ^▽^)<幸せになりましたよ〜
(●´ー`)<めでたしめでたし
( ;^▽^)<まだまだ幸せになりたいです
>>209
N&Mさん
( ^▽^)<6回目のレスありがとうございます
(●´ー`)<ついに卒業しました
( ^▽^)<ついに・・・・
( *^▽^)<キャー恥ずかしい
(●*´ー`)<次回も期待して待ってて欲しいべさ
- 245 名前:小さい家 投稿日:2006/05/14(日) 21:48
- >>243
春を迎えよう×
春を終えよう○
それとレコーディングですね
誤字スミマセンm(_ _)m
- 246 名前:アヤセ。 投稿日:2006/05/15(月) 04:11
- わー!更新!!
安倍さん、卒業しましたねぇ。石川さんも幸せになれてよかった・・。
この先、どうなるのかますます楽しみです!!
( ^▽^)<ハッピー♪
- 247 名前:N&M 投稿日:2006/05/15(月) 16:20
- 更新だぁー!!
読んでるこっちも恥ずかしいw
石川さんよかった…。
このあともさらに気になりますねー
次回も楽しみにしてますッ
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 23:44
- 待ってますよー
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/16(金) 01:43
- まだかな??
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/16(金) 01:45
- ochi
- 251 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/26(月) 19:20
- 待ってます
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/12(水) 14:51
- まだかな・・・?
- 253 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:08
- アレから安倍さんとは全く会えなかった。
私は託された娘。で頑張る日々だったし、
安倍さんはソロの世界に踏み込んだばかりだった。
「あ、安倍さんだ!」
楽屋でTVを見ていた新垣が呟く。
TVで見る安倍さんの仕事は事前に知らないものが殆どになった。
もし家に安倍さんの持ち物が残されてなかったら、
私はもっと不安な日々を送ってたかもしれない。
でも・・・・
ソッと唇に触れてみる。
この証さえあれば何だって乗り越えられる。
「石川さんにはガッカリです」
ムッとした新垣が捨て台詞を吐いて通り過ぎた。
「・・・・何で?」
意味が分からない私は振り返った。
「なっち卒業したのにニヤニヤしてるからガキさん拗ねちゃった」
矢口さんが解説する。
あ、そういうことか・・・・
だって離れてるのに繋がってる感じがするんだもん。
「ま〜梨華ちゃんなっち苦手だからねニヤ付くのは理解出来るよ」
まーた矢口さんはそういう事を言う。
- 254 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:09
- でも安倍さんと私が同居してる事は矢口さんも知らないんだ。
そう考えるとチョットの優越感と罪悪感。
安倍さん今は何してるのかな?
携帯をクルクル回すけどメールする踏ん切りがつかない。
忙しいかもしれないし迷惑かも・・・・
「なちみ明日は山へロケなんだって〜」
ののの声が私の思考を切り裂いた。
えっ?
「何で知ってんのお?」
ののと会話してた麻琴の問いは私の問いと同じ。
「昨日寝る前にメールで会話したあ」
チョットお・・・・私が遠慮してメールを控えてる間に・・・・
「オイラも今朝メールした、明日は山の空気吸って来るって」
矢口さんまで!
いっつもそうだった。
私は安倍さんの都合と迷惑を考えに考えて何も出来なくなる。
その隙に仲良くなってるコノ2人。
- 255 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:10
-
そうだ。
私もメールしよう。
一緒に住んでるのに何を遠慮する必要があるのよ。
パカッ
携帯を開いて待ち受け画面を見ながら・・・・途方にくれた。
何を書こう・・・・
文面が堅苦しくなりそう、かといって気安いのもマズイと思う。
お仕事の話を聞こうか?
でも話したくないかもしれない。
私が悩みを打ち明けてアドバイスを求めたら・・・・
結果的に安倍さんの悩みを増やして困らせる可能性がある。
大体ののと矢口さんに加えて私もだと返信大変かも。
結局待ち受けを見つめたまま10分以上経っていた。
「安倍さんですね!」
背後から携帯を覗いて声をかけたのはガキさん。
ビックリして慌てる。
「どこがぁ?安倍さん?」
ガキさんの隣に居た高橋が不思議そうに私の携帯を覗き込んだ。
待ち受け画面は花束だった。
「安倍さん卒業の時の花束だよ見て分かんないの?オカシイよ」
「花束だけ見て安倍さん卒業のって分かる方がオカシイやよ!」
- 256 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:13
-
不満げな高橋を置しのけて新垣は梨華に握手を求めた。
「石川さんを信じてました」
「あ、どうも」
花束見て分かる子が居るなんて・・・・苦笑して握手するしかなかった。
あの花束は1週間ほどで萎れてしまった。
当たり前の事だけど・・・・だから携帯に収まっている。
安倍さんから私へのもう1つの証。
「ただいま〜」
誰も居ない我が家にその声は空しく響いた。
半年前なら当たり前なのにとても寂しく感じる。
安倍さんとはことごとく時間帯が合わなくなっていた。
私が2、3日帰れない間に安倍さんが家にいたり、
毎日帰れる日は安倍さんは帰ってこなかったりする。
娘。の時は同じ仕事をして一緒の時間を家で過ごせたのに・・・・
1人っきりのベッドはとても広く空虚。
元々2人で寝るためだったソファベッドに余計に孤独を感じる。
安倍さん1人で寝れてるんだろうか。
(人の体温って安心するね・・・・)
あの時の呟きを思い出す。
- 257 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:14
-
私の役目ってもう・・・・終わっちゃったの・・・・かな。
ブルルン
前触れも無く携帯が突然震えて床に落ちた。
拾い上げて見ると差出名は、
「・・・・安倍さん」
梨華ちゃん元気〜
急に1人になっちゃって最近寝れないよぉ
でも仕事は充実してるんだ
今はロケバスの中で待ち〜あっでも出番が来たみたい
バハハ〜イ
また、どう返事していいか困るメールを・・・・
何で言いたい事だけ言ってコッチの状況聞いてくれないんだろ。
もー安倍さんたら!
クスクスクス
携帯を握り締めたまま笑みがこぼれた。
- 258 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:16
-
不思議。
さっきまでの不安な気持ちがどっかに吹っ飛んじゃった。
1人じゃ寝れないって。
そりゃそうでしょう。
だって私が一緒に寝てないんですから、
安倍さんの寝相を受け止められるのは私だけですよ。
たった1通のメールでこんなに元気になれる。
大切なのは文面じゃないんだ。
気持ちなんだ・・・・
Dearあべさん
メールありがとうございます。
こちらからメール出来なくてスミマセン。
タイミングを逃しちゃって・・・・
私は娘。の新曲で頑張っています。
TVで見たら感想を聞かせてください。
お仕事大変だと思いますが、お体は大事にして下さい。
私も
あべさん居ないと寂しいです。
- 259 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:17
-
最初に梨華の親指が”Dearなっ・・・・”と打ちかけて止まる。
削除した後書き直した。
届け。
繋がっているんだ。
- 260 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:18
-
今日はハロモニ。
2週間ぶりに安倍さんに会える日。
それなのに相変わらずの無視。
そりゃあ分かりますけど・・・・
本番中に見詰め合って欲しいってゆうんじゃないんですよ。
仕事がすれ違って家で過ごせないんだから・・・・ねえ。
誰にも気づかれないように目配せのサインをくれたっていいのに。
なんて不満を感じていたら、
「安倍さんとケンカでもしてるんですか?」
って5期と6期の子達に異口同音に尋ねられた。
「だって休憩中にも会話しないし目も合わさないし・・・・」
えっと
偶然でしょ!と誤魔化しておいた。
「石川もなっち同様
後輩から絶えず注目される存在になったんだよ!」
と飯田さんが教えてくれた。
じゃあ目配せとか一発でバレるのかな?
まさか安倍さんはそこまで考えて・・・・
- 261 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:20
- ハロモニの収録が終わりメンバーは楽屋に引き上げた。
「あっこのクッキー美味しい」
「マジでデジママジデジマ」
たちまち楽屋においてあった人数分のクッキーは無くなり、
物足りなそうな紺野と麻琴。
「もう無くなっちゃいましたね」
「こういう時は人数多いとガッカリするなあ」
アレ?
こんな時に最も五月蝿いののは・・・・?
と思ったらクッキーを両手に抱えながら楽屋に入ってきた。
「あっ!ズルイ1人2枚のはずなのに!」
「のの!何やそのクッキーどこで見つけてきた?」
紺野とあいぼんが先を争って詰め寄る。
「えへへ〜なちみの楽屋にも同じ数だけあったれす」
全く悪知恵ばっかり働く。
「あっ!そういうことか」
駆け出そうとするあいぼんと続こうとするコンコン達。
「ちょっと安倍さんの許可は取ったの?」
「全然。なちみ打ち合わせで居ないから勝手に取ってきた」
美貴ちゃんの質問に苦も無く答えたのの。
- 262 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:21
- 途端にコンコン以下の動きが止まった。
「おお〜のの食いすぎや〜もう6枚しか無いわ〜」
唯一人動きを止めなかったあいぼんの声が隣の楽屋から響いた。
コンコンや麻琴たちは顔を見合わせるばかり。
そうだよね。
安倍さんの楽屋に遠慮無しに入るなんて無理だよね。
一緒に住んでる私だって不在でも緊張してしまう。
「別になっちはクッキーくらいで怒らないよ!行っといで」
矢口さんに促がされて、やっと隣の楽屋に入って行けた年少組。
私もまだ入った事の無い楽屋へ・・・・
そう、私が楽屋に遊びに行ければ問題は解決する。
そうすれば本番中とか気にしないで済むのに・・・・
それが出来ない事は分かってた。
前より打ち解けてきたつもり、
でも安倍さんが仕事の顔を見せると私は縮こまってしまう。
- 263 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:23
-
「のんちゃんはもう食べたでしょう」
「見つけたのはののれす」
醜いクッキーの取り合いが隣から聞こえる。
子供たちが恨めしい。
私も何も考えずに行動出来ればイイのに・・・・
ののみたいに安倍さんの楽屋に入り浸ってたい。
ってそれじゃあ皆にバレバレか。
アレレ?
安倍さんって卒業したし、もうグループじゃないんだよね。
私と安倍さんはグループの中と外なんだから
グループ内恋愛禁止ルールは適用外。
だったら堂々と・・・・
いつから同居してたの?って皆に聞かれたら困るかあ。
卒業と同時に付き合いだしたは無理がある。
やっぱり、もう少し時間を置いてからかな。
あっ忘れてた。
一緒に住んでるだけで付き合っては、いないんだっけ・・・・
- 264 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:24
-
結局、安倍さんと会話する事は無かった。
あ〜あ私は何でこうウジウジしてるんだろう。
梨華ちゃん帰りどうする?遊んでかない?
ってよっちゃんと美貴ちゃんに誘われたけど断った。
こういうウジウジした日は何やっても楽しくならないから。
突然嬉しくなったり寂しくなったり急に会いたくなったり、
そんな恋愛感情が全部自分の心の中だけで完結してるのが悲しい。
安倍さんの心に思い切って踏み込んで行けたら・・・
私の心に踏み込んでもらってもいいんだけど。
あ〜私って結局他人任せか。
ガチャッ
マンションのドアにカギを差してグイッと回そうとしたら、
勢いでドアが半分開いた。
やだ〜
今朝カギ閉め忘れたかな。
記憶を辿ろうとした瞬間、玄関から灯りが漏れた・・・・
- 265 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:26
-
漏れた灯りの中で玄関に脱ぎ捨てられた小さな靴。
2週間ぶりに見た青いスニーカー。
「安倍さん・・・・帰ってるんですかあ!」
思わず声を張り上げた。
靴を脱ぐのももどかしく、玄関からリビングに駆け込んだ。
なつみは寝ていた。
コートだけ脱いだ帰宅姿のままで、
床に座り込みソファに覆い被さるようにもたれて眠っていた。
慌てて静かに足音を立てないようにゆっくり近づく。
久しぶりにアップで見る安倍さん・・・・疲れが溜まってそうだった。
私はいつも安倍さんの寝顔ばっかりを見ている。
ううん違う。
前は見れなかった。
安心して眠る安倍さんを私は見れるようになったんだ。
- 266 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:28
- パチッ
音がしそうな勢いで安倍さんの瞼が開いた。
「あ、起こしちゃいました」
「ううん・・・・自然に目が覚めたべさ」
安倍さんはゆっくり体を起こした。
頬にソファの縫い目の跡が付いてる。
「目を開けたら梨華ちゃんがニヤニヤしててビックリしたよ」
グサッ
ニヤニヤって・・・・微笑んでたのに・・・・
「安倍さん今日はココに帰れないんじゃなかったんですか?」
「うん、だったんだけど雨でロケが中止になったの」
「そうなんですか!久しぶりに一緒に過ごせますね」
「・・・・うん」
浮かない表情の安倍さんが気になる。
「だって卒業以来ですよ家で会えるの・・・・泊まれるんですよね」
「ああそっか・・・・そんなになるっけ・・・・」
「そんなにって嬉しくないですか?」
「あ、ゴメン今日のロケが伸びた分、
明日から撮影が徹夜続きになりそうで少〜し憂鬱になっただけ」
- 267 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:30
-
何にも考えてなかった。
中止って事は後のスケジュールがキツくなるって事。
ドラマの場合はなおさら・・・・
のほほんと喜んでた私って凄く子供だ。
「や・・・・でも本当に久しぶりだよね〜娘。は最近どう?」
ショボンとして安倍さんに逆に気を使わせてしまった。
「えっと最近ですか、そうですね〜」
ココは名誉挽回、雰囲気を盛り上げる明るい話をしよう。
そうだクッキーの話があった。
「楽屋にクッキーが人数分用意してあったんです・・・・」
話してる途中でこのエピソードに私は出てこない事に気づいた。
「ののカワイイ〜その日は楽屋帰んなかったから知らなかったよ」
安倍さんが笑ってくれて場は和んだけど私は軽く凹んだ。
そのせいか、その後も会話がギクシャクとしか進まなかった。
- 268 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:31
-
「そろそろ寝よっか」
「・・・・ハイ」
ロケ順延なら明日は早い。
安倍さんに合わせるようにベッドに潜り込んだ。
でも頭の中をグルグルと想いが巡った。
私の話はオチが無くて笑え無い。
笑える話は私が登場しない。
安倍さんのソロ話を聞いても感心するだけで会話にならなかった。
無難にあいぼんとののの話で笑いに花を咲かせてる私・・・・
私はまともに安倍さんと会話ができてない。
何だかな〜
久しぶりの2人での就寝なのに心が晴れない。
私って本当に人付き合いが下手・・・・
せめて迷惑にならないように早めに寝よう。
梨華はギュッと目をつぶった。
久しぶりだったので梨華は眠りに付く時に、
なつみの寝顔を見る日課を忘れていた。
- 269 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/07/14(金) 01:32
-
真っ暗な部屋の中カーテンの隙間から月光が差し込む。
草も木も本当に眠っている時刻。
暗闇の静寂の中で音も無く影が身を起こした。
ベッドから身を起こした影はしばらくじっとしていたが、
やがてベッドを降りカーテンの隙間から外を眺めた。
不意に意を決したようにリビングを出て着替え始めた。
着替え終わると財布をテーブルの上に置き時刻を確認した。
ベッドを振り向き眠っているのを確認すると、
静かに玄関に向かった。
ガチャ
ギッ
カギを開け玄関のドアを開けると冷たい外気が体を包んだ。
静かにドアを閉じるとなつみは家を後にした。
- 270 名前:小さい家 投稿日:2006/07/14(金) 01:45
- 9回目の投稿でした。
今回大幅に遅れてしまってゴメンナサイm(_ _)m
予定通りに書き上がらなかったので、
予定の半分くらいの投稿になってしまいました。
(●´ー`)<何で遅れたんだべ?
( ^▽^)<コアラとカンガルーにダメージを受けたみたいです
(●´ー`)<頭突きで終わった大会のことだべか
( ^▽^)<ニワカファンなのにねえ〜
じ、次回は2人の距離に変化が起きる予定です。
たぶん
- 271 名前:小さい家 投稿日:2006/07/14(金) 01:48
- >>246
アヤセ。さん
(●´ー`)<6回目のレスありがとうだべさ
(;^▽^)<ハッピーになる予定が少し短くなってしまいました
(●´へ`)<削られたんだべか?
( ^▽^)<いいえ次回更新で!
>>247
N&Mさん
( ^▽^)<7回目のレスありがとうございます
(●*´ー`)<なっちも恥ずかしかったべさ
(;^▽^)<今回もこれからって時に安倍さんはどうするんでしょうか
(●;´ー`)<楽しみにしてて欲しいべさ
>>248-252
(;^▽^)<同じ人かな?お待たせしちゃってスミマセン(汗)
(●´ー`)<出来ればコメントも書いてくれると嬉いべ
- 272 名前:N&M 投稿日:2006/07/14(金) 10:03
- お待ちしましたー!
更新お疲れ様です。
梨華ちゃんの気持ちがわかるなー。
最後、安倍さんはどうしたのでしょう?
距離に変化あるんですかー?!
次回も楽しみにしてますッ
- 273 名前:62 投稿日:2006/07/17(月) 01:58
- 待ってたよ!なちりか!!!
これまた続きが気になる(;´Д`)
- 274 名前:アヤセ。 投稿日:2006/07/31(月) 02:39
- 更新!!!待ってましたっ!!
悩む石川さん・・・。安倍さんの事が好きすぎて(;^▽^)<ばかみたい。
なんですね・・・。
この先も期待してます!!
- 275 名前:アヤセ。 投稿日:2006/07/31(月) 02:40
- すいません、あげてしまいました・・(泣
- 276 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:08
- 寒い。
冷たい外気が体を突き刺す。
両手をお椀の形にして口からハーッと吐いた息が白く渦巻いた。
ひっそりと静まり返った夜の風景がいっそう心細くさせる。
街灯が規則正しく並んで灯す街道を歩く。
後にしたマンションを振り返っても明かりがついた窓は1つも無い。
大都会東京もこの時間はひたすら眠るのだろう・・・・
みんな寝てるんだ。
こんな時間に起きてるのは自分くらい・・・・
誰にも見られてない。
う〜んと腕を思いっきり上へ伸ばして伸びをする。
「あっ・・・・」
ふと見上げた空に月と星々が輝いていた。
突き抜けそう。
昼間の青空より夜の星空の方が宇宙へ続いてる感じがする。
自分の上はズーっと空を抜けて宇宙に繋がってるんだ。
無限の広がりを見せる宇宙へ・・・・
- 277 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:09
-
こんな時間には車も走らない。
日中のビュンビュン車が行き交う様子からは想像しがたい。
両脇の街灯とコンビニが明かりを灯してるだけ。
歩道を出て思い切って街道の真ん中を歩いてみた。
両手を真横に開いて思いっきり回ってみる。
両手をブンブン振って行進する。
私以外誰も居ないんだ。
こんなにも自由で縛られないんだ・・・・
ポツポツ
ふと雫が鼻に当たった感触。
雨止んでたのに・・・・
また振り出すのかな・・・・
それでも霧雨止まりだろうけど。
路面が静かに濡れていく。
夜の街路樹は黒々と影を作っていた。
突然に街路樹が途切れて車止めが見える。
そこが目的地の公園だった。
- 278 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:10
-
真っ暗な木々を所々公園の街灯が照らし出す。
始めて来る公園。
流石に暗闇には近づきたくないので街頭を伝って歩く。
遊歩道を歩いてベンチが点在する広場に出た。
暗闇にポッと自販機が浮かび上がった。
ココがいいや。
自販機から少し離れた木製のベンチに腰を下ろした。
サー
霧雨が本格的に降ってきた。
濡れるほどじゃない・・・・前髪が染みるだけ・・・・
無音。
自分が動かなければ何の音も聞こえない。
雑音も車の音も街の音も、音楽も・・・・
ササー
それでも耳を澄ませると聞こえるコレは・・・・霧音?
ふふっ
軽く笑った。
普段じゃ絶対聞こえないね。
どのくらいそうしていたのか・・・・
ベンチの表面は色を変えて前髪はピンッと水を吸っていた。
- 279 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:11
-
喉かわいた。
立ち上がって近くの自販機に向かう。
ベンチの自分が座っていた場所だけ乾いた色をしていた。
自販機の前に行って右手をコートのポケットに入れる。
アレ?
左手で左のポケットを上から押さえた。
次いで服の上からアチコチのポケットを弄った。
無い!
「あ・・・・」
お財布、置いてきちゃった。
リビングの机の上に・・・・
「まあ、いいっか」
人知れず呟いて置いてきたお財布を思い浮かべた。
赤と白の・・・・
チェックの財布が目の前にあった。
そうそうコレ・・・・!!!!!
目の前にある自分のお財布が信じられなかった。
そして呟いた。
「梨華ちゃん・・・・何で・・・・」
- 280 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:13
-
なつみは自分の財布を差し出す梨華を呆然と見つめた。
「安倍さんが、お財布忘れたから・・・・」
薄ピンクの透明な傘を差した梨華は困ったように呟いた。
「・・・・そうじゃなくて何でココに・・・・?」
「・・・・」
「あの・・・・尾けたの?・・・・」
ブンブンブン
梨華は大きく首を振って強く否定した。
「じゃあ・・・・」
あっイケナイ。
こうやって矢継ぎ早に質問するから梨華ちゃんは何も言えなくなる。
怒ることでも無いじゃない。
ハー
なつみは下を向いて気持ちを入れ替えた。
とにかくお礼を言おう。
「梨華ちゃん・・・・ありがとう」
なつみは自分の財布を受け取った。
ジャージ姿の梨華はチョット照れたように微笑んだ。
いつの間にか梨華の傘がなつみの頭上を覆っていた。
- 281 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:14
-
折角持ってきてもらった財布からお金を取り出す。
カシャン
カシャン
お金が入れるとレモンティーのボタンを力強く押した。
ガココン
ガココン
出てきた1本目の缶を右手に持つと2本目の缶を梨華に差し出した。
「はい!温まるよ」
「あ・・・・りがとうございます・・・・」
梨華は自分の分を渡され戸惑いながらも受け取った。
「熱っ!熱っ!」
缶の熱さにビックリした梨華の手の上であったか〜い缶は踊った。
「ふふふ・・・・座ろっか」
なつみは先程まで座ってたベンチに向かって歩き出す。
ササー
梨華の傘で防がれてた霧雨がなつみの顔に静かに降りかかる。
プシュッ
開けた缶を傾けると中のレモンティーを喉奥に流し込んだ。
温もりが喉から、お腹へとだんだんに降りていく。
ハアー
ため息をつく、なつみの前を梨華が静かに横切って隣に座った。
梨華の両手の中では缶がまだ転がっている。
なつみの顔にまた霧雨が当たらなくなった。
- 282 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:15
-
なつみは薄ピンク越しの空を見上げた。
梨華は俯いたままだ。
「ゴメン・・・・寝ている梨華ちゃん起こしちゃった?」
「いえ、目が覚めたら安倍さんが居なかったんで・・・・」
「・・・・そっか・・・・」
「この公園・・・・夜は不良の溜まり場になってて物騒になるんです
それで心配になって・・・・」
「・・・・この公園に居るって最初から知ってたの?」
1人で居た時のような静寂が再び訪れた。
沈黙を破ったのは梨華だった。
「私、新人の頃プレッシャーに潰されそうになって悩んでたんです
サッサと寝ちゃえば良いのか何も考えずに猛練習すれば良いのか、
プレッシャーを克服する術を見出せなくて・・・・」
なっちだってプレッシャーを克服する術なんて解らないよ。
「保田さん飯田さん・・・・達先輩の体験談も伺ったんですけど
中々納得できる答えが・・・・無くて・・・・」
答えなんて多分無い。
今だって日々プレッシャーでジタバタしてるんだから・・・・
?
梨華ちゃんは何の話をしてるんだろう?
「それで・・・・あ安倍さんは・・・・どうしてるんだろう?って
新曲披露の前日とか何してるんだろう?
早めに寝るのか?遅くまで起きて練習してるのか?
凄く気になって・・・・ある日見に行ったんです・・・・」
- 283 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:16
- 見に?
「へっ?何処へ?」
「安倍さんの・・・・自宅・・・・マンションです」
「えっ?梨華ちゃんが?」
「見に行っただけです。
外から窓を見上げて電気ついてるのか消えてるのか
電気ついてたら、安倍さん頑張ってる!私も!って元気をもらって
電気消えてたら、寝ちゃったのかなとか・・・・」
「・・・・」
「それからも家で落ち着かない時とか安倍さん何してるんだろ?って
夜中に時々見に行って・・・・」
ビックリしていた。
「チョット待って夜中1人でなっちん家まで往復してたの?」
「・・・・20分くらいですから・・・・」
「時間の問題じゃ・・・・時々ってどれくらい?」
「と、時々です」
「ちゃんと答えて!月に何回くらい?」
「あ・・・・2,3回くらい・・・・かな・・・・」
「そんなに!アイドルが夜中うろついちゃダメだべ!」
「ハイ、ごめんなさい・・・・」
梨華は、なつみに怒られて素直に謝りながら戸惑っていた。
実は週に2,3回だったとは今さら言い出せない・・・・
- 284 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:17
-
「でも、なっちの家よく知ってたね〜教えたっけ?」
「昔、マネージャーさんがメンバーの家を順番に回りながら車で拾って
仕事場に向かった時があって」
「・・・・あったっけ?」
「安倍さんのマンションに寄った際に矢口さんが
角から2番目の部屋だよって指差した窓から安倍さんが顔出して、
「寝坊した!今起きた〜!」って叫んでたので・・・・」
「あ、あ〜あ〜あアレ・・・・あったねえ〜ハハハ」
みんなを車中で待たせ続けた恥ずかしい遅刻を思い出した。
もう〜なんで今さらこんな話・・・・
「それで、家を覚えていて夜な夜な見に行って・・・・」
赤面するなつみを置いてけぼりにしながら梨華の話は続いてた。
「そうしたら、ある夜・・・・安倍さんがその、出てきたんです」
ピクッ
レモンティーの缶を傾けていたなつみの動きが止まった。
「マンションの入り口から正面にある公園に歩いてきて、
最初コンビニかな?と思ったんですけど・・・・
グルグル歩いたり、ベンチでジッと座ってたり何をするでもなく」
「覗いてちゃイケナイって分かってたのに・・・・目を離せなくて」
梨華は弁解するように早口になった。
「でも・・・・途中で理解できたんです。
コレは儀式なんだ、安倍さんがプレッシャーを克服するための、
1人で心を落ち着かせる大事な時間なんだって・・・・」
ササー
霧雨がさらに細かく風に吹き散らされた。
- 285 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:18
-
「木陰から隠れて見ていた私は急に恥ずかしくなったんです」
「・・・・どして?」
かすれた声でなつみが尋ねた。
「安倍さんも、自分と向き合ってプレッシャーと戦ってるのに、
私は安易に答えを求めて・・・・答えなんて自分の中にしか無いのに」
梨華は搾り出すように答えた。
答えは自分の中・・・・なつみはソノ言葉を反芻していた。
「なっちさ季節感を肌で感じられなくってね」
梨華はポツリと呟いたなつみをジッと見た。
「季節感ですか・・・・?」
「うん、夏の暑いときはクーラーの効いた涼しい場所に居て
冬は暖かい所にいるじゃない、
ダンスレッスンで汗だくで半袖になってたら外は真冬だったり、
寒くて室内で着込んでたら外でセミが鳴いてたり・・・・」
「私も・・・・そういうのあります!」
「でしょう〜!後、朝夜もゴッチャになる時があるの、
今日は頑張った〜もう寝るぞ〜ってボロボロになった帰宅途中に
小学生が登校する列に出会ったり、
凄いレコーティングやる気になってんのに深夜2時だったり・・・・」
「私たちって普通の人達と全然時間帯が違いますもんね」
梨華はため息混じりに呟いた。
- 286 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:19
-
「だから・・・・ね、夜にワザと出歩くんだ、
ああ今は寒い冬で体も凍えるんだ〜って確認するために・・・・」
なつみはふと夜空を見上げた。
「家と車とスタジオの往復で雨に降られるなんて滅多に無いよね」
安倍さん嬉しそう・・・・
梨華もつられて夜空を見上げた。
「でも・・・・梨華ちゃんの言うように儀式かもしれないね」
「えっ?」
「夜の公園でウロウロするの煮詰まってる時だから・・・・
なっちは答えを探してたんだ・・・・始めて気づいたよ」
なつみはニコッと梨華に微笑んだ。
「・・・・スミマセン」
「ほえっ?」
「安倍さんが1人になる時間を邪魔しちゃって」
「そんな・・・・梨華ちゃんが謝ること無いよ
勝手に出歩いて心配かけちゃってゴメンね」
恐縮する梨華になつみも何か申し訳なくなった。
- 287 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:20
-
「あの、私帰ります」
梨華は、スックと立ち上がった。
「安倍さんも出来れば早めに・・・・休んでください」
グッ
歩き出そうとした梨華の腕をなつみが取った。
「もう大丈夫だから、一緒に帰ろう」
「・・・・ハイ」
梨華はピンクの傘を折り畳んだ。
霧雨は止んでいた。
カンコロコン
公園の出口のゴミ箱に空き缶を放り込んだ。
街道には車の影は1台も見えなかった
2人が歩くアスファルトの路面はシットリと濡れていた。
「雨上がりの空気って澄んでて気持ちイイねぇ」
安倍さんは歩きながら両手を広げてラジオ体操の深呼吸のポーズ。
「ホラホラ折角だから道路の真ん中歩こうよ」
「安倍さん車が来たら危ないですよ」
「来ないって!梨華ちゃんホラ両手振って歩きたくなんない?」
言うが早いかブンブン両手を振ってセンターラインを行進する。
「マスコミとか誰かに見られたらどうするんですか?」
「梨華ちゃんもやってごらん!気持ちイイよ〜!」
も〜
じゃあチョットだけ・・・・
梨華は閉じた傘ごと両手を振り回した。
- 288 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:22
- ピシャアッ
梨華の持ってた傘から勢いよく雨雫が周りに飛び散った。
「ひゃあ〜」
「あっ安倍さんスミマセン、水かかっちゃいましたか?」
「やったな〜!」
なつみは街路樹に駆け寄ると葉っぱに溜まっていた雨水を振りまいた。
バシャアッ
モロに梨華の顔に命中する。
「キャアー・・・・もう安倍さん子供〜」
「アハハ梨華ちゃんベーだ」
笑いながら安倍さんは反撃されないように飛びのいた。
も〜う、この年上のいたずらっ子は!
さっきまでの安倍さんと本当に同一人物なの?
1人で凹んで1人ではしゃいで1人で立ち直って・・・・
ネガな私には絶対に真似出来そうに無いな。
な〜んて軽く凹んで、そう思っても
機嫌良さそうな安倍さんを見てると何でか笑顔になってしまう。
フフフ
ルンルンと先を歩いていた安倍さんの足が急に止まった。
凍りついたように・・・・
- 289 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:23
-
理由はすぐに分かった。
少し先のコンビニの前にガラの悪い集団が、たむろしていた。
バイクもあるから暴走族かも・・・・
帰宅するためにはココを通らなければならない。
もし変な因縁をつけられたら、
もし芸能人だってバレたら・・・・
固まっている安倍さんの腕に自分の腕を絡ませた。
「大丈夫です・・・・下を見て目を合わさないように通り過ぎましょう」
耳元で囁いてからユックリと歩き出した。
ぎこちなく安倍さんの足も歩き出す。
地方出身のメンバーは殊更に東京の不良を怖がる。
飯田さんもあいぼんもそうだった。
私や矢口さんが平気なのは多分都会育ちで免疫があるからだろう。
大丈夫。
安倍さんは私が守る。
後5メートル。
普通に、コンビニの前を通り過ぎるだけ。
静かに落ち着いて歩こう。
後3メートル。
ギャハハハハハハハハハハハハハ
不意にコンビニ前から下卑た笑い声が響き渡った。
- 290 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:24
- 「・・・・!!!!」
安倍さんが反射的に元来た道を戻ろうとする。
絡めた腕で強引に引き戻した。
「ダメです下手に引き返したら余計目を付けられます」
安倍さんの体を強く寄せて歩き出す。
「大丈夫です」
後1メートル。
コンビニの前・・・・通過。
1歩2歩3歩。
もうすぐ、コンビニを通り過ぎる。
良かった。
背後の不良たちに動きは無い。
その時だった。
「おい!お前らあ!・・・・!!!!!」
背後からの大声に文字通り飛び上がった。
安倍さんの腕を強く引っ張って一目散に駆け出した。
どうしよう!
どうしよう!
ココを通るんじゃなかった。
遠回りしてでも違う道にすべきだった!
こんな非常事態なのに安倍さんの動きが鈍い、
早く!
急いで!
走って!
ドッドッドッドッ
心臓までも激しく走り出す。
安倍さんを引きずるように街道を走った。
怖くて後ろを振り返ることも出来ない。
- 291 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:25
-
あの角!
アソコを曲がればマンションが目と鼻の先。
ドタタタッ
息せき切って角に駆け込んだ。
ハアハアハアハアハア
呼吸が整わない・・・・後ろ、背後は・・・・
「ハア〜走ったぁスポーツフェスティバル以来だべ」
場面にそぐわないノンビリとした声が耳元で聞こえた。
「梨華ちゃん何で・・・・ハアハア急に走ったんだい?」
「ハアハア何でって!」
息を切らしながら後ろを振り返ったが誰も居なかった。
「ハアハア・・・・アレ・・・・?」
「突然走り出したからハアハア・・・・何事かと思ったよ」
本当に何事かと思うくらい何も起こってなかった。
元来た道には漆黒の暗闇が広がるだけ、
遠くに微かにコンビニ前の雑談が聞こえる程度・・・・
そして隣に不思議顔の安倍さん。
- 292 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:26
-
「・・・・あの〜後ろから声かけられませんでした?」
「コンビニの所かい?」
「そうです、お前ら〜!って」
「お前ら〜・・・・腹減らねえ?ってみんなで話してたね」
「・・・・そうなんですか?・・・・」
「そう。したら梨華ちゃんがバーっと走り出したから大変だったべさ」
つまり仲間内の会話を私が勘違いしただけってこと?
何やってるんだろ私。
大丈夫です!
とか言ってて怖がりまくりじゃない。
いっつも、いざって時に役に立たない。
安倍さんは怖がってても会話を聞けるくらい落ち着いてたのに・・・・
私は肝心な場面でビビッて駆け出した。
ビクビクしてるから無関係な声に驚くんだ。
臆病者
弱虫
意気地なし
罵詈雑言を自分に向かって浴びせた。
「でも怖かったよね〜梨華ちゃんの言ったとおり物騒なんだね」
自分の内面と会話してるうちに話題が変わってた。
- 293 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:27
-
「あ、ハイ反対の駅側だと平気なんですが公園方向は危ないんです」
「そっか全然知らなかった・・・・ゴメン巻き込んじゃって」
「イエ・・・・最初に言っとかなかった私が悪いんです、
安倍さんが夜のお散歩するの知ってたのに・・・・」
「もう・・・・行かない!やっぱり怖かったからね」
ギュゥ
安倍さんと手を繋いだ。
「帰ろっ!ね!」
「ハイ」
猛ダッシュした後の汗は既に乾いていた。
クシャン。
クシャン。
エレベーターに乗る頃には私のクシャミは止まらなくなっていた。
「なっちは完全防寒だけど梨華ちゃん寒いのにジャージで来るから」
安倍さんの言う通り私の格好は冬の夜には薄着過ぎた。
「途中まで平気だったんですけど・・・・クシャン」
「なっちが暖めてあげる」
コート越しの安倍さんに抱きしめられる役得を味わいながら帰宅した。
- 294 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:29
-
バタン
玄関のドアが閉じると部屋の暖かい空気が出迎えてくれた。
「ただいま〜外は寒かったべさ〜」
着替え始めた安倍さんを素通りして洗面所に飛び込んだ。
ピッ
ボンッ
ガスのスイッチを入れた。
「安倍さ〜ん、ガス点けましたから先にシャワー浴びてください」
「・・・・何言ってんのクシャミしてる梨華ちゃんが先に浴びなきゃ」
「ダメです安倍さんも冷えてますから」
「なっちは・・・・クチュン・・・・アレ?」
「ホラやっぱり!安倍さんはソロなんだから何かあったら大変です」
「梨華ちゃんだって同じっしょ」
「私はグループなので他のメンバーがフォローしてくれますから」
「ダーメ!そんなの関係無い!梨華ちゃんが暖まるのが先」
クシャン
確かに私の体は冷え切っている。
でも、もし安倍さんが風邪を引いたら・・・・ソレだけは嫌だった。
「それだけクシャミしてるのに意地張らないの!」
「絶対安倍さんが先です」
「じゃあ一緒にシャワー浴びよっか」
安倍さんはアッサリ言ってのけた。
- 295 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:30
-
「・・・・えっ・・・・一緒・・・・」
「譲り合っててもしょうがないでしょ!早く暖まろ!」
安倍さんはウンと1人で納得して頷くとサッサと服を脱ぎ始めた。
トレーナーをクルリと捲り上げて・・・・
慌てて私は背中を向けた。
これまで安倍さんの着替えを凝視したことは無い。
イヤ誰の着替えを見るのも自分の着替えを見られるのも恥ずかしい。
常に着替えの時は楽屋の隅でコソコソ着替えていた。
ソレで安倍さんの着替えをカメラで撮影してたら世話ないけど・・・・
「梨華ちゃん?何モタモタしてるべ?」
背後から声をかけられた。
雰囲気から察するに全部脱いで・・・・裸になってる。
「あ・・・・後からすぐ行きます・・・・私着替えが遅いので」
ジャージのチャックをモジモジ弄る。
「んじゃお湯出して待ってるから早くおいで」
キィ
浴室のドアが開いて、ペタペタ素足の音がしてドアが閉じた。
キュキュキュシャワー
ザーとお湯が出る音。
ハーと思わずため息。
体が火照ってクシャミが止まってしまった。
- 296 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:31
-
変なことを考えてる。
女の子同士が一緒にシャワーを浴びるだけなのに!
ドキドキドキドキ
普通のことだって思ってるのに心臓の鼓動は違う。
明らかに、さっきの不良たちとの時と心臓の鼓動の仕方が違う。
胸のチャックを下げながらチラッと浴室の方を見た。
スリガラス越しに肌色の体が動いてるのが分かる。
もしかして・・・・誘ってる?
バカじゃないの!
私って変なことばっかり想像してる。
一緒にシャワーを浴びるだけ。
それ以外に何も意味なんて無い。
そう、私だって辻加護と一緒に浴びたことだってあるじゃない。
安倍さんだって矢口さんとかと・・・・だから意識し過ぎ!
クシャン
あ・・・・ダメだ本当に早く浴びて暖まろう。
「梨華ちゃ〜ん風邪引くよ!」
「ハイ!ただいま〜」
意を決して下着ごとジャージを脱いだ。
鏡に映る全裸の自分・・・・心なしかピンクに染まってる気がする。
浴室のドアに手をかける。
「失礼・・・・しま〜す」
オドオドしながら浴室のドアを開けた。
- 297 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:33
-
浴室は濛々たる湯気が充満する真っ白な世界だった。
視界ゼロ。
安倍さんが居るはずなのに気配も無い。
浴槽の方?
「安倍さん?・・・・」
ブワッシャー
「キャアアアア」
突然背中からお湯を浴びせられた。
「アハハハ梨華ちゃんコッチだよ〜」
私が入ってきた入り口付近から明るい笑い声が聞こえた。
もうコッソリ隠れてるなんて!
「安倍さん!子供〜」
振り返った私の顔に向けてシャワーが集中的に浴びせられた。
「ブハアッアア・・・・」
「梨華ちゃんベーだ、入って来るのが遅いからだべ」
もう〜この年上のいたずらっ子は〜!
何よ、さっきまでの私のドキドキは何だったの?
やってることが辻加護と一緒じゃないの!
とにかく・・・・止めさせないと。
安倍さんの握ってるシャワーのノズルを取り上げようと手を伸ばした。
が巧みに逃げて顔にシャワーを浴びせ続けた。
もうしつこい!
「やん・・・・髪は濡らさない予定だったのに」
自棄気味に叫んだ。
「あっ!そっか」
突然シャワー攻撃は止んだ。
- 298 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:34
- 「ふ〜・・・・」
顔中についた雫を掌で拭った。
それでも前髪と襟足は、たっぶりお湯を吸っていた。
「ゴメン何も考えてなかったべ・・・・」
湯気の向こうにボンヤリと安倍さんが見えた。
「もう〜没収です」
安倍さんの手にあるシャワーをひったくった。
「でもビックリしたっしょ!」
「そりゃ・・・・まあ・・・・」
シャワーを手に安倍さんに背中を向けて壁にあるホルダーにセット、
しようとして不意にムカッとした。
突然振り向いた。
「えい!仕返し!」
ブワッシャアアアアア
安倍さんの顔に思いっきりシャワーを浴びせた。
「ひゃあああああ」
本当に不意を付かれて両手をバタバタする安倍さん。
私は安倍さんにしつこく攻撃は出来ない。
それでも、しとどに安倍さんの前髪が濡れた。
すぐシャワーノズルを背後のホルダーにセットした。
「ビックリしました?コレでお相子です」
「プハッ・・・・ケホケホ」
- 299 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:35
-
安倍さんはゴシゴシ顔をこすって恨めしげに何かを言おうとして・・・・
濡れたタイルに足を取られた。
ズズッ
安倍さんがよろける!
「ひゃっ!!!!」
「危ない!」
咄嗟に梨華は手を伸ばしてなつみの腕を取り、そのまま引き寄せた。
滑りそうになったなつみも慌てて梨華に抱きついた。
は〜
ホッと一息・・・・
悪ふざけが元でケガなんて危ない危ない。
あっ・・・・
不可抗力とはいえ安倍さんを抱きしめていた。
しかも・・・・裸で・・・・裸同士で。
ザー
シャワーが静かな音と共に頭上からお湯を噴射している。
・・・・動けないで居た。
安倍さんの腰に両手を回したまま・・・・後ろの壁を穴が開くほど見ていた。
少し前まで笑い声と茶目っ気が絶えなかった浴室で私は固まっていた。
ヤバイ空気を換えなきゃ邪な気持ちを悟られる。
安倍さんから離れてくれれば・・・・
その願いも空しく安倍さんも動かなかった。
- 300 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:36
- ザザー
ハアハア
呼吸が荒くなってる自分に気づいてる。
ハッハッ
どうしよう。
安倍さんが痛いべ・・・・とか笑ってくれれば私も行動で返せるのに。
ドキドキドキドキ
どんどん気持ちが高まってくのが分かる。
ハアハア
ハッハッ
息遣いが・・・・2つ?・・・・?
安倍さんが私の首に咄嗟に回した手も動いてない。
密着したままの胸と腰。
そこから感じる息遣いと鼓動は・・・・安倍さんのもの?
思わず視線を巡らすと俯いたままの安倍さんの顔も私を見た。
目が合う。
あの時と同じ。
安倍さんが卒業した日、このマンションの廊下で・・・・同じ。
どちらからともなく。
唇を重ねた。
ザザザー
シャワーのお湯は密着する2人の上から優しく降り注いでいた。
- 301 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:37
-
バシャバシャバシャ
唇が重なる位置は丁度シャワーの真下。
お湯を頭から浴び続けて目も開けてられない。
前髪どころか髪の毛全部濡れちゃった・・・・
ジ〜ンと痺れた頭の中でボンヤリそんなことを考えていた
トントン
何かが私の体を叩いている。
安倍さんの手も足も静止してるのに・・・・何が叩いてるの?
トントン・・・・
私の唇が叩かれていた。
外からソッと叩いていたのは安倍さんの・・・・舌・・・・
硬く閉じていた唇を微かに開いた。
ソコからスルッと舌が歯の間からすり抜けて・・・・突然逃げ出した。
まるで・・・・誘うように。
待って!
私の舌が安倍さんの舌を慌てて追いかける。
私の口から安倍さんの口の中へ・・・・逃げ場を無くした舌を捕まえた。
そのまま深く安倍さんの舌を吸った。
「むっ・・・・ふぅ」
2つの口の間から声が漏れる。
もっと深く唇を重ね、強く強く抱きしめた。
押し潰される互いの胸。
- 302 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:38
-
ザザザー
体中を、お湯が伝い流れ落ちていく。
頭から顔、胸、お腹、腰、足の先、体中の隅々まで。
ただ唯一口の中にだけは流れ込んでこなかった。
どんなに中で激しく動いても他の浸入を許さないほど密着し続けていた。
バシャバシャバシャシャ
ずっと顔を叩くシャワーのお湯がいいかげん鬱陶しい。
それでもキスは止まらない・・・・止められない。
キュッキュッキュッ
背後で何かの音がするけど確かめる気も無い。
キュッ
次第に弱まっていくシャワーの湯流で蛇口が閉めれてるのが分かった。
私の首に絡みついた手。
その肩越しに蛇口がユックリ閉められていく・・・・
シュウウウー
ボタボタボタ
ポタッポタッポタゥ
シャワーのお湯は数条から1つの流れになり雫になって止まった
不意に音が消えて浴室は静寂が支配した。
- 303 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:39
-
「む・・・・ふぅうう」
「くぅ・・・・あっ・・・・ハア」
シャワーの音が無くなって互いの喘ぐ声がはっきり聞こえる。
プハッ
唇が離れた。
どちらのか分からない唾液がツツーと胸に垂れていく。
唇は離れても抱き合ったまま・・・・見詰め合う。
ハアハアハアハア
静まり返った浴室に荒い息遣いだけが響いた。
照れたのか安倍さんが目を反らして俯いた。
そのまま私の肩におでこを当てた。
いいよ
耳元で囁かれたのは空耳ではなかったと思う。
この状況で間違うはずが無い。
でも私は言葉が出て来ない・・・・
ただ、安倍さんの腰を抱いていた手を背中に回して力を込めた。
ギュッ
更に密着する2人。
- 304 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:40
-
・・・・
全てが私の腕の中にある。
夢にまで見ていた待ち望んだ瞬間。
無理矢理でも酔っ払ってもいない。
安倍さんがOKしてくれて私の気持ちは変わっていない。
今!
今なら!
愛しいあなたを私のものに出来る。
今なら。
私は、安倍さんの背中に回してた手をユックリと肩に移動させた。
肩をソッと掴んで、
そして・・・・離した。
密着してた互いの体が離れて隙間が徐々に広がっていく。
?
不思議そうに安倍さんが私を見上げた。
目を反らしながら口を開いた。
「安倍さん明日早いし今日はもう・・・・寝た方がいいです
私はコレから急用でスタジオに行かないとイケナイので・・・・」
「・・・・えっ?」
かすれた声が聞こえた。
「さ、先に上がりますね」
そのまま浴室を出た。
どうして?
と目で言ってる安倍さんを置き去りにしたまま・・・・
- 305 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:42
-
洗面所に戻る。
洗面所を空けるため・・・・バスタオルを手に裸でリビングに走った。
そのままリビングの床に手を突いて座り込んだ。
しゃがんでる事すら出来ない。
あなたが欲しい。
今すぐ抱きたい。
誰にも渡したくない。
キスし続けたはずの口はもうカラカラに渇いている。
ハアッ
ハアッ
息が苦しい。
こめかみがドクドク脈打ってる。
床についた手がガクガク震えている。
座ってるのも苦しいほど興奮している。
体中が安倍さんを欲していた。
静まれ。
胸に手を当てて呼吸を整える。
大丈夫なはず。
私は我慢できる。
安倍さんとの関係が曖昧なまま結ばれたくない。
もっと慎重に焦らずに関係を深めていこう。
まだまだ関係は進展していくはず。
もう欲情だけが先走る失敗はしないと心に誓った。
その場の成り行きでの行為は2度としたくない。
- 306 名前:グッドラブハロー 投稿日:2006/10/11(水) 00:43
-
臆病過ぎかもしれない。
それに今の私の行動は安倍さんを傷つけた可能性だってある。
でも
一時の感情に押し流される弱い自分はもうイヤ!
安倍さんだって分かってくれる。
体だけが欲しいんじゃない。
心が欲しい・・・・
大丈夫やれる。
確信がある。
これからだってチャンスはいくらでもある。
だって一緒に住んでるんだから。
しばらくしてから洗面所のドアがカラカラ開いた。
暗闇の中の影はパジャマを着込んでいた。
リビングをボーっと見回すが人の気配が無い。
本当にスタジオに向かったらしい・・・・
なっち何やってるんだろうね。
告白してくれた梨華ちゃんをフッたのはなっちじゃん。
ソロの仕事が忙しくなるって理由で、
なのに・・・・
なっちのほうからズルズルと梨華ちゃんの気持ちをかき回してる。
恋愛する気なんて無いくせに・・・・
もう一緒に住むの潮時かもしれないね。
- 307 名前:小さい家 投稿日:2006/10/11(水) 00:47
- 10回目の投稿です。
実は1度書き上がってたのにPCトラブルで全消失しました(泣)
茫然自失状態から立ち直ってまた同じストーリーを書くのに更に時間を費やし・・・・
気付けば相当に間隔開いてしまいました。
申し訳ないですm(_ _)m
(●´ー`)<前にもやらかしたことだべ
( ^▽^)<小まめに保存しないから何度でも繰り返すんですよ
(●´へ`)<消えたほうのが出来が良かったべ
(;^▽^)<今回思い出しながらと付け足しながらでスムーズじゃないです
その通りです(つД`)
次回は第3のファクターが登場する予定。
- 308 名前:小さい家 投稿日:2006/10/11(水) 00:49
- >>272
N&Mさん
(●´ー`)<8回目のレスありがとうだべさ
( ^▽^)<私に同意して頂いてありがとうございます
(●´ー`)<今回のは同意されないべ
(;^▽^)<そうかもしれませんね
>>273
62 さん
( ^▽^)<6回目のレスありがとうございます
(●;´ー`)<待たせすぎちゃったべ
(;^▽^)<待っててくれてると思うしかないですね
>>274
アヤセ。さん
(●´ー`)<7回目のレスありがとうだべ
( ^▽^)<そうなんですバカみたいでしょ!
(●´へ`)<今回折角なっちから・・・・
( T▽T)<前に進むのみです
- 309 名前:62 投稿日:2006/10/11(水) 05:17
- 夜更かししてたら更新キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
まだなっちの気持ちが曖昧なモヨウ
しかもまだまだ波乱がありそうな…次回もワクワクテカテカ待たせていただきます
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:42
- 続きが気になるYO!
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/08(木) 00:39
- 引き込まれて一気に読みました。続いたらいいな。
- 312 名前:グッドラブハロ- 投稿日:2007/02/20(火) 00:25
-
「あーあーあ」
「ままままままままあ〜」
廊下のアチラコチラで発声練習が始まった。
「今やったって無意味じゃん普段やってないのにさ!」
よっちゃんは相変わらずクール。
「吉澤さんは練習しても無意味だからあ〜」
「あっ麻琴!てめぇ・・・・」
「ぎゃああああ〜」
リハ前にコントを繰り広げる2人は肝が座ってるのか、
何にも考えてないのか。
ハロコンの舞台裏は大忙し。
出演者はベルトコンベアーのように舞台に送り出されて捌けていく。
待機とリハ本番、休憩と準備が繰り返される。
誰かがトチった瞬間に流れが滞ってしまう。
ボゴッン!
「誰だ〜マイク落としたの!・・・・紺野か!」
「スミマセン〜」
「次メロン〜袖にスタンバっとけ!」
荒々しい言葉が投げつけられ、そして一瞬のうちに過ぎ去っていく。
「娘。は〜!!!何処だ〜!」
「10分前から全員勢ぞろいしてます」
飯田さんが少しムッとした声で答えた。
そう10分前から勢ぞろい。
それには理由がある。
- 313 名前:グッドラブハロ- 投稿日:2007/02/20(火) 00:27
-
「安倍なつみ本番行きます」
ガガー
マイクがハウリングを起こしたけど構わずイントロが流れ出した
「悪くないよ〜孤独な時間もぉ・・・・悪くないよ〜・・・・」
ステージ上で1人で歌いだす安倍さん。
その様子を食い入るように見つめるメンバーたち。
安倍さんのソロを卒業後に生で見るのは初めてだった。
10年もソロでやってたように堂々と歌う姿に惚れ惚れする。
つい先日まで同じグループだったのがウソのよう・・・・
それは他のメンバーも感じたようだ。
「安倍さん緊張とかしないんですかね〜私には絶対無理だ」
「お前だって娘。に入る前はソロが目標とか言ってただろ!」
「だぁ〜吉澤さん!アレは勘違いしてたんですって!」
「ソロとか持って生まれた才能かな?やっぱ」
「ですよねえ〜私なんてあと何年たっても・・・・」
聞くともなしに耳に入っていたよっちゃんと麻琴の漫才が途絶えた。
振り向くと2人はバツが悪そうに口をつぐんでいた。
私の隣に居た矢口さんがジロッと睨んだせいらしい。
- 314 名前:グッドラブハロ- 投稿日:2007/02/20(火) 00:28
-
無駄口を叩いてたから怒られた。
2人はそう思ったろうけど・・・・違う。
才能なんかじゃない。
安倍さんは頑張って頑張ってココまで来たんだ。
軽々しく自分には無理とか言うもんじゃない!
でも
安倍さんと一緒に住まなかったら私もズッとそう思ってた・・・・
「ハイ安倍OK!〜」
「お疲れ様でした」
「次〜!」
パチン
私は自分の頬を両手で叩いて気合を入れた。
よし!
「おーしウチらだ!なっちに負けんなよ〜」
飯田さんの掛け声と共に私たちは舞台袖から踊りだした。
- 315 名前:グッドラブハロ- 投稿日:2007/02/20(火) 00:29
- いつものことだけど自分達の出番が終わると途端に暇になる。
することが何も無い。
ケータリングでも行こうかな・・・・
「あっ!石川ひゃん・・・・向こうで安倍さんが探してまひたよ」
モグモグと口を動かしながら先客の紺野が喋った。
「ああ・・・・えっ!私!・・・・」
自分の鼻を指差しながら口に出した。
「ハイ。安倍さんに石川さん知らな〜い?って聞かれました」
紺野の隣にいた新垣がハキハキと応えた。
私?を探す?
仕事場では全然相手してくれない安倍さんが・・・・?
「ガキさんが言うんじゃ聞き間違いじゃないだろうし・・・・」
「あのぉ〜ソレってどういう・・・・私聞き間違い多いですか・・・・」
小さな声が聞こえたけど私はケータリングコーナーを後にした。
- 316 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:31
-
ハロプロメンバーでごった返す廊下を歩く。
安倍さんが私に何の用だろ?
家のことかな?
緊急に話す事柄なんて何も・・・・ないよね。
メールだってあるのに。
「梨華ちゃん!安倍さんが探してたよ!」
廊下を進む私に声が飛んだ。
「あぁうん。今向かってるトコ」
チラと声の方向を見ると美貴ちゃんとよっちゃん。
よっちゃんは何故か、しかめっ面をしていた。
「あ!今日も綺麗な石川さん!安倍さんが呼んでました」
「何か安倍さん機嫌ワルそうでしたよ」
さゆと亀の間をすり抜けた。
「梨華ちゃん何か知んないけど、なっち楽屋!」
「なちみ今日は遊んでくれないのれす」
矢口さんとののの指差す楽屋の前に来た。
- 317 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:32
-
娘。の楽屋と卒業メンバーの楽屋は別。
以前入ろうとしたら中澤さんに怒られたことがあった。
卒業してないメンバーは立ち入り禁止って・・・・
ノックしようとした瞬間。
ドアが開いた。
鉢合わせしたのは中澤さん!
また怒られる・・・・
「あっ来たで・・・・アンタ何かしたん?」
「えっ?・・・・何が・・・・ですか?」
楽屋には安倍さんが居た。
座ってた椅子から立ち上がるとズンズン近づいてきた。
「ちょっと!」
それだけ言うと私の手首を掴んで楽屋を出た。
「あ・・・・あの・・・・」
安倍さんに掴まれ引きずられるようにコレまで来た道を戻っていく。
- 318 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:33
-
何?
何だろう?
何で安倍さんが無言のまま私を引っ張っていくんだろう?
関係がバレタ・・・・
通り過ぎ様に中澤さんが哀れむような目で見た。
違う。
バレたんなら中澤さんの反応が変。
じゃあ一体・・・・
考えてる間にも安倍さんに引っ張られて行く。
というか、
こんな人通りの多い廊下を2人で歩いたら・・・・バレて無くてもバレる。
「あ〜あ・・・・」
矢口さんとののが諦め顔でコッチを見てる。
よっちゃんがヤッパリって顔でコッチを見てる。
美貴ちゃんは少しヤバって顔してる。
その2人に走り寄って何事か囁いた、さゆと亀。
「あ・・・・あの安倍さん・・・・」
小声で話しかけても前を歩く背中は聞く耳を持たない。
- 319 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:34
-
ケータリングコーナーに差し掛かった。
食べながら談笑してた紺野と新垣がコッチを見るや否や固まった。
そうか・・・・
みんな私が怒られると思ってるんだ.
私が安倍さんに腕を引っ張られてくなんて今まで無かった出来事。
先輩が怒ると後輩は理由がなんであろうと怖がる。
でも違う。
傍から見れば怒られるみたいに見えるだろうけどそんなわけない。
コレまでの生活から安倍さんが滅多に怒らないのは知ってる。
じゃあ・・・・なんで・・・・
ズンズン
気付けば賑わってた楽屋前を離れて人気の無い方へ進んでいる。
一体どこへ向かってるんだろう?
「あの〜・・・・」
何度目かの、あの〜も無視されて突き進んでいく。
廊下の突き当り・・・・頑丈そうな鉄製の扉へ
- 320 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:34
- スピードは緩まらない。
ちょっ!
ぶつかる!
ギイイイッ
鉄製の扉は安倍さんの力で、いとも簡単に開いた。
・・・・
こんな所の扉が開くなんて。
アリーナの大抵の扉には鍵が掛かってるのに・・・・
なつみはドアを開けて梨華の手を掴んだまま中に進入した。
扉の中は薄暗くてカビ臭い通路。
天井も床も打ちっぱなしのコンクリートが剥き出しになっている。
その壁にはボイラーパイプがウネウネと数本以上這っていた。
華やかな舞台の裏側?
会場の温度調節や舞台装置の類かと想像。
いずれにしてもメンバーに用のある所じゃない。
裏方の関係者も滅多に入らない証拠に埃も溜まってる。
ここは何?
呆気に取られながらもズンズン奥に引っ張られて行く。
- 321 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:35
-
所々に汚い雑誌や新聞も散乱して空き缶も転がってる。
その中を迷いもせずに安倍さんは進んでいく。
こんな所・・・・誰も知らないだろうな。
同年代のよっちゃんや美貴ちゃんの顔がフト思い浮かんだ。
だって私も初めて知ったもん。
かくれんぼで隠れたら絶対見つからない!
誰も知らない半地下の通路。
安倍さんココで何を?・・・・何でこんな所に?
まさか・・・・
私を・・・・殺す気。
ココなら死体も見つからない。
ギイイイイッ
バカな事を考えてる間に安倍さんが再び扉を押し開いた。
- 322 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:37
-
扉の向こうは一転して開けた空間が広がっていた。
ここは?
アレ?
元のアリーナの廊下じゃないの。
じゃあ今までの安倍さんとの行程は何だったんだろ?
アレ?
でもちょっと違うかな?
点々と剥がれかけてる床のタイル。
取り外されている天井の蛍光灯。
所々に僅かに灯ってる非常灯。
壁に貼られてる破れかけのポスター。
ドコかうらぶれて薄汚れている。
通ってきたボイラー室に似た汚れ方。
同じ造りの使われてない通路?
気がつくとコチラに背を向けたまま安倍さんが立ち止まってる。
今度は話を聞いて貰えそう。
「え〜と安倍さん・・・・手を繋いで結構歩いて・・・・」
ガバッ
振り向き様いきなり抱きつかれた!
話しかけながら肩に触れようとした瞬間だった。
「わぁ!あの・・・・」
バスルームでの記憶が鮮明に思い出される。
あの時の続き・・・・ですか・・・・
ゆっくり腰に手を回そうとして安倍さんの手が震えてる事に気付いた。
- 323 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:37
-
「安倍さ・・・・」
言いかけて言葉を失う。
安倍さんは顔面蒼白だった。
私の肩に添えられた両手は白くなるほど硬く握り締められていた。
密着した体は果てしなく冷たい。
目の焦点も定まっていない。
安倍さんはぎこちない動きで顔を私の胸にうずめる。
その間も体中が震えていた。
記憶が蘇える。
心臓の音・・・・
聞いてると安心する、って言ってた。
私の心臓の音を聞いてる。
緊張から解きほぐされて安心するために。
- 324 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:38
-
私のデビュー当時と似てる。
武道館の舞台裏で緊張して震えが止まらなくなった。
ののとあいぼんみたいに大声でどうしようって走り回る事も出来ずに、
よっちゃんみたいにマイペースを貫く事も出来ずに、
涙ぐみながら、ただただ隅っこで震えていた。
励ましてくれた飯田さん、保田さん、矢口さん。
その中で唯1人安倍さんは私に見向きもせずステージを見つめていた。
小さな背中はとても大きく頼もしくて、
ひ弱な私との絶望的な距離を感じさせた。
一生追いつけないだろう背中。
それが今は両手で覆えるほどに小さい・・・・
卒業後、私達とは初めて一緒の舞台。
ハロコンでソロとして歌うのは初めて。
怖いんですか。
娘。の実績や経験が通用しないほどソロって違うものなんですか?
- 325 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:39
-
何も出来ない。
でも胸を貸す事は出来る。
常に私の先を歩く安倍さんにアドバイスなんて出来ない。
でも傍に居る事は出来る。
あなたの気の済むまでいつまでだって・・・・
ただただ強く抱きしめた。
安倍さんの微かな息遣いと髪の匂いを感じながら・・・・
静かなこの場所で・・・・
・・・・
ドンッドンッドドッド
コンサリハのカラオケが遠くから小さく小さく響いてくる。
この曲はキッズかな。
それ以外何の音もしない。
抱き合ったままの2人を包む静寂。
- 326 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:40
-
!!!!
何?
梨華は、なつみの髪のなかに埋めていた顔を起こした。
何かの歌が聞こえた?
ドンッドドドッ
コンサリハ・・・・か。
「で・・・・しょ・・・・〜おおおおお〜」
違う!
鼻歌?
タッタタッタッタタッ
靴音!
誰か来る!
- 327 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:40
-
タッタタッ
スキップだろうか?
軽いテンポの足音が遠くから近づいている。
「おめでとお〜」
鼻歌がはっきりと聞こえてきた。
一気に全身から冷や汗が噴出した。
何であの子がこんなところに?・・・・でも間違いない。
「無理はせずに〜マイペーェスでええええ〜」
こんなとこを見られたら・・・・
安倍さんを抱いたままズズズッと移動する。
入ってきた扉の前を通り過ぎて廊下の壁の出っ張りに身を潜めた。
「手を握ってえ〜道を歩こ〜・・・・山や谷やぁ〜」
- 328 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:41
-
無人を疑いもしない鼻歌は廊下に響き渡った。
歌の主が誰だかハッキリ分かるほどに・・・・
「んぁ」
梨華の隠れた直ぐ横で靴音が立ち止まった。
歌も止んだ。
突然シ〜ンとなる廊下。
見つかった!
安倍さんを抱きしめたまま目を瞑った次の瞬間!
ギィィィィィィ
ココに入ってきた扉が音を立てて開いた。
「たまたま早く目が覚めた〜結果は・・・・」
ギィィィィィィ
扉は閉まって歌声は去っていった。
何だ、扉を開けて出て行くために歌を止めただけだったのか。
ホッと胸を撫で下ろした。
- 329 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:42
-
クヒヒヒッ
下を見ると変な笑い声の安倍さんが悪戯っぽい目で見上げていた。
「梨華ちゃんの心臓早くなったり遅くなったり忙しいべね」
「誰のせいだと思ってるんです!」
さっきまでの深刻な顔は、すっかり落ち着きを取り戻していた。
たったアレだけの時間で立ち直ったんだ・・・・
「今の・・・・ごっちん?」
「・・・・隠れて見えなかったですけど・・・・多分」
「そっかぁごっちんもココ知ってたんだっけ・・・・」
「・・・・ココは何ですか?」
「昔は使用してたけど今は使われてない通路だべ」
「こんな所に入れるなんて知りませんでした」
「最初のマネージャーさんが教えてくれたんだ、
ココなら思う存分発声練習もダンス練習も出来るからって」
よく見れば壁に貼ってあるプロレスのポスターの日付は98年。
それ以降は未使用ってことか。
「入り方を知ってるのは最初の8人くらいかな」
「そういえば時々お姉さんメンバーが居なくなったりしたのは・・・・」
「ココだったりして!」
「ずるいです!何で今まで教えてくれなかったんですか?」
「ののやあいぼんがココ知っちゃうと探す範囲が広がっちゃうからね」
も〜・・・・また一緒くた・・・・
- 330 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:44
- う〜んと伸びをした安倍さんに聞いてみる。
「・・・・でも皆の前で安倍さんが私と手を繋いだのはビックリです」
「ああ・・・・急いで皆に見られない所に行こうって余裕なかったんだ」
突然しんみりした口調になった。
「最近ドラマばっかで歌ってなかったからコレでいいんだろうか?
前より下手になってないかなって・・・・色々考えてテンパっちゃって
気がついたら梨華ちゃんを探してた」
安倍さんは済まなそうな顔をした。
「そんな探してくれて嬉しいです」
「だけど派手に探して梨華ちゃん連れて来ちゃったね・・・・どうするべ」
「私が歌のダメ出しされたことにすればいいんです!
来る途中そういう目で見られてましたから」
「安倍さんは、ま〜た怖い人かい!」
フフフっと2人して笑った。
ドンドンック
遠くから響くリズムが変わった。
ハロー全員が踊る曲。
「大変!急いで戻らないと」
「走りましょうか」
ギィィィィィィ
来た時と同じように安倍さんに掴まれて扉へと向かう。
今日初めて知ったこの場所を後にする。
あの子は知っていた。
この場所を・・・・
- 331 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/02/20(火) 00:45
-
コンサートは大盛り上がりを見せた。
安倍さんの歌は完璧で、
何時間か前に私にすがって震えていたなんて誰も信じないだろう。
対照的に私は少しミスをした。
小さな心の引っ掛かりと、何かの予感を感じていたからに違いない。
安倍さんのあまりにも堂々と吹っ切れ過ぎた振る舞いと強い目の光は、
前々からの予感を感じさせるのに充分だった。
帰宅後
私と安倍さんは向かい合って座っていた。
切羽詰った表情の安倍さんの口がゆっくり開くのを阻止できなかった。
「もうこれからは別々に暮らそう・・・・っか」
- 332 名前:小さい家 投稿日:2007/02/20(火) 00:48
- 11回目の投稿です。
年末年始の忙しさにかまけて放ったらかしになってました。
構想が出来ても中々文章って進まなくて才能が足りません。
久々なのに今回短いし、第3のファクター出番少ないし。
待ってくださった方々本当に申し訳ないです。
(●´ー`)<初小説が長編なのが間違いだべ
( ^▽^)<無難に短編から始めないから苦労するんですよ
(●´ー`)<そもそも年末年始も半分以上ゲームやってただけだべ
(;^▽^)<モタモタしてるからよっちゃんまで卒業しちゃう!
うぅっ(つД`)
次回は説得です。
- 333 名前:小さい家 投稿日:2007/02/20(火) 00:49
- >>309
62さん
(●´ー`)<7回目のレスありがとうだべさ
(;^▽^)<怒って居なくなっちゃってない事を祈るばかりです
(●;´ー`)<次回でフラフラなっちに一応の決着がつくべさ
( T▽T)<吉でしょうか凶でしょうか
>>310
名無し飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●*´ー`)<続きを気にしてくれる人は神様だべ
(;^▽^)<今回の続きも気にしてくれると嬉しいです
>>311
(●´ー`)<初めての人大歓迎だべさ
( ^▽^)<引き込まれてくれてありがとうございます
(●;´ー`)<これからも多分続いていく予定です
( T▽T)<早く恋人同士になりた〜いです
- 334 名前:62 投稿日:2007/02/20(火) 01:57
- キタ─wwヘ√レvv~(゚∀゚)─wwヘ√レvv~─ !!
パソ閉じる前に見に来てよかった(;´Д⊂)
もしかして、あの、あの人が絡んできたりして…?
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/20(火) 13:07
- ぬぁ〜
めっちゃ続きが気になりますぅー(@_@)
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 07:04
- 待ってました!
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/27(日) 00:26
- もう書かれないんですか、ね
- 338 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:49
- 自分から切り出しながら安倍さんは口篭った。
私は口を開かなかった。
安倍さんは私の反応を待ってるのかもしれない。
でも口を開くわけにはいかなかった。
私にイニシアティブは無い。
イスに座って互いに俯いたまま時間だけが経過する。
「も、元々卒業までって話だったし・・・・さ」
当たり前だけど沈黙を破ったの安倍さんだった。
「何かズルズル住み込んじゃって、申し訳ないって言うか」
下を向いたままモジモジ指を動かしている。
「梨華ちゃんと一緒に住んでると賑やかで
誰も居ない家に帰ってくるより張り合いがあって、でもさ
ソロなんだし1人で住まないとね!なっちも頑張らないと・・・・」
大事な話のはずなのに目を合わせてはくれない。
「ハハ最初っから変だよね、梨華ちゃんが告白してくれたの断っといて
一緒に住むとか、なっち梨華ちゃんの気持ち振り回してるよね」
薄っすら涙ぐんでる様に見えた。
- 339 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:50
-
「別に・・・・構わないです」
「えっ?何?・・・・」
やっと出た私の小さな声を安倍さんは拾った。
「別に構わないですけど・・・・振り回されても・・・・
私はこれまで、そんな風に感じた事は無いですから・・・・」
真正面から安倍さんを見据えた。
偽らざる本心だった。
対照的に安倍さんは目を反らした。
「・・・・お互い忙しくなるしコレまでみたいには・・・・」
「じゃあコレからどうするんですか?」
「どうって・・・・前みたいに・・・・」
「1人で住んで、それで前みたいにお薬に頼るんですか?」
少しキツイ口調で語った。
途端に安倍さんの顔が歪んだ。
- 340 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:51
-
「・・・・薬・・・・」
「睡眠誘発剤・・・・ですよね?」
「あれは・・・・」
「私と一緒なら安心して眠れるって
最近お薬飲まなくても平気って言ってたじゃないですか!」
「それは・・・・そうだけど・・・・」
「私、安倍さんの役に立ってます。
今は仕事も違うからずっと一緒に生活してるわけじゃないから、
お互いの負担にはなってないと思います」
「この間も・・・・」
「梨華ちゃんが悪いんじゃない!」
突然なつみは搾り出すように叫んだ。
「梨華ちゃんに不満があるんじゃない・・・・なっちが・・・・」
顔を伏せたまま呟いた。
「なっちが悪いの」
- 341 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:52
-
安倍さんの頬をツーっと涙が伝った。
「今日の・・・・今日の出来事ビックリした。
なっちは前より弱くなってる!
スタンバイ前に頭が真っ白になって体の震えが止まらなくなって、
梨華ちゃんが来てくれなかったら1人で乗り越えられなかった」
「もう仲間に頼る事は出来ないのに・・・・
どこの現場に行っても1人なのに」
「ソロになったらもっと強くならなければイケナイのに・・・・」
涙を拭った。
「こんなことじゃイケナイ!」
自分に言い聞かせるように軽く頭を振った。
「それに・・・・なっちは・・・・まだ言ってない事があるの」
意を決したように安倍さんは顔を上げた。
「・・・・何をですか・・・・」
「・・・・梨華ちゃんを利用した
息抜き出来なくて・・・・気が紛れるなら・・・・誰でも良かった。
一緒に寝てくれる人なら、きっと他の誰でも・・・・」
「梨華ちゃんの気持ちを知ってて利用した
・・・・卒業前後を乗り切るために」
- 342 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:53
- 「だから・・・・」
安心した。
「何だそんなこと・・・・いつでも利用してください」
「・・・・へっ?」
涙でグショグショの安倍さんが驚き顔をした。
対照的に私は破顔した。
「好きな人の役に立ってるのなら本望です」
「・・・・何言ってるのさ・・・・」
「本心です。私に気を遣わないで下さい」
「だってなっちは誰でも・・・・」
「私は安倍さんの、お仕事の話を聞かせてもらったり
疲れてるのをお世話したりするのがとっても楽しいんです」
「・・・・」
「だから他の誰かが見つからないなら・・・・迷わず私を使ってください」
「そんなダメだよ・・・・好きになってくれた気持ちを利用するなんて」
「・・・・安倍さんは」
「何?」
「安倍さんは今・・・・好きな人は居るんですか?」
「ええっ!居ない居ないよぉ!」
ブンブンとこれ以上ないほど首を左右に振る。
- 343 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:54
-
「なら好きな人が出来るまで、ねっ・・・・いいじゃないですか
この生活が安倍さんの負担になってないのなら」
「負担だなんて・・・・助けられてばっかしだし・・・・」
「じゃあ・・・・これからも助けさせてください」
「でも、なっちは強くならないと・・・・ソロなんだから・・・・」
「今まで大人数だったのに卒業していきなり公私でソロは無理です!
仕事ではソロ!
私生活では2人!
ゆくゆくは1人になるための助走期間って考え方は、どうですか?」
「今はお互い仕事のことだけ考えて邁進しましょう」
「・・・・なっちはわがままだよ」
「それがイイんです」
フッと眼を細めた安倍さんをそっと抱き寄せる。
温もりが梨華の両腕の中に納まった。
「イイですね」
- 344 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:55
-
「・・・・うん」
- 345 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:55
-
(よし・・・・凌いだ!)
梨華はなつみを抱きしめながら安堵の溜息をついた。
説得・・・・出来ましたよ安倍さん。
ひょんなことから始まった、この不安定な同居生活。
いつ気まぐれで終わるか知れない。
ある日突然の安倍さんからの別れ話によって・・・・
同居を始めた時から怖かった。
ベッドで眠る安倍さんの手を握る私の反対側の手を常に握っていた、
不安という名の恐怖。
寝ても覚めても私の周囲を離れることなく付きまとっていた。
いつ切り出されるのか、
どう告げられるのか。
どんな終演を迎えるのか・・・・
- 346 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:56
-
そう遠くない将来に、
必ず訪れるであろう今日の日のことを考えていた。
どう受け止めるか。
どう答えるか。
どう・・・・説得するか・・・・
仕事の空き時間に1人考えながら少しずつ組み立てていった論法。
今の生活が安倍さんのためになっている根拠。
最初は取り乱さないで落ち着いて聞き役に徹する事。
強い口調と語りかける口調の使い分け。
過剰反応する・・・・お薬という言葉の使い所。
いつ話を切り出されても良いように準備を整えた。
シミュレーションを頭の中で何回も繰り返した。
唯一の懸念は安倍さんが既に決断してしまっていた時。
安倍さんが決意を固めたらテコでも動かないことは知っている。
「これからは1人で暮らす事に決めたから!」
強い眼力でそう切り出されたら成す術は無い。
それ以外なら・・・・絶対に説き伏せてみせる。
安倍さんの決意が曖昧だったなら付け入る隙はある!
- 347 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:57
-
一旦離れて暮らしてみる。
そんなことは考えられなかった。
仮に、この同居生活にピリオドを打ち。
2人別々の生活を始めた後に再び関係を築いていける・・・・
そう思えるほど、私は楽天家でも自信家でもない。
ソロで成功するためには1人で生活すべきなのかもしれない。
でも、一度知ったあなたとの生活を手放したくない。
絶対に・・・・
あなたを手元から放したくない。
例えそれが今後の2人にとって不利益に繋がったとしても・・・・
ううん。
絶対にそうはならない!
私が今の生活の中で確信できたこと。
安倍さん
あなたは私を好きになってる。
- 348 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/06/10(日) 22:58
-
少し違った。
・・・・
好きになり・・・・始めている。
少し・・・・ほんの少しずつ1ミリずつかもしれない。
でも確実に好きになり始めてる。
自惚れなんかじゃない。
あなたの眼が時々私を眩しそうに見つめる時がある。
その眼は私があなたを見つめる眼と同じ。
私はいつも
あなたは時々だけど・・・・
最初の頃は何でもなかった私への気持ちが少しずつ変わってきている。
あなたは、まだ気付いてないけど。
あなたをずっと見てきた私だからあなたの変化が分かる。
もう少し一緒に生活すれば・・・・あなたはもっともっと・・・・
私の気持ちに近づいてくれる。
そして
あなたを私から離れられなくしたい。
- 349 名前:小さい家 投稿日:2007/06/10(日) 23:00
- 12回目の投稿です。
日付を見てこんなに放ったらかしにしてたことにビックリ。
さらに今回難しくて書いたり消したりを繰り返しててとんでもなく遅くなってしまいました。
(●´ー`)<遅れたくせに今回短いべ
( ^▽^)<どんどん短くなっていきますね
(●´ー`)<次回急展開なのに出来るべか?
( ^▽^)<このままじゃ無理っぽいですね
・・・・
次回は青天の霹靂です。
- 350 名前:小さい家 投稿日:2007/06/10(日) 23:01
- >>334
62さん
( ^▽^)<8回目のレス有難うございます
(●;´ー`)<もう随分前のレスへのお返事になってしまったべ
(;^▽^)<あの人を出すのが早すぎたのでは・・・・
(●;´ー`)<前回しか出すタイミング無かったので絡むのはもう少し先になるべさ
>>335
名無し飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
(;^▽^)<まだ続きを気にしてくれてますか?
(●;´ー`)<今回チョット黒梨華ちゃんだったべ
(*^▽^)<好きな人のためなら黒くも白くもなりますよ
>>336
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<待たせたべ!
( ^▽^)<次回は待たせずに済みそうです
(●;´ー`)<多分だべ
>>337
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
(;^▽^)<そんなことないですよ
(●;´ー`)<でもそう思われてもしょうがないべ
(*^▽^)<どなたかマターリスレで名前を挙げて頂きありがとうございました
- 351 名前:62 投稿日:2007/06/12(火) 08:46
- 待ってました!
き、急展開ってなんだー?
次回まで待てないよー
- 352 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 14:52
- 梨華ちゃん必死ダナw
楽しみに待ってます
- 353 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 01:24
- まだかな〜
続きが読みたいYO!
- 354 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:17
- 私の意識はグルグルと部屋中を回っていた。
そして俯瞰から私自身も含め皆を見ていた。
向かい合った2人掛けのソファ。
その間のガラス製のテーブル。
ソファに座り何やら喋り捲るグラサン男と隣の腕組みする初老の男。
向かいに座る飯田さんと私の4人が居る部屋。
今の状況が全く掴めない。
私の意識は私の体に戻るため・・・・過去を振り返る事にした。
過去・・・・
今朝は目覚めのいい朝だった。
寝ている安倍さんを起こさないようにソッと起きた。
私は朝から安倍さんは午後からのお仕事。
朝食の音で起こしたくなかったので途中で食べていく事にした。
手早く着替えてバッグを担ぐ。
最後に安倍さんの寝顔を間近から見つめて・・・・
家を出た。
タクシーを拾ってコンビニで朝食を買って事務所へ直行した。
- 355 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:18
- バッタン
ドッスン
集合場所の事務所は朝から騒がしかった。
「軸足をボールの左側において右足の側面を使って・・・・蹴る」
「側面ぉ・・・・あららららら・・・・」
「こうやって思い切ってズバッと!」
バチーン
並べてある缶を越えてボールがドアにブチ当たった。
「おいっ!室内でサッカーしない!」
矢口さんに怒鳴られて
よっちゃんと教わってた高橋が慌てて後片付けを始めた。
「朝から何をしてるんだか・・・・」
私の呟きによっちゃんが首をすくめながら近寄ってきた。
「高橋は運動神経良いし向いてると思うんだけど・・・・向いてないか」
「どっちでもいいけど事務所内でスカウト活動しなくても良いでしょ」
「だってフットサルメンバーまだ誰も来ねえんだもん」
「理由になってない」
「1人じゃパス練習も・・・・ミキティ来た来た
あっ・・・・そういや偉いさんが梨華ちゃん来たら応接室に来いってさ」
それだけ言うとよっちゃんはボールを抱えて走り去った。
- 356 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:19
- また同じことを繰り返して怒られるんだから。
数分後の矢口さんの怒号を予想しつつ私は部屋を後にした。
偉いさん・・・・
何の用事だろう?
応接室って行くの久しぶり。
廊下を歩きながらフト後ろからついて来る大きい影に気付く。
振り返った。
「あの〜飯田さん?何か私に用ですか?」
黙って後ろを歩いていた飯田さんは不思議そうな顔をした。
「・・・・いや無いよ。たまたま方向が一緒なんだよ」
「方向って・・・・」
この先は応接室しかないはず。
応接室のドアを間に向かい合っていた。
「飯田さんお先にどうぞ」
「石川も呼ばれてたの?私の用事の方が長引きそうだから後で良いよ」
「そうですか・・・・じゃあ」
コンコンとノックしてドアを開けた。
「失礼しま・・・・」
「おお2人とも来たか入れ入れ、お前らの卒業の話を始めるぞ!」
- 357 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:20
-
・・・・
そうだ。
今その話をしてる最中なんだ・・・・
意識が肉体に戻った。
平たく言えばボーっとしてた思考がハッキリしてきた。
飯田さんの華やいだ声と共に。
「分からんではないが!」
「1月までは頑張りますから卒業後の長期オフ認めて下さいよ」
「そんなに休んで何をするんだね?」
「フランス!ヨーロッパ見聞ですよ!ずっと憧れてたので!」
「卒業後1発目が大事なんだぞ!ソレを休むって・・・・」
「初期からの頑張りを評価してくれても良いじゃないですか」
「損するのはお前だから・・・・構わんといえば構わんが後悔するぞ」
「行かない方が後悔します!認めてくれるんですね!」
飯田さんがグラサン男に詰め寄っていた。
「ハハハ・・・・ソロになったら何がしたい?にオフが欲しいか
突飛なのは昔から変わらんな」
初老の偉いさんが笑った。
実に和やかな雰囲気が部屋中に漂っていた。
私1人を残して・・・・
- 358 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:20
-
ハッキリ聞かなきゃいけないことがある。
恐らく、この和やかな雰囲気をブチ壊してしまう。
でも・・・・そうせざるを得ない。
今回だけは聞き分けの良い子を演じるわけにはいかない・・・・
「石川はどうしたい?」
おあつらえ向きに私に質問が飛んだ。
言う・・・・
言うしかない!
「あの・・・・コレは決定なんですか?」
「ん?」
「私が娘。を卒業するのは事後報告で・・・・決定事項なんですか?」
「・・・・あん?」
談笑が止んで空気が変わった。
私の隣に座っている飯田さんも真向かいのグラサンも私を見つめた。
テーブルを挟んで斜め向かいに座る偉いさんに再度尋ねた。
「卒業したいって私言った事なかったのにいつ決まったんですか・・・・」
- 359 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:22
-
「お前何言ってんの?」
答えたのは偉いさんの隣に座るグラサン男だった。
タバコを取り出して火を点けて一服吸った。
「何聞いてたんだ!
飯田は来年1月お前は4月に卒業!
飯田はソロでお前はユニットデビューって話を今したとこだろ!
ちゃんと聞いてろよ!」
モワッと煙を吐き出しながらグラサンは一気に捲くし立てた。
「だから、その話を今の今まで知らなかったって・・・・」
「今話してんじゃねーか!卒業がイヤなのか?」
「イヤとかじゃなくて」
「じゃあ何が気に入らねんだよ!」
バリバリと捲くし立てられると自分が間違ってるような気がしてきた。
「あ、安倍さんが卒業して、
ののとあいぼ・・・・辻と加護が卒業前なのに何で唐突に今なのか、
せめて辻と加護を見送ってからでも・・・・」
「辻加護の卒業発表も安倍卒業の1ヶ月前だろ何が唐突だ!
卒業後のプランを考えて逆算してけば 卒業時期が決まんだよ」
グラサンはグシャグシャと点けたばかりのタバコを灰皿で消した。
「こっちの都合も考えろ!」
- 360 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:23
-
そんな言い方・・・・
グサッと心に突き刺さる。
でも引き下がるわけには行かない。
「辻と加護の卒業を見送ってみんなで頑張って行こうって!
なのに・・・・」
「モーニングは仲良しグループじゃねえんだよ!」
「そんなこと分かってます!」
「何で他のメンバーみたいに卒業後も頑張りますって言えねえんだ!」
「だってオカシイじゃないですか!」
私は金切り声を上げていた。
その声の大きさに飯田と偉いさんが同時にビックリした。
「安倍さんが抜けて辻加護も抜けて、みんなで一致団結しなきゃ
って時にオマエは要らない・・・・みたいな!
私だって上から3番目になって引っ張る側で危機感もあるし、
頑張ってきたのに、ある日突然・・・・」
「アタシがいなきゃモーニングは立ち行かなくなる・・・・か?
自惚れもイイとこだ!」
「そんなこと言ってないでしょ!」
私はまた叫んでいた。
- 361 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:23
- 「頑張ってきたのに、頑張ってきたのに・・・・」
涙がこぼれた。
「卒業したく無いってことか」
グラサンが背もたれに、もたれ掛かって脚を組んだ。
慌てて首を振る。
「じゃあオマエはどうしたいんだよ!」
グラサンの怒号が飛ぶ。
どうしたい?
分からない・・・・
一度も卒業を考えなかったといえばウソになる。
中澤さんや保田さんを見送る度に思うところはあった。
私もいつかは・・・・
「でも・・・・タイミングが今なのは違うかも」
うっかり声に出していた。
「アタシは卒業したい時に卒業しますってか!
俺たちスタッフはなぁ
オマエの気まぐれに付き合わされる人形じゃねえんだよ!
こっちの気持ちを考えた事が一度でもあるのか!ああ!!」
「だって!!!!」
- 362 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:24
-
悔しい。
言いたい放題に罵られて頭の中が真っ白になってしまった。
沸々と怒りが込み上げる。
私は卒業を自分で決める!なんて言ってない。
卒業はする。
したい。
でもそれは間違っても、
吸殻と煙が充満した部屋で事務的に聞かされる類のものじゃない。
でも卒業のタイミングって誰がどう決める?
卒業して何が得られて何が失われるの?
私は・・・・結局卒業したくなくて駄々をこねてるだけ・・・・
違う!
私は自分の怒りと憤りが何であるかも分からなくなってた。
何よ朝からサングラスしてタバコ吹かしながらする話!?
涙を拭いながら睨みつける。
怒りが変な方向に向かっても収まる事はなかった。
- 363 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:26
- 「モーニングには高橋も藤本も居るし矢口も卒業しない。
オマエが思ってるほどオマエの存在価値は・・・・」
「あの〜・・・・」
殺伐とした空気にそぐわない声を発したのは黙っていた飯田だ。
「私は半年前から卒業したいって話をずっとしてたと思うんですが、
石川は今日始めて聞かされたんですか?」
「・・・・それがどうした?」
「だったら裕ちゃんも圭ちゃんも半年前から相談してたし・・・・」
「一々タレントにお伺い立ててからでないと
スタッフは動くなってか!」
「イヤ・・・・そうは・・・・」
「言ってるじゃね〜か!
大体卒業なんて事務所内の人事異動!
辞令を受けたら文句言わずに違う部署に行くんだよ!
オマエはリーダーのくせに石川に何をどう指導してきたんだよ」
「・・・・人事異動って・・・・」
「そんなだからオマエは昔から踊りが上達しねえんだ!ったく」
飯田がムッと黙った。
ムカツク
怒りと悔しさで体がブルブル震えた。
飯田さんに対する無礼な物言いに。
グループに対する愛情を全く考慮しない言い草に。
卒業を単なる配置換えとしか見ていない無神経さに。
本筋と無関係な飯田さんに対する言い掛かりに・・・・
梨華は膝の上で指が白くなるほど握り締めていた。
- 364 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:27
- 「石川の気持ちも分かるんですよ!
娘。に入る前から憧れていたなっちが卒業して、
妹のように世話してた辻加護の卒業も控えてる。
この時期に石川自身も卒業を聞かされて
盆と正月とカーニバルが同時に訪れたら誰だって混乱します。」
「靴下を忘れて靴を履いちゃったら後から履けないじゃないですか」
飯田は難解な例えを交えた。
「てめぇ石川が・・・・」
「なるほどリーダーの飯田がそこまで言うのなら考慮しよう」
グラサンの出鼻を挫いたのは、ずっと黙っていた偉いさんだった。
飯田も石川も、そしてグラサンも一斉に注目した。
「な、何を言い出すんですか?」
「石川はワガママを言って周りを振り回すような子ではない、
デビュー当時からね。
今回本当に戸惑って混乱してるんだろう。
コチラもいささか性急に事を運びすぎたようだ」
「ありがとうございます」
飯田が深く頭を下げた。
「あ、ありが・・・・とうございま・・・・う」
釣られて梨華も慌てて頭を下げる。
- 365 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:28
- 「な、そんな今になって卒業撤回とかこれまでのコストが・・・・」
グラサンは狼狽しまくっていた。
「私は撤回しろとは言ってない。
卒業も石川のユニットも変更は無い。
スケジュールはこれまで通りに進めたまえ。
ただしマスコミへの卒業発表を1週間遅らす」
「・・・・しかし今日中に発表する段取りが・・・・」
「卒業はあくまで本人のステップアップをアピールせねばならない
発表の場で泣き出されて無理矢理卒業のイメージは困る」
「そりゃあ・・・・まあ・・・・」
グラサンは口を尖らせて不貞腐れた。
偉いさんは飯田と梨華に向き直った。
「プロジェクトには大勢の手と費用が掛かっている
気を落ち着けて切り替えなさい。
ただし待つのは1週間だ!いいね!」
その言葉は優しげだったが有無を言わせぬ強さが込められていた。
「ハイ考慮していただいてありがとうございます」
飯田が座ったまま深々と頭を下げた。
「あ、ハイありがとう・・・・ございます」
突然の方針転換に戸惑いながら梨華も頭を下げた。
「1週遅らせると2人の卒業発表は中途半端な場になるが
そのペナルティは自分らで負いなさい、以上だ」
2人・・・・と聞いて私は飯田さんを巻き込んでしまった事に気付いた。
- 366 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:30
-
「ハイありがとうございます、では失礼します・・・・ホラ・・・・」
飯田は立ち上がると座ったままの梨華を促した。
以上だ、
と言われたら速やかに退出するのは私たちの暗黙の了解。
でもこれで良いんだろうか?
私が訴えたかったことは・・・・
「気が変わらないうちに出よ!」
小声で耳元に囁かれて慌てて立ち上がる。
何より飯田さんに、これ以上迷惑を掛けたくなかった。
「失礼しました」
飯田さんに続いてお辞儀をしてドアに向かう。
「先延ばししたって問題は解決しねえぞ」
グラサンの捨て台詞が退出する背中に突き刺さった。
バタンッ。
沸騰しそうになる怒りをドアと一緒に閉じた。
応接室の外の廊下には私と飯田さんの2人だけになった。
- 367 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:31
-
「飯田さ・・・・」
「ゴメン!」
いきなり飯田さんは両手を顔の前で合わせてゴメンポーズ。
「私の力じゃ1週間が限度だった。
卒業覆すまでは出来なくてホント頼りないリーダーでゴメン!」
「そんな・・・・私の方こそスミマセンでした」
「何とかしたかったんだけどね・・・・」
「飯田さんが謝ることないです。
上の人が決めたら、もう決定が覆らないって分かってますから」
2人並んで歩き出す。
「分かってたのに・・・・私ムキになって飯田さんまで巻添えに・・・・」
「私のことは別にいいから、にしてもアイツ頭に来るよね!
こっちはお前らの気まぐれに付き合わされる人形じぇねえんだ、
人の気持ちを考えろとか
こっちのセリフだっつーの!」
飯田は吐き捨てるように呟いた。
「スミマセンせっかく卒業後のヨーロッパ話で盛り上がってたのに、
不愉快な思いをさせてしまって・・・・」
「石川は謝らなくて良いって、
私らがどう思われてるか良っく分かったから」
「それに私、石川の卒業したくないって気持ち理解出来るんだ」
- 368 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:33
- 飯田はうって変わって明るい声で話し出した。
「私も1年前まで絶対卒業なんかしないって思ってた。
最後の最後まで娘。が私1人になったって残るって思ってた」
「・・・・言ってましたね」
「特にね・・・・今だから言うけど、なっちより先に卒業したくなかった。
私が卒業した後になっちが娘。のリーダーになるのだけは、
死んでもイヤだったんだ」
「・・・・」
「でもさ去年の今頃・・・・ちょい後か
なっちの卒業聞かされてさスーッと力が抜けたって言うか、
ああ今まで何意地張ってたんだろ私・・・・みたいな・・・・」
「何となくだけど分かります」
置いて行かれた気がする。
私にそう語った飯田さんを覚えている。
「結局、私にとって娘。ってのはなっちと戦う場だったんだよ。
それに気付いたらサバサバして私の娘。はココには無いんだって・・・・
もう若い子らに譲ろうって
モタモタしてたからのんちゃん達に先に卒業されちゃうけどさ」
「多分、安倍さんも同じこと考えてたと思います」
「フフッありがと」
飯田は照れ隠しのようにフンッと歩きながら背伸びをしてみせた。
- 369 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:34
- 「サバサバし過ぎて石川のこと全然考えてなかった。
卒業決まって1人で浮かれちゃってた・・・・
1年前は理解できてた筈なのにね卒業したくないって感情・・・・」
卒業したくない?
「ワタシは・・・・」
「あぁーコラッー何やってんの!」
梨華は飯田の突然の大声に首をすくめ、視線の先を慌てて追った。
矢口がコチラに背を向け腰に手を当てて立っていた。
「あ、ホラ、リーダー帰ってきたから報告しな!」
理由はすぐにわかった。
待合室の戸棚のガラスが割れて破片が飛び散っていた。
部屋のガラス窓にまで大きなヒビが入っている。
その前でサッカーボールを抱える面々。
「誰が割ったの?」
飯田さんが尋ねた。
- 370 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:35
- 「麻琴が強く蹴ったから跳ね返ってガラスに飛んだのれす」
「エー、何言ってんの?のんちゃんのパンチングが悪いんでしょ」
「だってコンコンが私はもっと強いシュートも防げるって」
「違いますよ。愛ちゃんが戸棚の前をゴールにしようって・・・・」
「パスだけじゃなくてぇシュート練習しなきゃって美貴ちゃんがぁ」
「私が来たらよっちゃんさんがスカウト活動手伝えって言うから」
「おいおい・・・・こっちに飛び火かよ」
1人反対側に居た吉澤が不本意な顔をした。
「おいおいって最初にボール蹴りだしたのよっしぃ〜だろ」
矢口が吉澤に振り向いた。
「ワタシは愛ちゃんの運動神経を見極めようと蹴らせてたら、
麻琴とののとコンコンが乱入してボール奪って勝手に・・・・」
「待ってください!一緒にしないで下さい。
麻琴のシュートを全部のんちゃんがキャッチして寝てても捕れる、
ってバカにしたから麻琴が後先考えず思いっきり!」
「その直前にあさ美ちゃんがこのガラスは丈夫で割れないって」
「そうだ!そうだ!」
「るさい!うるさい!うるさい!」
矢口が怒鳴った。
「室内でボール蹴るなって3回も言ったよな!
ココでサッカーしてた人は全員で謝ってこい!確か・・・・」
矢口は飯田を見た。
「うん、偉いさん応接室に居るから全員で行って来なさい」
- 371 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:37
-
「エー!あの部屋苦手なんだよ〜」
「卒業聞かされたのもあの部屋だったれす・・・・」
事件の張本人の2人がダラダラ歩き出す。
「アタシ蹴らないで見てただけなのに・・・・ですか?」
「崇高なスカウト活動をしてただけのワタシは被害者だ」
「扇動者でしょ」
吉澤と口を尖らせた藤本が続く。
「・・・・私は割ってないのに・・・・」
「あっしなんかぁガッタスでも何でもないやよぉ」
小さく呟く2人は応接室にビビッてるのが容易に見て取れた。
「ったく行動が小学生男子だよ・・・・っと2人とも何だったの?」
矢口がいきなり梨華に話しかけた。
「えっ?」
「偉いさんと応接室で何の話?ユニットでも決まったの?」
「あっと・・・・」
「石川には期待してるから飯田共々益々頑張りなさいって!」
「何だよオイラには期待して無いのか・・・・良いけどさ」
飯田さんの助け舟で何も誤魔化さずに済んだ。
- 372 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:38
-
梨華は自分の荷物が置いてある席に座った。
私の卒業。
決まっちゃったんだ。
何がどうなろうと1年後に私はココから居なくなる。
決定したらもう覆らない・・・・
パキッ
靴が割れたガラスを踏んづけた。
こんな、おバカな行動をとる・・・・愛すべき仲間達ともお別れなんだ。
そしてこの事実を1週間後には皆が知る。
先延ばししたって問題は解決しねーぞ
グラサン男の捨て台詞がまだ耳に残ってる。
先延ばし・・・・悔しいけど当たってるかも・・・・
だって何も好転しそうに無いから。
ブツブツ言いつつ割れたガラスを片付け始める矢口さん。
一心不乱にメールを打ってる飯田さん。
私も携帯弄ろうかな。
何気に携帯を取り出してパカッと開いた瞬間・・・・硬直した。
待ち受け画面は花束だった。
- 373 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:41
-
安倍さんが抱えていた花束。
卒業した日の夜にマンションの廊下で手渡された想い。
娘。で頑張った人から、これから頑張る私に託された・・・・
私は、もう娘。じゃ頑張れなくなる。
まだ何も出来て無い。
安倍さんが卒業してから今日まで私は何も・・・・残せてない。
託された想いを。
ヴヴヴヴヴヴ
突然携帯が振動してハッとした。
条件反射的に携帯を操作して・・・・固まった
「今夜は早めに家で待ってるべさ!」
安倍さんからのメールだった。
そうだ安倍さんに相談しよう。
安倍さんに・・・・
何をどう相談すればいいんだろう?
ある日突然卒業を告げられて即座に頑張ろう!と答えた人に・・・・
身体と心を削って娘。とソロを両立させてた人に、
今尚ソロ活動で多忙な毎日を送る・・・・安倍さんに・・・・
自分の気持ちも整理出来てなくてまだ卒業を受け入れられないって・・・・
悪足掻きをして飯田さんも巻き込んだって、
こんな甘えた考えどう報告するの。
- 374 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:42
-
この日、私もガラスを割った面々も一日中暗かった。
飯田さんはずっとメールしてたし空気はずっと滞ったままだった。
「オマエは笑いのセンスが無えだとかコンコンの歌は聞こえねえとか
ガラスと関係無い説教を延々としやがって・・・・」
吉澤が不貞腐れて呟いた。
「グラサン男さ、虫の居所が悪いのか知ん無いけど八つ当たりだよね
愛ちゃんが訛ってるのがそもそも反省して無いって言い出すし・・・・」
藤本が振り返ると目を真っ赤にした高橋が頷いた。
停滞した重苦しい空気も、
グラサンに反抗した自分の責任だと思うと居たたまれなくなった。
早く帰宅したい。
でも安倍さんにどう報告しよう。
頭の中がグシャグシャになっていくのが分かった。
「今夜は早く寝なね。石川は考えすぎるから」
飯田さんが帰りがけにポンと背中を叩いてくれたのが救いだった。
気が付けば何も妙案が浮かばないまま家のドアの前に居た。
・・・・
今日じゃなくてもいいんじゃない・・・・安倍さんに報告するのは。
自分の中でキッチリ整理できてから、
それからでも遅くない・・・・
キィ
ドアを開けた。
- 375 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:43
- 「お帰り」
安倍さんが居た。
玄関で私の帰宅を出迎えるように立っていた。
どうして・・・・と思う間もなく視界がグチャグチャに歪んだ。
「わあああああああああああああああああ」
泣きながら安倍さんにしがみ付いた。
涙が止まらない。
後から後からボロボロこぼれてくる。
「あああ・・・・わああああんん・・・・」
感情がほとばしって何がなんだか分からない。
・・・・これじゃあダメ。
伝えなきゃ。
報告しなきゃ安倍さんに伝わらない・・・・
「あああ・・・・ぐっウグッ・・・・ガッえぐぅ・・・・」
必死に喋ろうとしても意味不明な嗚咽しか吐き出せない。
「まず靴を脱いでさ、そう・・・・んでカバン下ろしてね、
部屋に入ろ。ベッドがいいかな?あ、慌てずにゆっくり・・・・ね
耳元に語りかけられる安倍さんに誘導されるままソロソロ動いた。
幼子のようにしがみ付いたまま。
- 376 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:44
-
「グズッうぇええん・・・・あ、あの・・・・スンスン・・・・」
ベッドに座った安倍さんの胸から顔を上げる事が出来ない。
それでも安倍さんは何も聞かなかった。
帰ってくるなり突然泣き出した私をただ抱きしめ続けてくれていた。
両足を前に投げ出した座り方で膝立ちの私を支えるようにして・・・・
安倍さんの両手がシッカリ私の頭を抱える。
そして優しく優しく私の髪を撫でてくれた。
右手の指全部を使ってスーっと上から下に髪をとかしていく。
頭頂部から襟足まで手串を髪の中に通して何度も何度も・・・・
まるで私のささくれ立った心をならしていくように。
ゆっくりゆっくり静かに同じリズムで・・・・
いつかの番組中も泣き出した私をこうして慰めてくれたっけ。
心地よい・・・・記憶が蘇える。
やがて私自身の嗚咽も聞こえなくなっていき、
髪をとかすスーッスーッという音だけが残り
いつしか瞳を閉じていた。
スーッウ
髪を撫でる手が止まった。
「梨華ちゃん卒業決まったんだね」
穏やかで優しい口調だった。
- 377 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:45
- !
一瞬戸惑ったけど・・・・再び髪を撫でられて・・・・落ち着いた。
ゆっくり顔を上げて恐々と安倍さんを見た。
今まで私が見せてきた中で最も情け無い顔だったはず。
「な、んで・・・・分かっ・・・・」
安倍さんはフワッと笑った。
「顔に全部書いてあるよ!」
・・・・
そうかもしれない。
でもいきなり悟られちゃうなんて、
この人には一生敵わない。
「なーんて嘘嘘!そんなに何でも分かっちゃったら苦労しないべ」
私の反応に少し慌てたのか安倍さんは軽くおどけてみせた。
「・・・・えっ・・・・じゃあ・・・・どうして・・・・」
「カオからメール・・・・届いたんだ」
真顔に戻りそう呟やくと、再び私の頭を元の胸元に抱きしめた。
「梨華ちゃんが自分で伝えたかった?・・・・ゴメンね」
ううん、と胸の中で首を振る。
しようとしても・・・・出来なかったんだもん。
「なっちの卒業決まった時ね、
一番にカオにメールで知らせたの。
したらカオの卒業決まった時には一番になっちに知らせるね!
って約束しててさ・・・・
今日の午前中にメールが着て・・・・梨華ちゃんも一緒だったって」
一日中携帯からメールを打ってた飯田さんの姿を思い出していた。
- 378 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:46
-
「カオの話だと梨華ちゃん凄いショックを受けてたって」
ポンポンと軽く叩かれた背中から安倍さんの優しさが染み入ってくる。
「・・・・ゴメンなさい」
「何で謝るんだい?梨華ちゃん何も悪い事して無いっしょ」
「私・・・・卒業後も頑張りますって言えなくて。
卒業って言われて取り乱して、どうしていいか分からなくなって
上の人にも文句言っちゃって飯田さんにも迷惑かけて・・・・
安倍さんみたいに卒業を前向きに考えられなくて、それから・・・・」
言葉にすると自分の行動がますますデタラメなことに気付く。
私はどうしたかったんだろう・・・・
私は・・・・
「ビックリしたんだよね」
グルグル不規則に回転してた心が不意に立ち止まった。
「ビックリした?」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「何の前触れも無く卒業って決められたら誰だって驚くよ
なっちもカオの次は矢口って思ってたし、
今日の今日まで梨華ちゃん卒業なんて誰も想像してなかったよ絶対」
・・・・
ビックリしてた?
私はあの部屋で卒業を聞かされてから今までずっとビックリしてた?
卒業の考えがちっとも纏まらなかったのは、
最初のショックから立ち直れてなかったから・・・・
だから・・・・
気持ちが落ち着いていくのが分かった。
- 379 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:47
-
「でも卒業後も頑張りますって言えなくて」
「突然だもん言えなくていいよ」
「安倍さんは言えたのに」
「なっちの場合はソロデビュー決まってたし突然じゃなかったよ」
「でも・・・・」
「圭ちゃんもカオも事前に卒業を相談してたし裕ちゃんもごっちんも
ソロデビューしてたでしょ・・・・梨華ちゃんは特殊なケースだよ」
「・・・・ののもあいぼんも素直に卒業を受け入れたのに・・・・」
「2人一緒だからね。1人で卒業しかも知らない人とユニットって
なったらきっと大変だったよ。
梨華ちゃんは、その新ユニットの子達と会ったことも無いんでしょ?」
こくこく
抱き寄せられた胸の中で首を縦に振った。
「ホラそんな状態だったら不安の方が先に来ちゃうのは当然だよ、
それに取り乱しちゃったのは、それだけ娘。を愛してる証拠。
どうでもいいって思ってたら上の人に文句なんか言わないよ」
安倍さんの胸の中から顔を上げる。
「梨華ちゃんは何も悪くなんか無いよ!」
笑顔があった。
- 380 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:48
- なつみの両手がゆっくり梨華の前髪をかきあげた。
それだけでまた涙が零れそうになる。
「・・・・私・・・・飯田さんに・・・・私のせいで卒業発表が・・・・」
次々と悪い材料を思い出す。
「ダイジョブだよ!カオも感謝してた」
なつみが屈託無く笑う。
「ウソです!」
「何で?・・・・ウソなのさ」
「卒業発表が延期になって・・・・何で私に感謝するんですか?」
フフッ
「カオが卒業決まったら最初になっちに知らせるって言ったでしょ
そん時にね、最初は今の娘。のメンバーにでしょ!って答えたの。
なっち卒業の時にカオはメンバーだったからね。
したらカオがう〜んって悩んじゃって・・・・
カオはリーダーだしメンバーより先に、
もうメンバーじゃないなっちに最初に伝えるのはって・・・・クフフゥ」
思い出し笑いをした。
「でも梨華ちゃんのお陰でメンバーに黙ってても後ろめたくなくて、
最初になっちに教えられるって!カオらしいよね」
「・・・・」
確かに飯田さんらしいかもしれない・・・・
「安心した?」
おでこがくっつく位の距離で安倍さんが見つめる。
答える代わりにコクコクと頷く。
「じゃあお風呂沸いてるから入っておいで!
いっぱい泣いた後は暖かくして寝ちゃおう!ね!」
- 381 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:49
-
シュシュッ
なつみはティッシュを2,3枚取ると梨華の顔中の涙の跡を拭いた。
「美人さんが台無しだよ、はいチーン!」
チーン!
言われるままに、
ブスブス鳴ってた鼻に当てられたテュッシュで鼻をかんだ。
「はい、温まっといで」
軽く背中を押されて浴室に送り出された。
チャプン
お風呂に浸かって今日の事をボーっと考えていた。
何が安倍さんを助けたいなのよ・・・・助けられてばっかりじゃない。
反省・・・・
フト鼻に手をやる。
人に鼻をかんでもらったのなんて小学生の低学年以来じゃない・・・・
ブクブクブクブク
急に恥ずかしくなって目までお湯にもぐった。
「もう!安倍さんがとっさにチーンとか言うから・・・・」
子ども扱い・・・・
いや赤ちゃん扱いされて気恥ずかしいのに変に心地良い。
こんな姿は誰にも見せられないけど・・・・
安倍さんになら・・・・見られたい・・・・見せたい気がする。
ブクブクブクブクブクブク
私は何考えてるんだろ。
- 382 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:50
- 充分反省した筈なのに、
お風呂から上がっても私は、まだグズグズ言っていた。
ベッドに安倍さんと並んで座り腰から下だけタオルケットに包まる。
「いきなりですよ!ドア開けた瞬間にオ〜イお前ら卒業だ!って」
「それは酷いねぇ」
「そんで卒業っていつ決まったんですか?って聞いたら
お前何言ってんの?こっちの都合も考えろ!って・・・・」
「質問にも答えないで?デリカシーの欠片も無いね」
「・・・・ですよね」
安倍さんに渡されたティッシュで涙を拭う。
気が付くとグラサンの言葉を安倍さんにぶつけていた。
全て否定してもらうために・・・・
「スタッフは、お前の気まぐれに付き合わされる人形じゃない!って」
「そんな事言われたの?それは向こうが悪いね」
「・・・・でしょ・・・・」
「事務所にとっては年中行事かもしんないけど、
卒業する本人にとっては一生に一度のことなのに、
節穴は相変らずしょうがないね」
- 383 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:50
-
「・・・・ふしあな?」
聞き慣れない言葉に梨華は涙ぐみながらなつみを振り返った。
「サングラス男のアダナだべ」
憤慨して腕組みしたままの、なつみが答える。
「アイツはウチらが5人でデビューする時に絶対売れないって、
偉そうに決め付けたんだよ・・・・全部ハズレたけどさ」
「そのくせ売れるって評価してスカウトした子は全員失敗して、
みんなに見る目無さすぎなのは目が小さいからかってバカにされて
サングラスかけだしたんだよ」
「へぇ〜・・・・」
グラサンの人となりなんて、今の今まで全く知らなかった。
涙も忘れて聞き入った。
「でも夜でもサングラスかけっ放しじゃあ余計見えないでしょ、
だから節穴って呼ばれるんだよ外面ばっかで内面が見えてないんだべ」
「年上の裕ちゃんにはビビッてるのに相変らず年下には居丈高でさ、
今度とっちめてやらないとね!」
「真面目な梨華ちゃんをこんなに泣かせて・・・・」
ぶりぶり怒ってた安倍さんがフッと柔和な表情になった。
- 384 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:51
-
不意になつみの手が伸びて梨華の頬に触れた。
親指が涙の跡を辿るように頬を撫でながら顎に到達した。
そのまま顎を撫でる。
・・・・
またシャクレとか言われそう・・・・次の言葉に予想がついた。
しかし予想を裏切ってフワッと唇が重なって・・・・離れた。
その出来事が突然だったから何がなんだか分からなくて、
無言でオズオズと人差し指を1本立ててしまった。
もう一回・・・・
安倍さんの瞼が閉じて唇が再度重なった。
触れるだけ、だけど今度は長かった。
フウッ
唇が離れて2人同時に吐息を吐いた。
「梨華ちゃん・・・・真面目過ぎだよ・・・・真面目過ぎてなっち不安になる
今日もカオにメール貰ってから一日中気になって・・・・」
「はい・・・・」
「違う、なっちが言いたい事は・・・・そうじゃなくてさ・・・・」
タオルケットの端っこをギュウっと握り締めたなつみは真顔になった。
「なっちは梨華ちゃんの、もっと間近に居たい。
梨華ちゃんをもっと近くに感じたい・・・・だから、
・・・・
梨華ちゃんと正式に付き合いたい・・・・こ、恋人同士になりたい・・・・」
- 385 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:52
-
静かだった心臓が突然全力疾走を始めた。
思ってもみなかったタイミングでの・・・・告白。
全ては真っ赤に染まった安倍さんの面差しが証明している。
夢じゃないって・・・・
一瞬でカラカラに乾いた口内を湿らせ笑顔を作った。
口を開いて言葉を紡ぎだす。
「お断りします」
安倍さんの目が点になった。
5秒
4
3
2
1
もう我慢出来ない!
ガバッと安倍さんに思いっきり抱きついた。
「何でそんな顔するんですか?ウソに決まってるじゃないですか!」
「・・・・えっ?・・・・へぇ!?」
「最初から成功するって分かってる告白なんてズルイです」
「ほぇっ・・・・じゃあ・・・・結局どういうこと?・・・・」
- 386 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:53
- 安倍さんは目を白黒させていた。
「聞くまでもないでしょう?
私は安倍さんと恋人同士になれる日を待ち望んでたんですよ・・・・
ずっとずっと昔から今の今まで・・・・ずっと」
「じゃあ・・・・お断りしますって・・・・なっちをからかったのかい?」
なつみは梨華をジロッと睨んだけどすぐにショボンとした。
「そうだよね、梨華ちゃんは最初こんな想いをしたんだよね、
今の凄いショックだった・・・・告白なんて人生で初めてだったし」
「ゴメンなさい・・・・
嬉しすぎて簡単にハイ!ってお返事するのが勿体無くて・・・・
でも私のお断りを真に受けるなんてその方がショックです。
断る事なんて100%ありえないのに!」
「ありえないから余計ショック・・・・
そっか絶対断られないって分かってたから・・・・告白できたんだ
梨華ちゃんが言った通りなっちはズルかったかもしんないね」
ううんと首を振った。
「・・・・ズルイは言い過ぎでした、告白してくれて凄い嬉しかった」
「お互いがお互いに初めて告白してフラれたんだね」
顔を見合わせてクスクス笑った。
そして再再度唇を重ねた。
恋人になってから初めてのキス。
- 387 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:54
-
一日のうちにいろんなことがありすぎて・・・・
くふふっ
含み笑いをしながら突然安倍さんが悪戯っぽい目つきになった。
「さっきさあ・・・・梨華ちゃんに鼻かんでって言ったら、
子供みたいに鼻突き出すとは思わなかったよお」
ドッカン
「あ安倍さんが勝手にチーンってやったんじゃないですか!」
一気に真っ赤になった。
「そうだけど後で考えたら可笑しくってさ
梨華ちゃんがお風呂入ってる間ずっと笑っちゃってたクヒヒッ
大人な梨華ちゃんに憧れてる後輩の子達って多いのに、
どう思うんだろうって」
もう・・・・江戸の敵を長崎で取ろうとするなんて!
この展開で冷やかされるとは夢にも思わなかった。
今日最高に照った顔を無理矢理安倍さんの胸にグリグリ埋めた。
「私は4つも年下なんですよ!甘えたっていいじゃないですかぁ!」
「じゃあ年上のなっちは誰に甘えたらいいんだべ」
「安倍さんはみんなに甘えられる人だから良いんです」
「なんだいそれ?」
「だって安倍さんは〜・・・・」
「ねえさ〜・・・・安倍さんは辞めにしないかい?」
えっ?
- 388 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:54
-
「一緒に住んでて付き合ってるんだし、なっちでいいよ!」
な!
・・・・
「言ってごらんホラ、なっちって」
なつみは益々真っ赤になった梨華を正面から見つめた。
「な・・・・っち・・・・さん」
必死に頑張るも安倍さんは首を左右に振った。
「なっちさんって変だよ!なっちだよ!」
「えっと・・・・でも明日からいきなりそう呼び出したら
みんなに勘ぐられて・・・・だから・・・・」
何とかこの甘い拷問から逃れる術を探したけど、
安倍さんは許してくれそうも無い。
「そんなこと無いべ
矢口もののもごっちんも、なっちって呼ぶんだから梨華ちゃ・・・・」
私の人差し指が自然に安倍さんの唇を押さえて言葉を遮った。
「今は他の子の名前は・・・・出さないで下さい」
「む・・・・」
安倍さんは一瞬驚いたけど神妙な顔になった。
「そっか・・・・ゴメン無神経だったね」
「いいえ、こちらこそスミマセン
前は平気だったのに今は急に・・・・イライラしちゃって」
- 389 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:55
-
「・・・・だったら尚更なっち!って呼べるよね梨華ちゃん!」
「あ・・・・イヤその・・・・」
一層窮地に追い込まれてしまった。
呼びたくないわけじゃないけど今更って気もするし、
呼べなかった歴史も大事にしたい。
でも距離が近づかないのもイヤ・・・・もどかしい想いに駆られる。
「梨華ちゃん!」
詰め寄られて・・・・閃いた!
「そうだ!だったら梨華ちゃんもオカシくないですか?」
「へっ?」
「安倍さんの方が年上なんだから梨華って呼び捨てにして下さい!」
「・・・・えええっ!だってずっと梨華ちゃんだったのに突然・・・・」
「今までは石川!か梨華ちゃん!しか呼ばれなかったから、
梨華!
で、一緒に住んでるし付き合ってるんだから」
満面の笑みで梨華が詰め寄るとなつみは後退りした。
- 390 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:56
-
「梨華・・・・ちゃ・・・・ん」
「駄目です!ちゃんは要りませんよ恋人同士なんですから」
「だって、いきなり呼び捨ては・・・・」
「4つも年下なんだから、ちっとも変じゃないです」
「梨華!です」
自分の鼻を指差し、にじり寄った瞬間、なつみはベッドを抜け出した。
「あ!何で逃げるんですか!」
負けじと追いかける。
「どうして梨華って呼んでくれないんですか?」
「そっちがなっちって呼ぶほうが先でしょうが!」
「そっちじゃなくて梨華って呼んで下さいよ!」
頬を真っ赤に染めた2人のおバカな言い合いは、
夜を徹して終わりそうに無かった。
- 391 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:57
-
「昨日の今日で大丈夫?・・・・」
私を気づかう安倍さんは本当に心配そうだ。
「昨夜は話が脱線したまま終わっちゃって何の解決にもならなくてさ」
ポリポリと本当に頭をかく人を始めて見た。
「ちっとも脱線してませんよ」
バッグを肩にかけた私を玄関まで見送る安倍さんを見やった。
「勇気と自信を貰って・・・・自分の中で無事解決できましたから」
「ほえっ?勇気?」
小首を傾げる天然さんの耳と髪の隙間に手を差し入れて・・・・キスする。
「むぅ!」
安倍さん驚きすぎ!
行ってらっしゃいイベントは絶交のキスチャンスでしょうに。
カーッと紅潮して俯いちゃったので朝からコッチも恥ずかしくなる。
「・・・・行ってきますね、卒業の件は大丈夫ですから・・・・」
「・・・・気をつけてね・・・・なっち今日は午後からだから・・・・」
「2度寝して遅刻しないで下さいね・・・・なつみ・さん・・・・」
「うん・・・・あえ?」
バタン
私は外に飛び出した。
- 392 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:58
-
昨夜のおバカな言い合いの末に決まった互いの呼び名。
なつみさん。
梨華。
そうなった理由はメンバーが誰もそう呼んで無いから。
慣れるまで時間がかかりそうだけど・・・・決定した。
そして私がこれから向かう先にある事実。
卒業。
昨日は憤りでいっぱいだったけどもう怖くない。
だって安倍さ・・・・なつみさんが思い起こさせてくれたから。
娘。時代のなつみさんは常に前を向いて全力疾走していた。
手を抜かず努力を惜しまず先頭に立ち全員をグイグイ引っ張った。
その後姿は頼れる反面、
ついて来れない者は置いていかれるかのような怖さも付きまとった。
真剣な活動の最中の私の想いなんて簡単に全否定されるに決まってる
私が憧れ続けながら距離を縮められなかった理由・・・・
- 393 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/06(火) 23:59
- でも卒業が決まったなつみさんは変わった・・・・変わってくれた。
夢の実現の為にただ前だけを見ていたなつみさんが立ち止まって、
メンバーに振り向いてくれたんだ。
余裕を持ってみんなを励まして見守ってくれるようになった。
だから・・・・
私は最初の告白を決意できた。
今なら少し角が取れた今なら受け入れてくれるかもしれないって・・・・
だから私も変われるはず・・・・
今までの活動と卒業が決まってからの活動は違う。
グループの一員としての成長もあれば、
卒業までの間みんなを見守る精神的な成長もあるはず。
時期的に今がベストかどうか何て誰にも分からない。
でも臆病なまま立ちすくんでたら何も変わらない。
もしあの頃の告白出来なかった私のままだったら・・・・
今の幸せは無い。
卒業するまでの間に今のままとは違う成長が出来るかもしれない。
- 394 名前:グッドラブハロー 投稿日:2007/11/07(水) 00:00
-
プチプチ
事務所に入ると辺り一面が半透明なビニールに覆われていた。
「おーし!全部のガラスにエアーキャップ通称プチプチを貼ったぞ!
これで事務所内でも思う存分ボールが蹴れる」
「どうあっても室内でやんなきゃダメなの?」
呆れてる美貴ちゃんを尻目に私は張り切る当人を無言で引っ張った。
「ちょちょちょ何だよ今からカッケーガラスの衝撃吸収実験をだな」
文句を聞き流しながら部屋を連れ出し目的地の階段下まで来た。
最初に誰に伝えるかは大事だべ!
カオは唯一残ってた同期メンバーで何よりライバルだったからね。
「絶対ガラス割れない自信あんだぜ、昨日の二の舞は無い!」
見当違いの言い訳に少し笑う。
「あのね私1週間後・・・・いや6日後にね・・・・」
- 395 名前:小さい家 投稿日:2007/11/07(水) 00:02
- 13回目の投稿です。
半年近くも放置って酷すぎる。
オマケにハローもゴタゴタして話の整合性が取れるかどうか。
(●´ー`)<何かあったんだべか?
( ;^▽^)<あなたです!今回の慰める側と泣く側の立場が逆じゃないんですか?
(●;´ー`)<今は元気だべ
( T▽T)<こっちの身にもなってください
<出番の無いまま終わりそうだぽ〜
時間軸が追いつくどころか離されて行く一方です。
次回は番外編なちりかデートの予定。
- 396 名前:小さい家 投稿日:2007/11/07(水) 00:03
- >>351
62さん
(●´ー`)<9回目のレスありがとうだべさ
(*^▽^)<9展開しましたねキャー
(●;´ー`)<実はあまり展開して無いべ
( ;^▽^)<きゅうに突っ込んでくださいよ
>>352
名無し飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<梨華ちゃん今回も必死だったべ
(*^▽^)<毎日必死です!あと梨華!です
(●;´ー`)<まだ言うべか
>>353
名無し飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ;^▽^)<続きに期待してくれる人本当に嬉しいです
(●;´ー`)<早く書かないとなっちがまた騒ぎを起こすべ
( T▽T)<やめてください
- 397 名前:62 投稿日:2007/11/11(日) 18:01
- キタベ━━━━━━(●´ー`)━━━━━━ !!!!!
少し諦めつつもしつこく待ってた甲斐がありますたw
まさに急展開で目が離せませんわ〜
某あの人がどういうふうに関わってくるのか…ワクテカしながら次回も待たせていただきます
- 398 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/14(水) 04:38
- やった〜〜〜!
続きが上がってる!うれし〜〜い!!
半分諦めかけていたのでより嬉しいです。まめに除きに来ていてよかった!
やっと結ばれた二人、幸せになって欲し〜〜な〜〜。
次回も期待しています。
- 399 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/31(木) 00:55
- 一気に読ませていただきましたー!
なちりかーvvv
続き、待ってます!
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/17(日) 00:43
- 更新待ってるよ〜!!
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/19(火) 03:39
- さげまーす!
&
待ってまーす!
- 402 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:15
- 番外編
早すぎただろうか。
午前9時半。
でも寝過ごすよりはいい。
遅れるよりはずっといい。
私は目覚めのカフェオレをストローでジュッと啜った。
誘ってきたのはなつみさんだった。
「今度の土曜日って梨華ちゃん暇かい?」
「ええ収録が早めに終わって土日は空いちゃいましたけど・・・・?」
「映画でも行くかい?」
「映画ですか?」
「紫陽花街の映画館が新しくなったの一度行ってみたくてさ。」
「・・・・いいですね・・・・」
「んじゃ土曜日に一緒に出かけよっか・・・・」
急に我に返って気付いた。
「待ってください、これってデートじゃないですか!」
「・・・・ああ、そうかも。」
「そうかもって大事じゃないですか初デート」
「いや映画館見るついでに映画見るだけだし・・・・」
「何言ってるんです!」
「駄目です駄目ですデートは待ち合わせからです!」
「へっ?」
「待ち合わせ場所を決めてそこで恋人同士は出逢うんです!」
「一緒に住んでるんだしそんな面倒くさいことしなくても・・・・」
「2人の初デートですよ!」
- 403 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:16
- はあ〜
昨日は眠れなかった。
イスに座ったままう〜んと軽く伸びをすると改めて店内を見回した。
お洒落な喫茶店。
三方をガラス壁に囲まれた開放的な設計。
それでいてテーブルとイスはアンティーク調で落ち着いた雰囲気。
店内の床は軽く凸凹した石畳でオープンテラスの感覚を覚える。
風雨や雑踏の埃に晒されること無く、
店外の道行く人々がハッキリ見える。
周辺は車両進入禁止で都会の歩行者もノンビリして見える。
これよこれ!
前にハロモニのロケで近くに立ち寄った時に目をつけていたんだから。
あんな場所で好きな人を待って居られたら・・・・
なーんてね!
なーんてね!
あの日の淡い憧れ・・・・本当に実現できる日が来るなんて!
「梨華ちゃん、また形から入って・・・・」
柴ちゃんが知ったら苦笑いされそう。
はあ〜
なつみさん早く来ないかな〜。
- 404 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:18
- パチッ
携帯を開いて本日のスケジュールを再々確認。
何たって今日までの間にスケジュールを完璧に仕上げたんだから!
映画館の予約は勿論のこと、
立ち寄る喫茶店や食事するお店に交通渋滞の有無に近隣の催しまで・・・・
そして肝心のなつみさんがデートそのものを忘れていないように、
2日おきにメールで確認をとる日々。
気付けばデート前日。
昨夜は案の定ほとんど眠れず。
起きたのが5時。
家を出たのが8時。
待ち合わせは10時だってのに・・・・
9時開店と同時くらいにココに飛び込んで、
カフェオレを飲みながら30分。
コンサートの初日以上にウキウキしてるのはイケナイかしら。
でも、この待ち遠しさが待ち合わせの醍醐味。
- 405 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:19
- 只今9時45分。
待ち合わせ15分前。
彼女はまだ来ない。
当然か、私が早く来過ぎてるんだもん。
でも今どの辺に居るんだろう?
パチッ
再再再度携帯を開いて・・・・思い留まった。
「当日は出逢うまで携帯禁止ですよ」
「・・・・ほえっ?何でだべ?」
「いつ来るかな?
いつ来るかな?
って待つのが正しいんです!
携帯で確認しちゃったら楽しみが半減しちゃうじゃないですか!」
「・・・・でも今ドコに居るの?とか、もうすぐ着くよ〜とか・・・・」
「ダメです!
ダメです!
恋人同士は普通の友達同士とは違うんです」
「でも場所が分かんなかったり迷ったりしたら?」
「迷ってもダメです!
遠くからお互いの姿を発見して、
ああこんな服着てきたんだとか同時に確認するんです!」
「・・・・梨華ちゃん古風だべ」
「初デートなんですから・・・・
いいじゃないですか、絶対迷わないように地図も書きますから」
携帯禁止を言い出したのは私だった。
- 406 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:20
- そう・・・・待つ時間が大事。
ココから既にデートは始まってるんだから。
ハー・・・・
フー・・・・
深呼吸を一つすると改めて店内を見回す。
最初は私一人しかお客が居なかったのに今はチラホラ人が居る。
新聞を読んでるビジネスマン。
この時間に何故か溜まってるOL4人組。
そして正面には高校生とおぼしきカップル。
平日だってのにサボリかしら。
全く最近の子は・・・・羨ましくなんか無いもん私だって!
さて、
今何時だろ?
えっ・・・・9時55分!
5分前なら、もう姿を見せても良い頃なのに・・・・
通りの方を遠くまで見据えてもそれらしい姿は確認できない。
まさか・・・・
今日だってのを忘れてるなんてことは・・・・
なつみさんなら・・・・ありえそうな気がしてきた。
やっぱり昨夜最後の確認メールをしておくべきだったかな・・・・
不意に不安が膨らんでくる。
- 407 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:21
- 遅れてる?
それとも・・・・
もしかして、なつみさんの身に何か起こったんじゃ!
携帯禁止なんて決めなきゃ良かった。
忙しなく携帯をパカパカ開け閉めする。
言いだしっぺの私から先に電話しちゃうのは・・・・
でも、
ハンドフォンメモリー意味なくスクロール。
・・・・
あ、あ、あ、あ、
本当は「な」で登録したい。
安倍なつみの欄の上下をカーソルがフラフラ動く。
・・・・
ピッ
選択!
プルルルルル
プルルルルル
ガチャ
明るい女性の声が応えた。
「ハイこちらアップフロントエージェンシーサービスセンターです」
私が選択したのは安倍なつみの上の欄のアップフロントだった。
- 408 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:22
-
「・・・・タレントナンバー19980128でお願いします」
「少々お待ち下さい・・・・確認しました。
ハロープロジェクトセクションへ繋ぎます、個人IDをどうぞ」
「IDナンバー20000416の4の19850119です」
「・・・・照合確認しました。石川梨華さん、どうなされましたか?」
えっと・・・・
「みんなの今日のスケジュールはどうなってますか?」
「ハイ、本日はオフの方が多いようですが・・・・
まず高橋愛さんは新垣家風もんじゃを体得するべく新垣さんの・・・・」
「あ!いや、娘。メンバーじゃなくて、
卒業、卒業メンバーのスケジュールを教えてください。お願いします」
「ハイ・・・・了解しました」
慌てて話を遮ってしまったがオペレーターの女性はすぐに切り替えた。
「中澤裕子さんは昨夜飲み過ぎで今日は昼過ぎまで寝てるそうです」
「ハイ」
「保田圭さんは舞台リハーサルのため現在は既に劇場入りしています」
「ハイそうですか」
「安倍なつみさんは本日オフのため近場でショッピングだそうです」
「ハイ!分かりました!」
「後藤真希さ・・・」
後は聞いてなかった。
- 409 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:23
-
「大変ありがとうございました!御手間を取らせてスイマセン」
「イエイエ石川さんは頻繁に連絡をくれるので助かっていますよ」
「ありがとうございます。私は現在喫茶じゃじゃ馬ジャパンで、
お目覚の御茶をしている所です」
「カッチョイイぜタウンのじゃじゃ馬ですね・・・・登録しました」
「それでは失礼します」
「何か御用があればぜひ御一報を!それでは、よい休日を!」
ガチャ、ツーツー・・・・
ハロメン全員のスケジュールを確認出来るサービスセンター。
その日の大まかな行動を伝えておけば事務所に詮索される事は無い。
タレントに大事が起きた時に素早く情報を伝達出来るシステム。
なつみさんのスケジュールに変更は無い。
何かあったらまずココに連絡が入って確認できるはず。
遅れているのは事件事故じゃない。
・・・・
10秒前
5秒前
あっ
ポッポッポッ10時!
- 410 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:24
-
5秒経過・・・・
10秒経過・・・・
30秒。
・・・・
1分経過。
・・・・何なんだろう・・・・
初めての初デートなのにどうして遅刻なんだろう?
朝起きて家を出てタクシーに乗る。
ココへの地図と住所はきちんと書いて渡しておいたし、
念のため携帯にもメールで送っておいた。
運転手さんに行き先を伝えて車で20分。
平日の午前中は渋滞だってない。
通りからココまで3分もかからない。
なのに何で?
そういえばなつみさんは娘。時代に遅刻が多かった。
いつもってわけじゃないけど、
リハや午後からのミーティングにちょっとずつ遅れたりする。
それでいて大事な時は絶対に遅刻しない。
記者発表の場やコンサ当日、番組撮りに遅れた事は一度も無い。
じゃあ今日は大事な日じゃないって言うの?
前の日から眠れなかった私とのコノ温度差は何なの?
折角両想いになれたのに私の片想いはいつまで続くんだろう。
- 411 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:26
-
そもそも大事な日なら絶対遅刻しないって認識がオカシイのよ!
そりゃあ、なつみさんは本番に強いとか言われるけど。
大事じゃない時だって遅刻しちゃイケナイのよ!
そりゃあ私のように・・・・
99パーセント遅刻しないのに何年かぶりの遅刻が、
大事な日だった・・・・
ってのは問題かもしれないけど・・・・
だからってなつみさんの行動が正しいわけじゃない。
金輪際いつ、いかなる約束の時間にも遅れないこと!
と誰かがビシッと言わないといけない。
カワイイ顔してるからってみんな甘やかし過ぎ!
今後のためにもやっぱり恋人の私が言うべき。
「私も今来たトコです〜・・・・」
何て絶対言わないんだから!
只今5分オーバー。
もうっ!
私がどんなに楽しみにしてたかなんてちっとも分かって無いんだ。
携帯を開いて・・・・閉じる
今日何度目かの行動を繰り返した。
- 412 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:28
- もう・・・・間が持たない。
脇に立ててあったメニューを開いて眺める。
「お飲み物の追加はいかがですか?」
頭上から店員さんの声が降ってきた。
目の前のカフェオレはすでに空っぽ。
じゃあ何か頼もっか・・・・
でも朝から飲みすぎてトイレが近くなるのも考えもの。
「あ・・・・いえ、結構です」
顔も上げずに視界の端にあった店員のスカートから出る太ももに返事。
「ハイ・・・・ごゆっくり・・・・どうぞ」
はあ〜
デート初っ端からため息って・・・・
窓から通りを行きかう人々の波を眺める。
ハロモニのロケで来た所。
いつかは2人で・・・・ってなのに・・・・つまんない。
ジュジュジュ
コップに僅かに残る解けた氷水をストローで啜った。
不意に通行人が2人ほど同じ方向を見た。
釣られて同じ方向に目をやると、
・・・・
きたあああああああああああああああああああああ!
- 413 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:29
-
人ごみの中。
隠し切れないオーラ。
小柄な後姿と小さな手に住所のメモ。
見紛う事なき、愛しのなつみさんが向こうに歩いて行く。
もう焦らすんだからあ!
一生逢えないかと思っちゃったじゃない!
・・・・
?
って何で私に背中を向けて向こうへ歩いて行っちゃうんだろう?
公園方面から真っ直ぐココに来るのを待ち構えてる筈なのに、
私が居る喫茶店の横をすり抜けて向こうの公園方面に歩いて行く。
来た方向が逆・・・・ってか気付かないで通り過ぎちゃってるし・・・・
ちゃんと地図を渡してるのに・・・・
あっ!
反対側から来たってことは、
タクシーが公園側じゃなくて反対の駅側に止まったの?
しまった。
「タクシーに乗ってカッチョイイぜタウンって言えば着きますから」
数日前の自分の言葉が蘇える。
交差点を直進して公園前から入って下さいって伝えるべきだった。
そしたら3分でココに着くのに反対側の駅からじゃ30分くらい・・・・
サアアアアー
もしかして私は、なつみさんを駅から延々歩かせてしまった?
- 414 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:31
-
何なのもう、じゃあ遅れたのは全部私のせいじゃない。
すっかり凹んだ梨華の視線の先をなつみはテクテクと歩いていく。
手元のメモに目を落として小さな指で店の看板を指差した。
梨華の位置からは斜め後姿のなつみの口元が僅かに見えた。
「じゃ・ジャ・ジュ?・・・・?」
そう呟くと、なつみは小首を傾げた。
残念。
それはJULIETTE(ジュリエット)って読むんです。
じゃじゃ馬ジャパンとは読みませんよ、なつみさん。
ていうかソコは喫茶店じゃなくて美容院じゃないですか。
美容師さんが店先のなつみさんを見てドギマギしちゃってますもん。
ホラホラ早く立ち去らないとカットモデルを頼まれちゃいますよ。
ハイ、そうそう間違いに気付きましたね。
もう一度、道の真ん中まで戻ってメモを片手に周りをキョロキョロ、
なのにお目当てのコッチだけ振り向かないのは奇跡です。
- 415 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:32
-
あっ周りの人が反応してる。
立ち止まってるなつみさんを追い越した後に振り返ったOLの集団。
お喋りを中断して遠目から観察を始めた女子高生達。
ティッシュ配りのお兄さんはポカンと魅入られちゃいましたか。
店頭でクレープ焼いてる女の子も目がトロンとしてますよ。
彼氏に肘打ちを入れた彼女だって1秒前まで心奪われてたくせに・・・・
ええ、そうでしょう!
そうでしょう!
あれだけカワイイ人を突然間近で見せられたらそうなりますって!
実物はテレビで見るより数段上なんですから。
でもアレだけの視線を周囲から浴びてるのに全く反応しないって、
なつみさん・・・・凄い。
いつも注目されてる人だから気にならないのかな?
メモから顔を上げたなつみさんは唐突にクレープ屋さんを指差した。
クレープ屋さんの子もビックリ!
次いで隣のブティックを指差しながらブツブツ・・・・
あの〜・・・・なつみさん?
もしかしてココに至るまで1店舗ずつ指差し確認して来たんですか?
それって物凄く時間が・・・・
住所はそのメモに書いてありますよね?
全部の店先で立ち止まって笑顔を振りまいてたんですか?
それは罪作りな行為を・・・・
ってドコへ行くんですか!
あなたは!
- 416 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:33
-
なつみさんはクレープ屋さんの真横の細い道をズンズン入って行く。
ソコなわけないでしょう!
完全にメインの通りから外れるじゃないですか。
クレープ屋さんの女の子も横道を不思議そうに覗き込んでるし・・・・
もう、しょうがないなアノ人は!
・・・・あ、あの先は袋小路だっけ。
梨華は一旦浮かしかけたお尻を戻して座りなおした。
もう少しココで見てたい。
ウロウロするなつみさんを見てるの楽しいし・・・・ちょっと意地悪かな。
?
あら煙?
わっ!
わっ!
クレープ焦げてますよ!
熱っちゃちゃちゃちゃって慌てて取り出したけど真っ黒焦げ。
店の奥から店長さんが出て来て、あ〜あ怒られちゃった。
何やってたんだ!
って怒鳴られちゃってる。
なつみさんに見惚れてましたとは言えないか。
- 417 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:35
- と思ってたら、
ティッシュ配りの人が路上にバラ撒いた、
テュッシュを拾いながらもしきりに袋小路の奥を気にしてる。
女子高生達もOLもカップルも立ち去らないでその辺で留まってる。
みなさん何を待ってるんだか・・・・
忙しい人達の足をわざわざ止めちゃうなんてホント凄い人。
そんな周囲の喧騒を全く気にせず袋小路からなつみさん再登場。
ホラホラ、クレープ屋の女の子!
お説教の真っ最中になつみさんを目で追っちゃダメでしょう!
なつみさんも何で怒られてるの?
って不思議そうに見ない!
自分が原因で小さな事件が起きてたなんて知る由も無いんでしょうね。
立ち止まってもう1度メモを確認。
凄い集中力で周りの視線を無視・・・・
・・・・
そっか・・・・
分かっちゃった。
なつみさんが周りの視線を平然と無視できる理由。
ふふふ
駄目ですよ周りの人たち!
貴方達が見つめるカワイイ人。
安倍なつみさんの頭の中は私で一杯なんですからね。
この私、石川梨華に早く逢いたくて逢いたくて一生懸命なんですよ。
他の全てに無関心になっちゃうくらい私に夢中なんだから。
みなさんが魅了されてるその笑顔も楽しげな雰囲気も、
ぜーんぶ私のことだけを考えてるからなんですよ。
羨ましいでしょう?
- 418 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:36
-
あっコラ!
女子高生達が無遠慮になつみさんに近付いて行く。
サインとか写メとか握手とか無礼な事を要求したら張り倒すよ!
なっち〜
愛称を呼んで手を振りながら通り過ぎただけ。
ふふふ
まるで今偶然通り過ぎたみたいに装っちゃってカワイイ。
まともな女子高生で良かった。
なつみさんも笑顔で手を振り返してる。
・・・・
ちょっとなつみさん!
そんなに力を込めてブンブン振らなくても良いんじゃないですか?
単なる通行人ですよ。
あらら?
こちらでも小事件発生!
カップルの女の子が彼を突き飛ばしてプンプン歩いて行っちゃった。
慌てて彼女を追いかけて後ろから必死に弁解してる。
・・・・でも大丈夫、
彼女もきっと許してくれますよ。
だって目の前に天使が居たら誰だって余所見しちゃいますもん。
- 419 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:37
-
不意になつみさんがコチラをジッと見つめた。
目が・・・・合わない。
視線が私の・・・・遙か上のほうに向く。
喫茶店の屋根の上の看板を見てるに違いない。
口が動いた。
じゃ・じゃ・う・ま・・・・じゃ・ぱ・ん!
読み進むに連れて満面の笑顔になっていく。
とうとう見つけましたね。
そして、そのままゆっくり視線を下ろして・・・・
今度こそガラス越しに視線が合う。
・・・・見つかっちゃった!
あっ!
って驚いたなつみさんはすぐに顔を綻ばせて手をブンブン振った。
私は・・・・店内だから控えめに降り返す。
感動の対面。
なのに、なつみさんは急に唇を尖らして頬を膨らませてみせた。
「見てたんなら早めに声かけて呼んでよね・・・・」
ガラスで声は聞こえないけど目がそう言ってる。
「えへへ・・・・ゴメンナサイ」
ちょっと悪戯っぽく笑って応えた。
- 420 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:38
-
でもすぐに元の笑顔に戻ったなつみさんは左右をキョロキョロ。
エート・・・・入り口ならコッチですよ!
左手方向を指差した。
コッチ?
と同じ方向を指差して歩き出した。
そうそう・・・・
ああっ!
もう!
邪魔だなぁ!
突然視界が店員さんの背中で塞がれたので身体をよじって隙間を覗く。
しかし店員さんが目の前をウロウロ動き回るので見えない。
もう!
ガラス壁からレンガ壁に隠れて見えなくなっていく、
なつみさんを追えなかったじゃない!
それでも視線だけは店内のレンガ壁の内側を這う。
歩くスピードを考えると今はあのタペストリーの外側辺りかな。
そんで本日のメニュー黒板の掛けてある辺・・・・
サンプルメニューの飾ってあるショーウィンドーの外を今歩いてて、
入り口に・・・・出たあ。
ガラス越しじゃない、なつみさんが入り口にチョコンと現れた。
- 421 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:39
-
ココですよ〜!
と右手を高く上げた。
一瞬何故かフッと立ち止まったもののズンズン歩いて来た。
「やーゴメ〜ン15分も遅刻しちゃった」
「全然大丈夫ですよ!私も遅れちゃって今来たとこなんです!」
「ホント!逢うまで携帯禁止だったし・・・・
どうしようって思ってさ待たせなかったんなら良かったべ」
ニコニコと私を見つめるなつみさん。
歩き回ったせいか頬は紅潮してピンク色。
オマケに着ているスカートもピンクで好きな色×2
それって私のためですか?
ああ今日は朝から幸せ続きだあ。
おっと!
ボーっとしてる場合じゃない。
いそいそと身支度を整えてテーブルの上の伝票を手に取った。
「さあ行きましょう」
「・・・・ほえっ?何か注文しないの?喉渇いたし・・・・」
名残惜しそうにテーブルとイスを指差す。
「ココは私がなつみさんを待つためのお店なんです
2人でお茶する喫茶店は別のトコにありますから」
「別って?」
「5メートルくらい先です、ココと違って個室もあるんですよ」
「・・・・なんか面倒くさくない・・・・」
「天然ハーブティーとハチミツを取り揃えた専門店ですよ」
「えっホント!行く行く!・・・・って何で最初からソコじゃないのさ?」
「分かりにくい場所なんで待ち合わせには不向きなんです。
ここは分かりやすくてオシャレで色々・・・・まあ行きましょう」
来たばかりのなつみさんを入り口に追い返すようにして後ろから歩く。
- 422 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:40
-
「お会計お願いしま〜す」
カウンターレジに伝票を置いてバッグからお財布を取り出す。
「ちょっと待っててください・・・・」
傍らでサンプルメニューを覗き込んでるなつみさんに声を掛ける。
1000円札と消費税の半端分をサッサと受け皿に並べた。
なのに、店員さんの女の子モタモタモタモタ・・・・
もう一刻も早くなつみさんを案内したいのに!
バイトの子でもしっかりやって欲しいわ。
でもココで店員さんに文句を言ったりしたら、
後々私どころか、なつみさんまで陰口叩かれるかもしれない。
「えと、おお釣りです・・・・あとカードのポイントが溜まりますと、
割引サービスがございますので、是非次回御来店の際にお持ち下さい」
「ハイどうもありがとうございます」
精一杯の笑顔を浮かべつつも私の心ココにあらず。
カードとお財布をバッグに仕舞い込んで恋人の元へ・・・・
- 423 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:41
-
「なつみさ〜んお待たせしました」
「・・・・うん・・・・」
あれ?
素っ気無い。
少し待たせたら拗ねちゃいましたか・・・・
でもハーブの舞プリンセットを一口食べればきっと機嫌も直るはず。
・・・・
1分ほど無言で歩き続ける。
「あのさ〜・・・・」「あそこに見えてるのが・・・・」
被った。
「梨華ちゃんどうぞ」
「いえ、なつみさんから御先にどうぞ」
「じゃあ梨華・・・・よくあんな場所で待ってられたね、ビックリだべ」
「・・・・ハイ?・・・・あんなってさっきのじゃじゃ馬ですか?」
どういう意味?
「場所分かりにくかったでしょうか・・・・
駅側からだと若干遠いですけど、でもメインストリートの一本道で・・・・」
「そういうことじゃなくてさ!」
そこまで言うとなつみさんは不満気に声を荒げた。
- 424 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:43
-
「梨華凄い目立ってたよ周り中から注目の的だった」
「・・・・え?いつですか?・・・・」
「手を上げて場所を教えてくれなくたって、すぐ分かったくらい」
「えっと言ってる事がよく・・・・じゃじゃ馬の話ですよね?」
「梨華が座ってた後ろの席のOL4人組とか女子高生2人組とか
あと新聞読んでるフリのビジネスマンとか、あと店員さんまで、
みんな梨華を見てた」
「・・・・」
「なっちが入って行った時もOLさん達が脚細〜いって言って
梨華と自分達の脚を比べてたし、
女子高生達は梨華の写メ撮ってカワイイってキャアキャア喜んでたし」
「写メ!ホントですか!」
「何言ってんのさ、
あとカウンターの店員さん達は梨華の注文誰が聞きに行くかで揉めてて
レジの子なんて梨華に見惚れちゃって真っ赤になってた。
お陰で計算も御釣りも遅くて・・・・なのに梨華に微笑まれて舞い上がってて」
「・・・・確かにレジは遅かったですけど・・・・」
レジの子の顔なんて全然覚えてない。
「あ、思い出したよ。なっちが梨華を見つけたときに・・・・」
「ガラス越しに目が合ったときですね」
「カップルの子が向かい側の子に向かってコップの水吹っかけてた」
「えっ水っ!・・・・どうしてですか!」
「水掛けられた子がずっと梨華を見てたからでしょ」
「・・・・私となつみさんの間・・・・窓に面した席ですか?
カップルなんて居ました・・・・っけ?」
「店員さんが慌てて飛んで来て梨華の目の前で濡れた子を拭いてたよ」
「ああっ・・・・店員さんの背中が邪魔だったのは覚えてます」
あの時か!
でもそんな出来事・・・・記憶の片隅にも無い。
- 425 名前:グッドデートハロー 投稿日:2008/03/24(月) 23:45
-
「あんなに視線を浴びてる真ん中で堂々と座ってられるって凄いべ」
「私そんなの全然・・・・知らなかったです・・・・だって・・・・」
だって・・・・
なつみさんの横顔は少し拗ねてるように見える。
そうか。
その小さな苛立ち、さっき私がなつみさんに感じたのと同じ感情。
「だって?・・・・何だい?」
なつみさんの腕に右腕を絡めた。
「どうして周りの視線が気にならなかったか分かりますか?」
「・・・・普段から見られ慣れてるからだべ・・・・」
「違いますよ」
耳元に顔を近づけて囁いた。
「ずっとなつみさんのことだけを考えていたからです」
「・・・・」
好きな色の面積が広がっていく。
「私の頭の中はいつだって、なつみさんで一杯なんですから」
- 426 名前:小さい家 投稿日:2008/03/24(月) 23:48
- 14回目の投稿です。
予告通りなちりかデート編です。
2人のデートは以前から書きたかったのですが本編と繋がるようで繋がらないので番外編扱いです。
( ;^▽^)<デート編って言うほどデートして無いですよね
(●´ー`)<デートが始まったばかりで終わっちゃったべさ
( ^▽^)<グッドデートハローは今後も時々続くみたいですよ
(●;´ー`)<単に一気に書けないから小分けにしただけだべ
次回は本編に戻って、いよいよあの謎が判明します。
(●´ー`)<この小説に謎なんかあったべか?
( ^▽^)<実はあったんです!大した謎じゃありませんが・・・・
(●´ー`)<なっちのIDは19971103の1の19810810だべ
( ;^▽^)<それは謎じゃないです
- 427 名前:小さい家 投稿日:2008/03/24(月) 23:50
- >>397
62さん
( ^▽^)<10回目のレスありがとうございます
(●´ー`)<常連さんありがとうだべさ
( ;^▽^)<今回は番外編なので話が進展しなくてスイマセンです
(●´ー`)<謎ってアノ人だべか?
( ;^▽^)<・・・・
>>398
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ;^▽^)<続きじゃないですけど続きです
(●´ー`)<今回ガラにもなく甘甘にしたつもりみたいだべ
(*^▽^)<こうもっと組んず解れつみたいなのがイイです
(●´ー`)<Hだべ!
( T▽T)<そんなあ
>>399
名無飼育さん
( ^▽^)<初見の方かな?レスありがとうございます
(●´ー`)<一気に読んでくれて嬉しいべ
( ^▽^)<続きに期待してください
(●;´ー`)<なるべく早く投稿するべ
>>400>>401
名無飼育さん
(●´ー`)<同じ人かな?レスありがとうだべさ
( ;^▽^)<更新遅くて申し訳ないです
(●;´ー`)<所々文章が変なのは勘弁して欲しいべ
( T▽T)<私のID日に更新あるかもって待ってたのにスルーでした
(●;´ー`)<それは読者の意見だべ
- 428 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/25(火) 00:03
- なちりかデートイイ!
すばらしい!
- 429 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/25(火) 00:24
- デートいいですねぇw
そよれか、愛ガキの行動も気になります…ww
- 430 名前:ななし 投稿日:2008/06/02(月) 00:11
- 更新待ってま〜す!
- 431 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:11
- 「梨華あ!」
「梨〜華〜」
「梨華ちゃん・・・・」
「梨華。」
「石川さん!打ち合わせ中にボーっとしないで欲しいべさ」
「ハイ石川さん答えをどうぞ!・・・・正解!解答者席は残り2名」
「梨華ちゃんは、シャケ弁とカルビ弁のどっち食べたべか?」
なつみさんが私の名を呼ぶ。
時に人懐っこく、
時に余所余所しく。
時々甘えて・・・・時々厳しく。
その度に私の身体は震える。
名前って素晴らしい。
ただ声に出して呼ばれるだけで感情が高ぶる。
ましてや呼ばれ方が代わってバリエーションが増えた日には・・・・
- 432 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:12
- 「梨華あん・・・・イヤン」
耳元で吐息混じりに囁きつつ震えるなつみさん。
私はもう我慢が出来なくて・・・・
バチーン!!!!!
「痛っあーい!」
「何を朝っぱらから鼻の下伸ばしてんだ!」
叩かれた頭を抱えて振り向くと台本を丸めたよっちゃんが立っていた。
「朝から怪しげな妄想に浸っててキモイんだよ」
なっ・・・・
「吉澤さぁん!梨華殿は卒業が決まってぇ色々とナーバスかもぉ」
モゴモゴと小声で高橋が吉澤に訴える。
「・・・・そうよ!私卒業決まったんだから優しくしてくれてもいいでしょ」
咄嗟に高橋の言葉に乗っかる。
「イイや違う!今のニヤケ顔は鼻の下が伸びててだらしなかった。
アレはエロい妄想だ。私が言うんだから間違いない」
吉澤は自信満々に腕を組んだ。
- 433 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:14
-
鋭い!
さすが同期。
心の中が見えるほど、だらしない顔してたのかな。
気をつけよう。
「おいソコ!台本を粗末に扱って遊ぶな!」
矢口さんの怒号が響く。
梨華も吉澤も首をすくめた。
がしかし、
矢口の興味は直ぐに2人よりも入り口ドアに向かっていた。
「ハーイアウト!ブッブー!遅刻ぅ!3分オーバー!立ってろ!」
矢口の声が何故か嬉しそうに響いた。
「あー違うんですよ!途中まで間に合ってたのに途中から・・・・」
一斉に全員の注目を浴びた小川が言い訳を始める。
「それを遅刻って言うんだよ!
他の皆は時間通りなんだから言い訳は通用しないよ!」
容赦ない矢口の物言いに小川は不満気に口を尖らせると、
カバンをノロノロと肩から下ろし楽屋入り口から出て行った。
ちょっと可哀相な気もする。
「アイツは、まーた立たされるのか・・・・でも辻の時よりはマシか」
吉澤が梨華の隣で大袈裟に、ため息をついた。
- 434 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:14
-
60分後。
5期メンと辻加護がひとつのテーブルに寄り集まっていた。
「麻琴は遅刻の常習犯やよ!」
「常習って程じゃなくて月に2,3回程度!
しかも遅刻っても大概5分以内だよ何で立たされなきゃならないの!」
「遅刻は楽屋の外に1時間立たされるってルールだから!」
紺野の当たり前の解説に益々不満気な小川。
「でも今回は舞台の練習中で良かったじゃない、
私なんか前にMステで立たされて、
他のアーティストさんにジロジロ見られてチョー恥ずかしかった」
紺野は思い出し赤面した。
「バラエティーの方がみっともなかったやよ、
お笑いの人にネタにするって指差されて・・・・みっともなかったぁ」
「・・・・ねえ外に立たされるって辞めない?皆の笑いものだよ!」
高橋の話を受けて小川が纏めようとしたが・・・・
- 435 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:15
-
「遅刻しなければいいのれす」
「・・・・そうだけど・・・・さ」
辻の、にべも無い言葉に小川は口を尖らせた。
「のんが言うのは筋違いやな!
元々そんなルールなかったのに、
のんに遅刻が多すぎて出来た、のんルールや!」
収束しかかった流れを加護が掘り返す。
「えっそれ本当!」
「初めて聞いたでぇ」
「てことは4期メンバーが入ってからになるんですか?」
「あいぼんだって遅刻してたじゃん!ズルい自分だけ棚に上げて!」
「まあまあ・・・・まあまあ」
新垣が止めるも一同は揉めだした。
- 436 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:16
-
同じ部屋の別のテーブル。
「パス・・・・」
道重が悲しげに呟いた。
「パス3回目っちゃ」
「え〜!まだ2回目だよ」
「4回目じゃない?」
亀井は言いながらクローバーの5の隣りに4を並べた。
「私まだ2回目ですよね!石川さん!」
「うん・・・・そうかな・・・・」
さゆに押し切られる形で同意する。
卒業が決まった私は6期の子達と出来るだけ多く過ごすことにした。
最も付き合いの短い後輩達にこそ何かを残して行きたい。
これまでの卒業メンバーが、そうしてくれたように・・・・
お陰で卒業が決まってからの方が気軽に会話出来てると思う。
残せるものは全部残して伝えられるものは全て伝えていこう。
とにかく・・・・
「ガラス割った時ものんちゃん絡みじゃんか!」
「自分で割っといて何なのさ!」
・・・・
6期にとっては頼りにならない先輩達・・・・
私や飯田さんが卒業しちゃって大丈夫なんだろうか?
でも私がいなくなることを想定すれば仲裁に入るのもどうだろう。
ココは知らん顔してトランプに勤しむとしよう。
- 437 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:17
-
「ほらぁ!全部のんちゃんのせいじゃんか!」
「何がほらぁ!?」
「前に遅刻しまくった人が居たから変なルールが出来たんだ!」
「麻琴!人のせいにするな!
芸能界で遅刻と挨拶忘れは厳禁れす!」
「私は週1やったけど、のんは毎日遅刻しとったわ」
「あいぼん!うるさいれす!」
ケンカは収拾がつなかくなっていた。
気が付けばよっちゃんも美貴ちゃんも逃げ出したみたい。
「遅刻ってぇ毎日出来るもんなんやぁ」
「そっか、のんちゃんのせいなんだ」
「何れすか!愛ちゃんとこんこんまで、その目は!」
「だって1回遅刻したら楽屋の前で立ってなきゃいけないって
変なルール・・・・」
「遅刻した人が悪い!のんは今は遅刻して無い!」
「やらかした人が居るからルールが出来たんじゃないか!
前例がなければルールなんか作られなかったのに!」
最後に叫んだのは紺野だった。
- 438 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:18
-
「石川さんですよ?」
亀井が突っ突いた。
「あ・・・・あ、ゴメンね・・・・」
慌てて出しちゃいけないカードを出してしまった。
「あー!スペードの8石川さんが止めてたんだ!」
さゆは歓喜の絶叫と共にスペードの9を隣に並べた。
「これで勝ちが見えてきた」
「さゆはパスあと1回で終わりなん忘れんとっと」
御機嫌なさゆに田中がチクリ。
「平気だも〜ん」
ビラッと見せた手札に、
スペードの10、11、12、13が連続して並んでいた。
「何?ちゃんと切れて無かと、誰や配る前にトランプ切ったの?」
「・・・・私ですよ?」
「でしょうね!聞かなくても分かるの」
・・・・
何だろう?
今なにか突然・・・・何か・・・・
- 439 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:19
-
「・・・・石川さん?」
再び亀井にせっつかれる。
「あ・・・・ハイハイ・・・・」
咄嗟にハートの6を場に出した。
「あぁ!石川さん助かったけん!」
田中がハートの5を6の隣りに叩きつけた。
「ちょっと!さゆの番を飛ばさないでよ!」
道重は憤慨しつつスペードの10を置いた。
「一気に優勝候補に躍り出たの!あと3枚!あと3枚!」
道重は御機嫌だった。
「・・・・さゆ真っ黒だね」
「え?・・・・何が?」
「手札。スペードばっかじゃん」
亀井の指摘に道重は自分の手札を覗き込んだ。
「絵里はハート3枚あるもん」
亀井はピラッと手札の中からハートの4、3、1を見せびらかした。
「れいなも今出しちゃったけど残り一枚あるとぉ」
田中もハートの2をヒラヒラ振って見せた。
勝負の行方と全く無関係な揶揄に、しかし
道重の顔がみるみる曇っていく。
- 440 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:20
-
「あ・・・・ゴメン私ちょっと用事思い出したから3人で続けてて」
梨華は前触れもなく場に手札を置いて立ち上がった。
「えっ突然どうしたと?・・・・」
「あっ石川さんもハート持ってた、じゃあ持ってないのさゆだけだ!」
「嘘嘘!」
田中の質問は亀井と道重の歓声に掻き消された。
梨華はそのままテーブルを離れ壁際のイスに一人腰を下ろした。
「じゃあ次はババ抜きやると!絵里!今度はちゃんと切るけんね」
「次はさゆにハートいっぱい配ってよね!」
「さゆ?ババ抜きのルール知ってる?」
3人のどこかチグハグな会話をBGMに心の中で疑問が渦巻いていた。
何だろう・・・・
今突然何かを思いついたように感じた。
私に何が起こったの?
7並べを、してただけなのに・・・・
- 441 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:21
-
思い当たらないから推察してみる。
私がさっきまで考えていたのは確か・・・・
「のんのせいにしてないでリーダーに抗議しに行って来たら?」
「・・・・ずるい!私が飯田さん怖がってるの知ってて!」
「麻琴じゃなくて、遅刻ルールのきっかけを作った人が行くべきです」
「まあまあ!まあまあ!」
!
これだ!
遅刻が多すぎたから楽屋前に立たされるルールが出来た。
ののの遅刻常習の前例が無ければ作られなかったルール。
前例が無ければルールは作られない・・・・
断片的な会話が私の心に入り込んで化学反応を起こしていた。
コレまでの出来事。
心に生じていた小さな疑問の欠片。
それらが一斉に答えを求めて集まっていく。
- 442 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:21
- 例えば、
落下したガラスのコップが砕け散る映像を逆回転したイメージ。
方々に飛び散った破片が1ヵ所に集まって元通りになっていく。
断片的な情報が集まってひとつの形を形成して・・・・
イヤだ。
第六感、はたまた女のカンと言うのだろうか。
こうなった時にはロクなことがない。
大抵はネガティブな答えしか導き出せないで終わる。
悪い予感・・・・
それでも思考してしまうのを止められない。
遅刻ルール・・・・
変なルール・・・・
なぜ出来たか知らなかったルール・・・・
引っかかっていた何か。
ルール。
恋愛・・・・
グループ内恋愛禁止のルール・・・・
- 443 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:22
-
「グループ内恋愛は禁止だべ」
あのルールは、いつドコで生まれたの?
私は知らない。
だって私が加入した時には既に娘。内にあったルール。
グループ内恋愛禁止ってことは、
以前はグループ内恋愛があったってこと・・・・
それが禁止になった。
だから恋愛禁止のルールがある。
どうして・・・・禁止になったの・・・・
1度火がついた思考は加速していく。
頭をブルルッと振ったくらいじゃ離れてくれない。
グループ内恋愛禁止ルールが出来たわけは・・・・私じゃ分からない。
誰か、
誰だったら・・・・
5期と辻加護は相変らず大声で罵り合っていた。
6期メンはトランプを続けていた。
部屋中を見回す梨華の目が楽屋を出て行こうとする矢口に止まった。
考えるより先に体が動いた。
- 444 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:23
-
「矢口さん!」
「あ?トイレ行きたいんだけど」
楽屋外の廊下で振り向いた矢口は不機嫌そうだった。
朝一でこういう矢口さんには近づかないほうがいい。
だがもう遅い。
・・・・
矢口と相対したものの梨華は口篭った。
しまった。
この鋭い人に唐突にグループ内恋愛云々の話をするわけにはいかない。
なんで?好きな人がグループ内に出来たの?・・・・って勘ぐられる。
何か、何か何か別の話の糸口はないか。
「遅刻した時の罰則ルールを違うものにしてって言ってるだけじゃん」
「だから何でのんに・・・・」
ドアの隙間から室内の声が小さく漏れ聞こえてくる。
これだ!
- 445 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:23
-
「なに?用が無いのに呼び止めないでよ」
「あの・・・・遅刻ルールって何とかならないんでしょうか?」
立ち去ろうとした矢口が足を止めて再び振り向いた。
「ああ?ダメダメ!立たされてるのを見られて恥ずかしいなら、
遅刻しなきゃ良いんだよ!」
「そうですけど・・・・ののの時ほど酷い子は居ないですし・・・・」
「グループってのは1人が遅刻すると全員遅刻するって思われて、
他の遅刻して無い人までイメージ悪くなるからね。
1秒でも遅刻した人が必ず楽屋前に立たされてれば、
ああ、娘。内では絶対遅刻を許さないんだなって証明にもなる。
小川なら小川のイメージが悪くなるのは自業自得、他の人は無関係」
至極真っ当な意見には反論する余地が無い。
する気も無いけど・・・・
「やっぱりルール改正は無理ですか」
「まあ正直言えば以前のウチらもチョイチョイ遅刻してたんだけどね
辻加護が酷すぎたから今の厳し過ぎるルールになったんで、
5期以降は気の毒と言えば気の毒だね」
「ののとあいぼんが卒業してもルールはこのまま・・・・ですか?」
「さあね。1度決まったルールだからこのままなんじゃないの」
よし。
さりげなく本題に入るぞ。
「1度決まると、どんな古いルールでも変らないんでしょうか?」
「んん?・・・・娘。内に古いルールって他にあったっけ?」
「え〜と・・・・う〜ん・・・・そうだグループ内恋愛禁止ルールとか?」
我ながら強引過ぎる話題の展開、演技もわざとらし過ぎたかしら。
- 446 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:25
-
でも、そんな心配は必要なかった。
だって矢口さんの目が盛大に泳いだから・・・・
「・・・・えっ!ああっ!・・・・そうだね・・・・」
「誰も気にしてないルールなのにまだ残ってますよね・・・・」
「うん・・・・まあ・・・・誰も恋愛してないからね・・・・ハハハ」
もう充分、後は引き際が肝心。
「そういえば矢口さんトイレ行く途中でしたねゴメンなさい」
「おぅ、そうそう漏れちゃう漏れちゃうシッコ!シッコ!」
矢口は笑顔を浮かべてトイレに小走りに去っていった。
梨華は矢口を見送りながら廊下に1人立ち尽くしていた。
グループ内恋愛禁止ルール。
口にした途端・・・・あの矢口さんの目が泳いだ。
私の棒読み演技に突っ込む余裕も無く、しどろもどろ・・・・
オマケに最後は笑顔で手を振って去って行った。
不機嫌だったのに・・・・
あの張り付いた笑顔はコレ以上突っ込まれなくて良かったって笑顔。
グループ内恋愛禁止の成り立ちって今でもタブー?
もっと確かめるには、もう1人に聞く必要がある。
- 447 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:27
- メイク室の一角に飯田さんが座っている。
その前に無言で座った。
幸い誰も居ない。
・・・・
????
デジャブ?
確か前にも私は恋愛絡みで飯田さんの前に・・・・
「アレ?・・・・石川いつから居たの?」
飯田さん名物の交信が突然終わったようだ。
「少し前からです」
「そう・・・・」
何故私が居るのか気にならないのが飯田さんらしい。
「あのですね、娘。内のルールのことなんですけど」
「ルール?」
「グループ内恋愛禁止ルールとかのことです」
「・・・・石川?好きな人でも出来たの?」
しまった。
いくら鈍い飯田さんでも唐突過ぎた。
「イヤ・・・・その遅刻ルールでメンバーが揉めてて、
娘。内には色んなルールがあるなあと・・・・」
「うん・・・・コッチまで聞こえてきたよ麻琴とのんちゃんの言い合い」
「どうですか・・・・」
何とか誤魔化せたみたい。
飯田さんは鈍かったり鋭かったりにムラがあるので気をつけないと・・・・
- 448 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:29
- 「流石に毎日遅刻してくる子はもう居ないしね、
全廃してもイイんだけど・・・・」
「出来ない理由があるんですか?」
「う〜ん・・・・何でルール変ったん?って聞かれたら答えようが・・・・」
ピンときた。
中澤さんのことだ。
飯田さんは勿論中澤さんを嫌いではないが・・・・少し怖がっている。
無駄な争いは避けたいと考えているようだ。
「中澤さんが作ったんでしったけ?遅刻ルールって・・・・」
「そう・・・・グループ内恋愛禁止ルールも、
てか今あるルール作ったのぜ〜んぶ裕ちゃんだけどね」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・石川?どうしたの?ボーっとして」
「あっ!今チョット考えちゃって・・・・」
「交信は私の専売特許なのに石川が交信してどうするの!」
私は、飯田さんの笑い声を聞きながら、
たった今判明したデジャブの正体と対峙していた。
- 449 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:29
-
メイク室を出て楽屋に帰る道すがら考える。
全ての情報の欠片が1点に集約されて答えが導き出された。
かつて娘。にはグループ内恋愛があった。
しかし、その恋愛は幸福な結末を迎えなかったに違いない。
だって後にグループ内恋愛禁止ルールが出来たんだから。
今もって過去の笑い話にも出来ないタブー・・・・
私が加入する前の話。
じゃあ誰と誰が?
反応で分かった。
あの怖いもの知らずの矢口さんの目が泳いだ。
恋愛してたのが飯田さん保田さんだったらもっと平静だったはず。
矢口さんがあんな反応をするのは2人だけ・・・・
中澤さんと・・・・そして・・・・
あの怖がりの飯田さんが動じなかった。
グループ内恋愛禁止と聞いてもアッサリ聞き返してきた。
飯田さんは中澤さんには一目置いてるというか少しビビってる。
飯田さんが全く気にする必要が無い人は・・・・
- 450 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:30
- そしてデジャブの正体。
かつて私が飯田さんに謝りに行った出来事。
仕事途中で撮影をすっぽかした事を翌日謝りに行った、あの日。
飯田さんは無断で早退した事よりも、
前日にフラれた私の心情を気づかっていた。
まるで告白した相手が相手だから、しょうがないって態度で・・・・
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。あのぉ〜そのぉ〜」
「・・・・なっちは複雑だから・・・・」
飯田さんのなつみさん評は常に天然かおバカだ。
「なっちは単純だからねえ」
「私よりなっちの方が天然でしょ」
「腕に向かってお母さ〜ん・・・・ってバカじゃないの!」
複雑なんて表現、あの時以外に聞いたことない
なんでそんなことを言ったのか。
それは私が告白したことを知っていたから。
複雑なのはなつみさんの性格じゃなくて恋愛事情・・・・
過去にグループ内恋愛が禁止になるような複雑な恋愛をしていたから。
だから飯田さんは・・・・
- 451 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:30
-
「石川さん!」
いきなりウルウル目の麻琴に抱きつかれた、お陰で思考が四散した。
「なによ!今忙しい・・・・」
「ケンカしてる私達のためにリーダー、サブリーダーの
飯田さん矢口さんにそれぞれ直談判しに行って来てくれたんですね」
「ハアッ?・・・・何が?」
「さすが梨華ちゃんれす」
「黙って1人で行動するなんてぇ奥ゆかしくてぇ」
「まあまあ!って仲裁してるだけじゃダメだって勉強になりました」
何だか分からないけど後輩達に囲まれて一斉に抱きつかれていた。
「途中でトランプを抜けた理由が分かりましたよ」
「やっぱり石川さんの卒業取り止めにならんと?」
「ホント石川さんは頼りになるの!」
6期の子達まで・・・・
「いや私はそういうつもりじゃなくて、たまたま聞きたいことが・・・・」
「ま〜たまた〜梨華ちゃん!ヤラしいなあ自分〜」
「自身の行動を自慢しないで謙遜するところが完璧です」
遅刻ルールが無くなったわけでも無いのに、
1日中下の子達に纏わり付かれる羽目になった。
それどころじゃないってのに・・・・
- 452 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:31
-
梨華はジャージ姿のまま帰宅の途についた。
アンダーラインが引きまくられた台本を広げてるのは、
誰にも話しかけられずに思考するためだ。
かつて娘。にはグループ内恋愛があった。
恋愛をしていたのは・・・・安倍なつみさん・・・・・
でも程なく禁止された。
一体何があったの?
理由は分からない。
そして今日に至るまでグループ内恋愛は禁止のまま・・・・
相手は誰?
急に息苦しくなる。
嫌な予感が最高潮に高まってくる。
私より先に娘。になった人達の中に居る。
なつみさんと深い仲になった人が・・・・
過去の恋愛。
そう割り切れない自分が居る。
誰からも聞かされたことがない、勿論なつみさんにも・・・・
今尚、公に出来ない秘密ってこと?
忘れよう。
今更なによ・・・・数年前の出来事じゃない。
そう数年前。
禁止ルールが出来るほどの恋愛関係。
当時一体何があったの・・・・なつみさんと相手との間に・・・・
・・・・相手は誰?
- 453 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:32
-
ギィィ
玄関のドアを開けると灯りが漏れた。
「梨華ちゃんお帰り!今日はなっちのほうが早かったっしょ!」
私が出逢う前のなつみさんの恋愛。
「ねえねえ実はニュースがあるんだよ当てられるべか?」
別れたんですか?
フッたんですか?・・・・フラれたんですか?
今でもハロプロで顔を合わせてる人ですか?
だったら気まずくないですか?
「へへへ知ったら驚くよお!」
私より・・・・好き・・・・でしたか?
「ヒントはねえ・・・・」
相手は誰ですか?
- 454 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:33
-
「・・・・えっ!・・・・誰に聞いたの・・・・」
なつみさんの御機嫌な笑顔を曇らせる事は分かっていた。
だから余計な話はしたくなかった。
でも疑問をぶつけずには居られなかった・・・・
「誰?・・・・でもいいか・・・・」
なつみは自分で質問しておいて自分で打ち消した。
向かい合って座る2人。
梨華は帰宅したままで着替えもしてない。
「グループ内恋愛がどうして禁止になったのか考えてたら、
自然に答えが・・・・なつみさんじゃないかなって」
「そっか・・・・そだね不自然だもんね」
「・・・・」
「うん・・・・でも過去だよ昔、ずっと昔の話だから
梨華が入る前ってか入ったくらいかな・・・・その後は何にも・・・・」
「お相手は・・・・だ、誰ですか?」
- 455 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:33
-
「うん?」
聞き返しながらなつみさんは一瞬苦しそうな表情を浮かべた。
「アハハ暗いですね・・・・明るくいきましょう!」
何を思ったか梨華は突如テンションを上げた。
怪訝そうななつみ。
「中澤さんですか?
中澤さんが卒業する時に一番手が掛かった娘って
なつみさんだって仰ってたし特別な絆みたいな・・・・アハハ」
「・・・・」
「飯田さんですか?
同期の腐れ縁ってヤツ?ケンカするほど仲が良いみたいな・・・・
お互い相手を知り尽くしてる感じしますもんね・・・・アハハ」
「・・・・」
「矢口さんですか?
いつも仲が良くて一緒に居て気心が知れた同士で、
昔付き合ってたとしても変じゃないですよね?・・・・アハハ」
「・・・・」
梨華のテンションは高い。
- 456 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:34
- 「意外な所で保田さん!
なつみさんファンを常に主張してますもんね!
何をやっても許してくれてフォローしてくれそうで・・・・」
「・・・・」
「後はアハハ・・・・もう居ないや!アハハ・・・・」
梨華のアハハアハハのテンションは電池が切れるように途絶えた。
不安を振り払いたかっただけの空元気がハッキリ分かるほどに・・・・
再び2人を停滞した空気が包む。
「知ってて・・・・やってるの?」
なつみが静かに口を開いた。
「・・・・何をですか?だってもう他に誰も・・・・」
「何で・・・・」
振り絞るように声を出した。
「何で1人だけ・・・・名前出さないのさ・・・・」
- 457 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:35
-
1人だけ・・・・
そう。
・・・・
唯一言いたくなかった名前。
「・・・・ごっちんと付き合ってたよ・・・・」
唯一聞きたくなかった名前。
「昔・・・・昔のことだよ今は全然・・・・だから」
唯一打ち消したかった名前。
胸の中にポツッと黒い穴が開いた。
それは修復不可能なほどに広がっていく。
「1年・・・・実質半年くらいかな・・・・そんだけだよ」
どんな言葉も慰めにならないくらい広く広く広がる黒い穴・・・・
- 458 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:35
-
「うん!そんだけだから全然気にする事無い・・・・昔々の話だから、
って梨華?・・・・なした?・・・・」
深刻になった梨華の機嫌を伺うように無理矢理笑顔を見せるなつみ。
しかし逆効果だった。
その笑顔・・・・ごっちんのためだけに見せていたんですか?
2人で、どんな話をしていたんですか?
私と過ごす時間よりも・・・・楽しい時間でしたか?
嫉妬。
そんなこと分かってる!
でも止められない。
梨華は両の手をギュッと握り締めた。
「ごっちんとは・・・・いつから、どんな風に、どんな関係で・・・・」
堰を切ったように喋りだした。
「梨華・・・・」
「私より好きでしたか?」
「・・・・だから昔の話」
「答えて!」
「昔の話だよ、過去!ハイ!もうこの話は終わり」
同じ言葉を繰り返すだけのなつみに言い様の無い苛立ちを覚える。
- 459 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:36
- もしも昔の話じゃなかったら・・・・
振り払っても振り払っても疑念が消えない。
「・・・・どうして今まで教えてくれなかったんですか?」
「今さら過去の恋愛を一々話す必要ないでしょ!」
「なつみさんは私と付き合ってるんですよね?恋人同士として?」
「・・・・別の話しよう、実は今日ね・・・・」
「話を逸らさないで下さい!」
「いい加減にして!!!」
ついに、なつみは怒り出した。
「もうごっちんとの事は終わった話なんだから穿らないで!
今のなっちは梨華が好き!コレで満足だべか!」
「ちっとも満足出来ません!」
「どうしろってのさ!」
「じゃあどうしてグループ内恋愛は禁止になったんですか!
普通の恋愛してただけなら禁止になんかならないでしょう!」
「当時は・・・・色々あったの!」
激昂してた筈のなつみが言いよどんだ。
- 460 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:37
-
「今はホントに何でも無いんですか?」
「・・・・無いよ、だから過去だって」
「でもずっとグループ内恋愛禁止のままですよね!
ちっとも過去の事じゃないじゃないですか!」
「・・・・もう放っといて!」
「なつみさん!」
なつみさんと本気の言い争いをしている。
痴話ゲンカ・・・・そんなカワイイものじゃない。
今後の関係修復が不可能になりそうな勢い。
でも譲れない。
理性は心の中に残っていたけど感情が支配していた。
一歩も引けない感情が・・・・
「なつみさん!」
「・・・・」
ツンとこっちに背中を向けて、もう返事もしない。
「なつみさん!」
「・・・・」
感情が口から迸った。
「・・・・私って愛人ですか?」
- 461 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:38
- グルッ!
と音がしそうな勢いで振り向いたなつみ・・・・だが再び背を向けた。
「仕事場では私に話しかけない、
付き合ってることは誰にも言わない、
小さい子達に悪い影響が出るからって言ってましたよね!
だったら娘。を卒業した大人のメンバーにも内緒って何でですか?
・・・・私との関係を一体誰に隠してるんですか?」
梨華はなつみの背中に喋り続けたが、反応は返ってこない。
「分かりました、もういいです!
明日ごっちんと仕事が一緒だから宣言してきます。
なつみさんと付き合ってて今は一緒に住んでるって・・・・」
本当はごっちんと一緒の仕事なんて無い。
それでも自棄になって呟いていた。
単なる捨て台詞のはずだった・・・・
「それだけは止めて!」
- 462 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:39
-
「・・・・!」
無視からの突然の反応に面食らった。
全力で振り向いたなつみも一瞬躊躇したものの梨華を正面から見た。
「ごっちんは関係ないっしょ、悪戯に掻き乱すのは・・・・ね!」
先ほどまでの態度とは一転して懇願するなつみ。
カチンと来ない・・・・はずが無かった。
「それだけは・・・って何ですか?」
「だって梨華との今の関係にごっちんは関係ないっしょ、
いきなり付き合ってますって言われても、
ごっちんが、なまら戸惑うだけで・・・・」
「私となつみさんが恋人同士だって話すだけですよ」
「だからそれが・・・・」
「随分ごっちんの肩を持つんですね!
昔別れて今は全然関係ないって言ってるのに」
「肩を持つとかじゃなくて・・・・」
「大丈夫ですよ!ごっちんはお喋りじゃないし、
誰にも内緒にしてって頼んだらきっと黙っててくれますから、
だから明日報告します」
- 463 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:40
- 「止めて!って言ってるべさ!」
「何でですか!
ごっちんに知られるのがそんなにイヤなんですか!」
「違う・・・・」
「違いません!」
「・・・・分かった。
ごっちんにはなっちから直接話すから梨華は黙ってて」
「いつ話すんですか?」
「・・・・近いうちに」
「絶対ですね」
「・・・・う・・・・ん」
「じゃあどうぞ!」
へっ?と顔を上げたなつみさんに携帯を突きつけた。
真っ赤な色をした、なつみさんの携帯。
- 464 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:40
-
「ごっちんの番号登録してありますよね」
「ちょっと待って・・・・今ココで?」
「何にも問題ないでしょ、1分で終わる話です」
「そんな急に言われても・・・・
突然電話かけたら向こうも迷惑だったり寝てるかも知れないし・・・・」
なつみは差し出された自分の携帯から恐々と目を背けた。
そんな様子を梨華はじっと見詰めていた
「そうですね・・・・」
差し出していたなつみの携帯をテーブルの上に戻した。
「電話じゃなくてさ直接会って近いうちに・・・・時間作って・・・・ね」
ホッと一息ついた笑顔を見せるなつみ。
「分かりました。やっぱり私が自分で伝えます」
「えっ?今なんて?」
- 465 名前:グッドラブハロー 投稿日:2008/07/30(水) 02:42
- 言うが早いか、
梨華は自分のピンクの携帯を開くと後藤真希にカーソルを合わせた。
トゥルル・・・・トゥルル
パシィッ!
カララララッラララッ・・・・バチッ
携帯が梨華の手から叩き落とされて床に転がり・・・・自然に閉じた。
叩いた格好のまま、なつみは涙目になっていた。
「・・・・どうして邪魔するんですか?」
しかし梨華の声は冷たかった。
「私との関係よりごっちんとの方が大事なんですね」
「なっちはただ・・・・」
「なつみさんの本命はごっちんで私は・・・・浮気相手だったんですか!」
「梨華!何てこと言うの!」
なつみが声を荒げた。
私は対抗するように、
今まで生きてきて1度も言った事のない言葉を絶叫していた。
「なつみさんなんか大っ嫌い!!!!!!!!!!!」
- 466 名前:小さい家 投稿日:2008/07/30(水) 02:44
- 15回目の投稿です。
謎ってほど謎でもなかったですね。
前もって張っておいた伏線を梨華ちゃんが推理していく前半と、修羅場になった後半で構成されています。
付き合いだしてからの本気ケンカは書いておきたかったのですが甘甘を期待された方には残念な回だったかもしれません。
お詫びします。
(●´ー`)<読み返してみたら伏線てほどピンと張ってなかったべ
( ;^▽^)<遅刻ルールの罰則が掃除だったりサービスだったりマチマチでしたね
(●;´ー`)<しかし遅刻に対してやたら拘る作者だべ
( ^▽^)<遅刻に思い入れがあるんでしょうか?
( ´ Д `)<やっと話に絡んだらハロー卒業だぽ
次回は修羅場収束の予定です。
- 467 名前:小さい家 投稿日:2008/07/30(水) 02:47
- >>428
名無し飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
(*^▽^)<素晴らしいカップルだなんてエヘヘヘ
(●;´ー`)<今回酷いことになってしまってるべさ
( ^▽^)<今回のは雨降って地固まるの雨降りです
>>429
名無し飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●;´ー`)<よく考えたら愛ガキちゃんの行動だけ時代背景ズレてるべ
( ;^▽^)<小説の中と現実の時間の進み方が違いすぎててんやわんやです
(●´ー`)<5,6期メンが今回も出てるので楽しんで欲しいべさ
>>430
ななしさん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ;^▽^)<待たせすぎで申し訳ございません
(●`へ´)<普通ココまできたら8月10日に投稿すべきだべ
( ;^▽^)<その日は小さい家もなつみさんも何かと忙しいでしょ
(●´ー`)<これからも忘れたコロに更新するべ
( T▽T)<忘れられないうちに早めに更新して下さい
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/06(水) 07:53
- 更新来てたーo(^▽^)o
うわぁ〜なんか修羅場ですね
早く続きが見たいです
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/29(金) 11:00
- 面白くて一気に読んでしまいました。
続きを心待ちにしています。
- 470 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/21(火) 13:58
- 待ってますよー
- 471 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/11(火) 18:45
- すっげ続き気になる!
- 472 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/02(月) 07:25
- いつまでも待ちます
- 473 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/03(火) 03:13
-
- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/14(土) 13:27
- 楽しみにしています
- 475 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/14(土) 20:20
- 落としとくね
- 476 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/17(水) 00:09
- ( ;^▽^)
- 477 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:09
-
驚いて固まったなつみを尻目に駆け出していた。
「梨華!ちょっと待って!」
聞く耳持たずにオーディオルームに駆け込んで中から鍵をかけた。
そのままヘッドフォンを被るとCDを全開で流した。
「梨華ぁ・・・・」
ドアの外の声が一気に聞こえなくなる。
流れてきた曲はナイト・オブ・トーキョーシティー。
現実のなつみさんを否定して、なつみさんの歌に逃げ込む矛盾。
なんて・・・・バカな私。
でもこの曲の入ってるセカンドモーニングにはあの子の声は無い。
あの子が入る前のアルバムだから・・・・
本当に頭にキタのなら家を飛び出せばいいのに、それも出来ない。
だって夜の街に飛び出したって行き先も無く途方に暮れるだけ。
仮によっちゃんの家に飛び込んだって迷惑がられる。
保田さんの家に行ったって相談できる内容じゃない。
私は激昂してるくせに、
こんなことを一瞬で考えて自室に閉じこもることしか出来なかった。
- 478 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:10
- 何てヘタレだろう。
後から後から涙が流れた。
分かってる。
私はなつみさんの過去の恋愛に一方的に嫉妬している。
恋愛をしていた事実に、
恋愛をしていた事実を知らなかったことに、
恋愛をしていた相手に、
恋愛をしていた相手と自分が同じグループに居続けたことに・・・・
その全てを知らなかったことに・・・・
なつみさんが二股や浮気なんて出来ない人だって分かってる。
ステージ上の器用さとは裏腹にプライベートはとても不器用。
特に恋愛での駆け引きなんて無理な人。
でもどうして隠すの?
どうして庇うの?
昔、昔って、
娘。在籍中の2人は仲良かった。
かつて別れた過去があるような不自然な関係には見えなかった。
- 479 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:12
- もし・・・・もし私との生活の合間に時々逢っていたとしたら・・・・
例えば特別な日。
なつみさんが卒業した日、
私と逢う前後にごっちんに逢っていたとしたら・・・・
私は・・・・
今だって閉じこもった私に呆れて出て行ってしまったとしたら。
そしてあの子の家に向かったとしたら。
私は・・・・
許せない。
「安倍なつみ頑張ってまーす」
アルバム最後の曲ダディドゥデドダディが終わる。
当然のことながら曲なんてちっとも頭に入ってこなかった。
キュルルルルル・・・・カチャ
それでもCDは律儀に役目を終えて止まった。
少し汗で湿った髪からヘッドフォンを剥がした。
- 480 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:12
- アルバム一枚分の時間が経過していた。
今になってドアの外の世界がとても気になる。
自分で施錠したドアに向かった。
我ながら不恰好な行動。
・・・・
ああそうだ。
きっと私は頭を冷やしたんだ。
一気に詰め込んだ情報と感情の整理整頓。
もって行き場の無い悔しさを落ち着かせるための時間。
そして、
結論を出すためには情報が少なすぎる。
話・・・・会話が全然出来てない。
落ち着いてゆっくり聞く姿勢が足りなかった。
話さなくっちゃ。
どんなことでも聞かなくっちゃ。
なつみさんが私に愛想を付かしていなければだけど・・・・
ギイ
ウッウッウッグズッ
ドアの直ぐ外で肩を震わせて泣いていた。
ドアが開いた事にも気付いていない。
- 481 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:13
-
ココであなたが泣いている理由。
それは私を失うのが怖いから・・・・
あなたを失いたくない私と同じ感情。
そっと肩に手を置くとパンッと払いのけられた。
かつてならその行為だけで縮こまってしまったけど今は違う。
無理矢理なつみさんを抱きしめた。
「グッ・・・・」
なつみは力づくで撥ね退けようとしたが、
梨華は更に力づくで上から押さえ込むように抱いた。
「梨華のバカぁック・・・・」
無言で抱く力を強めた。
「だから今さら恋愛なんて・・・・ヒックグズゥしたくなかっ・・・・」
みっともない。
私が愛する憧れのあなたがみっともなく泣いて醜態を晒している。
全ては私のため。
それだけで・・・・
「ごっちんとは今は本当に・・・・もう・・・・」
「分かってます」
あなたの姿が全ての答え。
「昔・・・・ごっちんとの間に何があったか話してくれますね」
耳元で呟くと無言で頷くのが分かった。
- 482 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:14
- ヒックヒック・・・・
顔を覆ったなつみさんが腕の中でしゃくり上げている。
「・・・・立てますか?」
ドア前にへたり込んだままのなつみさんをゆっくり立たせる。
そのままリビングに連れて行く途中の冷蔵庫前で座らせた。
バタッ
冷蔵庫の中から冷やした濡れタオルを一枚取り出した。
「・・・・眼が・・・・腫れちゃいます・・・・から」
涙で真っ赤になってるなつみさんの顔にタオルをフワッと当てた。
自分が泣かせといて何言ってんだか!
心の中で自分に突っ込みを入れた。
「私はいつもなつみさんを傷つけて泣かせて・・・・」
思わず口に出さずにはいられなかった。
「・・・・ヒック・・・・」
勿論返事は無い。
しばらくの間、
濡れタオルを顔に当てたなつみと梨華は無言で座り込んでいた。
- 483 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:15
-
ポロッ
仰向いていたなつみの顔から湿気を失ったタオルが剥がれ落ちた。
梨華は落ちたタオルを拾い上げて洗面台へ置きに行く。
戻ってくると、また無言で同じ場所に座った。
なつみの顔が赤いのは涙の跡だけではないようだ。
・・・・
聞きたい。
過去のごっちんとの関係。
そして、どうしてグループ内恋愛禁止までに至ったのか?
他の人からではなく、なつみさん自身の口から聞きたい。
例えそれが、なつみさん視点のみに偏ってたとしても・・・・
・・・・
「あのね・・・・」
・・・・
「ちょっと待ってください!」
折角話し始めたなつみを、しかし梨華は遮った。
- 484 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:16
-
梨華はすっくと立ち上がると、
無言でなつみの脇の下に手を入れてゆっくり立たせた。
そのまま、
なつみの手を引きベッドに座らせるとテーブルの上に手を伸ばした。
ピッ
照明のリモコンの音が鳴り、リビングは一瞬で真っ暗闇になった。
「・・・・」
梨華は、なつみを両手で包み込むように抱きしめると、
なつみの部屋着のチュニックワンピをゆっくり脱がせ始めた。
スポンと脱がせて軽く畳んで脇に置いた。
再びなつみの背中に手探りで両手を回すとパチッとブラを外す。
ゆっくり両肩から抜き取ると脱衣の上に重ねた。
なつみが暗闇の中で露になった胸を隠す仕草が感じられた。
次いで梨華はなつみのレギンスを脱がせ始めた。
肌に張り付いてるため脱がすのに時間がかかる。
それでも腰からお尻、膝と丁寧に引き下ろしていく。
梨華は終始無言だった。
ドギマギせず冷静に事を運べてるのは邪な気持ちでは無いからだろう。
そして、なつみの身体に残った最後の一枚に手を伸ばした。
- 485 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:17
-
「り・・・・梨華?」
なつみの戸惑った声にも梨華は返事をしない。
ショーツに手をかけると腰を浮かさせてから静かに引き抜いた。
道産子特有の雪のように真っ白な裸身が暗闇に浮かび上がった。
今度は私の番。
なつみの時とは打って変わって、
ジャージとシャツをブラごと一気に捲り上げて脱ぐ。
全てが裏返しになり表側にブラが張り付いた状態の着衣を脱ぎ捨てる。
下も同じ。
ジーパンとショーツを一気に脱ぐ、やっぱり裏返しになったが放り出す。
梨華は、たった2回で脱衣を終わらせ全裸になった。
なつみは両手で胸を隠し両足を斜めに揃えベッドで縮こまっている。
ギシギシ
その場に全裸の梨華が這い上がり相対する。
何かを予感させるに充分のシチュエーション・・・・
梨華は暗闇の中オドオドするなつみを寝かせ手探りで羽毛布団を被せる。
次いで自分も羽毛布団に収まり横になったなつみと相対する。
いつも2人で寝る姿勢。
お互い一糸纏わぬ姿以外は・・・・
「どうぞ・・・・」
梨華の声は落ち着いてた。
- 486 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:18
-
・・・・
どうぞ?
自分で言った言葉に吹き出しそうになった。
この状態で何が「どうぞ」なんだろう。
ごっちんとの話を聞く体勢を整えましたって・・・・意味伝わってるかな?
会話を中断した後から今まで無言だったとしても伝わるわけがないか・・・・
部屋の照明を落として2人で裸になってベッドに横たわる。
バカげてるようだけど意味があった。
見たくなかった。
当時を思い出して眼を輝かせるなつみさんも、
過去の恋愛話に思わず笑みがこぼれるなつみさんも・・・・
見たくなかった。
目を瞑らずに相対して話を聞くには部屋を暗くするしかなかった。
でも過去に思いを巡らしてるなつみさんを片時も離したくない。
2人の間には紙一枚の隔たりもいらない。
体中で捕まえてたかった。
思い出させた過去の美化した世界に飛んでいかないように・・・・
だから互いを包む衣服は邪魔だった。
- 487 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:20
-
でも、
ココまでの理由を説明するのは億劫だった。
勝手だけど「どうぞ」で察して欲しい!
だって私は身構える必要があるから。
自分の嫉妬とごっちんとの恋愛話に真正面から向き合うために・・・・
・・・・
暗闇の中で裸で横になって向き合ったまま時が過ぎていく。
・・・・
やはり伝わってない。
当然か・・・・
何で今この状態なのか・・・・どう説明しよう?
「・・・・モーニング娘。が初めて脱退者を出した後くらいにね・・・・」
何かを察したのか、
暗闇の中なつみは静かに語りだした。
- 488 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:22
-
「最初の8人から7人になった頃かな・・・・なっちは孤独だった」
・・・・
「娘。って最初は頑張ればセンターが入れ替わるって話だったのね、
でもデビュー曲からセンターはずっとなっちだった。
センターは顔、バンドで言えばメインヴォーカル。
まだ人気も定まってないのにコロコロ顔を変えるわけにいかない!
そう言われたらそうかもしれなかった・・・・」
ごっちんとの話のはずが意外な語り出しで始まった。
「歌もコメントも全部なっちから、
アンケート結果もオモシロエピソードもフリップを捲る順番も全部。
打ち合わせでは他のメンバーの予定だったのに、
本番はMCさんのアドリブでなっちから・・・・
あるメンバーの話で番組収録が盛り上がって、
その子が家族に見てねって電話したのに放送ではカット、
代わりになっちの話・・・・」
「何だかクラスで1人だけ先生に贔屓されてる子みたいで・・・・さ」
当時を思い出したのか暗闇の中で声は沈んでいた。
- 489 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:23
-
「それで居た堪れなくなってスタッフさんに言ったの!
なっち以外の子にもチャンスを与えて欲しいって・・・・」
そんなこと言ったら・・・・
「したら、入れ替えても良いけど戻す保証はしないぞ!って
芸能界はセンターを獲り続けるか失うかの二者択一
ほどほどは無い、好きな方を選べって・・・・」
「なっちは獲り続ける道を選んだ。
みんながPVの自分のアップの回数で競ってても加われない。
歌番組のカット割りで不満を共有してても、なっちだけは例外
参加すれば自慢みたいになるし・・・・益々孤独になった」
「分かります、
同期で私だけ抜擢されて他の3人と溝が出来た時期がありました。
望んだ結果と望まなかった境遇
なつみさんとは比べようも無いけど・・・・」
梨華は口を挟んだがなつみは話を続けた。
「でも段々なっちも意固地になって、
皆はソロやタンポポとかユニットがあるんだから良かったね!
とか言っちゃってドンドン空気がギクシャクしてった・・・・」
「ごっちんが入って来たのはそんな時だった!」
- 490 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:24
-
なつみは、今までと打って変わって明るい声。
・・・・来た!
グッと奥歯を噛み締める。
「ごっちんは奇跡だった。
娘。内のギクシャクする空気に全然物怖じしなかった。
誰にも負けたくないって言いながら誰にでも甘えて、
微妙な人間関係にもお構いなし!
不機嫌な裕ちゃんだろうが気まぐれなカオだろうがへっちゃら!
お互い気を使い過ぎてた空気を良い意味でかき回してくれて、
末っ子の特権をフルに使う・・・・みたいな感じかな」
楽しそうな声・・・・
「なっちのとこにも普通に来て遊んでくの!
その当時は娘。の顔じゃなきゃイケナイ!
って今より意固地で頑なだったのに、まるで自然体に接してくれて・・・・
普通の事なんだけど、その時のなっちには嬉しかった。
一緒に遊んだり東京を案内してくれたり、
どんどん魅かれていくのが分かった。
4つも年下の当時13歳の子だったのにね」
「・・・・それで付き合いだしたんですか?」
聞いてられずに上ずった声で尋ねた。
- 491 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:25
-
「ううん・・・・」
10センチと離れてないのに真っ暗で表情は伺えない。
髪の形と細い肩が微かにシルエットで見える程度。
「あの時のごっちんにはもっとお似合いの子が居てさ・・・・」
フッとため息が聞こえた気がした。
「誰ですか?」
「卒業しちゃった」
なつみはボツリと呟いた。
「卒業メンバーの・・・・誰ですか?」
「芸能界からも・・・・卒業しちゃった子」
・・・・
「ごっちんは・・・・その人とお付き合いを?」
「ううん」
再び否定された。
- 492 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:26
- 「今思えば関係は曖昧なままだったの。
なっちとごっちんと、その子と・・・・ゆる〜い三角関係の状態かな。
ごっちんは2人の間を気分次第で行ったり来たり・・・・
捕まえようとするとスルリと逃げられて相手しないと抱きついて来る
なっちとはそんな関係・・・・」
気分次第で行ったり来たり・・・・
「ちょっ!!!
それってごっちんが二股かけてたってことじゃないですか!」
暗闇の中で梨華はガバッと裸身を起こした。
だがなつみは動じる気配もない。
「そんなに大袈裟なもんじゃないよぉ」
「だって!」
「13歳だよ・・・・辻加護ちゃんもよくやってたっしょ?」
「梨華ちゃんとよっしぃーはのんのモノ!
じゃあ矢口さんとごっちんはあいぼん!
安倍さんは、のんので中澤さんはあいぼんの!
保田さんは要〜らない!」
2人の他愛ない遊びを思い出していた。
- 493 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:27
- ・・・・梨華は再びその身を寝かせた。
私はごっちんを子供と感じたことも辻加護と同列と考えたこともない。
なつみさんと私との年齢差的なものだろうか。
「でも・・・・なっちは、そんなごっちんを独占したくなった。
なっちと普通に接してくれるごっちんが愛しくて堪らなくて、
仲良いメンバー同士の関係じゃなく真剣に恋人同士になりたかった。
その子と仲良くしないで・・・・なっちだけを見て欲しいって・・・・」
・・・・
「だけど伝える必要は無くなった・・・・」
「?何でですか?」
「さっき言った相手の子が卒業するって分かったから」
いつの間にかなつみさんは抑えた口調になっていた。
「芸能人と普通の人は活動する時間帯が違うから気軽に逢えなくなる。
どんなに仲良しでも、
これまでの卒業生がそうだったから・・・・
何もしなくてもごっちんの相手はなっちだけになる。
だからその日が来るのをただ待ってれば良かった。
そして・・・・その子は卒業してった・・・・」
- 494 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:28
-
「私も・・・・既に居ましたね」
4期メンバーの武道館デビューと同時に卒業して行った人が居た。
だから、なつみさんとごっちんが付き合い始めたのはその後・・・・
・・・・
2人きり
ここから2人の恋愛が始まるんだ・・・・
梨華は更に身構えた。
しかし・・・・続いたのは意外な言葉だった。
「自然な形で・・・・付き合いだした。
でも長く続かなかった・・・・
・・・・
なっちが・・・・なっちが・・・・ごっちんを苛めだしたから・・・・」
えっ?
思いがけない発言に返す言葉を失った。
- 495 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:29
-
「苛めた!苛めたの!ごっちんが許せなかった。
ショックだった・・・・
ごっちんが・・・・余りに・・・・あっけらかんとし過ぎてて・・・・」
「卒業した日はわんわん泣いてたのに翌朝にはケロッとしてて、
以前と変わらない普段どおりの笑顔で戸惑うくらい・・・・
当たり前のように朝一からなっち〜って抱きついてきてくれて、
2人はあんなにお似合いだったのに、
まるで・・・・最初から居なかったみたいに・・・・」
「向こうが居なくなったからコッチってのに引っかかったのかな?
どうしていいのかモヤモヤした感情を持て余してた。
・・・・変だよね。
だってコレはなっちが望んだ状態。
やっとごっちんを独占できる関係になったってのに・・・・」
「待ち望んでた状態のはずなのに、なにか違和感を感じてた。」
- 496 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:30
- ・・・・
「でも時間が経つうちに分かった。
ごっちんには、その程度の事だったんだって・・・・」
「どれだけ好きな人でも居なくなったらそれっきり、
ああ、居なくなっちゃったって思うだけ」
「多分卒業したのがなっちだったとしても・・・・
ああ、なっち居ないんだ・・・・フーンって、
またすぐに別の誰かと仲良くなって
その後なっちが復帰したとしても悪びれることなく
なっち〜って抱きついてくるんだって・・・・」
「どれだけ好きになってもごっちんはドライでクールなまま、
例え今日なっちが消えちゃっても明日のごっちんは気にしないんだ」
「泣きながら過ごして欲しいってゆうんじゃないの!
ただ・・・・ごっちんがあまりに平然とし過ぎてて・・・・
でも・・・・それが普通なのかもしれない。
なっちが勝手にショックを受けただけでさ、
やっと14歳になった子に何を要求してるんだろうね・・・・」
「それでも、
この抱擁も温もりも相手がなっちじゃなくてもイイんじゃないか?
なっちに向ける愛情も、ある日突然無くなる・・・・
そう思えちゃってさ・・・・」
- 497 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:31
-
「最初は小さな行動から始まった。
わざと顔を会わせない様に入り時間をずらしたり、
矢口やののに話した話をごっちんにだけ話さなかったり、
ランチの誘いを理由も無く断ったこともあった」
「冷たくしたり突き放したり・・・・まるで子供の行動みたい。
でもごっちんは気にした風もなく淡々としてて・・・・」
「余計に腹が立って行動がエスカレートしていった」
「ごっちんに話しかけられてる最中に他の子と会話を始めたり、
空いてるのにわざとごっちんの隣に座らなかったり、
振り向いて欲しいのに振り向かれたらソッポ向いて口も利かなくて・・・・
そのくせ、ごっちんが他の子と話したら露骨に不機嫌になってみせてさ」
「もう無茶苦茶だった。
ごっちんを好きなのか嫌いなのか何が言いたくて何がしたいのか、
最低・・・・最低の精神状態で周り中に不機嫌な空気を漂わせ捲くってた。
・・・・グッグズッ・・・・
思いの丈を一気に吐き出した長い一人喋りは涙声と嗚咽で途絶えた。
- 498 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:33
- ・・・・
梨華は思いがけない告白に戸惑っていた。
聞かされる内容はごっちんとのノロケの過去話だと想像していたから。
・・・・。
ただ当時噂になってた、
なつみさんとごっちんの不仲説の理由には合点がいく。
「・・・・ケンカになったんですか?・・・・」
・・・・
「ごっちんは苦笑してるだけだった」
「一番訳わかんないのはごっちんだよね。
付き合ってるはずなのに難癖付けられて酷いことされて、
子供みたいって思われてたのかもしれない・・・・そうだけどさ。
実際の年齢と比べてもホント精神年齢は逆だべ」
「あと、矢口と圭ちゃんにも迷惑かけた。
先輩のなっちと後輩のごっちんとの間で板ばさみ。
時に間に入ってなっちを宥め賺して・・・・ホント最悪だった」
「したら、とうとう裕ちゃんの雷が落ちたの。
いいかげんにし!
アンタのせいで娘。全体の空気が悪いわ!って、
誰と恋愛しようが勝手やけど仕事にプライベートを持ち込むなや!
ああ分かったわ。
娘。らに恋愛と仕事の両立が出来ると思っとったんが間違いやったわ、
仕事に影響が出るんやったら今後グループ内恋愛絶対禁止や!
ええな!
他のメンバーもやで!って・・・・」
泣いているのにココだけ中澤のモノマネが入った。
- 499 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:34
-
・・・・
「それって、いつ頃のことですか?」
「・・・・梨華たちが入って少ししてから・・・・」
「入った当初からグループ内恋愛禁止だと思ったのは勘違いでしたか・・・・」
「4期は義務教育期間の子が多くて仕事も早め早めに帰されて、
娘。に本格合流するまでの間の出来事だったから分からなかったかも」
早く仕事を覚えようと四苦八苦してる時期に、
そんなことになってたなんて・・・・
「それから・・・・グループ内恋愛は禁止になって、
なっちも反省してごっちんと普通の友達付き合いが出来るようになった。
今思えば・・・・誰かに止めて欲しかったのかも・・・・」
「可愛さ余って憎さ百倍って言葉ありますもんね」
梨華はフォローを入れたが・・・・なつみは首を振った。
「ううん違う!
多分なっちは後ろめたかった。
三角関係の時にハッキリさせるべきだった。
梨華みたいに・・・・思い切って告白する勇気が・・・・なっちには無かった。
ただただ、あの子が芸能界を卒業するのを待って、
ごっちんと自然に恋人になろうとしてた。
なっちは常にそう!
イザって時になると弱くて臆病で逃げて踏み出せなくて・・・・わっ!」
梨華は、なつみに抱きついていた。
これ以上なつみさんになつみさん自身を罵倒して欲しくなかった。
- 500 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:36
-
「もう・・・・済んだ事です」
「ううん・・・・済んでない」
「・・・・だって数年前の話でしょう?」
「・・・・付き合わないんだべ・・・・」
「・・・・誰がですか?」
「ごっちんがあれから誰とも付き合わない・・・・娘。も卒業したのに」
「それは・・・・」
「知ってるだけでも高橋に紺野に麻琴に・・・・田中っち・・・・」
そうだ!
後輩のメンバーが度々ごっちんに告ってたっけ。
れいな、
なんてごっちんと付き合いたくて娘。オーディション受けたとか
本末転倒なこと言ってた。
「・・・・でも、ごっちんは年下に興味ないって前・・・・」
「だけど全員告白してる。
あの時のなっちと違って全員が面と向かって堂々と・・・・
多分なっちとの恋愛で酷い目にあったからトラウマになってる。
だからごっちんは誰とも付き合わない。イヤ付き合えなくなった。
なっちのせいで・・・・」
腕の中で曇った声が響く。
互いの胸が触れ合うほど抱きしめてるのに表情は見えない。
自分で作り出した暗闇がひどくもどかしい。
- 501 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:37
-
「せめて・・・・ごっちんが誰かと恋愛を始めてくれたら、
なっちは許されたって思える。
勝手かも知れないけど・・・・良かったなって」
「なっちとの傷が癒されて本当に好きな人を見つけて幸せなんだって、
・・・・その時までなっちは恋愛しちゃいけないって思ってた。
なのに・・・・なっちは梨華と・・・・
ごっちんを恋愛不信にしといてなっちは恋愛してるなんて酷すぎる」
「ごっちんをもう2度と傷付けたくない。
・・・・ゴメンゴメン・・・・梨華・・・・ホントにゴメン・・・・」
後は言葉にならなかった。
「謝らないで下さい。
私が無理矢理なつみさんに迫ったんです。
なつみさんは最初断ってたのに私が強引に恋人になりたくて、
・・・・事情も知らないで・・・・私のほうこそゴメンなさい」
- 502 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:38
-
梨華は、なつみの身体を引き寄せると顔を近づけ唇を突き出した。
チュッ
だが唇が触れたのは、なつみの鼻の頭だった。
フッ・・・・
暗闇の奥の空気が和んだ。
だって・・・・
梨華は照れながら今度は確実になつみの唇の位置を探り当てた。
チュッ
長い長いキスでなつみの全身が解れていくのが分かる。
キスが終わるとヒソヒソ話が始まった。
「なっちって酷い人でしょ」
「いいえ全然。それだけ・・・・好きだったんですよ」
「・・・・ゴメン梨華」
「またぁ何で謝るんですか?」
「やっぱり・・・・付き合ってることは内緒にして、
ごっちんにも皆にも合わせる顔が無いべさ・・・・」
「ハイ。今まで通りで構いません。・・・・理由が分かりましたから」
「・・・・逃げてるだけだって分かってるんだけど・・・・さ。
バレた時の方が言い訳出来ないことも・・・・何年経ってもなっちは弱いね」
「もしバレたら全て私のせいってことで、間違ってませんから・・・・」
梨華はベッドの中で胸を張った。
- 503 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:39
- 全ては解決した。
心のモヤモヤが晴れて清々しい。
さっぱりした梨華の横でなつみがモゾモゾ動いた。
「・・・・あのね。
梨華に聞いて良いかどうか迷ってたんだけど、
その、ずっと前から気になってて・・・・このさい聞いていいかな?」
「えっ!何ですか?」
「あの・・・・」
妙に口ごもってる。
「この際ですから何でも聞いてください」
「そのね・・・・」
「なつみさんが言いたくないこと言わせちゃったから何でも答えますよ」
「・・・・じゃあ聞くね」
「梨華は・・・・ごっちん苦手なの?」
「!」
予想外の言葉が無防備な心にドスッと突き刺さった。
「前から気になってたんだけど、
梨華ってごっちんのことになると凄く感情的になって、
無関係でも梨華自身と無理くり比較したりナーバスになったり、
どうしてかな・・・・って」
- 504 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:40
-
「何か言われたとか、ケンカしたとか、
なっちの知らないとこであったのかなって・・・・
あ、イヤなら良いんだ別にどうしても聞きたいって訳じゃなくてさ!
ホラ圭ちゃんってなっちより年上だけど後輩っしょ?
梨華もごっちんより年上だけど後輩で、なんか通じるような悩みが・・・・
って何言ってんだろ・・・・やっぱイイや忘れて!」
不穏な空気を察したのか、なつみは頭から羽毛布団を被った。
「待ってください・・・・答えます・・・・から」
そう言いながら梨華は羽毛布団から、なつみの顔を出させた。
・・・・
今度は梨華が言葉を選ぶ番。
何から、どう話すべきか・・・・
「・・・・やっぱり・・・・」
「待って!少し時間を下さい。少しだけ・・・・」
話さなきゃいけない。
何の心の準備もしてなかったけど・・・・
今話さなかったらずっと言えない。
- 505 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:41
-
「・・・・私がごっちんを必要以上に気にするのはコンプレックスのせいです」
「コンプレックス・・・・?」
先程とは一転して何かを思いつめた梨華になつみは鸚鵡返しに答えた。
「何のだい?」
「・・・・絶対に勝てないって言うコンプレックス。
私がごっちんに何もかも負けてるってことです」
誰にも言ったことが無い本心を搾り出すように言葉にした。
それは、梨華がこの世で最も口にしたくない現実だった。
「何でさ?
梨華には良いところがいっぱいあるべ。
センターかい?
でもそんなの・・・・えーとピースだっけ?梨華もあったっしょ」
なつみが不思議そうな口調で応じた。
・・・・
フー
胸に詰まった想いを息と共に吐き出す。
「そういうことじゃないんです・・・・ショックとか絶望、恐怖に近い感情・・・・」
「・・・・分かんないべ」
なつみの無神経な物言いにイラついた。
この感情は才能ある人には伝わらないんだろうか・・・・
違う!
私の伝え方が悪いんだ。
- 506 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:42
-
「私が娘。のオーディションを受けた時の話覚えてますか?」
「・・・・うん」
「絶対合格してなつみさんの隣りに立つんだって!」
「うん」
「念願叶って合格出来て、後は目的に向かって努力するだけでした」
「ん・・・・」
「私は燃えに燃えていました。
同期の3人がどこか遊び半分でも、競争相手が弱いって喜んでました。
ダンス練習も頑張って集中して1週間で4曲マスターしました」
「新人で1週間に4曲?凄いねえ」
「よっちゃんが1週間で1曲で辻と加護は1曲もマスター出来ないのに、
私は4曲!正直自分には才能があるって確信しました」
「そっか・・・・梨華は飲み込みが早いんだったね」
「でも・・・・ダンスの先生が後藤は10日で13曲マスターしたぞって、
正直・・・・信じられなくて・・・・
4曲マスターするのがどれだけ大変だったか実感した後だったから。
絶対負けたくないって頑張っても10日で6曲がやっと・・・・
実力の差にショックを受けて・・・・最初の挫折でした」
- 507 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:43
-
「だけどさ・・・・ダンスって覚える早さを競うもんじゃないっしょ?」
「レコーディングの練習をした時も、
私は3日で3曲OKを貰ったのにごっちんは5日で10曲OKで
残り2日で7曲のOK貰おうと必死に頑張ったら・・・・」
「・・・・どうなったの?」
「声が枯れました」
「うぷっ!・・・・」
思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
笑ってはイケナイ!
梨華は真剣に苦悩して吐露しているのだ。
なのに、真剣な時ほど普段は無い話のオチが付くのは何故だろう?
頑張ったら成功したかと思ったのに声が枯れたってオチ・・・・
「だけどさ人にはペースってものがあるべ・・・・」
笑いを噛殺して話を進めるが、梨華はそれどころではなかった。
- 508 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:45
-
「ジャケット撮影のポージング、コンサートMC、演技、
ヴォイストレーニング、ファンレターの数・・・・
何か、何かで勝ちたかった。
なつみさんの隣に立つために!
何でもイイ、何か1つだけでも、ごっちんより秀でた何かが!
・・・・
1つも・・・・無かったんです」
「全部負けてた。
勝てる気がしなかった。
この先何年経っても・・・・追いつけそうに無かった」
「ごっちんの何が凄いの?って他の人に、よく聞かれました。
何が凄いかなんて上手く説明出来ない。
出来るわけない!
同じグループに入って同じ事をしたから初めて実感出来たんです。
どんなに努力しても追いつけない、
才能と実力の差がイヤと言うほど分かったんです。
必死に追いついて追い抜こうとしてた私には・・・・」
さすがに笑える心境ではなくなっていた。
梨華の人知れないライバル意識と挫折は覚えのある感情だった。
- 509 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:45
- ・・・・
「なっちだって・・・・・ごっちんに敵わないよ」
「えっ?」
「最初から娘。に居て年上だったからごっちんと勝負出来た。
きっと同い歳や同期だったら勝負にならなかったよ。
出来上がったグループに後から1人で入ってあんな活躍・・・・」
なつみはフッと言葉を切った。
「とにかく目標が高いのは良いけど梨華は立派に成長してる!
勝てないとか負けてるとか・・・・」
「そういう事じゃないんです」
「・・・・へっ?そういう事でしょうが?」
「私は負けてしまう。絶対負けてはイケナイ勝負に・・・・」
「いや、あのね・・・・だからぁ!」
「なつみさんを獲られてしまう」
「・・・・?」
「ごっちんに・・・・」
「・・・・」
「だって私となつみさんのツートップは、
ごっちんとのツートップに見劣りするから、
何の取柄も無い私のせいで・・・・
ごっちんと私を比較したなつみさんは愛想を尽かして・・・・」
- 510 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:47
-
「アハハハハハハハハハハハハハ」
突然なつみがコロコロ笑った。
「何で笑うんですか!真剣なんですよ!」
「だってさぁ・・・・」
「大笑いするなんて酷過ぎです」
梨華の目に涙が滲んだ。
「梨華の話には、なっちの意思がどこにも無いべさ」
「・・・・意思?」
「なっちは歌とダンスの上手い人になびく海草じゃないべ
なっちの好きな人はなっちが決める!
好きなのは梨華。
人一倍頑張ってるのにネガティブで、
自分の魅力を過小評価しすぎな女の子。
負けたくないって気持ちは大事だけど世界はそれだけじゃない」
なつみの手が暗がりの中で梨華の頭を撫でた。
「梨華の個性は梨華以外に誰にもマネ出来ないべさ。
ごっちんを気にしすぎだよ!もう同じグループじゃないんだから!
自信を持って!
ねっ!」
まだグジグジ言ってしまいそうになったが、
なつみが裸身を密着させて来たので何も言えなくなった。
真っ暗闇で互いの温もりが伝わる。
無粋な言葉なんて不必要なのかも・・・・
- 511 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:48
-
気が付くとなつみの寝息が梨華の胸の辺りから聞こえてきた。
同様に眠りに落ちたいのに変に頭が冴えて考えが巡る。
なつみさんの過去の話は・・・・本当だろうか?
勿論ウソをついてるなんて思ってもない。
ただ、なつみさんの感じ方と現実とは違う可能性だってある。
ごっちんをイジメた。
果たしてそうだろうか?
イジメとは多人数で行うもの。
でも話の中で保田さんや矢口さんがなつみさんに加担した形跡は無い。
どっちかというと切れたなつみさんに困ってたような対応。
中澤さん飯田さんは・・・・我関せずの印象。
しかもイジメの内容も小学生レベルの拗ねに近い。
周囲は痴話ゲンカとして対応してた可能性も・・・・
それに第一、ごっちんがトラウマを抱えるほど繊細にも思えない。
・・・・
一連の行動をイジメだと感じてるのはなつみさんだけなんじゃ・・・・?
- 512 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:49
-
確信がある。
娘。時代のごっちんと私・・・・何度目が合ったことだろう。
2人とも・・・・常に同じ人を見ていたから・・・・
ダンス練習の鏡越しに、
メンバーが雑談を始めた時に、
個人レッスンを見学する最中、
楽屋で座った場所、
立って歩き出すとき、
歌いだす瞬間。
なつみさんが今何をしているのか絶えず気になった。
その度にごっちんと目が合って慌てて逸らした回数は数え切れない。
肝心の御本人は、見つめられてる事に気づきもしなかったけど・・・・
トラウマを抱えるほどイジメられた人が、
あんな熱っぽく見つめたりしない。
寧ろ、恋愛のトラウマを抱えてるのはなつみさんのほう。
その原因をごっちんは充分認識してるのでは?
もしも、ごっちんがなつみさんを見守っているんだとしたら・・・・
自らが嫉妬心を煽り追い込んでしまったなつみさんを気づかい、
トラウマが解けるのを待って復縁のチャンスを伺ってるとしたら・・・・
・・・・
有り得なくは無い。
ごっちんが新しい恋を始めないのは、未だなつみさんを好きだから・・・・
- 513 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:52
-
負ける。
あの娘が本気を出したら私は必ず負ける。
これまでも、そしてこれからもどんな分野でも・・・・勝てない。
ある日の新曲レコーディング。
ごっちんの実力に敗北を感じたのは私とメンバー全員だけではない、
なつみさんもだった。
でも次の日には追いついていた・・・・ううん追い越していた。
さすが安倍さん!
私は自分の実力を棚に上げて、心の中でごっちんに勝ち誇ってみせた。
しかし、ライバル心を燃やしたごっちんは次の日また追いついてみせた。
尚も負けずに追い越すなつみさん・・・・
2人で切磋琢磨してドンドン高みに上って行く。
傍観者と化した私を置き去りにしたまま・・・・
なつみさんの瞳の奥の絶対負けたくないという敵意に満ちた光。
私には決して向けられたことが無い、ごっちんにだけ向けられる強い光。
特別な2人以外誰も立ち入れない関係。
ブルルッ思わず身震いした。
なっちの好きな人はなっちが決める!
なっちは梨華が好き!
大丈夫。
天使は私の腕の中で眠っているのだから。
奪われはしない。
梨華はソッと両腕でなつみを抱きしめた。
確かめるように・・・・
- 514 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:53
-
朝目覚めると抱きしめていた天使は枕に化けていた。
ベッドで寝ていたのは全裸の梨華1人だけ。
なつみさんは・・・・今朝の仕事入りは早かったのだろうか?
ベッドの外に梨華の脱ぎ捨てた衣類がキチンと畳まれていて苦笑した。
昨日全部裏返しに脱いで下着が表側になったまま放り出してあったはず。
好きな人にズボラな一面をまたも晒してしまった。
でも清々しい。
思いの丈を伝えられたからだろうか。
以前よりずっとずっと距離が縮まった。
・・・・
今日は、お昼前までに事務所に集合だったわ。
梨華は鼻歌交じりで支度を始めた。
事務所に着くと娘。の控え室から騒がしい声が漏れていた。
「反則技だよね!信じらんない!」
「つーか明かに負ける!アタシら束になって負けたら最悪じゃん!」
「でもさ〜この面子なら負けようが問題無いんじゃね?」
折角の清々しい朝に何を騒いでいるのやら・・・・
- 515 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:54
- 「お早うございま〜す」
「反則も反則、大反則!ぉ?梨華ちゃんお早う〜コッチ来て来て〜」
テーブルの上に胡坐をかいて座っていた矢口が招いた。
「まあ負けてもいっかアタシ元々ソロだったし」
「ソロは関係ないんじゃね?・・・・でも勝敗も関係ないか・・・・」
傍の藤本と吉澤は近付く梨華にお構い無しに会話を続けていた。
「朝から何の会議?」
カバンを降ろしながら梨華も会話に参加した。
「梨華ちゃん知ってた?ハロプロ期待のトリオユニットのデビュー」
矢口がテーブルの上の紙をめくって見せようとした。
「もちろん知ってますよ。何言ってんですか」
紙を見ようともせず梨華は答えた。
「え゛っ!!!!」
吉澤が呆気に取られたように固まった。
「何で?何で梨華ちゃんが知ってんの?」
藤本は興奮して身を乗り出してきた。
「何でって私のユニットだし知ってて当然でしょ」
「私のユニット・・・・?」
3人が顔を見合わせた。
「美勇伝!
私と新人2人のユニット!デビュー間近なんだから忘れないで」
- 516 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:55
- ・・・・
一瞬の空白。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「キャハハちょっ!マジ受けるんですけど!オイラお腹痛い」
「つーか梨華ちゃん!天然?ハハハハハハア・・・・キショッ」
梨華は突然吉澤、矢口、藤本らの大爆笑に包まれた。
理由も分からず笑われるのは不愉快だ。
精神衛生上とてもよろしくない。
梨華は真っ赤になった。
「何!何よ!私笑わすようなこと言ってないでしょ!」
ケンカ腰で怒鳴った。
「だってさぁ美勇伝とか忘れてたよ」
吉澤が笑いすぎて零れた涙を拭きながら酷い弁解をする。
「何で梨華ちゃんのユニットにアタシらが戦々恐々とするのさ」
藤本が両手をバッチンバッチン叩きながら酷い弁解パート2。
「あ〜オイラ不意打ち喰らった。ボケが想定外過ぎて避けられなかった」
矢口が笑いながら先ほど見せようとしてた紙を梨華の鼻先に突きつけた。
梨華は尚も吠えようとしたが、とにかく渡された紙を見ることにする。
- 517 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:57
-
<10月6日デビューのハロプロ新ユニット発表のお知らせ>
一番上の文字が飛び込んできた。
「へえ〜・・・・また新ユニットが出来るんだ」
誰に聞かせるでもなく感想を声に出した。
どんなユニットだろ?
ワクワクしかけた心が一瞬にして凍りついた。
<普段はソロ活動を行う3人の期間限定ユニットを発表します>
<安倍なつみ、後藤真希、松浦亜弥、>
<ユニット名は3人の名前から”後浦なつみ”と命名しました>
<3人の今後のパフォーマンスに御期待下さい>
「・・・・」
「読んだ?美勇伝じゃなかっただろって・・・・梨華ちゃん固まった」
「あ!よく考えたら新ユニットのライバルって美勇伝じゃね?
トリオ同士でさ」
「つーかよく考えたらアタシ”ごまっとう”から外されたんじゃん?
何気にショック」
- 518 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:58
- もう3人との会話も聞こえなくなった。
スーッと頭が真っ白になるのが分かった。
安倍なつみ、後藤真希、
なんで?
ソロ同士なのにユニット組んで同じ仕事をするってこと?
2人が一緒の時間を過ごして・・・・
それより何より私は何も聞いてない。
なつみさんから・・・・昨夜何も聞いてない。
あんなにごっちんへの心情を語ったのに、
新ユニットのこと・・・・教えてくれなかった。
グシャグシャグシャ
梨華はユニットのお知らせの紙を無意識に手の中で丸めた。
矢口ら3人は再び会話を始めて気にも留めてない。
呆然としたまま楽屋を出た・・・・とにかく独りになりたかった。
- 519 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 01:59
- 楽屋のドアを背に廊下に佇んだ瞬間、突如強い力で腕を引っ張られた。
よっちゃんか誰かがふざけているんだろうけど関わる気力も無い。
グイグイとされるがままに廊下を後ろ向きのまま引っ張られて行く。
「ちょっと!いい加減に・・・・」
引っ張る相手を振り解こうとする梨華の目に赤い服が飛び込んできた。
「・・・・なつみさん!」
それは真っ赤な戦闘服風の衣装に身を包んだなつみだった。
梨華の問いかけに一切答えずに、
なつみがグイグイ引っ張って来たのは人気の無い廊下の角だった。
「ふぅ〜・・・・」
辺りに誰も居ないことを確認するとなつみは深いため息をついた。
だが梨華はそれどころではない。
手の中のグシャグシャに丸めた紙を突きつけた。
「ここここっこっこここ、ここれは・・・・」
まるで首を絞められた鶏のような声を出す梨華。
「落ち着きなさい!今からちゃんと」
「こっここここここれ私、私私知らない何で?何で?何でですか?」
「声が大きいべさ、他の人に聞こえちゃう」
「だぁって!昨日・・・・昨日あんなに2人で裸で抱き合って、
あれはウソだったんですか?そうならそうとハッキリ!・・・・」
不意に梨華の言葉が途絶えた。
感情を垂れ流す梨華の口にフタをしたのはなつみの唇だった。
- 520 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:00
- 「む・・・・」
何が起こったのか暫し呆然とした梨華は目を見開いたまま。
眼前に目を瞑ったなつみのドアップ。
・・・・
改めてじっくり見ると、なつみは完璧にメイクしていた。
髪も綺麗にセットされて毛ひとすじの乱れも無い。
眉、アイライン、まつ毛までも綺麗に整っている。
プロのスタイリストに施された完璧なる芸能人安倍なつみの姿。
梨華が接するのは常に家に居るときの素の状態の安倍なつみ。
仕上がった状態のなつみさんに迫られるのは初めてかも・・・・
ドッドッドッド
心音が高まってくる。
フレンチキス状態のなつみの唇がフッと離れそうになる。
待って・・・・
慌てて唇を追いかける。
更に唇が逃げようとする・・・・
ダメ・・・・
梨華はキスしている唇を追って離れさせない。
今度は密着してた腰や身体が離れていこうとする。
もう・・・・
梨華は強引に自分の方に抱き寄せようとして・・・・
- 521 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:02
- ベチッ!
「ルージュが剥がれちゃうっしょーが!」
なつみに軽く額を叩かれた。
我に返る梨華。
「・・・・キスで挑発してその気になったら叩くなんてズルいです・・・・」
額を摩りながら不満気に呟いた。
「挑発って人聞きの悪い!取り乱してるから落ち着かせただけでしょ」
取り乱すと言われて当初の疑問を思い出した。
「これ・・・・ごっちんとのユニットって?」
ハアとなつみは再度ため息をついた。
「昨日話そうと思ったの!
したら帰宅早々暗い顔して誰と付き合ってました?って話を始めてさ・・・・」
「昨日ですか?」
「そう!何度も話題にしようとしたのに聞く耳持たないから!」
グルッと昨日の記憶を掘り起こしてみる。
「話題にしてません!だったら覚えてますから」
「したべ!話題変えてビックリさせようとしたのに・・・・」
「だってそんな行動全く無かったです」
「あったの!って・・・・昨日思いつめてたから何も覚えてないんでしょ!」
- 522 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:03
-
・・・・
そうかもしれない。
私は相変らず最悪のタイミング。
いやユニット発表の前にごっちんへの想いを語れたんだから、
最良のタイミングかも・・・・
「まあイイべ。そんな訳だから・・・・」
「良くないです!どうしてちゃんと話してくれなかったんですか!」
梨華が迫った・・・・が、なつみは猛反撃してきた。
「しょうがないっしょ!
ごっちん話であんな状態の時にユニット話なんか忘れてたベさ!」
「だったら・・・・今朝話すとか」
「今朝は急いでたし後日でいいかなと思って、
んで事務所に来たら全部の楽屋にユニットの第一報が配布されててさ、
あちゃーと思って来てみたら案の定楽屋の前で暗い顔してるし・・・・」
「じゃあ昨日より前に話してくれるとか出来たでしょう?」
「なっちが知らされたのが昨日なんだから無理だったの!
昨日告知されて、今日宣材写真撮影で、週末PV撮影だってさ、
まだ曲も聞かされてないってのに・・・・」
なつみの指がツンツンと梨華の首と胸の間を突っついた。
- 523 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:04
-
・・・・
確かにユニットは水面下で進行して当事者が知るのは一番最後だ。
私たちは、ある日突然完成したレールの上を進むことになる。
事前に知るとか知らされるとか、この仕事で最も無理難題。
「・・・・やっぱり私取り乱してました・・・・」
「納得してくれた?」
真剣な顔のなつみがパアッと明るい表情に変わった。
「大丈夫です・・・・よね?」
「う〜ん分かんない。
なっちはソロとしては2人より後輩になるからね」
「そうじゃなくて・・・・あの・・・・焼け棒杭に火がつく・・・・とか」
モジモジと指先を動かす梨華。
フフッ
なつみは無造作に梨華の頭を撫でた。
「・・・・」
「そんなこと考えても無かったよ。
集中力を高めて全力で挑まないと差がハッキリ出ちゃう。
遊んでなんてられない!
このユニット活動で何を得られるかが最も重要だから」
キッと虚空を睨んだ強い目線。
自分の心配が、いかに的外れで小っぽけなのかを思い知らされる。
そうやって常に上を目指していくんですね。
そして・・・・
- 524 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:05
-
「なっち〜何処〜?」
遠くからなつみを呼ぶ声が響いた。
この声は・・・・
「なっち〜?遅れるよなっち〜」
上の階から階段を下りて来てだんだん近付いてくる。
「ココぉ〜!今行くう〜!」
今まで声を潜めていたなつみが梨華に構わず大声で応えた。
「・・・じゃあね」
梨華に呟くと足を1歩踏み出して・・・・止められた。
止めたのは梨華だった。
そうしようと思ったわけではない。
自分に背を向け、
あの声に向かうなつみの腕を反射的に掴んでしまっていた。
驚いて振り向くなつみ。
「・・・・」
行かないで・・・・なんて言いたい訳じゃない。
ただ・・・・
何を察したのか、
なつみは柔らかく微笑むと自分を掴む手をソッと触った。
それだけで梨華の手はスルッと離れた。
サラッ
別れしなに梨華の髪をひと房撫でるとそのまま歩き出して行った。
- 525 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:06
-
「ぼっ!なっち何処に居たの?撮影始るってのに・・・・」
以外にすぐ近くで声が聞こえた。
慌てて廊下の角に身を潜める自分がとてもイヤだ。
「・・・・いやそのコッチかな〜って歩いてたらどっちだべ?って・・・・」
「自分の事務所で迷子になるのはなっちくらいだよ。行こっ!」
「ちょっと雨降りそう?・・・・っは何処?」
「先行ってる。・・・・センター?・・・・なっちに・・・・てんじゃん」
「ま・・・・ない・・・・なんだから」
「・・・・でも・・・・アハハ・・・・」
2人の会話が遠ざかって階段を下りて聞こえなくなっていく。
梨華は隠れていた角から顔を出すと階段まで小走りに走ってみる。
階段で反響して、もう2人が何を話してるのか判別すら出気ない。
・・・・行っちゃった。
未練を断ち切るように階段に背を向けて反対側の窓の方を向いた。
何気に見た窓の下方の庭を誰かが歩いていく。
「あやや・・・・」
思わず呟いていた。
- 526 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:08
- なつみと色違いの緑色のノースリーブ短パンブーツの、
戦闘服風衣装に身を包んだ松浦亜弥だった。
梨華の覗く窓の下の1階に位置する玄関口から、
背中を見せて向こうに庭を横切って歩いて行く。
目指しているのは事務所の庭の離れにある撮影スタジオか、
今回はソコで宣材写真撮影らしい。
更に梨華の眼下から赤と黄の戦闘服が並んで出てきた。
階段を下りて玄関口から外へ出た、なつみと後藤真希だ。
ゴツッ
身を乗り出した梨華は勢い余って開かない窓に頭をぶつけてしまった。
なつみと後藤はそのまま松浦の後を追って同じ方向へ歩き出した。
赤い戦闘服の背中越しに盛んに手が動いているのが見えた。
お喋りに夢中な時のなつみのクセだ。
黄色い戦闘服は隣で聞き役に徹してる・・・・のもいつもの光景。
なつみは撮影前のテンションを高めるかのように盛んに話しかけている。
ウンウンと頷く黄色い戦闘服・・・・の左手がゆっくりと動いて・・・・
なつみの肩を抱いた。
ゴツッ
梨華はまたも窓に激突した。
なつみは肩に回された手に気付く素振りも無い。
- 527 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:09
- 喋るなつみと隣りの後藤・・・・その先を歩く松浦。
ゴツッ
見えない壁に阻まれ見ているだけの私。
・・・・まるで現在の関係のような構図。
2人はライバルとして高め合い先を歩いていく。
そして・・・・私は置いていかれる。
いくら手を伸ばしても届かない・・・・差がどんどん開いていく。
私は卒業するまで歩き出せないの?
卒業すれば・・・・追いつけるの・・・・
もっと差をつけられるだけじゃないの・・・・
撮影スタジオ入り口で、なつみと後藤は松浦に合流した。
遠めに赤と黄と緑が交わってるのが見える。
ゴツッ
私が・・・・あの中に加われる日は来るのだろうか?
今、これだけの差があるのに・・・・追いつける日は・・・・
あの子には勝てない。
なつみさんに必要なのは本当は私じゃなくて・・・・
ゴッッ
梨華はなつみが最後に触れてくれた髪を撫でた。
大丈夫・・・・私となつみさんは・・・・絶対大丈夫。
- 528 名前:グッドラブハロー 投稿日:2009/09/10(木) 02:10
-
「梨華ちゃん、開かない窓にヘッドバット繰り返さないで!」
梨華の決意を知る由も無い、吉澤の揶揄が通り過ぎていった。
- 529 名前:小さい家 投稿日:2009/09/10(木) 02:13
-
16回目の投稿です。
なんていうかその、なんでもないです。
(●`へ´)<誰が待ってたって言うんだべ!
( T▽T)<大っ嫌い!!!の捨て台詞のまま1年近く放置されました。
(●`へ´)<なっちの誕生日に更新するはずが1ヶ月も遅れたべ
( T▽T)<ハローを取り巻く環境も様変わりしちゃいましたしね
(●;´ー`)<当時を思い起こすのが大変になって来たべ
( ;^▽^)<無事書き終われるんでしょうか?
( ´ Д `)<何気に出番増えたぽ でも次回は出番ないぽ
从‘ 。‘)<私の出番は今回が最初で最後ですので念のため
次回は甘甘ストーリーの予定です。
- 530 名前:小さい家 投稿日:2009/09/10(木) 02:15
- >>468
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ;^▽^)<今回も更新来ましたよ!遅すぎますけど
(●´ー`)<修羅場は完結して再修羅場も無事?終了だべさ
( ;^▽^)<早く続きを見せることは出来ませんでしたゴメンサナイ
>>469
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<一気に読んでくれて嬉しいべさ
( ^▽^)<心待ちに応えられたでしょうか?
(●´ー`)<是非感想が欲しいべさ
>>470
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ;^▽^)<待たせ過ぎちゃいましたね
(●´ー`)<3月くらいに更新する機会があったんだべ
( T▽T)<だったら更新して下さい
- 531 名前:小さい家 投稿日:2009/09/10(木) 02:17
- >>471
名無飼育さん
( ^▽^)<レスありがとうございます
(●´ー`)<続きをすっげ気にしてくれて嬉しいべさ
( ;^▽^)<3月くらいにどうして更新しなかったんですか
(●´ー`)<どうせなら大量に更新しようと思ったらしいべ
( T▽T)<それで9月じゃ時間かかりすぎですよ
>>472
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ^▽^)<いつまでも待っててくれてありがとうございます
(´ー`●)<もう待ってないと思うべ
( T▽T)<そんなぁ
>>474
名無飼育さん
(●´ー`)<レスありがとうだべさ
( ^▽^)<楽しみにしててくれてましたか?
(●´ー`)<今回の話はアップダウンが激しいベ
( ;^▽^)<やっぱり2、3回に分けて早めに更新するべきだったのでは・・・・
>>476
(●;´ー`)<何を言いたいか如実に伝わってくるべ
>>473>>475
( ;^▽^)<最下層に落とされてると悲しいです
- 532 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/12(土) 13:35
- 更新よかったぁ
ずっと待ってたから誰だよ上げたの〜とか思って開けて思わず声をあげちゃったw
甘々期待してますね。ゆるゆると待ってます。
- 533 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/24(木) 01:33
- 一年ぶりに覗いたら更新あって歓喜してます
- 534 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/19(火) 11:35
- ゚ ・*|.。.*・' ゚ ゚ ・*.。.*・' ゚ ゚ ・*.|.。.*・' ゚
..☆| Happy Birthday 梨華ちゃん |☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
@_γ´※`ヽ_@
}}:::::::/\:::::::{{
{{:::/ノハヾヽ:::}}
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※ {{:⊂'_∞___.つ}}
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ノノハヽ.. . ./ , -||ー||ー||-、 u \
(●´ー`)|~| ̄| /⊂⊃ .!`ーー---ーー´! 只 .
||( 二つH@|/ .只 !=O=O=O=! {___} \
||ゝ __`ヽ|__|_l u {___}. `ーー----ーー´ |___|⊂⊃\
||=== (__ノ/⊂⊃ .|___|. ⊂⊃ \
- 535 名前:さくら 投稿日:2010/10/24(日) 04:22
- わーー一気に読んじゃいました!!
作者さまのペースでいいので
今年も更新があると嬉しいです☆
なちりか、うんうんいけるv
- 536 名前:アヤセ。 投稿日:2013/09/14(土) 22:38
- まだまだ待ってます!!\(^o^)/
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