トータル・タートル
- 1 名前:いこーる 投稿日:2004/04/15(木) 21:08
- 亀井メイン。
リアルとアンリアル。
青春物語のつもりですがどうなるやら……。
よろしくおねがいします。
某作品の影響受けてます;
- 2 名前:いこーる 投稿日:2004/04/15(木) 21:08
- まずはリアル。亀高。
- 3 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:09
- リゾート。
こんな仕事をしていると
意外なチャンスでリゾート。
写真集撮影かぁ。
楽しそうだ。
とかいう話が実現しちゃったり……。
「亀ちゃん、やっぱ砂浜やねぇ」
「砂浜だぁ」
「ぽかぽかするなぁ」
「しますねぇ」
「おお、まこっちゃん走りまわっとる」
「辻さんも元気ですねぇ」
とにかく走り回る他のメンバーを横に
わたしたちはとろけるような雰囲気に包まれている。
- 4 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:09
- 水着撮影が終わって休憩時間になったので
普段着に着替えて出て行ってみると、
誰もいない……。
「どこ行っちゃったの?」
私がとろとろしている間に
みんな遊びに行ってしまった。
一人たたずむ私。
日は傾いて暑さも緩やかになってきている。
「なんで置いてっちゃうの……」
ひどいや高橋さん。
休憩時間になったら手をつないで
一緒にジュース飲んで
一緒に夕日見て……
楽しみにしてたのに。
- 5 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:10
- 私は歩道の上であるにもかかわらずしゃがみ込んでしまう。
地べたに座った。
昼間のうちにほっかほかに温まったアスファルトのぬくもりが
お尻からつたわってきた。
どこかを探したらいいのかも知れないけれど
見知らぬ土地を一人で歩き回るなんて……
きっとすごくどうしようもなく寂しい。
やっぱりいて欲しいんだよ。
- 6 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:10
- 「きらいだ……」
一人ぼっちの私。
「いじわるな高橋さんなんてきらいだ……」
膝に顔をうずめる。
そうしていると
あれよあれよという間に泣けてきた。
涙がどんどんどんどん出てきた。
潮風。
道の向こうに広がる海。
私の気分は
そんな爽快な環境と喧嘩して
現在急下降中。
- 7 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:10
- ほんとにどこいっちゃったのさ。
私の膝こぞうと目元が涙でぐしゃぐしゃになる前に
なんとかしなさいよ高橋!!
私の気分も精神も表情も身体も自我だって
みんなみんな高橋さんのものなんだから。
一緒にいてくれなきゃやだよ。
きっと通行人の視線が
うずくまっている私にガシガシ刺さっているに違いないとか
思っていながら顔を上げることができない私。
気がつくと泣きつかれて眠ってしまっていた。
- 8 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:11
- ・
・
・
・
「あーっすんませんすんません。
このコはあっしの知り合いです!
大丈夫やから皆さんほんますんません」
あれあれ、慌てている声がするよと思って顔を上げてみると
高橋さん。
通行人にペコペコと頭をさげまくるさげまくる。
そもそも日本語通じるのかわからない野次馬たちを
福井方言で必死になって追い払ってくれて
ついでに私の頭を撫でてくれた。
- 9 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:11
- 「なして泣いてたん?」
「も……ばかぁ!」
私はお尻をついたままだったのに
高橋さんに抱きついた
もんだから
「おわっ……」
バランス崩した高橋さんが
私の上に覆いかぶさった
もんだから
気がついたら2人
歩道に寝そべったまま抱き合っていたね。
- 10 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:12
- 「いなくなっちゃったかと思ったんだから……」
「……ごめんな」
また野次馬が集まってきちゃうかもしれないけれど
もう知らない。
「キスしてやる!」
「わっ……待て!」
高橋さんは一気に立ち上がって
私の攻撃を回避した。
「冷たくするとまたいじけますよ」
「わーったから、ほら立て」
「ん……」
高橋さんの手につかまって私の体、
ひょいと持ち上がる。
「実はな……」
目と目が合う。
「行きたいとこがあるんや」
- 11 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:12
- 「行きたいとこ?」
「ボート借りに行っとった」
「ボートに乗りたいんですか?」
「絵里と2人きりになりたかったでな」
「ふっ……ふぇ……」
「あっ、また泣くぅ」
なんでそんなに嬉しい言葉くれるわけ?
泣いちゃうよ。
「ほら、いこっ」
くいと握られた手があたたかくって
ときどきぶつかるあなたの肩がやわらかくって
私の泣き顔から
笑みが1粒だけこぼれた。
- 12 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:13
- 「おーあそこあそこ。あれ借りたの」
「は?」
「ん?」
「こんなもの借りたんですか?」
なにモーターボートなんて借りてんだよ。
「高かったでしょう」
「ほやけど、これ速いんやで」
ああわからない。
なぜにデートにスピードを求めますか高橋愛。
「免許持ってないのに……」
「んな細かいこたぁいいから」
戸惑う私を置いてさっさとボートに乗り込んだ高橋さん。
「ほれっ、絵里も」
「あっ、待ってよぉ」
私もボートに乗っかると重みでふやりと傾いてしまう。
「おっとっと。ちゃんと真ん中乗らんと」
- 13 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:13
- ようやく落ち着いた私を見て
「行くぞ!」
紐を引っ張る。
「はぁい」
ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ
「ん……んぷっ」
ボートは
呼吸をするのも苦しいくらい勢いよく
走る走る。
波にぶつかるたびにボートががっすんがっすん揺れる。
私はボートの床やら縁やらに体をぶつけまくった。
「ちょ……止めっ!止めてぇ!」
痛い痛い。
ブロロロッオオオオオォォォォォ〜〜〜
ボートは
間抜けな残響を鳴らしながら速度を緩めていった。
- 14 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:13
- 「だ……大丈夫やったか?」
そういう高橋さんだって息が絶え絶えですよ。
そこまで無茶しますか普通?
「こわかった……」
「あっしもこわかったぁ」
2人のリズムが自然あわさっていって
呼気が一致したかと思ったら。
「ぷっ……あはははははははは」
2人そろって爆笑が始まったのでした。
出血大放出のアドレナリンに押されて
妙にハイテンションになった2人は
「きゃあああああ」
とか言いながら抱き合った。
ああ、笑いが止まらないよ。
- 15 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/15(木) 21:14
- おなかが痛くなるまでひとしきり笑い終えた後は
抱き合ったまま見つめあう。
今度こそ
私たちはキスをしていた。
「……ん」
夕日。
静かな海。
潮の匂い。
かもめの鳴き声。
あなたの感触。
これって
最強のリゾート。
もうちょっと
のんびりしたいと思いました。
- 16 名前:いこーる 投稿日:2004/04/15(木) 21:14
- 本日はここまでです。
- 17 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:56
- 夕日が沈む頃がタイムリミット。
それはわかっていた。
でも、
離れたくないじゃないですか。
「そろそろ戻らんと」
「なんで?」
「なんでって……」
「何でそんなに冷静なの?」
私は
あなたを求めてばかり。
「そんなこと言ったって、
時間には戻ってないと怒られる」
「高橋さんは私と2人でいたいんじゃないんですか?」
私は唇を無意識に突き出す。
ああ、私は何でこんなに機嫌が悪いんでしょう。
- 18 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:56
- 「だーから、ちゃんと仕事せんとこれから2人でいられなくなるやろ!」
「そうですか。私といるより仕事の方がいいんですね」
「なんでそうなる……」
「その方が他の人もいて楽しいですもんね。
私なんかといるより……」
高橋さんを困らせたいなんて思ってるわけじゃないのに
無意識に無自覚に無感覚にやさしい言葉を求めてしまう私。
「ああ、もうっ!帰るからな」
あっ、怒っちゃった。
「高橋さんのバカ!」
「もう勝手にせい」
高橋さんはボートの方向を変える
- 19 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:57
-
違うの……
違うんだ……
仕事を放ってまで私と一緒にいろって言ってるんじゃないの。
でもあなたは私がわがまま言うまで
何も言ってくれないじゃん。
せめて
次の約束とか
元気が出る言葉とか
そういうのが欲しいだけなのに、
どうしてわかってくれないの?
……。
……。
- 20 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:57
- ボートがスピードを上げる。
憎い。
私が声を上げて泣けばきっと
困った顔しながら慰めてくれるんでしょ?
でも
今日は一度泣いてしまったし
いつもいつも泣き落としではそのうち
あきられて
あきれられて
付き合いきれんとか言われて
捨てられたりして……
「もうやだ……」
囁いてみてもエンジンの音でかき消される。
必死にガッツく私。
やれやれという表情でとなりにいるあなた。
こんな一方通行
「もうやだよ……」
- 21 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:57
- エンジン音がうるさい。
私の声なんて永久に届かないのかもしれない。
それならいいや。
この
とんでもない速さで流れる水面に
帰ってしまえばいい。
私が立ち上がったため
ボートがぐらりと傾いた。
私の体は
そのまま
海の中へ
バシャン
耳がゴボゴボ言っている。
あと少し。
肺の中から空気が抜けて
服が水分をたっぷり含んでくれば
私の体は沈んでいくに違いない。
- 22 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:58
- 目を開けると
潮水が沁みてきた。
あっ
ほら沈み始めた。
海面は
夕日を反射してキラキラキラしている。
オレンジと海の青が混ざり合って
ああ、こんな景色みたことないや。
生まれてはじめて
光を見上げた気がする。
……。
…………。
- 23 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:58
- 突然
ゴボボボボボボボボッ
あたりが泡でいっぱいになったかと思ったら。
私の体はほれほれと引き上げられていった。
ざっぱぁ
水面に浮上すると
高橋さんが私のシャツをがっちりとつかんでいる。
なにか叫んでいるようですが
待って……
耳の水が抜けない。
体をぐいぐい引っ張る高橋さん。
私はボートの上に引き上げられた。
私は大急ぎで耳をトントンやって水を抜いた。
「絵里!」
「ん……」
「大丈夫?」
「うん。溺れてやろうかと思ったけど邪魔されたから」
- 24 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:58
- 「なんで……なんで急に跳び込んだりした?」
「知らない」
バシッ
殴られました。
それもグーで。
意識が一気に覚醒する。
「勝手にいなくなるな!!!」
頬がジンジン疼いて非常に痛い。
「ごめんなさい……」
「絵里が、絵里がいなくなったら……私は……」
「ごめんなさい……」
「1人だけなんて、ひっで寂しいんやで」
頬だけじゃない。
喉も目頭も胸の中もとっても痛い。
高橋さん。言葉が微妙におかしくなっていることに気づかないみたい。
- 25 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:59
- 「高橋さん」
「何?」
「ほっぺたが濡れてます」
「……潜らせるからや」
「目が赤いです」
「潮が沁みた」
あはっ。
「何笑っとる」
私はきゃあと叫びながら抱きついた。
「私も沁みましたぁ」
「ん?ここの海水、しょっぱいからな」
「ほうやのうて」
「なに?」
「愛ちゃんが沁みたんだよぉ」
体中に
胸いっぱいに
あなたの想いが沁みこんできたんだよ。
- 26 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 11:59
- 「絵里」
「ん?」
「私は絵里がいないと生きていけん……」
ギュッとされた。
「ほやから、もうあんなことは……」
「ごめんなさい。もうしません」
ゆらゆら。
エンジンは止まっているし
日も暮れてしまった。
体中びしょびしょのくせに
私の心はもうめっちゃあったかい。
ゆらゆら。
「高橋さん」
「ん?」
「リゾート。悪くないですね」
「何やそれ?」
私としては気取ったセリフのつもりだったけど
あれ、いまいちだった?
- 27 名前:マイ・リゾート 投稿日:2004/04/17(土) 12:00
- 「あさ美ちゃんから聞いたんやけど」
「ん……」
「リゾートって『頼りにする』とか『よく利用する』って意味なんだって」
「そうなんだ。紺野さんよく知ってますね」
「いいもんや。リゾートって」
「うん」
よく会う人。
よく聞く声。
よく見る表情。
よく感じる想い。
私はあなたに依存しながら
たっぷりもたれかかりながら生きていきたいです。
「帰ろうか」
「うん……」
暗くなってしまった海の上を
明るくなった地上のライト目指して
2人で進んでいきました。
- 28 名前:いこーる 投稿日:2004/04/17(土) 12:03
- 以上です。
いやぁ亀さん書いてて楽しい!
勢いまかせに書いてしまってますので
説明不足とかはご容赦ください(オイ)
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 22:17
- 他のスレ、まだ容量残ってるみたいだけど、
そこではもう書かないの?
- 30 名前:いこーる 投稿日:2004/04/21(水) 20:50
- アンリアル。道亀。
- 31 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:50
- だからさぁ、
高校生とかなったばかりだし
大学のこと考えろとか
将来のこと考えろとか
実感が湧かないわけね。
とか心の中で担任を罵ってみても
決して口には出せない。
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなった。
起立きをつけ礼。さようなら〜
みんなみんなで三々五々に散っていきました。
新しいガッコ。
新しいクラス。
新しい友達……
って残念ながら友達はまだできていない。
というか私苦手なんですよ。
自分の道を自分で切り開くっちゅうのが……。
そんなこと言ったら人生はじまらないわけですが
これまではなんとかなったしこれからもなんとかなるだろうから
自分からなんとかしようとは決して考えられないのであって……
その辺、私はやっぱり無気力でしらけた現代っ子なんだよなぁ。
- 32 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:50
- んで一緒に帰る仲間がいるわけでもなく
かといって他のクラスにいる中学時代からの友達を
呼びに行く気になるわけでもなく
席に座ってボーっとしている私。
この教室……なんで木の匂いがするんだろ?
それだけは私、とっても落ち着くんです。
廊下をふと見た。
ふと見た……
……のがいけなかった。
「あれは……さゆと、れいな?」
手をつないで廊下を歩いている。
仲良し3人組で私だけ別のクラスになってしまった。
何を話しているんだろう?
鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を近づけて
むちゃくちゃ楽しそうに話す2人。
「私も、いれてよぉ」
とか小さな声で、
絶対届かない位、
小さな声で囁く。
- 33 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:51
- 疎外感ってやつ。
最近私が感じているのは。
れいなからもさゆからも遠ざかってしまって
一人ぼっちになってしまった私。
最初は、心地よかったよ。
微妙な孤独感と不安を感じている自分に陶酔していた。
でも1週間も経つといい加減気がつく。
1人なんてろくなもんじゃない。
でも私、変わっているから新しい友達なんてできないだろうし
やっぱり甘えたいよぉ。
れいな〜。
さゆ〜。
普段の私だとここで泣いたりするわけだが
今日の私は一味違った。
まず勢いよく立ち上がって
バタンッ!
倒れる。
- 34 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:51
- ああ、すぐ近くの床から木の匂い。
気持ちいいなぁと思って見てみると
机の脚
椅子の脚が
もうごちゃらごちゃらしていて頭が痒くなってきた。
「むかつく!」
床をダンと叩いて立ち上がる私。
そうか私、機嫌悪かったんだ。
きっと
れいなとさゆに妬いたんだ。
仲良しな2人に妬いたんだ。
突然思い立つと行動せずにいられない私。
教室の出口付近まで歩いていって
「よいしょ」
机を廊下に出す。
続けて次の机、机、机、椅子、椅子、椅子。
最後の一個まで廊下に運び出してしまうと
さすがに汗だくになっていた。
- 35 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:51
- 私は大の字になって寝そべった。
「う〜ん、快適!」
汗の匂いと木の匂い。
そしてなにより普段の100倍くらい解放感溢れる教室。
私は自分だけの自由を手に入れた。
私は目を閉じてたっぷり自由を感じ取った。
無気力人間が自由を求めるのって勝手ですか?
大人の皆さん。現代っ子は自由を探しちゃいけませんか?
そんなことないでしょう。
だってほら、教室がこんなにステキ。
どんな大学より
どんな結婚より
どんな豪邸より
禁を犯して強引にひろびろした教室は最高。
機嫌を直した私。
「さゆ〜〜〜大好き〜〜〜!」
言っちゃった。
思いっきり言っちゃった。
- 36 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:52
- あれ?私さゆ派だったっけ?
れいなも大好きだけど今日はさゆが好きなんだ。
声が響く。
響いた声を聞いているうちに段々不安になってきた。
今の告白、誰かに聞かれていたらどうしよう。
ああ、顔が熱くなってきた。
突然の羞恥に襲われた私は
清掃ロッカーまで走っていきます。
中身をごっそりと取り出して
机の山になった廊下に投げた。
「ロッカーに」
体をくいと滑り込ませると
ロッカーの扉を閉めた。
バタン。
視界が暗転した。
体がきゅうってなる。
すごく心地よい。
- 37 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:52
- ロッカーのわずかな隙間から教室を覗いてみると
それはもうだだっ広い空間がひろがっている。
私たちが勉強させられている箱は
こんなにも広かったのか。
こんなところに何十人もが
目的意識もなんもなく集まっていたんだ。
「ま〜だだよ〜」
!
突然、外からさゆの声が聞こえてきた。
何してんの?
かくれんぼ?
ああいいなぁ、私もまぜてよぉ……
バタン!
ロッカーが開いた。
目の前に目をくりくりさせているさゆが立っていた。
- 38 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:52
- 「えり、何……してんの?」
「あっ……私狭いところ好きだから……」
さゆにまじまじと見つめられて顔が火照ってしまった。
「ふ〜ん」
ああ、さゆ。
かわいいなぁ。
キスしたいなぁ。
私は外に出てさゆを抱きしめてやろうと思ったが……
あれ?
体がロッカーに引っかかってしまって出られない。
ふああもどかしい。
目の前に大好きなさゆがいるのに
私は体を動かすことができないのだから。
「今ね、れいなとかくれんぼしてるの」
「ふ、ふーん。そうなんだ……」
「あの机の山……えりがやったの?」
「そだよ」
……。
見つめあう2人。
- 39 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:53
- 「進路希望調査の紙、書いた?」
「まだ、さゆは?」
「まだ」
からっぽの教室で鬼であるれいなを待たせながら
どうでもいいよしなしごとをしゃべっているさゆ。
そんなさゆにドキドキしながら身動き取れない私。
「だって、まだ進路なんて決まってないよ」
「だよねー」
「自分のやりたいことなんてねぇ」
「ないよねー」
「他者になれる人こそが自我を得る」
「誰の言葉?それ」
「誰だっけ?」
<も〜〜〜い〜〜〜かい?>
れいなの怒鳴り声が聞こえてきた。
「もーいーよ!」
さゆが怒鳴り返す。
「え?隠れなくていいの?」
- 40 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:53
- 私はさゆに聞いた。
するとなんと
「あっ……隠れるの忘れてた」
……はい?
そんなアホなこと……
うん、さゆならやりかねない。
「えり、入れて!」
そういうと
さゆはぐいぐいと体をロッカーに押し込んできたのでした。
きゃーーー。
さゆが、さゆがぴったんこくっついてるよぉ。
私の心拍数は一気に上昇した。
ロッカーの中は金属が錆びた匂いが
さっきまでぶら下がっていた雑巾の残り香が
プンプン漂っていたりしたけれどなんだろう。
すっごくうれしいよさゆ〜。
- 41 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:53
- ぎゅう。
「なに抱きついてんのえり?」
「えー、いいじゃん」
私は寂しかったんだから。
「最近さゆは
れいなとばっか仲良しだからたまには私も」
ほんと、顔がくっついちゃいそうなくらいくっついちゃってる私たち。
「落ち着くね……」
そう?私ドキドキしてるけど。
「ふぅ」
さゆのため息。珍しいかも。
「なんでだろね……」
「どうしたの?さゆ」
「うっ……」
泣いています。肩がガタガタ震えています。
「自分の将来考えてたら、何も浮かんでこなくて……
ていうか仕事とか結婚とかしてる自分なんて想像つかなくって」
- 42 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:53
- わかるよ。
すごくわかる。
「……不安?」
「うん」
実際に行き着いてもいないし急いだってたどり着くもんじゃないし
それなのに急かされ続けているのって何?
大人になるって何なの?
自分を知るって何なの?
「こないだのロングホームルームでね」
ひっくひっくいいながらしゃべっているさゆ。
「自分をしっかり見つけなさいって言われた」
「……」
「見つからなかった……」
「そうなの?」
「自分を探していたら気がついたらえりとかれいなとかのこと考えてるの」
「……」
「私には自分がないのかな?」
違う。
……と思う。
- 43 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:54
- 「違う。
……と思うよ」
「え?」
「だってほら、こんなにぴったりさゆとくっついてるでしょ?」
「うん」
「そうすると私、自分のことがよく見える気がするもん」
私の体の輪郭沿って、温かいさゆの感触が確実に存在する。
「えり……ひょっとしてえりの狭いとこ好きって……」
「あっ、そうかも。なんかきゅうってなると落ち着くの」
私たちってボーダーがわからない。
どこまでが自分なのか、空気の中だと全然確認できない。
ひょっとしたら気がつかないうちに
私の中の私という私が私とさよならしてどっかで私をやめて私は私じゃなくなっているかもしれない
とか不安になる。
でもねさゆ……
今はそんな不安はどこにもないんだ。
だって、あったかいもん。
- 44 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:54
- <ああ君!この机、片付けときなさい>
外から誰かの声がする。
私たちを囲んだはこの外。
外の事なんか知らない。
知らないんだも〜ん。
「ああっムカつく!!」
あ……今のれいなの声。
「なんで私がこんなことしないといけないの!」
れいなの声。
ガリガリガリと机だか椅子だかが床にこすれる音がする。
「ねぇさゆ」
「ん?」
「私たちも手伝おう」
「そだね」
早く出て行ってあげよう。
「ていうかえりがやったんでしょ?机……」
「……ごめんなさい」
「まあいいや、早く出よ」
- 45 名前:「放課後は清掃ロッカー」 投稿日:2004/04/21(水) 20:54
- ぐわしゃあぁぁぁぁぁぁん!!
雷が鳴ったみたいな音が轟いた。
「痛っ!」
さゆの悲鳴。
ドアがべっこり曲がっちゃったみたい。
「ちょ……ちょっとれいな〜」
「おえ?ロッカーがしゃべった!」
「ちが……中にいたの〜〜」
「えり?」
「さゆもいる!」
「なんで中に?」
「そんなことより〜」
もっと重大事件です。
「れいなが蹴っ飛ばすから、ドアが開かなくなっちゃったよ〜」
「……ごめん、イライラしてて……」
その後、
先生たち7名を巻き込んで一時間、れいながロッカーと格闘している間、
私はさゆと…………てました。
- 46 名前:いこーる 投稿日:2004/04/21(水) 20:54
- 以上になります。
- 47 名前:いこーる 投稿日:2004/04/21(水) 20:55
- >>29
こちらは結構な分量になりそうなので新スレにて失礼してます。
よろしくおねがいします。
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/21(水) 22:16
- 亀ちゃん良いですね〜!亀絡み好きです。
個人的に田亀が好きなんで、書くつもりがありましたらお願いしますw
- 49 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:39
-
小包。
カメイエリ様。
- 50 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:39
- 私は自分宛の荷物を受け取り立ち尽くす。
正体不明。
なんでカタカナなんだよ。
カメイエリ
発音のみ。
意味の切り取られた記号。
私は復唱してみる。
カメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエリカメイエ
- 51 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:39
- さすがにバカバカしくなってきて止めた。
なるほど、こうして何度も叫んでみると
名前なんてまるで無価値な音の羅列です。
私の名前は無意味。
小包は予想以上に重かった。
私は持っていたバタフライナイフで
包装を切り裂く。
中身を見たとき。
壊れた。
- 52 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:40
- 楽屋に入ると私1人だった。
いや。
私は多数の私に囲まれていた。
四方にめぐらせた鏡。鏡。鏡。鏡。
私を取り囲む私。私。私。私。
私はバタフライナイフを
折りたたんだまま
パァン!
鏡に叩き付けた。
私をにらんだ鏡の中の私。
一瞬だけ数十にも分裂して
崩れて消えてなくなった。
次の鏡も……
私が拳を振り上げたとき
?
石川さんが私の手をつかんでいた。
- 53 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:40
- 「ちょっと亀ちゃん!どうしたの?」
どうしたもこうしたも鏡がムカつくんです。
「ねぇ落ち着いて……」
落ち着いてますけどムカつくんです。
最悪。
何を私は怒っている。
石川さんはこんなに心配してくれているではないか。
「おねがい落ち着いて」
だから落ち着いてます。
石川さんは私をぐっと抱きしめてくれた。
胸を感じた。
あたたかかった。
でも
私は
石川が
違う人だったらいいのにとか考えている。
- 54 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:40
- 私は想像。
高橋さんが
私を受け入れてくれて
私の悩みを理解してくれて
私の黒さを認めてくれたらいいのに。
高橋さんが
私に入り込んできて
私をいじくりまわして
私に責任をとったらいいのに。
ああ黒い。
なんで……こんなに醜い私。
本当はもっと素直に正直に感情的に
今はやわらかい石川さんに甘えたい。
- 55 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:40
- だって高橋さんを想うと行き止まりに息詰まってしまう。
私の高橋さんへの思いが強すぎて
素直に愛せない。
嫉妬。
矛盾。
自己嫌悪。
不足。
そういったものに自分の心が支配されて
それなのに心地よいとか感じている自分がいて
恋心なんてろくなもんじゃない。
石川さんは
やさしくって
かわいくって
やわらかくって
気持ちよくって
楽で……
すっごく居心地いいのに
どうして居心地悪い高橋さんのことばかり考えてしまう私。
- 56 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:41
- 「ねぇ亀ちゃん……」
なんですか石川さん。
「鏡割ったの、亀ちゃんだってことみんなに黙っておくからさ……」
ありがとうございます
「キス……してもいい?」
告白……?
脅迫……?
「んーーー両方かな?」
……。
「亀ちゃん……?」
「ひどい……ひどいです石川さん」
「え?」
「私はオモチャですか?」
- 57 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:41
- 「違う!冗談だよ。
私は……」
なんですか?
「私は、ホンキであなたのことが……」
石川さんの目に
涙が溜まっていた。
「好きな人が……いるんです」
「亀ちゃん……」
「私には好きな人がいるんです」
「……そっか」
ごめんなさい
「その人……私よりも優しい?」
「全然」
「それなのに、好きなの?」
「おかしいですか?」
「全然変じゃないよ。別に変じゃない」
「……石川さん」
- 58 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:42
- 私を抱きしめる手が
強く
ギュッと
なった。
「好きになる気持ちは自由だもん。別に変じゃないよ」
「……」
ごめんなさい高橋さん。
私は全然素直じゃなかった。
素直じゃない自分を演じて自分に酔っていた。
ありがとう石川さん。
あなたは大事なことを教えてくれた。
あなたの愛情。
きっと忘れません。
私は石川さんを両手で押しのけた。
- 59 名前:「選別に餞別」 投稿日:2004/04/24(土) 21:42
- 「悔しいよ……私、悔しい」
石川さんは泣き崩れる。
私は胸がギュッと締め付けられる思いがした。
でも
私は何も言わずに楽屋を出て行った。
私の中の石川さんを大好きな私が悲鳴をあげて泣いた。
私。私。私。私。
高橋さんを想う私が
こんなに支配力を持っていたなんて。
涙。
苦しい恋を選んでしまった私。
苦しい生き方しかできない私。
幸せになれるかな?
私の人生は
幸せになれるのですか?
誰も教えてくれない疑問は
私を引き裂き続けた。
- 60 名前:いこーる 投稿日:2004/04/24(土) 21:43
- 以上です。
ややシリアス入ってきました。
- 61 名前:いこーる 投稿日:2004/04/24(土) 21:44
- >>48
どうもありがとうございます。
田亀ですね。ご期待に沿えるかどうかわかりませんが
頑張ってみます。
今後ともよろしくお願いします。
- 62 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:53
- だからさぁ
悩みとか多いし
れいなのこととかさゆのこととか考えてるから
落ち着いて寝られないわけね。
あしたもガッコがあるのに。
あしたは英語のテストなのに。
冬の布団。
冬のパジャマ。
まだちょっと早かったみたい。
身体が熱い。
こんなときはいろいろなことを考えてしまうよ。
……
「さゆに電話してみよ」
私は携帯を取り出してボタンを押した。
- 63 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:53
- すぐに電話がつながる。
「えり?」
「さゆ、寝てた?」
「起きちょった」
「そう……」
「何か用?」
「別に……」
「そう?じゃちょっと待ってて。鏡の前に行くから」
え?
「ちょっとさゆ?」
返事がない。
ただの屍のようだ。
じゃなくて、
あのコなに?なんで電話かけたら鏡の前に行くの?
……。
「おまたせ」
「なにしてんの?」
「……」
「さゆ?」
「……ごめん、今鏡見てた。で、何?」
- 64 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:53
- ……。
「鏡なんか見て、怖くない?」
「……」
「さゆ?」
「……ごめん、何だっけ?」
「ふぅ」
ちょっと、いじわるをしたくなった。
「今、さゆが見ているのはさゆじゃない」
「……」
聞こえていないのか
「左右逆に映った、偽のさゆなんだよ」
「……」
聞こえないふりをしているのか
- 65 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:54
- 「自分のことなんて一生確かめられないんだよ」
「……」
私の声が小さすぎるのか
「ねぇさゆ?」
「……」
本当は私には声がないのか
「さゆ!!」
「……」
私が存在しないのか
「さゆ!さゆ!お願い返事して!」
「……」
声を失いったエコー。
エコーの呪いにかかったナルキッソス。
「さゆ!」
「えりぃ」
返事があった。
- 66 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:54
- 「えりぃ」
なんて艶かしい声。とてもさゆの声とは思えない。
「私……かわいい」
違う……。
違うよさゆ。
君が愛しているのは
君を左右逆にした単なるイメージなんだ。
「ねぇえり。えりも私のこと、見える?」
……さゆ。
「待って!」
私はベッドから飛び起きて
本棚の中から一冊のアルバムを取った。
その中にあった一枚の写真を取り出す。
写真。
「見えるよ」
「本当?」
「うん、ちゃんと見える。すっごくかわいいよ」
- 67 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:54
- 写真。
「えり。嬉しいな。えりがずっと私の名前を呼んでくれてた」
それはね、返事が欲しかっただけなの。
「だから私、すっごく安心できた」
それはね、私の存在を認めて欲しかったからなの。
あなたにはわからないだろうけれど……
「ねぇえり、見えてる?」
「見えてるよ」
「じゃあさ、キスして」
「……さゆ」
「お願い」
「わかった」
写真。
私は手に持っていた写真に顔を近づける。
「……した?」
「もうちょっと」
唇にべたぁと、写真の感触。
- 68 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:55
- 「……ん」
私は写真とキスをしていた。
ちょっとの高揚感があった。
ついでに、一粒だけ涙をこぼした。
「……したよ」
受話器を持ち直して私は話す。
「キス……したよ」
「ありがと、えり」
「どういたしまして」
「うんとね……えりのことも大好きだからね」
「私も……さゆも好きだから」
「ありがと。おやすみ」
「おやすみ」
- 69 名前:「エコーと鏡」 投稿日:2004/04/27(火) 18:55
- 電話が切れた。
さゆとの接続が切れた。
「ふぅ……」
ウソをついてしまった。
なんか余計に寝られそうにない。
罪悪感で眠れない。
私はアルバムの中に写真を戻した。
そこに写っているのは
亀井絵里。
- 70 名前:いこーる 投稿日:2004/04/27(火) 18:55
- 以上です。
- 71 名前:いこーる 投稿日:2004/04/27(火) 18:55
- ・・・
- 72 名前:いこーる 投稿日:2004/04/27(火) 18:56
- ・・・
- 73 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:16
- 師弟。友情。信頼。恋心。
同志。視線。接触。愛情。
不仲。孤独。慟哭。失望。
布団。浮遊。微笑。一心同体。
依存。傾斜。不安定。ぐらぐら。
空白。倦怠。惰性。虚無。
高橋さんと私。
- 74 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:16
- 私の心は
コーヒーぶちまけた曇りガラスに映った像のように
淀んで曇って濁ってみにくくって。
石川さんを拒絶した私。
ぬくもりを拒絶した私。
この
胸の中からこみ上げてくる寂しさは何だろう。
大きなものを見つけた。
ボストンバッグ。
大きなボストンバッグ。
以前矢口さんが入っちゃったっけ。
この中できゅうっと……
この
胸の中からこみ上げてくる衝動は何だろう。
- 75 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:17
- 仄暗いバッグの中身。
私の足が吸い込まれて
私の腰までもぐりこんで
ちょっときつい
私の肩まで沈み込んで
「かおっ!」
必死に首を折り曲げてバッグの中に納まろうとするんだけれど
背骨が痛くって痛くってこれ以上どうしようもない。
でも
きゅうってなった。
ほっとする。
この
外側から感じる落ち着きは何だろう。
- 76 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:17
- ガチャ
音がした。
ドアが開いて入ってきたのは
「亀〜〜〜!」
高橋さんだった。
「うわっ、急に……」
私をその位置からみると
とんでもなく意味不明理解不能にうつるでしょ高橋さん。
慌てた私。
なんとか身体を動かそうとするが
文字通り手も足も出ないで
もぞもぞもぞ。
「何してんの?あぶないよ」
「なんで……もう、なんでよぉ」
一番見ていて欲しい人に
一番見られたくない姿を
「何ですか!急に入ってくるなんて……」
この
途方もない羞恥心をどうしてくれよう。
- 77 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:17
- 「せやけどここうちらの楽屋……」
もぞもぞもぞもぞ……
ボテッ
「あっ転んだ」
私は
不安定な私は
わんわんと泣き出してしまった。
「大丈夫か?ったく何してんの……」
この
やさしいお姉さんはなんでだろう。
「今ね……」
「ん……」
この
栓が詰まったみたいな「好き」って言葉はどこへ行こう。
- 78 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:18
- 「高橋さんが私のことを見てくれたらいいのにって思ってた」
「ほうか?ちゃんと見えてるで」
「なんで必要なときにいてくれるのぉ」
「……日本語が」
「なんでよぉ。今、来て欲しいって思ってたときに来てくれるのぉ」
「……意味が」
「らかはしさんのぼわかぁ〜〜〜」
「……発音が」
いちいち突っ込むな!
「それよりもな」
「うん?」
「ひっで間抜けな格好」
あうう。
身体はバッグの中に完全に完璧に完膚なきまでに収まってしまっていた。
そこからひょっこり顔だけだして
ああ確かにひっで間抜けな格好。
これじゃあまるで甲羅の中の亀。
「でも……」
ふと戻ったのは高橋さんの無表情。
- 79 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:18
- 「なに?」
「やっぱ暗いな、顔」
高橋さんには敵わない。
やっぱり見抜いてくれたよ。
「何があった?」
「実は……私の部屋に変な小包が届いたんです」
「小包」
「はい。想いを受け取ってくださいって書いてあって
中には……」
「?」
ううっ……
「無理しなくていいよ」
高橋さんの手が私に伸びる。
頭をなでてくれた。
私はバッグに丸まった亀。
「泣いてからでもいいからさ」
頭をなでてくれた。
ずっと泣きじゃくる私。
- 80 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:19
- 「じゃあ、甘えます」
「うん」
私の顔は
高橋さんの肩の中に隠れた。
「こうすれば私の顔を見なくてすみます」
「?」
「こんなぐしゃぐしゃの汚い顔、見なくてすみます」
でも、
目を合わせていない今なら
きっと言える。
「小包は、アルバムでした」
「アルバム」
「その中には……私の写真がコレクションに」
おそらく、
熱狂的なファンからのものだろう。
「すごい数の写真を送りつけられた……」
何百にもなる私を見せ付けられて
私はその場で吐いた。
部屋を汚した。
私の中の私という私が勝手に暴れだした。
- 81 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:19
- 「私から切り取られたイメージたち……
それを私は……」
「……」
高橋さんは何も言わない。
ただ私の頭を抱きしめてくれる。
「気持ち……悪いって……」
「絵里!」
「そんなこと思っちゃいけないのに……
私が私を気味悪がっちゃいけないのに……」
「いいよ、いいんだよ」
「見えてますか?」
「ん?」
「高橋さんには、私が見えてますか?」
イメージじゃない、私そのものが見えますか。
「今は、見えないな」
そうですか。
「でもね」
高橋さんは声を急に小さくして
言った。
「感じてる。
腕の中に絵里がいる」
- 82 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:19
- 「ふ……ふぇぇぇ」
「すっきりするまで泣きな」
「はい」
私の苦しみは
辺りを駆け抜け
散逸していく。
そのまま
しばらく
でもね……
「それだけじゃないんです……」
「え?」
「そのコレクションの中には
私の知らない私が混じっていたんです」
「は?」
「変な格好した私が……
見覚えのない服を着た私の写真が数枚混じっていた」
私の記憶にない私。
- 83 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:19
- それは
「なんか……私が私の支配を逃れちゃったみたい」
「絵里……」
「私が拡散していったみたい」
だから
だから私は
「それで、狭いとこに?」
「そうです」
「そっか……」
もう、
自分は自分でもなんでもない。
記憶もない。
思い通りにならない。
将来どうなるかなんてわかるはずもない。
私の意志は
私から乖離している。
だから狭いところに入った。
せめて、この身体に残っている私だけは私に残るように。
- 84 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:20
- 「でもな」
「はい?」
「私が見ている絵里は、絵里だけや」
「……らかはしさん」
嗚咽。涙。おでこと肩。
髪の毛。掌。ぬくもりと安心。
亀。愛。包まれている。
私。あなた。もたれている。
もたれて
いい?
- 85 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:20
- ☆
「ねぇ高橋さん」
「ん?」
「私……でられなくなっちゃいました」
「ほえ?」
「ファスナーが引っかかって開かない」
「こんなかばんに無理して入るからぁ。矢口さんじゃあるまいし」
「だって……」
「あーどうしよう。誰か読んで来ようか」
待って。
「私のズボンのポケットにナイフが入ってます」
「へ?」
「バタフライナイフが入ってます」
「なんでそんなもの持ってるの?」
「自分の内に暴力と死を存在させるためです」
「……意味が」
「高橋さん、取ってください。それでこのバッグを破ってください」
- 86 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:20
- 「取ってって、絵里のポケットにあるんやろ?」
「そだよ」
「そこに手を伸ばすって事はその……」
「何考えてるの?」
「で、絵里を囲った布を破るって事はその」
「Hなこと言ってないで早く!」
怒鳴ってしまいました。
ごめんなさい。先輩なのに。
「あーーーこういうの苦手や……」
「……」
「……」
こんなタイミングでうつむいてしまった。
これでは、
いろいろなことを意識してしまう。
目が合った。
まず、
顔が近づいてきた。
くすぐったかった。
- 87 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:21
- 久々に近くでみる高橋さんの顔。
にかっと笑ったときと違って
ちょっとうつむき加減の高橋さんは
睫毛が強調されていて
それでいて唇もかわいくって
……あ、しみ。発見。
高橋さんの優しそうな皮膚の内側から
ぽっつりと染みがうかんでいた。
理想の中の高橋さんがいなくなる。
そうか、高橋さんの顔ってこんなだったんだ。
なんか
嬉しい。
生ぬるい呼気がわたしの頬をくすぐった。
揃えきらなかった髪の先っちょが私の鼻をくすぐった。
ボストンバッグに収まった私の体が
あなたの手のぬくもりに熱を持った。
- 88 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:21
- 「ん……」
「ポケット……どこ?」
「もうちょっと下」
あたたかい手がバッグの中をずんずん移動して、
私の肩、腰……
「んーーーっと」
「そっち……お尻のポケット」
高橋さんは手を動かすのに夢中になっている。
うっかりするとわたしの唇があなたの耳たぶを攻撃しそうだったので
私は首の筋肉を緊張させてかすかな距離を保つ。
手が届いた。
「あんっ」
「……!」
驚いた高橋さん。
「そんな声だすよなとこ触ってないやろ」
- 89 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:21
- 「触ったもん」
「触ってない」
「触った!」
「触ってない」
「さわったさわったさわったさわった」
「あーーーうっさい!」
何?
もう怒っちゃったの?
早いよ……
「ポケットに手ぇ入れるからな」
「もっとやさしく言ってよぉ」
「あーーーうっさい!」
かばんから手を引っこ抜く高橋さん。
「もう知らん。さき行ってるで」
うそ……
なんで?
- 90 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:22
- 「ま……待って。こんな格好で置いてかれたら」
もぞもぞもぞ
身動きとれないよぉ
もぞもぞもぞ
ボテッ
「あ……転んだ」
「……てません」
「は?」
「触ってません」
「やろ?」
「でも……」
「何?」
「もうちょっとくらい甘えたかった……」
高橋さんが頭をボリボリ。
「ほんっとに困ったさんや……」
「ごめんなさい」
「ほんっとに……」
- 91 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:22
- 高橋さんの目線が私を通り抜けて
化粧台の方へと向かっている。
「どうしたの?」
「……」
「高橋さん?」
「なぁ亀」
「はい」
亀とか呼ばれた私。
「あそこにあるのは亀さんの言ってたナイフではないですか?」
「どこ?」
高橋さんが指差す。
私は不自由な体をひねってなんとか後ろを向いた。
「あっ……そうです。あれです」
「……」
「じゃあポケットのはなんだろ?ボールペンかな?」
「オイ……」
ごめんなさい高橋さん。
「でもね」
- 92 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:22
- 「なんや」
「嬉しかった……触ってくれて」
「触ってない!」
きゃあ。
高橋さん耳まで真っ赤になっててかわいい。
ひょいと立ち上がって
ナイフを取りに行きました。
「ところで」
バタフライナイフ。
「なんでこんなナイフ持ってるの?」
- 93 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:23
- 「バタフライは変身の象徴」
「誰の言葉?」
「レクター博士」
「……」
「どうかしました?」
「変身……したいの?」
「したいです。
というか……」
この、
胸の中から突き上げてくる
どうしようもない不安は
なんだろう。
「何かになりたい」
- 94 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:23
-
こんなに小さくくるまった
私は未熟な蛹です。
ボストンバッグの繭の中。
蛹は蝶を夢見ます。
こんなにきゅうってまとまった
私は私で私です。
でもまだ羽化していないから。
私はどこにもいないから。
だから私になりたいです。
願わくは
あなたの手で
- 95 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:23
- 「甘えるんやったら……」
「ん?」
「そこから出てからゆっくりしよう」
高橋さんのちょこっと照れた顔。
「……うん」
不思議な不思議なすっぱい気持ちが
私の中にじゅわぁって広がってきた。
この……
……なんだろう
これはさっきまでの不安とは全然違う。
私が中心を持って集められていくような
世界が私に向かってまとまってくるような
高橋さんが私のまわりできゅうっとなるような
そんなすっぱさ。
「さ、繭から出してやらんとな」
「んーー」
「かわいい蝶々見せて……」
- 96 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:24
- 「なんか……」
ん?と高橋さん。
「Hな言い方ですね」
え?と高橋さん。
「まぁな……」
たぶんそれも照れ隠し。
たぶん私はわかってる。
ナイフの先っちょがバッグに入り込む。
ビっと音がして少し身体が楽になった。
高橋さんは私を傷つけないように慎重に
バッグの上にナイフを走らせていく。
私の元まで届ききらなかった刺激が
私をくすぐった。
私は動かないように声を出さないように感じないように
ただただうつむいて耐えていた。
- 97 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:24
- 高橋さんは両手でつかんだ。
ぐっと力が入って肩が震えた。
おおきな音がして
バッグはみるみる避けていく。
左手の二の腕のやらかい部分に
高橋さんの爪が触れた。
『私』がどんどん姿を現していった。
・
・
・
・
バリバリに破けたボストンバッグの抜け殻を下敷きに
ぺたりと座り込んだ私。
高橋さん。
「はじめまして」
「はじめまして」
どちらからというわけではなく
手が、腕が、
お互いを求めていった。
- 98 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:24
- 解放された私に高橋さんのやわらかい肌がきゅうってまとわりついた。
安心があった。
キスが私に自信をくれる。
私は私で私です。
私は私で
「高橋さん」
「ん?」
そういえば確かめ合ったことのなかったなぁと思って
言ってみたせりふでした。
「好きです」
「え?」
「好きです……高橋さんのこと」
- 99 名前:「亀の中の甲羅」 投稿日:2004/05/05(水) 18:25
- 集束。
抱擁。同一。告白。視線。
収束。
……。
この、
身体がなくなっていくような安心感はなんだろう。
ほんっと
なんだろうね。
「くすぐったい」
きっと、
私が高橋さんのことを好きなんだ。
「なにが?」
「この……空気が」
高橋さんのことを好きな私なんだ。
亀が蝶になった日。
自分をそんなふうに考えた。
- 100 名前:いこーる 投稿日:2004/05/05(水) 18:26
- 以上、亀高でした。
- 101 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:25
- だからさぁ
突然美術室に呼ばれても心当たりないし
だいたい石膏の顔がいっぱいで落ち着かないし
乗り気じゃないわけね。
「でもさぁ」
れいなはスケッチブックを手にしながら
くいっ
と私の目を覗き込んだ。
「ん?」
ほんのちょこっとなんだけど
戸惑ってしまう私。
「2人、いつからそういう関係だったの?」
「そういう?」
「だから清掃ロッカーの中で抱き合ったり真夜中に電話して語り合ったり。
それじゃ、まるで恋人どうしみたいじゃん」
……。
「そだよ」
- 102 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:26
- くいっ
さらに顔を近づけて私の目を覗き込むれいな。
「やっぱりね」
「なに?やっぱりって……」
「だってさ、絶対えりはさゆのことが好きなんだろうなって思ってたもん」
でもれいな。
私はさゆとのすれ違いに耐えられなくなってしまったよ。
私はさゆの身勝手さがほとほと嫌になったよ。
れいな私は……
自分のエゴに全身がバラバラになりそうだよ。
「中々上手くいかなくってね」
「そうなん?」
「おうよ」
「キスした?」
「したって言わない。ああいうのは」
「こんなに色がいっぱいあっても使いきれない気がするね」
「大きな箱……」
れいなは高そうなクレヨンが入った箱を開けて
しげしげと眺めている。
- 103 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:26
- 「やっぱり」
「何が?」
「えりを描くのに色いくつ使うだろ……」
「いっぱい使ってよぉ」
「でもうちの制服、白黒だしなぁ」
「上履きは水色だよ」
「そこまで描かないよ」
「そなの?」
「よいしょっ!」
れいなは椅子を持ち上げると
私の近くに持ってきた。
「はい。じゃ、座って」
「はぁい」
私はれいなの持ってきた椅子に腰掛ける。
美術室の中は変な塗料の匂いが充満していた。
れいなは私との距離を測りながら
向こう側に座ってスケッチブックを開く。
「じゃ、動かないでね。描くから」
「うん」
- 104 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:26
- ちょっと笑った方がいいのかな?
真顔のままじゃ描きにくい気がするね。
「ああ、動かないでよ」
「いや……表情あった方がいいのかなって」
「えりが笑うと頬と肩がくっつくんだよ」
あっ……そんなに首傾げてたっけ?
自分じゃ気がつかないもんだ。
「ごめんなさい。じっとしてます」
「ん……」
既にスケッチに夢中になりはじめているれいなは
シャカシャカシャカと忙しそうにクレヨンを動かした。
- 105 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:27
- ☆
チャイムが鳴って帰ろうと思ったのが30分前。
教室を出たところでれいなに肩をつかまれた。
れいなはぐいぐいと私の手を引っ張って自分のロッカーまで行くと
クレヨンとスケッチブックを取り出した。
「何か描くの?」
と私が質問。
ビッと伸ばしたれいなの指先が私に向かっていたのに驚いて
「えぇ?わたしぃ〜?」
大声を出した。
両手を合わせて
「お願い。描かせて」
上目遣いに懇願するれいながあまりにかわいくって
思わず了解してしまった。
- 106 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:27
- 美術室に到着したのが15分前。
絵を描くのかと思っていたら突然
さゆとの関係を質問されまくったのが10分前。
ようやくスケッチが始まったのが5分前。
身体を動かさずに
なぜか一生懸命なれいなを見て
やっぱりかわいいと思ってしまったのが±0分。
ちょうど今。
☆
なんでれいなが突然私を描こうと思ったのかわからない。
というかいつの間にスケッチブックやらクレヨンやらを用意していたのか……。
ただ、
れいながあまりに一生懸命なもんだから
こういうのも悪くないと思いながられいなを眺めている私。
あのコの考えが全貌を現すのは何分後?
- 107 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:27
- シャカシャカシャカ
「ねぇれいな」
聞いてみよう。
「うん?」
「なんで私の絵なんて描こうと思ったの?」
「……ん」
シャカシャカシャカ
なんだかさっきからちっとも私見てないでしょれいな。
どうやって描いてるんだ?
シャカシャカシャカ
私はれいなの返事を待つ。
シャカシャカシャカ
「なんかね」
クレヨンを動かす手を止めて
れいなが
私を見た。
- 108 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:28
- 「最近、えりと遊んでないなって思って」
う……うっわ〜〜〜
「あ!動かないでよ」
「え?」
気がついたら私。自分のほっぺたに手をあてていました。
「だってなんか照れるよぉ」
「照れんよ。なんも言ってないよ」
「照れるよぉ」
「あーっ、やっぱり使う色少ない!」
「えー?」
私ってそんなに彩度低い?
ってそうじゃないか。
シャカシャカシャカ
- 109 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:28
- 「ねぇれいな」
「……」
絵に夢中。
「……何?」
反応遅い。
「質問の答えになってないよ」
「でも、制服だし」
噛み合ってません。
「なんで急に絵なんか描こうと思ったの?」
「完成!」
早っ!
「2枚目!」
え?
何枚も描くの?
それなら……体勢変えたい。疲れる。
- 110 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:28
- 「えり、動かないでね」
「はい」
あ……
「はい」って言っちゃった。
「あのーれいなさん」
シャカシャカシャカ
「腰が痛……」
「動かないで!」
「はい」
あうう。
「あー面白い」
私はつらい……
「なんかね」
はいなんでしょう。
「こうしてみると、れいなってえりのこと全然知らんかったなって思う」
「そんなこと……」
「描いてみてわかった」
- 111 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:28
- 「そうなんだ」
れいなの手がだんだんゆるゆるゆる。
「細かいところとか……こう」
とうとうクレヨンが止まってしまった。
「もっとちゃんと観察しないかん」
方言きつくなってきました。
というかどこのことばだよ
「えり、動かないでね」
そういうとれいなは
スケッチブックを置いて
私のところに歩いてきた。
くいっ
思いっきり私の顔を覗き込んできた。
「ちょ……ちょっと」
「動かないで!」
「はい」
- 112 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:29
- ああ、照れるってば。
照れまくっているのに動くなってのは非常にきついです。
れいなが私の頬のあたりを入念に観察している。
私は、恥ずかしくってはにかみそうになるのを必死でこらえる。
「えり、ちょっとほっぺたさわっていい?」
「はぁぁ?」
れいなは私の許可を得ずに
ちょん
触ってきた。
ふいと目を上げる私。
くいと見返すれいな。
「あ……」
何を思ったのか突然れいなは頬を真っ赤にして目をそらしてしまった。
……。
- 113 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:29
- 美術室の中を沈黙が支配する。
時計の音。
変な塗料の匂い。
この匂い……何かに似てる。
「あのさ……えり」
私の前髪揺らすれいなの息。
そんな近くでしゃべったらくすぐったい。
今気づいた。
れいなの制服のスカートがちろっめくれたままになっている。
「……ん?」
あ……そうか。
この匂い。
汗だ。
「動かないでよ」
- 114 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:30
- 「へ?」
そう思ってれいなをみたとき
れいなの鼻先しか見えないくらい顔が接近していた。
「わっ!……ちょっ」
ガタッ
突然立ち上がろうとした私のふくらはぎが椅子を跳ね飛ばした音。
膝が伸びきらない中途半端な姿勢のまま
「むむ……」
初めての感触が私の唇に広がって来た。
手もつながず
目もつむらず
体勢だって不自然な私とれいな。
くっついているのは唇と、
ひらひらなった制服のリボンだけ。
不器用な
おそろしく不器用なキスはとてもとても長かった。
- 115 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:30
- れいなって
やわらかかったんだね。
あったかかったんだね。
初めての感情が私の心に広がっていく。
すっと離れた。
気持ちは離れなかった。
私はちょいと手を伸ばしてれいなのめくれたスカートを直してやる。
「ふふっ……」
れいなの照れたような含み笑いが印象的。
私もつられて笑ってしまった。
「ごめんれいな。動いちゃった」
「いいよ。逃がさないもん」
「また……」
れいなの指先はクレヨンが付着している。
「ん?」
れいなの唇には私の残滓が付着している。
「また、つかまえてね」
- 116 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:30
- 「うん」
私は倒れた椅子のところまで行って拾うと元の位置に戻る。
「続き……描くんでしょ?」
「あーもういいや」
「ええ?」
「なんかもう描けん気がしてきた」
「なんで?」
れいなはスケッチブックを取りに行く。
「えり。やっぱクレヨン、全然使わなかったよ」
「なにを……描いたの?」
パタン
スケッチブックが閉じられる。
「え……見せてよぉ」
「ダメ」
スタスタと美術室の出口に向かって歩き出すれいな。
- 117 名前:「クレヨンの音と匂い」 投稿日:2004/05/09(日) 15:31
- 「ひどい……」
立ち尽くす私。
「ひどいよぉ」
振り返るれいな。
「えり?」
「私の唇奪っておきながら!れいなのばか!!」
私はれいなを突き飛ばすと美術室の外に飛び出した。
- 118 名前:いこーる 投稿日:2004/05/09(日) 15:32
- 今日はここまで。
- 119 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:51
- 「待って!」
後方かられいなの声がする。
知らない。知らないもん。待ってなんかやらないもん。
パタパタパタパタ
廊下を全速力で走る。
走っているうちにれいなの声が聞こえなくなった。
ああ、もう。
なんであのコは足が遅いの!
なんで私は足が速いの!
これじゃつかまえてくれないよぉ。
「れーなのばか!!」
叫んだ。思いっきり叫んだ。
すると廊下の向こうから
「バカって言うなーーーー」
- 120 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:51
- バカバカれいな。
叫んでないで早くこっちに来てよ。
もう、来てよ。
きてよ。
私は
とぼとぼと
床を睨みながら
れいなの方へと歩き出す。
「えり……」
「……」
「ごめんね。実はさ」
れいなはスケッチブックを開く。
「これしか描けん」
そこには漫画見たく3頭身で目がバカみたいに大きい少女。
背中に赤いランドセルを背負っていた。
「なにこれ?」
「7年前のえり」
「え?」
「なんかえり、将来のことで悩んでるみたいだったから
というか今の自分に自信がないっていうのかな……」
自分が、自分じゃないみたいに感じるときがたまにあるんだ
- 121 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:51
- 「そういうのってさ、
自分がどこから来てどこへ行くのかわからなくなっているってことでしょ?」
そう
かもしれない。
「だかられいなが7年前のえりと今のえりと7年後のえり、
3つのえりを描いてあげようって思ったの」
……。
「でも、今のえりのこと、全然知らないんだって思い知らされた」
「ごめん」
「別にえりが謝ることじゃないよ。ただれいなの中でえりを想う気持ちが大きすぎて
それで、ちゃんとえりを見てなかったんだ……ああ、上手く言えないけど」
「れいな?」
「とにかくれいなはえりが好き!」
ふぅん。
「れいなさ。2枚目も描きかけのがあるんでしょ?」
「え……うん」
- 122 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:51
- 「見ていい?」
「いや……それは」
れいなの返事を聞かずに私はスケッチをめくる。
「……」
「だからそれは……」
なんだこれは。
ちゃんと観察できないなんてもんじゃない。
これ、顔の輪郭に見えないよ。
これ、人間の色じゃないよ。
これ、
「れいな」
本当に私を描いてたの?
「ありがと」
なにしてたの?
「えり……」
- 123 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:52
- 私の腹の底の方に
重い重い
気味の悪い感情が溜まっていく。
そして
きっと言ってはいけないことだったんだろうけど
「れいな……あんたって何にもわかってないんだね」
言ってしまう。
「え?」
れいなの顔がくにゃりと醜く歪む。
目には一気に涙が溜まっていく。
私の口は
私の悪意は止まってくれない。
「れいなの行動は私のためなんかじゃない!」
だってそうでしょ。
あんな中途半端なところでキスなんかして
それで
私のことが描けなくなるなんて
私のことが見えなくなるなんて
「れいなの自己満足だよ」
- 124 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:52
- 「……そうかも」
れいなの涙。
れいなの鼻声。
れいなの
震える指先。
「れいなは勝手だ。
みんな……みんな勝手だ。
私のことなんて、どうでもいいんだ!」
れいなの指先が
ふわっと私の方に伸びてきた。
と思ったら
れいなの両腕は私の襟元をつかんでいた。
ぐいと引っ張られる。
ダン!
背中から壁に叩きつけられた。
- 125 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:52
- 「痛っ……」
「そうだよ!れいなは自分勝手だよ!
勝手にえりを描きたくなって
勝手にえりを好きになっただけだよ!
えりの気持ちなんか
えりの存在なんかどうでもいいんだ!」
れいなの口から唾がとんで一滴
わたしの睫毛にかかる。
「でも……」
「れいな?」
「それって、いけないこと?
それって、いけないこと?」
私の全身から
魂が抜けていくみたい。
「いけなくなんてないよ」
私の中のつまらないやさしさがれいなを許す。
- 126 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:53
- 「今度はさ、チャンスがあったら7年後のえりも描いて」
れいなの想いが強すぎて
今の私がわからないなら
せめてせめて
「れいなはえりにどうなって欲しい?
れいなはどんなえりが見たい?
今度はそれを教えてね」
そうしたら私は
「れいなの希望をかなえるえりになるからさ」
不器用な仲直りだと思った。
不自然な仲直りだと、
そうも思った。
「……ごめん」
違うよ。
「今の私なんか、誰にも見えない。
自分の存在確かめるなんて無理。
でも、れいながえりの将来考えてくれるなら……」
- 127 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:53
- 「え?」
れいなをギュっと抱きしめた。
「生きていける気がするからさ」
「えり」
私のためにあなたがいる。
つまりはそういうことでしょ?
「れいなのことも大好きだよ」
「私も、えりも好き」
れいなは気づいていない。
クレヨンは美術室に置きっぱなしだ。
描きかけのスケッチブック。
れいながこれから描く作品は
私。
- 128 名前:クレヨンの音と匂い 投稿日:2004/05/10(月) 20:53
- これからの私をつくるんだから。
「これからも」
「どうぞよろしくね」
それが私たちのはじまり。
新しい展開のはじまり。
そして
- 129 名前:いこーる 投稿日:2004/05/10(月) 20:54
- 以上になります。
- 130 名前:_ 投稿日:2004/05/11(火) 22:08
- さゆは漫画が大好きです。
私にもいろいろ貸してくれます。
たまに昔の漫画とか混じっていて不思議に思うんだけど
有名漫画家の昔の作品読むのとか楽しいんだ。
最近はあれ読みました。アニメ化もされたらしい漫画で
ある女の子が魔法の国から来た自分そっくりのお姫様からなりたい人に変身できるリボンを授かる。
変身リボンを手にしたおてんば少女の可笑しくってドキドキ大冒険。
私は思う。誰かになりたい!って気持ちが女の子の原動力なんじゃないかって。
自分ではない誰かになる。そんな憧れこそが、幸せつかむきっかけなんじゃないかって。
- 131 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:09
-
「タートル・タートル」
- 132 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:09
- プレハブ小屋みたいな店内には隣の店だか向かいの店だかのおいしそうな匂いが充満していた。
壁一面に写真が貼り付けられていてその下には4桁の数字が書いてある。
外はいい天気で
すっごく明るい様子が入り口から窺えるのに
店内は独特のムード。
目深に帽子をかぶった私は
私の写真を一つ一つチェックしていた。
右手には小さなボストンバッグ。
中には何も入っていない。
小包の中に入っていた写真のコレクション。
その中のほとんどは見覚えのあるものだった。
ショップで販売している写真ばかりだった。
狭い店内の壁に無数に飾られた私たちの写真。
拡散した私たちのイメージ。
- 133 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:10
- 「12点でお待ちのかめい様!」
店員さんの声が店内に響く。
私は自分が呼ばれた気がして思わず肩がビクッってなった。
まさか。
私は購入表なんて書いてない。
私の名前が呼ばれるわけがない。
きっと同姓の人がいたんだ。
声が聞こえる。
「こちら、亀井の写真12点でよろしいですね?」
「……はい」
……。
本名じゃないかもねこの人。
私の写真を大量購入した人の顔をそっと窺った。
30代の男性。
……ちがうか。
小包にあった字はもっと、幼い女の子が書いたような字だったから。
なんなのだろう。
小さい女の子の中にも私のファンがいてくれるのは嬉しいけれど
あの写真はとても子どもの経済力で揃えられる数じゃない。
バイト始めた高校生ならなんとかなるだろうけれど。
- 134 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:10
- だから私が思い描いている犯人は
年に不相応に幼い字を書きそうな女子高生。
それがきっと小包の犯人。
その人物に問いたださなくてはならない。
私のしらない私の写真をどこで入手したのかを。
ショップに張り込むなんて危険極まりない上に
成功する確率なんて極端に少ないだろうけれど
私はどうにかして自分を揺るがした不安の正体を知りたかった。
「ねぇ、あれってえりりんじゃない?」
誰かがささやく声がする。
- 135 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:10
- 「まさか……なんで原宿店に……」
「でもさぁ」
まずい。
原宿店はもう離れた方がいいかもしれない。
ふと
目が合ってしまった。
「あっ」
やばい。
今ので完全に気づかれた。
私は走って店を出ると竹下通りにでて
原宿駅の方へ移動を開始した。
- 136 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:10
- 地下に移転した渋谷店はちょこっと広くなっていた。
ただ
人が多すぎる。
人に顔を見られないようになんとか店内に入って
壁にいっぱい飾られた写真を眺める。
娘。
この存在のせいだ。
私がまともに恋できないのは。
私は人に揉まれながら写真を探していった。
あった亀井絵里。
よしよしかわいく写ってるぞ。
あっ、この衣装いいなぁ。
うっわーポスターも超かわいいじゃん。
一通り眺めて満足した私。
店の入り口まで行って購入表とえんぴつを取った。
そうして
写真の下に貼られた4桁の数字を購入表の中から探して
数を書き込んでいく。
- 137 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:11
- 店員さんと顔あわせたらなんて言われるかな?
なに自分の写真買ってるんだよ、とか思われたりして。
きゃーーーー。
ちょっと興奮しちゃう。
数字を書き込んで合計点数確認。
写真7枚とポスターが1枚。
合計8点っと。
ファンクラブの会員番号?
入ってませんっと。
名前欄には亀井と書いた。
レジで購入表を渡す。
「ポイントカードはお持ちでないですか?」
「持ってません」
ピッピッピッピ
「合計で1400円になります」
「あっ、はい」
- 138 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:11
- 支払いを済ませて後は商品の受渡し。
「8点でお待ちのかめい様!」
「はーい」
写真7枚とポスターを大きな袋に入れてもらって
店の外に出た。
階段を上がって地上の交差点に出る。
人がいっぱいなのでポスターが曲がらないように注意が必要だ。
そうして
交差点をハチ公口目指して移動していった。
- 139 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:12
-
- 140 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:12
- 原宿と渋谷は山手線で一駅なのですぐについた。
ハチ公口の改札をでる。
次の目的地は渋谷店。
犯人はこっちにいるかもしれない。
いないだろうけど。
たしか渋谷店は地下に移転したはずだ。
交番の脇をすり抜けてでっかい交差点へと差し掛かった。
そのとき
!
私の正面からこちらに歩いてくる人物と目が合った。
そいつの顔をみたとき
私は鳥肌が立った。
こいつ……
制服を着た女子高生。
犯人に間違いない。
私は確信した。
- 141 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:12
- 恐怖心が一瞬掠めたが
怒りと好奇心が勝った。
全身の血液が逆流していくのを感じた。
私は歩みを進める。
犯人も明らかにこちらを目指して近づいてくる。
横断歩道の真ん中で
私たちは邂逅した。
目の前のコは
ショップの黄色い大きな袋を持っている。
その中には私のポスター。
しばらく見つめう2人。
- 142 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/11(火) 22:13
- さきに口を開いたのは私だった。
「私のポスター、買ってくれたんだね」
「あと、写真を7枚」
向こうはへへっと笑った。
「嬉しいな。いままでTVでしか見たことなかったから」
「私も。君のことは写真でしか知らなかった」
「あ……小包見たんですね?」
いたずらっぽく微笑む。
「あなた……一体誰?」
私は鏡と相対しているような錯覚に陥りながら聞く。
ひょっとすると私は
入ってはいけない世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
「私はアンリアル世界の亀井えり」
私そっくりの少女はそういって再び微笑んだ。
- 143 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:19
- だからさぁ
こんな歪みまくった展開が待っているなんて
反則もいいとこだし
どーなの?とか突っ込みたくなるわけね。
亀井絵里。
憧れの亀井絵里。
「私はアンリアル世界の亀井えり」
亀井絵里は1ミリだけ顔を歪ませた。
あっ……こんな表情もできるんだ。
「なにそれ?」
「私だってビックリしたんだよ。
自分とよく似たコがオーディション合宿受けてるのテレビで知って……」
「……」
「しかも名前が同じだなんて、なんか運命感じちゃう」
- 144 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:19
- 「名前まで同じなの?」
ちょっと後ずさりする亀井絵里。
「私の方はひらがななんだけどね」
妙なくすぐったさを感じた。
今までずっと好きで
今までずっと憧れていて
髪型もしゃべり方もしぐさもなにもかもを真似していた。
その本人としゃべっている。
ほんっと、私の真似のしかたはそうとうにすごかったらしい。
本人目の前にしてまるで違和感がない。
まるで双子のように。
まるで同一のように。
っていうかむしろ同一。
私はあなたのことをよく知っている。
毎日アルバムいっぱいに溢れかえったあなたを見ている。
その想い……届いたんだよね?
- 145 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:20
- 渋谷の交差点の真ん中で、
私は浮かび上がりそうなめまいを感じた。
この
ストーカー女を見ているとなぜ?古くからの親友にあったような懐かしさを覚える。
こいつの送った写真のせいで私の自我は危うく崩壊しかけた。
なのにこの、言いようのない愛おしさは一体なんだ?
首のひねり具合も唇の出具合も、ここまでそっくりだと
気味悪いを遥かに通り越して
自分自身にしか見えなくなってくる。
ただそっくりなだけではない。
このコは私に吸い寄せられるかのような目で
私を見ている。
その、距離をゼロにまで縮めようという意気込みが思いっきり伝わってきて
なにか拒否できない。なにかむげにできない。なにか放っておけない。
- 146 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:20
- このコは、アンリアル世界の亀井えり。
おっそろしいくらいリアリティ持ったアンリアル。
こんなにリアリティの薄い状況において、目の前の女の子は
私がかつて出くわしたどんな現実よりも説得力があった。
気がつくと私たちだけを中央に取り残して
信号は赤に変わっていた。
「……まずい」
私はえりちゃんの手を引いて急いで歩道へ行こうとした。
「だめです。亀井さん!」
「……え?」
えりちゃんにグイと引っ張られた。
直後
ブオンッ!
私の鼻先を猛スピードでワゴンがかすめた。
「ここは渋谷です。車は歩行者のことなんて気にしない」
- 147 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:23
- ビュオンッ!
反対側を真っ赤なスポーツカーがかすめる。
「どうすれば?」
ブオンッ!
「ここで……信号が変わるまでじっとしているしかない」
「……」
私は下を向いた。
足がガタガタ震えだした。
ビュオンッ!
こんな近くを車がビュンビュン通り過ぎているのに
待機するしかないなんて……。
- 148 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:24
- 「亀井さん……怖いの?」
「えりちゃんは怖くないの?」
「……今なら、怖いものなんてない気がする」
突如、
私の聴覚が車の音をシャットアウトした。
「え?」
今の私にはえりちゃんの声しか聞こえない。
「自分に出会えたもん。死ぬのだって怖くない」
「……そっか」
「大丈夫、足の震えは私が支えるから」
「ん……」
私たちはお互いの背中に手をまわしあって支えた。
- 149 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:24
- 車なんて感じない。
渋谷の喧騒なんて聞こえない。
感じているのは、私らしさだけだった。
「ねぇ」
「何ですか?」
「匂いまで……私と一緒だ」
渋谷のど真ん中でたどり着いた究極の安心があった。
「それは……」
「ん?」
「使ってるシャンプー調べたもん」
「マジっすか?」
「はぁい」
その返事、私の……。
私のプライバシー奪って
私になりきったえりちゃん。
他にも……なにか。
「友達がいるんです。れいなとさゆっていう」
「……は?」
「その2人もそっくりなんですよぉ。すごいでしょ?」
- 150 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/12(水) 21:25
- ご都合主義もここまでくるとどうだろう。
でも、
「悪くないね」
ねぇえりちゃん。昔の漫画だけどね
魔法の国ってのがあって、そこには必ず1人、地球上の誰かと同じ顔をした住人がいるの。その国のお姫様は修行のため、地球上まで降りてきて、自分そっくりのコと会わなくてはならない。
当のそっくりさんは変身願望のめっちゃ強い女の子なんだけど、魔法の国のお姫様から授かったリボンを通していろいろな冒険をするうちに、自分だけの恋と出会うんだ。
「えりちゃん……」
私ね。魔法の国の修行は自分を探すためのものだと思うの。
「なんですか?」
「今度絵里がオフのときさ」
「……」
信号が変わった。
距離をとって再び見つめあう。
「デートしない?」
- 151 名前:いこーる 投稿日:2004/05/12(水) 21:26
- 今日はここまで
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/13(木) 04:23
- まさかの衝撃!
エコーと鏡で気付くべきでしたねw
- 153 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:10
- 待ち合わせは……
……新橋。
- 154 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:11
- 「ちょっとイメージ違ってた……もっとこう」
「オヤジくさい?」
「そう、そう思ってた」
ブオンブオンとうなる長いエスカレーターに乗りながら話す2人。
今日は珍しく帽子もなにもなくオープン絵里で来ています。
だって、平気だよ?
1、オフの私見て亀井絵里と認識できる人は悔しいけれどまだそこまで多くない。
2、ちょっとわかる人は亀井絵里が双子でないことくらい知っているから二人もいたら大抵……引く。
3、めっちゃ私に詳しい人は、こんな状況をみても大騒ぎはしない。家でこっそりえりりんは双子だった!と多少の仲間を相手に送信するくらい。
そのいずれのパターンでも、
2人のデートは邪魔されないもん。
- 155 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:11
- 一段上に私。
一段下にえりちゃん。
私はエスカレーターを後ろ向きに乗ってぎゅんぎゅん遠ざかる地面を背景にしながら自分そっくりのえりちゃんと笑いあっている。
「ゆりかもめ口からでたからだよ。駅の向こうはもうちょっと繁華街っぽいって」
「そーなのか」
近未来的なのかなんなのかさっぱりな切符売り場。
開放感あるコンコース。
いざしゅっぱー……
「……え?」
「……狭っ」
車内ってこんなに狭いのー?
「これがゆりかもめ?」
「そうみたい」
ぷしゅうううううう
と扉が閉まって
ふわぁぁん
と頼りなげな音を立てて列車は出発した。
- 156 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:11
- 「狭いねえりちゃん」
「狭いね」
……。
「こりゃもっとくっついちゃえってことじゃない」
ぎゅうううう
「ちょ……ちょっとそのくっつき方は痛い」
「あ……見て見て、レインボーブリッジだ!」
私たちは雄大さに見とれた。
あの、おっきな橋を
今
列車が……
「えー?」
「下の層なの?」
開放感のある上の層は高速道路なのでした。
- 157 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:11
- 金網に仕切られてこっちは開放感ゼロ。
どうしてくれる……とか理不尽な怒りを覚える私。
「でもほら、この網網とか面白い!」
「は?」
「網網あみ……」
沈黙
「私気がついちゃった」
「え?」
「えりちゃんと私、テンションに温度差ない?」
えりちゃんは突如、泣き出しそうな顔になる。
「そ……そんなことないもん」
台場が見える。
いろいろ有名な風景がいっぱい見える。
最高に晴れた日のデートは、
こういうくすぐったい距離のなかスタートした。
- 158 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:12
- 「だからさぁ……」
「どうしたのえりちゃん?」
「こんなにいい天気だしお台場だし
亀井さんがもっとハイテンションになってもらわないと困るわけね」
「そんなこと言ったって……」
「決めた!決めたもん。
私が亀井絵里に近づくのはもうやめ!」
なに突然。
壊れちゃったよこのコ。
「そっちが私と一緒になってください」
「は?」
「私決心しました。
今日一日で亀井さんには私級のテンションになってもらいます」
「……」
「今日はそのためのデートです。頑張ってぶっ飛んでくださいね」
そのとき私は自分がほんとうにぶっとぶことになるとは予想していなかった。
- 159 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:12
- 青海駅に降り立った私と私……の真似したえりちゃん。
「えーと最初は……」
「あれ!」
ぐいと手を引っ張られました。
手をつないだままくいくい進んでいきます。
双子っぽい2人が手をつないで進む。
そんな光景が傍から見るとほほえましかったようで
通りかかる人みんなに幸せそうな顔をされた。
- 160 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:12
- ☆
「だからさぁ」
「はい?」
「アドレナリンの放出が足りないし
なんとかしなきゃって思ったわけね」
右足と左足を交互にぶらぶらさせる私たち。
「だからって……」
「他にないでしょう?」
絶叫マシーンですか。
<安全バーを確認します>
ぶらぶらぶらぶら
ぶらぶらぶらぶら
係りの人が私たちの安全バーとベルトを確認した。
問題なしっと。
ぶらぶらぶらぶら
ぶーらぶーーらぶーーーら
「亀井さん……足の動きがダイナミックに」
「こうしていないと落ち着かないでしょう!」
- 161 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:13
- もうすぐマシンがこの高いタワーのてっぺんから落下するかも知れないというのにそんなに落ち着いていられるあなた。
<それではスタートします>
「うわ……」
ぎゅいいいいいいいいいん
私たちの座った椅子は音を立てて急上昇を始めた。
ぐんぐん高度が増していく。
足元に車の試乗コース、
足元にバカみたく広い駐車場、
足元……
うげぇ
「あっ、下見ちゃったの?だめだよ怖くなるから」
遅いよぉ。
- 162 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:13
- 「何?こんなに高いの今……
なんで足がぶらぶらしてんのよ!
ちぎれたらどーする!」
「ちょっと落ち着いて」
「こら偽者!どーしてくれるっ。怖いんだから!」
そのとき
マシンが
がすんと音を立てた。
「ひっ」
え?落ちる?落ちる?
私の心臓はもう1000%跳ね上がっている。
高い高い高い高い高い
- 163 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:14
-
汗でぬるぬるした私の手が肩にかかった安全バーを握り締めている。
私は目を閉じて踊り狂う心臓を感じているだけ。
血液なんてとっくに逆流を開始しているみたい。
その
震える手を
えりちゃんの手がつかんだ。
ふわっとつかんだ。
「下で、会いましょう!」
「お……おう」
私の声は声にならずにかすれてしまった。
- 164 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:14
- 一瞬、持ち上がる感覚。
続けて
ガーーーーーーーーッ!
全身の体温が一気にゼロになった気がした。
……下に引っ張られて
私の中に私なんていなくなった気がした。
……速度はぎゅんぎゅん増していく
何もなくなった気がした。
……まだまだ落ちていく
まだ落ちるのうそでしょう?
……ぎゅんぎゅん
あぁ私終わったな、
- 165 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:15
- と思った瞬間
マシンは静止した。
静止したと思ったら今度は上方向に引っ張られた。
「うっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ふわっと浮かび上がったら
向こうに海が見えた。
さっきは気がつかなかった。
目を閉じていたから
さっきは気がつかなかった。
- 166 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:15
- ☆
「どう?楽しかったでしょう?」
「うんうんうん!もうさいっこう!」
「もう一回乗る」
「……それは」
膝ががくがくいってるから無理だよぉ。
でも
私はようやく気がついた。
2人の間を隔てていたものに。
「わかったんだよ」
「?」
えりちゃんは既に
「私が越えられなかった一線」
えりちゃんはとっくに越えていたんだね。
- 167 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/16(日) 13:16
- 「私は私にこだわりすぎていた」
さっき
自由落下中に感じたのは
自分という甲冑から抜け落ちて
魂だけになった気性だった。
「なんかさぁ、そんなのどうでもいい気がするね」
「そうだよぉ。自分が自分である必要なんてない」
私とあなた。
きっちり等号で結べるくらいの私とあなた。
あなたの存在と
高速落下が私を自由にした。
絵里とえり。
2人ならぶと妙にハイテンション。
それでいい気がするね。
そんなそんなお天気なのでした。
- 168 名前:いこーる 投稿日:2004/05/16(日) 13:16
- 今日はここまで。
- 169 名前:いこーる 投稿日:2004/05/16(日) 13:17
- >>152
レスありがとうございます!嬉しいです。
伏線もそこそこにこういう展開になりました。
これからも書きたいようにやらせていただきますが
どうかよろしくおねがいします。
- 170 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 20:58
- だからさぁ
こんなに楽しいしこんなに明るいし
デートが終わるなんて考えたくないわけね。
てことでまだまだ続くパレットタウンデート。
やっぱり次は観覧車です。
「すごい並んでる」
手をつないで観覧車の列に加わっている私たち。
左に立っている亀井絵里は
微妙に傾いた午後の日差しと
ふよふよと調度よく漂ってくる潮風で
むっちゃ絵になるよ。
むっちゃきゅんってなるよ。
自分を見てるわけじゃないけど
自分に恋したわけじゃないけど
もっとこう、一つになりたいなんて欲張っちゃいけませんか?
- 171 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 20:58
- でも今
あなたの左手に握られたブルーベリークレープを私の口まで運んでくれて
「はいっあーん」
「あー」
パクっ
ジャムと生クリームとバターと小麦粉の香ばしい食感と
手を伸ばして横目にこっちを向いたときの笑顔が
私の口を伝って喉を降りて私の中に入っていった。
ステキな気持ちをごちそうさま。ごちそうさま。
「クレープいいね」
「いいねぇ」
行列の疲れなんて感じさせない暖かなひとときは
観覧車のように音を立てながら
ゆっくりゆっくり進んでいくのでした。
- 172 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 20:58
- えりちゃんがさっきから
えへへって笑っている。
「楽しそうだね」
「楽しいよぉ……」
「ただ並んでるだけじゃん」
「それが楽しいの!」
「ふぅん」
「ひょっとしてさぁ。テンションまたフラットに戻ってません?」
どうだろ?
人が多くてにぎやかなのはいいことだし
観覧車の足元入ると影ができて涼しくなったし
これから観覧車ってのも楽しみだし
「いいんだよ。こんぐらいで」
「でも」
「でも?」
「私はもっと一つになりたい」
欲張るんじゃねぇストーカー。
でも
この感じ、本当に悪くない。
自分の存在が無駄じゃないっていう感慨は
本当に悪くない。
- 173 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 20:59
- 今まで、求めすぎていたから。
つながった手の安心。
つながった2人の幸福。
つながった心と心の新食感。
つながった私の表象君の生き方。
自分見て自分の差し出したクレープで幸せそうに微笑む偽者を見ていると
自分が幸せになった気分だよ。
遠くにいると止まっているようにしか見えない観覧車は
すぐ近くまで迫ってみると結構な音を立てて自己主張をしていた。
私たちはその流れに逆らわないように注意しながら中に入った。
亀と亀。
つつまれるカプセル。
「ねぇえりちゃん」
「……」
「これが終わったら帰らないと」
「まだ、時間あるじゃん」
「そうじゃなくってさ」
「何?」
「私たち。いつまでも、一緒にいちゃいけない気がするんだ」
- 174 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 20:59
- 日はいい感じに傾いて非日常を作っている。
即席にできあがった異世界。
その中で見詰め合う、鏡写しのような2人。
観覧車は徐々に高度を上げていく。
景色もみたいと思ったけれど
今はえりちゃんに向かっている。
「楽しかったよ。デートできて」
「……」
「でも、もう終わりにした方がいい」
えりちゃんの頬には一筋の涙。
「本当はわかってるでしょ?」
小さく弱く儚げに
首を縦に動かした。
「自分が他者で、自分の姿をこの目で見られて……それじゃダメなんだよ」
そんなのは
「甘えてるだけなんだと思う」
- 175 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 21:00
- 「甘えてるだけなんだと思う」
観覧車は、頂点まできて
2人に何ももたらさずにゆっくりと下降しはじめた。
夕日はまっすぐに差し込んできて
私たちは何も変化しなかった。
でも
私に舞い込んだほんのちょっとの勇気。
「私は」
えりちゃんに言う。
「私として生きていくよ」
観覧車が高度を下げ
いままで依存していた異世界が張りぼてであったことを思い知らせる。
- 176 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 21:00
- 「亀井さん」
何?
「そんなのは勇気じゃない。逃げだよ……」
「え?」
「自分として生きていくなんてのは、大人の言い訳。一番ずるい言い訳だよ!」
声はカプセル内をキンキン反響していた。
「自分なんてどこにもないくせに!」
「そうかもね」
私の一言は
今回の中でもっとも最悪の冗談だと思った。
- 177 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 21:00
- ―――「自分なんてどこにもないくせに!」
自分の分身みたいなコにこんなこと言われた私は
はぐらかすしかなかった。騙すしかなかった。
騙すってのは自分自身をって意味だけど。
でも決めたんだ。
もうこのコとはお別れだって。
自分で誘っておいて楽しんでおいてあんまりだと思うけど
それがお互いのためだって今でも信じ込んでるんだから。
観覧車は1週めぐっただけでどこにも進まずに元の場所へと戻ってきた。
泣けてきた。
私がさきに降りた。
えりちゃんは後から降りたらしい。
でも涙を拭うのに一生懸命で私が顔を上げたとき
えりちゃんはいなくなっていた。
係りの人に聞いても誰に聞いてもえりちゃんの行方はわからなかった。
- 178 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 21:01
- 結局今の私には、あのコが何だったのかわからない。
送られてきたコレクションは今でも私のところにある。
私の写真のコレクションの中の私からはみ出した私。
結局そういうことだったのだろうか。
いや、そうじゃない。確かにあのコはいたんだ。
ただ、泣きまくって、顔も上げない私にあきれて帰ってしまったんだ。
お互いに帰っていったんだよね。
それぞれの
好きな人のところに。
たとえほんのひと時でも
自分を愛してみることができたから
だから今度は
誰かを愛することができるかもしれない。
曲がっていた私は、ほんのちょっと変わるかも知れない。
バラバラだった私は、まとまってくるかも知れない。
- 179 名前:「タートル・タートル」 投稿日:2004/05/19(水) 21:01
-
ということで
次お会いするときはもうちょっと集結して集束して総合的な亀のつもりでいますから。
頑張って愛していきますから。
生きていきますから。
これからもどうぞよろしくね。
私は携帯を取り出してあの人にメールした。今の気分をメールした。
- 180 名前:いこーる 投稿日:2004/05/19(水) 21:04
- 以上です。
ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます。
物語はここで一段落しました。
第2部の構想もありますので形になりましたらまた
このスレでお世話になります。
作品はかなり勢い任せなところがありますが
皆様の感想等、いただけると嬉しいです。
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/05(土) 01:42
- 第二部はまだですか?
- 182 名前:いこーる 投稿日:2004/06/13(日) 00:40
- >>181
おまたせしてすみません。
もう少し時間かかります。
- 183 名前:いこーる 投稿日:2004/06/13(日) 00:41
- ちょっと寄り道(浮気?)して短編一本上げます。
須藤×嗣永。
- 184 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:42
- 暑い日だったから汗が冷たかった。
足をぐんと蹴るたびに速度が増していって
その分、びっしょりの汗が冷たくなった。
ちょっと心地よかった。
ももの待つ駅まであとちょっと。
ももを乗っけてそこからの予定は立てていない。
私は勝手に東京を東から西に横断して
甲州街道を延々東に行くイメージでいた。
待ち合わせの時間はのんびりにしてある。
だいたいがあてのない旅であったし
気合もそこまで入っていなかった。
ただ、仕事も学校も忘れてカラカラと
キックスケーターを駆りだしてみたくなったから
ももを誘ったのだ。
ももでなくてもよかったけれど
ももがよかった。
やっぱり暑い日だった。
- 185 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:42
- 2人とも
グループの中でのファッションセンスが
そこまで目立つことはない。
雅は抜群だと思う。
舞波のこだわりも鋭く感じる。
梨沙子はずいぶん大人っぽい。
私は自分では頓着しない方だと思っている。
ここ数年
選んだ服がすぐに着られなくなるので
高価な服は選びにくかったのだ。
背は一番高かった。
先にみつけたのは向こうだった。
「まぁ!」
声をかけられた方を見ると
ももが飛び跳ねていた。
私は右足で地面を蹴って
もものところまで一直線に向かった。
スケーターはぴゅうと進んだ。
ももの格好をみてかわいいと思った。
なにげないシャツだと思ったら
メゾピアノのロゴが入っていた。
涼しげな白を基調にしてピンクもあった。
- 186 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:42
- 私はなにか不機嫌になってしまった。
こんなに気合の入った服装をされては
身体が大きいだけの自分とは釣り合わない気がして
妙に腹が立った。
わりとダンスが不得手な2人だった。
それでも、ももは人気がすごかった。
うらやましいと何度も思った。
仲良くなりたいと思ったわけではないが
気がついたら仲良くなっていた。
知らぬ間に一袋空けてしまうお菓子みたいに
2人は一緒にいることが多かった。
さいたまで撮影のとき、
キックスケーターの2人乗りをしたことがある。
そのとき、私の肩くらいまでしかないももが
ハンドル握る私にすっぽり納まっていたのがおかしかった。
また、2人乗りがしたいとずっと思っていた。
その願いが叶った。
今日は2人きりでずっとスケーターの旅をするのだ。
天気が良いのも気に入った。
- 187 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:43
- この前のときと同じように
ももが前に乗り
私は後ろに乗った。
そうしてももの肩の外側から手を伸ばしてハンドルを握る。
身体は密着した。
ももの背中は汗で湿っていてそれが私のお腹や胸に張り付いた。
ますます密着していると感じた。
腕の中にももがいた。
「いくよー」
「う……うん」
ももの声がおっかなびっくりといった感じに聞こえたので
ちょっと面白かった。
「まあ、ゆっくりね……」
私は地面を蹴る。
それまでよりよほど重くなっていた。
スケーターはぐらぐらしながら
アスファルトをゆるゆると進んだ。
- 188 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:43
- 「大丈夫?」
「……ん、平気」
「じゃあスピードアップね」
「ちょ……ちょっと待って。うわぁ!」
私は思いきりスケーターを進めた。
ももの身体が強張るのがお腹から伝わってきた。
「どう?」
「ちょっと、怖いかも」
「すぐ慣れるよ」
「でも……」
「今日は旅すんだから、どんどん行こう!」
旅はどんどん進んで行った。
- 189 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:43
- 知らない道を進んだ。
帰りのことは考えなかった。
この旅が終わるなんて考えたくもなかったし
いざとなったら迎えに来てもらうつもりだった。
今はただ、
ももの背中と風の涼しさを感じて
開放感に浸っていたかった。
本当に知らない道だった。
「まぁ」
「なに?」
「こんな遠くまで来ちゃって平気かな?」
「平気だよ」
「そうかな?」
ふいに私はハンドルから両手をはなして
ももを抱きしめたい衝動にかられた。
危ないので今は叶わないとは思うが
いつか背中からぎゅっとしてやろうと思った。
歌収録前の微妙なテンションの中でならできそうだった。
- 190 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:44
- それは恋心とは違う気もしたが
やはり恋心なのだという気もした。
ももが女の子であることはたいして気にならなかった。
ワクワクとも違う胸の高鳴りを感じていた。
考えてみたら私は恋心なんて知らない。
ドラマや漫画などを見て
こういう気持ちなんだろうと想像しているに過ぎない。
だとすると今のワクワクに似た状態がそれなのだろうか。
そんな気もしたが
やはり違うという気もした。
抱きしめたい想いだけは治まってくれなかった。
- 191 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:44
- 途中でファーストフードを食べに入った。
知らない店だったがどこにでもあるので
知ってる店だった。
食べている間、2人の話をした。
「まぁってさ」
「ん?」
ハンバーガーを口に突っ込んだばかりでしゃべれない隙に
ももが言った。
「ベリーズはじまって、ちょっと冷めたよね」
「……ん」
忙しく口を動かすがまだしゃべれない。
「冷めたっていうか落ち着いたっていうか」
成長したと言って欲しかった。
いや、そうも言って欲しくはない。
混乱した。
- 192 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:44
- ようやくパンがしぼんで喉を通ってくれた。
「なんかさ」
「何が言いたいの?」
「まぁ、最近自分のこと、自分から切り離して見てるでしょ」
ももは中学生らしい難しいことを言った。
私はどうだろうと思う。
自分から離れたところで自分を見ているとはどういう気分だろう。
確かに
自分のダンスのできの悪さを、
なんでこの子はできないんだろうと
他人事のようにみつめてるときはあった。
そのことを言っているのだろうか。
それとも文体のことを言っているのだろうか。
- 193 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:44
- 夕日も沈みかけた頃のことだった。
少し下り坂になっている道を走った。
私も
ももと同じように両足をのっけて
自然にまかせて滑って行った。
ちょうど坂を降りきったところで
わきから車が飛び出してきた。
私たちは止まる間もなくガンと車の側面にぶつかった。
こっちが優先道路だったから飛び出したのは車の方だった。
一歩間違えば大事故だったというのに
私たちは不思議と恐怖しなかった。
そのことよりも車がへこまなくてよかったと
そんなのんきなことを考えていた。
- 194 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:45
- 中から出てきた背広の中年男は
いかにも怒った形相をしていた。
私たちのぶつかったあたりを丹念に観察し終えると
私たちを向いていきなり言った。
「どうしてくれる!?」
私はこの人が何を怒っているのかわからなかった。
「こんなところに傷つけやがって!」
よく見ると
ドアのところに薄く横一文字に傷が入っていた。
「それ……私たちじゃありません」
私はのんびり言った。
「なんだその口のききかたは?」
腹が立った。
キックスケーターで正面からぶつかったのだから
縦にへこむことはあっても横方向にかすり傷がつくはずがない。
そんなこともわからないのだろうか。
- 195 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:45
- 「私たちじゃありません」
「おい、お姉さん」
男は私の腕をぐいとつかんだ。
「そんな嘘ついたら妹が悲しむだろ!」
いよいよ腹が立った。
私は小学生でももは中学生だ。
こいつは身長とか年齢とか金額とか
そういうことしか頭にない人間なのだ。
そんなことだから私が年下なのに姉だと信じ込むのだ。
「こんな簡単なこともわからないんですか?」
「なんだと?」
私は男を上目遣いでにらみつけた。
正しいときに引く必要などないと思った。
男は私をつかんでいる腕に力を込めた。
痛くて声が漏れそうだった。
- 196 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:45
- そのとき
「ごめんなさい!」
ももが叫んだ。
私をつかんで男から引き離すと
私と男の間に立った。
「ごめんなさいごめんなさい。よく見てなかったから……」
ももは何度も何度も頭をさげた。
私はその背中をぼうっと眺めていた。
「弁償します!今……お金ないけどお父さんに来てもらって弁償します」
……もも。
どうして?
「ごめんさないごめんなさい」
もも、ずるいよ。
なんでそんな大人になっちゃったの?
「私がいけないんです。私がまぁを誘って2人乗りなんてしたから」
もも、違うじゃん。
なんで私の罪まで被ろうとするの?
- 197 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:46
- 喉が痛かった。
表情が歪むのをこらえられなかった。
「まぁ?」
もも、……
大好きだよ!
「う……うぇ」
私は
声を抑えることもできずに泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
- 198 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:46
- きっとももが
私を見上げて必死になにか言っている。
それでも私は泣きやまなかった。
あちこちに響く声で泣き続けた。
気がつくと
車が逃げて行った。
子どもが泣いたから居心地が悪くなったのだろう。
それからもしばらく泣きやまなかった。
- 199 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:46
- 帰り道は歩いた。
右手には折りたたんだスケーターを、
左手にはももの右手を感じていた。
月が見える時刻になっても
私たちは急がないで歩いた。
ももは
泣きはらした私を見上げた。
「まぁ」
「……ん?」
「楽しかったね」
くすっと笑った。
「また遊ぼうね」
私はもう一度泣きそうになったが
今度はこらえた。
- 200 名前:「李とスケーター」 投稿日:2004/06/13(日) 00:46
- 胸の中に熱さがある。
しかしその中央のあたりにどうしようもない寂しさもあった。
「うん」
私は不思議なすがすがしさを感じた。
なるほどこういう気持ちなのかと、そうも思った。
ももの手を強く握ると
私を見上げるももを見て
ちょっとだけ笑顔になった。
自分でも照れ隠しとわかるような微笑になってしまった。
帰り道は長かったけれど
疲れはまるで感じなかった。
- 201 名前:いこーる 投稿日:2004/06/13(日) 00:47
- 以上です。
タイトルがいまいちでした……。
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/13(日) 20:27
- はじめてベリ工もの読みましたがなんか普通に読めました。
なんとなーく顔知ってる2人だったかもしれないですけどw
- 203 名前:いこーる 投稿日:2004/06/24(木) 21:58
- レス返しのみ。
>>202
キッズ小説ということでしたが作者自身は
まるで違和感なく書いてました。
なので物語自体はありきたりになってしまったかも知れませんが
知っているコだとイメージしやすいかもですね。
- 204 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/02(月) 05:32
- ベリいいよ。
桃子のかわいらしさも優しさも、まあさの子供らしい強い素直さも素敵だった。
胸がジーンとしたよ。
- 205 名前:いこーる 投稿日:2004/08/09(月) 18:05
- >>204
どうもありがとうございます。
子どもだから心を打つってのもありですよね。
キッズものがもっと増えたらいいと思う作者であります。
- 206 名前:いこーる 投稿日:2004/08/09(月) 18:06
- 更新します。またしても寄り道で……
- 207 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:07
- わっ……ちょっとなにす……痛い!!!
愛ちゃん痛い?痛いの?
何刺して……ボールペン!?
それ、書き心地はいまいちなんだけど先が細いからちゃんと刺さったでしょ。
やだ……痛いよ
あ!下手に抜くと余計に血が出るから抜かない方がいいよ。
……里沙ちゃん?
そういうのは刺したままにしておかないと
……
何?そんな目で見ないでよ。ちょっと刺しただけじゃんか!キミの血がどんな色してるか見てみたかっただけじゃんか!お、今逃げようとしたね?逃げられないからね。逃がさないからね。絶対絶対絶対、私をおいては行かせないから……
- 208 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:07
- 「あー藤本さん」
「紺野ちゃんいま1人なの?」
「奥に里沙ちゃんもいます」
「へぇ、2人で何してるの?」
「里沙ちゃんが写真集見せてくれって」
「何の?」
「愛ちゃんの写真集」
「3rd写真集?あれガキさん持ってなかったの?」
「いや、そうじゃなくって、ここで見せてくれって」
「は?」
「写真集は里沙ちゃんが持参してきて、ただ自分の部屋では見たくないんだって」
「わけわかんない」
- 209 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:07
- 「なんか藤本さんに怖いこと言われたとか」
「は?……あー、えっと、あれかな?言ったかも知れない」
「里沙ちゃん、今日まで写真集、一度も開いてなかったそうですよ」
「いや……そこまで怖いこと言ったわけじゃないけどなー」
「私もどうしたらいいかわからなくって」
「それで、美貴を呼んだの?」
「はい。藤本さん」
「ん?」
「里沙ちゃんに何言ったんですか?」
- 210 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:07
- 白いチュニックね。一昔前に流行ったよね。
ねぇ里沙ちゃん。お願い手当てさせて。腕が痛い……
ほら、血にボールペンのインクが混ざって、良い色……
お願い……
白い服。ふわふわした服。おしとやかで純粋で無邪気になるための服。
……
そんな風に純白を着込んだってさ、中身はどうよ?赤黒い血がいっぱい出てくんじゃん。
……そんな
汚いよね。
- 211 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:07
- 「いやぁ、美貴は今度の愛ちゃんの写真集は過激だよーって言っただけ」
「それだけ?」
「それだけ」
「お?里沙ちゃん見終わった?」
「……うん」
「どうだった?」
「ぞっとした」
「何が?」
「……」
「里沙ちゃん?」
「わからない……」
「え?」
「自分でも、よくわからない……」
- 212 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:08
- 「まぁね。これまでの愛ちゃんの写真集とはちょっと違うからね」
「?」
「今回のってさ、最初っから最後まで一つのストーリーになってんじゃん」
「いや……そういう写真集は別に珍しくないですよ。リゾート写真集系には多い」
「ガキさん、なにマニアなことを……」
「たとえば『AYAKA』だったら最初は日差しの中で元気なアヤカさんの水着姿。それがページが進むと辺りが薄暗くなってくる。日本家屋へと舞台を移してちょっと切なげなアヤカさんの魅力が引き出されてきて、そのあとまた水着なんだけど、今度はちょっと陰があるんだよ。最初の奔放さだけじゃなくってね、ちょっと悩ましげなの。鳥肌立つくらい綺麗なんだから……」
「ねー紺野ちゃん!ガキさんがヲタモード入っちゃった」
「里沙ちゃんの言いたいことはわかるけど」
「わかんの?美貴、さっぱりだけど」
- 213 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:08
- 「ただ『わたあめ』はそういうストーリーとはちょっと違うよ。場面の連鎖っていうか」
「こ……紺野ちゃんまで何言い出す?」
「プールの中のシーンからページをめくると突然制服姿の愛ちゃんに切り替わるけど」
「制服可愛かったねぇ」
「うん」
「おーい5期……。高橋ヲタか君たち……」
「里沙ちゃん制服のシーン覚えてる?」
「河だか池だか、みたいな場所」
「でしょ。それまでの水中シーンから「水」をキーワードにして河原のシーンに連鎖していくんだ。全然イメージの違う愛ちゃんを「水」でもってつないでるわけね」
「……紺野ちゃん、それこじつけっぽくない?」
「そんなことないですよ。藤本さんは黙っててください!」
「はぁ」
「こじつけじゃないです。河原のシーンの最後見てみてよ」
- 214 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:08
- 「っと待って……あっ」
「何?ガキさんどーした?」
「また、水中に戻ってる……」
「そう。これは水中→河原→水中、と場面がリンクしているわけ」
「制服姿の愛ちゃんがワンピースで水に潜る愛ちゃんで挟まれてるわけか」
「そのとおり」
「紺野ちゃん、ひょっとしてこの写真集で水ってすっごく大事だったりする?」
「しますします」
「あさ美ちゃんすごい!確かに水を上手く使った写真集って面白いものが多いもんね」
「ヲタガキ再登場……」
「『Mikitty』ならリゾート写真集だし、水は爽やかで気持ちの良いものって感じで描かれているけど、『なつみ』の最後にでてくる水は、安倍さんを「汚す」ための水」
「汚す?」
「WET写真だからね。『なつみ』出たとき結構話題だったんだよ。「なっちがぬれる!」って」
- 215 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:08
- 「やらしいな……」
「そうやって安倍さんの薄汚れた感じを出していたんです。あそこには安倍さんのけなげさが表れているんですよ」
「水はアンビバレントな存在と言えます。水に潜るのは気持ちいいと同時に絶大な不安をもたらす」
「ふむ」
「水中の高橋愛はそういう状態なんです」
「えっと、つまり気持ちいいんだけど不安定……」
「そうです。その水中のシーンに挟み込まれた制服の愛ちゃん。これは」
「これは?」
「連続してみるといろいろ読み取れませんか?」
「……よくわからん」
「里沙ちゃん、制服の愛ちゃん見てどう思う?」
「えっと待ってね……」
「なにー?美貴にも見せてー」
- 216 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:09
- 「可愛いね」
「それだけ?」
「それだけって?」
「藤本さんは、何か気づきませんか?」
「なんか……寂しそうっていうか切ないっていうか」
「そう!そう見えますよね」
「でも……どうしてそう見えるんだろ」
「水に絡めとられた彼女を見てしまったからです」
「え?」
「最初にワンピースで水に沈む愛ちゃんを見せられる。彼女はそういう不安定さの中に身をおいている。そういう前提で制服姿の愛ちゃんを見るから、単なる女子高生ではなくそこに一種の危うさを感じ取ってしまうんです」
「それが、紺野ちゃんの言う場面の連鎖?」
「はい。そうです」
- 217 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:09
- 私たち、4人ではじまったじゃない。そこには不安なんてなかったし矛盾なんてなかった。
腕が……痺れて……
愛ちゃん?
……っく
そんなに痛い?
痛い。助けて
ちょっと休憩も必要だよ。愛ちゃんばっか突っ走ってずるい。
お願い里沙ちゃん。
いつから愛ちゃんは1人で不安定と危うさを抱え込むようになったのさ。
どいて里沙ちゃん!
また逃げようとしてる……
うるさい!
もう一本あるんだよ
え?
ボールペン
……
そうそう。座って。落ち着いて話そうよ。
- 218 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:09
- 「紺野ちゃんさぁ」
「なんですか?」
「どうして突然こんな話始めたの?」
「これは一つの解釈ですから、もちろんそれ以外の感じ方もあるでしょうけど」
「じゃなくって。美貴たちにこんな話を聞かせる理由」
「里沙ちゃんが写真集を見てぞっとしたって言いました」
「言ったね」
「でもその正体はわからない。それってすっごく不安じゃないですか」
「まぁ……そうかな」
「ならこの写真集から里沙ちゃんがどんなメッセージを読んだのか考えて見ることも必要じゃないですか?」
「むぅ……」
- 219 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:09
- 「水ともう一つのキーワードは「赤」ですね」
「赤?」
「空から降ってくる赤い羽根。ここにもシーンの連鎖が見られます」
「あーここはわかるかも」
「里沙ちゃん?」
「赤い羽根をかぶったと思ったら次には、真っ赤なワンピを来た愛ちゃんがいる」
「そう。口紅もケバいくらいの赤で、ピアスもすっごい派手」
- 220 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:09
- 「大人の女性って感じ」
「そう。赤い高橋愛に変身するの」
「美貴もこれは印象に残ってるよ。愛ちゃん成長したなぁって」
「成長……そうですね。あるいは水のときと同じコードで読むなら」
「?」
「高橋愛はその内に真っ赤に燃えるような激しさを抱えている」
「愛ちゃんが持つ激しさ……」
「愛ちゃんはまだ完全に大人ってわけじゃない。でも大人を垣間見せることで愛ちゃんが隠し持つ激しさを表すことができる」
- 221 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:10
- 血……だんだん出なくなってきちゃったね。
?
せっかく愛ちゃんの身体の熱い部分を見ていたかったのに。
ちょっと、来ないで。
今ペンを抜いてあげるよ。そうすればまた血がいっぱい出てくる。
嫌!来ないで!
激しさを隠してる必要なんてないんだよ。5期の間に隠し事なんて要らない。
ばかなこと言わないで。
白いチュニックの下には燃えるような赤い血が流れてる。知ってるんでしょ?
やっ!痛い、やめて!!!
- 222 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:10
- 「要するにこの写真集は無邪気にはしゃぐ愛ちゃんの背後に、不安定さや激しさを入り込ませている構造を持っているんです。フラッシュバックのように挟み込まれる水。印象付けられる赤」
「なんか、赤い愛ちゃんって……不敵というか」
「どこか挑発的ですよね。本当に、悪魔的に」
「だからガキさんはぞっとしたって言ったのか」
「……なんか、違う気がする」
「違うの?」
「違うんでしょうね」
「紺野ちゃん?わかるの?」
「無邪気さ、危うさ、激しさ。そういういろいろのものが同居する少女」
「?」
「どう思います藤本さん?」
「どうって?」
「どう思います?」
- 223 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:10
- 「なに聞きたいかよくわかんないんだけど、無邪気で不安定で、でも激しさもあって。そういうのって愛ちゃんの持つものというよりはさ」
「?」
「女の子って、みんなそうじゃない?」
「みんな?」
「誰でもそういう時期ってあるでしょ?自分はまだ子どもなんだと思っていたのに、どうしようもなく切なくなって、身体が熱を持っちゃって浮かされているような状態。確か写真集のなかに、ビー玉の入ったコップをおでこにくっつけてる写真あったでしょ?」
「あります」
「微熱でボーっとしてるって感じじゃない?」
「そうですね」
「美貴がガキさんに今回のは過激だって言ったのはこの後の展開なんだ。微熱。白いワンピ。水に足を入れる。涙。そして……愛ちゃんの身体を中心に水面に広がる赤い花」
- 224 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:10
- 「里沙ちゃん、大丈夫?」
「ん……平気。藤本さん、その赤い花ってのは」
「そんな名前の漫画があったけどそれとはちょっと違って」
「?」
「いい?紺野ちゃんが言ってたけど「赤」ってのが少女の秘めた熱さ、激しさだとするよ?」
「はい」
「それを身体の外に放出したんだ」
「……てことは、ひょっとして」
「だから……その、愛ちゃんが大人の女性になったってことなんじゃないかなって、美貴はそう思ったわけ」
「大人の女性……」
「それも、身体の成長としてではなく、経験としてね。赤い花の中で力抜けたみたいな愛ちゃんの表情見て絶対そうだって思った」
「そっか……そうだったんですか」
- 225 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:12
- 知ってるよね。私、愛ちゃんに憧れてたんだよ。ずっと。
血……止めて
大好きだったんだよ。
止めて……
キミ自身のことが好きなんだって思ってた。でも違ったみたい。
え?
作品としての高橋愛。
は?
私が愛したのは愛ちゃんが必死に作り上げた高橋愛という人物像だったんだ。
わけわかんないよ。もう離してよ
- 226 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:12
- 「はーガキさん顔が青かったね。変なこと言っちゃったかな」
「藤本さん」
「でもガキさんどうしてぞっとしたなんて言ったのかな。愛ちゃんが成長するなんて当たり前じゃん。愛ちゃんは年に似合わず幼いとこ多いけど」
「私も愛ちゃんの精神年齢はそんなに高くないと思います」
「だよねー。それにさ、ずいぶん講釈長かったけど、そんなに難しいことじゃないじゃない。美貴は写真集見たときすぐわかったよ。赤い花の意味」
「そうですか」
「ガキさんそこまで鈍感だったっけ?」
「でも藤本さん」
「ん?」
「里沙ちゃんがぞっとしたってのは愛ちゃんが大人になったから、ではないと思うんです」
- 227 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:12
- 「え?」
「だって写真集ですよ。フィクションですよ。そこでいくらそういう経験をしたからって、実際の愛ちゃんがそうなったなんてことにはならないじゃないですか」
「そりゃそうだ」
「里沙ちゃんだってそのくらいわかっているはず」
「じゃあ、なんであんな青い顔してたの?」
「大人になった愛ちゃんにぞっとしたんじゃない。そうではなくて里沙ちゃんは、それを愛ちゃんが「演じてのけた」ってことにぞっとしたんだと思います。本当は大人でもなんでもないのに芝居としていとも簡単に大人の女性になれてしまう彼女にぞっとしたんじゃないですか?」
「あーなるほどね。私たちってそういうの敏感だもんね」
「仲間のキャラが変るってのは自分の芸にとっても死活問題ですよ。愛ちゃんがセクシーキャラに転向するなら5期のメンバーも今のままではいられなくなるわけですから」
「んーなんだかなぁ」
「どうしたんですか?」
- 228 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:13
- 「どうしてみんなそう、自分作りに忙しいのかなって思って。個性個性ってさ。美貴はそういうの嫌いなの。疲れちゃうんだよ」
「藤本さん……」
「紺野ちゃん、美貴と一緒のユニットやってるでしょ?」
「はい」
「あそこいいよね。美貴なんてレンタルメンバのくせにセンター取っちゃって、ユニットのカラーを勝手に変えちゃってさ、ウザがられるんじゃないかって不安だった」
「……」
「なのにあの人たち、平然としてるんだよ。興味ないのかと思ったけどそうじゃないみたい。個性なんてわざわざこしらえなくてもあるがままに自分たちは存在している。そんなのんびり感があるの、あのユニット。すごいって思った。ねぇ紺野ちゃん」
「なんですか?」
「美貴は紺野ちゃんが好きだよ。一緒に仲良くやっていこう」
「ありがとうございます」
- 229 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:13
- 愛ちゃん、浪漫の衣装、肩出してたっけ
……
じゃあこの傷目立っちゃうね。困ったどうしよう。
里沙ちゃん?
ひどい怪我だよこれ。どうしてこんなことになったのかな
……里沙ちゃん
私の衣装、袖つきのシャツだからそれを着たらいい。ね?衣装交換しよ。私、愛ちゃんの衣装が着たい。
- 230 名前:「綿飴考」 投稿日:2004/08/09(月) 18:13
-
―END―
- 231 名前:いこーる 投稿日:2004/08/09(月) 18:14
- 以上になります。
ここまでとは多少違う作風です。
不快に思われた方はごめんなさい。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/10(火) 19:55
- ガキさん、怖い。。。
・・・妬みなのか?
愛ちゃんはまだ生きてますか?
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/12(木) 01:56
- いや愛情でしょう
こういう作品も悪くないね
- 234 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:52
- お待たせしました(待ってない)
亀で更新いきまーす。
- 235 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:53
- <2時間後に遊び行く>
突然メール打ってきた高橋さん。
高橋さんが来る!私の部屋に来る!
小躍りして立ち上がってみた。
みた。
CDもプリントもビニール袋も着替えもわんさか転がっていた。
愕然とした。
「きゃー、片付けなきゃ!!」
あと2時間。
ここでどこまできれいにできるかってので気持ちが試されてるんだわ。
私は巨大なビニール袋を手にして部屋の片付けに取り掛かった。
- 236 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:53
- まず不用物は全部ゴミ箱。
必要なのか不要なのかよくわからんものは避難袋(わたくしキャメイが命名)。
絶対に欠かせない必要物もとりあえず押し入れにぐいぐいぐい。
物を片付けたあとはお掃除お掃除。
カーペットには掃除機が一番。
掃除機をぶいーーーーーーーーーん。
まがったポスターの位置をなおして
ついでにこれまで貼ってなかった
高橋さんのクリアポスター(500円)とか
新たに貼って私の気持ちをアピールする準備もしっかりとできた。
「よーし、完璧」
さーて、あとほかに、高橋さんの目に入りそうなところは……
トイレか。
- 237 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:54
- 私はバタバタとトイレに駆け込んだ。
かけこんだ。
便座はカピカピしてるし壁にも床にも埃埃埃。
それと便器……。
うげぇ、
こんなもの高橋さんにみせられないよお母さん。
ハイターハイター。
棚をがさごそがさごそやって探してみるものの見当たらない。
「はいたーーー!どこだーーーー!?」
あーあ、お母さん携帯持ってないし(信じらんない!)
安倍さんなら腕時計型通信機でお母さんに連絡できるだろうけれど
私そんなの使えないよー。
そっか……
飯田さんみたく交信すればいいんだ。
よーし、交信交信。
ちょっと空間を見上げる形で自分の世界に入り込んでいきました。
- 238 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:54
- ……………………………………………………。
はっ!
これじゃ交信じゃなくて幸うす江。
「うおーーーー、はいたーーーーー!」
我に帰った私。どうしよう。
そのとき見事なまでのタイミングでれいなから電話がありました。
「絵里?今ね、近くまで来てるから」
「れーな?れーな、ハイター買ってきて!
ハイター。トイレ用のね!お風呂とかキッチンとかじゃないよ」
よーしこれでOK。
しかし
気になりだすと気になるもんで
壁の汚れとか
玄関の砂利砂利とか
観葉植物の葉が曲がっているとか
そういったものをいちいち片付けているうちに
ピンポーン
れいながやってきた。
- 239 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:54
- 「ハイター買ってきたよ。
それとね、おいしそうなクッキー……」
「れーな!れーな玄関掃いて。ほうきあるから!」
「え?え?」
私はれいなを玄関に押し戻してほうきを渡した。
ハイターを手にしてトイレに向かう。
ぐにょぐにょの液体を便器に流し込んでごしごしごし。
さらに壁とか床とかを水拭きしてトイレ徹底清浄。
「絵里ー、終わったよー」
「ほんとに?次ねキッチン磨いてキッチン」
「ええーー?」
私はれいなをぐいぐいとキッチンに連行してスポンジを渡す。
私はバルコニーの鉢植えを必死に並べ替える。
そうして部屋に戻ってみると
ちょっと汗かいたれいなが立っていた。
「絵里……クッキー」
「あ、ありがと。ごめんねいろいろ。今お茶いれるからね」
- 240 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:55
- 私はキッチンに戻ると紅茶をいれてそそぐ。
うっわーキッチン超きれい。れいなやるじゃん。
レモンスライスも添えて
カップを持っていってテーブルの真ん中に置いた。
「ありがとね」
「絵里?急にどうしたの?」
「今日ね、高橋さんが来るの」
「……そ」
「やっぱりさー、高橋さんにはきれいな部屋に来てほしいじゃない」
「れいなが来る時、いつもきたないやん」
「でもねー高橋さんが来るなんてねぇ」
「……絵里」
「なに?」
「れいなミルクティーがいい」
「え?……あっそう?ちょっと待ってて」
私はバタバタとキッチンに向かった。
そうしてミルクをとってれいなに渡してやる。
- 241 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:55
- 「あっ!メール」
<あと15分くらいで着く>
うっきゃぁ。もうそんな?
「れーな!ごめん帰って」
「はぁぁ?」
「帰って帰って、高橋さん来る」
「れいながいちゃいけない?」
「だめだめだめだめだめです。何人たりともだめ」
だってせっかく……ねぇ。
「ふぅん」
私はメールを返信する。
<了解です>
そうしてれいなをぐいぐいと玄関まで連れて行った。
「じゃあ今日はありがとね。本当にありがとね」
「……れいなも、絵里と一緒にいたいよ」
「また、今度時間あるときに遊ぼうよ。ね!」
「……絵里のバカ!」
そういってれいなは行ってしまった。
なに?今の……
- 242 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:55
- 私は微妙に煮え切らない気持ちで部屋に戻った。
もどった。
「……ウソ」
完璧だったはずの部屋の一点が乱れていた。
テーブルの端で横倒しになったカップからこぼれたミルクティーが
見事にカーペットを汚していた。
いつ?
たぶん、私がメールに夢中になっているとき。
れいながうっかりこぼしちゃったのか?
いや
違う。
私はカップをテーブルの中央に置いたのだ。
あんなに端っこで倒れているなんて普通じゃない。
よりによって、
染みの残るミルクティーを……
- 243 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:55
- ―――れいなミルクティーがいい
……れいな。
まさか私の部屋に痕跡を残すためにわざと
ミルクティーを?
そうまでして邪魔をする?
なんで?
わからない。
「わからないよれーな!」
……いや、そうじゃないか。
本当はわかっている。
わかっていながら気づかない振りをしていただけだ。
れいなの気持ちに。
……ごめん。
泥水みたいな液体がカーペットに染み込む。
私に沁み込む。
- 244 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:56
- 気分はぐんと沈んだ。
表情はとても人に見せられるものではないだろう。
罪悪感で身体が重かった。
追いかけよう。
れいなにちゃんと謝ろう。
こんな中途半端な気持ちのままなんて嫌だ。
私はサンダルをつっかけて扉を開いた。
「おわっ!」
扉の向こうには
「びっくりしたー。もう着いたでー」
高橋さんが立っていた。
- 245 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:56
- 続く
- 246 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 21:57
- あっ……タイトル書いてなかった。
トータル・タートル2
です。
- 247 名前:いこーる 投稿日:2004/08/20(金) 22:08
- >>232
動機等につきましては作者自身にもわかりませんね。
しっかしガキさん黒すぎになってしまいました。
>>233
ありがとうございます。
機会があればこういう作品も書いていきたいと思います。
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/21(土) 09:38
- 新作待ってました
トータル・タートル2と言うことは...
期待しています。
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 19:06
- ものすごく続きが気になります
絵里はこの後、いったい?
- 250 名前:名無飼育 投稿日:2004/08/24(火) 01:25
- ウホッ いい続編
- 251 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:34
- 巨大な隕石が地球に向かっているらしい。
あと数時間で、地球は大惨事に見舞われる。
人類の存亡をかけて宇宙に飛び出したは救世主。
しかし……
- 252 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:34
-
玄関に立った私は高橋さんを前にして
なんと
足が震え出したのだった。外部からはわからなかったかもしれない。
しかし自分の中では、足の力が抜けて倒れこまないようにと必死だった。
こんなに恐ろしく感じたのはいつ以来だろう。
最初はその恐ろしさの正体に気づかず
ただただ自分のおかれた境遇に呆然とするばかりだった。
そして徐々に、震えの正体をつかみかけて
私はさらに呆然とする。というか自分に呆れる。
高橋さんと会える。
そうわかったとき
私が真っ先に為すべきだったのは
部屋の整理整頓なんかじゃなかったんだ。
れいなに好かれるのを心地よいとか感じていながら
れいなに対しても高橋さんに対しても何の罪悪も感じなかった
自分の気持ちをどうにかすべきだったのだ。
気持ちの整理整頓。
- 253 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:35
- そう……
れいなに対して中途半端でいることが
どれだけ高橋さんに失礼なことか
キスまでしてくれたこの人を裏切ることになるのか
それを知って私は恐怖した。
いや、正確に言うなら
そんな簡単なことに気がつかなかった自分自身に恐怖した。
それでも私に何ができたでしょう。
今ここで
私と2人で見ようとビデオまで借りてきた高橋さんを置いて
れいなを追いかけたところで何て言えばいい?
―――れいなの気持ちは嬉しいけど、私には高橋さんが……
そんなセリフを言うために
高橋さんそっちのけでれいなを追うなんてナンセンスでしかない。
それこそれいなに顔向けできない。
だからって
だからといって
れいなへの不安を抱えたまま
高橋さんと向き合うことが
果たして正しかったのか……
それもわからない。
- 254 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:35
- ただ
ただ単に
私は疲れていただけなのかもしれない。
掃除しまくって、
自己嫌悪に陥りまくった。
反省しまくった。
へこみまくった。
この疲労は半端じゃない。
だから
結局のところ私は心の中でれいなに謝りながらも
高橋さんと一緒にすごすことを選んでしまった。
- 255 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:35
- 実際私は高橋さんがビデオセットしている間(うちのビデオをセットさせるなんて!)
ソファでぐでぇ〜っとなっているだけなのだった。
高橋さんに浮かれた。
れいなにへこんだ。
自分沈んだ。
地球沈む……
そんな不穏なフレーズが耳を突いたと思ったら
「ふわぁ!」
高橋さん
しっかり私の隣に座っていた。
「簡単にいうとそういう映画やね。隕石落ちる。地球沈む」
それ
端折りすぎ。
「まぁ見てみよ」
- 256 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:35
- こっちを向いた高橋さんの
ほほえみなのかにやけなのか中途半端な顔を声で
くすぐられるような幸福が
私の脳内を駆け巡っていく。
「はぁい」
私自身、溶けていきそうな声を出した。
不思議。
自分じゃこんな声出せない。
高橋さんと一緒じゃなきゃ出せない。
きっと
甘えてるんだ私。
包まれているのかも私。
心地よくって最高。
ふわふわと心地よい。
ゆらゆらと快い。
ぽかぽかと暖かい。
- 257 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:36
-
真っ暗な道を
れいなが走って遠くなって行った。
必死に追いかける。
さゆのうちわを持ったおじさんが
私の行く手を阻んだ。
ちょっと!どいて!!
私はれいなに謝らなくてはいけないの!
うちわの風に遮られて進めない。進まない。
!!
見ると
おじさんは高橋さんに変っていた。
高橋さんの両手にはさゆのうちわ。
嫌!
どうして?
ひどいっ!
ひどいよ!!!!!!!
- 258 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:36
-
汗をぐっしょりかいていると知って
ようやく目が覚めた。
高橋さんの肩に1時間近く寄りかかっていたと知ったのは
それからしばらくしてから。
画面では
なんか浜辺で父娘が抱き合っていた。
そこに津波。
ふと
高橋さんを見た。
映画に夢中な高橋さん泣いていた。
その真剣な表情。
映画なんかより
そっちにきゅうってなった。
ぽーっと高橋さんを見ていた。
映画が終わるまでずっと見ていた。
- 259 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:36
- 「ふー、泣いちゃったー!」
高橋さんが私に向かって
あははっ
って微妙に照れながら涙を拭っている。
高橋さん。あなたはよく泣くけどその雰囲気も好きです。
それなのに
「あーっ、もうこんな時間か」
高橋さんはそんなことを言い出した。
「もう帰らなきゃ」
「え?え?」
私は知らず知らずのうちに
立ち上がろうとする高橋さんの袖をぐいとつかんでいた。
「……何してる?」
「待って。待って待って!」
私、寝ちゃってたから
全然高橋さんと一緒にすごせてない。
変な夢を見ていたの。
れいなの夢を見ていたの。
風にとばされて自分の気持ちがなくなっちゃう夢を見ていたの。
- 260 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:37
- 「でもなぁ。明日も仕事やしなぁ」
「じゃあじゃあ絵里のところに泊まってってください」
「いや、そんなつもりなかったから準備も何もしていないし……」
「心の準備ならあります私!」
「……は?」
じゃなかった。
じゃなくって……
今、
高橋さんがいなくなってしまうなんて
「……やだ」
「……」
泣きそうなときの私の表情ってほんとに悲愴で目も当てられないってことは自覚があった。
それはある種、最後の手段だった。
最後の手段が
このタイミングで発動した。
「お願い……絵里を1人にしないで!」
- 261 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:37
- 「……でも」
でもって言った高橋さんの声
1オクターブ低くなっていた。
はっとして高橋さんを見た。
見なきゃよかったのに見た。
一瞬だけ
絶望的なくらい
「気持ちだけありがたく受け取っとく」
「……そんな」
顔をゆがめた高橋さんの表情があった。
私の気持ちを心の底から迷惑がっている表情だった。
最悪だ。
最後の一手が
最悪の形で伝わってしまった。
- 262 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:37
- 「……ごめんなさい、わがままいって……」
高橋さんは何も言わない。
「ごめんなさいごめんなさい」
私は下を向いて壊れたみたいにごめんなさいを繰り返していた。
自分の気持ちがわからない。
自分勝手な私に何が言える?
そんな自分が本当に嫌。
それでも
止められないの。この気持ち。
「好きです」
泣いてしまった。
こんなところで泣いたってしかたないのに泣いてしまった。
「……高橋さんが好き」
- 263 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:37
- 「私も……好きやで」
そう。
その言葉。
何度か聞いた。
何度も聞いた。
高橋さんにとって
いつもの
使い慣れた
自動化された
日常化された
「好き」
いままでどおりとなんら変化のない発音。
私をなだめるための「好き」
そんな言葉が欲しいんじゃない……
- 264 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/09/07(火) 21:37
- 私は
高橋さんを玄関に置いたまま
「さよなら!!」
部屋に戻ってドアを閉めた。
ドアが非常識なくらい大きな音を立てた。
れいなの残した染み後がやけに鮮明に見えた気がした。
- 265 名前:いこーる 投稿日:2004/09/07(火) 21:38
- 続く
- 266 名前:いこーる 投稿日:2004/09/07(火) 21:40
- >>248
お待ちいただきありがとうございます。
はい、まさしく「・・・・・・2」です。
それでどうなるか、ご期待くださいませ
>>249
更新の切り方がちょっといじわるくなっていますね;汗
気になる展開を頑張って紡いでいけたらと思います。
>>250
悪くならぬよう頑張りますね。
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/07(火) 22:11
- そんな・・・亀井さん残念です
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/07(火) 23:50
- ああーまたいいところで...続きが気になりすぎです
- 269 名前:いこーる 投稿日:2004/10/09(土) 19:55
- ひと月も放置してすみません。更新します
- 270 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:55
- 「ねぇ……知ってる?」
鏡見ながらさゆが聞いてきた。
「知らない」
私は携帯を眺めながら答える。
「そ……」
問い合わせてもメールの着信はなし。
「何が?」
鏡を見ているさゆ。
「なんでもない……」
- 271 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:55
- さゆが妹と呼ばれていることは前々から知っていた。
高橋さんからね。
そんなものを見せ付けられて私は
なんだ妹かと半分は安心した。
そして
そうか妹かと半分は嫉妬した。
どちらの半分が自分で
どちらの半分が建前なのかは
この際どうでもよくって
そのほっとしながらいらだっている自分の
落ち着きのなさ、不合理さが恥ずかしい。情けない。
- 272 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:56
- 「ねぇ……絵里さぁ」
真っ先に運ばれてきたのは2人分のサラダだった。
「なに?」
私は、テーブルの端っこにあるドレッシングを手に取る。
「高橋さんは今、どこにいるの?」
「……」
梅じそドレッシングが勢いついて
私のサラダにドバァとかかってしまった。
「なんで?絵里に聞くの?」
「だって、最近絵里、高橋さんと仲良いし……」
さゆの上目遣いが私をとらえる。
私の手元にあったドレッシングのフタが
カランと落っこちた。
フタを取りながら私は思案した。
さゆに
私たちの関係を知ってもらったほうがいいだろうか。
考えた。
- 273 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:56
- さゆ。
自称、高橋さんの妹。
妹と呼ばれたさゆは
どうだろう、どんな気持ちなんだろう。
ふざけあっているだけかも知れないと
表情から思った。
しかし
私はさゆの表情から心情を言い当てたためしが
いっぺんもないものだから
そこにある不安は消えてくれる気配がなかった。
不安がつのると自分は暴走してしまうということを
私自身心得ているつもりだったから
この状態を長く続ける気にはとうていなれない。
- 274 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:56
- だから
「ねぇ……さゆ」
さゆはレタスをしゃぐしゃぐやっている。
ウサギみたく……。
そのときの私は追い立てられていた。
「……なに?」
さゆに自分の気持ちと
高橋さんの返答とを伝えておかなくてはならない。
そう思って、思い込んであせっていたのである。
「なんでもない……」
たださゆの気持ちも知らずに
先走った行動を取れるほどの
度胸も持ち合わせていない私は
ただ待つしかなかった。
さゆと、高橋さんの本音が私の前にひょろりと出てくるのを
じっと亀のように耐えながら待つしかなかった。
- 275 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:56
- どこのだれかがデビューしたてのさゆを見て天然だと言った。
それがまるであたらないのを私もれいなもよく知っていた。
さゆのあれは
無意識ながら確実に人を虜にする不思議なパワーがある。
というか自分のワールドに人を引き込むためにあんなことをしているのではないかと
私もれいなも疑っていたものだから、
当時の3人は傍で見ているよりもずっとギクシャクしたものだった。
それに飛び出し方が上手い。
私もれいなも飛び出すときは思いっきり前に出てしまって
後になってそれを悔やんでいることが多かった。
ギリギリのところまで目立っておいてすんでのところで
踏みとどまる巧妙な自己主張のできたさゆのことを
多少気味悪く思っていたというのが今になって思う当時の本音だった。
- 276 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:57
- 私にはさゆを敵に回して
さゆを恋敵にして
勝利を収めることなどできないという変な確信があった。
だから
先手を打っておかなくてはならなかったのに……
レタスを一通りかじりおえたさゆが再び口を開いた。
「ねぇ絵里……」
さゆは
顔をくいとこちらに近づけて語り出す。
わたしは
間近に迫ったさゆから目をそらすことができなかった。
そうしてさゆは
高橋さんに対する切ない恋心を私に打ち明けたのだ。
- 277 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:57
- トマトを取り落とした私は
何もできなかった。
さゆの気持ちのいかに大きいかを知らされた。
さゆが私よりもさきに高橋さんを思っていたことも
知らされた。
惹かれる理由もわからず
だから気持ちを抑えることもできず
かといって勇気も持てず
妹と呼ばれる微かな甘さにすがって
妥協していたということを
逐一知らされた。
そのときの私は仔猫だった。
外敵に怯え
布団に包まったまま
震えるしかできない
弱い猫も同然に
ただ固まった。
- 278 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:57
- しばらくしてさゆが語り終える。
私は
先を越されたと思った。
そのとき
さゆの投げてきた直球を打ち返してやることができたら
まだ良かったのかもしれない。
しかし
叶わぬ想いに苦悩するさゆの涙を見せつけられて
自分の想いを伝えることなど
私にはできなかったのだ。
その
強烈なまでの想いに圧倒されて
私は自分の気持ちがさゆに対するに充分でないことを
思い知ったのだった。
- 279 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:57
- 何か皿が運ばれてきたのに
それに目をやることも忘れていた。
「……さゆ」
私の思いは
こんなにも
仲間の心を
自分の心を
傷つけるか。
私は暗くなった。
- 280 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:57
- 「おっ……抹茶アイスだ!」
声がしたので振り返ると
そこに矢口さんと高橋さんが立っていた。
「どっち?」
矢口さんが
私とさゆを交互に見た。
「抹茶は絵里です」
「へぇ、かぶったね」
そう言って
矢口さんは高橋さんを見る。
高橋さんの手元には
私のと同じ色したアイスクリーム。
「すっごいねぇ。なんか通じ合ってるねぇ」
私は
ちらりとさゆを見た。
見なければ良かったのに見た。
歯をくいしばって
こちらを恨めしそうににらんでいる。
- 281 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:57
- 「亀井と高橋。うん、似たもの同士かも」
私は
なんと言って良いかわからず下を向いた。
でも
さゆには言ってないけど
私だって好きなんだ。
デザートかぶったってだけでも
踊り出したくなる気分なんだ。
高橋さんにこの想いを
アピールしたい。
でも
さゆの視線が許してくれない。
私は自分の気持ちを表出しないように
必死で耐えていた。
- 282 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:58
- 嬉しさを抑えようという私の奮闘はしかし
あっというまに終焉を迎えた。
高橋さんの口から
「別に……それが何か?」
低い声が出てきて
さっきまでの複雑な嬉しさは
単純なまでの落胆へと姿を変えた。
……高橋さん。
そっけなく言い放った言葉。
私と目を合わせようとしないあなた。
照れ隠し……なの?
違うの?
時間がないからと奥へ消えていく2人をじっと見ていたが
高橋さんはついに私の方を見なかった。
悔しくって
涙が溜まっていく。
- 283 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:58
- ミルクティも見果てぬ映画もドレッシングかけすぎたサラダも
ムカついた。
だめ。
さゆの前で泣いたら
あらぬ誤解をかけられる!
「絵里……どうしたの?」
でも私の涙は止まってはくれなかった。
泣き声だけはどうにか抑えたが
大粒の涙は次から次。
恋敵の前に
恋人に涙するなんて
情けない。
みじめすぎる。
「絵里……」
さゆの手が
私の方へ伸びてくる。
私は
ぐっと拳を握り締めた。
- 284 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:58
- 「絵里……ひょっとして……」
さゆの手が途中で止まった。
「まさか」
さゆの手が引っ込む。
友人の気遣い
敵意に変る。
「……そうなの?」
さゆの質問に
私は
弱弱しく
うなづいた。
- 285 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/10/09(土) 19:58
- ダンッ!
テーブルを思いっきり叩いてさゆが立ち上がった。
そうして
複雑な
すっごく複雑な表情を残して
走り去って行ってしまった。
料金だけはきっちりテーブルに置いてあった。
- 286 名前:いこーる 投稿日:2004/10/09(土) 19:58
- 続く
- 287 名前:いこーる 投稿日:2004/10/09(土) 20:00
- >>267
亀井さんに救われて欲しいのですが……
どうにも今回はこんな展開なんです。
よろしくおねがいします。
>>268
もどかしくってすみません。
なかなかすっきりしなくなってきました;
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 01:06
- ?
今回の話は過去なのですか?
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 16:09
- 更新お疲れ様です。待っていた甲斐がありました。
それにしても高橋さんはそっけない。でも何かありそう。
次の更新も楽しみにしています。
- 290 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/24(日) 21:14
- 最初からぶっ通しで読みました{汗
なんか複雑な心境です。
天国から地獄へって感じで。
でも続きが気になる自分ってどうなんでしょう?
更新待ってます。
- 291 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:41
- 高橋さんが心を見せないことについて
私はなんと不器用な人なんだろうと思っていた。
思うこと考えること感じた何か
それらを伝える術を持っていないで
それでもあの人
寂しがりやだから
ねぇ聞いてる?
いっつもそう言うんだ。
- 292 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:41
- しかし
れいなの気持ちを無視して
さゆの恋に気づかぬ振りをした私は
自分の欠陥に気付きはじめていた。
ひょっとすると
高橋さんの考えが私に伝わらないのは
その欠陥せいなんじゃないか
とも考えるようになった。
つまりこれは
私の理解力の問題で
私が高橋さんの考えていることを
何一つ汲み取ってやれないってことなんじゃないか。
そう思ったのだ。
- 293 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:41
- 原因をあれこれ考えたところで
答えが出たわけじゃない。
だから私は結局のところ
相手の心に幕がかかって見えないのを
もどかしく思うばかりなのだった。
あの夜もそう……
- 294 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:41
- 解散となった後
メンバが
あるいは一緒に帰ったり
あるいはかたまってご飯に行ったり
あるいはお迎えの車に乗ったりしているなか
私は高橋さんの後ろ姿をさがした。
ちょっとだけ肌寒くなった季節だった。
これはもう随分前からの日課。
なるべく一日の最後が高橋さんであるように
私は帰る前に高橋さんを少しだけ見る。
それでようやく
身体が地面につく気がするから。
- 295 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:41
- あれ?
と思うと高橋さん
駅に向かわずお迎えも待たず
ビルの裏側へ歩いて行った。
もういい時間だった。
寒いというのに。
「何してんだろ……」
あとをつけるなんてと思ったけれど
高橋さんの不審な行動で
今日という日を締めくくるなんてことに
我慢できなかった私は
結局あとをつけていった。
- 296 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:42
- 行き先は裏手の自転車置き場だった。
こんなところに用でもあるのだろうか。
自転車通勤?
まさか……ねぇ。
と思っていると
高橋さんは自転車の列はさぁと一眺めして
おしっと小さくささやくと
一つのママチャリめがけて小走り。
こっそりつけている私は
見つからないようにゆっくりゆっくり近づいていった。
ひゅうと冷たい風が駆け抜けた。
その風が
夢中だった私を覚醒させた。
冷静になった私は高橋さんの様子を観察。
- 297 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:42
- そのとき
目にしたものを
私はスローモーションで
呼びおこせるくらい
鮮明に記憶している。
高橋さんが
私は目を見張った
ポケットの中に手を入れて
息を呑んで、その物体の意味を考える余裕なんて
小さなドライバーを取り出した。
まるでなかった。
- 298 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:42
- 何?
あれ何?
高橋さんは
見知らぬ自転車の鍵に
ドライバをすっと差し込んだ。
しばらくこちょこちょやっていたが
反応がないのに我慢ならなくなったのか
ドライバで荒々しく
鍵穴をガシガシやっている。
慣れない手つきだった。
というより
滅茶苦茶だった。
普段の彼女からは考えられないくらい
粗暴な振る舞いだった。
- 299 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:42
- そのとき高橋さんがどんな表情だったのかわからない。
見ることができなかったのだ。
見てはいけない。見たくない。そう思った。
私は恐ろしくなった。
ただあれが高橋さんなのだと妙に説得力のあるような……
ガシガシと
軽い金属がぶつかり合う音が
冷たい空気を震わせて
私を震わせている。
……いやあれこそが剥き出しの高橋愛なのだ。
高橋さん
なんでつけてきてしまったのだろう。
ちょっと
高橋さんの顔を見られれば
安心して帰れるはずだった。
それがこんな暴力的な
高橋さんの深層を
目撃することになるなんて……
高橋さんが鍵をいじくる音は延々続く。
- 300 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:43
-
逃げよう
- 301 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:43
- 見なかったことにしよう。
知らなかったことにしよう。
覗かなかったことにしよう。
これからも
あの人のこと
好きでいられるかは
後で考えよう。
とにかく
高橋さんの本質から
少しでも早く離れてしまいたかった。
泥棒よりも最悪だ
あんな凶暴な高橋さんに
あの鍵穴みたく
いじくりまわされたら
私は
死んでしまう……
そんなばかな考えだけは頭に浮かんだ。
- 302 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:43
- 私は
走り出した。
見つかるかどうかなんて考えなかった。
ただ一刻も早く逃げたい。
走る。
何か叫んでいたかもしれない。
とにかく走る。
ようやくビルの入り口まで来た。
ここなら
もう見えない。
ふぅとため息をついて
私は地面にしゃがみこんだ。
「うあぁ……」
放心していただろう。
そうして必死に気持ちを落ち着かせようとした。
- 303 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:45
- 悲しくなった。
高橋さんに悲しくなった。
高橋さんに夢中な自分にも
高橋さん。
どうしたの?
なにか
辛いことあった?
それなら
「絵里に相談して欲しかったな……」
ははっと自嘲が漏れた。
そうしてまた
悲しくなった。
何に悲しくなったかはよくわからない。
- 304 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:46
- ただ
自分は高橋さんの何なのだろうと
そんな場違いな疑問ばかりが頭を駆け巡る。
自転車に八つ当たりはしても
私を頼ってくれたりはしないんだね。
もちょっと
まっとうな関係だと思っていたのに……
「なにも、わからなかったよ……」
独り言。
「なにも……」
私は
高橋さんがあんなふうだったなんて
あんなふうに大変だったなんて
全然気付いてやれなかった。
- 305 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:46
- 少しずつ落ち着いてきた私の思考がようやく回り出す。
状況を推測する。
高橋さんを追い詰めるような出来事があった。
今日か昨日。
おそらく昨日だと思う。
突発的にドライバーを用意できるはずないのだから。
昨日
何かの理由で高橋さんは
自転車を盗むことに決めた。
自転車を買うお金がないとは思えないし
私や彼女の生活の中で自転車
そう必要でもない。
だとすると自転車そのものに用があったわけではなく
「盗む」という行為に意味があったか
「盗んでいる自分」に何かを見出したかったのかもしれない。
- 306 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:47
- 仲間もいっぱいいて人気もあって
やりがいもあって収入もあって……
「まともな人生」なんて賛辞が無用なほど
輝かしい道を歩んできた高橋さん。
「盗み」とはそこから外れることだ。
レールの上からわざと脱輪させるようなもんだ。
優等生のレール。
自転車泥棒。
高橋さんの気持ち
少しわかった気がした。
別に根拠があったわけではなく
主観でそう感じ取っただけだけど。
- 307 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:47
- チリチリと音がする。
見上げると
「高橋さん!」
そこに
自転車に乗った高橋さんがいた。
そうして
私に手を伸ばしてきた。
「え?」
- 308 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/11/08(月) 20:48
- 私はしゃがんだままの格好で
その手をぼうと眺める。
「乗って……」
そう言った。
その調子は
「後ろ……」
指示や提案ではなく
懇願といったふうだった。
ちょっと
寂しそうだった
この冷たい空気みたいな
高橋さんの声だった。
- 309 名前:いこーる 投稿日:2004/11/08(月) 20:48
- 本日はここまでです
- 310 名前:いこーる 投稿日:2004/11/08(月) 20:55
- >>288
すみません。
時系列とか特に決めてないです;汗
決まっているのはすべて前作より跡の出来事ってくらいです。
>>289
読み返してみて高橋さん
ほんっとそっけないですねぇ
たまにふと真顔になる彼女に
少し怖くなることがあります。
>>290
いやぁ続きを気にしていただけると
作者は嬉しい限りです。
天国から地獄……ですか。とくに意識してなかったです;
これから物語はどこに行くのか、
まだ決まってない状態ですがよろしくです。
- 311 名前:いこーる 投稿日:2004/11/08(月) 20:55
- こちらにも……
作者がサイトを立てました。
ttp://berryfields.hp.infoseek.co.jp/
よろしければお越しください
- 312 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/10(水) 19:47
- なんだか切ない、そこまで追い詰められてたんでしょうか?
でもそこまで我慢しなくても愛しい人に話すことをしなかったんでしょうか?
きっとできなかったんでしょうね。
更新待ってます。
- 313 名前:いこーる 投稿日:2004/11/13(土) 21:29
- 作者です。
突然ですが、私的事情により、これより三週間ほど
更新することができなくなってしまいました…
よって、しばらくの間スレを放置する形になります。
お待たせするのは大変心苦しいですが、どうかご了承
いただけたら思います。
それでは。
- 314 名前:いこーる 投稿日:2004/12/03(金) 21:19
- 少量ながら更新します
- 315 名前:いこーる 投稿日:2004/12/03(金) 21:19
- 盗んできた自転車にまたがったまま
高橋さんは私が後ろに乗るのを待っている。
「ど……したの?」
高橋さんは答えない。
「ねぇ何かあったの?」
やはり
高橋さんは答えない。
わたしの
心の温度がさぁと下がっていく。
私は迷っていた。
何も教えてくれないままこの人についていくべきだろうか。
私にそっけなく
私を頼ってくれもせず
私の気持ちを知りながら
何を考えているかわからないあなたに
私はついて行っていいのだろか。
- 316 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:19
- なんで急に私を連れてこうとするの?
なんでそんなに寂しそうなの?
なんで?
わからないよ……
……………………………。
でも
高橋さんが
今
一瞬でも
ほんのちょこっとでも
私を必要としてくれるなら
「わかった」
私は自転車へとことこ歩く。
そして
右足をあげて
後ろの荷台に
またがった。
- 317 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:19
- 「ほえ?そう乗るの?」
「え?」
高橋さんは目を見開いて
私のことを見ている。
奇異のものを見るかのように。
「え?絵里おかしなことしました?」
「いやぁ普通、こう乗らん?」
高橋さんは身体を横にして荷台に腰掛ける真似をする。
私
その乗り方つい最近まで知らなかったんです。
はじめてその乗り方を知ったのは
映画館の中。
「『耳をすませば乗り』ですね」
「なんやそれ?」
- 318 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:20
- 初めてその乗り方を発見した記念に
私が勝手にそう呼んでいるのだと言うと
高橋さんは
「絵里、そらおかしいわ」
「おかしくないわ」
「おかしいって!」
「おかしくないって!」
ほえぇと言って高橋さんは呆れた。
その表情がなんかムカついて
亀井、久しぶりに逆切れしました。
「いいの!絵里はこう乗るの!」
「何怒ってるの?」
「いいもん、早くどこか連れてってよ!」
「おし」
高橋さんは
盗んだ自転車のペダルに足をかけた。
- 319 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:20
- 私は思わず
うふふっと笑ってしまった。
高橋さんはまた変なものを見るような表情を向けてくる。
だって
なんだかんだ
いつもの会話ができてるの
嬉しいよ。
胸の中に
苦しいくらい不審と猜疑と
あるけどさ。
それをお互い忘れたふりして
恋人できてる。
ホットウーロンで胃痛がなくなっていく感じだよ。
- 320 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:20
- 「それにこの乗り方ね……」
私はそう言って
背中から
両手を回して
高橋さんに抱きついた。
「こうできるでしょ?」
ぎゅうってした。
ぎゅうってしてやった。
高橋さんの背中の温かさが
私のおでこから伝わってきて
ふと
切なくなった。
こういう幸せはごまかしだと思う。
不安を隠してじゃれあうのって
どうしようもない偽りなんだって思う。
- 321 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:20
- 「早く……行こ」
幸せも温もりも
あなたを求める弱さも
寂しさも不安も
あなたを疑う弱さも
みんなみんな
風でとばされたらいい。
ねぇ高橋さん。
スピード出して
絵里をつれてって。
- 322 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:21
- 高橋さんの腹筋に力が入って
そのたびにぐんぐんと進む自転車の
一生懸命さがかわいくって
やっぱり好き
私の心がじゅわぁってなった。
夜の街は明るかった。
街頭やネオンサインが
きらきらしててすっごくきれい。
高橋さんの肩が
私の視界を遮って
そういう景色のちょっとしか見えない。
首をくぅと伸ばしながら
風景ながめる。
ときどき
高橋さんの横顔を見ながら。
寂しそうな横顔を。
- 323 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:21
- 私は何も言えなかった。
高橋さんの背中はあたたかかったのだけれど
高橋さんの心のシンと冷たい感じが伝わってくるみたいで
それが怖かった。
好きだ。
高橋さんのことが好きだと自覚をしてしまうといっそう
その冷たさが厄介なものに
自分にとって不幸をもたらすものに思えてきて
それ以上知るのがどうしようもなく怖くなる。
今
私は高橋さんの悩みを聞いてあげられない。
さっきまでは自分を頼ってくれない高橋さんが嫌いだったのに
今は高橋さんを受け止めてやる準備のない自分の弱さを呪う。
私は人の悩みを聞くほどの余裕など
これっぽっちも持ち合わせていない。
私は高橋さんのおかげで自分を見つけられた。
あの日
あのバッグに納まったとき
高橋さんが私を見つけてくれたから
私は自分を見つけられた。
- 324 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:21
- その私が今は
環境に翻弄されながら再び自分を見失いかけていた。
それでも
今度ばかりはあなたは何の支えにもならない。
高橋さんしってる?
さゆは高橋さんが好きなんですよ。
れいなは私が好きなんですよ。
私たちの関係は
友達を
傷つけてしまうんですよ。
そういう状況に揺さぶられて
私は自分の気持ちの意味
自分が高橋さんを好きでいる価値が大したものでないと
そんなふうに思ってしまうのだった。
- 325 名前:トータル・タートル2 投稿日:2004/12/03(金) 21:21
- 2人とも何かを抱えて
お互いに晒すことのできない苦しみ抱えて
ごまかしあっているんだ。
自転車こぎながらうっすら汗をかいた高橋さんの背中の匂いに
ほっとしている私がいて
私をのせて必死に進もうとしているあなたがかわいくって
そういう幸せを失いたくないって思うから
2人の不安には触れたくなかった。
自転車は
ちょっと広いコンビニで止まった。
- 326 名前:いこーる 投稿日:2004/12/03(金) 21:21
- 以上になります
- 327 名前:いこーる 投稿日:2004/12/03(金) 21:23
- >>312
ありがとうございます。
切ない流れが続いてきました……
途切れ途切れの更新ですが
今後もお付き合いいただけるとうれしいです。
- 328 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:06
- 大変お待たせして申し訳ありません。
これからはちょくちょく……と思ってはいます。
- 329 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:07
- 自転車降りて高橋さんから手を離す。
「ちょっと……入らん?」
高橋さんは目を合わせずにそう言った。
そのとき私には儚い期待から返事をせずにいた。
こうして黙っていれば高橋さんが
私のことを気にしてこっちを見てくれるに違いない。
そういう自信のない目論見から
私はじっと話さなかった。
高橋さん。
こっち見て……
しかし
その懇願は伝わらなかった。あるいは伝わった上で無視されたか。
とにかく高橋さんは
私が返事をしないのを感じ取ると
……ウソ
1人でコンビニの中へと入っていってしまったのだ。
- 330 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:07
- 私は固まってしまった。今夜の冷えた風よりも冷たく
私の心は沈んで行った。
なんで私はこうもよっかかろうとしてしまうのだろう。
高橋さんが何かを抱えていて、私の心を読み取る余裕なんてとてもないと
さっき気づいたはずだった。
それなのに私は
高橋さんに気づいてもらおうとしていた。
私の寂しさを向こうが消し去ってくれるのを期待していた。
私のせいだ。
このすがってばかりの性格がいけないのだ。
でもだけど
高橋さんの
声聞くと
優しいことを
期待しちゃう。
- 331 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:07
- 頭ではわかってるよ。
今の高橋さんは……
何があったか知らないけど絵里が支えてやらなきゃいけない。
わかってる。
なのに
どうして求めてばかりの私。
どうして大人になれない私。
どうして支えてやれない私。
私は……何?
高橋さんの何かになってやれてる?
そう思いはじめて
私はまたしても自己嫌悪。
その自己嫌悪がこの寒さでどんどん大きく
絶望的なくらい大きく
なんで
こんな辛い思いしてまで
高橋さんを好きでいなきゃならない。
- 332 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:07
- こんなふうに思うのは理不尽だ。自分でもそう思う。
それでも理不尽な思いは膨らんできて
ピリリリリリリ……
最悪のタイミングだった
「もしもし?」
「もしもし?絵里?」
受話器の向こうからはさゆの声が聞こえてくる。
「ねぇ絵里、高橋さんどこにいる?」
「え……」
私は
沈黙した。
「ちょ……さゆ?どういうこと?」
「……」
- 333 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:07
- 高橋さんは私といる。
さゆは
高橋さんに何の用だ?
「ねぇさゆ?」
「え……なんでもない」
「どうして高橋さんの居場所を知りたいの?」
無意識に詰問する感じの声になっていった。
「ねぇさゆ!?」
「あっ……えっと」
ふぅ、と受話器の向こうでため息がもれた。
そのため息を聞いたあたりから
「実は……私……」
後悔し始めていた。
この間とおんなじだ。
さゆが
自分の心を打ち明けると
私は圧倒されてへこんでしまうばかり。
- 334 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:08
- 「高橋さんに話したいことあって
今日高橋さん電車だっていうからずっと待ってたんだけど」
「え?」
話したいことって
まさか……
「でも高橋さん来ないの」
「さゆ?今どこにいるの?」
「駅の改札のとこ……」
「ずっと待ってたの?」
「うん」
「この寒いのに?」
「……うん」
なんという執念。
私はあっけにとられてしまう。
この
恐るべきライバルがついに
高橋さんにアプローチをかけるというのか。
- 335 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:08
- 私はさゆに渡してはならないと思った。
私たちの関係が不自然になりはじめているこのタイミングで
高橋さんをさゆに会わせてはならないと感じた。
焦った。
「絵里、知らない?」
高橋さんはね
「知らないよ」
私といるんだ。
「本当?」
さゆになんか渡さないんだ。
「しつこい!切るよ」
「……うん、ごめん」
さゆはあっさり引き下がった。
その素直さに
私の心が引き裂かれる。
- 336 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:08
- 私は冷えていた。
体の芯から
心の底から
冷え切っていた。
私の身勝手な恋心が
友達を見殺しにする。
そんな自分が嫌になって
酷い自棄な気持ちに襲われた。
ひゅうと風が
私の体温を一気に奪っていく。
寒さに思考はとろくなって
もう
なんだか
どうでもいいや。
- 337 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:08
- 店内は明るくておでんとか置いてあって結構あったかそう。
それを見て
あったかさに憧れるような
居心地のよさを求めるような切なさが沸き起こった。
つまり私は
こんなふうに追い詰められても
ぬくもりが欲しくて欲しくてしかたないんだ。
……高橋さん
店に入って高橋さんにすがればいい。
一歩踏み出して素直に甘えたらいい。
さゆのことなんて今は
忘れてしまえばいい。
それだのに私は何もできなかった。
この期に及んでさゆに悪いと思ったわけではないと思う。
ただ
怖かったんだと思う。
- 338 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/08(火) 22:08
- 今
高橋さんに自分の弱さを見せたら
それだけでみんなみんな壊れてしまいそうで
そういう酷い気持ちを抱えたまま
耐えるしかなかった。
寒い……
身体がふるふると震え出しても
私はただ
駐車場からじっと
店内を眺めているしかできなかった。
寒いよ……
お願い。
誰か、絵里をなんとかして!
- 339 名前:いこーる 投稿日:2005/02/08(火) 22:09
- とここまで。
切りが悪い&少量ですみません;
- 340 名前:名無し読者 投稿日:2005/02/09(水) 18:42
- お待ちしておりました!来来次回更新!
- 341 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/12(土) 15:54
- 密かに更新を待ち望んでいました!
かなり追い込まれてきましたね。
更新待ってます。
- 342 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 17:43
- いつまでも待ってますよー。
- 343 名前:いこーる 投稿日:2005/02/26(土) 18:43
- 更新いきます。
- 344 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:43
- あなたは蝶々みたい。
運命感じた人と一緒にいるうちに
運命感じた時点では決してわからなかった
運命感じるより強烈に感じてしまう
ある種の違和感。
運命の届かないような深淵な部分が明らかになるにつれ
あなたの深く暗く醜い部分がわたしに晒されていくにつれ
反対にその運命を放棄したくなるほどの
苦痛が
芽生え
育ち
花開く。
それは
一つ
関係の終わり。
一人駐車場で冷えきった風の中にいると、
そんな冗談みたいな発想が身に沁みた。
わたしたちはそろそろ終わるんじゃないかと。
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:44
- 「運命の人」は、買うものを決めてレジに立っているようだ。
それを、寒い外から見ている私。
こんな構図が私をネガティブ思考……
あのとき
ボストンバッグから私を見つけてくれたとき感じたんだ。
運命だって。
高橋さんが
高橋さんだからこそ
私を見つけてくれた。
そう感じて
いじけて意地張って押し返して迫られて受け入れて寄りかかって
もう離れられなかった。
もうあなたぬきに何かを考えたりできなかった。
もう私なんてなかった。
もう世界にはあなたしかいなかった。
いつだったか
直球なんだか捻り球だか
「あっし寂しがりやなんやって。
絵里がいてくれんと悲しくなる」
とにかく不器用なあなたが
私にそう言ってくれて
頼ってくれるもんだとばかり思ってたよ。
縋ってくれるもんだとばかり……
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:44
- でも私には、あなたが何を求めているかわからない。
だから絵里には、何をしていいかわからない。
あなたは
蝶々みたい。
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:44
- 会計を済ませた高橋さんは
ポットのところまで行ってカップのふたをべりべりはじめた。
なに?スープ飲むの?
―――マイペースな人……
結局こういうときだ。
私が違和感を感じてしまうのは。
運命なんて白々しくなるほどの
圧倒的な違和感。
あなたの時間に
私は本当に関わっているの?
高橋さんは袋からもう一つカップを取り出していた。
手伝って
あげよう
そこからは
運命の問題なんかじゃなく自分たちの問題。
物語の展開なんかじゃなく自分たちの選択。
気持ちの話なんかじゃなく自分たちの行動。
あるいは
二人が試されている夜。
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:44
- 求めるんじゃなくて
手を貸してやりたい。
私は
冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んで
店の中へと入っていった。
レジスターの電子音が響く店内に入ってすぐ右。
高橋さんはポットからお湯をじょぼじょぼ注いでいる。
完全に私に背中を向けていた。
「手伝いますよ」
「おぉ、ありがと〜」
とかいいながら
「あの〜」
自分の手を休めない高橋さん。
「絵里も何かしますよ〜」
「ありがと〜」
背中を向けて作業を完全に自分の手の内で行っている。
私が手を出す隙もない。
- 349 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:44
- お湯を注ぎ終えたらしい高橋さんは
私の見ている前でひょいとカップを2つもって店の外へ出て行ってしまった。
「……」
本当になんて人だ。
私が頑張って決心してここまで来た好意。
ちったぁ気を配ったらどうなのよ高橋!
結局今度は
高橋さんだけ先に外に出てしまって
私だけが明るい店内に取り残されていた。
「もぉ、待ってよぉ〜」
せいいっぱいいじけてみせて追いかける。
それでも
高橋さんは
いつもどおり。
私が望むリアクション、
一切見せてくれないんだ。
「ほれっ」
高橋さんはスープを私に渡す。
私はそれを受け取った。
- 350 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:45
- 2人で駐車場に座り込んでスープを飲んだ。
あっつい液体が胃を焦がしながら胸を焦がしながら
私は火照ったような感覚になる。
この、刺すような胸の痛みはなんだろう。
店の明かりで顔の片面だけが照らされて
私は高橋さんをじっと見ていた。
高橋さん。
迷っているような表情。
あったかいスープだよ?
なんでそんな
寒そうな
心が寒そうな
切ない顔を
しているの?
絵里とおそろいのスープだよ?
あなたが買ってくれた……
- 351 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:45
- その高橋さんの顔に
半分だけ照らされた高橋さんの顔に
一筋の
涙が見えた。
手が
震えていた。
息も
震えていた。
「たかはしさん?」
そう
声をかけると
一瞬
高橋さんは唇をかんだ。
なにかをこらえるように。
そして一言
「…ごめん」
そう言った。
その言葉に芯から冷えた。
- 352 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:45
- 「な……にが…?」
高橋さんは辛そうに
首を振った。
「何?どうしたの?」
「……」
「ねぇ、どうしたの?何がごめんなの?」
高橋さんは何かをしゃべろうとしたけど
呼吸がつまったみたいに何も言わなかった。
涙こらえながらだったから
きっと何も言えなかったんだろう。
だから
私は待った。
スープが冷めきっても待った。
体が冷え切っても待った。
心が冷えきってしまうまで
じっと待った。
- 353 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:45
- 「なぁ……おこらんで欲しいんやけど……」
その言い方に
私も泣きたくなる。
でも私は
自分にできる限界の笑顔を作って聞いた。
「なに?」
私が、
私が受け止めてやらなきゃいけないって思ったから
精一杯
やさしく聞こえるように
「どうしたの?」
笑顔で高橋さんの言葉を待った。
でも
笑顔は長続きしなかった。
「しばらく、お互い距離を置いてみたい」
「え……」
私の笑顔は一瞬で崩れた。
すっと、真顔になった。
- 354 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:46
- 「いつまでも、こうやって2人でいるのって、よくないと思う」
「……何が?」
どういうことだかさっぱりわからない。
なぜ、2人でいてはいけないの?
「絵里はさ……すごく優しいコだよね」
私は寒さに凍りついたように動くことができなかった。
実際冷えていたけれどそれ以上に
心がやばかった。
「私のこと、何も聞かずに受け止めてくれて……」
「そんな……」
そんなふうに、思ってくれてたの?
別の状況ならどんなに嬉しい言葉だったろう。
ただ今は、悲しいかな別れ話の最中だった。
別れる理由を尋ねて
恋人に誉められることがどれだけ虚しいか。
「そんなの……聞いたって話してくれなかったじゃん!」
- 355 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:46
- 「ごめん。今は……話せないんだ」
今は?
じゃあ、いつ?
「いつ?」
「え?」
「いつまで待てばいいのよ!!!」
散々だ。
あまりに
惨々だ。
どれだけ待っても気持ちを見せずに
ここまで待たされて距離を置いてくれなんて
「そんなの、勝手だよぉ……」
「ごめん」
また
ごめんて言った。
「1ヵ月」
「え?」
「1ヶ月だけ、時間をくれんか?」
- 356 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:46
- 1ヵ月。
そんなに待ったら
雪の季節になっちゃうよ。
それまで
私たちデートもなにもできないの?
「仕事とかで話すのはなるべく普通にしといて
それ以外のところでは会うのをやめにしよう」
「嫌だって、言ったら?」
「え?」
「高橋さんと離れるなんて嫌だ!」
叫んでいた。
声は白くなって空気に散じていく。
私の想いも
あなたに
届かぬまま
「……ごめん」
高橋さんは泣きそうだった。
- 357 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:47
- 「どうしても?だめなの?」
もう変らないと思った。
これ以上
追い詰めても
結論は変らない。
「……ごめん」
ほらね。変らない。
「ははっ……」
私はなぜか笑っていた。
きっと好きな人が離れていくのに何もできないのがおかしかったんだろう。
そしてようやく悟った。
運命なんかじゃないんだ。
ただ
高橋さんのペースで
物語がまったり進んでいただけのこと。
私の思いとは無関係にあなたは1人、悩みを抱え
私の想い届かぬままにあなたは1人、答えを出した。
私じゃどうにもならないところで、ようやく答えを教えてくれて
でも
もうあなたの中では決まったこと。
私の気持ちとかが入る隙もなく
もうあなたの中では定まったこと。
- 358 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:47
- 「なにそれ……私、振り回されてただけじゃん……」
「……絵里」
「ここまでマイペースな人と思わなかった」
私と高橋さんの物語だったというのに
私の意志がまるで働きかけをしていなかったという事実に
ようやく気づいて私はほとんど理性を失いかけていた。
ただ
怒りだけが広がっていた。
「わかりました。じゃあもう関わるのはやめましょう」
「絵里?」
「もう私は1人で帰れますから高橋さんは自転車で帰ってください」
高橋さんが驚いたように一瞬止まって
あろうことか私の肩に触れてきた。
ほらっ
「そいうのがマイペースだって言ってんの!」
高橋さんはびくっとなって
そして手を引っ込める。
- 359 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:47
- 「はやく!盗んだ自転車で帰りなよ!
私は勝手に帰るから!!」
高橋さんはひと月と言った。
それをもう少し冷静に受け止められていれば
まだましだったかもしれない。
高橋さんが自転車にまたがる。
しかし
このときの私にそんな余裕などなかった。
高橋さんに向けて壊れたように罵倒を繰り返していた。
自転車をこぎだした。
それだけじゃない。
私は
自転車が遠ざかる。
高橋さんに対する恨みをどうしてくれようかと
そんな残忍なことにまで思考を及ばせていたのだ。
- 360 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/02/26(土) 18:47
- ひと月待てと言われて、そのまま中途半端な距離を保つなんて
そんな都合のいい存在に成り下がってたまるか。
私のつまらないプライドが
私を最悪の行動に走らせてしまったのだ。
私は携帯をとり
着信履歴を呼び出す。
「もしもしさゆ?」
「絵里?どうしたの?」
もう
高橋さんなんて
知らない
「高橋さん、今駅に向かってるよ。自転車で」
運命を変えられない?
運命なんて……
ぐしゃぐしゃになっちゃえばいい。
- 361 名前:いこーる 投稿日:2005/02/26(土) 18:48
- ここまでです
- 362 名前:いこーる 投稿日:2005/02/26(土) 18:49
- >>340
またまたお待たせですみません。
そしてまたまた切りが悪くて(ry
>>341
作者追い込まれっぱなしですw。
これからもどうぞよろしくです。
>>342
心強いお言葉ありがとうございます。
待たせまくりですがよろしくおねがいします。
- 363 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/26(土) 20:17
- 更新お疲れさまです。 亀井ちゃんがついに・・、高橋さんの理由とは一体?かなり切ないというか淋しいというか、かなり暗いほうへと行ってしまいますが結末やいかに! 更新待ってます。
- 364 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/06(日) 19:21
- いつまでも待ってますよー。
- 365 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/08(金) 00:07
- まったり待っております…
- 366 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/13(金) 21:06
- 生存報告だけでもお願いしますm(__)m
- 367 名前:いこーる 投稿日:2005/05/13(金) 23:07
- お待たせしてすみません。
どんないい訳も思いつかず
ただ作者の計画性のなさゆえに
皆様ごめんなさい。
お許しいただけるかわからないけど
更新
- 368 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:08
- 私は木目の天井を見上げたままでいる。
キッチンからはりんごの皮を剥く音がしゃりしゃり聞こえていた。
そういう何気ない音が甘く温かく感じる。
私はよっぽど参っていたのかもしれない。
私は
れいなの匂いが染み付いたベッドに横たわっていた。
もう一時間くらい泣いていたっけ。
- 369 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:08
- 私は自分のしたことを噛み締めていた。
自分の罪悪が締め付けていた。
さゆはきっと会えただろう。
そして告白をしたんだろう。
……さゆ
どれだけ待った?
あの人の来ない不安の中
気持ちだけが溢れるやるせなさの中
親友は
どれだけ悩んだのだろう。
恋敵は
どれだけ苦しんだだろう。
- 370 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:09
- その痛みを私は想像する。
孤独と不安と不審と嫌悪と
自分がバラバラになりそうな熱情。
それでもあの人への恋を必死に抱え続けて
見境なくしたさゆはあろうことか私に電話までしてきた。
私に情報をもらうなんて
彼女にとっては負けを認めるに等しい行為。
でもさゆはそれをやった。
それをやらなきゃならないほど
気持ちが溢れてこぼれてバランス崩していたのかもしれない。
- 371 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:09
- 私は必死だった。
冷えた駐車場で
わけもわからず私はとにかく
あの人に振り回された怒りと
振り回されていた情けなさと
振り回したあの人への憎しみを
どうしてくれようと必死だった。
それは高橋さん個人に対する憎しみというよりも
自分を翻弄し続ける運命に対する憎しみ。
あるいは
そんな運命しか持てなかった
自分に対する嫌悪の情だったのかもしれない。
- 372 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:09
- そこからあの行動にでるまで一瞬だった。
さゆに電話をすることであの人の想いを振り切ったわけではない。
ただ
あの人に対する憎しみと
自分の運命を粉々にすることを同時にやってのける妙策と考えて
さゆをあの人に引き合わせたのだ。
その最悪な身勝手を私は躊躇しなかったどころの話ではない。
むしろそんな名案を一瞬のうちに浮かべた自身に酔っていた。
そう
あのとき
私はそうやって
怒りを静めたのだった。
- 373 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:10
- ドアの音がして
見るとれいなが皿にりんごをのせて持ってきた。
フォーク2つ。
「さっぱりしたもん食べると
すっきりするもんだよ」
ああ
どうしてこのコは何も聞かずに何も言わずに
私を部屋へと入れてくれるのだろう。
こんな
最悪の私を……
- 374 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:10
-
……本当に、最悪だ。
駐車上に呆けていた私は
寒さにやばくなっていた。
しかし身体は動かなかった。
帰る場所なんてないと感じた。
ボストンバッグを破ってくれたときに
自分を預けると決意したんだ。
その人が
自分を置いて自分と距離とりたがってどこかへ行ってしまったというのに
私に帰る場所なんてあるはずがない。
自分の部屋なんかに戻ったら
本気で私は死んでいただろう。
そう思って呆けていた。
- 375 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:10
- 何のことはない。
怒りが過ぎ去った私は
虚無と孤独に襲われてしまったのだ。
おいてかないで絵里を1人にしないで。
冷たい風がしつこく私を冷やしてきた。
運命崩れる最悪を知った私は結局
1人でへこんで落ちていくのに耐えられずに
れいなの部屋に直行した。
れいなの胸にしがみついた。
れいなの優しさが胸に効いた。
私の業すべてを吹き飛ばすくらい
れいなは完全に私を受け入れてくれた。
しかも
「絵里おかえり」
そんな風に迎え入れてくれたもんだから
- 376 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:10
- 「ふ……ふえぇぇぇ。れーなぁ」
いいの?
甘えても……いい?
私はずるかった。
「絵里が来ると思わんかったから片付けてないけど……」
私はれいなの想いを都合よく使っていた。
「待ってね、何か食べるもの持ってくる」
れいなが何も聞いてこないから、なんていい訳。
「すっきりするまで寝ちゃえばいいんだよ」
このコが私を無条件に受け入れてくれる自信はあった。
- 377 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:10
- それは思い上がりでもなんでもなく
事実、こうして私はれいなの部屋で
れいなの持ってきたりんごを食べていた。
れいなは自分では食べずに
全部を私によこしてくれた。
さっぱりした感じがお腹を満たしてくると
胸の辛さとかやばい気持ちとかはだいぶおさまっていた。
- 378 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:10
- りんごを食べ終えるとれいなは片付けをして
それから再び部屋に戻ってきた。
そしてたっぷりの沈黙になった。
お互い身動ぎもせずにストップモーションみたく
ときおり私が鼻を啜る、その音だけはやたらと大きく響いた。
目の辺りがひりひりしている。
れいなの枕が濡れている。あり得ないくらい濡れている。
でも
こうして私の湿ったものは
れいなのシャツの胸元と
れいなの枕が全部吸収してくれたんだ。
それでさっぱりりんごをくれる。
―――……れいな
- 379 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:11
- ちょっとでも触れたらまたひりひり痛み出しそうな心を気にしながら
それでも……
「れいな……あのね」
聞いて欲しかった。
「何?」
「私……」
私を想ってくれているれいなに
私の気持ちのすべてを晒すのは
かなり酷な仕打ちの様に思える。
―――どうしよう
狂い始めた私の恋心はれいなを打ちのめすかも知れない。
この優しいれいなを壊してしまうかも知れない。
- 380 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:11
- でも
私は
れいなが壊れたら
自分の発想の残酷さに
絵里と一緒だね。
鳥肌が立った。
絵里と一緒の寂しさ
なんて自分勝手。
れいなにもわけてあげようか
こんなことだから捨てられる。
「ねぇれいな」
……………………捨てられた。
- 381 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:11
- 「私、高橋さんが好きだった」
「……」
れいなは私から目をそらして床を見た。
と思ったら今度は天井を見た。
「れいな?」
どうしたの?と聞く直前に気がついた。
れいなの目に並々と涙が溜まっている。
すっごく悔しそうな顔だった。
すっごく悔しそうな目だった。
歯をぐっと食いしばってれいな、
肩で大きく息をして
とうとう
こぼれてしまった。
- 382 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:11
- 「……れいな」
「知ってたよ。
絵里の気持ちは知ってた。
でも
諦めらんないんだもん!
絵里がれいなのこと嫌いでも
絵里がれいなに冷たくても
全然全然……
れいなは絵里のこと嫌いになれないんだよ!!」
れいなの声は段々大きく
私の心はどんどん小さく
「ウザかったんでしょ?
れいなのこと……」
「そんな……」
そんなことない!て言えばよかったのかもしれない。
その程度の慰めもいえない。
だって
ウザかったから。
- 383 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:11
- ここまでこの局面でこんな形でれいなを頼って
でも
それ以上の想いは受け止めてやれない。
それは私を追い詰めるだけ……
なんてやはり私は自分勝手だ。
「ごめんれいな……」
「謝らなくていいよ!謝らないでよ!」
「ごめん……」
また謝った。
結局これは
私が呪ったあの人と
結局これは同じこと。
同じ言い方。
同じ身勝手。
いたづらにれいなにもたれかかったりしたらこうなる。
それを知りながら私は最悪だった。
「もう……絵里は帰ります」
私は立ち上がった。
もう
私に帰るところなんてない。
少なくともここにはいるべきではない。
- 384 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:11
- いかないで!
背後でそう聞こえたときにはもうドアを開けて玄関にいた。
ドタドタとれいなの足音が聞こえてきたけど
振り返ることはできなかった。
今は
どんな優しさも
れいなの迷いを深くするだけ。
だから振り返れなかった。
- 385 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:12
- 何も言わずに扉を開けて外にでた。
私……なんてひどい女。
れいなに何ももたらさず
私自身救われもせず
無駄に傷つく人を増やしてしまった。
こんなことなら
私1人傷ついていればよかったのに
れいなと2人して傷ついてもしかたないのに……
夜道に出た私は自分の携帯が鳴っていることに気づいた。
私はディスプレイも見ずに電話に出た。
相手が誰でもいい。
今の最悪をどうにかして欲しい!
誰の声でも私にはありがたかった。
しかし
- 386 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:12
- 「もしもし?」
「……」
相手は無言だった。
「もしもし、誰?」
私は声を荒げてさらに聞く。
呼吸の音ががさがさと耳に入ってくる。
- 387 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:12
- 「もしもし!?もしもし!?」
「……え……り」
私ははっとなった。
声を聞いて私は
自分の物語が
更にどん底めがけて落下していくのを感じた。
この声の主は
一番救いにならない。
「さゆ……どうしたの?」
「……ふられた」
「え……?」
- 388 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/05/13(金) 23:12
- 「絵里に教えてもらってしばらくしたら本当に来た。
だから私、高橋さんに……」
「コクったの?」
「うん。
でもダメだって。私とは付き合えないって」
私の意識が遠のいていく。
私の罪悪が3人を傷つけた。
私の存在が3人を狂わせた。
私のエゴが3人を暗く重く切なく寂しく悲しくやりきれなく
そういうどうしようもない状態に追い込んでしまった。
私はさゆに聞かれないようにそっと
「……死んじゃいたい」
- 389 名前:いこーる 投稿日:2005/05/13(金) 23:13
- 以上です。
うおぉ切りわるぅ……
- 390 名前:いこーる 投稿日:2005/05/13(金) 23:14
- レスいただきまして、また催促いただきましてありがとうございます。
催促いただくたびに少しずつ前に進みながら書いてきておりました。
亀みたいにのろい更新ですが
これからも叱ってくださいませ
- 391 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/14(土) 06:50
- 更新お疲れ様です。
みんながみんな黒い。怖いけど面白い。
どんな結末になるか想像も付かないです。
これからも作者さんのペースで頑張ってください。
- 392 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/16(月) 06:58
- 更新お疲れさまです。 そして有難うございますm(__)m 闇ですね、まさに闇そのものに亀チャンは居ます。 救うてだてはただ一つ! 闇を追い払う一筋の光!(ナニイッテンダ 続きがどうなるか楽しみです。 次回更新待ってます。
- 393 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 21:50
- なんかいこーるさんぽい作品になってきたなと感じました。
失礼じゃなければいーですが…最初に読んだボーダーレスや逃避行を思い出しましたわ
- 394 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:04
-
それでも生存報告ぐらいはしておくべきだったかも知れない。
体調不良でと仕事を休んだりしたって
れいなと高橋さんにはすぐ気づかれるのだ。
ひょっとしたらさゆも何かを感じるかも知れない。
でも
これからのことなんてどうでもいい。
休むと決めたときにはそう思っていたのだから
誰がどう思おうと、こだわったりしない。
自室に1人。
私はどうにか自殺せずにここに留まっている。
- 395 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:04
- 昨晩遅く部屋に戻った私は
直でベッドに倒れこんだまま
眠りもせずにじっといた。
眠ったらそのままこの物語が終わってしまうんじゃないかと思った。
そのまま倉庫に片付けられるように
高橋さんの中で、私が単なる過去になってしまうんじゃないかって。
もちろん
自室で悩んでいたって
そのことが高橋さんに影響するわけではない。
それはわかっていたのだが、
私は眠りに落ちることを恐れて一晩
じっとベッドの中で考えをめぐらせていたのだった。
そのまま朝になっても気分は晴れずに
欠席連絡だけを入れて朝食も取らずに
膝に顔を埋めたまま何をするでもなく
じっとしていた。
- 396 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:04
- そこには
高橋さんに対する怒りがあった。
同時に
高橋さんを求める縋りがあった。
あんな人のことはすっぱり忘れて
れいなといようと勝手なことを想う一方で
あの人との関係を
どうしても切ってはならないと必死な思いもあった。
だって
この気持ちを諦めてしまうなんて
高橋さんを諦めるなんて
高橋さんに見られていた自分を諦めるなんて
私が
高橋さんを好きな私を見捨てるなんて
それは
これまで生きてきたことを否定するに等しい行為だった。
- 397 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:04
- 1ヵ月距離を置いてみる。
高橋さんの提案に
妙なものを感じた。
1ヵ月?
一体なんだろう。
私との関係について
あの人なりに思うところがあって
距離をおこうというのなら
この期間設定は一体なんだろう?
あるいは
私とはまるでなんにも関係のないことがあって
やむなくこの決断に至ったのだろうか。
- 398 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:04
- なんとなくそっちの方がわかる。
私との関係改善が目標だとして
1ヵ月距離を置くというのは考えににくいのではないか。
もっと彼女自身のことがあって
それの解決に1ヵ月かかりそうで
そこに私がいては不都合があって……
だとすると私がいてはまずい理由とはなんだろう。
- 399 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:05
- 「あーもうわけわかんない!」
結局、
高橋さんの物語に私は関わっていないのだ。
私の存在なんてなくなって……ない方がいいのだ。
それなら
私はいつだって死ねる。死んでやる。
高橋さんの物語にとって私は邪魔。
さゆの物語にとって私は害悪。
れいなの物語にとって……
……私はいたほうがいいのだろうか?
目に涙をいっぱいためて
私への想いを
ちょっとの憎しみと一緒に吐いていたれいな。
彼女のためにだったら
私は生きていてもいい?
- 400 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:05
- そんな甘えが一瞬頭をよぎった。
昨日あんなふうにれいなを捨てておいて
心の中でうざいと感じておいて
またここでれいなによりかかろうとしている。
やっぱり私はずるい。
高橋さんが見捨てるのも仕方ない。
「本当に死んじゃおっかな?」
- 401 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:05
- 私はすっと立ち上がると
自室の窓を開けた。
いや
この高さで死ねないことくらいは
わかっていたけど
でも死ぬのにちょっとでも近い行為をしてみたい
なんて……
結局、私は自分を甘やかしたいだけなんだ。
もう本当に何もかもが嫌になって
私は窓の外を見下ろした。
「……へ?」
- 402 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:05
- 私の目が点になった。
「何してんの?」
「会いに来た」
「はぁぁぁ?またぁ?」
そこには
いつかのあの子が立っていた。
おっそろしいくらいリアリティ持ったアンリアル。
- 403 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:06
- だからさぁ
アイドル試してみたいとか
一時期だけ違う自分になってみたいとか
もうそんな年でもないわけね。
そんならもう会いに来る必要なんてなかったわけだけど
でも私だけが憧れのあの子に会いに行ったなんてずるいじゃない。
れいなもさゆもベタベタしてばっかりで
いつまでたっても自立しようとない。
自分を持とうとしない。
それならいっそのこと
自己像のモデルになったご本人に
会ってしまえばいいじゃん
ってそう言った。
言った……のが間違いだった。
―――それなら一日だけ田中れいなと入れ替わりたい!
―――あー、さゆみもーーー
あの2人、そんなことを言い出したのだ。
で、唯一本物さんと面識のある私が
交渉にうかがったという次第なんですが、亀井さん?
- 404 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:06
- 「ふぅん……私はどっちでもいいけど」
「いや、それよりも田中さんと道重さんの反応が」
「知らない。自分たちで交渉に行って」
どうやら亀井さんはそうとう機嫌が悪かったらしい。
私はアンリアル世界の亀井えり。名前ひらがなです。
モーニング娘。の亀井絵里さんに憧れて
しゃべり方とか服装とか髪形とか真似しているうちに
本当に本物と区別つかないくらいリアリティを獲得しているけど
一応普通に女子高生しています。
その友達の田中れいなと道重さゆみも同じで
偶然にしちゃできすぎてるんだけど
3人してそれぞれ憧れの人そっくりになって
毎日の生活を楽しんでいる。
しかし
今日来たのは失敗だったかも知れない。
亀井さんがもともと感情の起伏が激しいとは知っていた。
それでも今日の落ち込みっぷりは半端じゃなかった。
こんな場面に偽者が飛び込んでそれこそ自殺でもされたらかなわない。
失敗だったかなどう思います亀井さん?
- 405 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:07
-
とか妙にハイテンションな偽者を前に
「そうですか……」
「ねぇえりちゃん髪切った?」
私は関係のない質問をした。
「?……そりゃ亀井さんも切ったんだから私も」
「まだ私の真似してんの?
もうとっくに自分らしさを見つけたと思ってたのに……」
「それがさぁ……」
急にえりちゃんは深刻な顔をして言った。
「大変だったんだよ。
自分になるって……」
- 406 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:08
- えりちゃんそんなことを言い出した。
私たちが出会ったとき
私たち2人がそれぞれにそれぞれの恋人のことで
ちょっと揺らぎ不安定だった。
私にそっくりなこのコと一緒にいるうちに
私はやっぱり私なんだと不思議な自信を獲得して
それぞれの生活に戻って行った……はずだった。
「……いっぱい人を傷つけちゃった」
「……」
しかし
私は高橋さんのことで
そして彼女はまた彼女なりで
自分の気持ちを持ち続けることに疲れていたみたいだった。
- 407 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:08
- 「なのに……私が私でいる資格なんてもうないはずなのに
私、まだ生きてる。ちょっと……それが怖い」
私はえりちゃんの苦悩がわかった。
それは私と同じだった。
自分の想いにこだわって親友を傷つけた私と同じ……
「えりちゃん……」
「そっからもう大変」
えりちゃんはぐいと私に近づいてきた。
「私とれいながネット上の物語りの中に入り込んじゃって
そのまま抜け出せなくなってさぁ、
先に脱出したれいながいろいろしてくれたんだけど私の物語が暴走して……」
「……おい」
「はい?」
- 408 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:08
- 「ウソつかないでよ!」
「あ……バレた?」
「バレバレです!だいたい何のパクリよまったく」
そういうとえりちゃんはへへっと笑った。
その笑い方もやっぱり私とよく似ていた。
このコがいてくれれば
私はもう、私のエゴに悩まなくてすむかもしれない。
「ねぇ……えりちゃん」
ちょっとした出来心?
いや、真剣に私は自分の妙案を検討していた。
「一日だけ入れ替わるのって可能だと思う?」
私のアイデアは、現実逃避にすぎないのかもしれない。
でも……・
「できますできます。王子と乞食よりも簡単」
えりちゃん。君も自分でいることに疲れたんでしょう?
自分の想いにまいってしまったんでしょう?
- 409 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:08
- 「じゃあしばらく代わってっていったら?」
「それもできると思います」
えりちゃんは迷いなくそう答えた。
それで……決めた。
私の身勝手は
最後の最後で
もう1人の自分をも
巻き込もうとする。
「じゃあ……」
私は立ち上がって
机の引き出しを開けた。
- 410 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:08
- 私はえりちゃんに笑いかける。
最後に楽しい時間をありがとう。
「後、お願いしちゃっていいかな?」
意外なことに
自分の声が震えていた。
カッターを取り出す。
「え?」
えりちゃんの目が丸くなった。
私はかまわず
自分の手首に刃を当てて。
「ここからはあなたが亀井絵里でいいよ」
- 411 名前:トータル・タートル2 投稿日:2005/08/19(金) 21:08
- さよなら……
すっと引いた。
……高橋さん
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ごめんね……
悲鳴が聞こえてきた
……れいな
- 412 名前:いこーる 投稿日:2005/08/19(金) 21:09
- 以上になります。
- 413 名前:いこーる 投稿日:2005/08/19(金) 21:10
- レスいただきましてまことにありがとうございます。
はい暗く救いのない話なのかなんなのか。
遅いんですけど
この作品は作者にとってもっとも「素」でいられるスレでございます。
本当、おつきあいいただいている皆様には感謝です。
- 414 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/20(土) 23:19
- 更新お疲れさまです。 作者様!!( ̄□ ̄゜) お待ちしておりました!! いえもぅ自分の思考回路も壊れてますから心配はいりません(ェ いつまでも付いていきますよ(笑 次回更新待ってます。
- 415 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/05(月) 12:32
- 更新お疲れさまです。
ひきこまれてしまってドキドキします。
この作品、本当に楽しみにしています。
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:52
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 417 名前:いこーる 投稿日:2006/02/12(日) 20:29
- 長い長い放棄。まことにもうしわけありません。
えっと、続ける意思はありますのですみませんがよろしくおねがいします。
- 418 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:20
- 「……ばか」
ベッドの中で
えりちゃんの悲しそうな顔を
薄目でぼんやりと見ていた。
「まだ、放棄なんてしちゃいないんだよ」
「え?」
「亀井さんにどれだけのことがあったか
私にはわからないよ。
でも……私にはわかるんだよ。
亀井絵里のこと、誰よりも見てる私にはわかる」
えりちゃんは、
私の腕に巻かれた包帯を握って言った。
「まだ、あなたは自分を捨てちゃいない」
蛍光灯を背後にしてえりちゃんは影に見えた。
私の、私自身のシルエット。
- 419 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:20
- 「ごめん」
えりちゃんは素早かった。
タオルを使って傷口を圧迫し「ここ押さえてて!」
と私に指示を出すと
腕の関節を
強く押して血止めをした。
死のうと思っていたくせに私は
えりちゃんの迫力に押されて
力いっぱい傷を圧迫していた。
こんなときでも私には
主体性なんてまるでない。
身勝手な自分の意思なんて
どこか消えてしまえばいい。
私の想いなんて
私の存在なんて
高橋さんの気まぐれで
凶悪に揺れ動いて振り回されて
世界を絶望させるだけ。
そう、
私には「自分」なんてないほうがいい。
そうに決まってる。
- 420 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:20
- 私の思考は
友人たちへと向いていた。
れいなはあの涙を渇かしたろうか。
あのコが
私に呆れて
私なんか忘れて
平穏な生活に戻れるのに
どのくらいかかるだろうか。
さゆは彼女の恋心を
どうやって処理するだろうか。
私が
高橋さんに対する復讐のために振り回した
彼女の情念はどこへ行くだろうか。
私はかたく目を閉じて
心にかたく誓おうと思う。
私は
もう意志なんて持たない。
そう決めた。
これからは幽霊のように
存在しないように存在する。
そう決めた。
それが
私の決める最後だ。
もう何も決めない。
放棄はしないが延々と放置してやる。
- 421 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:21
- しかしえりちゃんは
そんな私のことを
許してはくれなかった。
「無責任だね」
その言葉はシンと胸に染みて
私の罪悪感をさらに大きくしてしまう。
「もっと強い人だと思ってた」
「私は弱いよ」
私は弱い。
ただ一時の熱情で
ほんの一ミリの激昂で
大切なものをめちゃくちゃにできるくらい
無責任で弱い人間なんだ。
「違う!」
それでも私の分身みたいなこのコは
私を放してくれなかった。
- 422 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:21
- 「周りを傷つけるなって言ってるんじゃないよ」
「え?」
「周りを傷つけることなんて
今の亀井さんの無責任に比べたら
当たり前すぎてどうでもいい」
えりちゃんが
仰向けに寝ている私を
上から覗き込んだ。
照明が隠れて私の視界が翳る。
暗く
……暗く
そして彼女の言葉がさらに暗く
「どうして自分の気持ちに責任もてないの?」
えりちゃんは
本当に私のことを見抜いている。
どうしてこんなに
私のことを見ていられるのだろう。
こんな
どうしようもない私を。
胸が刺されたみたいだった。
- 423 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:21
- 「大切な想いがあって
そのために友達に迷惑かけるなんて誰でもある。
なのに
どうしてそのくらいのことで
想いを全部投げてしまうの?」
私に覆いかぶさるような格好で
その責め言葉は
あまりに重かった。
わたしはえりちゃんの重みに耐えられずに
横に目をそらして小さく答えた。
「だって……痛いんだもん」
「ばか!」
「えりちゃんには
わからないよ」
私は
逃げる思いで
そう言った。
「私だって……」
- 424 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:21
- えりちゃんは
そう言って
唇をかんだ。
「……私だって」
私の物語には
入ってこなかったけれど
えりちゃんの物語にも
相当に深い切なさが
含まれているのだろう。
えりちゃんはそれに
耐えて今、ここにいる。
でも私は……
私には
友達を傷つける身勝手に
耐えるだけの気力はない。
私は
そんな存在じゃない。
- 425 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:22
- 顔をそらした私の頬に
温かい一滴が落ちてきた。
「えりちゃん?」
「なんで……なんでよ!
私だって必死に、好きな人を想ってるんだよ。
亀井さんがそんなんじゃ……
田中さんだって道重さんだって
泣いた意味がないじゃん!
亀井さんに好きな人がいるから
2人は傷ついたんだよ。
その責任がどうして取れないの?」
えりちゃんの涙は止まらない。
ポタポタと
私の顔に落ちてくる。
私はそれを避けもせず
ただ、そのしずくは温かかった。
痛いくらいに温かかった。
「ごめん……」
- 426 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:22
- えりちゃんは泣いたことを私に謝ってきて
でもその涙は私のために流れたわけで
当の私は何も言えない。言えるわけない。
「亀井さん、ちょっと寝た方がいいよ」
私はそう言われて
目を閉じた。
えりちゃんは
私の手を
ずっと握っていてくれて
時々頭をなでてくれたりなんかして
だから私は寂しさを感じずにすんだ。
……。
…………。
- 427 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:23
- 私が目を覚ますと
えりちゃんが眠っていた。
ベッドの脇に膝をついた格好で
両手に頬を乗せてすやすやと。
私はそっとえりちゃんの頭を撫でてやる。
結局私の選択、私の生き方は
このコを失望させただけだった。
目の前で眠るえりちゃんの目には
まだ、さっきの涙の跡。
私は
急に申し訳ない気分になった。
ごめんね
私。
こんなに
情けなくて。
でもやっぱり
疲れちゃったよ。
ねぇえりちゃん
君が私の代わりに
私の分まで幸せになってくれたら
それでいい気がするよ。
そういうのって
ずるいかな?
- 428 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:23
- 「う……うぅん」
小さく声を立てて
えりちゃんが起き上がった。
寝ぼけて半分しか開かない眼と
腕を枕にしていたせいで
跡のついた頬。
それを見た途端、
私の胸がきゅうって
熱く狭く締め付けられた。
いとおしい。
このコがたまらなくいとおしい。
私は無意識に
えりちゃんの頭に手を伸ばしていた。
私は
突き上げてくる想いのまま
こみ上げてくる迷いのまま
力強く乱暴に
えりちゃんの頭を引き寄せた。
- 429 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:23
- 寝起きのえりちゃんは「ふぇ?」と声を漏らした。
私は
そのえりちゃんにキスをした。
それは私にとって
必死の抵抗だったのかもしれない。
責任を取れと言われた私の
みっともない悪あがきだったのかもしれない。
キスが終わると
えりちゃんは
笑顔だった。
「えりちゃん?笑ってるの?」
「何よ、笑っちゃいけない?」
「ううん。でも……」
私はえりちゃんの髪をかきあげる。
「怒ると思った」
- 430 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:24
- 「怒って欲しかった?」
ああ、なんでだろう。
「……」
なんでこのコには
全てがわかってしまうのだろう。
「ダメだよ。私に怒られたって
亀井さんの罪がなくなるわけじゃないんだから」
正面からそう言われて
私は思わず下を向いてしまう。
「許さないから。絶対に許さないから」
「え、りちゃん…?」
「私は許さないよ。
亀井さん自身が、幸せになるまで
絶対にあなたの罪を許さない!」
「えりちゃん……キミは……」
- 431 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:24
- 私はようやく悟った。
えりちゃんの存在を。
このコは、
本当の私なんだ。
自分の気持ちに正直な私。
人間関係のしがらみに疲れた私を
叱り飛ばしに来た
本来の私の姿なんだ。
ごめんね。私、何をしてたんだろうね。
「えりちゃん、私は、どうしたら……」
私は
えりちゃんに抱きついて泣いた。
みっともなく子どもみたいに
声をわんわんと上げて泣いた。
「亀井さん……」
「……高橋さんが好き」
- 432 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:25
- その言葉が
私から出た途端
胸の中で
何かが軽くなって
冷たくなった。
そうだよ。好きなんだ。
高橋さんのことが
本気で本気で好きなんだ。
「好きなんだもん!文句あるか!?」
えりちゃんの胸の中で私の声は
くぐもったままえりちゃんの身体の中に響いたろう。
えりちゃんは私の背中をぽんぽんと叩いて
包み込むような笑顔になって
「やっと気づいてくれたね」
- 433 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:25
- そして指先で私の鼻頭をつんと弾いた。
ありがとう、えりちゃん。
君には
いくら感謝しても
足りないくらいだ。
ありがとう。
- 434 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:25
- 「でもなぁ」
「もう弱気かよ!」
ど突かれた。
「だって、一ヶ月って長いよ。
その間、普通に振舞える自信がない」
「まかせとけ!」
えりちゃんが頼もしい顔で私の肩をとった。
「え?」
「一ヶ月くらいなら、私が代わってあげる」
「一ヶ月も?無理だって。
簡単に真似できる仕事じゃないもん!」
「まかせとけ!」
- 435 名前:トータル・タートル2 投稿日:2006/05/08(月) 20:25
- えりちゃんはもう一度同じことを言って
きらりと笑った。
「え?」
「作戦は練ってある」
「えええ!?」
「れいなとさゆにも協力してもらうことにしよう」
「う、うまくいくの?」
「大丈夫。3人して入れ替わることにするから。
その間、亀井さんは小旅行にでも行っててください」
果たして
大丈夫なんだろうか?
- 436 名前:いこーる 投稿日:2006/05/08(月) 20:27
- ここまでです。
>>414
>>415
レスありがとうございます!……ってもう見てないかも知れませんが。
楽しみにしていただいているのに遅くてすみません。
なんとかペースアップしたいです。
- 437 名前:通りすがりの者 投稿日:2006/05/09(火) 00:15
- 壁|-・)<見てましたよ
どうも作者様、お待ちしておりました。
最終更新から9ヶ月という記録が出ていましたが
また再開して頂けて嬉しいです。
次回更新待ってます。
- 438 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 00:43
- 再開されてる!
待ってましたよ
- 439 名前:いこーる 投稿日:2006/08/11(金) 14:10
- 生存報告。
すみませんが保全をお願いします。
- 440 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:34
- だからさぁ、
記憶喪失ってのは入れ替えのための言い訳であって
別に具合が悪かったとか、安静にしなきゃならんとか
そういう気遣いは無用なわけね。
それなのに私はレッスンから追い出され
無理やりにベッドに寝かしつけられてしまった。
まぁいきなりみんなの前でぶっ倒れて
記憶を失ったふりなんかしたら、誰だって心配する。
メンバーはみんなして大騒ぎだった。
中でも高橋さんは
こっちがあわててしまうくらい青ざめて下を向いてしまったもんだから
どうしましょう。
距離を取ろうと亀井さんに言ったというが
高橋さんは、高橋さんとして、高橋さんなりに
亀井さんを傷つけたことに責任を感じていたらしい。
私は最初
仕事がわからないから、それをごまかすために
記憶が一部なくなっちゃってる、っていう設定にしようかと思っていたのだが
思いのほか高橋さんの反応が顕著であったので
これは使える、と思ってしまった。
私は、亀井絵里本人に負けず劣らず
身勝手で残酷な判断の持ち主だ。
- 441 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:34
- だから
高橋さんが私が倒れたことに対して
異常なほど反応を示したのを見て
私は罪悪感の一抹も感じず
高橋さんが亀井さんと距離を取りたがった理由を
探ってやろうとしている自分を発見しても
特に悪いことだとは感じなかった。
みんなをだます私の罪よりも
大切な亀井さんを傷つけたあの人の方が
よほど許せない。悪者は向こう。
そのときの私は
自分の行動が
自分の判断が
自分の発言が
自分の向こう見ずな好奇心が
グループ内の多くの人に対して与える影響なんて
まるで意識の外だった。
そのことを私は
事件がすべて終わってから後悔することになる。
もうありえないほど強烈にへこむことになる。
だからこれは
高橋さんと亀井さんのすれ違いの物語でもあり
私の後悔と罪悪の記録でもある。
- 442 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
- 私は
自分という存在を
亀井さんの仲間たちを
それらのすべてを知らずのうちに犠牲にして
高橋さんと亀井さんの仲を
回復させようとしていたのだ。
それは
傍迷惑でつり合わない使命感。
どこかずれてしまった義務感。
私と亀井さんの世界は狂い始めている。
あの人と、私の責任で。
ベッドで寝ている私をみんなが見舞いに来た。
それはもう、申し訳なくなるくらい。
いや、申し訳ないなんて思わなかったけどね。
藤本さん。
「ってか記憶喪失じゃないよね」
ギクッ
この人、テレビで見てるより遥かに……
直感的で感情的だった。鋭すぎた。
- 443 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
- というか、生で見る素のままの藤本さんは
ある意味で予想通りだけど、まさかここまで、と驚愕するほど
理性の機能が欠落した、子どもそのものだった。
「亀井ちゃん、自分隠したがってる」
「べ、べつに隠そうとなんてしてないですよ」
「なんで?これまで隠してなんかなかったよね。
愛ちゃんと、何かあった?」
………………………………………………………………。
「え?」
「いや、反応遅いし」
「知ってたんですか」
「知らない人なんていないよ」
「……そんなに、バレバレでした?絵里……」
「いや、愛ちゃんの方がさ」
………………………………………………………………。
っとに、
あの人は。
- 444 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
- 「何があったか知らないけどさ、
愛ちゃんの気まぐれ、あんま気にしない方がいいよ」
「でも……なんか今回、深刻なんですよね」
「だとしたら……それは、愛ちゃんのせいじゃないと思う」
「え?」
藤本さんは、テレビで見てるより遥かに……
直感的で感情的だった。鋭すぎた。
「多分だけどね。でも私はわかるけどなぁ」
「何が?」
「愛ちゃんは、亀井ちゃんが好きだよ
何があったか知らないけど、あのコが一番あんたのこと心配してる」
ドキッ
いや、ドキって何よ。私じゃないでしょう。
でも、藤本さんの発言は、私をドキッとさせるのに充分だった。
「どうして、そう思うんですか?」
「さぁ……」
「さぁ、って」
……。
- 445 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
- 久住さん……
じゃなかった
久住ちゃんって呼ぶんだっけ?
あれ?小春でいいんだっけ?
「亀井さん、早く小春のこと思い出してくださいね」
うわっ、このコ泣きそうになってる。
いいコなんだ。くす…
小春は。
「いや、あー。大丈夫。小春のこと、忘れちゃいないから!」
私は勢いでそう言ってしまった。
「本当!本当ですか!?」
あ、まずかった。
もー、情に流されて、私のバカ!
「うん。全部ってわけじゃないけれど、少しは覚えてるよ」
「ふえぇ」
小春は、安心したのか落胆したのか
ベッドにひじをついて「ふえぇ」とつぶれてしまった。
- 446 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
- ……。
田中さん。
田中さん!?
それはもっとまずい。
もっともまずい。
亀井さんが、好きと言われて見捨てて泣かした田中さんは、
小春なんて比較にならないくらい
私の手には負えない。
仕方がないので私は田中さんのことは
名前からなにから全て忘れたことにした。
その会話の中身は
あれからしばらく経った私にも
恐ろしくてとても書くことができない。
あの会話は
田中さんにしてみれば死刑の宣告よりも最悪だったに違いない。
それを私は保身の一心で貫き通してしまう。
無邪気で凶悪な言葉を、
亀井さんとの件で弱りきった田中さんにぶつけてしまったのだ。
田中さんを、田中さんの想いを
叩き潰すようなその内容は
今も私の心に刻まれた緋文字。
- 447 名前:トータル・タートル2 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
- 結果、田中さんは……
バタンっ!
気を失ってしまった。
「え?え?
あ、あの、やりすぎちゃった……ごめんなさい。
だ、誰か!!誰か!!」
私が叫ぶと、すぐにみんなが駆けつけてきて
田中さんを運び出していった。
◇
「記憶喪失?」
「そう、れいなまで記憶喪失になっちゃった」
さあ困った。
私はあくまで記憶喪失のふりをしているだけだったが
私が田中さんにしてしまった酷い仕打ちのせいで
今度は田中さんが本当に記憶喪失になってしまった。
………どうしよう。
「やばいよ。仕事いっぱい入ってるのに、れいながいないのはやばい」
そして私は、
あり得ない取り繕いをすることになってしまった。
そう、
呼んでしまったのだ。
私の親友、偽れいなを。
- 448 名前:いこーる 投稿日:2007/02/11(日) 22:37
- お久しぶりですみません。
本日の更新は以上になります。
>>437
>>438
や、これ以上の放置記録更新はまずいっすよね。
とりあえず続きました。よろしくおねがいします。
- 449 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 12:48
- 更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
めっちゃ嬉しいです
- 450 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/17(土) 00:27
- 待ってましたー!
れいな何言われたんだw
- 451 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 10:48
- まだまだ待ちます
- 452 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:50
- 「亀井さん!れいなとさゆも呼びました」
昨日、えりちゃんから電話があり
ことの顛末を聞いた。
えりちゃんの演じた
偽の記憶喪失は
本物の記憶喪失を生んだ。
しかし
「この状況なら高橋さんのことを探れそうな気がする」
えりちゃんは強かった。
この
罪悪感に押し潰れそうな状況で
自己嫌悪の海に溺れそうな中で
身勝手を呪って死にそうな時に
あくまで自己中を貫く。
徹底的に完膚無きまでに
エゴを剥き出しにして
私の幸せのために奔走する。
私の心は
その痛みを痛いほど痛がっていたはずなのに
私の心は
その作戦をはねのけるには弱りすぎていた。
- 453 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:50
- 自分が幸福を追求することで
れいなを壊し
さゆを陥れ
高橋さんを蒼白にさせるというのに
「だからだよ!」
私の分身は一歩も引かなかった。
一歩も引かずに私に幸せになれ、という。
なんて
残酷な仕打ち。
「亀井さん、高橋さんが好きっていってたじゃん」
「……けど」
「亀井さん……」
「ん?」
「まだ……だめなの?」
「ダメ……。きっと、ずっとダメだと思う」
えりちゃんに励まされた私は
結局何も変わらず
自分のために行動する意欲も湧かず
えりちゃんがれいなを追い詰めたと聞いて
ベッドの上で怯えて震えて
おののいていただけ。
「亀井さん!」
えりちゃんは
さらに私に追求する。
「高橋さんと世界と、どっちを取るの?」
「高橋さん」
即答。
- 454 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:50
- 「早っ!」
えりちゃんの声が1オクターブ上がった。
私自身驚いた。
こんな簡単に
結論を出した。
こんなにあっけなく
世界と決別できた。
「高橋さんの存在しない世界なんて
私にとって世界と呼べない」
えりちゃんとの会話を通じて
私の中に、熱くて重い何かが
抑えられないくらい激しく暴れ出している。
「じゃあ……」
高橋さんを好きな自分が
それ以外の自分を殴り倒して回っている。
「今の亀井さんには
世界なんて存在しない」
- 455 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:50
- 「……」
えりちゃん。
本当に君はすごい。
私という私の中の私のためだけを考える私が
私という形となって私の前に現れている。
なんか、全部を君に任せたい気分だよ。
「亀井さん!
高橋さんの追求は私に任せてください。
今の亀井さんは、幸せになるには弱すぎる」
わっ、マジ?
願っていたことが本当になった。
「その代わり、亀井さんは
田中さんと、道重さんとの関係を清算してください」
わっ、マジ?
それは、
できれば避けたかった。
- 456 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:50
- 「……それは」
「ダメだよ!」
「え?」
「世界との対峙を拒否したって
自分の周りを避けたりできないんだから。
自分の行動からは目を背けられないんだから。
どっちにするの?
自分の幸福を追い求めるか
自分の罪悪を振り払うか
片方は私が受け持つから
どっちか選んで」
―――片方は私が受け持つから……
……そっか。
どっちかでいいんだ。
これまでは、両方をやろうとして
死にそうになっていた。
自分の気持ちに正直になりながら
友人の気持ちを尊重しようとして
結局
その両方が傷つく行動しか取れずにいた。
タイミング外しまくったエゴイズムは
手に負えない凶暴さでもって
私の存在を支配しかけていた。
- 457 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:51
- でも
どっちかでいいんだ。
それなら……私は
一歩先へ進める。
亀みたいにのろい物語は
ここへ来てようやく
次のステージに進めそうだ。
実はこの物語は
えりちゃん自身の存在にとっても
実に窮地に立たされる戦いだった。
私の前ではあんなに強気だったえりちゃんは
自分の後悔と
自分の罪悪と
その両者に挟まれて
とてつもなく苦悩していたようだった。
高橋さんを探ると
簡単に言ってのけたえりちゃんは
その痛みを必死に私の前では隠し通してくれた。
物語の最後まで、ずっと。
この凶暴で迷惑な物語は
そこに関わった全員を
暗く打ちのめしながら進む。
私と高橋さんのためだけに進む。
そして私は
れいなに電話をかける。
- 458 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:51
-
◇
ねぇみんな、生きてる時ってどんなとき?
好きなことしてるとき
好きな人といるとき
そんな時間、私たちにあったっけ?
- 459 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:51
-
小旅行
- 460 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:51
- 御殿場線の窓から見える景色は
すがすがしい緑色だった。
そう見えるのも自分が何かに期待しているせいかも知れない。
自分たちを
忙しい毎日から
解放してくれて
奮闘してくれている
身代わりたちのことに
私は思いを巡らした。
「小旅行にでも行っててください、かぁ……」
私は、向かいに座っているれいなを見た。
「……」
れいなは、一言もしゃべらなかった。
記憶をなくしてしまったのだと、えりちゃんから聞いた。
私がれいなを捨てたせい。
私がれいなの思いに気づいていながら
何もしてやれなかったせい。
今更な罪悪感がぐぐーっと頭をもたげ
私の胸のなかいっぱいに広がり
苦しくなった。
- 461 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:51
- 「れいな、もうすぐ乗り換えだよ」
「……」
れいなは顔だけをこちらに向けて
無表情で頷いた。
「おなかすかない?」
「……」
「何か食べよう!」
私はれいなの手を引き、席を立った。
緑色だったはずの景色は
いつの間にか白に染まっていた。
「……雪」
10:10 御殿場着
- 462 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:51
- 両脇には、除けられた雪が高く積もり、
その間に存在する小さな通路は、冷たくぬれていた。
れいなと並んで歩くには、ちょっと狭い。
ときどき足をとられて転びそうになるれいなを引っ張ったりしながら
歩いていた。
雪が両側から迫る
肩身の狭い道。
まるで私の存在のように
申し訳ない雰囲気。
―――何してるんだろう……
何度も考えた。
自分はいったい何をしているのだろう。
何のつもりで
れいなとこんなところにいるのだろう。
どうせ
このコを幸せになんかできないのに。
答えは、出るわけない。
えりちゃんが高橋さんとの戦いを担当し
私が、れいなとさゆの精算を担当した。
でも
精算なんて都合のいい言葉。
人をここまでボロボロにしておきながら
なんて都合のいい言葉。
- 463 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:52
- 私には、れいなに優しくする資格なんてない。
そんな権利は、これっぽっちも持ち合わせていないのに。
ただ、記憶を失い、言葉さえもなくしたれいなの話を聞いて
身が引き裂かれる思いがした。
それと同時にこうも思った。
れいながしゃべれない今なら、言い寄られる心配もない
何度もれいなに謝罪したかった。
れいなが私を
罵り殴り倒してくれることを
何度も願った。
しかし
れいなは私を
嫌いになってはくれなかった。
でも
諦めらんないんだもん!
絵里がれいなのこと嫌いでも
絵里がれいなに冷たくても
全然全然……
れいなは絵里のこと嫌いになれないんだよ!!
- 464 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:52
- 私はあれ以来
恐ろしかった。
れいなに会うことはおろか
声を聞くこともできないと思った。
もう一度れいなからコクられたりしたら
私の罪悪はふくれあがって
私の胸を押しつぶし
私は壊れてしまうだろう。
そう思った。
だから、
今のれいなの悲惨な状態は
私にとってはチャンスでもあった。
相変わらずの身勝手。
きっと私は、れいなのことなんて考えちゃいなかった。
ただ
自分の過去から逃れたかっただけだ。
自分の罪障を破棄して
精神の安定を手に入れたかっただけだ。
れいなはもう
私には告白してこない。
そのタイミングで私は
れいなへの罪をすべて
精算させるつもりだった。
贖罪を含んだ私とれいなの逃避行。
- 465 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:52
- 冷たい手を握り
しめった道路を2人して歩いていた。
「れいな何食べたい?」
「……」
「なんでもいい?」
「……」
結局、私たちは定食屋に入った。
地元のおいしいものとか
あったのかも知れないけれど
楽しい旅行にしたくなかった。
この旅行は痛みを伴わなくてはならない。
これは
私の心が解放されるための儀式なのだから。
「れいな、おいしいよ。食べないの?」
「……」
私は
こんなボロボロなれいなを見ながらも
自分の罪は洗われると信じ込んでいた。
窓の外、
粉雪が舞い降りていた。
- 466 名前:トータル・タートル2 投稿日:2008/01/02(水) 12:52
- 食堂の外に出ても
雪は止まなかった。
雪は延々、止む様子もなく降り続けている。
果てしなく、街にのし掛かっている。
私の肩にも。
絶え間なく降り注ぐ雪の粉には終わりがないように思え
そうして私は自分のずるさをまた知った。
こんな小旅行は単なる逃げだと知った。
れいなへの贖罪は私の存在の片方でしかない。
れいなに献身することで
高橋さんと向き合う時間を
できるだけ後に後にと引き延ばそうとする
ずるい行為にすぎない。
どこまで逃げても
雪は私の肩に降り注ぐ。
どこまで行っても
私の心が
晴れることはない。
- 467 名前:いこーる 投稿日:2008/01/02(水) 12:55
- とりあえず、生きてます(待たせすぎだバカもの……)。
今年もよろしくお願いします。
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 00:54
- お待ちしておりました
いこーるさんならきっと生きてると信じてましたよ
続きが読めて良かった
- 469 名前:いこーる 投稿日:2008/07/08(火) 19:58
- 更新します。
えーっと、続きではなくて
寄り道短編になりますが。
リアル、亀×光で。
- 470 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:58
- 「みっつぃ、いなくなっちゃった?」
さゆみが控え室を見渡してから
部屋で寝ていた絵里に聞いた。
「知らない。さっき出てった」
「そう……」
「どうしたの?」
「れいながね、みんなでご飯食べに行こうって」
「ふーん」
「絵里は?」
「絵里ねぇ、パン持ってきたからいいや」
「でも、みんな行くって」
「だって……雨じゃん」
「傘持ってないの?」
「持ってるけど」
「ふぅ……」
さゆみが、これ見よがしにため息をつく。
それを見て絵里は
ちょっと傷ついていた。
絵里は空き時間というのが苦手だ。
今回のように2時間半空きなどと
中途半端に長時間与えられたときは特に困る。
いや
何もしないでいい時間というのは好きなのだが
みんなのように
自由時間を有効活用して充実させよう
という発想が絵里にはない。
- 471 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:59
- 面倒くさい。
疲れた。
動きたくない。
何をしていいかわからない。
だからいつも
控え室で寝ている。
本も読まない。
ゲームはたまにするけれど
途中で進めるのが億劫になり
どこまでやったか忘れてしまう。
誰かがいればしゃべったりして時間をつぶすのだが
誰もいないときにわざわざ相手を探したりはしない。
ふとメールくらいはしてみるのだが
相手から1つ返事がくるとそこで満足してしまう。
下手にメールをすると
相手から疑問文つきで返ってきたりして
結局は面倒になって放置してしまう。
別に
寝ころんで時間を過ごすことに不満はない。
好きでそうしているのだから
文句などあるはずもなかった。
ただ、
そんな絵里のことを
みんなが冷たい目で見てくるのだけはたまらない。
哀れむような顔で。
呆れたような表情で。
それが耐えられない。
- 472 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:59
- なぜみんな
そんなに元気なのか。
なぜせっかくの休憩時間に
わざわざ疲れるようなことをするのか。
メンバーがため息をつく度
絵里は絵里なりに考えてみるのだが
何度考えてみても
出かける理由が思いつかないのだ。
―――しょうがないじゃん。何していいかわかんないんだから。
そう開き直ってみるのだが
最近は後輩にまで呆れられるようになってしまい
絵里のささやかなプライドの底の方に
劣等感という澱が溜まる。
正直、悔しい。
そこで悔しいならば動いてみればいいのかも知れない。
だが
劣等感を乗り越えて解決するという発想が絵里にはない。
劣等感は劣等感のまま
ますますどうしようもなくなって
心の奥の方に
どんどん仕舞われていく。
最後には「何もしないのが絵里だもん!」と意味不明の結論を出して
結局動かないのだった。
- 473 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:59
- 「みっつぃ、カバン置いてってるね。すぐ戻ってくるのかな?」
「うーんとね」
絵里は思い出しながら答えた。
もちろん、寝そべった体勢のままである。
「小さなトートバッグ持ってたよ」
愛佳はそのトートバッグに財布と携帯を入れていた。
つまり…
「トイレってわけじゃないと思う。どっか行ったんだよ」
「そっか。じゃあ7人か。絵里行かないんでしょ」
なんだ7人も行くのか
と、また変な劣等感を覚えてしまう。
もちろん感じるだけで何もする気はない。
「うん。行かない」
「あ……みっつぃのカバン開いてる」
さゆみが部屋に入ってきた。
カバンを閉めるつもりらしい。
絵里は半分だけ身体を起こして
目でさゆみを追った。
さゆみはカバンの前に立つと小さく「あっ」と声を上げた。
「何?何?どうしたの?」
絵里が聞く。
- 474 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:59
- 「この手紙……」
「手紙?」
手紙という言葉に面白そうな何かを期待して
絵里は身体を引きずりながらさゆみの所まで移動した。
カバンの中には、水色の封筒が入っていた。
「まさか……みっつぃ……」
「何?絵里にも教えて?」
「こないだ、ファンレターのことで相談されたんだよね。それかな?」
「相談?どんな?」
「いや……」
「……」
教えてくれないみたいだ。
絵里はしばらくさゆみをにらんでいたが
「ふーん」
ひょいっ、と封筒を取った。
「ちょっと!勝手に……」
さゆみから逃げるように部屋の隅に移動すると
封筒の中から便せんを出して読み始めた。
- 475 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:59
- 手紙は整った字の縦書きだった。
大人の女性の字だ、と絵里は思った。
愛佳の活躍を褒める挨拶にはじまり
子どもが愛佳のファンであることが書いてあった。
物心ついて、モーニング娘。に興味を持ち始めたときに愛佳の加入が決まり
まるで自分のことのように感じたのだそうだ。
そして
「……。」
子どもが病気であること。
難しい手術を控えていること。
その子が、病室に持ち込んだDVDで
いつも愛佳を見ていることが書かれていた。
手紙の最後は
手術の前に、一目会ってやって欲しい
というお願いで終わっていた。
手術の日付と病院の名前が書いてある。
「こういう個人的なお願いに応じちゃいけない、とは言ったんだけど」
「うん……」
さゆみのアドバイスは正しい。
返事を書くのは構わないが
こういうお願いを聞いていたらキリがない。
手術と言われれば力になってやりたい気持ちもわかるが
本当のことかどうかもわからないのに行くわけにもいかない。
絵里も以前「ピアノの発表会を見に来てください」という手紙をもらったが
行くことはできなかった。
- 476 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 19:59
- 「なのに今日、わざわざ持ってきてる」
絵里はもう一度、手紙を見た。
「あ、手術の日って……」
「今日になってるでしょ?
病院、ここから2時間あれば余裕で行ってこられるし……」
「行っちゃったのかな?」
「行っちゃったのかも……」
「どうする?」
「どうするって……」
マネージャーに報告した方がいいだろうか?
訪問先で何かあったとき、マネージャーが知らないと対応できない。
ただ、何もないかも知れないのに騒ぎ立ててしまうと…
「みっつぃ、怒られるよね」
と、さゆみは小さく言った。
「……黙っといてあげようか。時間までに戻ってくれば問題ないし」
「電話してみたら?」
絵里の言葉を受けてさゆみがかけてみた。
「つながらない」
「病院だもんね」
「まだ着いてないと思うけど」
だとしたら
電話に出るつもりがないのだ。
- 477 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:00
- 「絵里」
「ん?」
「みっつぃが時間までに戻ってきたら黙ってる。
もし、戻ってこなかったら報告する。それでいい?」
「わかった」
「じゃ、れいなたち待たせると怪しまれるから、もう行くね」
「行ってらっしゃい」
ドアの音がして
さゆみが行ってしまう。
「……。」
絵里はもう一度、手紙を見た。
◇
- 478 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:00
- 外に出ると
雨は小降りになっていた。
絵里は傘もささず
停まっていたタクシーを呼んで乗り込んだ。
運転手に病院の名前を告げる。
車はゆっくりと動き出した。
流れていく街を見る。
不思議な気分だった。
自分が空き時間にタクシーに乗っている。
なぜ行く気になったのか
自分でもよくわからない。
皆から出不精を批判されることに
嫌気がさしていたのは事実だが
ここで愛佳を追うことに
意味があるとも思えない。
むしろバレたら一緒に怒られてしまう。
ではなぜこんなことをしているのか…
考えてみてもやはりわからなかった。
小雨の街中を走る
タクシーからの眺めはのんびりしていた。
こういうのも悪くない、と
そんな感想を抱いた。
何のための外出か
すでに忘れている。
- 479 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:00
- やがてタクシーは
病院に到着した。
大きな病院だった。
手紙に書いてあった階までエレベーターで行った。
エレベーターを降りると
ちょうど女の子が寝ているベッドが
絵里の前を通過していった。
看護師と母親の足音が
その後に続いた。
今から手術なのだろう。
白い小さな顔の少女だった。
ベッドの転がる音と、足音が
次第に小さくなって止まる。
続けてエレベーターの到着する音。
向こうに
手術室行きのエレベーターがあるのだ。
エレベーターが閉まり
沈黙が訪れる。
「あ……」
声がした方を見た。
愛佳がびっくりした顔で立っていた。
- 480 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:00
- 絵里は
どうしていいかわからなかった。
挨拶をしようにも
この場にふさわしい言葉が出てこない。
こういうとき
駆け寄ってやるべきか
あるいは笑顔を見せてやるべきか
迷ってしまい、結局何もできずに
絵里はおかしな表情のまま
「いた」
と、どうでもいいことを言ってしまった。
言ってしまってから
強烈な後悔が生まれた。
なぜ、言葉が浮かんでこない。
なぜ、自然に肩に手を置かない。
なぜ、……自分はこう、ダメなのだろう、と。
愛佳は、頭をがくんと垂らして
ゆっくり絵里に近づいてくる。
重たくなった愛佳の肩を
絵里は両手で受け止めた。
愛佳は
頭を絵里の胸に預けた。
絵里は
手の力加減もわからず
どうすることもできない。
絵里の手の中で
愛佳はポロポロと涙を流していた。
- 481 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:00
- 「……。」
もう
あと40分もしたら
自分たちは戻らないと行けない。
「手術は?」
絵里は、小さな声で聞いた。
「時間かかるって言われました」
じゃあ、結果を聞くことはできない。
「また、手紙くれるって……」
その言葉を最後に会話が止まった。
愛佳の涙はいつまでも止まらず
ポロポロと2人の足下を濡らし続ける。
たっぷり時間が経ってから
「そっか」
と絵里は優しくいい
愛佳の身体を離した。
「ねぇ、ここの上にレストランあるみたいよ」
寄っていこうか、と言った。
絵里にできるのはせいぜい
このくらいのことだった。
◇
- 482 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:00
- レストランに上がると
外は晴れていた。
愛佳がなかなか泣きやまないので
注文したサンドイッチを
絵里だけが食べる格好になってしまった。
2つだけ残して
そっと愛佳の方に皿を寄せた。
あとは
どうしたらいいかわからないので
時間を気にしながら
ただ待つばかりだった。
しばらくして愛佳が口を開いた。
「すみません」
「ううん。別に連れ戻しに来た訳じゃないから」
愛佳は顔を上げて
意外そうな表情で
絵里を見た。
「何となく、来てみただけ」
これはウソではない。
ただ、愛佳はそうは取らなかったらしい。
もう一度、すみません、と言った。
そして
サンドイッチに手を伸ばす。
- 483 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:01
- 「別に、絵里が来たから何だ?って感じだよね?」
そう言うと愛佳は大げさに首を振る。
「なんか……ほっ、としました」
「本当?」
「本当です」
それを聞いて、今度は絵里がほっ、とした。
何もしないのが絵里だ。
でも
それでもほっ、としてはもらえるらしい。
そう思うと、これでいいような気がしてくる。
調子のいい性格だ、と自分で思ったが
心の中の劣等感を、今は感じなかった。
あと15分したら戻らなくてはいけない。
それまでに愛佳が涙を乾かしてくれたらいい、と思った。
自分はそれまで、このコのそばにいよう。
何もしてやれないけれど
小鳥が羽を休めるための、宿り木になるくらいはできる。
気がつくと愛佳は
残っていたサンドイッチを全て片付けて
ケチャップを頬につけたままへへっ、と
絵里に笑いかけていた。
- 484 名前:宿り木 投稿日:2008/07/08(火) 20:01
-
おわり
- 485 名前:いこーる 投稿日:2008/07/08(火) 20:03
-
>>470-484
宿り木
ちょっと、先輩としての亀ちゃんというのをやってみたくなって書いたものです。
長編滞っているのに、寄り道ですみません。
レスいただけると喜びます。
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/09(水) 00:28
- 亀ちゃんは亀ちゃんなりの
良い先輩になって欲しいです
- 487 名前:いこーる 投稿日:2008/07/12(土) 23:22
- >>486
>亀ちゃんなりの
本当にそうですね。どういう形で先輩になるかすごく気になりますね。
- 488 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:39
- だからさぁ
だんだん雰囲気に馴染んできちゃったし
みんなから亀井絵里として認識されちゃっているし
私としても誤解しちゃいそうなわけね。
亀井さんと田中さんが山梨への小旅行に出かけている間
私はあくまで亀井絵里としてグループの中にいた。
一旦は記憶喪失という話にしてあるから
多少言動に不自然な点があったとしても大きな問題にはならず
むしろ「大丈夫?」とか気を遣われて過ごす毎日は
なかなか居心地のいいものだったりした。
仕事は記憶喪失になる必要なんてなかったんじゃない?っていうくらい
踊りはテレビ見てだいだいコピーできてたし
歌い方やしゃべり方は言うまでもない。
で、結局一番苦労したのが
人間関係。
いや、
ていうか
この人たち仲良すぎない?
- 489 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:39
- 芸能人としての
亀井絵里としての毎日は
恐ろしいほど心地よく
考えてみればそもそもが
亀井絵里に憧れて
亀井絵里になりきって
亀井絵里をコピーして過ごしてきた青春時代。
それが今、亀井絵里そのものとして
私、亀井えりは、ここに、この場所に立っている。
こんなに気持ちいいことが
他にそうそうあるわけない。
―――亀井絵里って……すっごく気分いい!
それは別に
芸能人ってわけじゃなく、アイドルだからって事じゃなく
なんていうの?
ちらかったゴミは道重さんがかたづけてくれるし
居眠りで遅れそうな時は、新垣さんが来てくれる。
モーニング娘。というグループ内で占めている
亀井絵里というポジションが
あまりに気楽で気軽で手軽で呑気で弛緩しすぎて
こんなに楽をしてるのに
幸せからどんどん遠ざかっているあの人が
ある意味憐れに思えてくるほどに
この生活は最高に最高で最高すぎて最高を超えた最高だった。
―――私が苦労している間……
亀井さんはこんな生活をしていたのか……。
それなのに、亀井さん
この場所に居づらくて居場所が無くて
私に丸投げしてきた。
- 490 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:39
- それならこの空気
しばらく私が楽しんでいたって罰は当たらないだろう。
そう
思っていたのに……
そんな極楽は長くは続かないのであった。
そう
私が本物と入れ替わって3日目。
ついに高橋さんが動いた。
- 491 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:40
- それは鏡だらけのレッスン場に
たまたま私と高橋さんと2人きりになってしまったときだった。
いや
ひょっとしたら高橋さんにとってはたまたまではなかったのかもしれない。
「なぁ……」
「何?」
「なぁ……おこらんで欲しいんやけど……」
高橋さんは
私と目を合わせにくそうにしながら
律儀に必死に私のことを見ようとしていて
そのけなげさに
私の調子が狂わされそうになっていく。
私の波長が乱されそうになっていく。
しかし、ここで高橋さんのペースに乗ってはいけない。
飲まれてはいけない。
高橋さんにリードを譲ってしまったら
負けた亀井さんと一緒になっちゃう。
そこで私は言い放った。
「それ……前にも言ったよね?」
「へっ?」
このセリフは効果的だったようで
高橋さんは目をまん丸くしてびっくりしていた。
ストーカーの記憶力を見くびらないでよ。
「コンビニの前で……私と別れようって言ったとき
愛ちゃん、今と同じこと言った」
- 492 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:40
- 正確に言うと「別れよう」ではなく「距離を置こう」だったけど
しかもそれを言われたのは本物の方で、私が直接聞いたわけではないけれど
敢えてとがった言い方をした私の先制攻撃は
愛ちゃんの心に、予想以上の打撃となり
そのダメージはやがて私に返ってくる
それに気付かない私はさらに追い打ちをかけていた。
「そういう無神経が人を傷つけるだけだって
後輩たちを惑わせるだけだって、どうして気付かないの?」
よく、こんな酷いことを言えたものだと思う。
私はサディストか!?
「……ごめん」
「また、ごめんって言う……。
いつも……言うだけで私には何もしてくれない」
それでも私は攻撃の手を緩めなかった。
亀井さんの代わりに、
亀井さんの代理が、
亀井さんの言えなかった
亀井さんの気持ちを代弁しているだけなのだと
- 493 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:40
- 「絵里……怒ってる?」
「怒ってるよ」
即答。
愛ちゃんは、ひどく悲しそうな顔をした。
「……ごめん」
「またごめん、て……」
「……」
ふぅ、と私の胸からため息が出てくる。
「で、何?」
私はあくまで強気に、強がって、強い振りをして
はねのけるようにきいた。
「……うーん、と」
迷っている高橋さんは、怯えたように辺りに目線を散らしている。
そりゃそうだろう。私のオリジナル(本物)は、
あなたにここまで冷淡にしたことないでしょう。
あなたをここまで困らせたりしないでしょう。
「いろいろ話あったんだけど」
?
「ガキさんと」
- 494 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:41
- 「が、ガキさん?」
何?どうして……ガキさん?
「あのコ……あたしがいると、楽しそうにしてくれて……」
―――ドキンッ
高橋さん……
なんか、今の傷つくよ……
「でも、絵里はあたしといる時間……すごく苦しそうで……」
「……ごめん」
今度は私がごめん、て言ってた。
即答していた。
その「ごめん」はごく自然に、私の心から飛び出してきた。
全くの戦略とか戦術とか策略とか作為とかはなく
その「ごめん」は私の本心としてこぼれ出ていた。
―――調子が……狂ってる……
愛ちゃんは
慌てたように首を振る。
「ほうやのうて、あたしがそう思っとっただけやが。
ほんで……それだったから……」
愛ちゃんは方言と共通語の混じった
歪で不器用で不格好で不手際で不細工な言葉で
真相を語る。
- 495 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:41
- 「やから、絵里といるべきじゃないんじゃないかって……
ガキさんと一緒にいてやるべきなんじゃないかって……」
―――ドキンッ
愛ちゃん……
やっぱりなんか傷つくよ……
あれ?
あれ?
どうして私の心が傷つくんだろう。
どうして私の胸が痛がっているんだろう。
「でも……」
―――愛ちゃん……
「ガキさんを泣かせただけやった……」
下を向いた。
私が愛ちゃんを見ていても
あなたはずっと
下を向いたままだった。
「あたし、ひどい女やで」
その小さく震える身体を見つめながら
私の心も、小さく冷たく震えている。
何か、
私の心の底にある大切な何かが
訴えかけて来るみたいに。
- 496 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:41
- 「さゆみも泣かせてしもうたし
れいなにはぶたれた……」
「えっ?」
れいなが?
愛ちゃんを殴った?
「ど、どうして?」
「なんで絵里を泣かせるんだ?って……」
―――ああ、れいな……
私の心が揺さぶられる。
バランスの悪いまま稼働させた洗濯機みたく
轟音を立てて心が暴れ回る。
れいなに対する罪悪感と
さゆに対する憐れみと
そして
目の前で泣きそうな顔して怯えてる
愛ちゃんへのいとおしさ。
それらが順番無視して滅茶苦茶に
私の中に流れ込んでかき混ぜられてすぐ分離して熱くなって凍り付いて
何?……何?この気持ち……
- 497 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:41
- 「でも、気付いたよ」
「愛ちゃん?」
「私は絵里がいないと……」
私は
「『生きていけん』……でしょ?」
ほとんど黙るみたいな小声になっていた。
「なんで分かる?」
「愛ちゃん、ボートの上で同じこと言ってたよ」
「……よく、覚えてるな」
―――私じゃないけどね
嬉しかった。
どうして?
私じゃない。
その記憶もその思いもその苦しみもその瑕疵も
偽物の私には関係ないのに
どうしてこんなにキュンってなるんだろう。
愛ちゃんに必要とされて
どうしてこんなに温かいんだろう。
- 498 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:42
- 愛ちゃんは、急にまっすぐに立って私の前に立って
そして手を差し出してきた。
「絵里……」
「愛ちゃん……」
「これからも、よろしく」
「……」
愛ちゃんからの和解宣言。
愛ちゃんからの愛の告白。
その差し出された手を
私は取ることができる。
―――ドキンッ
私の心が高鳴る。
って、ちょっとまって……。
私、偽物なんですけど……。
本物は今、山梨にいるんですけど……。
しかし
それを自覚していてなお
愛ちゃんから目が離せなかった。
- 499 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:42
- 許しを請う愛ちゃんの目。
救いを求める愛ちゃんの仕草。
私を、この私を欲している愛ちゃんの言葉。
その手を取れば、そのすべてが手に入る。
それは、その表情は、その声は
私の理性を弱らせて
私の使命感を薄めてしまおうとする。
―――亀井さん!!
でも
私に何ができただろう。
亀井さんのためにも私は愛ちゃんの求めに応じるしかなかったのだから。
断ったりして関係を悪化させることなんてできなかったのだから。
でも
それでも
亀井さんを裏切ったりできない。
私の分身を、私のオリジナルを、私の主人を、私の存在証明を。
亀井さんを裏切ることは、私の生き方を裏切ること。
私の歩んできた道を全否定してしまうことになる!
そんな無謀なこと
できるはずがない。
「愛ちゃん……」
「やっぱり……怒ってる?」
―――どうしよう……
- 500 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:42
- 愛ちゃんは、下に向けて
呆れたように諦めたように
1つ
息を吐く。
「あたし、わがままな女やて。
ガキさんにさんざん怒られた」
「……」
「きっと、絵里も怒ってるよね?
あたしの都合で距離を取ろうなんて。
もう、呆れて嫌いになってるでしょ?」
「そ、そんなこと……」
「やってぇ……さっきの絵里の態度見たらわかる。
絵里、あたしのこともう見捨てたんやって……」
愛ちゃんが泣き出した。
ポロポロとグスグスと
小さな音をレッスン場に響かせながら
小さく小さく泣いていた。
わたしは化石したように動くことができなかった。
亀井絵里の念が山梨から飛んできて
私の行動を阻害しようとしている。
「こんな先輩……もう絵里には必要ないよね」
―――ああ、愛ちゃん……
そうやって、知らずにあなたは
私の心を惑わして、
私の罪悪をかき立てて
私と亀井さんを傷つけるんだね。
- 501 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:42
- なんてしおらしい。いじらしい。いとおしい。
なんてかわいい。
「愛ちゃん……」
「ん?」
泣いたままの顔を上に向ける。
「絵里は……怒ってなんかないよ」
顔が、すっ、と変わった。
「ただ……」
「?」
「不安だった。
愛ちゃんが絵里の知らない愛ちゃんになってしまうんじゃないかって。
すごく怖かった」
言葉は、まるで本物の気持ちみたいに
考える間もなく次々と流れ出てくる。
「でも、やっぱり愛ちゃんは、愛ちゃんだよ。
頼りなくて、危なっかしくて、目が離せない……
私の大好きな愛ちゃんだ」
「……。」
……。
言っちゃった。
言ってしまった。
私
―――最低だ……
- 502 名前:トータル・タートル2 投稿日:2009/02/10(火) 20:43
- 「こちらこそよろしく」
愛ちゃんの温かい手を取ったときの
この胸の高鳴りは、私だけのものだった。
決して亀井絵里のものなんかではない。
罪深い私の恋心は
ついに「本物」までも敵に回そうとしている。
ごめん……亀井さん。
私……高橋さんのこと
好きになってしまいました。
- 503 名前:いこーる 投稿日:2009/02/10(火) 20:43
- ここまでとなります。
まだ、まだやめずに行きます。
- 504 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/11(水) 07:28
- キタキタキタキタキタキタキタキタァ!!
お待ちしておりました。
いつまでもついてゆきます故、素敵な作品に仕上げてください。
- 505 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/05(金) 02:30
- 待つるよ!
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