冬へと走り出そう
1 名前:SSKB 投稿日:2002年12月13日(金)20時53分20秒
こんにちわ。
吉澤さん主人公の学園モノです。
こんな女子高生の、ちょっとした日常を書ければな、と。


2 名前:冬へと走り出そう 投稿日:2002年12月13日(金)20時58分19秒

・・うわっ。さむ。
ドアを開けて一歩外に踏み出すと、予想外の寒さがあたしに突き刺さる。
夜明け前のまだ明るくはない空には雲ひとつなく、星がまだいくつか残っているのだけれど。

もう11月だもんねぇ・・・。
首をすくめつつ、とりあえず歩き出す。
っと、やっぱり・・マフラー持ってったほうが良かったかな?

腕時計を見る。・・・いつもより少し遅い時間に出てしまったのだ。
早朝の電車は一本逃すと次までが長い。
普段から余裕を持って家を出ているとは言え、マフラーを取りに戻ることによって、駅までの道のりをアセって歩くことになるのはイヤだった。
というよりは、あたしは無類のメンドくさがりで・・ちょっと戻って一旦締めたカギをまた開けて・・という一連の行為ですら、想像したくないくらい、メンドくさい。

・・・っし!寒さなんかに負けるか!
あたしは拳をぎゅっと握り、背筋を伸ばし、遠くに見える大通りに向って駆け出した。
時間を気にしてアセって歩くのと、自分が走りたくて走るのでは、似ているようで全然違う。
冷えきった空気が肺の中に流れ込む。
空は澄み、はずむ息、頬を撫でる風。

いい一日になりそうな予感がした。
3 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
4 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
5 名前:冬へと走り出そう 投稿日:2002年12月13日(金)21時10分16秒

学校に着くと、あたしは真っ先に図書室に向かう。
「おはよーございまっす」
「あーおはよー吉澤。いつもより早くない?」

司書の飯田先生が、ちょうど図書室のカギを開けているところだった。
飯田先生はウチの学校の先生の中ではかなり若いほうだから、生徒からあだ名で呼ばれたりタメ口をきかれたりしてる。
けど、あたしは先生は先生だと思うから、むやみやたらにタメ口をきいたりはしない。

「へへ・・ウチから駅までちょっと走ってみたんですよ。別に何もないんですけどね」
「何だそれ?はは、少年少女は意味なく走るものって、昔から決まってんだよね」
しょーねんしょーじょ、と飯田先生はもう一度小さく呟き、ドアを開いて、どうぞ、とあたしを先に入らせた。

6 名前:冬へと走り出そう 投稿日:2002年12月13日(金)21時13分58秒

「今日、寒いねー。時間あるなら、お茶でも飲んでく?」
照明のスイッチをぱちぱち押す音と共に先生の声が後ろから聞こえる。
飯田先生の煎れる紅茶は絶品で、先生達の中にもそのファンは多い。

「やたっ!いただきます!」
あたしは図書室全部の窓を開ける為に駆け出してたから、そのままジャンプして喜んでしまった。
駆け出す必要なんて実際のところ全然ないのだけれど、誰もいない図書室は、それだけで開放的な気分にさせる。
大声を出してもスキップをしても、誰にも睨まれないし、気を使わない。

せっかくだからそのまま、薄緑色の絨毯の上をハイジよろしくスキップをして窓を開けて廻る。
両手でハンドルを握り、手首を捻って一瞬力を込める。
がこん、と音をたててゆっくりと窓が開く。

あたしはこの瞬間が大好きだ。
ほんのちょっと開いた隙間から、新鮮な空気がひゅっと流れ込んできて。
部屋の中で一晩中、じっとしていた空気がちょっとずつ、生まれ変わっていくような感覚。
図書委員でもないあたしが毎朝、図書室を訪れる理由の一つは、たぶんその瞬間を私だけが味わえるという喜びがあるからだとも思う。
7 名前:SSKB 投稿日:2002年12月13日(金)21時16分33秒

朝イチのこの部屋の空気って淀んでてさ、そう悪いものでもないけれどね、でも一日の始まりとしてはあんまり、爽やかではないんだなあ・・
と毎朝すべての窓を全開にする理由を説明してくれたのは飯田先生だったけど、あたしにもそれがよく分かる気がする。
昨日この部屋で本を読んだヒト、待ち合わせて一緒に勉強したヒト達、今までの卒業生、何十年前の文豪、何百年以上も昔の十二単の彼女達・・・とにかく数えきれないくらいの人間の思いが、この部屋にはいつでも詰まっている。

もちろん、あたしの想いも。

全部の窓を開け放ち、大きく背伸びをする。
外気はあっという間に図書室の隅々まで行き渡り、新しい息吹を本に吹き込むような気がする。
聴こえるのは、鳥の鳴き声だけ。
空はだんだん明るくなっているけど、生徒達の多くが登校して来るまではまだまだ時間がある。

あたしがこうして、朝礼が始まる1時間以上も前から図書室に通うようになったのは、春の終わり頃からだった。
きっかけは、「忘れ物」。
・・・いや、忘れ物なんて、本当に失礼だとは思うんだけれど。
8 名前:SSKB 投稿日:2002年12月13日(金)21時19分30秒
とりあえず今はココまで。
なんか動揺しまくってるなー。タイトルもHNになってるし。
すいません。ちょっと気合い入れ直します。
9 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)21時57分03秒

「「よっすぃー!お客さんだよー!」」
あたしの昼休みの楽しみの一つ、窓際でのうたた寝を邪魔する声が聴こえる。
少しだけ開けた窓からは春特有の優しい風が、あたしとカーテンを優しく撫でていた。

ったく、ヒトがキモチ良く寝てるっつーのに・・・。
がばっと顔をあげて入口のほうをみると、加護と辻が二人で手招きしている。
今、あたしのコト呼んだ?・・・お客さん、って・・そりゃえーっと、アレですかね?
加護に目顔でそう問い掛けると、
そう、アレです。いつものアレです。だからおとなしくこっちに来やがれ、なのです。
と目を細めて、こっくりこっくり頷いている。

んー、しょうがない。行くか。
一度大きく伸びをしてから椅子をがたがたとひいて立ち上がり、廊下に向かって歩き出す。
10 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)21時58分33秒

「ちょっ、待って待って、よし子」
ちょうど後ろの扉から入ってきたごっちんとすれ違いざま、腕を掴んで呼び止められた。
「ん?何?」
ごっちんはあたしの顔をじっと見つめて、眉をしかめる。
「もー、よし子。ヨダレの跡じゃないの?コレ」
と、あたしの口の右端を自分の指でごしごし擦る。
うぇーハズカシ、あたし、ヨダレなんて流してたのかな。

されるがままにしていると、近くの席に座っていた梨華ちゃんががヒソヒソ声で寄ってくる。
「ごっちんヤバイよ、見られちゃうって、廊下のコに」
「んあ?そっか。や、だってよし子、コレじゃいくらなんでもさぁ..」
「たーしかに。ほら、早く行かないと、行け、よっすぃ、ゴー!」
あたしは二人に背中を押されて送り出された。
「カワイイコだったよ〜」
ごっちんは背中を押しながらあたしの耳もとでそう囁き、ニヒヒヒ、と笑った。
11 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時00分36秒

あたしは、ハッキリ言ってモテる。
この高校の中では3本の指に入ると言われるモテっぷりだ。
ホントに。ヤんなるくらいに。
女のコ達にモテモテだ。
体育祭では無条件に応援団入りを指名されて学ランを渡されるし(勝敗なんてのはまったく関係ナイらしい)、バレンタインの日は、学校に辿り着いた時点で既に両手が塞がっている(去年はごっちんが荷物持ちと言って、チョコではなくカバンのほうを持ってくれて、先に学校に行ってしまった。おかげでチョコだけ持って一人で登校するヒトみたいなカンジでめちゃめちゃハズカシかった)。

っていうか、うちの学校、共学なんだけど・・・。
12 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時02分07秒
まあ確かに、ココロの底から迷惑なワケでもなく、悪い気はしないけれど、ねぇ・・・。
さらにハッキリ言うなら、あたしも女のコはキライじゃない。
むしろ好き?いや、まあ好きだけどね。くらいか。
女のコ同士のアホらしい確執や、何が何でもつるんで行動する暗黙の了解みたいなのは、苦手。
けど単純に、カワイイコや、女のコらしい優しさみたいなのに触れるのはとても好き。

たとえば梨華ちゃんが、フと目が合うとそれこそ華のようにぱっと笑って手を振ってくる時。
たとえばごっちんが、落ち込んでるあたしのウチに遊びに来て、道端で摘んできた小さな花を一輪、コップに挿してくれた時。
友だちである二人でも、そんな時は本当に愛おしいと思う。
13 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時03分47秒

あたしが女のコを好きだとか愛おしいだとか思うのが恋愛感情かどうかなんてのは考えたコトもナイし、別に考えたくもナイから、まだよく分からないけれど。
好きなモノは好き、キライなモノはキライ、というごっちんに影響されて、あたしも色んなコトをごちゃごちゃ考え過ぎるのはやめるコトにしていた。
好きなヤツ、友だち、それが男子であれ女子であれ、あたしは自分の本能に正直でいようと思う。
ダーリン(もしくはハニー)と呼べるヒトが、いつかは傍にいると思うから。

ただ、あたしのコトを何も知らずに好きだと言ってくれるコ達、あたしに対して幻想を描いてるコ達には正直、やや辟易しているのも事実だったりして。
14 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時05分36秒

「吉澤先輩、カッコイイ」

「吉澤さんが、彼氏だったらなー」

「吉澤って、クールだよね」

みんなちょっと勘違いしているのだ。
ショートヘアで、ちょっと背が高くて、スポーツはそつなくこなせたりして。
それだけなのに。
ホントのあたしは、カッコ良くも男っぽくもクールでも何でもない。
15 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時06分52秒

ホントのあたしは、ヨダレを友だちに拭いてもらったりしてる、単なる情けない女子高生だ。
うちの高校は、同じクラスメイトのまま入学から卒業までを過ごすコトになってるから、既に2年目を迎えるメンツには、「アホよし子」なんて呼ばれるまでになったけど。

ったく、だいたいうちの学校のオトコ共が情けないから・・なんてのももう聞き飽きた。
うちの学校の男子が情けないのは今に始まったコトじゃないし、どうにかなるコトでもない。

それが分かってるからみんな、あたしに期待するんだろう。
あたしなら、夢の中で描く分には、きっと裏切らないから。
「思春期の憧れ」ってヤツには対応出来るくらいに、あたしは振る舞えるから。
16 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時08分53秒

・・いや、振る舞わなくても良いのだけれど、なぜか振る舞うようになっている。
なぜかと言うと、うちのクラスの友だちのバックアップがスゴイ。
こういう場合バックアップというコトバが正しいのかどうか分からないけれど。
彼女達いわく、”モテるよし子が見たい!”らしい。
1年間一緒に過ごしたおかげてステキなよし子のイメージはことごとく崩れてしまったから、せめて他人で夢を見させて!だと(・・・知るか!)。

かくして、「モテるよし子に萌える会またはモテよし保全委員会」(いちおコレが正式名称らしい)、通称「ひとみ部」がうちのクラスの女子の中には存在している。
17 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時11分22秒
最近は女子だけでなく、男子の中にも入りたいというヤツが出てきて閉口した。
「や、オレもさ、モテる吉澤に萌え〜なんだよ、実は。よく女のコがお前にコクりに来んじゃん?なんかさ、自分のコトでもナイのにワクワクすんだよね」
別にこいつはあたしに恋しちゃってるワケではないのだ。
それは絶対、確実なハナシなワケで。
「あんた、何、ちょっと歪みすぎ!」
なんてみんなに罵られつつも、オレも、いや実はオレもだよ、なんて頭を掻きながら声を挙げる男子が他にも居たりして、っんとに、うちのオトコ共は・・とみんなでため息をついたものだ。
や、女のコでも、歪んでるとあたしゃ思うけどね・・・と思わないでもないけど、言うとたぶん彼女達にブっとばされるのでヤメておいた。

そんなこんなで、うちのクラスは男子も女子もみんな、モテるあたしのイメージを守ったり、女のコがあたしにコクるのを手助けしたりしている。
うちのクラスの前の廊下にいる見慣れないコに話し掛けたり、ヨダレの跡をつけたまま女のコに逢いに行こうとしたあたしを呼び止めてチェックするのも、あたしの顔に誰かが触れてるのを見られないようにするのも、それの一環。
18 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月13日(金)22時13分13秒

とは言えごっちんは普段、よし子はそのままでもモテるから、あたしはひとみ部ってワケじゃナイかんね、と公言していて、でもじゅーぶんあたしのモテを楽しんでるヒトだ。
みんなもそれを分かっていて、とか言って実は影のひとみ部副部長はごっちん、なんて言っている。

っていうか何であたしが部長なんだよ!
あたし、別にモテの保全してもらわなくてもイイから!

あたしの中では、保全なんつってあたしのコトよく知らないヒトに幻想持たせても困るんだけどなー、ってキモチのが強いんだけれども、どんなよし子でも、よし子はよし子でしょ?という分かったような分からないような彼女達の論理に納得したり、しなかったり。
ただ、あたしもみんなも、モテるコトによってあたしの幸せが遠ざかるワケでもナイだろう、と楽観的に考えてるのは一致してたりして。
けど実際のトコロどーなの、とは考えないコトにした。


19 名前:SSKB 投稿日:2002年12月13日(金)22時18分07秒

とりあえず初回はココまで・・・。
気合い入れ直したワリにはまだへべれけだなー・・・。
1スレの投稿量とか、行間スペースとか、すみません模索中です。
20 名前:名無し読者。。。 投稿日:2002年12月14日(土)02時05分55秒
すごく、面白いです。
モテよし保全委員会、入会希望!(w
21 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)21時46分52秒

廊下に出ると加護と辻が、じゃ、ね、と言って入れ替わるように教室に入って行った。
すれ違いざまの二人の顔と言ったら、そりゃもうホントに嬉しそうで・・。
目の前には、1年生を示す緑色のバッジをつけた女のコがひとり。
・・・たしかに、ごっちんの言うとおりカワイイかも、このコ。
特別目立つ顔だちではナイけけれど、品の良さが全体的に表れてるカンジ?

こんなふうにクラスの前まで来てあたしを呼び出したりするのは、ほとんど1年生だ。
若さゆえ?それとも単なる憧れだから?
そういえば加護が去年の体育祭のあたしの写真を引っぱり出してきて、1年生達に売ったと聞いて心底ビックリした。
・・・っていうか枚数に(あたしの口からは言えない)。

さっきのニヤニヤしてる加護の顔をアタマの中から一瞬追い出し、キリリとした表情で女のコの前に立つ。
ちなみにそういう時のあたしの表情も、ひとみ部の連中にこっそりチェックされたりする。

22 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)21時48分27秒

「っと、はい。吉澤です。何でしょう?」
ココであたしはにっこり微笑む。
キリリ→にっこり、のメリハリが大切、と加護はその時黒板を使って説明してくれた。
別にあたしもそんな指導されるとおりにする必要はまったくナイのだけれど、まあいつか、何かの役に立つかなあと(たぶん立たない)、言われたとおりにやってみたりする。

ってのはこのコに失礼なのかな?
でも別にあたし達、そういうコをからかってるワケではナイからなー。

このコが本気ならば、あたしも本気で、ヒトとヒトとしての会話を成立させたいと思う。
し、もしかしたら、あたしがこのコを好きになるのかもしれないし。
あたしのハニーになるかもしれないし!
なんてね。

23 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)21時52分15秒

「あの・・・吉澤先輩」
女のコがしっかりあたしの目を見つめて口を開いた。
・・・おっと、この目はなかなか・・あたし、目ヂカラで負けそう。
「はい」
負けじとあたしも、そのコの目を見つめ返す。

今頃クラスの中では、あたし達の様子を伺ってんだろうか。
教室に背を向けてるあたしには分からないけれど。
無意味にその辺から出たり入ったりするバカが居ないコトを祈りたい。

「私、1年C組のフジモトミキと言います」
「はい」
ココまではいつもと一緒だ。
この後のパターンによって、あたしのがんばり具合もかわってくる。
ちなみに今までは、握手をしたいと言うコ、手紙を受け取って欲しいというコ、なぜかいきなり泣き出すコ、そしてみんなの前で告白するコ、ってのがいた。
24 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)21時53分59秒

握手や手紙は分かりやすくてイイ。
告白もまあ、分かりやすいっちゃ分かりやすい(けど、ちょっと困った)。
あたしが一番がんばらなければいけないのは当然、いきなり泣き出すコの場合だ。
いやホント、今まで見たコトも話したコトもナイ、全然知らない女のコが目の前で突然泣き出す、そんなのどうしたらイイの?

かける声も見つからないし、だいたい何で泣くのかがさっぱり分からない。
あたしは女だから、抱き締めてよしよし、とやれば手っ取り早いと思うのだけれど、このコがあたしのコトを好きなら・・と考えると、それもどうかと思ったりする。

・・・なんて迷ってるうちに、人通りの多い廊下ではいくらなんでも気まずくなってくる。
それでそのまま、走って帰って行ってしまった女のコがいた。
それはいくらなんでも可哀相だ、とみんなで話し合った結果(そんな廊下に一人取り残されたあたしのコトも可哀相だと思ってくれ!)、ひとみ部で何とかしよう、と決まったらしい。
25 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)21時56分07秒

つまり、だんだん雲行きが怪しくなってきたら、そのコの部活の先輩にあたるコが、スタンバイ。
さりげなく登場して、そのコの様子を見ながら他の場所へ連れ出したり、慰めたり。
もしうちのクラスにいなかったら、他のクラスから連れてくる。
そのコが部活に入ってなかったら、人当たりの良さではおそらく学年一、の辻が登場。

学年一の飛び道具、加護はどうかという案もあったが、加護自身が、そんなの泣きたいだけ泣かせとけ!という思想の持ち主だったので、却下された。
今のトコロ、辻の出動には至ってナイけれど、実際モンダイ、親しくもないヒトにどっかに連れてかれたらそりゃ出る涙もひっこむだろう。
26 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)21時58分44秒

目の前のフジモトミキちゃんは、静かに微笑んでたりして、泣き出すような気配はない。
安心安心。
「えっと、私、この高校に入ってからずっと、先輩のコトを見ていて」
おっと、イキナリ告白パターンなのかな。えーっとえーっと。
「・・・はい」
「でも、お話とかは一度もしたコトなくって」
・・ですね。
「それでもっと、先輩のコトを知りたいんです」
・・うー。あたしのほうがハズカシイ。がんばれ、あたし。
「でも今初めてしゃべったので、今日は、コレだけです!」

そう言って彼女は、あたしに無印の封筒を手渡した。
「ありがとう」
あたしが改めて彼女の目をじっと見つめて笑顔でお礼を言うと、彼女は真っ赤になってしまった。
最初の堂々としてたのと、ギャップがカワイイ。
・・・いや、カワイイね、このコ。
27 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)22時00分48秒

「あの、えっと、返事はですね、えーっと、いつでも私、取りに来ます!いつが良いですか?」
「んー。取りに来てくれるの?明日でもイイかな?明日の、昼休みとか」
「ありがとうございます!じゃあ、明日!」
フジモトミキちゃんはニッコリ笑ってアタマをぴょこんと下げて、走って行ってしまった。
・・・いや、カワイイね、このコ。

あたしはしばらくそのままぼーっとしていた。
いつもならココで何かツッこみに来るクラスの連中が何もして来ないというコトに気付くのにも時間がかかった。

28 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)22時02分38秒

ハっと気付いて教室のほうを振り向くと、な、何だ?
前後のドアにみんなが鈴なり状態。
あたしを見てニヤニヤしている。
「ちょ、みんな、何してんの?」
あたしが呆れて呟くと、ごっちんがぷぷっと吹き出して言った。
「やーっぱり、今のコ、よし子の好みのタイプだった?居なくなってもぼーっとしちゃってさ」
「よっすぃー相変わらずマメだねー。今のコも、よっすぃーが絶対返事書くって、知ってたもんねー。あたしもよっすぃーの手紙が欲しいなー」
梨華ちゃんがごっちんの肩越しに顔を覗かせながら言う。

やっぱみんな聞いてたのかよっ!
ハズカシ・・・
29 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月14日(土)22時04分03秒

「っていうかいっつも手紙あげてるじゃん、梨華ちゃんにも」
「あんなの、授業中に回ってくるノートの切れっ端でしょ!お腹空いたとか先生の鼻毛が出てるとか・・私はもっとロマンチックな手紙が欲しいの!」
だんだん芝居がかってきた梨華ちゃんをハイハイとみんなでなだめつつ、あたし達は昼休みの終わりを告げるチャイムを聞いた。

30 名前:SSKB 投稿日:2002年12月14日(土)22時26分05秒
更新してみました。

>20 名無し読者氏
ココのごっちんも言ってますが、保全の必要もナイくらい、っんとに、どんなんなってもきっとモテますけどね・・・吉澤さんは。
きーーーーっ、ステキ(意味ナシ)。
31 名前:いちご 投稿日:2002年12月15日(日)11時15分43秒
モテよっすぃ〜いいです。楽しみにしてます。頑張って下さい。
32 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時35分42秒

えーっと、なになに。
『吉澤先輩は普段、どんな音楽を聴いていますか?』
んー。何でも聴くけどこの頃はヒップホップ。最近の日本のヒップホップはマジかっけーです。あとトランス。

『好きな食べ物は何ですか?』
ベーグルとゆで卵。        

『嫌いな食べ物は何ですか?』
っていうか何だこりゃ。ラブレターっていうか、質問状なのね。ははは。かわい。
解答欄まで付いてるもんね。
コレまた何か、最初のイメージとのギャップが良いね。
・・・はい次。

33 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時37分36秒

放課後の図書室は3年生が数人勉強してるくらいで、ラブレターの返事を書くにはもってこいの環境だ。
教室みたいに誰かにジャマされたりしないし、行き詰まったらその辺の本を読んでみたりして。
あたしは結構図書室に出入りしていて、本もコンスタントに借りているけど、それを知ってるヒトは実はあまりいない。
教室ではまず本を読まないコトにしてるし、図書室に入り浸るような生徒はだいたい、あたしのコトはほっといてくれていた。
そんなワケでココは、学校の中であたしが1人で落ち着ける数少ない場所の一つになっている。

34 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時39分14秒

あたしは色んなヒトからもらう手紙に対して、絶対に返事を書くコトにしていた。
どんな内容であれ。
本当は返事に困るコトもたくさんあったりするのだけれど、面と向かって話すよりはきっと数百倍もあたしはラクをしてるのだろう。

そしてメンドくさがりのこのあたしが、手紙を書くのはちっともメンドくさくない。
というよりは、むしろスキかも。
全然知らない相手に手紙の返事を書くってのもカンタンなコトではナイけれど、それはそれで、あたしは楽しんでたりする。
あたしのボキャと想像力、総動員ってカンジで。
そしてあたしはあたしなりに、彼女達のキモチに対して、精一杯の誠意で答えを出す。

35 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時40分36秒

あたしはたぶん、自分が好きだと思うヒトじゃないとつき合ったりはできない。
だから今までの返事はすべて、何もしてあげられないけど、とかゴメンナサイ、とか、そういうのばっかり。
だって好きなヒトが出来ないんだもん、特に。
何というか、激烈に好きなヒトが。

あるイミ、好きなヒトはたくさんいる。
ごっちんとか梨華ちゃんとか、クラスの男子にも、芸能人にも。
でもそれってきっと、恋愛感情とは全然違うんだよなー。

たぶん、あたしの中の恋愛感情は、中学の時に片想いしてたナントカくんで終わってる。
ちなみに彼とは何もナイまま、別々の高校に進学するとあたしのキモチもいつの間にか冷めていた。
やっぱ、あたしはいつも近くにいないとダメなのかな。
好きとかそういうの。
ってコトはうちの学校で誰か、好きになってもイイのになー、あたし。

36 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時42分15秒

なんてコトを思いながらフジモトミキちゃんの手紙に返事を書いていると、誰かが近付いてくる気配がした。
手元をさりげなく整理して、あたしはゆっくりと顔をあげた。
「あ、飯田先生」
「あー気付かれたか。吉澤のラブレターを覗いてやろうと思ったのに」

あたしが図書館に入り浸りたい理由の一つ、飯田先生、が悪戯っ子のような目で笑っている。
飯田先生は・・本人には絶対に言わないけれど、かなりステキだ。
典型的な美人顔で、ずっと真顔でいるといつも怒ってる?と思われがちだったりして、ちょっと近寄り難いオーラをたぶん誰もが感じるであろうタイプ。
けどホントはかなりの天然ボケで、たまに突拍子もナイ事を口走ったりして、そんで絵とかうまかったりして、ホントに面白い。
そんなギャップがたまらない。

37 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時44分35秒

・・・あれ、あたしって、もしかするとギャップがあるヒトにヨワイ?さっきから。
まあイイや。
そしてそんな飯田先生があたしのコトをちょっと低い声で”吉澤”と呼び捨てにしてくれるのが実は、さらにたまらなかったりして。

先生は、あたしが図書館でラブレターの返事を書いてるコトを知っている。
何で知ってるのかは知らないけれど、知っている。

あたしは誰にも誰かのラブレターを見せたコトは一回もナイし、返事を書くのが実は好きだとも、誰にも言ってない。
なのに、吉澤に出したラブレターは100%返事が返ってくる、というのはどうやら有名なハナシらしい。
それも何だかなあ。
きっとその噂を聞きつけた先生は、放課後のあたしの様子をみて何となく予想がついたのだろう。
そういう鋭いトコロも、好き(あたし、飯田先生のコト、実はかなり好き?)

38 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月15日(日)21時45分58秒

「吉澤、もう帰ろう?もう残ってんの私と吉澤だけだから」
フと周りを見回すと、さっきまで参考書を広げてた3年生達の姿はどこにもなかった。
「あっすみません!すぐ片付けます!」
あたしはあわてて立ち上がり、あたふたと帰る準備を始めた。

「や、まあゆっくりでもイイよ?そのかわり、帰りちょっとさ、お茶してかない?」
えっ・・・と、やった、ラッキー?
「はい!行きます行きます!」
「駅前のあの店だけどね、新しい紅茶が入ったっていうから」
飯田先生は嬉しそうに笑うと、私も帰る準備するから、と司書室に入って行った。

39 名前:SSKB 投稿日:2002年12月15日(日)22時10分59秒

落ち着くまではマメに更新したいなあ。
なんか思ったよりいーださんの出番多し・・・。

>31 いちご氏
ありがとございます。モテよし保全しつつ頑張ります。
40 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月16日(月)00時27分25秒

紅茶が美味しい、とこの辺では有名なその店であたしは、先生に色んなコトを根掘り葉掘り・・は聞かれなかった。
そこがまた飯田先生らしいというか。
あたし達は主に、音楽のハナシや、あの作家の新刊はどうだったとか、しし座流星群を見た時のコトとかを話しながら、お茶していた。
クラスの友だちとは微妙に合わないハナシ、話したくても話さないハナシが、飯田先生と出来るのが嬉しかった。

フと空腹に気付いて時計を見ると、我が家の夕食の時間はとっくに過ぎている。
「っと、じゃーあたしそろそろ、帰りますね」
「ん。私も明日早いからな。帰るか」
早いって、何時くらいなんだろう、ってか学校って何時から開いてるんだ?
そう思って飯田先生に聞いてみる。

41 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月16日(月)00時29分15秒

「んー、私は6時前にはもういるよ?用務員さんは、もっと早く来てるけどね」
「ろ、ろくじまえ?そんな早く、ガッコで何してるんですか?」
「んー、ナイショ。吉澤には、ナイショだな」
先生がまた、悪戯っ子のような笑みでフフフ、と笑う。
えー、何だろう。何かある?
「ま、気が向いたら、吉澤も来てみなよ。理由が分かるかもよ?私はだいたいいるからさ」
「やー・・ははは、6時っスか。じゃあ、気が向いたら・・」
やー・・実際モンダイ、そんな時間行くコトなんて、きっとナイだろう、あたし。
いくら飯田先生に誘われたと言ってもさ。

ってか、何時に起きればイイの?電車あんの?あんのか。そりゃ。
早いって言っても、やっぱりゆっくりしたいから、4時起き?
ひえー、それってまだ夜だよなー、ムリムリ、ってか全然起きる気ナイけど。

なんてコトを考えながら飯田先生と駅で別れたあたしは、まさかその次の日、自分が4時起きで学校に行くコトになるなんて、考えてもみなかった。

42 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時36分44秒

そのコトに気付いたのは、家に帰って遅めの夕食を食べてお風呂に入って、自分の部屋に戻ってからだった。

やべー・・・ナイよ、ナイ。
どこ探してもナイ。
あたしはカバンの中をひっくり返し、ありとあらゆるポケットを探った。
返事の続きを書こうと思ったら・・・ナイではありませんか!
フジモトミキちゃんの手紙が。
考えられるのは・・・図書室?
そういえば、あの時?本をさりげなく閉じた?
あたし・・・やってもうた?

吉澤ひとみ、一生の不覚!!
彼女の手紙も、あたしの書きかけの手紙も、絶対!誰にも見られたくない!(ハズカシイから!)

43 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時38分29秒

飯田先生にお茶に誘われて、動揺してたんだなー、あたし。
ホンっト、ヒトによく言われるけど、ツメが甘いなー、あたし。
アホな自分にガックリきて、そのままベッドに倒れ込んだ。
うつ伏せのまま枕カバーを握り締めようとして、思い直した。
右手をそのまま、枕元の目覚まし時計があるはずのあたりに伸ばして覚悟を決める。

・・・明日は、4時起きだな。

おかーさん、突然だけど、ごめんね。
お弁当はいらないけど、朝ゴハンだけ食べてくから。
夜10時頃になってそう言ったあたしに、あたしは起きないわよ!勝手に食べてきなさいよ!とぶつくさ言いながらも、おかーさんは明日のおかずの用意をしてくれた。

44 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時41分08秒
・・・・・
45 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時42分51秒

朝の5時過ぎに家を出るなんて、いつぶりだろう?
中学ん時の、バレー部の遠征くらいかなあ。
春もそろそろ終わるとはいえ、朝は案外冷えるんだなーなんてぼんやり思いながら、あたしは駅までの道を歩き出す。
普段見なれた風景が、何となく違って見えるのが心地良い。

まだ明るくなり切ってない空。
あまり車が走らない道路。
いつもの横断歩道のかなり手前でワザと、ゆーっくり歩いてななめ横断をしてみた。
・・・うん、かなりキモチ良い。

駅前ですれ違った新聞配達のバイクのお兄さんは、気分良さげに口笛を吹いていた。

46 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時44分40秒

学校に着いたのは6時過ぎ。
当たり前だけど誰もいないんだなあ。
放課後だって、部活終わるほどの時間でもまだ、ヒトの気配があるもんね。

下駄箱のの隣が図書室だから、そこだけ明かりがついてるのを見て正直ほっとした。
飯田先生、やっぱりもう来てるんだ。

「先生、おはようございまーす」
図書室のドアを開けて大きな声で言ってみる。
黙って入って行って、先生にビックリされるのもヤだし。

47 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時46分44秒

「ん?あ、吉澤じゃん。おはよー。どしたの?さっそく。あたしと早朝デートしたくなった?」
司書室から出てきた先生は、朝っぱらから絶好調らしい。
「ははは、や、実はそーなんですよ・・って、いや、違うんですけどね」
ココでヘタに隠しても、結局バレてしまうような気がした。
っていうか、あたし、ウソとか隠しゴトがあんまり出来ない性分。

「なんだ、違うのー?じゃあ、お茶いれてあげるのヤーめた」
「えっ!ウソウソ、ホントは先生に逢いに来たんですよ!っていや、違うんですけどー」
「ははは、ウソだよ吉澤。今お茶いれたげるからさ、好きなコトしてなよ」
と、飯田先生はひらひら手を振って、司書室に戻って行った。

良かった・・・1人になる時間が出来た。
何だか肌寒いと思ったら、図書室の窓という窓はすべて開け放たれていた。
空気の入れ替えかな?いつもの図書室と違うカンジ。
っと、昨日あたし、何読んでたっけ?
えーとあの辺に本を戻したから・・あっそうでした、コレコレ。

48 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時48分31秒

茶色の背表紙の本をパラパラめくると、果たしてそこに・・・いや、ナイ!
ナイぞ!?嘘!
え、だって他に誰もこの本触んないでしょ?昨日の今日で。

アセってその全集を片っ端からパラパラやり出した。
っと、ナイナイナイナイナイナイ!
イヤな汗がじんわり出てきた。
や、別に誰かに見られたからって命が危ないワケじゃナイし、面白半分に晒されるくらいだろうけど。
っていうか、赤面する程の内容でもなかったけどさあ!(ゴメンね・・フジモトミキちゃん)
でも彼女に合わせる顔がナイ!あたしの不注意でホントもーしワケない。
いや、ホントにどうしよう・・・。

49 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月18日(水)01時50分11秒

途方に暮れてると、飯田先生の声が聴こえた。
「吉澤〜、お茶入ったから、こっちおいでー」
あたしはちょっと考えて、大きな声で返事をした。
「はーい!今行きます!」

朝はまだまだ長い。
ちょっと落ち着いてからまた考えよう。
・・・なんて、この楽観的な性格がいつか自分の身を滅ぼすのかしらん?

50 名前:SSKB 投稿日:2002年12月18日(水)02時24分19秒

ちょこっと更新。
ストックをちょっと書き換える予定なので、更新ペースが乱れるかもしんないですが。
51 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時10分39秒

先生のいれてくれた紅茶はやっぱりとても美味しくて、何というか、何ていうの?
飯田先生の紅茶ってカンジがする。
優しい香りと、どこかきりりとしていて、落ち着くと同時に背筋も伸びるカンジ。

「美味しい紅茶をいれるコツはね、アリガチなハナシだけど、愛だから、愛!」
そう力説する飯田先生・・・美味しくなれよ〜と念じながらいれてるらしい。
なるほど。
確かにアリガチなハナシだけど、ホントに美味しいからきっと、そういうコトなんだろう。

52 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時13分09秒

フと先生の机に目を遣ると、ん?見覚えのある・・・あっっっっ!
そ、それはもしかして!
「せ、先生、それはひょっとして・・・」
「んー?コレ?ははは、昨日吉澤が読んでたからさ、あたしも読もうかなーなんてさ久しぶりに」
先生は机に振り向いて茶色い表紙の『夏目漱石全集第二巻』を手に取り、パラリパラリと頁をめくった。
あわわわわわわ。
一人何も言えずに泡喰ってるあたし。

すると目の前にぱさっと、畳まれた便箋が2枚見事落ちてきた。
電光石火の超特急で、あたしの右手はそれを机の上から自分のポケットにねじ込む。

あぁぁぁぁぁぁ、ホント良かった、あたし。
もーコレであたしの学校生活、しばらくは安泰。
今日も美味しいゴハンが食べられる。
良かったよぉぉぉ・・・

53 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時15分08秒
ふぅーっと思わず深いため息をつくあたしを見て飯田先生は不思議そうな顔をしている。
先生が手紙に気付く前に回収出来て良かった〜。
「あ、手紙読んじゃったけど、ゴメンね吉澤」

ぶっっ!
なななな何ですと?
あたしは紅茶を噴き出しそうになった。
「ちょ、えっ?先生!えーーーっ?」
「いやさあ、そういうの、よくあるし。まさか吉澤のだとは思わなくってさ。ゴメンゴメン」
そんな・・・もーダメだ、ハズカシ・・顔が熱くなってきた。

54 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時16分54秒

っていうか何で先に言ってくれよー!
さっきの不思議そうな顔な何?何だったんだ?
まさか飯田先生に読まれるとは・・・でも先生は冷やかしたりからかったりする様子は全然なく、ヘーキな顔して紅茶を飲んでいる。

・・・よし、ココはもう、忘れろあたし。
さっきのは「そんなにアセんなくてもイイのに」ってコトなのかな。
何もなかったような顔して、日常生活に戻るべし。
それがきっとオトナのつきあいなんだな(たぶん)。
ココロの中で数を数えて、動揺するなと自分に言い聞かせてみる。

55 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時19分03秒

にしても気になるのは。
「よくあるって・・・えっと、手紙とかってコトですか?」
「うん、そう。昔っから、どこの図書室でもね・・・あるんだよそういうのがさ」
飯田先生はティーカップを持ったまま、何かを思い出すように窓から遠くを見ていた。

「ある本を介して、顔も名前も知らない誰かとちょっとした手紙の交換を続けたりとか・・・・渡したくても渡せなかったラブレターを、思い入れのある本に挟んだまま卒業してったり。ラブレターとも呼べないような殴り書きの紙切れを、読むヒトしか読まないような本に忍び込ませてたりね」
ほえー・・・そうなんだ。
そういうの、現実にあるんだ・・・少女マンガの世界だけかと思ってた。

「でもそれってもちろん、ホントに読んでもらいたい相手は絶対読まないって分かってて、やってるんですよね?」
「そりゃそうだよー。ホントに読んでもらいたかったら、そんな回りくどいコトしないでちゃんと渡してるってば」
そりゃそうだ。
あたしには・・・そのキモチが分かるような分からないような。

56 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時21分27秒

面と向かって口では言えない。
けど伝えたい・・・伝えられない。
そういう時に彼や彼女達は、何かを書かずにはいられなかったのだろう、か。
ちなみにあたしは今まで誰にもコクったりしたコトはナイし、たぶんコレからもしないんだろうなと思っていて。
誰かにコクってる自分を思い浮かべても、ナイナイナイ!とその想像をかき消してしまう。

つまり、そういうヒト(あたし)が熱烈に恋したら、そうなるかもしれないってコト?
ふむ・・・中学時代のあたしって、そんなのは思いもつかなかったからなー。
あのナントカくんのコトだって、きっと恋に恋してたったヤツだったんじゃなかろうか、今思うと。
言わずにはいられない、書かずにはいられない程の想いって正直、あたしは体験したコトない。

・・・なんてコトを考えていたら、外からかすかに音楽が聴こえてきたような気がした。

57 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時28分35秒
あーやっちまった。
>54 一行目は
「っていうか先に言ってくれよー!」が正解です。
そのままでもイケそうだけど..ムリヤリ。口語ってコトで。←ウソ。
58 名前:SSKB 投稿日:2002年12月19日(木)01時46分32秒
↑アセるとドツボだな・・・<HNにしてない。
そいえば彼女は久々に黒髪になったらしく。私のよし子イメージはそれなので嬉しいなあ、と。
色んな吉小説読んで、皆様はどのよし子の姿を思い浮かべてるんだろうか。
という、一名無し吉小説読者としてのソボクなキョーミもあったり。
59 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時54分33秒

正確には、楽器の音。
気のせいではなく、今度はハッキリ聴こえた。
3、4人はいるみたいだ。
何か・・・旋律というよりは、スケール練習?なのかな。
指慣らしといったカンジでなめらかに音をつなげて、軽く音を出している。

飯田先生はさっきの全集を読み始めている。
「吹奏楽部の朝練だよ」
一瞬あたしのほうを見て微笑みながらそれだけ呟くと、夏目漱石の世界にイってしまった。

60 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時56分38秒

あたしはもっとその音をちゃんと聴きたくて、閲覧室の方に戻った。
開け放たれた窓からはさっきよりも近くに音が聴こえる。
窓のそばの席に座ってみたけれど、何だか落ち着かない。
どうせ誰もいないんだし。

・・・っしょっと。
図書室の角の柱の部分にはちょうど本棚がなかったから、そこにもたれて薄緑の絨毯に座り込んだ。
おっ、なんかぴったりハマって心地良い空間だな。

61 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)01時59分41秒

外の音色が一瞬止んだ。
少しの間があり、また音色が聴こえてくる。
今度は何かの曲らしい。
でも主旋律らしき音色ばかりでもなく、曲の全体像が見えない。
自分のパートだけをそれぞれ演奏するから、たまに何も聴こえない部分もある。
始まったと思ったら、すぐに止めてやり直したり、同じトコロを繰り返したり。
ふーん・・・でも、なんか心地良いな、コレだけ聴いてるのも。
飯田先生は、もしかしてコレを聴きたくて朝っぱらから来てたりするのかな、まさか。

でもなんか、分かる気がする。
今、ココに座り込んで目を閉じて、新鮮な朝の空気の中で音色に耳を傾けてるあたしには、こういう時間の過ごし方の良さがすごくよく分かる。
早起きは三文の得って、ものすごい得じゃなくてもこういうのがあるから言うんだろな、きっと。
なんたって、三文だもんね。
いくらぐらいなのかあたしにはちっとも分かんないけども。
62 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)02時04分05秒

突然笑い声がきこえて、演奏がまた途切れた。
「きゃはは・・今のはだってさあ・・・」
外からのかすかな声だから、会話の内容もあまり聞き取れないし、女のコだってコトしか分からない。
あたしは立ち上がり、窓からそっと外を眺めてみた。


63 名前:SSKB 投稿日:2002年12月19日(木)23時20分46秒
私の敬愛する某氏の新作品を今日やっと読みに行ったら書き出しがなんとなーく(ほのかに)カブっててちょっと鬱・・・。
大御所だけにさらに。先に読んどきゃ書き直したのにな・・。
でも大好き。好きな作品にコレからもまだまだ出逢えるのって、幸せだなとつくづく思う日々。
今日の更新、いきます。
64 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)23時23分05秒

もう満開の時期をとっくに過ぎてしまった桜の木が、まず真っ先に目に入る。
あたしは葉桜が一番好き。
満開の桜もキライじゃナイけれど、葉桜のほうが何というか、キレイだと思ってしまう。
すがすがしいというか、シンプルゆえの美しさ、ってカンジ?なのかな。
授業中にたまに眺めて癒されたりして・・・。
いくら見てても、見飽きないくらい実は好き、かも。

そんな桜の木の下に、そのヒト達はいた。
3人の女のコが輪になって、パイプ椅子に座っている。
フルートを手に持ったヒトが、まだ笑い転げてて椅子から落ちそうになった。
っと、アレは・・・名前が思い出せないんだけど、市井さんとよく一緒にいるヒトだ。

すんごい背がちっちゃくて、カワイイんだよね。
目とかクリクリしてて。
そんなに背が高いワケでもない市井さんと並んでも、結構差があるんだよなあ。

65 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)23時25分11秒

ちなみに市井さんってのは1コ上の先輩で、ごっちんに紹介された。
ごっちんはとにかく市井さんが大好きで、ホントにいつでもいちーちゃんいちーちゃん、とヒマさえあれば3年生の教室に入り浸っている。
というか、市井さんってのがまたとにかくモテる。
めちゃくちゃモテる。
あたしのモテなんてハッキリ言って霞んじゃうくらい、モテる。

老若男女、犬、猫、草花にいたるまで、みんな市井さんを好きなんじゃナイだろか。
学校の近所の商店のオバさんなんて、市井さんには絶対に何かオマケしてあげてたりして。

そんな市井さんとよくつるんでるけど付き合ってるワケではもちろんなく、誰かに妬まれたりもしてないみたいだから、やっぱり彼女も魅力的なんだろう。
でも何だったっけ、名前。
話したコトもナイしな。

66 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)23時31分07秒

彼女はその後何か言って、楽器を椅子に置いて立ち上がった。
「なんだよーしょうがナイな。じゃ、5分だけね」
クラリネットのヒトの声はハッキリ聴こえて、立ち上がった彼女が走って校舎の入口に向かうのが見えた。
休憩かな。

「ヤグチー!あたしの分も買って来てー!」
校舎に入りかけた彼女に向かって、もう一人のフルートのヒトが大声で叫ぶ。
そうだ、そういえばヤグチさんっていうんだっけ。
「何だよー!どんなのがイイの?」
ヤグチさんが振り向いて大声で叫び返す。

あ・・実は初めて聞くかも、声。
なんかイイ声・・・すごい特徴があるんだな。
こういうの、何て言うんだろう?鈴が鳴ってるみたい?
でもフツー、鈴が鳴るようなってのは小さい音だからそう言うんだっけか?
ヤグチさんのはそれとは全然違うんだけど。
むしろよく通るし、ビームみたいな・・・鈴?
よりおっきいのは・・・鐘?ドラ?
ゴメンなさいヤグチさん、ウソです、全然違います。
67 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)23時33分13秒

「炭酸以外なら何でもイイよー!」
「あたし午後ティー!ミルクのほうね!」
残った2人が口々に叫んでいる。
「ヤグチが紙コップ3つも持つのかよー!パシリみてーじゃん!」
ヤグチさんは笑って叫びながら、入口に消えてった。
よく笑うんだなー、ヤグチさんって。

あたしも何となく喉が乾いてきた。
飯田先生、紅茶のおかわりなんてまたいれてくれたりするかな。

68 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)23時35分05秒

司書室に戻ると、先生があたしに気付いて顔をあげた。
「先生、アレ、意外とイイですね」
あたしが窓の方を親指で指して言うと、先生が満面の笑みを浮かべる。
「やっぱり思った?吉澤なら分かってくれるかなーと、思ってたんだよね」
「ほえ?そうですか?」

飯田先生は立ち上がって2杯目の紅茶の準備をしながら、急に真顔になる。
「吉澤はね、何かそういう、ちゃんとしたカタチになってないモノとか、目には見えないけどココロで感じるモノとか、空気とか、そういうのの良さが分かるコだと思うのよね」
あたしは、言われたイミが何となく分かったけれど、照れくさいので黙っていた。

69 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月19日(木)23時37分51秒

「あとはね・・・」
「はい?」
「んー、やっぱ何でもナイ・・・。そのうち分かるかもね。」
?????
今度は全然分かんないや。
でもそんな飯田先生が好きかも(またかよ、あたし)。

さっきとは違う紅茶を飲み終えたトコロで、外からはまたフルートの音色が聴こえてきた。
今度は本を選んで、さっきの場所にまた座り込む。
文字を追って色々考えながら聴くのも、なかなか心地良くて。
本当に贅沢な時間を過ごしたような気がした。

70 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)21時48分19秒

あたしはその日以来、早起きして朝の図書室に入り浸るようになった。
最初のうちは「たまに」だったけれど、そのうち「ほぼ毎日」というペースになってきて。
そんなにも吹奏楽部の朝練に夢中になってるワケでもなくて、飯田先生が早起きをして学校にいるもう一つの理由に魅了されたワケでもなく・・・。

早起きした日の夜は自然と早寝になって、結局次の朝も早く目が覚めてしまう、というごく単純な繰り返しの結果だったりする。
目覚ましの時間変えるのもメンドくさいし。
さすがに4時起きで6時前には学校に・・ではナイけれど、6時台にはだいたい図書室にいた。

ちなみに飯田先生が朝の学校で他に何をしているのかというと、朝日を見ていた。
うちの学校はなぜか人里離れたトコロにあって、電車で通うのにもどうかと思うような環境。
いや、もちろんヒトは住んでるんだけども、駅前に郵便局とちっちゃな商店がいくつかあるくらいの、街とはとても呼べないようなビミョーな場所(ゴメンなさい住んでるヒト)。
その駅からさらに、一本道でたっぷり20分歩いた丘の上に学校はある。

71 名前:SSKB 投稿日:2002年12月21日(土)21時51分08秒

当然巨大ビルや高層マンションみたいなモノは周りになく、家の近くなんかでは感じられないくらいに空が広い。
もちろん地平線は見えないけれど、はるか遠くに見えるビルとか山の間から朝日が昇る様子がよく見える。

飯田先生は毎日、それを学校で見るのだと言う。
「朝日はねー、パワーをくれるんだよ」
あたしも飯田先生の隣で朝日を見ていて、そのコトバのイミがよく分かった。

真っ暗な空がだんだん青みを帯びてくる様子。
東の空から少しずつ明るくなり、星が薄くなって消えていってしまう。
鳥達が目を覚まし、活動を始める。
そして太陽が、圧倒的なパワーを持ってゆっくりと姿を現わす。
その瞬間、時間はゆっくりと流れ出す。


72 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)21時53分36秒

初めて見る光景でもナイのに、その瞬間はなぜかコトバには出来ないようなキモチになった。
こんなふうに改めて、陽が昇る様子をじっくり感じたコトはなかったから?
太陽を見た瞬間、あたしの中にも新しい何かが生まれるような気がした。

日の出の時刻は毎日変わるけれども決まっている。
だからあたしがそれを見るのも自分のタイミング次第なのだけれど、ムリして時間を合わせてみようとは思わなかった。
たまたまそれが見れたらもっと嬉しいから。

とは言え、さすがにほぼ毎日そんな時間に行動してるとカラダがだんだん分かってくるらしい。
夏が近づいて日の出は早くなるのにも関わらず、あたしがそれを見つめるのはほぼ日課のようになってしまった。

73 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)21時55分54秒

その頃にはみんなもどうやらあたしが早めに学校に来てるらしい、と気づいたみたいで。
「最近よっすぃー、いつもの電車に乗ってないみたいだけど、どうしたの?」
梨華ちゃんにきかれたけど、ホントのコトを話すのも何だかなあ、って気がする。

朝日が昇るのを見て、吹奏楽部の朝練をヒソカに聴いて和んでるんだ、とはちょっと言えない。
別にやましいコトなんてちっともナイのだけれど、そんな早起きをして学校に来てるってだけで絶対、ビックリされるんだよなー、説明するのがメンドくさい・・・。
実際にあの時間を過ごしてみないと、絶対分からないと思うんだよね、アレは。

だからと言って、あの時間にあたし(と飯田先生、と吹奏楽部のヒトたち)以外の人間がいて、あの空気を乱されるのもちょっとイヤだ。
「なんかね、よっすぃーがいつもの電車より早いらしいって気づいたコ達がね、早めに駅に行ってこっそり待ちぶせてるらしいよ。」
「ほえ?」

74 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)21時59分51秒

いやはや・・・すごいっスみんな。
「でも全然逢わないからさ、すっごい不思議がってて。まさか車で送ってもらってるとか?」
まさか。
たぶんみんなあたしがあんなにも早い時間の電車とは思ってナイんだろうなあ。
「えー、よし子、送ってもらってんのー?あたしも一緒に拾ってってよー」
正反対の方向に住んでるクセに、たぶんごっちんは本気で言ってる。

ごっちんは時間があればとにかく寝ていたいってヒトで、実際ホントによく寝ている。
このヒト、何で通学に1時間もかかるような学校を選んだんだろうか?
あたしとごっちんは感覚が似てると常々お互いに感じている仲で。
朝のあの感覚をごっちんなら分かってくれるだろう、とは思うけれど、彼女の眠り体質のコトはすっかり忘れてたからな、うん。

75 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)22時03分19秒

「やー、なんかさ。駅に早く着いちゃうんだよね。みんなあたしに気づかないだけじゃナイ?」
「んなワケあるかい!」
後ろでハナシを聞いてたらしい加護からフライングチョップをカマされる。

「いでーよ加護!アンタちょっと何よ?」
「なーにごまかしてんのー、よっすぃーは。だいたいよっすぃーが駅にいて気づかないオンナがどこにいる?こそこそ何かやってたりするんだよー、絶対」
こそこそやってるワケじゃナイけどさー、別に。

「え!まさか、デートですかデート、早朝デート!」
辻が嬉しそうに叫ぶ。
辻にしては冴えた推理に(思いっきりハズれてるけど)、クラスの連中が一気に喰いついた。
何だよ、またヒソカにきーてたのかアンタらは!

76 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)22時06分12秒

「え、なになになになに、よし子、きーてない、それ」
「彼女?彼女?彼女が出来たんか?」
「ひとみ部としてはコレはどうするべき?ゴシップは隠す方向?」
「それともさらりと公表してー、自然体な姿勢でさらに人気アップを狙うか?」
「っていうかあたしは人気落ちちゃうほうに賭けるよ!」
「でも市井さんみたく彼女いてもイイ!ってコも多いんじゃない?」
「つーかあたしと市井ちゃん、付き合ってるワケじゃナイから!何度も言うけど〜」
「オレは彼女いてもイイよ吉澤!ジゴロみたくたらし込んでくれ!」

あーーー、うるさい!うっさいうっさい!
あたしはみんなを手で追い払うようにして黙って席を立って歩き出す。
みんなは一瞬黙り込む・・・なんてコトはなく、相変わらずギャーギャーうるさい。
「ちょっとよし子ー、教えてよ!」
「誰だれ?このガッコのヒト?」

77 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)22時08分17秒

・・・でも待てよ。
このままそれを信じ込まれてもちょっと困るよなー、あたし。
絶対しつこいもん、コイツら。
空想と妄想だけでどんぶり飯3杯はイケるクチでしょ?
それにつき合ってテキトーな答えで毎回みんなをはぐらかす程、あたしはヒマじゃない。
・・・いや、そーとーヒマだけどさ。
つーかメンドくさいっちゅーの!

あたしは立ち止まってくるりと振り向いた。
「あのねえー、違うんだってば!」
やっとみんなが静かになる。
あたしもちょっと間を置いてから言う。
「・・・ホントはあたし、ちょーーーー早く学校来てるんだけどさ。でもあんまりそれ、言いたくナイんだよね・・・っての、分かってくれる?」

78 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月21日(土)22時13分17秒

今までの経験から考えると、あたしがよく出入りする店や行動する時間帯には、あたしファンの女のコもヒソカに行動してたりする。
いやまったく、信じたくナイけどコレも現実。
あたしゃただの女子高生だっつーに。

みんなが嬉しそうに頷く。
「分かってるよー、モテよし子は違うフロアのトイレに行くのすらちょっとした騒ぎになるもんね」
「あたし達、こう見えてもよし子の幸せ願ってるからさ!彼女出来たんなら、他のコにヘンなジャマはさせないから!」
ちょっとズレてんだけど、みんながひとみ部でとりあえず良かったとは思った。
ハナシ早いもん。

79 名前:4489 投稿日:2002年12月23日(月)08時22分03秒
ようやくカップリングらしきものが見えてきましたね。
 このカップル好きなんでとっても楽しみです。
80 名前:北都の雪 投稿日:2002年12月23日(月)22時30分11秒
読んでますよ〜
おもしろいっすね。
共学でモテるよし子はすごいっすね。
楽しみにしてます。
81 名前:SSKB 投稿日:2002年12月23日(月)22時50分07秒
>79 4489氏
や・・実は、「まだ恋ははじまらない」かもしんないですけど、許して・・・。
そーとーひっぱってるクセにまだかよ、っていう。

テーマは淡々と・・・モタモタと・・・(ウソ)。
日記のようにゆっくり、このヒトの日常とともに時間は進んでいきます。
82 名前:SSKB 投稿日:2002年12月23日(月)22時57分48秒
>80 北都の雪 氏
ありがとございます。共学の女のコのが、ホントのモテなんではナイかと。
「男役」が必要なワケではナイからなー、なんて、女子校はウワサでしか知らない世界ですけども。

今日の更新、いきます。
83 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時07分35秒

「や、まずね、彼女、出来てナイから」
「「「「「おぉぉーーーーーー」」」」」
いちいち驚くなっつーの。
「んじゃ、片思い?それともカレシ?」
絶対そっちに持っていきたいのね・・・。

「どっちも違うなー残念ながら。あたしね、早く学校来て、1人で図書室行ってるだけなんだよ」
「えっ、それで何してんの?」
「何って、本読んでるんだけど?他に何かある?」
「よっすぃー、本なんて読むの?」
加護が失礼なコトを言う。

でも仕方ないか、教室ではあえて本は読まないし、あたしの国語の成績がヒソカにイイのは昔っから本を読んでるおかげだなんて、読まないヒトにはたぶん分からない。
「まあね。フツーに読むよ」
「私、知ってる!」
突然梨華ちゃんが手を挙げる。

84 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時09分43秒

「はい、石川さん、何を知ってるんですか?」
辻が梨華ちゃんに質問する。
「よっすぃーね、図書室の貸し出しランキング、学校全体でトップ3に入るんだよ」
「「「「「おぉぉーーーーー」」」」」
だから分かったっちゅーの。

つーか何それ、あたしも知らなかった。
「そーなの?梨華ちゃん」
「そうなの。私、図書委員でしょ?こないだ調べてみたんだ、貸し出しランキング」
「そしたらうちの吉澤さんが、かなり上位にいました、と。何でそんなイイ情報を黙っとんじゃ、このボケ!イイネタになるじゃんか!」
加護の容赦ないツッコミが梨華ちゃんに入る。

かわいそうに・・・。
「だって、だって、よっすぃーはあんまり、図書室にいるの知られたくナイんだよね?ね?よっすぃー」
梨華ちゃんは加護のイキオイにすっかりビビって、あたしに助けを求める。

85 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時12分50秒

さすが梨華ちゃん・・・あたしのコトよく分かってる。
か、どうかはよく分かんないけども。
っていうか去年、図書室でたまたま一緒になった梨華ちゃんと教室に戻る時、直接言ったんだもんな。
図書室はあたしにとって校内でも一番落ち着く場所で、あんまりヒトには知られたくナイんだよね、みんながあたしをほっといてくれるのが嬉しいんだ、と。
あたしがそう言うと梨華ちゃんはちょっと悲しそうな顔をしてから、真顔でコクリと頷いた。

以来、真面目な彼女は図書室であたしに逢っても、目線すら合わせてくれなくなった。
そりゃあたしが、ほっといて欲しいって言ったようなもんだけどもさ。
だからー、梨華ちゃんに言ったワケじゃなかったんだってば・・・。
友だちなんだからいーじゃん!分かるでしょ!
・・・なんて融通が梨華ちゃんに効くワケもなく。
ま、そんな真面目なトコもカワイイんだけどね。

86 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時15分34秒

「やっぱり言わないほうが良かったんだよね?どうしよう私、ゴメンね、よっすぃー」
しばらく黙って梨華ちゃんを見つめていたら、彼女は泣き出しそうな顔になっていた。
考えすぎなんだよな、梨華ちゃんは。

「や、イイんだよ気にしないで。あたしが言いたいのは、知らないヒトに和みの時間をジャマされるのがヤだな、ってだけでさ。図書室で逢ったら梨華ちゃん、あたしのコト知らないフリしてくれるじゃん?アレちょっと寂しかったりもするんだよ。梨華ちゃんなら、全然OKなのに」
あたしが言うと、梨華ちゃんはなぜかふにゃっと笑って、泣き出してしまった。

87 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時19分16秒

「「「「「おぉぉーーーー」」」」」
だから何でそこでアンタ達がうなるんだよ!
っていうか梨華ちゃん?何で泣くの?
「ちょっ、えーと、梨華ちゃん?泣かないでよ。ゴメン、あたし何かマズイコト言ったっけ?」

ごっちんに救いを求める目を向けると、ごっちんはなぜか感慨深そうに何度もうなずいている。
「いやー、梨華ちゃんさ、そーとー気にしてたんだよ・・よし子がさ・・」
「だめー!ごっちん、言っちゃだめー!」
突然梨華ちゃんが泣き顔のまま立ち上がり、ごっちんの腕を取ってぐいぐい教室の外まで連れて行ってしまった。

あたしは何も言えずにぼーっと2人を見送るコトしか出来なかった。
ワケが分からん・・・。
梨華ちゃん、そんなに気にしてたのかな、あたしがほっといてと言ったのを(だからそのつもりじゃなかったんだってば)。
っていうか梨華ちゃん、あのごっちんを有無を言わさず引っ張ってくなんて、どこにそんな力が?

88 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時23分59秒

「恋するオンナは馬鹿力くらい出すっちゅーねん」
あたしの疑問に答えるように、加護がニヤリと笑って言った。
「へ?梨華ちゃん恋してんの?」

思えば梨華ちゃんって男のコに人気あるのになぜか、恋のハナシが一つも浮かんでこない。
「それ、マジで言ってんの?普段から梨華ちゃん、よっすぃーに好き好き言ってるじゃん」
「はぁっ?それはナイナイ、だってアレ梨華ちゃんの持ちネタだもん。それに梨華ちゃん、ひとみ部員だナンだ、って普段から張り切ってるよ?」

89 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時27分23秒

高校に入学した頃は、クラスの中でもあたしはやっぱりモテていた。
がしかし、去年1年間であたしのアホサイドをイヤっちゅーほど見てきたクラスメイトは今や、モテるあたしに萌えるコトにしかキョーミなく、ネタでもあたしに言い寄ったりはしない。
ネタでも、って失礼やなしかし!

そんな中で、今でもあたしに好き好きビーム(しかも誰が見ても聞いても分かるような)を発してるのが、梨華ちゃんだったりして。
でもアレ、他に持ちネタがナイ梨華ちゃんの、唯一使えるネタでしょ?「よっすぃー好き好きキャラ」っていう。
あたしが誰かと仲良くしてたらヤキモチ焼いてみせたり、急に抱きついてきたり。

ただし、教室の中限定のネタだけど。
加護曰く、ひとみ部員にあるまじき行為、教室以外でやらかしたら梨華ちゃんの上履きの中に×××をホニャララしてやるそうだ。

90 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月23日(月)23時30分02秒

ちなみに、ごっちんには1才だけどココロは50才の「なるとちゃん」、あたしにはイカ漁師の「もんどころ」っていうキャラの持ちネタがあったりする。
っていうかあたしもうっかり教室以外で「もんどころ」になったりしたら、上履きに×××をホニャララされてしまうのだろうか?
91 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月26日(木)13時08分56秒

「ばっかだなーよっすぃーは!」
「ニブイよねー!よっすぃーは!」
加護と辻に揃って罵られる。
よりによってこんな見た目お子ちゃまみたいなヤツらに言われんのかよ、あたし。
このぶりんこう×こ!あ、言っちゃった・・・言ってナイけど(んでもってコレは加護辻の持ちネタ・・・ホント好きだねキミたち)。

「梨華ちゃんはよっすぃーを好きだけど、モテるよっすぃーを見るのがさらに好きなんだよー」
何だそりゃ。
ま、梨華ちゃんがあたしのコトをワリと好きなんだろうなってのは分かるけどさ、ネタとは言え。
あまりにもベタな好き好きっぷりだし、急に抱きついてきてそんな間近で顔を見つめられても照れるっつーの!ってなくらいに、接近してくるし。
間近で見る梨華ちゃんの顔は、オンナのあたしが見ても惚れ惚れするほど、カワイくて。

だからあたしは大体、寄るな触るなってカンジでイヤがったり、ワザとからかって遊んだり。
そういうネタなんだと思ってた。
「ねえ加護、それ梨華ちゃんが言ってたの?」
「いや、全然。勝手にウチらが言ってるだけ」
92 名前:-春の道標- 投稿日:2002年12月26日(木)13時11分37秒

・・・・・何だよ!!ちょっと真剣に受け止めかけたあたしがバカだった。
想像と妄想でどんぶり飯3杯はイケるヤツらのワナに、危うくハマりかけてんじゃん。
はー、くだらな・・・。
やってられん、と呟いてあたしは、今度こそ本当に教室から出ていった。

そうだよあたし、行くトコロがあったんだ。

93 名前:-春の道標-(2) 投稿日:2002年12月26日(木)13時15分25秒

明日の昼休みに音楽室の外階段の下に来て下さい、とその手紙には書いてあった。

ちょっとだけ強くなり始めた陽射しに背を向けて、長い渡り廊下を一人歩く。
音楽室は、独立して一つの校舎になっている。
吹奏楽部はもちろん、音大を目指すようなコ達が選択する音楽コースの為のピアノレッスン室がいくつもあったりして、公立の普通科にしては色んな設備に金がかかっているともっぱらの評判だ。

ちなみに専門コースは音楽の他に、美術、体育、英語、文科があって、生徒は2年になる時にそのどれかを必ず選択しなければいけない。
ちなみにあたしは”特に専門ナシ”のバリバリの文科コースってヤツだ。
ま、一応普通科だから文科コースの人間が一番多いんだけどね。

94 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月26日(木)13時20分13秒

それぞれの専門分野とそれなりのビジョンがある人間が1つのクラスに集まってるから、あたし達はビミョーなバランスで楽しい毎日を送ってるんじゃナイかとたまに思う。
っていうか、クラス全体が人種のるつぼ。
美術コースの男子の一人はバレンタインに手作りのケーキを焼いて来て、ひとみ部の喝采を浴びた。

上にでっかく『吉』と一文字だけ書かれたそのチョコレートケーキは、午前の授業が終わる頃にはすでにヒトカケラも残らないほどに、大好評だった。
いや、味は相当イケてたけども、そのセンスはよく分からん・・・ってか、分かりたくナイような気もする。
オレもひとみ部に入れてくれ、とのたまったのはちなみにこのヒト。
やっぱよく分かんないなあ。

95 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月26日(木)13時23分56秒

その男子に頼まれて続けてる絵のモデルを終えて帰ろうとした、昨日の放課後。
下駄箱でローファーに足を入れると何やらガサゴソ、中に紙が入っている。
それがその手紙だった。

珍しいコトに名前が書いてナイんだよなー。
それってどうなの?と思わないでもナイけど、とりあえず音楽室に向かってみるあたし。
つーかクツん中にガッツリ入れなくてもイイっつーの!
足入れたら手紙ぐちゃぐちゃになっちゃったよ?

96 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月26日(木)13時26分30秒

そして昼休みに、という漠然とした時間指定・・んー、なーんかイヤな予感がする。
何だろう、前にもこんなコトあったっけか?
今まで告白された場面があたしのアタマの中をぐるぐると回る・・・
ほどには、ゴメン、覚えてなくて。
あたしは告白された時のコトを出来る限り記憶の彼方に追いやるようにしている。

その記憶の彼方からモノ凄いイキオイで蘇ってきて、あたしの後頭部を直撃するような声が聴こえてきた。
「吉澤せーんぱい!待ってたんですよー」
その瞬間、あたしが封印したハズの酸っぱい想い出が一瞬ココロをよぎった。

97 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)11時52分10秒

ヤバイ、と思った時にはもう抱きつかれていた。
「ちょっ、松浦!やーめろって!」
「もーせんぱい、照れないで下さいよー」
あたしの首に腕を回してドアップの顔をさらしてくれてるこのコ、松浦亜弥は、あたしのコトが大好きだ。
「ばかっ!照れてるとか照れてナイとかじゃなくってさー、ホント、う、うわ〜〜〜〜!」
あたしのハナシもきかずに松浦は、ん〜〜とかナントカ言って、あたしの口にキスしようとする。
そ、それだけは死守。

思いっきり顔を上にそむけるあたしの首に、チュッとちっちゃな音がした。
まーつうらちょっとアホなコト・・とあたしが言いかけると松浦の抱擁する力が急に弱くなった。
ちょっとバカとかアホとか言い過ぎたかな?と思って松浦の顔を見たあたしのほうがアホだった。


98 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時01分58秒

「へへへ・・やったぁ・・・」
松浦はあたしの肩をつかんだまま、照れたような笑みを浮かべてあたしの顔を見る。
なっ!自分からしたクセに頬を赤らめて、ウルウル上目遣いすんの、反則・・・。
でもやっぱ、カワイんだよね・・・と思ってあたしもまじまじと顔を見つめ返してしまう。
コイツはまったく大胆なんだかそーじゃナイんだか、慣れてんだか慣れてナイんだか・・・よく分かんないけどスキを見てあたしに抱きついたりキスしたりしようとしては、勝手に照れたりもする。

99 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時05分53秒

あたしは冗談でそーいうの、ヘーキでチュッチュチュッチュすんのはあんまり好きじゃナイ。
とは言えあたしのファーストキスは既に中学時代のバレー部顧問、キス魔の中澤裕子先生というヒトに奪われている・・ファーストどころか、何度も。
顧問て!セクハラだろそれ!
と言いたいトコだが中澤先生の人柄からか、他にもいる仲間(ファーストキス奪われ仲間)達も特に本気で抗議するコはいなかったし、軽い冗談のキスがしばらく仲間内で流行っていた。

あたしは別に恋人以外とキスすんのがどうこうと言いたいワケではなくって、あんまり日常で友達とかとばっかしてるとつまんないだろ!と中学時代に学んだ、ってハナシ。
あたし何しに中学校行ってたんだ?

100 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時11分05秒

それはともかく。
最近では松浦に偶然逢ってもあたしがあからさまに逃げる素振りを見せるようになったから、どうやら作戦変更をしたらしい。
っていうかこの呼び出し作戦にひっかかんの2度目、あたし。
まさか松浦がいるとは思わないから不意討ちなんだよな。
こないだはまんまと口に・・・いや、イカンイカン、そのコトは忘れよう。

「やだー先輩ったら!今の私達、恋人同士みたいに見つめ合ってましたよー!やっと本当の恋人に近づきましたね!あやや幸せです!」
あたしはあわてて松浦から離れた。
「アホか!もーホントあんなのに騙されたあたしがバカだったよ。2度とこの手にはひっかかんないからね!」
「だってー、ミキが先輩から手紙の返事もらったってずっと喜んでるからーあやや悔しくってー最近先輩に逃げられてるし・・・」

ミキ?あたしは怪訝な顔をしたらしい。
「あ、ミキって藤本美貴、あたしの親友なんです」
「ん?あー、あのカワイイコね」
あの時の手紙の返事、本読むのに夢中で忘れてて結局あとで急いで書きあげたんだよな。

101 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時13分23秒

「せーんーぱーいーーー!」
げっ、しまった、松浦の前でつい言っちゃった。
すげーイキオイで睨まれてるんだけど、あたし。
「いや、だってカワイイのはホントじゃん!松浦は親友なんでしょ」
「確かにミキはカワイイですよー!でもあややだってカワイイでしょう?ね?せんぱーい」

あたしはこのコのキス魔なトコ(他のヒトにもそうなのかは知らないけど)や自分本位なトコには正直ついてけない。
それでもやっぱりカワイイなとは思う。

本気で自分大好きなトコや、高1にもなって自分をあややと呼んじゃうトコ、あと単純にくるくるとよく変わる表情なんかを見てるとそう感じたりもする。
あたしにはナイものばっかりだからかもしれない。

102 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時16分28秒

「はいはい松浦もカワイイよ、あたしが言うからマチガイナイね、うん、カワイイ」
「もっとちゃんと言って下さいよ!そんな仕方ナイみたいじゃなくってー」
・・・やっぱコイツ、単なるワガママ星人だ。
しょうがナイな・・あたしは冗談で梨華ちゃんをからかう時なんかに使う口調で言う。

「松浦、カワイイよ。だからもうちょっと控えめになってくれたら、もっとカワイイ」
あたしは真顔でささやいて、とっときのスペシャルスマイルをカマしておいた。
「キャーーー!もう先輩!ヤだ!ハズカシー!」
松浦は赤くなって、あたしの肩をバシバシ叩いて走って行ってしまった。
何だよ!控えめに、ってのに返事してけよ!
っていうかホントにキスするためだけに呼び出したのかよ!イミ分かんねー・・・。

あたしがボー然と立ちつくしてると、後ろからあたしを呼ぶ声がする。
「せーんぱい!待ってたんですよー」
な、何だ?今度は誰だ?

103 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時19分15秒

あたしが振り返ってキョロキョロしてるとまた声がきこえる。
「こっちこっち、レッスン室だよー」
見るとレッスン室の窓からメトロノームが差し出され、カチカチとリズムを刻んでる。
こんなくだらないコトをする、あの声は・・・・市井さんがメトロノームの後ろからヒョイと顔を覗かせてひらひらと手を振った。

104 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時22分07秒

告白された時のコトなんてね、忘れたほーがイイんだよ、とあたしに教えたのは市井さんだ。

最初の頃のあたしは、モテる自分についてけなかった。
誰かに告白されるとその場面がいつまでもアタマに残る。
結果的に全員フっているのにそのコ達のコトバや表情がずっと気になって、次に顔を合わせた時にお互い気まずい雰囲気になってしまう。

とりあえず毎回そんなのを繰り返しててイイ加減、モテる自分がホントにメンドくさいと思い始めた頃に、市井さんがあたしに言った。
大事なのはコレからのそのコとの関係で、その時のコトなんて吉澤が覚えててもしょーがナイんだよ
つき合うにしろつき合わないにしろ、と。

105 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時24分50秒

それ以来あたしは、告白される時には出来る限りフラットなキモチで、そのコトを考えるのはその場限りでいようと努力した。
もちろんキレイさっぱり忘れるコトなんて出来ないけれど、告白されて返事をした後はその時のコトを意識しないでそのコと接する。
そうして初めて、その後の彼女達と友達になれたり気軽に声をかけられるようになった。
・・・おかげで松浦がずっとあんなカンジなんだよな。

市井さんの場合、コクられようがコクられまいがフろうがフるまいがとにかく、一度でも自分と話した人間はフツーに友達、らしい。
老若男女、犬、猫、草花にいたるまでトリコにさせるこのヒトは、完全にモテを楽しんでいる。
愛だろ、愛・・・コレがあたしのモテ道(どう)だから、と市井さんはよくあたしに言う。
やー、あたしにはよく分かんないっス・・・。
106 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時27分38秒

その市井さんがレッスン室の窓の隙間から、あたしに向かって手招きしている。
「何やってんですか?こんなトコで」
市井さんは体育コースだから、ピアノのレッスンはもちろん必要ナイ、ハズ。
あたしが窓に寄って行って聞くと市井さんがニヤリと笑う。
「見ちゃったよーん。松浦。やるね、吉澤」

「なっっ!別にあたしが何かしたワケじゃナイっスよ!つーかこっそり見ないで下さい!」
ものすごくハズカシくなって、あたしは大声で叫んでしまった。
しーーっ!と市井さんは人指し指を自分の口に当てるとなぜか小声でささやいた。
「ちょっと吉澤、オモテまわってこっち入って来なよ」
「とかって市井さん、どうせさっきのコトをツっこむんでしょう?」
このヒトのからかい方がまた、ひとみ部と違ってイヤラシイんだよなーホントに。
「イイからイイから、来てみなって」

何なんだよー、ったく、と思いつつもあたしは入口のほうにまわってみる。
音楽室のドアを開けようとすると、中からちょうど誰かがドアを開けたトコロだった。

107 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時31分46秒

っと、ヤグチさんだ。
昼練かな。
あたしはとっさにペコリと軽くおじぎをする
ヤグチさんはアタマの中にクエスチョンマークが浮かんだようなカオをしつつも、ニコッと微笑んで出て行った。

話したコトもナイあたしに対して素早くあんな反応が出来るなんて、うらやましい。
あたしならきっと、アタマの中にクエスチョンマークが浮かんだまんま何の反応も出来ずに行ってしまうか、おじぎを返して終わりだろう。
そういうトコが、市井さんから見ると歯がゆいんだろうなあ、あたし。
さっきみたいに芝居がかったキザな仕草とかなら出来るんだけど。

108 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時35分04秒

右から3番目のレッスン室のドアに手をかけ、小窓から一応中を覗いて確認する。
1畳半くらいのスペースにアップライトのピアノがあり、その奥に座り込んだ市井さんはあたしと目が合うと両手でピースしながら口をイーッと開いて歯を見せた。
声は聴こえないけど、やる前に口のカタチが「歯っ」って言ってたし・・・イミ分かんない。

ガコッと防音ドアのハンドルをひねって開けた途端に市井さんが言った。
「いやー、モテるオンナはツライっスねー、先輩」
やっぱからかうんじゃんか!あたしが無言のままドアを閉めようとすると
「ウソウソウソ!吉澤!んっとにもー、怒んなってば」
仕方なくあたしはまたドアを開けて中に入った。

すーぐムキになるんだよなー吉澤は、と市井さんはつぶやいて自分の隣のスペースを開けた。
あたしが黙って立ってると、ぽんぽんとそこを叩いて座れ座れとあたしに促した。
オヤジくさ・・・でもコレもこのヒトの魅力なんだろか。

109 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時37分54秒

「っていうか2人だとさすがにいっぱいいっぱいなんですけど?」
市井さんの隣にムリヤリ腰を下ろしてから言ってみる。
「堅いコト言うなよーあたしと吉澤の仲じゃん。もうギャル達が見たら鼻血モンの光景っスよコレは」

あの市井さんと吉澤さんがスシ詰め状態!と目をキラキラさせるマネをして市井さんはシシシと笑った。
スシ詰めってーか、2人だし。
隣に座んなきゃ済むハナシだし。
ったくこのヒトは・・・。

あたしの冷たい沈黙に気づいた市井さんは、それでも構わずに言った。
「まーさっきのは黙っててやるけどさー、あいつ、松浦!ホンットにしつれーなんだよ」
「何がですか?」
「や、さっきそこで逢ったからさ、何?吉澤でも待ってんの?ってきいたら、そうなんですぅーなんてニコニコしちゃって」

110 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時40分42秒

はぁ・・・ってか、何で松浦があたしを待ってるって分かるんだこのヒトは?
あたしが聞くと市井さんは、松浦つったら吉澤に決まってんじゃん、と考えたくもナイようなコトを言う。
「そんであたしが、吉澤もイイけどあたしじゃダメ?ってきいたら、市井さんはタラシだからダメですぅー、だって!こんのやろー!って思ったんだけどさ、当たってるから何も言えなかった」
当たってんのかよ!タラシって!

ま、そうだよなー。
ごっちんというヒトがありながら、あたしじゃダメ?なんて冗談でも聞いてるあたりがすでにタラシ。
「だってごっちんがいるじゃナイですか」
「だーから、ウチらは別につき合ってるワケじゃナイんだってば」
誰が何度聞いても、このヒト達からはこのコトバしか出て来ない。

111 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時43分16秒

「やーもうそれもイイ加減聞き飽きたんですけどー・・・」
「もう説明すんのも飽きたっつーの。つき合ってなくてもあたしには後藤しかいない、それじゃダメ?」
さらりとこのヒトはこんなふうに言う。

そいでもってごっちんのほうも誰かに聞かれると、いつもこう言うのだ。
「別につき合ってるワケじゃナイけど、あたしにはいちーちゃんしかいない」

ホンット、コレばっかりは何度聞いてもイミ分かんない。
けど、ごっちんってそんなカンジなんだよね。
コトバで説明しなきゃいけないコトなんて、クソくらえ、ってかキョーミないってカンジ。
フィーリングがすべて。

112 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時45分57秒

あたしはごっちんのそういうトコがすごく好きで。
自分の感じるままに行動してればそれが正解になるんだ、とごっちんを見ててあたしは学んだ。
だから小さい頃からピアノを習ってきて、この高校で音楽コースに進む予定だったんであろうごっちんが2年になった時、体育コースを選んだのを見てもそんなにビックリはしなかった。
担任もクラスメイトもビックリしてたけどね。

高校に入って市井さんと出逢ったごっちんはその頃すぐに、音楽は趣味でやってく、あたしはいちーちゃんと一緒にインターハイ目指すよ、と周囲の制止も聞かずに水泳部に入ってしまっていた。
コレがまたごっちんの才能というか何というか、メキメキと頭角を現わして今や、ウチの水泳部の2年のエース格だ。
ごっちんの親はというと、水泳なら突き指もしないしピアノも続ければ?モノになるんならどっちだってイイわよ、と言っただけらしい。
この親にしてこの子アリ、とはこのコトを言うのだろう。

113 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2002年12月29日(日)12時50分01秒

そして市井さんもそういうごっちんに惹かれたから一緒にいるのだろうと思う。
でも市井さんは普段から、あたしは後藤とつき合ってるワケじゃナイから、と色んなヒトとのデートを楽しんでるのも有名だ。
端から見るとごっちんのほうが圧倒的に市井さんを想ってるように思われがちだけど。
実は市井さんがものすごくごっちんのコトを好きで、好きで好きでたまらないと思ってるコトを、あたしはヒソカに知っている。
フフフフ。

あたしが1人ニヤニヤしていると、レッスン室のドアを外からガンガン叩く音がきこえた。
「何だよ吉澤キモチわりーな、つーかアレ開けてあげてよ」
「ん?あ、ハイ」
誰だろ?小窓からは誰の顔も見えないけど。

ヒザ立ちで歩いて行ってガコッとハンドルをひねると目の前に、ヤグチさんが立っていた。

114 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月31日(火)02時02分30秒
ここのお話、ゆったりと流れていて、読んでいて心地いいです。
よっすぃとその仲間たち、みんないい味だしてますよね。おもしろい!
所々のいちごま風味がまたいいです!(個人的に)
続き、楽しみにしています。がんばってください。
115 名前:SSKB 投稿日:2003年01月01日(水)04時58分46秒
>114 マーチ。氏
ありがとございます。ゆーーーっくりしすぎたかなあと思ってたトコだったので、
いや、良かったです。このままやってく勇気出ました。

で。次回更新は1週間後くらい?を目標にしつつ。
2003年ですね。皆様良き日々を。
116 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)06時00分45秒
ワクワク
117 名前:SSKB 投稿日:2003年01月08日(水)12時02分45秒
ちょうど一週間後だ・・・・。

しばらくはコレくらいの更新ペースになると思います。
このハナシでそれって長くナイ?・・・と自分でツっこみ。
118 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時06分46秒

「おろっ?ココに来てたんだよっすぃーは」
紙コップのジュースを2つ両手に持ったヤグチさんは、よっ、とドアを足で支えて中に入りながら言った。
えっ?いきなりよっすぃーと呼ばれてあたしは少しビックリした。

「やあやあサンキューヤグチくん。あ、吉澤の分はナイからあたしの半分あげるよ」
市井さんはのんびりそう言いながらも、そこから動こうとはしない。
ヤグチさんはふさがった両手のまま、よっ、ほっ、と何とかしてヒジでハンドルを閉めようとしている。
「あたしが閉めますよ、ヤグチさん」
「ありがとう、ってか何でヤグチの名前知ってんの?よっすぃーは」
「・・・ヤグチさんこそ、何であたしの名前を・・」
119 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時09分41秒

ちょっとマヌケな会話をしているあたし達に、ジュースを受け取った市井さんが割り込む。
「まーつまりあたしに関わる人間はみんなゆーめーになるってコトでココはひとつ・・」
「ばぁっか紗耶香ーよっすぃーなんて元から有名人じゃんか!ホンットうぬぼれてんだから」
きゃははは、と笑ってヤグチさんは、ヤグチのも飲みなよ?よっすぃー、とカップをあたしに手渡した。

あたしがヤグチさんの名前を知ったのは市井さん周辺のヒトという認識からだろうから、市井さんの威力ってのはうぬぼれだけでもナイとは思う。
そういえば市井さんのコトを下の名前で呼ぶヒトって初めて見た気がする。
紗耶香、だって・・・新鮮な響きだなあ。
って言ったら殴られそうだからヤメとこ。

ってかヤグチさんてやっぱりパシ・・とツっこみかけてあたしはあわてて口をつぐんだ。
あの朝のヤグチさんは別にパシリじゃナイけどさ。
「んーー?よっすぃー今ヤグチのコトパシリって言っただろー!違うんだよヤグチはねー、紗耶香が行くといつまでも帰って来ないからさいっつも。だから紗耶香のオゴリで買いに行っただけなの!」

120 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時12分21秒

何となく想像はつく。
自販機のまわりでギャル達(市井さん曰く、全ての女のコ=ギャル)に囲まれて、話し込んでるこの御方の姿が・・・。
っていうかそれ、いっつも見てるから。
それを校舎の2Fから見下ろすごっちんの隣で。

でもそんな時ごっちんは何を思ってるかというと大体、今日もいちーちゃんモテてんなぁー、とか眠いなぁー・・・とかで、ヤキモチを焼いてるワケではナイ、と、思う、たぶん、きっと。
だってニヤニヤしたりアクビしながら眺めてるから。
コトバで確かめたコトはないけどこの2人はずっと、そんなカンジでやってんだと思う。

「市井さんがジュース買ってるとあたし達、いつまでたっても自販機にたどり着けなくて困るんですよねーマジで」
「何だよ吉澤、いっつも上からニヤニヤ眺めてるだけのクセに何言ってんだよ」
あ、バレてました?だってオモシロイんだもん。
「大体アレはさ、一人に話しかけられて立ち止まるとヤバイんだよ。いつの間にかギャルが増えてて戻ろうにも戻れなくってさー、そんで休み時間終わっちゃうパターン」
そう言いつつニヤけてる市井さん。
もうアナタ根っからのオンナ好きでしょ?

121 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時15分37秒

しかもそれ喜んでるからねこのダンナは、とヤグチさんが続けた。
「サッと買ってサッと戻って来りゃ済むハナシなのにさー。ジャンケンでパシリの時なんて最悪だよ?勝ってもヤグチ達、待ったあげくに休み時間中にジュース飲めないんだよ。それでウチら何回、授業中にジュース飲むハメになってんだっつーの」

授業中に飲むのかよっ!
てのはまあ、このヒト達には通用しないんだろな。
3年生って、楽しいコト大好き!イタズラ大好き!何でもアリ!遊んじまえ!ってイメージだもん。
イベントがある度にものすごいイキオイで盛り上がるこのヒト達を見ながら育ったあたし達。
3年に比べて2年は元気ナイなんて言われがちだけど、学年ごとにカラーってのはあるワケで。

絶対かなわないとは思わないけど、とりあえずこのヒト達を見てたら楽しいからイイや、と自分達でそういうのを開拓する気があんまりナイのかもしれない。
あたし達が3年になる頃に、オイシイトコ取りであたし達なりの楽しみ方を見つけるのだろう。

122 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時21分01秒

「あ、やべ。時間なくなっちゃうからとっとと始めるか」
ヤグチさんが時計を見ながらファイルを取り出し、譜面台に置いた。
「あたし、ココにいてイイんですか?」
市井さんに勝手に呼ばれて来たあたしは、一応きいてみる。
ファイルは音楽コースのコ達が持ってるのと同じだから、きっと課題か何かなのだろう。
ヤグチさんが音楽コースだってのも初めて知ったけれど。

「イイよーもちろん。紗耶香なんて全然無関係者だよ?ってかむしろよっすぃーにいて欲しいねヤグチは」
「何ー?聞き捨てならんなー、そんなコトを言うのはこの口か!コレか!」
市井さんがヒザ立ちになってヤグチさんのほっぺたをつまみに行く。
ぎゃーやめれー!と叫んでヤグチさんは必死にガードしている。
仲イイんだなあ、ホントこの2人って。

123 名前:春の道標(2) 投稿日:2003年01月08日(水)12時23分43秒

っていうかファイルに・・・めちゃくちゃでっかい字で『知』って書いてあるんですけど。
知?あ、矢口か。
ヤグチさんって、矢口さんなんだ。
「もーこのファイルさあ!ヤグチが名前書こうとしたら紗耶香があたしに書かせろってうるさくってー。しょーがナイから書かせたらコレだよ。デカすぎだっちゅーのホントに」
ピアノの前から市井さんを追い払った矢口さんが、ファイルをバシバシ叩きながらあたしに言った。

それにしてもおそろしく達筆な市井さん・・・。
思えばごっちんの上履きのイミ不明な字、アレもこの方の仕業?もしかして。
「あたしがせっかく書いてやったのに文句言うなよー。カラダが小っちゃいから名前くらいはビッグに行かないとホラ、モテないよ?」

「「モテねーよ!」」
矢口さんと2人同時にツっこむ。
初めてしゃべったワリにはナイスコンビネーション。
あたしと目が合った矢口さんはニカッと笑った。
「さっ始めるよ?」
矢口さんが急に真顔になって、ピアノのフタを開けてファイルをめくる。
それから大きく深呼吸をして、鍵盤に手を置いた。

124 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時26分19秒

矢口さんの弾くピアノは、あたしのカラダの奥までガンガン響いた。
ココはこういう風に弾いてるのかな?なんて思わせないような、ただ感覚で何かを訴えてるいようなカンジ。
スローな曲なのに、カラダ全体を使って弾いてて迫力あるからかもしれないけれど。
小さいカラダと、普段のフルートのイメージとは違う音。
あたしはそれが心地良くって、身動きもしないで矢口さんを見つめていた。

右ヒジを隣からつつかれる。
また市井さんにツっこまれる?と思ったら市井さんは真顔だった。
イイだろ?と口パクで言いながら矢口さんを小さく指差す。
あたしが黙ってうなづき返すと市井さんは満足そうなカオをして、目を閉じてまた壁にもたれかかった。

125 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時29分22秒

何分くらいだったのだろう。
矢口さんは最後の一音を弾き終えると、しばらく黙っていた。
もちろんあたしも、市井さんも何も言わない。

「・・・どうかな?」
矢口さんが口を開いた。
「ん、今までで一番あたしは好きだったな。何かね、今の矢口ってカンジするよ」
市井さんの答えは少し抽象的だけれども、あたしにも何となく分かる気がした。
「よっすぃーは?」
急にきかれたあたしは少しあわてながらも、思ったままの感想を口にする。
「カラダ全体に響くカンジが、すごくキモチ良かったです」
「良かったぁ」

真剣な眼差しだった矢口さんが、ほっとしたように笑った。
「ヤグチはこの曲をココロにしみるというよりはもっと、ストレートに伝わるように弾きたかったのね。専門的な意見じゃなくってもっと単純にそれを感じて欲しかったから、良かった」
あたしはクラシックのコトなんて全然詳しくナイけれど、矢口さんの意図するトコロを少しでも感じ取れて、嬉しかった。

126 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時34分21秒

「あたしはよく矢口のピアノを聴きに来るんだよ。素人の意見もききたいんだってさ」
「そうそう、紗耶香の野性的感性はヤグチかなり買ってるんだよね」
何か・・・少しだけ市井さんがうらやましいと思ってるかも、あたし。
「よっすぃーもまた聴きに来てよ。今度は紗耶香がいない時にでもさ」
後片づけをしながら矢口さんが言った。
あたし、もしかしてうらやましそうなカオしてました?

「なーんだよーダメダメ!あたし抜きで矢口とイチャイチャするなんて百年早いかんね、吉澤!」
市井さんはあたしに釘を刺す。
ってか何で?
「何がイチャイチャなんですか!っんとに、普段はもっとオンナと遊べとか言ってるクセに・・」
きゃはははと矢口さんが笑う。
「ちょっと紗耶香ーよっすぃーにヘンなコト教えんなよー。よっすぃーが紗耶香みたくなったらファンのコに恨まれるよー」

127 名前:春の道標(2) 投稿日:2003年01月08日(水)12時48分34秒

「つーか見てよこの吉澤のカオ!ニヤケまくってやんの。矢口の操はあたしが守る!」
市井さんに言われてあたしは、自分の頬がだらしなくゆるんでるのに気づいた。
「何だよ紗耶香!ヒトの操奪ったのはどこのどいつだよーこの口が言うかそれを、んー?」
今度は矢口さんが市井さんのほっぺたをつねりに行く。

ん?今何かスゴイコト言ってなかった?操を奪った?市井さんが矢口さんの?
あたしがじゃれ合う2人をじっと見つめていると、市井さんがあわてて言った。
「いや、操って言ってもね吉澤。違うんだよ、チューだから、チュー。あたしが矢口のファーストキスを奪っちゃったってだけだかんね!」
「だけ、って失礼だな紗耶香ー!ヤグチにとってはホントに初めてのキスだったのにさ」
ぶつぶつ言いながらも笑ってる矢口さんに市井さんは、ゴメンゴメンと軽ーくあやまり続ける。

128 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時50分54秒

「まっ、相手が紗耶香だから良かったとも思ってるけどさ」
「でっしょーやっぱり?何だよ早く言ってよ。チューなんていつでもしたげるって、ホラ」
「ぎゃーー!ダーメだって、紗耶香!ちょっと!よっすぃー助けてー!」
・・・・・・何だ何だナンだ?
ナンナンだ?このバカップル一歩手前になりかけてる2人は?

そして矢口さん、あなたもですか。
あなたもあたしと同じ・・・不本意なファーストキスを奪われた人間なのですか?
しかもこの・・・タラシの・・・
「吉澤!オマエ今タラシって言った?何?あたし?」

ひえーーー、あたし、思わず口に出してた?出してナイ?
んんん?でも市井さんてタラシだけど手は出さないって有名だぞ?
デートはするけど、あんなコトやこんなコトはしないらしい。
普段のイメージと違って意外とカタイのもまた人気のヒミツ。
そんなハナシまで有名なこのヒト・・・。

129 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時55分53秒

「いやいやいや、何でもナイです、はい。つーかえっと、矢口さんのファーストキスとか言って、えーっとえーっと、アレ?市井さんって、というコトは?」
何だかあたしはごっちんの名前を出しづらくて、でもどういうコトなのかもちょっと知りたくて、でも言えなくて、マヌケな動きで市井さんと矢口さんを交互に見比べるしかなかった。
つき合ってはいないけどごっちんしかいないと公言してる、実はカタイ市井さんがキスする相手って?

「ん?何?あたしと矢口の関係?んなの吉澤ごときに言えるかっつーの、ねー矢口」
「あはは、んーそうだねーウチらのヒミツだもんねコレは。しかも紗耶香にチューを奪われたってのはごっつぁんにもヒミツだよよっすぃー?ヤグチなんてひねり潰されちゃうよ?ごっつぁんの怪力で」
きゃははは、と笑う矢口さん。

コレって、どこまでマジメに受け取ったらイイんだろう。
いつもの市井さんみたいに、冗談であたしをからかってるだけなのかな。
それともホントに、ごっちんに知られたくナイようなハナシをうっかりあたしのいる前でしてしまったのだろうか。

130 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)12時58分27秒

あたしはよっぽど、複雑な表情のままだったらしい。
「よっすぃー?どしたの?紗耶香の言うコトなんか考えすぎちゃダメだよ?ウチらいっつも半分は冗談なんだからさ」
矢口さんが笑って、あたしの目の前で手のひらを上下に振った。
「・・・だいじょぶですよ、ごっちんに言ったらあたしまでひねり潰されそうだから言えませんよ」
あたしは自分が何となくズレた冗談で答えてるのが分かってたけれど、それが精一杯だった。

あははは、よっすぃーも何げにひでーな、と矢口さんがまた笑う。
あたし、何でこんなに深刻に考えちゃったんだろうか、今。
市井さんがあたしに言うコトなんてホントに、半分は冗談なんてイヤというほど知っている。

・・・半分?

131 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)13時01分13秒

市井さんが突然立ち上がった。
「やべー、ウチら5限って体育だ!あーー着替えんのメンドくせー!」
「そうだ!こないだもギリギリだったんだよねー。あージャージ持って来ときゃ良かったー」
矢口さんはあたふたと後片づけを終わらせ、市井さんとあたしを先に音楽室から出した。
教官室に少しカオを出してから出て来るらしい。

市井さんは1人だけ先に、長い渡り廊下の途中まで行って矢口さんを待っている。
「ゴメンゴメン、よっすぃーは戻ってて良かったのに。今日はありがとね、よっすぃー」
音楽室のドアを閉めながら矢口さんが、あたしに振り返ってニッコリ笑った。
「こちらこそ、ありがとうございました矢口さん。あたし、また聴きに来てもイイですか?」
「なーにー?ホントに聴きに来てくれるの?もちろん喜んで、だよ!」
並んで早歩きをしながら、矢口さんはあたしを見上げた。

うわっ、真近で見る矢口さんの笑顔ってやっぱりカワイイ・・・。
今日あたし、矢口さんと初めてしゃべったんだよな、しかもたくさん。
何だか嬉しい。
それもコレも市井さんのおかげと言えばおかげか。

132 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)13時03分53秒

「ちょっとちょっと、おーいそこ!見つめ合って歩くなよーー吉澤ー離れろ!」
「何ですかー?聞こえませんよー市井さん!ジャマしないで下さい!」
「何だとーーー!」
市井さんは笑って叫んでるけど、あたしのアタマの中にはさっきのコトが一瞬よぎって。
何となく市井さんのカオをじっくり見つめてしまっていた。

「よっすぃー、行こう!」
矢口さんが突然あたしの手を握って走り出す。
「紗耶香ージャマジャマ!タラシは罰として1人で戻って来るコト!」
「なーんだよータラシが何で罰になるんだよ!」
笑って行く手を阻もうとする市井さんをかわし、あたし達は手をつないだまま校舎に向かって一気に走り抜けた。

133 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)13時06分38秒

途中からあたし達はなぜか笑いが止まらなくなって、ひーひー言いながら走っていた。
「く、苦しいーよっすぃー!ははは!さっきの紗耶香のマヌケなカオ!」
「あははは、しかも市井さんタラシって認めてましたよ自分で!ひゃはは」
あたしは矢口さんの手を握りしめたまま、後ろを振り返って叫んだ。
「市井さーーーん!姫は吉澤がもらっちゃいますよー!市井タラシ王子ーーー!」
矢口さんが、ぎゃははは紗耶香怒ってる怒ってる!と大喜びしている。
「吉澤ーーー!覚えとけよー!」

市井さんの声を背中で聞きながらあたし達は、そのまま校舎の入口をイキオイ良く開ける。
校舎に入ると矢口さんはパっと手を離し、よっすぃーファンに殺されちゃうよ、と笑って周りを見渡すマネをした。
昼休みが終わる寸前のそこには、あたし達しかいなかったけれど。

134 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月08日(水)13時09分52秒

「じゃあ、またねよっすぃー」
「はい、また今度」
小さく手を振った矢口さんは、自分の教室があるほうの階段へと走って行った。

時間ギリギリで教室にたどり着いたあたしの左手には、矢口さんの小さい右手の感触がまだ残っていた。

135 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月08日(水)22時02分11秒
恋のヨカーン!
よっすぃーと矢口の今後が気になると共に、
ごっつぁんにキスの事がばれたらどうなるんだろう?
ばれて欲しいなと思ってみたり・・・(w
やっぱ面白いっす。
136 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月12日(日)21時17分15秒
ここの市井ちゃんのキャラかなり好きだなぁ〜♪
矢口とのやり取りがいいっす。
137 名前:SSKB 投稿日:2003年01月14日(火)20時40分09秒
ありがとございます。
実は、レスにかなり勇気づけてもらってます。
>>135
恋のヨカーン!・・・フフフ。
その返事は本日更新分の、午後のよし子さんに聞いてみて下さい・・・。

つか、長かったなあ〜・・・昼休み。

>>136
なんでタラシキャラが似合うんでしょねーこの方は・・・。
こういうヒト、なぜだかホントに「3年生」にいがちなキャラ(ヤグチも)。
「上級生」じゃナイのがポイント。
138 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時42分40秒

午後イチの授業は保健体育・・・の保健のほう。
あたしはワリとキライじゃナイ。
愛称ガッツこと、石松先生のアクションが好きだから。
こう、熱く語るカンジが逆に和むんだよねぇー。

今日のガッツは最初に板書を始めたので、あたしはテキトーに教科書を開いてパラパラ読んでみた

思春期の精神的な・・・ってこんなの、思春期真っただ中のあたし達が授業で習うのもヘンなハナシ。
あたし達の世代は色んなトコロで分析されたり解説されたりしてるけど、17才って他人が思うほど、そして自分が思ってるほどフクザツじゃナイ。
そりゃ色んなコト考えて生きてるけど、本当はすごくシンプルな生き物なんだけどなー、と毎日17才に囲まれて生きてる17才のあたしは思う。

139 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時44分32秒

突然前の席から小さく畳まれた手紙が回ってきた。
誰かに回してとは言われなかったから、念の為宛名を確かめる。
水色のペンで書かれたその文字は・・・

『ひとみ部通信。よっすぃー以外は全員読むべし。』

な、何ですと?
ひとみ部通信よっすぃー以外は全員読むべしって全然イミ分かんナイから!
くっそー、と思って廊下側に座る加護を見ると、ニヤニヤ笑ってこっちを見ている。
と、いうコトはだ。
あたしにも見ろって言ってんでしょアンタ!
まわりくどいコトしやがってホントに。

140 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時46分39秒

しかも何だよ!今どきこんな複雑な畳み方でココまで回って来たワケ?
えーい、くそ、あたし元に戻せるのか?コレ。
もどかしく手紙を開くとたった一行。

『よっすぃーがさっき1年のあややにキスしてたらしいよー、萌え萌え〜〜〜ポワワ』

「なっっっっっ!」
あたしは思わず叫んで立ち上がってしまった。
「吉澤!」
ヤバっと思う間もなくガッツが振り向きざまにあたしにチョークを投げた。
ぴゅっと飛んで来たチョークをあたしはとっさにかわしてセーフ。
代わりに後ろの席の辻が頭を押さえて涙目であたしをうらめしそうに見上げる。
ごごごゴメン、辻。

141 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時48分46秒

ガッツは、辻スマンな、と謝ってからあたしに言った(ガッツのこういう筋通すトコも好きなんだよね)。
「吉澤ー、その動態視力と反射神経に免じて今回は許してやるけど、今度やったらスパーリング60分な」
ってあたし、ボクシングなんてやったコトないから!と思いつつも素直にハイと返事をする。
「あ、見たいかもー」
隣の席の梨華ちゃんがあたしを見上げて嬉しそうにつぶやく。
「「「「「見たいかもー」」」」」
なぜかクラス全員が復唱。
何なんだよ・・・。

「おっ!吉澤、やってみるかー?」
ジャブの素振りをしながらガッツが、満面の笑みで言う。
「や、あの、イイです、遠慮しときますハイ」
あわててあたしは言って、加護のほうを軽く睨んでから席に着いた。
あたしには分かる、ガッツはきっと単純に素人がボクシングをやり始めるのが嬉しくて手取り足取り、熱心に指導してくれるだろう。
でもあたしはたぶん、ガッツの熱いマンツーマンにノックアウトされてしまうだろう。
濃すぎて和むドコロじゃナイよ、きっと。

142 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時50分55秒

「そうか。でもやりたい時はいつでもオレんトコ来いよ」
ガッツが少ししょんぼりして後ろを向き、板書を続けた。
でも実はちょっと興味あったりなかったり、なんて思ったトコロに、再び梨華ちゃんのつぶやき。
「なんだー、ホントに見たかったのにな」
昼休みの加護のバカなハナシがアタマをよぎり、梨華ちゃんのカオを少し観察してみる。

明らかに「よっすぃー好き好きネタ」の梨華ちゃんの表情だよなあー。
しかも「ちょっと拗ねてる時」バージョンね。
上目遣いで唇を少し尖らせて。
いやこりゃちょっと、こんな目で見つめられた日にゃ青少年はバタバタ倒れんじゃナイの?

あたしがじっと見つめてるのに気づいた梨華ちゃんは急に、照れたように微笑むと目をそらしてあたしの腕をパシっと叩いた。
こんなふうに素の時の梨華ちゃんが一番カワイイんだけどなー。
と、本人に言ったコトはナイけれど、実はいつもそう思ってるあたし。

143 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時52分53秒

「石川もやりたいのか?スパーリング」
梨華ちゃんがあたしを叩くのをガッツに見られていたらしい。
「あっ、いえ、あの、やりたくないです」
あわてて答えた梨華ちゃんを見るガッツの目・・・いや、ノーコメントです。
「吉澤相手に練習するくらいなら、先生がちゃんと指導してやるからなー」
ボクシング部、廃部寸前ってウワサだもんなー。
案外本気勧誘してたりして。

そのまま板書の説明を始めたガッツの目を盗んで、あたしは隣の机に紙切れを投げた。

144 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時56分33秒

『さっきの、どしたの?』

思えば、急に泣き出してごっちんとどこかに行ってしまった梨華ちゃんは、何だったんだろうか。
加護の言うコトを鵜呑みにしたってしょうがナイし。

『何でもないよー。ハズカシイね私。気にしないでね』

イミ不明なハートを大量にちりばめた返事が返って来た。
こうなりゃ数にモノを言わせる作戦。
あたしと梨華ちゃんの机の間では、ちぎって丸めたノートの切れ端の応酬が続いた。


『気にするなって、気になるじゃん。教えてよ』

『やだー、もう忘れて?お・ね・が・い』

『教えろっつーの』

『×』

『するの?』

『しないよ』

『何のハナシしてんの?』

『知らないよ〜〜』

『イイじゃん!梨華ちゃんのケチ!』

あたしが最後に投げた手紙は梨華ちゃん読まれるコトなく、窓から外に消えてった。
後ろから辻のクククと笑いを堪えた声が聞こえる。
梨華ちゃんは一瞬、どうしよう?というカオをしたけれどすぐに、あーあ、と小声で言って笑った。

145 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)20時58分43秒

ガッツにいい加減気づかれそうになったのであたしもそこで諦める。
まあ、イイか。
よく分かんないけど、梨華ちゃんもガンコだからな。

それよりアイツ!加護!授業終わったらきっちりシメに行こう。
もう一度加護のほうを見ると、一つ前に座っているごっちんと一緒にこっちを見て笑っている。
ごっちんまで!
とにかくクラス全員、さっきの松浦のキスを知ってるんだよなー。
何なんだよホントにもう。

あ、でも!あたしから後ろアンド窓際のみんなは知らないのか?あたしが手紙回してナイから。
って、そんなの救いにならねーYO!
あたしはこっちを見てる2人に変顔をしてから、残りの授業はおとなしく受けるコトにした。

146 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時03分03秒

授業が終わりガッツが教室を出て行くのを見届けてから、あたしは廊下側の席に向かってダッシュした。
「加護っっ!こーのーやーろー!」
あたしと加護の間に座ってるみんなが椅子や机を一斉にひいて、道が開ける。
モーゼの十戒かっつーの。
ってか、あたしのダッシュは読まれてたってコトね、みんなあの手紙読んだんだもんね。
・・・くそっ。

あたしが立ち上がるのを確かめてから加護は逃げ出していた。
「よっすぃー、怒んなって。まあまあまあ、ひとみ部としては嬉しいネタなんだしさあ」
そう言いながらも加護はちょこまかと逃げまわる。
「うっさい!大体ねー、あたしがしたんじゃなくって松浦が勝手にしたんだからね!あたし被害者だから!」

147 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時05分31秒

逃げる加護、追うあたし、それを暖かく見守るクラスメイト。
見守んなくてイイから!誰かそいつを捕まえてくれー。
「ん?ひとみ部情報では、よっすぃーもまんざらでもなかったってハナシだけど?」
「んなワケないじゃん!アンタ、アレ見ててそんなコト言うワケ!」

手を思いっきり伸ばして加護を捕まえて、ヘッドロックをする。
「いででー痛ーいよっすぃー!あたしが見てたんじゃナイってば、ちょ、いててて」
「じゃあ誰よ!?」
「い、市井さん」

一気に力が抜けた。
そうだ、何で気づかなかったんだあたし。
つーか何?何だと?黙っててやるとか言ってなかったかあのタラシ!ちくしょー!
市井さんのニヤニヤしたカオが浮かんだ。
信じたあたしがバカだった。

148 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時08分17秒

「ってコトは・・・えっ!ウソ、ごっちん!?」
市井さんがメールを送るんだったら・・・とごっちんのほうを振り返る。
手前の席で雑誌を囲んで騒ぐ男子グループにジャマされてごっちんの席は見えない。

あたしとごっちんの間には見えない何かがある。
仲はイイけれど、踏み込みすぎず、離れすぎず。
お互いの微妙なラインやコトバには出来ないような感覚、価値観が共有出来る関係。
こういう時、ごっちんはあたしをネタにはしない、ハズなんだけど。

「んあー?違うよーよし子ー。んなワケないじゃん」
ごっちんの声が遠くから聞こえる。
「・・・だよね。え、でもだってメールでしょ?市井さん」
「でもあたしじゃなくて、辻だよ辻」
「はぁっ?辻?」
149 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時11分01秒

辻?
市井さんと辻につながりがあるとは初耳。
つーかあるのか?つながり。
全然想像できない。
それにしてもどんなタイミングでどんな情報を送ったんだ?あのヒトは。

あたしに解放された加護が首をコキコキ鳴らしながら言う。
「市井さんはメル友なんだよ、ののと」
「そうなんだよー、てへへ。市井さんがののとメル友になりたいって言うからー」
舌っ足らずな声で嬉しそうに言う辻が寄って来た。

そうだ、ココにもいた。
自分のコトを下の名前(ってかあだ名)で言うヤツが。
でも辻はなー、全然お子ちゃまだよなー、ってか松浦より年上なんだけど。

150 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時13分25秒

でも何故に辻?しかも市井さんから?
「何それ?まさかナンパされたの?」
「違うよよっすぃー。んなワケないじゃん」
「んなワケないじゃん・・・ってオイ!」
辻が加護に裏拳でツッコミを入れる。
げほっと加護が咳き込んで、手を振る。
「の、ののはツッコミがまだ甘いなー、いや、強さじゃなくって、タイミングタイミング」
もう一度裏拳を入れようとした辻にあわてて加護がつけ加えた。

「じゃ、よっすぃーもっかい、『何それ?』から、はいどうぞ」
アホらしくてやってられっか!ったく。
ただ、辻が持つ情報イコール即座に加護も共有、ってのだけはよーく分かった。

あたしは加護と辻のアタマを1回ずつ小突いて、ごっちんの席に向かって歩き出した。
後ろからこそこそ2人の声が聞こえる。
「んなコト言って、案外まんざらでもなかったんじゃナイのーホントは」
「ねー。教室に戻って来た時、ちょっとニヤけてたもんね」

くわっ!とあたしは振り向き、今度やったらコロス、と目を見開いてスゴんで見せた。
2人はきゃー、とワザとらしく声をあげて一緒に教室から出て行った。
連れションでも何でも、とっととどっかに行ってしまえ!

151 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時16分30秒

「あれ、梨華ちゃんってどこか行っちゃった?」
隣の席に座ったあたしに、ごっちんがのんびり言った。
「うん、さっきあたしが投げた手紙が外に落ちちゃってさあ。梨華ちゃんの名前書いてあるよって言ったらあわてて飛び出してったよ」
しかも梨華ちゃんのケチとかって書いてあるヤツね。

あはは、うまく取りに行かせたワケだーよし子、とごっちんが笑う。
「あ、でもよし子さあ、さっきニヤけながら戻って来てたのはホントだよ?」
「え?そう?」
実はさっき指摘された時にあたしは思い出していた。
昼休みに矢口さんと過ごした時間を(あえて矢口さんの名前だけ)。

初めてしゃべったあたしにも優しくて、話しやすい雰囲気でいてくれた矢口さん。
真剣な表情でピアノを弾いたり、笑顔であたしを見上げたり。
あたしの手を握って突然走り出したり。
今まで知らなかった矢口さんの色んなトコロを一気に知って、あたしは正直、廊下を歩きながら矢口さんのコトばっかり考えてた気がする。
何を考えてたって、さっきの場面を思い出したりしてただけなんだけど。

152 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時19分08秒

それでもあたし、他人が分かるくらいニヤけてたのね・・・と自分でも驚く。
恋の予感・・・?
いや別に、全然しないけど。
カワイイし、魅力的だとは思う、矢口さんって。
でも恋とかナンとかってカンジじゃナイよなあ、さっきしゃべったばっかりだし。

あたしがボーっとしていたからだろう。
ごっちんがあたしのカオを覗き込んで笑っている。
「いや、何かさー、まあイイんだけど。市井さんってさ、何であたしがタラシって言うとすんごい怒るの?他のコが言っても別に怒らない、ってかむしろ嬉しそうじゃナイ?」
一応ゴマかしたつもりで、普段から思ってた疑問をごっちんにぶつける。

153 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時21分09秒

「あはっ、いちーちゃんはねぇー」
いちーちゃん、と言う時にふにゃりと表情が崩れるのはいつものコトで。
あたしはそれをいつも、微笑ましいと思いながら眺めている。
「何かね、よし子にタラシって言われるとムカツクって言ってたよーこないだ」
「はぁっ?何それー、何?あたしだけなの?」
「んーとねえ、吉澤はタラし込まないでマジメなイメージであんだけモテるのがちょっと悔しいんだよな、だから吉澤にだけはタラシって言われたくナイ、だってさ。あはは」

何なんだかなあー、市井さん。
好きでタラし込んでるヒトが何言ってんスか。
あたしはあたしでメンドくさいし、絶対そんなの向いてナイからそうしてるワケで。
こないだは、あたしと吉澤のファンは住み分けがきっちりしてんだよなー、なんて言ってたクセに。
まあイイや、そんな理由なら今度からココロ置きなくタラシと言ってやるのだ。

「んーよし子、何かイイコトあった?」
「ってまさか松浦のコト言ってんじゃナイよね」
「あはっ、違うよー。何か、何となくそうかなって思っただけなんだけど」
まあごっちんがそのコトを言ってんじゃナイってのは分かってたけど。
あたし、そう見えるのかな。

154 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月14日(火)21時24分53秒

ごっちんが言うんだからたぶんそうなんだろう。
イイコトあったとしたら、矢口さんとちょっとだけ仲良くなれたコトかもしれない。
そこまで考えて、さっきの市井さんと矢口さんの「ヒミツ」を思い出した。

ごっちんはホントに何にも知らないのかな。
それとも単なる冗談で、騙されたんだよと笑い飛ばされるだけなんだろうか。
どっちにしろあたしはごっちんに確かめる気はナイし、でも矢口さんの名前も出しづらい。
「そうかな。ほら、もうすぐ夏だし天気イイし。毎日キモチイイからさ」

それは本当のコトだから。
毎朝起きて学校に行くまでの道が日に日に明るくなり、過ごしやすい気温がとてもキモチ良かった。
「んあー、よし子は早起きで健康だからなー。あたし今日ヤバイよ?たぶん次の時間爆睡するから」
「今日に限ったコトかー。ってか午前中も寝てたじゃん」
既に机にうつ伏せになっているごっちんのアタマを手のひらでぐりぐりしながら、あたしは笑って言った。

あと1分で6限が始まる。
おやすみごっちん、と言って、あたしは自分の席に戻った。

155 名前:SSKB 投稿日:2003年01月14日(火)21時32分54秒
長い2時間だった・・・・・・・・。
年をまたいでたコトに気づいてちとガク然。
156 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時14分43秒
次の日の朝は久しぶりに雨だった。
雨の日、吹奏楽部の朝練はどこでやるんだろう。
元々外でやる部活じゃナイからまさか、中止になったりはしないと思うけど。
今までそれを確かめたコトはなかったから、飯田先生に聞いてみた。
「んー、どうだろね?私もよくは知らないけど、音楽室とかじゃないのかなあ。広いんだし」
確かに音楽室は広いし部屋もたくさんある。
じゃあ何で毎朝、桜の木の下で練習してるんだろう。

実は毎朝同じメンバーが練習をしているワケではナイ、というコトにもその頃には分かっていた。
あたしが初めて見た朝のように3人の時もあれば、6、7人が集まっているコトもある。
そして突然、誰も練習しない日があったり。
フルートとクラリネット、オーボエの割合もばらばら。
一人しかいないパートが、次の日にはほぼ全員そのパートのヒトだったり。

その中にほとんど毎日、矢口さんはいた。
矢口さんがいない朝は、あの笑い声が聞こえないからそれが気づくくらいだ。
今日はどうするんだろうか。
あたしは立ち上がって、胸の高さの本棚に肘をついて本を読みながら、雨に濡れる桜の木をたまに眺めたりしていた。
157 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時16分34秒
梅雨の季節だからしょうがないのだけれど、空気が少し湿って重たい。
それでも今年は空梅雨なんて言われていて、雨が降るとやっぱりちょっと憂鬱になってしまうあたしからすると、それだけでもありがたい。
小さい頃はカッパなんかなくても雨の中を遊んだりしていたのにな。
そのまま濡れて帰って、お母さんに叱られたりして。
風邪をひくからと急いでお風呂に入れられた記憶がある。

「吉澤ー。お茶飲むでしょ?おいで?」
司書室から飯田先生の声が聞こえてきた。
あたしは一瞬、熱いお茶があれば雨に濡れるのも平気かもしれない、と思った。
158 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時18分19秒
あたしの毎朝来る時間は飯田先生よりは大体遅かったから、よっぽどタイミングが合わない限りは飯田先生の紅茶はごちそうにならないコトにしていた。
先生は別にイイよ?と言ってくれていたけれど、あたしの為だけにまた準備してもらうのは申しワケなかったから、早く来た時にはご褒美でいれて下さいね、と普段からあたしは言っている。

それでもたまに先生の気まぐれで、と言うよりは嬉しくて仕方がナイ時にあたしが来たら紅茶を用意してくれるコトがあった。
とっときの紅茶が手に入った時、初めて買った店の茶葉を試す時、飯田先生は嬉しそうに準備をしてあたしを呼んでくれる。

「はーい、今行きます!新入荷ですかー」
あたしは読みかけの本を閉じて、司書室に走って行った。
159 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時19分17秒
「コレはねー、前からずっと欲しかったんだけどちょっとね、躊躇してたヤツなんだよね」
先生が言いながらティーカップに紅茶を注いでくれる。
ん?なんか不思議な香り?
あたしがくんくんと嗅ぎ出したのを見て飯田先生が笑った。

「ははは吉澤!わんこみたいな嗅ぎ方しないでよーちょっと、そっくりだよ」
「んーだってコレ、紅茶っぽくナイ香りですよね?」
くんくんくん、と首をひねるあたしに先生は、とりあえず飲んでみなよ、あたしの前にカップを置いた。

うわっ、コレ・・・何だろ。
ホントに紅茶なのかな?
というのが第一印象。
中国茶?薫製?すっごく不思議な味と香り。
でもクセになる。
また一口飲んでみる。
「あたし、たぶんコレ好きですよ先生。何か・・・不思議なカンジだけど」
黙ってあたしの反応を見ていた先生が、良かった良かった、と笑った。
160 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時21分08秒
「コレねー、クセがあるでしょ?たまに飲むのはイイんだけどなーって思って今まで、買うのをためらってたんだよね」
「あーなるほど・・・あ、紅茶って、他のと混ぜて飲んだりしたらダメなんですか?」
うん、それそれ、と飯田先生はうなずいた。
「その飲み方を聞いたからさ、ついに買ってみたんだよ。他の茶葉と混ぜたらだいぶクセもなくなるから、色んな組み合わせでいつも飲めるかな、って」

「おっはよーございまーす」
突然、図書館の入口から声が聞こえた。
誰だろこんな早く?というよりあの声はもしや・・・
思う間もなく、開いている司書室のドアを軽くノックしてそのまま入って来たそのヒトは。

「矢口さん!?」
「お?よっすぃーじゃん!何してんのこんなトコで朝っぱらから?つーかおはよー!」
おはよーございます先生、と飯田先生にも手を振っている。
久しぶりに逢うね矢口、と先生は笑っている。
「あ、おはようございます・・・ってか、あれ、朝練は・・・?」
「それがさー、聞いてよちょっともう!だーれも来やがらナイんだよ今日は!ったく、雨だからってナメんじゃナイっつーの」
161 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時21分48秒
「あ、じゃあ朝練って、自由参加で毎日やってるんですか?」
そそそなるべく参加ってヤツね、でもヤグチはマジメだから毎日来てんのさー、と笑って矢口さんは続けた。
「金管系のコ達は1年の教室使ってやってると思うけど、ウチらは今日は全滅、ってかヤグチだけ。しょーがナイから遊びに来たの」
そっか、雨なら教室を使ってんのか。
1年の教室なら補習もナイし、当分誰も来ない。

くんくんくん、と矢口さんが急に匂いを嗅ぎ出した。
「あ、ねー先生コレってもしかして・・・」
「あはは、矢口もわんこ並みの嗅ぎ方だね。でもさすが矢口。鋭いな」
矢口さんはカオをしかめて腕組みをした。
「あー何だっけ何だっけ、名前。ら・・ピとかプとか、出て来ないよ何だっけ」
紅茶に詳しいのかな矢口さんって?

そう思ったあたしに飯田先生がタイミング良く言った。
「矢口と私はヒソカに紅茶仲間なんだよね」
しきりに首をひねっていた矢口さんもパっとカオを上げて嬉しそうに言う。
「そうなんだよ。ユニット作ってんの実は」
162 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時23分01秒
はあ?ユニット?
「その名も・・」
「「タンポポ」」
声を揃えて言って、きゃははは完璧だよ先生ー!やっとノってくれたよーと矢口さんが笑った。
飯田先生はしょうがナイなってカオをして言う。
「矢口のユニット好きにも困ったもんだよホント。吉澤も気をつけな?」
「・・・何故にタンポポなんですか。しかもユニット?」
相当不審なカオをしてあたしは聞いてるに違いない。

「あーホラあの紅茶の美味しい店のさあ、名前が」
「タンポポ、だから。安易なんだよー矢口ー」
「えーカワイイじゃん。先生だって実は気に入ってんでしょ?」

・・・なんか矢口さんが絡むとすべてがアホ話になってしまうのは気のせい?
いや昨日のは市井さんのせいか?
「いやーヤグチさあ、色んなユニットあんだよ実は。知らないでしょよっすぃー」
「し、知らないです・・・」
ニコニコしながら矢口さんが説明を始めた。
「ちっこいのだけ集めてミニモニ、とかさー。むかーしツナギってのもあったな」
ユニットって・・・活動内容って何だ?
ってか、モニってナニ?
163 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時24分34秒
「えーっとえーっと、ちなみに市井さんとも2人でユニットだったりするんですか?」
苦しまぎれのあたしのコトバに矢口さんは、おっ!イイ質問だねよっすぃーそれは、と人指し指を立てた。
あるんかい!まさか。
「ヤグチと紗耶香はねえ、んーとんーと。同期、かな。もしくはヒミツ。それがユニット名ね、漢字で書いて『秘密』。きゃはは、シブくなーい?」
アホだこのヒト。
市井さんと一緒にいるだけあるわさすがに。
ってか絶対それ、今考えたでしょ。

あまりのくだらなさに笑えないでいるあたしに、急に思い立ったように矢口さんが言った。
「ね、よっすぃーも作ろうよ、ヤグチとユニット」
「へっ?」

昨日初めてしゃべったあたしと矢口さんに、何か接点があるハズがナイ。
「や、イイですけど・・・だって別に、今んトコ何もナイですよ?あたし達でやるコトとか」
「いーのいーの。ユニットは、作るコトから始まるんだってば」
164 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時25分30秒
何となくそのコトバに納得して黙ってるあたしをよそに、矢口さんはアレコレ考えている。
「まず、名前だよなー、何だろう。さすがにちょっと、思いつかないっちゃーつかないね」
そりゃそうだ。
うーんうーん、と指を口に当ててあたしのカオを見つめて、一生懸命共通事項を探してる矢口さん。
じーっと見つめられて、だんだんハズカシくなってきた。

「だってあたし達の接点って、市井さんくらいですよ?」
「そーなんだよねえ。でもユニット名『紗耶香の友人』なんてヤだよ、絶対」
「思い切って『紗耶香』でイイんじゃナイですか」
冗談だけど。
「ぜーーーったいイヤだから!せっかくよっすいーとヤグチなのにさ!うわー悔しい」

「じゃ、さ。客観的に見てる私が考えてあげるよ」
今まで呆れ顔で矢口さんを眺めてた飯田先生が、突然言った。
「ほえ?マジでー。でも先生のセンスはなあ・・・たまにワケ分かんないもん」
矢口さんがニヤニヤと先生に言う。
「やー結構ね、自信あるよコレは。ちょっとね、未来を見据えたユニット名」
「あはは、未来なんだ。来た?電波来た?先生」
165 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時26分13秒
飯田先生はたまにぼーっとしててあたし達が話し掛けても返事すらしてくれないコトがあって。
生徒達の間では、先生は何かと交信してんだよ、というコトでハナシは落ち着いている。
ってか、あたしと矢口さんの未来を見据えたってイミ?
あるのかなあたし達の未来なんて。
「え、それで何て名前なんですか?先生」

「発表します!」
両手の人差し指でテーブルの上にドラムロールをする矢口さん。
さすが吹奏楽部、と言うほどのコトでもナイんだけど、やっぱりウマイ。
「じゃーん!」
矢口さんの効果音に律儀に合わせて先生は、ポツリと言った。

「相思相愛」

「えっ?」
「はっ?」
2人同時にコトバを発して、しばらくの沈黙。
166 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時27分05秒
「はぁっ?」
矢口さんがもう1回言った。
「だから、『相思相愛』。ユニット名でしょ?」
当然だというようにうなずくながら飯田先生が言って、お茶を一口飲んだ。

「やー・・・やっぱ分かんないわ、先生・・・何と交信したんだろう」
矢口さんが笑って、あたしを見た。
あたしは何と言ってイイのか全然分からなくて、曖昧に笑って返した。
あたしと矢口さんが?相思相愛?
相思相愛って、恋する2人が両想いの時に使うコトバじゃなかったっけ?
「ははは・・・昨日初めてしゃべったんですけどねえー」
あたしはやっとそれだけ言った。

でも何か、嬉しいようなハズカシイようなキモチにもなってるのも事実だったりして。
楽しくて優しくてカワイイ矢口さんのファンになりかかってるのは本当のコトだと思う。
「そーだよ先生、ウチらまだ何にも始まってナイんだよ?ちょーウケるー。ってか先生さあ!」
そこまで言って矢口さんは、急に小声になって続ける。
「先生、ヤグチの好きなヒト知ってたじゃん!」
167 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時27分49秒
あ・・・何だろう。
何となくドキッとした、気がした。
矢口さん、好きなヒトいるんだ。
もしかして、とどうしても思いついてしまうあたし。

矢口さんの周りのヒトなんてあのヒトしか知らないからなんだけどさ。
もしかしなくても矢口さんの好きなヒトって、市井さんだったりする?しない?
昨日のやりとりしか見てないけれど。
矢口さんが市井さんを見る目は、何となく・・・イヤうそ、やっぱ分かんないや。

「えー、だってアレは矢口がさあー・・」
言いかけた飯田先生を、わーストップストップうそうそ!と矢口さんがあわてて止めた。
「ちょっと、さすがによっすぃーに聞かれるとハズカシイよー」
矢口さんのカオが何となく赤くなってる気がする。
恋する矢口さん、なのだろうなコレは。
168 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時29分50秒
「何か矢口さん、恋する乙女ってカンジでカワイイっすよ。赤くなっちゃったりなんかして」
あたしがニヤニヤ笑って言うと、矢口さんはあたしの腕を思いっきり叩いた。
「ちょぉっとよっすぃー!からかうなよなあーってか、恋する乙女って死語だから!」

紗耶香並みのオヤジっぷりだよ、と笑って矢口さんは、ユニット名は保留!相思相愛でもイイけどさ!と言う。
「矢口さんちょっとそれ、ホントどっちでもイイようなカンジで言ってません?」
「あ、バレた?いや、ネタとしてオイシイかなとは思ってさ。まーた紗耶香が・・・うひひひ」

昨日、怒る市井さんを見て大喜びだった矢口さんを思い出した。
「じゃあ、相思相愛でいきましょうよ、ユニット名!」
なぜかあたしはイキオイ込んで、半分本気で言っていた。
ユニットでもそうでなくても、矢口さんともうちょっと仲良くなれたら、と思うから。
169 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時31分09秒
なーんだよそれー、マジでー?と矢口さんが笑いながら、イイよ、と言った。
「でもよっすぃーファンに殺されちゃうから、ナイショねナイショ。ヒミツのユニットで」
「ヒミツで・・・何します?」
あたしがふざけてささやくと、きゃははは、とまた矢口さんが笑った。
「分かったよーよっすぃー、それでギャル達をトリコにしてんでしょ。たまにやるからさらに効果的なんだね。あんな、紗耶香みたいにタレ流しなのとは大違いだよなー」
「タレ流しって、あはは、確かに」

「でもそのタレ流しにやられてたのは誰だったっけ?」
急にツっこむ飯田先生に矢口さんがあわてる。
「なっっ!だからー、やられてないじゃんーヤグチは、やられてないでしょ?ね?先生ー」
「そうだけどさ、あわてすぎだよ矢口」
「んなコトないってー。気のせい気のせい」

んんん?やられてない?てコトは矢口さんの好きなヒトは市井さんではナイのかな。
でも、アレ?えーっとやっぱりキスとかも単なる事故で・・・。
色んな予想があたしのアタマの中に浮かぶ。
元々何も知らないヒトのハナシだから、的外れな予想なのかもしれないけれど。
170 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時32分32秒
「あ、ヤグチはもう行かなきゃなー。もうすぐ補習だからさ」
矢口さんが立ち上がる。
3年生は、朝礼の前に補習の授業がある。
基本的に全員強制で、もしかしたら音大に行くのかもしれない矢口さんも受けなければいけない。
あたし達2年生も3学期から始まるコトにはなってるんだけど。

「じゃああたしもさっきの本の続き、読みます」
あたしは自分のカップと矢口さんのカップを持って、流しに立った。
ありがとうよっすぃー、と矢口さんはあたしの隣に来た。

「あたしやっときますよ?矢口さん」
「んじゃヤグチは拭くよ。」
白いふきんを持ってあたしが洗うのを待ちかまえている矢口さん。
お手伝いをするコドモみたいでちょっとカワイイ。
171 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時33分12秒
あはは、とあたしが思わず笑うと矢口さんが、なーんだよよっすぃー、とカラダごとぶつかってきた。
「どーせヤグチがちっちゃいとか思ってんでしょ。並ぶと全然違うんだもんなー」
「あたたた、あぶないっすよ矢口さん、先生御自慢のカップが割れちゃいますって」

あたしと矢口さんが笑って飯田先生のほうを振り向くと、先生は真顔でつぶやいた。
「仲良きコトは、美しきかな」
・・・・・武者小路実篤。
今日の先生はちょっと交信モード?
あたしと矢口さんは一瞬固まったあと流しに向き直って、くすくす笑いながら洗いモノを完了させた。

「ごちそうさまでした」
「先生、また来るねー」
2人で司書室から出たけれど、あたしは閲覧室に残って矢口さんを見送る。
「がんばってくださいねー補習」
「あーあ、イイよなあ2年はさあ!でもよっすぃー達だってもうすぐ始まるからねーひひひ」
172 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時34分48秒
矢口さんが、んじゃーまたね、と笑ってあたしに手を振った。
あたしも手を振り返す。
「ヒミツのユニット、水面下で進行中ってコトで」
「ははは、大声で言えないユニット名っつーのもなんだね。あ、ヤバイ、始まっちゃうよ!バイバイよっすぃー」

もう一度手を振って笑った矢口さんは、昨日のように走って行ってしまった。
あたしは少しの間廊下を眺めていて、それから読みかけの本を置いたままの本棚の前に戻った。
さっきまでと同じように、立ったまま棚の上に肘をついて続きを読み出す。
173 名前:-春の道標(2)- 投稿日:2003年01月21日(火)21時35分29秒
雨の音がやけに大きくきこえるような気がして、あたしは窓の外を眺めた。
桜の花びらはとっくに散って葉っぱだけになっているけれども、あたしはやっぱりこの木が好きだ。
雨に時々葉っぱを揺らしながら、夏に向けて緑色の鮮やかさがさらに増しているような気がする。

あたしはさっきの飯田先生のコトバを、思い出していた。
「相思相愛」
先生がつぶやいた時に実は一瞬、ドキリとしていたあたし。
飯田先生の思考回路というのはやっぱりよく分からないけれども、あたしと矢口さんが恋に落ちたら、という想像がパっとアタマの中を駆け巡ったのは事実だ。

ただ、それだけなんだけど。
そう言えば、紅茶の名前を聞くのを忘れていたな。
不思議な香りの、あの紅茶。
そんなコトを考えながらあたしはずっと、雨が降るのをぼんやりと見つめていた。
174 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月22日(水)17時33分23秒
ついに恋ですか!?
さわやかな情景描写がいいですね。
175 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)22時14分08秒
飯田先生の言う通りになるのかな?
どうなってゆくのか楽しみです
176 名前:4489 投稿日:2003年01月26日(日)10時31分40秒
矢口の好きな人・・・・
あの二人のどちらかとは思いますが・・・。
どっちでしょう?
177 名前:SSKB 投稿日:2003年01月29日(水)18時08分37秒
>174
ついに恋!だったらイイなあ。
何か気づけ!よし子!

>175
飯田先生のデムパ状況はいかがなんでしょうか・・・。
ってか最初は交信キャラじゃナイいいらさんを書きたかったハズなのに・・・。

>176
どっち?どこ?誰?
微妙なツっこみにあたふた・・・。

ちょこっと更新、ちょこっとラブ。
実は風板で書いてる短編があるからちょこっとなワケでは・・・
と、自分で思いたい今日この頃。
マターリマターリ・・・←呪文。
178 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時09分52秒
夏の早朝は、かなり快適だ。
空はもう明るいし、日中に比べるとかなり涼しいし。
あたしは相変わらず朝の図書室に通い続けていた。
いつものように図書室の窓を開け放つとあたしは、深呼吸をする。
夏は暑くて当然だから、昼間のぎらつく太陽も熱風もそれはそれで楽しんでしまえるけど、夏の朝にだけ存在する空気に身を置くのはやっぱりキモチイイと思う。

校門から矢口さんが入って来るのが見えた。
あたしが矢口さんの名前を呼ぶより先に、矢口さんがあたしに気づいて大きく手を振る。
「おーよっすぃー!おっはよー今日も早いねー!」
「おはよーございます!今日はアレ、持って来ましたよー」
誰もいないのを良いコトに、あたし達は離れたままめちゃくちゃ大きな声でアイサツを交わす。

「マジで?ありがとー、後で取りに行くから!」
矢口さんはそのまま音楽室の校舎のほうに回り込んで行って、朝練の準備をしに行った。
179 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時10分44秒
あたしと矢口さんはアレ以来、いつの間にか仲良くなっていた。
移動教室なんかで偶然逢ったり、同じ自販機に並んでいたり。
そんな時矢口さんは必ず話しかけてくれたし、もちろんあたしも嬉しいから冗談なんか言ったりして。

ごっちんにつき合って市井さんの教室を訪ねた時も矢口さんはあたしに気づくと、市井さんがジャマするのも無視して両手を振ってくれた。
市井さんのクラスのヒトが、何?矢口ってよっすぃーとトモダチだったの?と冗談で騒ぐと矢口さんは、まあね、と言ってあたしに向かって、ねー、と笑った。
「えー!何だよ今の、ちょっと矢口!」
「見た?見た?バチバチしてたよ、目と目で!」
とかナントカ、きゃーきゃー言ってるみなさんはとても楽しそうだった。
さすが市井さんのクラスだなあ、と妙に感心してたら市井さんがあたしの隣に来てへへへと笑うと、肩を組んだ。
180 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時12分07秒
「ギャー!市井とよっすぃーだー!誰かカメラカメラ!」
「レアすぎ!もう死んでもイイ!」
「ちょ、待って待ってーもうちょっと拝ませてよー」
「やばいってコレもう、いくらで売れんのこの写真!?」
「次!こっち目線お願いしまーす!」
・・・さすが市井さんのクラスだなあ。
ホント楽しいコト大好きなんだから。

あたしは適当に笑って流してたけど、市井さんはもちろんふざけて色んなポーズを取ったりあたしにキスするフリなんてしていて。
そのたびにぎゃーとかわーとか言ってるみなさんの中で矢口さんは、手を叩いて笑い転げていた。
ごっちんは、あたしも欲しいなあその写真、と言いながらニヤニヤしている。
あたしは全然欲しくないよ・・・。

「ごっつぁんコレ、今のうちに返しとくわありがとー。すげーカッコイイねこのヒト」
矢口さんがCDを持って廊下に出てきた。
普段ごっちんと矢口さんが話すのも見たコトあったけど。
意外と仲良いんだなー、この2人。
「ん、ごとーはコレが一番好きなんだよねー」
ごっちんが受け取ったCDを見ると、あたしも好きなラッパーの昔のアルバムだった。
181 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時13分27秒
「こないだ出たばっかの新しいの、聴きました?ちょっともうカッコ良すぎて倒れそうになりますよ」
寝る前に聴いてコーフンしすぎて寝つけなかったのを思い出したあたしは思わず、そうなの?と言う矢口さんの腕を掴んで、ききき聴いてくださいよ貸しますから!と迫っていた。
ぎゃー、矢口ー!そのままいけよっすぃー!と騒ぐみなさんに向かって、うっさい!ジャマすんなよなー!と矢口さんは笑って叫んだ。
「聴きたい聴きたい、よっすぃー」
「じゃあ今度持って来ますから」
「やったね!ありがとー」
いえーいと両手をあげて小躍りする矢口さんはちょっとカワイイ。

ごっちんと話してた市井さんが急にあたしの背中を軽くどついた。
「百年早い、つっただろー吉澤!」
「タラシの市井さんには関係ありませーん」
「何だと!いつからそんなナマイキになったんだーよーしーざーわーー!」
182 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時14分16秒
ゾンビみたいなフリで猛スピードで追いかけて来る市井さんから逃れる為に、あたしは廊下をダッシュした。
普段は来ない3年の教室でさすがにあたしは珍しいらしく、さらにそれを市井さんが追いかけてるもんだから教室を通過するたんびに誰かがあーとかぎゃーとか声があがるのが笑える。
ホントみんなノリがイイんだよなあ、3年って。
あたしはまったりムードの今の2年が好きだけど、もしこの3年と同い年だったら、とも思う。
市井さんとか矢口さんとかと毎日バカ騒ぎをして、笑い転げたりなんかしてたのだろうか。

市井さんの手をするりとかわして元の教室の前に戻って来たあたしは、ごっちんの背中に隠れて市井さんの攻撃を防いだ。
「ちょ、ごとー、ジャマすんなー」
「知らないよーよし子が勝手に隠れてるだけだもん」
「だって市井さんがタラシなのはホントじゃナイっすか!うわわわわ!」

あたしはごっちんごと市井さんに捕まえられていた。
「ぎぇー、うー苦しいよいちーちゃん」
「こーなったら後藤も巻き添えじゃー!こうしてくれるわー!」
市井さんはあたしの背中に回した手にさらに力を込めた。
ぎゅ、ぎゅ〜・・・。
183 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時15分48秒
ごっちんはあたしと市井さんの間に挟まれて苦しそうだけど、嬉しそうに笑ってる。
そりゃそうか。
市井さんに力いっぱい抱きしめられてるんだもんな。
背中にもれなくあたしがついてくるけど。

っていうか市井さん、あたしへのお仕置きというよりも公衆の面前でごっちんを抱きしめたいだけだったりしません?
ものすごくカオがニヤケてるんですけど・・・。
あたしが冷たい視線を市井さんに向けていると、急に背中が温かくなった。
「ヤグチも入れてよー。ってかおっきいなーさすがによっすぃーは」

あたしの背中には矢口さんが張りついていた。
矢口さんのアタマの感触が、あたしの肩甲骨のあたりでぐりぐりしている。
なぜかあたしはどきりとして、だんだんカオが熱くなってきてるような気がした。
目の前の市井さんのカオが、ニヤニヤ笑ってる。
こういう時は離れろとか言わないであたしをからかうほうを選ぶんだもんなー。
184 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年01月29日(水)18時16分39秒
「むぎゅー・・・あ、暑いんだけどーちょっとー」
新鮮な空気がナイと生きていけないごっちんは、矢口さんが加わってさらに苦しそうな声をあげた。

「あ、矢口ずるーい!私もよっすぃーにくっつきたい!」
「この際だからオレも仲間に入れてくれ!」
「市井の背中はあたしがもらった!」
「オレもオレも!」

うわー、何なんだよ!いでででで・・・・・。ちょ、誰?
次から次へと他のクラスからも知らないヒトが飛び出してきて、男女入り混じって押し合いへし合いを始めるこのヒト達・・・。
ゲラゲラ笑いながら、わーっしょいわーっしょい!なんて叫んでる。
やっぱりあたし、この学年じゃなくて良かったかも。

・・・・・ごっちーん、生きてる?
185 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月30日(木)00時05分59秒
この小説大好きです。
文章ヘタなもので簡素になりますがすみません。
頑張ってください。
186 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月02日(日)18時05分27秒
ごっちん生きてるか〜マジで(w
楽しみに待ってますので更新がんばってくださいね。
187 名前:SSKB 投稿日:2003年02月05日(水)21時19分46秒
>185
>186
もーホントに!ありがとございます。皆様のレスを励みに書いてます。
なのに、なのに今日も・・・です。
がっつり不定期更新より、がっつりorちょこっと定期更新のが自分に向いてるな、と思う日々。
ちなみに次回はがっつり予定。
是非コレからもマターリおつき合いしてって下さい、皆様。
 (0^〜^)<じゃっ夏なんで、ごっちん
 ( ´ Д `)<じゃっ?
188 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時20分30秒
命からがらその輪から抜け出したあたしとごっちんは、フラフラになって自分達の教室に戻った。
「どーしたの?2人とも。市井さんトコ行ったんじゃなかったの?」
窓際でみんなと話していた梨華ちゃんが、げっそりしてるあたしとごっちんを見て笑ってる。

「梨華ちゃぁーん大変だったんだよぉー」」
あたしはよろよろと梨華ちゃんに寄りかかって抱きついた。
夏服の梨華ちゃんは、ものすごく細くてびっくりしてしまった。
このヒト、ちゃんと食べてんだろうか。

あたしがカオをあげると梨華ちゃんは何故か固まってる。
「ん?」
気づくと教室中のみんながあたし達のほうを見ていた。
加護がニヤニヤ、あたしに向かって合図をする。
189 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時21分09秒
ちっ!例のアレかよ!
想像と妄想でどんぶりメシ3杯ってヤツね!
あたしはそのままワザと梨華ちゃんをぎゅうっと抱きしめてみた。

「「「「「おぉぉぉーーー」」」」」
「ついにやった!よっすぃー行け!」
「カ、カ、カメラカメラ!」
「コレ撮ったって売れないじゃんか」
「いーんだよ!ひとみ部の資料資料」

ウチのクラスもおんなじ反応かよ!!
あたしは梨華ちゃんを解放して、みんなに向かってしっしっと手で追い払うマネをした。
梨華ちゃんは真顔であたしのを見てたけれど、すぐに「よっすぃー好き好きキャラ」になってあたしに抱きつこうとした。

「やだーよっすぃー、離れないで!」
「だーーー、暑い暑い!ちょっと今、市井さんトコで押しくらまんじゅうされて来たばっかなんだよー」
「やーんヒドーイ。飽きたら捨てるのね!」
逃げ回るあたしに拗ねる梨華ちゃん。
190 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時21分42秒
「自分から抱きついといてアレはナイよなあ。ジゴロは押して引いてがうまいんだよなーったく」
「自覚がナイと始末に負えないよね、ジゴロって」
加護と辻がつぶやくのが聞こえた。
じ、ジゴロ・・・冗談とは言え自分が市井さんみたくなったような気がしてあたしは、一瞬身震いをした。

「ごっちーんみんながいじめるよー」
あたしは泣きマネをしながらごっちんの席に向かう。
冷たい机に抱きつくようにして伏せているごっちんはぴくりとも動かない。
「ぐー・・・・」
すでに爆睡ですか・・・。
191 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時23分34秒
授業が終わってみんなが帰り始める頃になるとごっちんは一日で一番元気になる。
珍しく部活までの時間の余裕があるみたいだからあたしはごっちんとだらだらしゃべっていた。
「矢口さんって、ヒップホップ好きなの?」
「ん、前にあたしのウォークマンで一緒に聴いてて、気に入ったって言うからさ。貸してみたんだよね」
「へぇー。しかもあのアルバムってあたりがシブイよね、矢口さんが、っていうか、ごっちんも」

へへへへ、と急にごっちんがだらしなく笑った。
「最初はアレ、いちーちゃんが聴いてたんだよねー。すっごい昔。そんであたし超気に入ってさあ」
・・・はいはい、さいですか。
すっごい昔っていうか、アナタ達出逢ったの去年の春じゃナイっすか。

えーっと、でも待てよ?
あたし達がココに入学したのはその頃で、矢口さんと市井さんはそれより前に出逢ってるハズで。
でも矢口さんはあのラッパーを最近ごっちんから教えてもらったのか。
うーん、やっぱりこのヒト達の人間関係がよくわからないな。
192 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時24分11秒
「ごっちんと矢口さんってさ、前からしゃべってるのとかは見たコトあったけど結構仲イイんだねー」
「ん?そう?なんつーかやぐっつぁんはねえ・・・」
言いかけたごっちんのカオの横の窓が突然がらっと開いた。
「吉澤。矢口がナントカって今言ってなかった?」

出たーーーーー、市井さん。
廊下からこっちに身を乗り出して、あたしとごっちんをニコニコ見比べる。
・・・ニコニコってあたりがまたコワイんだよな。
「びっくりすんじゃん、いちーちゃん」
10pくらい椅子ごと後ろにのけぞってるあたしをよそに、全然びっくりしてないごっちんがのんびり言う。

「どしたの?もうそんな時間だっけ?」
「いや、ほら今日アレが要るっていうのさっき忘れててさ。こないだ言ってたじゃん」
「あ、アレか。あたし持って来てたかなー、もしかしたら家かもー」
ごっちんは、どうだっけなーとかナントカ言いながら席を立って、後ろのロッカーをごそごそ漁りに行った。
193 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時24分44秒
つーか、アレ、ってあーた・・・アンタら夫婦かい!とあたしは内心ツっこむ。
母さんアレどこかなアレ、お父さんったらまた忘れてーアレはあそこですよいつもの、そうかそうかあそこか。
ってもう何十年も連れ添った夫婦並みの刺激のなさとツーカーっぷり。
あたしは半分呆れつつも半分感心して、なるほど、なんてつぶやいていた。

「何がなるほどなんですか?ひとみちゃん?」
市井さんがあたしのカオを覗き込む。
「何でもナイですよ?紗耶香ちゃん?いでっ!」
最後の「ん」くらいで市井さんのデコピンがあたしの額にヒットした。

「あたしを下の名前で呼ぶなんて百年早いっつーの、まったく」
「いてて・・なんかすげー痛いんですけど。ちょっと市井さんの指って絶対おかしい。鉛入ってません?」
「あたしゃサイボーグかっつーのよ。あたしの指っつったらもー大変よ?そんじょそこらのギャルなんてさーもう・・・」
言いかけたトコロでごっちんが、やっぱ家かもー、なんて言いながら戻って来た。
194 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時25分19秒
途端に黙る市井さん。
あーやーしーいー!超アヤシイ。
ごっちんの前では下ネタって言ってなかったっけ?

いや、言っていたぞ確かに前は。
そんでごっちんに冷たく笑われてもまだ1人で言ってたもんなー、何なんだ?
「さては・・・」
この2人・・・と思いついたあたしが何か言おうと口を開きかけたトコロで2人があたしのほうをくるっと向いた。
ひっ。
蛇に睨まれたカエルさながらにあたしは、口をマヌケに開いたままの状態。

「「何?」」
全然怒ってナイ口調なだけに、なおさらコワイ。
「な、何でもナイです・・・」
ふーん?なんてごっちんは不思議そうなカオだけど、市井さんは黙って親指を立てるとそのままぐっと下に向けてあたしに凄んでみせた。
195 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時25分50秒
もーイヤだなあ、市井さんったらオトナ気ナイ・・・。
あたしはただ、さてはこの2人、微妙な位置に来てんじゃないかしらん?おほほほほ!って思っただけなのに。
微妙ってのは、微妙ってだけで、ちょっとあたしの口からは言えないなあ・・・。
市井さんったらこう見えて、おカタイんですのよねー奥様!
とあたしが脳内一人小芝居を打ってる間にごっちんは部活の準備を終えていた。

って言うよりあたし、こんなんじゃ想像と妄想でどんぶりメシ3杯のひとみ部より始末に負えないような気がしてきた。
「ま、市井さん。そのハナシは今度ゆっくり聞きますよ」
あたしが軽ーく言うと市井さんは、けっ、とつぶやいてもう一度あたしにデコピンをかますと、もう行くよ?後藤、と言った。
つーかやっぱり何か入ってる、市井さんの指・・・いででで。

「ん、じゃまあこっちのハナシもまた今度ゆっくりね、よし子。ばいばい」
「おう、また明日ー。がんばってね」
あたしは額を押さえながらもう片方の手を振ってごっちんを見送った。
遠ざかる市井さんの声が、こっちってどっち?何?とごっちんに聞いてるのが聞こえた。
や、そういやそうだな。
こっちってどっち?何だったっけ?
196 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時26分32秒
家に帰ってあたしは、矢口さんに貸すCDをアレコレ選んだ。
例の新譜はもちろんだけれど、他にもあるあたしのヘビーローテーションのうち何枚かを勝手に聴いてもらおうとニヤつく。
矢口さんがごっちんに返していたアルバムを爆音でかけてみる。
あたしはそれをリアルタイムで聴いてた頃のことを何となく思い出していた。
そして、青春だなあ、と何となく思った。
そうやって昔のことを思い出したり、誰かに貸すCDを色々考えながら選んだり、友達と教室ではしゃいだりする日々。

夕飯を食べに1階に降りて行くと家族にいっせいに、音が大きいよひとみちゃん、と口々に言われた。
あたしは、青春だからイイんだよ、と弟2人の髪をそれぞれくしゃくしゃにしてやった。
そしてフと、こいつらは恋をしているのだろうかと思ってそう聞いてみた。

「してねーよ」
「してるよ!」
同じ小学生でも学年が違うと素直だったり素直じゃなかったりするのがおかしくてあたしが笑うと、上の弟が小さくあたしにケリを入れた。
197 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月05日(水)21時40分35秒
あたしは夕飯を食べてお風呂に入ってからも、まだ色々選んでいた。
コレもかっけーんだよな、でもとっかかりはこっちのが・・いやいやこっちかな?
なんつって、結局あたしの青春をおさらいしながら聴きまくり。
音楽って何でこんなにココロとリンクするんだろうと思う。

季節とかその時のキモチとか、空気とか。
一緒にいた友達とか。
その音楽を聴くとぱっとよみがえるコトがたくさんあって、たまにドキドキする。
久しぶりに聴いたらすごく新鮮で、またそればっかり聴き出したりなんかして。
あたしは今、どういう気分かな。

矢口さんのCD選びよりもそれを探すのに一生懸命になってるうちに、あたしはいつの間にか眠っていた。
睡眠学習で聴いたデラソウルの3人が夢の中であたしを囲んで、花をたくさん出すマジックを披露しながらハハハと笑っていた。
198 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月07日(金)18時55分42秒
続き期待だね
199 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)03時05分02秒
なるほど、こちらはかせきですか…
ではアスピリン片手に応援させていただきます。
200 名前:SSKB 投稿日:2003年02月11日(火)21時02分18秒
>198
その一行レスが、「展開まだー?チ(ry」に読めてしまったのは錯覚でしょうか。
なのでちょっと背筋伸ばし気味で更新(キモチは)。
>199
「そんな気分なのです」
ってか、そんなんばっか食べて昔は生きてました。
そんなん= ×アスピリン、◯かせきとその周辺。

先週末にPCが壊れて途方に暮れつつも、旧マシンで最初っから書き直し。
それはそれで良かったような。
201 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時05分08秒
矢口さんの為に選んだCDは結局、結構な枚数になってしまった。
アレもコレも、と思ってどれも切り捨てられないあたし。
だから何回かに分けて持って行こうと思って最初の数枚を渡して矢口さんにそう言うと、ユニットの活動の一環だねよっすぃー、と嬉しそうに言っていた。
微妙な活動だなあ・・・。

結局アレからあたし達はもちろんユニットとは名ばかりで(ま、そりゃそうなんだけど)活動なんて何もしてなかったけれど、矢口さんがそうやって何でもこじつけでユニットの活動と呼んでしまうのも実は嬉しかった。
と言ってもあたしが矢口さんと逢うのはまだまだ校内だけのハナシだからホント、くっだらないコトだったりするんだけどね。
202 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時07分20秒
購買部で偶然逢ったらお互いのパンを選び合ったり(矢口さんいわく、たまにはユニット名にちなまなきゃ!らしい)、あたしが廊下でだらだらしてたら向かい側の校舎の矢口さんが下に行こうと合図してるのに気づいて、自販機前でギャルに囲まれる市井さんを2人で救い出したり(ただしこの時はあたしと市井さんが揃ってしまったからギャル達がはしゃいで大変だった・・・)。
そんなあたし達を見て市井さんは、何?急に仲良くなってナイ?ちょっと吉澤?なんてあたしを小突くんだけど。

「紗耶香にはナイショのユニットなんだよねーウチら」
「そうなんですよね、だからもうあきらめてください市井さんは」
「またユニットかよー矢口は。つーかあたしが何をあきらめんだよ!」
なんて市井さんは笑っていて、そうやっていつもあたしをどついたりする市井さんを矢口さんはやっぱり楽しそうに眺めている。
203 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時09分29秒
あたしとしては早朝に矢口さんに逢うほうが市井さんにジャマされなくてラクだなんて思ってたのだけれど。
アレ持ってきましたよ!と叫んだあたしに、あとでとりに行くから!と答えた矢口さんの声が今度は、朝練の音が止んですぐに突然聞こえた。
「あとで教室に行くから!よっすぃー!」

どこから叫んでんのよ?っていうくらいな唐突さにびっくりしてあたしはあわてて立ち上がって外を見た。
折り畳んだイスと譜面台とフルートを持った矢口さんが桜の木の下から走り出しているのが見えた。
この頃にはもう、あたしが毎朝ずっと図書室にいて本を読んでるのを矢口さんは知っていたから、当然まだいるだろうと思って適当に叫んだんだろうけど。
どう考えてもあの荷物、矢口さんのキャパ超えてナイか?

「じゃあ昼休みにでも待ってますよ!つーか矢口さん、荷物持ち過ぎ!」
叫んだあたしに向かって矢口さんはニコニコしながら一瞬立ち止まって、譜面台を持ち上げて左右に大きく振った。
おお!何なんだ!その力はどっからくるんだ!
あたしが本気で感心している間に矢口さんは、あっという間に音楽室のほうに走り去ってしまった。
204 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時12分53秒
本を選ぶ時間がナイ時はそこに行って適当に手に取ったのを読み出したりして。
そうやって出逢ったたくさんの作家がいるからあたしは、そのやり方はワリと良いもんだなあと思っている。
矢口さんに色んなCD貸すのもそれに似てるのかもしれない。
自分では選ばないようなのを他人の提案で知って、それで気に入ったら楽しいかなあ、というカンジ。

今日のあたしは日本文学全集の前でぶらぶらしてみる。
通し番号順に並んだ本たちは、最後に読まれたのはいつなのだろうか。
あたししか読まないってコトないよね、と思って去年手に取ったのが最初だったのだけれど、巻末の履歴を見ると何冊かはあたしが初貸し出しだったりなんかして、嬉しいようなせつないような。
本の神様(と飯田先生)がきっと泣くぞ・・・。

でもまあ今のあたしみたいに図書室に通って読んだヒトもいるのだろう、と勝手に思いながら、ずらりと並ぶ赤い背表紙の真ん中あたりに適当に手を伸ばす。
ん、あたしが知らない作家だなあ、どういうヒトだろう。
タイトルは何となく重めのが並んでるけれども。
205 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時16分05秒
あたしは右手でそれの心地よい重さを確かめながら、いつもの指定席に戻った。
春に図書室に通い始めて以来、窓際の柱によりかかって絨毯に座り込むのがあたしの定位置だ。
もちろん早朝限定なのだけれど、このキモチ良さを知ったら椅子に座るのがおっくうになる。
膝の上で読んだりあぐらをかいたり、時には寝転がりそうなイキオイで好きな格好になって読むあたしを偶然見た飯田先生は、まあそれが正しいっちゃ正しいけどね、でもパンツ見えそうだよ、とだけ言った。

腰をもぞもぞと動かして落ち着くとあたしはその本を読み出した。
さっきよりも増えている蝉の鳴き声はすぐに気にならなくなる。
キレイなコトバと淡々と進むストーリーにあたしはすぐに引き込まれた。
タイトルとは全然違って重い内容ではなかった最初のハナシを途中まで読んであたしは、予鈴が鳴ったコトに気づいてカオをあげた。
206 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時18分42秒
しばらくはこのヒトを読もう、と思ってもう一度ぱらぱらページをめくっていると、最後のハナシのタイトルのページに何かが挟まっているのに気づく。
半分に折り畳まれた、ルーズリーフが1枚。
誰かの勉強の痕跡だろうか。
あたしは何の気ナシにそれを開く。
そこにはたった一行。

  君見ずとかたく誓ひて来しものをもの狂はしやまた君を見る

いつか飯田先生が話していたのをすぐに思い出した。
読まれるアテのナイ手紙が図書館には眠っている。

縦書きで書かれている整ったその文字は、男子のモノなのか女子のモノなのかはわからないけれど。
右端にそれだけ書いて彼(または彼女)は、何を思ったのだろう。
誰かの歌を引用しているのか本人が作ったのかもあたしにはわからないし、誰が書いたのか誰に宛てて書いたのかもわからない。
207 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時21分36秒
そしてそんな想いを経験したコトもないあたしが、その歌を見つめたまま何となく動けなかった。
たった一行に込められた、誰のモノかもわからないその想いを一瞬、すごくリアルに感じたからかもしれない。

あたしはそれをまた同じページに丁寧に挟み直すと、静かに本を閉じて元の本棚に戻した。
もしアレを書いたヒトが今もこの学校にいるのなら、無関係なあたしが読んでしまったコトに気づきませんように。
もしすでにこの学校を卒業しているのなら、そんなコトもあったと懐かしく思える想い出になっていますように。
そう思いながらあたしは、朝礼が始まる教室に向かって急いだ。
208 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時23分47秒
昼休みに矢口さんが来て廊下からあたしに向かって手を振ったから、準備していたCDを持ってあわてて立ち上がる。
「お!新ネタですかね吉澤さん」
「年上って珍しいよねえ」
なんてヒソヒソつぶやくひとみ部のみんな。
「ちょっと!矢口さんに聞こえちゃうじゃん。やめてよね」
近くにいた加護のアタマをはたいてあたしは廊下に出た。

「しっかり聞こえてるよよっすぃー」
矢口さんは笑いながら、コレがウワサのひとみ部なんだ、と教室の中を覗き込んだ。
教室の中では、あ、どうも、よっすぃーをよろしくお願いします、なんて誰かが言ってる声が聞こえる。
「ったく、うるさいよーホントにもう」
あたしが矢口さんの上からカオを覗かせて言うと、おお!ナイスなバランス!ちょうどいい身長差だね、なんて声が口々にあがる。

とりあえず何でもネタになるんだから、このヒト達・・・。
相手しちゃダメです矢口さん、と言ってあたしはみんなから見えない位置に移動した。
それでも通り掛かる同級生がたまに、あたし達をちらりと見て通り過ぎて行く。
209 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時25分53秒
「何でひとみ部知ってるんですか?矢口さん」
あたしは矢口さんにCDを手渡しながらきいた。
一応モテよし保全の会だから大っぴらには活動してない、なんてみんなは普段言ってるんだけど。

「ありがとよっすぃー、借りるね。んーとひとみ部はねえ、紗耶香に聞いたよ?何かそーいうトコが吉澤の実際の姿を見せてない!けしからん!って言ってたけどね」
そして矢口さんは、別にイイじゃんねえどんなよっすぃーもよっすぃーなんだし、とまるでひとみ部みたいなコトを言って笑った。

「や、違うんですよーアレはみんなが勝手にやってるだけなんですよ」
「まあまあ、イイじゃんか楽しそうだし」
矢口さんはもう一度教室を覗き込んで、お、ごっつぁんでしょそこで寝てんの、と言った。
あたしもまた覗き込むと、廊下側の席でつっ伏してるごっちんの背中と半袖から伸びる腕が少しだけしか見えなかったけれど、矢口さんは見てすぐにわかったらしい。
210 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時28分03秒
突然ごっちんががばっとカラダを起こしてキョロキョロ辺りを見回した。
きゃはははベタな寝ぼけっぷりだなごっつぁん、と言う矢口さんの声に気づいたごっちんが後ろを振り向く。
「んあーやぐっつぁん何やってんの?こんなトコで」
「何やってんのじゃナイよごっつぁん、ホンっトよく寝てんだなー」
昼休みに爆睡するごっちんが途中で急に目覚めるのを、あたしはほとんど見たコトがなかったから少しびっくりしていた。

「つーかごっちんよく目が覚めたねえ、普段ウチらがあんだけ騒いでも起きないのに」
「ん・・・んん?何となく急に、殺気?とか?」
「なーんだよごっつぁん!それじゃヤグチの殺気みたいじゃんか!誤解を招くだろー。」
んーそっかじゃあ殺気じゃなくて何つーの?気配か、とごっちんがのんびり答えた。

そしてガタガタと椅子をひいて立ち上がるとあたし達のほうに歩いて来る。
「んあートイレー」
「トイレくらい黙って行けよー」
笑う矢口さんとあたしの横を通り抜けようとしたごっちんが、あ、アレ、と向かい側の校舎を指差して、あははと笑って歩いて行った。
211 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時30分34秒
ん?と2人で振り向いたあたし達は絶句した。
向かい側の3Fの右端の教室の窓から、色んなヒトが手を振っていた。
それだけじゃない。
何やら白い紙に1枚にほぼ1文字ずつ書かれた極太の毛筆。
ってか何で毛筆?

  『 知 を 夜 露 死 苦 !
           よっ すぃ ー ! 』

窓に上下2段で不格好に並んだそのメッセージによろめくあたし達。
すぐに矢口さんが廊下の窓から身を乗り出して大声で叫ぶ。

「何なんだよちょっと!ハズカシイからヤメろっつーの!アホーー!」
向かい側からも色んな声が口々に叫ぶ。
「気づくのおせーよ矢口!」
「ちゃんと名前を暗号にしてやったんだから感謝しろよー!」
「露っていう字ちゃんと読めてるー?あたしの力作ー!」
212 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時32分30秒
うっさい!あとで覚えてろよー!と叫ぶ矢口さんの隣であたしは、あたしの名前が暗号じゃナイじゃん!と的外れなツっこみをココロの中で入れていた。
それにしてもハズカシイ・・・何なんだよー!

うちのクラスの隣の教室からも出てきたヒト達が、それを指差してはあたし達を見て笑ってる。
くそー、と思ってたら突然そのメッセージは一斉に引っ込み、代わりに今度は5枚、また極太毛筆で書かれたメッセージが並んだ。

  『 凸 ! by # 市井  』

またそれかよ!
こっちの校舎の上や下から、きゃー、という声があがるのが聞こえた。
文字だけでも人気なのか市井さんは、っていうか何人の人間がコレ見てんだよまったく!
213 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時34分38秒
今度は矢口さんはそれを指差してげらげら笑っていた。
「あははよっすぃー、まーた紗耶香怒ってるよ!あははは」
何だよ矢口さんも結局、楽しけりゃイイのかよーったくもう。
トイレから戻ったごっちんも笑って、あの凸って絶対いちーちゃんの字だよ、名前は違うヒトが書いてるけど、なんてどーでもイイようなコトを言う。

そしてさっきあわてて飛び出してきて、マズイなアレは!と叫んだ加護が気になって、あたしは自分の教室を覗き込んでみた。
加護はあたしの席に座って後ろを向いて、辻にアレコレ何かを言っていた。
辻は正しい書道の姿勢で息を詰めるようにして筆を運んでいる。
同じ方法で対抗しなくてもイイだろ!
つーかいくら書道部だからって、そんな真剣に書かなくてイイよ、辻!

近くで1人の男子が一生懸命墨を擦っている。
梨華ちゃんは辻が1文字書きおえるごとに新しい紙をさっと差し出す。
・・・よくわかんないけど良いクラスのような気がしてきた、このチームワーク。
なのにクラス対抗マッチとかって、勝てないんだよなーウチら。
そしてまた、体育祭の季節がやって来るのを思い出した。
でもあの3年には勝てないよなやっぱり。
214 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時37分19秒
なんてコトを考えていたら、書き終えた紙をそれぞれ持ったみんなが廊下に飛び出して来て、隣の教室の前まで広がった。
バッ、とまるで音がするかのようなイキオイで廊下の窓に紙を押しつけるひとみ部。
しばらく間があって、向かい側の教室から急に市井さんがカオを覗かせて叫んだ。
「吉澤ー!オマエもうホンっト最近ナマイキー!今度逢ったらシメるかんね!」

向かい側の校舎でこっちに気づいてるヒトはみんな、指差したり手を叩いたりして笑っている。
何が書かれてるのか知らなかったあたしはあわてて窓からカオを出してその文字を見た。
ひとみ部のコトだからてっきり、モテよし保全ネタとかで対抗してんのかと思ったら。

  『  タラシ には 関係 ない の れす ! by  吉澤  』

なーんーだーよ!!!
あたしは窓から身を乗り出して叫んだ。
「ちょっとコレ、あたしが書かせたんじゃナイっすよ!市井さん!」
「いっつも言ってんだから吉澤しかいないだろ!」
そう言われたらそうなんだけど・・・。
ないのれす!ってあたしが言うか!
215 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時42分13秒
中庭にたまっているギャル達が、叫び合うあたし達を見てきゃーきゃー喜んでいる。
矢口さんとごっちんはもちろん、2人して笑い転げていた。
もうイイよー何なんだよーホントにもう。

とほほ、と肩を落としたあたしに加護が満足そうに歩み寄る。
「ウチらの勝ちやな」
「うるさい!このアホ!」
あたしは加護をつかまえて必殺ヘッドロックでぎゅうぎゅう締めつけてやる。
「は、禿げるってばよっすぃー!いででで」

笑い疲れた矢口さんは、記念にコレちょーだい、と言って『タラシ』の紙だけもらうと、ありがとねよっすぃー、とひらひらその紙と手を振って自分の教室に帰って行った。
あたしはもうホントに疲れたよ・・・。
墨汁が窓に残らなかったコトだけが唯一あたしの救いだったけれど、教室の後ろにはなぜか『吉澤』『!』の文字が貼られていた。

ぐったりしたあたしを待っていたのは、コレまたぐったり疲れる季節ネタ(あたしだけ)。
今年も応援団は吉澤に決定という無投票当選で始まるホームルームだった。
216 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月11日(火)21時48分12秒
あああ!抜けてる!ゴメンなさい。
>203と>204の間にこの段落↓が入ります。

『ま、とにかく今朝は矢口さんは来ないのね、とちょうど本を読み終わったあたしは次に読む本を探し始める。
 入口近くの陰になった部分に、全集モノばかりの棚がある。
 基本的にジャンルを選ばないし、面白そうだと思ったらどんなモノでもちゃんと読んでみるコトにしているあたしは、実はそのコーナーがお気に入りだ。』

背筋伸びてたんじゃなかったのか?自分・・・。
217 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)09時22分04秒
やばい(笑)さいこ−だよ!
218 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)18時02分57秒
初めて読んだけどおもしろいですね。
さやかとやぐちのやり取りが好き
219 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)20時27分11秒
やっぱ矢口は市井のコトが好きなのかな…
個人的には市井が矢口のファーストキスを奪った時の話が読みたいです
220 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)22時06分49秒
やぐよし!!になりますよね?、、、なって欲しい(w
初レスですが、毎回更新凄い楽しみにしてます。
頑張って下さいね!!
221 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)22時48分21秒
いいなぁ、青春だなぁ…ほのぼの。
初夏っぽく風が凪いでいる感じがする文章で、とても心地がいいです。
題名から、はっぴいえんどの「夏なんです」を思い出しました。
222 名前:SSKB 投稿日:2003年02月19日(水)15時44分32秒
同じ日に怒涛のレス、ありがとございます。
背水の陣で望んだ更新だけに、すごく嬉しかった!
>217
「やばい」ってコトバが嬉しいです。です、ってヘンだな。
自分が使う最高のホメ言葉は今、「ヤバイ」。コレオンリー。オンリーかよ・・。
>218
この2人の会話が一番自然に出てきた気がします。
おかしいなあ・・・。市井と矢口・・・。
と実は自分が思ってます。
>219
矢口のキモチは・・・過去?今?未来?何がどうなってるんでしょうか。
ファーストキスのハナシはいずれ・・・。
本編なのかそうじゃナイのか?
>220
・・・そして自分と同じく不安になったあなたの初レスをいただけたのかと。
さやまり?さやまり?と思って「キャラクタry」のCP大全を見に行ったコトを白状します。
そんであなたのレスでこう、目の前でぱちんと手を叩いて目を醒まされたようなw
>221
おお何と。タイトル元ネタの、かせきさいだぁ「じゃっ夏なんで」は・・・
「夏なんです」が元ネタなんですよw。松本氏のサイトにコラム持ってますた、かせき。
自分は、大瀧氏ソロ名義だけど「五月雨」が異常に好きです。
223 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)15時47分14秒
他の学校はどうだか知らないけど、うちの学校の体育祭の準備は早いほうだと思う。
単にイベント好きなだけかもしれないけれども。
そんなワケで秋にある体育祭に向けて、7月になるとすぐにあたしは応援団の練習に参加せざるを得なくなった。

だいたい応援団つったって体育祭限定の即興なんだからそんなにチカラ入れなくてもイイのにさ。
とりあえずそれが決まったその日にあたしは、クラスの男子から学ランを手渡された。
その日って・・・準備良すぎだよ。

「よっすぃーのハチマキね、私が縫うコトに決まったんだよ」
梨華ちゃんが嬉しそうに言う。
「ん?そうなの?」
「それがね、聞いて!じゃんけんに勝ったのー私!」
「だって、ひとみ部なんて別にあたしのハチマキ縫うのなんてキョーミないでしょ?」
縫うよりは売るってカンジだもんな、加護とか。

基本的にハチマキやタスキ、学ランは各自用意するコトになってるから、男子なんかは自分の彼女やクラスの女のコに縫ってもらったりしている。
別にあたし、自分で縫っても全然イイんだけどさ。
一応女なんで。
224 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)15時50分18秒
「違うの昨日ね、あったの。じゃんけん大会」
「何のじゃんけん?」
「だから、よっすぃーのハチマキを縫うヒトを決めるじゃんけん」
はぁっ?
「何それ」

梨華ちゃんが胸の前で両手を握り合わせて目をキラキラさせながら言う。
「もうさー、スゴかったんだよよっすぃー。放課後みんなで中庭に集まったんだけどー。どこからこんなにって言うくらい、特に下級生とか。あ、もちろんウチのクラスのひとみ部男子もいたんだけど」
いたのかよ!つーかそんなのあったなんて知らなかった!

「それってさあ・・・もしかして、加護がやったんでしょ」
「そうだよ。あいぼんが企画してヒソカに全クラスにビラを回してたみたい。一応よっすぃーにはヒミツにしてたみたいだけどね」
ははは・・・また半殺しにするからだろうなあ。
で、石川さんはそれに勝ったと。
225 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)15時53分32秒
「もう最後がね、あの松浦さんが相手でーすっごいニラまれちゃったんだけど私、勝っちゃったもんね」
とコブシを握り締めてニコニコニコニコ。
あー・・・平和・・・。

でもやっぱ一応ね。
「ありがとう、梨華ちゃん」
「ねねね、やっぱりすっごい長いほうがカッコイイよね?あ、何かコトバとか入れる?刺繍しよっか。何がイイかなあ」
なんて、途中でハナシに参加してきたひとみ部とそのハナシで盛り上がり始める梨華ちゃん。
あたしの耳には『根性』とか『我命有限・・』とかナントカ、どうかネタであってくれと願いたいコトバばっかり聞こえてくるけど。

何はともあれ、ハチマキを縫ってくれるというならそれはありがたい。
・・・お願いだからヘンなコトバ吹き込むなよ、加護。
226 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)15時55分37秒
ちなみに応援団はクラスから男女2名ずつ参加するコトになっていて、あたしの相方の女子は辻に決定。
あたしと一緒に行動して妬まれない女子と言えば学年一ヒト当たりのイイ辻、という理由らしい。
断わってもイイんだよ、辻・・・。

辻はというと、あたしのと一緒にハチマキを梨華ちゃんに縫ってもらえるらしく、小躍りして喜んでいた。
好きなコトバ入れてあげるよ?という梨華ちゃんのコトバに(それ、あたしにもきいてよ)、うーん好きなモノはねぇ、としばし考えたあげく、肉!肉がイイ!と答えていた。
好きなモノじゃなくてコトバだっつーの。

額に肉って・・・キン肉マンかよ!
辻なんかひらがなで『にく』だろ!どーみても。
あー・・・平和・・・。
「がんばろうねーよっすぃー!」
「が、んばろうねぇ・・・」

こうしてあたしの、体育祭に向けて熱くなる夏は幕を開けた。
227 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)15時57分37秒
「おっすー吉澤、もう帰んの?」
数日後の放課後、あたしが下駄箱でクツを履き替えてると市井さんが通りかかった。
しかも市井さんはウチの学校のモテ3本指のもう1人、通称もこみちと一緒だ。

本名はすっかり忘れてしまったけど、みんなにもこみちと呼ばれている彼がまたよくモテる。
男子の中ではもちろんダントツのモテで、あたし達が入学する前は市井さんと人気を二分して、とにかくブイブイ言わせてたらしい。

ウワサでは去年他校のギャル(本物のギャル。超ギャルらしい)とつき合い始めて、それ以来すっかりおとなしくなったとかナントカ。
それでもまだモテ続けてるのだから彼も相当なもんだろう。
今は市井さんのがモテてるみたいだけど。
228 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)16時00分03秒
あたしはもこみち氏としゃべったコトはナイので軽く会釈をして、市井さんに答える。
「そりゃ帰りますよー。市井さんは部活じゃナイんですか?」
2人はニヤニヤ、あたしを見ている。
「あたしは今日はちょっとだけミーティング。応援団だからさ。どうせ吉澤、今年もやるんでしょ?」
ちなみにウチらはこのヒトが団長、あたし副団長、ともこみちと自分を順番に指差して市井さんは言った。
そう言えば去年もこの2人、応援団やってた。
そんで何故かあたしも含めて3人集めて写真とか撮られたんだった!

「あ、もうミーティングとかやるんですか。2年はまだ全然っすよ」
「今年もウチら、負けないよー?応援団でも点数稼ぎまくるから」
去年2年生だった市井さん達は、当時の3年生チームを負かして見事優勝という快挙を成しとげた。
まあ高2と高3ではそれほど体力にも差はナイのだろうけどやっぱり、基本的に毎年3年チームが優勝しているらしいから、去年の3年生の悔しがり方というのも相当なモノだった。
229 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)16時02分43秒
「ま、あたしらがいる限り、応援団の点数はこっちのもんだけどねー」
市井さんが笑って言うともこみちも笑って、まあ当然そうだな、と答えた。
くそー何か悔しいぞ。
ちょっとあたし、やる気出てきた。
「や、負けないっすよ、マジで!ちょっとがんばりますよ、あたし」
「おお、珍しく吉澤がやる気じゃんか」

まーせいぜいがんばってくれたまえ、とひらひら手を振る市井さんとフフンと鼻で笑うもこみちは2人でどこかに行ってしまった。
ちっくしょー何だよ!バカにされてんのかよーあたし。
ミーティングだミーティング!

あたしは今履いたばかりのローファーを脱ぎ捨てると、2年の団長に決まった男子のクラスに向かって走り出す。
モテ3本指が揃う下駄箱をヒソカに見守っていた女のコ達の横をすり抜けて、あたしは階段を2段飛ばしでかけ上がった。
教室に着くと団長は既に部活に行った後らしく、帰宅部の女のコが数人残ってるだけだった。
230 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)16時05分04秒
ちっ何だよー、と汗ばんだ額を拭ってつぶやくあたしに向かってそのクラスのコ達が、よっすぃー応援団がんばってね、一緒に写真撮ってね写真、と声を掛けた。
「おうよ!あたし今年はやるよ?市井さんには負けないかんね!じゃっ!」
鼻息荒くあたしが手を挙げてきびすを返すと後ろから、よっすぃーもやっとやる気になったのかな、なんてそのコ達の会話が聞こえてきた。
あたし、普段はよっぽどやる気なさそうに見えるんだなー。
ま、ナイんだけどさ。

つーかあたし何で急にやる気になってんの?

結局その次の日にムリヤリやったミーティングであたし達の自由演技の出しモノは決まった。
アイドルモノやろーぜ、という声がなぜか多くてコレに決定。
各クラス4人×6クラス=24人で、24人祭だ。
231 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月19日(水)16時08分59秒
んで、どの祭をやるコトになったのかは当日までは極秘。
いくらやる気とは言え実はちょっと考えたくないあたし・・・。
まあイイや。
夏休みは色んな練習とかで学校に来るコトになるんだろうな、と思いながらあたしは、夏休みは吹奏楽部って朝練じゃナイよなあ、っていうか矢口さんってもうすぐ部活引退だ、と気づく。

矢口さんはいつまで部活に出るのか次に逢った時に聞いてみよう。
でも何だか矢口さんのいない朝練ってつまんないなあ、とぼんやり思う。
あたしは一緒に朝練やるワケじゃナイからつまんないも何もナイのだけれど、毎朝矢口さんの音と笑い声を聞いてるのが当たり前になってたコトに今更ながら気づいた。

夏は始まったばかりだというのに少しさみしいキモチになったあたしは、矢口さんが受験で忙しくなる前に1回くらい、一緒に遊んでみたいなあ、と思った。
232 名前:SSKB 投稿日:2003年02月19日(水)19時55分20秒
>222の自分のレスの誤字がハズカシイまま来週まで過ごすのも何なので、
明日も勝手に更新するコトにケテーイ。
今度はちゃんと「臨み」ます・・・。
233 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)23時09分50秒
更新お疲れ様ッス。
「夏なんです」と書き込んだ後に、「あ、かせきだ」と気がつきました。
かせきはあまり聞いたことがないので、今度聞いてみようと思います。
風板の方も読ませて頂いてますよ。
連日更新宣言、めっちゃウレシイ。楽しみにしてます
234 名前:220 投稿日:2003年02月20日(木)00時52分10秒
明日も更新ですか?!嬉しくて泣きそうです!!
実は、さやまりもかなり好きだったりします…がっ、ここはぜひ(w
また明日来ます♪
  
235 名前:SSKB 投稿日:2003年02月20日(木)23時25分18秒
理由が理由だけに、連続更新を喜んでいただけてチト救われました。
>233
マターリ、キラキラ、かせきの世界みたくしたかったから、このタイトルだったり。
風のほうも読んでいただいてるってコトは・・こっちの更新量の増減の理由が毎回バレバレですな。
>234
おっと、さやまりもお好きですか。しかもかなり・・・。
でももうそろそろ、かなあ?・・・夏なんで。

よし子はやる気に、って何のやる気なんだか。
236 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時28分22秒
期末テストの最終日が終わって掃除当番を済ませると、あたしは1人で体育館の横にあるプールに遊びに行こうと思い立った。
梨華ちゃん達には、よっすぃーもカラオケ行こうよ、と誘われたけれど今日のあたしは何となくそんな気分になれなかったから、また今度ね、と断わった。
あたしはたまにこうしてブラブラ、放課後の校内を彷徨ったりする。

知ってる誰かが部活をする姿を勝手に眺めるのも好きだし、知らない誰かの姿でも単純にスポーツとして楽しんだりも出来る。
そして風通しの良い場所を見つけて腰を落ち着けて、本を読み出すコトもある。
要はあたし、1人になりたいだけなのかな、と思うコトもあるのだけれど。
つーかあたしホントに1人が好きなんだなー。
237 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時30分50秒
渡り廊下の途中にある武道場の中で加護が、正座をしているのが見えた。
夏の武道場は、窓という窓を開け放しているけれどもきっとみんな汗だくだろう。
隣の柔道部からは、外にいてもわかるほどの匂ひが漂ってくる。
袴姿の加護はいつもと違ってきりりとした表情をしているから好きだ。
普段フザケてばっかりの仲間のいつもと違う姿を見られるのも、放課後だけの楽しさなのかもしれない。

あたしに気づいた加護がニヤっと笑って手を振った。
途端に誰かに何かを言われたらしく、だーってよっすぃーが、とこっちを指差して言う加護。
そんなんアリかよ!
あたしは加護に向かってカバンで殴るマネをして、あわてて武道場の前からプールに向かって逃げ出した。
238 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時33分05秒
あたしがプールに遊びに行くというのは、自分が泳ぐのではなくて水泳部を眺めに行くコトを指す。
個人的にはプールは外にあるほうが好きなのだけれど、体育コースがあるくらいだからウチの高校は当然室内プール。
まあそれはそれで見てて楽しいからイイんだけどね。
2Fに少しだけある席を目指して階段を上った。

普段からその席にはほとんどヒトがいない。
前は水泳部エースの市井さん目当ての女のコ達がひしめき合ってたらしいけれど、あまりにも練習のジャマになるので顧問が市井さんに何とかしろと言ったらしい。
市井さん自身が彼女達に直接何か言ったのかどうかはともかく、水泳部の練習のジャマをしないコト!というキマリのようなモノがみんなの間で出来て、それが今も守られているというハナシだ。

あたしは練習のジャマにはならないのか、と言うと、まあ黙って眺めてるだけだし何と言っても市井ギャル(最近3年生の間で流行ってるらしい、市井ファンの呼び方)ではナイから良いのだ。
と、あたしは勝手に思っている。
239 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時36分47秒
今日は珍しく先客がいるのがわかってあたしは一瞬、あーあ、と思った。
どうせなら1人でのんびりだらだらしたい。
知ってる誰かでも知らない誰かでも、そしてそれがあたしのファンだったりなんかすると、コレまたメンドくさい。
あたしは静かに立ち去ろうとして、先客の後ろ姿をもう一度見た。

ん?アレ矢口さんかな。
一番前の席で前かがみに座ってて、あんまりよく見えなかったんだけれど。
ほんの一瞬だけ見えた横顔が、矢口さんに似ていた。
あたしはしばらく、後ろから矢口さんらしきヒトを見ていた。

突然プール全体に大きな声が響き渡る。
「矢口ーー!後ろーーー!」
バっと驚いたカオで振り向いたのはやっぱり、矢口さんだった。
矢口さんはパっと笑って、なーんだ、よっすぃーじゃんか、と言った。

あたしは何が何だかわからないけれど矢口さんの席に歩いて行って、こんちわ、とアイサツをした。
天井に反射した声がまた響いた。
「何やってんだよ吉澤ー!」
市井さんがプールサイドからこっちを指差して笑いながらじたばたしていた。
240 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時39分28秒
「ったく市井!ギャルなんかよりオマエがうるさいよ!本数増やすぞ!」
顧問の体育教師がそう怒鳴って笑っていた。
プールからあがったばかりのごっちんが水をしたたらせて歩きながら、あたし達に気づいて手を振った。
普段あたしだけで見てる時には市井さんもごっちんも目で笑うくらいなんだけどなー。
あたしと矢口さんがいるのが珍しいからか。

矢口さんがあたしを見上げて、紗耶香の声って高くて響くよねー、と笑った。
「ままま、どうぞよっすぃー」
そう言って矢口さんは隣の席のカバンを反対側に置いた。
どーもどーもと言ってあたしはしっかり、その席に座る。
市井さんはもう水の中に飛び込んでいたから、今んトコ何も言われないだろう。

「矢口さん今日は部活じゃナイんですか?」
「んー。そうだね。あるっちゃある、ナイっちゃーナイ・・・」
「ははっ、サボリっすか」
そうとも言うね、とニヤリと笑って矢口さんは、まーイイんだよヤグチは普段真面目にやってっからさ、と言って伸びをした。
241 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時42分15秒
今のあたしは気ままな帰宅部だけれども、バレーをやっていた中学時代はそんなコトもあったからまあ部活というのはそんなモノだよな、と思った。
練習はキツイ、でも強くなるのは楽しい、そして試合には勝ちたい、でもラクしたい。
そんなコトばっかり考えてたなあ、と思い出してあたしは、矢口さんもきっとそういう気分なのだろうと勝手に納得した。

「んでサボったはイイんだけどみんなはもう帰っちゃった後だし、電話して駅に引き留めるのもナンだしなーと思って、紗耶香達のトコに遊びに来てみたりして」
「楽しいですよね、こういうの見てるの」

あたしは市井さんの力強い泳ぎも好きだし、ごっちんのしなやかな泳ぎを見るのも好きだ。
くだらないコトでアレコレ悩んでたりする時に無心で2人の泳ぎを目で追ってるだけで、何だかすっきりするコトもある。
とか言って本人達にはそれを言ったコトはナイんだけどね。
242 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時45分19秒
あたし達はしばらく黙ってそのまま、水泳部の練習を眺めていた。
不意に矢口さんが、そうだ、と言ってあたしを見た。
「よっすぃーさ、今からヒマ?」
「んー全然ヒマですよ?」

じゃあさ、と矢口さんがニッと笑って続けた。
「コレからちょっとヤグチにつき合ってくんない?よっすぃーって、外とかキライ?」
「へっ?好きですよ?外。暑いけどそれがまた良かったり・・・」
つき合うって、どこかに行くのかな?外って?

自分のカバンをつかんで矢口さんは急に立ち上がる。
「じゃ決まり決まり。早く行こ、よっすぃー」
「ほえー何だかわかんないけど、えーと、はい、行きます」
あわててあたしも自分のカバンを拾いあげた。
243 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時49分01秒
やったねユニットユニット、とあたしに振り向いてニヤリと笑いながら歩く矢口さんは、すごく嬉しそうだった。
矢口さんが階段に続くドアに手をかけた瞬間、またしてもあの声が響いた。
「おーい、そこ!待ってよーあたしもうすぐ休憩だし!」
あたしは振り向いてニヤリと笑うと、矢口さんの肩を抱くマネをしてドアを開けた。

「あーーーーーーー!吉澤ーーーーーー!」
「市井!うるさいって!オマエあと5本追加決定!」
顧問の声に、えーーー!と大声をあげる市井さん。
近くを歩きながらぷっと吹き出して、市井さんをこっそり指差してあたし達に合図を送るごっちん。
あたしと矢口さんはごっちんに小さく手を振って、そのまま2人で笑いながら階段を下りた。
244 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月20日(木)23時51分23秒
外に出た途端に熱気があたし達を包む。
矢口さんが手をかざして空を見上げた。
「あちーなーやっぱり。んーと、とりあえず駅まで歩くよ?」
はい、とあたしが返事をすると矢口さんは、日焼けなんて気にしてたらこの学校来れないよねえ、と笑って歩き出す。
あたしは駅まで続く長い一本道を遠く見やりながら、そんなのとっくの昔にあきらめましたよあたし、と言って、矢口さんの歩くスピードに合わせた。

プールの中で反響していた声やホイッスル、水に飛び込む音がまだあたしの耳の奥には残っていた。
245 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月21日(金)00時05分35秒
連日更新、お疲れさまッス。キラキラ、マターリ最高。
( ´ Д `).。oO(よしこ、やる気It's Easy
246 名前:ぴにょ。 投稿日:2003年02月22日(土)00時46分43秒
なんか『探し求めてた小説』って感じです。
かっけー市井ちゃんとよっすぃ大好きなんでね。
それにしても妙にあややかわいい。
よしあや
247 名前:217 投稿日:2003年02月23日(日)13時31分33秒
連日更新お疲れっす。
もう一度言わしてもらいます。やっぱヤバイねこれ!(笑)“ハチマキの刺繍‥”にやられた(そこかよっ)『肉』って‥(笑)体育祭が楽しみっす!!(‥え!?)
248 名前:SSKB 投稿日:2003年02月26日(水)20時13分29秒
レス、ホントにありがとございます。
久しぶりにストックが出来てロマンティック浮かれモード。
>245
キラキラ、マターリ、寒い部屋で夏のシーンを書くのにようやく慣れてきた今日この頃です。
(0^〜^)<ごっちん、あたしやるよ〜(たぶん)
>246
よしあや?よしあや?もっかいくらい、あるかもナイかも?ナイかも?あるかも。
ココの市井、かっけーというよりは単なるタラry・・・ウソです。
>247
フフフ、あなたのツボがよーくわかりましたよ。
実は、ネタっぽくなる度に次回から軌道修正しようとココロに誓ってるんですけどね(えっ!?)。

とか言ってストックが手元にあると何か落ち着かない・・・。
貧乏性?逆だっけ?
249 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時19分36秒
丘の上にある学校から駅までの道は、ハッキリ言って何もナイ。
みーんみんみんみんみん・・・・・エンドレスに続く蝉の大合唱と、強烈な陽射し。
冬は吹きっさらしの風と、うっかりすると朝イチ凍ってたりする道路。
何でこんなトコに学校建てたの?とは誰もが思う疑問だけれど、あたしはそれでもこの通学路が気に入っている。

普段は静かで、緑だけはいっぱいある一本道を毎日歩くだけでもキモチイイ。
1年の頃のあたしはたまに大遅刻なんてしてたから、そんな時は当然1人でこの道を歩いていた。
ひたひたひた・・と自分の足音だけしか聞こえなくて、そんな日に夢のような青空が広がってたりなんかするともう、学校なんて行ってられるか!なんて本気で駅に引き返そうかと思ったりなんかして。

思えばそんな日に偶然駅で一緒になった市井さんと歩きながら、初めてマトモにしゃべったんだよな。
その時にはまさか市井さんがあんなキャラだとは思ってなかったんだけど。
そして今日は矢口さんと初めて一緒に歩いている。
矢口さんはあたしが貸したCDのハナシとか、当然市井さんのハナシなんかをしながらよく笑う。
250 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時22分10秒
あたしも今日は何だか、いつもよりよく笑ってるような気がする。
途中で一度矢口さんが大爆笑して手を叩いて喜んだから、かなり前にいる誰かが振り向いて、後ろ向きに歩きながらちょっとの間あたし達のコトを眺めていた。

矢口さんってアタマの回転が早いんだろうな。
色んなハナシがテンポよく、ツボをおさえたネタになって次々と繰り出される。
そして矢口さんはヒトの目をしっかり見て話すヒトだ。

隣を歩いてるあたしのカオを下から時々覗き込みながら、ねっ?なんてニッコリ笑うのをあたしはかーなりがんばって矢口さんを見て、笑って返す。
いや、あたしだって基本的にヒトの目を見て話すタイプだけども、えーっと、何というのか。

あのつぶらな瞳で見上げられるとどうもちょっと、何かアレなんスよね!
かーわーいーいー!なんつってどつきたくなるのをぐっとこらえて、しっかり目を見て笑って相づち打ったりなんかして。
別にあたしはそこでがんばんないで素直に、かーわーいーいー!とか言えば済むハナシなんだけどさ。
251 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時26分23秒
ぬあー、それにしても暑い。
基本的にあたし達が普段この道を歩くのは登下校の時間帯だけだから、こんな真っ昼間に歩くとホントに、太陽の威力をストレートに感じる。
あたしはハンカチ代わりに愛用しているバンダナを取り出して、パタパタとカオをあおいだ。

「お、そういやヤグチね、すげーイイの持ってるんだよ実は」
そう言いながら矢口さんは歩きながらカバンを開けて、はい、コレどーよ!とあたしに差し出す。
「何すかそれ・・っていうかその字はもしや・・・」
「あはは、やっぱわかった?でも涼しいっしょーほれほれ」

矢口さんがあたしに向かってあおいでくれてるのは、でっかく『愛』と書かれたウチワだった。
そしてまた毛筆。
また毛筆ですか・・・。
「流行ってるんですか?書道」
「それがさ、アレ以来流行ってんだよねマジで。今度ウチの教室来てみてよー後ろにいっぱい貼ってあんの、みんなの作品が」
「あはは!小学生っすよそれ」
252 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時28分20秒
や、マジでハマるんだって久しぶりにやると、と矢口さんはウチワを眺めながらつぶやいて、パタパタと自分のカオをあおいで、はー涼しー、と目を細めた。
その達筆すぎる達筆は、どう見たって市井さんの字だよなー。
そんなのもらってだいじょぶなの?矢口さん。

「市井さんの『愛』なんてちょっとすごくナイですか?市井ギャルに奪われたりしません?」
「ん?量産してんだよコレ、見たコトない?」
いーや、ナイです、初めて見た・・・。

ってか、量産って何だよー。
「何か紗耶香もお習字ハマっちゃってさー、ほら『愛だろ、愛』がモットーだからってもう書きまくり。それをウチのクラスでせっせと要らないウチワに貼りつけてんの。ヒマでしょー」
「ははっ、紗耶香部なんだ、矢口さん達」
253 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時30分15秒
そうそう、基本的にそうなんだよウチらも、と矢口さんは嬉しそうに言う。
「よっすぃーもモテをもっと楽しめばイイのに、もったいナイじゃんか。ま、紗耶香みたくなったらやりすぎっちゅーハナシもあるけどね」
「やー、だって別にあたし、イイんですよ。モテてもモテなくても。好きなヒトに好かれたらイイなあとは思いますけど」
「おおっ、よっすぃーのコイバナ?コイバナ?好きなヒトいるの?誰だれダレ?」

急に目を輝かせてあたしにカラダをぶつけてきて少し背伸びをして、あたしの口元に自分の耳を近づける矢口さん。
その不意打ちにちょっとだけドキリとしたあたしは、そんな自分にびっくりした。

そして、あたしが今度好きになるのは男のコなんだろうか、それともこんな女のコなんだろうか、とという考えが一瞬アタマをよぎった。
「いや今は特にいないんですけどね、そうだったらイイな、っていうだけで」
「なーんだよー。じゃーイイじゃんとりあえずヤグチとのユニットでさ、こう、真夏でもぴったり、みたいな」
254 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時36分14秒
「うわー、マジ暑いですって矢口さん、ちょ、離れてくださいよー」
急に矢口さんが腕を組んできたからあたしは、あわてて離れようとした。
んー何かこないだからおかしいなーあたし、こういうのにいちいち反応しちゃうんだよな。
何で動揺すんの?しかも何暑いなんつってゴマかしてんだろ。
別に手をつないだってヘーキだった矢口さんなのにさ。

「冷たいなーよっすぃー、ヤグチもう泣いちゃうよ?」
そう言って泣きマネをする矢口さんの目は笑ってる。
なのにあたしは素になってフォローを入れたりなんかして。
「あわわわ、ウソですウソですそんなコトないです」
あはは、そんなコトってどんなコトだよ!っと笑ってツッこむ矢口さんは、学校でこんなコトやったらヤグチ、よっすぃーファンに殺されちゃうなあ、とよく言うそのセリフをまた言った。
255 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時38分28秒
でもあたしは一瞬、そんなのイイじゃん別に!と思ったからたまにやってるような冗談を言った。
「そんなの、関係ナイです矢口さん。あたしは矢口さんを好きだから」
矢口さんはあんぐり口を開けて呆れてるマネをしながら、あははと笑い出す。
「よっすぃーマジ紗耶香みたくなってきた?ダメだよー、つーかヤグチを惑わせてどうすんのさ」

「うわーあたしちょっと、自分で言ってて何かすんごくハズカシイです、あーもう熱いし暑いー!」
あたしは自分で言った冗談に自分が赤くなっていた・・・情けない。
つか、だから何で動揺すんの?あたし。
こんなの梨華ちゃんとか松浦とか相手にヘーキで言ってたりするのに。
「・・・矢口さん、あたしに何か呪いとかかけてます?」

「呪いって何だよよっすぃー!勝手に言って勝手に照れてるだけじゃん自分で!」
あー良かった、よっすぃーはやっぱ紗耶香みたくタラシにはなれないね!と矢口さんは笑いながら、まだ赤いよ?とウチワでパタパタあたしのカオをあおいでくれている。
あたしの前髪はそれに合わせてふわふわ揺れた。
256 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時41分26秒
「なれないね、ってあたし、ならないですよ!」
「わーかってるって、だいじょぶだいじょぶ。ね、それよりアイス食べようよ、よっすぃー」
いつの間にか駅の近くまで来ていたあたし達は、駅前の小さな商店の前で立ち止まった。
「電車じゃなくてバスなんだよココから。ぼけーっとバス停で待つのも何だからさ」
「あたしココからバスって乗ったコトなんてナイですよー初めてだなあ」

アイスを選びながらあたしは、そういやあたし達昼ゴハン食べてナイじゃん、と気づく。
「って言うか矢口さん・・・」
「あ、思った?ゴハンでしょ?ヤグチも今思った。んーっとコレから行くトコにあるからさ、そこで食べよう?」
ゴハンがある?でも外?どこなんだろう。
駅前を通るバスがどこに向かうのかすらも知らないあたしには、見当もつかない。
257 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時43分43秒
あたしはオレンジ、矢口さんはチョコミントのアイスを買って店の外に出た。
相変わらず太陽は情け容赦なく照りつけている。
いつも使ってる駅だけど、バス停のほうに歩いて行くのが新鮮な気分で何だか嬉しかった。
2人でバス停のベンチに並んで座ってアイスを食べる。

「んー、おいしいなーアイスー」
矢口さんはアイスをかじった切り口をじっと見ながら、やっぱコレだね、と言った。
あたしもひんやりと口中に広がるオレンジ味を堪能しながら目の前を行き交うクルマを眺めて、この道はどこに向かっているのだろう?と思っていた。
「あたし、何かワクワクしてきましたよ。ミステリーツアーみたいで」
「ははっそんな素敵なツアーでもナイけどね、ま、たまにはイイかなって場所だよ」

食べる?と矢口さんがアイスをあたしに向かって差し出す。
食べます、とあたしは端っこをかじって、口の中でゆっくり溶かして味わう。
そしてあたしも自分のアイスを矢口さんに差し出した。
久しぶりに食べたチョコミントのアイスは甘くて爽やかで、少し懐かしいような味がした。
今度アイス食べる時はチョコミントを選ぼう、とあたしは思った。
258 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年02月26日(水)20時47分39秒
あたしも矢口さんもアイスを食べ終わってまた暑くなり始めた頃に、遠くのほうにバスが見えた。
アスファルトから昇る熱気でゆらゆら滲んで、なかなか近づいて来ないように感じる。
このままココに座ってだらだらくだらないハナシを続けるのも悪くないかも、と一瞬思ったけれど、もちろんバスはあっという間にすぐそこまで来てしまっていた。

「やっぱ平日の昼だから空いてるね。座れるよ」
立ち上がった矢口さんが、まだ座ったままでいるあたしのほうを振り向いて笑う。
「熱気にやられちゃった?だいじょぶ?よっすぃー」
「あ、違うんですよボーっとしちゃってて」
あたしがあわてて立ち上がると矢口さんが、バスん中は涼しいよねきっと、と言った。

光を一瞬反射させながら、バスのドアが音をたてて開いた。
矢口さんに続いてあたしもバスに乗り込む。
そして2人でずんずん歩いてって、一番後ろの席を陣取る。
乗客はあたしと矢口さんと、出口のすぐそばに座る老夫婦だけだった。
259 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)00時29分23秒
( ´ Д `).。oO(ひとみALIVE

更新お疲れ様ッス。
こっちまで浮き足立ってくるぞ、よしこ。楽しそうやなぁ。
悔しいから、おいらもウチワ作る(w
次回、更新も楽しみにしておりますよ
260 名前:名無し読者199 投稿日:2003年02月27日(木)04時45分39秒
作品が合ってれば、風の128も自分です(もし違ってたらごめんなさい)
ただ、自分と全くと言っていい程同じモノを聞いてきてる…なんて思って
中学〜高校時代の良い思い出です
…あの頃は良かったなぁ…

この作品、非常に好きです
以後レス控えますが応援させていただきます
261 名前:SN 投稿日:2003年03月01日(土)22時45分08秒
面白くて楽しい作品ですね
一気に最初から読ませて頂きましたけどあっと言う間でした
262 名前:SSK8 投稿日:2003年03月05日(水)11時27分06秒
>259
きっとまだまだマターリですよー・・・このヒトたち。
あなたのノリが、ココの夏気分を盛り上げてくれてるような気がします(マジでマジで)。
(0^〜^)<さすがにこの設定でモーママはムリだYO!
>260
HNが紛らわしくてアレですよね。でも風も間違いなく自分です。
あなたがもしあの年齢ならば・・・あと3,4年たって当時の彼らの年齢に近づいてから聴くと・・
今まで以上にすんごい「わかりすぎて」感慨深いと思いますよ・・・(たぶん)。
>261
あなたのレスを読んで、自分も久しぶりに最初っから読み直してみました。
・・・あまりの青さにちょっと赤面しました。
今回ももちろん、よし子ともども青さ全開ですが、よろしくおつきあいを。

皆様、ホントにレスありがとございます。
風も読んでくださってる方・・・あっちの自分の最終レスをチラ見していただけたら嬉しいです(スレ違い?)。
263 名前: -じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時30分00秒
ゆっくりと走り出したバスに揺られながらあたしは、さっきまでの熱気から隔離されて汗がひくのを感じて、快適だな

あと思いながら外を流れる風景を眺めていた。

矢口さんもやっぱり同じように感じていたらしい。
「はーやっぱ涼しいね。そんで何故か適度に効いてないカンジがまたイイよね」
「あはは、たしかにちょうどイイカンジかもしんない」
バスの冷房は控えめに設定されているらしく、乗客がいない車内でも効き過ぎていないのが心地良い。

あ、と矢口さんは何かに気づいたようにあたしのカオを見た。
「よっすぃー今みたいにさ、ヤグチにもタメ語で話せばイイのに」
あたしはそういうつもりはまったくなかったから、少しびっくりした。
「や、違うんですよ今のは。あのーあたし、何かそういうの基本的にダメなんですよね、たぶん。体育会系のノリが抜けないんで」
264 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時33分04秒
「えーでも、イイじゃん別に、1コしか違わないんだしさ。たまにそういうタメ語ちっくなのが出てくるとヤグチ嬉すぃーんだけどなー・・・ダメ?」
ね?ね?と矢口さんはイジワルそうな微笑みであたしのカオを覗き込んだ。
「えーっと、じゃあ、ハイ、がんばってみます、ケド」
「はは、よっすぃーは真面目だもんねーやっぱり。まーごっつぁんも真面目だけどさ、最初っからタメ語だったよ?」

そりゃ、ごっちんはなあ・・・と思ってあたしは、フと思いつく。
「それって、いつのハナシなんですか?」
「ん?えーっと、小学生の頃のピアノ教室」
小学生って!そりゃタメ語だよー。

つか、知らなかった。
「えーとごっちんと矢口さんって・・・?」
「あれーごっつぁん何も言ってナイの?ウチら昔、同じ先生にピアノ習ってたんだよ。でもヤグチは途中でフルートをメインで習い始めたからそれっきりだったんだけど。んでこの学校にごっつぁん入ってきたからマジびっくりしてさー」
昔は真希ちゃんって呼んでたんだけどねえ、今は何かもう呼べないね、と矢口さんは続けた。
265 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時38分19秒
そうだったんだ。
じゃあ一応市井さんよりごっちんのが、矢口さんとのつき合いは長いんだ、ふーむ。
「ごっつぁんって昔っからさあ・・ぷっ」
矢口さんは言いかけた途中で吹き出した。

「あ、そっか。ちっちゃい頃のごっちんを知ってるんですよね矢口さんは」
「そーだよ、もう昔っからあんなでさーごっつぁん。超マイペースで、子供のクセにガンコで先生も手を焼いててさ。でもセンスはイイし上達も早いから、その頃から期待されてたんだけどねーすごく」
なのにこの学校であんなのに出逢っちゃったからねー、と矢口さんは、くくく、と笑って、罪作りなヤツだ、紗耶香は、と言った。

実はあたし、その辺のハナシの核心の部分はごっちんから直接きいたワケではナイ。
ごっちんも自分から色々言うタイプでもナイし、コレコレこうなってそうらしいよ、というウワサを耳にしたりするだけで。
そして誰かがごっちんにそのハナシを聞いてる現場に居合わせたりもする。
でもあたしはあの2人が、つき合ってるワケじゃナイけどお互いにこのヒトしかいない、と思ってるのは知ってるから、それだけでイイんだよね別に、と思う。
266 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時39分00秒
1年の頃からごっちんのトコロには、色んなヒトがやって来た。
市井さんを好きなヒトだったり、ごっちん目当てだったり、単なる好奇心旺盛なヒトだったり。
男女問わずウチのクラスにやって来ては、ごっちんに面と向かって質問を繰り出す。

「市井さんとつき合ってるってホント?(どーなのどーなの?)」
「や、つき合ってるワケじゃナイんだけど・・・(またそれか・・・)」
「だけど?(おっと?私(オレ)にもチャンスあり?)」
「あたしには、いちーちゃんしかいない(キッパリ)」
「(どかーん)・・・そ、そうなんだ」
ってなカンジの会話が何回繰り返されたコトか(ちなみにカッコ内のココロの声はあたしの勝手な予想)。

聞いてないフリしてしっかり聞いてるクラスのみんなは、その度にワザとどかーんとひっくり返ったりなんかして。
なんて、吉本新喜劇並みのベタなネタになるくらい、ごっちんは毎回その決めゼリフを言う。
だって市井さんもごっちんしかいないって思ってんだから、つき合ってるって言えばイイんじゃナイの?とは誰もが一度は考えるコトで。
267 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時42分14秒
でも違うんだよね、本人達にとっては。
ごっちんからすればもちろんネタでも何でもなく、そんなんじゃわかんないよーというみんなの声に、だってそうとしか言えないんだもん、と真顔で答える。
そういうあたし達だって、それがどういうコトなのかよくわかってナイんだけどね。

矢口さんなら、わかるのかな。
ワザワザ聞こうとは思わないけども。
「市井さんのトコにもいっぱいギャルとか来ました?最近は全然だけど去年はウチのクラス、市井ギャルとかひっきりナシでしたよ。根掘り葉掘りごっちんに」
「あはは、来てた来てた。その度に紗耶香はねーまたアレなんだよ。適当に流しつつ、しつこいコにはちゃんと言うんだよね。つき合ってるワケじゃナイけどあたしには・・・」
「「後藤しかいない」」
268 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時43分51秒
2人でハモって笑った。
「そゆトコがまた、市井ギャルのココロをくすぐるらしくってさ。それでもイイ!なんつってますますファンになっちゃったりして」
「やー、でもわかりますよ。もう市井さんが何やったって何言ったって、好き!ってカンジですもんね、みんな」
よっすぃーがよく言うよ、と矢口さんは笑って続けた。
「そうは言ってもごっつぁんがいるのにねー。つき合っててもつき合ってなくても」

「もーつき合ってるってコトにすればイイのにメンドくさいから、とかあたしなんか思ったりするんですけどね」
「はは、メンドくさいからってか、よっすぃーは。ま、でもしょうがナイんだよあの2人は。ってか紗耶香はね。まあ色々とさ」
正面を見ながら話す矢口さんは今微妙な表情をしている、と感じたあたしは黙って矢口さんのカオから窓の外に視線をそらす。
信号待ちの交差点から見える街並は、どこかで見たコトがあるような気がした。
269 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時45分57秒
「まっでもその辺はね、オトナの事情ってコトでさらりと流すカンジでホラ」
ね?とあたしのカオを見た矢口さんは、いつも通りの表情に戻っていた。
元からあたしはそれ以上矢口さんにツっこむつもりはなかったから、冗談で返す。
「さっきは1コしか違わないとか言っといて、こういう時だけオトナとか言うんだ?」
おっキタよっすぃー、タメ語タメ語!と矢口さんもあたしにノってくれる。

もっと言ってもっと言って、とワザとあたしの肩を掴んで揺らす矢口さんにあたしは、もームリっす今のはサービスですから!と笑って答えて、もう一度窓の外に目を向けた。
「あ、何かわかった気がしますよココ、昔あたし、よく来てた・・・」
「やっぱわかった?絶対みんな一度は来てるハズなんだよ」
270 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時47分03秒
バスがゆっくりと坂を登っていく。
「アレだ、あの公園だ・・・」
あたしは子供の頃に何度も来た公園の入口が懐かしくて思わずつぶやいた。
その公園はとにかくだだっ広い芝生とちょっとしたアスレチックみたいなのがあるだけなのだけれど、この辺では有名だ。
いや有名っていうかそれしかナイっていうかとにかくあたし達の住む街で、ちっちゃい頃に手軽に連れてってもらえる広い公園と言えばココ、というカンジ。

だだっ広いってのもハンパじゃナイ。
端っこから端っこなんてもちろん見えないし、園内を一周なんてどれくらい時間がかかるんだろうか。
「もーホント、久しぶりですよココ来るの!なつかしー!」
「ちょっとよっすぃーコーフンしすぎ」
笑う矢口さんより先にあたしは、バスから降りてあたりを見渡した。

公園のまわりには、っていうかそこには公園しかナイから、蝉の声以外は何もきこえない。
そして暑い。
「なんかさっきより暑くないかー?じりじりしてるよね」
矢口さんが歩き出しながらウチワで陽射しを遮って言う。
「中にたくさん日陰ありますよね?木だけはいっぱいあった気がする」
「あはは、あるある、腐るほどあるね、木は」
271 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時47分56秒
大きな門を通ると正面に噴水が見えた。
「あー!あったあった、あの噴水!変わってねー!」
花時計やら何やらを見つける度におお!とかああ!とか声をあげるあたしの腕を握って矢口さんは、売店のほうに引っぱっていく。
「あそこの売店で何か買って行こうよ、もーイイカゲンおなか空いたよヤグチ」

あたしは矢口さんに腕を掴まれたまま、黙って矢口さんの後ろ姿を見る。
小さい頃の記憶の中の風景に今、矢口さんがいるのが何だか不思議な気がした。
高校生になってイキナリ目の前に大きくなったごっちんが現れた矢口さんも、そんな気分だったりしたのかな。
そんなコトを考えてたら、小さい頃のごっちんと矢口さんが勝手に浮かんできて、思わずニヤケてしまった。
272 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時49分15秒
そう言えばあたしもおなか空いたなー、と思った途端に、ぐぅ、とあたしのおなかが鳴った。
しまった、とあたしは空いたほうの手で自分のおなかを押さえる。
「ははは、面白すぎるよよっすぃー、つーか一瞬ヤグチのおなかの虫かと思ったよ」
笑って振り向いた矢口さんはあたしの腕を離して急に、ハラへったっつーの、と叫んで売店に向かって駆け出した。
1人にしないでくださいよー、と言ってあたしは、矢口さんの後を追いかける。

矢口さんとあたしが急に走り出したから、その辺の地面をついばんでいたハト達が一斉にバタバタと飛び立った。
ひえー、こえーよハト!なんて口々に叫びながらあたし達は売店に駆け込んだ。
273 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時53分57秒
売店の中はコレでもかってくらいに冷房が効いていて、走ったあたし達の汗は一瞬で引っ込んでしまった。
「ちょっといくらなんでも寒すぎだね。あの熱気が恋しくなってくるよ」
「暑いか寒いかどっちかだけかよってカンジですねえ」
2人それぞれおにぎりやパンを選びながら薄暗い店内を隈なく見て回る。

何か面白いモノはナイかとこんなふうに店やコンビニなんかを隅々まで見てしまうのは女子高生に運命づけられた習性なんじゃナイか、と思ったあたしは、その習性に感謝した。
すごーくすごく懐かしいモノを見つけてあたしは思わず声をあげる。

何なに?と寄ってきた矢口さんにあたしはそれを見せた。
「あたし、コレ買ってもイイですか?」
矢口さんに許可をもらう理由なんてナイけれどあたしは一応きいてみる。
「あはは、買いなよ買いなよ。せっかくだから出来る時にやっときな?」
矢口さんは、よっすぃーぽいねーそれ、と微笑むと、んじゃ早く買おーよ、とレジに向かった。
274 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時54分29秒
あたしはおにぎりとジュースも一緒に入った袋を手に提げて、ワクワクしながら外に出た。
「よっすぃー急に歩くの早くなってんだけどーきゃはは」
「やーもう早くやりたくて。あっちの一番奥のほうまで行きません?あたしいっつもあの辺で遊ぶの好きだったんですよ」
「あー、あの辺まで行くとヒトも少なくて広々使えるもんね」

はるか彼方に見える東屋の周りには、ほとんどヒトがいなかった。
目の前には芝生が一面に広がっている。
真っ青な空と鮮やかな緑があたし達の視界のほとんどを占めるのがまぶしくて、あたしは目を細めて遠くを眺めた。

矢口さんはまたウチワで光を遮って目を細めて、あたしと同じように東屋のほうを見ている。
「あそこまでどれくらいかかるかな」
「もしかして矢口さん、この辺のが良かったりします?」
あたしが少し心配になって言うと矢口さんは、全然、ヤグチもあっちのがイイよ?と笑った。
275 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)11時55分13秒
最初は2人でさくさくと芝生を踏みしめながら歩いていたけれど、途中であたしは早く目的の場所につきたくて走り出してしまった。
「わんこかよー!よっすぃー!」
後ろから矢口さんの笑った声がきこえる。
あたしは走りながら振り向いて、手を挙げて大声で叫んだ。
「あたし、先行って場所取ってますから!」
「あはは!ウチら以外誰も取らないだろ!」

矢口さんのツっこみを背中でききながらあたしは、小さい頃ってこんなふうにバカみたいに走りまくったりしてたよなあ、と思った。
そんで突然コケたりして。
でももう17才だから転んだりなんかしないんだもーん、と思ったあたしを待っていたのは、緑に埋もれて気づかないくらいの小さな小さな地面のコブだった。

「ってぇー!」
かろうじて手をついてみじめな転び方にはならなかったけど、イキオイ余ったあたしはそのまま地面に寝転がった。
矢口さんが爆笑してる声が遠くからきこえる。
「ちょっとよっすぃー、走りすぎだっつーの!パンツ見えちゃうよ?ははははは!」
276 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)12時02分05秒
カッコわりー、と思いながらあたしはカバンと売店の袋をその辺に投げて、そのまま大の字に寝転がる。
どーせ誰もいないんだからパンツなんか見えてもイイよ。
ホントは良くないけど。

ぎらぎら照りつける太陽を手で遮ると、あたしの視界には青い空しかなかった。
さっと風が吹いて芝生があたしの耳元をくすぐる。
大きく息を吸い込むと、熱気を含んだ草の湿った匂いが胸いっぱいに広がった。
こんなふうに空を見上げるなんていつぶりかなあ、そう思っていたらまだ笑い続けてる矢口さんが近づいて来るのがわかってあたしはアタマだけ起こして矢口さんを見た。

「笑いすぎですよ矢口さん!」
「だーってさ、すごかったよ今の?決定的瞬間ってカンジだもん」
アレはねちょっとリプレイしたいくらいに見事だったね、と矢口さんはあたしの隣に腰をおろして、だいじょぶだった?手とかヒザとか、と言ってあたしに飲みかけのウーロン茶を差し出した。
277 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)12時02分43秒
「まあ元バレー部ってカンジなんで全然ヘーキでした」
「あはは、イミわかんない!よっすぃー」
矢口さんはそばに転がってたあたしのおにぎりを手に取って、あいよ、と手渡してくれた。
お礼を言ってあたしは矢口さんにペットボトルを返しながらおにぎりを受け取った。

自分のお茶を開けてごくごくと飲むあたしを見て矢口さんは、すげー汗だよよっすぃー、と笑った。
「ホンット、やばいですよねあたしのこの汗。真夏に自分で走っといてアレなんですけど」
「ホントだよ。こんな女子高生見たコトないよ」
くくく、と笑って矢口さんは一口、ウーロン茶を飲んだ。

「コレ食べたらそこの水道でカオでも洗う?ヤグチ、洗顔持ってるから」
「はー、ありがとうございます。早くスッキリしてぇー」
走って転んでハイになってるあたしはおにぎりを食べながら叫んだ。
矢口さんはそんなあたしを見てまた、あはは、と笑った。
278 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)12時03分22秒
「よっすぃーってそんなキャラだったっけ?」
「あたしはこんなんですよ?あのー普段はですね、ひとみ部やら何やらが情報操作をしてまして・・・」
「ははは、情報操作されてるんだ?」
もぐもぐ、と無言でうなずきながらあたしは、『愛』ウチワで矢口さんにパタパタあおがれていた。

んー、何だかよくわからないけどミョーに楽しい。
矢口さんもニコニコとパンを食べたり、ウチワであおいでくれたり。
何となく幸せ。
めちゃくちゃ暑いけど。
279 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月05日(水)12時04分11秒
腹ごしらえをして落ち着いたあたしは洗顔料を借りてカオを洗って来ると、矢口さんが移動していた木陰に向かった。
矢口さんはさっきのあたしみたいに仰向けに寝転がっていた。
「あーよっすぃー、キモチイイねーコレ」
カバンを枕にしていた矢口さんはあたしに気づくと片目を薄く開けてそう言った。

「何か敷かないと制服汚れちゃいますかねえ、もしかして」
あたしは矢口さんの横に腰を下ろして、同じようにカバンを枕にしてごろんと横になる。
「んー?だいじょぶじゃん?制服だし」
「それもイミわかんないです矢口さん」
「キモチイイから何でもイイよー、もう」
あたし達はそのまましばらく芝生に並んで寝転がったまま、葉っぱを揺らす風の音や、蝉の声を黙ってきいていた。
280 名前:SN 投稿日:2003年03月05日(水)12時28分06秒
日陰の芝生で寝転がるってのはすごーく気持ちいいんですよね
そういや子供の頃よく遊んだあの公園・・・ 今はどうなってるんだろう?
281 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)17時49分14秒
(0^〜^)<ゥ〜、ワンワン!!

更新お疲れさまッス。
大型野外ライブ(否娘。)とかの日程が続々発表されてきて、
今回のような情景が待ち遠しい今日この頃。
うたばんでのレシーブを筆頭に、自分は動き回るよっすぃが大好きなんすよ
次回も楽しみにお待ちしとります
282 名前:SSKB 投稿日:2003年03月12日(水)12時25分33秒
>280
こないだ、よっし公園行くかー!と思ったら寒くて挫折しました。
>281
もーカブりすぎ(w
実はドッジよし子が自分のココロのベストテン第一位なんですよ(何の?)。

いつもレスありがとございます。
諸事情により、ちょっとだけ更新ペースが乱れるかもしれないです。
何も起こらないまま300近くまで来てますが、マターリおつきあいください。
283 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時27分53秒
「ああっ!」
あたしがイキナリがばっと起き上がると矢口さんが、んー?とのんびりした声で答える。
「忘れてましたよ、コレコレ」
さっきの売店の袋をがさがさと漁るあたし。
ゴハン食べてカオも洗ってスッキリしたらすっかり忘れてた。

袋から出してちょっとの間眺めた後、説明書も見ないで鼻歌混じりに組み立てる。
元は子供向けだから、テキトーにやってもだいじょぶそうなトコロがまたイイんだよな。
きっとニヤニヤしてるであろうあたしを、矢口さんが薄目で見ながら言う。
「よっすぃーってガキ大将だった?」
「いやいや、1人遊びの好きなコでしたよ、たぶん」
はは、それもまあわかるね、と矢口さんは言って、それにしても似合うねよっすぃー、と感心したように笑って少しカラダを起こした。

「出来た!へへ、かっけー・・・」
あたしは完成したそれを両手で持って、空に掲げて見た。
今はまだあたしの手の中で空に浮かぶ、グライダー。
あたしがこの公園に来るたびに、何種類かある色とカタチの中から選んで1つ買ってもらってたオモチャは、今も変わらずまだ売られていた。
284 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時28分51秒
小さい頃からあたしはあんまり、アレが欲しいとかコレが欲しいとか言わないコだった。
だからたまに来るこの公園のグライダーだけは買ってもらえていたのだろう。
なんつったって、めちゃめちゃ安いもんね、コレ。
さっき自分で買って知ったけど。

厚さ5mmくらいの平面の型からパコパコと抜いて、穴に差し込んでちょいちょいと仕掛けして、みたいな超チープな作り。
でもコレがよく飛ぶんだよね。
初めて作って飛ばした時からあたしはコレに夢中になっていた。

よし、と立ち上がってあたしはグライダーを右手に持って構えた。
何かドキドキするな。
風の方向を見る。
「えいっ」
グライダーがあたしの右手から放たれた。
285 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時29分33秒
風に乗ってグライダーは大きく旋回する。
「うわー、すっごいねーよっすぃー号」
矢口さんの声が後ろからきこえる。
予想したよりも遥かによく飛ぶグライダーに、あたしはコトバもなく見とれていた。
風があるから飛んでいるのだとはわかっているけれども、あたしは何故か一瞬、風が止んだような気がした。

青い空によく映える白い機体は、静かにゆっくりと着陸しようとしていた。
あたしは少し走っていって、タイミングよくその下で受け止める。
「すごいすごーい、バッチリだねよっすぃー」
矢口さんがパチパチと手を叩いてあたしにそう言う。

あたしはグライダーを右手に掲げて得意気に胸を張った。
「よっすぃー号は宇宙一です」
「宇宙かよーでっかいねまたそりゃ」
矢口さんが笑ってまた寝転がった木陰に戻る前にあたしはまたグライダーを空に放った。
286 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時30分21秒
さっきより風の流れが早いのだろうか、グライダーは急にスピードをあげるとひゅいっと曲がってまた少し離れたトコロに落ちてしまった。
んー、悔しい・・・宇宙一だろ?よっすぃー号?
あたしは何度も何度もグライダーを空に放つ。
そのたびにうまく風に乗ったりすぐに落ちてしまったり。
たぶん、コレだからヤメられないんだな。

飽きずに何度も投げたり走ったりを繰り返すあたしを、矢口さんは笑って眺めていた。
おお!今度のもすごいね、とか、今の惜しかったねえ、とかたまに声をかけてくれる。
あたし、ちょっと子供に戻りすぎ?
いや、だいぶ戻りすぎだな。

最後に一度、うまく飛んだのに満足したあたしは走って木陰に戻った。
「おーおかえりよっすぃー」
「ただいま・・・です」
矢口さんは、ちっ、と笑って、何なんだーそのビミョーな丁寧語は、と言った。
「つーかあたし、また汗だらだらですよね」
「ホントだよ!もう。はいお茶」
手渡されたお茶をあたしはごくごく飲んだ。
287 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時32分07秒
「はーおいしー。今日帰ったらすぐ爆睡できそうだなあ」
「コレでもウチら、試験明けだよ?元気すぎだよよっすぃー」
「あ、ですよね。まーでもあたし終わったコトはとっとと忘れたいタイプなんで」
それとコレとは別じゃんかー、まーヤグチも忘れたいけどさ、とつぶやいてあたしの手から受け取ったペットボトルを一口飲んだ。

そう言えば矢口さん、ホントはココで何かやりたかったのかな。
あたしが1人で遊んじゃったけど。
あたしがそう言うと矢口さんは、まーそんなコトもナイんだけどね、と言った
「何となくこーいうトコ来たかったんだよ、思いつきでさ。約束して準備して、とかじゃなくってこんなふうにだらだらすんの、良くない?」
「あーわかる気がします。うん。目的もなくってカンジがイイですよね」

うんうん、と矢口さんはうなずくと、ヤグチは今日満喫したよーホントこの公園を、とまた寝転がってそう言った。
あたしも、と思った。
あたしもホントに満喫したなあ。
久しぶりにこんなふうに誰かと過ごしてのんびりした、と思った。
ま、のんびりってかあたしは走り回ってたんだけども。
288 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時32分46秒
「じゃあ矢口さん」
「ん?」
「また、来ましょうよココ」
あたしは少し勇気を出して言った。
思いつきで来たのが楽しいという矢口さんにあえて、約束するみたいになるから。

「うん、また来ようねよっすぃー。今度はさーもちょっと涼しくなってからだね。よっすぃーが暴れまくっても汗だくにならない季節に」
「わ、嬉しいけどちょっとヒドイっすよ矢口さん!」
「だってしょうがナイよーホントのコトじゃんかー」

矢口さんが即答してくれたのがあたしは嬉しかった。
「今度は暴れませんよ、あたし」
「ホントかよー。よっすぃー2号と戯れて走り回る、に5000点賭けるよ?ヤグチ。つーか別に暴れたってイイんだけどさ」
「じゃ、暴れます」
どっちだよ!とツっこんで矢口さんは、もうちょっとココにいよう?と目を閉じたからあたしもまたその横で、自分のカバンを枕にして寝転がる。

あたしはしばらく黙って空を見上げていたけれど、草むらの中のよっすぃー号を同じ高さの目線から見たい、と思ってカバンからアタマを外して芝生に直接顎をつけて、顔を埋めた。
289 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時33分43秒
唇に触れる芝生の感触が新鮮だと思いながら土と草の匂いを確かめて、よっすぃー号の勇姿をじっくり眺める。
平面と平面で構成されたただのオモチャのヒコーキだけど、緑の中に白い機体を静かに横たえて翼を休める姿がやけに誇らしげに見えた。
その向こうに矢口さんの横顔があった。

「あたし、今日すごく楽しかったです」
「何かさー今日ヤグチ、よっすぃーのイイトコロ見ちゃった、って気分だよ。こんなよっすぃー学校じゃ見れなさそうだもん。ムリヤリつき合ってもらったけどよっすぃーが楽しかったんなら、良かった」
矢口さんはあたしのほうにカオだけ向けると、ありがとよっすぃー、と笑った。

あたしは子供っぽい自分を見られたのがハズカシかったけれど、本当に楽しかったからイイのだ、と思った。
「こちらこそ誘ってもらってホントに良かったです。そう言えばあたし、矢口さんとどっか遊びに行きたいな、ってこないだ思ったんですよ」

「だったら言ってよー、んもー。いつでも遊ぼうよ」
矢口さんが手を伸ばしてあたしの腕を軽くゆすって言った。
「はは、んじゃ今度も絶対、またバスで」
「またバスでね」
290 名前:-じゃっ夏なんで- 投稿日:2003年03月12日(水)12時35分28秒
あたし達はそれからしばらくくだらないハナシをだらだらと続けて、日が傾きかけた頃にやっと起き上がって公園をあとにした。

その夜のあたしは、テスト期間の一夜漬け続きの効果もあったから本当によく眠った。
一緒に大空を駆け回ったよっすぃー号も、あたしの机の上で静かに眠っていた。
291 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月12日(水)22時52分51秒
更新お疲れさまッス
夏の野外とかで、よっす、マジで飛行機飛ばしてそう
最近、あーいうの売ってないっすよね。懐かしいな
次回更新、マターリ待ってます
292 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月28日(金)16時50分40秒
更新楽しみに待ってます!!
293 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)21時49分48秒
ほぜん
294 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)13時44分22秒
待ってます…。
295 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月20日(日)14時23分30秒
ほぜん
296 名前:タケ 投稿日:2003年05月03日(土)17時00分57秒
ほぜん
297 名前:SSKB 投稿日:2003年05月10日(土)00時07分38秒
レス&保全&読んで下さった皆様。
本当にありがとございました。
ちょっとだけ、なんて言いつつ、相当更新ペースが乱れてしまいました。
以前のように週イチ更新はムズカシイと思いますが、ぼちぼちやってくつもりです。
コレからもよろしくおつきあいを。
298 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時09分50秒
期末テストが終わったあたし達を待ってるのは、夏休みだけ。
なのに気分は、わーい、なんて浮かれてばかりでもいられない。
夏休みに学校での補習はナイのは、その気がある生徒は予備校の講習に通うからだ、と担任が言っていた。
あたしは一応大学に行くつもりではあるけれども正直、2年のうちから講習なんかを受ける気はなかった。

なのに、英語コースで外語大を狙う梨華ちゃんが講習に申し込んだと誰かに言ってるのを聞いてほんのちょっとアセったあたし。
あたし、勉強なんてほっとけばやらないタイプだからなー。
学校で補習でもあれば強制的に勉強出来るけれども。
うーむ、なんてあたしらしくもなくヒトの行動が気になって仕方なくなってきたりして。

午前中の授業の合間にごっちんにそのハナシをしたら、せっぱつまってからやればイイんじゃん?いつ始めたってたぶんそんなに変わんないよ、なんてごっちんらしい答えが返ってきた。
そりゃごっちんはなあ・・。
あたしがそれでも、ふーむとか何とか唸っていたらごっちんは少し考えてから言った。
「じゃーよし子さ、あたしの部活の後にでも一緒に勉強しようよ、図書館とかマックとか行ってさ」
「・・え、マジで?」
299 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時10分23秒
勉強したいのかしたくないのかどっちなんだよそのカオはー!とごっちんは笑ってあたしの頬っぺたをむにゅっと掴む。
「いででっイタイってばごっちん、したいですしたいです、勉強したいっす」
「それでよろしい、キマリだね」
ごっちんはあたしの頬っぺたから手を離して腕組みをすると、んふふ、と笑った。

「あ、でも市井さんとかイイの?部活以外で逢ったりするでしょ?」
「あー市井ちゃんはねえ・・」
嬉しそうなカオでごっちんは続ける。
「あのヒト、県の強化選手の補欠みたいなのに選ばれてさ、何か合宿とかあるんだよねー合同で。ずっとじゃナイけどまあそんなカンジで夏休みは過ごすと思うよ市井ちゃんは」
かっけー、すごいんだな市井さんって。

「じゃあ市井さんは水泳で大学行くんだ?」
「そだねーたぶん。あたしは全然、そういうつもりじゃナイからね。その時行きたい大学に行くよ」
まー勉強して受かったらのハナシだけどさ、水泳強くなって結局それで行けるのかもしれないし、わかんないけどね。とごっちんはあんまりキョーミなさそうに言った。
300 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時11分09秒
ああ、もうやっぱごっちんだな。
ごっちん節を聞くとあたしはホント、考えすぎの自分のモヤモヤがすっきりするのがわかるよ毎回。
よし、じゃあ今年のあたしの夏休みの目標。
よく遊び、よく学べ。
コレだね。

あたしが1人でうんうんうなずいてるとごっちんが、あ、と言って立ち上がった。
「どしたのごっちん?」
「忘れてた、あたし」
ごっちんは教室の後ろの自分の棚に走って行ってスーパーの袋を取り出した。
何それ?何が入ってんだろ、やけに大きくて重そうな。
じゃじゃーん、とごっちんが袋から取り出したそれは。

す、スイカ。
ウソだろ!?
さすがに半分に切ったヤツだけど、でもデカイよそれ?持って来たの?
301 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時12分01秒
クラスのみんなから歓声があがる。
「やったーマジで持って来てくれたのごっちん!」
「すっげーみんなで食えるよそれ」
「冷やして昼休みには食えるようにしとこうよーよっすぃー、そのバケツ取ってー」」
「スイカ割りやろースイカ割り」

もう割れてるから!
つーかバケツなんて掃除用のしかナイじゃんかー。
「どうする?コレちょー汚いんだけど」
「ふふふ、そう思ってですねえ、巨大ジップロックに入れて来たんですよコレは」
そう言ってごっちんはあたしの手から掃除用バケツを受け取って頭上に掲げると、みんなに言った。

「ジップロック入りスイカをこのバケツで冷やしてもイイと思うヒトー?」
はーい、はいはい、イイと思いまーす、全然OKでーす、むしろそのバケツじゃなきゃイヤでーす、なんてみんな口々に叫びながら一斉に手を挙げる。
当然あたしも手を挙げていた。
「じゃ、決定ね、あたし水汲んでくるわ」
あーオレ行く行く保健室から氷かっぱらってくるよ、と近くの男子がごっちんの手からバケツを奪い取ってダッシュして出て行った。
302 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時12分33秒
じゃーもうあたしの午前中の仕事は終わり!とごっちんは自分の席に戻ると、おやすみーとつぶやいて机に突っ伏した。
ホントにごっちん、夏休みにあたしと勉強してくれんのかなー・・。
氷の入ったバケツを持って戻って来た彼を囲んであたし達はまた大騒ぎだった。
スイカを入れて水を入れてキラキラと光を反射しているいつもの汚いバケツは、一躍みんなの脚光を浴びている。

昼休みまで待てない辻は、休み時間になるたびに教室の後ろのバケツを覗き込んでは指でスイカをつつく。
「ああっ水がぬるくなってるよー」
「んじゃー氷はナイけど新鮮な水に換えるか」
そのたびに男子が水を汲みに、スイカごとバケツを持って出て行った。
みんながスイカを美味しく食べる為に協力する姿は美しいなー。
あたしは何もしてないんだけどさ。
303 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時13分11秒
昼休み、新聞紙にくるまれた包丁を取り出したごっちんは、スイカを器用に人数分に切り分けた。
さすがにクラス全員分だからそれなりの小ささだけれどみんなニコニコしながら、美味しいね、なんてスイカを味わう。
「あっと言う間だねえ」
手を洗って戻って来たごっちんもそう言いながら自分の分のスイカを美味しそうに食べた。

今年初のスイカだったあたしは、そうだスイカってこんなに美味しかったんだよね、と実感してもっと食べたいなーと切実に思った。
ごっちんにそう言うとごっちんは、また気が向いたら持って来るよ、と力こぶを作って、今度は丸ごとね丸ごと、と笑って言う。
スイカ丸ごと持って登校する女子高生って・・。
切実に思ってたのはあたしだけじゃなかったようで次の日のクラスの話題は、家に帰って今日はスイカを食べようと力説したりガマン出来ずに帰りにスイカを買って帰ったという、スイカネタで持ちきりだった。
304 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時13分56秒
夏休み前の最後の1週間で、体育祭の全体練習が始まった。
ぎらぎらと照りつける太陽の下で、全校生徒600人が跳んだり跳ねたり走ったり歩いたり。
そんなん一日に何回も出来るか!
全体練習なんて、夏休みをはさんだら忘れるっつーの!

炎天下の全体練習なんて、ホントに死にそうなくらい暑くて、ゆるいだけ。
だらーりだらーり、行進する足並も揃うワケなんてなく。
行進の練習の楽しみと言ったら、吹奏楽部の朝練の完成形を聴けるのと、放送係になった梨華ちゃんのアニメ声に、みんなで笑いをこらえるコトくらいだ。
って、こんだけ楽しみがあれば上等なんだろうか?

なんて何だかんだ言いつつもフツーの授業のつぶれるのはやっぱり嬉しい。
ごっちんなんてああ見えて全生徒参加のイベントが結構好きで、毎月体育祭やってもイイよ、とまで言ってる人間だ。
ま、体育系ツヨイし、全体練習の合間に市井さんとだらだら出来るもんね。
305 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時14分31秒
あたしはなー・・別に、そんなんナイしな。
体育は好きだけど、炎天下で立ちっぱなしとか何度も同じトコ歩いたりなんてしてたくナイし。
いつもの授業時間に一緒に過ごせないヒトなんて・・・矢口さんとか?
でもやっぱ違うな、熱烈に好き、恋に落ちたってワケでもなくて。
気になるけれども、単にオモロイし優しいしかわいくて好きってカンジな気がするだけかなあ。

逆にあたしにアプローチしてくるコはいたりなんかして、それはそれでもちろんすごくハズカシイし、ココでどうしろと?ってな気分になったりもする。
知ってるヒトや知らないヒトの波をかき分けてこっちに近づいてくる・・あっ!松浦!
「せーんぱい!」
うわー気づくの遅かったよあたし!

目が合ったあたしににっこり笑いかけてダッシュして来る松浦。
「ちょっ松浦ーこんなトコですんなよ!?」
抱きついてくる松浦を必死でひっぺがそうとしてもがくあたし。
「するって何をですかぁー先輩。こんなトコじゃなかったらしてもイイってコトですか?」
「違うよバカ!もーホラ、1年生はあっちに集合ってガッツが言ってんじゃん。早く行きなってば」
306 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時15分11秒
ちぇー、と口を尖らせながらあたしから離れた松浦は、じゃーまたね先輩、今度ゆっくり、と笑って小さく手を振って向こうに走って行ってしまった。
あー良かった、何もされないで、と1人ほっとしたあたしが振り向くと、そこにはニヤニヤ笑いのクラスメイト達が立っていた。
「げっ」

「よーっすぃー相変わらずですなー、目の前で見せてくれるなんて部員思いなんだからーホント」
「何だよあたしは知らないっつーの、黙って見てないで助けてよー」
情けない声になるあたしを見てさらに笑うひとみ部員。
部長をからかって遊んでるだけの部員なんてアリかよ!?
ってかあたしすっかり部長気分かよ!

午後に入って、あたし達2年生には待機する時間ができた。
梨華ちゃんは放送係の打ち合わせがあると言って、どこかに行ってしまった。
ごっちんはいつの間にか姿を消していて、まあいつものコトだから気にしないんだけどあたしはごっちんに用があるんだよね。
307 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月10日(土)00時15分41秒
「ごっちんなら、市井さんに連れられて体育館に入ってったよ?」
すれ違った友達にごっちんの行方をきいてみるとそんな答え。
市井さん・・・今は3年生の練習やってんですよ?
ホント相変わらず・・っていうか何もやってない体育館で、何やってんスか。
んー、ジャマするのもなんだけど、さっきごっちんに貸したまんまのタオルを今、猛烈に使いたいのだあたしは。

体育館に入ると、ひんやりしててキモチ良かった。
が、もちろんフツーにその辺に2人が座ってたりするワケではなく。
ってコトは、あそこかな?
倉庫2には、体操部が使うデカくて厚いマットがあって、ほとんどそれで床は占められている。
寝っ転がってナゴむには最適な場所だというコトは、あたしもよーく知っている。
とは言えまさか、あんなコトやこんなコトはやってナイでしょう・・・。

ガラリと倉庫2の扉を開けると目に飛び込んできたのは・・・
もの凄いイキオイで矢口さんのアタマに何かを振り下ろすごっちんと、無言でそれを手で振り払う矢口さんの姿だった。

うわっ!ちょ、ちょっと、何?
308 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)12時18分40秒
待ってました!
後藤と矢口は一体何を!?
309 名前:名無し読者199酩酊中 投稿日:2003年05月13日(火)03時37分40秒
だっれっかーにとーってとくべーつだぁったきーみをー
マーク外す飛び込みで僕はサッと奪い去る〜!



そんなのもアリかな…なんてね。酔いに任せて。
310 名前:SSKB 投稿日:2003年05月14日(水)14時42分34秒
クールそうな名無し読者199氏が酔っ払ってんのがオモロかったので更新。
>>308
お待たせしました。
こういう寸止め系の更新を始めてやってみたんですけども・・微妙でした。ムムム。
>>309
ECDキターー、っていうかあの、マジでちょっと笑っちまったYO!スイマセン
また酩酊時にでも衝動にまかせて何か言って下さい是非。
311 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時43分29秒
「ご、ごっちん!??」
「もーやぐっつぁん!ズルイって〜手はダメだから、手は!」
「イイんだよ〜!防げれば何でもイイの〜キャハハ」
「ちょ、2人とも、何やって・・んスか?」

そこで二人は初めてあたしに気付いて、くるりと同時にこちらを向いた。
「「え、ゲーム」」
2人笑ってハモってるけど、何だか目はマジで、肩で息をして・・ホント、何やってんの?
その奥のほうで、市井さんがニヤニヤしながら寝転がっている。
「吉澤もやる?じゃんけんで叩いたり防いだりするヤツ」

はぁー、それですか・・なるほど。
ってか、市井さんはやってないじゃん。
ごっちんが手にしてるのは細長く丸めた新聞で、2人の間に置いてあるのは雑誌『月刊バスケットボールマガジン』・・この大きさでごっちんのバカ力を防げんのか?
何だっけ、名前。このゲーム、ナントカって名前なかった?
「いや・・やんないです・・・・」
あたしはがっくりと気が抜けて、のろのろと市井さんの方に回り込んで隣に腰を下ろした。
312 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時44分00秒
「市井さんはやんないんですか?」
「あたしがやるとさー、後藤がズルだ何だってうるさいんだよ、ホントに」
とか何とか言ってるうちに、2人はゲームを再開していた。
ゲームってか、単なる叩き合いじゃん!

・・・でもなく、何なんだ、この2人は。
スゴイ、ものスゴイ早さでじゃんけんと叩いて防いでを繰り返してる。
ごっちんはともかく、矢口さんもスゴイ。
あたしの矢口さん像ががらがらと崩れてく・・いや、崩れてくワケじゃナイんだけど。

「最初はグー、じゃんけんぽん!」
パシィ!
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
バシッッ!
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
ビシッ!
 ・
 ・
 ・
っていつまで続くのか分からないけど、ぱしっとかびしっとかってのは全部、新聞刀が雑誌にヒットしてる音。
つまり、どっちが勝っても負けても、どっちのアタマにもヒットしてない。
全部『月刊バスケットボールマガジン』で防ぎきってる!
313 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時45分19秒
コレって実は、スゴくないですか?
2人ともすんごい反射神経なんだなー。
ごっちんの普段とこういう時のギャップなんて今までイヤっちゅーほど見てるから知ってるけどさ。
ごっちん相手に互角に渡り合える矢口さんって実はスゴイかも。
バリバリ文系ってカンジでもナイのが意外であたしは、2人の様子をじーっと見つめてしまった。

・・・いやそれにしてもあたし、やんないで良かった。
絶対ごっちんに渾身のバカ力でアタマぶっ叩かれてるなーこりゃ。
矢口さんなら、手加減して叩いてくれたりするかな。
314 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時45分49秒
バシィッ!!
「ごっっつぁん!たまには叩かれろっつーの!!」
「やだよー」

・・・いや、んなコトはなさそうだな。
市井さんはその辺に転がってたボールを弄びながら、こんな2人を見てゲラゲラ笑ったりしている。
あたしはフと思い立って、市井さんにこっそり囁いてみた。
「コレってー、なんか2人で市井さんを奪い合ってケンカしてるみたいじゃナイですか?」
もちろん冗談のつもりだったけど、久々に見たごっちんのマジな目が、そんなコトがあるんじゃナイかとあたしに余計な想像を・・・いや、冗談なんだけどさ。

市井さんはニヤリと笑ってあたしに耳を貸せと手招きする。
素直に市井さんのカオに耳を寄せたあたしがバカだった。
315 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時46分24秒
「ふっっっ!」
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁ!☆※@#●!?な?な?な!」

市井さんに優しく息を吹き掛けられたあたしの耳は、きっと真っ赤になっているだろう。
もうパニック状態。こここ腰にキた。
あたしの弱点は耳だって、もーバレバレじゃナイか。
あたしのファーストキスを奪ったあの中澤先生に発見された弱点は、高校に入ってからはバレないように必死で隠してきたのに。

「な、な、何するんですかー!・・腰が・・腰が・・・」
耳も腰も押さえたいあたしは、ふらふらになってそのまま壁にアタマをぶつけてしまった。

ハッとなって2人を見ると、ごっちんの新聞刀が矢口さんのアタマにヒットした状態のまま、揃ってあんぐり口を開けてあたしのほうを見ていた。
316 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時47分03秒
「あはははははは!何だよ吉澤オマエ!弱すぎ!情けなさすぎ!はははは!」
爆笑している市井さんの声で二人もゲラゲラ笑い出した。
「よし子ー面白すぎるよー」
ごっちんは新聞刀をばしばしマットに叩きつけながらものすごく喜んでいる。
何だよー・・あたし、ホントに情けねぇ・・・・。

ごっちんはともかく、矢口さんに見られたのはハズカシイなーちょっと。
と、矢口さんが笑いながらあたしに言う。
「よっすぃー、耳が弱点なの?ヤグチが何とかしてあげるよ」
へっ?何とかって?
っと、うわっ、ちょ、来ないで!

矢口さんはマットの上を四つん這いになってあたしに近づいて来ていた。
その目線は・・あたしの耳!
まさにハンターの目になってる矢口さん。

あたしはココロとは裏腹に、固まったまま動けないでいた。
あぁ・・ライオンに狙われた獲物って、こんなカンジなのかなあ・・・
気が遠くなりそうになってるあたしの目の前に、いつの間にか矢口さんの顔があった。
そしてあたしの肩を掴み、ゆっくりと口を開きながら・・あたしの耳めがけて・・・
317 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時47分38秒
「・・・うぅわあああぁぁぁぁあぁ!!!あーーーーーーーーーー!!!」
あたしは絶叫して、両手で耳を押さえてぱったりと倒れ込んでしまった。
またしても3人の爆笑。
「なんだよー。ヤグチまだ何にもしてないじゃんか!」
「チューされる前に腰抜けたの?ホンっトヘタレだなー吉澤!」
「よし子、かわうぃ〜〜!」

あたしはと言えば、かたく目をつぶってマットに倒れ込んだまま身動きできないでいた。
心臓はバクバク、全身真っ赤なんじゃナイかって分かるくらいカラダが熱い。
自分の耳をぎゅっと押さえる手がかすかに震えてきた。
何だ・・今の・・あたし・・・。

アタマの中でさっきの光景が勝手にリプレイされてる。
矢口さんの唇が何度もあたしのカオに近づいてきてはその度に甦る、心臓をわし掴みにされるような感覚。
あたしはあわててアタマを振ってその光景が浮かばないようにしたけれど。

何度も近づいてくる矢口さんのカオは、とんでもなくエロくってとんでもなくカワイイ。あたしのアタマの中は真っ白になり。
目を閉じてるからいけないんだ、きっと。
そう思ってゆっくりと目を開くと本物の矢口さんがあたしの目の前で笑ってた。
318 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時49分40秒
その時のあたしにはそれが何なのか全然わかっていなかった。
ただ自分の動揺と恥ずかしさにいっぱいいっぱいで、早くそれが収まってほしいとひたすら考えるだけで。
あたしは数日たってやっとそのコトに気づいて、ガク然とした。


・・つまりあたしはこの時。
思いっきり恋に落ちていた。
319 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時51分17秒

・・・・・・・・
320 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年05月14日(水)14時51分57秒

・・・・・・・・
321 名前:. 投稿日:2003年05月14日(水)14時56分18秒
( ´ Д `)<・・・・・・・・
322 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月14日(水)21時21分58秒
キタ━━━━━━━━(〜^◇^)━━━━━━━━ !!!!
323 名前:タケ 投稿日:2003年05月15日(木)10時29分41秒
やった!やぐよし小説発見!
324 名前:タケ 投稿日:2003年05月16日(金)16時44分48秒
何を血迷ったのか上の文、「発見」と書いてしまいました。

何回も見てるのに・・・作者さんスミマセンでした。
325 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月29日(木)20時46分02秒
はじめまして〜。
一気に読ませていただきました。
空気感がすげーいいっすね。
「もこみち」って名前がすごい頭にひっかかってたんですけど
さっき気づきました。よっすぃ〜がドラマでぶん殴った相手ですね。
更新たのしみにまってます。

326 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月30日(金)15時28分40秒
ヤグは確か好きな人がいるのでは・・・?
327 名前:名無子 投稿日:2003年06月06日(金)11時12分24秒
初めて書き込みさせていただきます。
最近、やぐちゅー以外の矢口さんを探すのは至難の技です。
なので、ここを大変楽しみにしていますので、がんばってください。
328 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月08日(日)02時00分53秒
よっちぃ耳が弱いんだね。耳がね…へぇ〜、そうなんだ…。
想像だけで何か色々大変なことになってきましたよ(自分の頭が
作者さん、この胸の高ぶりを抑えるにはどうすれば。
329 名前:SSKB 投稿日:2003年06月19日(木)02時35分15秒
>>322
キタ━━━━━━━━(0^〜^0)━━━━━━━━ !!!!
いやホントに。
>>323
何度も読んでいただいて、やっとココまで来ました。
>>325
「もこみち」という名前の賞味期限もあっさり過ぎてしまいましたねー。
このまま闇に(ry
330 名前:SSKB 投稿日:2003年06月19日(木)02時43分12秒
>>326
「恋に落ちた」って表現がまずかったのかしらん?とこういう更新にしてみますた。
>>327
やぐちゅーと言えばCP分類のやぐちゅスレ。
長い放置期間に前より矢口を好きになってるコトに気づいた自分はあそこの虜です。
↑超雑談
>>328
想像と妄想で…モワワ(*´ Д `)
その胸の高ぶりを抑えるには…さらに妄想し(ry

そんなこんなでぼちぼち更新ですみません。
CPスレに紹介して下さった方、ありがとうございます。
ぐっときました。
331 名前:SSKB 投稿日:2003年06月19日(木)02時44分12秒
恋に落ちた、って思ってるのはあたしだけなのだけれど、でも今のあたしにとってはその言い方が一番しっくりくる。
突然目の前に現れた深い深い穴に、そうとは気づかぬままにイキナリ、あたしはハマってしまったのだった。
あの日からしばらくあたしはそのコトを認識出来なくて毎日、何に動揺しているのだろうあたしは、と冷静であろうと努力をしては、何故か冷静でいられない自分の感情を見極めようとした。

あれ以来あたしは、それまでのあたしではいられないでいた。
寝ても覚めてもアタマにあるのは矢口さんのコトばかり。
学校では数十メートル離れた教室にいるというだけで、授業中でもそわそわする。

たまたま廊下で逢ったりしようものなら、心臓はばくんと波打ち、微妙に視線を矢口さんの肩あたりに逸らしたまますれ違うしかない。
様子がオカシイあたしに気づいているのかいないのか矢口さんはそんな時、今までどおりあたしに声をかけて冗談を言っては、じゃあねと笑ってすれ違っていく。
332 名前:SSKB 投稿日:2003年06月19日(木)02時44分42秒
コレって何?
まるで恋ではナイですか。
あたしが?矢口さんを?どうして?
だいたいあたしは・・と何度も考えたコトをまた考える。

だいたいあたしは、あんなコトで恋に落ちちゃったりするワケ?
たかが耳を、いやたかがなんて言えないくらいの弱点だったりはするけれどもさ。
しかも矢口さんはあたしの耳に何にもしてない。
冗談で噛むフリをしてカオを近づけてきただけじゃん。
噛む・・いや舐めるとかだったのかな・・いやイカンイカン、ダメだ、考えただけでもハズカシイ。

ポワワ、いやでもやっぱりあたしはあんなコトで、なんて考えてしまうあたし。
それにそんなキッカケで、なんてすぐ冷めるかもしれないし?
わかっちゃいるけどぐるぐるぐるぐる、えーい、くそ!すっきりしたいんじゃー!

・・なんて、ぶるぶるとアタマを思い切り振って立ち上がった朝の図書室。
さっき音が止んだけど、休憩かな?
ちらりと窓の外に目をやると何故かすぐそこに矢口さんが立ってたりなんかして。
心臓が口から出るかと思った。
333 名前: -じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時45分46秒
「あ!・・っと矢口さん。こ、こんちわ」
「あはは、どしたのよっすぃー?こんちわこんちわ」
矢口さんは動揺しまくるあたしの腕に外からぐっと手を伸ばしてばしばし叩きながら笑った。
「まだ目が覚めてないんじゃないのー、びっくりしすぎ、ヤグチに」
「や、だってイキナリそんなトコ立ってたらびっくりしますってば、フツー」

どぎまぎするのを精一杯隠して返したあたしに、しないしない、フツーしないって、と適当に流す矢口さん。
あたし、どっから見てもオカシイくらいに動揺してんのかな。
それともちっとも気づかれないように振る舞えてるのかな。
ただでさえフツーじゃない状態のあたしには、客観的に自分を見る余裕なんてナイみたい。

ああ・・気づかれてたらどうしよう。
あたしが明らかにヘンだってバレませんように。
フツーにフツーにフツーにフツーに・・
呪文のように唱えながらあたしは頑張って矢口さんの目を見た。
334 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時46分19秒
「どしたのよっすぃー?ヘンだよ」
あぁっ!やっぱヘンなのかあたし!
それでも頑張るあたし。
「えーヘンじゃないっすよー。ってかどうしたんですか急にそんなトコに?」

はいよ、と手を差し出す矢口さん。
「これあげる。さっきもらったからさ、よっすぃーにもおすそわけ。」
矢口さんの指先にぶら下がるプリッツの小袋が1つ。
あたしはそれよりも初めて間近で見る矢口さんの指に一瞬目を奪われてしまい、赤面した、たぶん。

何でもかんでも動揺するんだなー、あたし・・なんて思ったのも一瞬で、矢口さんの声で我に返る。
「あり?いらない?よっすぃー」
「ぅああっ!いや、いりますいります食べたいです」
「だからいちいち驚きすぎ。何なんだよー」
慌ててプリッツを受け取ったあたしのカオを見て矢口さんが不思議そうなカオをする。
335 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時46分57秒
「いやいや、うーん、えーっと、ありがとうございます。いただきます」
ったく、しかも堅苦しいお礼なんだらなー相変わらずよっすぃーは、と笑った矢口さんが後ろを振り向いて言った。
「あのコにもらったんだよーコレ。あの右端の1年のコ」
桜の木の下に目を向けたあたしは右端のコと目が合った。

自分のハナシをしているとわかったのか照れくさそうに笑って会釈をするそのコに手を振る矢口さん。
そのコも遠慮がちに手を振った。
「ほらよっすぃーも手ぇ振って。ついでにお礼言って言って」
「えーハズカシイっす、お礼だけ言いますよ」
「何でさ、ほらサービスだからサービス」

サービスだからサービス、って、と一瞬思ったけれどあたしは意を決して、知らないそのコに手を振る。
「ありがとねー!プリッツ」
ちゃんと聞こえるように大声で叫んだ。
口に手を当てて、もう片方の手でそれを打ち消すように自分のカオの前で手を振る1年の彼女。
何故かどっとウケてる木管パートの皆さん。
矢口さんも手を叩いて笑っていた。
336 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時47分49秒
「何かウケすぎなんですけど」
「やーあのコさ、隠れよっすぃーファンなんだよね。だから先輩がちょっと一肌脱いでみました」
てへっ、とワザと肩をすくめる矢口さんのコトバがあたしのココロをちくちくと刺した。
あー・・何なんだかなあ・・たぶん笑顔が凍りついてんだろな、あたし。

めりめりっ、と音がしそうなくらいムリヤリ、あたしは表情を動かす。
「あたしは市井さんみたくなりたくないですよー」
「だいじょぶだいじょぶ、コレくらいならタラシじゃないって」
じゃーね、よっすぃーまたね、と矢口さんは一方的に手を振ってさっさと皆さんのほうに走って行ってしまった。

その後ろ姿をぼんやり眺めるだけのあたし。
よくやった、とかさすが矢口、とか笑って言う皆さんの声がかすかに聞こえる。
矢口さんが一瞬振り向いてあたしに向かって笑いかけた。
あたしも笑って返した。
つもり。
337 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時48分32秒
あーあ。
何なんだかなあ・・。
練習を再開した窓の外に背を向け、ずるずると本棚に寄りかかったまま腰を下ろす。
矢口さんと話せた嬉しさと、その会話の内容の無邪気さがあたしの中でごちゃまぜになって微妙な感情を呼び起こした。

あーあ!
何なんだかなあ・・!
あたしはもう一度ココロの中でつぶやいて、開いた本の文字を目でたどる。
何度同じ箇所をたどっても、アタマの中に入って来ない。

矢口さん達の音に混じって鳥がさえずるのがやけにハッキリと聴こえた。
こうしてあたしは日々実感していくのだろう、と思うと自然とため息が出た。
ふう。
ため息をついたからって何か変わるワケでもない。
覚悟を決めよう、そう思った。
338 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時49分55秒
あたしは矢口さんを好きだ。
理由なんてわかんないけど、たぶんすっごい好きだ。
キッカケは単なるキッカケに過ぎないのだろう。
あたしは矢口さんを好きだ。

自分の中ではっきりコトバにしたら、今までぐるぐる考えていた自分、往生際の悪い自分を笑いたくなった。
はっは!あたしは矢口さんを好きなのだよ。
アホみたいに繰り返してあたしは、パタンと本を閉じた。
恋をするとヒトは、こんなキモチになるのかしらん。

妙に高揚してきた気分のやり場に困ったあたしは司書室に走った。
「先生!今朝は紅茶をごちそうになってもイイですか?」
おっとー?吉澤珍しいじゃん、と驚きながらも飯田先生は読みかけの本にしおりを挟んで立ち上がると、お湯を沸かし始めてくれる。
「どしたの吉澤?今日はまたえらくゴキゲンじゃない?」
「ふふふ、ちょっと楽しいんですよね、あたし」
339 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年06月19日(木)02時50分43秒
そかそか、よくわかんないけど楽しいんなら良かった、と鼻歌混じりに紅茶を淹れてくれる先生はあたしに何も訊かなかったけれど、ポットを傾けながら、ふふふ、と笑った。
「どうぞ」
「いただきます」
久しぶりに飲む先生の紅茶は、あたしのココロを少しだけ落ち着かせてくれた。
柔らかな湯気の向こうで、飯田先生が微笑んであたしを見つめている。

ごくりと音をたてて暑い紅茶を一口飲む。
「美味しい?」
「美味しいです」
吉澤が楽しそうだとあたしも楽しいね何だか、と飯田先生は自分のカップに口をつけると、外に目を向けた。
蝉がいつものように鳴き始めている。
「今日も暑くなりそうだよ」
「そうですね」

いくら夏が好きとは言えこんな日はついうんざりと外に目をやりたくなるものだけれど。
あたしは紅茶を飲みながら今年の夏はいつもと違う夏になるのだろうかと考えて、少しわくわくした。
この恋の行方なんて全然わからないけれど。
悲しい結果だってあるに決まってるのに。

一旦覚悟を決めたあたしはノーテンキに、楽しい夏になったらイイな、と思った。
340 名前:. 投稿日:2003年06月19日(木)03時00分00秒
( ´ Д `)<age…
341 名前:名無子 投稿日:2003年06月19日(木)10時40分25秒
わーい、更新だー\(^o^)/
やぐちゅー好きなひとって、矢口<中澤な人が多い気がして、
ちょっと苦手です。ここの矢口さんはとってもかわいくて
大好きです(^_^)(^_^)(^_^)(^_^)( ^ _ ^ )
342 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月19日(木)14時26分18秒
待ってました!!よ〜やく、よっすぃは自分の気持ちに
気づいたかぁ〜。なんでか顔がニヤニヤしちゃいます(w
次回更新も楽しみにしてます!!
343 名前:タケ 投稿日:2003年06月21日(土)17時36分58秒
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

やっぱりやぐよしはいいですね!
続き期待です。
344 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月26日(木)01時00分03秒
よぉーーーっし!!更新キタキタキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
やぐよし(この場合はよしやぐ?)大好きです。
よっすぃーがなんか初々しくて可愛い。青春だなぁ。
応援してますよ〜。
345 名前:鬼木 謙将 投稿日:2003年07月10日(木)15時23分11秒
イカ漁師 食事は、どうしているの   
346 名前:名無し 投稿日:2003年07月19日(土)00時14分47秒
更新から一ヶ月・・・
続きが気になる今日この頃です。
作者さん、どんな感じでしょうか?
続き楽しみにしていますので宜しくお願いします!!
347 名前:SSKB 投稿日:2003年07月19日(土)01時43分16秒
もう1ヶ月たってるのか…。なのにごめんなさい,今日は生存報告だけです。
>>341
自分はやぐちゅヲタ友お薦めの有名作はほとんど読みました。
なかざーさんも矢口もどっちも好きだなあ。
>>342
お待たせしました。
イキナリ恋に落ちた吉澤さん、動揺してる自分に動揺?
>>343
やぐよし自給自足のつもりで書き始めたこのおハナシ、まだまだ半分くらいしか進んでません。
続き、まだまだあります。
>>344
自分のキモチを一体どこまでわかってるんでしょうかねーココのよっちぃーは。
青春だなぁと言ってもらえて嬉しいです。
>>345
イカ漁師と言えばよっちぃのモンドコロ…と思って何かイミがあるかも!?
と、この名前でぐぐってみたりして。
>>346
更新から1ヶ月…あなたのレスでハッとしました。
がんばります。

というワケで続きは、来週末くらいまでお待ちください。
まさか現実の季節に追いつかれるとは思わなかったなー…。うー。


348 名前:タケ 投稿日:2003年07月19日(土)07時54分49秒
放置じゃなくてよかった・・・
来週の更新、待ってますよ〜♪
349 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年07月21日(月)23時46分34秒
1つ、お願いがあります。無理ならいいですが・・・。
えっと、『なっち』と『愛キュン』を出してください!!!!
愛キュンは1年生で、なっちは、2年に転校してきた生徒
という設定でお願いします。。
こんなに遅くなってからなんて無理ですよね。。
350 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月22日(火)02時01分42秒
>>349
ムチャ言うなよ…
アフォですか?
351 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月22日(火)04時48分59秒
>>350
休みはいると多いからなぁ…
放置、放置でマターリいきましょう
352 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月22日(火)20時08分33秒
ageで書いてるし
夏ですなあ
353 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月23日(水)02時20分28秒
最近暑いしね。
世の中には色んな人がいます。
354 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月23日(水)23時11分52秒
>>349
こんなイタイ香具師、久しぶりに見た。
355 名前:SSKB 投稿日:2003年07月26日(土)23時30分47秒
えーとそんなワケでよっちぃ達もようやく夏休みに突入です。
本当にお待たせしました。
一応マジレスすると
>>348
(0^〜^)<放置はしないYO!(ごめんなさい)
>>349
(0^〜^)<なっちと愛キュンは出ないYO!(なっち2年の設定が新鮮)
>>350-354
(0^〜^)<じゃっ夏なんで!(←言ってみたかった)
356 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時31分46秒
パラパラと音をたてる透明な傘越しに空を見上げる。
どんよりとしたグレーの空は、家を出た時とまったく変わらない。
それでも、少しはその存在を気にしないでいられるビニール傘があたしは好きだ。
グレーでも真っ暗でも空を見ていられるから、光を遮る普通の傘よりも断然あたしのお気に入りで、マトモな傘なんてココ何年も持ったコトがない。
とか言ってもうコレ、今年何本目だっけ?

それにしても夏休みだってのにまだ梅雨が明けないんだもんなあ。
がんがんに暑いワケでもなく、梅雨っぽく蒸し暑いワケでもなく。
ビミョーなカンジの夏休みだ。
気分出ない。

少し濡れてしまった左手のしずくをぶんぶん振り払って傘を閉じた。
いつもどおりあたしを迎えてくれたマックの店内は、いつもどおり少し肌寒い。
レジに並びながら店内を見回すと、ごっちんが窓際の席に座っているのが見える。
357 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時32分24秒
1学期に約束したとおりごっちんはあたしを勉強に誘った。
ホントにやるんだ?と電話できくあたしにごっちんは、えーやんないの?やるでしょ?と、当然だというように空いてる日にちと時間を言う。
まーすごくありがたいんだけどさ、ごっちんが誘ってくれて。
でもまださー、始まったばっかだよー夏休み。

なんて思ったけど、どうせ今週雨だしね、どっかでかけるワケでもないしね、あたし。
ほっとくと勉強しないしね、あたし。
行動力の友人にはどっちにしろ、雨だとか夏休み始まったばっかだとかそんなコトはまったく関係ないらしい。
部活は?ときくあたしに、その日は午後からだから誘ってんじゃん、じゃ、決定ね!と一方的に決めると、明日は朝からだから練習、もー寝る、じゃあね、とあっさり電話を切った。

部活以外の時はずっとあたしと勉強するつもりなんだろうか、と席に向かって歩きながらごっちんをじっと見る。
ごっちんはあたしに気づく様子もなく、ぼんやり雨の街を眺めている。
物思いにふけるごっちんというのもあんまり見ない気がする、ぼーっとするなら寝てるもんねいっつも。
傍に近づいたあたしの気配を感じたらしいごっちんはパッと顔をあげてあたしを見た。
358 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時33分07秒
「ごっちんおはよう。うー寒い、ココ相変わらずクーラー効き過ぎだよね」
「おはよーよし子。おーえらい、ちゃんとシャツ羽織って来てるんだ」
おうよ、と返事をしてあたしは、トレイをテーブルに置いてごっちんの向かいの席に座る。
あたしのトレイの向こう側には、見慣れた課題。

「えーもう勉強始めてんの」
あたしがびっくりして聞くとごっちんは笑ってコーヒーを一口飲んだ。
「や、もう全部食べちゃったしさ、ヒマだなあと思って眺めてただけ」
「いつからいるのさごっちん」
ふふふ、とごっちんは自分の口を押さえて、実はね、と言った。

「さっきまでね、いちーちゃんがそこに座ってたんだよ」
「あ、そうなんだ。市井さん何で帰っちゃったの?」
何だーごっちん、市井さんといたいんじゃないのかな。
あたしと勉強なんかしてて良いワケ?
「今日からなんだよ、いちーちゃんの合宿。駅集合だからそれまでココにいてくれたの」
359 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時33分44秒
あたしが勧めたポテトを1本つまんだごっちんはそのままそれをぱくぱく食べて、さみしーなー、とワザとらしく遠い目をする。
「なんてね」
「とか言ってホントに寂しいんでしょう、ごっちん」
「そりゃそうだよ」

そりゃそうだよね。
学校にいてもよく市井さんに逢いに行くごっちんは、何日間も逢わないでいるなんてコトはたぶんあんまりないのだろう。
あーあ、なんてため息をつくごっちんのつまらなさそうな顔も久しぶりに見たような気がする。

「ま、どうせ毎日電話かメールするからイイんだけどね」
「電波届かない山奥とかで合宿じゃないのー」
あはは、ありがちなイメージだねえ、とごっちんは笑った。
「全然日帰りで行けるような場所なんだよ、それがまた何だかなーって気分。微妙な遠さというか」

あたしはごっちんとそんなハナシをしていて、どうしても自分の脳裏に浮かんでしまうあのヒトのコトを考えずにはいられなかった。

行けるような場所。微妙な遠さ。
360 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時34分17秒
矢口さんが今どこにいるのかあたしは知らない。
メールも知らない。
電話も知らない。
でも、同じ空のどこかにいるのだというコトは知っている。

学校?家?もしかしたらこの近く?
そう考えただけであたしのココロはざわざわと落ち着かなかった。

今、学校に行ったら逢えるのかもしれない。
矢口さんちの近くを通りかかったら逢えるのかもしれない。
偶然この辺でお茶なんかしてる矢口さんを見かけるのかもしれない。

あたし何で、好きになる前とかにメアドとか聞いてなかったんだろう?
今となっては聞けなくなるなんてあの頃には思いもしなかった。
聞いてたからって今、何してるんですかなんてメール打てるワケないんだけど。
夏休みになったら矢口さんに逢えないなんてコト、こんなに深く考えるなんて思いもしなかったよ。
361 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時35分00秒
「ん?」
「ん?」
ごっちんがあたしの目を覗き込んでいた。
あたしはどんな顔をして、どこを見ていたんだろうか。
「なに?ごっちん」
なんて適当なにごまかしながらも、あたしのアタマの中をちかちかちらついてたのは。

ごっちんなら矢口さんのメアドとか知ってるよね、たぶん。

「ぼんやりしすぎ、よっすぃー」
ごっちんのコトバでまた我に帰る。
思わず口をついて出そうになっていたさっきのコトバをぐっと飲み下す。
そんなの別に、何の気なしってカンジでごっちんに聞けばイイだけなのに。
聞いたからって別に、あたしのキモチがすぐにバレてしまうワケでもない。

「そんなコトないよ」
「ばりばりあるよ」
ないない、ないって、ワザと棒読みで言ってあたしはオレンジジュースを一口飲んでカップを揺らして、カラカラと氷の音をたてた。
そして、矢口さんの姿を完全にアタマから追い出そうと必死で他のコトを考える。
ふーん、と何かに気づいてるんだかいないんだかごっちんは、あたしの顔をじっと見たまま、そう?と言った。
362 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時36分01秒
あたしはたぶん、ごっちんにも今のあたしのキモチを言わないだろう。
っていうか、言わないつもり。
どうして?なんて理由はナイのだけれどあたしの本能が、今はそれを言うべきじゃないと何となく、叫んでるような気がした。

矢口さんを好きになってしまったなんて、ごっちんに言うのがハズカシイから?
市井さんに伝わったらメンドくさいから?
ひとみ部にバレたらうるさいから?
矢口さんが女のコだから?
あたしが女のコだから?

どれも正解でどれも不正解。
たぶん。
とにかくあたしは、矢口さんを好きだというキモチを当分の間、あたし1人の胸の中にしまっておこうと思う。
もちろん、矢口さんに伝えるつもりもない。
本人に伝えるなんてとんでもない、と、思う。
363 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時36分31秒
正直あたしは、女のヒトである矢口さんを好きになってしまった戸惑いが自分の中にあるのを認めずにはいられなかった。
だって初めてなんだもん、女のコを好きになるってどういうコト?
何か違うの?違わないの?
あたしは男の視点で矢口さんを見てるワケでもないし、男になりたいワケでもない。
女のあたしが女の矢口さんを好きになって、それで?

本当はあたしはわかっている。
ごちゃごちゃ考えたって現にそれはあたしのココロの中に事実として存在して、ドキドキムネムネチクチクしているのだから。
たぶん何も変わらないし、違わない。
恋は恋で、それ以上でもそれ以下でも、それ以外でもない。
あたしは最近、矢口さんに関する色んなコトでカクゴを決めてるような気がする。
364 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時37分25秒
そして今のあたしは激しく矢口さん不足!
1学期の最後なんて大したハナシもしないまんま。
吹奏楽部が大会を勝ち残ってるから夏休みもまだ練習、ってハナシをしたきりだ。
ただひたすら逢いたい、と思う夏休みになってしまうのだろうか。
逢おうと思えば逢えるのにね、どうして何でもない顔でごっちんに、矢口さんのメアド教えて、って言えないんだろうかあたしは。

いっそごっちんに言ってしまえば・・いやいややっぱりそれは・・でもごっちんは市井さんとのコトもあるし・・だめだやっぱり言えないっす・・。
アタマの中で天使と悪魔、いや天使と天使なのかもしれないけど争ったまんまあたしは、もう一口ジュースを飲んだ。
365 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時38分30秒
「そういやこないだ、やぐっつぁんがさあ・・」
ぶぶっっ!げほっ!
コントよろしく、ベタなネタでむせて咳き込むあたし。
ありえなーい、だいじょぶよし子、なんて笑って心配してくれるごっちんの目が光ったような気がするのはあたしの気のせいだよね?

「む、むせた」
「知ってるよ。ほら、拭いて拭いて。んもー」
紙ナプキンをごっちんから受け取りながら、言いかけたコトバの先を待つ、ヒソカに待つ。

・・あり?続きは?後藤さん?
矢口さんがこないだどうしたんですかーすっごく知りたいんですけどあたし。
でも聞けない。
何て意気地ナシなんだあたしは!がんばれ!

「えーと、で?」
「で?」
すっかり忘れてませんか後藤さん。
あたしがハナシ中断したのか、そうか、そうだよね。
「さっきの、えーと矢口さん」
366 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時39分05秒
ああ、と思い出して微笑んだごっちんは、あたしを見つめたまま少し固まった。
「あれ?何だったっけ」
「・・・・・・」
忘れるなよっ!
内心あたしはごっちんにつっこみまくりだったけれども、まあまあまあ抑えて抑えて。

「ごめんもうすっかり忘れちった、へへ。だってイキナリよし子がむせるからさ」
「ははは、でーすーよーねー」
「忘れるくらいのコトだったんだよきっと」
「だよねーありがちありがち」
・・とほほ。

あたしとごっちんの夏休みはそんなカンジで始まったのだった。
ちなみにその日のあたしの勉強は、すらすらとシャーペンの動き続けるごっちんとは逆にちっともはかどらず、同じようなコトをぐるぐると考え続けていた。
こうなったらもう、勉強に専念するぞあたしは!なんて思わないで、矢口さーん逢いたいなあ〜、なんてあと1ヶ月半も考えてたりするのだろうか、あたしは。
うーむ。
367 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年07月26日(土)23時39分38秒
その日の夜、隣のクラスのコから電話が来た。
「よっすぃー、忘れてないだろうと思うけど明日から学校で応援団の練習だよ?」
うわーい!そっか、そうだった。
学校行く用事あるじゃんあたし。
電話そっちのけでガッツポーズ。

明らかに喜んでるあたしの声にそのコは、やっぱり今年はやる気なんだねよっすぃー、と嬉しそうに言った。
ゴメンね、違うんだけどね。

吹奏楽部の練習と重なってるかな時間。
帰りとか一緒になったりしないかな。
そわそわそわそわ、明日のコトが気になったままあたしは、携帯を握り締めたまんま寝てしまっていた。
368 名前:名無し 投稿日:2003年07月27日(日)05時43分41秒
更新されてるーーーーー!!
作者さんお疲れさまでした。

話す内容忘れてしまうなんて、ごっちんらしいですね・・・
よっすぃー、矢口さんに逢えるといいなぁ。
続きが気になりますよ!
これからも楽しみにしているので、頑張ってください。
369 名前:SSKB 投稿日:2003年08月01日(金)23時02分30秒
>>368
ありがとうございます、がんがります。

ストック放出するからいっつも崖っぷちなんだろ!と自分にツッこみつつ、
更新出来る時にしとけよ!というココロの声に従うコトにしました。
久々に2週連続更新してみます。
370 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時03分25秒
はっっ!と目が覚めたのはベッドに伝わる断続的な振動のせい。
えーっと携帯携帯、どこだ?・・アラームだったら音鳴るハズだから、誰か電話かけてんだよね?

カーテンを閉め忘れた窓からさんさんと陽射しがあたしに降り注いでいる。
ヤバイ、このまんまじゃ焼けちゃう。
携帯を探すより先に本能で、ベッドの足元側に転がっていって素早くカーテンを閉めた。

おう、こんなトコにあったのか。
誰からかを確かめもせずにぼんやりしたアタマのまま電話に出る。
「もしもし」
『あれ?もしもーし』
「はい?もしもし?」

壁に寄りかかったまま窓を開ける。
かすかな風がほんの少しカーテンを揺らして、あたしの部屋に外の空気を呼び込んだ。
朝なのに暑いなあ・・。
371 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時04分00秒
笑い声が電話の奥で聞こえる。
『あ、ごめーんもしかしてよっすぃー、寝てた?』
「んーいやいや、起きてたけど?」
『ウソばっか!声がちょー寝てるんだけど』
何で寝起きで電話出たヒトってみんな、寝てないよって言うんだろうねー、と電話の向こうで会話する声と笑い声がかすかに聞こえた。

あたしはちょっとムっとして(なぜなら寝起きだから)、用件は何だ用件は、とココロの中でつぶやいた。
っていうか、誰?っていうか誰と誰?
声聞いてもわかるようなわかんないような。
あたしのアタマがまだボケボケだからか。

「えーっとゴメン、誰だっけ?」
キャハハハ、と聞き覚えのある笑い声に一瞬あたしの胸は、ドクンと鳴った。
一気に目が覚める。
あれ?えっとー・・、あれ?まさか。
『ひどーいわかんないのォーよっすぃー!あたしよ、あ・た・し。今日の約束忘れちゃった?』
へっ?約束?・・なんて、あのヒトとしてるワケがない、けど。
この声は。
372 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時04分37秒
「あの、もしかして矢口さんですか?」
『あら、やっぱバレちった?じゃあ代わるね』
えっ何なに?ワケがわかんないよー、っていうかよくわかんないけど代わらないで!
『よーっすぃー!』
焦るキモチをコトバに出せないあたしの耳元で炸裂する叫び声。
・・辻だ。

「うっさいよ、辻」
『うっさいよじゃナイよーもう!今日学校で練習だったのにさーよっすぃーすっぽかすから』
ああっ!そう言えばそうだった!
そいで学校で矢口さんに逢えるかも!?なんつって昨日小躍りしながら寝たんだった。

がばっとカラダを起こしたあたしは慌てて聞く。
「ちょっ、辻、今何時!?」
『えー、さんじー。もう練習終わってみんな帰るトコだよ』
「ええっ?」
うそ、3時?昼の、だよね?
ありえない!

「えーっと今から行ってももう・・」
『だからもう帰るトコだってばさ。おっそいよーもう』
「うっそ、ゴメン辻。みんなにも謝っといて」
『うん、っても今日はまあ雑談で終わったってカンジなんだけどね』
辻の声の後ろから、あの笑い声と共に、ちょーうけるねよっすぃー、という矢口さんの声が聞こえた。
そうだ、何で矢口さんが一緒にいんの?
373 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時05分11秒
聞きたい、でも聞けないあたし。
「ねえ今、そこ誰がいるの?まだ学校?」
我ながら遠まわしな聞き方!ちょーうけるねあたし・・とほほ。
そんなあたしの思惑も知らない辻は、周りを見周すような様子で答える。

『んーっとねえ、男子とかもうとっくに帰っちゃったから辻と女子何人かってカンジだけど。駅までだらだら歩いてるトコだよ』
あ、じゃあ帰り道で部活の矢口さんと一緒になったのかな。
うう・・何やってんだあたし。
練習にちゃんと行ってれば矢口さんと一緒に帰れたんじゃナイか!

と、とりあえず次のチャンスを。
「あー、ほんとゴメン。次からちゃんと行くからさ。」
『頼みますよーホント、吉澤さん。次は明後日だってさ。』

明後日か、明後日。
次はちゃんと行きますよ。
「うん、わかった。今日と同じ時間でイイんだよね?」
寝てた分際で同じ時間なんて言っちゃうけどさ。
374 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時05分49秒
しばらく間があった後返事があった。
『寝坊はいけませんよ、よっすぃー。同じ時間だよって辻が言ってるー』
笑った声の矢口さんだった。
「あ、いや、今度は行きますよちゃんと、はい。・・と辻に伝えててください」
突然戻ってきた矢口さんの声にアセるあたし。

『きゃはは、じゃーよっすぃーはまた今度お茶しようね』
今、何と?
「えっ、みんな今からお茶ですか」
『そうそう。ウチの後輩と辻が仲良くってさ。行きたいトコがあるんだってー。で、面白そうだからヤグチも行ってみるよ』
むきーっ!あたしのバカバカ!ほんっとバカ!
なーんで寝ちまったんだろーなー・・あたし。

がっくし、と文字どおり肩を落としているあたしに矢口さんはまた、代わるね、と律儀に言った。
代わらなくてイイですってば!
『まっ、そーゆーコトだからよっすぃー、よろしくねーバイバーイ』
「あ〜バイバイ」
元気良く辻は言い放って、電話は切れた。
375 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時06分25秒
最後、辻かよ!あっでもひょっとして!
と思って慌てて着信履歴を見たけどやっぱり、辻からの着信になっている。
未登録の11ケタの番号じゃナイかなんて淡い期待はあっさり裏切られた。
そりゃそうだよね、矢口さんが自分の電話でワザワザあたしに電話するワケないもんね。

辻の声をアタマから追い払って、さっきの矢口さんの声を思い出してみる。
電話だと案外、こもって聞こえるんだなあ。
”寝坊はいけませんよ、よっすぃー”
はい、もうしません。
”よっすぃーはまた今度お茶しようね”
はい!お茶しますお茶します!何杯でも!

・・アホか、あたしは。
とりあえずあたしは今日の自分の失敗を二度と繰り返さないと誓う。
明後日はちゃんと学校行くぞー、おう!
決意も固く握りこぶしを頭上に掲げて振り返ると、そこに弟が立っていた。
376 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年08月01日(金)23時06分58秒
「あんた何やってんの!?勝手に入るな、つってんでしょいっつも」
「入ってないじゃん部屋には。おかーさんがイイカゲンおねーちゃん起こして来いっていうから来てやったのに」
「もーうっさいよーナマイキなんだからホントに」
さっきのガッツボーズを見られたハズカしさからあたしは、弟に憎まれ口を叩いた。

そんなのには慣れっこの弟は1階に向かって叫んだ。
「おかーさーん!おねーちゃん起きたよ!」
「じゃあ降りて来てって言ってちょうだい!」
遠くから聞こえるおかーさんの大声に弟は、だってさ、といっぱしに肩をすくめるフリをして、だだだっとものすごいイキオイで階段を下りていった。

あたし何か頼まれんのかな。
今日はついてナイっすよホントに・・。
1回伸びをしてベッドから降りるとあたしは、何だかなあ、とつぶやきながら1階に下りていった。
377 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月02日(土)12時04分22秒
よっすぃはどんどんアフォのなっていくなぁ
378 名前:タケ 投稿日:2003年08月08日(金)09時35分26秒
かっけー吉澤さんと矢口さんにメロメロな吉澤さんのギャップが面白いです!
矢口さんとの更なる絡み期待してます
379 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月20日(水)14時02分20秒
期待age。待ってます
380 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月20日(水)20時57分55秒
あげるな
381 名前:タケ 投稿日:2003年08月30日(土)03時49分16秒
保全
382 名前:SSK8 投稿日:2003年09月03日(水)00時37分11秒
信じらんない…もう現実の夏休みって終わってんのね。
ついに季節を追い越されてしまいました、スイマセン。
レス&保全して下さった皆様、本当にありがとございます。
がんがります。

いつもに増してとりとめのないハナシなので、こっそりsage更新。
なんて今更。
383 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時38分05秒
下に行くとお母さんは庭に出て、洗濯物を取り込んでいた。
あたしはキッチンで冷えた麦茶をコップについで、縁側に持って行って飲みながらその様子を眺める。
「なにー?おつかいならヤだよー。ヒマな小学生に行かせてよ」
「何言ってんのよアンタ、あのコたちなんて早起きしてラジオ体操行ってプール行って帰ってきたトコなのよ」

おお、朝っぱらから元気だねーちびっこは。
「アンタなんてたまに出かける以外は何にもしてないじゃない」
「何にもしてなくないよー勉強もしてるし」
ちょこっとだけど。

「まーイイわ、とりあえず今日はひとみに頼まれてほしいのよね」
「んー、そこまで言うんならしょうがないなあ」
「要するにヒマなんでしょ」
ま、そうとも言う。

扇風機を持ってきた縁側で足をぶらぶらさせながら聞いたおつかいの内容とは。
同じ市内に住む叔母さん、つまりお母さんの妹に届けモノをしてくれ、というモノだった。
ほらちょっとひとみちゃん、ぶらぶらしてないで畳むの手伝って、と言われてあたしは、お母さんが取り込むそばから洗濯物を畳み出す。
384 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時39分40秒
「コドモが要らない心配するんじゃないの。コレからあたしはアンタ達のゴハンの準備もしなくちゃいけないし忙しいのよね」
まあね、お母さんが叔母さんトコ行くといっつも話し込んで遅くなるのをあたしはよく知ってる。

それに今日このままウチにいたらあたし、ホントに何もしてないもんね。
よし、とっとと行くか。
そうと決まればハナシは早い。
倍速で洗濯物を畳み終えるとあたしはすぐに、シャワーを浴びて着替えた。

届けモノの袋をお母さんから受け取る・・ん?何だろうこの感触。
「重いよー何コレ?果物でしょ?」
「さっきほら、届いたのよ。お父さんの知り合いのヒトが毎年送ってくれる梨」
何個入ってんだ、ってか今あたし、梨食べたい。
あたしがそう言うとお母さんは、じゃあ叔母さんトコで食べなさいよ、冷やしたのも1つあげるから、と言った。
385 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時40分19秒
受け取った冷たい梨を入れた袋をリュックにつっこんで、スニーカーを履く。
玄関から一歩踏み出した途端にあたしは熱気に包まれた。。
うわーあっつー!太陽がほんの少し西寄りに傾いて、ぎらぎらあたしを照らしている。
・・あたしの背中の熱気で梨はどうにかなってしまったりしないよね?

玄関の脇に停めてある弟の銀色の自転車のが光を反射して、一瞬まぶしくてあたしは足を止めた。
去年の冬にどっかの公園でBMXを自在に操るおにーさんの集団を見て感化された上の弟は、僕もやりたい!と言って貯めてたお年玉の一部をくずして新しい自転車を手に入れた。

ヤツの技がどれほど進歩したのかは知らないが、結構ボロボロになってる。
お母さんのハナシによると、公園のおにーさん集団が親切に、弟の相手をしてくれてるらしい。
そういえば今日は上の弟は見ていない。
珍しく歩いて出かけてるのかな。
386 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時40分51秒
大声で家の中に向かって叫ぶ。
「おかーさーん、あたし、チャリで行ってイイ?」
「イイけどひとみ、アンタのはパンクしてるんじゃないの?」
2階の窓からお母さんがカオを出して答えた。
「いや、コレで行くの」
「あら、帰って来て怒られたって知らないわよ」

たしかに。
めっちゃ怒るんだろうなあ、弟。
「だいじょぶだいじょぶ、すぐ帰ってくるからさ」
知らないわよ、なんて言いながらお母さんは一旦部屋の中にカオを引っ込めると、弟の部屋から自転車の鍵を取ってあたしに投げてくれた。

「ま、何はともあれ気をつけて行ってらっしゃい」
手を振るお母さんに軽く手を振り返してあたしは、弟の自転車を漕ぎ出した。
387 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時41分37秒
漕ぎ出した一瞬、風がひゅっと、ノースリーブを着たあたしの肩を撫でる。
あー涼しい、コレくらいのペースだったらたぶん、そんなに汗もかかないだろう。
と思いながらもあたしは気づくと、立ち漕ぎで結構その気になってスピードを出していた。
久しぶりに乗ると気持ちイイなあー自転車。
早くあたしのもパンク修理に出そう。

車がいない川沿いの緑道を選んで走る。
この川をずっと辿って下流に行くと、叔母さんちのある街に着く。

立ち漕ぎをするとリュックの中の梨がゴロゴロ左右に揺れるのがわかるから、サドルに腰をおろしてのんびり漕ぐコトにした。
衝撃で梨が傷んじゃったら困るもんね。
川の様子や岸にある運動場なんかを眺めながらのんびり漕いでいたあたしは、ヤバイ人物がいる集団に出逢ってしまった。
388 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時42分25秒
川岸でサッカーの練習をしているのは上の弟のサッカーチームではナイか!?
あの青いユニフォーム、よくウチに干してあるもん。
目を凝らしてよく見ると、いたいた、ヤツがいた。
シュート!
おお、決まってんじゃん、かっけー。

大声で褒めてやろうかと思ったけれどさすがにハズカシイのと、自分が乗ってる自転車のコトを思い出してあたしは黙ってまた立ち漕ぎでスピードをあげる。
見つかる前に逃げよう。
幸い後ろから弟の声は聞こえてこない。
ま、気づいても練習中だから追っかけては来れないからイイんだけどね。

しばらくすると叔母さんちのある街に着いたから、緑道から逸れて住宅街に入る。
久しぶりに来るこの街は全然変わってなかった。
当たり前か。
いつかの夏にも見た、でっかい向日葵が塀の上からカオを覗かせている家を通り過ぎ、駅の横を通り抜けると叔母さんちだ。
389 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時42分55秒
「あ!よっすぃー!?」
突然聞こえる大声に気づいてあたしは自転車を漕ぐ足を止めて周りをきょろきょろ見回した。
「よっすぃーこっちこっち、どしたのこんなトコで?」
ニコニコ近づいて来たのは・・ああっ、矢口さん!
矢口さんだー!

イキナリ目の前に矢口さんが現われて内心パニクってるあたしを見て矢口さんはきゃははは、と笑った。
「何か知らないけどよっすぃー、まーたすっごい汗かいてるよ」
自転車を漕ぐのをやめて急にストップするとどっと汗が出るんだよねー・・うーあっつい、暑いよー。

「汗かくの好きなんですってば、あたし」
「きゃはは、ワケわかんない。つーか何やってんの?練習サボって」
あたしに向かってパタパタと例のウチワを扇ぐ矢口さん。

「や、だから違うんですってば、ゴメンなさい、寝坊しちゃって」
「はは、ウソウソ、ヤグチ関係ないもん。辻ちゃんも別に怒ってなかったよ?」
良かった・・じゃなくて、矢口さんこそ何やってんだろ?矢口さんってこの駅だったっけ。
「あたしは家のおつかいで、叔母さんちに届けモノなんです」
「おーエライエライ、よっすぃーイイコだねえ」
390 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時43分25秒
小学生にするみたいに矢口さんは、あたしのアタマを撫でてくれた。
ぼっ!
このクソ暑いのにあたしは、さらに熱くなっている。
「で、で、矢口さんはココで何を、あ、お茶の帰りですか?」
動揺しまくりのあたしは少しどもってしまう。
「ん?そうそうカフェってのがさ、この隣の駅だったの。カフェなんてさーなさそうなトコじゃない?良かったよ、のんびりしてて」
ううう、うらやましい、あたしも行きたかった。

「で、ヤグチはちょっと、少し歩いて帰ってみよっかなーって、何となく。みんな反対方向だし」
そっか、矢口さんお得意の何となく散歩だ。
ふう、少し歩くだけでもあっついよねー、と矢口さんはパタパタと自分のカオを扇ぎ、ちょっと持ってて、とすぐにウチワをあたしに渡した。

久しぶりに見る市井さんウチワ、相変わらずの達筆っぷりに吉澤脱帽です。
「愛」だって、「愛」。
あの時眺めるのとは何だか違う気がするコトにあたしはイヤでも気づいた。
それはたぶんあたしが、今目の前にいる矢口さんに恋しちゃってるからだろう。
「愛」だって、「愛」。
眺めてるだけでハズカシー。
391 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時43分58秒
矢口さんはカバンから茶色のゴムを取り出して、髪を縛っていた。
後ろじゃなくて、上に。
「あはは、ちょんまげっすか」
ぎゃー、カワイイ、と内心叫んでいたけどさりげなく言うあたし。
「髪にヘンなクセついちゃうからあんまやんないんだけどさ、ま、もう帰るだけだから」
アタマを軽く振ってそのちょんまげ具合に満足したらしい矢口さんは、にかっと笑った。

ぼっ!
あーもう、激しく矢口さん不足なあたしに、ちょんまげ&その笑顔は反則。
あたしまた絶対、赤くなってる。
でも暑いから、バレないよね?

っていうか、もう帰っちゃうんだ、矢口さん、ってそりゃそうなんだけど。
あたしも梨、早くしないとアレだよね。
この梨さえなければ!このまま矢口さんと・・ってこの梨がなきゃこんなトコ来てないんだけど。
「矢口さん、あのー、あのー」
「ん?何、よっすぃー」
何て言おう、何を言おう。

「あのー、もう帰っちゃいます?」
「うーん、まあぼちぼち、歩いてくつもりだけど?」
ちょんまげアタマを傾けて矢口さんが、不思議そうにあたしのカオをじっとみている。
がんばれあたし!何か言え!
392 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時44分29秒
「あの、えーっとその辺でお茶・・は、さっきみんなとして来たんですよね」
「だね」
「じゃあ、あの、梨・・でも食べませんか?」
・・ううう、自分で言ってあたしはココロの中で自分にがっくりしていた。
梨かよー、どうやってむくのさ、っていうかコレ叔母さんちに届けるんじゃんか。

「ははは、梨?何それ!ヤグチだいすきー」
おお、好感触、コレはもう梨食べるしかないでしょー。
目をきらきらさせている矢口さんの期待に応えなければ。

叔母さんちへの届けモノは梨であるコト、叔母さんちはすぐ近くであるコト、梨を届けたらすぐ帰るつもりであるコトを告げると矢口さんは、じゃあヤグチもついてってイイ?探検探検、と言ってあたしと一緒に歩いてくれた。
「っていうかさー今更だけど、お届けモノなんでしょ?食べてイイの?」
「イイんです、1コだけあたし専用の梨が入ってるんです」

よっすぃー専用ってどんなだよ、とツっこまれたけど、専用は専用だ。
あの冷えた梨。
お母さんありがとう。
393 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時45分03秒
自転車を降りて押しながら歩くあたしと、その隣でちょこちょこちょんまげを揺らして歩く矢口さん。
あー幸せ。
カッコイイねそのチャリ、と言う矢口さんにあたしは、弟たちのコトを少しだけ話した。
「へえーカワイイねー弟。ウチなんて妹だからさあ、まあそれはそれでイイんだけど、男の兄弟ってイイなーヤグチも欲しー」
「いつでも持ってってくださいよ、あんな弟」
「えーだったらヤグチ、よっすぃーもらうよ、また妹になっちゃうけど」

あああ!嬉しい!あたしをもらってくれるんですか!
・・妹だけど。
フとあたしは考えた。
矢口さんを好きなあたしは、矢口さんとどうなりたいんだろう。

友達?ベリースペシャルな友達?恋人?彼氏?彼女?夫婦?妹?家族?
とりあえず不可能なのがいくつか混じってるけど。
あたしは女で矢口さんも女だから、えーと?
なんて考えてるうちにすぐに叔母さんちに着いてしまったから、今は深くは考えられなかった。
しょうがない。
5秒で戻って来ますから待っててください、と矢口さんに言い残してあたしは叔母さんちに入った。
394 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時46分20秒
あらーひとみちゃん久しぶりじゃないの姉さんから電話はもらってたけどまー何かお姉さんになったわねえあがってきなさいよ梨食べるんでしょう?というマシンガントークの叔母さんにあたしはお願いして、あたし用の梨を切ってタッパーに入れてもらった。
気をつけて帰るのよまた遊びに来なさいね今度の花火大会もウチからならほらよく見えるから、と叔母さんのトークを適当に切り上げてあたしは矢口さんの待つ道に戻った。

「よーっすぃー5秒じゃなかったのー」
笑いながらツっこむ矢口さんはちゃんと、木陰で待っててくれた。
「いやもうスイマセン、ウチの叔母さんしゃべり出すと止まらないんですよ」
「ははっ冗談だってば。聞こえてたよーよっすぃーの叔母さんの声、もうおっかしくてさーヤグチ、ゴメン、1人で笑っちゃった」

いっつもすごいんですよ叔母さんのトーク、と言いながらあたしは、タッパーを開いてみせた。
「で、梨ゲットです。冷えてますよ」
「おー、マジで?ありがとよっすぃー、やったー」
あたしは自転車を押さなければいけなかったから、矢口さんがタッパーを持ってくれた。
395 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時46分59秒
しゃくしゃくしゃく、と梨を食べながらあたし達は並んで歩く。
叔母さんが一緒に入れてくれた楊枝に差して矢口さんが、次の梨を渡してくれた。
梨はみずみずしくて甘くて、本当に美味しい。

ゴメンね梨、さっきはコイツさえいなければなんて悪態ついて。
キミたちがいたからこそあたしはこうやって、矢口さんと並んで歩いているのだ。
ありがとう、梨。

「ホントに美味しいねーこの梨。ヤグチは今年初だしね。歩いて帰って得しちゃった」
「あたしもチャリで来た甲斐がありましたよ、電車だったらきっと今頃1人できっと叔母さんのトークの相手してますもん」
あははは、叔母さんてのはどこの叔母さんもそんなカンジなんだね、と言って矢口さんは、ニヤリと笑った。
「ねえねえよっすぃー、ヤグチに逢えて嬉しいとかじゃなくって?叔母さんのコトだけなの?」
396 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時48分11秒
矢口さんが冗談でそれを言ってるのはわかってるけどあたしは、即答出来なかった。
だってそれが、図星だったから。
あたしは矢口さんに逢えたのが本当に嬉しいんだ。
うっ、とコトバに詰まるあたしに矢口さんは、ちゃんとツっこんでよよっすぃー、ヤグチがハズカシイじゃんか、と言って、あたしの背中をどついた。

「すいませんもうちょっとツっこみの修業します」
「頼むよよっすぃー、ってだいじょぶだよ、ヤグチ本当はツっこみ担当だから」
何がだいじょぶなんだかよくわからないけれど、まあ、イイか、あたしもツっこみというよりはどうやらボケタイプみたいだから。
「あたしたちのユニットって実は、そういうユニットだったんですかね?」
「漫才ユニット”相思相愛”?ちーがうよもっとマルチなユニットなの。公園行ったり散歩したりボケたりツっこんだり梨食べたり」
397 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時48分44秒
そんなカンジでしゃくしゃくてくてく食べて歩いてくうちに、次の駅が見えてくる。
どうしよっかなー、とつぶやきながら矢口さんはさっき線路を眺めていたけれど。
「ヤグチはちょうどココが乗り換えの駅だから、電車乗るコトにするよ」
楽しい時間ってのは本当に過ぎてくのが早い。
まだまだ空は明るいけれど、陽はさっきよりも相当傾いていた。

行かないで矢口さん、と思いながらも歩かないワケにはいかない。
小さい駅だからロータリーの目の前がすぐ改札だったから、あたしは改札まで矢口さんを見送るコトが出来た。
「じゃあまた、矢口さん」
「ありがとねーよっすぃー。梨ごちそうさま」

ポケットから定期入れを取り出しながら矢口さんが、あたしに向き直ってニコニコとあたしのカオを見つめる。
ん?
「よっすぃー明後日は行くんでしょ?練習」
「もちろんちゃんと行きますよ、今度こそ」
398 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時49分46秒
よしよし、んじゃ学校で待ってるから、と言って矢口さんは、じゃあね、とあたしに向かって手を振って歩き出す。
待ってるから、というのは単に矢口さんが部活で学校にいるからなんだろうけれど、それでもあたしは嬉しかった。
「ばいばーい」
改札を抜けた矢口さんが不意に振り向いてあたしに叫んだ。

歩き続ける矢口さんとの距離はもう、ワリと離れてしまったていたからアタマをさげても伝わらないと思ってあたしは、勇気を出して叫ぶ。
「ばいばい!矢口さん!」
小さく手を振るあたしに矢口さんは笑って、大きく手を振り返してくれた。
いつもと違ってあたしが敬語じゃないコトにもちろん気づいているだろう。

矢口さんはすぐに角を曲がって見えなくなってしまったけれど、あたしはちょっとだけそこに立っていた。
今の今まであたしの目の前にいた矢口さんの姿と声を、思い出しながら。
さっき考えかけてやめたコトの答えが勝手に浮かんできた。
399 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時50分18秒
あたしは矢口さんの何かになりたいワケじゃないみたいだ、今のトコロ。
恋人とか友達とか妹とかそんなのどうでもイイや。
ただ一緒にいるだけで楽しい、ハナシをするだけで嬉しい、矢口さんの笑ったカオを見てるだけで幸せ。
それでイイじゃない。
とりあえず。

あたしは自転車の向きを変えてハンドルを握り直すと、一気にペダルを踏み込んだ。
いぇー!それだけでイイじゃん、あたし!行け行けよっすぃー!
アホみたいにあたしは上機嫌で、足取り軽くスピードを上げる。
夕方の少し涼しい風は、びゅんびゅんとあたしの耳元で鳴る。
400 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時50分51秒
行きの半分くらいの時間であたしは家に戻ったんじゃないだろうか。
ご機嫌で鼻歌まで歌いながら玄関のドアを開けたあたしを待っていたのは、鬼のように怒っている弟だった。

ごめんごめんごめん本当にごめんとあやまり倒してもまだ怒っている弟にあたしは、今度は徒歩で家を出てアイスを買って来てあげた。
アイスくらいじゃ怒りが収まらないらしい弟にお母さんが、まあまあ、腹が減っては戦も出来ぬと言うじゃない、そろそろゴハンよ?と言う。

コレから我が家では戦が繰り広げられるのだろうか、あたしと弟の。
悪いけどあたし、まだ負けないから。
っていうかお母さん共犯じゃんかー。

一応悪いのはあたしだし、矢口さんと逢った後に弟とケンカするのもヤだったからあたしは、ゴハンを食べながらも弟にあやまり続けた。
チャンネル権も素直に渡した。
先輩の矢口さんがアンタのチャリ見てすっごいカッコイイって褒めてたよ?と言うと弟のカオが怒りながらも一瞬頬がゆるんで、それをキッカケに弟はあたしと口を聞いてくれる。
401 名前:-じゃっ夏なんで(2)- 投稿日:2003年09月03日(水)00時51分24秒
「ヤグチさんって誰?」
「んーとね、すごくカワイくてオモロイ先輩」
ふーん、と答えながらも、元々それが誰かなんて興味なさそうな弟はすぐにテレビに夢中になる。
どうせ小学生だから、オンナなんかにBMXがわかるかよ!とか思ってんだろうけど。

すごくカワイくてオモロくて優しい先輩。
そんでもってあたしが今すごく好きなヒト。
わかるかなー。
わっかんねーだろうなあ。

お母さんが梨をむき始めて、ニヤニヤしてるあたしを見て不審そうに、はい、と目の前に梨の入った皿をを置いた。
さっき食べたばっかだけど、美味しいな。
しゃくしゃくしゃく。
梨の感触とともに、歩きながら食べてる矢口さんの横顔が鮮明に浮かんでくる。

矢口さーん、なんてあたしは数時間前のコトを懐かしく思い出して、アレコレ考える。
今度またどこかを散歩出来たらイイなあ、と思う。
たぶん偶然、たぶん成り行きまかせだけれど。
がんばってあたしはその偶然を狙うのだ、とアテのない決意を胸に、あたしはその夜を過ごした。
402 名前:タケ 投稿日:2003年09月03日(水)01時31分43秒
待ってましたー!!
よしやぐ(・∀・)イイ!!

そう言えば矢口さんは誰が好きなんだろう・・・
403 名前:SSKB 投稿日:2003年09月03日(水)02時03分20秒
ゴメンなさい、一行抜けてました。
>>384でコドモ=よっすぃーがどんな心配をして、お母さんが「要らぬ心配をry」と
答えたのかと言いますと。

「お母さん行けば?最近叔母さんに逢ってなくない?」

よっすぃーは心配を装った、行きたくない言い訳にもとれるセリフを吐いてたのでございます。
ホントすいません。

>>402
ちょっ早のレスありがとございます。
そのコトについては…げほんげほんぐふごほ。
404 名前:SSKB 投稿日:2003年09月03日(水)02時05分15秒
ついでに言うなら「ちょっ速」ですな。。ああもうダメだ。寝よう。
405 名前:名無し 投稿日:2003年09月03日(水)02時54分31秒
続き待ってましたよ〜!よしやぐサイコー!!
作者さんの書くまったりな感じがすごく好きです。

梨が食べたくなったっす。
406 名前:名無子 投稿日:2003年09月03日(水)10時58分54秒
待っててよかったー!
なんて梨が似合うお話なんでしょう。いつ読んでも幸せな気分になれます。
407 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/15(月) 03:32
さてさて。
保全です。
408 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 06:24
楽しみにしてます。
409 名前:SSKB 投稿日:2003/09/29(月) 23:00
レスありがとございます、皆様。
またもやこんなに期間が…申しワケない。
あのー、もう、ちょっと気合入れますよ!
実際の季節に追い越された今、ちょっとアセりまくってます。

かちゅからの初更新、実はちょっとビビりつつ。
410 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:01
結局夏休み前半のあたしは、矢口さんに逢いに学校に行ってるようなものだった。
当然応援団の練習日限定。
練習ったってそんな部活並みに何時間もやるワケではなくって、ある程度その日の成果が出たら適当に終わりというコトになっていたから帰る時間もまちまち。
吹奏楽部の帰りと一緒になるかどうかは毎日わからない。

それでも矢口さんと同じ敷地内にいたら逢うチャンスが少しくらいはあると思うから、家にいるよりは数百倍マシだと思ってたりなんかするあたし。
だってこないだ帰りが一緒になって駅までみんなで歩いたし、差し入れなんつって休憩中に矢口さんがお菓子くれたコトもあったもんねー。
今日も逢えたらイイなあ。

しっかし暑い。
やっと夏休みっぽくぎらぎらしてきた。
応援団の単なる自主練だし、出しモノその他は一応当日まで関係者以外にはヒミツにしたいからウチらがいるのは校庭の外れ。
体育館の裏、部活の皆さんにも見られないように裏の裏の裏って場所でまあ陰にはなってるんだけどね。
大声だしたり振り付けしたり、それなりに体力を使う。

「んじゃーちょっと休憩でもする?その後もっかいみんなで合わせてみますかねぇ」
「そーするー、ノド乾いたよー」
応援団長の締まらない一声に締まらない返事をしてあたし達は、だらだらと自販機のほうに歩き出す。
411 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:02
元がだらだらした練習だから休憩時間と言ってもメリハリも何もあったもんじゃない。
ま、そのおかげで練習期間が思ったより長くなりそうなんだけどね。

応援団必携の扇子をパタパタ扇いで歩きながらあたしは、もちろんココロの中で期待していた。
矢口さん達も休憩だったらイイのにな。
そしたら昨日の休憩みたくジュース飲みながらしばらく話せるかもしれないのに。

なんて、もちろんそんな都合よく吹奏楽部と応援団の休憩が重なるなんてコトもなく、音楽室のほうからかすかに練習の音が聴こえている。
そりゃそうだよね、つまんない。
つーかあたしのアタマん中、ホント最近矢口さんばっかだな。
誰かどうにかしてくれ。

ずるずるずるとシケた音をたててオレンジジュースを飲み終えたあたしは、そのままストローをパックの中に押し込んでぎゅうと握りつぶした。
「なに?よっすぃー真顔でそんなの握りつぶしちゃって、ちょっとコワーイ」
辻が笑いながら言う。
もちろんあたしは何かに怒ったりしているワケではない。

「んなコトないっす、吉澤ちょっと応援団で気合入ってるっす」
テキトーに答えながらパックを握り締めた右手を振りかぶるあたし。
でもね、ただちょっと、ただちょっと矢口さんに逢いたいだけっす。
412 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:02
ひゅーん、ぱこん。
NBAよろしく頭上で軽く放ったパックは見事、少し離れたゴミ箱の中に収まった。

「無駄に運動神経使ってるね、吉澤」
シュートが決まって少し気分が晴れたあたしに向かってこんなコトを言うのはこのヒトしかいない。
バカでかいバッグを携えてニヤニヤ登場したのは、妙にこざっぱりした市井さんだった。
「あー久しぶりっすねー市井さん。合宿終わったんですか?」

やあやあとみんなのアイサツに右手を挙げて答えながら市井さんは、あたし達のほうに歩いて来る。
1学期の最後に逢った時より少し痩せたのかな?
それとも短くなった髪のせいなのかな。
「ていうか市井さんその・・」
「えーい言うな言うな!コレはコレでイイんだよ!」

どう見ても市井さんの前髪は、誰もが一瞬ぎょっとするくらいに短くなっていた。
当然あたしがツっこもうとするのを遮ったまま、言いワケを始める市井さん。
「後藤に切ってもらったらさ、何かハマっちゃったらしくってさーもうこんなんなるまで切るんだよ、でも似合うって言うからさあ」
たしかに似合ってはいるけれど、オカシイ、というかオモロイ。
最近こんなに前髪短いヒトって見ないよね。
413 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:03
あ、でもちょっと待って・・。
見慣れてきたから?元が良いから?何だかだんだんコレ以外の前髪はありえないと言うくらい似合ってるような気がしてきた。
さすが市井さんと言うべきか。
あたしが素直にそう言うと市井さんは、だろ?まーかせてー、と得意げに鼻を鳴らした。

「でもやっぱり短すぎるよね、ぷくく」
辻が小声であたしの脇腹をつつく。
「辻ー久しぶりに逢ったと思ったらんなコト言うなよなあー。似合ってるだろ?ん?似合ってると言え!」
市井さんが辻を羽交い絞めにしてくすぐり攻撃を仕掛けている。

あ、そういやこの2人ってメル友なんだっけか、よくわかんないけど。
げらげら笑って辻は市井さんから逃れようともがいている。
あたしはそれを横目で見ながら、音楽室からの音色を少し気にしたりなんかして。
414 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:03
「はいちょっとすいません、作業しますよ」
イキナリ現れたのは自販機にジュースの補充をしに来る業者のおにーさん。
ごろごろ台車を押しながら2人にそう告げて、あ、と言った。
「あ」
市井さんも同じコトバを発して攻撃を止めて辻を解放する。

「久しぶりだねーおにーさん」
「夏休みなのに何やってんの?部活?」
「夏休みでもウチらがいるからおにーさんがココに仕事しに来てんじゃん」
「そりゃそうだな。ていうか何だよその前髪」
「うっさいなー。あ、コレさ、後藤に切ってもらったんだよ。うらやましいでしょ」
「けっ、やってらんねー」

作業する手を休めずに市井さんの相手をするおにーさん。
このおにーさんは気さくなヒトで、ずっとこの学校の担当で毎日ココに来ているうちに生徒と仲良くなってしまうらしい。
特に馴れ馴れしい市井さんなんてあっという間に友達扱い。

とか言って実はこのおにーさんはごっちんのファンで、ごっちんといつもいるあたしを見かけるといつも、ごっちんいないの?ごっちん?と聞くようなヒトだ。
当然市井さんのチェックも入るというものだ。
まーごっちんネタで仲良くなったようなもんだよねたぶん、この2人。
415 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:04
「っていうか今日ごっちんいないの?ごっちん」
「いないよ。後藤は部活。いても逢わせないからおにーさんには」
「ひでえな」
笑いながらおにーさんは、しゅーりょー、あと2Fのが残ってるからじゃあね、と言って残りのタンクと段ボールと台車を押して歩いて行ってしまった。

あたし達もだらだらと歩きはじめる。
「市井さん部活じゃないですよね?何やってんですか」
「や、昨日合宿終わってそのまま後藤んちに泊まったんだよ。んで後藤と一緒に学校来たの。顧問に報告しなきゃいけないし」
じゃあ昨日ごっちんに髪切ってもらったんだ。
イイなあ、そういうの。

「あーちょっとちょっと市井さん、こっちについて来ないで下さいよ」
ウチの団長が市井さんに言う。
「何で?」
「何で?ってライバルっすから一応、今年は3年に負けないっすよー!ウチら」

あ、練習してんだ応援団の、何の集団かと思ったよ、とすっとぼけた返答をして市井さんは、ニヤニヤ笑いながら言う。
「ふふん、ウチらがそうカンタンに負けるワケないじゃん。どんな練習してんの?ん?ウチらまだ練習してないけど勝つ自信あるよ?」
416 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:04
一瞬の間の後、むっきー!という音が団長のアタマから聞こえたような気がした。
あたしはと言うと、たしかにこのヒト達に勝つなんて出来んのかなあ・・と思っていた。
ゴメンよ団長、気分にムラがある団員で。
やる気まんまんだったりちょっとあきらめたり、矢口さんのコト考えてたり。

「な、ちょっとじゃあ、ウチらも帰ろう!帰るぞ!帰って自主練!」
「「「「えーーー何それ」」」」
なんでそっちの方向にいくのさーココはフツー、じゃあ負けないようにがんばるぞ!じゃないのか?
まだ今日は1回しかみんなで合わせてないじゃん。
っていうか、あたしはもうちょっと学校に残りたいんだよー。

単純で実直だけがトリエのこの男、だから応援団長に推薦されちゃったんだけど思い込んだら止められない。
ウチらはそのまま解散、名目上は帰って自主練になってしまった。
何それ。
とは言え、早く帰って好きなコトしたいメンツは大喜び。

しょーがない、帰るか、と手ぶらで来た組は体育館の裏に戻らないでそのまま校門に向かう。
「吉澤、今からヒマ?」
「まあヒマですよ。予定より早く終わったし」
「んじゃちょっと矢口んトコ行こーぜい」
417 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:04
おおお!何ですと!
「すぐ帰るけどねー合宿のおみやげがあってさ」
すぐでも何でもイイ!吉澤、どこまでもお供いたします。
「あたしにはナイんですか?」
「何が?」
「・・いや、別に」

ははは!しょーがナイなあ、と市井さんは歩きながらカバンをごそごそ漁った。
「じゃあコレあげるから、ね、はい辻も」
そう言ってあたしと辻にアメ玉を投げる。
こんなのスーパーとかに売ってるフツーのアメじゃん・・。

「わーい!ありがとうございまっす!アメだいすっき!」
あ、本気で喜んでるヒトがいた。
さすが辻。
しょっぱいカオをしてるあたしに、何?いらないなら返して?と市井さんが笑って手を伸ばしてきた。
あたしは急いで、そんなコトないです、ありがたくいただきます、とアメ玉を舐めた。

「あ、いちご味だ。何かなつかしいっすねー」
「でしょでしょ?」
市井さんが嬉しそうに答える。
「ののはレモンだったー!いちごも食べたーいよっすぃーちょうだい」
辻が冗談であたしのカオに口を近づけてきたからあたしも冗談で舌に乗せたいちごのアメを差し出すマネをした。
418 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:05
と思ったら結構目がマジだわ、辻。
そんなにいちご味のが食べたいのかキミは。
あわててあたしは舌をひっこめて辻から逃げる。

はは、んじゃー辻には全種類あげるよ、と言って市井さんは再びカバンを漁って辻に数個のアメを渡した。
文字どおり小躍りしながら辻は市井さんにお礼を言って受け取ると、わーい、じゃあまたねーよっすぃー先帰ってるからー、とみんなと歩いて行ってしまった。
「カワイイねえホント」
市井さんが辻の後ろ姿を眺めて言う。
「・・アレに手を出したらちょっと犯罪ですよ」
「出さないよ!バカ。っていうか和むから好きなんだよ辻」

たしかに辻がいると和む。
「へえー」
「何が言いたいんだよ」
「いえ、何も」
そうこうしてるうちに音楽室にたどり着く。
419 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:05
「えーと矢口は?どこだ」
なんて市井さんがつぶやいてる間にあたしは、音楽室の奥のほうに座り込んでいる矢口さんの後ろ姿をすぐに見つける。
どうやら今は、パートごとに分かれてちょっとした話し合いをしているみたいだ。
いつもの木管パートの皆さんがあたし達に気づいて矢口さんに伝えてくれてやっと、矢口さんはあたし達のほうに振り向く。

瞬間、笑顔になった矢口さんはあたし達が立つ入り口までたたたと走ってきた。
「どーしたのー紗耶香?久しぶりじゃん」
「どーしたのこーしたもナイよ、合宿帰りっす。ハイおみやげー」
おおおありがとう!と満面の笑みを浮かべる矢口さん。

「食べていいよね?」
「どーぞ」
微妙な遠さ、すぐ行ける距離とごっちんが言っていただけにそのお菓子は、はっきり言えばすぐそこでも買えそうな土地のモノだった。
でもお土産買ってくるんだなあ、市井さん。
「はいよーよっすぃーにも配給でーす」
突然矢口さんにお菓子を手渡されてあわてて受け取る。

ありがとうございます、とあたしはばりばりばり煎餅を食べた。
市井さんは案の定、前髪のコトを矢口さんにツっこまれている。
いつ見ても仲イイなーこの2人。
矢口さんは市井さんの腕を叩いたりして笑い転げる。
ふむ。
くそ。イイなあ。
420 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:06
「矢口ー!いつまで紗耶香にたらし込まれてんのー始めるよー」
音楽室の中から声がかかる。
「たらし込んでねーっつーの、吉澤でしょ吉澤?」
なんて市井さんが音楽室に向かって笑って言う。
今行くー、矢口さんはそう叫んでからあたしと市井さんに手を振った。
またね、ありがと紗耶香、そう言って矢口さんはあたしに、よっすぃーも、と軽く体当たりをくらわせてきた。

突然の攻撃によろめきながらももちろん嬉しいあたし。
そして、あーあたしは毎回毎回矢口さんに逢っては別れ、じゃあまたねの繰り返しなんだなあ、と急に思った。
次の約束なんかない、いつ逢うのかもわからない。
それでも何も言えない。
あたしも笑って返すだけ。
「じゃあまた」

校門に向かって歩きながら市井さんが、何かキミらホント仲良くなってない?と言う。
「そうですねー、鬼のいぬ間に何とやらですよ」
「誰が鬼だよ、って別にイイけどさあ…あーーっ!」
市井さんが急に大声をあげて走る出すからびっくりする。

「ちょ、おにーさーーん、乗っけてってよ!」
見ると遠くで、さっきのジュースのおにーさんが車に段ボールやら何やらを積み込んでいるトコロだった。
「何言ってんだよー!オレが怒られるだろ、だめだめ」
おにーさんは笑って、全速力で走ってくる市井さんに向かって、跳び蹴りをくらわすマネをする。
あたしは何やってんだかなーと思いながらのんびり歩いてたから、2人が何やらごにょごにょ話している声も全然きこえなかった。
421 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:06
「吉澤ー!早く」
市井さんが振り向いて大声であたしを呼ぶ。
「なんすかー」
「イイから急げー走って走って」
何がなんだかわからないけどとりあえず走る。
うー、暑いな。

あたしが走って市井さんに近づく間におにーさんは1人で車に乗り込み、ぶぅん、と校門から出て行ってしまった。
何だ、乗せてってもらえるんじゃないのか。
「おにーさんとハナシつけてたんじゃなかったんですかーさっき」
ぶわっと噴き出した汗を拭きながら軽く抗議するあたしに、市井さんがニヤリと笑って言った。
「ふふふ、甘いな。行こーぜい」
顎で校門の外を指す。

市井さんはあたしを急かしながら、もちろん乗るよ、と言う。
校門を出てすぐのトコロにおにーさんの車は停まっていた。
車っていうかジュースの素満載のトラックというか、こういうの、なんて言うんだっけ。
はたらくくるま、じゃなくって。
運転席を一度覗き込んで合図をした市井さんはおもむろにバッグを背負い直すと、すぐそばのトラックの荷台に掴まった。
いや荷台も何も、だからこういう車って、そういう乗り方するんでしたっけ?
422 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:06
「ほら吉澤ー早くしろって」
「えーマジっすか」
「おにーさんも急いでんだってば」
引きとめてんのは誰ですか一体。
しょうがなくあたしも後輪のすぐ上に足をかけ、一気に腕を伸ばして掴むトコロを探す。
よし、ココでイイか。

「おにーさん、お願いしまっす」
あたしがちゃんと掴まったのを確認して、大声で市井さんが叫ぶ。
あーもう何でこんなコトになってんだよ。
別にあたし、歩いて帰ったってイイよーこんなんなら。
なんて思ってると車がゆっくりと動き出した。
あわててあたしは荷台にしっかり掴まり直す。
423 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:07
うわわわわ!
何なんだーマジこえーってか面白いんだけどこえー!
遊園地のヘタな乗り物なんてモンダイにならないくらいの感覚。
座席でもないし安全装置も何もナイもんね。
今まで感じたコトのないような風、振動、どきどき。
ちょっと楽しい・・かも。

ひゅーー!なんて叫んでる市井さんの前髪は大変なコトになっている。
「あはははは!オモロイっすよ市井さんのアタマ!」
「うっさいよー今片手離したら死ぬからほっといて!」
おにーさんはきっとサイドミラーであたし達の様子をちゃんと確認しながらゆっくり走ってくれてるのだろう。
それでもあたし達にとっては十分過ぎるほどのスリル。
あたし絶対、いつもよりハイだ。

あたし達がぎゃーぎゃー笑い合う声が聞こえたのだろうか。
前方を歩いていた応援団のメンツがすぐに気づいて騒ぎ出す。
「うーわ!何やってんのーよっすぃー」
「反則だよー」
「オレも乗せてオレも乗せて!」
ヤツらを追い抜く前に車は減速してゆっくり停まった。
ん?

あっという間にヤツらが走って来て、車の荷台に群がる。
わいわい言いながら自分のお好みの場所に張り付いて、オッケーですおにーさん!なんて叫んでいる。
何だよーもっとみんな躊躇しろよ!フツーじゃないよー。
っていうか辻!届いてないってそれ。
あたしは辻に、こっちなら大丈夫だよ、と叫んであたしの隣の掴まりやすい場所を教えてあげた。
424 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:08
イイの?行くよ?とおにーさんが運転席近くの男子に声をかけて、車は再び出発した。
人数が増えたからだろうけど、おにーさんはさっきよりも慎重に運転をしているようだ。
スゴイ光景だなージュース会社のトラックに張り付いて走る高校生の一団。
この道がイナカで一本道で、車なんて全然通らないからこそ出来るワザ。
っていうかおにーさん、コレがバレたら絶対ヤバイんだろうなあ・・。
っていうかヤバイのはあたし達。

何なんだよこのテンションは!
全員がげらげら笑ったり叫んだりしていて、絶対オカシイ、通報されるって。
辻はあたしの隣で、荷台の金具を握りしめたまんま嬉しそうにカラダを前後に揺らしている。
ちょっとマジあぶないよ!
平穏な生活を送るウチら2年生が市井マジックでどんどんアホになっていくー。

一本道が終わる少し手前でおにーさんが車を停めた。
駅前の少し広い道に出たらさすがに、フツーに車が通ってるもんね。
あたし達だってそれくらいの分別はつくから次々に荷台から降りて、おにーさんにお礼を言う。
「もう絶対やんないよ!内緒だからねーばいばい」
おにーさんは笑ってあたし達に手を振ると、身軽になった車で一気に走り出した。
425 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/29(月) 23:08
みんなで手を振ってそれを見送る。
「はー、もうあたしといると得してばっかだなー吉澤」
「何言ってんですか」
市井さんは満足気にバッグを抱え直して、歩き出した。
が、急に足を止めて固まっている。

「市井さん?」
市井さんのカオを覗き込むと、風で全開になったおでこに似合わぬ深刻なカオ。
「やべえ」
「何がっすか」
くるりと回れ右をして市井さんが遠くを、っていうか学校のほうを見つめている。

「さっき後藤に待っててって言われたの忘れてた」
がーん。
2年生のあたし達にに一斉にツっこまれたり笑われながらも、どうしようかな、ってカオの市井さん。
ていうかどうしようかななんだ、すぐ戻るのかと思ったのに。

「戻るんじゃないんですか?」
「やー、ねえ。どうしよ。また歩いてくのめんどくさい」
「えー」
そういうカンジなの?予想外。
426 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/09/29(月) 23:10
じゃあ駅で空気イスでもしながら待っててください、いやいやごっちん来るまで罰として一本道往復ダッシュ、何言ってんのココはもう男らしくとっとと帰っちゃう、なんてあたし達の無責任な提案を適当にかわしつつ市井さんは考えている。
「よし、決めた。駅で待つ。じゃーねー2年生のみなさん」
駅に近づいたトコロで市井さんだけが立ち止まって、やる気なさそうに手を振ってくれた。
当たり前の答えにがっかりしながらもしっかり市井さんにアイサツを返して帰るあたし達。

だらだらと電車に乗り込んでつり革に掴まる。
待合室のベンチに座る市井さんの、ぼんやり窓の外を眺める横顔をあたしは見ていた。
どこ見てんだろう。
突然市井さんが、背もたれからカラダを起こしてポケットをさぐる。

あ、電話か、ごっちんだろうな。
あはは市井さん、すげー情けないカオして謝ってるよ。
うわーペコペコしてるーすげー。
普段ならまず見るコトが出来ないような市井さんの姿を見てあたし達はげらげら笑っていた。

こっちに気づいた市井さんがワザとカオを歪めて、一旦立てた親指をぐっと下に向けた。
おそろしい。
なんて思ってると電車は走り出し、鬼のような形相をした市井さんの姿も後方に流れていった。
あー平和平和。

さてウチらの練習は今後、一体どうなってしまうんだろうか?
ホントに3年生に勝てるのかよー・・。
427 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 23:56
初めてリアル(に限りなく近い)更新に巡りあえた!

いつも楽しく読ませてもらってます。
もちろんこれからも…
428 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/30(火) 12:58
>はたらくくるま
...ふ、不覚っ

あ〜いいなぁ、もっかい高校生やりたいなぁ、でも今の高校生も大変だろうなぁ
でもいいなぁ、と思いながら読んでおります
古き良き時代(そんな古くないけど)を思い出してしまう
あの頃確かに青春だったなぁ、なんて感慨に耽ってしまう、そんなお話です
自分にとって
429 名前:タケ 投稿日:2003/10/01(水) 15:45
素敵だなぁ・・・と思ったです
矢口さんと吉澤さんの仲もしっかり進展してるし
ちゃんと高校生活送ろうと思いますた。

ところで前にも書きましたけど矢口さんの好きな人って・・・?
430 名前:通りすがりの読者 投稿日:2003/10/02(木) 02:15
>>429

それココで訊いてどうすんの?
小説読んでる意味ねーじゃん。
431 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/02(木) 07:02
2回も聞くなんて。
1回目にスルーされたときに気づけよ。
432 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/03(金) 00:46
>>429じゃないんだけど「続きが気になるなぁ」って意味では?
433 名前:タケ 投稿日:2003/10/04(土) 15:21
>>430、>>431

まったくその通りです。大変失礼しました

>>432さんの言ったような意味も少々含んでたんですけど
素直に書けばよかったなと思ってます。
すみませんでした

作者さん
ご迷惑をかけましたごめんなさいm(_ _)m
434 名前:SSKB 投稿日:2003/10/21(火) 00:47
「小説の中で集まろう」と昔、誰かが歌ってました。
 ↓

「あの小説の中で集まろう あの小説の中で集まろう 
 あの小説の中で集まろう …待て誰か笑ってる奴がいる」

って、笑ってる奴がいんのか!ウソウソ
まー作者も読者さんもそんなカンジやあんなカンジで考えたり考えなかったり。

はい、引用したかっただけです。

何の役にも立ちはしない。
何の役にも立ちは(ry
435 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:49
夏休み最後の練習日、あたし達応援団の面々の集まりは非常に・・・・悪かった。
まあもうほとんどカタチになっていたし、あとは本番に向けて何度か練習するだけってカンジだからなんだろうけど。

今年は冷夏なんて言われていて、そんなに涼しいわけでもないけれど毎日猛暑が続いたワケでもなかった。
どうもみんな夏休みらしい気分も満喫せずに消化不良を起こしてるらしい。
もうすぐ夏休みも終わり、なんて頃になってやっと色んなトコロに遊びに行ったりしているみたいだ。

わざわざ電話してまで召集する程のコトでもないしさ、解散でイイんじゃないの?なんて声もあがっていたけど団長はそれじゃおさまらない。
今いるオレ達だけでも気合入れるぞ!なんつって、声出し練習だって。

体育館の前からグラウンドを横切って歩くコト50m。
そこのフェンスに立って校歌を歌えだと!
何でちゃんと絵練習に来てるウチらがこんな罰ゲームみたいなコトすんのさー。
団員全員からブーイングの嵐。

あたしは中学時代の部活で同じようなコトをやらされたのを思い出した。
今考えるとくっだらないよねー、とりあえず先輩後輩の儀式ってカンジなんだろな。
ハズカシイけど夏休みでみんないないし仲間内だけだしまだマシか、と思っていたら、辻が抵抗の雄叫びをあげていた。
「ヤだよー絶対、ハズカシイもんムリムリムリ!」
そんくらいの大声で叫べるんならハズカシイもクソもあったもんじゃないべさ、と思ってんのはあたしだけじゃないハズ。
436 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:49
と、団長がヒトコト。
「えーとじゃあまずオレがやるよ。そいでみんなの中で一番気合入ってるとオレが思ったヤツには団長賞としてアイス1本おごるからさ」
「やるやるやる!ののが絶対団長賞獲るよお!好きなアイス選んでイイんだよね?」
何なんだよ辻!さすが辻だ。
この変わり身の早さ。

感心する間もなく団長は見本を見せるべく走って行く。
衣装合わせで履いて以来気に入って愛用しているらしい下駄が、砂埃をあげる。
漢だねえ、今年のヤツはちょっと違うね、なんてみんなの声援に背中で応えつつどんどん小さくなるその姿。

いや、マジかっけーかも、もしかして体育祭でヤツの人気あがっちゃうんじゃないの?
そんでもって3年生に勝っちゃったりしちゃうんじゃないの?ウチら!
あ、つまづいて下駄脱げてやんの。

幸か不幸か、さっきまでそこで練習をしていたサッカー部の連中はどうも休憩中らしい。
日陰に座って何事かとあたし達のほうを見ている。
ヤだなーコレじゃホントに罰ゲームじゃん。

団長がフェンスの前に到着して、振り向いた。
遠くで鳴く蝉の声だけがあたし達を囲み、真夏特有の強い光がグラウンドに反射する。
あたし達はニヤニヤ彼を見つめながらも、もうすぐやってくるであろう自分の番のコトを思って少し緊張している。
437 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:50
団長が大きく深呼吸をしているのが見えた。
一瞬の間の後、彼は大声で歌い出す。

その歌声は空を割り、大地を揺るがし、そしてあたし達の大爆笑を呼んだ。
ちょっと待て!アンタいくらなんでもヘタ過ぎるよ!
あたし達の笑い声が聴こえているのかいないのか団長は朗々と校歌を歌い続ける。
でもやっぱり・・ごめん!こんなに音痴な校歌初めて聴いたっす!

うわっ二番に突入してるよ!マジですか。
あたし達だけでなくサッカー部の連中もバカ受けで、笑い転げている。
団長は変わらぬ調子で校歌を三番まで歌い終え、最後にイミなく大声で吼えた。
途端に校庭の端々からぱらぱらと聞こえてきたまばらな拍手。
爆笑しながらも彼の漢気を称えて拍手しているのはあたし達だけじゃないみたいだ。

見ると、体育館やらテニスコート、音楽室のほうからも見物人が出て来ていた。
笑いながらも、かっけーぞ!アンコール!なんて声を飛ばしている。
校舎から何人か先生達もカオを出してる。
コレはちょっとハズカシイかもなあ、あたし。

あたしはそっちにばかり気をとられて、団長がこっちに戻ってきて色々決めているコトに気づいていなかった。
「よっすぃー次ウチらだよ?」
「へっ?」
どうやら1人ずつではなくクラス単位で歌うコトになったらしいけど・・イキナリかよー。
438 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/21(火) 00:50
あああ団長の歌声と増えたギャラリーのせいでだんだん緊張してきた。
うーむ、しょうがない、とっとと歌って終わらすべし。
辻の手を引っ張ってフェンスの前まで走る。
漢だねえ、今年のよっすぃーはちょっと違うね、なんて団長と同じよな声援を送られたあたしはもちろん振り向いてツっこんだ。
「あたしオンナだから!」

その瞬間、吹奏楽部の何人かとしゃべりながらグラウンドを眺めている矢口さんの姿が目に入った。
ええっと何で矢口さんが学校にいるんだろう?
最後の試合・・じゃないや地区予選が終わったら部活引退って言ってたのに。
もう夏休みは逢えないや、と諦めてたのに、ラッキー。

いやラッキーじゃない!
あたしのこんなハズカシイ姿を晒さなきゃならないなんて。
うう、くそ、こんな時に限って。
えへん、あーあー、なんて発声練習のマネをしている辻のカオを見て、矢口さんのほうを意識しないようにする。

「ん?よっすぃーアイコンタクト?もうちょっと待ってー緊張してきたーアイスー!」
辻が胸を押さえて足をばたばたさせた。
口に出したらアイコンタクトでも何でもないんだけどさ、まあイイや。
しかも何となく見てただけだっつーの。
439 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:51
よし。
あたしはカクゴを決めて手を後ろに組み、校舎の上の空を眺めた。
応援団のみんなも音楽室のほうも意識しない、ようにしよう。
誰も見てない、誰も見てない、と自分に言い聞かせて深呼吸。
せーの、と辻が言った。

あーヤバイ、一番すら歌詞が曖昧、なんて少しアセってるあたしをよそに歌い出した辻に、慌てて合わせる。
気合い充分の辻の大声の影に隠れてあたしの声はあんまり目立ってないみたいだ。
そして少し、キモチイイかもしんない。
カラオケとは違うカンジで大声出して歌って、だんだんハズカシさも薄れてきた。

「よっすぃー!聴っこえないよー!」
突然あたしを羞恥の世界に引き戻したのはかすかに聴こえた矢口さんの野次。
一気に歌詞がブっ飛んであぶあぶ言いながら思わず矢口さんのほうを見る。
遥か彼方で矢口さんは、笑ってあたしに手を振っていた。

あーもうダメ、ハズカシイっす、と思った瞬間、一瞬1人で歌っていた辻があたしの腕を握ってきた。
そんな恨めがましい目で見ないで下さいよ辻さん・・アイスですよねアイス。
あたしはもう正直、このまま歌うのなんかやめて辻にはあたしがアイスおごってやろうかと思うくらいだ。
と思ってたら、一番を歌い終わったトコロで拍手ー、ぱちぱちぱち。
あら、あたし達は一番だけでイイんですか、良かった。
440 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:51
団長よりデカかったよー声、と言われて辻は既に、アイスゲット!とそのつもりになってコブシを握り鼻息も荒い。
音楽室のほうを見るともう吹奏楽部の皆さんは練習に戻ってるみたいだった。
まあこんなの延々と聴いてたってしゃーないもんね。

結局全員が歌い終わり、団長賞はやっぱり辻がかっさらって相方だったあたしもご相伴にあずかるコトになった。
いやいや悪いねーあたしあんまり歌ってなかったんだけど。
みんなで駅前の商店でわいわい、アイスに群がる。
ま、別に団長賞があろうがなかろうがみんな、自分で買って食べるんだよね。

何がイイ?好きなの持ってきて、という団長のコトバにあたしはもちろんチョコミントを選ぶ。
あの日、矢口さんと遊んだ時以来、あたしはよくこのアイスを食べていた。
ほのかに甘くて、爽やかで、ちょっと懐かしいカンジのチョコミントアイス。
441 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:52
団長ありがとー、と辻と一緒にお礼を言って薄暗い店から一歩外に踏み出すと、あの時みたく急に明るくなった視界がまぶしい。
目を細めたまんま、すぐそばを走り抜けたバスを見送った。
矢口さんと乗ったバス。
今日もこのバスはあの公園に行くのだろう。

アイスを袋から取り出してなめた。
これまでだって何度も食べていたのに不思議だと思う。
今のあたしがチョコミントアイスを食べると、あの時の矢口さんの笑顔が勝手に浮かんでくる。
2人して走って寝転んで、いや走ったのはあたしだけなんだけどさ。

あの時は何とも、思ってなかったのに。
優しくて楽しくてカワイイ先輩、矢口さん。
それだけ。

そう考えるとヘンなカンジだった。
何も意識しないで遊んでいた時の思い出が今、楽しいんだけど何だか寂しい気もするような。
今のあたしはあの時みたく、無邪気に矢口さんと遊べるんだろか。
意識しすぎちゃって挙動不審でキショがられちゃったりして。

こないだも一緒に歩いてしゃべって梨食べたじゃん、とは思うけど。
前より矢口さんとの距離は縮まっている分、ちょっと逢ってもじゃあねと別れる時なんかにせつないキモチになる回数がちょっとずつ増えた、と思う。
だって、逢うったってただ偶然と成り行きにまかせてるだけだもんね。
学校だったり道端だったり、市井さんの付き添いだったり。
442 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:52
矢口さんを好きだと気づいた頃のあたしは、せつないだとか何だとか感じるコトになるなんて思ってもなかった。
たぶん、こんなふうに楽しいまんまでいられるんだろうなーあたし、と勝手に思ってた。
でもそうじゃなかったみたいだ。
古今東西、恋するオンナはどうもせつなくならざるを得ないらしい。

さて、ココで問題です。
好きな相手に想いを伝えたヒトはそれまでのせつなさから開放されるのでしょうか?
今のあたしにはわからない。
わかってるのは、今んトコあたしにはその予定はナイってコトだけ。
ふむ。
だって、言えないよ。
こんなキモチ。

黙ってアイスを食べ続けるあたしは隙だらけだった。
辻があたしの右手ごとアイスの棒を握って、大きな口でチョコミントにかぶりついた。
「うわーちょっと辻!アンタこの歯型はナイんじゃないの?」
「へへへ、よっすぃーがぼんやりしてるからだよー」
443 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:53
あたしは辻を追いかけてつかまえると、仕返しに辻の白いアイスにムリヤリ噛みつく。
お、ミルクだ。
久しぶりに食べたなーこういう味。
甘ったるいミルクの味はあたしの舌にまとわりついて、一気にチョコミントの味なんてぶっとんでしまう。

いつまでたっても甘いおこちゃま味は口の中からなくならない。
コレはコレで好きだしおいしいけど・・ううう違うんだよー今は。
もう一度、チョコミントの味に戻そうと自分のアイスを口に持ってった途端、あたしの携帯が鳴った。
慌ててポケットから携帯を取り出し、着信を見る。

誰だ?
この番号。
よくわかんないけどとりあえず出てみた。
「もしもし?」

『へろー。初めてかけてみたよーよっすぃーの携帯』
うわーうわー、ややや矢口さんだ、矢口さんじゃない?この声。
矢口さんでしょ。
「えーっと矢口さん?ですか?」
不意打ちにばくんと波打った胸を思わず押さえつつ、平静を装って聞き返すあたし。
やべ、制服にアイス付いちった。

『あたりー。へへ、今どこにいるの?よっすぃーもう帰っちゃった?』
「や、まだ駅前でアイス食べてます」
あ、イイなあヤグチもアイス食べたい、そう言って矢口さんは、よっすぃー遊ぼう?遊ばない?と言った。
うそー、やった!
444 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/21(火) 00:53
どんな経緯であたしの番号を知ったのかはわからないけどとりあえず嬉しい。
いや、めちゃめちゃ嬉しい。
遊びます遊びます、と連呼するあたしを見て不審気な応援団のみんな。
「あっ電車来た」
誰かが言ったからあたしのコトなんてすぐに忘れてみんなが一斉に走り出した。

「よっすぃーウチら行くよ?じゃあね、また2学期ね!」
辻があたしの腕を軽く叩いて走って行った。
ハンパにイナカにあるこの駅は、十数分に1本しか各駅停車が停まらない。
逃したって大したコトはナイんだけど日頃の習慣でみんな、乗ろうと必死になって改札を通って行く。

あたしは辻に手を振るのもそこそこに、制服に付いたアイスを指で拭いながら矢口さんとの会話を続ける。
『今、ヤグチ校門出たトコなんだよ、だからゴメンもうちょっと待っててくれる?早歩きで行くからさ』
「あーゆっくりでイイっすよー。待合室で涼みながら待ってますから」
ホント?じゃあ後でね、ばいばい、と矢口さんは慌しく電話を切ってしまった。

あーもっとしゃべっていたかった。
でもイイのだ、もうすぐ本人がやって来るんだもんね。
へへへ。

やった。
やったね。
445 名前:名無し。 投稿日:2003/10/22(水) 04:31
更新お疲れ様です〜!!
続きも楽しみになりました。
大変だとは思いますが期待して待っていますのでこれからも頑張ってください。
446 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/22(水) 23:31
よっすぃーやったね!
う〜ん、まったりしてていいなぁ。
447 名前:SSKB 投稿日:2003/10/29(水) 22:46
>>445
ありがとございます。
前々回の宣言どおりに気合入れて書いております。
がんがります。

>>446
まったりしてたら現実の季節にすっかり追い越されてしまいました。
だいたいよっすぃーもよっすぃーだよ、マジでのんびりしすぎだっつーの。
ウソですごめんなさい。
がんがります。

前回>>442の誤字、微妙なカンジでごまかせなくもないかもムリヤリ、と思ってちゃんと調べたら全然ごまかせなかった。
当たり前なんだけどさ。

「開放」(開け放つ、出入り自由)
「解放」(束縛を解いて自由)

せつなさから出入り自由、そんなのヤだな。
出るだけでイイです。

はい、言い訳でした。
448 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:46
矢口さんの電話が切れてからもしばらくあたしは、そのまま立ち尽くしていた。
目の前を通り抜けて行くバイクの爆音で我に帰る。
とりあえず矢口さんが来る前に気を落ち着かせよう・・平常心平常心。

横断歩道を渡って駅のロータリーを横切る。
ってやべえ、ムリだよあたし、すっごい浮かれてる。
足取り軽すぎ。
スキップ寸前ってカンジ。

冷房の効いている待合室のベンチに腰をおろして、深呼吸をした。
はーぁぁぁ・・うつむいたら制服のシャツの染みが目に入った。
普段だったら気にしないんだけどちょっと微妙な気もする。
チョコチップの、茶色い染み・・茶色い・・茶色いう、う・・イカン、今更ながらハズカシイっす。

あたしはカバンを探ってティッシュを取り出し、トイレに行って水で濡らしてきた。
取れるかな。
お、ちょっと取れてきた、もうちょい。
こう、つまむようにして取るとイイんだよねこういうシミはね、おかーさんが言ってたもんね。
449 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:47
茶色い染みに夢中になってたあたしは、少しの間他のコトを忘れていたようだ。
「よっすぃーお待たせー、何やってんの?」
バッと反射的にカオをあげると目の前で矢口さんが、ニコニコ笑っていた。
「はっ、いや、あの、アイスが付いちゃいまして、はい」
座っているあたしと立っている矢口さん、何故かとっても目線が近い。

何でしどろもどろなの?と矢口さんは笑ってあたしの手から濡れティッシュを奪い取ると、おねーさんがとってあげるよ、と腰をかがめてあたしの胸元を覗き込んだ。
・・・・・・すいません、もうあたし何も言えません。
息を殺して、矢口さんが掴んだあたしのシャツが動くのを意識しないようにして、時が過ぎるのを待つだけ。
近いよ近い、近いです矢口さん。

あたしのカオの目の前で矢口さんは真剣な眼差しのまま、あたしの茶色い染みを退治している。
あああイキナリこんなの反則だよ・・ココロの準備が。
たまらずあたしは、目線を上に逸らした。
目に入ったのは電車の路線図・・えーとあたしんちがあそこで矢口さんちがあっちだからえーと、って全然気が紛れないんだけどしょうがない。

「取れたよー。後は洗濯すればヘーキじゃない?」
矢口さんがくるりと回れ右をして、ゴミ箱にティッシュを捨てに行きながらそう言った。
ほうっ、と思わずあたしは息をついた。
ちょっと残念と言えば残念。
でもこのまんまだったら絶対心臓バクバクいってんのバレてるよね。

胸元を見ると、あたしがイイカゲンにつまんでたのとは比べモノにならないくらい、綺麗に染みが取れていた。
「ありがとうございます、あたしいっつも食べモノこぼして怒られるんですよね」
「おかーさんに?」
「や、ごっちんに」
450 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:47
あはは、と笑って矢口さんは、紗耶香も怒られてるよいっつも、と言った。
「さて、どこ行こっかよっすぃー」
矢口さんは腰に手を当て、あたしがさっき見てた路線図を見上げている。
そうか、カラオケとかお茶とかってんじゃなかったんだ、矢口さんの「遊ぼう」は。

「ははは、どこ行きましょうか、矢口さんお得意のアテのない旅だー」
あたしがそう言うと矢口さんが振り向いて、そーだよー?決まってんじゃん!と嬉しそうに言う。
じゃああそこ行きましょうよ、と急に思いついてあたしが言うと矢口さんが、ん、どこ?と言ってもう一度路線図を見上げた。
あそこはあそこだ、えーと、あそこ、名前出てこない。

「あの、ホラこないだ行ったあそこの近くの、梨の、おばさんちの」
「連想ゲームかよ!」
矢口さんは笑って、あの辺何かあったっけ?と言った。
「あるんですよ河が。って、あるじゃないですか」
「おーそうか、あの辺も流れてんだね」

こないだあたしがチャリで河岸を爆走したあの河は、街の真ん中を突っ切って延々と海まで続く。
そして海から遡ればどこまで続いてるのか、あたしは知らない。
対岸は大声を出せばやっと届くくらいには離れている。
つまり、この街では結構大きい河なのだ。

あたしはたまに散歩がてらあの河岸に行くコトはあったから、イイ場所を知っている。
魚釣りをするおじさんや水遊びの子供を眺めたり、斜面の芝生に寝転んだり。
そこに矢口さんと行くという思いつきはとてもステキだと我ながら思った。
「あそこ行きません?のんびり出来るんですよ」
「イイねえ、行こう。決定ね」
451 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:48
そこの商店でお菓子買ってから行こうかなんて話してるうちに電車が来てしまった。
矢口さんが、よっすぃーまたぼーっとしてんの?なんて言うからあたしはまた慌てて立ち上がる。
「マイペースってよく言われるでしょ、よっすぃー」
「みんなに言われます」

「だろうねえ」
うなづきながらあたしの前を歩いて改札を抜ける矢口さん。
早歩きのリズムに合わせて肩の上で軽く揺れる茶色い髪は、数日前に逢った時よりも少し短くなっていて、それがとても似合うとあたしは思った。
ホームに着いたトコロでちょうど電車が停まったから矢口さんが振り向いて、ぴったしだね、と笑った。

矢口さんの目には、あたしはどんな人間に映ってるんだろうか。
でっかくてマイペースで、たまにぼーっとしてる後輩。
・・それはヤだなー。
自分で考えたくせに何かちょっとヘコんだ。

矢口さんにとってあたし、何かイイトコあるかな?

あたしと遊んで、楽しいかな。

考え出すと止まらない気がした。
452 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:48
何故か冷房のあまり効いていない車内は、可能な限り窓が開け放たれている。
矢口さんと並んで青い座席に腰を下ろすと、走り出した電車のスピードに乗って風が窓から吹き込んで来た。
少しでも窓にアタマを近づけるとめちゃくちゃに乱される髪の毛をお互いに笑う。
それでもあたしは進行方向に向かって風を正面に受けようとしていた。

街が途切れて緑の中を走り抜けると急にひんやりとした風になって、あたしのアタマごと冷やしてくれるような気がする。
あたしは楽しい、いつだって、矢口さんといるだけで。
じゃあ矢口さんは。
そう考えて自分が想像した答えがもやもやとあたしの中を駆け巡って、ため息に変わりそうになったのをガマンした。
そうだよね、優しくて楽しくてカワイイ矢口さんといるだけであたしは楽しいけどさ、大したハナシも出来ないあたしは・・。

がくっ、とココロの中でうなだれたつもりが、どうやら行動に出てしまったらしい。
「何ヘコんでんの?さっきののど自慢思い出して落ち込んでんの?」
矢口さんに言われて、触れずにいようとしていたコトをまた思い出してしまった。
そうだ、さっきのハズカシイ姿をあなたは笑って見ておられましたね・・。

うっうっうっ何も吹奏楽部で音楽コースの矢口さんに聴かれなくても良かったのにあんなの。
「や、もうさっきのは何もツッこまないで下さい」
「何言ってんのさ、辻ちゃんの声ばっかでちっともよっすぃーの声聴こえなくてつまんなかったよー」

矢口さんが口を尖らせてこっちをを見上げると、人差し指であたしの頬っぺたを突付く。
ああもう、そゆコトされるだけでいちいち動揺するんでやめてくだ・・いややめなくてもイイんですけど。
453 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:49
あたしの声が聴こえなくてつまんなかった、ってそれだけでも何だか嬉しい。
あたしの声が聴こえてたらちょっとは楽しいと思ってくれてたかな?
って何かちょーネガティブ星人ぽくなってんじゃないの?あたし。
「聴こえなくてイイです」
「けち」

ちょっとくらいイイじゃん、とあたしの脇腹を軽くどついて、ふう、とため息をついた矢口さんはどさりと座席にもたれ直した。
窓の外を流れる緑を目で追うワケでもなくただぼんやり眺め始めた矢口さんの横顔を見てあたしは、一瞬目を逸らしてしまう。
そんなに深くも長くもない矢口さんとの付き合いの中で、初めて見る表情をしてたから。
もう一度そっと、矢口さんのほうにさり気なく目を向ける。

寂しそうにも見える瞳は明らかに、そこにある何かではなく遠くを見つめてる。
いつもと違って表情のない唇のすき間からは今にもため息が漏れそうだ、とあたしは勝手に思った。
座席の背に肘を置いて口元を支えている手の中で、指はゆっくりとリズムをとっている。

矢口さんが今何を考えているのかあたしにはちっともわからないけれど、矢口さんにそんな表情をさせるようなコトを知りたいとあたしは思った。
コトじゃなくてモノ、モノじゃなくてヒト、なのかもしれない。
あたしの知らない誰かが、矢口さんにそんな表情をさせてるのかもしれない。

今まで思いつかなかっただけのその思いつきにイキナリあたしは目の前が真っ暗になった。
一瞬。
びっくりした。
その想像に想像以上のショックを受けている自分にびっくりする。
454 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:49
矢口さん好きなヒトいるのかな。
彼氏とか、だってカワイイし、男のコがほっとかないよね。
女だってほっとかないけどさ。
やっぱり、考え出すと止まらない。

そうだ、そう言えば。
前に矢口さんが自分で、好きなヒトがいるとかいたとか言ってるのを聞いてあたしは、色んな想像を巡らせてたんだった。
まだ矢口さんのコトを何とも思ってなくって仲良くなってもいない頃の無邪気なおハナシ。
確かあの時矢口さんは、そう思って思わず凝視してしまっているあたしの視線に気づいた矢口さんは、何だよー見んなよう、と照れくさそうに笑う。
もう、いつもの表情に戻っていた。

「ほら、そろそろ着くよ?何でそんなくらーいカオしてんのさ」
スピードを落とした電車が完全に停まる前に立ち上がった矢口さんはあたしの目の前に立って、あたしの髪をくしゃくしゃ撫でた。
やっぱりいつもより近い矢口さんの目線はいつもより上にあって、さっきよりもあたしはドキドキしていた。
何だろう、さっきまでと何かが違う。
どうしたの?あたし。

そんなあたしをよそに矢口さんは、カバンを大きく前後に振りながら電車を降りてホーム歩き出す。
「いでー、当たりましたよ矢口さん」
「あ、そう?ごめんごめん。よっすぃーもカバン振って歩いてイイよ?ほーらキモチイイ」

まあそのキモチはわからなくもないけど。
どすっ。
「だからイタイんですってば」
「へへーワザとだもん」
455 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:50
なぬー!とあたしは叫んで、逃げる矢口さんを追いかけた。
さっきのモヤモヤとかドキドキを、とりあえず忘れたい。
きゃあきゃあと声をあげる矢口さんに驚いて振り向くおじさんやおばさんを追い抜いてあたし達は走り続けた。
清算するのを忘れたまんま通り抜けようとした自動改札に行く手を阻まれるまで。

走りながら慌てて定期を入れたら、ピンポーン!ガシャっ、だってさ。
あたしだけ。
そりゃそうだ、アホだねあたし。
矢口さんはこの駅、通学路だもんね。

改札の向こうで矢口さんは、おとなしく清算機に並ぶあたしを見て笑い転げている。
少しの間だけでも矢口さんがそんなふうに本当に笑ってたからあたしは、良かったと思った。
さっきみたいな表情は、たぶん、一瞬だけのモノじゃないと思うから。
456 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/10/29(水) 22:50
清算を終えて改札を抜け、矢口さんに向かってワザと突進して行ったら今度は逃げないで、何故か両手であたしを受けとめてくれた。
「よちよち、ハズカシかったねーよっちぃー」
「その口調のがハズカシイです」
照れ隠しのあたしのコトバに矢口さんは、ひでぇ、と笑って、あたしの腕をとって、歩き始めた。

「行くべさ行くべさ」
妙なノリの矢口さんに合わせてあたしも言う。
「お菓子買うべさ」
「忘れてたべさ」

近くのコンビニに寄ってあたし達は、お菓子やジュースを必要以上に買い込んだ。
2人分にしては大きすぎる白いコンビニ袋を2人で半分ずつ持って、矢口さんとあたしは再び歩き出した。
457 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/01(土) 15:42
この間とはちょっと違う道、知らない道を選んであたし達は河に向かった。
「何かだんだん遠ざかってない?」
矢口さんが半分持ったコンビニ袋を大きく前後に揺らして言う。
「そんなコトないですよ!何言ってんですか」
ムキになってアセるあたしに矢口さんは、ほんとぉ?なんてイジワルそうに言う。

「だいじょぶですってほら、空がひらけてきましたよ」
「おーホントだ」
ココだと思う曲がり角を曲がると、道の先には堤防が見えている。
視界の隅にある曲がり角のミラーに映るあたし達の姿は小っちゃくて、人形みたいにトコトコ歩いてあたし達と同じようにコンビニ袋をぶらぶらさげている。
あたし達が歩けば鏡の世界の2人も一緒に歩くから、すぐに見切れていなくなってしまう。

それをあたしが振り向いていつまでも見ていたから矢口さんが、何?何かあった?ときょろきょろする。
あたしは適当にごまかしてやっと着きましたねとかナントカ言っていたけれど、2人が歩く姿を見てちょっとニヤケたというのが本当のトコロだ。
「何でもありませんよー。もー矢口さーん遅いー」
コンビニ袋の片方を強引に引っ張ってあたしは、河のほうにどんどん歩き出した。
「ヤグチかよ!ワケわかんないよよっすぃー」
458 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/01(土) 15:43
矢口さんがあたしの歩幅に合わせて急いで歩く。
引っ張られていた(正確にはあたしが引っ張っていた)左手が、さっきまでの重さに戻った。
「へへ、追いついた」
そう言ってあたしを見上げる顔には、電車の中で見せたような翳りはないように見えたからあたしは少し安心する。
どんな悩みや考えゴトだってたぶん、いや絶対あたしには関係のないコトで、あたしと一緒にいる時だけでも矢口さんがそれを思い出さずにいられたらイイなと思った。

あたしに出来るコトがあるとすればそれくらいだ。
悲しみであれ喜びであれ、一日中アタマの中を支配しているような「モノ」はそうカンタンには忘れられないから。

「よっすぃー遅いよー」
あたしを追い抜いた矢口さんが今度は袋を引っ張りながら、黙っているあたしのカオを覗き込んで笑った。
ニヤリと笑ってあたしは、再び矢口さんを追い抜いた。
「負けませんよ?」
「ぎゃーウソウソ、袋ちぎれそうになってるよー」

ほとんど同時に2人で走り出す。
あたしと矢口さんの笑い声が静かな住宅街に響き渡った。
459 名前:太陽は199の敵 投稿日:2003/11/02(日) 04:15
僕らが旅に出るためのもう少しだけマシな理由を探してます。
オッケーよ!なんて強がりばかり言ってますけど。

・・・流線型よ守ってこの僕のこと・・・




酒と音楽と。
460 名前:SSKB 投稿日:2003/11/02(日) 23:45
でたー、199さんまた酔ってるんでしょ。←喜んでる
リラックス・ベイビー・ビー・クール。

てなワケで更新します。


無垢の日々、静けさの時。
461 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/02(日) 23:48
堤防の斜面をそのままのイキオイで駆け登る。
矢口さんが、ぎゃあ、と叫んで滑り落ちそうになっていたからあたしはコンビニ袋を受け取って自分の右手に持ちかえて、左手で矢口さんの右手を掴んだ。
ありえないくらいの馬鹿力を両手と踏ん張った足に集中させる。
こんなにオトコマエでどうする、あたし。

「もうすぐですよほら、がんばってください」
あたしはもうカラダ半分は上にたどり着いていたから、あとは矢口さんだけだ。
「草が滑るよー、っしょっと、うわ」
また矢口さんが滑った。

矢口さんはもう片方の手に荷物を持っているからなかなかバランスが取れないらしい。
あたしはコンビニ袋だけ堤防の上に放り投げて、一気に矢口さんを両手で引っ張り上げる。
イキオイあまって矢口さんはあたしにしがみつくカタチになって、ついでにコンビニ袋を蹴飛ばした。
「ぎゃーあたしのプリン様が!」
「あらま、もうきっとぐちゃぐちゃっすよ」

そゆコト言わないの、とあたしの肩に軽く頭突きをくらわした矢口さんはそのままあたしに寄りかかる。
そしてそれきり何も言わずに俯いてしまった。
「矢口さん?」
答えがない。
好きなヒトとのキョリがほとんどゼロだというどきどきよりも、心配なキモチのが大きかった。
何の気ナシに初めて見てしまった、さっきの矢口さんのあの表情。
462 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/02(日) 23:49
少しだけ陽が傾いてきていた。
昼間よりも涼しくなり、河面を渡る風が一瞬、堤防の上にいるあたし達を包んで通り抜ける。
矢口さんの髪がさらりとあたしの顎を撫でた。

「矢口さん?」
もう一度名前を呼んであたしは、矢口さんの腕を支えている手に少しだけチカラを入れた。
「よーっすぃー・・」
くぐもった声が聞こえる。
まさか、泣いてないよね?

「そんなにプリンがぐちゃぐちゃなのがショックなんですか」
くっ、と矢口さんが吹き出すのがわかった。
「しょうがないですねえ、あたしのヨーグルトと交換してあげ・・ません」
してくれないのかよ!と矢口さんががばっとカオをあげてツっこんでくれる。
笑っている。
良かった。
463 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/02(日) 23:50
「だいじょぶだいじょぶ、プッチンプリンなら丈夫に出来てますってきっと」
しゃがみ込んであたしは袋をがさごそ漁った。
プリンを掴んで空にかざす。
「ほら」
「ホントだ、へへ、良かった」

受け取ったプリンごと両手を自分の胸の前に組んだ矢口さんはそのままあたしを見おろして笑っている。
「ん?」
「スプーンは?」
はいはいスプーン、とあたしは再びコンビニ袋を漁る。

やっさすぃーよっすぃー、うしし、と矢口さんは笑っている。
矢口さんがワザとそんなワガママごっこみたいのをしているのがわかる。
そんな冗談を出来る相手だと思ってくれてるだけであたしは嬉しい。

プラスチックの透明なスプーンを矢口さんに渡して、コンビニ袋を持ったあたしは立ち上がった。
「どこで食べましょっか」
「ココで食べるっす」
見ると矢口さんはもうプリンのフタを半分剥いでいる。
しかも立ったまま食べる気まんまんらしい。
464 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/02(日) 23:52
マジっすか、と言ってあたしは、矢口さんが足元に置いていた荷物も一緒に持った。
「まあまあ、歩きながらどうぞ。もうちょっと歩けば座れますよ」
「ありがとよっすぃー」
コンビニ袋の重さは矢口さんもよく知ってるだろうけど、イイよ自分で持つよ、なんて遠慮してくれないで良かった。
たぶん矢口さんも今は、ワザとそういうふうにあたしに甘えてくれてるのだと思う。

本当はあたしが今日の矢口さんの様子に気づいてるってコトに、たぶん矢口さんも気づいてる。
あえてそれに触れずにいるのが良いコトなのか悪いコトなのかは、わからない。
たとえばあたしが何か言ったとして矢口さんは、どう答えるのだろう。

a.全然、そんなコトないよーほら元気いっぱいじゃない?
b.悩みがあってさー、実はヤグチは今(以下略)
c.よっすぃーにはちっとも関係ないコトだから気にしないでイイよ?

Q.さて、あたしが一番傷つかないのはどの答えでしょうか。

A.ない。あるイミ全部傷つく、かも。しれない。
465 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/02(日) 23:53
「よっすぃー?あーん」
隣を歩く矢口さんが少しスピードを緩めて、あたしに向かってスプーンを差し出す。
「うわあ、あぶねーっす」
そう言いつつも首を伸ばしてちゃっかり口を開けてるあたし。

だってさ、右手にはお菓子の袋でしょ、左手には矢口さんのカバンだもん、自分の手で食べたくても食べらんないしさ。
それに矢口さんのスプーンの先で揺れるプッチンプリンがさ、今にも落ちそうなんだもん、こりゃもうすぐに食べなきゃ。
なんて、一瞬で自分に言い聞かせたりなんかして。

矢口さんが背伸びをして、あたしの口元にスプーンを近づける。
スプーンの先とあたしの口を近真剣な眼差しで交互に見ながら矢口さんは、自分も口を少しだけ開けて声に出さずに、あーん、と言った。
ああ・・もう何なんだ・・そんな目であたしを見ないで・・でもってやっぱりすんごくカワイイ。

ぱくりと食べた瞬間あたしはたぶん、ニヤケてしまってた。
でもそんなコトなんてどうでもイイらしく矢口さんは、上手くあたしに食べさせるコトが出来たのに満足して、1人うなづいている。

あたし達はそうやって、ゆっくり歩いていく。
そうやって、ってずっと食べさせてもらってたワケでもなく、ずっとしゃべってたワケでもなく。
矢口さんの鼻歌なんかを聴きながらあたしは、もう大丈夫なのかな、だったらイイのにな、なんて勝手に思っていた。
何にも知らないクセにね、あたし。
466 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/03(月) 01:59
水際で遊ぶコドモ達の声が遠くに聞こえた。
裸足で駆け回る彼らの姿がキラキラと反射する水面の光を遮り、逆光の中で動きまわる。
あたしはそれを眺めて、少し眩しかったけれど何故かそこから目を離せずに、歩いていた。
急に矢口さんの肩があたしの腕にぶつかる。

「この辺にしよーよ、座りやすそうじゃない?」
矢口さんが立ち止まって周りを見回している。
河に面した斜面の角度が緩やかになっている場所だ。
よっすぃーありがと、と言って矢口さんはあたしの手から自分のカバンを受け取り、あたしの答えを待たずに芝生に腰をおろしていた。

「もう食べちゃいましたねー矢口さん、プリン」
「ね」
矢口さんは、でもまだ色々あるもんねー、とコンビニ袋をがさがさ探っている。
その隣に腰をおろす。
「あいよーよっすぃー」
「どうも」
あたしは矢口さんの手からヨーグルトとプラスチックのスプーンを受け取った。

「食べさせてあげようか?」
目をくりうりさせてあたしのカオを覗き込む矢口さん。
やっぱあたしさっき、相当ニヤついてたのかな?
「結構です。自分で食べます」
ワザと澄ましたカオであたしはヨーグルトを食べ始める。
かわいくないねえ、なんて矢口さんに言われたけど正直、また、あーん、なんてやってたらあたしの神経持たないっす。
467 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/03(月) 02:01
突然後ろから、茶色い物体があたしと矢口さんの間に割り込んできた。
あたしの手元をくんくんと嗅ぎまわる鼻・・わんこだわんこ、柴犬かな、まだ仔犬だー。
「ひゃーカワイイ、うーよしよし」
矢口さんは大喜びで犬のカオを撫で回してる。

「もーあたしが先に食べるんだからちょっと待っててよね」
鼻息荒く2人の間をあっちこっちしている仔犬相手にあたしがムキになってヨーグルトを遠ざけたら、よっすぃーはけちんぼだねえ、ねえ?と矢口さんがヤツに抱きついた。
む、何か悔しい。
「じゃあ矢口さんにもあげませんー」
「イイよー別に、ヤグチはプリンあげたのにさー、ねーちょっとよっすぃーってばヒドイよねえ?」
矢口さんはさらに犬に語りかける。

何だよ何だよジャマすんなよーわんこめ。
せっかく矢口さんと2人で遊んでんのにさ。
あたしのキモチも知らずにわんこは、尻尾を激振りで相変わらずあたしと矢口さんのカオを交互に嗅いだりしている。

遠くで、おじさんの呼ぶ声がした。
途端に犬はそっちに駆け出して行き、あたし達のほうなんて振り向きもしなかった。
「ウチの犬もあんなカンジ、ヤグチが呼ぶととんで来るよ」
「ほえー犬飼ってんですか、初耳だ」
「言ってなかったっけか、クッキーってゆーの」
矢口さんはまだ犬の後ろ姿を見送っている。
468 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/03(月) 02:03
あ、また矢口さんの動きが停まってる。
また何か考えてんのかな。
わんこで何かを思い出しちゃったとか?

「矢口さん?さっきのウソですよ?ヨーグルト食べますよね」
ほんの一瞬だけ間が空いて矢口さんが、食べるー、と振り向いた。
「食べさせてはあげませんよ」
だってハズカシイから。
「えー、やっぱけちんぼだーよっすぃー」

笑ってあたしからヨーグルトを受け取って一口食べると、おー初めて食べたー意外とオイシイじゃん、ともう一口ゆっくり味わっている。
思わずあたしは矢口さんの様子を観察してしまう。

ああもう、矢口さん、とあたしは思った、見てらんない。
やっぱりダメみたい、矢口さんのアタマの中ではぐるぐるぐるぐる何かが回ってるみたいだ。
気がつくとぼんやり遠い目をしていて、またすぐに帰ってくる。
それの繰り返し、なんだと思った。

ちょっと笑ったからって、関係ないあたしといるからって、そんなんじゃダメなんだ。
ほんのちょっとだけ、せつなくなった。
469 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/03(月) 02:04
でもしょうがない。
だって、あたしは矢口さんの何を知ってる?
何にも知らない。
矢口さんがあたしのコトを何にも知らないように。

矢口さんから返ってきたヨーグルトを一気に食べてあたしは、斜面に寝転んだ。
長く長く空を横切る飛行機雲を目で追う。
飲む?と矢口さんがあたしに差し出したペットボトルのお茶を、今はイイです、と断った。
あたしが悲しくなったってしょうがないのにね。

ぎゅっと目を閉じると、ネガポジが反転したみたいな飛行機雲が、あたしの瞼に焼きついたように残っている。
風が静かに、あたしの頬を撫でた。
470 名前:名無子 投稿日:2003/11/04(火) 16:28
最近たくさん更新されてて嬉しいです
矢口さんのことを知っていくにつれていろんな表情に気付いてとまどうよっすぃーがいいですね
恋は楽しいばかりじゃないけど、そこがいいんですよね
471 名前:SSKB 投稿日:2003/11/25(火) 22:24
>>470
レスありがとうございます。
やっと夏が終わります。夏の終わりと秋の訪れ…そんな雰囲気のよっちぃで。


実はこの2、3ヶ月くらい、0のつく日までに最低1度は更新というペースでやってます。
え?どこが?
えーと緑と風と企画、各板のどれかに投稿という自分内ルールですので全然ペースあがってませんよね、フントに。
もうすぐスレ立てして1年でございます。それまでには何とか(ry
                                      ↑「完結」ではありませぬ…スイマセン、念の為
472 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:25
目を閉じたままあたしは黙って、じっとしていた。
矢口さんも何も言わずにいる。
水辺の笑い声を時おり遠くに聴きながら2人、ただ静かに土手で並んでいるだけ。

瞼に裏に張りついた飛行機雲の残像が少しずつ消えていく。
この飛行機雲が消えたらあたしは、こうして目を閉じたまま何を考えてたらイイんだろう。
って、矢口さんのコトしかないじゃん。
隣に座っているけど遠くに行ってる、矢口さん。

さっき駅で待ち合わせた時の矢口さんはきっと、もっとムリしてたんだろうと思う。
あの時の矢口さんはムリしていつも通りに振舞おうとしていたのだと、今はわかる。
あたしと一緒にいるうちに、自分の世界、何かを考え続けている世界に少しずつ戻っているような気がする。

隣で矢口さんがまた、小さく鼻歌を歌い出した。
あたしも知ってるヒット曲。
本当は鼻歌なんて歌う気分なんかじゃない、んじゃないのかなあ。
ムリしてんでしょ、絶対、ってそんなのあたしなんかにわかるワケないんだけどさ!

本当にあたしはもう、何もわからないけどわかった気分になって何故だかものすごく悲しくなってしまった。
何も訊けないあたし。
何も出来ないあたし。
何かを抱えたままの矢口さん。

あたしはどうして今、矢口さんと一緒にいるんだろう。
矢口さんはどうして今日、あたしなんかを誘ったんだろう。

右手に触れる草が指の間をくすぐっている。
あたしは少しいらついているのかもしれない。
ぶちぶちとその草をちぎり続けると、その感触がクセになって止まらなくなっている。
473 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:26
「ねえ、よっすぃー」
鼻歌が不意にやんで少しの間の後、矢口さんが急に口を開いた。
あたしは返事をするにも何だかココロの準備がいるような気がして草をイジる手を止めた一瞬、何も言えなかった。
「あれ、寝てんの?」
矢口さんがそう言うからあたしはワザと黙ったままでいた。

えーマジでー?、矢口さんがつぶやくのが聞こえたからあたしは目を閉じたまま、ぐー、と口に出して言った。
「寝たフリかよー」
笑った声の矢口さんがあたしの頬っぺを握ってむにむにと動かす。
矢口さんの指は少し冷たくて、キモチ良かった。
目を開けると飛行機雲の代わりに矢口さんの笑顔が目に入る。

あたしのカオを覗き込んで楽しそうに頬っぺをいじり続ける矢口さん。
「イタイでふ、やぐひはん」
目を開けて矢口さんを見上げ、あたしはワザとらしくベタにつぶやく。
お仕置きだよーヤグチが呼んでんのに寝たフリするから、と矢口さんは最後にワザとニッコリ笑って、びっ、とあたしの頬を引っ張って離した。
いでー!そう叫んで頬を押さえるあたしを見て矢口さんは、はは、ごめんね?痛かった?と訊いた。

「や、大丈夫です。あたしもやりますから」
「うわーウソウソごめんってばよっすぃー、許して」
起き上がって反撃を始めたあたしの腕を必死で矢口さんが掴む。

コレもたぶん、今だけのコト。
今だけならあたしだって、はしゃいで矢口さんを笑わせるコトも出来る。

さんざん抵抗と攻撃を繰り返して笑い疲れた矢口さんはごろりと斜面に寝転んだ。
「はー笑いすぎた」
矢口さんがそう言って、あたしもそう思って起き上がったまま、河を眺めていた。
昼間の強烈な光を帯びた空とは違う、夏の夕方の明るくて薄い空の色が水面に映ってゆらゆら揺れている。

笑った後だからこそ余計に際立つのだと思った。
一瞬で静かになる隣の空気を感じてあたしは、意を決して口を開く。
474 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:27
「矢口さん」
訊いたら何か、変わるんだろうか。
「んー?」
声はキモチ良さそうだけれどたぶん、さっきまでと何にも変わらないんだろう。
「あの−、矢口さん今日何か、考えてます?ずっと」
んん、と矢口さんは小さく答えた。
それが肯定なのか否定なのかはよくわからなかったけれどあたしは、返事をしてくれただけで何故かほっとする。

「あのね、よっすぃー」
矢口さんが口を開いたのはしばらくしてからだった。
自分で訊いたクセにあたしは、何を言われるのだろうかと少しだけ緊張していた。
間が持たなくてあたしは、矢口さんの隣に寝転んだ。
あのね、ともう一度言って矢口さんは、また黙ってしまう。

矢口さんのカオを見る勇気があたしにはなかったから空を見上げたまま、必死で隣の様子に神経を研ぎ澄ます。
コトバを探して言いあぐねているのだろうか。
やっぱり言いにくいコト?それともあたしには関係ないコトだから?

「んーとヤグチはさ」
再び口を開いた矢口さんはゆっくり、考えながら話し始めた。

「ずっと、部活やってきて、そんで一応今年の夏で終わりじゃん?」
はい、とあたしは相槌を打つ。
正確には終わりだった、なんだけどさ、そう言って矢口さんは小さく笑った。
475 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:27
矢口さん達吹奏楽部は、ほとんど毎年常連だった全国大会に今年は行けなかった。
吹奏楽部員から直接聞いたワケでないけれどあたしは、そのハナシだけは知っていた。
3年生最後の夏、矢口さんの高校生活最後の夏は、そういう夏だったのだ。

「そいでね、ヤグチとしてはもう今まですっごい頑張ってきたのはこの時の為ってカンジでさあ」
あたしは黙ったまま聞いていた。
「なのにさ、なのに」
矢口さんの声がかすかに揺れて、少しずつ押しつぶされていった。

あたしが誰かから聞いた、予選落ちの理由。
誰かが大きくミスったから。
それが誰だとか何年生だとかどのパートだとかも、あたしは知らない。
それが誰のミスであれ、その無念さというのは本人も周りの部員も計り知れないものがあるだろう。

もしかしたら矢口さんなのかもしれないし、他の誰かかもしれない。
けれど今あたしはそれを矢口さんに訊くつもりはまったくなかった。

あたしの隣で矢口さんは右手を軽く自分の口に添えたまま、動かなくなっていた。
空を見上げたままの目はまばたきを何度も繰り返している。
「矢口さん」
あたしが声をかけるとそれを合図にしたかのように矢口さんは、目をぎゅっとつぶり、口を両手で覆った。
476 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:28
声を殺して矢口さんは泣き出してしまった。
あたしは何と言ったら良いのかわからなくて、本当に自分が歯痒かった。
それでも、何か言わずにはいられない。
あたしに思いつく限りの何かを。
「矢口さんが本当に頑張ってたってコト、あたし知ってますよ?毎朝それ見てましたもん」

葉桜の下で、梅雨の合間に、初夏の陽射しの中で、毎朝練習を続けていた矢口さん。
あたしはそれを、知っている。
「だから」
その後のコトバが続かない。

だからイイじゃないですか、本当はそう言いたかったけれどもちろん、そんなコトは言えない。
あたしなんかが「イイ」って言ったってたぶん何にもならない。
部外者としてのあたしが出来るのはきっと、そばにいて気を紛らわせてあげるコトくらいなのかもしれないとも思う。
必死で泣き声を抑えようする様子を見てあたしはたまらず、矢口さんの腕に触れた。

そのままあたしは黙っていたけれど、1人で泣くより少しはマシなんじゃないかと勝手な解釈をする。
一緒に泣くコトは出来ないけれど、矢口さんの華奢な腕には何かが伝わらないかな。
あたしの手のひらから伝わる体温だけでも矢口さんを慰められたら良いのに。

矢口さんが少し近づいてきて、あたしの肩にアタマを寄せた。
涙はやっぱり止まらないようで時折大きく上下するその小さな肩にあたしは手を置いた。
軽く、ゆっくりとリズムをとるように肩を撫でながらあたしは黙っている。
しばらくそうしたままで泣いている矢口さんの髪や小さな手と空を交互に見ながら矢口さんの呼吸や声と、風の音を聴いていた。
477 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:29
「よっすぃー、でもさ、だってね、悔しいんだよヤグチは」
しゃくりあげながら矢口さんが口を開いた。
カオはあたしの肩に埋めたままだ。
「ああすれば良かった、こうすればひょっとしたら、ってまだずっと考えてんの」
自分のコトだけでなく、後輩や吹奏楽部全体のコトもあるのかもしれない。

「でも、イイじゃないですか」
言わないつもりでいたコトバが何故か口をついて出る。
矢口さんにはコレからがある、だから高校生活最後の大会のコトはもう考えたってしょうがない、あたしの本音はそれだ。
反省はするけど後悔はしない。
中学の部活の顧問が好きだったセリフは知らぬ間にあたしの思考回路に影響を与えているようだ。

「部活のは最後ですけど矢口さんはまだ個人のコンクールとかにも出るんでしょう?まだまだコレからじゃないですか」
我ながらナマイキなコトを言っていると思う。
あたしなんて本当に何も知らないクセに。
けれど、そう言わずにはいられなかったのだ。
「コレからまた頑張ればイイんですよ、矢口さん」

矢口さんがゆっくりカオを上げた。
あたしの顎を掠った髪の感触はさっきと同じでさらさらと軽く、心地良い。
「そうかな。そうなんだけどさ。うん」
矢口さんはあたしの目を見上げてつぶやいた。
目は赤く潤んでいるし、涙の跡もまだ乾いていない。

「ねえホントにヤグチさあ、頑張ったんだよ」
鼻をすすって矢口さんが言った。
「だから知ってますってば、あたし、全部見てましたよ」
本当はあたしが全部なんて見てないってコトくらい矢口さんもわかってる。
でもイイのだ。

根拠なんてない。
たぶん今の矢口さんは、誰かにそう言われるだけでちょっとは救われる、ハズ。
もしかしたら、矢口さんがみんなにそれを言う役だったのかもしれない。
一緒に頑張ってきた仲間や先生には弱い部分を見せずに、最後の部活を終えたのかもしれない。
478 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:30
「矢口さんは今までずっと頑張ってたじゃないですか、だから次のステップに進んでもイイんですよきっと、もう」
一瞬だけ矢口さんを中途半端に抱きしめて、すぐに離れた。
泣きたいだけ泣いたら後はもう前を見ていて欲しい、と今のあたしはただそう思うだけだ。
あたしの好きな矢口さん。
笑ってるだけの人間なんていないけど、やっぱり笑ってるカオが好き。

矢口さんは黙ったままでいる。
そしてあたしの腕を掴んでぐぐっとしがみついてきて、ぱっと離れた。
あたしを見上げる目がさっきよりも穏やかで、しっかりしているように見えるのはたぶんあたしの気のせいではない、と思いたい。
「そうだよね。うん、そうする」
でももうちょっとしたらだけどね、最後にそうつけ加えて矢口さんは鼻を大きくすすって、あたしの肩にこすりつける。

「うわっちょっとマジで鼻水はカンベンして下さいよー」
あたしは冗談で自分の肩をこすって確かめるフリをした。
へへへ、と矢口さんは笑って、ヤグチもう頑張っちゃうよ?ホントに、と言った。
良かった。
コレでちょっとは大丈夫になってたらイイな、矢口さん。

あーなんか泣いたらすっきりした、矢口さんはそう言って一度、大きく深呼吸をした。
少し浮かせたアタマを自分の両手で支えると、空を見上げてしばらくすると、目を閉じてしまった。
あたしも矢口さんと同じような格好で、空を見上げる。
ほっとしたキモチは本当は、ちょっとだけフクザツ。
フクザツ?違うか、ほっとした理由がちょっと微妙。
479 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:31
本当はさっき、色んなイミで安心していたあたし。
矢口さんの考え事の中身が部活のコトだと知った瞬間、良かった恋の悩みじゃなくて、とすごく嬉しかった。
それがあたしの正直なキモチ。
もちろんそんなの矢口さんには言えるワケない。

そんなふうに考えちゃうなんてあたしのバカバカ!矢口さんが悩んでるのに!・・なんてコトは当然思わない。
あたしはそこまでの善人でもなければ偽善者でもなく単なる女子高生だし、俗っぽい考えなんて当たり前のように持ってるから。
ゴメンね矢口さん、実はあたしちょっとほっとしてました、と思っているだけ。

あとほんの少しだけ、役得役得、なんて思ってたりして、矢口さんを抱きしめた時。
自分でもエロオヤジっぽい発想だなと思ったけど、ホントにそう思ってたんだから仕方ない。
それでも矢口さんのハナシを聞いてあたしに出来るコトはあるかしらんと思ったのは本当だし、心配なのも本当。

あたしの好きな矢口さんはいつでも笑ってて面白いハナシをしてカワイイだけではなくって、弱い部分もあるし泣いたりもするし、あたしの知らない部分はまだまだたくさんあるのだろうと思う。
コレからあたしはそれを知るコトが出来るのだろうか、それとも出来ないのだろうか。
どうなるかはわからないけれどあたしはすごく、それを知りたいと思った。

「矢口さん」
話しかけるコトなんてないのに何故か、名前を口に出して言ってしまった。
「よっすぃー?」
呼んだだけって答えるのも何だかなあと内心あたしが考えてるのをまさか知らないだろうけど矢口さんは、その先を促さずに続けた。
「ねえ、今日は本当にありがとね」
480 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:33
矢口さんが手を伸ばしてあたしの手を握った。
いつかと同じように小さい手があたしの手を包む。
何に対して矢口さんがお礼を言ってるのかははっきりとはわからないけれど、とにかくあたしが一緒にいて悪くはならなかったというだけですごく、嬉しかった。
良かったです、またいつでも肩貸しますから、なんて言うしかないあたし。

握った手はしばらくそのままであたし達はどうでもイイようなコトをぽつりぽつりと話し続けた。
夏の終わりの匂いがするだとか、矢口さんちの犬の散歩の様子だとか。
不意に、今この時間がこのまま永遠に続けばイイのに、と思った。
ココロの底から。

どこか遠くで5時を知らせる音楽が鳴った。
帰り支度を始めたカラスがあたし達の上空を鳴きながら通り過ぎていく。
あたしはそれでもしばらくこのままでいたいと思っていた。
さっきよりも少し冷たくなってきた矢口さんの手を、あたしが握り直した。
481 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/11/25(火) 22:33
あたしは、矢口さんを好きで一緒にいたら楽しくって、なんて思ってただけのノーテンキな日々はもうどこかに行ってしまってもう戻らないのだというコトを今、知った。
どうやら自分が思ってるよりもあたしは、このヒトのコトを好きになっていたようだ。
すごく、ものすごく。

無期限の時限爆弾があたしの中でカチカチと音を立て始めたような気がした。



482 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 07:46
ずっと読んでるけど、この話ほんとに好きです。
ヤグにますますはまっていくよっすぃーがいい感じです。
483 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 12:20
やぐよし
(゚ ∀゚ )ノシ
484 名前:-じゃっ夏なんで(3)- 投稿日:2003/12/08(月) 21:14
.
485 名前:SSKB 投稿日:2003/12/08(月) 21:18
>>482
ありがとございます。
知れば知るほど、ってのが恋のような気もいたします。

>>483
(0^〜^)ノシ
486 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:19
2学期が始まると毎年、夏の終わりと秋の訪れを実感する。
8月と同じくらいに暑い熱い陽射しになる日もあるにはあるけどどこかパワーが衰え、夕方には明らかに寂しげな空気が漂う。

寂しいついでによくお腹も空く。
食欲の秋とは本当に言ったものだ。
放課後、向かい側の校舎に行くついでに購買でおやつを買うことにした。

「吉澤ー」
購買でパンを買って歩きながら食べていると、後ろから誰かに呼び止められる。
振り向くと、もの凄いイキオイであたしに近づいてきている・・飯田先生。
約1ヶ月半ぶりに逢う先生は相変わらずキレイで、夏の間に少しだけ痩せたような気がした。
「あー先生、お久しぶりです、どうしたんすか」

「どうしたもこうしたもないよー」
飯田先生はワザとらしく眉間にシワを寄せてあたしの左手首を掴むと、あたしがかぶりついたパンをムリヤリ引き抜かせた。
「あはは、あたしの歯型すごくないですか?」
「すごくないよ!」
何?何だろ、先生何か怒ってんの?

「えーとすいませんあたし、何かやらかしました?借りたままの本まだ返してないとか」
それとも食べながら歩いてんのがダメ?
パンのセレクトがNG?ちなみにカレーパンなんだけど。
「もうねえ、悲しいよホントに、吉澤がそんなコになっちゃってもう私はこれからどうしたら・・」
ちょ、待って待って、あたしマジで何かやっちまった?
だんだん芝居がかってきている先生のコトバを遮ってあたしは真顔で先生に尋ねた。
487 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:19
「あの、ホントに何か良くないことしてましたっけあたし、えーっと、すいません」
「あやまる前に」
と、先生はあたしのパンをさっと奪い取る。
ああひどい。
「たまにはさー来てくれるよね?秋でも冬でも」

「ええ?」
イミがわからない。
「だからー、吉澤さ、2学期始まってから1回も朝は来てくれないでしょ?図書室」
「はい」
っと、そのコトか?
「もうさー何か、何て言うの?ちょっと寂しい・・」

なーに言ってんですかー、と笑ってツっこもうとしたら飯田先生が本当に少し寂しそうなカオをしていたのでちょっと驚いた。
「あ、じゃあ明日からまた行きますね」
「何だ、言ったら来てくれんの?」

ははは、と先生は笑って、いや別に、吉澤に用事があるんならホントにイイんだけどさ、と素に戻って言う。
「やー全然、他に用事なんてナイですよ、朝っぱらから」
ええとですね、本当のコトを申し上げますと、朝の図書館に行かなくなった理由。

一つ目、夏休み明けで忘れてた。
二つ目、思い出したけど早起き出来ないままずるずると。
三つ目。
えーと三つ目、吹奏楽部の朝錬に矢口さんがいないから。
488 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:20
・・なんてコトはもちろん飯田先生には言えない。
「や、行きますよーホントに。毎日じゃないかもしれませんけど」
「マジで?言ってみるもんだね。ほら、やっぱたまにはさ、お茶の相手してほしいんだよねー」
うんうん、と1人うなずいて先生は、じゃ、まあホントはいつでもイイからさ、とあたしにパンを返してくれた。

ポケットに手を入れて図書室に歩きかけた先生は一瞬立ち止まって、これからヒマ?と急に振り返った。
「えーと今はあんまりヒマじゃないです、いや予定はないからヒマなんですけどーちょっと、ヒトを迎えに・・」
あたしは向かいの校舎を指差す。
飯田先生はあたしが指した角度と目線をそのまま追った。
「ほー、なるほど」

「じゃ、さ、2人でちょっと寄ってかない?図書室。お茶一杯だけつき合ってよ。って、矢口にも言っといて」
ひらひらと手を振って先生は行ってしまった。
・・すげー、アレだけで何でわかんの?
あたしが矢口さんの教室に向かってるって。

矢口さんはアレから、毎日のようにあたしにメールをくれるようになった。
あたしも同じくらい、メールを送る。
内容はヒトコトフタコトくらいの、くだらないコトばっかり。
それでもあたしは嬉しかった。
2人で河原に行ったあの日以来確実に、あたし達のキョリは縮まった、と思う。
489 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:20
「おお、よーっすぃー」
カレーパンを食べ食べ、校舎の下にたどり着いたあたしの目の前に突然、矢口さんが現れた。
「ごめん、担任のハナシがちょー長くってさー」
「全然大丈夫ですよ?あたしもだらだらしてたんで」
あたしは矢口さんと並んで、今来た廊下をまた戻る。

あたしのメアド何で知ってたんですか?と訊いたあたしに矢口さんは、前にごっちんに教えてもらった、と言った。
だったらあたしに直接訊いてくれればイイのにと思ったけれど、ってまあイイや、何でもイイのだ。
そんなこんなで最近あたし達は、一緒に帰ったりしているのだから。
へへ。
すげーすげー。

「あのー矢口さんさっき飯田先生が、図書室にお茶しに来ないか、って」
「んん?今?」
矢口さんがあたしの左手を掴んでムリヤリ自分のほうに引き寄せると、くれくれ、と言って背伸びしたままあたしのカレーパンに噛みついた。
「そうです。2人で一緒に、って」
「へえー」
んまいねカレーパン、そう言って矢口さんは、しゃあないたまには行ってやるか、と笑って図書室に向かって歩き出した。
490 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:21
久しぶりの図書室・・しかも放課後なんていつぶり?
なんつって、ほんの数ヶ月ぶりだろうけどさ。
「せんせー来たよー!」
「うっさいよ矢口、静かにしてくんない?」
小声で叱りながらも飯田先生は笑って、司書室から出てくる。

「イイじゃんー。誰もいないし」
見ると本当に誰もいないみたい、珍しい。
と、エヘン、オホン、という咳払いが突然聞こえてきた。
どうやら死角になってる席に誰かいたらしい。

ありゃーすいませーん、と矢口さんは小声でそっちを覗き込んだ。
「だいじょぶみたい、全然勉強してなかったよ」
「はは、そういうモンダイじゃないですよ」
「そうだよ矢口、っんとにもう」

にしてもちょうどいいタイミングだったね、今お湯沸いたよ、と飯田先生がカウンターの中にあたし達を招き入れた。
「今日はねえ、ベリースペシャルなコレです」
ティーポットで茶葉を蒸らしている間に先生が、あたし達に説明をしてくれる。
何でも、エリザベス女王が絶賛しているとかナントカ。

カップにそれぞれ注ぎわけて先生が、どうぞ、とあたし達の前に置いてくれる。
一口飲む。
ああ、何かすっごく美味しい、久しぶりだなあ。
じんわり、染み渡る。
初めの何口かを味わうあたし達は、しばらく無言だった。
491 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:21
飯田先生はそんなあたし達を交互に眺めながら、微笑んでいる。
「どう?」
「何か、ダージリンにしては、うーん深いというか、かすかに甘いカンジするよね?」
あたしは矢口さんと違って紅茶には詳しくないしよくわからないけれど、花っぽい、と思った。
そう言うと先生は、さすが吉澤ってカンジだね、と笑った。

「コレ美味しいねー、どしたの先生コレ?」
「ふふん、ヒミツ」
なんでヒミツなのさー、と矢口さんが笑う。
あたしは久々に味わう紅茶にしみじみ、ああやっぱりたまにはこんなふうにごちそうになりたい、と思った。
毎日じゃなくてたまに、というあたしの意思はそのままだけれど。

「先生の紅茶、あたしやっぱり好きです」
「ありがと吉澤ー、だからさ、いつでもおいでよ?」
何だー2人で、ヤグチもイイでしょ?と矢口さんが言った。
梅雨の頃、矢口さんも一緒にココでお茶をごちそうになったのをあたしは思い出す。

「もちろん。っていうか今更何言ってんのーココ来ていっつも紅茶飲んでて、ユニット「タンポポ」作ったのは誰だっけ?」
「そうだけどさあ、最近全然なんだもん」
矢口さんは両手でカップを持って、一口飲むと、ほうっと息をついた。
呆れ顔で先生は立ち上がってまたお湯を沸かし始める。
「全然って、矢口が来ないだけじゃん」

「じゃあ」
口を開いたあたしに、2人同時に注目する。
ううう見られると言いにくいな。
「じゃあ矢口さん、あたしと一緒に朝、図書室に来ません?」
えー!と矢口さんが叫ぶ。
492 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:21
だ、だめ?
「えー、イイよ、イイね」
矢口さんがニコニコと、あたしのカオを覗き込む。
やたっ。
「朝練ないのはイイんだけどさ、みんなと同じ電車だともうラッシュでカンベンってカンジだったんだよねーココんトコ」

「んじゃーとりあえず明日でしょ?明日、決定」
飯田先生が、パン、と小さく手を叩いた。
「なーんで先生が仕切るのさ、ヤグチとよっすぃーのハナシだよ?」
矢口さんが先生にツっこむ。
「イイじゃんちょっとくらい」
「イミわかんない」

先生は毎朝図書室にいるから、ちょっとも何も無条件で明日いるワケで、っていうか先生いないと図書室開いてないっす。
「ねえ?待ってるよー吉澤」
普段クールなイメージで通っている飯田先生に、冗談とは言えそこまで言われてあたしはちょっと照れた。
「なんだよもー先生、よっすぃーばっかじゃん」
口をとがらせる矢口さんに先生が、じゃあ、と言った。
「待ってるよー矢口」
「遅いよ!」

さんざん笑ってあたし達は、前と同じように2人並んでカップを洗って、帰る準備をした。
「まあホントにいつでもイイよ?2人でおいで、とっときのお茶淹れたげるから」
そう言って先生はあたし達を見送ってくれた。
493 名前:秋の流れ 投稿日:2003/12/08(月) 21:22
廊下を歩きながら矢口さんが言う。
「あんなコト言って先生マジでよっすぃーに来てほしそうだよね」
「そうですか?」
そうだよう、と矢口さんはあたしの脇の下をつついた。

「悔しいから明日、いつも通りの電車で行こうかな」
「そんなコト言わないでくださいよ矢口さん!」
本気で慌てているあたしを悪戯っぽいカオして見上げていた矢口さんが、あはは、ウソウソ、と笑った。
「ねえよっすぃー今日さあ、コレから何かお菓子買いに行かない?紅茶に合うお菓子」
そんで明日先生と一緒に食べようよ、良くない?コレ、と得意げな矢口さん。

「イイですねえ。あたしイイトコ知ってますよ」
「へーどこどこ?」
あたしは、ワリと穴場っぽいお店の名前を挙げた。
名前だけは聞いたコトある、という矢口さんに、意外と安くてホントに美味しいんですよ、とあたしは答えた。
「あのー、ほら例のウチの叔母が、一緒に出かけるといつもそこのお菓子を買ってくれるんです」
マシンガントークの叔母のコトを思い出したのか、矢口さんが、くくくと笑った。
494 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/14(日) 23:46
更新乙です
この小説のほんわかしてる雰囲気好きです
続き楽しみにしてます
495 名前:T 投稿日:2003/12/15(月) 00:42
やぐよし大好きっす!!続きがかなり楽しみにしてます!!
496 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 01:41
なんか幸せな気持ちになれた…。
ありがとうございます、作者さん。
これからも頑張って下さい。
497 名前:とみこ 投稿日:2003/12/27(土) 09:34
初めて見ました。頑張って下さい。
498 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/05(月) 17:34
あいう
499 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/05(月) 22:06
あけおめ
続き楽しみにしてます
500 名前:RURU 投稿日:2004/01/07(水) 12:22
保全。
501 名前:サクラ 投稿日:2004/01/11(日) 00:19
初めて読みました!!最高。
502 名前:SSKB 投稿日:2004/01/19(月) 20:41
レス本当にありがとございます。
ばたばたと1ヶ月が過ぎてしまいました、申し訳ないです。
近日中に必ず復活いたしますのでしばしお待ちを。
503 名前:名無し。 投稿日:2004/01/20(火) 04:22
まったり待ってます〜!
関係ないですが、矢口さんおたおめ(w
504 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 10:20
近日再開また〜りお待ちしてます。
505 名前:名無しさん。 投稿日:2004/01/28(水) 19:13
とても面白いです。
近日再開待ってます。
506 名前:SSKB 投稿日:2004/02/02(月) 23:07
大変お待たせしました。
読んでくださってる方、本当にありがとございます。
いつの間にか…もう2月!
ゆるーいハナシ(と更新頻度)にどうかマターリおつき合い下さい。
507 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:08
翌朝、アンタ忘れてんのかと思ってほっといたのに、と言っていたお母さんはぐちりながらもお弁当を用意していてくれた。
暦の上で9月になっただけだし、なんて思ってたけれど。
夏休み前よりも明らかにひんやりとした空気に包まれている駅までの道のりであたしは、夏の終わりが近づくのを実感する。

ひさしぶりに1学期と同じ電車に乗って、ひさしぶりにがらがらの座席に座る。
普段はごった返す乗り換えの駅は当然のように空いていて人影もまばらだ。

階段を下りてホームをふと見ると、矢口さんがすぐ前を歩いている。
「おはようございます」
後ろから声をかけると振り向いた矢口さんが、おーびっくりした、おはよう、と笑ってあたしが追いつくのを待ってくれる。
「やっぱこの電車で良かったんだ?」

飯田先生におみやげ!なんつって昨日2人でお菓子を買いに行ったのは良いけれどそれで満足したあたし達は、お茶してそのまま帰って来てしまっていた。
どの電車とかどこかで待ち合わせるかなんて何にも決めずに。
夜、家で寝る段階になってそれに気づいたあたしもあたしだけど、まあ矢口さんも矢口さん、と言うか何と言うか。
とりあえず図書室行けば逢えるんだしね、別に一緒に行かなくても・・と矢口さんが思ってるかどうかは知らない。

けど、あたしはばりばり思ってる。
矢口さんと一緒に行きたいなあ・・ってでもメールでそれ言うのもなあ、ちょっとだめだ、言えない。
明日何時のに乗ります?なんてメールすんのも何だかなあ、と思って、そのまま。

きっと矢口さんのコトだから、ノリで行きたいんじゃないかなあ、なんて。
ノリで、今着いたからこの電車、したら偶然一緒でおおすげえウチら、なんてコトになる、ハズ。
大丈夫、きっと大丈夫、学校に着く前には逢えるハズ、そんな気がするっす、むにゃむにゃ、なんて具合にあたしは寝てしまったのだった。
508 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:09
「あたしいっつもコレなんですよ。次のにしようかなとも思ったんですけど」
「ウチらより早い電車だってのは知ってたからさ、1本早いのにしてみた」
へへ、ヤグチ冴えてるでしょ?と電車に乗り込みながら矢口さんがあたしに振り向く。
「そういうの矢口さんっぽいですよね」
何がぽいのかときかれてもたぶん困るけど、矢口さんもうなずいて笑ってるから良いのだ。

相変わらず空いている朝の電車。
1ヶ月半ぶりに乗ったけれどいつもの車両、いつもの座席、見渡す光景も変わらない。
アイサツを交わすほどでは全然ないけれど、見知ったカオだらけ。
早朝の電車ってのはどうもそういうコトになるらしい。

いつもと同じヒトが同じ座席で同じような行動、例えば新聞を読んでいたり、居眠りしていたり。
あたしもこの何ヶ月かその中の1人として、彼や彼女らの中で認識されているのだろうか。
今日は友達も一緒らしい、とか思われてたりして。

「よっすぃー?何笑ってんの?」
「や、何でもないです」
濃紺の長い座席に、矢口さんと一緒に腰掛ける。
矢口さんの姿がそのままずるずると下がり続ける。

「いやー空いてる電車ってやっぱキモチイイよねえ、やめらんないわー」
だらけた座り方は一瞬で、すぐに背筋を伸ばして深く座り直す矢口さん。
「でも久しぶりだと眠いー」
「あはは、そうですねえ」
509 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:09
ぷしっ、と音をたてて、手に持っていた缶入りのお茶を矢口さんが開けた。
あーまだぬるそう、と言うのであたしは、ええ?と聞き返す。
「もうホットなんて売ってるんですか」
「や、さっき地元の自販機で買って手に持ったら熱々でちょーびっくりして上見たらさ、あったかぁ〜いって書いてあってもう投げようかと思った」
「あはは」

あたしはそっと、矢口さんの横顔を盗み見る。
矢口さんはぼんやりと、中吊り広告を眺めながら一口、お茶を飲んだ。
あたしも同じモノを眺める。
誰それが不倫、泥沼。
ナントカダイエットが効く。
ほお。

あたしと矢口さんが普段交わすメールの内容は本当に他愛のナイ内容だ。
この中吊り並みに、内容がナイっつーかどうでも良いハナシばっかり。
それでもあたしは嬉しい。
矢口さんとちょっとでも近づいて、ちょっとでもハナシが出来て、ちょっとだけせつなくても、それでもやっぱり嬉しい。

あたしは、とやっぱりたまには思う。
あたしはいつか矢口さんに好きだと言う時がくるのだろうかと。
いやない。
たぶんない。
あたしはこのまま黙って、矢口さんを好きなだけ。
510 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:09
電車を降りててくてく歩く矢口さんは早朝のブルーに澄んだ空気の中で、いつもと同じ矢口さんだった。
やっぱりカワイイ、超ステキ。
身もフタもナイようなコトを実感してあたしは、黙ったまま歩く。
あたしに笑いかけるカオや、缶のお茶を差し出す仕草や、特徴のある声。

いつか思いを告げたらきっともう、その姿はあたしの目の前からいなくなってしまう。
確信もなければ単なる想像と笑い飛ばすコトも出来ない。
あたしはやっぱり女だからこんなふうに仲良くもなれるけど、女だからきっとそれ以上は望めないのだろうという当たり前の現実を改めて認識して、ため息をつく。
そんなの最初っからわかってるのにね。

でも悪いコトばかりでもナイよ。
あたしが女だからやっぱりこんなふうに朝っぱらから2人きりで学校に行ったり出来るんだと思う。
たぶん。
511 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:10
駅から校門までの長い長い道のりを2人で歩く。
逆の道を矢口さんと歩いたコトは今までに何度もある。
でも一緒に学校に行くのは初めて。
今まで何百回もこの道を歩いたコトはあるけれど、こんなに嬉しいキモチで歩くのも初めて。
見渡す限り誰もいない道を歩くのが気持ち良いのは1人の時と同じだけれど。

矢口さんが鼻歌を歌ってゴキゲンになってたからあたしは、歩きながら後ろを振り向いた。
当然のように誰もいない。
毎日同じ制服で溢れ返っているこの道を歩いてるのは今、矢口さんとあたしだけ。

アスファルトもあの山も、風も、あたしの後ろから前に流れていく。
いつもと同じ風景がいつもと違って見えるのが面白くてあたしはそのまま後ろ向きに歩き続ける。

横目で見上げて笑った矢口さんがカバンを持ち替えて、あたしの腕を取った。
矢口さんの歌声が少し、あたしの耳元に近づいた。

普段は、早く着かないかなあなんて思いながらだらだら歩いてるけれど、今朝はまるで逆。
永遠に学校に着かないでほしい。
いつまでもこんなふうに歩いていたいと思う。
512 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:10
矢口さんの澄んだ声があたしの右耳に静かに微かに、響く。
左耳にはひょおひょおと風を切る音。
あとはあたし達の足音がたまにぱたぱた鳴るだけの世界。
あたしの腕に絡む矢口さんの腕にもちょっとだけ、慣れてきたし。
この道が永遠に続けばイイのに。

鼻歌をやめて矢口さんが言う。
「よっすぃーずっと後ろ向きで歩くの?そのうち転んじゃうよ?」
「大丈夫ですよ、矢口さんがちゃんと歩いてくれたらいつの間にか学校に着くハズ、です」
わっかんないよー?と矢口さんがあたしを見上げて笑った。

「こないだこの道、ヘビいたよ?」
「えっ!ウソですよね?」
「ホントホント、踏んじゃってよっすぃー転んじゃうかも」
「げーっ!やめて下さいよ、もう絶対ヤだ」
思わず足を止めてしがみつくあたしを面白がりながら矢口さんは、でもホントだよ?ヘビいたのは、と言った。

「って言うかよっすぃーぐるじいよー、ぐぇー」
「あ、すんません」
矢口さんからパっと離れてあたしは、自分の歩く道の周りを見回す。
いくらイナカだからってよりによってヘビはナイだろう。
雨上がりのミミズくんだけでカンベンして下さい。
513 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:10
あ、学校のすぐ近くまで来てる。
ううう、見なきゃ良かった。
もうすぐ着いちゃうじゃん。

「よっすぃーヘビ苦手なんだ?」
「苦手も何も、本当にイヤなんですよ」
矢口さんがまた、あたしの右腕を掴んだ。
ん?
さっきと同じ後ろ向きのあたしと前向きの矢口さんの組み合わせになってる。

「じゃーヘビいたら教えてあげるからさ、安心して歩きなよよっすぃー」
「ええ?」
優しい矢口さん・・ってか何かちょっと違う気もするけど。
「だって面白いんだもん、よっすぃーが後ろ向きで歩く姿が」
「何すかそれー」

そう言いながらもあたしは後ろ向きのままゆっくり歩き始める。
よしよし、と矢口さんもあたしの腕を掴み直す。
「小学生みたいだね」
「あたしですか?」
「や、どっちも」

カオを見合わせて笑った。
そのうち公園で缶蹴りとか野球とかやっちゃうかもしんないですよ、と言ったあたしに矢口さんが、男子かよーよっすぃーは、とツっこむ。
そういやあたし、ちっちゃい頃みんなと遊ぶんならそんなカンジだった。
女子は何だ?
缶蹴りとか鬼ごっことかなら普通にやるよね?
うちらの周りは男子も女子もみんな外でぎゃあぎゃあ走り回るのが好きだったからよくわかんないや。
514 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:11
あたしの腕を引っ張ってく矢口さんに合わせて道を渡る。
「そろそろ着きますよーお客さん」
言われるまでもなくこの道を渡ればすぐに学校だというのはわかってるのだけれど、あまりにも早くて寂しかった。
「じゃあこのまま学校入りますよ、あたし」
「きゃはは、何それ」

どうせ誰もいないんだし、最後まで矢口さんと腕組んでいたいんだもん。
そのまま校門をくぐる。
「あー、先生おはよー!」
矢口さんが大声で叫んであたしを掴んでるのとは反対の腕を大きく振るから、あたしのカラダも揺れる。
「はは!先生笑ってるよ」

ムリヤリ首をひねって見ると、図書室の窓から飯田先生がこっちを見て1人で爆笑していた。
「アーンタ達、何やってんのーアホっぽくてイイよー」
「よっすぃーがね、どうしても後ろ向きで歩いてみたいんだってー」
言ってないっす!そんなコト。
後ろ向きのまま否定するのもムズカシイからあきらめたけど。

「早くおいでー?お茶淹れてあげるから」
「わーい、よっすぃー早く行こう?」
矢口さんがあたしの腕を掴んだまま走り出したからあたしはバランスを崩す。
「うわ、ちょっとムリですって矢口さん!危ないですってば」
「だいじょぶだよ、ほら、しっかり掴まって」
515 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:12
飯田先生の笑い声がまた響いた。
「矢口がんばれよー」
「まかせて先生!」
「うっそ、ちょっと、うわ待って矢口さん」

きゃあきゃあ騒ぎながらあたし達は下駄箱まで何とかたどり着く。
笑い転げたままクツを履き替え、図書室まで走って行ったら迎えてくれた飯田先生が、何だーココまで後ろ向きじゃなかったの?と言った。
「しまった、ぬかったねよっすぃー」
「もーイイです」

つまんないなあ、と笑う飯田先生に矢口さんが、おみやげだよ、と昨日2人で買ったお菓子を差し出す。
「わーありがと、ココ知ってる、有名だよね」
「よっすぃーの叔母さんの御用達なんだって」
マシンガントー・・と言いかけた矢口さんのカラダをどついてあたしはニッコリ笑う。
「そうなんです」

よろめく矢口さんとあたしを見比べながら飯田先生は笑って、じゃあお茶にしようお茶、と言った。
「めちゃ美味しそー」
歩きながらばりばり包装紙を開けて中身を嗅いでいる先生の後を追ってあたし達はどつき合いながら司書室に入った。
516 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/02(月) 23:15
その日1日あたしはすごく幸せで、今までだって幸せだったけどもっと幸せに過ごした。
何か、なんて言うの?だんだん感じる幸せっていうかじわじわ感じる幸せっていうか!!
単に矢口さんと一緒に学校に来て一緒にお茶しただけなのにね。
あたしの中ではもう、矢口さんがいる生活、に一歩足を踏み入れたような感覚。
・・や、あくまでもあたしの勝手な感覚なんだけど。

あたしはきっと、いつもに増して明るい吉澤さんだったに違いない。
みんなにツっこまれるくらいに。

・・そう、あたしは忘れていた。
あたしの周りはそんなのに敏感なヤツらばっかりだってコトを。
517 名前:とみこ 投稿日:2004/02/03(火) 11:48
いいですねぇー。なんだか学園物らしい景色やなんやら、
想像力がふくらみます。
頑張って下さいね。
518 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/05(木) 17:37
久&乙です
更新キタ━━━(゚ ∀゚ )━━━!!!!!
アホ吉いいっすねぇー
頑張って下さい!!
519 名前:ロマンチスト エゴイスト 投稿日:2004/02/08(日) 03:03
なんかこの作品プリントアウトしてとっときたい感じ。
作者さんは現役学生?
自分そうなんだけど学生時代ってやっぱ特別だよね。
こういう経験がちょー特別に思えるし最高にいい時だと思う。
520 名前:スライト・リターン199 投稿日:2004/02/16(月) 03:24
どうもお久しぶりです。
久々に酒を呑んで気分が良いのでUKバンドの1stばかりに針を落としてます。
リバプール、マンチェスター、グラスゴー、オックスフォード、ロンドンと駆け巡ってます。

アイ アム ザ レザレクション。

521 名前:SSKB 投稿日:2004/02/17(火) 23:03
>>517
ありがとございます。
学園モノと言ったからにはとことん学園モノなのです。
がんがります。

>>518
ありがとございます。
アホ吉にするつもりはないのに勝手にアホになってますこの御方。
がんがります。

>>519
ありがとございます。
作者は現役学生ではありませんが、過去の学生生活は同じくらいおバカに青春してました。
ココのよっすぃーもちょー特別ないい経験が出来るかなあ?
なんて。

>>520
お久しぶりです。
むかーし、自分的青春洋モノベスト(60〜90's)を作ったら一曲を除いてすべてUKバンドになってしまい、笑えました。
199さんとカブる曲も多々あるんでしょうねー。
ちなみに1曲目は、ツカミはオーケイなカンジで「マイジェネレーション」ですた(ベタ好き)。

そんなワケで、更新です。

マイ エヴァ チェンジング ムーズ。




522 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:05
「ねーよっすぃー今日ごきげんじゃない?」
「っていうか最近そんなカンジだよねー」
昼休み、教室で弁当を取り出したあたしにつきまとう2人組、辻と加護。
「そう?フツーだよ?」

「そうかなあ」
加護がそう言いながら、辻の隣の席に自分の弁当を置いた。
あたしと辻は自分達の机を動かしてくっつける。
「ねえ梨華ちゃんもそう思うでしょ?」
電光石火で弁当箱を開けながらウィンナーをくわえた辻が言う。
あたしの隣の席の梨華ちゃんは机の向きを変えてあたしと向かい合わせになった。
「んー。そう?」
梨華ちゃんは、そう言って曖昧に笑う。

「ノリ悪ーい、梨華ちゃん」
「ホントはよっすぃーのコト超見てるクセに」
ねえ?と辻と加護は2人でカオを同時に見合わせた。
そんなコトないよ、と梨華ちゃんはフォークを取り出してもう一度、そんなコトないよ?と眉毛をヘの字にしてあたしを見て笑った。
あたしは一瞬、前に加護が、梨華ちゃんがあたしを好きだと言っていたコトを思い出した。
あの時も今もそれは周りの勝手な冗談だと思ってはいるけれど。
523 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:08
もし梨華ちゃんが本当にあたしを好きだとしたら・・?
いつかあたしに好きだと言うのだろうか、言わないのだろうか。
今みたいに仲の良い友達でいたいと思うのか、それとも?
言ってしまうってどういうカンジなんだろう。

じっと梨華ちゃんのカオを見つめる。
あたしの視線に気づいた梨華ちゃんが、やーだ、何?よっすぃー、と手を伸ばしてあたしの腕を軽く叩いた。
「ホントに何でもないから」
その表情は本当に何でもナイみたいだと思うから、あたしはフツーに、うん、と答える。

「困ってんじゃん、梨華ちゃん」
ごっちんがそう言いながら窓際のあたし達の席に自分のバッグを持ってやってくる。
あたしは別に梨華ちゃんをからかってるワケではなかったのだけれど、それ以上考えるのをやめようと思った。
たとえば梨華ちゃんがあたしを好きだとしても。
周りがどう言おうと関係なくあたしは、本人があたしに何か言わないかぎりは何も変わらない。

でももし、言われたら?
あたしは、梨華ちゃんに言われる自分のコトよりも、何故か矢口さんのコトを考えていた。
もしあたしが好きだと言ったら矢口さんは、どうするんだろう。
もし、たら、れば。
くだらない。
本当にもう考えるのやめよう。
どうしようもない冗談に乗っかって真面目に色々考えちったよ。
524 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:08
ごっちんが、コレ食べるでしょ?と黄色い物体を取り出した。
「おー何それ」
「梨。お母さんが持ってけって」
あら、梨。
梨だって梨。
ごっちんが剥いてくれた梨を弁当の蓋に並べて、みんなの真ん中に置く。

あたしは愛用の水色の短い箸を握り直して梨に突き刺した。
辻と加護が前におみやげと言ってくれた箸は子供用、アンパンマンとドキンちゃんとバイキンマンの絵が描いてある。
近所のスーパーに売ってたそうな。
でもってアンパンマン好きなあたしは嬉しくて超愛用中。

どかっ、という音と共に梨はあたしの机に落ちてしまった。
つるつるとしてるプラスチックの子供用の箸は刺した時のホールド力が弱いのだ。
「3秒3秒、へーきだよ」
みんなが言うから(言わなくてもだけど)あたしはもちろんフツーにその梨を口に運ぶ。
しゃくしゃく、しゃく。

それだけであたしは幸せな気分だった。
梨を食べるだけで自動的に矢口さんのコトを思い出す。
「よっすぃー?よーっすぃ、ねえ聞いてる?」
「んん?ごめん、何だっけ?」
525 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:09
ごきげんアンドトリップしてるんだもんなー、絶対アヤシイ、と加護がニヤついた。
そそそうかなあたし、やっぱりごきげんに見えるのかな、見えるのね。
「アヤシイと言えばさ」
近くの席でパンにかぶりついていた男子が急に振り向いた。

「吉澤、こないだオレ見ちゃったんだけど」
「ええ?何を?」
別にコイツに見られて困るようなコトなんて何もしてない、たぶん。
それ以上に異常な喰いつきの良さを見せたのはもちろん辻と加護だった。
「えー何なに何なに?よっちゃんチューとかしてた?彼氏?彼女?」

大騒ぎの2人の声は当たり前のように教室中に響く。
何?何だって?とみんなが色めきだってあたし達のほうを見ている。
廊下側の一番後ろの男子が弁当を手に持ってから揚げを口にくわえたまま、イスの上に立ち上がっていた。
バカっぽいねホントにもう。

「そんなの別にナイよ、何見たって?いつ?」
あたしは何のハナシだかさっぱりわからないから問い直す。
あー口元にパンのクリームが付いてる・・。
こいつもバカっぽいよホントにもう。
まーあたしもヒトのコト言えないんだけどさ。
526 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:10
「っていうかアンタ、ココ付いてるよ、白いの」
マジ?あ、やべえ、と指で自分の口を拭って舐めながら彼いわく。
夏休みのオレはトレーニングに燃えていて毎日筋トレやら何やらやっててさ、そいで走ったりなんかしてて、と言ったトコロで野次が飛ぶ。

「前置きなげーよ」
「そのハナシは後で聞くから早く本題に入れっつーの」
何だよーみんな冷てーな、と言いつつも彼はハナシを続ける。
「そいで河原走ってたんだよその日。夕方な」

あ、えーっともしかしてあの日?夏休みで夕方の。
河原ってアレだ、矢口さんと・・。
「したらさ、ウチの制服の女子2人が座ってんのが遠くに見えて、へえ、なんて思ってたら」
ふむふむ、とみんながうなずく。
イイからみんな食べなよ、弁当。

「あ、吉澤じゃん、って気づいて、でももう1人がよくわかんなかったんだけどさ」
おおお、と誰かが言った。
もう、何だよ何だよ、イイじゃん別に、何にもしてないし見るなよそんなの!
誰だれ、誰だろね、とひとみ部がそこかしこでつぶやく。
んもー。
527 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:10
「そのうち2人して寝転んじゃって」
あらー何かヤだ、ちょっとその言い方微妙じゃない?
もう、余計なコト言うなよ。
案の定みんなの目つきが変わった。
鋭いアンドいやらしい。

ココはちゃんと、言っとかないと。
「やーみんな、誤解してない?違うよ、マジで寝転んでただけ」
「へえ〜〜」
そろって棒読み。
くそっ。

彼のトークは止まらない。
止めてくれ誰か、マジで。
「んでさあ、オレが通り過ぎた後にね、何か、抱き合ってた!」
どっかーん。
ああ、もう。
ひゅーーーーっ!とみんなが叫ぶ。
バカバカ、もう何言ってんのアンタ!

「や、違うんだって、全然抱き合ってもないし、何もしてないって。っていうか別にそういう関係じゃないよ」
あたしは立ち上がって必死で主張したけれど、みんな聞いちゃいない。
盛り上がりすぎ。
「そういう関係ってどういう関係ー?」
「知らないよーみんなが勝手に想像してる関係ってイミだよ」
よっすぃー言い訳すればする程ドツボにハマってない?とごっちんが笑う。
ああ、ごっちんまで・・。
528 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:11
「ねえ誰?つき合ってんの?ウチの学校でしょ?何年?どこまでいったの?おせーておせーて」
みんなが目を輝かせてあたし達の席のほうに寄ってきた。
例の男子の肩を叩いて、でかした、よくやった、感動した、とねぎらうメンツもいる。
イイよ、そんなのねぎらわなくて!

「もー違うよ、つき合ってもいないし何もナイんだってば、ただ河原に座ってただけ」
「だから誰と?」
ううう、言わなきゃダメなのか?

あたしはアタマの中でアレかコレかと迷っていた。
何を言って何を言わないべきか?。
矢口さんが泣いてたなんてコトは言いたくない。
本当は矢口さんの名前も言いたくない、けど収まりそうにない。
あの時のあの空気を今ココでコトバにしたって誰にもきっとわかってもらえないし、話そうとも思わない。
えーと、でもでもこのままだと・・。

「やーあの時はね、ハナシを聞いてただけなんだよ。本当に」
「誰の?」
よし、決めた、言おう。
「3年の矢口さん」
あたし、声とか上ずってないかな?
フツーに言えてる?大丈夫?
529 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:12
ああ、と言うコもいれば、どんなヒトだっけ?と言う男子もいる。
「ほら、吹奏楽部のすっごい小さいヒトだよ。前にウチの教室によっすぃーに逢いに来たじゃん」
「市井さんと一緒によくいるヒトでさー、ちょっとギャル系に足つっこみかけてるカンジの」
そんなみんなの説明でほぼ全員がわかったらしい。
ほーなるほど、なんてうなずいてる。

「最近一緒に帰ってるみたいだもんねよっすぃー、矢口さんと」
「アレってどうなの?って一部では話題になってたんだけど」
一部ってどこだよ。

前にそれを目撃されてツっこまれた時には、別に、最近仲良くなっただけだよ?とあたしは答えた。
特にこそこそ帰ってるワケでもナイし、実際モンダイ、つき合ってるなんてのじゃーないし。
帰宅部のコたちならもう当たり前のようにあたし達の帰る姿を目にしてるからもう慣れただろうと勝手に思ってる。
矢口さんは最初、2人で帰ったりしたらよっすぃーファンに恨まれちゃうなあ、なんて笑ってたんだけど。

「やぐっつぁんなの?へえー」
ごっちんがあたしを見て笑う。
「何?」
「や、意外だなって」
意外って何が?
まさかごっちん、何かに気づいたワケじゃないよね?

「でもだから、別に本当に何もないんだよ。矢口さんが落ち込んでたからハナシを聞いてただけ」
加護があたしのほうをジト目で見ている。
あーもう、早く信じて。
「本人に訊いてもイイって。誓って何もナイっす。」
残念ながら本当に何もナイっす。
言い訳しながらちょっとだけ寂しくなってきた。
530 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:12
ホントは抱き合ったワケでもなく何もしてないワケでもなく、あたしがただ一方的に一瞬抱きしめただけなんだけどさ。
そんなの言えるワケない。
本当のコトなのに。

どうやらみんなちょっとはわかってくれたらしい。
雰囲気が落ち着いてきた。
よしよし。
「矢口さん落ち込んでたの?」
吹奏楽部のコが訊いてきたから、どうしようかな、と思う。

「うーんと、何かね、色々重なってそれがちょっとアレだったみたい」
我ながら、こういう時の上手い逃げセリフ、って気はする。
「でももうだいじょぶみたいだよ?」
そっか、良かった、なんて言いながらそのコは自分の席に戻っていった。
同じ部活のヒトならそれがどういうカンジなのかってわかるのかな。
あたしは正直、何がどうでどうだったから矢口さんは、なんて全然知らないもん。
531 名前:秋の流れ 投稿日:2004/02/17(火) 23:13
「よっすぃーの献身的ななぐさめで矢口さんはふっかつしたわけですね」
辻がたどたどしく、献身的なんて言うからがっくりきた。
「もー、考えすぎ。あたしハナシ聞いただけだもん」
「そういう時は、まあね、って言いなよ」
加護が要らぬアドバイスをしてくれる。

「つーかアンタさ、走ってる間全部アレ見てたの?ちょっと遅くない?走るの」
みんなにヒーロー呼ばわりされてる男子にツっこむ。
「や、だって気になるからさ、止まってちょっと見てた。しかも通り過ぎて振り向いてまで見てたもん、オレ」
うわー、何だよそれ。
ハズカシ・・。
っていうかキショイ。

みんなはやらしいと連呼しながらも、ひとみ部員としてのあるべき姿、と感心している。
そんなワケないだろ!
誰かまともな感覚のヤツはいないのかウチのクラスはー。
まったくもう。
532 名前:とみこ 投稿日:2004/02/20(金) 10:08
なんだかウワサになりそう?!
梨華ちゃんの気持ちを通じてヤグチさんへの思いも・・・?!
533 名前:名無子 投稿日:2004/02/20(金) 23:17
続きはどんどん読みたいけど終わってほしくない・・・。
楽しみだけどなぜか寂しい、そんな気がします。
534 名前:SSKB 投稿日:2004/03/05(金) 01:00
>>532
ひとみ部にとって吉澤さんのスキャンダルはアリかナシか?
はてさて。
>>533
まだまだ、秋は始まったばかりでございます。
どんどんと言うには程遠い更新頻度ですがご容赦を。

          ノノハヽ
         (0`〜´)<バカヤロー!まだ始まってもいねぇYO!
         /つノノハ
        (  ( ´ Д`),<……
    キコキコ し( O┬O
         ◎-ヽJ┴◎                                …ズレマセンヨウニ

535 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:00
この週末、ウチらの学校は待ちに待った体育祭だった。
応援団のあたしは当然学ランにハチマキ。
結局梨華ちゃんは、あたしのハチマキの端っこに大きく、「吉澤」とだけ刺繍してくれた。
良かった、梨華ちゃんが加護じゃなくて。
ちなみに辻のは本人の希望通り、額の部分に「にく」。
ミート君仕様にしたのはあたしのリクエスト。

今年も一応カクゴはしておいたモノの、写真攻撃がハンパなかった。
しかもしかもしかも、学ランじゃなくって応援団の出しモノの、3人祭(でやった、えーと32人祭だな)の衣装の時が!!
あああ、だいたいなんであたしがあんなロリ服着るんだよーピンクのヅラでミニスカで!

という抵抗はまったく聞き入れられないまま、たまには意外性でファンをゲット、と団員全員に強制されてしまった。
まあ、あたしだけじゃなくてみんな着るからしょうがないんだけどさ。
ファンなんてゲットしなくて良いよ!っていうか逃げてくだろこんなの!

みんなも同じカッコとは言え、本当にハズカシイ。
ちなみに団長を筆頭に男子諸君は衣装合わせの段階から嬉々としてなりきっていて、あるイミそれはあたしよりもオトナって気はするのだけれども見るだけでキショくてたまらない。
野太い声で、なーつのうみは〜、なんてノリノリ。
カンベンして下さい。
536 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:00
いざ、本番。
あたしはもう本当に緊張しまくっていて、準備をすべて終えて集合して、入場の合図を待っている時には既に胃が口から出ていた。
おえー。
ウソだけど。
緊張っていうかあたし、こんなにハズカシイって思ったのって生まれて初めてかもしれない。

係の1年のコが、団長に合図をした。
団長がうなずいて振り向くと、あたし達を見回してニッコリ笑う。
・・キショイ。
真っ青な空をバックにピンク色のアタマがまぶしい。
真剣な眼差しに戻った彼は、行くぞ、と言った。

あたし達はピンクのヅラを一斉に揺らしてうなずき返し、あたし達の入場を待っているグラウンドを見つめる。
隣にいる辻があたしの手を握った。
視線はあたしと同じ、誰もいないグラウンドに真っ直ぐ向けられている。
「よっすぃー」
「・・何?」
こんな時に何だ。

「ののね」
「うん」
・・・・・・・・・。
何だよ早く言えよ。
537 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:01
あっと思った時は遅かった。
辻はあたしのスカートをばっとめくって駆け出して行った。
あたしのだけじゃない、何人斬りだろうか、次々とみんなのスカートをめくり続けている。
きゃあとかぎゃあとか思わず叫んでスカートを押さえるあたし達。

見せパン穿いてるとは言え、そりゃナイだろう。
それにしても習慣だね習慣、スカート押さえてしまうのは。
いやいやキミら男子は習慣じゃなくって楽しんできゃあとか言ってるでしょ?

ちょうど同じタイミングで入場の音楽が鳴り出した。
あたし達は入場と言うよりも辻を追いかけてグラウンドに走って行ったようなモノだった。
本当なら辻をぼこぼこにしてやりたいトコロだけれど、時間がない。
自分のポジションについて曲のイントロを待つあたし達は、本番はコレからだっつーのに肩で息をしている。

まーでも結果的には辻のスカートめくりに気をとられて、緊張もぶっ飛んだと言えなくもない。
ミニスカにピンクのヅラ、ノースリーブにへそ出しのあたし達ははじけまくって、大喝采を浴びたのだった。
538 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:01
あたしにとってはその後のがモンダイ。
やっとの思いで踊り終わってとっとと着替えようと走っている時に呼ばれる呼ばれる。
「吉澤さん!かわいー!写真撮って良いですか」
「女のコっぽいのも素敵です」
カッコイイヨシザワサン、を好きなんだと思ってた後輩達が意外な程寄ってくる。
ええい、こんなハズでは。

あたしには珍しく男子からも声掛けられたりして。
主に3年生の皆様方。
「辻ちゃんって一緒じゃナイの?」
「よぉっし、次はーあっちだ」
なんて具合に、すぐに他の団員目指して走って行く。
どうやら32人祭の写真コンプを競ってるらしい。
さすがです。

「よーっすぃーめちゃキュートだねえ、写真撮ろ?」
着替えが置いてある体育館にやっとたどり着いた時に声をかけてきたのは。
ああああ、矢口さん。
ニコニコしてる。
もうヤだ、ハズカシイ。
「や、もうあたしマジでハズカシイんです。こんな姿で写真なんてホントやばいっす」
「なーんでさー。イイじゃん、お願い」

矢口さんは友達にカメラを持たせて、嫌がるあたしの隣で、イイじゃんイイじゃんと連呼する。
「後でヤグチ何でもしたげるからさ、だってよっすぃーカワイイんだもん」
「えー」
「ほら、チュッてやろうよ、2人で」
「ええー!」
539 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:02
矢口さんがチュッとあたしにくちびるを差し出した。
カワイイとかそういうレベルのハナシじゃないです。
あたしは自分のカオにのぼってくる血液のイキオイを止められなかった。
「よっすぃーぽけーってなってるよ」
話したコトのない、矢口さんの友達さんがカメラを構えながら呆れて笑っている。

矢口さんがあたしによく見えるように向き直る。
「よっすぃーもやってみ?さっきの本番の時みたく照れながらやったらカワイくないんだってこーいうのは。ほら、チュッって」
ヤバイ、犯罪。
殺人的なカワイさ。
誰か助けて。

「しょうがねえなあ、あたしもやってやるから吉澤、やんなよ」
どこからともなく市井さん登場。
何故に。
イイ時に出てくるよなーこのヒトいっつも。
3年の出し物は最後のほうだから市井さんはあたし達のをじーっくり見ていたんだろう。
オモロかったよ吉澤、アレ、なんつってもう余裕の表情でこっちに歩いて来る。

市井さんが突然たたたとあたしの横にダッシュして来て体当たりを喰らわせた。
「ほら、コレで3人祭じゃん、チュぅーーっ」
あたしの両隣で2人がカメラに向かって唇を差し出している。
あーもう。
早く終わらせてとっとと着替えよう。
ち、ちゅっ・・。

体育祭の次の週の加護の報告によると、この時の3人の写真が一番よく売れたそうな。
っていうか何で加護があの写真売るんだよ、おかしいだろっ!
どういうルート持ってんだアイツは。
540 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:02
この後市井さんは右手に矢口さん、左手にあたしを配してごっちんのトコロに連れて行ってくれた。
前々からあたしはごっちんに、体育祭の時の弁当はウチにまかせてと言われていたからおコトバに甘えてそのつもりだったのだけれど。
矢口さんも一緒だとは。
ううう嬉しい。
のはイイんだけど市井さん!あたし、まだ着替えてないっす!
何でこんなカッコでごはん食べなきゃいけないんだろう、あたし。
3人並んで手をつないで歩く様はそれなりにアレで、またまたあたし達はそこここで写真を撮られては、いちいちポーズを取る市井さんを引きずって歩く。

高校生ともなると家族ぐるみで体育祭を見に来る家庭なんてのはほとんどいない。
ほとんどの生徒はいつものようにいつものメンツで教室に戻っていつもと同じような弁当を食べている。
けれども後藤家では、運動会と言えばいくつになっても当然のように一家総出の行事らしい。

1人や2人増えても変わんないよ?とごっちんが言ってたのも納得。
後藤家のブースは異様に広い。
そしてヒトが多い。
料理の量もハンパない。
赤ちゃん抱いてる男のヒトとかいるけど、アレがウワサのおねーちゃんのダンナさんかな。

「もー何してたのーいちーちゃん」
「ゴメンゴメン、吉澤がモテモテで写真撮られるたびに立ち止まるからさ」
「うわー何言ってんすか!違うよごっちんーそれ市井さんだかんね?」
「ハハハばっかだよねー紗耶香」
いつもの会話も大家族の中では埋もれがち。
ごっちんの弟くんはお母さんと何やら言い合ったりしてるもんね。
あ、叩かれてる。
541 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:02
辻と加護はひと足先に来て座っていて、もの凄いイキオイで重箱から自分の皿に料理を取り分けていた。
あたし達には目もくれない。
キミらスゴイよ相変わらず。
梨華ちゃんは?と声を掛けたらヒトコト、部活で食べるんだってさ、とだけ答えてまた食べるコトに夢中になっている。
ひと通りごっちん一家の皆さんにアイサツをしていたら、ごっちんのお母さんがバッグの中からビニールシートを取り出した。
「よっすぃー達はほら、こっちに来てそれ広げてくっつけて。たくさん食べてね」

よく見るとごっちん家のブースは青いビニールシートだけでは足りずに、不法建築並みに小さなシートを敷き足しているのだった。
お礼を言ってあたしと矢口さんは、辻と加護の隣のスペースにシートを広げて座り込む。
はいコレ、と加護があたし達に新しい紙皿を手渡してくれた。
「このから揚げめっちゃうまいー」
口いっぱいに頬張りながら辻が悶えるのを見て喜んだごっちんのお母さんが、色んなモノを辻の皿に勝手に置いていく。

いやしかし本当にシャレにならない重箱と弁当箱の数。
こういうノリなら遠慮は無粋。
吉澤さん、張り切って食べちゃうよ?
見ると市井さんは凄まじいイキオイでおにぎりにぱくつき、冗談を言ってはごっちん一家の皆さんを笑わせている。
さすが、きっと市井さんはごっちんの家族からも気に入られてるんだろうなあ。

「よっすぃー、こっちのどれがイイ?取ったげるよ」
あたし達の目の前に置かれたのとは別に、矢口さんの近くにある重箱に手を伸ばしながら矢口さんが言う。
「あ、じゃあ全部1コずつ取ってもらえます?」
マジでー?と矢口さんは笑った。
矢口さんに渡された皿には、一口カツ、焼き鳥、牛肉のしぐれ煮、から揚げ、サイコロステーキなんてのがちょっとずつ載っていた。
お肉さんチームだったのか。
すげー組み合わせになってしまった。
542 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:03
あたしが焼き鳥を串からバラしていたら、真上でトンビの鳴く声がした。
「怒ってんじゃない?鳥だから」
「コレはニワトリだからたぶん大丈夫です」
マヌケな会話を交わしつつ見上げた空は、高く高くどこまでも青く、トンビは遥か彼方でゆっくりと弧を描いていた。
思えば小さい頃から運動会って、いっつもこんな空でこんな天気で、本当にキモチ良かった覚えがある。

こんなふうにみんなでお弁当とかって本当に楽しくてキモチ良い。
たくさん運動して、たくさん食べて、空は青くて。
あたしは今この瞬間、本当に幸せだなあ、と思う。
「よっすぃーうずらのゆでたまごも好きなの?」
「もちろんです」
隣には矢口さんがいるし。

満腹になるまで食べまくったあたし達は見事、重箱をすべて空にした。
感嘆しながらもごっちんのお母さんとお姉さんが、来年も作り甲斐があるわねえ、なんて1年後のメニューのハナシまでしている。
「じゃああたし、来年も楽しみにしてますから」
そう言った市井さんにみんなで総ツッコミ。
でもホントに食べに来そうだよねこのヒトは。

ごっちんのお母さん達にお礼を言って、あたし達は自分の席に戻った。
充実したお腹をさすっているとクラスの男子が、そんなに食ったの?走れんのかよ、と言う。
ふふふ、まっかせなさーい。
あたしの照準は最後だよ最後。
まだあと2時間くらいあるのだ。
その頃にはさっき摂取した栄養があたしのカラダ中に行き渡ってる、予定。
543 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/05(金) 01:03
果たして2時間後のあたしとごっちんはそれぞれ、プログラム最後の恒例、男女混合チームリレーで3年チームを抜いたのだった。
足が速いのだけが取り柄の団長はアンカーを務め、長いはちまきをなびかせながら見事トップでゴールした。
それだけでもう十分、場内は沸きに沸いた。
握ったコブシも高く、声が枯れるまで叫ぶ総立ちの同級生たち。
あたし達2年生が全員一丸となって何かをしてるなんて、初めて実感した気がする。
久しぶりに血が沸騰するくらいにコーフンしたなあ。

あたし達の体育祭はそんな具合に、相変わらずのノリ、プラスアルファで楽しく幕を閉じた。
ちなみに結果は。
最後のリレーの健闘とあたし達の気合も虚しく、勝ったのは・・だったのだけれど。
歴代最強と言われてる市井さん達だもんね。
そうカンタンに勝てるわきゃナイんだけどさ。
まあイイ。

ウチらにはまだ来年がある。
来年はもちろん優勝なのだ。

鼻息荒く解散した応援団、やーマジで頑張ったってばあたし達。
泣くなよー団長。
来年もあたし、がんばるからさ。
544 名前:T 投稿日:2004/03/06(土) 21:35
いつも楽しく見させてもらってます!
よしやぐ大好きだしこの学園物も大好きです!
これからもがんばってください!
545 名前:SSKB 投稿日:2004/03/18(木) 10:42
>>544
ありがとございます、がんがります。

ちょこっと更新で申し訳ないのですが、生存報告も兼ねて。
546 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/18(木) 10:43
ちなみにあの時の写真をあたしは、矢口さんから見せてもらった。
っていうか勝手に見せられた。
一緒に歩く帰り道で、ムフフ、と矢口さんがカバンを探ってるから何かと思ったらそれだよ。
あー、別に見たくない。
でも矢口さんと一緒に撮った唯一の写真だ・・と思って覗き込む。
右のヒトがジャマだね、あたしの右側で短い前髪で、白目寸前でちゅーってしてるヒトね。
もうホントに。

写真の中のあたしは、本当にハズカシそうにチュッとしてた。
思い出しただけで赤面モノの格好。
「この写真いる?いるよねよっすぃー」
「ええーいらないっす」
なーんでさー、と矢口さんが口をとがらせる。

「せっかくヤグチと一緒に撮ったんだからさあ、持っといてよ、ほらほら」
しぶしぶ写真を受け取るあたしを満足そうに眺める矢口さん。
そうだ、そう言えば、と突然叫んであたしの腕を叩いた。
「そういやあん時さ、ヤグチ何でもしてあげるって言ったんだよね、イイよ?何でもしたげるよ?」
あたしのカオをニコニコと覗き込む。
547 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/18(木) 10:43
「ええと、そうでしたっけ?ハズカシくて全然覚えてないです」
「言ったよ?言ったの。だから遠慮せず何でも言いな?よっすぃー」
キラ目の矢口さんがあたしのカオを見上げてる。
急に言われてもそんなの思いつかないし、別に何でもしてくれなくても全然良いんだけどな。
でも。
「あの、じゃあ」

うん、と矢口さんがうなずく。
「あたしと、デートしません?」
デートだって。
勇気を出して言ってみたりして。

「なーんだよ、そんなんでイイの?イイよ、今から行こう?」
欲がナイなあよっすぃーは、なんて矢口さんは笑っている。
やった、デートで良いんだ。
いえーい、と喜ぶあたしに矢口さんは、別にいつもと変わらないじゃんか、と笑った。

いつもと変わらない・・矢口さんにとってはそうなんだろうな。
一緒に歩いて一緒に帰って、たまにお茶して。
でもあたしにとっては、デートったらデートなのだ。
うん。
548 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/18(木) 10:44
どこ行く?なんて言いながら矢口さんは、遠くを指さした。
「アレ乗ろうよ」
見ると、バスが小さく、こちらに向かってるのが見えた。

あのバス。
「やったー公園デートだ」
あたしは本当に嬉しくて、ガッツポーズを作ってしまう。
「休みの日ならヤグチ、お弁当作ってきたのにね、まあそれは今度で許して」

今度?お弁当?休みの日?
あたしの中で矢口さんのコトバがぐるぐる回る。
バスがすぐ先の停留所に停まった。

「行こう?」
矢口さんがあたしに向かって手を差し出した。
どぎまぎとその手を握るあたしに矢口さんが笑いかける。
「デートだもん、ね?」

うわーもう嬉しくて鼻血出そう。
ぶぶぶー。
何これ何これ。
どうしよう。
549 名前:名無子 投稿日:2004/03/19(金) 00:22
ゆっくり読みたいので少しずつでも大満足です。
すごく幸せ過ぎてどうしよう、しみじみかみしめながら読んでいきたいです
550 名前:名無しィー。 投稿日:2004/03/19(金) 18:05
可愛い・・・!
551 名前:とみこ 投稿日:2004/03/22(月) 09:26
空板で同じくよしやぐ書いています。最終作です。
矢口さん、可愛いすぎ!!!悩殺です。
頑張って下さいね!!!!
552 名前:SSKB 投稿日:2004/03/30(火) 16:31
皆様、レスありがとございます。

もう、あのーホントがんがります。
全然余裕がないまま書き続けてます。
まだまだ完結には程遠いおハナシなので、ゆっくりおつき合いください。
553 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:32
数ヶ月ぶりの公園。
秋空は深く高くつき抜ける。
あの日青々と茂っていた樹々の勢いも衰え、全てのモノの色が薄くなりつつある、と思う。
けどそれも悪くない。
この間と同じ売店に寄り道して、あたし達は歩き出した。

バスに乗って席に座る時に、つないだ手は離してしまってそのまま。
あたしの右手は手持ちぶさたにスカートのポケットから出たり入ったり。
話すのはいつもと同じ、他愛のないコトばかり。
矢口さんが言うように、いつもと同じ、何も変わらない時間を過ごしてるんだろう。
それでもイイと思う。
デートという名前でもそうじゃなくてもやっぱりあたしは、矢口さんといるだけで嬉しい。

平日のこの公園は相変わらず静かだ。
芝生を踏みしめるあたしと矢口さんの足音だけがやけに大きく聴こえる。
意識してそうしているワケでもないのだけれどあたしは、矢口さんよりも遅れて歩く。
前を行く矢口さんの背中は小さくて、ゴムをほどいた髪が制服の肩のあたりで揺れている。
かすかな風が一瞬あたしと矢口さんの間を吹き抜けて、また静けさを運んできた。

矢口さんの後ろ姿が大きく伸びをして空を仰いだ。
「最近は本当に過ごしやすくなったよねーキモチイイ」
振り返った声が乾いた空気の中を真っ直ぐに通り抜けて、あたしの耳に届く。
「ですね。陽射しも強くないし、ごろごろするにはちょうど良いかも」
答えたあたしの声は何となくいつもと違って、あっという間に空気に吸い込まれてくような気がした。

すべてをひっくるめて温かい大きなカタマリみたいな空間を2人で歩く。
光と気温が心地良く、あたしの中でじんわりと音たててカラダ中に染み渡る。
554 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:32
矢口さんが急に、こないだはさ、と口を開いた。
しばらく間があるから、何だろうとあたしは思う。
「こないだ?ですか?」
前を見たまま矢口さんは、うん、と答えた。

「こないだよっすぃーがね、いてくれて」
あの時の河原のコトか、と思い当たったけれどあたしは何も言わない。
「ヤグチさー本当にやっと、肩のチカラが抜けたと言うか何と言うか」
静かな口調で続ける矢口さんのコトバをあたしは黙って聞いている。
矢口さんは元々ゆっくりだった歩調をさらにゆるめて一歩一歩足を運ぶ。
あたしが追いつくまで待っていてくれてるのかもしれない。

「よっすぃーが言ってくれたコトとか、後から思い出してもう1人でさ、超がんばろうとか思ったりとかさ」
へへ、と照れくさそうに、並んだあたしと一緒に正面を向いたまま矢口さんが笑った。
あたしはあたしでハズカシイから同じように前を向いて、遠くに見える樹を眺めながら、へへへ、と笑い返した。

「んで。あん時思ったんだ、すごく」
一旦途切れたコトバのその次がまた続かない。
あんまり長いんで思わず矢口さんのカオを見て先を促してしまう。

矢口さんは少しだけうつむいて、芝生を蹴る自分の足先の動きを目で追っている。
「好きだなあ、って」
「へ?」
含み笑いをして矢口さんはあたしのカオを見ないまま、言った。
「そういうのを。よっすぃーを」
555 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:33
「ん?えっ?」
絶句したあたしはそこで立ち止まってしまう。
えーと、アレ?
何だっけ?えーとえーと。
ももも、もっかいプリーズ?

立ち止まったまま動かないあたしの腕を取って矢口さんがゆっくりと歩き始める。
「何かぱっと光が差し込むみたいにさーあの時、なんつーの?ヤグチはすごい、救われたんだ」
あたしは何も言えない。

どくんどくんとカラダ中が脈打つのを、こっそり深呼吸してバレないように抑える。
抑えてる、つもり。
何か、何かコレってさ。
ああどうしよう。
そんなあたしに構わずに矢口さんは続ける。
「それはやっぱりよっすぃーのコトバとか、んーと存在が、もうそれだけで」

あたしの左腕に触れる矢口さんの手とカラダをいつも以上に敏感に感じてしまう。
どきどきしながらも、矢口さんのコトバを一言一句聞き逃さないように集中する。
「すごいなあって思ったの、それが。で、ウチ帰っても残ってて、次の日も1日残ってて。よっすぃーのそういうのが」

矢口さんがアタマを少し傾けて、あたしのカオを見た。
照れくさそうなカオをしている。
のは何となくわかるんだけどあたしはそのカオをマトモに見られない。
笑いたいんだけど笑えない。

だだだって、だってさ。
コレって何?アレ?どれ?
あたしはたぶん、そういうどうしようもないカオをしていたんだと思う。
矢口さんが笑いながら背伸びしてあたしの肩を軽くどついた。
「でもホラ、っていうかそゆんじゃなくてさ、そーいうんじゃなくてー」
556 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:33
あ、ですよね。
そーいうんじゃなくってね。
でもでも。
そういうのでもそういうのじゃなくてもどうでも良かった。
いやホントは良くないんだけどこの際どうでも良いと思った
「そいでよっすぃーともっといっぱい仲良くなりたいな、ってさあ最近。一緒にいると楽しいしほっとするし」

あーどうしよう。
ヤバイ、嬉しい。
そーいうんじゃないって言われてるんだけど、イイや。
このまま空に羽ばたいてってしまいたい気分。

「や、でもだからってそれだけじゃナイんだけど、あのー、だから仲良くなりたいってコトだけでもなくてね」
矢口さんがあたしの腕を握ったままぶらぶら揺らす。
と、いうカンジなんだけどさあ、あれ?よっすぃーこゆのダメだった?と矢口さんがあたしのカオを覗きこむ。
「いえ、あのー」

何と言えば良いのだ?いやマジでマジで。
コトバが続かない。
「えーと、違うんです」
何が違うんだよ!

矢口さんがあたしを見つめて、んん?と言った。
「ホントに良かったです、お役に立てて、はい」
・・冴えない。
我ながら冴えないヒトコトしか言えなくってがっくり。
だって、気の効いた返事なんて言えるワケないよ。
今のあたしは、必要以上に動揺してるココロを抑えるのにいっぱいいっぱい。
557 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:34
本当は、さっきの矢口さんのコトバのホントのイミを訊きたくてたまらない。
そーいうのじゃないって、どーいうのじゃないんですか。
とか言って矢口さんがあたしを好きだと言うのは本当はいわゆる重いイミだったりしませんか?それともやっぱり軽いイミだけですか。

あたしの中のあたしを守るココロは、そんなの軽いイミに決まってんじゃん?と言う。
あたしの中のご都合主義のココロは、ひょっとしたら重いイミなんじゃん?と言う。
どっちが天使でどっちが悪魔なのかもわからない。
さっきそーいうのじゃないって矢口さんあわてて言ってたじゃん、と守るほうのココロがまた大声で叫んだ。
そうか、やっぱりそうだよね。
うん。
そらそうだ。

挙動不審なあたしを見て、ははーオモロイねよっすぃー、と矢口さんが言った。
「まあヤグチは勝手にそう思ってるワケなんだけどさ、んー、何か微妙だった?」
「そんなコトないです、そうじゃなくってえーと、違くってあたし、ちょっとアドリブ効かないカンジで」
何言ってんだあたし。

矢口さんがまた、はは、と笑った。
「たかがヤグチぐらいでそんなに動揺しなくってイイのに」
「しますよ!しますってば、しないワケないじゃないですか」
たかが矢口さん、じゃないもんあたしにとっては。
本当に大好きな、矢口さん。

矢口さんは、何だよそれー、とあたしの腕を軽くどついて、この辺にしよっか、と言って立ち止まった。
思わずムキになってしまったあたしにツっこんでくれなくて良かった。
今、冗談でも何か追及されたらあたし、ついつい言ってしまいそう。
あたしの本当のキモチを。
このまま言ってしまったらきっとこんなふうに過ごす時間は失われてしまうのだろう。

・・違う、言ってしまいたいと思うのも事実。
言わずに済んでほっとする、言ってしまえなくて残念。
どっちも本当。
558 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:35
芝生に腰を下ろした矢口さんは、こくこくとペットボトルの水を飲み出した。
「座んないの?よっすぃー」
ぼんやりと立っているあたしを見上げた矢口さんが、不思議そうに言う。
あたしの中では今、はっきりと姿を現した天使と悪魔が、言いたいキモチと言いたくないキモチが格闘していた。

そんなの、言わないほうがイイに決まってんだけどさ。
そんなの、最初っからわかってんだけどさ!
だって言えるワケないじゃん!

ええい、もう。
天使と悪魔をアタマの中から追い払って、矢口さんの斜め横あたりにやけになって座る。
聞こえないように吐き出したつもりの小さなため息は、敏感な矢口さんにはバレてしまったらしい。
「ため息ついたら幸せ逃げるって言うけどさ、たまには悪くないよね」
それだけ言って矢口さんは、腕を伸ばしてあたしの背中を撫でた。

矢口さんへのキモチが、自分で考えてる以上にいっぱいででもどうしたらイイのかわからないあたし。
何も知らずになぐさめてくれてあたしに触れたりする矢口さん。
やるせ無さと自分のふがい無さ、矢口さんの優しさがぎゅうぎゅうとあたしの胸をしめつける。

本当は楽しいだけで良いハズなのに。
本当はこのままで良いハズなのに。
もどかしくてせつくて、泣きたいくらいだよホントにもう。
なんてアリガチなコトを思ってたら、本当に涙が出てきてしまいそうな気がした。
559 名前:秋の流れ 投稿日:2004/03/30(火) 16:35
笑えないトコロを見られたくなくて、あたしは寝転んで腕をカオに乗せた。
「芝生くっついちゃうよーよっすぃー」
「・・イイんです。制服だから」
いつかと同じような会話。
あたしが今ちょっとおかしいなんて、お願いだから気づかないで矢口さん。

・・気づいて矢口さん。
気づかないで矢口さん。
気づいて。
気づかないで。

ああ、もう。
あたしの中のヨコシマな感情がずるずるとキタナイ音をたててあたしのココロの中を回り続ける。
もうイヤだ。
こんなのあたし、サイアクじゃん。
ごめんなさい矢口さん。
560 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/30(火) 18:52
はじめまして作者様。
何だろう、自然と涙が出てきました。
取り戻せない時間をこんな風に
過せたらどんなに幸せだろうと感じます。
ゆったり更新待ってます。
561 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/30(火) 18:54
わー・・・
よっすぃー切ネイ・・
これからもがんばって下さい
562 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/31(水) 02:13
よかった、すごくよかった。
ぐっときました。
563 名前:とみこ 投稿日:2004/03/31(水) 18:45
切ない・・・。涙がでました。
564 名前:名無子 投稿日:2004/03/31(水) 22:33
何か書こうとしても上すべりしてしまって・・・。でも本当に大好きです。
565 名前: 投稿日:2004/04/01(木) 01:13
毎回、楽しんで読んでます。自分は、やぐよし好きなんでかなりはまってます。
ここのやぐよしは、なんか新しい感じで好きなんで、更新を楽しみにしています。
頑張ってください!
566 名前:SSKB 投稿日:2004/04/11(日) 01:35
皆様、レスありがとうございます。
本当に。

背筋を伸ばして更新します。
567 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:36
自分の腕の中で固く目をつぶる。
光のない世界であたしは必死に耐えていた。
さっきの感情が何度もあたしをつついたけれど、負けないようにぐっと歯を食いしばる。
本当の本当にカッコ悪くて情けない自分の姿を矢口さんに見せないように、気づかれないように。
早くいつもどおりの自分に戻れるように、頑張れよ、あたし。

暗闇の中で客観的に見た今のあたしの姿はやっぱり、単なるいやらしくてイヤなヤツ、だった。
このままじゃあたしは、好きでいるコトすらはばかられるくらいに矢口さんに見合わない人間にしか思えない。
ありのままのあたしでいたいのは事実だけれどそれよりも、矢口さんの傍にいるのにふさわしい後輩、でありたい。

あたしが思う矢口さんは、アタマが良くて優しくて強くて弱くて、正直なヒト。
なのにあたしは。
だっさいあたしもあたしだけれどでもやっぱり、と考えてあたしは、前と違って「好かれたい欲」が強くなっている自分に気づく。
カッコつけるのが良いのか悪いのか、とにかくあたしは矢口さんの傍にいたい。
今はそれだけ。
568 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:36
そうやってすぐ隣にいる矢口さんのコトを考えてるハズなのにあたしは、1人の世界に入り込み過ぎていたのかもしれないl。
すう、と矢口さんが息を吸う音が聴こえた、と思った途端にすぐそばで空気が震えて音が響いた。
何の情報もなく突然聴くそれは、「音楽」になる前の「音の振動」だと実感出来るのだと知る。
カオをあげると光が一気に押し寄せて、あたしは思わず目を細める。

「音の振動」は一瞬で「音楽」に変わって、乾いた空気と混じりあってあたし達を包み込む。
真剣な表情の矢口さんを見る。
あたしを見つめてるのに気づいた矢口さんは、照れくさそうに目で笑った。
「音楽」は矢口さんから伝わってきていた。

見慣れている姿だけれど、何故か新鮮なカンジ。
フルートを吹いている矢口さんをこんなに間近に見るのは初めてだった。
ついでに言うと、フルートの独奏を聴くのも初めてかもしれない。
あたしが毎朝見て、聴いていたフルートは当然だけれど全体の中のパーツの1つであって、独りでちゃんと演奏されるコトはなかったから。

部活が終わっても音楽コースのレッスンで自分の専門のフルートが要るから、と矢口さんがいつもフルートの入ったケースを持って学校に来ているのを知っていた。
馴染んだ革のそのケースがさっき、矢口さんの手でそっと芝生の上に置かれたのをあたしは見ている。
けれど今あたしの目の前で演奏してくれるなんて、夢にも思わない。
569 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:36
夢にもっていうか、ホントに夢心地・・。
矢口さんの手に支えられたフルートは、音の流れと共にゆるやかに動き続ける。
再び寝転んだあたしはもう、カラダを動かす気もなくなってしまう。

木管楽器特有の柔らかい音色が耳元で震え、あたしのカラダ中に響き渡って脳みその中まで浸透する。
かすかに聴こえる矢口さんの息の音。
メロディとリズムの一部となってあたしの耳に届くそれは、いつもとは違う矢口さんの姿を実感させる。

あたしの胸の中から湧き出る静かな音が矢口さんのフルートの音色に共鳴する。
さまよい始めた意識とカラダの境界はなくなって、どこか違う世界にいるような気がした。

この場のすべてが、優しくてあたたかくて心地良い。
たぶんそれは気温とか気候とか季節とかだけのハナシじゃなくって、矢口さんの優しさなんだろうと思う。
570 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:37
光の中であたしは本当に本当に幸せなキモチになって、さっきまでの自己嫌悪なんてあっと言う間に浄化されてぶっ飛んでってしまった。
我ながら単純。
でも幸せだからイイやと思う。

この日、この瞬間のこの感覚、この光景。
あたしは一生忘れないし、好きな時に取り出してきっとその時のあたしは同じうように優しくてあたたかくて心地良い感覚を一瞬味わって、幸せなキモチになるんだろう。
それはコンマ何秒だって別に構わないと思う。
根拠のない確信ではあるけれど、あたしの中ではそれはもう揺るがない事実だった。

マチガイナイ。
あたしは一生忘れない。
571 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:37
一曲終えた矢口さんは続けて、カタチにならない気ままな演奏を続けていた。
コレからと思っていたらそこでカットして違う曲になっていたり、何度も同じフレーズを繰り返したり。
毎朝聴いてた練習みたいな感覚で、何となく懐かしくて心地良い。
ゆるい空気の中で寝転ぶあたしの意識はもうほとんどどこかにいってしまって、矢口さんが演奏をやめてもすぐには反応出来なかった。

矢口さんはいつの間にかあたしのすぐそばに座っていて、しばらくあたしのアタマに軽く触れていた。
ふわりと髪の毛をいじったり、ごく軽いリズムを取ったり。
さっきまでゆらゆら漂っていた意識はすぐにあたしのカラダに戻ってきて、少しだけ緊張して矢口さんの指の動きを追う。
けれどそれも長くは続かない。
目を閉じたままのあたしのココロとカラダはまた混ざり始める。

あたしはその心地良さに半ば呆然としていた。
どきどきを通り越して陶酔を通り越して、呆然。
好きなヒトにこうやってしばらく髪を撫でられたコトなんて今までなくて、初めて味わう感覚に驚いたから。
歓喜、感動、安心、期待。
全部が入り混じってる、ヘンな感触。

ヒトはきっと、幸せすぎると死んでしまうんじゃなかろか、なんて本気で思う。
・・いや言いすぎかな。
でもウソじゃない。
このままだとあたし、キモチ良すぎてじわじわと溶けていってしてしまいそう。

あたしはそっと、あたしの髪をいじる矢口さんの指に触れた。
触れてから気づく。
無意識のうちにあたし、何やってんだろう?
572 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:37
あわてて引っ込めようとした手を矢口さんが軽く握って引き留めた。
力を込めていたワケではなかったからあたしの指は、矢口さんの小さな手の中に収まったままでいる。
「すいません」
「何であやまってんの?」
まぶたをゆっくり開くと、笑っている矢口さんと目が合う。
つないだのとは別のほうの手で矢口さんが、あたしの髪の毛にまた触れた。

「よっすぃーの髪、さらさらだよね」
あたし以上にさらさらの髪の矢口さんに言われるのもすごくヘンなカンジ。
「あたし自分で切ってんですよ」
うそ、マジ?と矢口さんはあたしの毛先なんかをまじまじと見つめている。

「今度切ってあげますよ矢口さんのも」
「えーホントに?」
お安くしときますんで、と答えるあたしに、金取るのかよ!とツっこむ矢口さん。

いつもと同じ会話、いつもと同じあたし達。
でもいつもとは違う。
ずっとつないだままの指の感触。
あたし達を包んでる空気。

手なんて今までにも何度かつないでいる。
でも今までとは違う。
そう思ってるのは、あたしだけだろうか。
573 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:38
「ねえ、よっすぃー?」
「はい」
太陽が昼間に放つ最後の光でびかびかとあたし達を照らしていた。
空の色が変わる寸前の強烈な光。
秋の夕暮れは早い。
あたし達の時間はいつまで続くんだろう。

「このままずっとココにいたいなあ、って今、本気で思うよ」
あたしが思っていたコトを矢口さんが言う。
そうですね、あたしもです、なんて相変わらず能がない返事をするあたし。
本当は、すごくどきどきしている。

思いきって言って、しまおうか。
今なら言える気がする。
言ってどうなる?
どうにでもなるよ。
たぶん。
574 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:38
大きく息を吸う。
「矢口さん」
勇気を出して発した声は、思ったよりも小さくかすれていた。
3、2、1。
3、2、1・・。
アタマの中で何度もカウントダウンをするけれどもその後が続かない。
「矢口さん、あたし」
またコトバに詰まるあたしを矢口さんは、黙って柔らかい目で見つめている。

もしかして、敏感な矢口さんにはとっくの昔にバレてるのかもしれない。
今更?
当然?
なんて、そんなワケないよね?
あたし女だし、矢口さん女だし。

なんて、バカバカしいね。
本当はわかってる。
女だからバレるワケないなんて、単なる言い訳。
だってあたし達のすぐそばには、つき合ってるワケじゃなくても市井さんとごっちんがいるし、あたしはいつも女のコに告白なんてされている。
自分の感情をうまく隠せるほど器用じゃないってコトもあたし、自分で知ってる。

きちんとコトバにするというコト。
それがこんなに勇気が要るなんて知らなかった。
今まであたしに告白してくれたコ達の勇気を今初めて、すごいパワーだったんだと実感する。
575 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:38
「よっすぃーあのね」
何も言えないままのあたしには何も訊き返さずに矢口さんが口を開く。
矢口さんの明るい声はいつもと同じで、何を言うのかもわからない。
「さっきのはちょっと控えめに言ったかもしんないんだけどヤグチね、よっすぃーと一緒にいたいなっていつも思ってんの」

でさあ、と矢口さんは続けた。
「よっすぃーはさ、ヤグチのコト好きでしょ?色んなイミで」
色んなイミで、色んなイミで。
あたしのアタマはフル回転して、それをどう解釈するべきか迷っていた。

バレてるってコト?
後輩としてでしょってコト?
わからない。
あたしは何て言ったらイイんだ。

あれー違った?なんて矢口さんに笑顔でカオを覗き込まれたからあたしはあわてて答える。
「もちろん好き、ですよ。あの、色んなイミで」
逃げてる。
あたし逃げてるけど、でも必死。
どこにいくのかわからない会話の行方を必死で追う。
576 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:38
「ヤグチもね、好きだよよっすぃー。色んなイミで」
ははは!と矢口さんは自分の膝を叩いて笑い出した。
矢口さんにとっては冗談だから?

間違えちったよー全然ダメじゃん、なんて矢口さんは独りでつぶやいている。
「さっきよりもっと控えめだよねー失敗、やり直す」
失敗、やり直す、何を?

矢口さんが大きく息を吸って、ふっと一気に吐いた。
「ヤグチ最近さ、よっすぃーとよく一緒にいるじゃない?んでそれは今のヤグチにとって大切な関係だと思ってて」
あたしは黙って聴いている。
「他の友達とは違う感覚で大事なの、よっすぃーが。すごく大きい存在だし、すごく好きだなあ、って思う」
何でかはわからないんだけどさ、と言った矢口さんの片方の手はもうあたしの髪からは離れて、芝生を撫でて土をいじったりしている。

あたしは何も言えず、動けなかった。
それがさっきより控えめなのかそうじゃないのかもわからない。
どういうイミで矢口さんがそう言ったのかもわからない。

先輩として?友達として?恋愛対象として?
そんなの、訊けなかった。
コワイから。
意気地なしのあたし。

確かめもせずに断定なんて出来ないからあたしは、まだ逃げていた。
恋愛感情じゃなくてもイイ。
恋愛感情だったらなおイイけど、それは今は確かめなくてもイイや。
どんなイミであれ矢口さんがあたしを好きだと、本気で言ってくれたのがわかったから。
577 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:39
自分が傷つかない勝手な解釈を猛スピードで消化したフリをしてあたしは答える。
「あたしも矢口さん、好きですよ」
言ってからも重くて大きな何かがあたしの中から消えずに動き続ける。

「そう?良かった」
矢口さんが無邪気に笑う。
やっぱり矢口さんは、あたしのキモチには気づいてはいないのかもしれない。
気づかないふりをしているだけなのかもしれないけれど、そんなのは考えてもあたしにはわからない。

勇気よりも、自分にムリしてる解釈がピリピリと胸をつついた。
耐え切れずあたしは、起き上がって矢口さんと向き合う。
あたしの初めての告白は消化不良のまま、終わってしまうのだろうか。
578 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/11(日) 01:39
「名は体を表すってさーほらユニット名、相思相愛っつーだけのコトはあるんじゃない?」
矢口さんがそう言うから、司書室でのあの時のコトバを思い出した。
あの時は2人、あまりにも唐突な飯田先生の発言にあっけにとられたけれど。
さすが飯田先生だよねー交信もあながち捨てたもんじゃないね、と矢口さんが続ける。

そうですね、なんて答えながらもあたしのココロの中はもやもや。
相思相愛、相思相愛、と繰り返す。
違うよ。
「色んなイミで」は相思相愛。
「あたしにとって一番大事なイミで」は、相思相愛じゃない。

あたしは矢口さんを好きなのに。
本当に、本気で。
579 名前:, 投稿日:2004/04/11(日) 01:50
.
580 名前:, 投稿日:2004/04/11(日) 01:51
.
581 名前:, 投稿日:2004/04/11(日) 01:51
.
582 名前:祝ひぃ誕 投稿日:2004/04/12(月) 00:19
よっちゃん頑張れ〜〜〜!!

SSKBさんの作品は、一瞬一瞬のシーンがコマ送りみたいで、
ゆっくりとした時間の流れがとても心地良いです♪
これからも影ながら応援させて頂きます。そして作品を読ませて頂くのを楽しみにしています!
583 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 21:08
はぁ・・・・胸がキュンとしました
584 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 21:08
すみません!!ageちゃいました・・・
申し訳ないです・・・・・・。
585 名前:SSKB 投稿日:2004/04/19(月) 03:05
>>582
ありがとございます。
本当にゆっくり(の内容と更新)ですが、今後ともよろしくおつきあいを。

>>583
ノーテンキな吉澤さんも何やら胸が…なご様子です。
ちなみにagesageochiは作者もテキトーにやってるのでどうか気になさらぬよう。
586 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:05
西の空を見る。
太陽が、沈みかけていた。
じわりじわり、わずかなスピードで山の際で欠けていく夕陽。
このまま陽が暮れるときっと少し肌寒い空気があたし達を包んで、終わってしまう時間を引き伸ばすコトも出来ずにそれぞれ、家路につくのだろう。

矢口さんを見る。
オレンジ色に染まった頬と瞳の横顔が、あたしと同じように最後の太陽を見つめていた。
まぶしそうにも、寂しそうにも見える表情。
太陽が、沈んでしまう。
あたし達の時間は、もうすぐ終わる。

何かに急きたてられるようにあたしは口を開く。
「矢口さん」
夕陽を見つめていた矢口さんは振り返ってあたしを見ている。
アタマがくらくらした。
587 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:06
「あたし、矢口さんのコト、好きなんです」
アタマに駆け上った血は一瞬沸騰して、またすぐにひゅっと冷めていった。
そしてまたポンプみたいにあたしの血は押し上げられ、アタマの中が膨張する。
「ものすごく」

ぱっとはじけた何かが、あたしの悪い血も一緒にどこかに飛ばしてしまったような感覚。
言ってしまえばカンタン、言ってしまうと意外と冷静。
本当に伝わったかどうか、それだけが心配であたしは矢口さんのカオをじっと見返してしまう。

いつもと変わらない矢口さん、だとあたしは感じた。
驚いてるワケでもなく怒ってるワケでもなく、優しい目であたしをじっと見て、ゆっくりと遠くに目を移した。
全然わからない。
いつもみたいな冗談だと思われてるのかもしれない。

「あの、本当に本気で。だからってどうしたいワケでもナイんですけど」
一度言ったら強気になってるのにやっぱり弱気っぽい自分が少し笑える。
「うん、わかってるよ、ちゃんと」
すとん、と太陽があっけなく山の陰に消える瞬間を確かめるように見つめながら、矢口さんはおだやかな声でそう言った。

座ったままのあたし達のキョリ感は、さっきから変わらない。
矢口さんの肩ごしに見える東の空は、反対側にはまだ残る色の欠片すら感じさせない程深く、青い。
588 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:06
あたしは今、矢口さんにつき合って欲しいとか恋人になってとか言いたかったワケではない。
ただ純粋に、あたしが矢口さんを好きだというコト、それだけを伝えたかった。

言いたいのに言えないコトがあるだけであたしは、その内容がどんなコトであろうとずっと、相手に対して壁のようなモノがあるのだと思う。
その壁は誰のせいでもない、「隠しゴト」がある自分のせい。
言って初めて、それを知った。

思った以上にすっきりとしたあたしは口笛でも吹き出すんじゃないかってくらい、身軽だ。
矢口さんがあたしをどう思うのかなんて全然わからないけれど。
スルーかもしれないし、拒絶かもしれない、ひょっとしたらひょっとして本当の相思相愛なのかもしれない。
なんて、我ながら楽天的過ぎるのだけれど矢口さんがどう思うかなんて、アレコレ想像するだけしたら、もう終わり。
それだけ。

矢口さんがコレからあたしとどう接するのか。
あたしに何と言うのか。
それとも何も言わないのか。
目の前にある現実を本気で受け止めるカクゴがあたしのカラダを支える。
踏ん張って、矢口さんのコトバに備える。

あたしは黙って、矢口さんの肩のあたりや地面、自分の手のひらを見て、矢口さんと同じように太陽が消えていった山の彼方を見つめた。
はは、身軽過ぎて踏ん張ってても落ち着かねー。
589 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:06
しばらく黙っていた矢口さんが、こちらに向き直ってまっすぐにあたしを見上げて口を開く。
「ヤグチは今の、本当にわかってるよ。でもよっすぃーはとりあえずそれだけなんだよね?えーとヤグチとつき合いたいとかでもなくって」
あたしは黙ってうなずく。
ん、と答えて矢口さんは、そうか、そうだよね、と1人でつぶやいた。
視線はまた、だんだんと薄いブルーがオレンジを飲み込みつつある、山の向こう。
あたしも落ち着かないけれど、矢口さんも落ち着いてないと思う。

「じゃあさ、変わらないよね。ヤグチは今までと同じようによっすぃーと接して、同じように大事だと思ってて。同じように遊んで。それだけでも良いのかな」
あたしはまた黙ってうなずいたけれど、それだけじゃダメだと思って遅れて声を出す。
「はい。それでイイんです」
それでイイと思う、それだけで十分。
後になってどう思うかはわからないけれど、今のあたしにとってはそれが本当のキモチ。
ウソじゃない。

「ヤグチはね、今、よっすぃーのキモチに応えるとか応えないとかじゃなくって、このままが良いんだ」
矢口さんが静かに息を吐いた。
「でもよっすぃーが大事で、一緒にいたいのも本当」
もう一度あたしを見上げた矢口さんの目は今までに見たコトのない程真剣で、あたしとちゃんとハナシをしてくれているのだ、と思う。

「ヤグチもすごく好きだよ、よっすぃー」
あたしは矢口さんが何を言いたいのか本当はどうしたいのか、あたしを好きだというのはどういうイミなのか、全然わからなかった。
けれど、それを確かめる勇気も必要も今はない。
590 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:07
今までと同じ。
このままが良い。
矢口さんがそれを望んでいるのだけはわかったから。
想いが通じて報われたワケではないけれど、矢口さんはあたしのコトバをちゃんとそのまま受け止めてくれた。

フラれたフラれてないで言えばたぶん、フラれたって言うんだろうコレは。
ほんのちょっと寂しいけれど、拒絶されたワケではない事実のが嬉しい。
と思う、思いたい。

だからさ、今までみたくメールも遊びに誘うのも気にしないで、ヤグチはそうされるのは全然構わないから、と矢口さんは言った。
「また今日みたいにデートしよう?」
ちくりちくり、と胸を刺すコトバ。

フラれてるのに、「デート」なんて。
それでも嬉しいのは、あたしがまだまだ甘い夢を見ているのだろうか。
「はい」
かろうじてあたしの喉の奥から出てきたのは、本当に絞り出したような声だった。

「こういうのヤグチ、自分勝手過ぎるかな。遊んだりするの、やめといたほうが良い?」
あたしの声があまりにもヒドかったのか矢口さんがあたしのカオをじっと見つめて言う。
あたしはぶんぶんと首を横に振った。
「よっすぃーは平気?大丈夫、だよね?」
今度は縦にぶんぶんと首を振る。
591 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:07
よっすぃーがヤグチの生活から今いなくなったらね、と矢口さんがつぶやいた。
たぶん毎日楽しくないし、ココロの拠り所がなくなっちゃうカンジがするよ。
矢口さんはあたしを見て何度かまばたきをすると、自分の手元に視線を落とした。

ちくり、ちくり。
期待なんてしたくないのにどうしても期待したくなるようなコトバ。
言わないで、と思う反面、もっと言って、とも思う。

矢口さんはさっき、「今」「応えるとか応えないとかじゃなくって」「このままが良い」と言った。
そのコトバだけがあたしを勇気づける。
このままだってどうなるかわからない。
もしかしたら矢口さんも、このままじゃなくてもっとあたしに近づいてくれる日がくるのかもしれない。

だけど。
それでもあたしはフラれているんだ、とあたしは2度、自分に言い聞かせた。
592 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:07
暗くなりかけた帰り道、今日何度目かの勇気を出してあたしは矢口さんの手に触れた。
かすかに感じる指先はほんの少しの間揺れて、やがて自然にあたしの手の中に収まった。
バスを待つ間も、バスに乗ってからもずっと、そのまま。

星みたく後ろに流れていく青白い街灯の中をずっと、無言のままあたし達はバスに揺られ続ける。
矢口さんの手は温かい。
あたしの肩に軽く持たれかかった矢口さんは、ひょっとしたら眠っているのかもしれないと思う。
感じる矢口さんの体温だけが唯一、今のあたしが感じてる不安を取り除いてくれる材料だった。

毎度ご乗車、という女性の声のアナウンスを黙って聴く。
乗客は終点まで、あたし達2人だけだった。
バスを降りたあたしは矢口さんに、思い切って明日の約束をする。
ほっとしたように矢口さんはうなずいて、笑ってあたしに手を振った。
じゃあまた明日ね、よっすぃー。

あたしも笑って手を振り返す。
せつなくなんかない。
せつなくはないけれどすごく嬉しいワケでもない。
けれども思いを告げたあたしは妙に、浮き足立っていた。
フラれても悪くないコトもあるんだなんて知らなかった。
それはきっと相手が、矢口さんだから。
593 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:08
ヘンなカンジ。
1人になってからずっとあたしは、公園での会話を思い出してアタマの中で何度もリプレイしている。
すっきりして、わくわくする。
ちょっとだけ不安。

コトバにするならそんな感覚。
でもコレってやっぱりそんなに悪くないかも、と思う。
コレからまた、あたしと矢口さんのあたらしい関係が始まるのだ。
と、思う。

いつもと同じ時間にベッドに横になってもあたしはなかなか寝つけなかった。
明日起きたら実は全部夢で何もなかったなんてコト、ないよね。
一世一代のあたしの勇気、あんなのもう一度なんてムリだよ絶対。

寝よう寝ようと何度も自分に言い聞かせるけれどそわそわと落ち着かない。
早く明日にならないかな・・そしたらすぐに矢口さんに逢えるのに。
それか。
それだね。
594 名前:秋の流れ 投稿日:2004/04/19(月) 03:08
寝返りをうって本棚に目をやる。
あの日から飾ってあるよっすぃー号がぼんやり浮かび上がる。
そうだ、そう言えば今日はあたし、走り回ってないじゃん。
今度は涼しい季節にすれば汗かかないんじゃん、なんてあの時言っていた矢口さんの声が耳の奥によみがえった。

・・・。
あーもうだめ。
あの時の矢口さん、そして今日の矢口さんを思い出すだけで胸がぎゅうぎゅう絞められてく。
やっぱり今日は全然眠れそうにないなー・・あたし。
595 名前:, 投稿日:2004/04/19(月) 03:09
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596 名前:, 投稿日:2004/04/19(月) 03:09
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597 名前:, 投稿日:2004/04/19(月) 03:10
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598 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/03(月) 03:06
切ないですね。この先の展開が楽しみ。
599 名前:名無飼育 投稿日:2004/05/09(日) 18:05
マダカナー
待ってます
600 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/10(月) 16:30
このお話、大好きです!
よっすぃ〜と矢口さんの関係がいい感じの距離感で描かれているので
読んでて心がほんわかします。
更新待ってますので、頑張ってください!!
601 名前:名無し。 投稿日:2004/06/04(金) 11:46
そろそろ続きが気になります〜!!
作者さん、お忙しいのでしょうか?
更新、楽しみにしてますので、頑張ってください!
602 名前:SSKB 投稿日:2004/06/11(金) 13:18
皆様、レスありがとございます。
もう6月ですね…ごめんなさい。
今月中に必ず次の更新を致します。
しばしお待ちを。

以上、今回はお詫びと生存報告だけですが、お許しください。
603 名前:SSKB 投稿日:2004/06/30(水) 01:02
と、自分にプレッシャーをかけつつ今日を迎えました。
夏の間には必ず何とか。
ごめんなさいがんばります。
604 名前:秋の流れ 投稿日:2004/06/30(水) 01:03
朝、目覚めた瞬間にあたしは実感した。
いつもと同じ光、いつもと同じ空気。
でも何かが、いつもと違う朝。

ほんのり甘く何となく苦く、けど悪くない感覚。
あたらしいあたしに生まれ変わったようなキモチ。
不思議だけど不思議じゃない。

あたし昨日、言ったんだよね。
矢口さんに、好きですって。
うん、本当に言った。
たしかに言った。

寝る前に何度も思い出していた矢口さんのコトバや表情、自分の声、あの時の空の色の印象は一気に薄れ、思い出そうとしてもはっきりとは思い出せない。
それでも胸に残る何か。
605 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/06/30(水) 01:03
カーテンを開けて外を見る。
隣の家の屋根をのんびり歩く猫が飛び降りて塀の向こうに消えた。

昨日は昨日、今日は今日。
今までとは違う、あたしと矢口さんの関係が始まる、はず。
あたしは何度もココロの中でそれを思って、わくわくしたり不安になったり。
やっぱ単純だな、あたし。
606 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/06/30(水) 01:04
待ち合わせの小さな駅はお昼前だからか空いていた。
改札の前の大きな柱の影に、矢口さんはいた。
横から近づくあたしには気づかずに、正面の何かを見ている。
少しだけ緊張する。
フツーに、フツーに。

何と声をかけようか、そう思った瞬間矢口さんが髪に手をやって、その拍子にこちらにカオを向けた。
あたしに気づいた瞬間、ぱっと笑顔になる。
あたしはたぶん、微妙な表情をしているんだろうと自分で思った。
口の端がいつもみたくうまく上がらない。
矢口さんが笑っているんだから、と頑張ってあたしは笑顔を見せる。

「おはようよっすぃー」
あたしを見上げるキョリになってから矢口さんは口を開いた。
昨日とは違う髪形、学校では見たコトのないような髪の留め方がすごくカワイイ。
ピンをいっぱい使ってるんだなー。
「おはようございます」
アイサツを交わして一瞬、無言のまま見つめ合った。
607 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/06/30(水) 01:04
矢口さんは少しだけうつむいてすぐにカオを上げた。
照れくさそうな笑顔の奥では、昨日のあたし達の会話が浮かんでるのかもしれない。
イタズラっぽい表情であたしと目を合わせる。

あたしはあたしで昨日の自分のコトバや、今日の矢口さんにどぎまぎしていた。
それでも矢口さんの笑顔でずいぶんと勇気が出たから、あたしを見上げるその目をまっすぐ見つめ返す。

フツーにしてくれる矢口さんへの感謝、やっぱり好きだと思うあたしのキモチ。
矢口さんに伝えたいけれどそれは今コトバにするべきではないと思うから、ただ見つめるだけ。
それは本当に一瞬だったのだけれど、あたし達はたぶんその瞬間に色んなコトを了解した、と思う。

本当のコトを言うとココに来るまでのあたしは少しだけ、不安だった。
昨日とは違って矢口さんは、あたしのキモチがやっぱり迷惑だと言うのかもしれない。
または昨日のハナシなんてなかったコトにされてるかもしんない、なんて。
でもやっぱり、矢口さんは矢口さんだ。
608 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/06/30(水) 01:04
「あ、ねえヤグチ行きたいトコがあるんだ」
急に思い出したように、矢口さんが言う。
あたしが答える前に矢口さんは、実はもう切符買っといたんだけどさ、とあたしの分の切符を手渡してくれた。
慌ててあたしが小銭を探って渡そうとしたら、矢口さんは受け取ってくれない。

「こんなのイイよ」
「やーでも、だって」
やっぱり悪いと思うからあたしは食い下がる。
目の前でひらひらと動く矢口さんの爪には、マニキュアが塗られていた。
当然だけど矢口さんのマニキュアって、初めて見るなあ。
もっとよく見たいけど、見られない。

「マジで気にしないでよ、じゃあさ、あとでジュースでもおごってよ、ね?」
あたしのカオを覗き込んで笑った矢口さんは、あたしの肩をポンと叩いてすたすたと1人と改札に向かって行ってしまった。
「えーと、・・じゃあそうします」
矢口さんの親切は、そのまんま受け取るコトにしよう。
優しい、優しい矢口さん。
お礼を言いながらあたしは矢口さんの後を追って改札を抜けた。
609 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/01(木) 07:26
待ってました!!
二人がすごくいい雰囲気でこれからが楽しみです。
610 名前:名無し。 投稿日:2004/07/08(木) 23:16
わーい!!楽しみにしていましたよ!
矢口さんがどこによっすぃーを連れて行くのか気になりつつ、
次回更新も心待ちにしたいと思います。
作者さま、お忙しいと思いますが頑張ってください!
611 名前:トーリス・ガリ 投稿日:2004/08/05(木) 21:52
メチャクチャ待ってましたぁ!
もう亀の如く首が伸びてますよぉ。
次の交信も楽しみにしてます。
612 名前:SSKB 投稿日:2004/08/16(月) 21:08
自己保全。
613 名前:トーリス・ガリ 投稿日:2004/08/17(火) 13:15
保全
614 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/17(火) 13:29
o
615 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 21:56
616 名前:名無し。 投稿日:2004/09/03(金) 02:28
続き期待してますよ!
617 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 20:40
期待保
618 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 12:58
hozen
619 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 01:50
うう・・・保全です
620 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 02:57
ochiで待ちます
621 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/19(火) 17:31
ほじぇん
622 名前:SSKB 投稿日:2004/10/20(水) 00:57
季節、雨、指、合図、静寂。
待っていてくださる方々に感謝しています。
623 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 00:58
普段乗らない電車に揺られてあたしは、少しだけ不思議なキモチになっていた。
見慣れない風景、聴き慣れない発車音、たぶんいつもと同じ、矢口さん。

あたしは矢口さんを好きだというキモチを本人に伝えた。
矢口さんはそれは置いといて、今のままのあたし達でいたいと言う。
つまり矢口さんはあたしのキモチには恋愛というイミでは応えられないというコトなんだとはっきり、冷静に思う。

それでもその次の日、当たり前のようにあたしと矢口さんは待ち合わせて2人っきりでどこかに出かけている。
あたしは今まで、そんな関係の存在を知らなかったし、経験したコトもない。
一体あたしはどうすれば良いのだろう。

矢口さんが、今までのままが良い、と言うのはわかる。
でもあたしはたぶん今までとは違う。
よくわかんないけど、大きな何かが。

あたしはこのままで、いられるのだろうか。
大丈夫、と思ったすぐ後には不安がよぎり、また大丈夫と言い聞かせる。
624 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 00:58
矢口さんがあたしを連れてってくれたのは、海だった。
海水浴の季節も終わって、人気もまばらな。
太陽の下で閉まっている海の家を見るのは寂しい気がする。
秋とは言ってもまだ、日中は少し暑すぎる日もあるくらいなのにね。 

矢口さんが付ける砂の上の足跡を辿って、あたしは歩いていた。
「まさか矢口さん、水着持って来てないですよね?」
「持って来てないよ!いくら何でもこの季節には泳がないって」
振り向いて間近で笑う矢口さん。
よろめいたあたしの靴の中に、砂が入る。

鼻歌交じりで矢口さんはまた、前を向いて歩く。
靴下越しに指に当たる砂が少しだけ痛い。
「ねえ?そのままでイイよね?」
「何がですか?」
あたしが聞き返す間に矢口さんはイキナリ、砂の上に直接座っていた。
あ、全然濡れてないしヘーキだよ、そう言う矢口さんの隣に、腰をおろす。
波打ち際まではまだずいぶん距離がある。
625 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 00:58
朝から曇っている空は相変わらずだけれど、お昼になって白く明るい光が全面に広がったからそう、悪くない。
「こういう日もさ、キライじゃないんだ。晴れてなくても明るい空って、何となく希望が持てそうじゃない?」
「ああ、わかりますよそれ」
矢口さんも同じようなコトを思っていた、というコトにあたしは満足して続ける。
「天気雨とか、そういうカンジでしょ?」
「そうそう」

あ、と矢口さんがニヤリとあたしのカオを見た。
でもイイや、言わない、と言って含み笑いをする。
たぶん、あたしがフツーにタメ口で話したコトだと思う。

あたしはやっぱり今までと同じではいられないみたい。
どんどん矢口さんに、近づきたいと思っている。
626 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 00:58
遠くに、船が見えていた。
大きいというコトはわかるのだけれど、それが何の為の船なのかはさっぱりわからない。
貨物船?タンカー?世界一周?
ゆっくり動いているのかいないのかすら見分けられない。

あたしは黙ってそれを、見つめていた。 
矢口さんは指で砂に穴を掘ったり、文字を書いたり。
話したいコトがあるような、ないような。

いや、矢口さんがじゃなくって、あたしが。
でも何かを思いつくワケでもない。
昨日のコト?あたしのキモチ?矢口さんのキモチ?
もやもや。
ぐるぐる。
627 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 00:59
「よっすぃーが」
「え?」
矢口さんが突然話しかけるからあたしはびっくりする。
ぼんやりしていて、ハナシの途中を聞き逃したのかと一瞬思う。
「よっすぃーがね、あれ、聞いてる?」
「あ、ごめんなさい、聞いてます」

「ん、何考えてんの?」
矢口さんは言いかけたコトを止めて言った。
「や、何ってーか、あの船動いてんのかな、とか」
「とか?」

「世界一周かな、とか」
「とか」
「とか、まあ、色々ですよ」
く、苦しい。

はは、そうなんだ、矢口さんはそう言って、あたしが見ていた遠くの船を同じように見た。
「ヤグチのコトは?」
うわー。
「いや、考えてます、けど」
「けど?」
矢口さんはいつもより静かに、つぶやくみたいに話している。
そんな話し方も、好きだと思う。
628 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 01:00
「けど、ってそれで終わりです」
「何考えてんの?」
「だから、まあ、色々ですよ」
何って言われても困るですよ。

並んで座っていてもやっぱりあたしと矢口さんの肩は揃わない。
矢口さんはあたしを見上げて言った。
「矢口さんはちっちゃいなあ、とか?」
「とか」
「矢口さんは穴掘ってるなあ、とか?」
「とか」
ほんの少しだけ、間が空く。

「矢口さん、好きだなあ、とか?」
「とか」
ううう。
はあはあはあ、あの時より今のがどぎまぎする気がするかも。
あたしは答えてるだけなのに。
こういうの、ぎりぎりの会話で楽しんでるっていうの?
やーもうちょっとさ、何かあたし、ぎりぎりってーか楽しむドコロじゃないよね、ホント必死。

ってか何だ何だ、わかった、あたしが矢口さんに話したいコト。
「とか、今日の髪型はカワイイなあ、とか、こういうしゃべり方も好きだなあ、とか、色々と」
あ、なんて、矢口さんは自分から言ったクセに少し照れている。
「照れないでくださいよ、そこで」
「慣れないからさ、そういうの」
629 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 01:00
会話の行方。
もうどうでもイイや、っていうかどうにでもなってくれ。
「それはええと、もっと言ってくれってコトですか?」
「ばっかよっすぃー、んなコト言ってないじゃん」
そう言って矢口さんはあたしを自分のほうに向かせた。

戸惑うあたしのヒザの間に、背中を向けた矢口さんがすっぽり納まる。
いやいやいや、納まるじゃなくって、ちょっと、何してるんですか。
矢口さんの髪があたしの顎に触れた。
柔らかい香りが、感触が、あたしの腕の中にある。
そのコト自体は何度目?だけど。
違う、何度目じゃない。
初めてだよ、コレ、間違いなく。

2人のカラダを支えてる、あたしの踵は砂にめり込む。
「あのー、矢口さん?」
「何?」
本当に、何なの?みたいな声だからあたしは少し弱気になる。

「だって、ありえなくないですか?」
「何が?」
あたしは自分の手をどこに置いたらイイのかわからない。
だってさ、肩に置くとか前に回すとか、ええと。
って、思春期の男のコじゃないっつーの。

矢口さんがあたしの手を掴んで、自分の腕に重ねて前に置いた。
さらにあたしと矢口さんは密着する。
いやいやいや、密着するじゃなくって。
どうして矢口さんは。
だって昨日。
630 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 01:01
「矢口さん?」
「ん?」
ぬくもりが、感触が。
「あの、やっぱり」
「ね、ちょっとこうしてたいの、ダメかな?」
触れてるカラダと骨を伝わって聴こえる声。
ああ、もう。

「ダメじゃないです、ってか、あの、止まらないじゃないですか」
勇気を出してあたしは、やっぱ言わなきゃって、冗談ぽく言う、言ったつもり。
ホント、ムリだよ。
だって矢口さん、このままでいたいだなんて、このままじゃ絶対このままじゃなくって。
どうにもならないあたしのキモチは、もう。
「止まらなくってイイよ」

一瞬、聞き間違えたのかと思う。
踵で感じる砂の重さを急に、感じなくなる。
ちゃんと聞き直そうかと思ったけど、その必要はなかった。

「止まらなくって、イイよ」
何も言えないで固まっているあたしの手を握って矢口さんがもう一度、そう言った。
631 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 01:01
.
632 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 01:01
.
633 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/10/20(水) 01:01
.
634 名前:. 投稿日:2004/10/20(水) 14:08
.
635 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 15:53
更新お疲れ様です!待ってました。
いいですね、二人の間に流れる柔らかい空気。
続き期待してます。頑張ってくださいね。
636 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 17:42
更新お疲れ様です&ありがとうございます。
待ってましたーーー!

作者さんの情景が浮かんでくるような文章が大好きです。
二人はどうなっちゃうんでしょう?
意味深ですねぇ。
続きもまたーり待っています。
637 名前:名無し娘。 投稿日:2004/10/25(月) 10:56
ず、ずるいよ矢口さん(ノ_・、)
638 名前:名無し。 投稿日:2004/10/29(金) 04:52
キューーンと来たぁ〜!
やぐちさん・・。
続きも楽しみです。
639 名前:SSKB 投稿日:2004/11/01(月) 02:15
レス、本当にありがとうございます。
実際の季節に追い抜かれるのももう何度目やら。
がんがります。
640 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/11/01(月) 02:15
あたしは反射的に、ではなく少し考えてから、矢口さんを抱きしめた。
慎重に。
中途半端に。
そんなあたしの腕の中にいる矢口さんはふっと小さく笑った。

だってやっぱりコワイんだよね。
あの時矢口さんがこのままがイイって言ったから。
あたしはホントはフラれている。
だからあたしは、期待も安心もしちゃいけない、矢口さんに逢っても今までと同じ、変わらない。
一晩中自分自身に言い聞かせたコトバは、当然のようにあたしを縛りつける。

「そうだよねよっすぃー、ヤグチがあんなふうに言ったから」
「そうですよ矢口さん」
あたしとこうしていたいって言う矢口さんは今、どういうキモチなんだろう。
どういうつもりなんだろう。

今だけとかさ。
そうだよね、たぶん、今だけ。
誰かのぬくもりがちょっと欲しいだけとか。
きっとそういうノリ。

「ねえヤグチさ、ずるいのかな?昨日はあのままでいたいって言って、今日はこんなふうにしたいって言って」
「んーずるいってーか、どうしたらイイかわかんないです、あたし」
そうかな、そうだね、と矢口さんはつぶやく。
あたしはそういうふうに矢口さんをずるい女なんて言うつもりは別になかったし、そう言うほどのコトでもないと思っていた。
ただ、今の矢口さん、今日からのあたしと矢口さんの関係が昨日までとは違うのであれば知りだい、それだけ。
641 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/11/01(月) 02:15
気づくと遠くに見えていた船が、あたしの視界からいなくなっている。
もっと遠くに行ってしまったのか。
それとも。
いや、それともはウソ。
いつの間にか遠くに行ってしまったのだ、あの船は。
停まってるようには見えても船は少しずつ動いていて、行くべきトコロに行ってしまった。
あたしがゆらゆら、どぎまぎしている間に。

「よっすぃーは昨日眠れた?」
正面を向いてしゃべる矢口さんの声は、砂に吸い込まれてくような気がする。
その声を少しでも聞き逃さないようにあたしは矢口さんの背中にもっとくっついた。
「いえ、あんまり」
「はは、ヤグチもあんまり」

ゴールドオレンジに塗られた矢口さんの爪が肩越しに見える。
その指先であたしの指を、いじっている。
小さいけれど今日はオトナっぽい、矢口さんの手。
昨日の今日でこんなふうにあたしとこうしてたいなんて言うのも何か、オトナっぽい。
あたしの知ってる矢口さんじゃないみたい。
642 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/11/01(月) 02:16
結局あたしはあの後全然眠れずに、窓の外が明るくなってからやっと眠りについた。
矢口さんも同じように眠れなかったのだろうか。
「昨日帰ってからさ、ヤグチ考えてたんだ、たくさん」
あたしは黙って続きを待つ。

「んーと今までのコトも昨日のコトも、よっすぃーのコトもヤグチのコトも、色々、いっぱい」
同じコトをたくさんあたしも考えた。
正確に言うとその中身が一緒がどうかまではわからないけれど。

だから、それで、と矢口さんは何度も言った。
いや、それだけしか言わない。
何だ何だ。
「矢口さん、さっきから実は何も言ってなくないですか?」
「だね。ちょっとヤグチさー、まだ考えがまとまってないみたい」

そうかー、と言いかけたけど、ちょっと待て、とも思ったあたし。
何だろう、何というかココは吉澤ひとみ、ちょっと踏ん張ってみようと思うワケですよ。
柄にもなく。
今は守りだけじゃダメだよ、ってどこかから声が聴こえてきたような気がする。
643 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/11/01(月) 02:16
「でも矢口さん、行動には出てるじゃないですか今。こういうの」
あたしの腕の中に自分から入って、抱きしめられて。
それは一体。
それはひょっとして。
「はは、イタイとこ突くね。そう。その通りです」
もうダメだあヤグチ、考えてもやっぱ変わらないもん、と矢口さんは続けた。

「何が変わらないんですか?」
あたしがそう言うと矢口さんは少し振り向いてあたしのカオを見上げた。
うらめしそうなカオをしている・・何故。
そのまままた前を向いてしまった矢口さんが背筋を伸ばしたからあたしも顎をずらして、背筋を伸ばす。

「ヤグチね、やっぱり」
深呼吸をしたのがわかる。
「よっすぃーに、そばにいて欲しいんだよ」
あたしも矢口さんに合わせてこっそり深呼吸をしようとしていたのに、一瞬息を詰めてしまう。

そばにいて欲しい、って。
大事だと思う、一緒にいたい、好きだと思う(色んなイミで)、なんて昨日たくさん聞いた。
でもそれはそうじゃなくって、今までのまま。
そう言ったのも矢口さん。
本当は本当に、どういうつもりなんだろう。

「気づかない間によっすぃーの存在が、本当にヤグチにとって必要になってたんだ、ってすごくわかった」
言われて考えて、やっと気づいた、と矢口さんは笑った。
「このまま、なんて言ってよっすぃーはでも離れていってしまうかもしれない、やっぱりこのままじゃいられないかもしれない、って思って昨日、眠れなかった」
あたしは必死で、呼吸を続けようとしている。
黙って聞いてるだけなのに、アタマの中がぐらぐらしてる。

「そんなの早く気づけってハナシなんだけどね、ヤグチはよっすぃーにそばにいて欲しいんだ、って、んーとね」
あたしの様子を知ってか知らずか、矢口さんは続ける。
「たぶん、こんなふうに」
644 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/11/01(月) 02:16
その瞬間、あたしは本当に息が出来なくなってしまった!
心臓はスピードを上げて飛び出しそうになっているのに。
矢口さんはさっきからもてあそんでいたあたしの手をゆっくりと持ち上げて、自分の口にあてていた。
静かにそっと。

すっと気温が下がって、波の音が近く聴こえるような気がした。
手の甲に感じる、矢口さんの唇。
軽く触れているだけなのに、妙にその存在と感触が温かく潤っている。
そうか矢口さん今日はグロスをつけてたから、こんなふうに感じるんだ。
どきどきしながらもそんなコトを考えたりなんかして、止まった時間の中にあたしは、いやあたしと矢口さんはいた。

いつもと違う矢口さんのネイルと唇。
手にキスとか、そんな。
それだけでいつもよりどきどきするし、もっと好きで、やっぱり好き、そう思う。

矢口さんがあたしの手から唇を離す。
何も言えずにいるあたし。
手の甲の唇の跡に吹く風を少し冷たく感じる。

コレって、矢口さんもあたしを好きというコトじゃないんだろうか。
そんなの昨日も言われたし、でもそういうんじゃないとも言われたどさ、でもコレって。

あたしは好きじゃないヒトには手にだってキスなんて出来ない。
好きじゃないヒトには、そばにいて欲しい、なんて言えない。
645 名前:秋の流れ(2) 投稿日:2004/11/01(月) 02:16
「ねえ?よっすぃー」
矢口さんはあたしの手を握りしめたまま、もう一度言った。
「もうちょっとこうしてたいの、イイよね?」

矢口さんのキモチを確かめるコトが出来ないまま、あたしは黙ってうなずいた。
止まった時間は静かに、あたし達の周りを漂う。
確かめなくったってあたしにはわかってる。
あたしが欲しい何かは今、あたしの腕の中にある。

あたしは矢口さんをもう一度、抱きしめた。
靴の下の砂がぎゅっと小さく音をたてた。
646 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 02:17
・・・・・・・・・
647 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:18
月曜日の朝はめんどくさい。
あたしの朝はほとんど図書館から始まるけれど、月曜はその後体育館で全校朝礼があるんだよね。
毎週毎週全員でやんなくたってイイのになー、と思わないでもないけど仕方ないコトなんだろう。

いつもと同じ教師の仕切り、いつもと同じ誰かの長いハナシ、いつもと同じ体育会系の壮行会。
その場にいるほぼ全員が一週間で一番低いテンションで過ごす中、お構いナシに体育館の中を満たしていく、高いテンション。
んー、週の始まりの儀式ってのも、そう悪くはないのか。
あたしはあたしで今日は、そう低くはないけどね、テンション。
なんてね。

3年のほうをちょっと振り向いてみる。
矢口さんの姿は見つけられなかった。
なんて、早く矢口さんに逢いたいような逢いたくないような。

あの時の海で、あたしと矢口さんは。
何かが変わった?

目に見えるモノはたぶん何も変わっていない。
でもあたしは矢口さんのコトバを信じてるだけで、イイんだと思った、思ってる。
アレ以来逢ってない矢口さん。
どうやって過ごしていたのかな。

・・なんてぼんやり考えてたら誰かと肩がぶつかった。
あたしが歩くのが遅すぎるのか。
648 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:18
「今日はまた長かったねー、校長のハナシ。ヤバかった」
体育館の出口に向かう人込みの中をことさらゆっくり歩く、ごっちんに追いついて並ぶ。
「だねえ。ごとーは例によって寝てたからよくわかんないんだけどね」
あくびをしながら答えたごっちんのカオを覗き込んだ。
はは、すげえ。
何だコレ。
っていうか、立ちっぱなしで寝てたっつーのもすげえ。

「マジでヤバイっすよ後藤さん、そのカオ。ありえないくらい死んでる」
そーお?なんてごっちんは今にも閉じそうな目でよぼよぼ歩き続ける。
いつでも眠たそうなごっちんとは言え、こんなにヒドイのも久しぶりな気がする。
「何?寝てないの?」
「んにゃ。寝てなくもナイんだけど」

ごっちんがまた大きくあくびをした。
「ナイんだけど?」
「んー、昨日市井ちゃんと電話でずっと話しててさ。寝たの3時だった」
つまり寝てないんじゃん!
「えー別にケンカとかじゃないんでしょ?」
「うん違うー。くっだらないハナシばっかなんだけどね」
649 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:18
あ、イイな、と思ってしまった。
くっだらないハナシとか何かで真夜中まで長電話。
あんま寝てないとかってさ。
イイな。
正直うらやましい。
あたしもそういうの、したい。

「よし子?何にやけてんの」
「何が?別ににやけてないよ?」
動き始めたのが遅かったあたし達はのろのろ歩きのまま、まだ詰まっている体育館の出口にたどり着けない。
目の前にいる見知らぬ1年生の後頭部を眺めながら、微妙にあがっていた口角をさりげなく元に戻す。
「へえー」
「何、へえー、て」
「べっつにー」

くそう。
最近のごっちんはやらしい。
たまにあたしのカオを見てうっすら笑ってたりする。
バレてんのか、バレてないのか。

何がって、何がって言えるほどのコトはないんだけど、強いて言うならあたしの・・。
あたしの、何だろ。
えーと、矢口さんとあたしが、いや実際、何でもナイもんな、うん。
何かが変わったのは事実だけれども、何が変わったなんて説明出来ない。
650 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:18
やっと外に出られたから思いっきり、新鮮な空気を吸う。
さっきまで曇っていた空から少し、光が射し込んでいた。

あー、とごっちんが小さく声を上げた。
見ると、渡り廊下の先の校舎から、ジャージに着替えた矢口さん達が出てくるトコロだった。
あたしより目ざといごっちん。
何だ、ちょっと負けた気分。

矢口さんはまだあたし達には気づいていないけれど、このままだとこの渡り廊下で、すれ違う。
こないだの海。
光と風、ぬくもり、匂い。
それを思い出したあたしは少し、くらくらした。

アレ以来、初めて矢口さんに逢う。
あたしはどんなカオをするんだろう。
矢口さんはどんなカオをするんだろう。
そんなの考えるようなコトじゃないんだけどやっぱり、照れくさいような気まずいような、そんなカンジ。

あたしはごっちんと並んで歩きながら、矢口さんを目の端に捉えたまま、少しだけ視線をずらした。
そしてごっちんに、話しかけた。
昨日のテレビのハナシ。
ホントにどうでも良いような、今のあたしにはまったくキョーミのない、話題。
651 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:19
直前まで、何故か気づかないフリをしていたかった。
遠くからお互いに気づいていてでキョリがあるからアイサツも出来ずに見てるだけってのが少し、ハズカシイというか何と言うか。
たぶん矢口さんはまだ、あたしに気づいていないと思う。
横を向いて友達さん達と笑い合っているのが、視界の片隅でもわかる。

どんどん、近づいていく。
もう気づかないワケにはいかないキョリ。
ワケもなく、あたしは緊張している。
ほんの少しだけ。
あたしは大きく、瞬きをした。
652 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:19
最初は何が起こったのかわからなかった。
矢口さん。
まさかね。
だってあの時矢口さんは。
あたしはあたしの思い過ごしだとその時、何度も何度も自分の中で言い聞かせた。

あ、あ、あ。
そう思う間にあたしと矢口さんはすれ違っていた。
目の前で起こってるのに、ストップモーション。
あたしはごっちんと、話したまま。
正確に言うとコレって、すれ違ってはいないのかもしれない。

ごっちんにあたしが横を向いて笑いかけた瞬間、矢口さんが、渡り廊下に並ぶ大きな白い柱の裏側に廻ったのが見えた。
そっと静かに。
あたし達がその柱の横を通り過ぎる時、矢口さんの姿はコレっぽっちも見えなかった。
歩き続けるあたし達のスピードに合わせて、矢口さんも柱の向こう側を歩いてるのだろうか。
そして通り過ぎてからももちろん、声も聴こえなければ後ろから肩を叩かれるコトもない。

最初っから矢口さんに気づいていたハズのごっちんは、さっきまでと同じようにあたしとハナシを続けている。
あたしも同じように笑って答える。
笑ってる、つもりなんだけど。

ごっちんが何も思ってないワケがない。
だからと言って今、ごっちんにそれを確かめる気もない。
そんなの出来ない。
653 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/01(月) 02:20
矢口さん、矢口さん。
さっきまで遠くに見えていた、あたしに向けられていたのではない笑顔と、柱の裏に隠れてった姿が何度も何度も脳裏に浮かんでは消えていく。
イミのないリプレイと、期待、疑問、思い出、恐怖、否定。
そのすべてがこの短い時間の中でぐるぐると渦巻いている。
でもあたしのアタマは答えを出すコトを拒否している。

校舎に入ったあたし達はそのまま2人で、始業のチャイムを聴いた。
最初から最後までずっとあたしは、後ろを振り向くコトが出来なかった。
654 名前:. 投稿日:2004/11/01(月) 02:23
.
655 名前:. 投稿日:2004/11/01(月) 02:23
.
656 名前:. 投稿日:2004/11/01(月) 02:24
.
657 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 09:51
あぁーもどかしい!
学生の頃ってホントこんなかんじですよね。
高校時代思い出しました。懐かしい。
658 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/06(土) 01:05
いやぁうまいなー。すごい。
確かに学生時代そういうこと思ってた。
思い出して甘酸っぱい気分。
659 名前:SSKB 投稿日:2004/11/11(木) 04:03
>>657
>>658
レスありがとうございます。
作者ももどかしく甘酸っぱく、苦しんでおります。
よっちゃんと同じくらい。
うーんうーん。
いや更新のハナシなんですけども。
ポチっといきます。
660 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:03
一限が始まっても二限でジャージに着替えても、あたしが考えてるのはたった一つの事柄だけ。
朝見た光景はイヤでもアタマの中に浮かんでは消えていく。
それにまつわるエトセトラをアレコレ想像しては打ち消して、暗いキモチになる。

それ以外のコトには興味もないし、やる気も起きない。
あたしが知りたいのは因数分解や社会の仕組みや休み時間のおやつではなくって、本当のコト、というか、矢口さんのコト。
661 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:04
あたしの思い過ごし?矢口さんにはそんなつもりはなかったりして?それとも冗談?
渦巻く自問自答に、正解はない。
そんなの矢口さんに直接確かめるしかない。
メールとかさ。
メール?
今?あたしが?
だって、何て送ればイイのさ。

おはようございます矢口さん、今朝、渡り廊下ですれ違いましたよね、でもひょっとしてあたしのコト避けてました?あたし、一応傷ついたんですよ。
とかナントカ。
そんなバカな。
それをメールで?

ありえない。
辻に言われるまで昼休みになってたのに気づかずにぼんやりしてたのと同じくらいありえない。
あたしのお弁当に入ってるリンゴがうさぎちゃんになってたのと同じくらい、ありえない。

おかーさんごめん、今あたしそれどころじゃなくって全然そのお茶目さを笑えない。
娘は今、ささいな深刻な未確認情報と自分勝手な憶測で1人、不幸のズンドコにいます。
662 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:04
矢口さんからメール来ないかな。
いつもみたく明るくて、何でもないようなメール。
そしたらあたし、午前中のもやもやなんて笑い飛ばしてそっこー逢いに行くのに。

・・どうしてあたし、自分からメールしないんだろう。
どうしてあたし、そんなの出来ないなんて思うんだろう。
どうしてあたし、今朝の一瞬だけで臆病になってるんだろう。
あの日の海で何かが確実に、あたしの腕の中にあるって思ったのは、夢での出来事だったとでも?

そんなコトない。
よっすぃーにそばにいて欲しいんだ、こんなふうに、ってあの時矢口さんは。
海での矢口さんのコトバ、ぬくもりとドキドキを思い出してあたしは、いてもたってもいられなくなった。
そしてあの日の別れ際の矢口さんのコトバをあたしは鮮明に思い出した。

今はヤグチ、こんなカンジなんだ、でも万が一そうじゃなくなったって思うようなコトがあったらその時はちゃんと、よっすぃーに言うから。
そう言って矢口さんはあたしの胸にアタマを預けてじっとしていた。
あたしの背中に回された矢口さんの手が、あたしのシャツを掴んだ。
矢口さんのカオが見えなくてどんな表情なのかわからないからあたしは少しだけ不安に思ってたのだけれど、同じように黙って抱きしめていた。

あったかくて、安心するね。
しばらくして小さくつぶやいた矢口さんは、あたしを見上げて微笑んだ。
663 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:04
そうじゃなくなったって思うような時、なんてのは誰だっていつだってどんな恋にだってあるんだろうとあたしは思ったから、黙ってうなずいた。
本当の本当は、そんな時が来なければイイ、とココロから願いたかったのだけれど。
でも最初にそういうのをコトバにしてあたしに伝えたのは、自分のコトを勝手かなと言っていた矢口さんなりの、誠意なんだと思った。

だから。
もしあの時から変わっているのなら矢口さんはあたしにちゃんと、言ってくれるハズだから。
何も言われてないから今朝のアレはきっとあたしの、思い過ごし、勘違い、見間違い。

逢いに行こう、矢口さんに。
ぼんやり食べてて全然進んでいないお弁当を急いでかき込む。
逢いに行かなきゃ、あたし。
勇気を出してちゃんとこの目で、確かめなきゃ。

あたしの考えすぎだというコトを。
矢口さんの、キモチを。
664 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:04
「何だーよっすぃー急にがっついてさ、さっきから話しかけてもロクな返事もしてくんなかったのに」
加護があたしをからかうように言う。
「ごめんあたし、ちょっと用事思い出した。行かなきゃ」
ばたばたと空の弁当箱をしまうあたしを見て辻と加護がカオを見合わせて口を尖らせる。

「えー今日はみんな集めてウノやろうって言ってたじゃんーよっすぃーもやろうよ」
ウノですと!?
とてもじゃないけどごめん、まったくそんな気にはなれない。
「用事なんて放課後でイイじゃん、よっすぃーはのん達とウノやるコトになってるのです」
隣の席の辻があたしの腕を掴んで言った。
まあ普段、昼休みの途中に思いつく用事なんて大抵大したコトじゃないからね。

それでもあたしは構わず立ち上がる。
座ったままのごっちんと目が合う。
あたしのカオを見つめてごっちんは少しだけ、口を開きかけた。

今朝のコトでごっちんが何かを感じているのだろうとあたしは勝手に思っていた。
でも何を感じているのかはわからない。
665 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:04
「よし子、歯磨くでしょ?」
そんなごっちんが発したのは、それにはまったく関係ないこんなコトバ。
拍子抜けしたあたしは、急いでるとは思いつつも歯は磨かなきゃ、と思って慌てて歯みがきセットを取り出す。
マナーだからね一応、女子の。

「ね、ごめん歯みがき粉貸して?切らしちゃった」
ごっちんがそう言ってあたしの腕を取ったから、辻はあっさりとあたしの腕を離した。

「早く戻って来てねーよっすぃー」
加護が取り出したウノを受け取る辻から急いで離れて、ごっちんと歩き出す。
「よっすぃーは用事あるって言ってるのに、もう」
梨華ちゃんがそう言ってるのが聴こえた。
優しいな、梨華ちゃん。

そんでもってたぶん梨華ちゃんは今日もあの2人にイジメまくられるんだろう。
リバースとかスキップとかドローフォー返しとか。
でもごめんあたしはやっぱり、早く行かなきゃ。
666 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:05
自分のとごっちんの歯ブラシとにイイカゲンにひねり出した歯磨き粉は透き通ったブルー。
あたしがしゃかしゃか磨き出す間にごっちんは自分の歯ブラシの先を光に透かして、そのブルー越しに窓の外を見ていた。
キレイだよねとかナントカ言いながら。

「よし子」
「あに?」
泡だらけの返事と歯を磨き続ける音がびっくりするほど間抜けに響いている。
ごっちんはゆっくりと歯ブラシを自分の口に突っ込むと、鏡を見ながら丁寧に磨き始めた。
「あんでもない」
「あんだよー」

ごっちんに何かを話せたらラクなのに、とあたしはちょっとだけ思っていた。
でも出来ない。
だって何を話すの?

あたしが矢口さんと逢って、本当のコトを自分の目で耳で確かめるまではイイのだ。
ごっちんが何に気づいてて何に気づいてないのかも関係ない。
あの日の矢口さんとあたし、今日の矢口さんとあたし、口で説明なんてしたくないし、同じだよ、変わってなんてない。
単なるあたしの思い過ごし。

「や、歯みがき粉ありがとう、とか」
「どういたまして」
ごっちんはごっちんなりに何かを察してたぶん、あたしを廊下に連れ出したんじゃないかとあたしは思った。
別にあたし1人でもウノの誘いなんて断るのはわかってたろうけど、嬉しい。

何と言うか、あたしの様子を見てくれてるんだなっていう、優しさが。
なんてのは、あたしが勝手に思ってるだけかもしれないけれど。
ホントは全然違うのかもしんないけどね、はは。
667 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:05
「ごっちんごめんコレ、あたしんトコに放り込んでてくれる?」
うがいをして、使い終わった歯ブラシにキャップをして、ごっちんに渡した。
ミントの香りであたしは、背筋がしゃっきり伸びた気がした。
大丈夫、あたしは堂々と矢口さんに逢いに行ける。

ん、と返事をして受け取ったごっちんはまだ、歯を磨き続けている。
「じゃね、あたし行くトコあるからさ」
歯ブラシを動かす手が止まった。
歩きかけたあたしのカオを何か言いたそうに見つめてる。

「ん?どしたのさ」
「ううん」
なんて言いながらも全然そんなカオじゃないよ、ごっちん。
でも今はイイや、あたしはあたしの行くべきトコに行ってから、ごっちんが何か話したいのなら、話そう。

またあとで、と言って歩き出したあたしの背中に小さく届く、ごっちんの声。
「ごめんね」
反射的に振り向いてしまったけれど、何がごめんねなのかはさっぱりだし、ごっちんに謝られる覚えもまったくない。
「何だー?よくわかんないけど、全然イイよ」
ワケのわからない返事をしてあたしは、手をひらひらと振った。

ごっちんは何だか悲しそうな目をしているように見えたけれど、あたしはそのまま歩き出した。
何でごっちんがそんなふうに見えるのかはちっともわからない。
ごっちんのコトバについてはまた後でゆっくり、何かあればきっとごっちんのほうからあたしに言うだろう。
それがいつものあたしとごっちんだから。
てか今はあたし、自分のコトでいっぱいいっぱいなんだ、ごめん。
668 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:05
あたしは歩きながら、大きく息を吸った。
そしてゆっくりと、吐き出す。
向かい側の校舎に向かって。
そして3Fを見上げる。
こんなにカクゴを決めてあの教室に行くコトがあるなんてね。
矢口さんがいますように、と思うと同時に、いませんように、とも思う。

逢って何て声かける?
どんなふうに話しかければイイのかな。
何を言えばイイの?
何を言わないほうがイイの?

あたしの足はキモチよりも先に勝手に動き続ける。
ていうか何にも言わないほうがイイのかな?
ダメだ、まったくのノープラン。

階段を踏みしめる一歩一歩が、少しずつ重く、硬くなる。
3年の教室が近づくにつれあたしはやっぱり緊張してきてる。

矢口さん。
あたしが今こうやって矢口さんに逢いに行こうとしてるの、間違いだったり、しないですよね。
逢ったら何か、あたしもうちょっとスッキリ出来ますよね。

もしかしたら、アレはあの日だけのコトで、もう気が変わったんだよって言われるのかもしれない。
ほんの数日でもヒトのキモチがすぐに変わるモノなのかどうかは、あたしにはわからない。
それでも今みたいにぐるぐる1人で想像して苦しんでるのよりはマシ。
たぶん。
669 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/11/11(木) 04:06
足取り重く踊り場を過ぎて階段を見上げると、ちょうど矢口さんがおりてくるトコロだった。
明らかに驚いている矢口さんとマトモに目が合う。
予想外の遭遇にあたしも動揺していたけれど、ちゃんとしようと強く思った。

矢口さんだから。
あたしの好きな矢口さんは、優しくて正直なヒトだから。

最初にフる時だって、あたしとちゃんと向き合って、誠意を持って返事をしてくれた矢口さん。
だからあたしも逃げずに矢口さんと向き合おうと思う。。
矢口さんは自分で言ったコトはちゃんと実行するだろうし、あたしがイヤな思いをするようなコトをするワケなんてない。
優しい矢口さんと勇気を出したあたしなら、事態はきっと悪くはならない。

そのハズ、だった。
バカみたいにあたしは1人でその瞬間まで、そう信じていた。
670 名前:名無し。 投稿日:2004/11/11(木) 06:17
ああっよっすぃ〜!
どうなるんですかぁ〜?
続きも楽しみにしています。
頑張れ作者さんっ!!
671 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/11(木) 09:35
いいところで… 期待してます。
ウノでいじめられるくだり笑ってしまいました
672 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/02(木) 19:37
ほじぇん
673 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 22:56
ホントにいい作品だ。
いつも楽しみに待ってたし、これからも
ずっと楽しみに待ってるよ。がんばってナ!!

スレ3年目突入オメ。
674 名前:SSKB 投稿日:2004/12/18(土) 18:55
皆様レスありがとうございます。
本当に本当に。

そうなんですよね…3年目に突入です。
マターリキラキラはどこへやら、それでも吉澤さんの日々はまだまだ続いていきます。
中身ではなく作者のマターリにおつき合いいただいて申し訳ない。
今後とも、よろしくお願いします。
675 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:56
「おはよーよっすぃー」
一瞬逸らした目をすぐに合わせて、矢口さんはそう言った。
はっきりとわかった。
矢口さんが意識して、微笑という名前の表情を作っているというコトが。
目は全然、笑ってない。

そしてあたしとすれ違ってそのまま、階段を下りて行ってしまった。
あたしが引き留める間もなく、隣にいる友達さんと話しながら、こっちに振り返るコトもなく。
その後ろ姿を見送って何も言えずに踊り場で立ち尽くすあたし。

おはようだなんて。
昼過ぎだけど今日逢うのは初めて、なアイサツだよね。
たしかに朝は逢ってない。
逢ってるけど、逢ってない。
676 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:56
今あたしが階段を上って来た目的はこの一瞬でなくなってしまった。
何も声を掛けられなかった自分が歯痒い。
もしかしたら用事があって急いでいるのかもしれない、なんてアタマをよぎったからなのか。
それとも。
矢口さんの態度が、いつもどおりの口調とは裏腹にあたしを寄せ付けない雰囲気だったからなのか。

悲しいけれど、あたしはそれを否定出来ない。
目が合ったのにすぐに逸らした矢口さん、本心でなく笑っている矢口さん、そんなの今まで見たコトない。
初めて話した時ですらあんなに自然に笑って話してくれたのに。

矢口さんはあたしと、接触したくないんだ。
たぶん。
目の前を通り過ぎて行った視線、表情、どう前向きに考えたって矢口さんは。
矢口さんはあたしと逢いたいと思ってるとは思えない。

・・わかりやすいコトバにすれば、「逢いたくないと思ってる」んだろうと思う、思った。
理由なんてわからない。
わからないから、認めたくない。

でもあたしは1人でそう決めつけるしかなかった。
本当はそうじゃないって、確かめに来たハズだったのにね。
677 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:57
「おー久しぶりじゃんー吉澤。何やってんのさ」
踊り場で一歩も動けずにいたあたしに声を掛けて来たのは市井さん。
よりによってこんな時にこのヒトが。
「いや、何でもないです」
「ひょっとしてあたしに用事?やだなあ、人気モノはつらいね」
軽いノリは当然いつもと同じ。

「残念ながら違います」
「あ、じゃあ矢口?」
どうしてそこでその名前が出るんだろうか、ああ、もう。
「最近ホントに仲イイらしいねキミ達、まったく」
そう言ってあたしの肩を抱く。

声のトーンが変わらないようにとあたしは大きく息を吸った。
「違いますよ」
何だ違うの?と市井さんはあたしのカオを覗き込んだ。
「しけたカオすんなよーどっちにしろ矢口はさっき教室出てったからいないよ?」
「だから違いますって」
ふーん?なんてまた、いやらしいカオして笑ってる。
ダメだ、全然笑えないし適当にあしらえない。

だって本当は矢口さんに逢いに来たのにあたしは、何も言えずにコンマ何秒かで矢口さんを見送って、ぼんやりこんなトコに突っ立ってて。
にやにやにやにやこのヒトは、ヒトの気も知らないでからかって楽しんで。
さすがのあたしでもちょっと八つ当たりしそうな気分。

「あのー用事済んだんであたし、教室戻ります。じゃまた」
市井さんに軽く一礼して、回れ右をした。
バクハツする前に立ち去るしかない。
市井さんに当たったってイイコトなんて1つもないしきっと、余計な詮索されるだけ。
678 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:57
「えーもう行っちゃうの」
市井さんはあたしの動きに合わせて肩を抱いたまま、階段を一緒に下り始める。
「ついて来ないでくださいよ」
「今日はまた一段と冷たいなーよぉっすぅぃぃー、何だよー」
ええい、今日のあたしは市井さんの冗談につき合ってるヒマはないんだ!
と口から出そうになるのを抑えて、ダダダと階段を駆け下りる。

背後霊みたいにあたしに覆い被さって器用に階段を下りる市井さん。
すれ違う生徒たちは面白いくらい、市井さんに声をかけていく。
それにマメに応える市井さんは、いちいちあたしに抱きついたりしている。
そうか、あたしと市井さんが揃ってるのが良くないのか。
「ねえ吉澤ーおんぶしてー」
「何甘えてんですか!イヤです」

市井さんを背中に貼り付けたまま結局あたしは、1階まで下りてしまっていた。
くそう、何なんだ。
おっ、と背後から、嬉しそうな市井さんの声。
見ると、購買のほうから矢口さんと友達さんが歩いて来ていた。

矢口さん。
逢いたくないけど、逢いたい。

朝から今まで、たったの何時間。
矢口さんの姿を見たのは合わせてたったの数秒だけ。
だからホントのコトなんてわからない、ハズ。

もう何度目かの自分を勇気づけるコトバ。
同時に矢口さんとカオを合わせるコトへの恐怖心がちらついて、どんどん大きくなってった。
679 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:58
「やぐちー!」
市井さんが大声で叫ぶ。
気づいた矢口さんがぱっと笑って、手を振った。
あくまでも、市井さんに向かって。
あたしにではないだろう。

「はっはー、今の矢口かわいくねえ?あたしに手を振ってくれたよ?」
「良かったですねえ」
いっつも同じ教室にいていっつも遊んでんだろ!
このヒトは悪魔か。
あたしのはらわたがどうにかなりそうだ。
「で、矢口を探してたんだっけ」
「探してないですって」

突然、市井さんが後ろからあたしを羽交い絞めにした。
「矢口ー、吉澤がさー!」
そう言ってあたしを抱え込んだまま、矢口さんのほうに引きずっていく。
何てコトするんだ!
うわああああ、と声には出さずに叫んで抵抗するあたし。
とんでもないよこのヒト!

引っ張る市井さん、踏ん張るあたし。
「っとにやめて下さいよ、もう、ちょっと何でもないって言ってんのに」
あたし、マジ声で抵抗してるよね。
たぶんそれは市井さんに、バレてる。
680 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:58
「うっさいちょっと、おとなしくしろ」
何であたしがおとなしく引きずられなきゃいけないんだ。
つーか結構本気でもみ合ってるよねあたし達、何やってんだろ。

怖くて矢口さんのほうを見るコトが出来ない。
本当にあたしが用事があるのに近づけないんだとかって思われたらどうしよう。
だってもう用事、なくなっちゃったのに、本当は。
わかってるけどわかってない、わかったフリを、したい。

「紗耶香ー何やってんのさ、よっすぃー超イヤがってるよ?」
「だって吉澤が言うコト聞かないんだもん」
当たり前だ。
いつの間にか近くに来ていた矢口さん、あたしに話しかけるんじゃなくて、やっぱり市井さんに話しかけてる。
と、思ったりする。

市井さんは何を考えてるんだろう。
ムキになるあたしが面白くってイジってるだけ?
悪いけど今のあたしはイジられる余裕なんてないし、イジられる覚えもない。
「吉澤がさー矢口に用があるって」
「そうなの?何?よっすぃー」
さっきまでのコトなんてウソみたいに、いつもみたいにあたしに笑いかける矢口さん。
どうして。

ウソみたいな笑顔。
朝とさっきの矢口さんと、今目の前にいる矢口さんは別人だ、とあたしは思った。
今日ずっとあたしが1人で考えてたコトなんて、まったくココロ当たりがないんだろうか。
それともそんなハナシなんてあたしがするワケないなんて思ってるのか。

市井さんがいるから?それとも?
今までのがあたしの単なる思い過ごしで矢口さんは今、本気であたしに笑いかけてるのかもしれない。
ムリヤリそう考えたってあたしはやっぱり、笑って矢口さんに答えるなんてコトは出来なかった。
「ないですハナシなんて、別に」

たぶんあたしが矢口さんに初めて見せる、そっけない口調。
本当はこんなふうに話したいんじゃない。
それなのに。
681 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:58
「なーんだよ!何怒ってんの?」
後ろにくっついたまんまの市井さんが笑って、あたしの耳元でそう言った。
こんなの聞かれたくもないし、見られたくもない。
市井さんには関係ない。
「怒ってないです」
「じゃあ何?」
「何でもないですよ」

あたしは矢口さんのカオを見ていなかった。
見えもしない、後ろの市井さんのほうに首を曲げて、ムリヤリしゃべってる、つもり。
何て不自然な空間。
すぐそばを通り過ぎていく、昼休みのはしゃいだ声の中でこの空気はどう考えたって明るくはない。
それはあたしのせいなのだけれど。

一瞬の沈黙で、市井さんと矢口さんが目を合わせたのがわかった。
どっちのカオもちゃんと見えてないからわからないなんてコト、ない。
あたしにはわかった。
だから何?

2人がそのアイコンタクトで何を了解したのかなんてわからない。
市井さんにどう思われたって構わない。
キョーミない。
知りたくない。
もうどうでもいい。
682 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2004/12/18(土) 18:58
目を合わせるだけで何かをわかり合う2人に挟まれてあたしは、とんでもなくみじめだった。
あたしの肩越しに交わされた視線の内容は、あたしのコト。
あたし、何やってんだろ。

泣きたいくらい、みじめ。
コレ以上このままでいると、本当に涙がこぼれてしまいそうな気がした。

こんなトコで泣いたらおかしいよ。
何もないのに。
何もないから。

あたしは市井さんの腕を振り解いて、何も言わずに駆け出した。
683 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 01:46
うあああ、またしてもこんなトコロで寸止めとは!
作者さんよ…。
続き楽しみにしております。
684 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/07(金) 04:20
期待しつつ保全
685 名前:ゆら 投稿日:2005/01/08(土) 19:33
期待してます!!
686 名前:名無し 投稿日:2005/01/20(木) 21:21
矢口さん誕生日オメー。
そしてここのよっすぃー、矢口さんにも期待
687 名前:名無し。 投稿日:2005/01/24(月) 08:53
自分も続きが気になってます・・
作者さんよろしくお願いします。
頑張って下さい!!
688 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 13:51
hozen
689 名前:名無し 投稿日:2005/02/07(月) 22:35
あいぼん誕生日オメー。
そしてここのクラスの連中大好き。
690 名前:名無し 投稿日:2005/02/13(日) 00:33
矢口さんCDTVの「彼女にしたい」ランキング4位オメ!
でも矢口さんはよっすぃーのですから。
691 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 10:31
hozen
692 名前:SSKB 投稿日:2005/02/22(火) 01:30
生存報告です。
お待たせして本当に申し訳ありません。
完結目指してがんばります。
693 名前:ゆら 投稿日:2005/02/22(火) 13:52
待ってました!頑張ってください^^
694 名前:ぱっち 投稿日:2005/02/22(火) 21:40
ハジメマシテこんばんは
同じ板で書かせてもらってます、ぱっちです以後お見知りおきを
実はSSKBさんに憧れて書き始めたんですよ
無理なさらず頑張って下さい、応援してます
695 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 23:36
あー、なにかあるんか。
なにがあるんだ。
と淡々と妄想しながら、応援してます。
696 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/14(月) 21:41
ho
697 名前:SSKB 投稿日:2005/03/22(火) 14:46
皆様、本当にありがとうございます。
もうすぐ春ですね。
相変わらずのペースと量の更新ですが、お許しください。
698 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2005/03/22(火) 14:47
2段飛ばしで駆け上がる階段。
逃げるように、自分の教室を目指して走る。
さっき出てった時とは正反対のキモチ。
サイアク。

「ごめん」
曲がり角のすれ違いざまに軽く肩がぶつかった誰かに、適当にあやまる。
カンジ悪い吉澤って思われても構わないんだ今は、ごめんね。
・・何だったら因縁つけられても構わないくらいのキモチなんだ。
そんでぼこぼこ何かを殴ったり殴られたりしたい。
このどーしよーもないアレを、忘れ去りたい。

「よっすぃー」
そんなあたしを呼び止める、声。
ぶつかったのはあたしだから因縁じゃなくて正当な抗議。
当然だ。
聞き慣れてるその声に立ち止まる。

あたしがぶつかった相手は梨華ちゃんだったのだと、呼ばれて気づいていた。
だから、そのまま行ってしまいたいキモチをぐっとこらえて、振り向いた。
「ごめん梨華ちゃん、よそ見してて」
「ううん、イイんだけど」
真顔であたしのコトを見てる。

あたし今、どんな顔してるんだろう。
肩で息して、ココロにもないような言い方で謝って、ぼこぼこに殴ったり殴られたりとかナントカ考えたりしてて、梨華ちゃん相手だとそんなの想像すら萎えるなんてぼんやり思ったりして。
さわらぬ吉澤に祟りナシみたいな顔してるんだろうか。
でも別にイイ。
どうでもいい。
699 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2005/03/22(火) 14:47
「平気?」
どこかに行きかけてたハズの梨華ちゃんがあたしのいる場所まで戻って来て、言う。
思いがけない梨華ちゃんのコトバに少しだけ、冷静にならなきゃと思った。
自分の気分だけで友達にイヤな思いをさせているのを、どうでもいいって思い切れない、中途半端なあたしは答える。
「ん、どうして?」

努めて暗くならないようにがんばって返事をしたけれどあたしの声はきっと、平気じゃない。
でもそれすら今のあたしには、ちゃんと判断出来ない。
作ってるあたし、ごまかしてるあたし、でもそれが出来てるのかどうかもわからないあたし。

「ん、よっすぃーどうかしたのかな、って」
梨華ちゃんは控えめな言い方をしてるけれど、あたしの目を真っ直ぐに見つめている。
一瞬、何もかも言ってしまいたくなって、コトバがあたしの中を駆け巡る。
あたし矢口さんにさ、何か避けられたっぽいんだけど本当はどうだかわかんなくって、どうしようどうしようって思ってて・・なんて、言ってどーする。
言ってどーなる。
でも。

全然ヘーキ、なんて軽く言えない。
言ってしまったら自分の嘘に、泣き崩れてしまいそう。
今のあたしには、嘘をついてまで強がれる勇気はなかった。

「ううん、平気じゃない、あんまり」
「そうなの?」
梨華ちゃんが右手を伸ばして、あたしの腕に触れた。
初めてじゃないけど梨華ちゃんの手の感触が、すごく新鮮に思えた。
矢口さんの手とも違う感触だなあ、身長も違うからかな、なんてあたしはこの期に及んで思っていた。
700 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2005/03/22(火) 14:47
そばを通りすがる同級生たちが、冷やかしの声をかけていく。
笑えないあたしを気遣って梨華ちゃんが、みんなを適当にあしらってる。
梨華ちゃんはあたしの腕を軽く引っ張って、隣り合わせで窓に寄りかかった。
向かい合わせで黙って突っ立ったまんまだと、よりみんなの目に留まるからだろう。

あたしの肩に手をまわして、まあね、なんてみんなに笑う梨華ちゃん。
あたしは1人で、優しい梨華ちゃんが今、隣で笑ってくれてるコトに感謝していた。
一番仲が良い柴ちゃんにもいっつもからかったりしてるあたしにも、クラスのアホな男子にも平等に優しい彼女は、あたしなんかと違って本当にイイコなんだと思う。
ただ隣にいてくれるだけで今のあたしは、救われたような気持ちになっている。
今更かな。
今更だよね。

予鈴が鳴る。
廊下に出ているみんなが、だらだらと自分の教室に向かって動き始める。
「行こう、よっすぃー」
梨華ちゃんがあたしの腕をひいて、歩き出す。

あたしはずっと、こうしていたかった。
今のあたしは、負けそう、何かに。
誰かに優しくされたい。
友達の手のぬくもりがこんなに離れがたいものだなんて。
あたしってこんなにヨワかったっけ?

行きたくないなんて言えないし、言わない。
おとなしく教室に戻るしかナイんだよね。
本当はサボりたい。
屋上か何かに寝転んで、空でも見ながらぼんやりして。
でも1人でいたくない。
カッコ悪いな、あたし。
701 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2005/03/22(火) 14:48
教室に入った瞬間に離れた梨華ちゃんの右手は、5限が始まってもあたしのすぐ隣の席でシャーペンを握ってノートを取り続ける。
あたしの左手は消しゴムをいじったり教科書をイミなく触ったりして、落ち着かない。
今あたしは、梨華ちゃんと手をつなぎたいワケではない。
いや、つなぎたい。
って、誰と?
矢口さん?
梨華ちゃん?
誰でもイイの?
それってどうなの?あたし。

なんてほんの少しだけ自己嫌悪に陥っていたら、先生に当てられた。
当然答えられなかった。
でもどうでも良かった。

今日が始まって、太陽が高く昇って、やや傾き始めた時間。
気分良かったのなんて学校に来てほんの数十分だけ。
こういうの、しょぼいよね。
あたし、コレからどうなるんだろう。

廊下側の席から視線を感じる。
加護は珍しくノートに集中している・・ひょっとしたら手紙とか落書きかもしんないけど。
ごっちんがあたしを見ていた。
楽観的な友達の顔でも見たら気分が変わるかななんて思ったけどそんなコトはない。
数十分前にあたしを見送ったそのカオは、同じように、何かを言いたそうに見える。
見えるけれど、違うのかもしれないとも思う。
あたしはすぐに、目を逸らした。

何か言いたいのは、あたし。
何もかも言ってしまいたい、言ったって何も変わらないけれど、今のあたしのもやもやを、誰かに半分背負ってってもらいたいくらい。
でもそんなの、出来ない。
理由なんてないけれど、言えない。

あたしの中にあるのは、ツライ、言えない、重い、そんなコトバだけ。
ああ、もう。
702 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2005/03/22(火) 14:49
今日、終わるの、待ってて。
あたしと目が合うのを待っていたらしいごっちんの口がそう動いた。
黙ってうなずいたけれどあたしは、それまでに1人で過ごす放課後が少しだけ、コワかった。
だんだん暗くなってく空、教室、グラウンド。
みんなはみんなで居られるけれどあたしは、1人。
今までは1人が楽しかったのにね、本当に。

泳ぐごっちんの姿を見てれば、と思ったけれどプールは、あの席は、と思い出す。
矢口さんとの楽しい時間。
ねえまた、そんなコトってあるのかな。
今のあたしが考えすぎなだけで、矢口さんが忙しかったりするだけでさ、本当は、何もないんじゃないの?
なんてね。

はは、バカみたい。
イイや、いーんだ、いーの。
待つよ待つ、ごっちん。
1人でも何時間でも待ちますよ。
そもそもすぐに家に帰ったって、1人で何を考えて、何をする?
ロクなコトは考えない、って当然わかってる。

あたしは目を閉じてあたしの好きな、ごっちんの飛び込む姿や、響く水音を思い浮かべた。
けれど楽しい気分にはもちろんならない。
遠い記憶のような気がする。
そんなに行ってなかったっけ、プール。

夏なんてもうとっくの昔に終わってその余韻すらなくて、秋はきっとすぐに過ぎて、あっという間に冬が近づくんだろう。
長い長い冬が、もうすぐやってくる。
好きだったハズなんだけどな、冬。
そう思ってもあんまり楽しくはないね、今のあたし。
703 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/22(火) 19:17
ダブル更新乙です。
ごっちん何言うツモリなんだろう、
気になる…。
704 名前:名無し 投稿日:2005/03/22(火) 23:31
更新おつでつ
よっすぃツライ・・・
けどがんばれー
705 名前:名無し読者 投稿日:2005/05/06(金) 20:49
保全
706 名前:名無し 投稿日:2005/05/10(火) 20:40
どうか完結させて下さい
そのためならいつまででも待ちます!
保全
707 名前:名無し。 投稿日:2005/05/13(金) 05:38
作者さん、頑張ってください!!
自分も続きを楽しみにしている一人です。
708 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 23:54
待 っ て ま す
709 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/11(土) 21:39
ご、ごっちーん!何を言うおつもりなんですかっ!
んでよっちゃんガンバレ
710 名前:名無し 投稿日:2005/07/07(木) 02:51
保全
711 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/23(土) 01:01
いつまでも
いつまでも待ちますから
712 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 08:20
生存報告だけでもお願いします!!
713 名前:SSKB 投稿日:2005/08/23(火) 00:55
自己保全
714 名前:nanashi 投稿日:2005/08/24(水) 00:11
>作者さま

やた。まだ待っていていいんですね?<自己保全
ありがとうございます。
715 名前:名無し。 投稿日:2005/09/07(水) 09:30
自分も待ってます。
716 名前:A 投稿日:2005/09/11(日) 04:00
首を長くして待ってま〜す!
717 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/12(水) 22:15
hozen
718 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 00:40
待ってます
719 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 02:09
あ〜あげんなって
期待したのに
720 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 22:36
なんというか、本当に待ってます。今自分が一番続きが読みたいと感じる小説です
721 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:50
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

722 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/19(月) 17:33
保全
723 名前:名無し。 投稿日:2006/01/06(金) 18:37
年明け保全。
続き楽しみにしてますよ。
生存報告も待ってます。
724 名前:DODA 投稿日:2006/01/07(土) 18:25
何年もこの作品を読んでて初レスです
いつも続きが気になってます
まったりと待ってますので
気が向いたら帰って来て下さい
725 名前:名無し読者 投稿日:2006/01/09(月) 00:59
うぅ…続きが気になる
いつまでも待ってます。がんばれ!
726 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/17(火) 01:12
待ってます!!
生存報告だけでもお願いします!!
727 名前:SSKB 投稿日:2006/01/17(火) 01:50
待っていてくださる皆様には本当に申し訳ないと思っています。
そして待っていてくださって、本当にありがとうございます。
思い切って更新出来る状況ではありませんが、完結目指してよぼよぼ歩いて
いるのは間違いありません。
さらに。
このスレの残り容量は少なく、あと2回程の更新でおそらく、
一杯になってしまうはずです。
どうしたもんかと思いましたが、もう1つの自スレの後半を活用しようと
思っています。
 ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/wind/1042908919/
その為にはそこで進行中(3年がかり…)の短編を完結させなければなりません。
というワケで、本当に申し訳ないのですが、現在はその短編を完結させることを
優先させております。
何の言い訳にもなりませんが、今の作者はそんな状況でございます。
何が何でも完結させる気満々ながら、そんな更新状況ではありませんよね。
こんな生存報告ですいませんすいません。
728 名前:名無し読者 投稿日:2006/01/28(土) 22:34
生存報告があって安心しました…!
信じて待ってます。どちらの作品も頑張ってください。
729 名前:名無し。 投稿日:2006/02/28(火) 03:51
待ってますね。頑張ってください!
730 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/27(月) 02:03
待ってます。
731 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/23(日) 04:09
いつまでも待つつもりです。
732 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/06(土) 23:38
待ってますよ。
733 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 21:58
待ってます。
734 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/02(日) 02:18
まってます
735 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/01(火) 03:44
まってます。
736 名前:SSKB 投稿日:2006/08/11(金) 22:22
待っていて下さる方に、本当に感謝です。
生存報告代わりの更新ばかりで申し訳ない…。
737 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2006/08/11(金) 22:23
校舎の北東の角にある図書室の入り口の前はいつでも薄暗くて、廊下の電気をつけりゃーイイのにと思わないでもないけれど、中に入れば別世界だからまあイイかとも思う。
ドアの隙間から漏れる明るい光が少しだけ、嬉しい。
そしてあたしは思い出す。

図書室だって、色々あんじゃん。
矢口さんとお茶したり、とか。

と思い出したのはもう、ドアに手を掛けた後。
いたらどうしようというキモチと、いたらイイのにっていうキモチがそれぞれ、ちょこっとずつ。
誰が、って、矢口さんが。

いたら、どうする?
いなかったら、どうする?

どうもしない。
だってあたし、ごっちんが終わるの待ってんだもん。
738 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2006/08/11(金) 22:24
ドアを開けて思い切って中に入る。
当然だけれど、必要以上に明るい部屋。
不自然なほど白い光は、容赦なく部屋中を照らしている。
隠れるトコなんてない、浮かんだのはそんなコトバだったのだけれど実際はあたしの背よりも高い本棚がいくつもあるワケで、部屋中をくまなく見渡せるワケではなかった。

それでもあたしは自然と、部屋の中にいる全員の姿を、目で確かめてしまっていた。
いない。
誰が?
なんて自問自答も薄ら寒いと自分で思う。
ちょっと安心、ちょっと残念。

カウンターにいるのは、たまに見かける1年の図書委員のコだった。
あたしに軽く会釈をして、すぐにまた自分の手元に目を戻す。
司書室に飯田先生がいるかどうか、訊くタイミングすらつかめない。
そのまま上履きを脱いであたしは、窓際を目指してグリーンの絨毯の上に踏み出した。

いつもの、あたしの場所。
いつもの柱の横からの眺めも、いつもと同じ。
東の空はほんの少しずつ濃くなり始めている。
いつもの桜の樹はそのまま空に溶けていってしまいそうなくらい、暗い。

朝でも夜でも桜は桜。
夏でも秋でも、桜は桜。
それだけなんだけど。
739 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2006/08/11(金) 22:25
あたしはくるりと窓に背を向けて、図書室の中をゆっくりと眺めた。
いつもの放課後の風景。
変わらない。
勉強をしているヒト、分厚い本を読みふけっているヒト、本棚の間をゆっくりと歩いて、たまに立ち止まって手を伸ばすヒト。
そしてあたしがいる。

そのまま、柱に背中をつけてずるずると床に腰をおろす。
絨毯を左手で撫でる。
指先のざらざらとした感触がそのまま、音になってあたしのアタマの中に入り込んでくるみたいな気がした。

しん、とした一瞬の間を感じる。
あたしは息を吸い込みそれから静かに、息を吐いた。
ヒトがいる空間だから多少の物音、気配、空気の流れは常にある。
そのスキをついてぴたりと空気が止まる、コンマ何秒かの瞬きのような間。

弾けるような笑い声と足音が突然窓の外を通り過ぎて、その間を大きく破っていった。
その声は矢口さんのものではなかったけれどあたしはやっぱり、矢口さんを思い出す。
何も見たくも何も聞きたくも何も考えたくもなくってあたしは、自分のヒザにカオを埋めて、目を閉じた。
740 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2006/08/11(金) 22:26
どれくらいそうしていたのだろうか、ふとカオを上げると、図書室の光景は大分変わっているのに気づく。
外の暗さと対照的な蛍光灯と、ヒトの気配のなさ。
「よっすぃー?」
「えっ」
突然声を掛けられて、寄りかかった柱からカラダを離す。
我ながら、不必要なほどびっくりしていると思う。

「なんだ、ごっちん」
「ごめん、待ったよね?さっき終わったんだ」
あたしが居る柱の次の柱にもたれたごっちんが、あたしを見ていた。
「あ、いや、待ったってワケじゃないけど、えーと、ごっちんは何してんの?」

何してんのって、と言ってごっちんはヒザの上に広げていた本をぱたんと閉じた。
「よっすぃーが寝てたから、起きるの待ってた。ごめんね、ホント遅くなっちゃって」

「いや、ううん、全然へーきだよ」
寝てるつもりはなかったのだけれど、どうやらあたしは寝てたらしい。
目の前の状況がわかってるのに、何となくとんちんかんな会話をごっちんとしているような気がする。

「ごっちん?」
「ん?」

立ち上がったごっちんがあたしのそばにやってくる。
「ごっちん」
今、この瞬間までどこか彼方に置き去りに出来ていた今日のあたしの感情が、またココロの中に湧き戻ってくるのをあたしは感じていた。
せっかく、忘れていたのに。
741 名前:秋の流れ(3) 投稿日:2006/08/11(金) 22:27
あたしの隣にごっちんが腰をおろす。
衣擦れの音、近さ、触れない体温。
あたしは。
「ごっちん」

何かをコトバにせずにはいられなかった。
けれどあたしは今、ごっちんの名前を呼びたいのではたぶん、ない。
本当に呼びたい名前は。

「ねえよっすぃー」
ただごっちんの名前を呼ぶだけのあたしに構わず、ごっちんが口を開いた。
742 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/12(土) 00:11
お待ちしてました〜っと思いきや
ぐわわぁ〜っ・・・なんか気になる所で・・・・

でも戻って来てくれて嬉しいです
743 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 22:42
きたーー!
でも・・・うあぁ・・・つ、続きが気になる・・・。
744 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/08/14(月) 10:29
あぁーー!!!!
気になるところで・・・・笑
久しぶりに最初から読んでしまいましたww
ミ●ティは結局数回の登場で寂しいですw笑
745 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 00:49
待ってますよぉ!
746 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/16(木) 02:06
まってます。
747 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/10(日) 06:11
待ってます。
748 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:41
おけおめです。
そして楽しみに待ってます。
749 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/27(金) 00:34
まだかな?????
750 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/27(金) 06:47
あげないでね。
sskbさん、待ってます。
751 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 10:58
まだまだ待ってま〜す!!
752 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/01(水) 03:06
ho
753 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/17(金) 12:25
まだまだ待ちます
754 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 12:21
続きがめちゃ気になります。

755 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/23(日) 00:58
う〜っんと、HPの日記をみました。


たしかに状況は変わっちゃいましたけど、やっぱり続きが読みたいですZ

ペースは全然ゆったりでいいんでいつか完結をしてくれると信じてまっちょりますo(^▽^)o
756 名前:作者 投稿日:2008/01/11(金) 15:37
自己保全
757 名前:p 投稿日:2008/01/16(水) 16:07
自己保全キター!
待ってますw
758 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/31(月) 19:21
こそっと
759 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/29(日) 01:52
hozen
760 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/29(日) 02:29
落とします
761 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/26(火) 02:53
まち
762 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/31(金) 14:14
待ち
763 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/31(火) 23:11
ん!まち
764 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/24(木) 19:59
待ち

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