聖夜の舞姫
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/26(土) 01:55
草板で書いているどらと申します
黒板の皆様どうぞよろしくおねがいします

草板のスレがいっぱいになってしまいましたが、
今度のお話は男性キャラとの絡みがあるためこちらにスレを立てさせて頂きました

管理人様に森板の皆様、大変ご迷惑おかけしました

小川麻琴ドキュメント『出せなかったファンレター』
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/grass/1146929895/




今回は上記スレの続編、『聖夜の舞姫』です

テーマは“男女の友情”
純粋なラブストーリーです

ストーリーの展開上、ちょっとだけエッチなシーンがありますw
英文は全て適当ですw
文法間違い、スペルミス等、どうかご容赦下さい

※プロットは既に完成しているので毎日一回のペースで更新します


草板
聖夜の舞姫
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/grass/1146929895/84 (プロローグ〜第三話の途中)
2 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:57



           〜



2001年7月26日 新潟県柏崎市



13歳、それは少女が大人を夢見る思春期の頃。
去年13歳を迎えた小川麻琴も、中学最後の夏を少し背伸びして迎えていた。



ギャルに憧れて顔全体をこげ茶色に塗りたくり、髪を銀色に染めた。
染めたと言ってもスプレーでごまかしているだけであるが、中学生にはそれが限界だった。
3 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:57



いわゆる“ガングロ”ギャル。



やたら目立つためか学校では常に上級生から目を付けられ、呼び出しを食らった事も何度もあった。
それでも憧れのギャルに少しでも近づけた事は嬉しかった。



そんな小川にとって、この夏はいつもと少し違う特別な夏になった。



モー娘。第5期オーディションに合格したため、8月からは柏崎を離れて東京で生活する事になった。
つまり、この夏は地元の友人たちと遊べる最後の夏になるかも知れなかった。
友人たちもそれを知って、小川がたまの休みに東京から帰ってくると決まって夜遅くまで遊ぶ事にしていた。

4 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:58




7月26日 ぎおん柏崎まつり最終日――――



真夏の夜、雄大な日本海を臨んで行われる柏崎の名物イベントである。
焼きそばやわたあめの夜店・屋台が立ち並び、これが来ると柏崎市民は夏がやってきたと実感する。
小川も例外に漏れず、このイベントを毎年楽しみにしていた。



祭りは最終日という事もあり、周りには浴衣姿のカップル、他県から来たらしきオシャレなカップル、どこを見てもカップルだらけだった。
間違えて男同士、女同士で来ようものなら劣等感を抱かずにいられない…そんな甘い雰囲気の夜だった。
5 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:58



柏崎の海岸にて浴衣姿の中学生3人が小川を待っていた。



「お待たせー!」

「おいおい、マコ、お前メイク濃すぎだよw」

「ギャルっぽいでしょ、ホレホレw」

「ああ、可愛い、可愛いw」

「いっつも拓海はまともに見ないんだよねー」

「いいから、行くぞ もう始まってる」



メイクは“ガングロ”とまではいかないが、かなり派手目に。
その上に浴衣を着る。
10万人を越える観客の中にあっても小川の美貌はひときわ目立っていた。
6 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:58



メンバーは、小川と小川の親友(女)、そしてクラスで仲のいい男二人だった。
いわゆるダブルデート。



沢田拓海、13歳。
沢田は中学3年の5月に横浜の中学校から転校して来た。
しかし、持ち前の明るさと社交性、そしてずば抜けた頭脳のおかげですぐにクラスの人気者になった。



小川は弱冠13歳にもかかわらず地元アイドルグループで活動しており、
クラスの男子にとっては“高嶺の花”といったところだった。
7 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:58



何となく似通ったところのあるこの二人は自然と惹かれあい、
恋人同士とまではいかないが何でも相談できる親友となった。



俗に言う、“友達以上、恋人未満”の関係だ。



「じゃぁ、これからは別行動にしようか」



誰からともなくこんな提案が出された。
これも半ば決まりごとのようなものである。
もう一方のカップルは仲良く夜店の列に消えていった。
8 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:58



「さて、私たちはどうしよっか」

「なぁマコ、恋人岬行ってみねぇ?
 俺さ、穴場スポット知ってるのよ」

「え?でも私たち恋人同士じゃないでしょ?」

「別に関係ないじゃん 俺一度行ってみたかったんだよ
 マコも正直言って興味あんだろ?」

「んー…そりゃまぁ…うん」

9 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:59



恋人岬――――

佐渡弥彦米山国定公園の一部。
眼前に福浦海岸を望み、新潟の誇る景勝地のひとつである。
そこに設置された柵には、恋の成就を願う恋人たちの思いを届けるメッセージプレートが数多く取り付けられていた。
荒涼とした日本海に囲まれたその断崖絶壁の岬は、その姿に似合わず恋人たちの人気のスポットになっていた。



小川は姉の百子が彼氏とよく行っているという話を聞いていた。
私もいつか…とは思っていたが、実際に行く相手がいなかった。
10 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:59



二人は手をつないだまま、夜の8号線を海岸沿いにてくてくと歩いてゆく。



夏の夜特有の濃密な空気
遠くに聞こえるドーンという花火の音
ちらほら見える浴衣姿のカップルたち
行き交う車の音



二人は真夏の夜の甘い雰囲気に身をゆだね、寄り添いながらゆっくりと歩いていった。
次第に潮の香りと波の音が大きくなってゆく。
11 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:59



やがて二人は恋人岬に到着した。
そこでは夢見る恋人たちが身を寄せながら甘いひと時を過ごしていた。



幸せそうな顔をして柵にプレートを取り付ける恋人たち
願いを込めて鐘を鳴らす恋人たち
何事か小声で囁きながら幸せそうに佇む恋人たち



その甘い雰囲気に抵抗するかのように、いつものように馴れ合う二人。
12 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:59



「私、ここ来たの初めてだよ」

「俺もだよ」

「でもまさか拓海と来る事になるとはね、想像もしてなかった」

「何だよ、嫌なのかよw」

「別にぃ 今日は雰囲気を味わいに来ただけだから
 拓海とは付き合ってるわけじゃないし
 今日は将来のための下見ってところかな」

「将来の下見ねぇ〜w
 マコの恋人とかちょっと想像できないんだけど」

「ひどいねぇw 私これでもモテるんだよ
 この前も新潟の駅前で声かけられたし」

「どうせまた変なキャッチか何かだろw」

「違うもん! ちゃんとしたスーツの男の人だったもん!」

「スーツって…お前なぁ…」
13 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:59

「そういう拓海の方こそどうなの?
 スポーツやってる割りにガリガリ君だし、正直モテないでしょw」

「へっへ〜ん、俺こないだ一年の子に告られちゃったもんね〜」

「え?だ、誰に?」

「すっげぇ可愛い子だよ ホラ、バスケ部の小沢って子」

「ああ…あの子… で、どうしたの?」

「そんなのマコには関係ないだろ?
 でも結構いい感じの子だったし、OKしちゃおっかな〜なんて」

「…ふ〜ん…ま、別にいいけどね 世の中物好きな女の子もいるもんだね〜」
14 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 01:59



小川が笑顔を装う。
沢田が小川の顔を覗き込む。



「おい、マコw お前なにしょぼくれてんだよw」

「え?な、何言って…私、そんなくぁwせdfrtghy」

「ハハハw 何テンパってるんだw
 冗談だよ、冗談 ちゃんと断るよ」

「え?あ、そうなの?」

「俺のタイプはセクシーなお姉様系だからな
 年下の子には元々興味ないし」

「うん、それがいいよ 拓海とあんな可愛い子じゃ釣り合わないよ」

「言ってくれるね〜w」

15 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:00



小川は自分の感情が理解できなかった。



『告白されたんだ』



沢田のこの言葉に言いようのない焦りを感じた。



沢田とはただの友人のはず。
恋人同士などではなく、ただの“くされ縁”。
16 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:00



それなのに…。



沢田が別の誰かのものになるかもしれない。
そう考えると小川の額からは変な汗が出てきた。



腑に落ちない感情を胸に、小川は何事もなかったかのように沢田に話しかける。



「ねぇ、私たちもあの鐘鳴らしてみようよ」

「おう、そうだな」



二人は順番を待つカップルの列に並んだ。
17 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:00



小川は自分に言い聞かせるように言う。



「鐘鳴らすだけなら別に問題ないよね」

「問題ないって何がだよ」

「だって、間違えて拓海と恋人同士になっちゃったりしたら嫌じゃん」

「ちぇっ、何だよそれ 俺だってお前となんかご免だよ」
18 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:01



そうだ。
自分と沢田とはただの友達だ。
恋愛感情などにそそのかされて告白でもしようものなら、その瞬間に今の関係は崩れ去る。



これでいい。これでいいんだ。



小川は湧き上がる熱い思いを無理やり抑え込んだ。



やがて二人の順番が回ってくる。
小川が鐘を鳴らす紐に手をかけようとするや、後ろから割り込んできた客がいた。



「ねぇ、ケンジー、早く来なよ 今なら鳴らせるよー」



割り込んできたのは小川と同じくらい濃いメイクを施し、浴衣をまとった高校生くらいの女だった。
周りのカップルたちから横目で見られるのも気にせず、大声を上げていた。

19 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:01



「ちょ、お前、それ割り込みじゃねぇか」



ケンジと呼ばれた相方も同じくらいの年齢だろう。
しかし、その女とは違い幾分かまともな風貌をしていた。



「ねぇ、はやくぅ」

「あー分かった、分かった… ホント、すみません、すみません」



男が周りの客に配慮しながらわがまま娘の隣に並ぶ。
女は男の恥ずかしがる様子を気にも留めず、豪快に鐘を鳴らし始めた。
20 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:01



小川はその態度に憤慨し、つい言葉を漏らしてしまう。



「失礼な人だなぁ ちゃんと並ぶのがマナーでしょ…?」



小川は小声で言ったつもりだったが、女の耳にはバッチリ聞こえていた。



「ちょっと、アンタ 聞こえたわよ
 アンタらがグズグズしてるのが悪いんだろ?」

「な、何ですか 私は普通に並んでただけ…」
21 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:01



小川の反論を遮り、女がハッとしたように言う。



「ん?…ねぇ、アンタ、まさか東中の小川じゃない?
 ハハハw 誰かと思えば、あのヘタレだったとはねw
 アンタ、こんなところで何してんの?
 え?まさかその隣のひょろひょろ君がカレシ?
 ダッサぁwww」

「おい、ちょっと…やめとけよ…」



男の警告を無視し、女は攻撃の手を緩めない。
22 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:01



「アンタ、何そのメイクw
 ギャルにでも憧れてるつもり? キャハハハw
 はっきり言って、全然似合ってないからぁw
 何だよ、この中途半端なパーマw 
 ちょっと調子こいてんじゃねーの?」



周りのカップルたちが何事かとこちらを見る。
小川は下を向き、何も言わずに罵言に耐えている。



「だいたいアンタさぁ、モー娘。受かったからって調子乗りすぎてんのよ
 私も応募したのに、何でアンタが受かってアタシが書類落ちなのよ
 信じらんない」



さすがにこの言葉に周りのカップルから失笑が漏れる。
23 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:02



「あーあ、もうアンタみたいなバカのせいで気分台無し
 ケンジ、行こ行こ」



男は周りの客に頭を下げながら、女とその場を去っていった。
周りのカップルは小川たちを気遣い、見て見ない振りをしていた。
小川はひどく落ち込み、下を向いてうなだれていた。



「マコ、大丈夫か…?」

「…」

「もう行こうか?どうする?」

「…」
24 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:02



うつむいたまま何も喋らない小川に、沢田が困惑の表情を見せる。
やがて小川は重い口を開いた。



「拓海…ゴメンね…」

「いや、気にするなって とにかく、もう帰ろう」

「ねぇ、拓海…」

「ん?」

「さっき言ってた、穴場スポットってとこ…連れてって」

「え…ああ、別にいいけど…マコ、大丈夫か?」

「うん、私は大丈夫だよ 早く行こ」
25 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:02



沢田はうなだれる小川の肩を抱き、秘密の場所へ連れて行く。
恋人岬から50mほど離れたところに壊れたフェンスがあり、二人はそこから海岸へと降りていった。



そこは一面まっさらな砂浜だった。
人もほとんど出入りしないのであろう、足跡すら全くついていなかった。
そこにあるのはボートと流木と――――身を寄せ合う二人の姿だけだった。
26 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:02



二人は波打ち際近くにある、直径1mはあろうかという巨大な流木に並んで腰を下ろした。



「凄い…波が目の前に見える 
 こんな綺麗な場所なのに誰もいないんだ
 拓海、よくこんな場所知ってたね」

「ああ、アニキから聞いたんだ 誰にも教えるなよ」


「…」

「…」



一瞬の空白。



ザザーンという波の音、
遠くから、ドーン、ドーンという花火の音が聞こえる。
27 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:03



「拓海、さっきはゴメンね…
 私がこんな格好してるから…」

「何言ってるんだよ、悪いのはあっちだろ?」

「私のせいで…拓海の悪口まで言われちゃって…本当にゴメン」



涼やかな音を奏でる鈴虫と、夜空に散りばめられた星屑だけが二人の会話を聞いていた。



「気にするな、俺だってあんなの気にしちゃいないよ」
28 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:03



突然、小川がすすり泣く。



「ぅぇぇぇぇ……」



沢田は小川の体を抱き寄せ、両手で優しく包む。



「マコ…」



涙がやがて嗚咽に変わる。



「うっううっうっうっ…」

「マコ…もう…泣くなよ…」

「ぐすっ…だって、…私…私…」
29 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:03



ふいに、夏の甘酸っぱい風が二人を包み込む。



沢田は小川の唇にそっと口をつけた。



「ぁ……ん…」



一瞬驚く小川。



しかし、すぐに沢田の暖かく柔らかな感触に身を委ねた。
小川はゆっくりとその両腕を沢田の背中に回した。



沢田の体温で小川の体はとろけそうになった。
30 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:03



その甘いひと時は永遠にも感じられた。
小川の耳には波の音と鈴虫の音色、そして遠くの花火の音だけが響いていた。



13歳の小川と沢田、甘酸っぱいひと夏の経験だった。

31 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:04




「私、芸能界行っても頑張るよ」

「うん…」

「いっぱい歌って、いっぱい踊る
 拓海もTVで見ててね」

「ああ…」

「ねぇ、拓海は夢とかあるの?」

「…ああ、俺はタイムマシーンを作って時間旅行をしてみたい」

「そっか、何か凄いね」
32 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:04

「マコは?」

「私は…そうだなぁ、いつかプロのダンサーになって、大きな舞台で踊ってみたいな」

「そうか…」

「…」

「…」

「マコ…」

「ん?」
33 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:04



振り返る小川に沢田は再び口付けた。



「…」

「…」

「マコ…芸能界行ってもガンバレよ」

「うん…私、成長してまた柏崎に戻ってくるよ」

「…」

「…」

「今日でぎおん祭りもお終いかぁ」

「夏はまだ始まったばかりだよ」

「そうだね…これからだね」

「よし、じゃぁ帰ろうか」

「…うん」
34 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:04



ドーン、ドドーン



遠くで花火の音がこだましていた。



二人は手をつなぎ、深夜の国道を歩いてゆく。
余計な言葉は必要なかった。
幾千の星空が二人を祝福していた。
35 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:04



             〜



「昔を思い出すと、いつもマコは泣いてるんだよ」

「私、泣き虫だからね」

「何も変わってないよな」

「うん、あの時のまま何も…」

「さ、もう寝よう」

「そうだね 明日からまた大変だし」

「マコ、おやすみ」

「うん おやすみなさい」
36 名前:聖夜の舞姫 第三話 『甘い思い出』 投稿日:2006/08/26(土) 02:05



30分後、寝息を立ててすやすやと眠る少年。
少女はその寝顔を見ながらそっと囁く。



「ねぇ、拓海…今日は本当にありがと
 私、拓海が来てくれた時本当に本当に嬉しかった…」



少女が寝返りを打ち、少年に背を向ける。



「してくれても…良かったのに
 でも、彼女がいるなら無理か」



少女は部屋に置いてある女物の化粧品を一瞥すると、深い眠りについた。
37 名前:どら 投稿日:2006/08/26(土) 02:06

…と、こんな感じで進んでいきます
今日のところはここまでです

一応目次を貼っておきます
あくまで予定ですが




プロローグ 『ニューヨーク』
第一話   『謎の隣人』
第二話   『冤罪』
第三話   『甘い思い出』
第四話   『親友』
第五話   『小林広樹』
第六話   『貞操』
第七話   『郷愁』
第八話   『好転』
第九話   『夢への階段』
第十話   『恋人のジレンマ』
第十一話 『師弟愛』
第十二話 『モーニング娘。』
第十三話 『最難関』
第十四話 『悲しき錯誤』
第十五話 『自暴自棄』
第十六話 『新しい朝』
第十七話 『揺れる思い 1』
第十八話 『揺れる思い 2』
第十九話 『葛藤の果て』
第二十話 『意外な訪問者』
最終話   『聖夜の舞姫』
エピローグ 『一年後』
 
 
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/26(土) 09:55
半端になってるけど草板のは残しておくのかい?
39 名前:どら 投稿日:2006/08/26(土) 11:29
草板のスレは容量の関係でもう書けなくなってしまいましたので…
今回の小説は超短編にはなりそうもなかったため次スレは森板で継続させて頂こうかと思いましたが、そちらは男キャラNGという事でこちらにスレ立てさせて頂きました

結果的にプロローグ〜第三話は草板のスレに中途半端に残ってしまっていますが、
草板のスレが容量いっぱいである事、同じ内容を再度こちらのスレに掲載するのもレスの浪費である事を勘案して、草板のスレに掲載した分はそのまま残しておこうと思います
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/26(土) 22:50
毎日更新と言いましたが今日は更新できません
ごめんなさい
頑張って絶対このスレ埋めるつもりですのでどうかお付き合い下さい
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/30(水) 00:37
更新お待ちしてます
42 名前:どら 投稿日:2006/11/01(水) 00:59
リボン千秋楽やら国家試験やら色々あって更新できませんでしたごめんなさい
お話の方はとっくに完成しておりますのでw更新します
一気に全部は疲れるのでマターリと

>>41
大変お待たせしました
43 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:00







第四話  『親友』






44 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:01


翌日――――

少女はいつものように6時に起床した。
時差ボケをもろともしない少女の体内時計は天賦のものか。



NYの朝焼けが目にしみた。



隣にいるはずの少年はすでにいなかった。
机の上のかばんが置きっ放しなのを見ると、まだ家を出てはいないのだろう。



少女は改めて少年の部屋の中を見回した。
45 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:01
鏡の前、男性用化粧品に交ざって置いてあったのは、やはり女性用の化粧品だった。



エスティローダーで統一された高級感のあるアイシャドー・リップ・ファンデーション。
こだわりがあるのだろう、グロスだけはイヴサンローランだった。
スカルプチャーのコロン、それにマスカラもあった。
生来まつ毛の濃い少女にマスカラは無縁だったため、マスカラのメーカー名まではよく分からなかった。



本棚には分厚いハードカバーの洋書、和書がぎっしりと詰められていた。
意味は分からなかったが、題名に“Physics”と書かれた本がたくさんあった。



おもむろに一冊の本を取り出し、ぱらぱらとめくる。
全て英語で書かれていたため内容はさっぱりだったが、ところどころに強調線が引かれている事だけは分かった。

46 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:01


本を戻すと、ふと下段に漫画があることに気がついた。
日本から持ってきたのだろう、少女にも馴染みのある題名の漫画が整然と並べられていた。



ボーっと本棚の前に立っていると、ドアが開き少年が帰ってきた。



「おう、おはよう やっぱマコは早いな」

「おはよ どこ行ってたの?」

「朝飯の買出し」



少年の手には茶色の紙袋が握られていた。
47 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:02
「さ、メシにしようか」



少年は折りたたみ式のテーブルを出し、買い出してきた食料品を皿に出した。
二人はチョコレート味のシリアルとミルクを静かに食べた。



少女は思い切って切り出した。



「ねぇ、拓海…」

「ん?」

「あのさ…あれって誰の?」



少女は例の化粧品を指差し、言った。



「あーアレか、カノジョのやつ」



少女の胸がチクチクと痛む。
48 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:02


「そう…彼女いるんだ」

「ああ つってもまだ知り合って一ヶ月だけどな」

「ねぇ、どんな感じの人?」

「ん…そうだな、取り合えずマコとはまったく別のタイプ、とだけ言っておこうかw」

「何それ」



少女が横目で少年を見る。
49 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:02

「そんな睨むなよw 
 モー娘。に藤本っていただろ?
 アイツからキツい部分だけ取り出したような、そんな感じ」

「は?マジで? それ相当怖いよw 本当に女の人?w」

「ハハw それはちょっと言い過ぎたかもなw
 でも、まぁ大体そんなカンジ」

「ふ〜ん、そうなんだ…
 でも、何で拓海は彼女がいるのに私にこんなに優しくしてくれるの?」

「そりゃ〜、お前、マコは昔からの友達だからだよ」

「友達?」

「ああ、俺はこう見えて義理人情には厚いんだ
 それに、マコは一人じゃ何もできないお子ちゃまだからな〜w
 助けてあげないとどうにかなっちゃいそうなw」

「ひど〜い、ひどいねぇ拓海は (ただの友達…か)」

「ま、とにかくマコには『俺が助けてあげなきゃいけない!』って気持ちにさせる何かがあるんだよ」

「ふぅ〜ん」

「友達っつぅか、妹かな」

「そうなんだ」
50 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:02


『ただの友達』



少女はその響きに何とも言えないもの寂しさを感じた。
続けて質問する。



「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、
 あの日拓海はファーストキスだったの?」

「そうだよ」

「私はただの友達なんでしょ?
 なのにどうしてあんな事したの?」

「う〜ん…俺にもよく分からない」

「分からないって…」

「俺、たまにあの日の事思い出すんだけどさ、
 あの時の自分の感情がよく分からないんだよ
 マコの泣き顔見てたら急に胸が締め付けられてさ
 気がついたらキスしてた」
51 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:02

「ふ〜ん…」

「でも、俺は初めてのキスがマコとで良かったと思ってるよ」

「えっ?」

「だってマコは芸能人だしな〜 何かプレミア物ってカンジじゃんかw」

「何よそれ…」

「冗談だって、冗談w マジになるなよw
 初めてのキスの相手が何でも話せる気の置けない親友、ってのも悪くないと思ってるよ」

「親友…か」

「おう 俺たちは、親友だ
 これからも仲良くやっていこうな」

「うん」
52 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:03


『親友』



この言葉に少女は嬉しいような、悲しいような不思議な気持ちになった。



少女は自分の少年に対する気持ちが愛情なのか、それともただの友情なのか分からなかった。
ただ、胸に広がるチクチクとした痛みははっきりと自覚していた。



「(私は拓海の事を男の子として見てるのかな?
  それともただの友達でしかないのかな?
  私たちずっと一緒にいすぎたから…私、自分の本当の気持ちが分からないよ…
  でも、この胸の疼きは何なんだろ…?」



少女は自分の心の整理がつかず、苛立っていた。



自分の少年に対する思いは一体何なのか。
考えれば考えるほど頭が混乱した。
53 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:03


頭のもやもやを振り切るように少女は口を開く。



「ねぇ、この部屋ティッシュないの? ちょっと口拭きたいんだけど」

「えっ あっ…んと…ティッシュ…ないか? (やべー、さっきマコの感触思い出して(略)」

「ねぇ、どこ?」

「あっ…ちょっ…ちょっと待ってろよ…え〜と…ホラ」
54 名前:聖夜の舞姫 第四話 『親友』 投稿日:2006/11/01(水) 01:03


少年は押入れから新品のティッシュを取り出し、少女に差し出す。
少女は口を拭うと席を立った。



「スペアキーもらってくるから、ベティの家教えてくれない?」

「ああ、いいけど」



少年はデスクの引き出しから一部のコピーを取り出し、少女に手渡した。



「ホラ、ここだよ 近いから5分で行けるだろ」

「うん、ありがと ご飯、ごちそうさま」



少女はそう言い残すと少年の部屋を後にした。



少年は少女を見送るとさっさと朝食を終え、身支度をして家を出た。
55 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:04







第五話 『小林広樹』






56 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:04



朝焼けのNYの街は人通りもまばらで、爽やかな空気が流れていた。



街灯にもたれて新聞を眺めるビジネスマン
カフェで朝食をとる中年男性
仕事場へと急ぐ車たち



東京のそれとは微妙に違った朝の風景の中、少女は地図に書かれた場所まで急いだ。



ベティの家はアパートのすぐそばだった。
ドアホンを鳴らすと、すぐにベティが出てきた。



少女が事情を説明した。
もちろん、一部の事実は隠して。
泣きはらして赤くなった少女の目にあえて何も触れず、ベティはすんなりとスペアキーを出してくれた。
57 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:07


少女はアパートの自分の部屋に戻った。
部屋は放ったままの荷物と食料品でごちゃごちゃになっていた。



「拓海の部屋とは大違いだね」



そうつぶやくと、てきぱきと荷物を片付け始めた。
少女は小さい頃から両親に家事を完璧に仕込まれていたため、この程度の事は朝飯前だった。



部屋の整理を終えると、Tシャツ、Gパン、そして下着を脱ぎさり全裸になる。
かばんの中からお気に入りのピンクの下着を取り出し、身につける。
下着姿のままじっくりと今日着る服を考える。
これが少女の一番好きな時間だった。
58 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:07


「よし、これだ」



上はブラウニービーの黒い薄手のノースリーブ。
下はひざ上25cmはあろうかという、セシルマクビーの薄茶色のミニ。
胸元にはお気に入りのシルバーのネックレスを選んだ。



「ちょっとエッチっぽいかな ま、いいか」



身支度を終えると、初めて行く事になる語学学校の地図を確認した。



「あのバスで行けばいいんだよね」



アパートの真正面にあるバスストップを頭に浮かべた。
時刻は既に7:00を回っていた。
59 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:07


「大変、急がなきゃ」



少女は茶色のバッグを手に取り、急いで部屋を飛び出す。
今回はミスしないように鍵はちゃんとバッグにいれた。



隣の部屋の拓海はもう家を出ているようだった。



「コロンビアまで行くんだから、大変だよね
 でもコロンビアってどこにあるんだっけ?」



どうでもいい事を考えながら、階段を降りる。
管理人室のベティに挨拶し、バスストップまでダッシュした。



バスはすぐに来た。
形は違えどルールは日本のバスと同じだったので助かった。
60 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:08


バスに揺られながら、先ほどのやり取りを思い出す。



「拓海に彼女かぁ…そう言えばもう私たち18だもんね
 それに拓海カッコよくなったし、いてもおかしくないか
 私と拓海はただの友達 ちょっと深い関係の…ただの友達…
 ただの友達なのに…なんだろ、この感じ ちょっと胸が苦しい」



胸の疼きを感じながらバスに揺られていると、20分ほどで学校に到着した。



「わぁ、綺麗な学校…」



少女は期待以上に綺麗な校舎に感動した。
61 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:08
ELSニューヨーク校――――

創立1981年の比較的新しい学校で、外国人向けの易しめの語学指導が特徴。
パソコン室、食堂、カフェ、ジムまで備える近代的な学校。
緑の広々とした中庭にえんじ色のレンガ造りの校舎が映えていた。
62 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:08
「まずは…この招待状を事務室へ持っていかなきゃ」



校舎のパンフレットを見ながらオフィス室を探す。
廊下で生徒たちにすれ違う。



イスラム系なのだろうか、白い布を身にまとった女性
茶褐色の肌をしたインド系の男性
高い鼻と白い肌を持った欧州系の男性
自分と似た特徴を持つアジア人女性



外国人学校だけあって、さまざまな人種の生徒がいた。
彼らはほとんどが自分と近い年齢のようだった。
中には少女の美貌に惚れ、笑顔で挨拶を交わす者もいた。
63 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:09


廊下から真新しいジムやカフェが見える。



「楽しそうな学校だな」



期待を胸に廊下を進む。
オフィス室に到着し、招待状を渡す。



手続きはてきぱきと進み、担当の教師が少女を教室まで連れて行った。
教室に入り、いつものように自己紹介をする。
64 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:09


ここの語学教育は基本的には生徒同士のディスカッションで進められる。
しかし、少女のような初心者には初心者用の講義が用意されていた。



少女のクラスで初心者コースの講義を受けるのは、少女のほかに3名。
アジア人らしき女性と男性が一名ずつ、そして白人女性が一名いた。



少女が指定された座席に着く。
講師が来るまでの間、両隣のアジア人男性と白人女性は突然の転校生に興味を示した。
65 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:09


「ねぇ、君もしかしてモー娘。の小川さん?」

「あ…ハイ、そうです」

「やっぱそうなんだ 
 ふぅん、俺ニュースで知ったんだけど、まさか同じ学校で同じクラスになるなんてね
 あ、俺、小林って言います 小林広樹 よろしくお願いします」

「あ、小川麻琴です よろしくお願いします」
66 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:09


小林広樹――――東京都武蔵野市出身、21歳。

身長170cm後半、中肉中背。
耳の辺りまで伸ばしたこげ茶色の髪に、優しげな目元。
色白で、いかにも育ちのよいお坊ちゃんといった感じの好青年。

清潔感のあるボーダーのポロシャツにスリムタイプのデニムといった風貌がとても似合っていた。
その喋り口調は至って丁寧で柔らかだった。
67 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:09


少女をはさんで小林と反対側にいる白人女性が話しかける。



「あんた、日本人やの?どこから来たん?」



その容貌に似合わない関西弁に虚を突かれる。



「あ、え…と、新潟です」

「新潟かぁ ウチこう見えて神戸生まれやねん 
 キャサリン・ブロックっていいます ヨロシク」

「あ、よろしく キャサリン」

「キャシーでええよ」
68 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:10


キャサリン・ブロック――――フランス人と日本人のハーフ、神戸市灘区出身、18歳。

10歳まで日本、18歳までフランスで過ごす。
ぱっちりとした目元に、緑色がかった綺麗な茶髪が肩の長さまで伸びている。
外国人女性にありがちな細面ではなく、どちらかと言うと丸い輪郭の顔。
細身だが背は少女よりも低く、150cmあるかないかといったところ。 

Ciu ciuの黒いジャケットにボーダーのインナーを合わせ、下はかっちりとしたスリムなデニム。
その完璧に整った容姿・容貌とは対照的な、関西訛りの流暢な日本語が印象的だった。
69 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:10


「マコトは幾つなん?」

「18だよ」

「!!!」

「じゅ、18やの? てっきり22・23くらいかと思たわw」

「やっぱり小川さんは生で見るとかなり大人びて見えるねw」

「ひど〜い、二人とも まだ18歳の乙女なんだよ」

「なんや、仕草とか見てると近所のオバさんみたいやもんw」

「ひどいねぇw」

「ところでなぁヒロキ、さっきの『生で見ると』てどういう事なん?」

「ああ、キャシーは知らないか 小川さんは日本でアイドルやってたんだよ
 モーニング娘。って知ってる?」

「ああ、知っとるよ つんくの作ったあれやろ?
 でもあのメンバーは5人だけやったような…」

「それから増えたり減ったりしてたんだよ
 小川さんは第5期のメンバーなんだ」

「へぇ、そうやの ウチその後すぐにフランス行ってもうたから知らんかったわ
 凄いな〜 ウチ芸能人と知り合ってしもたわw」

「もう引退しちゃったんだけどね」

「そんなの関係あらへんやん サイン、もろてええか?」

「うん、いいよ」
70 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:11


そんな3人の微笑ましいやり取りを一顧だにせず、ツンと外を向いている人間がいた。



もう一人のアジア人女性、村上まどか――――東京都調布市出身、18歳。

座っていて分からないが、スラリとした体型はゆうに165cmはあるだろう。
長いストレートの黒髪と切れ長の目元、薄めの唇はクールな印象を与える。
ツンと澄ましてはいるが、横から見るだけでもかなりの美人だと分かる。

大人っぽい黒いペンシルパンツに、ダークグレーの半そでニットといった風貌。
その落ち着いたファッションは、かなり大人な雰囲気をかもし出していた。
プライドが高いのだろう、どこか周りの人間をバカにしたような雰囲気を持っていた。
71 名前:聖夜の舞姫 第五話 『小林広樹』 投稿日:2006/11/01(水) 01:11


「(あの人、どこかで見たことあるんだよなぁ)」



少女は談笑しながら、村上の横顔をチラチラと見ていた。
72 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:12







第六話  『貞操』






73 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:12



初めての講義が終わり、休み時間に入る。



「マコト、どうやった? 初めての授業は」

「うん、凄く分かりやすくて安心したよ
 私、中学しか出てないからどうなるかと思ったけど」

「そうか 良かったなぁ
 次の授業は別校舎へ移動やで 早めに行っとこ」

「うん 一緒に行こっ」
74 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:12


二人は仲良くお喋りしながら教室を移動する。
突然、キャシーが思い出したように言った。



「あ、しもた ウチ提出物があるんやったわぁ
 マコト、悪いけど一人で行ってくれへんか?」

「え〜しょうがないなぁ 分かったよ」



小走りに廊下を駆けて行くキャシー。
少女は一人で教室へ向かった。
75 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:12


別校舎はほとんど人影がなく、寂しげな雰囲気だった。



「ちょっとトイレ行っとこ」



少女はトイレを探し、入る。
その時、少女と同時にトイレに入ってきた3人組がいた。
76 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:13


3人組は突然少女の体を力ずくで抑えつけると、無理やり個室に押し入れた。



「ちょ、ちょっと、何なの?」



少女は2人に両腕と両足を掴まれて身動きできなかった。



3人組の一人が少女を見下ろしながら言う。



「アンタ、小川麻琴だろ? モー娘。の
 私、ムカついてたんだよねアンタの事
 昔から何も出来ないくせに芸能人ぶっててさ」
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:14


3人組の一人は同じクラスの村上だった。
村上は部下の二人に少女を押さえ込ませ、腕を組みながら少女を睨みつけていた。



「そ、それだけでこんな事するの?」

「それだけじゃないわよ!
 アンタ、昨日スーパーで何やってたのよ!?」



少女はこの言葉でハッとした。
目の前にいる3人は昨日スーパーで会った3人組だった。
昨日の恐怖が蘇る。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:15


「な…何って…別に買い物してただけ…」

「それだけじゃないでしょ!! 
 …って、まぁいいや
 昨日は散々悲惨な目に遭ってたみたいだしw
 アンタの泣き顔、傑作だったよw」

「…やっぱりあなたたちが仕組んだんだね…
 何で?何で私にひどい事するの?
 あなたがモー娘。受からなかった恨み?」

「フン…あんなオタク相手のアイドルグループ、もう未練はないわよ」

「じゃぁ何なの?」
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:15


村上の表情が怒りで歪む。



「……アンタにそんな事教える必要はないわ
 ああ、思い出すだけで腹が立ってくる
 アンタは私のいじめを大人しく受けていれば、それでいいの」



村上は部下の二人に目線で合図を送る。
二人は少女の両手首を背中に回し、ロープで縛る。
そして一人が少女の左足、一人が右足を掴み、少女の体を壁に押さえつけた。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:15


「ちょっと、何するのよ!」



少女は足をバタつかせ、二人の手を振りほどこうとするが無駄だった。
一方、ロープで固定されて背中に回された腕はピクリとも動かなかった。



村上が勝ち誇ったような表情で言う。



「無駄だよ ここのトイレはほとんど人来ないし」



それでも少女は必至で抵抗する。



「無駄だって言ってるのに、バカだねぇ
 それにしてもアンタ、凄いエロい格好してるねぇ
 ミニスカにノースリーブのシャツか こりゃいい絵が撮れそうだよw」



その言葉に少女は戦慄を覚えた。
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:15



        〜


82 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:15

小林は教室に向かって廊下を歩いていた。



「(まさかNYで小川さんと一緒に勉強できるなんて…ホントに夢みたいだな
  こりゃ楽しそうな留学生活になりそうだw)」



期待に胸を膨らませながら廊下を進むと、女子トイレから妙な音が聞こえてきた。



「ん?何だ?」



小林が気になって女子トイレの入り口に立つ。
すると、ドタン、バタンといった物音と共に女の子の叫び声が聞こえてきた。



「これはちょっと…ただ事じゃない雰囲気だな…
 でも、女子トイレか…」
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:16


小林が躊躇していると、再び叫び声が聞こえた。
小林はその声にハッとした。



「まさか…小川さん?」



そう思うと小林はいても立ってもいられず、物音を立てないように慎重に女子トイレの中に入っていった。



「(ここの個室か…)」



小林は物音のする個室の前に立ち、隙間から中を覗き見た。



「(やっぱり…小川さんだ…
  それとこの背中は…村上?)」
84 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:16


小林は僅か2cmほどの隙間から小川と村上の存在を確認した。



「(村上が小川さんに一体何を…?)」
85 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:17



        〜


86 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:17


小林に見られているとはつゆ知らず、村上は少女のシャツをたくし上げた。
少女の可愛らしいピンクのブラが丸見えになる。



「ちょっ…な…嫌っ、何するの!!」



少女は強くもがくが二人に押さえつけられ、なす術がなかった。



村上は少女の胸を隠しているブラを上にずらした。



少女の真っ白で小さめの乳房がプルンと姿を現した。
小ぶりだが張りのあるその乳房はツンと上を向き、流麗なおわん型をしていた。
乳首は薄っすらとしたピンク色を呈していた。
87 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:17


「あらあら、可愛いおっぱい」



少女は恥ずかしそうに顔を横に背ける。



それを隙間から見ていた小林。



「(うわ……小川さんの…む、む、胸が…)」



村上は小林の存在に全く気付かず、行為を続ける。
88 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:17


村上が少女の汚れない乳首を指先で弄ぶ。
その度に少女の口元から、言葉にならない吐息が漏れる。



「ぅ…ぁっ…ぁ…ぁん…」



少女の顔が次第に紅潮してゆく。



「アンタ、意外と敏感ね もう乳首勃起してるよw
 こりゃやりやすいわ」



村上はそう言って少女の乳首をつまむと、ポケットから何かを取り出す。
89 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:17


「!!!」



それを見るや少女は全身から力が抜け、その場に腰をついた。



村上が取り出したのは、デジタルカメラとピンクローターだった。



「ガキかと思ってたけど、これの意味がよく分かってるようねw」

「いや、いや、いや…誰か…助けて」
90 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:18


悲痛な叫びは届かない。



それでも少女は必至で抵抗する。
しかし、両腕は縛られて背中に回され、両足は二人に掴まれたままという状況ではどうしようもなかった。
抵抗するたび、小さな乳房が激しく揺れた。



足を掴んでいた二人は怯えてしゃがみこんでいる少女のひざを立て、両足を約90度の角度に広げた。
ピンク色のパンツに覆われた女性器のぷっくりとしたふくらみが露わになった。



少女のその恥ずかしい姿を覗き見ていた小林。



「(う…わ…すげ…小川さんの…パンツ…)」



村上はニヤつきながらローターの電源を入れ、パンツ越しに少女のぷっくりと盛り上がった女性器に押し当てる。
91 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:18


「ぁんっ…んっ…あっ…ぁっ…」



最も女性らしい部分を刺激され、少女の全身にえも言われぬ快感が走る。
次第にピンク色のパンツに染みが広がる。



「アンタ、嫌がりながら結構歓んでるじゃないw
 こんなに濡らしちゃってw カラダは正直ってかw」



本心とは裏腹に敏感になっている自分の体に憤りを感じながら、少女は悔しさを噛み締めていた。



村上はカメラの電源を入れ、パシャパシャとシャッターを切った。
92 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:18


胸を丸出しにし、手を後ろで縛られ、腰を床に下ろし、足を広げ、染みのついたパンツをさらけ出している、少女の恥ずかしい姿が写真に収められた。
少女は顔だけは必死でカメラから逸らせようとする。



小林は隙間から見えるその光景に興奮を感じえなかった。



「(す…凄い…あの小川さんが…あんな格好して…あんなに…ぬ、濡らして…
  お、俺はこんな状況で何を興奮しているんだ…最低だな…)」



村上が続ける。



「ふふw 昨日の事、サツにチクったらこの写真をばら撒くからね
 …さて、ここからが本番だ」
93 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:18


村上はそう言うと少女のスカートの中に手を入れ、パンツをずり下げようとする。
少女は最後の抵抗を見せる。



「イヤ、イヤ、絶対イヤ!!!それだけは止めて!お願い!!!!」



少女の抵抗をあざ笑うかのように、村上は手を進める。



「アンタ、処女かいw こりゃいいやw ますますやりがいがあるよw」



村上はそう言うと少女のパンツに手をかけた。
少女は言葉にならない絶叫を上げ、必至で抵抗する。
94 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:19


小林はその絶叫にハッと我に返った。



「(そうだ、小川さんは嫌がってるんだ
  助けてやれるのは俺以外にいない
  しかし…)」
95 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:19



ギシッ



小林の気が緩んだ瞬間、小林はドアに手を触れ、ドアが小さな軋み音をたてた。



「(しまった!)」



小林がそう思うが早いか、村上がビクッと後ろを振り返る。



「誰っ!?」



小林は腹をくくって勢いよくドアを開け、大声で言い放った。



「村上っ!!やめろ!!!小川さんを放せ!!」
96 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:19


村上は小林の顔を確認するなり落ち着きを取り戻し、馬鹿にしたような顔で言った。



「フッ、誰かと思えば小林とはね
 アンタ勃起させながらそんな事言っても説得力ゼロだよw
 なんならアンタも交じってく?w」



侮辱され、小林が激高する。



「人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!
 早く小川さんを放せ!!
 警察に通報するぞ!!」



村上がその剣幕に一瞬たじろぐ。



「フン…小林、アンタも怒る事が出来たんだね
 まさかこの小娘の事が好きとか?」
97 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:19


小林は村上を睨みつけたまま何も喋らない。



村上は舌打ちをし、捨てセリフを吐く。



「ハイハイ、分かりましたよ
 やめりゃいいんでしょ、やめりゃ
 カッコいいねぇ、小林君は」



村上はそのまま部下を引き連れてトイレを出た。
98 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:20


小林は優しい顔で少女の方に振り返り、言う。



「小川さん、大丈夫だった?
 足、怪我してるよ」



少女は倒れた時に左足のひざをすりむいていた。



少女は放心状態になっていた。
小林の問いかけに何も答えず、はだけた衣装を取り繕いもせず、ただうつむいて泣くばかりだった。

99 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:20


小林は手洗い場の水道でハンカチ濡らし、少女の傷口を洗浄した。



「小川さん、ちょっとしみるかも知れないけど我慢してね」

「いつっ!」

「ごめんね、ちょっと我慢してね」



小林が応急処置を終えると少女はようやく我に返り、泣きながら乱れた衣装を直した。


100 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:20


「小林君…ありがとう…」

「いや、いいんだ」

「あの…」

「ん?何?」

「小林君、さっきの全部見てたの…?」

「あ…いや、……うん…
 ゴメン、なかなか飛び出せなくて…
 悪気があったわけじゃないんだ」

「いいよ、別に
 でもひとつだけ約束して」

「ん、何?」

「あの、この事はクラスの人には内緒にしておいてね…お願い」

「ああ、もちろんだよ」



少女はそれだけ言うと涙を拭いながらトイレを出た。
少女の貞操だけは何とか守られた。
101 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:20


少女は授業開始のチャイムと同時に教室に入った。
村上は何事もなかったかのような表情で席についていた。



キャシーが話しかける。



「マコト、どこ行ってたん? 目ぇ、赤いよ」

「いや、何でもないよ…気にしないで」



少女は気遣うキャシーに無理やりな笑顔で応えた。



「(言えない…こんな事、とてもキャシーに言えないよ…)」
102 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:21


少女は暗い気持ちのまま一日のカリキュラムを終えた。
校門でキャシーと別れ、バス停へ向かう。



その時、小林が小川に駆け寄ってきた。



「小川さん、ちょっと待って!」

「小林君…」

「さっき事務室に村上の事を届け出しておいたよ
 今日中に村上たちには聞き取り調査があると思う
 村上が事実を認めれば、明日にでも何らかの処分が下るだろう」
103 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:21
「そう…」

「小川さん、あのさ…」

「小林君、色々ありがとう…私、もう大丈夫だから」

「あ、うん…」



少女はそれだけ言い残すと、バス停へ向かった。
誰も目にも触れず、誰とも関わらず、今はただ早く自宅のベッドで休みたかった。



小林は少女の後姿をずっと見送っていた。
104 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:21


少女は胸を苦しめながらバスに乗り込む。
帰宅時間帯のバスは満員だった。



バスに揺られ、今日の出来事を思い出す。



「(友達できたのはいいけど、まさかあんな事されるなんて…
  あの人、私の事恨んでたみたいだけど何でだろ?
  モー娘。絡みの事じゃないみたいだし…
  ああ、気分が重い
  それにしてもあんな状況で濡れちゃうなんて…なんか悔しい)」
105 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:21


少女はまだ湿り気の残るパンツに意識を集中させた。
すると、お尻の辺りに違和感を感じる。



「んっ!?」



痴漢だった。
痴漢はスカート越しに少女のお尻をまさぐる。



「いや…何なの今日は…いやぁ、いやぁ…」



顔を紅潮させ、うつむく少女に痴漢は手を緩めない。
痴漢は少女の小ぶりでプリッとしたお尻を手のひらで弄ぶ。
お尻をまさぐる手はどんどん激しくなっていった。
106 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:21


手の動きにあわせ、少女は小さく吐息をもらす。



「あぅ…また感じてるよ、私…
 凄い濡れてる…
 さっきの余韻でまだ体が火照ってるから…」



抵抗できない少女をいいことに、痴漢行為は更にエスカレートしていった。
痴漢は少女のスカートの中に手を滑り込ませ、パンツの上から直接お尻をまさぐった。
薄いパンツに覆われたふっくらとしたお尻は痴漢に思う存分揉みしだかれた。



少女の顔は真っ赤になり、目が潤んでいた。
107 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:22


約5分間に渡って少女はスカート越しにお尻を弄ばれた。



そして、ついに興奮した痴漢の指は少女の濡れた女性器をつついた。
少女の体に快感の波が押し寄せる。



「あんっ!!!」



つい声を上げ、周りの乗客が一斉に少女の顔を見る。
痴漢はさっと腕を引いた。



少女は恥ずかしさのあまり、うつむいて顔をそらした。
パニック状態になった少女は次の停車場で降りてしまった。
108 名前:聖夜の舞姫 第六話 『貞操』 投稿日:2006/11/01(水) 01:22


「何なの、私って…痴漢されて感じて濡れちゃうって…
 こんな女だったの、私って…」



落ち込む少女の前に、見覚えのない街の様子が飛び込んでくる。



「アレ…ここってどこだっけ…?
 私、今どこにいるの…?」



どこを見回しても見覚えのない風景。
言葉の通じない人たち。
ふいに少女の胸を焦燥感が襲う。



パニック状態になった少女は、見知らぬ街を当てもなくさまよった。
109 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:22







第七話  『郷愁』






110 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:23


時刻は23:30。

アパートではベティが心配していた。
電話もよこさずにこんな時間まで帰宅しない少女が気になってしょうがなかった。



少女は英語が分からない。
もしNYで迷子にでもなろうものなら大変な事になる。



警察に届けを出そうか、いや、騒ぎを大きくするのはよそうか。
ベティが板ばさみの境地に陥っていると少女が帰ってきた。
111 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:23


少女の隣には警察官が一人立っていた。
知り合いなのだろう、警官が慣れた口調でベティに話しける。



「Hi,Bety. Do you know this girl?」
[やぁ、ベティ この子知ってる?]

「マコト!」



ベティが驚きの声を上げた。
すぐに冷静さを取り戻し、警官に質問する。
112 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:23


「Yes,she is a resident here. Where she was? And Why?」
[ええ、彼女はここの住民よ 彼女はどこにいたの?]

「She was wandering in Brooklyn 5.」
[ブルックリン5丁目あたりをうろうろしてたよ]

「Brooklyn 5!? Why god was she there?」
[ブルックリン5丁目!? 一体何でそんな所に?]

「I don't know.Maybe she got lost,and wandered there.」
[分からない 恐らく道に迷ってそこに迷い出たんだろう]

「I ask you why she got lost!」
[何で迷ったのか聞いているの!]

「I don't know why,'cause she can't speak English at all.
 But she said your name.So I took her here.」
[彼女は英語が喋れないからそれは分からない
ただ、彼女が君の名前を出したからここまで連れて来たんだ]

「Oh...I see.Thaks,Smith.」
[そう…分かったわ ありがとうね、スミス]
113 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:23


警官が去ると、少女はベティに泣きついた。



「マコト!心配シタノヨ!何デバスニ乗ラナカッタノ!?」

「うっうっうっ…ぐすっ…」



少女はただ泣くだけで何も言えない。
仕方なくベティは少女を抱いて部屋まで連れて行った。



ベティは少女を部屋に入れ、ベッドに座らせた。



「何ガアッタノカ知ラナイケド、今ハ一人ニシテオイテアゲル
 今ハマダ何モ言イタクナイダロウカラ…」
114 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:24
ベティはそう言い残し、少女の部屋を後にした。



30分後、少女はようやく冷静さを取り戻した。
少女はベティに謝ろうと、部屋を出て管理人室へ向かった。



部屋にはベティがいた。



「ベティ、今日はごめんなさい…」

「マコト、イイノヨ トテモ辛イ事ガアッタンデショウ」



優しい言葉をかけられ、また涙が溢れる。
少女は今日起こったすべての事を残らず打ち明けた。
115 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:24


「ソウ…ソンナ事ガ…
 マコト、辛カッタワネ…」

「ぅぅ…ベティ、私、もう自信ないよ」

「マコト、アナタハ本当ハ強イ人 弱音ハ似合ワナイ
 ホラ、オ腹空イテルデショ、食ベナサイ」



ベティは日本のお菓子を差し出した。



「ベティ…これ…」

「私ノ妹、日本人ト結婚して、今日本ニイル
 日本ノオ菓子、ヨク送ッテクレル
 私ノ日本語モ、彼女ニ教エテモラッタ」

「これ…新潟の笹団子」
116 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:24


ベティの差し出したお菓子は新潟の銘菓・笹団子だった。
新潟出身の少女はこのお菓子に特別な思い入れがあった。



「これ…小さい頃によくお母さんが買ってくれたっけ
 ダンス教室の帰りには必ず一個…」



少女は笹団子を手に取り、一口かじる。



「おいしい…」
117 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:25
その様子をやさしく見守るベティ。



「マコト、ココデハ私ヲ本当ノオ母サンダト思ッテイイノヨ」

「うん、ベティ、ありがと
 何か全部喋ったら少し落ち着いたよ
 これ、貰ってもいいかな」

「モチロン 全部持ッテイキナサイ」

「全部食べたらまた太っちゃうよw」

「フフw 少シ元気ニナッタワネw」



少女は懐かしいお菓子を手に、部屋へと戻る。
ふと拓海の部屋が気になった。
118 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:25


「そう言えば、拓海まだ帰ってないのね
 ベティは何で心配してなかったんだろう」



人気のない拓海の部屋の様子を気に掛けながら部屋に入る。
ベッドに腰掛け、笹団子を見つめる。



「新潟のお母さん、お父さん、お姉ちゃん、ひとみ、それにおじいちゃんもおばあちゃんも…
 みんな私の事期待して待っててくれるんだよね
 私、その期待に応えないと…」
119 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:25
二つ目の笹団子をかじる。



「小学生の頃、ダンスレッスンの帰りに食べてた笹団子…
 まさかニューヨークで食べる事になるなんてね
 私、ちゃんと成長しているのかなぁ
 私のこんな姿を見て、お母さん怒らないかなぁ」



母の顔が目の前に浮かび、再び涙が溢れる。
120 名前:聖夜の舞姫 第七話 『郷愁』 投稿日:2006/11/01(水) 01:25


「ねぇ、お母さん…また子供の頃のように叱って欲しいよ…
 『泣いてばかりいないで、顔上げて』って…
 『麻琴は強い子なんだから、泣いちゃダメ』って…

 ああ…ダメだ…また泣いちゃったよ
 私って、相変わらず泣き虫だよね…お母さん…
 あの頃と、何も変わってないね…」



少女は一人泣いたまま深い眠りについた。
夢の中では母親の温かい腕に抱かれていつまでも泣いていた。
121 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:26







第八話 『好転』






122 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:26


朝6時。

どんな事があっても少女はこの時間に目が覚める。
例え夜中の2時に寝ようが、朝6時にはぱっちり目が覚める。
子供の頃からそうだったので一種の特異体質なのだろう。



ボーっとする頭を持ち上げ、ベッドから起き上がる。
ふと、昨日の衣服のまま着替えていない事に気がついた。



嫌な思い出のあるこの服は当分着る事は無いだろう。
そう思いながら少女は服を脱いだ。
パンツは大事な部分が染みで汚れていた。
123 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:27


「こんなに濡れたんだ…」



少女は忌まわしい思い出のある下着を脱ぎ捨て、脱衣カゴに入れる。
新しい下着を身につけ、下着姿で衣装ダンスを見回す。



「そう言えば、服も買わなきゃ
 ニューヨークならカッコいい服もいっぱい売ってるだろうし
 キャシー、いつが暇かな?」



気を紛らすように別の事を考えながら、衣服を選定する。
今日は無難なストロベリーフィ−ルズの白のブラウスとデニムに落ち着いた。
124 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:27


「あ、そうだ
 今日はダンススクールに行くんだった
 レッスン着も持っていかないと」



モー娘。時代から使っているジャージをかばんに入れ、部屋を出る。



アパートを出てバスストップへ向かう。
バスに乗り込み、いつものように考え事をする。
このようにバスの中で考え事をするのが少女の癖だった。
125 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:27


「そういえば拓海、昨日は部屋に戻ってなかったみたいだな
 何かあったのかな…ちょっと心配だよ
 てゆうか人の心配するより自分の事を考えなきゃね
 拓海は遠いコロンビアで頑張ってるんだから

 んー…これからは帰りにダンスレッスンがあるから、昨日の痴漢にはもう会わないだろうな…
 キャシーは今日どんな服着てくるだろ…
 小林君にはちゃんとお礼言わないとね…」



取りとめもない事を考えているうちに、スクールに到着した。
126 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:27


教室内が何だか騒がしい。
少女が教室に入るとキャシーが少女に飛び掛ってきた。



「マコト、大ニュースやで!!!!」

「え?な、何?」

「しっかり聞いてな〜
 あんな、あそこに座ってた村上って子いたやろ? 知っとるか?」



一瞬昨日の記憶が蘇り、少女の顔が曇る。



「あ…う、うん…」
127 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:27


その様子を気にも留めず、キャシーが興奮気味に続ける。



「あの子な、退学になってしもたん」

「えーーーーー!!!!何で何で?」

「理由は分からへん…でも今みんなでその事を話し合ってたところや」

「そうなんだ」

「あの村上ゆう子はな、この学校一のワルで今までも何回か先生たちに迷惑かけとったんや
 万引、カツアゲ、暴力事件、何でもアリや
 特に新入生にはキツい事しよってたみたいやで マコト、大丈夫やったか?」

「う、うん…」

「まぁはっきりとした理由は分からんがな
 噂によると、どうもトイレで…その…男とHしよってたみたいなんや
 あくまで噂やけどな でもあの子ならやりかねへん」

「…そっか、分かったよ
 でもキャシー、あなた本当に日本語上手いのね 
 “カツアゲ”なんて言葉知ってるフランス人、あなたくらいのものよw」

「何や、マコト 大ニュースなのにあっさりしとるんやなw
 そんな事どうでもええやんかw」
128 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:28


少女は内心複雑だった。



自分の脅威となる人物がいなくなったのは嬉しかった。
しかし、自分をいじめていた本当の理由が分からずじまいなのがいまいちすっきりしなかった。
自分が知らないところで誰かの恨みを買っているのかと思うと、何だか心が痛んだ。



腑に落ちない気持ちのまま座席に着く。
隣には既に小林が着席していた。
教師が来るまでまだ20分ほどある。
129 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:28


「小川さん、おはよう」

「あ、小林君、おはよう」



小林が小声で囁く。



「(どうやら上手くいったみたいだねw)」

「(うん、小林君のおかげだよ ありがとう)」

「(俺は小川さんが笑顔になってくれただけで嬉しいよ
  やっと元気出たみたいだね)」

「(う〜ん、私、元々元気キャラなんだけどなw
  初日に色々な事が重なってちょっとブルー入ってただけだよ)」

「(そっか、それならよかった 小川さんの笑顔は本当に癒されるよ)」

「(デッヘッヘ あんま褒めんといて下さいよ〜)」

「(ハハハw (本当に元気そうだな 良かった))」

「ところで、小林君の携帯番号教えてよ」

「ああ、ハイ 小川さんのは?」

「私のはコレ、ハイ」
130 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:28


互いの携帯番号をデータに入れる。



「そう言えば、小川さんって彼氏とかいるの?」

「いる訳ないじゃん 友達ならいるけどさ
 日本にいる頃からおおっぴらに恋愛とかやりにくかったからさ」

「そっか、やっぱアイドルって厳しいんだね」

「ま、ウチの事務所は放任主義みたいだったけど
 調子に乗りすぎて脱退させられちゃった人はいたけどねw」

「ハハハw 矢口さんねw」

「小林君、意外と詳しいのね」

「あ、いや…まぁね」

「なんやなんや、何の話や?」
131 名前:聖夜の舞姫 第八話 『好転』 投稿日:2006/11/01(水) 01:28


キャシーが会話に割り込んできた。



「キャシー、君はもうちょっとデリカシーを持てよ
 いいところで人の会話に割り込んでくるな」

「かったいなぁ、これだからマジメ君はイヤやわ」

「キャシー、今日の宿題はやってきたのか?」

「え?あ、しもた!すっかり忘れてたわ〜!
 ノート見せてぇな、頼むわ」

「嫌だね」

「そんな事言わんと、なぁ」

「キャシー、私が見せてあげるよ」

「ホンマか? さっすがマコトは違うわぁ
 どっかのお堅い頑固者とは大違いやね」

「キャシー、君って奴は…」

「ふふふw面白ーいw」



少女は二人のやり取りを笑顔で見ていた。
心の中のわだかまりが少しずつ解けていくような気がした。
132 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:29







第九話 『夢への階段』






133 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:30


学校を終え、ダンススクールへ向かう。
ダンススクールは学校から少し離れたニューヨーク市ブロンクス区にあった。



距離があるので地下鉄を利用するしかなかった。
初めて利用するNYの地下鉄。
少女は興奮を隠し切れずにいた。
134 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:30


まず、学校の最寄り駅であるWoodside駅に入る。
拙い英語で2$のメトロカードを購入する。
この2$で路線さえ間違えなければNYのどこへでも行ける。



北へ行くので、まず“Uptown”と書かれた改札を探す。
機械にカードを通し、駅のホームへと向かう。
来た電車に乗り込む。
車内は日本のそれとは違い、広くてさっぱりとしていた。



Times駅でBroadway-7-Avenue線に乗り換え、終点のVan-Cortland-Park駅へ到着する。
135 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:30


完璧だ。
次第にNYの街に慣れつつある自分を実感する。



ブロンクス区の街並みを抜け、地図に書かれたダンススクールへと急ぐ。
そのダンススクールは雑居ビルの5階にあった。
136 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:30


James&Pat Dance School――――

生徒数20名。創立1910年。
歴史あるこのスクールからは様々な有名ダンサーが誕生していた。



このスクールを選んだのは少女自身ではなく、少女の師匠・夏まゆみだった。
この手の情報に疎い事務所に変わって彼女が提案し、決定された。
したがって、このスクールがどのような場所であるかは彼女のみが知っていた。
137 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:30


少女はスクールのドアの前に立ち、夢へと一歩踏み出した自分に感動していた。
小さい頃からの夢――――全米で最大の劇団、Hebrew Actors' Union(HAU)に入り、
                 プロのダンサーとして大勢の観客の前で演技を披露する事。



その壮大な夢へとつながる確実な一歩を今、確かに踏み出そうとしていた。



少女の脳裏に子供の頃の思い出が蘇る。
138 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:31



           〜


139 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:31


1995年8月28日、夏休み終盤。

新潟のとある家庭。
その家庭は、近所でも有名な美人三姉妹がいることを除きごく平凡な家庭だった。



平凡な家庭の平凡な夕飯の一時。
美人三姉妹が父親にねだる。



「ねぇ、おとーさん、夏休みももうすぐ終わりだよー」

「今年もどこも連れてってくれないのぉ」

「どっか行きたいよぉ〜、ねぇ、ねぇ」
140 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:31


毎年仕事で忙しい父親は娘たちを後楽へ連れて行く余裕がなかった。
父親は申し訳なさそうに娘たちに背を向け、黙って夕刊を読んでいた。



「コラコラ、あなたたち、お父さんは忙しいんだから
 迷惑かけちゃダメよ」



母親がたしなめる。
娘たちがすかさず反論する



「だぁってぇ〜ウチだけだよ、どこも行ってないのぉ〜」

「お母さんだって遊びに行きたいって思ってるでしょ〜」

「お母さんも頼んでよ〜」



痛いところを突かれ、母親が戸惑う。
141 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:31


「う…う〜ん…ねぇ、お父さん…」



父親が新聞を机に置き、立ち上がる。



「よし、今年はみんなで遊びに行こう!」

「えっ!本当に〜!?」

「やったぁ、やったぁ、おとーさん、大好き〜!」

「わーい、わーい!」

「遊びに行くって…あなた、本当に行けるの?」



母親が心配そうに尋ねる。
142 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:31


「ああ、今年はまだ有給もとってないし」

「でも、どこに行くつもり?」

「実はな、同僚の山下さんが演劇のチケットをくれることになっているんだ」

「演劇?」

「ああ、何でもアメリカの大きな劇団が県民会館に来るらしい」

「県民会館か、遠いね」

「ま、せっかく行くんだから、ちょうどいいだろう」

「ねぇ〜どこに行くのぉ〜」

「演劇を見に行こう!」

「演劇ぃ〜?」

「え〜 ひとみ、遊園地がいい〜」

「麻琴も遊園地がいいよぉ〜」

「文句を言うなら行かないぞ」



父親の言葉に娘たちは黙り、しぶしぶ納得した。
143 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:32


8月31日、夏休み最後の日。



一家は自家用車で新潟市へと向かう。
北陸の大動脈R8、角栄ロードR116、日本一の交通量を誇る新潟バイパスを通り、新潟県民会館に到着した。
娘たちは初めての都会に興奮する。



「わぁ〜すごーい!高いお家がいっぱいだ〜」

「違うよ、麻琴 あれはビルって言うんだよ」

「コラコラ、みんなお行儀よくしなさい」

「ま、いいじゃないか 今日は楽しもう」
144 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:32


一家は新潟県民会館に入り、開演の時を待つ。



「ねぇ、あなた、凄い人ね」

「ああ、聞いた事もない劇団だったから心配だったんだけど…これは期待できそうだな」

「チケット高かったんじゃないかしら」

「これは山本さんに感謝しないとな」
145 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:32


開演のブザーが鳴り、幕が上がる。



開演と同時に何千人もの観客が舞台に惹き込まれて行った。
一点のズレもない完璧にシンクロしたダンス、感情のこもったよく通る歌声。



そのショーはさすがはアメリカ一と納得させるものだった。
言葉は分からなかったが、後ろの特設モニターに日本語訳が映し出されていた。
おかしなシーンでは観客が笑い声を上げていた。



ただ、子供たちには少し難解すぎる部分があった。
子供たちはすっかり寝てしまっていた。
一人を除いて。
146 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:32


「あなた、子供たち寝ちゃってるw」

「ああ、まだちょっと早かったかな」

「アラ、麻琴は凄く真剣に見てるわね」

「…麻琴のあんな真剣な目は初めて見るな」

「あなた、これは凄い収穫だったかもね」

「ああ、つくづく山本さんには感謝しなきゃな」
147 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:32

公演が終わり、一家は家路に着く。



「ね〜おかーさん、ひとみよく分からなかったよ〜」

「百子も〜 麻琴も不満でしょ〜」

「お姉ちゃん、私凄く感動したよ」

「え〜」

「凄いダンス…あの人たち、舞台の上で凄く光ってた…
 ダンスの学校へ行けば、私もあんな風に踊れるようになるのかなぁ…」



その時、7歳の麻琴の目は確かな輝きを放っていた。
前部座席で聞いていた両親が小声で囁く。



「フフw 麻琴にとっては忘れられない一日になったようね」

「ああ、山本さんには後でなにか贈っておこう」
148 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:33



            〜


149 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:33

少女は緊張の面持ちでドアを開ける。



30m四方程度の小ぢんまりとした教室。
左手の壁には一面に鏡が貼り付けられ、生徒たちが一心不乱に踊っていた。



少女は生徒たちのキレのあるダンスに感動した。
一人一人が真剣そのもので、そして自分よりはるかに上手かった。



麻琴が見入っていると一人の女性が近づいてきた。
150 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:33


「Sorry,Are you a...」
[ごめんなさい、どちら様で…]

「あっ、そうか招待状渡さなきゃ」



少女は招待状をその女性に手渡した。



「I see. Makoto,nice to meet you. I'm Patrick・McLearn.
 Please call me Pat.」
[分かりました マコト、初めまして パトリック・マクリーンと言います
パットって呼んでね]
151 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:33


パトリック・マクリーン、38歳。

ダンスインストラクターであり、ここの責任者。
ブロンドの髪が特徴的なカナダ系アメリカ人。
ダンスウェアの間からは、引き締まった腹筋が見えていた。
その顔は責任者らしい威厳のある表情に満ちていた。
152 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:33


少女が自己紹介する。



「I'm Makoto Ogawa.」



挨拶もそこそこに、パットは早速少女の指導に入った。



音楽にあわせ、『ワン・ツー・スリー』の声と共にゆっくりと手本となる振り付けを見せる。
かなり複雑な振り付けのようであった。
153 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:33


「Your turn.」
[あなたの番よ]



促され、少女は先ほどの振りを再現して見せた。
パットはあの複雑な振りを一度で覚えてしまった少女に驚きを隠せなかった。



「OK.Your skill is so high. Come and join them.」
[よろしい 技術は十分高いわ 彼らのチームに入りなさい]



パットは少女を上級生グループに入れ、レッスンを開始した。
154 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:34


さすがに上級クラスは厳しかった。
振り付けも、先ほどのテストのものとは比べ物にならないほど複雑だった。
それでも少女は何とか食らいついていった。



レッスンは休憩を交えて3時間に及んだ。
さすがに少女は疲れ果て、へとへとになって教室を後にした。



ただ、少女は悪い気分ではなかった。
心地よい疲労感の中、『NYで自分のダンスが認められた』という快感に浸っていた。
帰りの電車では自然と眠りに落ちた。
155 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:34


自宅アパートに到着する。



外からアパートの三階、少年の部屋を見るが人のいる雰囲気がない。
明かりもついていなかったし、眠っているにしても洗濯物が干してなかった。
少年はまだ帰宅していないようだった。



時刻は24:00を回っていたが、ベティには事情を知らせていたため何事もなかった。

156 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:34


「ただいま、ベティ」

「マコト、オ帰リナサイ 遅クマデ大変ネ」

「ねぇ、ベティ、拓海…沢田さんってまだ帰って来ないの?
 昨日も帰ってなかったみたいだけど」

「“タクミ”デ分カルヨ アナタタチノ関係ハ、タクミカラ聞イタヨ
 デ、タクミハネ、大学ノ研究ノタメ、ズット帰ッテ来ナイヨ
 シバラクノ間、大学ノ宿舎ニ泊マルッテ」

「えっ?そうなの?しばらくってどれくらい?」

「年内ハ、無理ダッテ」

「そっか…コロンビアまで通うのって大変だもんね…」

「エ? コロンビアマデ通ウ?」

「コロンビアって南米の国でしょ?私ちょっと調べたんだ
 そこまで通うのは飛行機使わないといけないから、大変だよ」

「???」

「ありがとね、ベティ じゃぁ、おやすみ」
157 名前:聖夜の舞姫 第九話 『夢への階段』 投稿日:2006/11/01(水) 01:34


少女は自分の部屋へと戻って行った。



「フフフw アノ子勘違イシテルネw 本当ニ、面白イ子w」



この勘違いが後にとんでもない事になろうとは、この時点ではまだ誰も知らなかった――――
158 名前:どら 投稿日:2006/11/01(水) 01:45
今日はここまでです

これからまだまだ波乱万丈のストーリー展開が待っています
モー娘。メンも絡んできます

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